(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20230724BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20230724BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
F04B39/00 106E
F04C29/00 T
H02K1/18 A
H02K1/18 B
(21)【出願番号】P 2019042731
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】萩田 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】佐保 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 将平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 保徳
(72)【発明者】
【氏名】藥師寺 俊輔
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280249(JP,A)
【文献】実開昭61-195734(JP,U)
【文献】特開2007-255332(JP,A)
【文献】特開2017-036691(JP,A)
【文献】特開平07-031086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04C 29/00
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子及び回転子を有する電動機と、
前記回転子に固定され、前記電動機によって軸線周りに回転される駆動軸と、
前記駆動軸の一端側に設けられ、前記駆動軸によって駆動される圧縮機構と、
前記電動機、前記駆動軸及び前記圧縮機構を収容するハウジングと、
を備え、
前記固定子は、前記軸線の方向から見たときに略環状とされた複数の電磁鋼板が前記軸線の方向に積層されて構成されている固定子コアを有し、
前記軸線の方向から見たとき、該固定子コアには、前記電磁鋼板の積層方向に貫通する貫通孔が前記軸線を中心に同一円上に複数形成され、
前記軸線の方向から見たとき、円周方向において隣り合う前記貫通孔間の弧長には、第1弧長又は該第1弧長よりも長い第2弧長が設定され、
前記固定子は、前記貫通孔に挿通されるボルトによって前記ハウジングに対して固定され、
前記固定子コア
の前記電磁鋼板と前記電磁鋼板との間には
、前記第2弧長が設定された前記貫通孔間の前記円周方向における中央近傍の領域
のみにおいて
、ワニス処理が施されている電動圧縮機。
【請求項2】
前記固定子コアは、前記軸線の方向から見たときに、
略環状のヨーク部と、
該ヨーク部の内周端から半径方向内側に向かって延出するとともに前記円周方向において前記第1弧長毎に形成された複数のブリッジ部と、を有している請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記ブリッジ部の基端側に位置する前記ヨーク部に形成され、
前記第2弧長が設定された前記貫通孔間の前記ヨーク部の外周には切り欠きが形成されている請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記第1弧長と前記第2弧長とは、前記円周方向において交互に設定されている請求項1から3のいずれかに記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機のハウジングに収容されている電動機において、固定子を焼嵌めによってハウジングに固定する方法が知られている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているような焼嵌めによる固定子の固定は、作業工程の増加や作業時間の増加を助長させる可能性がある。このような問題に対して、焼嵌めによらない固定方法として、固定子をボルトによってハウジングに固定する方法(ボルトダウン)がある。
【0005】
ボルトダウンによって固定子をハウジングに対して固定している電動圧縮機においては、固定子にボルト用の貫通孔を形成する必要がある。このとき、固定子の円周方向において等角度間隔で多数の貫通孔が形成されていることが好ましい。なぜなら、多数のボルトが円周方向に均等に配置されることによって、固定子を構成する積層鋼板の密着度を高めて剛性を向上させることができるからである。
【0006】
しかし、固定子に対して多数の貫通孔を形成すると、貫通孔によって磁力線が必要以上に遮断されたり、部品点数及び加工数が増加したりする。このため、ボルト用の貫通孔を可及的に削減したいが、固定子を構成する積層鋼板の密着度が低下して剛性が低下するそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたのもであって、ボルト用の貫通孔によって磁力線が必要以上に遮断されたり、部品点数及び加工数が増加したりすることを抑制するとともに、積層鋼板の密着度を高めて剛性を確保することができる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電動圧縮機は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の一態様に係る電動圧縮機は、固定子及び回転子を有する電動機と、前記回転子に固定され、前記電動機によって軸線周りに回転される駆動軸と、前記駆動軸の一端側に設けられ、前記駆動軸によって駆動される圧縮機構と、前記電動機、前記駆動軸及び前記圧縮機構を収容するハウジングとを備え、前記固定子は、前記軸線の方向から見たときに略環状とされた複数の電磁鋼板が前記軸線の方向に積層されて構成されている固定子コアを有し、前記軸線の方向から見たとき、該固定子コアには、前記電磁鋼板の積層方向に貫通する貫通孔が前記軸線を中心に同一円上に複数形成され、前記軸線の方向から見たとき、円周方向において隣り合う前記貫通孔間の弧長には、第1弧長又は該第1弧長よりも長い第2弧長が設定され、前記固定子は、前記貫通孔に挿通されるボルトによって前記ハウジングに対して固定され、前記固定子コアの前記電磁鋼板と前記電磁鋼板との間には、前記第2弧長が設定された前記貫通孔間の前記円周方向における中央近傍の領域のみにおいて、ワニス処理が施されている。
【0009】
本態様に係る電動圧縮機によれば、固定子は、前記軸線の方向から見たときに略環状とされた複数の電磁鋼板が軸線の方向に積層されて構成されている固定子コアを有し、軸線の方向から見たとき、固定子コアには、電磁鋼板の積層方向に貫通する貫通孔が軸線を中心に同一円上に複数形成され、軸線の方向から見たときに円周方向において隣り合う貫通孔間の弧長には、第1弧長又は第1弧長よりも長い第2弧長が設定され、固定子は、貫通孔に挿通されるボルトによってハウジングに対して固定されている。これによって、例えば、すべての貫通孔間の距離を第1弧長として複数の貫通孔を形成した場合と比べて、貫通孔を間引くことができる。
また、固定子コアには、少なくとも第2弧長が設定された貫通孔間の円周方向における中央近傍の領域においてワニス処理が施されている。これによって、その領域において積層された電磁鋼板の密着度を高めて剛性を確保することができる。
ボルトダウンによって固定子をハウジングに対して固定している電動圧縮機においては、固定子コアにボルト用の貫通孔を形成する必要がある。このとき、固定子コアを軸線の方向から見たときに、円周方向に等角度間隔で複数の貫通孔が形成されていることが好ましい。これは、均等に配置された多数のボルトによって、積層された電磁鋼板の密着度を高めることで剛性を向上させるためである。しかし、固定子コアに対して多数の貫通孔を形成すると、その貫通孔によって磁力線が必要以上に遮断されたり、部品点数及び加工数が増加したりする。
このため、上述の電動圧縮機のように貫通孔を敢えて間引くことで、貫通孔によって磁力線が必要以上に遮断されたり、部品点数及び加工数が増加したりすることを抑制できる。これと同時に、少なくとも貫通孔が間引かれた領域(円周方向において第2弧長の中央)近傍の固定子コアにワニス処理を施すことで、ボルト無しに、その領域にて積層された電磁鋼板の密着度を高めて剛性を確保することができる。また、剛性を確保することで、固定子コアの振動に起因する騒音を抑制できる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る電動圧縮機において、前記固定子コアは、前記軸線の方向から見たときに、略環状のヨーク部と、該ヨーク部の内周端から半径方向内側に向かって延出するとともに前記円周方向において前記第1弧長毎に形成された複数のブリッジ部と、を有している。
【0011】
本態様に係る電動圧縮機によれば、固定子コアは、軸線の方向から見たときに、略環状のヨーク部と、該ヨーク部の内周端から半径方向内側に向かって延出するとともに前記円周方向において前記第1弧長毎に形成された複数のブリッジ部と、を有している。
これによれば、貫通孔の数(すなわち、ボルトの本数)が、ブリッジ部の数よりも少ないこととなる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る電動圧縮機において、前記貫通孔は、前記ブリッジ部の基端側に位置する前記ヨーク部に形成され、前記第2弧長が設定された前記貫通孔間の前記ヨーク部の外周には切り欠きが形成されている。
【0013】
本態様に係る電動圧縮機によれば、貫通孔は、ブリッジ部の基端側に位置するヨーク部に形成され、第2弧長が設定された貫通孔間のヨーク部の外周には切り欠きが形成されている。これによれば、ワニス処理が施された領域を利用して、冷媒流路を形成することができる。
小型化されることが好ましい電動圧縮機において、ハウジング内部に冷媒流路を形成するために固定子コアに切り欠きを形成することがあるが、ワニス処理によって剛性が高められた領域に切り欠きを形成することで、切り欠きを形成しつつも固定子コア全体としての剛性の低下を可及的に抑制することができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る電動圧縮機において、前記第1弧長と前記第2弧長とは、前記円周方向において交互に設定されている。
【0015】
本態様に係る電動圧縮機によれば、第1弧長と第2弧長とは、円周方向において交互に設定されている。これによれば、固定子をボルトダウンによって均等にハウジングに対して固定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電動圧縮機によれば、ボルト用の貫通孔によって磁力線が必要以上に遮断されたり、部品点数及び加工数が増加したりすることを抑制するとともに、積層鋼板の密着度を高めて剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係る電動圧縮機について図面を用いて説明する。
【0019】
まず、電動圧縮機1の概要について説明する。
電動圧縮機1は、電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載される空調装置に備えられ、蒸発器側から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器側に吐出する。電動圧縮機1は、
図1に示されるように、ハウジング10と、ハウジング10に収容された電動機30及びスクロール圧縮機構14とを備えている。
【0020】
ハウジング10は、筒状のハウジング本体10Aと、ハウジング本体10Aの開口端を閉塞するように嵌合されたフロントケース10Bとを備えている。
なお、
図1に示されるフロントケース10Bは、図示しないインバータ装置が収容されるインバータケースが一体形成された形態とされているが、この形態に限定されることはなく、例えば、インバータケースが一体形成されていなくてもよい。
【0021】
ハウジング10には、その内部に電動機収容空間S1及び圧縮機構収容空間S2が形成されている。
ハウジング10には、図示されていない吸入ポートと吐出ポートとが設けられている。
【0022】
電動機30は、略環状の固定子34と、固定子34の内側に配置された回転子32とを備え、電動機収容空間S1に収容されている。
【0023】
固定子34は、複数の電磁鋼板が積層された固定子コア35と、固定子コア35に巻装されたコイルとを有している。固定子コア35の詳細については後述する。
固定子コア35には貫通孔40が形成されており、固定子34は貫通孔40に挿通されたボルト20によってハウジング本体10Aに対して固定されている(ボルトダウン)。
なお、
図1においては、1本のボルト20のみが図示されているが、実際の固定子34は複数本のボルト20によって固定されている。
【0024】
電動機30は、図示しないインバータ装置から供給される三相交流電力を用いて回転される。詳細には、三相交流電源が供給されることで磁極が切り替わる固定子34によって、固定子34の内側に配置された回転子32が回転される。また、回転子32には、駆動軸16が固定されている。
【0025】
駆動軸16は、ハウジング本体10Aに嵌合されたメイン軸受22と、フロントケース10Bに嵌合されたサブ軸受24とによって、回転軸線X1周りに回転自在に取り付けられている。
駆動軸16は、回転子32の回転によって回転軸線X1周りに回転される。また、駆動軸16の端部には、クランクピン18が駆動軸16に一体形成されている。クランクピン18の中心軸X2は、駆動軸16の回転軸線X1に対して偏心している。
【0026】
スクロール圧縮機構14は、圧縮機構収容空間S2に収容され、回転される駆動軸16によって駆動される。
【0027】
詳細には、スクロール圧縮機構14は、クランクピン18に取り付けられた旋回スクロール14Aと、ハウジング本体10Aに対して固定された固定スクロール14Bとが、互いに位相を180°ずらして噛み合わされることで構成されている。
駆動軸16が回転すると、自転防止機構(図示せず)の働きによって旋回スクロール14Aが固定スクロール14Bに対して公転旋回運動するように駆動され、両スクロール間に形成された一対の圧縮室が外周位置から中心位置へと移動しながらその容積を漸次減少させる。
これによって、吸入ポートを介して外部から供給される冷媒を圧縮し、吐出ポートを介して、圧縮された冷媒を凝縮器に供給する。空調装置は、電動圧縮機1により圧縮された冷媒を用いて車内の空調運転を行う。
【0028】
次に、固定子コア35の詳細について説明する。
固定子コア35は、複数の電磁鋼板が所定の方向(
図1で示す回転軸線X1の方向)に積層されて構成されており、
図2に示されるように、回転軸線X1の方向から見たとき、略環状とされている。
【0029】
固定子コア35は、略環状のヨーク部36と、ヨーク部36の内周端から半径方向内側に向かって伸びるように形成されている複数のブリッジ部38とを有している。
【0030】
ブリッジ部38は、その先端部が拡幅している。ブリッジ部38には、その拡幅した先端部とヨーク部36との間の区間にコイル(図示せず)が巻装される。
【0031】
隣り合うブリッジ部38間の空間はスロットと呼ばれ、
図2に示される固定子コア35の場合、9つのブリッジ部38によって9つのスロットが形成されている。
このとき、9つのブリッジ部38は、回転軸線X1を中心に等角度間隔(
図2の場合、40°間隔)に形成されている。
【0032】
ヨーク部36には、回転軸線X1を中心とした円上に設けられ、かつ、電磁鋼板の積層方向に貫通した複数の貫通孔40が形成されている。このとき、隣り合う貫通孔40同士には、円周方向において所定の延弧長さが設定されている。円弧長さの詳細については後述する。
【0033】
図1に示されるように、この貫通孔40にボルト20が挿通される。そして、挿通されたボルト20の締め付けによって、積層された複数枚の電磁鋼板が積層方向に密着して一体とされるとともに固定子34がハウジング本体10Aに対して固定される。
【0034】
図2に示されるように、貫通孔40の数は、ヨーク部36の全周方向に等間隔に貫通孔40が形成された場合と比べて、1又は複数だけ少ない数とされている。
【0035】
貫通孔40を間引く理由は次の通りである。すなわち、固定子34(固定子コア35)の剛性確保を目的として電磁鋼板同士の密着度を確保するためには、多くのボルト20によって固定子34(固定子コア35)をハウジング本体10Aに対して固定すればよい。一方、ボルト20用の貫通孔40が形成されるヨーク部36には、通電されたコイルによって生じる磁界の磁力線が通過するが、貫通孔40は磁力線を遮断するので、貫通孔40の存在によって固定子34に発生する磁力を低下させてしまう。このため、貫通孔40の数は可及的に少ない方がよい。これらのバランスを考慮したうえで、貫通孔40の数を間引くこととした。
【0036】
上述したように、隣り合う貫通孔40間には所定の円弧長さ(第1弧長L1又は第2弧長L2)が設定されている。
第2弧長L2は、第1弧長L1よりも長く設定されている。言い換えれば、第2弧長L2が設定された隣り合う貫通孔40のそれぞれの中心と回転軸線X1とによってできる角度(
図2においてθ2)は、第1弧長L1が設定された隣り合う貫通孔40のそれぞれの中心と回転軸線X1とによってできる角度(
図2においてθ1)よりも大きい。
これによって、貫通孔40の数を、全周方向に等間隔に貫通孔40が形成された場合(例えば、全周に亘って第1弧長L1が設定された場合)と比べて、1又は複数だけ少ない数とすることがでる。
【0037】
このとき、ボルト20(貫通孔40)を均等に設けるために、第1弧長L1と第2弧長L2とが交互に設定されることが好ましい。言い換えれば、交互に設定されたθ1とθ2とによって360°が分割されることが好ましい。
また、貫通孔40は、ブリッジ部38の基端側に位置するヨーク部36に形成することが好ましい。これは、比較的に面積が大きいブリッジ部38の基端側のヨーク部36に貫通孔40を設けることで、可及的に磁力線の遮断を抑制することを目的としている。このため、隣り合うブリッジ部38と回転軸線X1とによってできる角度(
図2の場合、40°)とθ1とを等角度として、θ2=θ1×2n(nは自然数)に設定することが好ましい。
図2の場合、9つのブリッジ部38に対して6つの貫通孔40が形成されており、すべての貫通孔40がブリッジ部38の基端側に位置している。このとき、θ1=40°、θ2=80°とされている。
【0038】
ここで、固定子コア35には、ワニス処理が施されており、積層された複数枚の電磁鋼板同士の密着度を高めることで固定子34(固定子コア35)の剛性を向上させている。
このとき、ワニス処理は、少なくとも第2弧長L2が設定された区間の一部(好ましくは、第2弧長L2が設定された区間の中央近傍)に施されていればよく、例えば、
図2において網掛けで示された部分の固定子コア35にワニス処理を施せばよい。
【0039】
ワニス処理を部分的に施す理由は次の通りである。すなわち、第2弧長L2が設定された区間においては、第1弧長L1が設定されて区間に比べて、ボルト20による締め付けが十分に作用しない可能性がる。このため、その区間においては電磁鋼板同士の密着度が十分に確保できずに剛性の低下、ひいては、固定子コア35の振動に起因する電動機30の騒音の原因になる可能性がある。そこで、少なくとも密着度の低下が懸念される区間(第2弧長L2が設定された区間)の一部にワニス処理を施すことで、その区間における密着度が高められるからである。
つまり、少なくとも、ボルト20によって密着度を得られない区間においてワニス処理を施すことで、貫通孔40による磁力線の遮断を防止しつつボルト20無しに電磁鋼板同士の密着度を確保している。
【0040】
また、ワニス処理が施された区間のヨーク部36の外周端には、切り欠き42を形成してもよい。
電動機30の固定子34が電動機収容空間S1に収容されたとき、切り欠き42によって、電動機収容空間S1を形成するハウジング本体10Aの内壁と固定子コア35との間に隙間が生じる。この隙間は、冷媒が流通する冷媒流路として機能する。
【0041】
なお、ワニス処理は、上述した区間に限らず固定子34の全区間に亘って施されてもよい。
【0042】
本実施形態においては以下の効果を奏する。
ボルト20が挿通される貫通孔40において、隣り合う貫通孔40間の弧長には、第1弧長L1又は第1弧長L1よりも長い第2弧長L2が設定されている。これによって、すべての貫通孔40間の弧長を第1弧長L1として複数の貫通孔40を形成した場合と比べて、貫通孔40を間引くことができる。また、固定子コア35には、少なくとも第2弧長L2が設定された貫通孔40間の円周方向における中央近傍の領域においてワニス処理が施されている。これによって、その領域において積層された電磁鋼板の密着度を高めて剛性を確保することができる。
したがって、貫通孔40によって磁力線が必要以上に遮断されたり、部品点数及び加工数が増加したりすることを抑制できる。これと同時に、少なくとも貫通孔40が間引かれた領域(第2弧長L2の中央近傍)の固定子コア35にワニス処理を施すことで、ボルト20による締め付け無しに、その領域にて積層された電磁鋼板の密着度を高めて固定子コア35の剛性を確保することができる。また、剛性を確保することで、固定子コア35の振動に起因する電動機30の騒音を抑制できる。
【0043】
また、ワニス処理が施されたヨーク部36の外周側には切り欠き42が形成されている。これによれば、ワニス処理が施された領域を利用して、冷媒流路を形成することができる。
小型化されることが好ましい電動圧縮機1において、ハウジング本体10Aの内部に冷媒流路を形成するために固定子コア35に切り欠きを形成することがあるが、ワニス処理によって剛性が高められた領域に切り欠き42を形成することで、切り欠き42を形成しつつも固定子コア35全体としての剛性の低下を可及的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 電動圧縮機
10 ハウジング
10A ハウジング本体
10B フロントケース
14 スクロール圧縮機構
14A 旋回スクロール
14B 固定スクロール
16 駆動軸
18 クランクピン
20 ボルト
22 メイン軸受
24 サブ軸受
30 電動機
32 回転子
34 固定子
35 固定子コア
36 ヨーク部
38 ブリッジ部
40 貫通孔
42 切り欠き
L1 第1弧長
L2 第2弧長
S1 電動機収容空間
S2 圧縮機構収容空間
X1 回転軸線
X2 中心軸