(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20230724BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230724BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230724BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230724BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/133
(21)【出願番号】P 2019044978
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 孝明
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】明楽 達哉
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179817(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225515(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035289(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147564(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/085918(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136227(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯体と、前記負極芯体の表面に設けられた負極合剤層とを有する負極を備えた非水電解質二次電池において、
前記負極合剤層は、ケイ素系活物質として、酸化ケイ素相及び前記酸化ケイ素相内に分散したケイ素を含有する第1のケイ素材料と、ケイ酸リチウム相及び前記ケイ酸リチウム相内に分散したケイ素を含有する第2のケイ素材料とを含み、
前記負極合剤層を厚み方向に2等分した場合に、前記第2のケイ素材料は表面側の領域よりも前記負極芯体側の領域に多く含ま
れ、前記第1のケイ素材料は、前記負極芯体側の領域よりも前記表面側の領域に多く含まれ、
前記第2のケイ素材料は、前記負極合剤層の表面に露出していない、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極合剤層は、炭素系活物質をさらに含む、請求項
1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極芯体側の領域に含まれる前記ケイ素系活物質と、前記表面側の領域に含まれる前記ケイ素系活物質の質量比は、40:60~60:40である、請求項
2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記ケイ酸リチウム相は、Li
2zSiO
(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウムを含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記第1のケイ素材料は、SiO
x(0.5≦x≦1.6)で表される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関し、より詳しくは負極活物質としてSiを含有するケイ素材料を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素材料は、黒鉛などの炭素材料と比べて単位体積当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られている。このため、負極活物質にケイ素材料を用いることで、電池の高容量化を図ることができる。特に、ケイ酸リチウムを含有するケイ素材料を用いることは高容量化に寄与する。例えば、特許文献1には、一般式Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウム相と、ケイ酸リチウム相中に分散したSi粒子とを含むケイ素材料を負極活物質に適用した非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ケイ酸リチウムを含有するケイ素材料は、黒鉛などの炭素材料や酸化ケイ素などの他のケイ素材料と比べて硬いため、セパレータを損傷させて微小短絡を生じさせる場合があり、セパレータの耐電圧性を低下させる一因となる。本開示の目的は、非水電解質二次電池の高容量化を図りつつ、正極と負極の間の絶縁性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、負極芯体と、前記負極芯体の表面に設けられた負極合剤層とを有する負極を備えた非水電解質二次電池において、前記負極合剤層は、ケイ素系活物質として、酸化ケイ素相及び前記酸化ケイ素相内に分散したケイ素を含有する第1のケイ素材料と、ケイ酸リチウム相及び前記ケイ酸リチウム相内に分散したケイ素を含有する第2のケイ素材料とを含み、前記負極合剤層を厚み方向に2等分した場合に、前記第2のケイ素材料は表面側の領域よりも前記負極芯体側の領域に多く含まれる。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、負極活物質にケイ酸リチウム相を含有するケイ素材料を用いた非水電解質二次電池において、正極と負極の間の絶縁性を向上させることができる。本開示に係る非水電解質二次電池は、高容量で、且つ正極と負極の間の絶縁性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述の通り、負極活物質として、ケイ酸リチウム相を含有するケイ素材料を用いた場合、電池の高容量化に寄与するが、セパレータの耐電圧性の低下に起因して正極と負極の間の絶縁性が低下するという課題がある。本発明者らは、高容量で、且つ正極と負極の間の絶縁性に優れる非水電解質二次電池を開発すべく鋭意検討を行った結果、負極活物質として、酸化ケイ素相及び当該酸化ケイ素相内に分散したケイ素を含有する第1のケイ素材料と、ケイ酸リチウム相及び当該ケイ酸リチウム相内に分散したケイ素を含有する第2のケイ素材料とを用い、合剤層の表面側の領域よりも負極芯体側の領域において第2のケイ素材料の含有量を多くすることで、高容量化を図りつつ、正極と負極の間の絶縁性を向上させることに成功した。本開示に係る非水電解質二次電池では、硬い第2のケイ素材料がセパレータに接触することを抑制できるため、セパレータの耐電圧性が良好に維持されていると考えられる。
【0009】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は扁平状に成形された巻回型の電極体であってもよく、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0010】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、非水電解質二次電池10の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0011】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0012】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。また、電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0013】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。
図1に示す例では、正極11に接続された正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に接続された負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0014】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0015】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0016】
以下、
図2をさらに参照しながら、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に負極12について詳説する。
【0017】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合剤層とを有する。正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含み、正極リード20が接続される部分である芯体露出部を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極合剤層の厚みは、正極芯体の片側で、例えば50μm~150μmである。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0018】
正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。具体例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム含有遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0019】
正極合剤層に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0020】
[負極]
図2は、負極12の断面を示す図である。
図2に例示するように、負極12は、負極芯体30と、負極芯体30の表面に設けられた負極合剤層31とを有する。負極芯体30には、銅、銅合金など、負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層31は、負極活物質及び結着剤を含み、負極リード21が接続される部分である芯体露出部を除く負極芯体30の両面に設けられることが好ましい。負極合剤層31は、負極活物質として、少なくともケイ素系活物質を含む。負極合剤層31の厚みは、負極芯体30の片側で、例えば50μm~150μmである。
【0021】
負極合剤層31は、ケイ素系活物質として、酸化ケイ素相及び当該酸化ケイ素相内に分散したケイ素を含有する第1のケイ素材料(以下、「SiO」とする)と、ケイ酸リチウム相及び当該ケイ酸リチウム相内に分散したケイ素を含有する第2のケイ素材料(以下、「LSX」とする)とを含む。SiOとLSXを併用することで、初期充放電容量、サイクル特性等の電池性能のバランスを良好に維持しつつ、正極と負極の間の絶縁性を向上させることができる。負極合剤層31において、SiOとLSXの質量比は、例えば40:60~60:40であり、SiOとLSXの含有率は実質的に同一であってもよい。
【0022】
負極12では、負極合剤層31を厚み方向に2等分した場合に、LSXが負極12の表面側の領域31Aよりも負極芯体30側の領域31Bに多く含まれる。LSXは、実質的に領域31Bのみに含まれていてもよい。硬いLSXの粒子がセパレータ13に接触しないように、LSXは負極合剤層31の表面に露出していないことが好ましい。セパレータ13へのLSXの接触を抑制することで、セパレータ13が負極12とともに巻回されて電極体が形成される際にセパレータ13の状態が良好に維持され、耐電圧特性の低下が抑制される。LSXのビッカース硬さは、一般的にSiOより大きい。LSXのビッカース硬さの一例は、150~200である。
【0023】
負極合剤層31において、SiOは負極芯体30側の領域31Bよりも負極12の表面側の領域31Aに多く含まれることが好ましい。領域31Aで柔らかいSiOの量を増やし、硬いLSXの量を減らすことで、高容量を維持しながら正極11と負極12の間の絶縁性を向上させることができる。
【0024】
なお、
図2では、LSXが領域31Bのみに存在し、SiOが領域31Aのみに存在する状態を図示しているが、LSXの一部は領域31Aに存在してもよく、SiOの一部は領域31Bに存在してもよい。
【0025】
負極合剤層31は、例えば、SiOの含有量>LSXの含有量の条件を満たす上層と、SiOの含有量<LSXの含有量の条件を満たす下層とを含む2層構造を有する。上層は負極12の表面側に配置され、下層は負極芯体30側に配置される。上層と下層の厚みは同じであってもよく、異なっていてもよい。この場合、
図2に例示するように、負極合剤層31の厚み方向中間部で、SiOとLSXの含有量が急峻に変化してもよい。一方、負極合剤層31は、負極芯体30側から負極12の表面側に向かってLSXの含有量が次第に減少する層構造を有していてもよい。また、負極合剤層31は、負極芯体30側から負極12の表面側に向かってSiOの含有量が次第に増加する層構造を有していてもよい。
【0026】
負極合剤層31は、サイクル特性等の性能を考慮すると、2種類のケイ素系活物質に加えて、炭素系活物質をさらに含むことが好ましい。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。黒鉛粒子のビッカース硬さは、一般的にSi系活物質より小さい。黒鉛粒子の体積基準のメジアン径(以下、「D50」とする)は、例えば5μm~20μmである。D50は、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる粒径であって、50%粒径又は中位径とも呼ばれる。
【0027】
負極活物質として炭素系活物質を併用する場合、負極合剤層31におけるケイ素系活物質と炭素系活物質の配合比は、質量比で1:99~30:70が好ましく、2:98~10:90がより好ましい。配合比が当該範囲内であれば、良好なサイクル特性を維持しつつ、高容量化を図ることが容易になる。ケイ素系活物質の含有量は、負極活物質の総質量に対して1~30質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましい。さらに、SiOやLSXなどのケイ素系活物質は負極合剤層31の全体にケイ素系活物質が分散していることが好ましい。例えば、負極合剤層31において、負極芯体30側の領域31Bに含まれるケイ素系活物質と、負極12の表面側の領域31Aに含まれるケイ素系活物質の質量比は、40:60~60:40である。これにより、負極合剤層31の充放電に伴う局所的な体積変化が抑制される。本実施形態では、負極合剤層31の全域において略均一に炭素系活物質及びケイ素系活物質が存在する。
【0028】
SiO及びLSXは、例えばD50が黒鉛粒子のD50よりも小さな粒子である。SiO及びLSXのD50は、1μm~15μmが好ましく、4μm~10μmがより好ましい。SiO及びLSXの粒子表面には、導電性の高い材料で構成される導電層が形成されていてもよい。好適な導電層の一例は、炭素材料で構成される炭素被膜である。導電層の厚みは、導電性の確保と粒子内部へのリチウムイオンの拡散性を考慮して、1nm~200nmが好ましく、5nm~100nmがより好ましい。
【0029】
上記炭素被膜は、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、及びこれらの2種以上の混合物などで構成される。SiO及びLSXの粒子表面を炭素被覆する方法としては、アセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等をSiO、LSXの粒子と混合し、熱処理を行う方法などが例示できる。また、カーボンブラック等の炭素粉末を結着剤を用いて粒子表面に固着させることで炭素被膜を形成してもよい。
【0030】
SiOは、例えば酸化ケイ素相中に微細なSi粒子が分散した粒子である。好適なSiOは、非晶質の酸化ケイ素のマトリックス中に微細なSi粒子が略均一に分散した海島構造を有し、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。Si粒子の含有率は、電池容量とサイクル特性の両立等の観点から、SiOの総質量に対して35~75質量%が好ましい。例えば、Si粒子の含有率が低すぎると充放電容量が低下し、またSi粒子の含有率が高すぎると酸化ケイ素で覆われずに露出したSi粒子の一部が電解液と接触し、サイクル特性が低下する。
【0031】
酸化ケイ素相中に分散するSi粒子の平均粒径は、一般的に充放電前において500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。充放電後においては、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。Si粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなりサイクル特性が向上する。Si粒子の平均粒径は、SiOの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより測定され、具体的には100個のSi粒子の最長径の平均値として求められる。酸化ケイ素相は、例えばSi粒子よりも微細な粒子の集合によって構成される。
【0032】
負極合剤層31の領域31AにおけるSiOの含有率は、負極合剤層31の全体に含まれるSiOの総質量に対して60~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、80~100質量%が特に好ましい。SiOは、実質的に領域31Aのみに含まれていてもよい。
【0033】
LSXは、例えばケイ酸リチウム相中に微細なSi粒子が分散した粒子である。好適なLSXは、一般式Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウムのマトリックス中に微細なSi粒子が略均一に分散した海島構造を有する。Si粒子の含有率は、SiOの場合と同様に、LSXの総質量に対して35~75質量%が好ましい。また、Si粒子の平均粒径は、一般的に充放電前において500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。ケイ酸リチウム相は、例えばSi粒子よりも微細な粒子の集合によって構成される。
【0034】
ケイ酸リチウム相は、上述の通り、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表される化合物で構成されることが好ましい。即ち、ケイ酸リチウム相には、Li4SiO4(Z=2)が含まれない。Li4SiO4は、不安定な化合物であり、水と反応してアルカリ性を示すため、Siを変質させて充放電容量の低下を招く場合がある。ケイ酸リチウム相は、安定性、作製容易性、リチウムイオン導電性等の観点から、Li2SiO3(Z=1)又はLi2Si2O5(Z=1/2)を主成分とすることが好適である。Li2SiO3又はLi2Si2O5を主成分とする場合、当該主成分の含有量はケイ酸リチウム相の総質量に対して50質量%超過であることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0035】
負極合剤層31の領域31BにおけるLSXの含有率は、負極合剤層31の全体に含まれるLSXの総質量に対して60~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、80~100質量%が特に好ましい。LSXは、上述のように、実質的に領域31Bのみに含まれていてもよい。
【0036】
SiOは、以下の工程1~3により作製できる。
(1)Si及び酸化ケイ素を、例えば20:80~95:5の重量比で混合して混合物を作製する。
(2)少なくとも上記混合物の作製前又は作製後に、例えばボールミルによりSi及び酸化ケイ素を粉砕して微粒子化する。
(3)粉砕された混合物を、例えば不活性雰囲気中、600~1000℃で熱処理する。
なお、上記工程において、酸化ケイ素の代わりにケイ酸リチウムを用いることにより、LSXを作製できる。
【0037】
上記熱処理では、ホットプレスのように圧力を印加して上記混合物の焼結体を作製してもよい。その場合、焼結体を所定の粒径に粉砕する。なお、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウムは、600~1000℃の温度範囲で安定であり、Siと反応しないので容量が低下することはない。ボールミルを使用せず、Siのナノ粒子及びケイ酸リチウムのナノ粒子を合成し、これらを混合して熱処理を行うことでLSXを作製することも可能である。
【0038】
負極合剤層31は、例えば、ケイ素系活物質としてSiOのみを含む第1の負極合剤スラリー、及びSi系活物質としてLSXのみを含む第2の負極合剤スラリーの2種類のスラリーを用いて形成できる。負極芯体30の表面に第2の負極合剤スラリーを塗布してLSXを含む塗膜を形成した後、その塗膜の上に第1の負極合剤スラリーを塗布してSiOを含む塗膜を形成し、2層の塗膜を圧縮することにより、負極合剤層31を形成できる。なお、第1の負極合剤スラリーにSiOより少量のLSXが添加されていてもよく、第2の負極合剤スラリーにLSXより少量のSiOが添加されていてもよい。
【0039】
負極合剤層31に含まれる結着剤には、正極11の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等のゴム系結着剤が用いられる。また、負極合剤層31には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、PVAなどが含まれていてもよい。CMC又はその塩は、負極合剤スラリーを適切な粘度範囲に調整する増粘剤として機能し、またSBRと同様に結着剤としても機能する。
【0040】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
[正極の作製]
LiNi0.91Co0.045Al0.045O2で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた。100質量部の正極活物質と、0.75質量部のアセチレンブラックと、0.6質量部のポリフッ化ビニリデンとを混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合剤スラリーを調製した。次に、当該正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。なお、正極の長手方向中央部に芯体表面が露出した露出部を設け、当該露出部に正極リードを溶接した。
【0043】
[負極合剤スラリー(A)の調製]
黒鉛粉末と、SiOとを、95:5の質量比で混合して負極活物質を調製した。100質量部の負極活物質と、1質量部のカルボキシメチルセルロース(CMC)と、1質量部のポリアクリル酸(PAA)と、1質量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)とを混合し、分散媒として水を用いて、負極合剤スラリー(A)を調製した。ここで、SiOは、一般式SiOxで表される、ビッカース硬さが41のケイ素材料である。
【0044】
[負極合剤スラリー(B)の調製]
SiOの代わりに、LSXを用いたこと以外は、負極合剤スラリー(A)の場合と同様にして、負極合剤スラリー(B)を調製した。ここで、LSXは、一般式Li2zSiO(2+z)で表されるケイ酸リチウムを含む、ビッカース硬さが177のケイ素材料である。
【0045】
[負極の作製]
負極合剤スラリー(B)を銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、当該塗膜の上に負極合剤スラリー(A)を塗布し、2層目の塗膜を乾燥、圧縮した。その後、所定の電極サイズに切断し、負極芯体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。負極合剤層は、SiOを含有する上層と、LSXを含有する下層とを含む。なお、負極の長手方向端部に芯体表面が露出した露出部を設け、当該露出部に負極リードを溶接した。
【0046】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、20:5:75の体積比で混合した非水溶媒に、ビニレンカーボネート(VC)を4質量%の濃度で添加し、LiPF6を1.4mol/Lの濃度で溶解して、非水電解液を調製した。
【0047】
[電極体及び電池の作製]
上記正極と上記負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回することにより、巻回型の電極体を作製した。電極体の上下に絶縁板をそれぞれ配置した後、負極リードを有底円筒形状の外装缶の底部内面に溶接し、正極リードを封口体の内部端子板に溶接して、電極体を外装缶内に収容した。その後、外装缶内に上記非水電解液を減圧方式で注入し、ガスケットを介して外装缶の開口を封口体で封止することにより、円筒形の非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
<比較例1>
負極合剤スラリー(A)と(B)の塗布順を変更することで、LSXを含有する上層と、SiOを含有する下層とを含む負極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、負極及び電極体を作製した。
【0049】
<比較例2>
実施例1で用いた黒鉛粉末、SiO、及びLSXを、95:2.5:2.5の質量比で混合して負極活物質を調製した。100質量部の負極活物質と、1質量部のCMCと、1質量部のPAAと、1質量部のSBRとを混合し、分散媒として水を用いて、負極合剤スラリー(C)を調製した。負極合剤スラリー(C)を用いて負極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、負極及び電極体を作製した。
【0050】
[耐電圧試験]
実施例及び比較例の各電極体について、一定の昇圧速度で電圧を印加し、セパレータが絶縁破壊されて短絡が発生するまで電圧を上げた。短絡が発生した時点の電圧を測定し、測定結果を表1に示した。
【0051】
【0052】
表1に示すように、実施例の電極体は、比較例の電極体と比べて、高電圧まで短絡が発生せず耐電圧性に優れる。実施例の電極体では、負極表面に硬いLSX粒子が存在しないため、セパレータの損傷が抑制され、セパレータの絶縁破壊が起こり難くなっていると考えられる。したがって、実施例の非水電解質二次電池は正極と負極の間の絶縁性が向上する。
【符号の説明】
【0053】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 内部端子板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 負極芯体、31 負極合剤層、31A,31B 領域