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特許7317531船舶の撮影システムおよびそれを備えた船舶、ならびに船舶の撮影システムの較正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】船舶の撮影システムおよびそれを備えた船舶、ならびに船舶の撮影システムの較正方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 7/18 20060101AFI20230724BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20230724BHJP
   B60R 1/27 20220101ALI20230724BHJP
【FI】
H04N7/18 J
B63B49/00 Z
B60R1/27
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019047546
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020150459
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 光章
(72)【発明者】
【氏名】福本 晋平
(72)【発明者】
【氏名】寺田 宏平
(72)【発明者】
【氏名】安間 寛文
(72)【発明者】
【氏名】木下 嘉理
【審査官】佐野 潤一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-092002(JP,A)
【文献】特開2010-041530(JP,A)
【文献】特開2015-119372(JP,A)
【文献】特開2010-093605(JP,A)
【文献】特開2015-106785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/18
H04N 23/60
B63B 49/00
B60R 1/00
G06T 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに所定の間隔をあけて船舶に設置される複数のカメラと、
前記複数のカメラそれぞれの撮影によって取得された前記船舶の周辺画像を組み合わせて合成画像を作成する制御装置と、を備える船舶の撮影システムであって、
前記複数のカメラのうち隣り合う前記カメラは、当該各カメラの撮影によって取得される前記周辺画像に前記船舶の一部が共通に写り込む位置および角度に設置され、
前記船舶の前記一部が前記周辺画像に共通に写り込む位置に配置された較正用指標を備え、
前記較正用指標自体は、前記船舶の前記一部を利用したパターンまたは形状として形成され、
前記制御装置は、前記周辺画像に共通に写り込む前記較正用指標に基づいて、前記周辺画像における前記合成画像に用いる範囲を調整する較正処理を行う
ことを特徴とする船舶の撮影システム。
【請求項2】
請求項1に記載された船舶の撮影システムにおいて、
前記制御装置は、個々の前記カメラの撮影によって取得された前記船舶の周辺画像を、当該カメラの設置位置から前記船舶の喫水線までの距離と当該カメラの設置角度とに基づいて、上方から見下ろしたような画像に変換した後に、前記較正処理により調整された範囲で組み合わせて前記合成画像を作成する
ことを特徴とする船舶の撮影システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載された船舶の撮影システムにおいて、
前記各カメラは、前記船舶の外周部分に向けてそれぞれ設置され、
前記制御装置は、前記船舶の外周部分に設けられた前記較正用指標に基づいて、前記較正処理を行う
ことを特徴とする船舶の撮影システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された船舶の撮影システムにおいて、
隣り合う前記カメラの撮影範囲は、前記船舶の周辺について一部重複しており、
前記制御装置は、前記合成画像において隣り合う前記カメラの共通の撮影範囲が重複して現れないように、前記周辺画像を繋ぎ合わせることで前記合成画像を作成する
ことを特徴とする船舶の撮影システム。
【請求項5】
請求項4に記載された船舶の撮影システムにおいて、
前記制御装置は、前記合成画像において隣り合う前記カメラの共通の撮影範囲が重複して現れないように、前記周辺画像のうち前記合成画像に用いる範囲が決定される
ことを特徴とする船舶の撮影システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載された船舶の撮影システムを備える
ことを特徴とする船舶。
【請求項7】
互いに所定の間隔をあけて船舶に設置される複数のカメラによって撮影し、該各カメラの撮影によって取得された船舶の周辺画像を組み合わせて合成画像を作成する船舶の撮影システムにおいて、前記周辺画像における前記合成画像に用いる範囲を調整する較正方法であって、
前記複数のカメラのうち隣り合う前記カメラにより前記船舶の一部が共通に写り込むように前記周辺画像を撮影する撮影ステップと、
前記撮影ステップで撮影した前記周辺画像に共通に写り込む位置に配置され、前記船舶の前記一部を利用したパターンまたは形状として形成された較正用指標自体に基づいて、前記周辺画像における前記合成画像に用いる範囲を調整する較正ステップと、を含む
ことを特徴とする船舶の撮影システムの較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、船舶の撮影システムおよびそれを備えた船舶、ならびに船舶の撮影システムの較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶の操縦を支援するために、船体の周囲に設置された複数のカメラによって撮影される周辺画像を組み合わせることにより、船舶を上方から見下ろしたかのような疑似の鳥瞰画像を合成画像として作成し、船舶に搭載された表示装置に表示させることが知られている。このような鳥瞰画像の表示を行う操船支援システム(操縦支援装置)は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
複数のカメラによって撮影された周辺画像を組み合わせる場合には、隣り合うカメラの撮影によって取得された周辺画像における鳥瞰画像に用いる範囲を、撮影範囲の重複や消失がないように位置合せするために、個々のカメラの設置位置や設置角度などの設置状態に応じて調整するキャリブレーションと呼ばれる撮影システムの較正処理を行う必要がある。
【0004】
そうした撮影システムの較正処理は、鳥瞰画像の表示を行う自動車の運転支援システムにおいて行われている。自動車の運転システムに用いられる撮影システムの較正処理は、例えば、カメラの設置状態を判断するための基準となる較正用指標を路上や床面に複数設置し、隣り合うカメラで共通の較正用指標を撮影することで行われる。このような撮影システムの較正方法については、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-093605号公報
【文献】特開2014-183540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もっとも、水上にある船舶の撮影システムでは、較正用指標を水面に浮かせて設置すると、較正用指標が水の動きにより流されてしまい、較正用指標を適切な位置に設置することが困難である。このことから、本願出願人は、係留施設に較正用指標を設置し、その較正用指標を用いて較正処理を行う撮影システムの較正方法を提案している(特願2018-078794号)。しかしながら、当該撮影システムの較正方法では、較正処理を行える場所が係留施設に限られるため、較正処理を行うタイミングの自由度が制限される。
【0007】
本開示の技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数のカメラにより撮影した船舶の周辺画像を組み合わせて合成画像を作成する船舶の撮影システムにおいて、船舶の周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正処理を船舶が何処にあっても行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、船舶の一部に設けられた較正用指標を用いて較正処理を行うようにした。
【0009】
具体的には、本開示の技術は、互いに所定の間隔をあけて船舶に設置される複数のカメラと、複数のカメラそれぞれの撮影によって取得される船舶の周辺画像を組み合わせて合成画像を作成する制御装置とを備える船舶の撮影システムを対象とする。
【0010】
本開示の技術に係る船舶の撮影システムでは、複数のカメラのうち隣り合うカメラは、当該各カメラの撮影によって取得される周辺画像に船舶の一部が共通に写り込む位置および角度に設置される。船舶の一部が周辺画像に共通に写り込む位置に配置された較正用指標を備え、較正用指標自体は、船舶の一部を利用したパターンまたは形状として形成される。そして、制御装置は、周辺画像に共通に映り込む較正用指標に基づいて、周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正処理を行う。ここで、「較正用指標」について「船舶の一部に設けられた」とは、較正用指標が船舶の構成部分とは別体に設けられている場合の他、船舶の一部自体が較正用指標を構成している場合も含む。
【0011】
この構成によると、隣り合うカメラにより船舶の一部を共通に撮影し、共通に撮影される船舶の一部に設けられた較正用指標を用いて船舶の周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正処理を行うようにしたので、船舶とは別に較正用指標を設置するための施設を必要とせず、船舶の一部を利用して較正処理を行うことができる。これにより、船舶が何処にあっても較正処理を行えるようにすることができる。
【0012】
上記船舶の撮影システムにおいて、制御装置は、個々のカメラの撮影によって取得された船舶の周辺画像を、当該カメラの設置位置から船舶の喫水線までの距離と当該カメラの設置角度とに基づいて、上方から見下ろしたような画像に変換した後に、較正処理により調整された範囲で組み合わせて合成画像を作成することが好ましい。
【0013】
船舶に設置される各カメラは、船舶の周辺に向かって斜め下方に臨む姿勢とされ、船舶の周辺を真上からではなく斜め上から下方に傾斜した向きで撮影する。このように各カメラで斜め上から撮影された船舶の周辺画像を、カメラの設置位置から船舶の喫水線までの距離とカメラの設置角度とに基づいて船舶の上方から見下ろしたような画像に変換することにより、合成画像として一体感のある疑似の鳥瞰画像を作成することができる。当該合成画像の作成においては、船舶の周辺画像が較正処理により調整された範囲で組み合わせられるので、本開示の技術が有効である。
【0014】
また、各カメラは、船舶の外周部分に向けてそれぞれ設置されていてもよい。この場合、制御装置は、船舶の外周部分に設けられた較正用指標に基づいて、較正処理を行うことが好ましい。
【0015】
この構成によると、各カメラを較正用指標がなるべく周辺画像の中央側に写るように設置するようにしたので、それら各カメラのレンズの歪み(広角歪みなど)による較正処理への悪影響を抑えて、較正処理の精度を高めることができる。
【0016】
上記船舶の撮影システムにおいて、隣り合うカメラの撮影範囲は、船舶の周辺について一部重複している。そして、制御装置は、合成画像において隣り合うカメラの共通の撮影範囲が重複して現れないように、船舶の周辺画像を繋ぎ合わせることで合成画像を作成してもよい。この場合、制御装置は、合成画像において隣り合うカメラの共通の撮影範囲が重複して現れないように、船舶の周辺画像のうち合成画像に用いる領域を決定するようになっていてもよい。
【0017】
また、本開示の技術は、船舶の周辺を撮影する撮影システムを備えた船舶を対象とする。本開示の技術に係る船舶は、上述した船舶の撮影システムを備える。
【0018】
また、本開示の技術は、互いに所定の間隔をあけて船舶に設置される複数のカメラによって撮影し、それら各カメラの撮影によって取得される船舶の周辺画像を組み合わせて合成画像を作成する船舶の撮影システムにおいて、船舶の周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正方法を対象とする。
【0019】
本開示の技術に係る船舶の撮影システムの較正方法は、複数のカメラのうち隣り合うカメラにより船舶の一部が共通に映り込むように周辺画像を撮影する撮影ステップと、撮影ステップで撮影した周辺画像に共通に写り込む位置に配置され、船舶の一部を利用したパターンまたは形状として形成された較正用指標自体に基づいて、船舶の周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正ステップとを含む。
【0020】
この構成によると、隣り合うカメラにより船舶の一部を共通に撮影し、共通に撮影された船舶の一部に設けられた較正用指標を用いて船舶の周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正処理を行うようにしたので、船舶とは別に較正用指標を設置するための施設を必要とせずに、船舶の一部を利用して較正処理を行うことができる。これにより、船舶が何処にあっても較正処理を行えるようにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示の技術に係る船舶の撮影システムおよびそれを備えた船舶、ならびに船舶の撮影システムの較正方法によれば、船舶の周辺画像における合成画像に用いる範囲を調整する較正処理を船舶が何処にあっても行えるようにすることができる。その結果、船舶の撮影システムのユーザビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る周辺確認システムが搭載された船舶の平面図である。
図2図2は、実施形態に係る周辺確認システムが搭載された船舶の側面図である。
図3図3は、実施形態に係る周辺確認システムが搭載された船舶の正面図である。
図4図4は、実施形態に係る周辺確認システムの構成を示すブロック図である。
図5図5は、半天球カメラの撮影によって取得される画像の模式図である。
図6図6は、実施形態に係る周辺確認システムにおいてモニタに表示される鳥瞰画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
この実施形態では、本開示の技術に係る船舶の撮影システムおよびその較正方法について、船舶に搭載された周辺確認システムを構成する場合を例に挙げて説明する。船舶の周辺確認システムは、例えば船舶の着岸時などの操船作業において、船舶の周辺の状況を映像によって確認するためのシステムである。
【0025】
この船舶の周辺確認システムの構成について、図1図4を参照しながら説明する。図1は、周辺確認システム11が搭載された船舶101の平面図である。図2は、周辺確認システム11が搭載された船舶101の側面図である。図3は、周辺確認システム11が搭載された船舶101の正面図である。また、図4は、船舶101の周辺確認システム11の構成を示すブロック図である。なお、図1では、周辺確認システム11が備える複数のカメラ13f,13b,13l,13rについて、それらの姿勢等まで厳密には図示していない。
【0026】
船舶101の周辺確認システム11は、図1図4に示すように、互いに所定の間隔をあけて船舶101に設置された複数のカメラ13f,13b,13l,13rと、船室103内およびフライングデッキ104に設置された表示装置としてのモニタ15と、船舶101の姿勢を検出するための各種センサ17,19と、当該システム11を総合的に制御する制御装置21とを備えている。複数のカメラ13f,13b,13l,13rと制御装置21とは、船舶101の周辺を撮影して合成画像である疑似の鳥瞰画像を作成する撮影システム22を構成している。
【0027】
複数のカメラ13f,13b,13l,13rは、船首側のバウデッキ105に設置されたフロントカメラ13fと、船尾側のスターンデッキ107に設置されたバックカメラ13bと、船舶101の長さ方向における中央部分である船央の左側に設置されたレフトカメラ13lと、船央の右側に設置されたライトカメラ13rとである。これら4台のカメラ13f,13b,13l,13rは、船舶101の外周部分を含めて船舶101周辺を撮影するようにそれぞれ設置されている。
【0028】
フロントカメラ13fは、バウデッキ105の左右方向における中央位置に立てられた支柱109に、前方斜め下方に臨む姿勢でレンズの光軸を船首(船舶101の外周部分)側に向けて取り付けられている。このフロントカメラ13fは、船舶101の前方における所定範囲Rfの風景を動画または静止画で撮影して、周辺画像として前方画像Pfを取得する。
【0029】
バックカメラ13bは、スターンデッキ107の左右方向における中央位置に立てられた支柱110に、後方斜め下方に臨む姿勢でレンズの光軸を船舶101の船尾(船舶101の外周部分)側に向けて取り付けられている。このバックカメラ13bは、船舶101の後方における所定範囲Rbの風景を動画または静止画で撮影して、周辺画像として後方画像Pbを取得する。
【0030】
レフトカメラ13lは、船室103の左側面に、左方斜め下方に臨む姿勢でレンズの光軸を左舷のガンネル111(船舶101の外周部分)側に向けて取り付けられている。このレフトカメラ13lは、船舶101の左方における所定範囲Rlの風景を動画または静止画で撮影して、周辺画像として左方画像Plを取得する。
【0031】
ライトカメラ13rは、船室103の左側面に、右方斜め下方に臨む姿勢でレンズの光軸を右舷のガンネル112(船舶101の外周部分)側に向けて取り付けられている。このライトカメラ13rは、船舶101の右方における所定範囲Rrの風景を動画または静止画で撮影して、周辺画像として右方画像Prを取得する。
【0032】
フロントカメラ13fの撮影範囲Rfとレフトカメラ13lの撮影範囲Rlとは、互いに重複する共通の撮影範囲RCfl(図1で紙面左上の斜線を付した範囲)を含んでいる。フロントカメラ13fとレフトカメラ13lとは、当該各カメラ13r,13lの撮影によって取得される周辺画像Pf,Plに、船舶101のバウデッキ105の外周部分に設置された手すり113の左側部分が共通に写り込む位置および角度に設置される。そのことで、フロントカメラ13fとレフトカメラ13lとの共通の撮影範囲RCflは、当該手すり113の左側部分を含む範囲に設定される。
【0033】
フロントカメラ13fおよびレフトカメラ13lの撮影によって取得される周辺画像Pf,Plに共通に写り込む手すり113の一部には、テープを巻き付けたり塗装を施したりすることで白と黒の縞模様が付されており、その縞模様からなる第1の較正用指標115が設けられている。この第1の較正用指標115は、フロントカメラ13fおよびレフトカメラ13lの撮影によって取得される周辺画像Pf,Plの鳥瞰画像301に用いる範囲を調整するのに、後述する較正処理で用いられる。
【0034】
フロントカメラ13fの撮影範囲Rfとライトカメラ13rの撮影範囲Rrとは、互いに重複する共通の撮影範囲RCfr(図1で紙面右上の斜線を付した範囲)を含んでいる。フロントカメラ13fとライトカメラ13rとは、当該各カメラ13f,13rの撮影によって取得される周辺画像Pf,Prに、船舶101のバウデッキ105の外周部分に設置された手すり113の右側部分が共通に写り込む位置および角度に設置される。そのことで、フロントカメラ13fとライトカメラ13rとの共通の撮影範囲RCfrは、当該手すり113の右側部分を含む範囲に設定される。
【0035】
フロントカメラ13fおよびライトカメラ13rの撮影によって取得される周辺画像Pf,Prに共通に写り込む手すり113の一部には、テープを巻き付けたり塗装を施したりすることで白と黒の縞模様が付されており、その縞模様からなる第2の較正用指標117が設けられている。この第2の較正用指標117は、フロントカメラ13fおよびライトカメラ13rの撮影によって取得される周辺画像Pf,Prの鳥瞰画像301に用いる範囲を調整するのに、後述する較正処理で用いられる。
【0036】
バックカメラ13bの撮影範囲Rbとレフトカメラ13lの撮影範囲Rlとは、互いに重複する共通の撮影範囲RCbl(図1で紙面左下の斜線を付した範囲)を含んでいる。バックカメラ13bとレフトカメラ13lとは、当該各カメラ13b,13lの撮影によって取得される周辺画像Pb,Plに、船舶101のスターンデッキ107左側に設置されたクリート119が共通に写り込む位置および角度に設置される。そのことで、バックカメラ13bとレフトカメラ13lとの共通の撮影範囲RCblは、船舶101の左側を係留する際に用いる当該クリート119を含む範囲に設定される。
【0037】
バックカメラ13bおよびレフトカメラ13lの撮影によって取得される周辺画像Pb,Plに共通に写り込むクリート119は、例えば、船体が白色である場合には塗装が施されるなどして黒色の表面を有し、第3の較正用指標121を構成している。この第3の較正用指標121は、バックカメラ13bおよびレフトカメラ13lの撮影によって取得される周辺画像Pb,Plの鳥瞰画像301に用いる範囲を調整するのに、後述する較正処理で用いられる。
【0038】
バックカメラ13bの撮影範囲Rbとライトカメラ13rの撮影範囲Rrとは、互いに重複する共通の撮影範囲RCbr(図1で紙面右下の斜線を付した範囲)を含んでいる。バックカメラ13bとライトカメラ13rとは、当該各カメラ13b,13rの撮影によって取得される周辺画像に、船舶101のスターンデッキ107右側に設置されたクリート123が共通に写り込む位置および角度に設置される。そのことで、バックカメラ13bとライトカメラ13rとの共通の撮影範囲RCbrは、船舶101の右側を係留する際に用いる当該クリート123を含む範囲に設定される。
【0039】
バックカメラ13bおよびライトカメラ13rの撮影によって取得される周辺画像Pb,Prに共通に写り込むクリート123は、例えば、船体が白色である場合には、塗装が施されるなどして黒色の表面を有し、第4の較正用指標125を構成している。この第4の較正用指標125は、バックカメラ13bおよびライトカメラ13rの撮影によって取得される周辺画像Pb,Prの鳥瞰画像301に用いる範囲を調整するのに、後述する較正処理で用いられる。
【0040】
この実施形態において、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの設置位置から船舶101の喫水線131までの距離である水上高さHは、同じに高さに設定されている。フロントカメラ13fの設置角度α1と、バックカメラ13bの設置角度α2と、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの設置角度α3,α4とは、互いに異なる角度に設定されている。レフトカメラ13lの設置角度α3とライトカメラ13rの設置角度α4とは、同じ角度に設定されている。
【0041】
なお、各カメラ13f,13b,13l,13rの設置角度は、任意に設定することができる。すなわち、フロントカメラ13fの設置角度α1と、バックカメラ13bの設置角度α2と、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの設置角度α3,α4とは、互いに同じ角度であってもよいし、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの設置角度α3,α4は、互いに異なる角度であってもよい。
【0042】
また、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rは、いずれも防水および防塵の仕様とされている。また、これら各カメラ13f,13b,13l,13rは、それぞれ船舶101に着脱可能に取り付けられるようになっており、例えば、船舶101を使用するときに船体に取り付けるが船舶101の使用後には取り外したり、不具合が生じたときに取り替えたりすることができるようになっている。
【0043】
また、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rは、それぞれ標準レンズよりも画角の広い広角レンズ23を備えた広角カメラである。広角レンズ23には、例えば180度以上の画角を有するレンズが用いられる。具体的には、この実施形態でのフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13l、ライトカメラ13rは、それぞれ広角レンズ23を有する広域撮影カメラ、いわゆる半天球カメラである。
【0044】
図5に、半天球カメラの撮影によって取得される画像201の概念図を示す。フロントカメラ13fの撮影によって取得される前方画像Pf、バックカメラ13bの撮影によって取得される後方画像Pb、レフトカメラ13lの撮影によって取得される左方画像Pl、およびライトカメラ13rの撮影によって取得される右方画像Prは、図5に示すように、広角レンズ23の光軸Aを中心として周囲360度を見渡したような円形状の画像201である。この円形状の画像201は、広角レンズ23の外面に投影された立体の光学像を光軸Aに沿って平面像に射影変換した像に相当する。
【0045】
このような円形状の画像201である前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prは、広角歪みを含む。ここでいう「広角歪み」とは、立体の光学像を平面に射影する際に広角側で画像が被写界と相似にならず縮むように湾曲を伴って変形した歪みのことである。この広角歪みは、魚眼レンズ以外の広角レンズ23では樽型の歪曲収差として知られるレンズの収差の1つであって、画像中心からの距離に応じて歪みの程度が大きくなり、特に画像周辺で顕著になる。
【0046】
モニタ15は、船室103内の操舵席127の前方と、フライングデッキ104の操舵席127の周辺とにおいて、操舵席127に着席した操船者から操船中に見える位置に配置されている。このモニタ15には、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rによって取得される前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prに基づいて作成された、船舶101を上方から見下ろしたかのような疑似の鳥瞰画像が表示される。
【0047】
図6に、モニタ15に表示される鳥瞰画像301の模式図を示す。鳥瞰画像301は、図6に示すように、前方鳥瞰画像BEVf、後方鳥瞰画像BEVb、左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrの4つの部分鳥瞰画像301pが組み合わされてなる合成画像である。例えば、鳥瞰画像301は、4つの部分鳥瞰画像301pが共通の撮影範囲RCfl,RCfr,RCbl,RCbrでシームレスに繋ぎ合わされて一体化されたり、または別々のデータとして並べて表示されたりして構成される。この鳥瞰画像301では、船舶101の上面を表す船舶画像101gが中心位置に示される。船舶画像101gは、例えば、イラストでもよいし、写真であってもよい。
【0048】
また、モニタ15は、タッチパネル機能を有する液晶表示パネルなどによって構成されている。このモニタ15は、表示される鳥瞰画像301の範囲を切り換えたり、鳥瞰画像301に代えて個別の周辺画像(前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Pl、右方画像Pr)を表示したりするなどの表示設定の他、後述する撮影システム22の較正処理の実行などを指示するための操作部25を兼ねている。当該モニタ15には、そうした較正処理の実行などに用いるメニュー画面も表示されるようになっている。操船者などの撮影システム22のユーザは、メニュー画面に従い操作部25を操作することによって、較正処理の実行を行える。
【0049】
各種センサ17,19としては、ジャイロセンサ17および加速度センサ19が設けられている。ジャイロセンサ17および加速度センサ19は、船舶101の揺れに応じて変化するフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13l、ライトカメラ13rの傾きを検出する傾きセンサ40を構成している。
【0050】
ジャイロセンサ17は、船舶101が傾いたときに、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rがどれだけの速さで回転しているのかを検出する。加速度センサ19は、船舶101が傾いたときに、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rがどのような向きに回転しているのかを検出する。
【0051】
ジャイロセンサ17および加速度センサ19は、例えば、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13l、ライトカメラ13r、制御装置21のうち少なくとも1つに内蔵されている。なお、これらジャイロセンサ17および加速度センサ19は、各カメラ13f,13b,13l,13rおよび制御装置21とは別に船舶101に設置されていてもよい。
【0052】
制御装置21は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。この制御装置21は、例えば、船室103内に設置されており、船舶101のバッテリから電源供給を受けて、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13l、ライトカメラ13r、モニタ15などに対して電力を分配供給すると共に、それら各カメラ13f,13b,13l,13r、各モニタ15および各種センサ17,19とデータのやり取りをするようになっている。
【0053】
具体的には、制御装置21は、図4に示すように、画像データに所定の処理を施す信号処理部29と、プログラムやデータを一時的に記憶する主メモリ31と、主メモリ31に対するプログラムおよびデータの書き込みや読み出しを制御するメモリ制御部33と、主メモリ31に読み出されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)35と、各種プログラムおよびデータを記憶する補助メモリ37と、モニタ15を動作させるモニタ用ドライバ39とを備えている。
【0054】
信号処理部29およびCPU35は、典型的にはIC(Integrated Circuit)やLSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integration Circuit
)などによって実現される。主メモリ31は、典型的にはDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSDRAM(Synchronous DRAM)などの揮発性メモリによって実現される。補助メモリ37は、典型的にはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリによって実現される。
【0055】
信号処理部29は、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rから出力された前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prについての各フレームの画像データを次々と取得し、取得した各周辺画像Pf,Pb,Pl,Prについての画像データに基づいて部分鳥瞰画像301pを4枚作成し、それら4枚の部分鳥瞰画像301p(BEVf,BEVb,BEVl,BEVr)を組み合わせて合成することにより1枚の鳥瞰画像301を作成する。
【0056】
補助メモリ37には、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの外部パラメータと、それらフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの内部パラメータとが記憶されている。ここで「外部パラメータ」とは、カメラの設置位置や設置角度などの設置状態を示す数値である。また、「内部パラメータ」とは、カメラの光軸位置や焦点距離、広角歪みなどの歪みに関する情報といった、カメラに固有の光学的性質を表す数値である。
【0057】

また、補助メモリ37には、前方画像Pfにおける鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、後方画像Pbにおける鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、左方画像Plにおける鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、および右方画像Prにおける鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲についての各設定値(較正処理を行う前は共に初期値)と、較正処理に用いられる較正用指標115,117,121,125の位置情報とが記憶されている。
【0058】
前方画像Pfにおいて鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲の部分画像は、鳥瞰画像301のうち前方鳥瞰画像BEVfを構成する。前方画像Pfのうち鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、つまり前方鳥瞰画像BEVfとする範囲は、第1の較正用指標115および第2の較正用指標117に基づいて、前方鳥瞰画像BEVfと左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrとで重複した範囲が鳥瞰画像301に現れないように、且つ前方鳥瞰画像BEVfと左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrとの間に消失した範囲が存在しないように決定される。
【0059】
後方画像Pbにおいて鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲の部分画像は、鳥瞰画像301のうち後方鳥瞰画像BEVbを構成する。後方画像Pbのうち鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、つまり後方鳥瞰画像BEVbとする範囲は、第3の較正用指標121および第4の較正用指標125に基づいて、後方鳥瞰画像BEVbと左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrとで重複した範囲が鳥瞰画像301に現れないように、且つ後方鳥瞰画像BEVbと左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrとの間に消失した範囲が存在しないように決定される。
【0060】
左方画像Plにおいて鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲の部分画像は、鳥瞰画像301のうち左方鳥瞰画像BEVlを構成する。左方画像Plのうち鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、つまり左方鳥瞰画像BEVlとする範囲は、第1の較正用指標115および第3の較正用指標121に基づいて、左方鳥瞰画像BEVlと前方鳥瞰画像BEVfおよび後方鳥瞰画像BEVbとで重複した範囲が鳥瞰画像301に現れないように、且つ左方鳥瞰画像BEVlと前方鳥瞰画像BEVfおよび後方鳥瞰画像BEVbとの間に消失した範囲が存在しないように決定される。
【0061】
右方画像Prにおいて鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲の部分画像は、鳥瞰画像301のうち右方鳥瞰画像BEVrを構成する。右方画像Prのうち鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、つまり後方鳥瞰画像BEVrとする範囲は、第2の較正用指標117および第4の較正用指標125に基づいて、右方鳥瞰画像BEVrと前方鳥瞰画像BEVfおよび後方鳥瞰画像BEVbとで重複した範囲が鳥瞰画像301に現れないように、且つ右方鳥瞰画像BEVrと前方鳥瞰画像BEVfおよび後方鳥瞰画像BEVbとの間に消失した範囲が存在しないように決定される。
【0062】
信号処理部29は、前処理部41と、画像補正部43と、切り出し処理部45と、画像合成部47とを備えている。これら前処理部41、画像補正部43、切り出し処理部45および画像合成部47は、マイクロコンピュータなどのハードウェアと、ハードウェア上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって実現される機能部である。
【0063】
メモリ制御部33は、前処理部41、画像補正部43、切り出し処理部45および画像合成部47で、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prについての画像データに所定の処理を行う際に主メモリ31から当該画像データを読み出し、且つ、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prについての画像データに当該所定の処理を行った後に当該画像データを主メモリ31に書き込む。
【0064】
前処理部41は、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rからそれぞれ取得される前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像 Plおよび右方画像Prについての画像データに対し、前処理として、デジタルクランプ、画素欠陥補正、ゲイン制御などの調整処理を施す。
【0065】
画像補正部43は、補助メモリ37に記憶されたフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの内部パラメータおよび外部パラメータを、メモリ制御部33を介して主メモリ31に読み出す。
【0066】
そして、画像補正部43は、前方画像Pfについての画像データに対し、フロントカメラ13fの内部パラメータに基づき、広角歪みなどの歪みのない画像となるように変換する歪み補正を施す。画像補正部43は、後方画像Pbについての画像データに対しても、バックカメラ13bの内部パラメータに基づき、同様な歪み補正を施す。画像補正部43は、左方画像Plについての画像データに対しても、レフトカメラ13lの内部パラメータに基づき、同様な歪み補正を施す。画像補正部43は、右方画像Prについての画像データに対しても、ライトカメラ13rの内部パラメータに基づき、同様な歪み補正を施す。
【0067】
また、画像補正部43は、前方画像Pfについての画像データに対し、フロントカメラ13fの内部パラメータおよび外部パラメータに基づき、上方から見下ろしたような画像に変換する視点変換処理を施す。画像補正部43は、後方画像Pbについての画像データに対しても、バックカメラ13bの内部パラメータおよび外部パラメータに基づき、同様な視点変換処理を施す。画像補正部43は、左方画像Plについての画像データに対しても、レフトカメラ13lの内部パラメータおよび外部パラメータに基づき、同様な視点変換処理を施す。画像補正部43は、右方画像Prについての画像データに対しても、ライトカメラ13rの内部パラメータおよび外部パラメータに基づき、同様な視点変換処理を施す。
【0068】
切り出し処理部45は、補助メモリ37に記憶された、前方画像Pfの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、後方画像Pbの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、左方画像Plの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲、および右方画像Prの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲についての各設定値を、メモリ制御部33を介して主メモリ31に読み出す。
【0069】
そして、切り出し処理部45は、これら周辺画像Pf,Pb,Pl,Prにおける切り出し範囲の設定値に従って、上述の歪み補正および視点変換処理が施された後の前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prについての画像データをそれぞれ部分的に切り出すことにより、前方鳥瞰画像BEVf、後方鳥瞰画像BEVb、左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrについての部分鳥瞰画像データを作成する。
【0070】
信号処理部29は、そのような画像データの切り出し処理を行う際に、傾きセンサ40によって検出されるフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの傾きに基づき、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prについての画像データの傾きと、部分鳥瞰画像301p(前方鳥瞰画像BEVf、後方鳥瞰画像BEVb、左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVr)の切り出し位置とを補正する。こうした補正は、電子ジンバルと呼ばれ、カメラの姿勢の動的な変化に起因した撮影画像の回転方向への変位をキャンセルする技術である。
【0071】
部分鳥瞰画像301pは、船体が波で揺れることによるカメラ13f,13b,13l,13rの向きの変化に伴って傾く。このような部分鳥瞰画像301pの傾きは、上述した視点変換処理を施している関係上、当該部分鳥瞰画像301pにおいて船体から離れるほど大きく見える。
【0072】
これに対し、本実施形態では、上述の如く、鳥瞰画像301の作成において電子ジンバルを効かせているので、船舶101が揺れて傾いても、船舶101の姿勢に倣ったフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおおびライトカメラ13rの傾き度合に合わせて、各部分鳥瞰画像301pの傾きが補正される。それによって、船体が波で揺れることに起因した部分鳥瞰画像301pの傾きを低減することができる。このことは、鳥瞰画像301をリアルタイムで表示したときの同画像301の揺れを軽減するのに有効である。このようにして作成された部分鳥瞰画像データは、メモリ制御部33によって主メモリ31に書き込まれる。
【0073】
画像合成部47は、主メモリ31に書き込まれた前方鳥瞰画像BEVf、後方鳥瞰画像BEVb、左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrについての4枚分の部分鳥瞰画像データをフレーム毎にメモリ制御部33によって読み出し、読み出された部分鳥瞰画像データを組み合わせると共に、船舶画像101gの画像データを画像中心に位置するように合成することにより、鳥瞰画像301についての鳥瞰画像データを作成する。そうして作成された鳥瞰画像データは、メモリ制御部33によって主メモリ31に書き込まれる。
【0074】
主メモリ31に書き込まれた各フレームの鳥瞰画像データは、CPU35からの指令を受けてメモリ制御部33により読み出され、モニタ用ドライバ39に受け渡される。モニタ用ドライバ39は、主メモリ31から読み出された鳥瞰画像データに基づいてモニタ15を駆動する。これにより、モニタ15には、その鳥瞰画像データに基づく鳥瞰画像301がリアルタイム画像(ライブビュー)として表示される。
【0075】
制御装置21は、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prにおいて鳥瞰画像301に用いる範囲、つまり画像データの切り出し範囲を調整するキャリブレーションと呼ばれる撮影システム22の較正処理を行う機能を有している。
【0076】
制御装置21は、そうした較正処理を行う較正処理部51を備えている。較正処理部51は、操船者による操作部の操作により、較正処理が実行されると、各カメラ13f,13b,13l,13rの設置位置から船舶101の喫水線131までの距離である水上高さHと、それら各カメラ13f,13b,13l,13rの設置角度α1,α2,α3,α4と、第1~第4の較正用指標115,117,121,125の位置との入力を求める画面をモニタ15に表示し、それらの情報の入力をユーザ(操船者など)に求める。このとき、入力された各カメラ13f,13b,13l,13rの水上高さHおよび設置角度α1,α2,α3,α4は、メモリ制御部33によって主メモリ31に書き込まれる。
【0077】
較正処理部51は、第1~第4の較正用指標115,117,121,125を検出する指標検出部55と、指標検出部55により検出された第1~第4の較正用指標115,117,121,125に基づいて較正処理のための演算を行う較正演算部57とを備えている。
【0078】
指標検出部55は、前方画像Pfおよび左方画像Plにおいて、第1の較正用指標115の特徴をそれぞれ検出する。また、指標検出部55は、前方画像Pfおよび右方画像Prにおいて、第2の較正用指標117の特徴をそれぞれ検出する。第1の較正用指標115および第2の較正用指標117の特徴は、例えば、白色と黒色の縞模様の境界からなる部分直線である。このような部分直線のパターンは、公知のエッジ検出アルゴリズムや直線検出アルゴリズムを利用して検出することができる。
【0079】
また、指標検出部55は、後方画像Pbおよび左方画像Plにおいて、第3の較正用指標121の特徴をそれぞれ検出する。また、指標検出部55は、後方画像Pbおよび右方画像Prにおいて、第4の較正用指標125の特徴をそれぞれ検出する。第3の較正用指標121および第4の較正用指標125の特徴は、例えば、船体の白色とクリート119,123の黒色の境界部分からなる部分直線や、その部分直線同士の交点である。これら部分直線や交点のパターンは、公知のエッジ検出アルゴリズムや直線検出アルゴリズムを利用して検出することができる。
【0080】
前方画像Pfにおいて検出される第1の較正用指標115の特徴は、前方画像Pfにおける第1の較正用指標115の座標(位置)を示している。前方画像Pfにおいて検出される第2の較正用指標117の特徴は、前方画像Pfにおける第2の較正用指標117の座標(位置)を示している。後方画像Pbにおいて検出される第3の較正用指標121の特徴は、後方画像Pbにおける第3の較正用指標121の座標(位置)を示している。後方画像Pbにおいて検出される第4の較正用指標125の特徴は、後方画像Pbにおける第4の較正用指標125の座標(位置)を示している。
【0081】
左方画像Plにおいて検出される第1の較正用指標115の特徴は、左方画像Plにおける第1の較正用指標115の座標(位置)を示している。左方画像Pbにおいて検出される第3の較正用指標121の特徴は、左方画像Plにおける第3の較正用指標121の座標(位置)を示している。右方画像Prにおいて検出される第2の較正用指標117の特徴は、右方画像Prにおける第2の較正用指標117の座標(位置)を示している。右方画像Prにおいて検出される第4の較正用指標125の特徴は、右方画像Prにおける第4の較正用指標125の座標(位置)を示している。
【0082】
較正演算部57は、前方画像Pfにおける第1の較正用指標115の座標と第2の較正用指標117の座標とに基づいて、前方画像Pfの切り出し範囲を、それら第1の較正用指標115および第2の較正用指標117が当該切り出し範囲上で所定の位置になるように調整する。また、較正演算部57は、後方画像Pbにおける第3の較正用指標121の座標と第4の較正用指標125の座標とに基づいて、後方画像Pbの切り出し範囲を、それら第1の較正用指標115および第2の較正用指標117が当該切り出し範囲上で所定の位置になるように調整する。
【0083】
構成演算部57は、左方画像Plにおける第1の較正用指標115の座標と第3の較正用指標121の座標とに基づいて、左方画像Plの切り出し範囲を、それら第1の較正用指標115および第3の較正用指標121が当該切り出し範囲上で所定の位置になるように調整する。また、較正演算部57は、右方画像Plにおける第2の較正用指標117の座標と第4の較正用指標125の座標とに基づいて、右方画像Plの切り出し範囲を、それら第2の較正用指標117および第4の較正用指標125が当該切り出し範囲上で所定の位置になるように調整する。
【0084】
このようにして、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prにおける切り出し範囲についての各設定値が調整される。そのことで、鳥瞰画像301を作成する際、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prそれぞれの切り出し範囲が、前方鳥瞰画像BEVfと左方鳥瞰画像BEVlとの間、前方鳥瞰画像BEVfと右方鳥瞰画像BEVrとの間、後方鳥瞰画像BEVbと左方鳥瞰画像BEVlとの間、および後方鳥瞰画像BEVbと右方鳥瞰画像BEVrとの間に、それぞれ表示範囲の重複や消失がないように決定される。
【0085】
なお、補助メモリ37に記憶されている、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲についての各設定値は、当該設定値が調整される毎にメモリ制御部33を介して更新される。
【0086】
上記構成の船舶の撮影システム22において、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲を調整する較正方法は、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prを撮影する撮影ステップと、撮影された前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prに基づいてそれら前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prの切り出し範囲をそれぞれ調整する較正ステップと、を含んでいる。
【0087】
具体的には、船舶の撮影システム22における較正方法では、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rを船舶101の所定位置に設置した後に、ユーザによる操作部25の操作を以て較正処理の実行がされ、各カメラ13f,13b,13l,13rの水上高さHおよび設置角度α1,α2,α3,α4の情報と、第1~第4の較正用指標115,117,121,125の位置情報とが操作部25にて入力されると、各カメラ13f,13b,13l,13rにより船舶101の外周部分を含む周辺を撮影する撮影ステップが行われる。
【0088】
撮影ステップでは、フロントカメラ13fおよびレフトカメラ13lにより、船舶101のバウデッキ105の手すり113左側に設けられた第1の較正用指標115が共通に写り込む前方画像Pfおよび左方画像Plが撮影される。また、当該撮影ステップでは、フロントカメラ13fとライトカメラ13rにより、船舶101のバウデッキ105の手すり113右側に設けられた第2の較正用指標117が共通に写り込む前方画像Pfおよび右方画像Prが撮影される。
【0089】
また、当該撮影ステップでは、バックカメラ13bとレフトカメラ13lにより、船舶101のスターンデッキ107左側に設けられた第3の較正用指標121が共通に写り込む後方画像Pbおよび左方画像Plが撮影される。また、当該撮影ステップでは、バックカメラ13bとライトカメラ13rにより、船舶101のスターンデッキ107右側に設けられた第4の較正用指標125が共通に写り込む後方画像Pbおよび右方画像Prが撮影される。
【0090】
次いで行う較正ステップでは、撮影ステップで撮影した前方画像Pfに写り込んだ、手すり113左側の第1の較正用指標115と、手すり113右側に設けられた第2の較正用指標117とに基づいて、前方画像Pfの切り出し範囲を調整する。また、当該較正ステップでは、撮影ステップで撮影した後方画像Pbに写り込んだ、スターンデッキ107左側のクリート119が構成する第3の較正用指標121と、スターンデッキ107右側のクリート123が構成する第4の較正用指標125とに基づいて、後方画像Pbの切り出し範囲を調整する。
【0091】
また、当該較正ステップでは、撮影ステップで撮影した左方画像Plに写り込んだ、手すり113左側の第1の較正用指標115と、スターンデッキ107左側のクリート119が構成する第3の較正用指標121とに基づいて、左方画像Plの切り出し範囲を調整する。また、当該較正ステップでは、撮影ステップで撮影した右方画像Prに写り込んだ、手すり114右側の第2の較正用指標117と、スターンデッキ107右側のクリート123が構成する第3の較正用指標125とに基づいて、右方画像Prの切り出し範囲を調整する。
【0092】
このように、船舶の撮影システム22において、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prの切り出し範囲を調整する較正処理が、船舶101の一部に設けられた第1~第4の較正用指標115,117,123,125を用いて行われる。
【0093】
この実施形態に係る船舶の撮影システム22およびその較正方法によると、フロントカメラ13fとレフトカメラ13l、フロントカメラ13fとライトカメラ13r、バックカメラ13bとレフトカメラ13l、バックカメラ13bとライトカメラ13rにより、それぞれ船舶101の一部を共通に撮影し、共通に撮影された船舶101の一部に設けられた第1~第4の較正用指標115,117,121,125を用いて、前方画像Pf、後方画像Pb、左方画像Plおよび右方画像Prの鳥瞰画像301に用いる切り出し範囲をそれぞれ調整する較正処理を行うようにしたので、船舶101とは別に較正用指標を設置するための施設を必要とせず、船舶101の一部を利用して較正処理を行うことができる。これにより、船舶101が何処にあっても較正処理を行えるようにすることができる。その結果、船舶の撮影システム22のユーザビリティを向上させることができる。
【0094】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0095】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0096】
上記実施形態では、船舶の撮影システム22がフロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rの4台のカメラを備えるとしたが、本開示の技術はこれに限らない。船舶の撮影システム22が備えるカメラの台数は、3台以下であっても5台以上であってもよく、鳥瞰画像301などの合成画像が作成できれば、任意の台数のカメラを採用することができる。
【0097】
上記実施形態では、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rは半天球カメラであるとしたが、本開示の技術はこれに限らない。半天球カメラは、カメラの一例に過ぎず、標準レンズよりも画角の広い広角レンズ(魚眼レンズを含む概念)を備え、比較的広い視野を撮影可能なカメラであれば、任意のカメラを採用することが可能である。
【0098】
上記実施形態では、船舶の撮影システム22は、船舶101を上方から見下ろしたかのような鳥瞰画像301を作成するとしたが、本開示の技術はこれに限らない。船舶の撮影システム22は、船舶101周囲の景色をパノラマ状に表示するパノラマ画像を合成画像として作成するようになっていてもよく、フロントカメラ13f、バックカメラ13b、レフトカメラ13lおよびライトカメラ13rなどの船舶101の周囲に設置された複数のカメラの撮影によって取得される船舶101の周辺画像を組み合わせて作成される合成画像であれば、如何なる画像を作成するものであっても構わない。
【0099】
上記実施形態では、第1の較正用指標115および第2の較正用指標117として、手すり113に設けられた縞模様のパターンを例に挙げ、第3の較正用指標121および第4の較正用指標125として船体に対してコントラストの大きな色としたクリートを例に挙げて説明したが、本開示の技術はこれに限らない。第1~第4の較正用指標115,117,121,125は、船舶101のデッキに埋め込まれた白色と黒色の正方形パターンからなる市松模様をなすタイルであってもよいし、手すり113自体の形状など、船舶101の一部の形状であってもよく、船舶101とは別体の指標であって手すりに取り付けたりデッキに設置したりして使用するものであっても構わず、画像処理による特徴の検出が行えるものであれば、任意の指標を採用することが可能である。
【0100】
上記実施形態では、船舶の撮影システム22によって作成される鳥瞰画像301の例として、図6に、前方鳥瞰画像BEVf、後方鳥瞰画像BEVb、左方鳥瞰画像BEVlおよび右方鳥瞰画像BEVrを、相互の境界線が紙面に向かって45度程度の角度をなすような態様で組み合わせた場合を示したが、本開示の技術はこれに限らない。船舶の撮影システム22により作成される鳥瞰画像301において、隣り合う部分鳥瞰画像301p同士の境界線は、隣り合うカメラによって撮影される共通の撮影領域内であれば任意の位置に設定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本開示の技術は、船舶の撮影システムおよびその較正方法について有用である。
【符号の説明】
【0102】
A … 光軸
BEVf … 前方鳥瞰画像
BEVb … 後方鳥瞰画像
BEVl … 左方鳥瞰画像
BEVr … 右方鳥瞰画像
Pf … 前方画像(周辺画像)
Pb … 後方画像(周辺画像)
Pl … 左方画像(周辺画像)
Pr … 右方画像(周辺画像)
Rf,Rb,Rl,Rr … 撮影範囲
11 … 船舶の周辺確認システム
13f … フロントカメラ
13b … バックカメラ
13l … レフトカメラ
13r … ライトカメラ
15 … モニタ
17 … ジャイロセンサ
19 … 加速度センサ
21 … 制御装置
22 … 撮影システム
23 … 広角レンズ
25 … 操作部
29 … 信号処理部
31 … 主メモリ
33 … メモリ制御部
35 … CPU
37 … 補助メモリ
39 … モニタ用ドライバ
40 … 傾きセンサ
41 … 前処理部
43 … 画像補正部
45 … 切り出し処理部
47 … 画像合成部
51 … 較正処理部
55 … 指標検出部
57 … 較正演算部
101 … 船舶
101g … 船舶画像
103 … 船室
104 … フライングデッキ
105 … バウデッキ
107 … スターンデッキ
109,110 … 支柱
111 … 左舷のガンネル
112 … 右舷のガンネル
113 … 手すり(船舶の一部)
115 … 第1の較正用指標
117 … 第2の較正用指標
119 … クリート(船舶の一部)
121 … 第3の較正用指標
123 … クリート(船舶の一部)
125 … 第4の較正用指標
127 … 操舵席
131 … 喫水線
201 … 画像
301 … 鳥瞰画像
301p … 部分鳥瞰画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6