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特許7317542蓄電デバイス用プリドープ剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用プリドープ剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/50 20130101AFI20230724BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230724BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230724BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230724BHJP
【FI】
H01G11/50
C01G49/00 A
H01G11/06
H01M4/485
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019063802
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020167187
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】青山 慎
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/024924(WO,A1)
【文献】特開2012-212632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00-11/86
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
C01G 49/00-49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される鉄含有チタン酸リチウムからなり、Lab表色系における粉体色L値が20以上40未満であることを特徴とする蓄電デバイス用プリドープ剤。
Li1+x(Ti1-yFe1-x (1)
[式(1)中、xは0<x≦0.25を満たし、yは0.4<y≦0.9を満たす。]
【請求項2】
X線回折測定において、回折角(2θ)が37.5±0.5°の回折ピーク強度(I37.5)と回折角(2θ)が43.6±0.5°の回折ピーク強度(I43.6)との強度比(I37.5/I43.6)が5~15.5である請求項1に記載のプリドープ剤。
【請求項3】
Fe/Ti(モル比)が0.6~15である請求項1又は2に記載のプリドープ剤。
【請求項4】
比表面積が10~32m/gである請求項1~3のいずれかに記載のプリドープ剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のプリドープ剤と正極活物質とからなる蓄電デバイス用正極。
【請求項6】
前記プリドープ剤の含有量が、前記プリドープ剤と前記正極活物質の合計重量に対して1~60重量%である請求項5に記載の正極。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の正極を構成要素とする蓄電デバイス。
【請求項8】
鉄原料、チタン原料及びリチウム原料を混合して焼成することにより得られる鉄含有チタン酸リチウムからなる蓄電デバイス用プリドープ剤の製造方法であって、
前記鉄原料が、水溶性第二鉄塩であり、
前記鉄原料と前記チタン原料とを混合し、中和剤を添加してpH7.5~11.5で中和して鉄含有チタン化合物を得た後に、リチウム原料を添加し、大気中450~900℃で焼成して鉄含有チタン酸リチウムを得る請求項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス用プリドープ剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに用いられるプリドープ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスにおいて、負極にリチウムイオンをプリドープして負極の電位を下げることにより、蓄電デバイスの高容量化を可能にすることが知られている。近年、集電体に複数の貫通孔を有する金属箔を用い、正極と負極とが多数積層した電極において金属リチウム箔を配置することにより電解液を介してリチウムイオンを負極にプリドープする方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、複数の貫通孔を備える電極集電体と、前記電極集電体に設けられる電極合材層と、を備える電極と、前記電極集電体に接続され、前記電極合材層にイオンを供給するイオン供給源とを有し、前記電極集電体には、所定の貫通孔開口率を備える第1領域と、前記第1領域よりも貫通孔開口率の大きな第2領域とが設けられ、前記第1領域は前記電極集電体の縁部であり、前記第2領域は前記電極集電体の中央部であることを特徴とする蓄電デバイスが記載されている。そして、前記蓄電デバイス内にはリチウム極が組み込まれ、前記リチウム極にはイオン供給源としての金属リチウム箔が圧着されたリチウム極集電体を有しており、電解液を注入することによりリチウム極から負極に対してリチウムイオンをプリドープすることが記載されている。これによれば、電解液の浸透状態を調整することができ、電極に対して均一にイオンをドーピングすることが可能になるとされている。しかしながら、特許文献1に記載のプリドープ方法では、集電体に複数の貫通孔を有する金属箔と金属リチウム箔とを使用するため製造コストが高くなり、さらに蓄電デバイスの体積エネルギー密度が低下してしまうという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、組成式Li2-xTi1-zFe3-y(0≦x<2、0≦y≦1、0.05≦z≦0.95)で表され、立方晶岩塩型構造を有するリチウムフェライト系酸化物が記載されており、前記リチウムフェライト系酸化物を正極材料として使用したことが記載されている。これによれば、安価な原料を使用して、2.5V以上の作動電圧領域において安定に充放電させることができ、かつ充放電容量が高いリチウムフェライト系酸化物を得ることができるとされている。しかしながら、特許文献2では、リチウムフェライト系酸化物を正極活物質として使用しており、特定の組成を有し、かつLab表色系における粉体色L値が一定範囲にある鉄含有チタン酸リチウムをプリドープ剤として使用することの記載も示唆もなく、不可逆容量の大きいプリドープ剤の提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5220510号
【文献】特許第3914981号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、蓄電デバイスの体積エネルギー密度の低下を抑制するとともに、製造コストを下げることが可能となり、充電深度が高く、放電容量の高い蓄電デバイスとして好適に用いることのできる、Lab表色系における粉体色L値が一定範囲にあり、不可逆容量の大きい蓄電デバイス用プリドープ剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、下記式(1)で表される鉄含有チタン酸リチウムからなり、Lab表色系における粉体色L値が20以上40未満であることを特徴とする蓄電デバイス用プリドープ剤を提供することによって解決される。
Li1+x(Ti1-yFe1-x (1)
[式(1)中、xは0<x≦0.25を満たし、yは0.4<y≦0.9を満たす。]
【0008】
このとき、X線回折測定において、回折角(2θ)が37.5±0.5°の回折ピーク強度(I37.5)と回折角(2θ)が43.6±0.5°の回折ピーク強度(I43.6)との強度比(I37.5/I43.6)が5~15.5であることが好適である。Fe/Ti(モル比)が0.6~15であることが好適であり、比表面積が10~32m/gであることが好適である。
【0009】
また、このとき、前記プリドープ剤と正極活物質とからなる蓄電デバイス用正極が好適な実施態様であり、前記プリドープ剤の含有量が、前記プリドープ剤と前記正極活物質の合計重量に対して1~60重量%である正極が好適な実施態様である。また、前記正極を構成要素とする蓄電デバイスも好適な実施態様である。
【0010】
また、上記課題は、鉄原料、チタン原料及びリチウム原料を混合して焼成することにより得られる鉄含有チタン酸リチウムからなる蓄電デバイス用プリドープ剤の製造方法であって、前記鉄原料が、水溶性第二鉄塩であり、前記鉄原料と前記チタン原料とを混合し、中和剤を添加してpH7.5~11.5で中和して鉄含有チタン化合物を得た後に、リチウム原料を添加し、450~900℃で焼成して鉄含有チタン酸リチウムを得る蓄電デバイス用プリドープ剤の製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、特定の組成を有する鉄含有チタン酸リチウムであって、Lab表色系における粉体色L値が一定範囲にあり、不可逆容量の大きい蓄電デバイス用プリドープ剤を提供することができる。本発明のプリドープ剤により、金属リチウム箔を使用することなくプリドープを行うことができるため、蓄電デバイスの体積エネルギー密度の低下を抑制するとともに、製造コストを下げることが可能となり、充電深度が高く、放電容量の高い蓄電デバイスとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の蓄電デバイス用プリドープ剤(以下、「プリドープ剤」と略記することがある)は、下記式(1)で表される鉄含有チタン酸リチウムからなり、Lab表色系における粉体色L値(以下、「粉体色L値」と略記することがある)が20以上40未満であることを特徴とするものである。
Li1+x(Ti1-yFe1-x (1)
[式(1)中、xは0<x≦0.25を満たし、yは0.4<y≦0.9を満たす。]
【0013】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定の組成を有する鉄含有チタン酸リチウムであって、Lab表色系における粉体色L値が20以上40未満であることにより、不可逆容量の大きい蓄電デバイス用プリドープ剤が得られることが明らかとなった。
【0014】
後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、粉体色L値が20未満の比較例1では不可逆容量が小さく、この比較例1のプリドープ剤を用いて作製された蓄電デバイスは、充電深度が低く、放電容量も低いことが確認された。更に、粉体色L値が40を超える比較例2~8でも不可逆容量が小さく、これら比較例2~8のプリドープ剤を用いて作製された蓄電デバイスでは、充電深度が低く、放電容量も低いことが確認された。これに対し、粉体色L値が20以上40未満の実施例1~10では、不可逆容量が大きく、これら実施例1~10のプリドープ剤を用いて作製された蓄電デバイスは、充電深度が高く、放電容量も高いことが確認された。したがって、粉体色L値が20以上40未満である構成を採用する意義が大きく、本発明のプリドープ剤により、蓄電デバイスの体積エネルギー密度の低下を抑制するとともに、製造コストを下げることが可能となり、充電深度が高く、放電容量の高い蓄電デバイスを提供することができる。粉体色L値としては、21以上であることが好ましい。一方、粉体色L値としては、39以下であることが好ましい。なお、Lab表色系における粉体色L値は、JIS Z8722で規定されるL値を表すものであり、測色色差計を用いて求められる。
【0015】
本発明のプリドープ剤は、上記式(1)で表される鉄含有チタン酸リチウムからなり、式(1)中、xは0<x≦0.25を満たし、yは0.4<y≦0.9を満たすものである。xが0.25を超える場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。xは0.01≦x≦0.22であることが好ましい。また、yが0.4以下の場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがあり、yが0.9を超える場合、粉体色L値が小さくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。yは0.42≦y≦0.88であることが好ましい。
【0016】
本発明のプリドープ剤は、X線回折測定において、回折角(2θ)が37.5±0.5°の回折ピーク強度(I37.5)と回折角(2θ)が43.6±0.5°の回折ピーク強度(I43.6)との強度比(I37.5/I43.6)が5~15.5であることが好ましい。前記強度比(I37.5/I43.6)が5未満の場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。前記強度比(I37.5/I43.6)は5.5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。一方、前記強度比(I37.5/I43.6)が15.5を超える場合、粉体色L値が小さくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。前記強度比(I37.5/I43.6)は、15以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のプリドープ剤において、X線回折測定によるピークから求められる半値幅(2θ)としては特に限定されないが、不可逆容量が大きいプリドープ剤が得られる観点から、0.22°~0.6°であること好ましく、0.23°~0.58°であることがより好ましい。
【0018】
本発明のプリドープ剤において、Fe/Ti(モル比)が0.6~15であることが好ましい。Fe/Ti(モル比)が0.6未満の場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。Fe/Ti(モル比)は0.8以上であることがより好ましい。一方、Fe/Ti(モル比)が15を超える場合、粉体色L値が小さくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。Fe/Ti(モル比)は12以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましく、8以下であることが特に好ましく、6以下であることが最も好ましい。
【0019】
本発明のプリドープ剤において、Li/(Fe+Ti)(モル比)が1.12~1.68であることが好ましい。Li/(Fe+Ti)(モル比)が1.12未満の場合、粉体色L値が小さくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。Li/(Fe+Ti)(モル比)は1.15以上であることがより好ましく、1.18以上であることが更に好ましい。一方、Li/(Fe+Ti)(モル比)が1.68を超える場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。Li/(Fe+Ti)(モル比)は1.65以下であることがより好ましく、1.55以下であることが更に好ましい。
【0020】
本発明のプリドープ剤において、比表面積が10~32m/gであることが好ましい。比表面積が10m/g未満の場合、レート性能が悪化し、充電容量が低下してしまうおそれがあり、15m/g以上であることがより好ましく、18m/g以上であることが更に好ましく、20m/g以上であることが特に好ましい。一方、比表面積が32m/gを超える場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。比表面積は31m/g以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明のプリドープ剤の製造方法としては特に限定されない。鉄原料、チタン原料及びリチウム原料を混合して焼成することにより得られる鉄含有チタン酸リチウムからなる蓄電デバイス用プリドープ剤の製造方法であって、前記鉄原料が、水溶性第二鉄塩であり、前記鉄原料と前記チタン原料とを混合し(以下、「混合工程」と略記することがある)、中和剤を添加してpH7.5~11.5で中和して鉄含有チタン化合物を得た後に(以下、「中和工程」と略記することがある)、リチウム原料を添加し(以下、「添加工程」と略記することがある)、次いで、450~900℃で焼成して(以下、「焼成工程」と略記することがある)、鉄含有チタン酸リチウムを好適に得ることができる。
【0022】
本発明で用いられる鉄原料としては特に限定されず、硫酸鉄、硝酸鉄及び塩化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の水溶性第二鉄塩(III)が好適に使用される。これらは水和物であっても無水物であっても構わない。本発明者らは、鉄原料として水溶性第一鉄塩(II)と水溶性第二鉄塩(III)をそれぞれ使用し、同一条件下でプリドープ剤を製造したところ、水溶性第一鉄塩(II)と比較して、水溶性第二鉄塩(III)を使用した場合には、比表面積が小さく、不可逆容量が大きいプリドープ剤が得られることが明らかとなった。したがって、本発明における鉄原料としては、水溶性第二鉄塩(III)であることが好適な実施態様であり、中でも、硫酸第二鉄(III)であることがより好ましい。
【0023】
本発明で用いられるチタン原料としては特に限定されず、硫酸チタニルを用いてもよいし、オルソチタン酸やメタチタン酸等の含水酸化チタンを用いてもよいし、アナタース型やルチル型の酸化チタン等を用いてもよい。中でも、硫酸チタニルを好適に用いることができる。
【0024】
前記混合工程では、前記鉄原料と前記チタン原料とが混合される。乾式法により混合してもよいし、湿式法により混合しても構わないが、湿式法により混合することが好ましい。中でも、前記鉄原料と前記チタン原料とを溶液状態で混合することが好適な実施態様である。
【0025】
次いで中和工程において、中和剤を添加してpH7.5~11.5で中和される。用いられる中和剤としては特に限定されず、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等が挙げられる。中でも、水酸化カリウム又はアンモニア水が好適に用いられる。
【0026】
前記中和工程において、pH7.5~11.5で中和され、鉄含有チタン化合物を得ることができる。前記中和工程におけるpHが7.5未満の場合、目的とする鉄とチタン比率の異なる沈殿物が形成されるか、または共沈しないおそれがあり、pHは7.8以上であることがより好ましい。一方、pHが11.5を超える場合、粗大な粒子径を持つ沈殿物が形成され、次工程でのリチウムとの反応性が低下し、目的とする化合物が得られないおそれがあり、pHは11.2以下であることがより好ましい。
【0027】
前記中和工程における反応時間としては特に限定されないが、1~120分であることが好ましい。反応時間が1分未満の場合、目的とする鉄とチタン比率の異なる沈殿物が形成されるおそれがあり、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることが更に好ましい。一方、反応時間が120分を超える場合、生産性が低下するおそれがあり、90分以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明において、前記中和工程により鉄含有チタン化合物を得た後に、リチウム原料を添加する添加工程を行うことが好ましい。本発明で用いられるリチウム原料としては特に限定されず、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム及び硝酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を好適に用いることができる。これらは水和物であっても無水物であっても構わない。中でも、水酸化リチウムがより好適に用いられる。
【0029】
前記添加工程では、リチウム原料を添加し、鉄含有チタン化合物とリチウム原料とを乾式混合してもよいし、リチウム原料を添加し、鉄含有チタン化合物とリチウム原料とを湿式混合しても構わない。このとき、Li/(Fe+Ti)(モル比)が1.2~4となるようにリチウム原料を添加することが好ましい。中でも、前記中和工程で得られた鉄含有チタン化合物を粉砕した後にリチウム原料を添加し、鉄含有チタン化合物とリチウム原料とを乾式混合することが好適な実施態様である。
【0030】
本発明において、前記添加工程を行った後に、450~900℃で焼成する焼成工程を行うことにより、鉄含有チタン酸リチウムを好適に得ることができる。焼成温度が450℃未満の場合、粉体色L値が大きくなり、不可逆容量が小さいプリドープ剤となるおそれがある。焼成温度は、460℃以上であることがより好ましく、470℃以上であることが更に好ましい。一方、焼成温度が900℃を超える場合、比表面積が10m/g未満となり、充電容量が低下し、不可逆容量が減少するおそれがあり、焼成温度は、800℃以下であることがより好ましく、700℃以下であることが更に好ましく、650℃以下であることが特に好ましい。また、焼成時間としては特に限定されず、0.5~12時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。
【0031】
前記焼成工程を行った後に、鉄含有チタン化合物を水により洗浄し、ろ過、乾燥することが好適な実施態様である。このことにより、過剰に存在するリチウム原料等を取り除くことが可能となる。洗浄、ろ過、乾燥方法としては公知の方法が採用される。前記乾燥工程により得られた鉄含有チタン酸リチウムは、適宜粉砕することが好ましい。粉砕方法としては公知の方法が採用される。
【0032】
上述のようにして得られる鉄含有チタン酸リチウムを本発明の蓄電デバイス用プリドープ剤として用いることにより、金属リチウム箔を使用することなくプリドープを行うことができるため、蓄電デバイスの体積エネルギー密度の低下を抑制するとともに、製造コストを下げることが可能となり、充電深度が高く、放電容量の高い蓄電デバイスを提供することができる。中でも、本発明のプリドープ剤と正極活物質とからなる蓄電デバイス用正極が好適な実施態様である。正極活物質としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェンシート等の炭素系材料を好適に用いることができる。
【0033】
前記正極において、前記プリドープ剤の含有量が、前記プリドープ剤と前記正極活物質の合計重量に対して1~60重量%であることが好ましい。前記プリドープ剤の含有量が1重量%未満の場合、不可逆容量が小さく、黒鉛負極の電位を下げることができないおそれがあり、前記プリドープ剤の含有量は5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることが更に好ましい。一方、前記プリドープ剤の含有量が60重量%を超える場合、正極活物質の含有率低下にともなうエネルギー密度が減少するおそれがあり、前記プリドープ剤の含有量は55重量%以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明において、前記正極を構成要素とする蓄電デバイスがより好適な実施態様である。蓄電デバイスにおける負極としては、黒鉛、活性炭等の炭素系材料を好適に用いることができる。また、蓄電デバイスにおける電解液としては、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。蓄電デバイスの種類としては特に限定されず、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ及び電気二重層キャパシタからなる群から選択される少なくとも1種の蓄電デバイスが好適である。中でも、リチウムイオンキャパシタが好適であり、負極に黒鉛を使用する黒鉛系リチウムイオンキャパシタがより好適な実施態様である。
【実施例
【0035】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
限定されるものではない。
【0036】
[プリドープ剤(LTFO)の作製]
(実施例1)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)545.67gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)49gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に24wt%アンモニア水溶液を添加して中和(pH8.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:2.6(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、実施例1のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=5.7:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.2(mol))を得た。
【0037】
(実施例2)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)507.02gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)86gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に20wt%水酸化カリウム水溶液を添加して中和(pH8.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:2.9(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、実施例2のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0038】
(実施例3)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)507.02gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)86gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に24wt%アンモニア水を添加して中和(pH11.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:2.9(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、実施例3のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0039】
(実施例4)
実施例3において、中和する際のpHを8としたこと以外は実施例3と同様にして、実施例4のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0040】
(実施例5)
実施例2において、中和する際のpHを11としたこと以外は実施例2と同様にして、実施例5のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0041】
(実施例6)
実施例3において、中和する際のpHを8とし、前駆体粉末を得る際の焼成温度を480℃としたこと以外は実施例3と同様にして、実施例6のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0042】
(実施例7)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)393.68gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)200gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に24wt%アンモニア水を添加して中和(pH8.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:3.3(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、実施例7のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.5(mol))を得た。
【0043】
(実施例8)
実施例7において、前駆体粉末を得る際の焼成温度を490℃としたこと以外は実施例7と同様にして、実施例8のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.5(mol))を得た。
【0044】
(実施例9)
実施例7において、前駆体粉末を得る際の焼成温度を480℃としたこと以外は実施例7と同様にして、実施例9のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=1.0:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.5(mol))を得た。
【0045】
(実施例10)
実施例7において、前駆体粉末を得る際の焼成温度を470℃としたこと以外は実施例7と同様にして、実施例10のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.5(mol))を得た。
【0046】
(比較例1)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)578.75gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)15.5gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に24wt%アンモニア水を添加して中和(pH8.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:2.2(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、比較例1のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=19.0:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.1(mol))を得た。
【0047】
(比較例2)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)235.17gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)359gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に24wt%アンモニア水を添加して中和(pH8.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:3.7(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、比較例2のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=0.4:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.7(mol))を得た。
【0048】
(比較例3)
硫酸第二鉄液(株式会社十條合成化学研究所製)106.558gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)488gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に24wt%アンモニア水を添加して中和(pH8.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:4.2(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、比較例3のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=0.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.9(mol))を得た。
【0049】
(比較例4)
硫酸第一鉄・七水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)34.75g及び30wt%硫酸チタン(IV)水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)100gを400mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液を攪拌しつつ、水酸化カリウム水溶液(蒸留水400mlに水酸化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)100gを溶解させた溶液)を徐々に滴下することにより、沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む溶液に室温で3日間空気を吹き込んで酸化処理した後、沈殿を含む反応液をポリプロピレン瓶に移し、反応液を50℃で3日間保持して、沈殿を熟成させた。得られた沈殿を蒸留水で洗浄し、濾別した後、これを水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)80g、塩素酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)80g、蒸留水200mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカーに入れ、よく攪拌した後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で8時間水熱処理した。水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱反応溶液を収容したビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過し、乾燥することにより、粉末状生成物を得た。次いで、得られた生成物の結晶性を改善するために生成粉末と水酸化リチウム水溶液(蒸留水100mlに水酸化リチウム10gを溶解させた溶液)とを混合し、乾燥し、粉砕した後、大気中400℃で20時間焼成した。次いで、過剰のリチウム塩を除去するために、焼成物を蒸留水で洗浄し、濾過し、乾燥することにより、比較例4のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.5(mol))を得た。
【0050】
(比較例5)
硫酸第一鉄・七水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)457.34gおよび硫酸チタニル結晶(テイカ株式会社製)137gを1100gの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液中に20wt%水酸化カリウム水溶液を添加して中和(pH11.0)し、沈殿物を形成させた後、30分間攪拌した。得られた反応液をろ過し、水洗して、乾燥することにより水酸化鉄と水酸化チタンが混合した乾燥物を得た。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕した後、(Fe+Ti):Li=1:2.9(mol)となるように水酸化リチウム・一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)と混合機を用いて乾式混合した。得られた混合物を焼成炉を用いて大気中、500℃、5時間焼成することにより、鉄含有チタン酸リチウム前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を蒸留水中に固形分濃度8%となるように分散し、過剰に存在する水酸化リチウム・一水和物などの塩類を除去し、ろ過し、乾燥することにより粉末状生成物を得た。次いで、得られた粉末状生成物を粉砕することにより、比較例5のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0051】
(比較例6)
比較例5において、中和する際に20wt%水酸化カリウム水溶液を用いる代わりに24wt%アンモニア水を用いた以外は比較例5と同様にして、比較例6のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0052】
(比較例7)
比較例6において、中和する際のpHを8としたこと以外は比較例6と同様にして、比較例7のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0053】
(比較例8)
比較例7において、前駆体粉末を得る際の焼成温度を600℃としたこと以外は比較例7と同様にして、比較例8のプリドープ剤である鉄含有チタン酸リチウム(Fe:Ti=3.1:1(mol)、(Fe+Ti):Li=1:1.3(mol))を得た。
【0054】
[プリドープ剤の評価]
(Lab表色系における粉体色L値測定)
実施例及び比較例で得られた各プリドープ剤をプレス機によりペレット状に成形し、日本電色工業社製の測色色差計「ZE2000」を用いて粉体色L値を測定した。ペレットは、35φのアルミリングの中に各プリドープ剤を4g充填し、これを150kNの力で30秒間プレスする条件にて作製した。結果を表1に示す。
【0055】
(X線回折測定)
Philips社製XRD装置「X’pert-PRO」を用い、CuのKα線で、実施例及び比較例で得られた各プリドープ剤についてのピーク位置、強度及び半値幅を測定した。回折パターンにおけるピークの存在しない点を結んだ線をベースラインとして、各ピークのピークトップから引いた垂線におけるピークトップからベースラインと交わる点までの線分の長さを各ピークの強度とした。具体的には、2θ(回折角)=37.5±0.5°の回折ピーク強度(I37.5)と2θ(回折角)=43.6±0.5°の回折ピーク強度(I43.6)との強度比(I37.5/I43.6)を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
(組成分析)
ICP発光分光分析法により、株式会社日立ハイテクサイエンス製のプラズマ発光分析装置「SPECTRO ARCOS」を用い、実施例及び比較例で得られた各プリドープ剤について、Fe/Ti及びLi/(Fe+Ti)のmol比をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(比表面積の測定方法)
実施例及び比較例で得られた各プリドープ剤についての比表面積を、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb HM model-1208)を用いて、BET法にて測定した。結果を表1に示す。
【0058】
[蓄電デバイスの評価]
(電気化学的評価用コイン型電池の作製)
実施例及び比較例で得られた各プリドープ剤が74wt%、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック」)が9wt%、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF、株式会社クレハ製「KFポリマー」)が14wt%含まれるように、N-メチルピロリドンに溶解してスラリーを調製した。上記スラリーを集電体であるエッチングアルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製JCC-20CB)に塗付し、130℃で5分乾燥させた。乾燥させたシートを打ち抜き機で打ち抜くことで、評価用電極(正極)を作製した。対極には、金属リチウムを用い、Li金属箔を打ち抜いたものを使用した。評価用電極と対極との間に、ポリプロピレン製セパレーターを挟んで電極を構成し、コイン型の電池容器に入れた。そして、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)が、容量比でEC:DEC=1:1で混合された混合溶媒中に、1MのLiPFを溶解させた電解液を注入した後、電池容器を封口することにより、電気化学的評価用コイン型電池を製造した。
【0059】
(充放電試験)
上記作製したコイン型電池を用いて、電流密度25mA/g(活物質重量あたり)で充電終止電圧4.3Vになるまで定電流充電を行った。その後、3分間の休止工程を行った。次いで、電流密度25mA/g(活物質重量あたり)で電圧が2.7Vになるまで定電流放電を行った。得られた充電容量、放電容量及び不可逆容量の値を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
(リチウムイオンキャパシタの作製およびプリドープ処理)
実施例および比較例で得られたプリドープ剤を用いて、リチウムイオンキャパシタを作製し、プリドープ処理を行った。
【0062】
(作製例1)
(正極の作製)
まず、正極活物質として活性炭(株式会社クラレ製「クラレコール」)、プリドープ剤として実施例1のプリドープ剤、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック」)を用い、これらを増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製「H-1496B」)の1質量%水溶液に加えて、プラネタリーミキサーを用いて混練した。次に、作製した混練物に結着剤であるスチレンブタジエンゴム(JSR株式会社製)を加えることによって正極用塗料を作製した。
なお、このときのプリドープ剤の含有量については、以下の計算式で示すように、正極活物質とプリドープ剤の合計質量に対して33%になるように調整した。
プリドープ剤の含有量(%)=[プリドープ剤の質量/(正極活物質の質量+プリドープ剤の質量)]×100
さらに、正極活物質/導電助剤/増粘剤/結着剤の質量比は、89.6/6/2.5/1.9になるように調整した。つまり、正極活物質/プリドープ剤/導電助剤/増粘剤/結着剤の質量比については、60/29.6/6/2.5/1.9になるように調整した。
最後に、作製した正極用塗料を集電体であるエッチングアルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製「JCC-20CB」)に塗付し、130℃で5分乾燥した後、3cm×4cmのサイズに切り抜くことによって正極を作製した。なお、この時の設計容量は2.3mAhとなっている。
【0063】
(負極の作製)
負極には、球晶黒鉛電極(宝泉株式会社製「HS-LIB-N-Gr-001」、公称容量:1.6mAh/cm)を使用し、3.3cm×4.3cmのサイズに切り抜くことによって負極を作製した。なお、この時の設計容量は22.7mAhとなる。
【0064】
(リチウムイオンキャパシタの作製)
上記にて作製した正極および負極、セパレータ(日本高度紙工業株式会社製)を積層した後、アルミラミネートケースに収納した。
次に、電解液である1M LiPF in EC/DEC=1/1(キシダ化学株式会社製)を注液した後、真空封止することによって作製例1のリチウムイオンキャパシタを作製した。
なお、作製例1のリチウムイオンキャパシタの正極の電気容量は2.3mAh、負極の電気容量は22.7mAhであり、正負極の容量比(負極/正極)は9.9であった。
【0065】
(プリドープ処理)
次に、作製した作製例1のリチウムイオンキャパシタを、充放電測定装置(北斗電工株式会社製)を用いて、25℃の環境下において0.08mA/cmの電流密度で4.2Vまで充電し、2.6Vまで放電することによってプリドープ処理を施した。
【0066】
(作製例2~10)
正極の作製において、プリドープ剤を表2に示すとおりに変更した以外は作製例1と同様にして、作製例2~10のリチウムイオンキャパシタを作製するとともにプリドープ処理を行った。
【0067】
(作製例11)
正極の作製において、実施例7のプリドープ剤を使用し、プリドープ剤の含有量について、正極活物質とプリドープ剤の合計質量に対して15%になるように調整した以外は作製例1と同様にして、作製例11のリチウムイオンキャパシタを作製するとともにプリドープ処理を行った。つまり、正極活物質/プリドープ剤/導電助剤/増粘剤/結着剤の質量比については、76.2/13.4/6/2.5/1.9になるように調整した。
【0068】
(作製例12)
正極の作製において、実施例7のプリドープ剤を使用し、プリドープ剤の含有量について、正極活物質とプリドープ剤の合計質量に対して50%になるように調整した以外は作製例1と同様にして、作製例12のリチウムイオンキャパシタを作製するとともにプリドープ処理を行った。つまり、正極活物質/プリドープ剤/導電助剤/増粘剤/結着剤の質量比については、44.8/44.8/6/2.5/1.9になるように調整した。
【0069】
(比較作製例1~8)
正極の作製において、プリドープ剤を表2に示すとおりに変更した以外は作製例1と同様にして、比較作製例1~8のリチウムイオンキャパシタを作製するとともにプリドープ処理を行った。
【0070】
(充電深度の測定)
プリドープ処理後の黒鉛負極の充電深度の測定は、以下のようにして行った。上記作製例にて2.6Vまで放電した後のリチウムイオンキャパシタを解体し黒鉛負極を取り出してこれを評価用電極とした。対極には金属リチウム、評価用電極と対極との間に、ポリプロピレン製セパレーターを挟んで電極を構成し、コイン型の電池容器に電極を入れた。そして、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)が、容量比でEC:DEC=1:1で混合された混合溶媒中に、1MのLiPFを溶解させた電解液を電池容器に注入した後、電池容器を封口することにより、電気化学的評価用コイン型電池を製造した。電気化学的評価用コイン型電池を3.0Vまで充電することで充電深度を確認した。
ここで、充電深度とは、上記充電操作によって測定された充電容量が負極の設計容量(22.7mAh)の何%を充電できたかを示す値であり、以下の計算式によって算出される。
充電深度(%)=[充電容量(mAh)/負極公称容量22.7(mAh)]×100
【0071】
(キャパシタ特性(放電容量)の評価)
作製した各リチウムイオンキャパシタについて、キャパシタ特性(放電容量)の評価を行った。具体的には、充放電測定装置(北斗電工株式会社製)を用いて、25℃の環境下において、2.6~4.2Vの範囲で充放電を行った。また、充放電レートは正極あたり1Cで行った。なお、充放電レート1Cの際の電流密度は0.19mA/cmであった。
【0072】
【表2】