IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

特許7317547燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置
<>
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図1
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図2
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図3
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図4
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図5
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図6
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図7
  • 特許-燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0258 20160101AFI20230724BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20230724BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20230724BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20230724BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230724BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/02
H01M8/0206
H01M8/1226
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019067912
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167073
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】神家 規寿
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕司
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208232(JP,A)
【文献】特開2009-004253(JP,A)
【文献】特開平06-013090(JP,A)
【文献】特開2004-227849(JP,A)
【文献】特開2018-174115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0258
H01M 8/02
H01M 8/0206
H01M 8/12
H01M 8/1226
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層を挟んでアノード電極層とカソード電極層が形成された燃料電池セルと、
前記アノード電極層に還元性ガスを供給する燃料ガス供給路と、前記カソード電極層に
酸素を含有するガスを供給する酸化性ガス供給路とを備えた燃料電池単セルユニットを構成可能な構造体であって、
前記燃料ガス供給路に、原燃料ガスを改質する内部改質触媒層と、当該燃料ガス供給路内の流れを乱す乱流促進体とを設け、
前記燃料電池セルが支持体上に層状に形成され、
前記支持体を貫通する貫通孔が複数設けられ、
前記支持体の一方の面に前記アノード電極層が設けられるとともに、他方の面側に入口及び出口を有し、且つ前記他方の面に沿っ前記燃料ガス供給路が設けられ
前記複数の貫通孔はアノード電極層において生成する水蒸気を前記燃料ガス供給路に戻すとともに、前記内部改質触媒層において改質されたガスを前記燃料ガス供給路から前記アノード電極層に供給する燃料電池構造体。
【請求項2】
電解質層を挟んでアノード電極層とカソード電極層が形成された燃料電池セルと、
前記アノード電極層に還元性ガスを供給する燃料ガス供給路と、前記カソード電極層に酸素を含有するガスを供給する酸化性ガス供給路とを備えた燃料電池単セルユニットを構成可能な構造体であって、
前記燃料ガス供給路に、原燃料ガスを改質する内部改質触媒層と、当該燃料ガス供給路内の流れを乱す乱流促進体とを設け、
前記燃料ガス供給路と前記酸化性ガス供給路とを仕切る少なくとも一つのセパレータを備え、
前記燃料電池セルが支持体上に層状に形成され、
前記支持体を貫通する貫通孔が複数設けられ、
前記支持体の一方の面に前記アノード電極層が設けられ、他方の面側に入口及び出口を有するガス供給路であって前記他方の面に沿った前記燃料ガス供給路が前記支持体と前記セパレータとの間に設けられ、
前記セパレータの前記燃料ガス供給路側の少なくとも一部に前記内部改質触媒層が設けられる燃料電池構造体。
【請求項3】
前記燃料ガス供給路の内面の少なくとも一部に前記内部改質触媒層が設けられる請求項1記載の燃料電池構造体。
【請求項4】
前記貫通孔の内部に前記内部改質触媒層を設ける請求項1記載の燃料電池構造体。
【請求項5】
前記燃料ガス供給路と前記酸化性ガス供給路とを仕切る少なくとも一つのセパレータを備え、
前記セパレータの前記燃料ガス供給路側の少なくとも一部に前記内部改質触媒層が設けられる請求項1,3又は4記載の燃料電池構造体。
【請求項6】
前記内部改質触媒層に含有される改質触媒が担体に金属が担持された触媒である請求項1~5の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項7】
前記内部改質触媒層に含有される改質触媒がNiを含む触媒である請求項1~6の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項8】
前記乱流促進体が網状体である請求項1~7の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項9】
前記乱流促進体が網状体であり、当該網状体が前記燃料ガス供給路における前記他方の面側に設けられている請求項1及び3~5の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項10】
前記乱流促進体が前記燃料ガス供給路に配置される複数の障害体である請求項1~7の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項11】
前記乱流促進体の少なくとも一部表面に改質触媒が担持され、前記内部改質触媒層が形成されている請求項1~10の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項12】
前記支持体が金属材料を用いて形成されている請求項1及び3~5の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項13】
前記乱流促進体が金属材料を用いて形成されている請求項1~12の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項14】
前記セパレータが金属材料を用いて形成されている請求項2又は5記載の燃料電池構造体。
【請求項15】
前記燃料電池セルが固体酸化物形燃料電池である請求項1~14の何れか一項記載の燃料電池構造体。
【請求項16】
請求項1~15の何れか一項記載の燃料電池構造体の複数を有して構成され、
一の前記燃料電池単セルユニットの前記酸化性ガス供給路が、当該一の燃料電池単セルユニットに隣接する他の前記燃料電池単セルユニットの前記カソード電極層に前記酸素を含有するガスを供給する燃料電池モジュール。
【請求項17】
請求項16に記載の前記燃料電池モジュールと外部改質器とを少なくとも有し、前記燃料電池モジュールに、前記原燃料ガスを供給する燃料供給部を有する燃料電池装置。
【請求項18】
請求項16に記載の前記燃料電池モジュールと前記燃料電池モジュールから電力を取り出すインバータとを少なくとも有する燃料電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池構造体、それを備えた燃料電池モジュール及び燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、燃料電池セルは、電解質層を挟んでアノード電極層とカソード電極層が形成され、アノード電極層に還元性ガスが供給され、カソード電極層に酸素を含有するガスが供給されて、発電作動する。これらガスの供給路は、前者が燃料ガス供給路と呼ばれ、後者が酸化性ガス供給路と呼ばれる。
この種の燃料電池に関する技術として、以下の特許文献1、特許文献2に開示の技術を挙げることができる。
【0003】
特許文献1には、燃料電池として採用することができる電気化学的素子Eが開示されている。この電気化学的素子Eは、本発明における燃料電池構造体に相当するものであり(当該明細書図2参照)、これら電気化学的素子Eが複数積層されて電気化学的モジュールM(本発明の燃料電池モジュールに相当)が形成される。さらに、この電気化学的モジュールは他の機器と組み合わせて電気化学的装置(本発明の燃料電池装置に相当)とされる(図1参照)。
【0004】
電気化学的素子Eは、導電性を有する筒状支持体31と、電気化学反応部43(本発明における燃料電池セルに相当)とを有し、電気化学反応部43は、膜状の電解質層46と、膜状の燃料極44(本発明におけるアノード電極層に相当)と、膜状の空気極48(本発明におけるカソード電極層に相当)とを有し、電解質層46は燃料極44と空気極48との間に配置され、筒状支持体31は、その内側と外側との間で気体の通流を許容する気体通流許容部P2と、金属支持体1の内側と外側との間で気体の通流を禁止する気体通流禁止部P1とを有し、電気化学反応部43が金属支持体1の外側または内側に気体通流許容部P2の一部または全部を覆って配置される。
従って、この電気化学的素子Eでは、筒状支持体31内に、先に説明した燃料ガス供給路が形成された構造となる。この燃料ガス供給路を、例えば、同明細書の図5に示す構造では、燃料ガスは、図面下から上に向かう一方向に流れる。
【0005】
特許文献2は、発電性能を犠牲にすることなく、発電中において高温となり過ぎてしまうこと、及び温度むらが発生してしまうこと、のいずれをも防止することのできる燃料電池を提供することを目的とし、燃料極112に燃料ガス(本発明の「還元性ガス」に相当)を供給するための流路である燃料供給流路(本発明の「燃料ガス供給路」に相当)(210,125)を備えている。そして、この燃料供給流路に、水蒸気改質反応を生じさせるための改質触媒部PR1を、燃料極112から離間して且つ燃料極112に対向する面に設ける。
【0006】
この技術では、改質触媒部PR1で改質された改質ガスが燃料極に導入される。改質ガスは燃料極で消費され、燃料供給流路の出口から排出される。従って、水蒸気改質反応が吸熱反応であること(熱供給が必要)を利用して、燃料電池セルの高温化を防止する。ここで、改質触媒部PR1が設けられる部位は、燃料極に対して燃料ガス供給の上流側となる部位であり、電池反応を終えた排気は改質触媒部PB1が設けられた流路とは別の排気流路から排出される。
さらに、図面等から判断して、この文献2に開示の燃料電池は、その構造から見て、所謂アノード電極支持型燃料電池となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-195029号公報
【文献】特開2017-208232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1、2に開示の技術では以下のような課題がある。
特許文献1に開示の技術では、筒状支持体31内に形成され、例えば、当該明細書の図5に示される構造では、燃料ガス供給路を流れるガス流は、同図下から上に向かう流れとなりやすく、還元性ガスをアノード電極層へ供給するという目的において、改善の余地がある。
【0009】
特許文献2に開示のアノード支持型燃料電池では、アノード電極層が厚く(一般的に数ミリオーダー)、燃料ガスが導入される入口部分で一気に内部改質反応も進行してしまう。このため燃料電池の入口温度は低くなり、排気側は逆に燃料電池セルの本来の温度に維持するため、改質触媒部を設けた入口側が低温となりやすく、入口側と出口側との温度差が出やすい。
さらに、電池反応で水蒸気が生成されるが、燃料電池が酸化物イオン伝導型の場合、電池反応を終えた排気は改質触媒部を通らず排気流路から排出されるので、この水蒸気が内部反応に有用に利用されることはない。
【0010】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アノード電極層への燃料ガスの供給を確実に行える燃料電池構造体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1特徴構成は、
電解質層を挟んでアノード電極層とカソード電極層が形成された燃料電池セルと、
前記アノード電極層に還元性ガスを供給する燃料ガス供給路と、前記カソード電極層に酸素を含有するガスを供給する酸化性ガス供給路とを備えた燃料電池単セルユニットを構成可能な構造体であって、
前記燃料ガス供給路に、当該燃料ガス供給路内の流れを乱す乱流促進体を設けるとともに、原燃料ガスを改質する内部改質触媒層を設けた点にある。
【0012】
先にも示したように、燃料ガス供給路内を流れるガス流は、その流路構成により層流となりやすいが、この流路に乱流促進体を挿入しておくことにより、流れを乱し、燃料ガス供給路内に形成される主流に対して、主流方向とは異なった方向(例えば主流に対して直交する流れ)を形成することができる。結果、アノード電極層への還元性ガスの供給を効率的に行える。
【0013】
一方、アノード電極層で水蒸気が生成される酸化物イオン伝導型の燃料電池では、この生成される水蒸気のアノード電極層近傍からの放出を有効に促進できる。そして、燃料ガス供給路に内部改質触媒層を設けておくことにより、発電により生成される水蒸気を有効に利用して改質(主には水蒸気改質)の用に供することができる。燃料電池がプロトン伝導型の場合は、内部改質触媒層で内部改質を行ってアノード電極層に供給することができる。
【0014】
本発明の第2特徴構成は、
前記燃料電池セルが支持体上に層状に形成され、
前記支持体を貫通する貫通孔が複数設けられ、
前記支持体の一方の面に前記アノード電極層が、他方の面に沿って前記燃料ガス供給路が設けられる点にある。
【0015】
本特徴構成によれば、支持体を挟んで、一方の面に燃料電池セルのアノード電極層を、他方の面側に燃料ガス供給路を設け、燃料ガス供給路とアノード電極層との間のガスの供給・放出を良好に促進できる。さらに当該アノード電極層で水蒸気が生成される場合は、この水蒸気を燃料ガス供給路に戻して、燃料電池構造体内部での改質を良好に進めることができる。
【0016】
本発明の第3特徴構成は、
前記燃料ガス供給路の内面の少なくとも一部に前記内部改質触媒層が設けられることにある。
【0017】
本特徴構成によれば、還元性ガス供給路の少なくとも一部に内部改質触媒層を形成するという比較的簡単な構成で、内部改質触媒層を備えた燃料ガス供給路を実現できる。
【0018】
本発明の第4特徴構成は、
前記貫通孔の内部に前記内部改質触媒層を設ける点にある。
【0019】
本特徴構成によれば、貫通孔を流通するガスを利用して、この部位を流通するガスの改質を起こさせることができる。
【0020】
本発明の第5特徴構成は、
前記燃料ガス供給路と前記酸化性ガス供給路とを仕切る少なくとも一つのセパレータを備え、
前記セパレータの前記燃料ガス供給路側の少なくとも一部に前記内部改質触媒層が設けられる点にある。
【0021】
本特徴構成によれば、燃料電池構造体を重ねることで、セパレータを挟んでその一方の面側に燃料ガス供給路を、他方の面側に酸化性ガス供給路を形成することが可能となり、比較的単純な構造で燃料電池(具体的には燃料電池モジュール)を構築でき、結果的に、信頼性が高く長寿命の燃料電池を得ることができる。
【0022】
本発明の第6特徴構成は、
前記内部改質触媒層に含有される改質触媒が担体に金属が担持された触媒である点にある。
【0023】
本特徴構成によれば、担体に金属を担持させた触媒を用いることで、触媒に使用する金属の使用量を低減しても高性能な内部改質触媒層とすることができるので、低コストで高性能な燃料電池装置を得ることができる。
【0024】
本発明の第7特徴構成は、
前記内部改質触媒層に含有される改質触媒がNiを含む触媒である点にある。
【0025】
本特徴構成によれば、比較的入手容易で安価な金属であるNiを使用して水蒸気改質を内部改質触媒層で起こすことができる。
【0026】
本発明の第8特徴構成は、前記乱流促進体が網状体である点にある。
【0027】
本特徴構成によれば、網状に形成された乱流促進体により、燃料ガス供給路内における流れに関し、その主流をある程度維持する状態で、網状体に当たるガス流を乱し、アノード電極層へ向かう流れを形成するとともに、当該電極層から水蒸気が生成される構成では、この水蒸気を主流側に放出することができる。
【0028】
本発明の第9特徴構成は、
前記支持体を貫通する貫通孔が複数設けられ、
前記支持体の一方の面に前記アノード電極層が、他方の面に沿って前記燃料ガス供給路が設けられ、
前記網状体が前記燃料ガス供給路における前記他方の面側に設けられている点にある。
【0029】
本特徴構成によれば、支持体に貫通した貫通孔に近接して網状体を配置することとなるので、この網状体により貫通孔を介するアノード電極層への、さらにはこの電極層からのガス流を良好に発生させることができる。
【0030】
本発明の第10特徴構成は、
前記乱流促進体が前記燃料ガス供給路に配置される複数の障害体である点にある。
【0031】
本特徴構成により、燃料ガス供給路内の流れは、複数の障害体間を通過する流れとなるが、燃料ガス供給路内に、その流れ方向が異なった複雑な流れを形成でき、結果的にアノード電極層への流れ、アノード電極層からの流れを効率的に発生することができる。
【0032】
本発明の第11特徴構成は、
前記乱流促進体の少なくとも一部表面に改質触媒が担持され、前記内部改質触媒層が形成されている点にある。
【0033】
本特徴構成によれば、これまで説明してきた、乱流促進体による燃料ガス供給路内の流れの制御に加えて、この乱流促進体により改質を行うことができる。
【0034】
本発明の第12特徴構成は、
前記支持体が金属材料を用いて形成されている点にある。
【0035】
本特徴構成によれば、金属材料は強度が高く成形性に富む。結果、支持体を薄く形成できる。よって、小型、軽量で低コストの燃料電池構造体を得ることができる。
【0036】
本発明の第13特徴構成は、
前記乱流促進体が金属材料を用いて形成されている点にある。
【0037】
本特徴構成によれば、金属材料は強度が高く成形性に富む。結果、乱流促進体を任意の形状且つ薄く形成できる。よって、小型、軽量で低コストの燃料電池構造体を得ることができる。
【0038】
本発明の第14特徴構成は、
前記セパレータが金属材料を用いて形成されている点にある。
【0039】
本特徴構成によれば、金属材料は強度が高く成形性に富む。結果、セパレータを任意の形状且つ薄く形成できる。よって、小型、軽量で低コストの燃料電池構造体を得ることができる。
【0040】
本発明の第15特徴構成は、
前記燃料電池セルが固体酸化物形燃料電池である点にある。
【0041】
本特徴構成によれば、高温作動する固体酸化物形燃料電池の熱を内部改質に利用できるとともに、改質済みガス中に含まれることがある一酸化炭素の除去などに関して特別の追加改質機器を経ずに、この改質済ガスを燃料ガスとして直接固体酸化物形燃料電池に供給して発電を行うことができる。結果、シンプルな構成の燃料電池装置とすることができる。
【0042】
本発明の第16特徴構成は、
これまで説明してきた燃料電池構造体の複数を有して構成され、
一の前記燃料電池単セルユニットの前記酸化性ガス供給路が、当該一の燃料電池単セルユニットに隣接する他の前記燃料電池単セルユニットの前記カソード電極層に前記酸素を含有するガスを供給する燃料電池モジュールが構成されている点にある。
【0043】
本特徴構成によれば、複数の燃料電池単セルユニットを積層して(上下方向に積み重ねてもよいし、左右方向に並設してもよい)燃料電池モジュールを構築する場合に、一の燃料電池単セルユニットで形成できる酸化性ガス供給路を、他の燃料電池単セルユニットを構成する燃料電池セルのカソード電極層への酸化性ガスの供給元とすることで、他の部材を特に必要とすることなく、比較的簡便且つ規格化された燃料電池単セルユニットを使用して、燃料電池モジュールを構築できる。
【0044】
本発明の第17特徴構成は、
前記燃料電池モジュールと外部改質器とを少なくとも有し、前記燃料電池モジュールに、前記原燃料ガスを供給する燃料供給部を有する燃料電池装置が構成されている点にある。
【0045】
本特徴構成によれば、燃料電池モジュールと外部改質器を有し、燃料電池モジュールに対して還元性成分を含有する原燃料ガスを供給する燃料供給部とを有するので、都市ガス等の既存の原燃料供給インフラを用い、耐久性・信頼性および性能に優れた燃料電池モジュールを備えた燃料電池装置を実現することができる。また、燃料電池モジュールから排出される未利用の燃料ガスをリサイクルするシステムを構築し易くなるため、高効率な燃料電池装置を実現することもできる。
【0046】
本発明の第18特徴構成は、
前記燃料電池モジュールと、前記燃料電池モジュールから電力を取出すインバータとを少なくとも有する燃料電池装置が構成されている点にある。
【0047】
本特徴構成によれば、燃料電池セルにおいて発生される電力をインバータを介して取り
出すことができ、電力変換・周波数変換等を施すことで、発電電力の適切な利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】燃料電池装置の全体構成を示す概略図
図2】燃料電池モジュールにおける燃料ガス・酸化性ガスの供給構造を示す説明図
図3】一対の燃料電池構造体を組み合わせてなる燃料電池モジュールの一部を示す断面斜視図
図4】一対の燃料電池構造体を組み合わせてなる燃料電池モジュールの一部を示す断面斜視図
図5】燃料ガス供給路周りのガスの流れ及び反応を示す説明図
図6】乱流促進体の別実施形態を示す図
図7】乱流促進体の表面に内部改質触媒層を設けた別実施形態を示す図
図8】異なった構造の燃料電池構造体を採用した別実施形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明を燃料電池装置Y、当該燃料電池装置Yに備えられる燃料電池モジュールM、当該燃料電池モジュールMを積層状態で構築する燃料電池単セルユニットUの順に、図面に基づいて説明する。
【0050】
図1は、燃料電池装置Yの全体構成を示す概略図であり、燃料電池本体である燃料電池モジュールMに繋がる燃料ガス供給系統FL、酸化性ガス供給系統AL及びアノードオフガス循環系統RLをそれぞれ示している。
燃料電池モジュールM内には、複数積層して、この燃料電池モジュールMを構成する燃料電池単セルユニットUを一つ模式的に示している。燃料電池単セルユニットUには、燃料電池セルRが備えられている。これら燃料電池単セルユニットU、燃料電池セルR等に関しては、その製造方法等を含めて後に詳述する。燃料電池単セルユニットUを構成する基本単位が本発明の燃料電池構造体となる。
【0051】
図2は、燃料電池モジュールMの構造を示す概略断面図であり、燃料電池単セルユニットUを構成する金属支持体1及び金属セパレータ7周りへの、水素を含有するガスである燃料ガスの供給形態及び酸素を含有する酸化性ガスの供給形態を示している。
【0052】
同図は、理解を容易するため、燃料電池セルRの記載を省略した。
【0053】
<燃料電池装置>
燃料電池装置Yは、所謂、コジェネレーションシステム(熱電並供給システム)として構成されており、燃料電池装置Yから排出される熱を利用する排熱利用部としての熱交換器36を有するとともに、燃料電池装置Yで発電される電力を出力するための出力変換部としてのインバータ38を備えている。
【0054】
制御部39は、燃料電池装置Yに要求される電力負荷に従って燃料電池装置Y全体の運転を制御する。制御対象となる各機器に関しては、当該機器の説明において行う。この制御部39への入力情報は、燃料電池装置Yの起動開始・起動停止情報及び装置Yに要求される電力負荷である。
【0055】
燃料電池装置Yは、燃料電池モジュールMと、燃料ガス供給系統FLと、酸化性ガス供給系統AL及びアノードオフガス循環系統RLとを備えて構成されている。燃料ガス供給系統FLが、本発明の燃料供給部に該当する。
【0056】
燃料ガス供給系統FLには昇圧ポンプ30と、脱硫器31を備えた原燃料ガス供給系統FLaと、改質水タンク32と、改質水ポンプ32p及び気化器33を備えた水蒸気供給系統FLbとを備えている。
【0057】
この実施形態では、これら原燃料ガス供給系統FLa及び水蒸気供給系統FLbは、アノードオフガス循環系統RLに合流される形態が採用されており、下手側に備えられる外部改質器34に、原燃料ガス及び水蒸気を供給する。外部改質器34は、その下手側で、燃料電池モジュールMを構成する燃料電池単セルユニットUに形成された燃料ガス供給路L1に接続されている。
【0058】
昇圧ポンプ30は、原燃料ガスの一例である都市ガス(メタンを主成分としてエタンやプロパン、ブタンなどを含むガス)等の炭化水素系ガスを昇圧して、燃料電池装置Yに供給する。この供給形態は、燃料電池装置Yに要求される電力負荷に見合った量の原燃料ガスを、制御部39からの指令に従って供給するものである。
【0059】
脱硫器31は、都市ガス等に含まれる硫黄化合物成分を除去(脱硫)する。原燃料ガス中に硫黄化合物が含有される場合、脱硫器31を備えることにより、硫黄化合物による外部改質器34あるいは燃料電池単セルユニットUに対する影響を抑制することができる。
【0060】
この脱硫器31には銅-亜鉛系脱硫剤が収納され、原燃料ガスに含まれる硫黄成分は硫黄含有量を1vol.ppb以下(更に好ましくは、0.1vol.ppb以下)まで低減する。この種の銅-亜鉛系脱硫剤としては、銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)及び亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)を用いる共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛混合物を水素還元して得られた脱硫剤、又は銅化合物、亜鉛化合物及びアルミニウム化合物(例えば、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等)を用いる共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物を水素還元して得られた脱硫剤を代表的に使用できる。
【0061】
改質水タンク32は、外部改質器34での水蒸気改質に必要となる水蒸気を供給するために、改質水(基本的には純水)を貯留する。供給形態は、燃料電池装置Yに要求される電力負荷に見合った燃料ガスを得るための、制御部39からの指令に従った量だけ供給するものである。ただし、後にも説明するように、本発明の燃料電池装置Yでは、通常の電力負荷に見合って発電する定常運転状態では、アノードオフガスに含まれる水蒸気で、水蒸気改質において必要となる水蒸気を賄えるため、改質水タンク32からの改質水の供給、及び気化器33での気化は、燃料電池装置Yの起動時において主にその役を果たす。
【0062】
気化器33は、改質水タンク32から供給される改質水を水蒸気とする。外部改質器34は、気化器33にて生成された水蒸気を用いて脱硫器31にて脱硫された原燃料ガスを水蒸気改質して、水素を含むガスである改質ガスとする。ただし、本発明の燃料電池単セルユニットU内には内部改質触媒層Dが備えられるため、このユニットU内においても原燃料ガスの改質を行う。結果、外部改質器34においては、原燃料ガスの一部が改質され、残部は燃料電池単セルユニットUの燃料ガス供給路L1にそのまま供給する。
【0063】
外部改質器34には水蒸気改質触媒が収納されるが、この種の触媒としてはルテニウム系触媒、ニッケル系触媒を挙げることができる。さらに、具体的には、ルテニウム成分をアルミナ担体に担持させて得られるRu/Al触媒やニッケル成分をアルミナ担体に担持させて得られるNi/Al触媒等を使用できる。
【0064】
さて、この燃料電池装置Yが電力負荷に応じて、継続的に発電作動する定常運転状態での運転動作に関して、以下に説明する。
この実施形態における燃料電池は酸化物イオン伝導型とすることから、燃料電池単セルユニットUに設けられている燃料ガス供給路L1から排出される排ガス(アノードオフガス)には水蒸気が含まれる。そこで、このガスを冷却するとともに、過分な水分を凝縮除去して、水蒸気分圧を調整したアノードオフガスを外部改質器34に戻し、水蒸気改質の用に供する運転形態を採用している。
【0065】
即ち、燃料電池装置Yはアノードオフガス循環系統RLを備え、アノードオフガス循環系統RLに、内部を流れるアノードオフガスを冷却する冷却器32a、更に冷却するとともにその凝縮水を取出して内部を流れるアノードオフガスの水蒸気分圧を調整する凝縮器32b、外部改質器34に戻すアノードオフガスの温度を上昇する加熱器32cを備えている。
【0066】
この構造を採ることにより、循環ポンプ32dを働かせて、外部改質器34に投入する水蒸気量を、アノードオフガス循環系統RLを介して循環されるガスに寄るものとできる。この構造を採る場合は、最終段の凝縮器32bにおける凝縮温度を調整することで、アノードオフガス循環系統RLを介して循環する水蒸気分圧を調整することが可能となり、外部改質器34に投入されるガスに関して、その水蒸気/カーボン比(S/C比)を制御することができる。
【0067】
この循環形態は、燃料電池装置Yに要求される電力負荷に見合って原燃料ガスの少なくとも一部を外部改質器34で改質する場合に必要となる水蒸気量を、外部改質器34において適切なS/C比とするものであり、制御部39からの指令に従った作動となる。
ここでの制御対象は、循環ポンプ32dによる循環量、圧力設定及び冷却最終段となる凝縮器32bでの凝縮温度(結果的に、出口水蒸気分圧をとなる)の設定、制御となる。
【0068】
酸化性ガス供給系統ALにはブロア35が設けられ、その下手側で、燃料電池モジュールMを構成する燃料電池単セルユニットUに形成された酸化性ガス供給路L2に接続されている。ブロア35の空気吸引量も、電力負荷に見合って燃料電池で発電反応を起こさせるに充分な空気量を確保するものであり、制御部39からの指令に従った作動となる。
【0069】
<燃料電池モジュール>
燃料電池モジュールMは、外部改質器34を介して供給される還元性ガスの一例である「水素を含有するガス」である燃料ガスと、酸化性ガス供給系統ALから供給される「酸素を含有するガス」である酸化性ガスとを用いて、電池反応を起こして発電する。燃料電池モジュールMから排出される排ガスに関しては、アノードオフガスは、アノードオフガス循環系統RLを介して外部改質器34に循環され、カソードオフガスに関しては、熱交換器36での排熱回収を終えた後、外部に放出される。
【0070】
図2は、複数の燃料電池単セルユニットUを並設して構成される燃料電池モジュールMにおける、燃料ガス及び酸化性ガスの供給形態を示したものであり、その入口側と出口側とに、それぞれガスマニホールド40a,40bを有して構成される。
複数の燃料電池単セルユニットUは互いに電気的に接続された状態で並設配置され、燃料電池単セルユニットUの両端部(左右端部)がガスマニホールド40a,40bに固定されている。これまでの説明からも判明するように、燃料ガスの分配系統と酸化性ガスの分配系統とは完全に独立とされ、また、燃料電池単セルユニットUに備えられるアノード電極層Aに対して燃料ガス供給路L1を介して燃料ガスを供給し、カソード電極層Cに酸化性ガス供給路L2を介して酸化性ガスを供給する。
燃料ガスの分配系統、アノードオフガス排出系統を実線で示し、酸化性ガスの分配系統、カソードオフガス排出系統を一点鎖線で示した。
【0071】
並設積層状態にある複数の燃料電池単セルユニットUの両端(図2では、上下端)には、それぞれ端部集電部材41a,41bが備えられ、直列状態で複数の燃料電池単セルユニットUにより発電される電力がとりだされ、インバータ38に送られ、所定の変換処理を受ける。インバータ38は、例えば、燃料電池モジュールMの出力電力を調整して、商用系統(図示省略)から受電する電力と同じ電圧および同じ周波数にする。
【0072】
<燃料電池単セルユニット>
図3図4は、一対の燃料電池単セルユニットUを組み合わせてなる燃料電池モジュールMの一部を示す断面斜視図である。
図3は、燃料電池セルR及び金属支持体1を挟んで形成される燃料ガス供給路L1,酸化性ガス供給路L2内を流れるガスの流通方向(黒矢印、中抜き矢印で示す)に直交する方向の断面を示している。図4は、両ガスの流通方向に沿った断面を示した図である。
これら図面の断面位置は、図3は、貫通孔1aが設けられる位置であり、図4のそれは、左下に示すガスの流入端INから、右上に示す流出端OUTまでの断面である。
これらの図からも判明するように、燃料ガス供給路L1の内面、即ち燃料ガス供給路L1とされる金属セパレータ7の表面(図3図4の上側面)には、本発明の一つの特徴である内部改質触媒層Dが設けられている。さらに、金属支持体1の下面には、乱流促進体Eとしての網状体Eaが設けられている。
以上、燃料電池セルR、燃料電池モジュールMは概略直方形としている。
【0073】
燃料電池単セルユニットUは、金属支持体1の上に形成される燃料電池セルRと、この燃料電池セルRとは反対側に接合される金属セパレータ7を有して構成される。
【0074】
金属支持体1は概略方形であり、燃料電池セルRは、アノード電極層A、電解質層B、カソード電極層Cを少なくとも備えて構成され、金属支持体1の表側に形成・配置される。電解質層Bは、アノード電極層Aとカソード電極層Cとに挟まれた構造とされる。燃料電池セルRを金属支持体1の表側に形成する場合は、金属セパレータ7は金属支持体1の裏側に位置される。即ち、金属支持体1を挟む形態で、燃料電池セルR及び金属セパレータ7が位置される。
【0075】
燃料電池単セルユニットUは、金属支持体1上に形成された燃料電池セルRと金属セパレータ7とを備えることにより、燃料ガス供給路L1を介してアノード電極層Aに少なくとも燃料ガスを、酸化性ガス供給路L2を介してカソード電極層Cに酸化性ガスを供給して発電する。
【0076】
また、燃料電池単セルユニットUの構造的特徴として、金属支持体1の表側には金属酸化物層xが、アノード電極層Aの表面(アノード電極層Aとこれを覆う電解質層Bとの界面を含む)には中間層yが、さらに電解質層Bの表面(電解質層Bとこれを覆うカソード電極層Cとの界面を含む)に反応防止層zを備えている。これら金属酸化物層x、中間層y、反応防止層zは、これら層x、y、zを挟む材料層間における構成材料の拡散を抑制する等のために設けられる層である(後述する図5参照)。
【0077】
<金属支持体>
金属支持体1は、金属製の方形形状を有する平板となっている。
図3図4からも判明するように、金属支持体1には、表側と裏側とを貫通して複数(多数)の貫通孔1aが形成されている。これら図面からも判明するように、複数の貫通孔1aは、金属支持体1の中央部位に、燃料ガス供給路L1を流れるガスの流れ方向及びそれ横断する方向に設けられ、この貫通孔1aを通じて少なくとも燃料ガスの通流が可能となっている。これら貫通孔1aの非形成部位(金属支持体1の横断方向の外周側部位)においてガスシールドが図られている。本発明の燃料電池では、この貫通孔1aを流れるガスは、具体的には、これまで説明してきた燃料ガスと、燃料電池セルRにおける発電反応により生成される水蒸気である。図5には、このように貫通孔1aを流通するガス(CH,H,CO、HO、CO)を示した。
【0078】
金属支持体1の材料としては、電子伝導性、耐熱性、耐酸化性および耐腐食性に優れた材料が用いられる。例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金などが用いられる。特に、クロムを含む合金が好適に用いられる。本実施形態では、金属支持体1は、Crを18質量%以上25質量%以下含有するFe-Cr系合金を用いているが、Mnを0.05質量%以上含有するFe-Cr系合金、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金のいずれかであると特に好適である。
【0079】
金属支持体1は全体として板状である。なお、板状の金属支持体1を曲げて、例えば箱状、円筒状などの形状に変形させて使用することも可能である。
【0080】
金属支持体1の表面には、拡散抑制層としての金属酸化物層xが設けられている(図5参照)。すなわち、金属支持体1と後述するアノード電極層Aとの間に、拡散抑制層を形成している。金属酸化物層xは、金属支持体1の外部に露出した面だけでなく、アノード電極層Aとの接触面(界面)にも設けられる。また、貫通孔1aの内側の面に設けることもできる。この金属酸化物層xにより、金属支持体1とアノード電極層Aとの間の元素相互拡散を抑制することができる。例えば、金属支持体1としてクロムを含有するフェライト系ステンレスを用いた場合は、金属酸化物層xが主にクロム酸化物となる。そして、金
属支持体1のクロム原子等がアノード電極層Aや電解質層Bへ拡散することを、クロム酸化物を主成分とする金属酸化物層xが抑制する。金属酸化物層xの厚さは、拡散防止性能の高さと電気抵抗の低さを両立させることのできる厚みであれば良い。
【0081】
金属酸化物層xは種々の手法により形成されうるが、金属支持体1の表面を酸化させて金属酸化物とする手法が好適に利用される。また、金属支持体1の表面に、金属酸化物層xをスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、スパッタリング法やPLD法等のPVD法、CVD法などにより形成しても良いし、メッキと酸化処理によって形成しても良い。更に、金属酸化物層xは導電性の高いスピネル相などを含んでも良い。
【0082】
金属支持体1としてフェライト系ステンレス材を用いた場合、アノード電極層Aや電解質層Bの材料として用いられるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア、CGOとも呼ぶ)等と熱膨張係数が近い。従って、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も燃料電池セルRがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた燃料電池セルRを実現できるので好ましい。
【0083】
貫通孔1aは、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工などにより、金属支持体1に設けることができる。この貫通孔1aは、金属支持体1の表裏両側からガスを透過させる機能を有する。金属支持体1にガス透過性を持たせるために、多孔質金属を用いることも可能である。例えば、金属支持体1は、焼結金属や発泡金属等を用いることもできる。
【0084】
<燃料電池セル>
燃料電池セルRは、アノード電極層A、電解質層B、カソード電極層Cと、これらの層の間に適宜、中間層y、反応防止層zを有して構成される。この燃料電池セルRは、固体酸化物形燃料電池SOFCである。このように、燃料電池セルRは中間層y、反応防止層zを備えることにより、電解質層Bは、アノード電極層Aとカソード電極層Cとで間接的に挟まれた構造となる。電池発電のみを発生させるという意味からは、電解質層Bの一方の面にアノード電極層Aを、他方の面にカソード電極層Cを形成することで、発電することは可能である。
【0085】
<アノード電極層>
アノード電極層Aは、図3図5に示すように、金属支持体1の表側であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。貫通孔1aが設けられた領域の全体が、アノード電極層Aに覆われている。つまり、貫通孔1aは金属支持体1におけるアノード電極層Aが形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔1aがアノード電極層Aに面して設けられている。
【0086】
アノード電極層Aの材料としては、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。
なお、アノード電極層Aは、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好なアノード電極層Aが得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子を実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
また、このアノード電極層Aに含むNiの量は、35質量%以上85質量%以下の範囲とできる。また、アノード電極層Aに含むNiの量は、発電性能をより高められるので、40質量%より多いとより好ましく、45質量%より多いと更に好ましい。一方、コストダウンし易くなるので、80質量%以下であるとより好ましい。
【0087】
アノード電極層Aは、ガス透過性を持たせるため、その内部および表面に複数の細孔(図示省略)を有する。すなわちアノード電極層Aは、多孔質な層として形成する。アノード電極層Aは、例えば、その緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。なお緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-空孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0088】
(中間層)
中間層yは、図5に示すように、アノード電極層Aを覆った状態で、アノード電極層Aの上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。中間層yの材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0089】
中間層yは、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層yが得られる。そのため、金属支持体1を傷めることなく、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた燃料電池セルRを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0090】
中間層yは、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有する。また、酸素イオン(酸化物イオン)と電子との混合伝導性を有すると更に好ましい。これらの性質を有する中間層yは、燃料電池セルRへの適用に適している。
【0091】
(電解質層)
電解質層Bは、アノード電極層Aおよび中間層yを覆った状態で、中間層yの上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。
詳しくは電解質層Bは、図3図5等に示すように、中間層yの上と金属支持体1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層Bを金属支持体1に接合することで、電気化学素子全体として堅牢性に優れたものとすることができる。
【0092】
また電解質層Bは、金属支持体1の表側であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔1aは金属支持体1における電解質層Bが形成された領域の内側に形成されている。
【0093】
また電解質層Bの周囲においては、アノード電極層Aおよび中間層yからのガスのリークを抑制することができる。説明すると、発電時には、金属支持体1の裏側から貫通孔1aを通じてアノード電極層Aへガスが供給される。電解質層Bが金属支持体1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。なお、本実施形態では電解質層Bによってアノード電極層Aの周囲をすべて覆っているが、アノード電極層Aおよび中間層yの上部に電解質層Bを設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。
【0094】
電解質層Bの材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層Bをジルコニア系セラミックスとすると、燃料電池セルRを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスに比べて高くすることができる。SOFCとする場合、電解質層Bの材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCの燃料ガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。
【0095】
電解質層Bは、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層Bが得られる。そのため、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた燃料電池セルRを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0096】
電解質層Bは、燃料ガスや酸化性ガスのガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層Bの緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層Bは、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層Bが、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層の一部に含まれていると、電解質層が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層を形成しやすくできるからである。
【0097】
(反応防止層)
反応防止層zは、電解質層Bの上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは3μm~15μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。反応防止層zの材料としては、電解質層Bの成分とカソード電極層Cの成分との間の反応を防止できる材料であれば良いが、例えばセリア系材料等が用いられる。また反応防止層zの材料として、Sm、GdおよびYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有する材料が好適に用いられる。なお、Sm、GdおよびYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有し、これら元素の含有率の合計が1.0質量%以上10質量%以下であるとよい。反応防止層zを電解質層Bとカソード電極層Cとの間に導入することにより、カソード電極層Cの構成材料と電解質層Bの構成材料との反応が効果的に抑制され(拡散抑制)、燃料電池セルRの性能の長期安定性を向上できる。反応防止層zの形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた燃料電池セルRを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0098】
(カソード電極層)
カソード電極層Cは、電解質層Bもしくは反応防止層zの上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価なカソード電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。カソード電極層Cの材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物およびこれらの混合物を用いることができる。特にカソード電極層Cが、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成されるカソード電極層Cは、カソードとして機能する。
【0099】
なお、カソード電極層Cの形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属支持体1の損傷を抑制し、また、金属支持体1とアノード電極層Aとの元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた燃料電池セルRを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PDV法(スパッ
タリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0100】
燃料電池単セルユニットUでは、金属支持体1とアノード電極層Aとの間、及びカソード電極層Cとセパレータ7との間の電気伝導性を確保している。また、必要に応じて、金属支持体1の表面の必要な部分に、絶縁被膜を形成してもよい。さらに、燃料ガス供給路L1と酸化性ガス供給路L2との独立性は確保され、これら供給路L1、L2を横断する方向においてガスがリークすることはない。
【0101】
<燃料電池セルでの発電>
燃料電池セルRは、燃料ガス及び酸化性ガスの両方の供給を受けて発電する。このように両ガスが燃料電池セルRの各電極層(アノード電極層A及びカソード電極層C)供給されることで、図5に示す様に、カソード電極層Cにおいて酸素分子Oが電子e-と反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層Bを通ってアノード電極層Aへ移動する。アノード電極層Aにおいては、発電用燃料ガスである(水素Hおよび一酸化炭素CO)がそれぞれ酸素イオンO2-と反応し、水蒸気HO、二酸化炭素COと電子e-が生成される。以上の反応により、アノード電極層Aとカソード電極層Cとの間に起電力が発生し、発電が行われる。
【0102】
以上が、本発明に係る燃料電池の基本構成に関する説明であるが、以下、本発明の特徴となる「内部改質触媒層」及び「乱流促進体」の順に、主に図2図5を参照して説明する。
【0103】
<内部改質触媒層>
燃料電池単セルユニットUは、金属セパレータ7と金属支持体1との間に、アノード電極層Aに水素を含有するガスを供給する燃料ガス供給路L1が形成されている。そして、図2、3、4に矢印でも示すようにこの燃料ガス供給路L1を流れるガスは、ガスマニホールド40a側から、その長手方向に供給される。図5においては、紙面表裏方向となる。金属支持体1の表裏を貫通して設けられた貫通孔1aを介して、アノード電極層Aに発電反応用の水素を供給する。
【0104】
ここで、燃料電池セルR内に於ける発電反応は、先に説明した通りであるが、この反応に伴って、アノード電極層Aから貫通孔1a、燃料ガス供給路L1には、水蒸気HOが放出される。結果、本発明の燃料ガス供給路L1は、水素Hを含有する燃料ガスをアノード電極層Aに供給する供給部となっていると同時に、水蒸気HOの排出部ともなっている。
【0105】
そこで、本発明では、図3図5に示すように、金属セパレータ7の燃料ガス供給路L1側の面(金属支持体1側の面)に、内部改質触媒層Dを設けている。
燃料ガス供給路L1には、外部改質により得られる水素Hの他、改質対象となる原燃料ガス(改質前ガス:具体的にはメタンCHを主成分とする還元性ガス)が流れるが、アノード電極層Aにおいて生成する水蒸気HOを燃料ガス供給路L1に戻すことにより、この燃料ガス供給路L1に流入して原燃料ガスを改質することができる。当然、生成される水素Hや一酸化炭素COは、下流側において貫通孔1aを介してアノード電極層Aに供給して、発電の用に供することができる。
【0106】
内部改質触媒層Dの材料としては、例えば、ニッケル、ルテニウム、白金などの改質触媒を保持したセラミック製の多孔質粒状体の多数が通気可能な状態で形成できる。
なお、この内部改質触媒層Dに含有するNiの量は、0.1質量%以上50質量%以下の範囲とできる。なお、内部改質触媒層DがNiを含有する場合のNiの含有量は、1質量%以上であるとより好ましく、5質量%以上であると更に好ましい。このようにすることで、より高い内部改質性能が得られるからである。
一方、内部改質触媒層DがNiを含有する場合のNiの含有量は、45質量%以下であるとより好ましく、40質量%以下であると更に好ましい。このようにすることで、燃料電池装置のコストをより低減できるようになるからである。またNiを担体に担持することもこのましい。
また、この内部改質触媒層Dは、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、内部改質触媒層Dを設ける燃料ガス供給路L1(例えば、金属支持体1、金属セパレータ7)の高温加熱によるダメージを抑制しつつ、良好な内部改質触媒層Dを形成し、耐久性に優れた燃料電池単セルユニットUを実現できるからである。また、金属支持体1や金属セパレータ7の表面に拡散抑制層xを形成した後、内部改質触媒層Dを形成すると、金属支持体1や金属セパレータ7からのCrの飛散を抑制できるので好ましい。
【0107】
このような内部改質触媒層Dは、その厚さを、例えば、0.1μm以上にすると好ましく、0.5μm以上にするとより好ましく、1μm以上にすると更に好ましい。このような厚さにすることで、燃料ガスや水蒸気との接触面積を増やして、内部改質率を高められるからである。また、その厚さを、例えば、500μm以下にすると好ましく、300μm以下にするとより好ましく、100μm以下にすると更に好ましい。このような厚さにすることで、高価な内部改質触媒材料の使用量を低減してコストダウンを図ることができるからである。
【0108】
再度、図5に戻って、この内部改質触媒層Dでの水蒸気改質反応に関して簡単に説明しておく。同図に示すように、燃料電池単セルユニットUに内部改質触媒層Dを設けることで、燃料ガス供給路L1に供給される原燃料ガスに含まれるCHを以下のように改質して、発電用燃料ガスとなる水素Hを生成することができる。
【0109】
〔化1〕
CH+HO→CO+3H
〔化2〕
CO+HO→CO+H
〔化3〕
CH+2HO→CO+4H
【0110】
この燃料ガス供給路L1(内部改質触媒層D)の温度は、事実上、燃料電池セルRの作動温度である600℃~900℃となっている。
【0111】
本発明においては、燃料ガス供給路L1が、混合ガスの供給側から排出側へ流れ、その間に設けられた複数(多数)の貫通孔1aに対して、水素Hを含有するガスのアノード電極層Aへの流通が行われる。そして、アノード電極層Aで生成される水蒸気HOを内部改質触媒層Dに戻すことで少なくとも水蒸気改質を行い、発電用燃料ガスである水素および一酸化炭素を生成させて、下流側に位置する貫通孔1aから水素Hを含む発電用燃料ガスをアノード電極層Aへ供給して発電を行うことが可能となる。そこで、このようなガスの経路を内部改質燃料供給路L3と呼び、生成される水蒸気HOの排出側を排出部L3aと呼び、内部改質された水素Hの供給側を供給部L3bと呼ぶ。この排出部L3aは水蒸気供給路である。なお、排出部L3aは供給部L3bとしての機能を同時に担うこともできるし、供給部L3bが排出部L3aとしての機能を同時に担うこともできる。
【0112】
以上が、燃料ガスの供給側の工夫であるが、本発明のように、燃料電池単セルユニットU内に内部改質触媒層Dを備え、内部改質により得られる水素や一酸化炭素を電池燃料とする構成では、発電により生成される水蒸気が水蒸気改質で消費されるため、先に説明したアノードオフガスに含まれる水蒸気凝縮用に備えるべき凝縮器32bの負荷が低減される。結果、本発明に係る燃料電池装置Yは、この点からも有利となる。
【0113】
内部改質触媒層を設ける位置の工夫
燃料電池モジュールMは、上面視、実質方形の箱型に形成され、燃料ガス及び酸化性ガスの流れ方向が特定一方向とされる。図4における、この方向は図上右上がりとなる。
【0114】
さて、上記の内部改質触媒層Dを設ける位置であるが、燃料ガスをアノード電極層Aに供給するため、及びアノード電極層Aで発生する水蒸気を燃料ガス供給路L1に排出するために設けられる貫通孔1aであって、燃料ガスの流れ方向において、最も上流側にある貫通孔1aと同一位置からその下流側となる位置に、内部改質触媒層Dを限定している。
このような位置から内部改質触媒層Dを設けることで、アノード電極層Aで発生する水蒸気を、有効に本発明の目的に従って使用することができる。
【0115】
乱流促進体を設ける工夫
図1、3、4に示すように、アノード電極層Aに燃料ガスを供給する燃料ガス供給路L1には、この路内の流れを乱す乱流促進体Eが設けられている。
さらに詳細には、金属支持体1を貫通して形成されている貫通孔1aに対して、その燃料ガス流入側となる、燃料電池セルRの形成面とは反対側の面に、網状体Eaが設けられている。この網状体Eaは具体的にはラスメタルや金属金網を金属支持体1上に張り付けて形成する。結果、燃料ガス供給路L1を流れる水素を含有するガスは、この網状体Eaにより乱され、貫通孔1aへ向かう流れ方向成分、及び貫通孔1aから流出する流れを誘起し、燃料ガスのアノード電極層Aへの供給、アノード電極層Aからの水蒸気の導出を良好に起こすことができる。
【0116】
<別実施形態>
(1)上記の実施形態では、燃料電池が酸化物イオン伝導型の固体酸化物形燃料電池である例を示したが、内部改質触媒層D及び乱流促進体Eを燃料ガス供給路L1に設ける点は、プロトン伝導型においても、還元性ガスである燃料ガスをアノード電極層Aに良好に到達させるという点において、採用することができる。ここで、プロトン伝導型の場合は、内部改質触媒層Dにおいて必要となる水蒸気は外部から供給することとなるため、酸化物イオン伝導型の例と比して、内部改質に必要とする水蒸気を余分に供給することとなる。
【0117】
(2)上記の実施形態では、内部改質触媒層Dを、燃料ガス供給路L1を構成する金属セパレータ7の表面に設ける例を示したが、金属支持体1における、アノード電極層Aの形成側とは反対側の面に設けてもよいし、貫通孔1a内に設けてもよい。即ち、燃料電池単セルユニットU内において燃料ガス供給路L1となる流路に接して、その内面の少なくとも一部に設けることで、内部改質を良好に誘起することができる。
【0118】
(3)上記の実施形態では乱流促進体Eを網状体Eaで形成するとともに、金属支持体1の面に張り付ける構成としたが、燃料ガス供給路L1内の流れを貫通孔1a方向に方向づける機能を有すればよく、燃料ガス供給路L1の流れを乱す障害体Ebを多数配置することとしてもよい。この障害体Ebとしては、球状、三角錘状、方形柱状体等、任意の形状とすることができる。図6に、障害体Ebを球状とする場合の例を示した。
【0119】
(4)上記の実施形態では、内部改質触媒層Dと乱流促進体Eとを独立のものとして説明したが、例えば、先に説明した網状体Eaの表面の少なくとも一部に、或いは障害体Ebの少なくとも一部に内部改質触媒層Dを設けてもよい。図7に、この例を示した。
即ち、乱流促進体Eの少なくとも一部(図示する例では表面)に内部改質触媒層Dを設けることで、この乱流促進体Eを配置して、乱流促進と内部改質との両方の機能を発揮させることができる。
【0120】
(5)上記の実施形態では、アノードオフガスに含有される水蒸気を、水蒸気改質に利用したが、この構造を採用することなく、アノードオフガスを燃焼器(図示省略)に導き、アノードオフガスの有する燃焼成分(水素、一酸化炭素等)の有する熱を回収してもよい。
【0121】
(6)金属支持体1の材料として、導電性を有する金属酸化物を用いることもできる。
例えば、(La,Ca)CrO3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物等を用いることもできる。
【0122】
(7)これまで説明した実施形態では、金属支持体1を平板部材としたが、この金属支持体1が、複数の部材からなり、内部に燃料ガス供給路L1を形成する構造としてもよい。図8に、図5に対応する例を示した。この例では、平板部材72とU字部材73との組み合わせで、金属支持体1を構成し、筒内に形成する燃料ガス供給路L1の内部に乱流促進体となるメッシュEa(E)を配置し、その外表面にも内部改質触媒層Dを形成している。同図において、77は金属支持体1の燃料ガスの流通方向先端に設けられる燃料ガスの排出孔である。さらに、78はこれまで説明してきた貫通孔である。この例では、集電板として働くセパレータCPをガス透過性とすることにより、酸化性ガスはセパレータCP内に形成される酸化性ガス供給路L2を透過してカソード電極層Cに供給することができる。
【0123】
(8)これまで説明した実施形態では、外部改質器34を備え、この外部改質器34で、原燃料ガスの少なくとも一部を改質して、燃料電池単セルユニットUに備えられる燃料ガス供給路L1に水素を含有するガスを供給する例を示したが、本発明では、燃料ガス供給路L1とアノード電極層Aとの間のガスの流通を乱流促進体Eにより促進できることから、外部改質器を備えることなく、燃料ガス供給路L1に備える内部改質触媒層Dにおいて発電に必要となる原燃料ガスの改質をおこなってもよい。即ち、燃料電池単セルユニットU内に備えられる燃料ガス供給路L1全体に水素(改質済ガス)が流れている必要はない。
【0124】
(9)上述の実施形態では、金属支持体1と電解質層Bとの間にアノード電極層Aを配置し、電解質層Bからみて金属支持体1と反対側にカソード電極層Cを配置した。アノード電極層Aとカソード電極層Cとを逆に配置する構成も可能である。つまり、金属支持体1と電解質層Bとの間にカソード電極層Cを配置し、電解質層Bからみて金属支持体1と反対側にアノード電極層Aを配置する構成も可能である。この場合、還元性ガス供給路L1と酸化性ガス供給路L2の位置関係は逆転させ、これまでも説明してきたように、還元性ガス供給路L1側(この場合は金属セパレータ7の下側)に内部改質触媒層Dと乱流促進体を設けることで、本発明の目的を達成できる。
【0125】
(10)上記の実施形態では、メタンの水蒸気改質反応を行う場合の例を示したが、水蒸気改質反応以外の部分燃焼(酸化)改質反応やドライリフォーミング反応および、それらの各燃料改質反応を組み合わせた燃料改質反応を行うこともできる。
【0126】
(11)上記の実施形態では、都市ガス(メタンを主成分としてエタンやプロパン、ブタンなどを含むガス)等の炭化水素系ガスを原燃料ガスとして使用する例を示したが、原燃料ガスとしては、天然ガス、ナフサ、灯油等の炭化水素類や、メタノールやエタノール等のアルコール類、DME等のエーテル類などを原燃料ガスとして使用することもできる。 これまでの説明において、アノード電極層に供給するガスを還元性ガスと称しているが、このガスは燃料電池セルR内の反応にあっては、燃料電池の発電反応に供することのできる燃料となるガスである。この種のガスには、比較的高温域で作動する酸化物イオン伝導型の燃料電池、例えば、固体酸化物形燃料電池の場合、水素、一酸化炭素、メタン等の炭化水素が含まれる。
【0127】
(12)上記の実施形態では、アノード電極層Aと電解質層Bの間に中間層yを設置し、また、電解質層Bとカソード電極層Cの間に反応防止層zを設置する場合に関して説明したが、中間層yや反応防止層zのような電極層と電解質層の間に介在させる介在層を設置しない構成とすることもできるし、どちらか一方の介在層だけ設置することもできる。また必要に応じて、介在層の数を増やすこともできる。
【0128】
(13)上記の実施形態では、金属支持体1の表面に拡散抑制層としての金属酸化物層xを設置した場合に関して説明したが、必要に応じて、金属酸化物層xを設置しない構成とすることもできるし、金属酸化物層xを複数の層にすることもできる。また、金属酸化物層と異なる拡散抑制層を備えることもできる。
【0129】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 :金属支持体(支持体)
1a :貫通孔
7 :金属セパレータ(セパレータ)
34 :外部改質器
38 :インバータ
72 :平板部材
73 :U字部材
78 :貫通孔
A :アノード電極層
B :電解質層
C :カソード電極層
CP :集電板(セパレータ)
D :内部改質触媒層
E :乱流促進体
Ea :網状体(乱流促進体)
Eb :障害体(乱流促進体)
L1 :還元性ガス供給路
L2 :酸化性ガス供給路
M :燃料電池モジュール
R :燃料電池セル
U :燃料電池単セルユニット
Y :燃料電池装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8