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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】偏光板および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230724BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20230724BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20230724BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230724BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230724BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G02F1/1335 510
G09F9/00 313
G09F9/00 324
B32B7/023
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019070780
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020170072
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】有賀 草平
(72)【発明者】
【氏名】林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敏行
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-059471(JP,A)
【文献】特開2005-017328(JP,A)
【文献】特開2010-048889(JP,A)
【文献】特開2004-309597(JP,A)
【文献】特開2008-146020(JP,A)
【文献】特開2015-230415(JP,A)
【文献】特開2016-205967(JP,A)
【文献】特開2004-361802(JP,A)
【文献】特開2008-281667(JP,A)
【文献】特開2010-020287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/13363
G02F 1/1335
G09F 9/00
G09F 9/30
B32B 7/023
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一主面と第二主面とを有する単層のポリマーフィルムからなる位相差フィルムと、前記位相差フィルムの一方の主面に積層された偏光子と、を備える偏光板であって、
前記位相差フィルムの第一主面に前記偏光子が積層されており、
前記位相差フィルムの遅相軸方向と、前記偏光子の吸収軸方向が直交しており、
前記位相差フィルムは、
位相差フィルムの第一主面に偏光子を積層した試料の波長λの光に対する楕円率E(λ)と、位相差フィルムの第二主面に偏光子を積層した試料の波長λの光に対する楕円率E(λ)が異なっており、
波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率差の絶対値|E(λ)-E(λ)|の合計が0.3以上であり、
波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率E (λ)の標準偏差σ が、波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率E (λ)の標準偏差よりも小さく
面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが、nx>nz>nyを満たす
偏光板:
ただし、前記楕円率E (λ)およびE (λ)は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光子の吸収軸方向とが直交するように配置した試料を、位相差フィルムの吸収軸方向および偏光子の遅相軸方向とのなす角が45°の回転軸を中心として45°回転させ、偏光板の法線とのなす角が45°の方向から偏光子に自然光を入射した際の、位相差フィルムからの出射光の楕円率である。
【請求項2】
第一主面と第二主面とを有する単層のポリマーフィルムからなる位相差フィルムと、前記位相差フィルムの一方の主面に積層された偏光子と、を備える偏光板であって、
前記位相差フィルムの第二主面に前記偏光子が積層されており、
前記位相差フィルムの遅相軸方向と、前記偏光子の吸収軸方向が平行であり、
前記位相差フィルムは、
位相差フィルムの第一主面に偏光子を積層した試料の波長λの光に対する楕円率E(λ)と、位相差フィルムの第二主面に偏光子を積層した試料の波長λの光に対する楕円率E(λ)が異なっており、
波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率差の絶対値|E(λ)-E(λ)|の合計が0.3以上であり、
波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率E (λ)の標準偏差σ が、波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率E (λ)の標準偏差よりも小さく
面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが、nx>nz>nyを満たす
偏光板:
ただし、前記楕円率E (λ)およびE (λ)は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光子の吸収軸方向とが直交するように配置した試料を、位相差フィルムの吸収軸方向および偏光子の遅相軸方向とのなす角が45°の回転軸を中心として45°回転させ、偏光板の法線とのなす角が45°の方向から偏光子に自然光を入射した際の、位相差フィルムからの出射光の楕円率である。
【請求項3】
前記位相差フィルムは、波長550nmにおける正面レターデーションが250~600nmである、請求項1または2に記載の偏光板
【請求項4】
画像表示セルの表面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の偏光板を備え、
前記画像表示セルと前記偏光板の偏光子との間に前記偏光板の位相差フィルムが配置されている、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムからなる位相差フィルムと偏光子とが積層された偏光板、および当該楕円偏光板を備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等のモバイル機器、カーナビゲーション装置等の車載装置、パソコン用モニタ、テレビ等の各種画像表示装置として、液晶表示装置や有機EL表示装置が用いられている。
【0003】
液晶表示装置は、その表示原理から、液晶セルの両面に偏光子が配置されている。液晶セルと偏光子の間には、コントラスト向上や視野角拡大等の光学補償を行う目的で、位相差フィルムが配置される場合がある。例えば、インプレーンスイッチング(IPS)方式の液晶表示装置では、偏光子の吸収軸に対して45°度の角度(方位角45°、135°、225°、315°)において斜め方向から視認した場合に、黒表示の光漏れが大きく、コントラストの低下やカラーシフトが生じ易いため、液晶セルと偏光子との間に位相差フィルムを配置して、光学補償を行っている。このような用途に用いられる位相差フィルムとしては、正面レターデーションが波長の半分であり、かつNz=(nx-nz)/(nx-ny)で定義されるNz係数が0.5であるものが挙げられる。
【0004】
有機EL表示装置では、外光が金属電極(陰極)で反射されて鏡面のように視認されることを抑制するために、セルの視認側表面に円偏光板(偏光板と1/4波長のレターデーションを有する位相差フィルムとの積層体)が配置される場合がある。
【0005】
位相差フィルムとして、非液晶性ポリマーの延伸フィルムが広く用いられている。IPS方式の液晶表示装置の光学補償や、有機EL表示装置の反射光の遮蔽に用いられる位相差フィルムは、長波長ほど大きなレターデーションを有し、可視光の全波長領域にわたって、波長とレターデーションの比が一定であることが理想的である。
【0006】
しかし、長波長ほど大きなレターデーションを有する(いわゆる「逆波長分散」の)材料は限られており、大半のポリマーフィルムは、長波長ほど小さなレターデーション(正分散)、または波長によらずほぼ一定のレターデーションを示す。複数の位相差フィルムを積層した積層位相差板と偏光子を組み合わせることにより、逆波長分散の位相差フィルムと偏光子とを組み合わせた場合と同様の光学補償を実現する方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、1/2波長板と1/4波長板と偏光子とを、それぞれの光学軸が平行でも直交でもない角度で積層することにより、広帯域円偏光板が得られることを開示している。特許文献2では、Nz係数が異なる2枚の位相差フィルムを、遅相軸方向が平行となるように積層することにより広帯域化を図り、IPS液晶表示装置のカラーシフトを低減できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-63816号公報
【文献】特開2005-99476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複数の位相差フィルムを積層することにより、逆波長分散の位相差フィルムと同様の光学補償を実現できるが、複数のフィルムを貼り合わせる必要があるため、1枚のフィルムで光学補償を行う場合に比べて、製造工程が煩雑である。そのため、より少ない枚数のフィルムで、可視光の広帯域にわたって高精度の光学補償を実現可能な位相差フィルムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、厚み方向で分子の配向状態が異なるポリマーフィルムを偏光子と積層することにより、異なる波長分散の位相差フィルムを偏光子と積層した場合と同様の偏光状態を実現できることを見出した。
【0011】
本発明の位相差フィルムは、第一主面と第二主面とを有する1枚のポリマーフィルムからなり、第一主面に偏光子を積層した場合と、第二主面に偏光子を積層した場合とで、斜め方向から光を入射した際の偏光の楕円率が異なる。
【0012】
斜め方向から光を入射した際の楕円率は、位相差フィルムに偏光子を積層して法線方向から45°の角度で光を入射して測定する。位相差フィルムの第一主面に偏光子を積層した場合の波長λの光に対する楕円率E(λ)、および位相差フィルムの第二主面に偏光子を積層した場合の波長λの光に対する楕円率E(λ)を、波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定し、それぞれの波長における楕円率差の絶対値|E(λ)-E(λ)|の合計を、表裏の楕円率差ΔEとする。位相差フィルムの表裏の楕円率差は、例えば、0.3以上である。
【0013】
位相差フィルムは、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが、nx>nz>nyを満たすものであってもよい。位相差フィルムの波長550nmにおける正面レターデーションは、例えば、250~600nmである。
【0014】
位相差フィルムと偏光子とを積層することにより、偏光板が得られる。偏光板は、位相差フィルムの第一主面側に偏光子を積層したものでもよく、位相差フィルムの第二主面側に位相差フィルムを積層したものでもよい。位相差フィルムの遅相軸方向と、偏光子の吸収軸方向は、平行または直交関係にあってもよい。
【0015】
さらに、本発明は、上記の偏光板を備える画像表示装置に関する。画像表示装置としては、液晶表示装置、および有機EL表示装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の位相差フィルムは、1枚のフィルムにより、2枚以上の位相差フィルムを積層した場合と同様の広帯域の光学補償を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】位相差フィルムの断面図である。
図2】位相差フィルムと偏光子とを積層した偏光板の断面図である。
図3】楕円率の測定に用いる偏光板における位相差フィルムと偏光子の配置関係を示す図である。
図4】楕円率の測定に用いる光学系を示す図である。
図5】表裏の楕円率差およびその算出方法について説明するための図である。
図6】偏光子と位相差フィルムの積層体に光を入射した際の位相差フィルムによる偏光状態の変換についての説明図である。
図7図6の偏光板の楕円率の光学シミュレーション結果である。
図8】輝度の光学シミュレーションに用いた光学モデルの構成断面図である。
図9図8の光学モデルを用いた輝度のシミュレーション結果である。
図10】シミュレーションにおいて、輝度が最小となるレターデーションおよびその際の輝度の値をプロットしたグラフである。
図11】楕円率の光学シミュレーションに用いた光学モデルの構成断面図である。
図12】楕円率の光学シミュレーション結果である。
図13】積層位相差板の表裏の楕円率差と輝度の関係をプロットしたグラフである。
図14】偏光板の断面図である。
図15】液晶表示装置の断面図である。
図16】液晶表示装置の断面図である。
図17】液晶表示装置の断面図である。
図18】液晶表示装置の断面図である。
図19】実施例および比較例の位相差フィルムの楕円率の測定結果を示すグラフである。
図20】実施例および比較例の位相差フィルムの表裏の楕円率差と液晶表示装置の黒輝度との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、位相差フィルム10の断面図である。位相差フィルム10は、1枚のポリマーフィルムからなる。図2Aは、位相差フィルム10の第一主面11に対向するように偏光子20が積層された偏光板51の断面図であり、図2Bは、位相差フィルム10の第二主面12に対向するように偏光子20が積層された偏光板52の断面図である。
【0019】
図3は、位相差フィルム10と偏光子20との配置関係を示す模式図である。図2A,Bに示す偏光板51,52では、図3に示すように、位相差フィルム10の遅相軸方向15と偏光子20の吸収軸方向25とが直交するように配置されている。
【0020】
位相差フィルム10の第一主面11に偏光子20が配置されている偏光板51と、位相差フィルム10の第二主面12に偏光子20が配置されている偏光板52は、法線方向から傾いた方向から光を入射して測定した楕円率が異なる。
【0021】
図4は、偏光板の法線方向から45°傾いた方向から入射した光の楕円率を測定する様子を示す模式図である。吸収軸方向25および遅相軸方向15とのなす角が45°の回転軸R(図3参照)を中心として、偏光板51,52を45°回転させ、偏光板の法線とのなす角が45°の方向から偏光子20に自然光Nを入射し、位相差フィルム10からの出射光Pの偏光状態(楕円率)を測定する。
【0022】
図5は、可視光波長領域における楕円率の測定結果の一例を示しており、横軸が波長、縦軸が楕円率である。ポリマーの延伸フィルムからなる一般的な位相差板では、位相差フィルムのいずれの主面に偏光子を配置した場合も、楕円率に差は生じない。本発明の位相差フィルムは、図5に示すように、第一主面11に偏光子20を積層した偏光板51の楕円率Eと、第二主面12に偏光子20を積層した偏光板52の楕円率Eが異なる
【0023】
位相差フィルムは、波長によりレターデーションが異なるため、楕円率E,Eは波長λにより変化する。楕円率差は、偏光板51の波長λにおける楕円率E(λ)と偏光板52の波長λにおける楕円率E(λ)との差の絶対値|E(λ)-E(λ)|により評価できる。波長450nm~700nmの範囲で、10nmごとに|E(λ)-E(λ)|を算出し、その合計値を位相差フィルムの表裏の楕円率差ΔEとする。表裏の楕円率差は下記の式で表され、図5における26本の線分の長さの和に等しい。
【0024】
【数1】
ただし、λ=450+10k(nm)
【0025】
[積層位相差フィルムを用いたモデルによる説明]
位相差フィルムに表裏の楕円率差が生じる理由として、表裏で分子の配向状態が異なることが挙げられる。以下では、分子配向の異なる2枚の位相差フィルムを積層した光学モデルを用いて、表裏の楕円率差について説明する。
【0026】
位相差フィルムの分子配向状態は、Nz係数により評価できる。位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとして、Nz係数は、Nz=(nx-nz)/(nx-ny)で定義される。正の屈折率異方性を有するポリマーの延伸フィルムでは、Nz=1の場合(nx>ny=nz;ポジティブAプレート)はフィルム面内の遅相軸方向に分子が一軸配向しており、Nz>1の場合(nx>ny>nz)はフィルム面内で分子が二軸配向している。一方、厚み方向に分子を配向させると、nx>nz>nyの屈折率異方性を有し、0<Nz<1である位相差フィルムが得られる。すなわち、Nz係数が大きいほど、フィルム面内での分子配向性が高く、Nz係数が小さいほど、厚み方向への分子配向性が高いことを表している。
【0027】
図6A1は、Nz係数が0.5であり、波長550nmにおける正面レターデーションRe(550)が275nmである位相差フィルム31と、偏光子20とを積層した偏光板61に斜め方向から光を入射する様子を表している。図6A2は、偏光子20を透過した直線偏光の偏光状態が位相差フィルム31により変換される様子を、ポアンカレ球(S2-S3面投影図)で表している。
【0028】
法線方向から入射して偏光子20を透過した直線偏光は、ポアンカレ球の点Pで表される。偏光子の吸収軸方向に対して方位角45°の斜め方向に光を入射した場合(斜め方向から視認した場合)、偏光子の見かけ上の軸方向が変化する。そのため、偏光子20を透過した光は、法線方向から光を入射した場合とは振動方向が異なる直線偏光となり、ポアンカレ球の点Pで表される。偏光子20とクロスニコルに配置された偏光子は、点Pを挟んで点Pと対象の位置にある点Pで表される直線偏光を吸収する。したがって、位相差フィルムを用いて、点Pの直線偏光を、点Pの直線偏光に変換すれば、光漏れを抑制できる。
【0029】
ここでは、波長550nmの光に対する正面レターデーションが275nmであり、波長450~650nmの範囲における正面レターデーションが略一定である位相差フィルムを用いている。波長550nm(緑色の光)では正面レターデーション275nmが波長λの半分であり、位相差πに相当する。波長450nm(青色の光)に対する正面レターデーションRe(450)は、λ/2よりも大きく、波長650nm(赤色の光)に対する正面レターデーションRe(650)はλ/2よりも小さい。
【0030】
波長550nmの緑色の光については、位相差フィルム31の位相差がπであるから、位相差フィルム31による偏光状態の変換をポアンカレ球上で表現すると、点Pから、点Pを中心として180°回転させた位置にある点Pに移動する。すなわち、位相差フィルム31からの出射光Pは、波長550nmではポアンカレ球の点P(点G)に位置し、偏光子20とクロスニコルに配置された偏光子により吸収されるため、光漏れが生じない。点Gは、ポアンカレ球の赤道上に位置するため、楕円率は0(直線偏光)である。
【0031】
一方、波長450nmでは、レターデーションがλ/2よりも大きい(位相差がπより大きい)ため、ポアンカレ球では、点Pを中心として180°より大きな角度で回転する。すなわち、位相差フィルム31からの出射光Pは、波長450nmでは、ポアンカレ球の赤道を超え、南半球の点Bに位置し、楕円率が負である楕円偏光(左回り楕円偏光)となる。波長650nmでは、レターデーションがλ/2よりも小さい(位相差がπより小さい)ため、位相差フィルム31からの出射光は、ポアンカレ球の赤道に到達せず北半球の点Rに位置し、楕円率が正である楕円偏光(右回り楕円偏光)となる。
【0032】
一般的な位相差フィルム1枚で光学補償を行う場合は、波長550nmでの光漏れが生じないようにレターデーションの値を設定すると、他の波長領域ではレターデーションが最適値から外れる。そのため、位相差フィルム31からの出射光Pは、図6A2に示すように、緑色の光の楕円率が0であるのに対して、青色の光の楕円率は負、赤色の光の楕円率は正であり、波長により楕円率が異なっている。
【0033】
図6B1に示す偏光板62では、偏光子20側から、Nz係数が0.25、Re(550)=275nmの位相差フィルム32と、Nz係数が0.75、Re(550)=275nmの位相差フィルム33とが積層されている。図6B2は、偏光子20を透過した直線偏光の偏光状態が2枚の位相差フィルム32,33により順次変換される様子を、ポアンカレ球で表したものである。
【0034】
波長550nmの光は、位相差フィルム32によりポアンカレ球の点Pから赤道上の点G(点P)に移動した後、位相差フィルム33によりポアンカレ球の赤道上の点Gに移動する。波長450nmでは、位相差フィルム32のレターデーションがλ/2よりも大きいため、波長450nmの光は、位相差フィルム32によりポアンカレ球の点Pから南半球の点Bに移動する。位相差フィルム33も、レターデーションがλ/2よりも大きいため、波長450nmの光は、位相差フィルム33によりポアンカレ球の赤道上の点Bに移動する。位相差フィルム32,33のレターデーションがλ/2よりも小さい波長650nmの光は、位相差フィルム32によりポアンカレ球の北半球の点Rに移動した後、位相差フィルム33によりポアンカレ球の赤道上の点Rに移動する。
【0035】
図6B1に示すように、Nz係数が異なる2枚の位相差フィルム32,33を積層することにより、波長550nmよりも短波長の光および長波長の光も、楕円率が略0(直線偏光)となり、楕円率の波長依存が小さくなる。そのため、1枚の位相差フィルム31を用いる場合よりも精度の高い光学補償が可能となる。
【0036】
図6C1に示す偏光板63は、上記の偏光板62における位相差フィルム32と位相差フィルム33の積層順序を入れ替えたものである。位相差フィルム32と位相差フィルム33の積層体をひとまとまりの積層位相差フィルム39とみなした場合、偏光板63は、図6B1に示す偏光板62における積層位相差フィルム39の表裏を入れ替えたものに相当する。
【0037】
図6C2は、偏光子20を透過した直線偏光の偏光状態が2枚の位相差フィルム33,32により順次変換される様子を、ポアンカレ球で表したものである。B,GおよびRは、Nz係数が0.75である位相差フィルム33により偏光状態が変換された後の、波長450nm,550nmおよび650nm光の偏光状態を表している。B,GおよびRは、Nz係数が0.25である位相差フィルム32により偏光状態が変換された後の、波長450nm,550nmおよび650nm光の偏光状態を表している。
【0038】
図6B2図6C2との対比から理解できるように、Nz係数が異なる2枚の位相差フィルム32,33が積層された積層位相差フィルムの表裏を入れ替えると、積層位相差フィルムを出射した光Pの偏光状態は大きく異なる。図6B2では、1枚の位相差フィルムを用いた場合に比べて、波長による楕円率の相違(楕円率の波長依存)が小さく、より広帯域の光学補償を実現できるのに対して、図6C2では、1枚の位相差フィルムを用いた場合よりも、位相差フィルムの波長分散に起因する楕円率の波長依存が強調される結果となっている。
【0039】
図7は、偏光板61からの出射光(図6A1参照)、偏光板62からの出射光(図6B1参照)、および偏光板63からの出射光(図6C1参照)の可視光波長領域における楕円率を光学シミュレーションにより計算した結果を示すグラフである。偏光板62では、波長450~650nmの領域において楕円率が略0であり、偏光板61よりも楕円率の波長分散が小さくなっている。一方、積層位相差フィルム39の表裏を入れ替えた偏光板63は、偏光板61よりも楕円率の波長分散が大きくなっている。すなわち、Nz係数が異なる2枚の位相差フィルムを積層した位相差フィルム39は、一方の面に偏光子20を積層した場合と、他方の面に偏光子20を積層した場合とで、楕円率に差が生じることが分かる。
【0040】
以上の内容を踏まえると、1枚の位相差フィルムで表裏の楕円率差が生じること(図5参照)は、Nz係数の異なる2枚の位相差フィルムを積層した場合(図7参照)と同様の現象であることが分かる。したがって、偏光子を積層する面によって楕円率が異なる位相差フィルム(表裏の楕円率差を有する位相差フィルム)は、分子の配向状態が厚み方向で変化していると考えられる。
【0041】
[位相差フィルムの最適光学特性の検討]
表裏の楕円率差を有する位相差フィルムを用いた光学補償における光学設計を検討するために、クロスニコルに配置した2枚の偏光子の間に、Nz係数の異なる2枚の位相差フィルムを配置した光学モデルでのシミュレーションを実施した。図8はシミュレーションに用いた光学モデルの構成を示す断面図である。
【0042】
この光学モデルでは、偏光子21の吸収軸方向と位相差フィルム37の遅相軸方向が直交しており、位相差フィルム37の遅相軸方向、位相差フィルム38の遅相軸方向、および偏光子23の吸収軸方向は平行である。偏光子21側の位相差フィルム37のNz係数は0.5以下、偏光子23側の位相差フィルム38のNz係数は0.5以上とし、2枚の位相差フィルムのNz係数の合計Nz+Nzを1.0とした。2枚の位相差フィルム37,38の正面レターデーションは同一とした。
【0043】
偏光子の吸収軸方向とのなす角および位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角が45°の回転軸を中心として、光学モデルを45°回転させ、法線とのなす角が45°の方向から偏光子21に自然光Nを入射した場合の、偏光子23からの出射光の輝度を光学シミュレーションにより計算した。光学シミュレーションの結果を図9に示す。
【0044】
図9において、横軸は位相差フィルムの正面レターデーションReであり、縦軸が輝度の計算結果である。位相差フィルムの正面レターデーションは、1枚あたりの値であり、2枚の積層位相差フィルムの正面レターデーションは、図9に示す数値の2倍である。図10は、それぞれの(Nz,Nz)において、輝度が最小となる正面レターデーション(最適レターデーション)およびその時の輝度の値をプロットしたものである。
【0045】
(Nz,Nz)=(0.5,0.5)場合、輝度が最小となる正面レターデーションは137nm(2枚の位相差フィルムの合計は274nm)であり、上記の図6A1の例と一致していた。2枚の位相差フィルムのNz係数に差を設けると、輝度が最小となる正面レターデーションの値が大きくなり、輝度の最小値が小さくなる傾向がみられた。(Nz,Nz)=(0.25,0.75)の場合、輝度が最小となる正面レターデーションは274nm(2枚の位相差フィルムの合計は548nm)であり、上記の図6A2の例と一致していた。(Nz,Nz)=(0.2,0.8)、正面レターデーションが271nmのときに、輝度が最小となった。
【0046】
それぞれの(Nz,Nz)において、最適レターデーションの積層位相差フィルムを用いた偏光板の楕円率を、光学シミュレーションにより計算した。シミュレーションでは、図11Aに示すように、偏光子21上に、Nz≦0.5の位相差フィルム37と、Nz≧0.5の位相差フィルム38を積層し、偏光子21側から自然光を入射する光学モデルを用いた。また、図11Bに示すように、位相差フィルム37と位相差フィルム38の配置を入れ替えた光学モデルでも同様に楕円率を計算し、得られた結果から表裏の楕円率差を計算した。
【0047】
図12に、楕円率の計算結果を示す。図12では、Nz=0.2、Nz=0.8の場合に、可視光の広波長帯域にわたって、楕円率が0に近いことが分かる。また、図10における輝度が小さいほど、図12において楕円率が0に近く楕円率の波長分散が小さくなる傾向がみられた。これらの結果から、可視光波長領域の楕円率を評価することにより、輝度の大小を評価可能であることが分かる。
【0048】
図13は、図10の輝度のグラフの横軸を、表裏の楕円率差ΔEに置き換えたグラフである。楕円率差ΔEが2.7以下の領域では、表裏の楕円率差が大きいほど、輝度が小さく、光漏れが抑制される傾向がみられた。また、表裏の楕円率差が2.9以下であれば、楕円率差が0の場合(表裏の分子配向が均一である場合)よりも輝度が小さく光漏れを低減できることが分かる。
【0049】
前述のように、1枚の位相差フィルムの表裏の楕円率差は、Nz係数が異なる2枚の位相差フィルムをモデルとして説明可能である。そのため、Nz係数が異なる2枚の位相差フィルムを積層した光学モデルと同様、表裏の楕円率差を有する1枚の位相差フィルムを用いて光学補償を行う場合においても、表裏の楕円率差が2.9以下の範囲内であれば、可視光の広帯域で光漏れを抑制し、コントラストの高い黒表示を実現できると考えられる。
【0050】
[位相差フィルムの光学特性]
上記の光学シミュレーションで示したように、位相差フィルムの表裏の楕円率差を所定範囲とすることにより、1枚の位相差フィルムで、複数の位相差フィルムを積層した場合と同様の光学補償が可能となる。表裏の楕円率差を設けることによる効果を発揮するためには、表裏の楕円率差は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。表裏の楕円率差は、0.7以上、1.0以上、1.3以上または1.5以上でもよい。上記の光学シミュレーションのように、偏光子の吸収軸方向に対して45°方向での光漏れを抑制する目的で位相差フィルムを用いる場合、表裏の楕円率差は、2.9以下が好ましく、2.8以下がより好ましい。
【0051】
位相差フィルムの正面レターデーションおよびNz係数は、位相差フィルムの用途(光学補償の対象等)に応じて選択すればよい。例えば、IPS方式の液晶表示装置の光学補償のように、斜め方向から視認した場合のクロスニコルに配置された2枚の偏光子の見かけ上の軸ズレを補償して黒表示における光漏れ(黒輝度)を低減する場合は、nx>nz>nyの屈折率異方性を有し、Nz係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムが好適に用いられる。位相差フィルムのNz係数は、0.2~0.8が好ましく、0.3~0.7がより好ましく、0.4~0.6がさらに好ましい。
【0052】
上記のシミュレーションで示したように、レターデーションの最適値は、表裏の楕円率差によって異なる。例えば、表裏の楕円率差が2.5~2.9の範囲内である場合、位相差フィルムの波長550nmにおける正面レターデーションRe(550)の最適値は約540nmである(図10における最適レターデーション(位相差フィルム1枚のレターデーション)の2倍に相当)。表裏の楕円率差が1.0程度の場合、位相差フィルムのRe(550)の最適値は約340nmである。表裏の楕円率差が0.5程度の場合、位相差フィルムのRe(550)の最適値は約280nmである。図9のシミュレーション結果を踏まえると、Re(550)は、250~600nm程度の範囲内であることが好ましい。Re(550)は、300nm以上、350nm以上、400nm以上、450nm以上または500nm以上であってもよい。
【0053】
なお、表裏で楕円率差を有する位相差フィルムは、偏光子と積層して楕円率を測定すると、表裏差を生じるが、位相差フィルム単体でレターデーションやNz係数を測定する場合は、いずれの面から光を入射しても、Nz係数およびレターデーションの測定値に差異は生じない。
【0054】
表裏の楕円率差を有する位相差フィルムは、上記以外の用途にも使用可能である。例えばIPS方式以外の液晶表示装置の光学補償や、円偏光板用の1/4波長板に、表裏の楕円率差を有する位相差フィルムを用いてもよい。これらの用途における位相差フィルムのNz係数やレターデーションは、適宜設定すればよい。例えば、位相差フィルムのRe(550)は、0~1000nm程度の範囲で適宜設定できる。位相差フィルムは、ポジティブAプレート(nx>ny=nz:Nz=1)、ネガティブBプレート(nx>ny>nz:Nz>1)、ネガティブCプレート(nx=ny>nz:Nz=∞)、ネガティブAプレート(nz=nx>ny:Nz=0)、ポジティブBプレート(nz>nx>ny:Nz<0)、またはポジティブCプレート(nz>nx=ny;Nz=-∞)であってもよい。
【0055】
[位相差フィルムの作製]
位相差フィルムの材料としては、各種のポリマー材料が用いられる。ポリマー材料としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のサルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド等のスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂、環状ポリオレフィン系(ポリノルボルネン系)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、セルロースエステル類、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、フマル酸エステル系樹脂等が挙げられる。
【0056】
これらの樹脂材料を支持体に層状に形成することにより成膜が行われる。成膜方法は、溶液法および溶融法のいずれでもよい。溶液法では、基材上に樹脂溶液を塗布した後、加熱により溶媒を除去する。成膜後のフィルムを所定方向に延伸し、ポリマーの分子を配向させることにより、位相差フィルムが得られる。位相差フィルムの厚みは、例えば5~200μm程度である。
【0057】
延伸方法としては、縦一軸延伸法、横一軸延伸法、縦横逐次二軸延伸法、縦横同時二軸延伸法等が挙げられる。延伸手段としては、ロール延伸機、テンター延伸機やパンタグラフ式あるいはリニアモーター式の二軸延伸機等、任意の適切な延伸機を用いることができる。フィルム支持体上に溶液法によりフィルムを形成する場合は、支持体と一体で延伸を行ってもよい。特開平5-157911号公報や特開2011-227430等に開示されているように、延伸時に熱収縮フィルムの収縮力を利用することにより、屈折率異方性を制御して、nx>nz>nyの屈折率異方性を有する位相差フィルムを作製してもよい。
【0058】
分子の配向状態が厚み方向で異なるフィルムは、成膜時および/または延伸時に、表裏に異なる歪を与えることにより作製できる。例えば、溶液成膜では、支持体上に樹脂溶液を塗布した後、高温で溶媒を乾燥除去すると、表層側(B面)では急激に溶媒が除去されるため、支持体側(A面)よりも大きな歪が生じ、分子の面内配向性が高くなる傾向がある。この表裏の歪差は、延伸後にも残存するため、A面側のNz係数が大きく、B面側のNz係数が小さい位相差フィルムが得られる。
【0059】
乾燥条件の調整以外の方法により、表裏に異なる歪を与えることもできる。例えば、延伸の際に、表裏に熱収縮率の異なるフィルムを貼り合わせることにより、表裏の歪差が生じる。
【0060】
[偏光板]
図2Aおよび図2Bに示すように、位相差フィルム10と偏光子20とを積層することにより、偏光板が形成される。
【0061】
<偏光子>
偏光子としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0062】
中でも、高い偏光度を有することから、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましい。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素染色および延伸を施すことにより、PVA系偏光子が得られる。
【0063】
PVA系偏光子として、厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることもできる。薄型の偏光子としては、例えば、特開昭51-069644号公報、特開2000-338329号公報、WO2010/100917号パンフレット、特許第4691205号明細書、特許第4751481号明細書等に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。このような薄型偏光子は、例えば、PVA系樹脂層と延伸用樹脂基材とを積層体の状態で延伸し、ヨウ素染色することにより得られる。
【0064】
<偏光子と位相差フィルムとの配置関係>
位相差フィルム10と偏光子20は、いずれの面が貼り合わせられていてもよい。図2Aに示すように、位相差フィルム10の第一主面11を偏光子20と対向して配置してもよく、図2Bに示すように、位相差フィルム10の第二主面12を偏光子20と対向して配置してもよい。
【0065】
位相差フィルム10の表裏の定義のため、以降では、偏光子20に対向して貼り合わせた際の楕円率E(λ)の波長依存が小さくなる方の主面を第1主面とする。例えば、図5では、EよりもEの方が、波長依存が小さいため、当該主面を偏光子と対向するように配置した際に楕円率がEとなる方の主面を「第一主面」、当該主面を偏光子と対向するように配置した際に楕円率がEとなる方の主面を「第二主面」と定義する。
【0066】
E(λ)の波長依存性の大小は、波長450~700nmの範囲で10nmごとに測定した楕円率E(λ)の標準偏差σに基づいて判断できる。
【0067】
【数2】
ただし、
λ=450+10k(nm)であり、
aveは、E(λ)~E(λ25)の算術平均である。
【0068】
標準偏差σが小さいほど、楕円率E(λ)の波長依存が小さい。したがって、偏光子と対向するように配置した際の楕円率E(λ)の標準偏差σが小さくなる方の主面を第一主面とする。
【0069】
偏光子20と位相差フィルム10の配置角度は特に限定されない。例えば、液晶表示装置を斜め方向から視認した際の光抜けを抑制する光学補償の目的で位相差フィルムを用いる場合、偏光子20の吸収軸方向と、位相差フィルム10の遅相軸方向とが、平行または直交となるように、両者を配置することが好ましい。偏光子と位相差フィルムとを積層して円偏光板を形成する場合は、偏光子の吸収軸方向と位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が45°となるように両者を配置することが好ましい。なお、配置角度は、厳密に上記の範囲である必要はなく、±2°程度の誤差を含んでいてもよい。
【0070】
図3に示すように、位相差フィルム10の遅相軸方向15と偏光子20の吸収軸方向25とが直交する場合は、位相差フィルム10の第一主面11が偏光子20と対向するように配置することが好ましい。一方、位相差フィルム10の遅相軸方向と偏光子20の吸収軸方向とが平行である場合は、位相差フィルム10の第二主面12が偏光子20と対向するように配置することが好ましい。このように、偏光子と積層する面を選択することにより、偏光子20および位相差フィルム10を順に透過した光の楕円率の波長依存が小さく、広帯域の光学補償が可能となる。
【0071】
<偏光子保護フィルム>
図14に示すように、偏光板は、偏光子20の一方の面に位相差フィルム10を備え、他方の面には偏光子保護フィルムとしての透明フィルム40を備えていてもよい。透明フィルム40の厚みは、例えば5~200μm程度である。これらの透明フィルムを構成する樹脂材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性に優れるポリマーが好ましく、その具体例としては、位相差フィルムの構成材料として先に例示したポリマーが挙げられる。
【0072】
偏光子の一方の面には、2枚以上のフィルムが設けられていてもよい。例えば、偏光子20と位相差フィルム10との間に、光学等方性の透明保護フィルムが設けられていてもよい。また、偏光子20と位相差フィルム10との間に、光学異方性を有するフィルムが設けられていてもよい。位相差フィルム10の表面(偏光子20の反対側の面)に、他のフィルムが設けられていてもよい。
【0073】
<粘接着剤>
偏光子20と位相差フィルム10は、接着剤や粘着剤(不図示)を介して貼り合わせられていてもよい。偏光子20と透明保護フィルム40も、適宜の接着剤や粘着剤を介して貼り合わせられていてもよい。接着剤や粘着剤としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
【0074】
[画像表示装置]
上記の位相差フィルムおよび偏光板は、液晶表示装置や有機EL表示装置等の画像表示装置の形成に用いられる。画像表示装置は、液晶セルや有機ELセル等の画像表示セルの表面に、上記の偏光板を備える。
【0075】
以下では、画像表示装置の一例として、IPS方式の液晶表示装置の構成について説明する。図15は、一実施形態の液晶表示装置の構成断面図である。液晶表示装置201は、液晶パネル101と光源105を含む。液晶パネル101は、液晶セル70の視認側表面に第一偏光板57を備え、液晶セル70の光源105側に第二偏光板56を備える。
【0076】
液晶セル70は、2枚の基板73,75の間に液晶層71を備える。基板73,75はガラス基板またはプラスチック基板であり、一般的な構成では、一方の基板にカラーフィルター及びブラックマトリクスが設けられており、他方の基板に液晶の電気光学特性を制御するスイッチング素子等が設けられている。
【0077】
液晶層71は、無電解状態で所定方向に配向した液晶分子を含み、電圧を印加すると液晶分子の配向方向(ダイレクタ)が変化する。例えば、インプレーンスイッチング(IPS)方式の液晶セルでは、液晶層71の液晶分子は、無電界状態では基板平面に対して、平行かつ一様に配向しており(ホモジニアス配向)、電圧を印加すると、ダイレクタが基板面内で回転する。IPS方式の液晶セルの無電解状態における液晶分子の配向方向は、基板平面に対してわずかに傾いていてもよい。IPS方式の液晶セルにおいて、無電解状態における基板平面と液晶分子の配向方向とのなす角(プレチルト角)は、一般に10°以下である。
【0078】
液晶セルの70光源側基板75には、粘着剤層66を介して第一偏光板56が貼り合わせられており、液晶セル70の視認側基板13には、粘着剤層68を介して第二偏光板57が貼り合わせられている。第一偏光板56の偏光子20と第二偏光板57の偏光子29は、両者の吸収軸方向が互いに直交するように配置されている。
【0079】
第一偏光板56は、偏光子20の液晶セル70側の面に、表裏の楕円率差が異なる位相差フィルム10を備え、偏光子20の他方の面に透明フィルム40を備える。第二偏光板57は、偏光子の両面に透明フィルム41,42を備える。なお、液晶表示装置において、位相差フィルムとしての機能を有さない透明フィルム40,41,42は省略してもよい。
【0080】
粘着剤層39,59を構成する粘着剤としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。粘着剤層66,68の厚みは、5~50μm程度である。
【0081】
液晶表示装置は、上記以外の光学層やその他の部材を含んでいてもよい。例えば、液晶パネル101と光源105との間には、輝度向上フィルム(不図示)を設けることもできる。輝度向上フィルムは、光源側の偏光板56と積層されていてもよい。
【0082】
視認側の透明フィルム42には、耐擦傷性の付与等を目的として、ハードコート層が設けられていてもよい。また、透明フィルム42には、反射防止層が設けられていてもよい。視認側の偏光板57のさらに視認側には、タッチパネルセンサーやカバーウインドウ等が配置されていてもよい。
【0083】
第一偏光板56において、偏光子20の吸収軸方向と位相差フィルム10の遅相軸方向は直交しており、位相差フィルム10の第一主面11が偏光子20と対向し、位相差フィルム10の第二主面12が液晶セル70と対向している。
【0084】
この液晶表示装置201を斜め方向からした場合、光源105からの光が偏光子20を透過した後、位相差フィルム10により偏光状態が変換される。偏光子20の吸収軸方向と位相差フィルム10の遅相軸方向とが直交しており、位相差フィルム10の第一主面が偏光子20と対向するように配置されているため、位相差フィルム10からの出射光は、楕円率の波長依存が小さく、広帯域の光学補償を実現できる。
【0085】
図16に示す液晶表示装置202は、上述の液晶表示装置202と類似の構成を有しているが、光源105側に配置されている第一偏光板58における位相差フィルム10と偏光子20との配置関係が異なっている。偏光板58において、偏光子20の吸収軸方向と位相差フィルム10の遅相軸方向は平行であり、位相差フィルム10の第二主面12が偏光子20と対向し、位相差フィルム10の第一主面11が液晶セル70と対向している。
【0086】
この構成では、位相差フィルム10と、視認側の第一偏光板57の偏光子29とをセットでみた場合、偏光子29の吸収軸方向と位相差フィルム10の遅相軸方向が直交しており、位相差フィルム10の第一主面11が偏光子29と対向するように配置されている。したがって、上記の液晶表示装置201の構成と同様の原理により、広帯域の光学補償を実現できる。
【0087】
図15および図16では、液晶セル70の光源側に位相差フィルム10を配置する形態を示したが、図17の液晶表示装置203および図18の液晶表示装置204のように、液晶セル70の視認側の偏光板に、位相差フィルム10を配置してもよい。図17の液晶表示装置203は、図15の液晶表示装置201における液晶パネル101の上下を入れ替えたものに相当する。図18の液晶表示装置204は、図16の液晶表示装置202における液晶パネル102の上下を入れ替えたものに相当する。したがって、これらの液晶表示装置においても、液晶表示装置201,202の構成と同様の原理により、広帯域の光学補償を実現できる。
【0088】
IPS方式の液晶表示装置における光学補償を中心に、位相差フィルムの用途について説明したが、前述のように、表裏の楕円率差を有する位相差フィルムの用途は、IPS方式以外の液晶表示装置や、有機EL表示装置等の各種画像表示装置に適用可能である。
【実施例
【0089】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0090】
[位相差フィルムの作製]
<樹脂溶液の調製>
攪拌装置を備えた反応容器中、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン540重量部、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド12重量部を、1M酸化ナトリウム溶液に溶解させた。この溶液に、テレフタル酸クロライド304重量部とイソフタル酸クロライド102重量部をクロロホルムに溶解させた溶液を攪拌しながら一度に加え、室温で90分間攪拌した。その後、重合溶液を静置分離してポリマーを含んだクロロホルム溶液を分離し、ついで酢酸水で洗浄し、イオン交換水で洗浄した後、メタノールに投入してポリマーを析出させた。析出したポリマーを、蒸留水で2回及びメタノールで2回洗浄した後、減圧乾燥した。得られたポリアリレート系樹脂を、トルエンに溶解して、固形分濃度20%の樹脂溶液を調製した。
【0091】
<比較例1>
PETフィルムを支持体として、支持体上に、上記の樹脂溶液を乾燥後の厚みが20μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、温度80℃で3分間乾燥してポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを支持体から剥離し、ポリマーフィルムの両面に、粘着剤層が付設された熱収縮フィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)を貼り合わせ、温度150℃で自由端一軸延伸を行った後、熱収縮フィルムを剥離した。位相差フィルムのNz係数は0.5であり、波長550nmにおける正面レターデーションRe(550)は270nmであった。
【0092】
<実施例1~6>
支持体上での樹脂溶液の乾燥温度および乾燥時間を表1に示すように変更したこと以外は比較例1と同様にして、ポリマーフィルムを作製し、表1に示すRe(550)となるように延伸を行い、Nz係数が0.5での位相差フィルムを得た。
【0093】
[偏光板の作製]
厚み18μmのポリビニルアルコール系偏光子の一方の面に厚み40μmの二軸延伸アクリルフィルム、他方の面に上記の位相差フィルムを紫外線硬化型の接着剤介して貼り合わせて、偏光板を作製した。貼り合わせには、ロールラミネータを用い、紫外線を照射して接着剤を硬化させた。
【0094】
位相差フィルムと偏光子は、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光子の吸収軸方向とが直交するように配置し、位相差フィルムのB面(成膜時の支持体側の面)を偏光子と貼り合わせた。また、位相差フィルムの表裏の楕円率差ΔEを評価するために、位相差フィルムのA面(成膜時の表層側の面)を偏光子と貼り合わせた試料も作製した。
【0095】
[評価]
<位相差フィルムの光学特性>
位相差フィルムの正面レターデーションおよびNz係数は、偏光・位相差測定システム(Axometrics製「AxoScan」)により測定した。位相差フィルムの正面レターデーションおよびNz係数は、位相差フィルム単体で測定を行った。
【0096】
<楕円率および楕円率差>
楕円率の測定には、偏光・位相差測定システム(Axometrics製「AxoScan」)を用いた。偏光子の吸収軸方向に対して方位角45°の方向を回転軸として、偏光板を45°傾けた状態で、アクリルフィルム側から光を入射し、位相差フィルム側から出射した光の楕円率を測定した。位相差フィルムのA面を偏光子と貼り合わせた試料についても楕円率の測定を行い、それぞれの試料における波長450nm~700nmの範囲における10nmごとの楕円率の値から、表裏の楕円率差ΔEを算出した。
【0097】
<液晶表示装置の黒輝度およびコントラスト>
IPS方式の液晶パネルを備える市販の液晶テレビから液晶パネルを取り出し、液晶セルから視認側の偏光板を剥がし、アクリル系粘着剤を介して、上記の偏光板を貼り合わせた。視認側偏光板を上記の実施例および比較例の偏光板に貼り替えた液晶パネルをバックライトと組み合わせて、評価用液晶表示装置を作製した。
【0098】
液晶表示装置を黒表示として、方位角45°、極角45°方向における輝度(黒輝度)を測定した。また、液晶表示装置を白表示として、方位角45°、極角45°方向における輝度(白輝度)を測定し、コントラスト(白輝度/黒輝度)を算出した。
【0099】
<評価結果>
実施例および比較例の位相差フィルムの作製条件(乾燥温度および時間)、波長550nmにおける正面レターデーションRe(550)、表裏の楕円率差ΔE、液晶表示装置の黒輝度およびコントラストを表1に示す。なお、黒輝度およびコントラストは、比較例1を100とした相対値で示している。
【0100】
比較例1、実施例1、実施例3、実施例5および実施例6の楕円率の測定結果を、図19に示す。また、各実施例および比較例の位相差フィルムの表裏の楕円率差ΔEを横軸、液晶表示装置の黒輝度を縦軸にプロットしたグラフを図20に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、支持体上で高温・長時間の加熱乾燥を行うことにより、表裏の楕円率差ΔEの大きい位相差フィルムを形成できることが分かる。
【0103】
表裏の楕円率差がない位相差フィルムを用いた比較例1に比べて、表裏の楕円率が異なる位相差フィルムを用いた実施例1~6では、液晶表示装置の黒輝度が小さく、コントラストが上昇していた。表裏の楕円率差ΔEに対して黒輝度をプロットした図20は、図13のシミュレーション結果と高い整合を示した。
【0104】
以上の結果から、厚み方向で分子の配向状態が異なり表裏の楕円率差を有する位相差フィルムを用いることにより、複数の位相差フィルムを積層した場合と同様の光学補償を実現し、光漏れが少なくコントラストの高い画像表示装置を形成できることが分かる。
【符号の説明】
【0105】
10 位相差フィルム
20,21,2329 偏光子
40,41,42 透明フィルム
51,52,56,57,58 偏光板
66,68 粘着剤層
70 液晶セル
101~104 液晶パネル
105 光源
201~204 液晶表示装置
図1
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図20