(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】航空機の翼および翼端装置
(51)【国際特許分類】
B64C 3/10 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
B64C3/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019077998
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-03-23
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510286488
【氏名又は名称】エアバス オペレーションズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】ベン コミス
(72)【発明者】
【氏名】ニール ライオンズ
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-503140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の翼であって、
主翼と、該主翼の先端の翼端装置と、を備え、
前記翼端装置はウイングレットで、
前記翼端装置は、上面および下面を形成する上側スキンおよび下側スキンを含み、前記上側スキンおよび下側スキンの各々は、前記翼端装置の前縁と後縁との間に及び、複数の局所的な翼型を画定し、
前記翼端装置は、Droop
LE
によって定義される前縁ドループを有し、
前記ウイングレット上での各展開された翼幅方向位置でのDroop
LE
は、後縁点と、基準の翼弦方向位置における局所的な翼型断面の上面と下面との間の中点に位置する基準点と、を通る基準線から下面に向かう、該基準線に垂直な線に沿った前縁点のオフセット距離を、局所的な翼弦長さで割った値で、
該翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置について変化
し、
前記翼端装置の前記前縁ドループは、該翼端装置の外側領域において最大で、前記前縁ドループはその最大値から外側に、前記翼端装置の先端に向かって縮小している、航空機の翼。
【請求項2】
前記前縁ドループは、前記翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように変化している、請求項
1に記載の航空機の翼。
【請求項3】
前記前縁ドループは、前記翼端装置の迎え角が大きくなるにつれて、前記流れの分離が内側に移動するように変化している、請求項
2に記載の航空機の翼。
【請求項4】
前記翼端装置がその内側端から延びる移行領域を含み、該移行領域における前記前縁ドループは、内側方向に、前記主翼の外側端の前記前縁ドループの値に近づいている、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の航空機の翼。
【請求項5】
前記翼端装置が外側方向に増加する上反角を有する
か、
かつ/あるいは後退する、請求項
1~
4のいずれか一項に記載の航空機の翼。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の航空機の
翼を備える、航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翼端装置を有する航空機の翼および該翼端装置に関する。本発明はまた、翼端装置を有する航空機の翼を備える航空機に関する。本発明はまた、翼端装置、航空機の翼および航空機の設計方法および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
翼端装置は、主に揚力誘起抗力を減少させることによって、固定翼機の性能を改善するために使用されている。これによって翼形抗力が増加する可能性はあるが、全体的な揚抗比が増加する。これは、旅客機で特に重要な燃料効率を向上させる。
【0003】
翼端装置は、設計して構築するのが比較的複雑な構造である。それらは、主に高速性能を改善するように設計されている。しかしながら、それらは、次善の低速性能およびハンドリング特性を提供することができる。
【0004】
本発明は、上述の問題の少なくともいくつかに対処し、あるいはそれらを軽減しようとするものである。代替的に、あるいは付加的に、本発明は、翼端装置を備える改良された航空機の翼を提供しようとするものである。代替的に、あるいは付加的に、本発明は、航空機の翼で使用するための改良された翼端装置を提供しようとするものである。代替的に、あるいは付加的に、本発明は、翼端装置を有する翼を備える改良された航空機を提供しようとするものである。代替的に、あるいは付加的に、本発明は、翼端装置、航空機の翼または翼端装置を有する航空機の改良された設計方法を提供しようとするものである。代替的に、あるいは付加的に、本発明は、翼端装置、航空機の翼または翼端装置を有する航空機の改良された製造方法を提供しようとするものである。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、主翼と、該主翼の先端の翼端装置と、を備える、航空機の翼が提供され、該翼端装置は、翼端装置上の流れの分離が翼端装置の外側領域で最初に発生するように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0006】
翼端装置上の流れの分離が翼端装置の外側領域で最初に発生するように翼端装置の前縁ドループを変化させることは、流れの分離の開始と、翼端装置上の流れが完全に分離される点と、の間の期間を延ばすことができる点で有利である。
【0007】
これにより、低速でのより良性で対称的な操作特性とともに、航空機の操縦フライトエンベロープの大部分にわたって広がる低速抗力の改善がもたらされ得る。
【0008】
これはまた、流れの分離が発生し始める迎え角を大きくし得る。
【0009】
翼端装置の「内側(インボード)」および「外側(アウトボード)」領域への言及は、翼端装置の展開された翼幅に関連するものである。同様に、「内側」および「外側」への言及は、翼端装置に関連するものであり、該翼端装置の展開された翼幅に沿った内側および外側をいう。
【0010】
当業者は、「展開された翼幅」という用語を、非平面の翼端装置の文脈において理解するであろう。展開された翼幅方向位置は、Y-Z平面に平行な平面(すなわち、航空機のYおよびZ座標軸の両方に平行な平面)上に投影されたときの、翼端装置の前縁に沿った(翼端装置の内側端からの)距離として測定されることが確認されている。
【0011】
本発明の実施形態において、外側領域は、展開された翼端装置の外側半分であり、すなわち、0.5<η≦1である。この点において、外側領域は、翼端装置の展開された翼幅に沿って半分に位置する位置である、展開された半翼幅位置の外側の領域である。
【0012】
内側領域は、展開された翼端装置の内側半分であり、すなわち、0≦η<0.5である。この点において、内側領域は、展開された半翼幅位置の内側の領域である。
【0013】
本発明の実施形態において、前縁ドループの変化は、翼端装置上の流れの分離が、該翼端装置の展開された外側半分で最初に発生するようになっている。
【0014】
任意に、前縁ドループの変化は、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するようになっている。
【0015】
翼端装置の先端の近位領域は、翼端装置の0.7≦η≦1の領域とすることができ、好ましくは0.8≦η≦1、より好ましくは0.9≦η≦1、さらに好ましくは0.95≦η≦1の領域とすることができる。
【0016】
任意に、前縁ドループの変化は、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端で最初に発生するようになっている。
【0017】
任意に、流れの分離が、翼端装置の外側領域で、好ましくは翼端装置の先端の近位領域で最初に発生するように、翼端装置の前縁ドループは、展開された翼幅方向位置で最大となる。
【0018】
任意に、翼端装置の前縁ドループは、該翼端装置の外側領域において最大である。
【0019】
これは、流れの分離が翼端装置の外側領域で最初に発生することを促進し得る点で有利である。この点において、これは、流れの分離が、前縁ドループが最大である位置の外側の領域で最初に発生することを促進し得る。
【0020】
任意に、最大の前縁ドループは、η≧0.6である展開された翼幅方向位置にある。
【0021】
本発明の実施形態において、前縁ドループは、翼端装置の先端より内側の位置で最大となる。任意に、前縁ドループは、η≦0.9、好ましくはη≦0.8である展開された翼幅方向位置で最大である。任意に、最大の前縁ドループは、0.6≦η≦0.9、好ましくは0.6≦η≦0.8である展開された翼幅方向位置にある。
【0022】
任意に、前縁ドループは、その最大値から外側に、翼端装置の先端に向かって縮小している。任意に、前縁ドループは、前縁ドループが最大である位置で、その最大値から外側に、翼端装置の先端に向かって縮小している。
【0023】
これは、有利には、流れの分離が、翼端装置の先端に向かって最初に発生することを促進し得る。
【0024】
任意に、前縁ドループは、その最大値から、翼端装置の先端まで減少している。
【0025】
本発明の実施形態において、翼端装置の先端の前縁ドループは、前縁ドループの最大値よりも小さい。
【0026】
本発明の実施形態において、前縁ドループは、その最大値から、翼端装置の先端まで、連続的に縮小している。
【0027】
任意に、翼端装置の先端の前縁ドループは、翼端装置の前縁ドループの最小値である。
【0028】
任意に、前縁ドループの変化は、翼端装置の迎え角が大きくなるにつれて、流れの分離が内側に移動するようになっており、好ましくは、迎え角が大きくなるにつれて、流れの分離が徐々に内側に移動するようになっている。
【0029】
任意に、前縁ドループは、その最大値から内側に、翼端装置の内側端に向かって縮小している。
【0030】
本発明の実施形態において、翼端装置の内側端の前縁ドループは、前縁ドループの最大値よりも小さい。
【0031】
任意に、翼端装置は、その内側端から延びる移行領域を含み、該移行領域における前縁ドループは、内側方向に、主翼の外側端の前縁ドループに近づいている。
【0032】
これは、翼端装置の前縁ドループが主翼の先端の前縁ドループに滑らかに調和することを可能にし、それによって、前縁ドループが不連続になる(したがって、その位置の空力特性が不連続になる)のを回避できる点で有利である。
【0033】
任意に、翼端装置の内側端の前縁ドループは、主翼の先端の前縁ドループと同じ、あるいはそれよりも小さい。
【0034】
任意に、移行領域の外側端の前縁ドループは、最大の前縁ドループよりも小さい。
【0035】
本発明の実施形態において、移行領域の外側端は、翼端装置の内側領域にある。任意に、移行領域の外側端は、0<η≦0.3、好ましくは0<η≦0.2である翼幅方向位置にある。
【0036】
任意に、翼端装置は、外側方向に増加する上反角を有する。
【0037】
任意に、翼端装置は、その先端に向かって上向きに湾曲している。好ましくは、翼端装置は、湾曲した非平面の翼端装置である。前縁ドループの変化は、湾曲した非平面の翼端装置と併用した場合に特に有利である。
【0038】
任意に、翼端装置は後退している。
【0039】
任意に、平面視において前縁が湾曲しているように、翼端装置の前縁後退角度が外側方向に増加している。
【0040】
本発明の実施形態において、翼端装置の前縁ドループの最大位置から該翼端装置の先端まで延びる翼端装置の領域が、先端領域である。
【0041】
本発明の実施形態において、移行領域の外側端から前縁ドループの最大位置まで延びる翼端装置の領域が、中間領域である。
【0042】
好ましくは、中間領域が翼端装置の主領域であり、移行領域および先端領域は副領域である。この点において、好ましくは、中間領域は、移行領域および先端領域のそれぞれよりも、展開された翼幅が大きい。
【0043】
好ましくは、中間領域の展開された翼幅の、先端領域の展開された翼幅に対する比は、1.5以上である。好ましくは、中間領域の展開された翼幅の、移行領域の展開された翼幅に対する比は、2.5以上である。
【0044】
好ましくは、中間領域の前縁の掃引角は、(平面視において)前縁が湾曲するように外側方向に増加している
【0045】
好ましくは、中間領域の上反角は、前縁が上向きに湾曲するように外側方向に増加している。
【0046】
好ましくは、先端領域は先端形状と調和し、例えば、丸みを帯びた端またはキュッヘマン翼端(Kuchemann tip)を形成している。
【0047】
好ましくは、翼端装置はウイングレットである。好ましくは、翼端装置は、湾曲した非平面のウイングレットである。
【0048】
好ましくは、翼端装置は、例えば、スラットまたはフラップなどのいずれの高揚力装置も有していない。
【0049】
本発明の第2の態様によれば、翼端装置が提供され、該翼端装置は、該翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0050】
本発明の第2の態様の翼端装置は、本発明の第1の態様における翼端装置として使用され得る。本発明の第2の態様の翼端装置は、本発明の第1の態様における翼端装置の任意の特徴を有し得る。
【0051】
本発明の第3の態様によれば、主翼と、該主翼の先端の翼端装置と、を備える、航空機の翼が提供され、該翼端装置は、該翼端装置の前縁ドループが、該翼端装置の外側領域で最大となるように、展開された翼幅方向位置について前縁ドループが変化している。
【0052】
本発明の第3の態様の航空機の翼は、本発明の第1の態様の航空機の翼の任意の特徴を有し得る。本発明の第3の態様における翼端装置は、本発明の第1の態様における翼端装置の任意の特徴を有し得る。
【0053】
本発明の第4の態様によれば、翼端装置が提供され、該翼端装置は、該翼端装置の外側領域において該翼端装置の前縁ドループが最大となるように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置についての変化している。
【0054】
本発明の第4の態様の翼端装置は、本発明の第3の態様における翼端装置として使用され得る。本発明の第4の態様の翼端装置は、本発明の第1の態様における翼端装置の任意の特徴を有し得る。
【0055】
本発明の第5の態様によれば、本発明の前述の態様のいずれかに従う航空機の翼または翼端装置を備える航空機が提供される。
【0056】
本発明の実施形態において、航空機は、一対の航空機の翼を備える。
【0057】
好ましくは、航空機は、多数の乗客、好ましくは50人を超える乗客を収容するための座席ユニットの複数の行および列を含む客室を有する、旅客機である。好ましくは、航空機は、動力付きの航空機であり、航空機を推進するために翼に取り付けられた一対のエンジンを備える。
【0058】
本発明の第6の態様によれば、航空機の翼の一部として使用される翼端装置の設計方法が提供され、当該方法は、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置について変化している翼端装置を設計するステップを含む。
【0059】
任意に、当該方法は以下のステップを含む:
(i)高速設計要件を満たすように、その展開された翼幅にわたって前縁ドループを有しない翼端装置を設計するステップ;
(ii)翼端装置の上記設計に、展開された翼幅方向位置について前縁ドループの変化を適用して、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するようにするステップ。
【0060】
本発明の第7の態様によれば、主翼と、該主翼の先端の翼端装置と、を備える、航空機の翼の設計方法が提供され、当該方法は、本発明の第6の態様に従って翼端装置を設計するステップを含む。
【0061】
本発明の第8の態様によれば、本発明の第7の態様に従って航空機の翼を設計するステップを含む、航空機の設計方法が提供される。
【0062】
本発明の第9の態様によれば、本発明の第6の態様に従って翼端装置を設計するステップと、その設計に従って翼端装置を製造するステップと、を含む、翼端装置の製造方法が提供される。
【0063】
本発明の第10の態様によれば、本発明の第7の態様に従って航空機の翼を設計するステップと、その設計に従って航空機の翼を製造するステップと、を含む、航空機の翼の製造方法が提供される。
【0064】
本発明の第11の態様によれば、本発明の第8の態様に従って航空機を設計するステップと、その設計に従って航空機を製造するステップと、を含む、航空機の製造方法が提供される。
【0065】
好ましくは、前縁ドループは、パラメータDroopLEによって定義される。この点について、前縁ドループへの言及は、好ましくは、パラメータDroopLEをいい、前縁ドループの上記で定義された変化およびその相対量は、好ましくは、パラメータDroopLEの対応する変化および相対量をいう。
【0066】
展開された翼幅方向位置のそれぞれにおけるDroopLEの値は、後縁点と、基準の翼弦方向位置における局所的な翼型断面の上面と下面との間の中点に位置する基準点と、を通る基準線から下面に向かう、該基準線に垂直な線に沿った前縁点のオフセット距離を、局所的な翼弦長さで割った値である。
【0067】
基準の翼弦方向位置は、それが「非ドループの」断面にあるのに十分に後方の翼型断面内にあるように選択される。
【0068】
好ましくは、基準点は、前縁点から後方に局所的な翼弦長さの0.3以上(すなわち、x/c≧0.3)離れて位置している。
【0069】
好ましくは、基準点は、前縁点から後方に局所的な翼弦長さの0.3(すなわち、x/c=0.3)だけ離れて位置している。
【0070】
好ましくは、翼端装置は、該翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、DroopLEが、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0071】
任意に、DroopLEは、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置についての変化している。
【0072】
任意に、DroopLEは、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置についての変化している。
【0073】
任意に、翼端装置のDroopLEは、該翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で、好ましくは該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置で最大となる。
【0074】
任意に、翼端装置のDroopLEは、翼端装置の外側領域で最大である。
【0075】
任意に、DroopLEは、η≧0.6である展開された翼幅方向位置で最大値をとる。
【0076】
本発明の実施形態において、DroopLEは、翼端装置の先端より内側の位置で最大値をとる。任意に、DroopLEは、η≦0.9、好ましくはη≦0.8である展開された翼幅方向位置で最大値をとる。任意に、DroopLEは、0.6≦η≦0.9、好ましくは0.6≦η≦0.8である展開された翼幅方向位置で最大値をとる。
【0077】
任意に、DroopLEは、その最大値から外側に、翼端装置の先端に向かって減少する。
【0078】
任意に、DroopLEは、その最大値から、翼端装置の先端まで減少する。
【0079】
本発明の実施形態において、翼端装置の先端のDroopLEは、DroopLEの最大値よりも小さい。
【0080】
本発明の実施形態において、DroopLEは、その最大値から、翼端装置の先端まで徐々に減少する。
【0081】
任意に、翼端装置の先端のDroopLEの値は、翼端装置のDroopLEの最小値である。
【0082】
任意に、DroopLEは、翼端装置の迎え角が大きくなるにつれて、流れの分離が内側に移動するように、好ましくは、該迎え角が大きくなるにつれて、流れの分離が内側に徐々に移動するように変化している。
【0083】
任意に、DroopLEは、その最大値から内側に、翼端装置の内側端に向かって減少する。
【0084】
本発明の実施形態において、翼端装置の内側端のDroopLEの値は、DroopLEの最大値より小さい。
【0085】
任意に、移行領域において、DroopLEの値は、主翼の外側端のDroopLEの値に近づいている。
【0086】
任意に、翼端装置の内側端のDroopLEの値は、主翼の先端のDroopLEの値と同じか、あるいはそれよりも小さい。
【0087】
任意に、移行領域の外側端のDroopLEの値は、DroopLEの最大値よりも小さい。
【0088】
好ましくは、DroopLEの最大値の、翼端装置の先端のDroopLEの値に対する比は、2以上である。任意に、翼端装置の先端のDroopLEの値は、0.02以下である。
【0089】
任意に、DroopLEの最大値の、翼端装置の内側端のDroopLEの値の比は、1.5以上である。
【0090】
本発明の実施形態において、DroopLEが最大値をとる位置から翼端装置の先端まで延びる翼端装置の領域が、先端領域である。本発明の実施形態において、移行領域の外側端からDroopLEが最大値をとる位置まで延びる翼端装置の領域が、中間領域である。
【0091】
好ましくは、本発明の第6の態様の方法は、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、DroopLEが、展開された翼幅方向位置について変化している翼端装置を設計するステップを含む。
【0092】
任意に、この方法は以下のステップを含む:
(i)高速設計要件を満たすように、その展開された翼幅にわたってDroopLEがゼロである翼端装置を設計するステップ;
(ii)翼端装置の上記設計に、展開された翼幅方向位置についてDroopLEの変化を適用して、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するようにするステップ。
【0093】
代替的に、あるいは付加的に、前縁ドループは、パラメータY5Upperによって定義され得る。この点において、前縁ドループへの言及は、好ましくは、パラメータY5Upperをいい、前縁ドループの上記で定義された変化およびその量は、好ましくは、パラメータY5Upperの対応する変化および量をいう。
【0094】
展開された翼幅方向位置のそれぞれにおけるY5Upperの値は、翼弦線と垂直であり、かつ前縁点の後方に局所的な翼弦長さの0.05だけ離れた位置(すなわち、x/c=0.05)で翼弦線と交差する線に沿った、局所的な翼弦線からの局所的な翼型断面の上面の距離を、局所的な翼弦長さで割った値である。
【0095】
好ましくは、翼端装置は、該翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、Y5Upperが、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0096】
任意に、Y5Upperは、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように変化している。
【0097】
任意に、Y5Upperは、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端で最初に発生するように変化している。
【0098】
任意に、翼端装置のY5Upperは、流れの分離が翼端装置の外側の領域で、好ましくは翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置で最大となる。
【0099】
任意に、翼端装置のY5Upperは、該翼端装置の外側領域で最大である。
【0100】
任意に、翼端装置のY5Upperは、η≧0.6である展開された翼幅方向位置で最大値をとる。
【0101】
本発明の実施形態において、Y5Upperは、翼端装置の先端より内側の位置で最大値をとる。
任意に、Y5Upperは、η≦0.9、好ましくはη≦0.8である展開された翼幅方向位置で最大値をとる。任意に、Y5Upperは、0.6≦η≦0.9.好ましくは0.6≦η≦0.8である展開された翼幅方向位置で最大値をとる。
【0102】
任意に、Y5Upperは、その最大値から外側に、翼端装置の先端に向かって減少している。
【0103】
任意に、Y5Upperは、その最大値から外側に、翼端装置の先端まで減少している。
【0104】
本発明の実施形態において、翼端装置の先端のY5Upperの値は、Y5Upperの最大値よりも小さい。
【0105】
本発明の実施形態において、Y5Upperは、その最大値から、翼端装置の先端まで徐々に減少している。
【0106】
任意に、翼端装置の先端のY5Upperの値は、該翼端装置のY5Upperの最小値である。
【0107】
任意に、Y5Upperは、翼端装置の迎え角が大きくなるにつれて、流れの分離が内側に移動するように、好ましくは、該迎え角が大きくなるにつれて、流れの分離が内側に徐々に移動するように変化している。
【0108】
任意に、Y5Upperは、その最大値から内側に、翼端装置の内側端に向かって減少している。
【0109】
本発明の実施形態において、翼端装置の内側端のY5Upperの値は、Y5Upperの最大値よりも小さい。
【0110】
任意に、移行領域において、Y5Upperの値は、主翼の外側端のY5Upperの値に近づいている。
【0111】
任意に、翼端装置の内側端のY5Upperの値は、主翼の先端のY5Upperの値と同じであるか、あるいはそれよりも小さい。
【0112】
任意に、移行領域の外側端のY5Upperの値は、Y5Upperの最大値よりも小さい。
【0113】
好ましくは、Y5Upperの最大値の、先端のY5Upperの値に対する比は、1.3以上である。
【0114】
任意に、Y5Upperの最大値の、翼端装置の内側端のY5Upperの値に対する比は、1.3以上である。
【0115】
任意に、翼端装置の先端のY5Upperの値は、0.04以下である。
【0116】
任意に、Y5Upperの最大値の、移行領域の外側端のY5Upperの値に対する比は、1.1以上である。
【0117】
本発明の実施形態において、Y5Upperが最大値をとる位置から翼端装置の先端まで延びる翼端装置の領域が、先端領域である。本発明の実施形態において、移行領域の外側端からY5Upperが最大値をとる位置まで延びる翼端装置の領域が、中間領域である。
【0118】
好ましくは、本発明の第6の態様の方法は、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、Y5Upperが、展開された翼幅方向位置について変化している翼端装置を設計するステップを含む。
【0119】
任意に、この方法は以下のステップを含む:
(i)高速設計要件を満たすように、Y5Upperの値が、翼端装置がその展開された翼幅にわたって前縁ドループを有しないような値である翼端装置を設計するステップ;
(ii)翼端装置の上記設計に、展開された翼幅方向位置についてY5Upperの変化を適用することによって、前縁ドループに変化を適用して、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するようにするステップ。
【0120】
好ましくは、前縁ドループは、パラメータDroopLEおよびY5Upperの組合せによって定義される。この点において、前縁ドループへの言及は、好ましくは、パラメータDroopLEおよびY5Upperの両方をいい、前縁ドループの上記で定義された変化およびその相対量は、好ましくは、パラメータDroopLEおよびY5Upperの両方の対応する変化および相対量をいう。
【0121】
好ましくは、翼端装置は、該翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、DroopLEおよびY5Upperが、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0122】
任意に、DroopLEおよびY5Upperは、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0123】
任意に、DroopLEおよびY5Upperは、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の先端で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0124】
任意に、翼端装置のDroopLEおよびY5Upperは、流れの分離が翼端装置の外側領域で、好ましくは該翼端装置の先端または該先端の近位領域で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置で最大となる。
【0125】
任意に、翼端装置のDroopLEおよびY5Upperは、翼端装置の外側領域で最大である。
【0126】
好ましくは、本発明の第6の態様の方法は、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するように、展開された翼幅方向位置についてDroopLEおよびY5Upperが変化している翼端装置を設計するステップを含む。
【0127】
任意に、この方法は以下のステップを含む:
(i)高速設計要件を満たすように、DroopLEが、その展開された翼幅にわたってゼロであり、かつY5Upperの値が、その展開された翼幅にわたって前縁ドループを有しないような値である、翼端装置を設計するステップ;
(ii)翼端装置の上記設計に、展開された翼幅方向位置についてDroopLEおよびY5Upperに変化を適用して、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するようにするステップ。
【0128】
本発明の上記の態様はいずれも、本発明の他の態様の特徴のいずれかと組み合わせることができる。例えば、上記の態様のいずれの方法も、本発明の他の態様のいずれかの航空機の翼または翼端装置の特徴を含むことができ、またその反対も同様である。
【0129】
本発明の他の好適かつ有利な特徴は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0130】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態を例示的にのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【
図1】本発明の一実施形態に従う航空機の正面図である。
【
図2】
図1に示す航空機の、上から見た平面図である。
【
図3】
図1および2に示す航空機の、右側のウイングレットを上から見た平面図である。
【
図5】
図3および4に示すウイングレットの斜視図である(例示的な局所的な翼型が点線で示されている)。
【
図6】
図3~5に示すウイングレットの局所的な翼型の概略図であり、ウイングレットの前縁ドループの義定に使用されるパラメータを示す図である。
【
図7】ウイングレットに沿って展開された翼幅方向位置(η)についての、前縁ドループのパラメータDroop
LEおよびY5
Upperの変化を示す図である。
【
図8】本発明の他の実施形態による、航空機の翼の設計方法および製造方法のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0132】
図1は、本発明の一実施形態に従う航空機1を示す。航空機1は、一対の翼2を備える民間ジェット機である。航空機1は、多数の乗客、本実施形態では50人を超える乗客を収容するための座席ユニットの複数の行および列を含む客室を備える、旅客機である。航空機1は、動力付きの航空機であり、航空機1を推進するために翼2の下に取り付けられた一対のエンジンを備えている。
【0133】
図1および2を参照すると、航空機1は、航空機の重心を原点として該航空機1の胴体の中心線(CL)と平行に前方に向かう縦(ロール)軸(X)と、同じく航空機の重心を原点として該航空機1の翼端から翼端まで引いた線に平行(すなわち、翼幅方向に平行)に、該航空機1の右(右側)に向かう横(ピッチ)軸(Y)と、同じく航空機の重心を原点として、縦軸(X)および横軸(Y)の両方に垂直に、該航空機1の底に向かう上下(ヨー)軸(Z)と、を有する。
【0134】
各翼2は、主翼3と、主翼3の外側先端6に取り付けられたウイングレット4の形態の翼端装置と、を備える。各翼2は同一であるため、以下では、一方の翼(右舷翼)2だけを説明する。この翼2の説明は、他方の翼(左舷翼)2にも同様に適用されることが理解されよう。
【0135】
航空機1は、総翼幅(b)を有し、各翼2は、半翼幅(s)を有する。
【0136】
各翼2について、主翼3は、航空機の胴体との交点に位置する根元5から先端6まで、翼幅方向外側に延びている(
図2参照)。主翼3は、先細りに後退している。この点について、主翼3は、それぞれ後退している前縁31および後縁32を有し、後縁32は前縁31よりもわずかに小さく後退している。
【0137】
図3~5を参照すると、各ウイングレット4は、主翼3の外側先端6に取り付けられた内側端7から先端8まで外側に延びている。ウイングレット4はまた、前縁9から後縁10へ翼弦方向に延びている。
【0138】
ウイングレット4は、非平面であり、先端8に向かって外側に延びるにつれて上向きに湾曲している。局所的な上反角の曲度は、主翼3の外側端またはその付近で、低角度またはほぼゼロの角度から増加し、外側方向で大きくなる。ウイングレット4の先端8は、ほぼ垂直であるが、垂直面に対して小さな角度で傾斜している。
【0139】
ウイングレット4は後退している。この点について、ウイングレット4の前縁9は湾曲しており、ウイングレット4が翼幅方向外側に延びるにつれて、ウイングレット4の前縁の掃引角は増加している。ウイングレット4の後縁10もまた、ウイングレット4が翼幅方向外側に延びるにつれて、ウイングレット4の後縁10の掃引角はわずかに増加している。
【0140】
ウイングレット4の前縁9および後縁10は、主翼3の前縁31および後縁32から連続している。さらに、ウイングレット4の上面19および下面20(以下、参照)は、主翼3の上面および下面から連続している。したがって、主翼3からウイングレット4に滑らかに移行している。
【0141】
主翼3とウイングレット4との間の接合部に掃引またはねじれの変化があったとしても、滑らかに移行し得ることが理解されよう。しかしながら、主翼3とウイングレット4との間の接合部が不連続でないことが好ましい。
【0142】
ウイングレット4は、翼2上の揚力誘起抗力を減少させるために使用され、燃費の向上および炭素排出量の削減につながる。説明中の実施形態において、ウイングレット4は、主翼3に固定されている。
【0143】
ウイングレット4は、該ウイングレット4の上面19および下面20(
図4参照)を形成する、上側スキンおよび下側スキンを含む。上面19および下面20は、飛行中に気流にさらされる上側および下側の空力面である。
【0144】
ウイングレット4に沿う展開された翼幅方向位置を定義するために、無次元パラメータ「η」を使用する。この点について、
η=yW/sW
ここで:
yW=Y-Z平面(すなわち、航空機のY軸およびZ軸の両方に平行な平面)に平行な平面上に投影したときの(ウイングレットの内側端からの)ウイングレットの前縁に沿った距離;
sW=Y-Z平面に平行な平面上におけるウイングレットの前縁の投影の端から端までの全長。
【0145】
この点において、「sW」は、ウイングレットの「展開された翼幅」、すなわちウイングレットが平坦に展開されたときの該ウイングレットの翼幅であり、「yW」は、ウイングレットの展開された翼幅に沿った距離である。さらに、「η」は、外側方向に展開された翼幅に沿う(展開された翼幅の)割合である(η=0は、ウイングレット4の内側端7に対応し、η=1は、ウイングレット4の先端8に対応する)。
【0146】
この点において、ηは、ウイングレット4に沿う展開された翼幅方向の位置に対応している。
【0147】
なお、yWおよびsWは、距離の単位が同一であり(同一である限り、任意の単位を有することができ)、よってηは無次元パラメータであることが理解されよう。
【0148】
ウイングレットが(実際に)フラットである場合、その「展開された」翼幅は、ウイングレットの実際の翼幅であることも理解されよう。
【0149】
ウイングレット4は、内側領域(
図3では、「I」と表示されている)および外側領域(
図3では、「O」と表示されている)を含む。「内側」および「外側」領域への言及は、ウイングレット5の展開された翼幅に関連している。同様に、ウイングレット4に関連する「内側」および「外側」への言及は、該ウイングレット4の展開された翼幅に沿う内側方向および外側方向をいう。
【0150】
内側領域(I)は、ウイングレット4の展開された半翼幅位置(M)の内側の領域であり、当該位置(M)は、ウイングレット4の展開された翼幅に沿って半分の位置(M)である。この点において、内側領域(I)は、展開されたウイングレット4の内側半分であり、すなわち、0≦η<0.5である。外側領域(O)は、展開された半翼幅位置(M)の外側の領域である。この点において、外側領域(O)は、展開されたウイングレット4の外側半分であり、すなわち、0.5<η≦1である。
【0151】
図3を参照すると、ウイングレット4は、移行領域21、中間領域22および先端領域23を含む。移行領域21は、ウイングレット4の内側端7(ウイングレット4に沿って展開された翼幅方向位置Aに位置する)から外側端(ウイングレット4に沿って展開された翼幅方向位置Bに位置する)まで延びている。移行領域において、ウイングレット4は、主翼3の先端6に調和している。
【0152】
中間領域22は、移行領域21の外側端から、ウイングレット4の展開された翼幅方向位置Cに位置する外側端まで延びている。
【0153】
先端領域23は、中間領域22の外側端から、ウイングレット4の先端8(ウイングレット4の展開された翼幅方向位置Dに位置する)にある外側端まで延びている。
【0154】
現在説明している実施形態において、移行領域21の外側端(展開された翼幅方向位置B)は、η=0.2に位置し、中間領域22の外側端(展開された翼幅要綱位置C)は、η=0.7に位置している。
【0155】
ここで、ウイングレット4の形状、特に、展開された翼幅方向位置を有するウイングレット4の前縁ドループにおける変化を定義するための様々なパラメータについて説明する。
【0156】
図5を参照すると、各翼幅方向位置での局所的な翼型(ローカルエアフォイル)40’が、ウイングレット4と、Y-Z平面に平行な平面(すなわち、航空機のY軸およびZ軸の両方に平行な平面)上における4半分の翼弦線の投影(すなわち、x/c=0.25;
図5においてx/c=0.25と表示された破線を参照)の局所方向に垂直な平面との交差によって形成される断面形状として定義されている。
【0157】
局所的な翼型40’の全体の組み合わせにより、ウイングレット4の外形が画定される。
【0158】
図6は、ウイングレット4の局所的な翼型40’の(概念的に展開された翼幅方向での)概略図である。
図6は、概略図であり、縮尺通りではないことが理解されよう。
【0159】
各局所的な翼型40’は、前縁点9’、後縁点10’および局所的な翼弦線(c)を有する。後縁点10’は、そのような固有の点が存在するとすれば局所的な翼型40’の最後方点として、そうでなければすべての最後方点の重心として定義される。前縁点9’は、後縁点10’から最も離間した、局所的な翼型40’上の点として定義される。局所的な翼弦線(c’)は、前縁点9’と後縁点10’とをつなぐ直線である。局所的な翼弦(c)は、翼弦線(c’)の(すなわち、前縁点9’と後縁点10’との間の)長さである。
【0160】
また、
図6に示すように、局所的な翼型の最大厚t
maxは、局所的な翼型40’の上面19’と下面20’との間の、翼弦線(c’)に垂直な最大距離として定義される。
【0161】
説明中の実施形態において、ウイングレット4の迎え角は、飛行方向(F)とウイングレット4のルートコード(C
root)との間の角度(α)である(
図5参照)。しかしながら、ウイングレット4上の任意の適切な基準線が使用され得ることが理解されよう。
【0162】
ウイングレット4上の流れの分離が、該ウイングレット4の先端8の領域で最初に生じるように、ウイングレット4は、該ウイングレット4に沿って展開された翼幅方向位置に対して前縁ドループが変化している。
【0163】
ウイングレット4は、例えば、スラットまたはフラットなどの、いずれの可動式高揚力装置も有していない。
【0164】
図6はまた、前縁ドループを定義および定量化するために使用される様々なパラメータを示している。説明中の実施形態において、前縁ドループは、パラメータDroop
LEおよびY5
Upperによって定義および定量化される。
【0165】
ウイングレット4に沿った翼幅方向位置のそれぞれにおけるパラメータDroopLEは、後縁点10’と、基準の翼弦方向位置における局所的な翼型断面の上面19’と下面20’との間の中点に位置する基準点Gと、を通る基準線(e)から下面20’に向かう、該基準線(e)に垂直な線に沿った前縁点9’のオフセット距離(Dr)を、局所的な翼弦長さ(c)で割ったものである。
【0166】
基準の翼弦方向位置は、それが「非ドループの」断面にあるのに十分に後方の翼型断面内にあるように選択される。説明中の実施形態において、基準点Gは、前縁点9’の後方に0.3c(すなわち、局所的な翼弦長さ(c)の0.3)だけ離れて位置している。この位置は、x/c=0.3として定義され、xは、前縁点9’からの(後縁点10’に向かう)翼弦線(c’)に沿った距離であり、cは、局所的な翼弦長さである。
【0167】
基準の翼弦方向位置は、それが翼型の「非ドループの」断面にあるように、前縁点9’から十分に後方の、いずれの翼弦方向位置に位置していてもよい。好ましくは、基準点Gは、前縁点9’の後方に局所的な翼弦長さの0.3以上(すなわち、x/c≧0.3)、位置している。より好ましくは、基準点Gは、前縁点9の後方に局所的な翼弦長さ(c)の0.3(すなわち、x/c=0.3)だけ離れて位置している。
【0168】
図6を再び参照すると、パラメータY5
Upperは、翼弦線(c’)と垂直であり、かつ前縁点9’の後方に0.05cだけ離れた位置(すなわち、x/c=0.05)で翼弦線(c’)と交差する線に沿った、局所的な翼弦線(c’)からの局所的な翼型断面40’の上面19’の距離を、局所的な翼弦長さ(c)で割ったものである。
【0169】
図7において、下側の線(「Droop
LE」で表されている)は、ウイングレット4に沿って展開された翼幅方向位置(η)に対するDroop
LEの変化を示す。x軸(すなわち、Droop
LE=0)は、ゼロ前縁ドループでのDroop
LEの値を表している。
【0170】
上側の線(「Y5Upper」で表されている)は、ウイングレット4に沿って展開された翼幅方向位置(η)に対するY5Upperの変化を示す。水平の破線Nは、ゼロ前縁ドループでのY5Upperの値を表している。
【0171】
DroopLEおよびY5Upperの値は、η=0,0.2,0.7および1である展開された翼幅方向位置で示されている。これらの値間の一般的な変化を示すために、これらの点をつなぐ直線も示されている。しかしながら、これらの点の間の値は、これらの直線上にない場合もあることが理解されよう。
【0172】
前縁ドループが増加すると、翼型部のノーズ半径が増加してドループを収容する。
【0173】
ウイングレット4は、該ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレット4の外側領域(O)で最初に生じるように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置(η)について変化している。この点において、ウイングレット4は、該ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレット4の外側領域(O)で最初に生じるように、DroopLEおよびY5Upperが、展開された翼幅方向位置(η)について変化している。
【0174】
説明中の実施形態において、前縁ドループは、ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレットの先端8の近位領域で最初に生じるように、展開された翼幅方向位置(η)について変化している。この点において、説明中の実施形態では、η=0.95である翼幅方向位置(T)で、流れの分離が最初に生じる。
【0175】
前縁ドループは、該前縁ドループがウイングレット4の外側領域(O)において、該ウイングレット4の先端8の近位位置で最大であるように、展開された翼幅方向位置について変化している。この点において、DroopLEおよびY5Upperの値は、ウイングレット4の外側領域(O)において最大である。
【0176】
より詳細には、本実施形態において、前縁ドループは、η=0.7である展開された翼幅方向位置(C)において最大である。この点において、
図7に示すように、Droop
LEの最大値(P1)は、η=0.7で生じる。Y5
Upperの最大値(P1’)もまた、η=0.7で生じる。説明中の実施形態において、Droop
LEの最大値(P1)は0.041であり、Y5
Upperの最大値(P1’)は、0.048である。
【0177】
前縁ドループがウイングレット4の外側領域(O)で最大となる特徴は、それによって流れの分離がウイングレット4の外側領域(O)で最初に生じるのを促進し得る点で有利である。この点において、この特徴は、流れの分離が、前縁ドループが最大である位置の外側の領域で最初に生じるのを促進し得る。
【0178】
前縁ドループは、前縁ドループが最大である位置での、その最大値から外側に、ウイングレット4の先端に向かって縮小している。有利なことに、これは、流れの分離をウイングレット4の先端8に向かって最初に発生させ得る。
【0179】
この点において、ウイングレット4の先端8での前縁ドループは、前縁ドループの最大値よりも小さく、前縁ドループは、前縁ドループが最大である位置での、その最大値から、ウイングレット4の先端8まで、連続的に減少している。
【0180】
図7に示すように、Droop
LEの値は、前縁ドループが最大である位置での、その最大値(P1)から、ウイングレット4の先端8まで、連続的に減少している。同様に、Y5
Upperの値は、前縁ドループが最大である位置での、その最大値(P1’)から、ウイングレット4の先端8まで、連続的に減少している。
【0181】
ウイングレット4の先端8での前縁ドループは、ウイングレット4の前縁ドループの最小値である。この点において、
図7に示すように、Droop
LEおよびY5
Upperの値は、ウイングレット4の先端8でそれぞれ最小である。先端8での、Droop
LEの値は0.017であり、Y5
Upperの値は0.036である。
【0182】
好ましくは、先端8でのDroopLEの値に対する、DroopLEの最大値の比は、2以上である。好ましくは、先端8でのY5Upperの値に対する、Y5Upperの最大値の比は、1.3以上である。
【0183】
ウイングレット4の迎え角(α)が大きくなるにつれて、流れの分離が、該流れの分離が最初に発生する位置(T)から内側に徐々に移動するように、前縁ドループは、展開された翼幅方向位置について変化している。
【0184】
「内側に徐々に移動する」とは、流れの分離が最初に発生した場所(T)から該流れの分離が伝播することを意味しており、これは、流れの分離が、その伝播している流れの分離から離れた場所で瞬間的に発生することとは対照的である(例えば、翼端装置の全翼幅にわたって瞬間的に発生することとは対照的である)ことが理解されよう。
【0185】
この点において、前縁ドループは、展開された翼幅位置(C)でのその最大値から内側に、(展開された翼幅位置(A)での)ウイングレット4の内側端7に向かって縮小している。
【0186】
この点において、ウイングレット4の内側端7での前縁ドループは、前縁ドループの最大値よりも小さい。この点において、内側端7におけるDroopLEおよびY5Upperの値は、それらの最大値よりも小さい。
【0187】
本実施形態において、ウイングレット4の内側端7でのDroopLEの値は、0.028である。
【0188】
本実施形態において、ウイングレット4の内側端7でのY5Upperの値は、0.038である。
【0189】
移行領域21の外側端(B)は、η=0.2である翼幅方向位置にある。移行領域21では、前縁ドループが、内側方向に、主翼3の先端6での前縁ドループに近づいている。この点において、DroopLEおよびY5Upperの値は、主翼3の先端6でのDroopLEおよびY5Upperの値に近づく。これは、ウイングレット4の前縁ドループが、主翼3の先端6での前縁ドループと滑らかに調和することを可能にする点で有利であり、これによって、前縁ドループが不連続になること(したがって、その場所における空力特性が不連続になること)を回避することができる。
【0190】
説明中の実施形態において、ウイングレット4の内側端7での前縁ドループは、主翼3の先端6での前縁ドループと同じである。あるいは、ウイングレット4の内側端7での前縁ドループは、主翼3の先端6での前縁ドループよりも小さくてもよい。
【0191】
移行領域の外側端の前縁ドループは、最大の前縁ドループよりも小さい。この点において、移行領域の外側端のDroopLEの値は、DroopLEの最大値よりも小さい。同様に、移行領域の外側端のY5Upperの値は、Y5Upperの最大値よりも小さい。本実施形態において、移行領域21の外側端(B)でのDroopLEの値(P2)は、0.03である。DroopLEの最大値の、移行領域21の外側端(B)でのDroopLEの値に対する比は、1.37である。好ましくは、DroopLEの最大値の、移行領域21の外側端(B)でのDroopLEの値に対する比は、1.3以上である。本実施形態において、移行領域21の外側端(B)でのY5Upperの値(P2’)は、0.041である。Y5Upperの最大値の、移行領域21の外側端(B)でのY5Upperの値に対する比は、1.17である。好ましくは、Y5Upperの最大値の、移行領域21の外側端(B)でのY5Upperの値に対する比は、1.1以上である。
【0192】
本発明のさらなる実施形態によれば、航空機の翼2(すなわち、本発明の上記の実施形態における航空機の翼2)の設計方法105が提供される。この方法は、本発明のさらなる実施形態にしたがって、ウイングレット4を設計するステップを含む。この方法は、ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレット4の外側領域(O)で最初に発生するように、前縁ドループが、展開された翼幅方向位置に対して変化しているウイングレット4を設計するステップを含む。
【0193】
この点において、
図8を参照すると、この方法は以下のステップを含む:
(i)高速設計要件を満たすように、その展開された翼幅にわたって前縁ドループを有しない翼端装置を設計するステップ(ステップ101);
(ii)翼端装置の上記の設計に、展開された翼幅方向位置について前縁ドループの変化を適用して、翼端装置上の流れの分離が該翼端装置の外側領域で最初に発生するようにするステップ(ステップ102)。
【0194】
高速要件は、例えば、航空機1の運航速度での揚力誘起抗力を一定量低減するためのものであってもよい。
【0195】
航空機の翼2の製造方法(106)は、上記の方法(105)に従って航空機の翼を設計するステップと、当該設計に従って航空機の翼を製造するステップ(ステップ103)と、を含む。ウイングレット4の製造方法は、上記の方法に従ってウイングレットを設計するステップと、ウイングレットをその設計に製造するステップと、を含むことが理解されよう。
【0196】
本発明のさらなる実施形態にしたがう、航空機1の設計方法は、上記の方法(105)に従う航空機の翼を設計するステップを含み、該航空機の翼は、航空機の設計の一部である。
【0197】
本発明のさらなる実施形態にしたがう、航空機1の製造方法は、上記の方法に従って航空機を設計するステップと、その設計にしたがって航空機を製造するステップと、を含む。
【0198】
要約すると、本発明の実施形態において、ウイングレット4の前縁ドループの、展開された翼幅方向位置についての変化は、ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレットの外側領域内の場所で、特には、ウイングレット4の先端に向かう場所で最初に発生するようになっている。
【0199】
インボードの失速の進行と進展が遅れる。これは、ウイングレット低速特性を改善する。この点において、それは、ウイングレット上の流れが分離し始める航空機の発生率を増大させ、かつウイングレット上の流れの分離の開始と、ウイングレット上の流れが完全に分離される点と、の間の期間を延ばす。これは、より良性で対称的な操作特性とともに、航空機の操縦フライトエンベロープの大部分にわたって広がる低速抗力の改善をもたらす。
【0200】
したがって、これは、高速(例えば、運航速度)でのウイングレット4の性能に重大な影響を与えることなく、改善された低速操縦特性を提供する。
【0201】
特定の実施形態を参照して本発明を例示説明してきたが、当業者であれば、本発明は、本明細書に具体的に例示されていない多くの異なる変形形態に役立つことが理解されよう。
【0202】
説明中の実施形態において、前縁ドループは、パラメータDroopLEとY5Upperとの組み合わせによって定義される。前縁ドループは、これらのパラメータの1つだけによって定義されてもよく、例えば、前縁ドループは、DroopLEまたはY5Upperだけによって定義されてもよい。しかしながら、好ましくは、前縁ドループは、パラメータDroopLEおよびY5Upperの組み合わせによって定義される。
【0203】
説明中の実施形態において、前縁ドループは、ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレット4の先端8の領域内で最初に発生するように、ウイングレット4に沿って展開された翼幅方向位置に対して変化している。代替的に、あるいは付加的に、前縁ドループは、ウイングレット4上の流れの分離が該ウイングレット4の外側領域(O)内のいずれの場所でも最初に発生するように、変化していてもよい。しかしながら、流れの分離は、ウイングレット4の先端8の領域内で最初に発生することが好ましい。
【0204】
説明中の実施形態において、翼端装置は、湾曲した非平面のウイングレットである。しかしながら、翼端装置は、他のタイプのウイングレットまたは翼端装置であってもよく、例えば、レイクド・ウイングチップであってもよい。
【0205】
説明中の実施形態において、ウイングレット4は、主翼3に対して固定されている。代替的に、ウイングレット4は、主翼3に対して可動であってもよい。この点において、ウイングレット4は、主翼3に対して、飛行中に使用するための飛行構成と、地上での作業中に使用するための地上構成と、の間で回転可能であり、翼2の幅が縮小される。
【0206】
航空機は、有人機またはUAVなどの、任意の飛行機を含む、任意のタイプの航空機とすることができる。しかしながら、航空機は、好ましくは旅客機である。
【0207】
前述の説明において「または」が使用されている場合、これは、「および/または」を意味するものと解釈されたい。
【0208】
前述の説明において、既知の、明らかな、または予測可能な均等物を有する整数または要素が言及されている場合、そのような均等物は、あたかも個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本発明の真の範囲を決定するためには特許請求の範囲を参照するべきであり、特許請求の範囲は、そのような均等物を包含するように解釈されるべきである。また、好ましい、有利である、都合がよいなどとして記載されている本発明の整数または特徴は任意選択であり、独立請求項の範囲を制限しないことも読者には理解されよう。さらに、そのような任意の整数または特徴は、本発明のいくつかの実施形態では可能性のある利益となるが、他の実施形態では望ましくない可能性があるため、他の実施形態には存在しない可能性があることを理解されたい。