IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社FTSの特許一覧 ▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許-ブロー成形装置 図1
  • 特許-ブロー成形装置 図2
  • 特許-ブロー成形装置 図3
  • 特許-ブロー成形装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ブロー成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/42 20060101AFI20230724BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20230724BHJP
   B29C 48/69 20190101ALI20230724BHJP
【FI】
B29C49/42
B29C49/04
B29C48/69
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019085389
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020179624
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】308039414
【氏名又は名称】株式会社FTS
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大脇 優介
(72)【発明者】
【氏名】白井 浩史
(72)【発明者】
【氏名】小泉 順二
(72)【発明者】
【氏名】川地 隆一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正二
(72)【発明者】
【氏名】永井 琢也
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 応之介
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-198136(JP,A)
【文献】米国特許第04362688(US,A)
【文献】実開平07-011326(JP,U)
【文献】特開平05-245834(JP,A)
【文献】特開平05-309650(JP,A)
【文献】特開2001-105472(JP,A)
【文献】実公昭50-032533(JP,Y1)
【文献】特開2013-014031(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01683623(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/00-49/80
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をスクリューにより送り出す押出機と、
前記押出機から送り込まれた溶融樹脂をノズルから下向きに押し出してパリソンを成形するダイヘッドと、
前記押出機内の溶融樹脂に対し送出方向の移動を抑制する抗力を付与する抵抗付与手段とを備え
前記抵抗付与手段が、複数の貫通孔が形成され、前記押出機の下流端と前記ダイヘッドとの間に配置された抵抗部材を備え、
前記押出機は、前記スクリューが配される送出路と、前記送出路よりも小径の送出口と、を有し、
前記ダイヘッドは、前記送出口に接続される流入路を有し、
前記抵抗部材は、前記送出口と前記流入路との間に設けられていることを特徴とするブロー成形装置。
【請求項2】
前記ダイヘッドには、溶融樹脂を貯留する貯留室と、前記押出機から前記貯留室へ溶融樹脂が送り込まれるのに伴って前記貯留室の容積を増加させる方向へ変位する可動部材とが設けられており、
前記抵抗付与手段が、前記可動部材に対し前記貯留室の容積を減少させる方向の付勢力を付与する付勢機構を備えていることを特徴とする請求項1記載のブロー成形装置。
【請求項3】
前記付勢機構が、前記貯留室の容積を減少させる方向へ前記可動部材を駆動する流体圧シリンダを備えて構成されていることを特徴とする請求項記載のブロー成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スクリューを有する押出機によって溶融樹脂をダイヘッドへ送り込み、ダイヘッドのノズルからパリソンを押し出すブロー成形装置が開示されている。この種のブロー成形装置では、パリソンの原料となる溶融樹脂の粘度が低いと、パリソンが自重により所定形状を維持できなくなるドローダウンと呼ばれる不具合が生じることがある。ドローダウンを防止するためには粘度の高い溶融樹脂材料を用いれば良いのであるが、粘度を高くした場合、背反として、押出機内を移動する過程において溶融樹脂が混練不足となるため、パリソンが固化したときにパリソンの内周面に凹凸が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-155568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高粘度の溶融樹脂を用いたことに起因する混練不足を解消する手段としては、圧縮比の高いスクリューを適用する方法や、スクリューの下流端部にミキサーを設けて、溶融樹脂を短時間で集中的に撹拌する方法等が考えられる。しかし、圧縮比の調整のみでは混練不足の解消は不十分である。また、ミキサーを適用した場合、短時間で集中的に撹拌すると、剪断による摩擦抵抗によって溶融樹脂の温度が著しく上昇し、樹脂の劣化や架橋反応等が発生する。樹脂の劣化や架橋反応は、パリソンが固化したときにパリソンの内周面に凹凸が生じる原因となる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、内周面が平滑なパリソンを成形できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
溶融樹脂をスクリューにより送り出す押出機と、
前記押出機から送り込まれた溶融樹脂をノズルから下向きに押し出してパリソンを成形するダイヘッドと、
前記押出機内の溶融樹脂に対し送出方向の移動を抑制する抗力を付与する抵抗付与手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
押出機内でスクリューによって送られる溶融樹脂は、抵抗付与手段の抗力を受けることによってスクリューで剪断されることになるので、溶融樹脂の混練が進む。スクリューによる剪断は、短時間で集中的に行われるのではなくダイヘッド側へ送られながら時間をかけて行われるので、摩擦抵抗が少なく、溶融樹脂が高温になる虞もない。したがって、内周面が凹凸なく平滑なパリソンを成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のブロー成形装置において溶融樹脂をダイヘッド側へ送出している過程をあらわす断面図
図2】ブロー成形装置において溶融樹脂を押し出してパリソンを成形している状態をあらわす断面図
図3】抵抗部材の正面図
図4図3とは異なる形態の抵抗部材の正面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記抵抗付与手段が、複数の貫通孔が形成され、前記押出機の下流端と前記ダイヘッドとの間に配置された抵抗部材を備えていてもよい。この構成によれば、溶融樹脂は、複数の貫通孔を通過する際に生じる流動抵抗により、送出方向への移動を抑制される。抵抗部材は形状がシンプルなので、コストを抑えることができる。
【0010】
本発明は、前記ダイヘッドには、溶融樹脂を貯留する貯留室と、前記押出機から前記貯留室へ溶融樹脂が送り込まれるのに伴って前記貯留室の容積を増加させる方向へ変位する可動部材とが設けられており、前記抵抗付与手段が、前記可動部材に対し前記貯留室の容積を減少させる方向の付勢力を付与する付勢機構を備えていてもよい。この構成によれば、溶融樹脂は、付勢機構から可動部材に付与される付勢力により、送出方向への移動を抑制される。
【0011】
本発明は、前記付勢機構が、前記貯留室の容積を減少させる方向へ前記可動部材を駆動する流体圧シリンダを備えて構成されていてもよい。この構成によれば、流体圧シリンダが、可動部材を駆動する機能と溶融樹脂に抗力を付与する機能とを兼ね備えているので、単機能タイプの2つの流体圧シリンダを設ける場合に比べると、ブロー成形装置に構造を簡素化することができる。
【0012】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1図4を参照して説明する。尚、以下の説明において、上下の方向については、図1,2にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0013】
本実施例1のブロー成形装置Aは、押出機10とダイヘッド22と押出装置30と抵抗付与手段50とを備えて構成されている。押出機10は、溶融樹脂Rをダイヘッド22へ向けて水平に送出する装置であり、ケース11と、ケース11内に収容されたスクリュー12と、スクリュー12を回転駆動するモータ21とを備えて構成されている。スクリュー12は、軸線を水平方向(前後方向)に向けた軸部13と、軸部13の外周に設けた螺旋状の羽根板14とから構成されている。ケース11の内周面と軸部13の外周面との隙間は、溶融樹脂Rを送出するための送出路15となっている。押出機10には、送出路15の送出方向下流端部に連通する送出口16が形成されている。
【0014】
スクリュー12のうち送出方向上流端部は供給部17となっており、スクリュー12のうち送出方向略中央部は圧縮部18となっており、スクリュー12のうち送出方向下流端部は計量部19となっている。送出路15は、軸部13の外周と羽根板14とによって区画された螺旋状の溝部20によって構成されている。供給部17における溝部20の深さ(羽根板14の外径と軸部13の外径との寸法差)は、計量部19における溝部20の深さ(羽根板14の外径と軸部13の外径との寸法差)より大きい寸法に設定されている。
【0015】
送出路15の上流端において送出路15内に供給された溶融樹脂Rは、回転するスクリュー12の羽根板14で軸線方向に押されることにより、送出路15内を上流側から下流側へ押し動かされる。また、送出路15内の溶融樹脂Rは、押し動かされながら羽根板14によって剪断されることにより、混練される。
【0016】
ダイヘッド22は、軸線を上下方向に向けた筒状のハウジング23と、ハウジング23内に同軸状に収容した円柱形のコア24とを備えて構成されている。ハウジング23の内周面とコア24の外周面との間には、筒状の貯留室25が形成されている。ハウジング23には流入路26が設けられている。流入路26の上流端は、ハウジング23の外部において後述する抵抗部材51を介して押出機10の送出口16に接続されている。流入路26の下流端は、ハウジング23内の貯留室25と連通している。
【0017】
ダイヘッド22の下端面には、ハウジング23の下端面における開口縁と、コア24の下端部外周面とによって区画された円環形のスリット状をなすノズル27が形成されている。ノズル27は貯留室25の下端部に連通している。貯留室25内に貯留された溶融樹脂Rは、押出装置30によってノズル27から下向きに押し出されるようになっている。ノズル27から押し出された溶融樹脂Rは、軸線を上下方向に向けたパリソンPとなり、図示しない金型により成形されて高圧容器や燃料タンク等の製品となる。
【0018】
押出装置30は、ハウジング23の上端面に固定した基台31と、基台31の上面に設けた開閉用シリンダ32と、円環形の可動部材34と、基台31の上面に設けた複数の押出用シリンダ36(請求項に記載の流体圧シリンダ)と、作動油給排装置40とを備えて構成されている。開閉用シリンダ32は、コア24と同軸状に配置されており、基台31を貫通してコア24の上端部と一体化された開閉用ロッド33を有している。開閉用シリンダ32の駆動により、コア24は、ノズル27を閉塞する閉塞位置(図1を参照)と、ノズル27を開放させる開放位置(図2を参照)との間で昇降するようになっている。
【0019】
貯留室25の上端側領域は、コア24及び貯留室25と同軸の円環形をなす昇降空間35となっている。即ち、昇降空間35は貯留室25を構成している。昇降空間35内には可動部材34が昇降可能に収容されている。可動部材34の下端面は貯留室25に対し下向きに臨んでいる。複数の押出用シリンダ36はコア24を包囲するように配置されている。複数の押出用シリンダ36は、基台31を貫通して下向きに突出する複数本の押出用ロッド37を有している。複数本の押出用ロッド37は周方向に間隔を空けてコア33を包囲するように配されている。複数本の押出用ロッド37の下端は、可動部材34の上端面に固着されており、可動部材34は押出用シリンダ36の駆動によって昇降する。可動部材34が上昇すると貯留室25の容積が増大し、可動部材34が下降すると貯留室25の容積が減少する。可動部材34はアキュムレータ38を構成する。
【0020】
作動油給排装置40は、共用流路41と方向切換弁43と圧送流路44とポンプ45と貯留タンク46と排出流路47と絞り弁48とを備えている。共用流路41は複数の分岐路42に分岐して複数の押出用シリンダ36に個別に接続されている。共用流路41のうち押出用シリンダ36とは反対側の端部に、方向切換弁43(三方弁)が接続されている。方向切換弁43の流入ポートには圧送流路44の下流端が接続されている。圧送流路44の途中にはポンプ45が設けられ、圧送流路44の上流端は貯留タンク46に接続されている。方向切換弁43の流出ポートには、排出流路47の上流端が接続されている。排出流路47の途中には絞り弁48が設けられ、排出流路47の下流端は貯留タンク46に接続されている。
【0021】
ダイヘッド22からパリソンPを押し出す際には、予め、可動部材34を上昇させ、流入路26の下流端を貯留室25に臨ませておく。貯留室25に溶融樹脂Rを貯留する際には、図1に示すように、ノズル27を閉塞し、方向切換弁43を貯留形態へ切り換える。この状態で、押出機10内の溶融樹脂Rが貯留室25内に送り込まれると、貯留室25内の溶融樹脂Rの圧力が上昇するので、可動部材34が上昇するとともに貯留室25の容積が増大し、貯留室25内における溶融樹脂Rの貯留量が増大する。可動部材34が上昇するのに伴い、押出用シリンダ36内の作動油が、方向切換弁43と絞り弁48を通過して貯留タンク46内に排出される。
【0022】
所定量の溶融樹脂Rが貯留室25に貯留されたら、図2に示すように、ノズル27を開放し、方向切換弁43を圧送形態に切り換える。この状態でポンプ45を駆動すると、貯留タンク46内の作動油が、方向切換弁43を介して押出用シリンダ36に圧送され、押出用シリンダ36の駆動力により可動部材34が下降するので、貯留室25の容積が減少する。これにより、貯留室25内の溶融樹脂Rがノズル27から下向きに押し出されてパリソンPとなる。
【0023】
抵抗付与手段50は、抵抗部材51と付勢機構54とを備えて構成されている。抵抗部材51は、押出機10の送出口16(送出経路の下流端)と、流入路26の上流端との間に設けられている。抵抗部材51は、送出口16から流入路26への溶融樹脂Rの流路を遮るような板状をなす。抵抗部材51には、送出口16と流入路26とを連通させる複数の貫通孔52が形成されている。貫通孔52としては、図3に示すように、複数の独立した円形の開口部でもよく、図4に示すように、抵抗部材51をメッシュ状にすることで複数の独立した方形の開口部であってもよい。
【0024】
溶融樹脂Rが抵抗部材51の貫通孔52を通過する際には、溶融樹脂Rのうち抵抗部材51より上流側の部分(即ち、溶融樹脂Rのうち押出機10内でスクリュー12により送出されている部分)に対し、流動抵抗が付与される。したがって、抵抗部材51を設けない場合に比べると、押出機10内におけるスクリュー12による溶融樹脂Rの送出が抑制され、押出機10(送出路15)内の溶融樹脂Rの圧力が高くなっている。
【0025】
付勢機構54は、上記した可動部材34と押出用シリンダ36と絞り弁48とを備えて構成されている。上述のように、押出機10内の溶融樹脂Rが貯留室25内に送り込まれて可動部材34が上昇する過程では、押出用シリンダ36内の作動油が絞り弁48を通過することによって貯留タンク46内に排出される。ここで、絞り弁48内における作動油の流路を排出流路47より狭くしておくと、作動油が絞り弁48を通過するときに、排出流路47のうち絞り弁48より上流側の部分(即ち、押出用シリンダ36側の部分)において作動油に流動抵抗が付与される。この作動油に付与された流動抵抗は、押出用ロッド37と可動部材34を介して貯留室25内の溶融樹脂Rに伝達され、更には、押出機10(送出路15)内の溶融樹脂Rに伝達される。これにより、押出機10内におけるスクリュー12による溶融樹脂Rの送出が抑制され、押出機10内の溶融樹脂Rの圧力が高くなる。
【0026】
上述のように、抵抗部材51と付勢機構54を設けたことにより、押出機10内の溶融樹脂Rにはスクリュー12による送出を抑制する抵抗が付与されるので、スクリュー12による本来の送出速度よりも、実際の溶融樹脂Rの送出速度は遅くなる。そのため、溶融樹脂Rは、スクリュー12の羽根板14によってダイヘッド22側へ押し動かされながら、羽根板14によって剪断されることになる。このスクリュー12による剪断によって、溶融樹脂Rの混練が進む。
【0027】
溶融樹脂Rを剪断する手段としては、送出の途中でミキサーにより短時間で溶融樹脂Rを集中して撹拌する方法もあるが、短時間で剪断すると摩擦抵抗が大きくなるので、その分、溶融樹脂Rの温度が上昇することになる。溶融樹脂Rを温度の高い状態で押し出すと、パリソンPの内周面が平滑にならず、内周面に凹凸が生じる虞がある。その点、本実施例では、溶融樹脂Rを押出機10内で送出する過程でゆっくりと剪断するので、摩擦抵抗が小さく抑えられ、溶融樹脂Rが高温になる虞もない。したがって、パリソンPの内周面は凹凸のない平滑な面に形成される。
【0028】
下記の表1は、抵抗付与手段50を備えたブロー成形装置Aを用いてパリソンPを成形した実施形態1~3と、抵抗付与手段50を有しない成形装置(図示省略)を用いてパリソンPを形成した比較例1~4を示している。実施形態と比較例は下記を共通条件として実行された。溶融樹脂Rの材料は、ポリアミド樹脂(熱可塑性樹脂)に耐衝撃材(ゴム)を含有させたものであり、溶融樹脂Rの融点は220℃である。
【0029】
表1における「溶融粘度」は、250℃、剪断速度が12/sにおける溶融樹脂Rの粘度の値である。「開口率」は、送出口16(送出経路の下流端)と流入路26の上流端との間に抵抗部材51を設けた実施形態1~3では、抵抗部材51の上流側近傍に位置する送出口16の断面積に対し、抵抗部材51に形成した複数の貫通孔52の総開口面積が閉める割合である。抵抗部材51を設けない比較例1~4では、開口率を100%としている。「溶融樹脂の圧力」は、押出機10の先端部、貯留室25内及びダイヘッド22内における溶融樹脂Rの圧力である。「パリソン内周面の平滑度」は、パリソンPの内周面における凹凸の有無及び凹凸の程度を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
実施形態1では、溶融粘度が15,000[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にはミキサーを設けず、押出機10の圧縮比を3.4とし、抵抗付与手段50を抵抗部材51のみとし、開口率を60%とした。押出機10の圧縮比は、供給部17におけるスクリュー12の溝部20の深さ(羽根板14の外径と軸部13の外径との寸法差)を、計量部19におけるスクリュー12の溝部20の深さ(羽根板14の外径と軸部13の外径との寸法差)で除した数値である。圧縮比が高いほど、溶融樹脂Rに対する剪断作用が向上するので、溶融樹脂Rの混練度も高まる。
【0032】
実施形態2では、溶融粘度が21,000[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にはミキサーを設けず、押出機10の圧縮比を3.4とし、抵抗付与手段50を抵抗部材51のみとし、開口率を60%とした。実施形態3では、溶融粘度が21,000[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にはミキサーを設けず、押出機10の圧縮比を3.4とし、抵抗付与手段50として抵抗部材51と付勢機構54とを用い、開口率を47%とした。
【0033】
比較例1では、溶融粘度が3,500[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にはミキサーを設けず、押出機10の圧縮比を2.4とした。比較例2では、溶融粘度が15,000[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にはミキサーを設けず、押出機10の圧縮比を2.4とした。比較例3では、溶融粘度が15,000[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にはミキサーを設けず、押出機10の圧縮比を3.4とした。比較例4では、溶融粘度が15,000[Pa・s]の溶融樹脂Rを用い、押出機10にミキサーを設け、押出機10の圧縮比を2.2とした。
【0034】
実施形態1~3及び比較例1~4の条件で成形したパリソンPについて説明する。ドローダウンに関しては、溶融粘度の低い(5,000[Pa・s]未満の)比較例1では、パリソンPの長さが1.8mに至る前にドローダウンが発生した。これに対し、実施形態1~3と比較例2~4では、溶融粘度が高いので(5,000[Pa・s]以上なので)、パリソンPの長さを1.8mまで伸ばしてもドローダウンは発生しなかった。
【0035】
パリソンPの内周面の平滑度(凹凸の有無と凹凸の程度)に関しては、比較例1では、圧縮比が低く(2.6未満)、押出機10内の溶融樹脂Rに対して抵抗が付与されないので、剪断不足となり、剪断不足に起因する平滑度の低下が懸念される。しかし、比較例1では溶融粘度が低いので(5,000[Pa・s]未満なので)、平滑度は良好であった。比較例2では、圧縮比が低い(2.6未満)上に、押出機10内の溶融樹脂Rに対して抵抗が付与されないので、剪断不足となり、平滑度は不良であった。比較例3では、圧縮比が高い(2.6以上)のであるが、押出機10内の溶融樹脂Rに対して抵抗が付与されないので、剪断不足となり、平滑度は不良であった。比較例4では、ミキサーで急激に剪断されることによる発熱に加えて、圧縮比が低く(2.6未満)送出過程での剪断が不足しているので、平滑度が不良であった。
【0036】
これに対し、圧縮比が高く(2.6以上)、押出機10内の溶融樹脂Rに抵抗が付与された実施形態1~3では、平滑度は良好であった。ここで、実施形態1~3と比較例3とを比較すると、溶融粘度の高さと圧縮比は概ね同等であるが、押出機10で送出中の溶融樹脂Rに抵抗が付与されない比較例3では平滑度が不良であったのに対し、押出機10で送出中の溶融樹脂Rに抵抗が付与された実施形態1~3では平滑度が良好であるという結果が得られた。このことから、押出機10で送出中の溶融樹脂Rに抵抗を付与することが、平滑度を高める要因になるという知見が得られた。
【0037】
また、押出機10で送出中の溶融樹脂Rに抵抗が付与することで平滑度が良好となるメカニズムについては、次のように考えることができる。押出機10において送出される溶融樹脂Rに対して抵抗を付与すると、溶融樹脂Rを送出する過程で時間を掛けながら剪断することになるので、溶融樹脂Rの発熱を抑えつつ溶融樹脂Rを混練することができる。即ち、平滑度低下の原因となる発熱を抑えながら、良好な平滑度を得るための要因である混練性を高めることができるので、平滑度が良好になると推察される。
【0038】
また、パリソンPの平滑度を高める要因であるスクリュー12(押出機10)の圧縮率と、押出機10で送出中の溶融樹脂Rに抵抗を付与する手段としての抵抗部材51(貫通孔52)の開口率については、圧縮率が2.8~4.0で、開口率が35%~70%であることが好ましく、開口率が40%~62%であることがより好ましい。開口率が35%より小さい場合は、溶融樹脂Rに付与される抵抗が大きくなり過ぎるために押出機10への負荷が高くなり、好ましくない。開口率が70%より大きい場合は、溶融樹脂Rに付与される抵抗が小さくなり過ぎるため、混練不足の解消が困難となる。
【0039】
上述のように本実施例1のブロー成形装置Aは、溶融樹脂Rをスクリュー12により送り出す押出機10と、押出機10から送り込まれた溶融樹脂Rをノズル27から下向きに押し出してパリソンPを成形するダイヘッド22と、押出機10内の溶融樹脂Rに対し送出方向の移動を抑制する抗力を付与する抵抗付与手段50とを備えている。
【0040】
押出機10内でスクリュー12によって送られる溶融樹脂Rは、抵抗付与手段50の抗力を受けることによってスクリュー12で剪断されることになるので、溶融樹脂Rの混練が進む。スクリュー12による剪断は、短時間で集中的に行われるのではなくダイヘッド22側へ送られながら時間をかけて行われるので、摩擦抵抗が少なく、溶融樹脂Rが高温になる虞もない。したがって、内周面が凹凸なく平滑なパリソンPを成形することができる。
【0041】
また、抵抗付与手段50は、複数の貫通孔52が形成され、押出機10の下流端とダイヘッド22との間に配置された抵抗部材51を備えている。このような抵抗部材51を用いると、溶融樹脂Rは、複数の貫通孔52を通過する際に生じる流動抵抗により、送出方向への移動を抑制される。抵抗部材51は形状がシンプルなので、コストを抑えることができる。
【0042】
また、ダイヘッド22には、溶融樹脂Rを貯留する貯留室25と、押出機10から貯留室25へ溶融樹脂Rが送り込まれるのに伴って貯留室25の容積を増加させる方向へ変位する可動部材34とが設けられている。そして、抵抗付与手段50は、可動部材34に対し貯留室25の容積を減少させる方向の付勢力を付与する付勢機構54を備えて構成されている。この構成によれば、溶融樹脂Rは、付勢機構54から可動部材34に付与される付勢力により、送出方向への移動を抑制される。
【0043】
また、付勢機構54は、貯留室25の容積を減少させる方向へ可動部材34を駆動する押出用シリンダ36を備えて構成されている。押出用シリンダ36は、可動部材34を駆動する機能と溶融樹脂Rに抗力を付与する機能とを兼ね備えているので、単機能タイプの2つの流体圧シリンダを設ける場合に比べると、ブロー成形装置Aに構造を簡素化することができる。
【0044】
また、溶融樹脂Rとしては、耐衝撃材(ゴム)を含有させないポリアミド樹脂であってもよい。溶融樹脂Rの材料としては、ポリアミド樹脂に限らず、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等を用いることができる。また、これらの樹脂材料に、ゴム等の耐衝撃材、ドローダウンを抑制する添加剤、フィラー等の充填材を混合・含有させてもよい。
【0045】
また、溶融樹脂Rがポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物である場合、ドローダウンの発生を回避するためには、250℃、剪断速度12/sにおける溶融粘度は5,000~25,000[Pa・s]が好ましく、8,000~20,000[Pa・s]がより好ましく、10,000~20,000[Pa・s]が更に好ましい。溶融樹脂Rがエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂又はエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂組成物である場合、ドローダウンの発生を回避するためには、210℃、剪断速度12/sにおける溶融粘度は5,000~20,000[Pa・s]が好ましく、6,000~15,000[Pa・s]がより好ましい。
【0046】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、抵抗付与手段として、抵抗部材と付勢機構を用いたが、抵抗付与手段は、抵抗部材だけで構成されていてもよく、付勢機構だけで構成されていてもよい。
(2)上記実施例では、付勢機構が流体圧シリンダを備えて構成されているが、付勢機構は流体圧シリンダを有しない形態であってもよい。
(3)上記実施例では、付勢機構の付勢力を流体圧によって生じさせたが、付勢力はスプリングの弾力によって生じさせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
A…ブロー成形装置
P…パリソン
R…溶融樹脂
10…押出機
12…スクリュー
22…ダイヘッド
25…貯留室
27…ノズル
34…可動部材
36…押出用シリンダ(流体圧シリンダ)
50…抵抗付与手段
51…抵抗部材
52…貫通孔
54…付勢機構
図1
図2
図3
図4