(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】柑橘精油含有アルコール飲料の濁度を低減するための濁度低減剤
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20230724BHJP
A23L 29/238 20160101ALN20230724BHJP
A23L 29/269 20160101ALN20230724BHJP
【FI】
C12G3/06
A23L29/238
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2019086161
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】307027577
【氏名又は名称】麒麟麦酒株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】堀田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健太郎
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-195477(JP,A)
【文献】特開2009-136159(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148761(WO,A1)
【文献】特開2008-109900(JP,A)
【文献】特開2016-015907(JP,A)
【文献】特開2007-289124(JP,A)
【文献】特開2005-124567(JP,A)
【文献】特開2018-188535(JP,A)
【文献】特開2006-271334(JP,A)
【文献】米国特許第05562939(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00- 2/84
C12C 1/00-13/10
C12G 1/00- 3/08
C12H 1/00- 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁度低減剤を柑橘精油含有アルコール飲料に添加することを含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料の濁度を低減する方法
であって、
前記濁度低減剤が増粘安定剤の微細なゲルを含んでなるものであり、
前記増粘安定剤が、ジェランガム、グァーガムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、
前記濁度低減剤の添加量が、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して0.4~20ppmである、方法。
【請求項2】
前記ゲルの平均メジアン径が2000μm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記柑橘精油含有アルコール飲料における柑橘精油の濃度が7.5ppm以上である、請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項4】
前記柑橘精油含有アルコール飲料のアルコール濃度が3%(v/v)以上である、請求項
1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
濁度低減剤を原料に添加することを含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料を製造する方法
であって、
前記濁度低減剤が増粘安定剤の微細なゲルを含んでなるものであり、
前記増粘安定剤が、ジェランガム、グァーガムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、
前記濁度低減剤の添加量が、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して0.4~20ppmである、方法。
【請求項6】
前記ゲルの平均メジアン径が2000μm以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記柑橘精油含有アルコール飲料における柑橘精油の濃度が7.5ppm以上である、請求項
5または
6に記載の方法。
【請求項8】
前記柑橘精油含有アルコール飲料のアルコール濃度が3%(v/v)以上である、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
濁度低減剤を含んでなる柑橘精油含有アルコール飲料
であって、
前記濁度低減剤が増粘安定剤の微細なゲルを含んでなるものであり、
前記増粘安定剤が、ジェランガム、グァーガムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるものであり、
前記濁度低減剤の含有量が、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して0.4~20ppmである、柑橘精油含有アルコール飲料。
【請求項10】
前記ゲルの平均メジアン径が2000μm以下である、請求項9に記載の柑橘精油含有アルコール飲料。
【請求項11】
柑橘精油の濃度が7.5ppm以上である、請求項
9または
10に記載の柑橘精油含有アルコール飲料。
【請求項12】
アルコール濃度が3%(v/v)以上である、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の柑橘精油含有アルコール飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘精油含有アルコール飲料の濁度を低減するための濁度低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料に柑橘の果汁感や香りを付与するために、柑橘精油が一般的に使用されている。しかし、アルコール飲料に柑橘精油を添加すると、アルコールに精油分が溶け込むことにより濁りが生じるという問題がある。
【0003】
一方で、特開2013-121323号公報(特許文献1)には、増粘安定剤の微細なゲル(メジアン径200μm以下)を有効成分とする、炭酸飲料の炭酸感を改善するための炭酸感付与剤、およびこの炭酸感付与剤を含有する炭酸飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、増粘安定剤の微細なゲルを柑橘精油含有アルコール飲料に添加することにより、該飲料における濁度を低減できることを見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0006】
従って、本発明は、増粘安定剤の微細なゲルを含有する新規な濁度低減剤および該濁度低減剤を含有する柑橘精油含有アルコール飲料を提供する。
【0007】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)増粘安定剤の微細なゲルを含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料の濁りを低減するための濁度低減剤。
(2)前記増粘安定剤が、ジェランガム、グァーガムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記(1)に記載の濁度低減剤。
(3)前記ゲルの平均メジアン径が2000μm以下である、前記(1)または(2)に記載の濁度低減剤。
(4)前記(1)~(3)のいずれかに記載の濁度低減剤を柑橘精油含有アルコール飲料に添加することを含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料の濁度を低減する方法。
(5)前記濁度低減剤の添加量が、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して、0.4~20ppmである、前記(4)に記載の方法。
(6)前記柑橘精油含有アルコール飲料における柑橘精油の濃度が7.5ppm以上である、前記(4)または(5)に記載の方法。
(7)前記柑橘精油含有アルコール飲料のアルコール濃度が3%(v/v)以上である、前記(4)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記(1)~(3)のいずれかに記載の濁度低減剤を原料に添加することを含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料を製造する方法。
(9)前記濁度低減剤の添加量が、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して、0.4~20ppmである、前記(8)に記載の方法。
(10)前記柑橘精油含有アルコール飲料における柑橘精油の濃度が7.5ppm以上である、前記(8)または(9)に記載の方法。
(11)前記柑橘精油含有アルコール飲料のアルコール濃度が3%(v/v)以上である、前記(8)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記(1)~(3)のいずれかに記載の濁度低減剤を含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料。
(13)前記濁度低減剤の含有量が、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して、0.4~20ppmである、前記(12)に記載の柑橘精油含有アルコール飲料。
(14)柑橘精油の濃度が7.5ppm以上である、前記(12)または(13)に記載の柑橘精油含有アルコール飲料。
(15)アルコール濃度が3%(v/v)以上である、前記(12)~(14)のいずれかに記載の柑橘精油含有アルコール飲料。
【0008】
本発明によれば、柑橘精油含有アルコール飲料において、アルコールに精油分が溶け込むことにより生じる濁りを低減することができる。
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明において「アルコール飲料」とは、酒税法上アルコール飲料とみなされる、アルコール度数1度以上の飲料を意味する。
【0010】
本明細書において、「ppm」は「mg/L」と同義であり、「ppb」は「μg/L」と同義である。
【0011】
本発明の濁度低減剤は、柑橘精油含有アルコール飲料の濁りを低減するための濁度低減剤であり、増粘安定剤の微細なゲルを含むものである。このような微細ゲルは、選択された増粘安定剤を用いて、当業者に公知の手順に従って製造することができる。
【0012】
本発明に用いる増粘安定剤は、通常食品に使用されるものであって、食品に硬さやまとまりを付与したり、それらの食感を改良したりするものであればよい。このような増粘安定剤としては、限定されるものではないが、ゼラチン、寒天、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、グァーガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸エステル、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、大豆水溶性多糖類などの多糖類が挙げられる。本発明の一つの実施態様によれば、増粘安定剤として、ジェランガム、グァーガムまたはこれらの組み合わせが用いられ、好ましくはジェランガムとグァーガムの組み合わせが用いられる。
【0013】
本発明の濁度低減剤は、必要に応じて、増粘安定剤のゲル化を促進するための一価または二価のカチオン、例えばカルシウムイオンなど、を含んでいてもよい。このようなカチオンは、溶液中でカチオンを発生させる乳酸カルシウムなどの化合物を原料として配合することにより提供することができる。
【0014】
さらに、本発明の濁度低減剤は、pH調整剤を適宜含んでいてもよい。
【0015】
本発明における微細ゲルの粒径は特に限定されないが、好ましくは平均メジアン径として2000μm以下とされる。本明細書において、「平均メジアン径」とは、複数回のメジアン径測定結果の平均値を意味し、好ましくは3回のメジアン径測定結果の平均値を意味する。また、微細ゲルの粒径が大きくてもよいことは本発明の利点でもあるため、本発明の一つの実施態様では、微細ゲルの粒径は平均メジアン径として200μm以上とすることができる。微細ゲルの粒径は、その製造過程におけるミキサーでの破砕/粉砕の条件や、遠心分離等による粒子の選別などによって調整することができる。微細ゲルの粒径は、例えば、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置などによって測定することができる。
【0016】
本発明の濁度低減剤は、柑橘精油含有アルコール飲料に添加することにより、アルコールに精油分が溶け込むことにより生じる濁りを低減することができる。従って、本発明の他の態様によれば、本発明の濁度低減剤を含んでなる柑橘精油含有アルコール飲料が提供される。このような柑橘精油含有アルコール飲料は、柑橘精油含有アルコール飲料の原料に本発明の濁度低減剤を添加することにより製造することができる。本発明のさらに別の態様によれば、本発明の濁度低減剤を柑橘精油含有アルコール飲料に添加することを含んでなる、柑橘精油含有アルコール飲料の濁度を低減する方法が提供される。
【0017】
飲料の濁度は、一般に用いられる濁度計、例えば、単位としてNTUを用いる数値を濁度として表示する市販の濁度計を用いて測定することができる。
【0018】
飲料における本発明の濁度低減剤の含有量(つまり添加量)は、特に制限されるものではなく、その飲料の種類や、所望の濁度低減効果の程度に応じて、当業者により適宜決定される。当業者であれば、様々な濃度で本発明の濁度低減剤を含有する飲料のサンプルを実際に調製し、各サンプルについて所望の効果を確認することにより、その飲料に最適な濁度低減剤の量を見出すことができる。
【0019】
本発明の好ましい実施態様によれば、飲料における本発明の濁度低減剤の添加量は、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して、0.4~20ppmとされる。ここで、濁度低減剤の添加量を増粘安定剤の量に換算する理由は、濁度低減剤の原料となる増粘安定剤と他の原料(特に水)との量の比率によって有効成分の濃度が異なり、このような濃度の違いにかかわらず有効成分の量を反映した指標を定義するためである。つまり、増粘安定剤の濃度は、濁度低減剤中の有効成分の量に比例するものである。従って、本発明においては、本発明の濁度低減剤の添加量を、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して示す。本発明のさらに好ましい実施態様によれば、飲料における本発明の濁度低減剤の添加量は、該濁度低減剤に含まれる増粘安定剤の量に換算して、0.8~8ppmとされる。
【0020】
本発明の柑橘精油含有アルコール飲料に含まれる柑橘精油は、柑橘風味アルコール飲料において用いることのできるものであればよく、特に制限されるものではない。このような柑橘精油としては、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー、スダチ、カボスなどの精油分が挙げられる。また、これらの柑橘精油は、それぞれ単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。本発明の柑橘精油含有アルコール飲料に含まれる柑橘精油の含有量(複数の柑橘精油を組み合わせて用いる場合にはその合計量)は特に制限されるものではないが、好ましくは7.5ppm以上、より好ましくは15ppm以上とされる。
【0021】
本発明の柑橘精油含有アルコール飲料のアルコール濃度は、特に制限されるものではないが、好ましくは3%(v/v)以上、好ましくは4%(v/v)以上、より好ましくは4~30%(v/v)とすることができる。
【0022】
本発明の飲料は、二酸化炭素を圧入したもの、すなわち、炭酸飲料であってもよい。
【0023】
本発明の飲料のpHは、特に制限されるものではないが、好ましくは2.5~5.0に調整することができる。飲料のpHは市販のpHメーターを使用して容易に測定することができる。
【0024】
本発明の飲料は、飲料の製造に用いられる他の成分を含んでもよい。このような他の成分としては、例えば、甘味料(例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖、異性化液糖、糖アルコール、高甘味度甘味料等)、酸味料(例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、フマル酸、グルコン酸、アジピン酸、酢酸、またはそれらの塩類等)、色素、食品添加剤(例えば、起泡・泡持ち向上剤、苦味料、保存料、酸化防止剤、増粘安定剤、乳化剤、食物繊維、pH調整剤など)等を適宜添加することができる。
【0025】
本発明の飲料は、好ましくは容器詰飲料として提供される。使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、または瓶とされる。
【実施例】
【0026】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1:増粘安定剤の微細ゲルの添加による柑橘精油含有アルコール飲料の濁度低減効果の検討
(1)材料および方法
増粘安定剤の微細ゲルとしては、増粘安定剤として、0.5質量%の、ジェランガムとグァーガムとの混合物を含有し、さらにゲル化するのに適した量の乳酸カルシウム、適量のpH調整剤、および水を含有するものを用いた。
【0028】
ゲルの粒径は、レーザ回折散乱法粒度分布測定装置(型番:LS 13 320、Beckman coulter社製)を用いて測定した。
【0029】
柑橘精油としては、レモン、ライムおよびオレンジの圧搾油を混合したものの混合物を用いた。
【0030】
液体の濁度は、デジタル濁度計TU-2016(単位はNTU)を用いて測定した。
【0031】
飲料サンプルは、以下の表に記載の組成に従って調合した。調合液を20℃で24時間静置した後、測定機器で測定した。測定結果は3回の測定の平均値とした。
【0032】
(2)試験1:アルコール濃度と微細ゲル濃度による濁度への影響
飲料サンプルの組成と濁度測定の結果を、以下の表1および表2に示す。
【0033】
【0034】
【0035】
以上の結果から、微細ゲル添加による濁度低減効果を得るためには、微細ゲルの添加濃度は、該微細ゲルに含まれる増粘安定剤の濃度に換算して、0.4~20ppm、好ましくは0.8~8ppmとすることが望ましいものと考えられた。また、アルコール度数は、3%(v/v)以上、好ましくは4%(v/v)以上、より好ましくは4~30%(v/v)とすることが望ましいものと考えられた。
【0036】
(3)試験2:柑橘精油分の濃度の濁度への影響
飲料サンプルの組成と濁度測定の結果を、以下の表3および表4に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
以上の結果から、微細ゲル添加による濁度低減効果を得るためには、柑橘精油の濃度は、7.5ppm以上、好ましくは15ppm以上とすることが望ましいものと考えられた。
【0040】
(4)試験3:微細ゲル粒子の大きさの濁度への影響
飲料サンプルの組成と濁度測定の結果を、以下の表5および表6に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
以上の結果から、微細ゲルの平均メジアン径を200μmから2000μmに変更しても、200μmの微細ゲルを用いたときと同様の濁度低減効果が得られることがわかった。