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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】流動状ゲル状食品用ベース
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/20 20160101AFI20230724BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20230724BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20230724BHJP
   A23C 9/154 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L29/231
A23L29/262
A23C9/154
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019111235
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020202764
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】張 南
(72)【発明者】
【氏名】松田 優子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢治
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-100555(JP,A)
【文献】特開2000-279106(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059541(WO,A1)
【文献】特開2012-080799(JP,A)
【文献】特開2017-131122(JP,A)
【文献】特開2019-083797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00-29/30
A23C 9/154
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛乳と混合することによりゲル状食品を調製するための、二価金属イオン反応性ゲル化剤を含む流動状ゲル状食品用ベースであって、
水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材と、微細化水不溶性食物繊維とを含み、
前記食材が、豆類、種実類、ナッツ類、芋類、及び、果菜類からなる群から選択される少なくとも1種に由来している、流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項2】
前記豆類が、大豆、小豆、うずら豆、えんどう豆、コーヒー豆、及びココア豆からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記種実類又は前記ナッツ類が、クリ、ゴマ、ピーナッツ、及びアーモンドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記芋類が、サツマイモ、安納芋、ジャガイモ、及びサトイモからなる群から選択される少なくとも1種であり、又は、
前記果菜類が、トウモロコシ及びカボチャからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項3】
前記微細化水不溶性食物繊維が、粉末セルロース又は結晶セルロースである、請求項1又は2に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項4】
前記微細化水不溶性食物繊維が、粒子径100μm以下のものである、請求項1~のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項5】
前記流動状ゲル状食品用ベースの全質量に対して、前記食材の含有量が、0.1~5質量%(乾燥物基準)であり、前記微細化水不溶性食物繊維の含有量が、0.01~3質量%(乾燥物基準)であり、前記二価金属イオン反応性ゲル化剤の含有量が、1~3質量%(乾燥物基準)であって、かつ、
前記流動状ゲル状食品用ベースの全質量に対して60~85質量%の水を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項6】
pHが4.5以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項7】
フィチン酸、グルコン酸、及びメタリン酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上の酸をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【請求項8】
前記二価金属イオン反応性ゲル化剤が、LMペクチンを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳と混合することによりゲル状食品を調製するための流動状ゲル状食品用ベースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゲル化剤であるLMペクチンと牛乳とを混合してゲル状デザートを作ることが知られている。また、LMペクチンを含む流動状ゲル状食品用ベースが製品化されており、このベースを用いることにより、牛乳を混ぜるだけで簡単にゲル状デザートを作ることができる。特許文献1には、流動状ゲル状食品用ベースに比較的多量のフィチン酸等を配合する必要がある場合であっても、特定の甘味料を併せて配合することにより、牛乳を混合して調製されるゲル状食品において、フィチン酸等に由来する酸味を抑え、かつ自然な風味を付与することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-131122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流動状ゲル状食品用ベースの常温での保存性を高め、かつゲル化剤のゲル形成能を保持するためには、pH4.5以下の範囲で低温殺菌を行う必要があるが、特有の風味をゲル状食品に付与する食材の中には、流動状ゲル状食品用ベースのpHを上昇させてしまうものも含まれている。また、特有の風味をゲル状食品に付与する食材の中には、量を多く配合すると、ゲルの形成に不利に働くものも含まれているため、そのような食材を流動状ゲル状食品用ベースに大量に配合しなくても、その素材感を十分に感じることのできるような技術が求められていた。そこで、本発明は、特有の風味をゲル状食品に付与する食材の素材感が向上したゲル状食品を調製することのできる流動状ゲル状食品用ベースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、微細化水不溶性食物繊維が、水溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材の素材感を向上することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す流動状ゲル状食品用ベースを提供するものである。
〔1〕牛乳と混合することによりゲル状食品を調製するための、二価金属イオン反応性ゲル化剤を含む流動状ゲル状食品用ベースであって、
水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材と、微細化水不溶性食物繊維とを含むことを特徴とする、流動状ゲル状食品用ベース。
〔2〕前記食材が、豆類、種実類、ナッツ類、芋類、及び、果菜類からなる群から選択される少なくとも1種に由来している、前記〔1〕に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔3〕前記豆類が、大豆、小豆、うずら豆、えんどう豆、コーヒー豆、及びココア豆からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記種実類又は前記ナッツ類が、クリ、ゴマ、ピーナッツ、及びアーモンドからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記芋類が、サツマイモ、安納芋、ジャガイモ、及びサトイモからなる群から選択される少なくとも1種であり、又は、
前記果菜類が、トウモロコシ及びカボチャからなる群から選択される少なくとも1種である、前記〔2〕に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔4〕前記微細化水不溶性食物繊維が、粉末セルロース又は結晶セルロースである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔5〕前記微細化水不溶性食物繊維が、粒子径100μm以下のものである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔6〕前記流動状ゲル状食品用ベースの全質量に対して、前記食材の含有量が、0.1~5質量%(乾燥物基準)であり、前記微細化水不溶性食物繊維の含有量が、0.01~3質量%(乾燥物基準)であり、前記二価金属イオン反応性ゲル化剤の含有量が、1~3質量%(乾燥物基準)であって、かつ、
前記流動状ゲル状食品用ベースの全質量に対して60~85質量%の水を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔7〕pHが4.5以下である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔8〕フィチン酸、グルコン酸、及びメタリン酸ナトリウムからなる群から選択される1種以上の酸をさらに含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
〔9〕前記二価金属イオン反応性ゲル化剤が、LMペクチンを含む、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の流動状ゲル状食品用ベース。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、微細化水不溶性食物繊維を、水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材を含む流動状ゲル状食品用ベースに配合することにより、当該ベースを牛乳と混合して調製したゲル状食品において、当該食材の素材感を向上することができる。したがって、水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材の配合量を少なく抑えることが可能となり、例えば、流動状ゲル状食品用ベースのpH上昇の抑制や、均一で滑らかなゲルの形成などを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の二価金属イオン反応性ゲル化剤を含む流動状ゲル状食品用ベースは、牛乳と混合することによりゲル状食品を調製するためのものであって、水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材と、微細化水不溶性食物繊維とを含むことを特徴としている。本明細書に記載の「流動状ゲル状食品用ベース」とは、ゲル状食品を製造するために用いられる流動性を有するベース組成物のことをいう。前記流動状ゲル状食品用ベースの物性は、牛乳と容易に均一混合できるものであればよく、例えば、水又は果汁等の液状物を配合することにより、そのような物性に調整すればよい。ある態様では、前記流動状ゲル状食品用ベースは、その全質量に対して約60~約85質量%、好ましくは約65~約75質量%の水を含んでもよい。上記の水分値は、減圧加熱乾燥法により求められる水分値である。
【0008】
本発明の流動状ゲル状食品用ベースのpHは、ゲル状食品を調製することができる限り特に限定されないが、例えば、約4.5以下であってもよく、好ましくは、約3.5~約4.5であり、より好ましくは、約3.8~約4.3である。前記流動状ゲル状食品用ベースのpHがこのような範囲になると、ゲル化剤のゲル形成能が損なわれるような100℃を超える加熱滅菌を施さなくても、常温での長期間保存が可能となる。前記流動状ゲル状食品用ベースのpHを調整する際には、当技術分野で通常使用されるpH調整剤を特に制限されることなく使用することができる。前記pH調整剤は、例えば、有機酸又はその塩であってもよく、より具体的には、フィチン酸、グルコン酸、メタリン酸、クエン酸、若しくはリンゴ酸、又は、それらのナトリウム塩若しくはカリウム塩等であってもよく、好ましくは、フィチン酸、グルコン酸、又は、メタリン酸ナトリウムである。特に、フィチン酸、グルコン酸、又は、メタリン酸ナトリウムを含むことで、滑らかな食感を有し、かつ均一なゲル形状を備えたゲル状食品を調製することができるため、本発明の効果をより有効に達成することができる。前記の酸性物質は、前記pH調整剤の用途以外に、酸味料等として使用できることは勿論である。
【0009】
本明細書に記載の「二価金属イオン反応性ゲル化剤」とは、カルシウムイオン等の二価金属イオンの存在下でゲルを形成することができる物質のことをいう。前記二価金属イオン反応性ゲル化剤としては、当技術分野で通常使用されているものを制限なく用いることができ、例えば、LMペクチン、ジェランガム又はカラギナン等を用いてもよい。前記二価金属イオン反応性ゲル化剤の含有量は、前記流動状ゲル状食品用ベースを牛乳と混合した際に、所望のゲル強度でゲル状食品を形成することができる限り特に限定されないが、例えば、前記流動状ゲル状食品用ベースと牛乳とを質量比約1:1で混合する場合には、前記流動状ゲル状食品用ベース中の二価金属イオン反応性ゲル化剤の含有量は、約1~約3質量%(乾燥物基準[実質的に水分を含有しないときの質量に換算して計算すること])であってもよく、好ましくは約1.8~約2.5質量%である。これによって調製される前記ゲル状食品のゲル強度は、約10~約40g/cm2であってもよく、好ましくは、約15~約30g/cm2である。調製されたゲル状食品は、滑らかで、比較的柔らかい食感を有するものである。なお、本明細書に記載のゲル強度は、レオメーター(株式会社サン科学製、CR200D)を使用し、品温15℃のゲルに対して、直径16mmのプランジャーを6cm/分の速度で降下させ、ゲル破断時に前記プランジャーにかかっていた単位面積あたりの荷重を読み取ったものである。
【0010】
本明細書に記載の「水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材」とは、水に溶解せず特有の食感を与えるような固形成分(水不溶性粒子)を含む料理の材料であって、粉末や、液状、ペースト状、又はピューレ状等の流動状の形状を有するもののことをいい、食材から単離された特定の成分を意図するものではない。前記食材は、前記流動状ゲル状食品用ベースを調製することができる限り特に限定されないが、例えば、豆類、種実類、ナッツ類、芋類、及び果菜類からなる群から選択される少なくとも1種の原材料に由来していてもよい。前記豆類は、大豆、小豆、うずら豆、えんどう豆、コーヒー豆、及びココア豆からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記種実類又は前記ナッツ類は、クリ、ゴマ、ピーナッツ、及びアーモンドからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記芋類は、サツマイモ、安納芋、ジャガイモ、及びサトイモからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。前記果菜類は、トウモロコシ及びカボチャからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0011】
前記食材は、当技術分野で通常採用される任意の方法で調製することができ、例えば、原材料の乾燥物粉砕物等として、すなわち微細化処理した水不溶性粒子(固形成分)を含む粉末状のものとして調製することができる。あるいは、原材料と水との混合物の摩砕物や擂潰物等として、すなわち微細化処理した水不溶性粒子を含む流動状のものとして調製することができる。前記食材に含まれる水不溶性粒子は、前記流動状ゲル状食品にその素材感を付与できる程度に、微細化処理された形態のものであればよい。前記水不溶性粒子の大きさは、本発明の流動状ゲル状食品用ベースから調製されるゲル状食品に付与したい食感や、前記食材の原材料の種類に応じて適宜選択することができる。なお、前記水不溶性粒子の粒子径は、レーザー回析散乱式粒度分布測定装置によって測定されるメジアン径である。前記食材の含有量は、特に限定されないが、例えば、前記流動状ゲル状食品用ベースの全質量に対して、約0.1~約5質量%(乾燥物基準)であってもよく、好ましくは約0.5~約3質量%である。
【0012】
本明細書に記載の「微細化水不溶性食物繊維」とは、水に溶解しない食物繊維であって、非常に細かく調製された食物繊維のことをいう。前記微細化水不溶性食物繊維の微細化の程度、すなわち前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径は、本発明の流動状ゲル状食品用ベースから調製されるゲル状食品に付与したい食感や、そこに含まれる前記食材の種類又は前記食材中の水不溶性粒子の粒子径に応じて適宜選択することができる。ある態様では、前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径は、約100μm以下であってもよく、好ましくは約85μm以下、より好ましくは約50μm以下であるか、又は、約5μm以上であってもよく、好ましくは約10μm以上、より好ましくは約35μm以上である。必ずしも、前記食材中の水不溶性粒子の粒子径と前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径とを同程度に揃える必要はないが、例えば、前記食材中の水不溶性粒子の粒子径が大きい場合には、前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径としても比較的大きいものを採用し、前記食材中の水不溶性粒子の粒子径が小さい場合には、前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径としても比較的小さいものを採用すると、前記食材の素材感の向上により有利である。なお、前記微細化水不溶性食物繊維の粒子径は、レーザー回析散乱式粒度分布測定装置によって測定されるメジアン径であり、本明細書中で、粒子径は、すべて前記の規定に基づくものである。
【0013】
前記微細化水不溶性食物繊維としては、当技術分野で通常使用される食物繊維を特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記微細化水不溶性食物繊維は、セルロース、レモン・ライム由来の食物繊維であるヘルバセルAQプラスCF(大日本住友製薬株式会社製)、難消化性デキストリン、ヘミセルロース、水不溶性海草多糖類、水不溶性ペクチン質、キチン、キトサン、及びリグニンからなる群から選択される少なくとも1種又はそれらを含む混合物であってもよく、好ましくは、粉末セルロース及び/又は結晶セルロースである。粉末セルロース又は結晶セルロースは、例えば食品添加物公定書で規格された粉末セルロース又は微結晶セルロースである。前記微細化水不溶性食物繊維の精製の程度は、特に限定されず、結晶セルロースのような高純度のものだけでなく、小麦ファイバー、ニンジンパルプ、又はリンゴパルプ等の純度の低いものも使用することができる。前記微細化水不溶性食物繊維の形態は、特に限定されず、単成分の粉末であってもよく、増粘剤(例えばデンプン)等との混合粉末であってもよい。前記微細化水不溶性食物繊維の含有量は、特に限定されないが、例えば、前記流動状ゲル状食品用ベースの全質量に対して、約0.01~約3質量%(乾燥物基準)であってもよく、好ましくは約0.2~約2.5質量%である。
【0014】
本発明の流動状ゲル状食品用ベースは、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもよい。これら任意成分は、例えば、果汁、果肉、賦形剤、糖類、香料、酸味料、酸化防止剤(ビタミンC、及びビタミンE等)、増粘剤、調味料、甘味料、及び、着色料などであってもよい。
【0015】
本発明の流動状ゲル状食品用ベースは、製品として提供するために、パウチ又は成形容器等の各種容器に充填密封し、必要により加熱殺菌処理を施してもよい。例えば、常温で長期間保存可能な流動状ゲル状食品用ベースの製品を提供する場合には、前記pHの範囲で、約100℃以下、好ましくは約75℃~約100℃の温度で、約10分~約60分に相当する条件を設定して加熱殺菌してもよい。これによって、常温で長期間保存可能であり、かつLMペクチン等の二価イオン反応性ゲル化剤のゲル形成能が維持された流動状ゲル状食品用ベースの製品を得ることができる。なお、本発明における保存性とは、流動状ゲル状食品用ベースを常温で保存した場合に、少なくとも12ヶ月間、品質を保てることをいう。
【0016】
本発明の流動状ゲル状食品用ベースを用いてゲル状食品を調製するためには、前記流動状ゲル状食品用ベースに、牛乳を適量、例えば、質量比1:1で添加して混合すればよい。混合時の品温は特に制限されないが、前記流動状ゲル状食品用ベースは低温になるにつれてゲル形成能が低下する傾向にあるので、前記流動状ゲル状食品用ベース及び牛乳の品温は、例えば、約10℃以上であってもよく、好ましくは約15℃~約25℃である。前記流動状ゲル状食品用ベースと牛乳との混合は、例えば、スプーン若しくは泡だて器、又は、これらに類似する器具で撹拌することにより行えばよい。この撹拌により、前記流動状ゲル状食品用ベースと牛乳との混合物の粘度が増加し得る。前記混合物は、撹拌開始から約10秒~約20秒でゲル状食品となり得る。
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0018】
〔試験例1〕
以下の表1に記載の原料を適宜混合して、実施例1~5及び比較例1の流動状ゲル状食品用ベースを作製した。次に、上記流動状ゲル状食品用ベースを合成樹脂製のパウチに充填密封して、95℃の熱水中に20分間浸漬して加熱滅菌処理を施し、常温まで冷却した。冷却後の流動状ゲル状食品用ベースを、10℃の牛乳と1:1の割合で混合し、スプーンで10秒間撹拌して、ゲル状食品を作製した。きな粉に含まれる水不溶性粒子の粒子径は、約96μmである。
【0019】
実施例1~5及び比較例1の流動状ゲル状食品用ベースで作製したゲル状食品の食感及びゲル組織の安定性を、8人のパネルが以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
(食感)
◎:食材と微細化水不溶性食物繊維との相性がよく、食材に特有の粒感やボディ感のある食感が非常に向上しており、かつ、当該食材らしい口当たりと口どけのよい良好な食感がある。(実施例2)
○:「◎」ほどではないが、食材と微細化水不溶性食物繊維との相性がよく、食材に特有の粒感やボディ感のある食感が向上しており、かつ、当該食材らしい口当たりと口どけのよい食感がある。
△:「×」よりも、食材に特有の粒感やボディ感のある食感が向上している。
×:食材に特有の粒感やボディ感のある食感が感じられず、当該食材らしい口当たりと口どけのよい食感がない。(比較例1)
(ゲル組織の形成及び安定性)
○:ゲル組織に一体感があり安定性が高い。
△:ゲル組織が崩れやすく安定性が低い。
×:ゲル組織が崩れている。
【0020】
【表1】
粉末セルロースA…「KCフロック W-100G」(日本製紙ケミカル社製)、粒子径:約37μm
粉末セルロースB…「KCフロック W-200G」(日本製紙ケミカル社製)、粒子径:約32μm
粉末セルロースC…「VITACEL(ビタセル)L00」(J.RETTENMAIER&SOHNE GMBH+CO KG社製)、粒子径:約45μm
【0021】
比較例1の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、きな粉が含まれているが、滑らかで単調な食感であり、きな粉に特有の粒感やボディ感のある食感と、口当たり・口どけは感じられなかった。一方、実施例1~5の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、きな粉に特有の粒感やボディ感のある食感を有しており、かつ口当たり・口どけのよいものであった。特に、実施例2の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、実施例4の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品よりもさらに安定性の高いゲル組織を有していた。また、実施例2の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、実施例5の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品よりもさらに良好な口当たり・口どけを有していた。
【0022】
〔試験例2〕
以下の表2に記載の原料を使用した以外は試験例1と同様にして、実施例6~9の流動状ゲル状食品用ベースを作製し、それらを使用してゲル状食品を作製した。そして、試験例1と同様にして、上記ゲル状食品の食感及びゲル組織の安定性を評価した。栗ペーストは、潰した茹で栗と砂糖を混合して調製したもので、これに含まれる水不溶性粒子の粒子径は約54μmであり、乾燥物基準で表2に記載した量を使用した。
【0023】
【表2】
結晶セルロース…「セオラスRC-N81」(旭化成ケミカルズ社製)、粒子径:約9μm
ヘルバセル…「ヘルバセルAQプラスCF」(大日本住友製薬株式会社製)、レモン・ライム由来の食物繊維、粒子径:約85μm
【0024】
実施例6~9の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、栗ペーストに特有の粒感やボディ感のある食感を有しており、かつ口当たり・口どけもよく、全体として非常に好ましい食感を有していた。
【0025】
〔試験例3〕
以下の表3に記載の原料を使用した以外は試験例1と同様にして、実施例10~17の流動状ゲル状食品用ベースを作製し、それらを使用してゲル状食品を作製した。そして、試験例1と同様にして、上記ゲル状食品の風味及びゲル組織の安定性を評価した。なお、ココアパウダー(水不溶性粒子の粒子径:約15μm)、あずきパウダー(水不溶性粒子の粒子径:約88μm)、コーンパウダー(水不溶性粒子の粒子径:約214μm)、カボチャパウダー(水不溶性粒子の粒子径:約80μm)、黒ゴマペースト(水不溶性粒子の粒子径:約89μm)、さつまいもペースト(水不溶性粒子の粒子径:約108μm)、及び、トウモロコシピューレ(水不溶性粒子の粒子径:約309μm)は、それぞれ常法によって調製したものであり、それぞれ乾燥物基準で表3に記載した量を使用した。
【0026】
【表3】
【0027】
実施例10~17の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、ココアパウダー、あずきパウダー、コーンパウダー、カボチャパウダー、黒ゴマペースト、さつまいもペースト、又はトウモロコシピューレに特有の粒感やボディ感のある食感を有しており、かつ口当たり・口どけもよく、各食材に特有の食感を有していた。このように、粉末セルロースなどの微細化水不溶性食物繊維は、水不溶性粒子を含む種々の食材について、当該食材に特有の食感、すなわち素材感を向上することができた。
【0028】
また、ココアパウダー(水不溶性粒子の粒子径約15μm)と粉末セルロースB(粒子径約32μm)とを使用した実施例11の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品は、配合成分同士の相性がよく、ココアパウダーの素材感のある良好な食感を有していた。また、トウモロコシピューレ(水不溶性粒子の粒子径約309μm)とヘルバセル(粒子径約85μm)とを使用した実施例17の流動状ゲル状食品用ベースで調製したゲル状食品も、配合成分同士の相性がよく、トウモロコシピューレの素材感のある良好な食感を有していた。
【0029】
〔他の実施例〕
実施例1~17のフィチン酸に代えてクエン酸を採用し、調製される流動状ゲル状食品用ベースのpHが等しくなるような量で当該クエン酸を配合した以外は、各実施例と同様にして、流動状ゲル状食品用ベースを作製した。これらの流動状ゲル状食品用ベースで作製したゲル状食品は、いずれも、実施例1~17の流動状ゲル状食品用ベースで作製したゲル状食品と同等の口当たり・口どけのよい食感及びゲル組織の安定性を有していた。なお、フィチン酸を使用した実施例1~17の流動状ゲル状食品用ベースで作製したゲル状食品は、全体として、各食材に特有の風味を活かした滑らかな食感を有するという点で特に優れていた。
【0030】
以上より、微細化水不溶性食物繊維を、水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材を含む流動状ゲル状食品用ベースに配合することにより、当該ベースを牛乳と混合して調製したゲル状食品において、当該食材の素材感を向上することができることが分かった。したがって、水不溶性粒子を含む粉末状又は流動状の食材の配合量を少なく抑えることが可能となり、例えば、流動状ゲル状食品用ベースのpH上昇の抑制や、均一で滑らかなゲルの形成などを図ることができる。