(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いたゴム部材
(51)【国際特許分類】
C08L 23/16 20060101AFI20230724BHJP
C08L 23/18 20060101ALI20230724BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230724BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L23/18
C08K3/04
C08K5/14
(21)【出願番号】P 2019114548
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】横幕 恭子
(72)【発明者】
【氏名】片貝 勇人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 剛
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107609(JP,A)
【文献】特開2006-189092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/16
C08L 23/18
C08K 3/04
C08K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム、
有機過酸化物、
窒素吸着比表面積が5m
2/g以上、20m
2/g以下であるカーボンブラック(A)、および
窒素吸着比表面積が20m
2/gを超え、150m
2/g以下であるカーボンブラック(B)
を含むゴム組成物であって、
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記カーボンブラック(A)および前記カーボンブラック(B)の合計量が70重量部以上、100重量部未満
、前記カーボンブラック(B)の量が5重量部以上、20重量部未満であり、
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムがエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、およびエチレン・ブテン・ジエン共重合体(EBDM)からなる群より選択される少なくとも一種である、
ゴム組成物。
【請求項2】
カーボンブラック(A)のDBP吸着量が5mL/100g以上、50mL/100g未満であり、
カーボンブラック(B)のDBP吸着量が50mL/100g以上、160mL/100g以下である、
請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムの非共役ポリエン含量が1.5重量%以上、11.5重量%以下である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムが、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンからなる群より選択される少なくとも一種の非共役ポリエンを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記有機過酸化物が、ジアルキルパーオキサイド及びパーオキシケタールからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記有機過酸化物の量が2.5重量部を超え、8.0重量部以下である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のゴム組成物を加硫成形してなるゴム部材。
【請求項8】
架橋密度が4.00×10
-4
mol/ml以上である請求項7に記載のゴム部材。
【請求項9】
以下の条件をすべて満たす請求項7又は8に記載のゴム部材。
条件1:10Hzにおける30℃および240℃の弾性率が15MPa以上である。
条件2:30℃、10Hzにおける弾性率に対する240℃、10Hzにおける弾性率の変化率をX%とすると、0%≦X≦25%である。
条件3:30℃から240℃までの温度範囲において弾性率が30℃、10Hzの弾性率以上である。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載のゴム部材を含むピストンシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いたゴム部材、特にピストンシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピストンシール部材の温度上昇に伴う熱膨張を抑えることと温度上昇に伴う弾性率の低下を低減させることを目的として、エチレンプロピレンゴム(EPDM)100重量部に対し、少なくともカーボンブラック100重量部以上を添加したゴム組成物を成形したピストンシール部材が開示されている。当該ゴム組成物の製造過程では、混練の際にプロセスオイルを使用しないことが望ましい、とされている。特許文献1の請求項5には、10Hz、30℃における弾性率及び10Hz、150℃ における弾性率がいずれも12MPa以上であることを特徴とするピストンシール部材、請求項6には、30℃から150℃への温度上昇に伴う弾性率の変化率が±25%以内であることを特徴とするピストンシール部材が記載されている。
【0003】
特許文献2には、温度上昇に伴う熱膨張を抑えると共に、弾性率の低下を減少させ、耐久性に優れたピストンシール部材が開示されている。当該ピストンシール部材は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)100重量部に対し、平均粒径が35~100nmでDBP吸油量が50~200ml/100gの第1のカーボンブラックを20~60重量部と、平均粒径が60~500nmでDBP吸油量が5~50ml/100gの第2のカーボンブラックを50~100重量部と、を合わせて70~160重量部を含むゴム組成物によって成形される。特許文献2によれば、第1のカーボンブラックはピストンシール部材を補強し、第2のカーボンブラックは線膨張係数を低減する、とされている。さらに、特許文献2の請求項2には、20℃~150℃ における線膨張係数の平均値が50~180ppm(/K)であるピストンシール部材、請求項3には、10Hz、30℃における弾性率が7~16MPaであるピストンシール部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-316773号公報
【文献】特開2007-107609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2の教示に従い、カーボンブラックを100重量部以上添加し、高充填化することにより、ピストンシール部材の線膨張係数を低く抑えることはできるものの、150℃以上の高温度領域では、さらに弾性率が低下してロールバックの変化量が大きくなるという問題がある。したがって、本発明が解決しようとする課題は、ゴム部材の温度の上昇に伴う弾性率の低下を抑制する事により、ブレーキの繰り返し作動によってピストンシール部材の温度が上昇しても安定してブレーキが作動し、かつ、従来よりも高温(240℃)で用いる事ができるピストンシール部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下を包含する。
[1] エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム、
有機過酸化物、
窒素吸着比表面積が5m2/g以上、20m2/g以下であるカーボンブラック(A)、および
窒素吸着比表面積が20m2/gを超え、150m2/g以下であるカーボンブラック(B)
を含むゴム組成物であって、
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記カーボンブラック(A)および前記カーボンブラック(B)の合計量が70重量部以上、100重量部未満であり、
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムがエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、およびエチレン・ブテン・ジエン共重合体(EBDM)からなる群より選択される少なくとも一種である、
ゴム組成物。
[2] エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム、
有機過酸化物、
窒素吸着比表面積が5m2/g以上、20m2/g以下であるカーボンブラック(A)、および
窒素吸着比表面積が20m2/gを超え、150m2/g以下であるカーボンブラック(B)
を含むゴム組成物であって、
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記カーボンブラック(B)の量が5重量部以上、20重量部未満であり、
前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムがエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、およびエチレン・ブテン・ジエン共重合体(EBDM)からなる群より選択される少なくとも一種である、
ゴム組成物。
[3] カーボンブラック(A)のDBP吸着量が5mL/100g以上、50mL/100g未満であり、
カーボンブラック(B)のDBP吸着量が50mL/100g以上、160mL/100g以下である、
[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4] 前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムの非共役ポリエン含量が1.5重量%以上、11.5重量%以下である、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のゴム組成物。
[5] 前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムが、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンからなる群より選択される少なくとも一種の非共役ポリエンを含む、[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のゴム組成物。
[6] 前記有機過酸化物が、ジアルキルパーオキサイド及びパーオキシケタールからなる群より選択される少なくとも一種である、[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のゴム組成物。
[7] 前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記有機過酸化物の量が2.5重量部を超え、8.0重量部以下である、
[1]乃至[6]のいずれか一項に記載のゴム組成物。
[8] [1]乃至[7]のいずれか一項に記載のゴム組成物を加硫成形してなるゴム部材。
[9] 架橋密度が4.00×10-4mol/ml以上である[8]に記載のゴム部材。
[10] 以下の条件をすべて満たす[8]又は[9]に記載のゴム部材。
条件1:10Hzにおける30℃および240℃の弾性率が15MPa以上である。
条件2:30℃、10Hzにおける弾性率に対する240℃、10Hzにおける弾性率の変化率をX%とすると、0%≦X≦25%である。
条件3:30℃から240℃までの温度範囲において弾性率が30℃、10Hzの弾性率以上である。
[11] [8]乃至[10]いずれか一項に記載のゴム部材を含むピストンシール部材。
【発明の効果】
【0007】
高温時の弾性率低下を抑制し、従来よりも高い温度域で低温と高温の弾性率変化が少ないゴム組成物を用いたピストンシール部材を提供することで、ブレーキの繰り返し作動によって、温度が上昇してもロールバックの変化量が抑えられ、運転者のブレーキ操作時の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ピストンシール部材を含むディスクブレーキを模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るピストンシール部材の作動前(後)の状態を、
図1のAの部分を拡大して模式的に示した断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るピストンシール部材の作動中の状態を、
図1のAの部分を拡大して模式的に示した断面図である。
【
図4】実施例1、実施例2、及び比較例1のゴム部材の弾性率の温度依存性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ピストンシールのメカニズム]
初めに、本発明が意図するピストンシールの作動メカニズムを、図面を用いて簡潔に説明する。
図1は、ピストンシール部材1を含むディスクブレーキを模式的に示す断面図である。ここでは、一例として、フローティングタイプの車両用ディスクブレーキを図示している。
図2および
図3は、本発明の一実施形態に係るピストンシール部材1を模式的に示す断面図であり、
図1のAの部分を拡大した図である。
【0010】
図1に示すように、ディスクブレーキには、ピストン5およびシリンダ4を含むキャリパボディ10が設けられている。車輪(図示せず)と一体回転するディスクローター11の両側の摩擦面に臨ませて一対の摩擦パッド3aおよび3bが配置されている。摩擦パッド3aは、シリンダの孔6に挿入されたピストン5によって押されて移動し、ディスクローター11の一側面に接する。摩擦パッド3bは反作用部12によって押されて移動し、ディスクローター11の他方の側面に接する。この動作によって生じる摩擦力で車輪の回転を止めている。
液圧室8は、ピストン5の底部とシリンダ4の間に設けられている。この液圧室8には、供給口9からブレーキフルードが供給される。供給口9は、液圧回路を介して、液圧源であるマスタシリンダーの出力ポート(図示せず)に接続されている。また液圧室8は、シリンダの孔6を介して、ピストンシール溝7に接続されている。
【0011】
図2に示すように、シリンダ4の内周壁には、環状のピストンシール溝7が設けられている。このピストンシール溝7にピストンシール部材1が嵌め込まれ、ブレーキ液をシールしている。ピストンシール部材1は、一般にゴムを主成分とするゴム組成物によって成形されている。ピストンシール溝7には、面取コーナー7aと面取りコーナー7bが設けられている。
【0012】
図3に示すように、白い矢印の方向へピストン5が摺動して前進することで、ピストンの摺動面2に追従してピストンシール部材1の一部が面取りコーナー7aに入り込む。液圧室8の液圧が低下したらピストンシール部材1のゴム弾性によってピストン5が
図3の白い矢印と反対方向に動き、
図2の状態に復元する。このように、ピストンシール部材1は、ブレーキ液をシールする機能と、液圧が低下した時に、前進していたピストン5をもとの位置に戻す(ロールバックさせる)機能を持つ。
【0013】
[本発明の技術思想]
次に、従来技術と比較しつつ、本発明の独創性について説明する。
上記したとおり、ブレーキの摩擦パッドは油圧でピストンを前進させることにより、ディスクローターに押し当てられて車輪の回転を止める機能を有する。そのため、ピストンシールには、ブレーキ液を確実にシールするための靭性と、液圧で前進したピストンを、もとの位置に戻すための弾性とが求められる。
ところで、キャリパボディは、ディスクローターとブレーキパッドの間に生じる摩擦熱によって作動中に高温になることから、ピストンシールも高温に曝される。例えば、レース走行時には、キャリパボディ内の温度が200℃以上の高温に達する場合もある。このような高温下では、ゴム組成物から成るピストンシール部材が、高温により膨張を生じると共に、弾性率の低下も生じるために、ロールバック量が増加する。この結果、ブレーキを複数回作動させるとロールバック量が変化してしまうことで、ブレーキの効き代が変化し、運転者はブレーキ操作に違和感を感ずることになる。
【0014】
従来技術では、カーボンブラックなどの充填剤をゴムに多量(例えば、EPDM100重量部に対して100重量部以上)に配合し、ゴム組成物中のポリマー分率を下げることで、ゴム部材の熱膨張を小さくする手法や、低温時の弾性率(絶対値)を大きくすることで、高温時に弾性率が低下しても、ある程度大きな弾性率を維持することで、ロールバック量を安定化させる手法が取られてきた。
【0015】
これに対して、本発明では、ゴム部材の架橋密度を高めることによって、高温時に弾性率が低下することなく、低温時と高温時の弾性率変化を抑制する手法を採用した。すなわち、本発明者らは、高温でゴム部材の弾性率が低下してしまうのは、架橋密度が低いために架橋点間の距離が長くなり、その結果、熱膨張によるゴム部材の弾性率の低下を抑えることができないと考えた。そこで、架橋密度を高くすれば、ゴム部材内に熱膨張を抑える架橋点が多数存在し、架橋点間の距離が短くなることから、高温で弾性率の低下を抑えることができると予測した。
架橋密度を高めることにより、カーボンブラック等の充填剤を多量に添加しなくてもゴム部材の熱膨張を抑制する線膨張係数を低い値に維持することができ、弾性率も15MPa以上の高い値とすることができる。15MPa以上の高い弾性率が維持されると、ロールバック量を小さくすることができる。さらに30℃から240℃という従来技術よりも広い温度域においても、高い弾性率を有し、しかも、高温度域で弾性率が低下しないため、弾性率の温度依存性が少なくなる。この結果、低温と高温のロールバック変化量が小さくなり、ブレーキの繰り返し作動時の安定性が高まる。
【0016】
[実施形態の詳細説明]
本発明に係るゴム組成物は、
[1] エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム、有機過酸化物、窒素吸着比表面積が5m2/g以上、20m2/g以下であるカーボンブラック(A)、および窒素吸着比表面積が20m2/gを超え、150m2/g以下であるカーボンブラック(B)を含むゴム組成物であって、前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記カーボンブラック(A)および前記カーボンブラック(B)の合計量が70重量部以上、100重量部未満であり、前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムがエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、およびエチレン・ブテン・ジエン共重合体(EBDM)からなる群より選択される少なくとも一種である、ゴム組成物であり、
[2] エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム、有機過酸化物、窒素吸着比表面積が5m2/g以上、20m2/g以下であるカーボンブラック(A)、および窒素吸着比表面積が20m2/gを超え、150m2/g以下であるカーボンブラック(B)を含むゴム組成物であって、前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記カーボンブラック(B)の量が5重量部以上、20重量部未満であり、前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムがエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、およびエチレン・ブテン・ジエン共重合体(EBDM)からなる群より選択される少なくとも一種である、ゴム組成物である。
【0017】
発明特定事項の各々について以下に順に説明する。
【0018】
[エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム]
エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムにおけるα-オレフィンは、具体的には、プロピレン又はブテンである。したがって、エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムは、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、およびエチレン・ブテン・ジエン共重合体(EBDM)からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0019】
非共役ポリエンとしては、
5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-プロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、2,5-ノルボルナジエン、1,4-シクロヘキサジエン、1,4-シクロオクタジエン及び1,5-シクロオクタジエンなどの環状ポリエン、
1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,6-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、7-メチル-1,7-ノナジエン、8-メチル-1,7-ノナジエン、8-メチル-1,8-デカジエン、9-メチル-1,8-デカジエン、4-エチリデン-1,6-オクタジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、7-エチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、6,7-ジメチル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン及び6,7-ジメチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエンなどの炭素数が6~15の内部不飽和結合を有する鎖状ポリエン、並びに
1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,8-ノナジエン、1,9-デカジエン、1,10-ウンデカジエン、1,11-ドデカジエン、1,12-トリデカジエン及び1,13-テトラデカジエンなどのα,ω-ジエンがある。
【0020】
好ましくは、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)または、1,4-ヘキサジエン(1,4-HD)からなる非共役ポリエン群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。特に5-エチリデン-2-ノルボルネンは重合反応性が高いため、架橋反応が起こりやすく、より好ましい。
【0021】
したがって、本発明の実施に適したエチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-1,4-ヘキサジエン共重合体ゴム、エチレン-1-ブテン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン-1-ブテン-5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体ゴム、エチレン-1-ブテン-ジシクロペンタジエン共重合体ゴム、エチレン-1-ブテン-1,4-ヘキサジエン共重合体ゴムを挙げることができる。
【0022】
エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム中の非共役ポリエン含量が多いほど架橋密度を高めることができ、高温時の弾性率(E’)の低下を抑制する効果が高い。したがって、エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム中の非共役ポリエン含量は1.5重量%以上であることが好ましい。
一方、エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム中の非共役ポリエン含量が多すぎると、架橋反応が進行しすぎてしまうため、製品の破断伸びが低下し、ピストンシールに適切な伸びが得られないことがある。したがって、エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム中の非共役ポリエン含量は11.5重量%以下であることが好ましく、9.5重量%以下であることがより好ましい。
【0023】
上記のほか、EPDM、EBDMの特性は、分岐の多少などの分子構造、平均分子量、分子量分布等によっても影響を受ける。また、JIS-K-6300で規定されているムーニー粘度(ML1+4(100℃)は、伸展油を添加することにより、適宜調節することもできる。このように、EPDM、EBDMには多くの種類が知られているが、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、いずれも使用することができる。
【0024】
市販のエチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴムとしては、VNB-EPT(ジエン量1.5重量%のEPDM、三井化学株式会社製)、エスプレン501A(ジエン量4.0重量%のEPDM、住友化学株式会社製)、EBT 9330M(ジエン量7.1重量%のEBDM、三井化学株式会社製)、エスプレン505A(ジエン量9.5重量%のEPDM、住友化学株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
[有機過酸化物]
ゴムの架橋剤として一般的な硫黄は、EPDMやEBDMの場合、架橋体の形成が進行しにくく架橋密度が低下することや、ピストンシール部材の耐熱性が劣ることから好ましくない。このため、本発明では有機過酸化物を用いてゴムの架橋を行う。
本発明において架橋剤として用いられる有機過酸化物としては、パーオキシカーボネート類、ジアシルパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類などがある。
【0026】
パーオキシカーボネート類としては1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、1,6-ビス(1,1-ジメチルプロピルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、1,6-ビス(1,1-ジメチルブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、1,6-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)プロパン、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘプタン等のビス〔t-(C4-C10)アルキルパーオキシカルボニロキシ〕((C3-C10)アルカン、ジエチレングリコール-ビス(t-ブチルパーオキシカーボネート)、ジエチレングリコール-ビス(1,1-ジメチルプロピルパーオキシカーボネート)、ジエチレングリコール-ビス(1,1-ジメチルブチルパーオキシカーボネート)、ジエチレングリコール-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシカーボネート)、トリエチレングリコール-ビス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のジまたはトリ(C2~C3)アルキレングリコール-ビス〔t-(C4-C10)アルキルパーオキシカーボネート〕、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,1-ジメチルプロピルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,1-ジメチルブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1-ジメチルプロピルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1-ジメチルブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のt-(C4~C10)アルキルパーオキシ(C3-C8))アルキルカーボネート等が挙げられる。
【0027】
ジアシルパーオキサイド類としてはジベンゾイルパーオキサイド、ビス(2-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(2,4-ジメチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(3,5-ジメチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(2-クロロベンゾイル)パーオキサイド、ビス(3-クロロベンゾイル)パーオキサイド、ビス(4-クロロベンゾイル)パーオキサイド、ビス(2,4-ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ビス(3,5-ジクロロベンゾイル)パーオキサイド等のビス〔非置換またはクロル置換若しくは(C1~C3)アルキル置換ベンゾイル〕パーオキサイド等が挙げられる。
【0028】
ジアルキルパーオキサイド類としては、ジ〔フェニル置換を有してもよい(C3~C12)アルキル〕パーオキサイドまたはフェニル置換を有してもよい(C3~C12)アルキルパーオキサイド基が2つ炭素数8~12の炭化水素架橋基を介して結合したジアルキルパーオキサイドがあげられ、具体的にはジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0029】
パーオキシケタール類としては1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(1,1-ジメチルプロピルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(1,1-ジメチルブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ)ブタン、4,4-ジ-t-ブチルパーオキシ-n-ブチルバレレート等が挙げられる。
【0030】
アルキルパーエステル類としては、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ジメチルプロピルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジメチルプロピルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ジメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1-ジメチルプロピルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1-ジメチルブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0031】
これらは、シリカや炭酸カルシウムを担持体とした希釈品やマスターバッチ品として使用することもできる。
【0032】
上記有機過酸化物のうち、ジアルキルパーオキサイド及びパーオキシケタールからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらを用いることで、架橋効率を高めることができ、ゴムの混練時や加工時の熱安定性も高くなりやすい。
【0033】
有機過酸化物の使用量は、前記エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、前記有機過酸化物の量が2.5重量部を超え、8.0重量部以下であり、好ましくは2.8重量部以上である。
【0034】
市販の有機過酸化物としては、パーヘキサ25B(ジアルキルパーオキサイド、日油株式会社製)、パーヘキサC(パーオキシケタール、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
[カーボンブラック]
カーボンブラックには様々な種類があり、用途によって適切なものが選択されて用いられている。本願に関連するカーボンブラックの種類を下記の表3にまとめて示す。ASTMコード(一般呼称)では、比表面積の大きい順に、N100(SAFグレード)、N200(ISAFグレード)、N300(HAFグレード)、N500(FEFグレード)、N700(SRFグレード)、N900(MTグレード)となり、一般に前三者を「ハードカーボン」、後三者を「ソフトカーボン」と称している。それぞれの窒素吸着比表面積(m2/g)、及びDBP吸着量(mL/100g)は表3に記載のとおりである。
【0036】
本発明に係るゴム組成物は、窒素吸着比表面積が5m2/g以上、20m2/g以下であるカーボンブラック(A)、および窒素吸着比表面積が20m2/gを超え、150m2/g以下であるカーボンブラック(B)を含む。
カーボンブラック(A)のDBP吸着量が5mL/100g以上、50mL/100g未満であることが好ましく、カーボンブラック(B)のDBP吸着量が50mL/100g以上、160mL/100g以下であることが好ましい。
【0037】
本発明においては、まず、上に規定のカーボンブラック(A)とカーボンブラック(B)とを併用することが必要である。カーボンブラック(A)を使用することで、ゴム部材の弾性率の温度依存性を小さくすることができる。しかし、カーボンブラック(A)だけの使用では、ゴム部材の強度が十分でない。そこで、上に規定のカーボンブラック(B)を添加する事によって補強性と高い弾性率とを両立することができる。カーボンブラック(A)とカーボンブラック(B)の選択の基準は、本発明の顕著な特徴の一つである。
【0038】
本発明においては、更に、カーボンブラック(A)とカーボンブラック(B)の合計量も重要である。カーボンブラックの合計量が70重量部未満であると、ゴム組成物中のポリマー分率が高くなり、高温時の熱膨張を抑えることができない場合がある。一方、カーボンブラックの合計量が100重量部以上であると、ゴム組成物中のカーボンブラック分率が高くなり、その結果、ゴム部材の弾性率の温度依存性が大きくなり、高温時の弾性率が低下してしまう場合がある。そこで、エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計量を70重量部以上、100重量部未満とすることが推奨される。
【0039】
本発明においては、また、カーボンブラック(B)の量も重要である。比表面積の大きいカーボンブラック(B)を配合すると、弾性率の温度依存性が大きくなってしまうため、カーボンブラック(B)を単独で使用したり、カーボンブラック(A)との併用時であっても20重量部以上を配合したりすると、ゴム部材の高温時の弾性率が低下し、弾性率の温度依存性を抑制することができないことがある。一方、カーボンブラック(B)の量が5重量部未満であると、カーボンブラック(A)との併用の効果があらわれにくいことがある。そこで、エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム100重量部に対し、カーボンブラック(B)の量を5重量部以上、20重量部未満とすることが推奨される。
【0040】
[共架橋剤]
共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジアリルフタレート、キノンジオキシム類、ビスマレイミド類、ジメタクリル酸金属塩、ジアクリル酸金属塩、イオウ化合物、1,2-ポリブタジエンなどを用いることができる。共架橋剤の配合量は、本発明に係るゴム組成物中の共重合体ゴム成分を100重量部として、好ましくは0.1~10重量部であり、より好ましくは0.5~3重量部である。
【0041】
[その他添加剤]
本発明に係るゴム組成物には、ゴムの架橋反応を活性化する架橋活性剤や架橋促進剤、軟化剤、老化防止剤、加工性を改良する加工助剤等を更に配合することができる。
【0042】
[軟化剤]
軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤;コールタール、コールタールピッチなどのコールタール系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの植物油系軟化剤;トール油、サブ、蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリンなどのロウ類;ビス(2-エチルヘキシル)セバケートなどの脂肪族二塩基酸エステル;トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートなどの正リン酸エステル;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛などの脂肪酸及び脂肪酸塩;石油樹脂、アタクチックポリプロピレン、クマロンインデン樹脂などの合成高分子物質などがあげられる。
【0043】
[老化防止剤]
老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、アミン-ケトン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤の配合量はポリマー(a)100質量部に対し、通常0.1~10質量部、好ましくは0.5~3質量部である。市販品として具体的には、ノクラックCD(大内新興化学工業株式会社製、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)等が挙げられる。
【0044】
[加工助剤]
加工助剤については目的に応じたものを選定すればよく、一般的によく知られている高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル類、脂肪酸アミド類、炭化水素類等を単独、もしくは2種以上を併用して用いてもよい。加工助剤の配合量は、本発明に係るゴム組成物中の共重合体ゴム成分を100重量部として、好ましくは0.1~10重量部である。また、シリカ、炭酸カルシウム、微粉タルク、微粉ケイ酸アルミニウムなどを補強剤として用いてもよい。
【0045】
[ゴム組成物の調製方法]
本発明に係るゴム組成物は、公知のゴム組成物の調製方法を用いて、上記成分を配合することによって調製することができる。例えば、バンバリーミキサー、単軸あるいは2軸の押出機、ニーダー、インターミックスなどのインターナルミキサーなど公知の混合機を用いて、軟化剤、補強剤、老化防止剤などと共重合体ゴムとを、80~170℃の温度で3~10分間混練し、次いで、オープンロールなどのロ-ル類あるいはニーダーを用いて、温度40~80℃で必要に応じて架橋剤、架橋促進剤、加工助剤などを加えて、5~30分間混練することにより調製することができる。
【0046】
[ゴム部材]
混練して得られたゴム組成物は、押出成形機、圧縮成形機、射出成形機、トランスファ成形機などによって所望のゴム部材に加硫成形することができる。成形条件は、例えば150~220℃、1~30分である。
【0047】
このようにして、以下の条件を満たす優れたゴム部材を得ることができる。
条件1:10Hzにおける30℃および240℃の弾性率が15MPa以上である。
条件2:30℃、10Hzにおける弾性率に対する240℃、10Hzにおける弾性率の変化率をX%とすると、0%≦X≦25%である。
条件3:30℃から240℃までの温度範囲において弾性率が30℃、10Hzの弾性率以上である。
また、架橋密度が4.00×10-4mol/ml以上の優れたゴム部材を得ることができる。
これらのゴム部材は、ピストンシール部材を製造するには特に好適である。
【実施例】
【0048】
以下に実施例、比較例を参照して本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<試験片作成方法及び試験条件>
〇ゴム組成物の製造方法
実施例および比較例のゴム組成物は下記の方法にて作製した。
3.5リットルバンバリーミキサーにEPDMまたはEBDM100重量部を投入し、回転速度40rpmで1分間素練りした後、所定の処方に従いカーボンブラックと共架橋剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤等を投入して3分間混練りした後、混合物をバンバリーミキサーから排出した。排出した混合物をロール間の間隙を5mmとした12インチロールに巻きつけてシート状に成形した。次に、上記の成形したゴム生地をロール間の間隙を4mmとした6インチロールに巻きつけて、所定の処方に従い過酸化物を練りこみ、切り返しを左右各3回ずつ行った後、丸め通しを3回行った。最後にシート状に成形した。
【0050】
〇試験片作成条件
混練して得られたゴム組成物をプレス成形機により、180℃、10分で架橋させることで2mm厚のシート状テストピースを得た。
【0051】
〇試験条件(常態物性)
ゴム部材の硬さは、JIS K6253に基づき、デュロメーター硬さタイプAにより測定した。
ゴム部材の引張強度、伸び、100%モジュラス値は、JIS K6251に基づき、室温で測定した。
【0052】
〇試験条件(動的粘弾性試験)
サンプル:2mm厚のシート状テストピースを40mm×4mmに打ち抜き、測定長20mmで測定した。
試験機:株式会社エー・アンド・デイ製 レオバイブロン動的粘弾性自動測定器DDV-25GP、変形方法:引張、プレロード荷重:25gf、温度範囲:25~250℃、周波数:10Hz、変位:±0.1%で測定を行い、得られたデータから30℃、150℃、240℃における弾性率(E’)を抽出した。
E’変化率X(%)={E’(240℃)-E’(30℃)}/E’(30℃)×100(%)として求めた。
【0053】
〇試験条件(線膨張係数測定)
測定機:セイコーインスツル株式会社製熱分析システム装置EXSTAR6000、温度範囲:20℃~200℃、プローブ:膨張・圧縮(石英製)、サンプル:縦×横×高さ:5mm×5mm×6mmの角柱状試験片を高さ方向に圧縮して測定した。
【0054】
<架橋密度測定方法>
20mm×20mm、2mm厚のシート状テストピースを40℃トルエン溶液に72時間浸漬後、60℃で72時間乾燥させた。トルエン溶液浸漬前、浸漬後(膨潤後)、乾燥後のテストピースの空気中と水中の重量を測定し、テストピースの浸漬前の容積Vo(mL)、膨潤後の容積V1(mL)、乾燥後の容積V2(mL)、ゴム部材中の充填剤の容積VF(mL)を求めた。さらに、Flory-Rehnerの式 により有効網目鎖濃度v(mol/mL)を求めた。
【0055】
【数1】
v : 有効網目鎖濃度 (mol/mL)
v
R : 膨潤したゴム部材中における膨潤した純ゴムの容積(純ゴムの容積+吸収した溶剤の容積(V
sol))に対する純ゴムの容積分率であり、下式にて求める。
【0056】
【数2】
μ : ゴム―溶剤間の相互作用定数 (μ=0.454)
V
m : 溶剤の分子容(23℃トルエンのとき、106.29(mL/mol))
【0057】
<ピストンシール部材作成方法及び試験条件>
〇ピストンシール部材作成条件
混練して得られた上記ゴム組成物を、圧縮成形機によってピストンシール部材に成形した。成形条件は、180℃、10分であった。
【0058】
〇製品評価方法(表4参照)
<ロールバック量の測定>
ゴム部材を成形加工したピストンシール部材を140℃において、液圧0.9MPaをディスクブレーキに10回加えて作動させた後、液圧6.9MPaで5秒間保持し、その時のピストン位置に対する液圧を解放した時のピストン移動量a(mm)を測定した。
a≦0.040mmをロールバック量が特に少ないとして「◎」、
0.040mm<a<0.060mmをロールバック量が少ないとして「〇」、
a≧0.060mmをロールバック量が多いとして「△」とした。
【0059】
<繰り返し安定性の評価>
ゴム部材を成形加工したピストンシール部材が30℃と140℃の状態におけるブレーキのききはじめまでのレバーストロークの増加量b(mm)を測定した。
b≦10mmを繰り返し安定性が特に高いとして「◎」、
10mm<b<15mmを繰り返し安定性が高いとして「〇」、
b≧15mmを繰り返し安定性が低いとして「△」とした。
【0060】
[実施例1]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を2.8phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m
2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m
2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、
図4中に実線で示したように、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。
【0061】
[実施例2]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m
2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m
2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、
図4中に破線で示したように、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。
【0062】
[実施例3]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を8.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。実施例1~実施例3より、有機過酸化物の添加量を所定の範囲内で増量すると、弾性率および弾性率変化が高くなることがわかった。
【0063】
[実施例4]
ジエン量4.0重量%のEPDM(商品名:エスプレン501A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。実施例2および実施例4を比較すると、ジエン量の高いEPDMを用いるとE’変化率を高くすることができるため、所定の範囲内でジエン成分の含有量が高いEPDMを用いるのが好ましいことがわかった。
【0064】
[実施例5]
ジエン量7.1重量%のEBDM(商品名:EBT K-9330M、三井化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を6.4phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。したがって、ポリマー(エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム)としてEBDMを用いることができることが示された。
【0065】
[実施例6]
ジエン量1.5重量%のEPDM(商品名:VNB-EPT、三井化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を2.8phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。したがって、EPDMのジエン成分量が1.5重量%のものを用いることができることが示された。
【0066】
[実施例7]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、パーオキシケタール(商品名:パーヘキサC、日油株式会社製)を8.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。したがって、有機過酸化物としてパーオキシケタール類を用いることができることが示された。
【0067】
[実施例8]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN300グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:77m2/g、DBP吸着量:100mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。
【0068】
[実施例9]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN700グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:28.5m2/g、DBP吸着量:65mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃から240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。
【0069】
[実施例10]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を58phrとN300グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:77m2/g、DBP吸着量:100mL/100g)を15phr配合したゴム組成物を得た。
上記の各試験の結果、このゴム組成物を用いたゴム部材は、以下の有利な効果を奏することが見出された。すなわち、各温度の弾性率(E’)は15MPa以上、30℃および240℃におけるE’変化率Xは0%≦X≦25%となり、30℃より高温でもE’は低下しない。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域でも高い弾性率が維持され、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が小さくなり、ブレーキの繰り返し安定性が高くなる。したがって、実施例8~実施例10より、特定値より大きな窒素吸着比表面積(またはDBP吸着量)を有するカーボンブラックを20重量部未満添加することができることがわかった。
【0070】
[比較例1]
ジエン量4.0重量%のEPDM(商品名:エスプレン501A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m
2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を110phrとN700グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:28.5m
2/g、DBP吸着量:65mL/100g)を20phr配合したゴム組成物を得た。
図4中に一点鎖線で示したように、上記試験方法に従って得られた上記ゴム組成物を用いたゴム部材の30℃、240℃の弾性率(E’)は15MPa以上となるが、E’変化率は-22%となり、30℃より高温の弾性率(E’)が低下した。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域の弾性率が低下するため、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が大きくなり、ブレーキの繰り返し安定性が低下した。したがって、カーボンブラックBを20重量部以上添加すると高温時の弾性率が低下するため、その添加量は20重量部未満とすることが望ましいことがわかった。
【0071】
[比較例2]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を2.2phr、N900グレードのカーボンブラックA(窒素吸着比表面積:10m2/g、DBP吸着量:36mL/100g)を78phrとN100グレードのカーボンブラックB(窒素吸着比表面積:142m2/g、DBP吸着量:112mL/100g)を5.0phr配合したゴム組成物を得た。
上記試験方法に従って得られた上記ゴム組成物を用いたゴム部材の30℃の弾性率(E’)は15MPa以上あったが、240℃の弾性率(E’)は15MPa未満であった。E’変化率は-13%となり、30℃より高温の弾性率(E’)が低下した。したがって、有機過酸化物の量が2.8phr以下では、架橋密度が低いため高温時の弾性率が低下する。その結果、ピストンシール部材の低温度域と高温度域のロールバック変化量が大きくなり、繰り返し安定性が低下することがわかった。
【0072】
[比較例3]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N300グレードのカーボンブラック(窒素吸着比表面積:77m2/g、DBP吸着量:100mL/100g)を52phr配合したゴム組成物を得た。
上記試験方法に従って得られた上記ゴム組成物を用いたゴム部材の30℃、240℃の弾性率(E’)は15MPa以上となったが、E’変化率は-21%となり、30℃より高温の弾性率(E’)が低下した。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域の弾性率が低下するため、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が大きくなり、ブレーキの繰り返し安定性が低下した。
【0073】
[比較例4]
ジエン量9.5重量%のEPDM(商品名:エスプレン505A、住友化学株式会社製)100重量部に対して、ジアルキルパーオキサイド(商品名:パーヘキサ25B、日油株式会社製)を4.0phr、N700グレードのカーボンブラック(窒素吸着比表面積:28.5m2/g、DBP吸着量:65mL/100g)を66phr配合したゴム組成物を得た。
上記試験方法に従って得られた上記ゴム組成物を用いたゴム部材の30℃、240℃の弾性率(E’)は15MPa以上となったが、E’変化率は-6%となり、30℃より高温の弾性率(E’)が低下した。このゴム組成物を用いたピストンシール部材は、高温度域の弾性率が低下するため、低温度域と高温度域のロールバック量の変化が大きくなり、ブレーキの繰り返し安定性が低下した。したがって、比較例3および比較例4より、比表面積が大きいカーボンブラックの単独使用は、弾性率の温度依存性を大きくしてしまうことがわかった。
【0074】
上記の実施例、および比較例に供したゴム組成物の組成と、それらの常態物性、線膨張係数、架橋密度、弾性率、ブレーキ性能の試験結果とを表1にまとめた。使用したポリマー(エチレン-α-オレフィン-非共役ポリエン系共重合体ゴム)のグレード一覧を表2に、カーボンブラックのグレード一覧を表3にそれぞれ示した。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
図4は、実施例1、実施例2、及び比較例1のゴム組成物を用いたゴム部材について、下記の測定条件で測定した弾性率の温度依存性を、横軸を温度(単位:℃)、縦軸を弾性率(単位:MPa)にとって示したグラフである。
<測定条件>
変形方法:引張、周波数:10Hz、変位:±0.1%、プレロード荷重:25gf、温度範囲:25~250℃
【0080】
図4において、実線は実施例1の結果を示し、弾性率(E’)が15MPa以上であり、30℃より高温で弾性率(E’)が低下せず、ほぼ一定となる。破線は実施例2の結果を示し、弾性率(E’)が15MPa以上であり、30℃より高温で弾性率(E’)が低下せず増加する。一点鎖線は比較例1の結果を示し、弾性率(E’)が15MPa以上であるが、30℃より高温で弾性率(E’)が低下する。
【0081】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、シリンダー部材やカップ部材等に適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、高温時の弾性率低下を抑制し、従来よりも高い温度域で低温と高温の弾性率変化が少ないゴム組成物を用いたピストンシール部材が提供され、ブレーキの繰り返し作動によって、温度が上昇してもロールバックの変化量が抑えられ、運転者のブレーキ操作時の違和感を低減することができる。