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  • 特許-複合加工機の主軸装置 図1
  • 特許-複合加工機の主軸装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】複合加工機の主軸装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 19/02 20060101AFI20230724BHJP
   B23Q 16/02 20060101ALI20230724BHJP
   B23Q 16/06 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
B23B19/02 E
B23Q16/02 G
B23Q16/06 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019124681
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021010951
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】大仲 健司
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-138304(JP,A)
【文献】特開平11-010485(JP,A)
【文献】特開平10-006105(JP,A)
【文献】特開平08-243802(JP,A)
【文献】特開平08-025107(JP,A)
【文献】特開昭63-156644(JP,A)
【文献】特開昭61-164742(JP,A)
【文献】特開昭60-141472(JP,A)
【文献】実開昭60-061135(JP,U)
【文献】実開昭58-052302(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第00261312(EP,A2)
【文献】特開2010-023148(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1197280(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23Q 5/00-5/58
B23Q 16/00-16/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアンギュラ玉軸受で回転可能に支持された主軸と、前記主軸の回転軸を挟んで軸対称に配置され、前記主軸の回転軸に対して垂直に移動可能な複数の移動ギアと、前記主軸とともに回転する回転ギアとを備えた、工具交換可能な複合加工機の主軸装置であって、
旋削工具使用時に、前記移動ギアと前記回転ギアとを噛合せて前記主軸の回転を固定する際、前記主軸の回転を固定するために必要な推力を、前記移動ギア及び前記主軸を介して前記アンギュラ玉軸受に加わる負荷が、前記アンギュラ玉軸受の静定格荷重未満となるように、複数回に分割して前記移動ギアに与えることを特徴とする複合加工機の主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具交換可能な複合加工機の主軸を、旋削工具使用時に主軸を割り出して固定する複合加工機の主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複合加工機では、主軸にエンドミル・フライスのような回転工具と、回転しない旋削工具(例えば、バイト)とを交換可能に取り付け、マシニングセンタ及び旋盤の工程を1台で加工可能にしている。回転工具使用時には、主軸に取り付けられたモータによって主軸を回転駆動し、マシニングセンタの主軸の役割を果たす。一方、旋盤加工時には、主軸をある角度に割り出して固定し、旋盤の刃物台として作用させる。この時、主軸の回転を拘束し、切削力で当該主軸が回転しないように旋削工具を固定する必要があり、主軸にテーパリングを押し付けて固定する方法(特許文献1)や端面に歯車を設けた複数のギアカップリングを用いて主軸を固定する方法(特許文献2)が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-25107号公報
【文献】特開昭61-164742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特にギアによる主軸回転の固定の場合、切削力に耐えるように主軸の回転を固定するには、強い力で主軸半径方向に移動ギアを主軸が有する回転ギアに押し付ける必要がある。この時、移動ギアは一定の推力を与えられて、主軸半径方向両側から回転ギアに押し付けられるが、部品精度や組立精度等のばらつきによって、移動ギアと回転ギアとの噛合う瞬間が主軸ギアの両側でずれる可能性がある。そして、ギア同士の噛合うタイミングがずれた場合、移動ギアに与えられた主軸半径方向の推力が、主軸を通してアンギュラ玉軸受に半径方向負荷として働き、アンギュラ玉軸受に生じる半径方向の負荷が、アンギュラ玉軸受の静定格荷重を超えると、アンギュラ玉軸受を損傷させ、軸受の寿命を著しく低下させる原因になる。そこで従来は、アンギュラ玉軸受に負荷を伝えないように、半径方向負荷に強いころ軸受を追加することで対応しているが、ころ軸受を追加することで主軸全長が長くなり、機内空間に対する加工可能な領域の減少及び主軸動作時に機内で干渉する可能性の増加が問題となる。加えて、ころ軸受を追加することで、主軸の高速回転に不利になるといった問題もある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、複合加工機の旋削加工時にギアを用いて主軸を固定する時、アンギュラ玉軸受に発生する負荷を低減させることで、ころ軸受を使用しない、より小型な複合加工機の主軸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、少なくともアンギュラ玉軸受で回転可能に支持された主軸と、主軸回転軸を挟んで軸対称に配置され、主軸回転軸に対して垂直に移動可能な複数の移動ギアと、主軸とともに回転する回転ギアとを備えた、工具交換可能な複合加工機の主軸装置であって、旋削工具使用時に、移動ギアと回転ギアとを噛合せて主軸の回転を固定する際、主軸の回転を固定するために必要な推力を、前記移動ギア及び前記主軸を介して前記アンギュラ玉軸受に加わる負荷が、前記アンギュラ玉軸受の静定格荷重未満となるように、複数回に分割して移動ギアに与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、主軸の回転固定動作時に、アンギュラ玉軸受へ大きな負荷を伝えないため、ころ軸受を使用する必要が無くなり、主軸全長の短縮による加工領域、動作可能範囲の拡大、装置の小型化が可能になる。また、回転工具使用時に、より高回転での運用が可能になる。
さらに、主軸の回転固定動作時に、アンギュラ玉軸受を損傷する恐れが無くなり、アンギュラ玉軸受の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の固定方法が適用された主軸の一例を示す断面図である。
図2】本発明の固定動作でギアに与える推力の設定方法のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
なお、複合加工機には、旋盤をベースとしたものと、マシニングセンタをベースとしたものとがあるが、旋盤をベースとした複合加工機の刃物台に取り付けられた主軸と、マシニングセンタをベースとした複合加工機の主軸とは、ほぼ同じ構成であるため、以降、旋盤をベースとした複合加工機の主軸装置について説明する。
工具交換可能な複合加工機の主軸装置Mにおいて、図1に示すように、アンギュラ玉軸受2を含む複数の軸受で回転可能に支持された主軸1は、外周上に回転ギアとしての歯車1aを有し、フランジ6がハウジング5に取り付けられ、フランジ6内に主軸1の半径方向にのみ移動可能な移動ギア3,4が挿入されている。主軸1の歯車1aと移動ギア3,4とは、互いに噛合う大きさのギアとなっており、主軸1回転軸周りに対称な位置、ここでは、それぞれ向かい合わせになるよう配置されている。また、移動ギア4は、主軸1に対し、移動ギア3の反対側の位相に配置される。当該複合加工機の回転工具使用時は、主軸1が有する歯車1aと移動ギア3,4とが離れる事で、主軸1が回転可能となる。
【0010】
続いて、旋削工具使用時の主軸1の回転固定動作について、順を追って説明する。
主軸1が、図示しない位置検出器によって所定の角度に割り出され停止した後に、一定の推力を与えられた移動ギア3,4が、図1の点線矢印で示したように、主軸1の半径方向に沿って、主軸1へ向かって移動し、主軸1の歯車1aと噛合う。この時、移動ギア3,4は、フランジ6を通してハウジング5に支えられることで、主軸1の回転方向への移動が固定されているため、主軸1の歯車1aと移動ギア3,4が噛合うことにより、主軸1の回転が固定される。
【0011】
次に、移動ギア3,4に与える推力の設定について説明する。
一定の推力を与えられて移動した移動ギア3,4は、主軸1の歯車1aと噛合う。この時、移動ギア3,4と歯車1aとの噛合うタイミングが移動ギア3と移動ギア4とで同時の場合、主軸1では半径方向の力がつりあい、半径方向への変位は生じない。しかし実際には、部品のばらつきや、組立のばらつき、それぞれの移動ギア3,4に推力が加わるタイミングのずれ等の様々な要因で、移動ギア3,4と歯車1aとが噛合うタイミングは異なる可能性が高い。移動ギア3,4と歯車1aとの噛合うタイミングがずれた場合、移動ギア3,4に与えられている推力は、主軸1を通してアンギュラ玉軸受2に負荷を与える可能性がある。従って、この負荷がアンギュラ玉軸受2の静定格荷重を超えないよう、移動ギア3,4に与える推力を設定する必要がある。
【0012】
主軸1の回転を固定するために移動ギア3,4を主軸1の半径方向に移動させる際、図2に示すように、まず、移動ギア3,4には、移動ギア3、4が主軸1の回転を固定するために必要とする推力Aよりも小さな推力Bを与える。前述のように、移動ギア3,4に与えられた推力は、主軸1を通してアンギュラ玉軸受2に負荷を与える可能性があるため、推力Bによって発生すると想定される負荷がアンギュラ玉軸受2の静定格荷重未満となるように、推力Bを設定する。推力Bを与えられた移動ギア3,4が歯車1aに噛合い、主軸1の半径方向の力が釣り合った後、さらに移動ギア3,4に与える推力をBだけ増加させる。このように、移動ギア3,4に与える推力の増加を繰返し、最終的に、移動ギア3,4は主軸1の回転を固定するために必要な推力Aを得る。
このようにして、移動ギア3,4に主軸1の回転を固定するために必要な推力Aを与えた場合、移動ギア3,4が噛合うタイミングがずれた場合であっても、アンギュラ玉軸受2を損傷させる恐れなしに、主軸1の固定動作を行うことが可能になり、主軸1半径方向の負荷を受けるためのころ軸受を用いる必要が無くなる。
【0013】
上記形態の複合加工機の主軸装置Mは、少なくともアンギュラ玉軸受2で回転可能に支持された主軸1と、主軸1の回転軸を挟んで反対位相に配置され、主軸1の回転軸に対して垂直に移動可能な2つの移動ギア3,4と、主軸1とともに回転する歯車1aとを備え、旋削工具使用時に、移動ギア3,4と歯車1aとを噛合せて主軸1の回転を固定する際、主軸1の回転を固定するために必要な推力Aを複数回に分割して移動ギア3,4に与える。
このような構成の複合加工機の主軸装置Mによれば、主軸1の回転固定動作時に、アンギュラ玉軸受2へ大きな負荷を伝えないため、ころ軸受を使用する必要が無くなり、主軸1の全長の短縮による加工領域、動作可能範囲の拡大、装置の小型化が可能になる。また、回転工具使用時に、より高回転での運用が可能になる。
【0014】
また、移動ギア3,4に複数回に分割して与える推力Bは、分割される推力Bにより移動ギア3,4及び主軸1を介してアンギュラ玉軸受2に加わる負荷が、アンギュラ玉軸受2の静定格荷重未満となるように設定される。
よって、主軸1の回転固定動作時に、アンギュラ玉軸受2を損傷する恐れが無くなり、アンギュラ玉軸受の寿命を延ばすことができる。
【0015】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、回転ギアは主軸1に直接形成せずに、別体として主軸に取り付けても良い。また、移動ギアに与える推力は、毎回同じ推力ずつ増加させる必要は無く、アンギュラ玉軸受に伝わる負荷が静定格荷重未満となるのであれば、推力の増加量は可変としても良い。
【符号の説明】
【0016】
M・・複合加工機の主軸装置、1・・主軸、2・・アンギュラ玉軸受、3,4・・ギア、5・・ハウジング、6・・カラー、7・・フタ、8・・フランジ、9・・フタ。
図1
図2