IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社極洋の特許一覧

<>
  • 特許-魚粉及び製剤 図1
  • 特許-魚粉及び製剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】魚粉及び製剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/10 20160101AFI20230724BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20230724BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20230724BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20230724BHJP
   A61P 39/06 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
A23L17/10
A61K31/4172
A61K35/60
A23L33/18
A61P39/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019135121
(22)【出願日】2019-07-23
(62)【分割の表示】P 2019534906の分割
【原出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020031630
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2018034380
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018156653
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390023456
【氏名又は名称】株式会社極洋
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】前川 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】網谷 雄也
(72)【発明者】
【氏名】川端 康之亮
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-007534(JP,A)
【文献】特開平06-009413(JP,A)
【文献】特開2011-239695(JP,A)
【文献】特開2007-020424(JP,A)
【文献】特開2014-097003(JP,A)
【文献】特開2016-185939(JP,A)
【文献】特開平01-300841(JP,A)
【文献】大村裕治 ほか,アカマンボウLampris guttatus筋肉中のバレニン含量,平成30年度 日本水産学会春季大会 講演要旨集,2018年03月26日,p.92,第92頁「824」欄
【文献】一般財団法人日本水産油脂協会,"『世界漁業・養殖業白書 2014 年 日本語要約版』(発行元:(公社)国際農林業協働協会)より", [online],2017年03月01日,[2019年3月5日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20170301150654/http://www.suisan.or.jp/html/sofia2014.pdf>
【文献】HAMPTON, Neville,Fish processing - past, present and future,FOOD FLAVOURINGS, INGREDIENTS, PACKAGING & PPROCESSING,1981年,vol. 3, no. 5,p. 21-22,第21頁左欄第1段落
【文献】畑中寛,鯨肉に含まれるバレニンについて,鯨研通信,第429号,2006年03月,第1-4頁,第1頁第1段落、第2頁第5段落-第3頁第2段落、表1
【文献】"ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑「アカマンボウ(マンダイ)」",[平成30年5月30日検索],[online],2007年,インターネット,<URL:https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%A6>
【文献】大村裕治 ほか,アカマンボウに含まれるバレニンのアミノ酸自動分析計による定量,日本水産学会誌,2018年10月23日,vol. 84,p. 1025-1033,第1025頁左欄第1段落-第1026頁左欄第1段落、第1032頁左欄第2段落-右欄第1段落
【文献】JAFRA: 日本食品機能研究会,"アカマンボウ、疲労抑制機能物質「バレニン」を高含有"、[online],2018年10月03日,[2019年3月5日検索]、インターネット<URL:http://www.jafra.gr.jp/f455.html>、第1-2頁全体
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/10
A23L 5/40-5/49;31/00/33/29
A61P
A23K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニンの含有量が4wt%以上18wt%以下である、
アカマンボウ由来の魚粉。
【請求項2】
5wt%未満の血合肉を含む、
請求項1に記載の魚粉。
【請求項3】
さらに、イミダゾールジペプチド(但し、前記バレニンを含む)の含有量が、5wt%以上23wt%以下である、
請求項1又は請求項2に記載の魚粉。
【請求項4】
イミダゾールジペプチド(但し、前記バレニンを含む)の含有量を1としたときの、前記バレニンの含有量が、0.75以上0.93以下である、
請求項1又は請求項2に記載の魚粉。
【請求項5】
精製されていない、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の魚粉。
【請求項6】
結乾燥又は真空乾燥された乾燥状態である、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の魚粉。
【請求項7】
1mm未満の粒子径を有する粉体からなる、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の魚粉。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の魚粉を含む、錠剤、顆粒剤又は丸剤である
製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚粉及びその製造方法、並びに製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
健康は市民生活を豊かにし、活力ある社会の構築に貢献する。健康の維持又は増進に役立ち得る食品を提供することは、今や先進国のみならず開発途上国においても重要な課題である。そのような食品の代表格の一つは、魚に代表される水産物である。人間は、長期にわたって魚を食しており、その良質な動物性たんぱく質、低カロリー、及び脳機能の改善といった特徴については、従来から注目されてきた。
【0003】
近年、人間の生理機能を高めると言われる水産物のうち、抗酸化作用及び/又は抗疲労作用等に着目した魚にも注目が集まっている(非特許文献1)。
【0004】
例えば、イミダゾールジペプチドに分類される物質が主として3種類が存在し、一般的には、魚の中に存在するイミダゾールジペプチドの種類は偏っている。具体的には、イミダゾールジペプチドのうち、アンセリンとカルノシンが主として魚に含まれている。例えば、カツオ、マグロといった高速回遊魚は、アンセリンを比較的多く含むことが知られている。また、カルノシンとアンセリンは、魚介類以外にも、例えば豚肉又は鶏肉に豊富に含まれている。そのため、カルノシンとアンセリンについての研究は盛んに進められている。特にカルノシンについては、血清又は組織中に存在するカルノシンジペプチダーゼによってカルノシンが分解され、カルノシンの機能発揮の障害となっていることから、カルノシンジペプチダーゼ阻害用組成物が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第WO2017/104777号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】西谷,他3名,「総説 新規抗疲労成分:イミダゾールジペプチド」,日本補完代替医療学会誌 第6巻第3号,2009年10月,p123-129
【文献】高橋,他4名,「アンセリン含有サケエキスの高脂肪食飼育ラットに対する脂肪蓄積抑制効果」,日本水産学会誌 第76巻第6号,2008年,p1075-1081
【文献】大村,他8名,「アカマンボウ Lampris guttatus筋肉中のバレニン含量」,平成30年度日本水産学会春季大会 講演要旨集,2018年3月26日,p92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、イミダゾールジペプチドに分類される他の物質は、バレニンである。バレニンを筋肉等に含む動物は、鯨やホタテガイ等、極めて限定されている。加えて、他のイミダゾールジペプチドとともにバレニンを比較的多く含む肉として知られている鯨肉は、捕鯨が実質的に禁止されている状況では、摂取することが不可能又は非常に困難となっている。そのため、かつて捕鯨国であった国であっても、現状ではバレニンを摂取する機会が非常に少なくなっている。
【0008】
イミダゾールジペプチドの中でも、バレニンは、餌も食べずに長距離を泳ぎ続けることができる鯨の生態からも、他のイミダゾールジペプチド(カルノシン、アンセリン)と比較して、抗酸化作用及び/又は抗疲労作用の観点で優位性があると考えられる物質である。従って、捕鯨が実質的に禁止されている状況であっても、イミダゾールジペプチド、特にバレニンを継続的に摂取するための方法を見出す努力を続けることは、健康の維持又は増進を図る社会にとって極めて重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、イミダゾールジペプチド、特にバレニンを豊富に含み得る魚由来の魚粉及びその製造方法の実現に大きく貢献するものである。
【0010】
本発明者は、鯨肉が実質的に摂取不可能又は困難となった状況を踏まえ、鯨に代わる、又は鯨を超えるバレニンを含む可能性のある海洋生物について、その生態を含めた研究と分析に取り組んだ。多くの調査と分析を重ねた結果、本発明者は、連続的運動に対応できる回遊魚という観点から離れ、何らかの影響によって抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を体内で発揮しているであろうと思われる深海魚に着眼するに至った。
【0011】
その後の本発明者による更なる試行錯誤と分析により、様々な深海魚の中でもアカマンボウ(「マンダイ」とも呼ばれる)が、非常に豊富な量のイミダゾールジペプチド、特にバレニンを含有していることを本発明者は知得した。そこで、本発明者がこのアカマンボウの研究と分析を集中的に行った。その結果、例えばアカマンボウの略全ての部位に対して熱を加えた場合であっても、該魚肉が有するバレニン含有量が実質的に変動しないという、大変興味深い技術的知見を得た。
【0012】
さらに分析を進めたところ、アカマンボウが含有するイミダゾールジペプチドが下記の(1)~(4)の特徴を有することも、本発明者は知得した。
(1)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(頭部、内臓、及び皮)も、可食部(普通筋)に匹敵する量のバレニンを含んでいること。
(2)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの量は、該可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの量よりも顕著に多いこと。
(3)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量と、該可食部(普通筋)と異なる部位(特に、内臓及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量とが顕著に異なっていること。
(4)アカマンボウの普通筋と比較して、血合肉のイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいこと。
【0013】
本発明は、上述の視点、及び技術的知見に基づいて創出された。
【0014】
本発明の1つの魚粉は、乾燥状態である、アカマンボウ由来の魚粉である。
【0015】
この魚粉によれば、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該魚粉を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。また、該魚粉が乾燥状態であることから、該アカマンボウ由来のイミダゾールジペプチド、特に、バレニンの回収率の向上、保存性の向上、及び/又は運搬の容易化に寄与し得る。なお、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有するこの魚粉によれば、上述の作用以外にも、乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下を抑制する効果が奏され得る。
【0016】
本発明の1つの魚粉の製造方法は、アカマンボウを乾燥させる乾燥工程と、該乾燥工程の後に、前述のアカマンボウを粉末化して粗粉体を形成する粉末化工程と、を含む。
【0017】
この魚粉の製造方法によれば、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有する魚粉を製造することができる。そのため、該魚粉を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。また、上述の粉末化工程によって粗粉体が形成されることから、該アカマンボウ由来のイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンの回収率の向上、保存性の向上、及び/又は運搬の容易化に貢献し得る。なお、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有するこの魚粉を製造することにより、製造された該魚粉は、上述の作用以外にも、乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下を抑制する効果が奏し得る。
【0018】
なお、上述のとおり、該アカマンボウの血合肉が含有するイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつきが高いことが明らかとなった。従って、上述の各発明において、血合肉から形成されたアカマンボウ由来の粉末の割合が5wt%未満にまで抑えられることは、該アカマンボウ由来の粉末が含有するイミダゾールジペプチド又はバレニンの含有量のバラつきを抑える、換言すれば、イミダゾールジペプチド又はバレニンの含有量の均一性を高める観点から、好適な一態様である。
【0019】
ところで、本願において「皮」又は「皮部」とは、アカマンボウの最表面から内側(体内側)に向けて10mm未満の厚みを有する部位を意味する。また、本願において「血合肉」とは、魚類の体側にある筋肉のうち、暗赤色を呈する部分をいう。別の指標で見れば、本願において「血合肉」とは、「普通筋」に含まれる鉄分量の2倍以上の鉄分量を含有する部位をいう。
【発明の効果】
【0020】
本発明の1つの魚粉によれば、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該魚粉を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。また、該魚粉が乾燥状態であることから、該アカマンボウ由来のイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンの回収率の向上、保存性の向上、及び/又は運搬の容易化に寄与し得る。
【0021】
また、本発明の1つの魚粉の製造方法によれば、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有する魚粉を製造することができる。そのため、該魚粉を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。また、上述の粉末化工程によって粗粉体が形成されることから、該アカマンボウ由来のイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンの回収率の向上、保存性の向上、及び/又は運搬の容易化に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態のアカマンボウ由来の魚粉の製造工程を示すフローである。
図2】第1の実施形態のアカマンボウの切断箇所、及び部位を示すアカマンボウの一部を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態として、アカマンボウ由来の魚粉及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0024】
<第1の実施形態>
本実施形態の魚粉及びその製造方法においては、図1に示す各処理工程が、魚粉の製造方法における全工程又はその一部となり得る。従って、本実施形態の魚粉の製造方法は、必ずしも図1に示す各処理工程の全てを含むことを要しない。また、図2は、本実施形態のアカマンボウ100の切断箇所及び部位を示すアカマンボウ100の一部を示す写真である。
【0025】
具体的には、図1に示すように、漁獲されたアカマンボウ100が冷凍される(ステップS1)。その後、図2に示すように、アカマンボウ100の、頭部10、筋肉20(より細かく分類すれば、普通筋20a及び血合肉20b)、内臓部30、並びに尾ひれ90が、それぞれ分かれるように、略直線状にC、C、及びCに沿って冷凍状態のアカマンボウ100を切断する、切断(解体)工程が行われる(ステップS2)。なお、図2においては、背びれを含む一部の部位が写真に表れていないが、表示されていない部位は、本実施形態の魚粉の原料ではないため、当該部位の説明を省略する。
【0026】
ここで、図2におけるCに示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100のカマが筋肉20に含まれないように、かつ該カマにおける筋肉20側の端部の略接線方向に沿って実施される。また、図2におけるCに示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100の目と口が頭部10に含まれるように実施される。加えて、Cに示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100の筋肉20が、極力、尾ひれ90に含まれないように実施される。なお、本実施形態においては、尾ひれ90は、本実施形態の魚粉の原料ではないため、当該部位の説明を省略する。なお、本実施形態の切断(解体)工程においては、公知のバンドソー装置が用いられているが、該工程においてアカマンボウを切断する手段は、該バンドソー装置に限定されない。C、C、及びCに沿って冷凍状態のアカマンボウを切断することができる他の公知の切断方法も採用され得る。
【0027】
[アカマンボウ由来の切断された各部位のイミダゾールジペプチド含有量の分析]
ここで、本発明者は、本実施形態の切断された各部位が含有する、バレニンを含むイミダゾールジペプチドの量について分析を行った。具体的には、ステップS2によって切断された各部位から、過塩素酸抽出エキスを調製した上で、公知のアミノ酸自動分析計を用いて、図2に示す各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の切断された各部位に関する遊離アミノ酸及び結合アミノ酸に関する分析を行った。
【0028】
なお、表1における「Bal.」は「バレニンの含有量」を意味する。また、「Ans.」は「アンセリンの含有量」を意味し、「Cal.」は「カルノシンの含有量」を意味する。従って、表1における「合計(Imd.)」は、イミダゾールジペプチドの含有量を意味する。理解を容易にするために、各数値の下段には、イミダゾールジペプチドの含有量に対する比率(%)がカッコ書きによって表示されている。また、表1の各欄における「±」以降は、標準偏差を意味する。また、表1における分析対象としての皮部40は、筋肉20の部位の皮である。加えて、表1及び後述する表2の各数値における一の位の値は四捨五入している。
【0029】
【表1】
【0030】
また、この分析においては、塩酸加水分解して結合アミノ酸を分析することにより、高濃度の3-メチルヒスチジンが検出された結果に基づいて、バレニンの存在が明らかとなった。また、バレニンの標準品を用いた加水分解液中の3-メチルヒスチジンに基づいてバレニンの量を定量することにより、切断された各部位中のバレニンの量が定量された。
【0031】
表1に示すように、この分析により、切断された各部位中のバレニンを含むイミダゾールジペプチドの量に関する下記の(1)~(4)の特徴が明らかとなった。
(1)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(頭部、内臓、及び皮)も、可食部(普通筋)に匹敵する量のバレニンを含んでいること。
(2)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの量は、該可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの量よりも顕著に多いこと。
(3)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量と、該可食部(普通筋)と異なる部位(特に、内臓及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量とが顕著に異なっていること。
(4)アカマンボウの普通筋と比較して、血合肉のイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいこと。
【0032】
なお、上述の特徴の(1)に関してより具体的に説明すれば、少なくともアカマンボウ100由来の切断された各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)が含有するバレニンの量は、ミンククジラの背肉赤肉が含有するバレニンの量と同等、又は該バレニンの量よりかなり多いと言える。また、興味深いことに、表1の普通筋20aの中でも、普通筋20a中心から頭側の普通筋20aのバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量が、普通筋20a中心から尾側の普通筋20aのバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量よりも、約10%多いことが確認された。
【0033】
なお、本実施形態においては、「普通筋20a中心」の位置は、頭部10の先端(口部の先端)から普通筋20aの尾側の端(従って、尾ひれ90を含まない)までの長さ(図2における「L」)を1としたときの、頭側先端から0.5の位置と定義される。従って、バレニンの含有量が多い普通筋20aをより確度高く得るためには、頭側先端から0.4以下までの普通筋20aを含む普通筋20aからイミダゾールジペプチド及び/又はバレニンを得ることは好適な一態様である。
【0034】
その後、公知のチョッパー装置(例えば、株式会社なんつね製、型式:MC-22)による細片化を行うために、該チョッパー装置に導入することが可能となる程度に、冷凍状態であったアカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)を、それぞれ完全に又は不完全に解凍する(ステップS3)。その後、該チョッパー装置を用いた細片化工程が行われることにより、例えば、10mmφの貫通孔を備えたプレートから細片化されたミンチ状の該各部位を得ることができる(ステップS4)。なお、本実施形態の細片化工程においては、公知のチョッパー装置が用いられているが、該工程において細片化された該各部位を得る手段は、該チョッパー装置に限定されない。例えば、公知のサイレントカッターも、細片化工程において採用され得る。
【0035】
本実施形態においては、その後、細片化された各部位を乾燥させる乾燥工程(ステップS5)が行われる。本実施形態においては、乾燥工程の代表的な例としての、真空乾燥(減圧乾燥を含む)工程(ステップS5a)又は凍結乾燥工程(ステップS5b)が行われる。ここで、本実施形態における「真空乾燥(又は減圧乾燥)工程」とは、加熱しつつ真空状態(又は減圧状態)で乾燥させる工程を意味する。また、本実施形態における「凍結乾燥工程」は、「凍結真空乾燥工程」又は「凍結減圧乾燥工程」を含む。
【0036】
なお、本実施形態のアカマンボウ100が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量が顕著に(例えば、20wt%超)損なわれない限り、前述の2種類の乾燥工程の代わりに、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、過熱水蒸気乾燥、フライ乾燥、減圧フライ乾燥、ドラム乾燥、又は天日乾燥による乾燥工程を採用することもできる。
【0037】
例えば、真空乾燥工程(ステップS5a)が採用される場合、公知の方法及び装置を用いることができる。例えば、連続式ベルト乾燥装置又は真空ドラム式乾燥装置が採用され得る。本実施形態においては、大気圧を0としたゲージ圧-0.093MPaの圧力下であって約60℃の環境下において、約48時間、細片化された各部位を静置させることによって、乾燥状態となった細片化された各部位を形成することができる。
【0038】
次に、凍結乾燥工程(ステップS5b)が採用される場合も、公知の方法及び装置を用いることができる。例えば、凍結乾燥装置(共和真空技術社製、型式:RL4522BS)が採用され得る。本実施形態においては、約266Paの圧力下であって約-20℃の環境下において、約168時間、細片化された各部位を静置させることによって、乾燥状態となった細片化された各部位を形成することができる。
【0039】
なお、真空乾燥又は凍結乾燥に代表される乾燥工程を経た細片化された各部位の水分量は、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が細片化された各部位の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が細片化された各部位の5wt%以下であることがより好ましく、細片化された各部位の3wt%以下であることが更に好ましい。
【0040】
その後、乾燥状態となった細片化された各部位を粉砕することによって粗粉体を得るための粉末化工程(ステップS6)が行われる。本実施形態においては、例えば、公知のハンマーミル(例えば、ホソカワミクロン株式会社製ハンマーミル)が採用され得る。より具体的には、粒度が2mm以下になるように設定された処理条件によって、細片化された各部位が粉末化される。
【0041】
なお、本実施形態のアカマンボウ100が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量が顕著に(例えば、20wt%超)損なわれない限り、前述のハンマーミルの代わりに、ピンミル、ボールミル、インパクトミル、エッジランナーミル、ローラーミル、振動ミル、円錐形粉砕機、ジェットミル、又はその他の公知の機械式衝撃/粉砕装置を採用することもできる。
【0042】
上述の各工程を経て、アカマンボウ100由来である、本実施形態の粗粉体としての魚粉を製造することができる。
【0043】
なお、本実施形態における粗粉体としての乾燥状態である魚粉の水分量も、上述と同様に、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が魚粉全体の0wt%超10wt%以下であることは、乾燥状態である該魚粉としての好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が該魚粉全体の5wt%以下であることがより好ましく、該魚粉全体の3wt%以下であることが更に好ましい。
【0044】
加えて、本実施形態における粗粉体としての乾燥状態である魚粉は、精製工程を経ずに製造された魚粉である。より具体的には、該魚粉は、例えば、非特許文献2のエキス粉末に本実施形態の魚粉を対応させた場合は、非特許文献2において開示されている方法のように、本実施形態においては該粗粉体としての魚粉を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用してバレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われずに得られた魚粉である。従って、精製されていない粗粉体としての魚粉であっても、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有していることは、イミダゾールジペプチド及び/又はバレニンの歩留まり(収率を含む)の向上、製造工程の簡素化(製造時間の短縮化を含む)、製造コストの低減等、多くの利点を生み出すため、特筆に値する。
【0045】
<第1の実施形態の変形例>
本変形例においては、第1の実施形態の魚粉の製造工程によって製造された粗粉体としての魚粉をさらに分級することにより、1mm未満(より好ましくは、0.8mm未満)の粒子径を有する粉体からなる微粉体としての魚粉を得るための分級工程(ステップS7)が行われる。
【0046】
本実施形態の分級工程(ステップS7)を採用することにより、例えば、目開きが0.7mmの篩(ふるい)を通過する、微粉体としての魚粉のみを回収することができる。その結果、アカマンボウ100由来の本変形例の魚粉(1mm未満の粒子径を有する粉体からなる微粉体としての魚粉)を製造することができる。なお、上述の粉末化工程において採用されたハンマーミル等が分級機能をも備えている場合は、粉末化工程と分級工程とが同時に実施され得る。
【0047】
本実施形態の分級工程(ステップS7)が行われた結果、例えば、アカマンボウ100の筋肉20に着目すれば、漁獲されたアカマンボウ100の筋肉20の質量を基準としたときの、該筋肉20由来の魚粉(微粉体としての魚粉)の質量の比率(すなわち、収率)は、21%以上であった。
【0048】
[アカマンボウ由来の微粉体としての魚粉のイミダゾールジペプチド含有量の分析]
本発明者は、第1の実施形態の変形例において製造された微粉体としての魚粉が含有する、バレニンを含むイミダゾールジペプチドの量について分析を行った。具体的には、該魚粉から過塩素酸抽出エキスを調製した上で、公知のアミノ酸自動分析計を用いて、図2に示す各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の魚粉に関する遊離アミノ酸及び結合アミノ酸に関する分析を行った。
【0049】
なお、表2は、各部位を代表して普通筋20aの微粉体としての魚粉の、表1に対応する分析結果一例を示している。
【0050】
【表2】
【0051】
また、この分析においては、塩酸加水分解して結合アミノ酸を分析することにより、高濃度の3-メチルヒスチジンが検出された結果に基づいて、バレニンの存在が明らかとなった。また、バレニンの標準品を用いた加水分解エキス中の3-メチルヒスチジンに基づいてバレニンの量を定量することにより、各部位の魚粉中のバレニンの量が定量された。
【0052】
表2に示すように、第1の実施形態のステップS2によって切断された普通筋20aから製造された微粉体における、(バレニンを含む)イミダゾールジペプチドの含有量(例えば、表2における10110mg/100g)に対するバレニン含有量(例えば、表2における8450mg/100g)の比率が、約84%であった。この値は、表1における同基準の比率(約88%)とほぼ同等であるといえる。なお、説明の便宜上、前述の比率を、「イミダゾールジペプチド-バレニン比率」ともいう。
【0053】
従って、本変形例において製造された微粉体は、極めて高いバレニン含有量と、極めて高い「イミダゾールジペプチド-バレニン比率」を実現し得ることが確認された。加えて、本変形例において製造された微粉体は、第1の実施形態のアカマンボウ由来の各部位のイミダゾールジペプチド含有量、バレニン含有量、及び前述の「イミダゾールジペプチド-バレニン比率」を、ほぼそのまま反映し得る物質であることが確認された。
【0054】
なお、第1の実施形態と同様に、本変形例において製造された微粉体としての魚粉が含有するバレニンの量は、ミンククジラの背肉赤肉が含有するバレニンの量と同等、又は該バレニンの量よりかなり多いと言える。
【0055】
上述の結果及び他の実験結果を受け、本発明者らの分析と検討の結果、本変形例において製造された微粉体としての魚粉が含有するバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量、及び「イミダゾールジペプチド-バレニン比率」について、本発明者らは、下記の数値範囲を実現し得ることを知得した。
(1)本変形例の微粉体としての魚粉については、魚粉全体の質量に対して、バレニンの含有量が4wt%以上18wt%以下であり、より狭義には、6wt%以上及び/又は12wt%以下である。
(2)本変形例の微粉体としての魚粉については、魚粉全体の質量に対して、イミダゾールジペプチド(但し、バレニンを含む)の含有量が、5wt%以上23wt%以下であり、より狭義には、8wt%以上及び/又は16wt%以下である。
(3)本変形例の微粉体としての魚粉の「イミダゾールジペプチド-バレニン比率」については、イミダゾールジペプチド(但し、バレニンを含む)の含有量を1としたときの、該バレニンの含有量が、0.75以上0.93以下であり、より狭義には、0.8以上及び/又は0.9以下である。
【0056】
ところで、上述のとおり、本変形例における微粉体としての乾燥状態である魚粉は、精製工程を経ずに製造された魚粉である。より具体的には、該魚粉は、例えば、非特許文献2において開示されている方法のように、該微粉体としての魚粉を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用してバレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われずに得られた魚粉である。従って、精製されていない微粉体としての魚粉であっても、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有していることは、特筆に値する。
【0057】
<その他の実施形態>
ところで、第1の実施形態及びその変形例においては、アカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の特徴を知るために、個別に細片化工程(ステップS4)、乾燥工程(ステップS5a,S5b)、及び粉末化工程(ステップS6)、並びに、場合によっては分級工程(ステップS7)が行われているが、本実施形態はそのような態様に限定されない。
【0058】
例えば、表1に示すように、カルノシンを多く含むためにイミダゾールジペプチドの量が多い内臓部30と皮部40とを混合し得る状態となるように、切断(解体)工程(ステップS2)以降の各工程が実施されることも採用し得る一態様である。また、バレニンを含むイミダゾールジペプチドを豊富に含有するという、顕著な特徴を有する各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の全てを混合し得る状態となるように、切断(解体)工程(ステップS2)以降の各工程が実施されることも採用し得る一態様である。
【0059】
また、第1の実施形態及びその変形例においては、はえ縄漁船によって漁獲されたアカマンボウを、速やかに(例えば、60分以内に)漁船上において低温凍結処理(例えば、-65℃以上-15℃以下)を施したが、アカマンボウの漁獲方法、及びアカマンボウの漁船における保存方法は前述の例に限定されない。但し、イミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量を自己消化によって減少させる可能性を低減する観点から言えば、漁獲されたアカマンボウを、速やかに(例えば、60分以内に)漁船上において低温凍結処理(例えば、-65℃以上-15℃以下)することは、好適な一態様である。
【0060】
また、第1の実施形態及びその変形例においては、アカマンボウ100の背びれ又は尾ひれ90が粗粉体又は微粉体としての魚粉に含まれていないが、該粗粉体又は該微粉体としての魚粉は、そのような態様に限定されない。例えば、魚粉の製造工程をより簡便化するために、図2におけるCに示される切断を行わずに、その後の各工程が行われることも、採用し得る一態様である。従って、背びれ及び/又は尾ひれ90が、第1の実施形態及びその変形例の粗粉体又は微粉体としての魚粉の構成成分の一つとして含まれることも採用され得る。
【0061】
一方、表1に示すように、血合肉20bが含有するイミダゾールジペプチド又はバレニンの量のバラつきの大きさを考慮すれば、より安定した量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する魚粉を得る観点から、混合される血合肉20bの量が混合物全体(すなわち、魚粉全体)の5wt%未満であることが好ましい。換言すれば、第1の実施形態及びその変形例の粗粉体又は微粉体としての魚粉が5wt%未満の血合肉を含むことが、より安定した量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する魚粉の製造を実現し得る。
【0062】
さらに、第1の実施形態及びその変形例において製造された、粗粉体としての魚粉及び/又は微粉体としての魚粉を構成成分の一部として含む、錠剤、カプセル剤、散剤(顆粒剤を含む)、丸剤、シロップ剤、液剤、ドリンク剤、トローチ剤、ドロップ、水飴等(以下、総称して「製剤」という。)を製造することは、採用し得る好適な一態様である。該製剤は、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該製剤を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用が奏され得る。なお、該製剤は、公知の製造方法によって製造され得る。また、該製剤は、成形性の向上又は経口投与するときの容易性の向上等のため、適宜、賦形剤、結合剤、崩壊剤、又は湿潤剤、あるいは蜂蜜又は米粉等を混合することによって形成され得る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の1つの魚粉及びその製造方法、並びに剤形は、バレニンを豊富に含み得る魚由来の魚粉及びその製造方法であるため、食品業及び水産業に限らず、医薬、健康、医療、美容に関連する各産業においても極めて有用である。
【符号の説明】
【0064】
10 頭部
20 筋肉
20a 普通筋
20b 血合肉
30 内臓部
40 皮部
90 尾ひれ
100 アカマンボウ
図1
図2