(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】電鋳金型製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/10 20060101AFI20230724BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20230724BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20230724BHJP
B81C 99/00 20100101ALI20230724BHJP
【FI】
C25D1/10
C25D1/00 361
B29C33/38
B81C99/00
(21)【出願番号】P 2019159083
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 和宏
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113653(JP,A)
【文献】特開2010-216013(JP,A)
【文献】特開2001-115293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-1/22
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板に凹部を形成し、前記第一基板の凹部が形成された面であり、前記凹部内面と前記凹部内面を除く表面とを含む凹部形成面上に第一金属層を形成する工程と、
前記第一金属層をメッキシード層として給電し、前記第一基板の凹部内をメッキで充填すると共に前記第一基板の前記表面上にメッキ層を形成する工程と、
前記第一基板の前記表面上に形成されたメッキ層を除去する工程と、
第二基板に凹部を形成し、前記第二基板の凹部が形成された面であり、前記凹部内面と前記凹部内面を除く表面とを含む凹部形成面上に第一金属層を形成する工程と、
前記第一金属層をメッキシード層として給電し、前記第二基板の凹部内をメッキで充填すると共に前記第二基板の前記表面上にメッキ層を形成する工程と、
前記第二基板の前記表面上に形成されたメッキ層を除去する工程と、
前記第一基板と前記第二基板を、各々の基板に設けられたメッキ充填された前記凹部同士を対向配置して接合する工程と、
前記第一基板と前記第二基板の接合面と対向する何れか一方の面を研磨し、前記凹部内に充填されたメッキの一部を露出させる研磨工程と、
前記研磨工程において研磨された前記第一基板または前記第二基板の研磨面に第二金属層を形成する工程と、
前記第二金属層をメッキシード層として給電し、前記研磨面において一定の厚みになるまでメッキ成長させて前記第一基板と第二基板の凹部内から基板表面部まで連通する金属メッキ形状部を形成する工程と、
前記第一基板と第二基板のみを除去して前記金属メッキ形状部のみを露出させる工程と、
を有することを特徴とする電鋳金型製造方法。
【請求項2】
前記第一基板及び前記第二基板は、シリコン基板であり、前記第一基板の凹部と前記第二基板の凹部は、エッチング手法により形成されることを特徴とする請求項1に記載の電鋳金型製造方法。
【請求項3】
前記第一基板の凹部と前記第二基板の凹部は、断面視略半円形状に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電鋳金型製造方法。
【請求項4】
前記第一金属層と前記第二金属層は、メッキシード層であり、Au/Cr、Au/Ti、又はCr/Tiから成ることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の電鋳金型製造方法。
【請求項5】
前記第一基板及び前記第二基板の各々の前記表面及び前記凹部内を充填するメッキ充填部の表面に、前記第一基板と前記第二基板とを接合するための接合金属層を形成する工程を備え、
前記第一基板と第二基板を接合する工程は、前記第一基板及び前記第二基板の各々の前記接合金属層を介して前記第一基板と前記第二基板とを接合することを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の電鋳金型製造方法。
【請求項6】
前記接合金属層は、Au又はAuSnから成ることを特徴とする請求項
5に記載の電鋳金型製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば流路基板等を形成するための電鋳金型製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電鋳金型は、微細かつ繊細な構造を樹脂部材に付与するために当該樹脂部材の成型の際に使用されている。微細かつ繊細な構造を得るための手法として、電鋳金型を用いて好適に製造する方法が知られている。
【0003】
このような電鋳金型は、ステンレス製や樹脂製の電鋳金型用マスターを準備し、このマスターに電鋳ニッケル等の金属メッキを施し、この金属メッキ形状を電鋳金型材料に転写することで製造されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電鋳金型を用いて製造する樹脂部材の一例として、流路基板が知られている。この流路基板は、基板面上に適量の試験液を流すための流路が形成されており、この流路に血液など、微量の試験液を流してバイオ・化学的分析を行うものである。この流路の形状は微細かつ繊細な構造が求められ、それと同時に複雑な形状の流路基板が求められている。
【0006】
本発明は、上述の要求に応えるべく、微細かつ繊細な構造、あるいは複雑な構造であっても、その構造を正確に樹脂部材に付与できる電鋳金型の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一基板に凹部を形成し、前記第一基板の凹部内面を含む凹部形成面上に第一金属層を形成する工程と、前記第一金属層をメッキシード層として給電し、前記第一基板の凹部内をメッキで充填すると共に前記第一基板の表面上にメッキ層を形成する工程と、前記第一基板の表面上に形成されたメッキ層を除去する工程と、第二基板に凹部を形成し、前記第二基板の凹部内面を含む凹部形成面上に第一金属層を形成する工程と、前記第一金属層をメッキシード層として給電し、前記第二基板の凹部内をメッキで充填すると共に前記第二基板の表面上にメッキ層を形成する工程と、前記第二基板の表面上に形成されたメッキ層を除去する工程と、前記第一基板と前記第二基板を、各々の基板に設けられたメッキ充填された凹部同士を対向配置して接合する工程と、前記第一基板と前記第二基板の接合面と対向する何れか一方の面を研磨し、前記凹部内に充填されたメッキの一部を露出させる工程と、前記第一基板と前記第二基板の何れか一方で、前記メッキの一部が露出した基板表面に第二金属層を形成する工程と、前記第二金属層をメッキシード層として給電し、基板表面部において一定の厚みになるまでメッキ成長させて前記第一基板と第二基板の凹部内から基板表面部まで連通する金属メッキ形状部を形成する工程と、前記第一基板と第二基板のみを除去して前記金属メッキ形状部のみを露出させる工程と、を有する電鋳金型製造方法とする。
【0008】
前記第一基板及び前記第二基板は、シリコン基板であり、前記第一基板の凹部と前記第二基板の凹部は、エッチング手法により形成することができる。
【0009】
前記第一基板の凹部と前記第二基板の凹部は、断面視略半円形状に形成することができる。
【0010】
前記第一金属層と前記第二金属層は、メッキシード層であり、Au/Cr、Au/Ti、又はCr/Tiで構成することができる。
【0011】
前記第一基板と第二基板を接合する工程は、各々の基板面の一部に形成された金属接合層を介して接合することができる。
【0012】
前記金属接合層は、Au又はAuSnで構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電鋳金型製造方法によれば、微細かつ繊細な構造、あるいは複雑な構造であっても、その構造を正確に樹脂部材に付与できる電鋳金型の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】流路基板の一例を示す図で、(a)は平面図。(b)はA-A断面図。
【
図2】本発明の一実施形態の電鋳金型製造方法を説明するための図。
【
図3】本発明の一実施形態の電鋳金型製造方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、流路基板の一例を示す図で、(a)は平面図。(b)はA-A断面図である。1は流路基板で、その基板面上には、試験液等を流すための流路2が形成されている。この流路2は断面凹状に形成され、基板面上において帯状に配設されている。この流路2に微量の試験液を流してバイオ・化学的分析がなされるものである。
【0016】
この流路2の形状は、分析対象となる試験液により微細かつ繊細な形状が求められるが、例えば、血液分析に用いる場合には、血管を模した形状が好適とされ、
図1(b)の断面図に示す通り、断面視で円形の凹部形状とすることが求められることになる。
図1に示した流路基板1は、電鋳金型を用いて樹脂部材により製造されたものである。
以下、前記流路基板1の製造に用いる本発明の電鋳金型製造方法について説明する。
【0017】
本発明の一実施形態の電鋳金型製造方法について、
図2及び
図3を参照して詳細に説明する。
図2は、本発明の一実施形態の電鋳金型製造方法を説明するための図で、(a)~(g)は、電鋳金型を製造するための母基板を成す第一基板の製造過程を工程毎に示したものである。
【0018】
先ず、(a)に示すように、第一基板3を準備する。第一基板3は、例えば、サイズがφ4インチのシリコン基板で電鋳金型を作製するための母基板となるものであるが、図においては、その側面の一部断面のみを示している。
【0019】
図2(b)~(d)は、第一基板3に凹部3aを形成する工程を示している。
図2(b)に図示する4はレジストマスクであり、このレジストマスク4は、開口部4aを有しており、第一基板3に成膜したレジスト膜をフォトリソエッチングにより、適宜形成される。
【0020】
図2(c)に示すように、レジストマスク4を形成した後、当該レジストマスク4をエッチングマスクとして用い、第一基板3に用いたシリコン基板をエッチングすることで凹部3aを形成する。本実施形態においては、例えば、SF6ガスによる等方性エッチングを採用している。これにより、
図2(c)に示すように、断面視半円形状を成す凹部が得られる。
【0021】
続いて、第一基板3の表面に残るレジストマスク4をすべて除去し、
図2(d)に示すように凹部3aが形成された状態にする。尚、図示していないが、ここで形成される凹部3aは、平面的には、
図1において示す流路に対応する形状で基板面に配設されるものである。
【0022】
続いて、
図2(e)に示すように、第一基板3の凹部3aの内面を含む凹部形成面上に第一金属層5を形成する。第一金属層5は、例えば、Au/Cr、Au/Ti、又はCr/Ti等の材質を適宜選択して使用でき、蒸着、スパッタ等の手法で成膜することができる。
【0023】
続いて、
図2(f)に示すように、前記第一基板3に形成した第一金属層5をメッキシード層とし、これに給電し、電解メッキ手法によりメッキ成長させる。これにより前記凹部3a内をメッキ充填する。さらに、この凹部3aを完全に埋めきるよう、凹部3aから連通して第一基板3の表面上に至るまでメッキ成長させメッキ層5aを形成する。
【0024】
その後、第一基板3の表面に形成されたメッキ層5aの内、第一基板3の表面部が露出するまで研磨して除去する。こうすることにより、凹部3a内にのみメッキ層5aを残す。
【0025】
続いて、
図2(g)に示すように、第一基板3のメッキ層5aが充填された基板面に金属接合層6を形成する。この金属接合層6は、例えば、Au又はAuSn等の材料から選択される。ここまでの工程において、第一基板3が完成する。
【0026】
続いて、前記工程にて形成された第一基板3と同様に、第二基板を形成する。特に図示はしないが、この第二基板は、基板サイズや基板面に形成される凹部形状、基板面上の形成位置については、第一基板と同様に形成される。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態の電鋳金型製造方法を説明するための図で、(a)~(e)は、第一基板と第二基板を母基板として用い製造する電鋳金型の製造過程を工程毎に示した図である。
【0028】
図3(a)は、前記工程にて形成された第一基板3と第二基板7を貼り合わせる工程を示している。本図では、第一基板3を下側に、第二基板7を第一基板3の上方に配置した構成である。貼り合わせの位置関係は、第一基板3の凹部3aに充填されたメッキ層5aと第二基板7の凹部7aに充填されたメッキ層5aが対向した位置関係で貼り合わされる。各々の凹部3a、7aに充填されたメッキ層5aは断面視略半円形状とされているため、貼り合わせた状態においては、断面視略円形状と成って結合される。
【0029】
第一基板3、第二基板7には、金属接合層6が形成されている。基板同士の接合は、各々の基板に形成された金属接合層6を介し、約300℃で加熱・加圧して金属接合が行われる。この金属接合層6は、例えば、Au又はAuSn等の材料から適宜選択される。
【0030】
前記工程において、第一基板3と第二基板7の接合手段として金属接合を例に説明したが、接着剤を用いた接合手段を採用することもできる。その場合は、第二基板7の金属接合層6は必要ないため、金属接合層形成工程は不要になる。
【0031】
図3(b)は、貼り合わされた基板の内、一方の基板表面を研磨し、充填されたメッキの一部を露出する工程である。
本図では、上側に配置された第二基板7の基板表面を研磨し、メッキ層5aの一部を露出させる。
【0032】
続いて、
図3(c)に示すように、研磨した基板表面上に第二金属膜8を形成する。この第二金属膜8は、Au/Cr、Au/Ti、又はCr/Ti等の材質を適宜選択して使用でき、蒸着、スパッタ等の手法で成膜することができる。
【0033】
続いて、前記第二金属層8をメッキシード層として、給電し電解メッキ手法により
図3(d)に示す如くメッキ成長させる。このメッキは第二基板7の表面上に、一定の厚みを持って形成される。また、これにより、凹部内を充填する金属メッキと結合された状態となり、図に示すような金属メッキ形状部9が形成される。
【0034】
図3(e)は、前工程で形成された金属メッキ形状部を露出し電鋳金型を形成する工程を示す図である。
前記第一基板3と第二基板7は、シリコン基板で構成しているため、エッチング溶液を用いてすべて溶解除去する。また、残留するメッキシード層として用いた金属層や、接合用に用いた金属層も適宜溶解液を選択利用して溶解除去する。こうすることで金属メッキ形状部9のみを露出することができる。
このようにして残った金属メッキ形状部9が、
図1で例示したような流路基板を製造するための電鋳金型として完成する。
完成した電柱金型を用いれば、
図1に例示した断面視略円形状の流路を有する流路基板を容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 流路基板
2 流路
3 第一基板
3a 凹部
4 レジストマスク
4a 開口部
5a メッキ層
5 第一金属層
6 金属接合層
7 第二基板
7a 凹部
8 第二金属層
9 金属メッキ形状部