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特許7317655医用画像処理装置および医用画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】医用画像処理装置および医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20230724BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
A61B6/03 350Y
G06T1/00 290A
G06T1/00 290B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019175770
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021049271
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】廣川 浩一
【審査官】佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/086973(WO,A1)
【文献】特開2019-088735(JP,A)
【文献】特開2014-236810(JP,A)
【文献】特開2011-239888(JP,A)
【文献】特開2011-218220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045108(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106725565(CN,A)
【文献】特開2018-033687(JP,A)
【文献】特開平04-199987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 -6/14
A61B 5/055
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像を扱う医用画像処理装置であって、
前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離部と、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調部と、
前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正部と、を備え
前記変調部は、空間周波数毎に分解される前記第二成分に対して、前記第一成分の空間周波数分布に基づいて空間周波数毎に設定される変調係数を乗算することで前記第二成分を変調することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
医用画像を扱う医用画像処理装置であって、
前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離部と、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調部と、
前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正部と、を備え、
前記変調部は、前記医用画像の生成に用いられる再構成フィルタとは異なる再構成フィルタの中から、前記医用画像の生成に用いられる再構成フィルタの雑音強度スペクトルとの重なりが最も小さい再構成フィルタを選択し、選択された再構成フィルタの雑音強度スペクトルを用いて空間周波数毎に変調係数を算出し、前記変調係数を前記第二成分に乗算することで前記第二成分を変調することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項3】
医用画像を扱う医用画像処理装置であって、
前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離部と、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調部と、
前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正部と、
読影パラメータが入力される入力部を備え、
前記変調部は、前記医用画像の生成に用いられる再構成フィルタの雑音強度スペクトルと前記読影パラメータに基づいて空間周波数毎に変調係数を算出し、前記変調係数を前記第二成分に乗算することで前記第二成分を変調することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項4】
請求項に記載の医用画像処理装置であって、
前記読影パラメータは、中心周波数と周波数帯と変調強度を含み、
前記変調部は、前記読影パラメータによって設定される補正用スペクトルを前記雑音強度スペクトルから差分した差分スペクトルを用いて、前記変調係数を算出することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項5】
請求項に記載の医用画像処理装置であって、
前記雑音強度スペクトルの面積と等しい面積を有するように規格化された差分スペクトルと前記雑音強度スペクトルとを表示する表示部をさらに備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項6】
医用画像を扱う医用画像処理方法であって、
前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離ステップと、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調ステップと、
前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正ステップと、を備え
前記変調ステップは、空間周波数毎に分解される前記第二成分に対して、前記第一成分の空間周波数分布に基づいて空間周波数毎に設定される変調係数を乗算することで前記第二成分を変調することを特徴とする医用画像処理方法。
【請求項7】
医用画像を扱う医用画像処理方法であって、
前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離ステップと、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調ステップと、
前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正ステップと、を備え、
前記変調ステップは、前記医用画像の生成に用いられる再構成フィルタとは異なる再構成フィルタの中から、前記医用画像の生成に用いられる再構成フィルタの雑音強度スペクトルとの重なりが最も小さい再構成フィルタを選択し、選択された再構成フィルタの雑音強度スペクトルを用いて空間周波数毎に変調係数を算出し、前記変調係数を前記第二成分に乗算することで前記第二成分を変調することを特徴とする医用画像処理方法。
【請求項8】
医用画像を扱う医用画像処理方法であって、
前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離ステップと、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調ステップと、
前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正ステップと、
読影パラメータが入力される入力ステップを備え、
前記変調ステップは、前記医用画像の生成に用いられる再構成フィルタの雑音強度スペクトルと前記読影パラメータに基づいて空間周波数毎に変調係数を算出し、前記変調係数を前記第二成分に乗算することで前記第二成分を変調することを特徴とする医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置等の医用画像撮影装置によって得られる医用画像を扱う医用画像処理装置および医用画像処理方法に係り、医用画像中の雑音成分に対する構造成分の識別能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像撮影装置の一例であるX線CT装置は、被検体の周囲からX線を照射して複数の投影角度における投影データを取得し、投影データを逆投影することによって被検体の断層画像を再構成する装置である。再構成された断層画像は医用画像として被検体の画像診断に用いられる。医用画像の各画素には、被検体内の組織の構造等を表す構造成分と、X線の計測過程等で生じる雑音成分が含まれる。雑音成分は構造成分を識別しにくくさせ画像診断の妨げとなるので、雑音成分を低減する技術が開発されている。
【0003】
特許文献1には、医用画像から生成される複数の空間周波数成分画像を各々の雑音モデルを用いて正規化し、正規化された空間周波数成分画像の画素値である正規化画素値が小さい範囲において、正規化画素値を減衰させることが開示されている。正規化画素値が小さい範囲では構造成分に対する雑音成分の優位性が統計的に予期されるので、小さい範囲の正規化画素値を減衰させることにより、構造成分に対する雑音成分の低減が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-535353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、構造成分と雑音成分が混在する各空間周波数成分画像を増幅または減衰させるため、医用画像中の雑音成分に対する構造成分の識別能を向上できるとは限らない。
【0006】
そこで本発明の目的は、医用画像中の雑音成分に対する構造成分の識別能を向上させることが可能な医用画像処理装置および医用画像処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、医用画像を扱う医用画像処理装置であって、前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離部と、前記第二成分を空間周波数で変調する変調する変調部と、前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、医用画像を扱う医用画像処理方法であって、前記医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する分離ステップと、
前記第二成分を空間周波数で変調する変調ステップと、前記第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する補正ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医用画像中の雑音成分に対する構造成分の識別能を向上させることが可能な医用画像処理装置および医用画像処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】医用画像処理装置の全体構成図
図2】医用画像撮影装置の一例であるX線CT装置の全体構成図
図3】医用画像処理装置の機能ブロック図
図4】医用画像処理方法の処理の流れの一例を示す図
図5】実施例1の周波数変調ステップの処理の流れの一例を示す図
図6】異なる再構成フィルタを用いて再構成された断層画像と雑音強度スペクトルの一例を示す図
図7】実施例2の周波数変調ステップの処理の流れの一例を示す図
図8】実施例2の変調係数を補足説明する図
図9】実施例3の周波数変調ステップの処理の流れの一例を示す図
図10】異なる再構成フィルタを用いて再構成された断層画像と変調伝達関数の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る医用画像処理装置及び医用画像処理方法の実施例について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【実施例1】
【0012】
図1は医用画像処理装置1のハードウェア構成を示す図である。医用画像処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)2、メモリ3、記憶装置4、ネットワークアダプタ5がシステムバス6によって信号送受可能に接続されて構成される。また医用画像処理装置1は、ネットワーク9を介して医用画像撮影装置10や医用画像データベース11と信号送受可能に接続されるとともに、表示装置7と入力装置8が接続される。ここで、「信号送受可能に」とは、電気的、光学的に有線、無線を問わずに、相互にあるいは一方から他方へ信号送受可能な状態を示す。
【0013】
CPU2は、各構成要素の動作を制御する装置である。CPU2は、記憶装置4に格納されるプログラムやプログラム実行に必要なデータをメモリ3にロードして実行し、医用画像に対して様々な画像処理を施す。メモリ3は、CPU2が実行するプログラムや演算処理の途中経過を記憶するものである。記憶装置4は、CPU2が実行するプログラムやプログラム実行に必要なデータを格納する装置であり、具体的にはHHD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等である。ネットワークアダプタ5は、医用画像処理装置1をLAN、電話回線、インターネット等のネットワーク9に接続するためのものである。CPU2が扱う各種データはLAN(Local Area Network)等のネットワーク9を介して医用画像処理装置1の外部と送受信されても良い。
【0014】
表示装置7は、医用画像処理装置1の処理結果等を表示する装置であり、具体的には液晶ディスプレイ等である。入力装置8は、操作者が医用画像処理装置1に対して操作指示を行う操作デバイスであり、具体的にはキーボードやマウス、タッチパネル等である。マウスはトラックパッドやトラックボール等の他のポインティングデバイスであっても良い。
【0015】
医用画像撮影装置10は、例えば被検体の投影データを取得し、投影データから断層画像を再構成するX線CT(Computed Tomography)装置であり、図2を用いて後述する。医用画像データベース11は、医用画像撮影装置10によって取得された投影データや断層画像等を記憶するデータベースシステムである。
【0016】
図2を用いて医用画像撮影装置10の一例であるX線CT装置100の全体構成を説明する。なお、図2において、横方向をX軸、縦方向をY軸、紙面に垂直な方向をZ軸とする。X線CT装置100は、スキャナ200と操作ユニット250を備える。スキャナ200は、X線管211、検出器212、コリメータ213、駆動部214、中央制御部215、X線制御部216、高電圧発生部217、スキャナ制御部218、寝台制御部219、コリメータ制御部221、プリアンプ222、A/Dコンバータ223、寝台240等を有する。
【0017】
X線管211は寝台240上に載置された被検体210にX線を照射する装置である。X線制御部216から送信される制御信号に従って高電圧発生部217が発生する高電圧がX線管211に印加されることによりX線管211から被検体にX線が照射される。
【0018】
コリメータ213はX線管211から照射されるX線の照射範囲を制限する装置である。X線の照射範囲は、コリメータ制御部221から送信される制御信号に従って設定される。
【0019】
検出器212は被検体210を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置である。検出器212はX線管211と対向配置され、X線管211と対向する面内に多数の検出素子が二次元に配列される。検出器212で計測された信号はプリアンプ222で増幅された後、A/Dコンバータ223でデジタル信号に変換される。その後、デジタル信号に対して様々な補正処理が行われ、投影データが取得される。
【0020】
駆動部214はスキャナ制御部218から送信される制御信号に従って、X線管211と検出器212とを被検体210の周囲で回転させる。X線管211と検出器212の回転とともに、X線の照射と検出がなされることにより、複数の投影角度からの投影データが取得される。投影角度毎のデータ収集単位はビューと呼ばれる。二次元に配列された検出器212の各検出素子の並びは、検出器212の回転方向がチャネル、チャネルに直交する方向が列と呼ばれる。投影データはビュー、チャネル、列によって識別される。
【0021】
寝台制御部219は寝台240の動作を制御し、X線の照射と検出がなされる間、寝台240を静止させたままにしたり、Z軸方向に等速移動させたりする。寝台240を静止させたままのスキャンはアキシャルスキャン、寝台240を移動させながらのスキャンはらせんスキャンとそれぞれ呼ばれる。
【0022】
中央制御部215は以上述べたスキャナ200の動作を、操作ユニット250からの指示に従って制御する。次に操作ユニット250について説明する。操作ユニット250は、再構成処理部251、画像処理部252、記憶部254、表示部256、入力部258等を有する。
【0023】
再構成処理部251は、スキャナ200で取得された投影データを逆投影することにより、断層画像を再構成する。画像処理部252は断層画像を診断に適した画像にするため、様々な画像処理を行う。記憶部254は投影データや断層画像、画像処理後の画像を記憶する。表示部256は断層画像や画像処理後の画像を表示する。入力部258は投影データの取得条件(管電圧、管電流、スキャン速度等)や断層画像の再構成条件(再構成フィルタ、FOVサイズ等)を操作者が設定する際に用いられる。
【0024】
なお、操作ユニット250が図1に示した医用画像処理装置1であっても良い。その場合、は、再構成処理部251や画像処理部252がCPU2に、記憶部254が記憶装置4に、表示部256が表示装置7に、入力部258が入力装置8に、それぞれ相当することになる。
【0025】
図3を用いて本実施例の機能ブロック図について説明する。なお図3に示される各機能は、専用のハードウェアで構成されても良いし、CPU2上で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明では本実施例の各機能がソフトウェアで構成された場合について説明する。
【0026】
本実施例は、分離部301、変調部302、補正部303を備える。また記憶装置4には、X線CT装置100で生成された医用画像、再構成フィルタ毎の変調伝達関数(MTF:Modulation Transfer Function)や雑音強度スペクトル(NPS:Noise Power Spectrum)等が記憶される。以下、各構成部について説明する。
【0027】
分離部301は、医用画像を、構造成分を主成分とする第一成分と、雑音成分を主成分とする第二成分とに分離する。具体的には、医用画像に平滑化処理が施されることにより、計測過程等で生じる雑音成分がほぼ除去され、第一成分が抽出される。さらに医用画像から第一成分が差分されることにより、第二成分が生成される。すなわち、Iが医用画像、Smooth()が平滑化処理の演算子であるとき、第一成分C1と第二成分C2は次式によって求められる。
【0028】
C1=Smooth(I) … (1)
C2=I-C1 … (2)
なお第一成分C1の主成分である構造成分は被検体210内の組織の構造等を表し、第二成分C2の主成分である雑音成分は検出器212の電気雑音やX線の量子雑音等によって発生する。構造成分の空間周波数方向の分布形状は診断対象となる組織の種類に依存し、例えば脳出血や肝臓の腫瘍などの広範囲にわたる病変では低周波数帯の成分が多く、肺末梢小型病変や耳硬化症などの微細な病変では高周波数帯の成分が多い。一方、雑音成分の空間周波数方向の分布形状は、検出素子サイズや投影角度方向のデータ収集密度といった医用画像撮影装置の性能や撮像方法に依存する。そのため、構造成分と雑音成分の空間周波数の分布形状に基づいて周波数変調することで、雑音成分に対する構造成分の識別能を向上できる。
【0029】
なお分離部301の平滑化処理には、注目画素とその周辺画素との画素値の平均を算出する移動平均フィルタやガウシアンフィルタ、エッジ保存型フィルタ、逐次近似処理を用いた方法、人工知能を用いた方法等が挙げられる。さらに平滑化処理に先立って医用画像の各画素の雑音成分の量を推定し、推定された雑音成分の量に応じて平滑化処理の強度を調整し、第一成分に含まれる構造成分の比率を高めるようにしても良い。
【0030】
変調部302は、第二成分を空間周波数で変調する。具体的には、フーリエ変換等によって空間周波数毎に分解される第二成分に対して、空間周波数毎の変調係数が乗じられる。すなわち、空間周波数がf、空間周波数毎に分解される第二成分がC2(f)、空間周波数毎の変調係数がα(f)であるとき、変調された第二成分はα(f)・C2(f)となる。空間周波数毎の変調係数α(f)は、第一成分C1の空間周波数分布等に基づいて設定される。
【0031】
なお、変調部302は、上述の周波数空間だけでなく、実空間においても同様の処理を行うことができる。例えば、ガウシアンピラミッド等を用いてC2を離散的な空間周波数帯j=(1、2、…、J)に分解してC2を生成し、対応する空間周波数帯jの変調係数をαとおくことで、j番目の空間周波数帯における変調された第二成分はα・C2となる。
【0032】
補正部303は、第一成分と変調された第二成分とに基づいて補正画像を生成する。具体的には、第一成分と変調された第二成分とが空間周波数毎に加算されることによって補正画像が生成される。すなわち空間周波数毎に分解される第一成分がC1(f)であるとき、補正画像Icorrの空間周波数fに対する成分Icorr(f)は次式によって求められる。
【0033】
Icorr(f)=C1(f)+α(f)・C2(f) … (3)
なお分離部301において雑音成分の量の推定精度が低い場合や、使用する平滑化処理の分離精度が低い場合、空間周波数がfの第一成分C1(f)は主成分が構造成分S(f)であるとともに雑音成分N(f)の一部ΔN(f)を含み、第二成分C2(f)は主成分が雑音成分N(f)であるとともに構造成分S(f)の一部ΔS(f)を含む場合がある。そこで、第一成分C1(f)に含まれる構造成分を(S(f)-ΔS(f))、第二成分C2(f)に含まれる雑音成分を(N(f)-ΔN(f))とすることにより、C1(f)とC2(f)は次式となる。
【0034】
C1(f)=(S(f)-ΔS(f))+ΔN(f) … (4)
C2(f)=(N(f)-ΔN(f))+ΔS(f) … (5)
この場合、第一成分C1(f)と変調された第二成分α(f)・C2(f)とのバランスを調整する係数x、yを用いた次式によって、補正画像の周波数成分Icorr(f)が求められても良い。
【0035】
Icorr(f)=x・C1(f)+y・α(f)・C2(f) … (6)
すなわち、(4)式、(5)式および(6)式より次の関係が成り立つ。
【0036】
Icorr(f)=x・S(f)+(y・α(f)-x)・ΔS(f)
+y・α(f)・N(f)-(y・α(f)-x)・ΔN(f) … (7)
(7)式は、yに対しxが相対的に大きく設定されると雑音成分に誤って分離された構造成分ΔS(f)が小さくなり、xに対しyが相対的に大きく設定されると構造成分に誤って分離された雑音成分ΔN(f)が抑制されることを示す。すなわち、ΔS(f)とΔN(f)はトレードオフの関係にあり、係数x、yが適切に設定されることによりΔS(f)とΔN(f)の関係が調整される。係数x、yは、例えば記憶装置4に保存される係数x、yの複数の組合せの中から、被検体210の大きさや撮影部位に応じて操作者が入力装置8を介して選択することによって設定されても良い。
【0037】
最後に、補正画像の周波数成分Icorr(f)を空間周波数fについて加算することで、補正画像が生成される。
【0038】
図4を用いて、本実施例で実行される処理の流れの一例を説明する。
【0039】
(S401)
分離部301は、医用画像Iを第一成分C1と第二成分C2とに分離する。具体的には(1)式により第一成分C1が抽出され、(2)式により第二成分C2が生成される。
【0040】
(S402)
変調部302は、第二成分を空間周波数で変調する。図5を用いて本ステップの処理の流れの一例について説明する。
【0041】
(S501)
変調部302は、再構成処理部251において医用画像Iの再構成に用いられた再構成フィルタおよびその変調伝達関数を取得する。再構成フィルタは、逆投影処理において投影データに重畳されるものであり、医用画像Iの空間周波数分布を変化させる。上述のように分離部301によって分離された第一成分C1は主に医用画像Iの構造であるため、操作者は第一成分C1に応じて再構成フィルタを選択する。すなわち頭部や腹部のように構造成分が主に低周波数帯に分布する部位と肺野や骨のように高周波数帯に分布する部位とでは、再構成に用いられる再構成フィルタが異なる。一般的に、医用画像Iの第一成分C1に関する空間周波数の特性を表す指標として変調伝達関数が用いられる。変調伝達関数は公知の方法で算出可能であり、例えば高吸収で微細な直径を持ったワイヤや円柱を内包するファントムをX線CT装置100で撮影し、任意の再構成フィルタで再構成した断層画像を、スリット法やラジアルエッジ法を用いて解析することで算出される。各再構成フィルタの変調伝達関数は記憶装置4に格納される。
【0042】
図10に、異なる再構成フィルタを用いて再構成された2種類の断層画像と、各再構成フィルタの変調伝達関数の一例を示す。なお図10(a)は低域通過型の再構成フィルタの場合であり、図10(b)は高域通過型の再構成フィルタの場合である。また2種類の断層画像は広範囲にわたる病変を模した画像と微細な病変を模した画像である。図10(a)と図10(b)とでは病変の視認性が異なり、広範囲にわたる病変には低域通過型の再構成フィルタの変調伝達関数が、微細な病変では高域通過型の再構成フィルタの変調伝達関数がそれぞれ適していることがわかる。
【0043】
(S502)
変調部302は、S501で取得された再構成フィルタの雑音強度スペクトルを取得する。雑音強度スペクトルは公知の方法で算出可能であり、例えば構造物を含まない平坦なファントムをX線CT装置100で撮影し、取得した投影データに任意の再構成フィルタを重畳して再構成した断層画像から、仮想スリット法や二次元フーリエ変換法を用いて算出される。複数の再構成フィルタの各々の雑音強度スペクトルは予め算出され、各再構成フィルタに対応付けられて記憶装置4に格納されている。
【0044】
図6に、2種類の再構成フィルタを用いて再構成された断層画像と、断層画像から算出された雑音強度スペクトルの一例を示す。なお図6(a)は低域通過型の再構成フィルタの場合であり、図6(b)は高域通過型の再構成フィルタの場合である。図6(a)と図6(b)とでは断層画像の質感が異なり、雑音強度スペクトルのピークを示す空間周波数が高域通過型の方が高い。つまり、構造成分を主成分とする第一成分C1に適した変調伝達関数に対応する再構成フィルタを使用した場合、変調伝達関数の優位な通過帯域に対応する周波数帯の雑音強度スペクトルも大きくなる。よって、再構成フィルタでは構造成分と雑音成分の周波数分布を互いに独立に変化させるような周波数変調はできない。
【0045】
(S503)
変調部302は、S501で取得された再構成フィルタと再構成フィルタに対応する変調伝達関数、S502で取得された雑音強度スペクトルに基づいて空間周波数毎に変調係数α(f)を算出する。再構成された医用画像Iには、再構成に用いられた再構成フィルタに応じた変調伝達関数の構造成分と雑音強度スペクトルの雑音成分が含まれる。以降では、記憶装置4に格納されている複数の再構成フィルタに通し番号を付与し、k番目の再構成フィルタに対応する変調伝達関数をp(f)、l番目の再構成フィルタに対応する雑音強度スペクトルをq(f)とおく。さらに、雑音成分に対する構造成分の識別能を表す指標である信号雑音比の空間周波数fの成分をSNRlk(f)とおき、次式で表す。
【0046】
SNRlk(f)=√(t (f)/q(f)) … (8)
すなわち、SNRlk(f)はk番目の再構成フィルタの構造成分とl番目の再構成フィルタの雑音成分を組み合わせた画像の画質を表す指標である。任意の空間周波数fに対しSNRlk(f)がより大きくなるようにkとlを選択することで、雑音成分に対する構造成分の識別能が向上する。
【0047】
変調係数α(f)の算出方法の一例として、まず、k≠lなるkとlについて空間周波数方向に(8)式を積分して得られる信号雑音比の代表値をそれぞれ算出し、代表値が最も大きくなるような組合せk’とl’を選択する。通常は、再構成処理部251にて画像を作成する際に操作者が選択した再構成フィルタが所望する構造成分の周波数特性を持っているため、画像再構成時の再構成フィルタにk’を固定した上でlを走査する。次に、k’番目の再構成フィルタに対応する雑音強度スペクトルを持つ第二成分C2をl’番目の再構成フィルタに対応する雑音強度スペクトルに変調するため、変調係数α(f)を次式で算出する。
【0048】
α(f)=ql’(f)/qk’(f) … (9)
部位の違いによって再構成フィルタの特性が大きく異なる場合には、kとlの取り得る組合せを制限しても良い。別の方法として、信号雑音比の代わりにファントム実験や臨床データ等を使用して各再構成フィルタについて周波数特性が診断上望ましい組合せとなるlを予め設定しておき、記憶装置4に保存しても良い。この場合、再構成処理部251にて使用した再構成フィルタk’に対応付けられたl’番目の再構成フィルタの雑音強度スペクトルが記憶装置4から読み出され、(9)式によって変調係数α(f)が算出される。さらに別の方法として、各再構成フィルタについて周波数特性が最適な組合せとなるlをあらかじめ設定し、(9)式により変調係数をα(f)として算出して記憶装置4に保存しても良い。すなわち、k番目の再構成フィルタの変調係数をα(f)とおくと、再構成処理部251にて使用した再構成フィルタk’に対応付けられたαk’(f)を記憶装置4から読み出して使用する。
【0049】
上述の手順を通して、変調伝達関数および雑音強度スペクトルの絶対値は解析に使用したファントムの形状や撮影時のX線照射量に依存するため、周波数方向に面積を規格化した上で相対値として扱っても良い。
【0050】
(S504)
変調部302は、S503で算出された変調係数α(f)を第二成分C2に乗算する。再構成フィルタに応じた周波数特性を持つ第一成分C1に対し、前述の信号雑音比に基づいてS503で算出された変調係数α(f)が乗じられることにより、第二成分C2の主成分である雑音成分が周波数変調されることにより、雑音成分に対する構造成分の識別能が向上する。
【0051】
図4の説明に戻る。
【0052】
(S403)
補正部303は、補正画像Icorrを生成する。具体的には(3)式もしくは(6)式により、空間周波数毎に分解された第一成分C1(f)と変調された第二成分α(f)・C2(f)とに基づいて補正画像Icorrが生成される。なお(6)式が用いられる場合は、係数x、yが操作者によって設定される。ただし、yを限りなく小さくすることで医用画像I上の雑音成分を減少させることも可能であるが、極端に雑音成分が少ない画像は診断の際に違和感を与えるため望ましくない。つまり周波数変調の前後における雑音成分の大きさ(雑音強度スペクトルの周波数方向の総和)の変化は小さいことが望ましい。
【0053】
以上説明した処理の流れにより、医用画像中の雑音成分を周波数変調し、雑音成分に対する構造成分の識別能を向上させることができる。
【実施例2】
【0054】
実施例1では、医用画像Iの再構成に用いられた再構成フィルタに基づいて第二成分C2を空間周波数で変調することについて説明した。本実施例では、医用画像Iの再構成に用いられた再構成フィルタとともに、操作者が設定する読影パラメータに基づいて第二成分C2を空間周波数で変調することについて説明する。なお、実施例1との違いは図4のS402の処理の流れであるので、それ以外については説明を省略する。
【0055】
図7を用いて本実施例における第二成分C2を空間周波数で変調する処理の流れの一例について説明する。
【0056】
(S701)
変調部302は、医用画像Iの再構成に用いられた再構成フィルタとともに、読影パラメータを取得する。読影パラメータは、中心周波数f0と周波数帯Δfと変調強度gを含み、操作者によって入力装置8を介して設定される。中心周波数f0は読影時に注目される空間周波数であり、周波数帯Δfは注目される空間周波数の幅、変調強度gは注目される空間周波数に対するゲインである。
【0057】
(S702)
変調部302は、S701で取得された再構成フィルタの雑音強度スペクトルを取得する。実施例1と同様に、雑音強度スペクトルは再構成フィルタ毎に記憶装置4に予め格納されており、S701で取得された再構成フィルタに対応する雑音強度スペクトルが記憶装置4から読み出される。
【0058】
(S703)
変調部302は、S702で取得された雑音強度スペクトルとS701で取得された読影パラメータに基づいて空間周波数毎に変調係数α(f)を算出する。
【0059】
図8を用いて、本ステップにおける変調係数α(f)を算出する手順の一例について説明する。本ステップでは、図8(a)に例示されるS702で取得された雑音強度スペクトルから、S701で取得された読影パラメータによって設定される補正用スペクトルを差分し、差分によって得られる差分スペクトルを用いて、変調係数α(f)が算出される。
【0060】
まず図8(a)に例示される雑音強度スペクトルに対して、図8(b)に示す中心周波数f0と、図8(c)に示す周波数帯Δf、図8(d)に示す変調強度gに応じて、正規分布に従う補正用スペクトルが設定される。なお補正用スペクトルは正規分布に従うものに限定されない。
【0061】
次に雑音強度スペクトルから補正用スペクトルが差分されて差分スペクトルが得られる。図8(e)には差分スペクトルが実線で、雑音強度スペクトルが点線で示される。
【0062】
そして雑音強度スペクトルの面積と等しい面積を有するように差分スペクトルが規格化される。再構成処理部251における画像再構成時の再構成フィルタの雑音強度スペクトルをq(f)、規格化された差分スペクトルをq(f)とおき、変調係数α(f)を次式で算出する。
【0063】
α(f)=q(f)/q(f) … (10)
図8(f)には規格化された差分スペクトルが実線で、雑音強度スペクトルが点線で示される。なお操作者が確認できるように、図8(f)に例示される両スペクトルを表示装置7に表示させても良い。
【0064】
(S704)
変調部302は、S703で算出された変調係数α(f)を第二成分C2に乗算する。S703で算出された変調係数α(f)が乗じられることにより、第二成分C2の主成分である雑音成分、特に読影パラメータに対応する空間周波数の範囲の雑音成分が周波数変調されるので、同範囲において雑音成分に対する構造成分の識別能はより向上する。
【0065】
以上説明した処理の流れにより、雑音成分を主成分とする第二成分C2が空間周波数で変調されるので、雑音成分に対する構造成分の識別能を向上させることができる。特に操作者によって設定された読影パラメータに応じた構造成分の識別能を向上できる。
【実施例3】
【0066】
実施例1では、医用画像Iの再構成に用いられた再構成フィルタに基づいて、予めファントムを用いて解析した雑音強度スペクトルから撮影したデータの雑音強度スペクトルを予測し、第二成分C2を空間周波数で変調することについて説明した。本実施例では、操作者が設定する関心領域の雑音強度スペクトルの実測値に基づいて第二成分C2を空間周波数で変調することについて説明する。なお、実施例1との違いは図4のS402の処理の流れであるので、それ以外については説明を省略する。
【0067】
図9を用いて本実施例における第二成分C2を空間周波数で変調する処理の流れの一例について説明する。
【0068】
(S901)
変調部302は、関心領域内の画素値を取得する。関心領域は、医用画像Iに対して、入力装置8を介して操作者によって設定される。関心領域は雑音成分のみが含まれるように設定されることが望ましい。
【0069】
(S902)
変調部302は、S901で取得された関心領域の中の画素値に基づいて雑音強度スペクトルを算出する。雑音強度スペクトルの算出は公知の方法に基づいて行うことができ、仮想スリット法あるいは二次元フーリエ変換法を用いて算出される。
【0070】
(S903)
変調部302は、S501で取得された再構成フィルタおよびそれに対応する変調伝達関数と、S902で算出された雑音強度スペクトルをql’(f)として、(9)式に基づいて空間周波数毎に変調係数α(f)を算出する。
【0071】
(S904)
変調部302は、S903で算出された変調係数α(f)を第二成分C2に乗算する。S903で算出された変調係数α(f)が乗じられることにより、第二成分C2の主成分である雑音成分、特に関心領域の中の雑音成分に基づいて周波数変調される。
【0072】
以上説明した処理の流れにより、雑音成分を主成分とする第二成分C2が空間周波数で変調されるので、雑音成分に対する構造成分の識別能を向上させることができる。特に操作者によって設定された関心領域の中の雑音成分に対する構造成分の識別能を向上できる。
【0073】
なお、本発明の医用画像処理装置及び医用画像処理方法は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。例えば、実施例1乃至3を組み合わせ、読影パラメータと関心領域の中の画素値に基づいて変調係数が設定されても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0074】
1:医用画像処理装置、2:CPU、3:メモリ、4:記憶装置、5:ネットワークアダプタ、6:システムバス、7:表示装置、8:入力装置、10:医用画像撮影装置、11:医用画像データベース、100:X線CT装置、200:スキャナ、210:被検体、211:X線管、212:検出器、213:コリメータ、214:駆動部、215:中央制御部、216:X線制御部、217:高電圧発生部、218:スキャナ制御部、219:寝台制御部、221:コリメータ制御部、222:プリアンプ、223:A/Dコンバータ、240:寝台、250:操作ユニット、251:再構成処理部、252:画像処理部、254:記憶部、256:表示部、258:入力部、301:分離部、302:変調部、303:補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10