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特許7317673レイアウト支援装置、レイアウト支援方法及びコンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】レイアウト支援装置、レイアウト支援方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20230724BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20230724BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20230724BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20230724BHJP
   G06Q 10/00 20230101ALI20230724BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/13
G06F30/27
G06F30/20
G06Q10/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019203089
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021077077
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯邑 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岸本 有之
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-166974(JP,A)
【文献】特開2012-194891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
G06Q 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象フロアにおける什器類のレイアウトを示すフロアレイアウト情報と、前記対象フロアにおける人の分布の変化を示す分布情報とに基づいて、前記対象フロアの運用に関する評価指標の値を予め定められた1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出する評価指標算出部と、
前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出された前記評価指標の値に基づいて、各フロアレイアウトで前記対象フロアを運用した場合に、前記対象フロアの運用に関して予め定められた所定の運用条件が満たされるか否かを前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて判定する運用条件判定部と、
与えられたフロアレイアウトに基づいて前記対象フロアにおける人の分布の変化を推定することにより前記分布情報を取得する分布推定部と、
を備え
前記評価指標算出部は、推定された前記分布情報に基づいて前記評価指標の値を算出する、
レイアウト支援装置。
【請求項2】
前記運用条件の判定結果を出力する判定結果出力部をさらに備え、
前記運用条件判定部は、各フロアレイアウトが予め定められた1つ以上の運用条件を満たすか否かを判定し、
前記判定結果出力部は、前記1つ以上の運用条件の全てを満たすフロアレイアウトを合格レイアウトとして出力する、
請求項1に記載のレイアウト支援装置。
【請求項3】
前記分布推定部は、前記対象フロアを利用者の目的に応じた複数の滞在エリアに分割し、各滞在エリアに存在する人の目的地を各滞在エリアごとに異なる目的地関数により定め、各人がそれぞれに設定された目的地に移動すると仮定して前記分布の変化を推定する、
請求項1または2に記載のレイアウト支援装置。
【請求項4】
前記分布推定部は、過去の2以上の時刻について得られた分布情報に基づいて前記対象フロアに存在する各人の移動速度を推定し、所定の閾値以上の速度で移動する人については予め定められた所定の目的地を設定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のレイアウト支援装置。
【請求項5】
前記分布推定部は、前記運用条件を満たさないと判定されたフロアレイアウトの一部を変更し、変更後のフロアレイアウトについて前記分布の変化を推定し、
前記運用条件判定部は、前記変更後のフロアレイアウトについて前記運用条件が満たされるか否かを判定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のレイアウト支援装置。
【請求項6】
前記分布推定部は、前記対象フロアについて予め定めらた制約条件の範囲内で、前記運用条件を満たさないと判定されたフロアレイアウトの一部を変更する、
請求項に記載のレイアウト支援装置。
【請求項7】
前記分布推定部によって取得された分布情報と、前記対象フロアの実際の運用において取得された前記分布の変化を示す実績データとに基づいて、前記分布推定部が前記対象フロアにおける人の分布の変化を推定する際に用いる分布推定モデルのパラメータを調整する推定パラメータ調整部をさらに備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載のレイアウト支援装置。
【請求項8】
前記推定パラメータ調整部は、前記分布推定部によって取得された分布情報と、前記実績データにより示される分布情報との差分が所定の閾値以下となるように前記パラメータを調整する、
請求項に記載のレイアウト支援装置。
【請求項9】
対象フロアにおける什器類のレイアウトを示すフロアレイアウト情報と、前記対象フロアにおける人の分布の変化を示す分布情報とに基づいて、前記対象フロアの運用に関する評価指標の値を予め定められた1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出する評価指標算出ステップと、
前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出された前記評価指標の値に基づいて、各フロアレイアウトで前記対象フロアを運用した場合に、前記対象フロアの運用に関して予め定められた所定の運用条件が満たされるか否かを前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて判定する運用条件判定ステップと、
与えられたフロアレイアウトに基づいて前記対象フロアにおける人の分布の変化を推定することにより前記分布情報を取得する分布推定ステップと、
を有し、
前記評価指標算出ステップにおいて、推定された前記分布情報に基づいて前記評価指標の値を算出する、
レイアウト支援方法。
【請求項10】
対象フロアにおける什器類のレイアウトを示すフロアレイアウト情報と、前記対象フロアにおける人の分布の変化を示す分布情報とに基づいて、前記対象フロアの運用に関する評価指標の値を予め定められた1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出する評価指標算出ステップと、
前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出された前記評価指標の値に基づいて、各フロアレイアウトで前記対象フロアを運用した場合に、前記対象フロアの運用に関して予め定められた所定の運用条件が満たされるか否かを前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて判定する運用条件判定ステップと、
与えられたフロアレイアウトに基づいて前記対象フロアにおける人の分布の変化を推定することにより前記分布情報を取得する分布推定ステップと、
をコンピュータに実行させるものであり、
前記評価指標算出ステップにおいて、推定された前記分布情報に基づいて前記評価指標の値を算出させる、
ためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レイアウト支援装置、レイアウト支援方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロアを利用する人の属性に応じて、そのフロアに設置する什器のレイアウトを決定する技術がある。例えば、従来技術の一つとして、フロアを利用する人の人数や体格などに応じて、そのフロアに設置する什器の種類や数、配置等を決定することができる技術がある。しかしながら、従来技術は、主に人の数やサイズに着目して必要数の人を収容することを目的として什器のレイアウトを決定するものであるため、実際の運用において、それが必ずしも効率の良いフロア運用を実現するものになるとは限らない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6240563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、実際の運用状況により適したフロアレイアウトを提示することができるレイアウト支援装置、レイアウト支援方法及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のレイアウト支援装置は、評価指標算出部と、運用条件判定部とを持つ。評価指標算出部は、対象フロアにおける什器類のレイアウトを示すフロアレイアウト情報と、前記対象フロアにおける人の分布の変化を示す分布情報とに基づいて、前記対象フロアの運用に関する評価指標の値を予め定められた1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出する。運用条件判定部は、前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出された前記評価指標の値に基づいて、各フロアレイアウトで前記対象フロアを運用した場合に、前記対象フロアの運用に関して予め定められた所定の運用条件が満たされるか否かを前記1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて判定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態におけるレイアウト支援装置1の概略を示す図。
図2】第1の実施形態のレイアウト支援装置1の機能構成の具体例を示す機能ブロック図。
図3】第1の実施形態のレイアウト支援装置1が予め定められた1つ以上のフロアレイアウトから合格レイアウトを識別する処理の流れを示すフローチャート。
図4】第1の実施形態における推定ルールの一例を示す図。
図5】第1の実施形態における推定ルールの一例を示す図。
図6】第1の実施形態における分布推定処理の流れを示すフローチャート。
図7】第1の実施形態において対象フロア内に設定される滞在エリアの具体例を示す図。
図8】第1の実施形態において目的地関数が決定する目的地の具体例を示す図。
図9】第1の実施形態における根拠情報の出力例を示す図。
図10】第1の実施形態におけるフロアレイアウトの具体例を示す図。
図11】第1の実施形態におけるフロアレイアウトの具体例を示す図。
図12】第1の実施形態におけるフロアレイアウトの具体例を示す図。
図13】第1の実施形態において改善前のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図14】第1の実施形態において改善前のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図15】第1の実施形態において改善前のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図16】第1の実施形態において改善前のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図17】第1の実施形態において改善後のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図18】第1の実施形態において改善後のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図19】第1の実施形態において改善後のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図20】第1の実施形態において改善後のフロアレイアウトについて示される根拠情報の具体例を説明する図。
図21】第2の実施形態のレイアウト支援装置1aの機能構成の具体例を示す機能ブロック図。
図22】第2の実施形態のレイアウト支援装置1aが予め定められた1つ以上のフロアレイアウトから合格レイアウトを識別する処理の流れを示すフローチャート。
図23】第2の実施形態のレイアウト支援装置1aが行うキャリブレーション処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のレイアウト支援装置、レイアウト支援方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態におけるレイアウト支援装置1の概略を示す図である。レイアウト支援装置1は、対象フロアにおける什器のレイアウトを支援する機能を有する装置である。具体的には、レイアウト支援装置1は、対象フロアに関して予め定められた1つ以上のフロアレイアウトのうちから、その対象フロアに関して定められた所定の運用条件を満たすものを選択する機能を有する。ここでフロアレイアウトは、対象フロアにおける什器の配置を示す情報である。例えばフロアレイアウトは対象フロアに配置されるテーブルや椅子、パーテーションなどの配置を示す。
【0009】
一方、運用条件は対象フロアの運用において満たされるべき条件であって、フロアレイアウトによって変動しうる人の分布に関する条件を表す。例えば、人の分布に関する条件として、人の密度(以下「混雑度」という。)や滞留時間、人の流れ、使用率の低いエリアの有無等に関する条件が挙げられる。一般にフロアの利用者にとっては混雑度が低いほど快適である。そのため、利用者の快適性を重視するフロアに対しては、例えば、混雑度を所定の閾値以下にするといった運用条件を設定することが考えられる。
【0010】
また、一般にフロアの運用者にとっては混雑度が過度に低い場所と混雑度が過度に高い場所とが混在存在してる状況は、フロアの運用効率上好ましくない。そのため、このような場合には、対象フロア内の混雑度を所定の上限値以下かつ下限値以上にするといった運用条件を設定することが考えられる。
【0011】
また、一般にフロアにおける人の分布の特性はフロアの用途や目的によって異なることが多い。例えば、対象フロアがフードコートである場合、利用者の快適性を確保しつつ運用効率を高めるためには、できるだけ人の移動が妨げられないようにすることが重要となる。このような場合、例えば、混雑度が高い場所における人の滞留時間を所定時間以下としたり、それ以外の場所における人の流れを所定の速度以上にしたりするといった運用条件を設定することが考えられる。また、この場合、人が混雑する時間帯と、それ以外の時間帯とで異なる運用条件を設定することも考えられる。このように、運用条件は、対象フロアの用途や目的に応じて任意の条件に設定されてよい。
【0012】
実施形態のレイアウト支援装置1は、このように設定される運用条件に基づき、入力した1つの以上のフロアレイアウトのそれぞれについて運用条件を満たしているか否かの判定を行う。具体的には、レイアウト支援装置1は、まず、各フロアレイアウトで対象フロアを運用した場合における人の分布の変化をフロアレイアウトごとに推定し、その推定結果に基づいて、運用条件を判定するための評価指標を各フロアレイアウトについて算出する。そして、レイアウト支援装置1は、入力した各フロアレイアウトのうち、評価指標が運用条件を満たしているものを処理結果として出力する。このようにして選択されたフロアレイアウトがユーザに提示されることにより、ユーザは、対象フロアの実際の運用状況により適したフロアレイアウトで対象エリアを運用することが可能となる。以下、このような効果を奏することのできる実施形態のレイアウト支援装置1の構成について詳細に説明する。
【0013】
図2は、第1の実施形態のレイアウト支援装置1の機能構成の具体例を示す機能ブロック図である。レイアウト支援装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。レイアウト支援装置1は、プログラムの実行によってフロアレイアウト入力部101、運用条件入力部102、初期条件入力部103、記憶部11、分布推定部12、評価指標算出部13、運用条件判定部14及び判定結果出力部15を備える装置として機能する。なお、レイアウト支援装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0014】
フロアレイアウト入力部101は予め定めれらた1つ以上のフロアレイアウトを入力する機能を有する。フロアレイアウト入力部101は入力したフロアレイアウトを分布推定部12に出力する。
【0015】
運用条件入力部102は対象フロアの運用に関する運用条件を入力する機能を有する。運用条件入力部102は入力した運用条件を示す情報を運用条件判定部14に出力する。
【0016】
初期条件入力部103は対象フロアにおける人の分布の変化を推定する際の初期条件を入力する機能を有する。初期条件入力部103は入力した初期条件を示す情報を分布推定部12に出力する。
【0017】
上記のフロアレイアウト入力部101、運用条件入力部102及び初期条件入力部103は、例えばタッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて各情報を入力するように構成される。また例えば、フロアレイアウト入力部101、運用条件入力部102及び初期条件入力部103は通信インタフェースを用いて構成され、図示しない外部の通信装置から各情報を取得するように構成されてもよい。
【0018】
記憶部11は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。記憶部11は分布推定モデルを構築するための各種パラメータ(以下「推定パラメータ」という。)を記憶する。分布推定モデルは分布推定部12が対象フロアにおける人の分布の変化を推定する際に用いる計算モデルである。例えば、推定パラメータは、分布推定モデルにおいて用いられる目的地関数や初期条件、各種閾値などである。なお、記憶部11には推定パラメータ以外の情報が記憶されてもよい。例えば、記憶部11には、自装置に入力されたフロアレイアウトや運用条件、初期条件などが予め保存されていてもよい。
【0019】
分布推定部12は、自装置に入力されたフロアレイアウト及び初期条件を分布推定モデルに適用することで、対象フロアにおける人の分布の変化を推定する機能を有する。分布推定モデルは対象フロアにおける人の分布の変化を求めることができるものであればどのようなモデルが用いられてもよい。以下では、分布推定モデルとしてセルオートマトンを用いる場合について説明する。セルオートマトンは、対象領域を複数のセルに分割し、ある時刻におけるあるセル(以下「注目セル」という。)の状態を、それより前の時刻における注目セル及びその周辺のセルの状態(以下「周辺セル」という。)に基づいて推定する方法である。周辺セルの状態が注目セルの状態にどのように影響するかは後述する推定ルールとして任意に定められてよい。本実施形態では、セルオートマトンの対象領域は対象フロアであり、各セルの状態を人及び障害物の有無で表すものとする。分布推定部12は、このような推定処理の実行により、各セルにおける人の有無を時系列に示す情報(以下「分布情報」という。)を取得し、取得した分布情報を評価指標算出部13に出力する。
【0020】
評価指標算出部13は、対象フロアの各フロアレイアウトについて取得された分布情報に基づいて、その分布情報が得られたフロアレイアウトの運用に関する評価指標を算出する。例えば、評価指標算出部13は対象フロアにおける人の密度(以下「混雑度」という。)や滞留時間、人の流れ、使用率の低いエリアの有無等を評価指標として算出する。評価指標算出部13は算出した評価指標の値を運用条件判定部14に出力する。
【0021】
運用条件判定部14は、各フロアレイアウトについて算出された評価指標の値と、対象フロアの運用条件とに基づいて、各フロアレイアウトが運用条件を満たしているか否かを判定する。運用条件判定部14は、運用条件を満たすと判定したフロアレイアウト(以下「合格レイアウト」という。)を判定結果出力部15に出力する。
【0022】
判定結果出力部15は、運用条件判定部14から出力された合格レイアウトを出力する機能を有する。例えば、判定結果出力部15は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置を用いて構成され、これらの表示装置に合格レイアウトを表示させる。また例えば、判定結果出力部15は通信インタフェースを用いて構成され、合格レイアウトを他の通信装置に送信してもよい。
【0023】
図3は、第1の実施形態のレイアウト支援装置1が予め定められた1つ以上のフロアレイアウトから合格レイアウトを識別する処理の流れを示すフローチャートである。まず、分布推定部12は、分布推定モデルを構築する(ステップS101)。具体的には、分布推定部12は、記憶部11から推定パラメータを読み出し、読み出した推定パラメータの値をセルオートマトンに適用することによって分布推定モデルを構築する。続いて、フロアレイアウト入力部101が対象フロアについて予め定められたフロアレイアウトを入力する(ステップS102)とともに、運用条件入力部102が対象フロアの運用条件を入力する(ステップS103)。
【0024】
ここで入力されるフロアレイアウトは、セルオートマトンに基づく分布推定モデルを適用することができるように、対象フロアをセルの集合として表すデータとして入力される。この場合、フロアレイアウトは、対象フロアを構成する各セルに、そのセルの属性を付与したデータとして表される。例えば、各セルには、そのセルに人が移動することができるか否かを表す属性が付与される。この属性は、対象フロアにおける人の分布情報を推定する際に、人の移動を制限する制約条件の1つとして参照される。フロアレイアウト入力部101は入力したフロアレイアウトを分布推定部12に出力する。なお、ここで入力される運用条件は、フロアレイアウトごとの運用条件であってもよいし、各フロアレイアウトに共通の運用条件であってもよい。
【0025】
続いて、初期条件入力部103が分布推定モデルに与える初期条件を入力する(ステップS104)。具体的には、初期条件は分布推定モデルに対して対象フロアに入場する人の識別情報と、その初期位置を与える情報である。例えば、対象フロアが開場した時点以降における人の分布の変化を求める場合には、初期時刻において対象フロアに入場する全ての人の初期位置を対象フロアの入口に設定することができる。なお、初期時刻よりも後の時刻で対象フロアに入場する人を想定する場合、初期時刻から入場時刻までの間、その人の位置を対象フロアの入口に固定するようにしてもよい。初期条件入力部103は入力した初期条件を分布推定部12に出力する。
【0026】
続いて、分布推定部12が、フロアレイアウト入力部101によって入力された1つ以上のフロアレイアウトから1つのフロアレイアウトを選択し、選択したフロアレイアウトと初期条件とをステップS101で構築した分布推定モデルに適用する。これにより、分布推定部12は、選択したフロアレイアウトで対象フロアを運用した場合における人の分布の変化を推定する(ステップS105:分布推定処理)。具体的には、分布推定部12は、セルオートマトンの考え方に基づき、ある時刻tにおける注目セルの状態量と周辺セルの状態量に基づいて、その次の時刻t+1における注目セルの状態量を決定する。上述したとおり、本実施形態における状態量とは各セルにおける人や障害物の有無を示す値である。この場合、例えば状態量は人も障害物も存在しないことを表す“0”と、人が存在することを表す“1”と、人の通行を妨げる建築物の柱や壁、什器(テーブルやパーティションなど)等の障害物が存在することを表す“2”とのいずれかによって表すことができる。通常これらの障害物は、移動せず、時間が経っても同じセルに存在する。分布推定部12は、全てのセルについて“0”、“1”又は“2”の状態量を時系列に順次決定していくことにより、推定対象期間における対象フロアの分布の変化を示す分布情報を得ることができる。
【0027】
なお、注目セルの状態量と周辺セルの状態量に基づいてどのように次の時刻の注目セルの状態量を決定するかは、セルオートマトンに適用するルール(以下「推定ルール」という。)として予め設定されるものである。ここでは例えば、推定ルールは推定パラメータの1つとして予め記憶部11に記憶されているものとする。図4及び図5はこのような推定ルールの一例を示す図である。ここでは簡単のため3×3のセルを用いて推定ルールを説明する。なお3×3のセルの外側に付した1~3の数値は各セルを識別するための数値である。例えば図4(A)の例では、人が存在するセルをセル(2,3)と表すことにする。図4は、以下の推定ルールに基づく人の移動の例を示すものである。
【0028】
(ルール1)人は、目的地関数によって定められる目的地に移動する。
目的地関数は各セルに存在する人について目的地を決定する関数であり、滞在エリアごとに異なる関数として与えられる。滞在エリアは、対象フロア内に設定される複数の領域であり、用途や目的に応じて定められた領域である。すなわち目的地に到達した人はその滞在エリアでの目的を達成したことになるため、目的地関数は目的地に到達した人については、その人が存在している滞在エリアとは異なる滞在エリアを次のとして決定するものとする。なお、目的地に到達した人はある程度の時間その目的地にとどまることも考えられるため、目的地関数は目的地に到達した人に対しては、到達時点から所定時間後に次の目的地を与えるように定義されてもよい。なお、図4及び図5は、同じ滞在エリア内のセルを表し、各セルには同じ目的地関数が適用されるものとする。すなわち、図4及び図5の例においては、目的地関数により、全てのセルについて図の実線矢印方向に目的地が決定されるものとする。
【0029】
(ルール2)人は等速で移動する。
簡単のため、ここでは人は対象フロアを等速で移動するものとする。ただし、人の移動速度は、目的地や対象フロアの状況に応じて変化することも考えれる。これを考慮する場合、目的地関数は、各セルに存在する人について目的地とともに、その目的地に向かう移動速度を決定する関数として定義されてもよい。
【0030】
(ルール3)目的地方向に他の人が存在している場合、人はその場にとどまる。
(ルール4)目的地方向に什器等の障害物や他の人が存在している場合、人はそれを迂回するいずれかの方向に移動する。図の破線矢印は迂回が必要な場合に選択される移動方向を表している。
【0031】
この場合、図4(A)においては、人Aが存在するセル(2,3)から見て進行方向に隣接するセル(2,2)には他の人が存在していない。そのため、ある時刻tにおいて図4(A)のセル(2,3)に存在する人Aは、その次の時刻t+1において図4(B)に示すようにセル(2,2)に移動していると推定される。
【0032】
また、この場合、図4(C)においては、人Aが存在するセル(2,3)から見て進行方向に隣接するセル(2,2)には他の人Bが存在している。一方、人Bが存在するセル(2,2)から見て進行方向に隣接するセル(2,1)には他の人が存在していない。そのため、時刻tにおいて図4(C)のセル(2,3)に存在する人Aは、図4(D)に示すようにその次の時刻t+1においてもセル(2,3)にとどまっていると推定される。一方、時刻tにおいて図4(C)のセル(2,2)に存在する人Bは、その次の時刻t+1において図4(D)に示すようにセル(2,1)に移動していると推定される。
【0033】
また、この場合、図4(E)においては、人Aが存在するセル(2,3)から見て進行方向に隣接するセル(2,2)には他の人Bが存在している。一方、人Bが存在するセル(2,2)から見て進行方向に隣接するセル(2,1)には障害物(図中にて“障”を記載したセル)が存在している。そのため、時刻tにおいて図4(E)のセル(2,3)に存在する人Aは、図4(F)に示すように、その次の時刻t+1においてもセル(2,3)にとどまっていると推定される。一方、時刻tにおいて図4(E)のセル(2,2)に存在する人Bは、セル(2,1)の障害物を迂回する方向(例えば図(E)中の破線矢印方向)に移動すると推定される。この場合、図4(F)に示すように、人Bは時刻t+1においてセル(3,2)に移動していると推定される。なお、この例のように障害物を迂回する方向が複数存在する場合、移動方向をいずれか一方に固定してもよいし、いずれか一方をランダムで選択するようにしてもよい。
【0034】
また図5は、図4の場合と同様の推定ルールに基づいて移動する人の他の移動例を示すものである。すなわち図5における人の目的地は図4と同様に、目的地関数によって図中の実線矢印方向に存在すると決定される。この場合、図5(A)においては、セル(2,3)に存在する人Aの目的地方向に隣接するセル(2,2)に障害物が存在するため、人Aはそれを回避するためにいずれかの破線矢印方向に移動した後、実線矢印の目的地方向に移動する。その結果、人Aはセル(2,3)からセル(1,2)又はセル(3,2)に移動すると推定される。
【0035】
また、図5(B)においては、セル(2,3)に存在する人Aの目的地方向に隣接するセル(2,2)と、それに隣接するセル(3,2)とに障害物が存在する。この場合、人Aはセル(2,2)の障害物を回避するためにセル(3,3)に移動したとしても、移動先のセルから見て目的地方向のセル(3,2)にも障害物が存在するため元のセル(2,3)に戻るしかなくなる。そのため、このように障害物が隣接して存在している場合には、人Aは障害物が隣接していない方向(破線矢印方向)に移動した後、実線矢印の目的地方向に移動する。その結果、人Aはセル(2,3)からセル(1,2)に移動すると推定される。
【0036】
また、図5(C)においては、セル(2,3)に存在する人Aの目的地方向に隣接するセル(2,2)に障害物が存在し、その障害物に隣接するセル(1,2)に他の人Bが存在する。この場合、人Aはセル(2,2)の障害物を回避するためにセル(1,3)に移動したとしても、移動先のセルから見て目的地方向のセル(1,2)には他の人Bが存在するため移動先のセルにとどまるしかなくなる。そのため、このように障害物や他の人が隣接して存在している場合には、人Aは障害物や他の人Bが隣接していない方向(破線矢印方向)に移動した後、実線矢印の目的地方向に移動する。その結果、人Aはセル(2,3)からセル(3,2)に移動すると推定される。
【0037】
また、図5(D)においては、セル(2,3)に存在する人Aの目的地方向に隣接するセル(2,2)に障害物が存在し、その障害物に隣接するセル(1,2)及びセル(3,2)にも障害物が存在する。この場合、人Aはどの方向に移動しても目的地方向に障害物が存在する。そのため、このように移動先のセルから目的地方向に移動する経路が存在しない場合には、人Aは現在地であるセル(2,3)にとどまるか、隣接するセル(1,3)又はセル(3,3)に移動すると推定される。このうち、どのセルに移動するかは所定のルールに基づいて決定されてもよいし、ランダムに選択されてもよい。例えば、移動先のセルはより目的地に近い方が選択されてもよいし、目的地までの経路長が最も短くなる方が選択されてもよい。なお、移動先のセルの選択においては、目的地までの近さ又は目的地までの経路長の短さが他の条件より優先されてもよい。
【0038】
また、図5(E)においては、図5(D)と同様にセル(1,2)、セル(2,2)、セル(3,2)に他の人B、人C、人Dが存在している。この場合、図5(D)の場合とは異なり、人B、人C、人Dが移動する可能性があるので、人Aから目的地方向への経路が開ける可能性がある。そのため、このような場合には、人Aは所定時間の間は現在地であるセル(2,3)にとどまり、所定時間の間に目的地方向への経路が開けた場合には目的地方向に移動すると推定される。また、人Aは所定時間の間に目的地方向への経路が開けなかった場合には移動可能なセル(1,3)又はセル(3,3)に移動すると推定される。斜線で網掛けした矢印は人Aが所定時間の待機の後に移動する方向であることを表している。なお、このような状況において、人Aは目的地方向への経路が開けるまで現在地にとどまると推定しても十分な場合もある。この場合、図5(F)のようにセル(2,3)に存在する人Aは次の時刻においてもセル(2,3)に存在していると推定されてもよい。
【0039】
なお、対象フロアにおける人の分布の変化を推定する場合、移動速度が変化する人を想定したほうがよい場合もあると考えられる。例えば、進行方向に他の人や障害物が存在し、それを迂回する進行方向の選択肢が複数存在する状況では、人は進行方向を選択するために一旦停止することが想定される。また、例えば、スマートフォンを携帯している人がその操作のために一旦停止することも想定される。このように、人は移動可能な状況にあっても停止する場合があるため、そのような人を想定する場合には、移動可能な状態にある人を所定の確率で所定時間停止させるようにしてもよい。
【0040】
また、一旦停止した人がそれまでとは異なる目的地に向かい始める場合もある。そのような人を想定する場合には、一旦停止した人に対して確率的に他の目的地を設定するようにしてもよい。この場合、他の目的地はランダムに選択されてもよいし、所定のルールに基づいて選択されてもよい。例えば、対象の人が現在の目的地に到達した場合に設定される次の目的地を他の目的地としてもよい。また、例えば、対象の人が存在している滞在エリアとは別の滞在エリアを1つ選択し、選択した滞在エリアの目的地関数によって決定される目的地を他の目的地としてもよい。
【0041】
なお、後述するように、目的地関数が人の位置及び時刻を変数にとる場合、上記目的地変更のために選択される他の滞在エリアの目的地関数には、目的地を変更する対象の人の現在位置を入力することができない。そのため、このような場合、例外的に、選択された目的地関数に入力する各変数の値は、各変数がとりうる範囲内で任意に決定されてよい。例えば、この場合、選択された滞在エリアの中心座標が選択された目的地関数に入力されてもよいし、選択された滞在エリア内のセルのうち目的地を変更する対象の人の現在位置から最も近いセルの座標が選択された目的地関数に入力されてもよい。
【0042】
また、移動中の人又は一旦停止した人がそれまでとは異なる速度で移動し始める場合もある。このような人を想定する場合には、対象フロアに存在する人の移動速度を確率的にそれまでとは異なる速度に変更してもよい。
【0043】
分布推定部12は、このような推定ルールに基づいて各セルの各時刻における状態量を決定することにより対象フロアの分布情報を取得し、取得した分布情報を評価指標算出部13に出力する。なお、上述した推定ルールは一例であり、各セルの状態量をどのように決定するかは対象フロアの用途や性質等に応じて任意に決定されてよい。
【0044】
図3の説明に戻る。続いて、評価指標算出部13が、処理対象のフロアレイアウトについて取得された分布情報に基づいて、その分布情報が得られたフロアレイアウトの運用に関する評価指標を算出する(ステップS106)。評価指標算出部13は算出した評価指標の値を運用条件判定部14に出力する。
【0045】
続いて、運用条件判定部14が、処理対象のフロアレイアウトについて算出された評価指標の値と、ステップS103で入力された運用条件とに基づいて、処理対象のフロアレイアウトが運用条件を満たしているか否かを判定する(ステップS107)。運用条件判定部14は、運用条件の判定結果に基づいて処理対象のフロアレイアウトが合格レイアウトであるか否かを判定する(ステップS108)。具体的には、運用条件判定部14は、処理対象のフロアレイアウトについて取得された評価指標の値が与えられた全ての運用条件を満たす場合に処理対象のフロアレイアウトが合格レイアウトであると判定し、いずれかの運用条件を満たしていない場合には処理対象のフロアレイアウトが合格レイアウトでないと判定する。
【0046】
ここで処理対象のフロアレイアウトが合格レイアウトであると判定した場合(ステップS108-YES)、運用条件判定部14はその合格レイアウトを判定結果出力部15に出力し(ステップS109)、ステップS110に処理を進める。一方、処理対象のフロアレイアウトが合格レイアウトでないと判定した場合(ステップS108-NO)、運用条件判定部14は合格レイアウトの出力を行うことなくステップS110に処理を進める。
【0047】
続いて、運用条件判定部14は、ステップS102において入力した全てのフロアレイアウトについて合格レイアウトか否かの判定処理を行ったか否かを判定する(ステップS110)。未処理のフロアレイアウトが残っている場合(ステップS110-NO)、運用条件判定部14は処理をステップS105に戻す。この場合、分布推定部12は未処理のフロアレイアウトのうちからいずれか1つのフロアレイアウトを選択して分布推定処理を実行する。一方、全てのフロアレイアウトが処理済みとなった場合(ステップS110-YES)、運用条件判定部14は処理を終了する。
【0048】
図6は、第1の実施形態における分布推定処理の流れを示すフローチャートである。まず、分布推定部12は予め入力されているフロアレイアウトのうちからいずれか1つのフロアレイアウトを処理対象として選択する(ステップS201)。分布推定部12は、選択したフロアレイアウトに基づいて、対象フロアの物理的制約や什器の配置等を各変数に設定する。続いて、分布推定部12は時刻tを0に初期化する(ステップS202)。続いて、分布推定部12は、入力済みの初期条件に基づいて初期時刻t=0における各セルの状態量S(t,x,y)を設定する(ステップS203)。ここで状態量S(t,x,y)は時刻tのセル(x,y)における人や障害物の有無を表す。x及びyはセルの座標を表す。
【0049】
続いて、分布推定部12は、時刻t=0においてセル(x,y)に存在する人の目的地関数D(t,x,y)を設定する(ステップS204)。上述したとおり、目的地関数は人の目的地を定める関数でり、人が存在している滞在エリアに応じて決定される関数である。例えば、目的地関数D(t,x,y)は次の式(1)によって表される。
【0050】
【数1】
【0051】
式(1)においてiは滞在エリアの識別番号である。例えば対象フロアに4つの滞在エリアが定義されている場合にはiは1から4のいずれかの値をとる。以下では識別番号iで識別される滞在エリアを「滞在エリア(i)」と記載する。またequation(t,x,y)は滞在エリア(i)ごとに異なる関数を表し、x及びyは各滞在エリアに含まれるセルの座標を表す。すなわち式(1)は、目的地関数Dが滞在エリアごとに異なる関数として定義され、時刻t及びセルの座標(x,y)を変数とする関数として定義されることを表している。
【0052】
図7は、対象フロア内に設定される滞在エリアの具体例を示す図である。上述したとおり、滞在エリアは対象フロア内に設定される複数の領域であり、用途や目的に応じて定められた領域である。例えば図7は、社員食堂を対象フロアとして、滞在エリア#1~#4の4つの滞在エリアが定義された例を示す。例えばこの例において滞在エリア#1~#4は、対象フロアに入場した人が下記の行動を行う領域として定義される。また、図7に示すように各滞在エリアはその一部が互いに重複するように定義されてもよい。
【0053】
(滞在エリア#1)入口E1から入場した人が希望の配膳エリアに移動し、配膳エリアで配膳の順番待ちをする領域。各配膳エリアは、パーティションP1~P4によって仕切られている。
(滞在エリア#2)配膳を受けた人が希望のテーブルに移動する領域。
(滞在エリア#3)テーブルにて食事を終えた人が下膳エリアに移動し、下膳エリアで下膳の順番待ちをする領域。下膳エリアには、3つの下膳用シンクS1~S3が設置されている。
(滞在エリア#4)下膳を終えた人が出口E2に移動する領域。
【0054】
なお、式(1)は滞在エリアに応じて目的地関数を一意に決定する式であるが、人の目的地は、その人が存在している滞在エリアの状況に加えて、その周辺の滞在エリア(以下「周辺エリア」という。)の状況に影響される可能性がある。そのため、目的地の決定に際して周辺エリアの状況を考慮する必要がある場合には、例えば目的地関数D(t,x,y)を次の式(2)のように定義してもよい。
【0055】
【数2】
【0056】
式(2)においてαは0から1までの値を取り得る定数であり、iβは滞在エリア(i)の周辺エリアを示す識別番号である。すなわち式(2)は、目的地関数を、滞在エリア(i)について定義された関数と、滞在エリア(iβ)について定義された関数とのαに基づく重み付け和として定義するものである。これにより、ある滞在エリアの目的地関数を、その周辺エリアの状況を考慮して決定することができる。例えば、周辺エリア(iβ)としては、滞在エリア(i)に存在する人の移動方向に隣接する滞在エリアを選択することが考えられる。また、周辺エリア(iβ)の状況に加え、他の周辺エリア(iγ)の状況を考慮する場合、式(2)は、滞在エリア(i)、周辺エリア(iβ)及び周辺エリア(iγ)の各equationの重み付け和を目的地関数とするように変形されてもよい。
【0057】
なお、この場合、αは各滞在エリアの重みを決定するパラメータとなる。αは固定値として予め設定されていてもよいし、重みを変動させる要因によって変化する可変値として設定されてもよい。例えば重みを変動させる要因としては、周辺エリアの状況(例えば混雑度など)や対象とする人の状況(例えば目的地や移動速度など)などが考えられる。
【0058】
また、人の目的地には、対象とする人の過去の状況や周辺エリアの過去の状況が影響することも考えられる。このため、そのようなことが想定される場合には、目的地関数はそのような過去の状況に関する統計値(例えば平均値等)をパラメータとして含む関数として定義されてもよい。
【0059】
このように対象エリアに用途や目的ごとの滞在エリアを設定し、対象エリアに存在する人の目的地をその人の滞在エリアに応じて定める目的地関数を定義することにより、対象エリアにおける混雑度を潜在的な要因も含めて分析することができる。例えば、次の式(3)に示す判定式により、座席を探している人の数に対して空席の数が足りているのかを分析することができる。
【0060】
【数3】
【0061】
式(3)において、Nvacは座席を目的地とする滞在エリア(以下「座席エリア」という。)における空席の数を表す。Nvacは0に近いほど満席に近い状態であることを表すため、座席エリアの混雑度を測る一つの指標として用いることができる。一方、nareaは座席エリアにおいて座席を探している人の数を表す。ここで座席エリアが「座席を目的地とする滞在エリア」であることは、その滞在エリアについて定義された目的地関数がその滞在エリア内の人の目的地を座席に決定するということである。また、上述したとおり、目的地関数は目的地に到達した人については異なる滞在エリアを次の目的地として決定するため、nareaは座席エリアにおいて座席に到着していない人の数ということができる。
【0062】
また、naddは座席エリアに隣接する滞在エリア(以下「隣接エリア」という。)に存在する人のうち、座席エリアの座席を目的地として所定の閾値を超える速度で移動している人の数を表す。nsubは座席エリアに存在する人のうち、座席を目的地として所定の速度で移動している人の数を表す。この場合、座席エリア内に存在する人で座席を目的地とする人の移動速度が所定の閾値以下であると仮定すれば、座席エリア内に存在はしていても、別の滞在エリアを目的地として移動している人がnsubに数えられる。なお、上述したとおり、この場合の目的地関数は目的地に加えて、その目的地に向かう移動速度を決定することができるものとする。また、目的地の決定には各滞在エリアの混雑度が考慮されてもよく、この場合には、目的地関数は目的地に加えて、その目的地の決定に影響する滞在エリアの混雑度を決定することができるものとする。
【0063】
なお、δは所定の定数であり、式(3)の判定結果を調整することを可能にするパラメータである。例えばδは、初期値(例えば1)での運用において得られたNvac、area、nadd、nsubの実測値に基づいて調整されてもよい。
【0064】
このような目的地関数D(t,x,y)が設定されることにより、時刻tにおいてセル(x,y)に存在する人の目的地をその滞在エリアに応じて決定することができる。なお、目的地関数D(t,x,y)を定めるequationには、時刻や滞在エリアのほか、人が目的地を決定する理由に相関する任意のパラメータを含んでもよい。例えば、人が過去に滞在した滞在エリアや、人が各滞在エリアに滞在した総時間、過去の目的地、現在までの移動経路などを上記パラメータとすることができる。
【0065】
なお、上述したとおり、セルオートマトンを用いた分布推定モデルでは、ある時刻の注目セル及び周辺セルの状態量に基づいて次の時刻の注目セルの状態量が決定されるため、分布推定処理において各人を個別に識別する必要性は必ずしもない。しかしながら、上記のように、各人の移動実績に基づく情報(以下「履歴情報」という。)を分布推定処理のパラメータとして用いる場合には、対象フロアに存在する各人を個別に識別しつつ、その移動を推定してもよい。例えば、分布推定部12は、各人に識別番号を割り当て、各人の各時刻における位置情報を識別番号に紐づけて記録していくことで、各人の履歴情報を取得することができる。
【0066】
図6の説明に戻る。ステップS204において初期時刻t=0における各セル(x,y)の目的地関数D(t,x,y)を設定すると、分布推定部12は時刻tを次の時刻に進め(ステップS205)、時刻t-1における目的地関数D(t-1,x,y)に基づいて、現在時刻tにおける各セル(x,y)の状態量S(t,x,y)を決定する(ステップS206)。すなわち、ステップS206の初回実行時には、時刻t=0の目的地関数D(0,x,y)に基づいて、時刻t=1における各セルの状態量S(1,x,y)が決定される。
【0067】
続いて、分布推定部12は、現在時刻tが推定対象期間の最大時刻tmaxに達したか否かを判定する(ステップS207)。なお、時刻tmaxは所望の推定対象期間に応じて任意に設定されてよく、分布推定モデルの1つのパラメータとして予め設定されているものとする。現在時刻tが時刻tmaxに達している場合(ステップS207-YES)、分布推定部12は処理結果を評価指標算出部13に出力して、処理対象のフロアレイアウトについての分布推定処理を終了する。一方、現在時刻tが時刻tmaxに達していない場合(ステップS207-NO)、分布推定部12は現在時刻tにおける各セルの状態量S(t,x,y)に基づいて各セルに存在する人の目的地関数D(t,x,y)を更新し(ステップS208)、ステップS205に処理を戻す。このような処理が実行されることにより、初期時刻t=0から最大時刻t=tmaxまでの各時刻tにおける各セルの状態量S(t,x,y)が決定される。
【0068】
図8は、図7に示した対象フロアの各滞在エリアに存在する人について、目的地関数が決定する目的地の具体例を示す図である。まず、社員食堂の利用者は滞在エリア#1に含まれる入口E1から対象フロアに入場する。滞在エリア#1においては利用者の目的地がいずれかの配膳エリア(目標座標1a~1e)に設定される。目的地は、各配膳エリア付近の混雑度に応じて人が分散するように決定されてもよいし、各配膳エリア付近の混雑度に応じて目的地が途中で他の配膳エリアに変更されてもよい。一方、滞在エリア#1において目的地であるいずれかの配膳エリアに到達した人に対しては、次の目的地として滞在エリア#2のいずれかの座席(目標座標2a~2h)が設定される。例えば次の目的地にはその時点における空席がランダムに割り当てられるようにしてもよいし、現在位置から近い空席が割り当てられるようにしてもよい。
【0069】
次に滞在エリア#2において目的地であるいずれかの座席に到達した人に対しては、次の目的地として滞在エリア#3のいずれかの下膳エリア(目標座標3a~3c)が設定される。この場合においても、次の目的地は、各下膳エリア付近の混雑度に応じて人が分散するように決定されてもよいし、各下膳エリア付近の混雑度に応じて目的地が途中で他の下膳エリアに変更されてもよい。
【0070】
次に滞在エリア#3において目的地であるいずれかの下膳エリアに到達した人に対しては、次の目的地として出口E2(目標座標4a)が設定される。この場合、対象フロアから退場する利用者が出口E2に集中しすぎないように、対象フロアから退場する利用者の一部については、次の目的地が入口E1(目標座標4b)に設定されてもよい。なお、一部の利用者の次の目的地を入口E1とするか否かは、入口E1や出口E2付近の混雑度に応じて決定されてもよい。
【0071】
このように、対象エリアを用途や目的に応じた複数の滞在エリアに分割し、各滞在エリアごとに異なる目的地関数を定義することにより、対象エリア内を一連の目的に沿って移動する利用者の動きを分析することが可能となる。
【0072】
このように構成された第1の実施形態のレイアウト支援装置1は、予め定められた複数のフロアレイアウトのうちから、対象フロアの運用条件を満たすフロアレイアウトを選択することができる。具体的には、レイアウト支援装置1は、予め定められたフロアレイアウトについて分布推定処理を行うことにより対象フロアの混雑度を時系列に推定し、その推定結果に基づいて運用条件が満たされるか否かを判定する。これにより、第1の実施形態のレイアウト支援装置1は、人の分布の経時的な変化を考慮した上で、対象フロアの実際の運用状況により適したフロアレイアウトを採用することが可能となる。
【0073】
なお、レイアウト支援装置1は、合格レイアウトが選択された根拠を示す情報(以下「根拠情報」という。)を出力するように構成されてもよい。例えば、判定結果出力部15は、合格レイアウトに関連付けて、その合格レイアウトに基づいて得られた分布情報や、その合格レイアウトがどのように運用条件を満たしているかを示す情報を根拠情報として出力してもよい。例えば、判定結果出力部15は、次の図9に示すような根拠情報を出力してもよい。
【0074】
例えば図9は、同じ対象フロアに関して得られた合格レイアウトであって、それぞれ異なる特徴を持つフロアレイアウト#1~#4のそれぞれが、運用条件をどの程度のレベルで満足しているかを評価した結果を示す。なお、図9に示す座席数のように、根拠情報には各フロアレイアウトに関連する各種の補助的な情報が含まれてもよい。この例において、フロアレイアウト#1は対象フロアを利用する利用者の収容効率を重視したフロアレイアウトである。例えばフロアレイアウト#1は図10に例示されるフロアレイアウトであり、その座席数は図7の例(座席数80)よりも10座席多い90座席となっている。そのため、広さ及び混雑度の面での評価はそれほど高くはならず、運用条件#1及び#2の両方に関して中程度(図中△)と評価されている。
【0075】
また、この例において、フロアレイアウト#2は対象フロアを顧客とのランチミーティングに適したスペースとすることを目的として設計されたフロアレイアウトである。例えばフロアレイアウト#2は図11に例示されるフロアレイアウトである(座席数73)。この例では、対象フロアの左側半分には、パーティションにより区切られた複数の区画が顧客とのランチミーティング用のスペースとして比較的余裕を持った区割りで設けられている。一方、対象フロアの右側のスペースには、従業員向けのランチスペースが収納効率重視で設けられている。このようにフロアレイアウト#2は顧客とのランチミーティングを優先したフロアレイアウトであるため、運用条件#1及び#2ともに、顧客向けには高い評価(図中◎及び〇)となった一方で、従業員向けには中程度の評価(図中△)となったことを表している。
【0076】
また、この例において、フロアレイアウト#3は対象フロアの利用者が長く滞在できることを重視して設計されたフロアレイアウトである。例えばフロアレイアウト#3は図7に例示されたフロアレイアウトである。この例では、ソファを配置したテーブルを設けるなどして利用者が長時間滞在しやすいスペースが設けられており、運用条件#1及び#2のともに高い評価(図中◎及び〇)が得られたことを表している。
【0077】
一方、フロアレイアウト#4はフロアレイアウト#3の動線の快適性をより高めることを目的として改良されたフロアレイアウトである。例えばフロアレイアウト#4はフロアレイアウト#3を改良したものであり、図12に例示されるフロアレイアウトである。フロアレイアウト#4は、図7に示した紙面左端の什器E3を除去するとともに、各配膳エリア前に人の流れを整えるガイドE41~E45を設けることで動線の快適性を高めたフロアレイアウトである。この場合、図9の例のような根拠情報の表示により、対象フロアの運用者は、運用条件#2についてフロアレイアウト#3よりも高い評価(図中◎)が得られたことから、フロアレイアウト#3に対する改良が妥当なものであるということを定量的に把握することが可能となる。
【0078】
なお、ここでは運用条件の判定結果に基づく妥当性の評価を根拠情報として示したが、根拠情報は各フロアレイアウトの妥当性に関する情報であれば他のどのような情報であってもよい。例えば、判定結果出力部15は、各運用条件について算出された指標値と、その指標値に対して定められた閾値とを根拠情報として出力してもよいし、分布推定処理によって推定された分布情報、又は分布情報に基づいて得られる情報を根拠情報として出力してもよい。
【0079】
例えば、図13はフロアレイアウト#3に示される対象フロアをセルオートマトンで扱われるセルの単位に分割した例を示し、図14図16はフロアレイアウト#3について、所定期間の間に人が存在すると推定された頻度をセルごとに示した図である。ここで図14図13に示す領域Aについての頻度を示す。また図15図13に示す領域Bについての頻度を示し、図16図13に示す領域Cについての頻度を示す。例えば上記頻度は、フロアレイアウト#3に推定された所定期間の分布情報に基づいて、人が存在すると判定された回数をセルごとに集計することによって取得することができる。このような情報を根拠情報として表示することにより、所定期間における対象フロアの混雑度を可視化することができる。なお、紙面の都合上、図14図16におけるセルの分割は、図13におけるセルの分割と厳密には一致させていない。
【0080】
この例によると、入口E1付近(領域A)及び出口E2付近(領域B)など、局所的に人の流れ(図中矢印)がぶつかり、人の滞留が起きていることが分かる(図14及び図15)。例えば、入口E1付近では対象フロアに流入する人の流れと、配膳エリアに出入りする人の流れとがぶつかることにより滞留が広範囲に発生する可能性が高いことが分かる。同様に、出口E2付近においても、左右及び下方向から出口に向かう人の流れがぶつかることにより滞留が広範囲に発生する可能性が高いことが分かる。また、下膳エリア付近(領域C)においても、入口E1付近及び出口E2付近の混雑状況が影響して滞留が発生する可能性が高いことが分かる。
【0081】
これに対して、図17はフロアレイアウト#4に示される対象フロアを図13と同様のセルの単位に分割した例を示し、図18図20はフロアレイアウト#4について、所定期間の間に人が存在すると推定された頻度をセルごとに示した図である。ここで図18図17に示す領域Aについての頻度を示す。また図19図17に示す領域Bについての頻度を示し、図20図17に示す領域Cについての頻度を示す。上述のとおり、フロアレイアウト#4はフロアレイアウト#3に対して動線の快適性を向上させるための改善を試みたフロアレイアウトである。なお、図14図16の場合と同様に、図18図20におけるセルの分割は、図17におけるセルの分割と厳密には一致させていないが、図14図16におけセルの分割とは一致させている。
【0082】
この例によると、フロアレイアウト#3の入口E1付近(領域A)及び出口E2付近(領域B)で発生していた人の滞留状況が、レイアウトの一部変更により改善されていることが分かる(図18及び図19)。具体的には、図17では、図13に示した什器E3が除去されるとともに、各配膳エリアにおける人の流れを整えるガイドE41~E45が設置されている。また、図20では、入口E1付近及び出口E2付近の混雑状況が緩和されたことにより、下膳エリア付近(領域C)の滞留も改善されることが分かる。
【0083】
このように、各フロアレイアウトについて推定された分布情報が根拠情報として出力されることにより、対象フロアの運用者は設計したフロアレイアウトが実際の運用においてどのように有効であるかを視覚的かつ定量的に把握することが可能となる。また、このような分布情報がフロアレイアウト#3やフロアレイアウト#4のように一部が共通するフロアレイアウトの根拠情報として出力されることにより、対象フロアの運用者は想定しているレイアウトの改良が有効であるか否かを視覚的かつ定量的に把握することが可能となる。
【0084】
なお、ここでは合格レイアウトの根拠を示す情報を根拠情報として示したが、根拠情報には、合格レイアウトと判定されなかった他のフロアレイアウト(以下「不合格レイアウト」という。)が不合格となった根拠を示す情報が含まれても良い。このように合格レイアウトの根拠情報と、不合格レイアウトの根拠情報とが表示されることにより、対象フロアの運用者は、合格レイアウトと不合格レイアウトとの差を定量的に把握することが可能となる。
【0085】
(第2の実施形態)
図21は、第2の実施形態のレイアウト支援装置1aの機能構成の具体例を示す機能ブロック図である。レイアウト支援装置1aは、制約条件入力部104、実績データ入力部16及び推定パラメータ調整部17をさらに備える点、分布推定部12に代えて分布推定部12aを備える点で第1の実施形態のレイアウト支援装置1と異なる。レイアウト支援装置1aのその他の構成は第1の実施形態のレイアウト支援装置1と同様である。そのため、図21においては、第1の実施形態と同様の構成には図2と同じ符号を付すことにより、それら同様の構成についての説明を省略する。
【0086】
制約条件入力部104は対象フロアにおける什器の配置に関する制約条件を入力する機能を有する。制約条件は、フロアレイアウトの編集の際に参照される情報であり、フロアレイアウトに対する編集操作が対象フロアについて定められた制約を満たすものか否かを判定する条件として用いられる。例えば制約条件は対象フロアにおいて什器を配置することのできる場所や、その場所に配置することのできる什器の種類などに関する制約を示す。制約条件は対象フロアを有する施設の設計に基づいて定められる。制約条件入力部104は入力した制約条件を示す情報を分布推定部12に出力する。
【0087】
実績データ入力部16は実績データを入力する機能を有する。実績データは、対象フロアの実際の運用において観測された人の分布の実測値を示すデータであり、すなわち分布情報の実績を示すデータである。実績データは対象フロアのセルごとに人の在又は不在を示すデータであればどのような方法で取得されてもよい。例えば実績データはセルごとに設けられた人感センサによって取得されてもよいし、各セルにおける人の在又は不在を検出することができる画像センサによって取得されてもよい。実績データ入力部16は入力した実績データを推定パラメータ調整部17に出力する。
【0088】
なお、上記の制約条件入力部104及び実績データ入力部16は、他の各入力部と同様に、例えばタッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて各情報を入力するように構成される。また例えば、制約条件入力部104及び実績データ入力部16は通信インタフェースを用いて構成され、図示しない外部の通信装置から各情報を取得するように構成されてもよい。
【0089】
推定パラメータ調整部17は、実績データに基づいて分布推定処理に用いられる推定パラメータを調整する機能を有する。具体的には、推定パラメータ調整部17は、分布推定モデルによって得られる分布情報と、実績データが示す分布情報との差分が所定の閾値以下となるように推定パラメータを決定する。例えば、推定パラメータ調整部17は、実績データが得られたときの対象エリアのフロアレイアウトについて、推定パラメータの値を少しずつ変更しながら分布推定部12aと同様の分布推定処理を行う。推定パラメータ調整部17は、その結果として得られた複数の分布情報のうちから、実績データが示す分布情報との差分値が所定の閾値以下となった分布情報を抽出し、抽出した分布情報を得たときの分布推定処理に用いた推定パラメータを調整後の推定パラメータとして決定する。
【0090】
なお、推定パラメータの調整において、推定パラメータの値は予め定められた所定のルールに基づいて変更されてもよいし、運用者が指定する値に変更されてもよい。また、分布推定部12aは、複数回の分布推定処理の結果に基づいて各推定パラメータの寄与度を求め、寄与度の大きなパラメータを優先的に変更するように構成されてもよい。また、以下では推定パラメータ調整部17が推定パラメータを調整する処理を「キャリブレーション処理」という。
【0091】
分布推定部12aは、第1の実施形態における分布推定部12が有する機能に加え、処理対象のフロアレイアウト又は各種条件(運用条件又は初期条件)を変更する機能を有する。また、分布推定部12aは、変更後のフロアレイアウトについて分布推定処理を行うことで、変更後のフロアレイアウトが合格レイアウトとなったか否かを判定することができる。
【0092】
図22は、第2の実施形態のレイアウト支援装置1aが予め定められた1つ以上のフロアレイアウトから合格レイアウトを識別する処理の流れを示すフローチャートである。なお、図22において、第1の実施形態におけるフローチャートと同様の処理には図3と同じ符号を付すことにより説明を省略する。まず、制約条件入力部104が制約条件を入力する(ステップS301)。制約条件入力部104は入力した制約条件を分布推定部12aに出力する。続いて、ステップS108において、処理対象のフロアレイアウトが合格レイアウトでないと判定された場合(ステップS108-YES)、分布推定部12aは、処理対象のフロアレイアウト又は各種条件(運用条件又は初期条件)の変更を行うか否かを判定する(ステップS302)。
【0093】
例えば、この判定は、上記変更を行うか否かを示すユーザ(例えばフロア運用者)の入力情報に基づいて判定される。処理対象のフロアレイアウト又は各種条件の変更を行わないと判定した場合(ステップS302-NO)、分布推定部12aはステップS110に処理を移す。一方、処理対象のフロアレイアウト又は各種条件の変更を行うと判定した場合(ステップS302-YES)、分布推定部12aは処理対象のフロアレイアウト又は各種条件の変更を行った後(ステップS303)、ステップS105に処理を戻す。
【0094】
なお、分布推定部12aは、フロアレイアウトの変更を行う場合、変更の内容が対象レイアウトについて定められた制約条件を満たす範囲内でフロアレイアウトを変更するものとする。例えば、フロアレイアウトの変更内容をユーザが入力する場合、必ずしも制約条件を満たす変更内容が入力されない可能性がある。例えば、什器の配置が許可されていない場所に什器を配置又は移動させる操作が入力されることが考えられる。そのため、分布推定部12aが入力された変更内容について制約条件を判定することにより、誤ったフロアレイアウトが処理されてしまうことを抑止することができる。
【0095】
また、フロアレイアウト及び各種条件の変更は、予め定められたルールに基づいて行われてもよいし、ユーザによる変更操作の入力に基づいて行われてもよい。また、分布推定部12aは、フロアレイアウトの変更が、所定回数行われた場合にはそれ以降の変更を受け付けないように構成されてもよい。
【0096】
図23は、第2の実施形態のレイアウト支援装置1aが行うキャリブレーション処理の流れを示すフローチャートである。まず、実績データ入力部16が実績データを入力する(ステップS401)。実績データ入力部16は入力した実績データを推定パラメータ調整部17に出力する。続いて、推定パラメータ調整部17が、この時点で記憶部11に記憶されている推定パラメータに基づいて分布推定モデルを構築する(ステップS402)とともに、初期条件の入力(ステップS403)及びフロアレイアウトの入力(ステップS404)を行う。なお、ステップS404において入力されるフロアレイアウトは、実績データが取得されたときの対象フロアの実際の運用において使用されたフロアレイアウトである。推定パラメータ調整部17は、このように入力したフロアレイアウト及び初期条件を、構築した分布推定モデルに適用することで分布推定処理を実行する(ステップS405)。ここで実行される分布推定処理は第1の実施形態における分布推定処理と同様である。
【0097】
続いて、推定パラメータ調整部17は、分布推定処理によって得られた分布情報と、実績データが示す分布情報とを比較し(ステップS406)、その比較結果に基づいて推定パラメータの調整が必要か否かを判定する(ステップS407)。推定パラメータの調整は必要でないと判定した場合(ステップS407-NO)、推定パラメータ調整部17はキャリブレーション処理を終了する。一方、推定パラメータの調整が必要と判定した場合(ステップS407-YES)、推定パラメータ調整部17は推定パラメータの変更を行った後(ステップS408)、ステップS405に処理を戻す。
【0098】
このように構成された第2の実施形態のレイアウト支援装置1aは、分布推定モデルのパラメータを、実際の運用において得られた分布情報の実績データに基づいて調整することができる。そのため、所定のフロアレイアウトで運用している対象フロアのレイアウトを変更する場合などにおいて、より正確な分布情報に基づいて変更後のフロアレイアウトを評価することが可能となる。
【0099】
また、第2の実施形態のレイアウト支援装置1aは、処理対象のフロアレイアウトの一部を変更するとともに、変更後のフロアレイアウトについても運用条件を判定することができる。そのため、あるフロアレイアウトが不合格レイアウトと判定された場合であっても、ユーザ(例えばフロア運用者)は不合格レイアウトの一部を変更しながら合格レイアウトを作成することが可能となる。
【0100】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、実施形態のレイアウト支援装置は、対象フロアにおける什器類のレイアウトを示すフロアレイアウトと、対象フロアにおける人の分布の変化を示す分布情報とに基づいて、対象フロアの運用に関する評価指標の値を予め定められた1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出する評価指標算出部と、1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて算出された評価指標の値に基づいて、各フロアレイアウトで対象フロアを運用した場合に、対象フロアの運用に関して予め定められた所定の運用条件が満たされるか否かを1つ以上のフロアレイアウトのそれぞれについて判定する運用条件判定部とを持つことにより、対象フロアの実際の運用状況により適したフロアレイアウトを提示することができる。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0102】
1,1a…レイアウト支援装置、101…フロアレイアウト入力部、102…運用条件入力部、103…初期条件入力部、104…制約条件入力部、11…記憶部、12,12a…分布推定部、13…評価指標算出部、14…運用条件判定部、15…判定結果出力部、16…実績データ入力部、17…推定パラメータ調整部
図1
図2
図3
図4
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図22
図23