(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】サッシ
(51)【国際特許分類】
E06B 5/16 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
E06B5/16
(21)【出願番号】P 2019209434
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金森 英晃
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132080(JP,A)
【文献】特開2015-190264(JP,A)
【文献】特開2014-074266(JP,A)
【文献】特開2017-031604(JP,A)
【文献】特開2019-060072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/16
E06B 1/00-1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下枠と、外レールと、内レールと、加熱発泡材とを備え、
下枠は、外レールが立設された下基板と、内レールが立設された上基板と
が階段状に形成されており、
上基板の下方に
は凹部を有し
、凹部が外レールと見込方向に対向する開口を有して屋内側に凹むように形成され、
外レールの上端が上基板よりも下方に位置するものであり、
加熱発泡材
は、内レールの屋外側に位置する上基板の内周側の見込面に
おける閉状態の外障子側の下枠長手方向に沿って配置され
、火災時に加熱発泡材が内レールの屋外側の見付面と外障子の屋内側の見付面との間を充満するように発泡・膨張することを特徴とするサッシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火構造を備えたサッシに関する。
【背景技術】
【0002】
サッシは、下記非特許文献1に記載されているように、枠組みされた枠に対して内障子と外障子とが見付方向に開閉動するように支持されており、枠の下枠が、下基板上に立設した外レールと、下基板よりも上方に位置する上基板に立設した内レールとを有し、且つ外レールの上端が上基板よりも下方に位置し、上基板の下方に凹部が形成されている階段状に形成された構造のものが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】三協立山株式会社が2017年7月に発行したカタログ「MTG70R」の第62ページおよび第63ページに記載されたサッシ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のサッシにおいては、火災時において避難する時間を確保すると共に、炎、煙、有毒ガスの屋内への侵入を防ぎ、且つ延焼等を防ぐために防火対策を施すことが推奨されている。
しかしながら、非特許文献1に記載のようなサッシは、枠や内障子および外障子の形状が複雑であり、炎、煙、有毒ガスが通る隙間が多くなってしまうため、防火対策を施すことが困難であった。
このことから、容易な構造でサッシにおける防火対策が施されたサッシが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述の課題を解決するために請求項1記載によるサッシは、下枠と、外レールと、内レールと、加熱発泡材とを備え、下枠は、外レールが立設された下基板と、内レールが立設された上基板とが階段状に形成されており、上基板の下方には凹部を有し、凹部が外レールと見込方向に対向する開口を有して屋内側に凹むように形成され、外レールの上端が上基板よりも下方に位置するものであり、加熱発泡材は、内レールの屋外側に位置する上基板の内周側の見込面における閉状態の外障子側の下枠長手方向に沿って配置され、火災時に加熱発泡材が内レールの屋外側の見付面と外障子の屋内側の見付面との間を充満するように発泡・膨張することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上の構成により、容易な構造でサッシにおける防火対策が施されたサッシを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るサッシの実施形態を示す正面図である。
【
図4】加熱発泡材の配置構成を示す下枠の上面図である
【
図6】加熱発泡材が発泡・膨張した状態を示す作用図であり、(a)は、内レールの直下と下基板にわたる範囲における加熱発泡材の発泡・膨張状態を示し、(b)は、外障子と内レールとの間における加熱発泡材の発泡・膨張状態を示す。
【
図7】第2の加熱発泡材の配置構成を示す外障子の拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態のサッシAを説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0009】
[サッシの構成]
本実施形態で示すサッシAは、
図1~
図3に示すように、躯体100の開口101に設けられる枠Bに対して内障子C1と外障子C2とが見付方向に開閉動するように支持された引違い窓である。
【0010】
[枠の構成]
枠Bは、
図1~
図3に示すように、下枠1、上枠2、左右の竪枠3、4を枠組みして構成されたものである。
下枠1は、
図2および
図5に示すように、外レール1aが立設された下基板10と、内レール1bが立設された上基板11と、上基板11の下方、且つ下基板10と上基板11との間に開口12aが外レール1aと見込方向で対向するように形成された凹部12とを有し、外レール1aの上端が上基板11よりも下方に位置する階段状に形成されている。
【0011】
下枠1には、
図2~
図5に示すように、加熱発泡材Dが配されている。
ここで、加熱発泡材Dは、火災時にサッシAに作用する熱によって発泡・膨張するものであり、発泡・膨張によって、下枠10と内障子C1および外障子C2の間から炎・煙・有毒ガス等が屋内へ侵入する経路を塞ぐことができるものである。
【0012】
下枠1、上枠2、竪枠3、4には、
図2および
図3に示すように、枠Bの屋外側の見付面B1の全周にわたるように気密材A1が設けられている。
また、
図3に示すように、内障子C1の召合わせ框C10の屋外側の見付面B2の上下方向全長にわたるように気密材A2が設けられている。
【0013】
気密材A1は、クレセントA3(
図1参照)のロック動作によって、枠Bに近接するように屋内側へ引き寄せられる内障子C1における框(上下の横框および縦框)C11の屋内側の見付面B3と、外障子C2における框(上下の横框および縦框)C21の屋内側の見付面B4とを密着させることで、サッシAの周囲の気密性を確保するものである。
また、気密材A2は、クレセントA3のロック動作によって、内障子C1に引き寄せられる外障子C2における召合わせ框C20の屋内側の見付面B5を密着させることで、サッシAの召合わせ框C10と召合わせ框C20との間の気密性を確保するものである。
すなわち、気密材A1および気密材A2がサッシAの気密性を確保することによって、防音性および水密性並びに断熱性を高めることができる。
【0014】
[加熱発泡材の配置構成]
加熱発泡材Dは、
図2~
図5に示すように、テープ状に形成されており、下枠1の上基板11における内レール1bの屋外側に位置する内周側の見込面11aに長手方向に沿って接着により貼り付けられている。
この加熱発泡材Dは、
図2~
図5に示すように、内障子C1および外障子C2の閉状態において、加熱発泡材Dが内障子C1の直下に位置し、内障子C1の開閉の邪魔にならない程度の厚みとされている。
【0015】
なお、加熱発泡材Dの配置構成としては、内障子C1および外障子C2の閉状態において、加熱発泡材Dを内障子C1側の見込面11aにのみ配置した構成でもよいし、外障子C2側の見込面11aにのみ配置した構成でもよい(図示せず)。
【0016】
ここで、前述した部位に加熱発泡材Dを配置した構成による作用を
図6(a)(b)に基づいて説明する。
加熱発泡材Dは、火災による熱が屋外側又は屋内側からサッシAに作用したとき、この熱によって発泡・膨張し、
図6(a)(b)に示すように、内レール1bの直下と、内レール1bの直下から下基板10に至る範囲で発泡・膨張するように設定されている。
【0017】
具体的には、内障子C1の直下の加熱発泡材Dは、
図6(a)に示すように、内レール1bの屋外側の見付面10bの全域に密着した状態で、内障子C1の下方の隙間C12を塞ぐように発泡・膨張する一方、上基板11の見込面11aから下基板10の見込面10aに至って、凹部12の開口12aを塞ぐと共に、下基板10の外レール1aの屋内側の見付面13aに密着するように発泡・膨張する。
【0018】
すなわち、内障子C1の下方で発泡・膨張した加熱発泡材Dが、内障子C1の下方の隙間C12を塞ぐことで、屋外側で生じる炎・煙・有毒ガスの内障子C1側から屋内側への侵入を防ぐことができる。
更に、内レール1bの屋外側の見付面10bの全域に加熱発泡材Dが密着することで、内レール1bを炎や熱から保護することができる。
更に、上基板11の見込面11aから下基板10に至る加熱発泡材Dが凹部12の開口12aを塞ぐことで、凹部12内への炎や熱の侵入を遮断することができ、これによって、上基板11および上基板11の下方側を炎や熱から保護することができる。
【0019】
一方、外障子C2側の加熱発泡材Dは、
図6(b)に示すように、内レール1bの屋外側の見付面10bと外障子C2の屋内側の見付面B4との間に充満するように発泡・膨張する。
【0020】
すなわち、外障子C2側で発泡・膨張した加熱発泡材Dが、内レール1bの屋外側の見付面10bと外障子C2の屋内側の見付面B4との間に充満することで、内レール1bおよび上基板11を炎や熱から保護することができる。
更に、外障子C2の屋外側からの炎や熱によって下枠1の気密材A1が溶融し、隙間が生じたとしても、この隙間を加熱発泡材Dで塞ぐことができるため、屋外側で生じる炎・煙・有毒ガスの外障子C2側から屋内側への侵入を防ぐことができる。
【0021】
加熱発泡材Dの熱による発泡・膨張は、火災が屋内側で発生した場合でも、火災が屋外側で発生した場合と同様に発泡するため、前述と同様に、内レール1bおよび上基板11並びに上基板11の下方側を炎や熱から保護することができる。
また、加熱発泡材Dの熱による発泡・膨張によって、前述の隙間C12および下枠1の気密材A1の溶融による隙間が塞がれるため、屋内側で生じる炎・煙・有毒ガスの内障子C1側および外障子C2側から屋外側への流出を防ぐことができると共に、屋外側から屋内側への酸素の流入を防ぐことができる。
すなわち、屋外側への炎・煙・有毒ガスの流出を防ぐことで、近隣への延焼や煙・有毒ガスによる被害を防ぐことができ、屋内側への酸素の流入を防ぐことで、屋内における火災の成長を抑制することができる。
【0022】
したがって、加熱発泡材Dを、下枠1の上基板11における内レール1bの屋外側に位置する内周側の見込面11aに長手方向に沿って配置するという容易な構造によって、防火対策を施すことができ、これによって、サッシAの防火性能を向上させることができると共に、火災時における避難時間を確保することができる。
【0023】
本実施例における配置構成による加熱発泡材Dは、
図2~
図5に示すように、下枠1の上基板11の内周側の見込面11aに配された部材(ストッパー200、止水板201)および孔(排水孔202)等の構成要素を除く部位の略全長に配置されている。
この場合、ストッパー200部分については、発泡・膨張した加熱発泡材Dをストッパー200周りにまで至らせることができるため、ストッパー200があっても、外障子C2側における内レール1bおよび上基板11を炎や熱から保護することができる。
なお、内障子C1の開閉動に障害が無い範囲で、ストッパー200に加熱発泡材Dを配置してもよい。
【0024】
排水孔202部分については、
図4に示すように、加熱発泡材Dが除かれていて排水孔202が露出しているため、排水性能を確実に保持できると共に、加熱発泡材Dが発泡・膨張したときに排水孔202が塞がれるため、排水孔202からの炎・煙・有毒ガスの侵入を防ぐことができる。
なお、排水孔202を備えていない下枠1の場合には、加熱発泡材Dに排水孔202を除くための加熱発泡材Dの加工は不要である。
【0025】
一方、止水板201については、
図4および
図5に示すように、内障子C1の召合わせ框C10の直下に位置しているため、加熱発泡材Dが止水板201を境に2分割されているが、止水板201の形状等によっては、発泡・膨張した加熱発泡材Dが止水板201の上方に至らないことが考えられる。
このため、
図3および
図7に示すように、第2の加熱発泡材D’を外障子C2の召合わせ框C20における屋内側の見付面C21の少なくとも下端を含む下方側に配置するとよい。
すなわち、召合わせ框C20における屋内側の見付面C21に配置された第2の加熱発泡材D’が発泡・膨張することで、召合わせ框C10と召合わせ框C20との間から止水板201の上方側に第2の加熱発泡材D’を至らせることができる。
これによって、止水板201の上方側に位置する内障子C1の下方の隙間C12を塞ぐことができると共に、止水板201と対向する内レール1bの屋外側の見付面10bに第2の加熱発泡材D’を密着させることができ、且つ第2の加熱発泡材D’を止水板201が配された上基板11の見込面11aから下基板10に至らせて凹部12の開口12aを塞ぐことができる。
したがって、万が一加熱発泡材Dが止水板201の上方に至らない場合でも、第2の加熱発泡材D’が止水板201の上方に至ることで、止水板201周辺において、炎・煙・有毒ガスの侵入経路を生じさせないようにすることができる。
なお、止水板201を備えていないサッシの場合には、第2の加熱発泡材D’は不要であると共に、加熱発泡材Dを2分割することが不要となる。
【0026】
[加熱発泡材の具体例]
加熱発泡材Dについては、
図8に示すように、基材層D1と、加熱によって発泡するものであって基材層D1に積層された耐火材層D2と、耐火材層D2に積層された表面材層D3を備えた3層構造のものが例示できる。
基材層1および耐火材層D2並びに表面材層D3は、柔軟性を有しており、収納時にはロール状に巻くことができると共に、使用時において直線状に引き延ばせるようになっている。
基材層1の下面側には、接着層(図示せず)および接着層を被覆する剥離材層(図示せず)を有しており、剥離剤層を剥がすことによって、上基板11の見込面11aに貼り付けることができるようになっている。
表面材層D3は、耐水性および撥水性を有すると共に、表面が滑らかに仕上げられた合成樹脂材からなるものであり、雨等による水や直射日光から耐火材層D2を保護すると共に、高い排水性を有し、且つ汚れの付着を抑制し、しかも付着した汚れを拭きとりやすくなっている。
このような加熱発泡材Dは、基材層D1に設けられた接着層によって上基板11の見込面11aに対して貼り付けやすくできるという効果、表面材層D3によって耐火材層D2を保護することができると共に、下枠1の排水性を損ねることがなく、且つ汚れにくい上に、汚れを簡単に落とせるという効果を有している。
【0027】
前述した加熱発泡材Dは一例であり、他の構成として、例えば、加熱発泡材Dの表面材層D3を着色するか、或いは表面材層D3の上にさらに着色層を積層することもできる(図示せず)。
また、加熱発泡材Dは、基材層D1又は表面材層D3が無いもの、或いは基材層D1および表面材層D3が無いものとしてもよい(図示せず)。
また、表面材層D3が無い加熱発泡材Dは、耐火材層D2に直接着色するか、或いは着色層を積層したものとしてもよいし(図示せず)、基材層D1に積層された耐火材層D2の上面に樹脂層を積層すると共に、樹脂層の上面に直接着色するか、或いは着色層を積層したものとしてもよい。
着色する色、或いは着色層の色については任意であるが、例えば、下枠1の色と同色にすることによって、加熱発泡材Dの存在を目立たなくすることができる。
【0028】
以上、本発明に係る実施形態のサッシを、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の各実施形態は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
A:サッシ
A1:気密材
A2:気密材
A3:クレセント
B:枠
B1:見付面
B2:見付面
B3:見付面
B4:見付面
B5:見付面
C1:内障子
C2:外障子
C10:召合わせ框
C11:框
C20:召合わせ框
C21:框
C12:隙間
D:加熱発泡材
D1:基材層
D2:耐火材層
D3:表面材層
D’:第2の加熱発泡材
1:下枠
10:下基板
11:上基板
12:凹部
1a:外レール
1b:内レール
10a:見込面
10b:見付面
11a:見込面
12a:開口
13a:見付面
2:上枠
3:竪枠
4:竪枠
100:躯体
101:開口
200:ストッパー
201:止水板
202:排水孔