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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/20 20060101AFI20230724BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230724BHJP
   B62D 3/02 20060101ALI20230724BHJP
   F16H 21/44 20060101ALI20230724BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20230724BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230724BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20230724BHJP
   F16C 11/06 20060101ALI20230724BHJP
   F16C 11/10 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
B62D7/20
B62D5/04
B62D3/02 Z
F16H21/44 B
F16H19/04 G
F16H25/22 Z
F16H25/24 A
F16C11/06 F
F16C11/06 N
F16C11/10 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019235921
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104695
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌野 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】亀田 佳数
(72)【発明者】
【氏名】大内 三幸
(72)【発明者】
【氏名】川幡 信之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 信彰
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-219303(JP,A)
【文献】特開2012-218512(JP,A)
【文献】実開昭58-006662(JP,U)
【文献】実開平03-078679(JP,U)
【文献】特開平09-226614(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102005059513(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0157922(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0232035(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/20
B62D 5/04
B62D 3/02
F16H 21/44
F16H 19/04
F16H 25/22
F16H 25/24
F16C 11/06
F16C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの回転をピットマンアームの揺動に変換するボールナット式のステアリングギアボックスと、
車体の所定の揺動中心点にて前記車体に対して揺動可能に支持され且つ前記ピットマンアームに連結され、前記ピットマンアームに連動して前記揺動中心点を支点として揺動する揺動部材と、
前記揺動部材と、左操向車輪を支持している左ナックルアームと、右操向車輪を支持している右ナックルアームと、に連結されるとともに、前記車体に対し前記車体の左右方向に移動可能に支持され、前記左右方向に移動することによって前記左操向車輪及び前記右操向車輪の切れ角を変更するロッド部材と、
を備える、
ボールナット式の車両用ステアリング装置において、
前記ロッド部材と係合し且つ前記ロッド部材を前記車体の前記左右方向に移動させる動力を発生するロッド部材駆動装置と、
前記ロッド部材の前記車体の前記左右方向への移動を許容し且つ前記ロッド部材の前記車体の前後方向及び前記車体の上下方向の移動を規制するガイド部材と、
を備え、
前記揺動部材と前記ロッド部材とが、前記揺動部材が揺動した場合であっても前記揺動中心点と前記ロッド部材との距離が変化しないように且つ前記揺動部材が揺動したときに前記揺動部材から前記ロッド部材に前記車体の前記左右方向に向かう力が付与されるように連結又は係合されている、
ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記ロッド部材は、前記ロッド部材と前記揺動中心点とにより画定される平面と平行であり且つ前記ロッド部材の軸線と交差する所定の方向に長尺方向を有する長孔が形成された連結部を備え、
前記揺動部材は、前記揺動部材から突出し且つその先端部が前記長孔の長尺方向に相対移動可能となるように前記長孔に挿入される連結突起部を備え、
前記揺動部材と前記ロッド部材とが、前記連結部と前記連結突起部とにより連結されている、
ステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のステアリング装置において、
前記所定の方向が前記車体の前後方向である、
ステアリング装置。
【請求項4】
請求項2に記載のステアリング装置において、
前記連結突起部の前記先端部は、
球状体であり、前記長孔の長尺方向に移動可能であり、且つ、前記ロッド部材に対し前記球状体の表面に沿って回動可能であり、
前記連結部は、
前記先端部を、前記長孔の長尺方向の中間の位置に弾性付勢する連結突起部付勢部材を備える、
ステアリング装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のステアリング装置であって、
前記ガイド部材は、ロッド部材付勢部材の付勢力によって、前記ロッド部材を前記ロッド部材の軸線方向に直角な方向に弾性付勢している、
ステアリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のステアリング装置であって、
前記ロッド部材駆動装置は、
駆動源と、
前記ロッド部材の外周面に設けられているネジ溝と、
前記ロッド部材の外周に前記ロッド部材に対して相対的に回転可能に装着されており、ボールを介して前記ネジ溝と係合しているボールナットと、
を有しており、
前記駆動源が前記ボールナットを回転駆動することにより、前記ロッド部材を直線移動させるように構成されている、
ステアリング装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のステアリング装置であって、
前記ロッド部材駆動装置は、
駆動源と、
前記ロッド部材の外周面に前記ロッド部材の長尺方向に沿って設けられているラックと、
前記車体に対して回転可能に支持されており、前記ラックと噛み合っているピニオンと、
を有しており、
前記駆動源が前記ピニオンを回転駆動することにより前記ロッド部材を前記車体の前記左右方向に直線移動させるように構成されている、
ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピットマンアームを有するボールナット式の車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、いわゆるキャブオーバー型の車両には、ボールナット式のステアリング装置が用いられている。ボールナット式のステアリング装置は、ステアリングホイールの回転を、ボールナット、ピットマンアーム、ドラッグリンク、センターアーム、ロッド部材及びタイロッド等の部材を介してナックルアームに伝達して操向車輪(転舵輪)の切れ角(転舵角)を変更するように構成されている(特許文献1を参照。)。一方、ボールナット式のステアリング装置において、左右のボールナットのそれぞれに駆動装置(モータアクチュエータ)を配置し、その駆動装置によって操舵アシスト力を与える構成も知られている(特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭53-116634号公報
【文献】特開2007-118804号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、ボールナットに駆動装置の力を付与する従来のステアリング装置においては、駆動装置から操向車輪までの間に「ピットマンアーム、ドラッグリンク、センターアーム、ロッド部材及びタイロッド等」の多数の部材が介在するので、力の伝達経路の剛性が低くなる。このため、例えば、駆動装置を用いて転舵角を制御する場合、駆動装置の制御量(作動量)に対して操舵角が一意に決まらないことがあるから、車輪の操舵角を精度良く制御することが困難である。したがって、係るステアリング装置を用いて「転舵角を精度良く制御する必要がある自動運転」を行うことは容易ではないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に対応するためになされた。すなわち、本発明の目的の一つは、操向車輪の切れ角を精度良く制御することが可能であり且つキャブオーバー車などに好適に用いることができる「ボールナット式の車両用ステアリング装置」を提供することである。
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、ステアリングホイール(21)の回転をピットマンアーム(24)の揺動に変換するボールナット式のステアリングギアボックス(23)と、車体(BD)の所定の揺動中心点(PC)にて車体(BD)に対して揺動可能に支持され且つピットマンアーム(24)に連結され、ピットマンアーム(24)に連動して揺動中心点(PC)を支点として揺動する揺動部材(センターアーム(26))と、揺動部材(センターアーム(26))と、左操向車輪(WL)を支持している左ナックルアーム(62L)と、右操向車輪(WR)を支持している右ナックルアーム(62R)と、に連結されるとともに、車体(BD)に対し車体(BD)の左右方向に移動可能に支持され、左右方向に移動することによって左操向車輪(WL)及び右操向車輪(WR)の切れ角を変更するロッド部材(40A,40B)と、を備える、ボールナット式の車両用ステアリング装置(10A,10B)において、ロッド部材(40A,40B)と係合し且つロッド部材(40A,40B)を車体(BD)の左右方向に移動させる動力を発生するロッド部材駆動装置(50,63)と、ロッド部材(40A,40B)の車体(BD)の左右方向への移動を許容し且つロッド部材(40A,40B)の車体(BD)の前後方向及び前記車体の上下方向の移動を規制するガイド部材(54c,70c)と、を備え、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)とが、揺動部材(センターアーム(26))が揺動した場合であっても揺動中心点(PC)とロッド部材(40A,40B)との距離(X)が変化しないように且つ揺動部材(センターアーム(26))が揺動したときに揺動部材(センターアーム(26))からロッド部材(40A,40B)に車体(BD)の左右方向に向かう力が付与されるように連結又は係合されている。
【0007】
本発明に係るステアリング装置(10A,10B)は、ロッド部材(40A,40B)をロッド部材駆動装置(50,63)によって左右方向に直線移動させることで、左右の操向車輪(WR,WL)の切れ角を変更するように構成されている。このような構成によれば、ロッド部材駆動装置(50,63)によるロッド部材(40A,40B)の移動量(駆動量)を直接的に制御できるため、操向車輪(WR,WL)の切れ角を高精度に制御できる。また、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)とは、揺動部材(センターアーム(26))が揺動した場合であっても揺動中心点(PC)とロッド部材(40A,40B)との距離(X)が変化しないように連結又は係合されている。このため、ロッド部材駆動装置(50,63)が車体(BD)に固定され、ロッド部材(40A,40B)の前後方向の移動が規制されていても、揺動部材(センターアーム(26))の揺動をロッド部材(40A,40B)に伝達できる。このため、ロッド部材(40A,40B)を駆動させるロッド部材駆動装置(50,63)として、ロッド部材(40A,40B)を左右方向に直線移動させる駆動装置が適用できる。
【0008】
本発明の一側面は、
ロッド部材(40A,40B)は、ロッド部材(40A,40B)と揺動中心点(PC)とにより画定される平面と平行であり且つロッド部材(40A,40B)の軸線と交差する所定の方向に長尺方向を有する長孔(401)が形成された連結部(40L)を備え、揺動部材(センターアーム(26))は、揺動部材(センターアーム(26))から突出し且つその先端部が長孔(401)の長尺方向に相対移動可能となるように長孔(401)に挿入される連結突起部(26a)を備え、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)とが、連結部(40L)と連結突起部(26a)とにより連結されている。
【0009】
本発明の一側面では、
所定の方向が車体(BD)の前後方向である。
【0010】
このような構成であれば、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)とは、左右方向(すなわち、揺動部材(センターアーム(26))によるロッド部材(40A,40B)の駆動方向)には相対的に変位できないが、前後方向には相対的に変位可能である。このため、ロッド部材(40A,40B)の前後方向の移動が規制されていても、揺動部材(センターアーム(26))の揺動をロッド部材(40A,40B)に伝達できる。また、このような構成によれば、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)との間に他の連結部材を介在させることなく、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)とを、車体(BD)の前後方向に相対移動可能に連結できる。
【0011】
本発明の一側面では、
連結突起部(26a)の先端部(263)は、球状体であり、長孔(401)の長尺方向に移動可能であり、且つ、ロッド部材(40A,40B)に対し球状体の表面に沿って回動可能であり、連結部(40L)は、先端部(263)を、長孔(401)の長尺方向の中間の位置に弾性付勢する連結突起部付勢部材(圧縮コイルバネ(403a,403b))を備える。
【0012】
このような構成によれば、車体(BD)の変形などによって揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)の相対的な向きが変化した場合であっても、揺動部材(センターアーム(26))とロッド部材(40A,40B)とのスムーズな相対移動が可能になる。また、連結突起部(26a)が連結突起部付勢部材(圧縮コイルバネ(403a,403b))によって長孔(401)の長尺方向に移動可能な範囲の中間の位置に弾性付勢されている構成であると、ロッド部材(40A,40B)から揺動部材(センターアーム(26))に伝達されるキックバックを低減できる。
【0013】
本発明の一側面では、
ガイド部材(54c,70c)は、ロッド部材付勢部材(54d,70d)の付勢力によって、ロッド部材(40A,40B)をロッド部材(40A,40B)の軸線方向に直角な方向に弾性付勢している。
【0014】
このような構成によれば、ロッド部材(40A,40B)が作動する際に異音の発生を防止または抑制できる。
【0015】
本発明の一側面では、
ロッド部材駆動装置(50)は、駆動源(電動モータ(53))と、ロッド部材(40A)の外周面に設けられているネジ溝(41)と、ロッド部材(40A)の外周にロッド部材(40A)に対して相対的に回転可能に装着されており、ボールを介してネジ溝(41)と係合しているボールナット(52)と、を有しており、駆動源(電動モータ(53))がボールナット(52)を回転駆動することにより、ロッド部材(40A)を直線移動させるように構成されている。
【0016】
また、本発明の一側面では、
ロッド部材駆動装置(63)は、駆動源(電動モータ(67))と、ロッド部材(40B)の外周面にロッド部材(40B)の長尺方向に沿って設けられているラック(66)と、車体(BD)に対して回転可能に支持されており、ラック(66)と噛み合っているピニオン(65)と、を有しており、駆動源(電動モータ(67))がピニオン(65)を回転駆動することによりロッド部材(40B)を左右方向に直線移動させるように構成されている。
【0017】
このような構成によれば、ロッド部材(40A,40B)を直接的に駆動できるから、ロッド部材(40A,40B)の移動量を高精度で制御できる。
【0018】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、第一実施形態に係るステアリング装置の構成例を模式的に示す図である。
図2図2は、第一のロッド部材駆動装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第一のロッド部材ガイドの断面図である。
図4図4は、センターアームの一方の端部とロッド部材との連結構造を模式的に示す図である。
図5図5は、センターアームの一方の端部とロッド部材との連結構造を模式的に示す断面図である。
図6図6は、第二実施形態に係るステアリング装置の構成例を模式的に示す図である。
図7図7は、ロッド部材駆動装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図8図8は、第二のロッド部材ガイドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の各実施形態に係るステアリング装置は、キャブオーバー型の車両に好適なボールナット式のステアリング装置である。キャブオーバー型の車両は、内燃機関及び電動機等の車両の動力発生装置の上方又は当該動力発生装置よりも車両前方に運転席が位置する車両である。なお、以下の説明において、前後方向、上下方向及び左右方向は、それぞれ車体(車両)の前後方向、車体の上下方向及び車体の左右方向をそれぞれ意味する。各図において、適宜、車体の前方を矢印Frにより、車体の後方を矢印Rrにより、車体の右方を矢印Rにより、車体の左方を矢印Lにより、車体の上方を矢印Upにより、車体の下方を矢印Dwにより、示す。
【0021】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係るステアリング装置10Aは、ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、ステアリングギアボックス23、ピットマンアーム24、ドラッグリンク25及びセンターアーム26を備える。更に、ステアリング装置10Aは、ダンパー31及びアイドラアーム32を備える。加えて、ステアリング装置10Aは、ロッド部材40A、ロッド部材駆動装置50、右タイロッド61R、左タイロッド61L、右ナックルアーム62R及び左ナックルアーム62Lを備える。なお、ロッド部材40Aは「リレーロッド」と称されることがある。
【0022】
ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、ステアリングギアボックス23、ピットマンアーム24、ドラッグリンク25及びセンターアーム26(但し、センターアーム26とロッド部材40Aとの連結構造を除く。)は周知である。よって、以下、これらを簡単に説明する。
【0023】
ステアリングホイール21はステアリングシャフト22に固定されている。ステアリングシャフト22は、車体BDに対して回転可能に支持され、ステアリングホイール21と一体的に回転するように構成されている。
【0024】
ステアリングギアボックス23は、ステアリングシャフト22を介して伝達されるステアリングホイール21の回転をピットマンアーム24の揺動に変換するように構成されている。より具体的に述べると、ステアリングギアボックス23はボールナット式のギアボックスであり、ステアリングシャフト22に連結された入力軸(ウォームシャフト)と、ボールナットと、ピットマンアーム24と連結された出力軸(セクタシャフト)と、を有している。入力軸にはネジ溝が設けられている。ボールナットのボールは入力軸のネジ溝に係合している。よって、ボールナットは、入力軸が回転すると軸線方向に移動する。出力軸は、ボールナットと係合するセクタギアを備え、このセクタギアの回転軸がピットマンアームと連結されている。よって、ボールナットが軸線方向に移動すると、出力軸が回転し、その結果、ピットマンアーム24が揺動する。即ち、ステアリングギアボックス23は、ステアリングシャフト22の回転をボールナットによって減速してピットマンアーム24に伝達することによって、ピットマンアーム24を揺動させる。
【0025】
ドラッグリンク25は、ピットマンアーム24の揺動をセンターアーム26に伝達するように構成されている。ドラッグリンク25は長尺棒状の部材であり、一方の端部がピットマンアーム24の先端部に対して回転可能に連結され、他方の端部がセンターアーム26の前方側端部に対して回転可能に連結されている。
【0026】
センターアーム26は、第一リンク部材又は第一揺動部材とも呼ばれ、上下方向視において中間で屈曲している略“L”字形状を有しているベルクランクである。センターアーム26は、その屈曲部において車体BDに対して所定の平面(上下方向と交差する平面であり、本例において、水平面)に平行に回転可能に連結(支持)されている。屈曲部が車体BDに回転可能に支持されている点(支点)は「センターアーム26の揺動中心点PC」とも称呼される。ステアリングホイール21が回転すると、ピットマンアーム24が揺動し、その揺動がドラッグリンク25を介してセンターアーム26に伝達される。その結果、センターアーム26の後方側端部がセンターアーム26の揺動中心点PCを中心とする円弧軌道に沿って移動する。即ち、センターアーム26の後方側端部はステアリングホイール21の回転により車体BDの略左右方向に揺動する。センターアーム26の後方側端部は、後に詳述するように、ロッド部材40Aに対して回転可能であり且つロッド部材40Aに対して上記所定の平面に平行な方向において相対移動可能となるように、ロッド部材40Aの左側端部に連結されている(図4及び図5を参照。)。
【0027】
ダンパー31及びアイドラアーム32(但し、アイドラアーム32とロッド部材40Aとの連結構造を除く。)も周知である。よって、以下、これらを簡単に説明する。
【0028】
ダンパー31は、長尺方向に伸縮可能な長尺棒状の部材であって、アイドラアーム32と車体BDとを連結している部材である。より具体的に述べると、ダンパー31の長尺方向の前方側端部は車体BDに対して回転可能に連結され、ダンパー31の長尺方向の後方側端部はアイドラアーム32の前方側端部にアイドラアーム32に対して回転可能に連結されている。
【0029】
アイドラアーム32は、センターアーム26と左右対称の形状を有するベルクランクであり、第二リンク部材又は第二揺動部材とも呼ばれる。アイドラアーム32は、その屈曲部において車体BDに対して上記所定の平面(上下方向と交差する平面であり、本例において、水平面)に平行に回転可能に連結(支持)されている。アイドラアーム32の屈曲部が車体BDに回転可能に支持されている点(支点)は「アイドラアーム32の揺動中心点PI」とも称呼される。アイドラアーム32の後方側端部は、ロッド部材40Aに対して回転可能であり且つロッド部材40Aに対して上記所定の平面に平行な方向において相対移動可能となるように、ロッド部材40Aの右側端部に連結されている。アイドラアーム32とロッド部材40Aとの連結構造は、後に詳述される「センターアーム26とロッド部材40Aとの連結構造(図4及び図5を参照。)」と同様の構造である。ロッド部材40Aが車体BDの左右方向に移動すると、ロッド部材40Aの移動に伴ってアイドラアーム32が揺動し、ダンパー31が伸縮しながら揺動する。
【0030】
ロッド部材40Aは長尺棒状(円柱状)の部材であり、その長尺方向が車体BDの左右方向に平行となるように配置されている。すなわち、ロッド部材40Aの長尺方向(ロッド部材40Aの軸線方向)は車体BDの左右方向と一致している。ロッド部材40Aは、図2に示した後述する「第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54L」によって車体BD(実際には、図2に示したギアハウジング51)に対して支持されている。より具体的に述べると、ロッド部材40Aは、これらの第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54Lを介して、車体BDに対して車体BDの左右方向には直線往復移動自在であるが、車体BDの上下方向への移動及び車体BDの前後方向への移動が規制されるように支持されている。前述したように、ロッド部材40Aの左側端部はセンターアーム26の後方側端部と連結され、ロッド部材40Aの右側端部はアイドラアーム32の後方側端部と連結されている。
【0031】
ロッド部材駆動装置50は、電動モータ53を含む駆動装置である。ロッド部材40Aがロッド部材駆動装置50を挿通している。ロッド部材駆動装置50は、その駆動源である電動モータ53が発生する駆動力をロッド部材40Aに直接伝達することによって、ロッド部材40Aを車体BDの左右方向に直線移動させることができるように構成されている。従って、ロッド部材駆動装置50は、ステアリングシャフト22に掛かっているトルクに応じた駆動力を発生させて操舵アシスト力を発生することができる。更に、ロッド部材駆動装置50は、駆動源が発生する駆動力によって操向車輪WR,WLの切れ角(転舵角)を変更することにより、自動運転を行うことができる。ロッド部材駆動装置50の詳細については後述する(図2を参照。)。
【0032】
右タイロッド61Rは、ロッド部材40Aと右ナックルアーム62Rとを連結する部材である。より具体的に述べると、右タイロッド61Rの車両内側端部は、ロッド部材40Aの右側端部とロッド部材駆動装置50との間の位置においてロッド部材40Aに対して回転可能に連結されている。右タイロッド61Rの車両外側端部は、「車体BDに対して回転可能な右ナックルアーム62R」に回転可能に連結されている。
【0033】
左タイロッド61Lは、ロッド部材40Aと左ナックルアーム62Lとを連結する部材である。より具体的に述べると、左タイロッド61Lの車両内側端部は、ロッド部材40Aの左側端部とロッド部材駆動装置50との間の位置においてロッド部材40Aに対して回転可能に連結されている。左タイロッド61Lの車両外側端部は、「車体BDに対して回転可能な左ナックルアーム62L」に回転可能に連結されている。
【0034】
右ナックルアーム62Rは、右操向車輪(右転舵輪)WRを回転可能に支持している。左ナックルアーム62Lは、左操向車輪(左転舵輪)WLを回転可能に支持している。従って、ロッド部材40Aが車体BDの左右方向に直線移動すると、操向車輪WR,WLの切れ角(転舵角)が変更される。
【0035】
ロッド部材駆動装置50は、図2に示したように、ギアハウジング51と、ボールナット52と、電動モータ53と、前述した「第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54L」と、を有している。
【0036】
ギアハウジング51は、ロッド部材駆動装置50の筐体である。ギアハウジング51は筒状体であって、その軸線が車体BDの左右方向に一致するように車体BDに固定されている。ギアハウジング51は、その内部に、「第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54L」を備えている。更に、ギアハウジング51は、ボールナット52と電動モータ53とを収容している。前述したように、ギアハウジング51にはロッド部材40Aが左右方向に挿通されている。
【0037】
ボールナット52は、ロッド部材40Aの外周に配置されている。ロッド部材40Aのギアハウジング51の内部に位置する部分の外周にはネジ溝41が形成されている。ボールナット52のボールがそのネジ溝41に係合している。即ち、ボールナット52は、ボールを介してロッド部材40Aに対して回転可能に取り付けられている。換言すると、ロッド部材40Aがボールネジのネジ軸としての機能を有している。ボールナット52が回転すると、ロッド部材40Aが車体BDの左右方向(即ち、ロッド部材40Aの長尺方向)に直線移動する。
【0038】
電動モータ53は、ロッド部材40Aの駆動源であり、ステータ(固定子)53aとロータ(回転子)53bとを有している。ステータ53aは、ギアハウジング51に固定されている。ロータ53bは、軸線方向に伸びる貫通孔を有する中空軸である。ロータ53bには、ロッド部材40Aが同軸かつ回転可能に挿通されている。ロータ53bにはボールナット52が一体に回転するように取り付けられている。
【0039】
電動モータ53の駆動力(ステータ53aの発生する磁力)によってロータ53b及びボールナット52が回転すると、ロッド部材40Aが車体BD(ギアハウジング51)に対して左右方向(ロッド部材40Aの長尺方向)に直線移動する。このように、ロッド部材駆動装置50は、電動モータ53の力をロッド部材40Aに直接的に付与することによってロッド部材40Aを左右方向に直線移動させ、それにより、左右の操向車輪WR,WLの切れ角を変更することができるように構成されている。
【0040】
第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54Lは互いに同じ構造を有している。従って、以下、第一の右側ロッド部材ガイド54R(単に、「右側ガイド54R」とも称呼する。)について説明する。
【0041】
ロッド部材40Aの左右方向に直交する平面にて右側ガイド54Rを切断した断面図である図3に示したように、右側ガイド54Rは、ロッドガイド部54a、孔54b、ガイド部材54c、第一のロッド部材付勢部材54d、及び、プラグ54eを有している。
【0042】
ロッドガイド部54aは、ギアハウジング51の一部であってギアハウジング51の中心軸方向に延出した部分である。ロッドガイド部54aの頂面には「断面が円弧形状の溝」であり且つ車体BDの左右方向に沿って延びる溝が形成されている。ロッドガイド部54aの溝の半径はロッド部材40Aの半径と略一致している。従って、ロッド部材40Aが、ロッドガイド部54aに左右方向に相対移動可能かつその軸線周りに回転可能に係合する。
【0043】
孔54bは、ギアハウジング51の外周からロッドガイド部54aに向けて形成されている。孔54bの内部に、ガイド部材54c及び第一のロッド部材付勢部材54dが挿入されている。
【0044】
ガイド部材54cは、略直方体の部材であって、ロッド部材40Aと当接する係合溝54c1が形成されている。係合溝54c1は、「断面が円弧形状の溝」であり、ロッドガイド部54aの溝と対向するように左右方向に延びている。係合溝54c1の半径はロッド部材40Aの半径と略一致している。
【0045】
第一のロッド部材付勢部材54dは圧縮コイルバネであり、ガイド部材54cをロッド部材40Aに向けて付勢する部材である。
【0046】
プラグ54eは、孔54bの内周面であってギアハウジング51の外周近傍に形成されたネジ溝と螺合し、孔54bを閉塞する部材である。プラグ54eが装着されると、第一のロッド部材付勢部材54dがガイド部材54cをロッド部材40Aに向けて付勢する。なお、プラグ54eはネジであり、回転させることによりギアハウジング51に対する差込量を変更可能である。そして、差込量を変更することにより、第一のロッド部材付勢部材54dがロッド部材40Aを付勢する付勢力を変更できる。ロッド部材付勢部材54dの付勢力は、制御性、操舵感および装置の性能に大きな影響を与えることから、このような構成とすることで付勢力の管理が容易となり、制御性、操舵間および装置の性能の管理が容易となる。
【0047】
右側ガイド54Rにおいて、ロッド部材40Aは、ロッドガイド部54aとガイド部材54cとによって、ロッド部材40Aの長尺方向に直角な方向に関して互いに反対側から挟持される。さらに、ロッド部材40Aは、第一のロッド部材付勢部材54dによって、第一のロッド部材付勢部材54dの付勢力によりロッドガイド部54aに向けて付勢される。このため、ロッド部材40Aは、第一のロッド部材付勢部材54dによる付勢力以外の外力が掛かっていない状態では、第一のロッド部材付勢部材54dの付勢力によってロッドガイド部54aに当接する状態に保持される。即ち、ロッド部材40Aは、ギアハウジング51に対して、ロッド部材40Aの長尺方向(軸線)に直角な方向(すなわち、前後方向及び上下方向)に位置決めされている状態に保持される。
【0048】
従って、ロッド部材40Aは、右側ガイド54Rによって、左右方向への直線移動は許容されるが、前後方向及び上下方向への移動は規制される。より具体的には、ロッド部材40Aは、ギアハウジング51(すなわち車体BD)に対して第一のロッド部材付勢部材54dの弾性変形可能な方向(第一のロッド部材付勢部材54dの軸線方向)とは異なる方向には移動できない(移動が拘束される)。一方、ロッド部材40Aは、第一のロッド部材付勢部材54dによってその弾性変形可能な方向の移動は規制されているが、第一のロッド部材付勢部材54dの付勢力より大きな第一のロッド部材付勢部材54dの軸線方向の外力がロッド部材40Aに加えられた場合には、第一のロッド部材付勢部材54dの軸線方向に移動できる。これにより、ロッド部材40Aが作動する際に異音の発生を防止または抑制できる。第一の左側ロッド部材ガイド54Lも右側ガイド54Rと同様な機能を有する。
【0049】
次に、センターアーム26とロッド部材40Aの連結構造について、図1図1のM部の拡大図である図4、及び、図4の1-1矢視の断面図である図5を参照しながら説明する。
【0050】
図1に示したように、ロッド部材40Aの長尺方向の両端部のそれぞれには、車体BDの前後方向に長尺方向を有する中空円柱状の棒状部40R,40Lが設けられている。棒状部40R,40Lのそれぞれの後方側は閉塞されており、棒状部40R,40Lのそれぞれの前方側は開放されている。
【0051】
図4及び図5に示したように、棒状部40Lの上面には、ロッド部材40Aと揺動中心点PCとにより画定される平面(本実施形態では水平面)と平行であり、ロッド部材40Aの長尺方向と交差する方向(本実施形態では前後方向)に長尺方向を有する長孔401が設けられている。以下、説明の便宜上、長孔401が設けられている部分(棒状部)40Lを「連結部40L」と称呼する。
【0052】
センターアーム26の後方側端部には、連結部40Lに向かって突出する連結突起部26aが配設されている。図5に示したように、連結突起部26aはボールスタッドであり、基端部261、中間部262及び先端部263を有する。そして、ボールスタッドの基端部261がセンターアーム26に固定されている。中間部262は上下方向に伸び、基端部261と先端部263とを連結している。先端部263は球体であり、連結部40Rの長孔401の内部に位置している。
【0053】
さらに、図5に示すように、連結部40Lの内部(即ち、長孔401)には、一対のボールシート402a,402b、一対の圧縮コイルバネ(連結突起部付勢部材)403a,403bが収容されている。更に、連結部40Lは、その前方側の開口を閉塞するように連結部40Lに装着される連結部プラグ404を有している。なお、連結部プラグ404はネジであり、連結部40Lに対する差込量を変更可能である。
【0054】
一対のボールシート402a,402bのそれぞれは、ブロック体であり連結部40Lの内部を移動可能に配置されている。一対のボールシート402a,402bは、互いに対向する面に先端部263の外径に沿った半球状の凹部を有していて、その凹部にて先端部263を前後方向に挟持している。
【0055】
圧縮コイルバネ403aは、ボールシート402aと連結部プラグ404との間に圧縮された状態にて配設されている。圧縮コイルバネ403bは、ボールシート402aと連結部40Lの後方側端部との間に圧縮された状態にて配設されている。
【0056】
この結果、連結突起部26a(実際には先端部263)は、長孔401の長尺方向の中間(例えば、長孔401の長尺方向の中央部)に向けて弾性付勢されている。従って、連結突起部26a(センターアーム26の後方側端部)は、ロッド部材40Aに対して長孔401の長尺方向に往復移動可能である。更に、連結部プラグ404の締込み量を調整することにより、圧縮コイルバネ403a,403bが連結突起部26aを付勢する付勢力を管理できる。圧縮コイルバネ403a,403bが連結突起部26aを付勢する付勢力は、制御性、操舵感および装置の性能に大きな影響を与えることから、このような構成とすることで付勢力の管理が容易となる。更に、連結突起部26aは、一対のボールシート402a,402bよって、連結部40Lに対して先端部263の中心を中心とする球面に沿って揺動できるように挟持されている。
【0057】
このため、センターアーム26の後方側端部とロッド部材40Aの連結部40Lとは、互いに連結されている状態を維持しながら先端部263を中心とする球面に沿った方向に相対移動可能である。その一方、連結突起部26a(センターアーム26の後方側端部)とロッド部材40Aの連結部40Lとは、左右方向(ロッド部材40Aの長尺方向)については相対移動が規制される。よって、ロッド部材40Aの左右方向位置は、センターアーム26の揺動角度に対して一意に決まる。
【0058】
アイドラアーム32とロッド部材40Aの連結構造は、センターアーム26とロッド部材40Aの連結構造と左右対称であることを除いては同じである。従って、アイドラアーム32の後方側端部とロッド部材40Aの連結部40Rとは、互いに連結されている状態を維持しながらアイドラアーム32の連結突起部の先端部を中心とする球面に沿った方向に相対移動可能である。その一方、アイドラアーム32の連結突起部(アイドラアーム32の後方側端部)とロッド部材40Aの連結部40Rとは、左右方向(ロッド部材40Aの長尺方向)については相対移動が規制される。
【0059】
ところで、センターアーム26及びアイドラアーム32は、車体BDに対して回転可能に連結されているため、これらの後方側端部は円弧軌道に沿って揺動する。従って、従来のステアリング装置のように、センターアーム26及びアイドラアーム32のそれぞれとロッド部材40Aとが、相対的に回転可能であるが相対的に前後方向に移動できない態様で連結されていると、ロッド部材40Aは左右方向のみならず前後方向にも移動する。したがって、このような従来の構成では、ロッド部材40Aを左右方向に直線移動させるロッド部材駆動装置50を採用することができない。
【0060】
これに対し、ステアリング装置10Aにおいては、センターアーム26及びアイドラアーム32の後方側端部は、ロッド部材40Aに対して車体BDの前後方向に相対移動可能に連結されている。すなわち、センターアーム26とロッド部材40Aとは、センターアーム26が揺動中心点PCを支点として揺動した場合であっても、揺動中心点PCとロッド部材40Aの前後方向距離Xが変化しないように、且つセンターアーム26が揺動したときにセンターアーム26からロッド部材40Aに車体BDの左右方向に向かう力が付与されるように連結又は係合されている。よって、センターアーム26の揺動を「左右方向に直線移動可能であるが前後方向の移動が規制されているロッド部材40A」に伝達することができる。従って、ステアリング装置10Aは、「ロッド部材40Aに係合し、且つ、ロッド部材40Aを直接的に(換言すると、ステアリングホイール21からロッド部材40Aまでの間に介在する他の部材を介することなく)左右方向に直線移動させるロッド部材駆動装置50」を採用することができる。
【0061】
更に、上述したように、センターアーム26とロッド部材40Aとは連結突起部26aの先端部263の中心回りの球面に沿った方向に相対移動可能である。同様に、アイドラアーム32とロッド部材40Aとは、アイドラアーム32の連結突起部の先端部の中心回りの球面に沿った方向に相対移動可能である。よって、車体BDが撓むなどしてセンターアーム26及びアイドラアーム32とロッド部材40Aの相対的な向きが変化した場合であっても、センターアーム26の揺動をロッド部材40Aにスムーズに伝達することができる。
【0062】
更に、連結突起部26aは、一対の圧縮コイルバネ403a,403bによって、それらの付勢力がつり合う位置(長孔401の長尺方向の中間)に向けて弾性付勢されている。よって、連結突起部26aがロッド部材40Aに対して前後方向に移動(長孔401の長尺方向の移動)することが許容されるとともに、ロッド部材40Aの側からセンターアーム26に伝達されるキックバックを低減できる。アイドラアーム32とロッド部材40Aとの関係も同様であるから、ロッド部材40Aの側からアイドラアーム32に伝達されるキックバックを低減できる。
【0063】
なお、一対のボールシート402a,402bの構成は特に限定されるものではなく、従来公知の構成が適用できる。要は、一対のボールシート402a,402bは、ボールスタッドの先端部263を回転可能に支持(挟持)できる構成であればよい。また、一対のボールシート402a,402b以外の部材によってボールスタッドを挟持する構成であってもよい。さらに、本実施形態では、連結突起部26aにボールスタッドが適用される例を示したが、連結突起部26aはボールスタッドに限定されない。要は、センターアーム26とロッド部材40Aの連結部40Lとは相対的な向きが三次元的に変更可能に連結されている構成であればよく、アイドラアーム32とロッド部材40Aの連結部40Rとは相対的な向きが三次元的に変更可能に連結されている構成であればよい。
【0064】
さらに、センターアーム26及びアイドラアーム32とロッド部材40Aの連結構造として、センターアーム26及びアイドラアーム32の後方側端部に設けられた連結突起部がロッド部材40Aに設けられる長孔401に係合している(入り込んでいる)構成を示したが、このような構成に限定されない。例えば、センターアーム26及びアイドラアーム32のそれぞれの後方側端部に長孔が設けられ、ロッド部材40Aに連結突起部26aと同様の連結突起部が設けられ、その長孔に連結突起部が係合する構成を採用してもよい。
【0065】
さらに、センターアーム26及びアイドラアーム32のそれぞれとロッド部材40Aとの連結構造は、連結突起部26aと長孔401との組み合わせに限定されない。例えば、センターアーム26及びアイドラアーム32のそれぞれとロッド部材40Aとが、他の部材を介して連結されている構成であってもよい。要は、センターアーム26及びアイドラアーム32のそれぞれの後方側端部とロッド部材40Aとが、車体BDの前後方向に相対移動可能に連結されていればよい。
【0066】
以上説明したとおり、第一実施形態に係るステアリング装置10Aは、ロッド部材40Aをロッド部材駆動装置50によって左右方向に直線移動させることができ、それにより、左右の操向車輪WR,WLの切れ角を変更するように構成されている。そして、ロッド部材駆動装置50は、直接的にロッド部材40Aを駆動するように構成されている。その結果、ステアリング装置10Aにおいては、ロッド部材駆動装置50によってロッド部材40Aの移動量(駆動量)を直接的に制御できるため、操向車輪WR,WLの切れ角を高精度に制御できる。即ち、本実施形態では、従来構成と比較して、駆動装置から操向車輪WR,WLまでの間に存在する「力の伝達部材及び連結部材」を減らすことができる。このため、これらの部材のクリアランスや変形などが「操向車輪WR,WLの切れ角」に与える影響を小さくすることができるので、操向車輪WR,WLの切れ角を高精度で制御できる。
【0067】
加えて、ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、ステアリングギアボックス23、ピットマンアーム24、ドラッグリンク25、アイドラアーム32、ダンパー31、ロッド部材40A、左右のタイロッド61R,61L及び左右のナックルアーム62R,62Lのレイアウトは、従来のボールナット式のステアリング装置のレイアウトと同じである。したがって、ボールナット式のステアリンク機構が適用されるキャブオーバー型の車両について、ステアリンク装置を構成する部材、それらのレイアウト又は車体構造を大きく変更する必要がない。
【0068】
更に、ステアリング装置10Aによれば、ロッド部材駆動装置50として、ロッド部材40Aを左右方向に直線移動させる駆動装置(ロッド部材40Aの前後方向及び上下方向の移動が許容されない機構)を採用できる。このため、ロッド部材駆動装置50には、ボールネジを有する駆動装置などのようなリニアアクチュエータが適用できる。
【0069】
加えて、ロッド部材40Aは、第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54Lによって、ギアハウジング51の内周面に設けられているロッドガイド部54aに対し、ロッド部材40Aの長尺方向に対して直角な方向に弾性付勢されている。よって、ロッド部材40Aをギアハウジング51(すなわち、車体BD)に対して位置決めしつつ、ロッド部材40Aが移動する際に異音が発生することを防止または抑制できる。
【0070】
また、ロッド部材駆動装置50は、電動モータ53の駆動力によってボールナット52を回転させることによりロッド部材40Aを左右方向に直接的に直線移動させるように構成されている。よって、ロッド部材40Aの移動量を高精度で制御できる。
【0071】
なお、本実施形態では、ステアリング装置10Aがアイドラアーム32とダンパー31を有しているが、ギアハウジング51によってロッド部材40Aを支持することにより、アイドラアーム32とダンパー31を省略できる。
【0072】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係るステアリング装置10Bについて説明する。なお、第一実施形態と共通の構成には第一実施形態と同じ参照符号を付し、説明を省略することがある。
【0073】
図6に示すように、第二実施形態に係るステアリング装置10Bは、センターアーム26と、ロッド部材40Bと、ロッド部材駆動装置63と、左右のタイロッド61R,61Lと、左右のナックルアーム62R,62Lと、ステアリングホイール21と、ステアリングシャフト22と、ステアリングギアボックス23と、ピットマンアーム24と、ドラッグリンク25とを有している。また、ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、ステアリングギアボックス23、ピットマンアーム24、ドラッグリンク25及びセンターアーム26の構成は、第一実施形態と同じ構成が適用できる。一方で、第二実施形態に係るステアリング装置10Bは、アイドラアーム32及びダンパー31を有していない。
【0074】
第二実施形態では、ロッド部材40Bの連結部40Lは、長尺方向の端部ではなく、長尺方向の端部から中央寄りの位置に設けられる。また、左右のタイロッド61R,61Lは、ロッド部材40Bの長尺方向の両端部のそれぞれに転結される。ただし、ロッド部材40Bの連結部40Lは、第一実施形態と同じ構成が適用できる。このため、連結部40Lの説明は省略する。
【0075】
次に、第二実施形態のロッド部材駆動装置63の構成例について説明する。ロッド部材駆動装置63の断面図である図7に示すように、ロッド部材駆動装置63は、ギアハウジング64と、ピニオン65と、ラック66と、電動モータ67とを有している。
【0076】
ギアハウジング64は、ロッド部材駆動装置63の筐体である。ギアハウジング64の内部には電動モータ67とピニオン65とが収容されている。また、ギアハウジング64の内部には、ロッド部材40Bが左右方向に直線移動可能に挿通されている。ギアハウジング64の内部には、第二の右側ロッド部材ガイド70R及び第二の左側ロッド部材ガイド70Lが左右方向に離れた位置に設けられている。そして、ロッド部材40Bは、第二の右側ロッド部材ガイド70Rと第二の左側ロッド部材ガイド70Lにより、左右方向の移動は許容されるが、前後方向及び上下方向の移動が規制されている。なお、ギアハウジング64は、電動モータ67とピニオン65を収容でき、ロッド部材40Bを左右方向に直線移動可能に支持できる構成であればよく、具体的な構成は特に限定されない。
【0077】
ピニオン65は、ギアハウジング64の内部に回転可能に収容されている。このピニオン65は、電動モータ67の駆動力によって回転するように構成されている。例えば、ピニオン65にはウォームホイール68が同軸かつ一体に設けられており、このウォームホイール68は電動モータ67の回転軸に設けられているウォーム69と噛み合っている。また、ロッド部材40Bの外周には、ラック66がロッド部材40Bの長尺方向に並ぶように設けられている。そして、ロッド部材40Bのラック66とピニオン65とが噛み合っている。そして、電動モータ67の駆動力によってピニオン65が回転すると、ピニオン65の回転に伴ってロッド部材40Bが左右方向に直線移動する。このような構成であれば、ロッド部材駆動装置63によってロッド部材40Bを左右方向に直線移動させることができる。すなわち、ロッド部材駆動装置63によって、左右の操向車輪WR,WLの切れ角を変更できる。
【0078】
ここで、第二の右側ロッド部材ガイド70Rの構成例について説明する。なお、第二の左側ロッド部材ガイド70Lは第一の左側ロッド部材ガイド54Lと同じ構成が適用できるため、説明を省略する。図8に示すように、第二の右側ロッド部材ガイド70Rは、ギアハウジング64の内部に配置されているガイド部材70c及び第二のロッド部材付勢部材70dを有している。
【0079】
ガイド部材70cは、ロッド部材40Bの外周に対して左右方向に相対移動可能に係合可能に構成されている部材である。例えば、ガイド部材70cには、左右方向に延伸する溝70c1が設けられているブロック体が適用できる。溝70c1の断面は円弧形状である。第二のロッド部材付勢部材70dは、ロッド部材40Bをピニオン65の側に向けて付勢する部材である。第二のロッド部材付勢部材70dには、例えば圧縮コイルバネが適用される。ガイド部材70cと第二のロッド部材付勢部材70dは、ロッド部材40Bを挟んでピニオン65の反対側に配置される。そして、第二のロッド部材付勢部材70dは、ガイド部材70cとともに、ロッド部材40Bをピニオン65の側に向けて付勢する。なお、第一の右側ロッド部材ガイド54Rと同様に、ギアハウジング64には内部と外部とを連通する孔70bが設けられており、ガイド部材70cと第二のロッド部材付勢部材70dはこの孔70bを通じてギアハウジング64の内部に収容できる。孔70bには雌ネジが設けられており、蓋としてプラグ70eが締結されている。そして、プラグ70eの締込み量を調整することにより、第二のロッド部材付勢部材70dがロッド部材40Bを付勢する付勢力を管理できる。すなわち、ラック66とピニオン65のプリロードを管理できる。ラック66とピニオン65のプリロードは制御性、操舵感および装置の性能に大きな影響を与えることから、このような構成とすることでプリロードの管理が容易となり、制御性、操舵間および装置の性能の管理が容易となる。
【0080】
そして、第二の右側ロッド部材ガイド70Rと第二の左側ロッド部材ガイド70Lとは、左右方向に離れた位置に設けられている。なお、第二の左側ロッド部材ガイド70Lは、ラック66とピニオン65とが噛み合っている位置から左側に離れた位置に設けられ、第二の右側ロッド部材ガイド70Rは、ラック66とピニオン65とが噛み合っている位置に設けられる。そして、ロッド部材40Bは、第二の右側ロッド部材ガイド70Rと第二の左側ロッド部材ガイド70Lとによって、左右方向への直線移動は許容されるが、前後方向及び上下方向への移動は規制される。また、ロッド部材40Bに第二のロッド部材付勢部材70d以外の外力が掛かっていない状態では、ロッド部材40Bは第二のロッド部材付勢部材70dの付勢力によってギアハウジング64及びラック66に対して位置決めされる状態に保持される。より具体的には、ロッド部材40Bは、ギアハウジング64(すなわち車体BD)に対して上下方向には移動できない(上下方向の移動は拘束される)。一方、第二のロッド部材付勢部材70dによる付勢力の方向(第二のロッド部材付勢部材70dが弾性圧縮変形可能な方向)は、第二のロッド部材付勢部材70dの付勢力によって移動は規制されるが、これらの付勢力より大きな外力がかかった場合には移動できる。これにより、ロッド部材40Bが作動する際に異音の発生を防止または抑制できる。
【0081】
以上説明したとおり、第二実施形態に係るステアリング装置10Bは、ロッド部材40Bをロッド部材駆動装置63によって左右方向に直線移動させることができ、それにより、左右の操向車輪WR,WLの切れ角を変更するように構成されている。そして、ロッド部材駆動装置63は、直接的にロッド部材40Aを駆動するように構成されている。このような構成によれば、第一実施形態と同様の効果を奏することができる。また、ギアハウジング64によってロッド部材40Bを支持することにより、アイドラアーム32とダンパー31を省略できる(第一実施形態も同様である)。
【0082】
以上、本発明の各実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の各実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づく各種の変形例を採用し得る。
【0083】
例えば、前記各実施形態では、ロッド部材駆動装置50,63の駆動源として、それぞれ電動モータ53,67が適用される構成を示したが、ロッド部材駆動装置50,63の駆動源は電動モータ53,67に限定されない。これらの駆動源は、回転駆動力を出力できる構成であればよく、公知の各種駆動源が適用できる。
【0084】
また、第一実施形態では、図1に示すように、ロッド部材40Aの長尺方向の一方の端部にセンターアーム26が連結され、他方の端部にアイドラアーム32が連結される例を示す。ただし、センターアーム26とアイドラアーム32が連結される位置は、図1に示す位置に限定されない。ロッド部材40Aの長尺方向の中間の位置にセンターアーム26とアイドラアーム32が連結されていてもよい。一方、第二実施形態では、図6に示すように、ロッド部材40Bの長尺方向の端部よりも中心側の位置に連結部40Lが設けられ、両端部に左右のタイロッド61R,61Lのそれぞれが連結される構成を示すが、このような構成に限定されない。第一実施形態と同様に、ロッド部材40Bの長尺方向の端部に連結部40Lが設けられ、両端部よりも中央寄りの位置に左右のタイロッド61R,61Lのそれぞれが連結される構成であってもよい。
【0085】
また、左右のタイロッド61R,61L、左右のナックルアーム62R,62L及び左右の操向車輪WR,WLの構成は特に限定されるものではなく、従来公知の各種構成が適用できる。
【0086】
また、第一実施形態のロッド部材駆動装置50のギアハウジング51は、電動モータ53とボールナット52を収容できるとともに、第一の右側ロッド部材ガイド54R及び第一の左側ロッド部材ガイド54Lによってロッド部材40Aを左右方向に移動可能に支持できる構成であればよく、具体的な構成は特に限定されない。また、ロッド部材40Aのネジ溝41及びボールナット52(すなわち、ボールネジ)の構成は特に限定されず、従来公知の各種構成が適用できる。
【0087】
同様に、第二実施形態におけるギアハウジング64は、電動モータ67とピニオン65を収容できるとともに、第二の右側ロッド部材ガイド70R及び第二の左側ロッド部材ガイド70Lによってロッド部材40Bを左右方向に移動可能に支持できる構成であればよく、具体的な構成は特に限定されない。また、ピニオン65とロッド部材40Bのラック66の構成は特に限定されず、従来公知の各種構成が適用できる。
【0088】
また、連結部40Rに設けられる長孔401は貫通孔であってもよく、片側(センターアーム26またはアイドラアーム32に対向する側)が開口する有底の溝であってもよい。また、前記実施形態では、長孔401が前後方向に平行である例を示すが、長孔401の長尺方向は前後方向に対して傾斜していてもよい。
【0089】
また、前記各実施形態では、ステアリングホイール21が車幅方向左側に配置される、いわゆる「左ハンドル車」を示したが、本発明は右ハンドル車にも適用できる。この場合、各部材の形状と配置を、前記各実施形態と左右対称にすればよい。
【符号の説明】
【0090】
10A,10B…ステアリング装置、22…ステアリングシャフト、26…センターアーム、40A,40B…ロッド部材、40R,40L…連結部、401…長孔、50…ロッド部材駆動装置、51…ギアハウジング、54R…第一の右側ロッド部材ガイド、54L…第一の左側ロッド部材ガイド、63…ロッド部材駆動装置、70R…第二の右側ロッド部材ガイド、70L…第二の左側ロッド部材ガイド
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8