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特許7317712ネオアンチゲン特異的なT細胞受容体配列を単離する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ネオアンチゲン特異的なT細胞受容体配列を単離する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/725 20060101AFI20230724BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230724BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230724BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230724BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230724BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20230724BHJP
   A61P 35/02 20060101ALN20230724BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20230724BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C07K14/725
C12N5/10
C12Q1/68
C12N15/09 Z
C12N15/12 ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/7088
A61K39/395 D
A61K39/395 N
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019553512
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 US2018024828
(87)【国際公開番号】W WO2018183485
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】62/479,398
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510002280
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ルー、ヨン-チェン
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ジェン、ジリ
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンバーグ、スティーヴン エー.
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/053338(WO,A1)
【文献】Clin Cancer Res,2017年,vol.23, no.10,p.2491-2505,Published OnlineFirst November 8, 2016
【文献】Nat Methods,2016年,vol.13, no.4,p.329-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対を成すT細胞受容体(TCR)アルファ及びベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分の配列を単離する方法であって、
(a)生体試料から、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞を単離する工程;
(b)単離されたT細胞を、変異したアミノ酸配列を提示する抗原提示細胞(APC)と共培養する工程であって、それによりT細胞は1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する工程;
(c)共培養されたT細胞を分取して分離した単一のT細胞試料とする工程;
(d)各々の分離した単一のT細胞試料からmRNAを単離する工程;
(e)各々の分離した単一のT細胞試料からmRNAを配列決定する工程であって、ここで該配列決定は:
(i)mRNAからcDNAを作製し、該cDNAを増幅する工程;
(ii)増幅された該cDNAの多様な断片を作製し、該多様な断片にタグを付す工程;
(iii)タグが付された該cDNAの多様な断片を増幅する工程;及び
(iv)増幅され、タグが付された該cDNAの多様な断片を配列決定する工程であって;ここで配列決定は、cDNAの多様な断片の各々の配列を同定する工程;
(f)cDNAの多様な断片の各々の配列を、1つ以上のT細胞活性化マーカーの既知の配列に対してアラインメントして、どの単一のT細胞試料が、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する単一のT細胞を含むかを同定する工程;
(g)cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベースに対してアラインメントして、(f)で1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現すると同定された、各々の分離した単一のT細胞試料のcDNAの多様な断片の、TCRアルファ鎖の可変(V)セグメント配列とTCRベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程、
(h)(g)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内と、(g)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR相補性決定領域3(CDR3)配列を同定する工程;
(i)同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数を計測する工程;
(j)同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片を採取し、TCRアルファとベータ鎖のCDR3配列を同定する工程であって、ここで2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列とは異なる工程;
(k)(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、(j)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列を同定し、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程;並びに
(l)(k)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列と(j)で採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖、及び
(k)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列と(j)で採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、
をコードする1つ以上のヌクレオチド配列をアセンブリングし、
任意選択で、(k)で同定された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列と(j)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のCDR3配列を含む第2のTCRアルファ鎖、及び、
(k)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列と(j)で採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、
をコードする1つ以上の第2のヌクレオチド配列をアセンブリングし、
単離され、対を成すTCRアルファ及びベータ鎖配列、又はその抗原結合部分の配列を作製する工程、
を含む方法。
【請求項2】
1つ以上のT細胞活性化マーカーが、インターフェロン(IFN)-γ、インターロイキン(IL)-2、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、プログラム細胞死1(PD-1)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン3(TIM-3)、4-1BB、OX40、CD107a、グランザイムB、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、IL-17、及びIL-22の1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各々の分離した単一のT細胞試料に由来するmRNAを、各々の分離した単一のT細胞試料に対する異なるタグによりラベル化する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(h)が、アルファとベータ鎖のVセグメントによりコードされるアミノ酸配列のC末端近傍に位置する、保存されたアミノ酸残基をコードするcDNA配列を同定することにより、TCR CDR3配列を同定する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(k)が、(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖の定常(C)領域配列と、(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のC領域配列を同定する工程、をさらに含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(l)が、(k)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列、(k)で同定されたTCRアルファ鎖のC領域配列、及び(j)で採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖をアセンブリングする工程、並びに、(k)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列、(k)で同定されたTCRベータ鎖のC領域配列、及び(j)で採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖をアセンブリングする工程、を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(l)が、(k)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列、外因性のTCRアルファ鎖のC領域配列、及び(j)で採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖をアセンブリングする工程、並びに、(k)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列、外因性のTCRベータ鎖のC領域配列、及び(j)で採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖をアセンブリングする工程、を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
使用者のコンピューター装置において、(f)で同定された単一のT細胞のcDNAの多様な断片の配列を受け取る工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法であって;
ここで(g)は、cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベースに対してコンピューター化されたアラインメントをして、(f)で同定された単一のT細胞のcDNAの多様な断片の、TCRアルファ鎖の可変(V)セグメント配列とTCRベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程を含み;
ここで(h)は、(g)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内と(g)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR CDR3配列のコンピューター化された同定を行う工程を含み;
ここで(i)は、同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数のコンピューター化された計測を行う工程を含み;
ここで(j)は、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片、のコンピューター化された採取を行い、TCRアルファとベータ鎖のCDR3配列を同定する工程であって、ここで2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列とは異なる工程を含み;及び
ここで(k)は、(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、(j)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列のコンピューター化された同定を行い、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程を含む、
方法。
【請求項9】
対を成すTCRアルファとベータ鎖又はその抗原結合部分を発現する細胞集団を調製する方法であって、該方法は、
請求項1~8のいずれか1項の方法により、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分の配列を単離する工程、及び
単離された、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分の配列をコードするヌクレオチドを、宿主細胞内に導入し、対を成すTCRアルファとベータ鎖又はその抗原結合部分を発現する細胞を得る工程、
を含む方法。
【請求項10】
対を成すTCRアルファとベータ鎖又はその抗原結合部分を発現する宿主細胞の数を増大させる工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
がん特異的な変異によりコードされる、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞受容体(TCR)アルファとベータ鎖のVセグメント配列とTCRのCDR3配列を自動的に同定する方法であって、該方法は、
(a)使用者のコンピューター装置において、cDNAの多様な断片の配列を受け取る工程であって、ここで該cDNAは単一のT細胞により、該T細胞と変異したアミノ酸配列を提示する抗原提示細胞(APC)との共培養に続いて作製されるmRNAによりコードされ、それによって該T細胞は1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する工程;
(b)cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベースに対してコンピューター化されたアラインメントをして、cDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖の可変(V)セグメント配列とTCRベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程;
(c)(b)において同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、及び、(b)において同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR相補性決定領域3(CDR3)配列のコンピューター化された同定を行う工程;
(d)同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数、のコンピューター化された計測を行う工程;
(e)同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片のコンピューター化された採取を行い、TCRアルファとベータ鎖のCDR3配列を同定する工程であって、ここで2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列と異なる工程;並びに
(f)(e)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、(e)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、(e)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列のコンピューター化された同定を行い、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程;
を含む方法。
【請求項12】
(c)が、アルファとベータ鎖のVセグメントによりコードされるアミノ酸配列のC末端の近傍に位置する、保存されたアミノ酸残基をコードするcDNA配列を同定することにより、TCRのCD3配列を同定する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
保存されたアミノ酸残基が
YXCX10111213141516171819202122(配列番号5)
のアミノ酸配列を含み、
ここで:
-Xの各々は任意の天然由来のアミノ酸であり、
10-X21の各々はアミノ酸がないか又は任意の天然由来のアミノ酸であり、及び、
22はフェニルアラニン又はトリプトファンである、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(f)は、(e)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖の定常(C)領域配列と、(e)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のC領域配列、のコンピューター化された同定を行う工程をさらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本特許出願は、2017年3月31日に出願された米国仮特許出願番号62/479,398の利益を主張するものであり、それは参照により組み込まれる。
【0002】
連邦に支援された研究と開発に関する記載
本発明はアメリカ国立衛生研究所、全米がん研究所により与えられた、プロジェクト番号ZIABC010985の下における政府支援により行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本明細書に全体として参照により組み込まれるのは、本明細書と同時に提出され、下記:2018年3月22日付けの”737921 SeqListing_ST25.txt”と名付けられた1つの5,530バイトのASCII(テキスト)ファイル、より同定される、コンピューター読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸の配列表である。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
がん抗原(例えばネオアンチゲン)特異的なT細胞受容体(TCR)を発現するように遺伝的に加工されている細胞を使用する養子細胞療法(ACT)は、一部のがん患者においてポシティブな臨床応答を奏することができる。それにも関わらず、がんと他の疾患を幅広く治療するためにTCRが加工された細胞を成功裏に使用するためには障害が残っている。例えばがん抗原(例えばネオアンチゲン)を特異的に認識するTCRの同定及び/又は患者からの単離は困難であるかもしれない。従ってがん反応性(例えばネオアンチゲン反応性)のTCRを得る改善された方法に対する需要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の1態様は、対を成すT細胞受容体(TCR)アルファ及びベータ鎖配列、又はその抗原結合部分を単離する方法を提供し、その方法は、(a)生体試料から、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞を単離する工程;(b)単離されたT細胞を、変異したアミノ酸配列を提示する抗原提示細胞(APC)と共培養する工程であって、それによりT細胞は1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する工程;(c)共培養されたT細胞を分取(sorting)して分離した単一のT細胞試料(separate single T cell)とする工程;(d)各々の分離した単一のT細胞試料からmRNAを単離する工程;(e)各々の分離した単一のT細胞試料からmRNAの配列決定を行う工程であって、ここで該配列決定は:(i)mRNAからcDNAを作製し、該cDNAを増幅する工程;(ii)増幅された該cDNAの多様な断片を作製し、該多様な断片にタグを付す工程;(iii)タグが付された該cDNAの多様な断片を増幅する工程;及び(iv)増幅され、タグが付された該cDNAの多様な断片を配列決定する工程であって;ここで配列決定は、cDNAの多様な断片の各々の配列を同定する工程;(f)cDNAの多様な断片の各々の配列を、1つ以上のT細胞活性化マーカーの既知の配列に対してアラインメントして、どの単一のT細胞試料が、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する単一のT細胞を含むかを同定する工程;(g)cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベースに対してアラインメントして、(f)で1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現すると同定された、各々の分離した単一のT細胞試料のcDNAの多様な断片の、TCRアルファ鎖の可変(V)セグメント配列とTCRベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程、(h)(g)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内と、(g)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR相補性決定領域3(CDR3)配列を同定する工程;(i)同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数を計測する工程;(j)同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片を採取し、TCRアルファとベータ鎖のCDR3配列を同定する工程であって、ここで2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列とは異なる工程;(k)(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、(j)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、(j)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列を同定し、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程;並びに(l)(k)で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列と(j)で採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖、及び(k)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列と(j)で採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、をコードする1つ以上のヌクレオチド配列をアセンブリングし(assemble)、任意選択で、(k)で同定された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列と(j)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のCDR3配列を含む第2のTCRアルファ鎖、及び、(k)で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列と(j)で採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、をコードする1つ以上の第2のヌクレオチド配列をアセンブリングし、単離され、対を成すTCRアルファ及びベータ鎖配列、又はその抗原結合部分を作製する工程を含む。
【0006】
本発明の別の態様は、がん特異的な変異によりコードされる、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞受容体(TCR)アルファとベータ鎖のVセグメント配列とTCRのCDR3配列を自動的に同定する方法を提供し、該方法は:(a)使用者のコンピューター装置において、cDNAの多様な断片の配列を受け取る工程であって、ここで該cDNAは単一のT細胞により、該T細胞と変異したアミノ酸配列を提示する抗原提示細胞(APC)との共培養に続いて作製されるmRNAによりコードされ、それによって該T細胞は1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する工程;(b)cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベースに対してコンピューター化されたアラインメントをして、cDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖の可変(V)セグメント配列とTCRベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程;(c)(b)において同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、及び、(b)において同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR相補性決定領域3(CDR3)配列のコンピューター化された同定を行う工程;(d)同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数、のコンピューター化された計測を行う工程;(e)同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片のコンピューター化された採取を行い、TCRアルファとベータ鎖のCDR3配列を同定する工程であって、ここで2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列と異なる工程;並びに、(f)(e)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、(e)で採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、(e)で採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列のコンピューター化された同定を行い、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程、を含む。
【0007】
本発明の別の態様は、対を成すTCRアルファとベータ鎖配列、又はその抗原結合部分を発現する細胞集団を調製する方法を提供し、該方法は、本明細書で述べられる本発明の方法のいずれかにより、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分を単離する工程、及び、単離された、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を、宿主細胞内に導入し、対を成すTCRアルファとベータ鎖配列又はその抗原結合部分を発現する細胞を得る工程を含む。
【0008】
本発明のさらなる態様は、本明細書で述べられた本発明の方法のいずれかにより単離された、一対のTCRアルファとベータ鎖配列又はその抗原結合部分を提供する。
【0009】
本発明のなお別の態様は、本明細書で述べられた本発明の方法のいずれかにより調製された、単離された細胞集団を提供する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、関連する医薬組成物と、がんの治療又は予防の方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ネオアンチゲン反応性のTILを同定する方法の模式図である。
図2図2は、ネオアンチゲン特異的なTCRを同定する方法の模式図である。
図3A図3A図3Bは、TMG-5をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養され、その後に単一細胞のRNA配列解析(single cell RNA-seq analysis)にかけられた、4090F7 T細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γ(A)とIL-2(B)リードのパーセンテージを示すグラフである。
図3B図3A図3Bは、TMG-5をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養され、その後に単一細胞RNA配列解析にかけられた、4090F7 T細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γ(A)とIL-2(B)リードのパーセンテージを示すグラフである。
図3C図3Cは、TMG-5又はTMG-6をパルスされた樹状細胞(DC)との共培養に際して、形質導入されていない(陰が無いバー)又は4090TCRが形質導入された(陰があるバー)、ドナーT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。TMG無しでパルスされた樹状細胞(DC)(「w/o」)は陰性コントロールとして役立った。
図3D図3Dは、TMG-5に由来する示されたミニ遺伝子の1つに対応する変異した25merペプチドでパルスされた4090樹状細胞(DC)との共培養に際して、4090TCRが形質導入されたT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。
図3E図3Eは、示された濃度(conc.)(μM)の精製された25merの野生型(WT)(白丸)又は変異した(黒丸)USP8ペプチドでパルスされた4090樹状細胞(DC)との共培養に際して、4090TCRが形質導入されたT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。
図4A図4A図4Bは、TMG-1をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養され、その後に単一細胞のRNA配列解析にかけられた、4095F5 T細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γ(A)とIL-2(B)リードのパーセンテージを示すグラフである。
図4B図4A図4Bは、TMG-1をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養され、その後に単一細胞のRNA配列解析にかけられた、4095F5 T細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γ(A)とIL-2(B)リードのパーセンテージを示すグラフである。
図4C図4Cは、図4Bで検出可能なIL-2リードを発現した単一細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γとIL-2リードのパーセンテージを示すグラフである。
図4D図4Dは、全長の野生型(WT)又は変異したKRAS mRNAをパルスされた樹状細胞(DC)との共培養に際して、形質導入されていない(陰が無いバー)又は4095TCRが形質導入された(陰があるバー)、ドナーT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。ペプチド無しでパルスされた樹状細胞(DC)(「w/o」)は陰性コントロールとして役立った。
図4E図4Eは、示された濃度(μM)の精製された9merの野生型(WT)(白丸)又は変異した(黒丸)KRASペプチドをパルスされた、4095樹状細胞(DC)との共培養に際して、4095TCRが形質導入されたT細胞により、分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。
図5A図5A図5Bは、TMG-9をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養され、その後に単一細胞のRNA配列解析にかけられた、4112F5 T細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γ(A)とIL-2(B)リードのパーセンテージを示すグラフである。
図5B図5A図5Bは、TMG-9をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養され、その後に単一細胞のRNA配列解析にかけられた、4112F5 T細胞において測定された、合計のR1リード内での、IFN-γ(A)とIL-2(B)リードのパーセンテージを示すグラフである。
図5C図5Cは、図5Bで検出可能なIL-2リードを発現した8つの単一細胞において測定された、合計のR1リード内のIFN-γとIL-2リードのパーセンテージを示すグラフである。
図5D図5Dは、TMG-9又はTMG-10をパルスされた樹状細胞(DC)との共培養に際して、形質導入されていない(陰が無いバー)又は4112TCRが形質導入された(陰があるバー)、ドナーT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。ペプチド無しでパルスされた樹状細胞(DC)(「w/o」)は陰性コントロールとして役立った。
図5E図5Eは、短いペプチドの示されたプール(SPP-1からSPP-10)の1つをパルスされたEBV形質転換したB細胞との共培養に際して、4112TCRが形質導入されたT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。ペプチド無しでパルスされたEBV形質転換したB細胞(「w/o」)は陰性コントロールとして役立った。
図5F図5Fは、SPP-9又は示された短いペプチドであるVWDALFADGLSLCL(配列番号18);WRRVAWSYDSTLL(配列番号19);WSYDSTLL(配列番号20);WSYDSTLLA(配列番号21);WSYDSTLLAY(配列番号22);YLALVDKNIIGY(配列番号23);又はYSEPDVSGK(配列番号24)の1つをパルスされたEBV形質転換したB細胞との共培養に際して、4112TCRが形質導入されたT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。ペプチド無しでパルスされたEBV形質転換したB細胞(「w/o」)は陰性コントロールとして役立った。
図5G図5Gは、精製された変異した(黒丸)NBASペプチドWSYDSTLLAY(C>S)(配列番号4)又はその野生型(WT)(白丸)の対応物をパルスされたEBV形質転換したB細胞との共培養に際して、4112TCRが形質導入されたT細胞により分泌されたIFN-γ(pg/mL)の量を示すグラフである。
図6図6は、本発明のいくつかの態様によるシステムを描くブロック図である。
図7図7は、本発明の1態様による計算装置の部品を描くブロック図である。
図8図8は、本発明の1態様により、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する、T細胞受容体(TCR)アルファとベータ鎖のVセグメント配列と、TCRのCDR3配列を自動的に同定するための方法の工程の流れ図である。
図9A図9Aは、ELISPOTアッセイにおいて変異をコードする25merの長いペプチドプール(PP)のライブラリーに対して、TIL4171F6 T細胞をスクリーニングした後に検出された、IFN-γ陽性スポットの数を示すグラフである。OKT3抗体で処理されたT細胞は陽性コントロ-ルとして役立った。ペプチドプール無しで培養されたT細胞(w/o)は陰性コントロールとして役立った。
図9B図9B図9Cは、PP-3をパルスされた自家樹状細胞(DC)との共培養に際したTIL4171 F6 T細胞によるIFN-γ(FPKM(100万個のマップされたリード当たりの転写産物の千塩基当たりの断片))(図9B)とIL-2(図9C)の発現を示すグラフである。
図9C図9B図9Cは、PP-3をパルスされた自家樹状細胞(DC)との共培養に際したTIL4171 F6 T細胞による、IFN-γ(FPKM(100万個のマップされたリード当たりの転写産物の千塩基当たりの断片))(図9B)とIL-2(図9C)の発現を示すグラフである。
図9D図9Dは、各々の単一細胞におけるIFN-γとIL-2発現の関係を示す、図9B図9Cのデータを結合した2次元散布図である(各点は単一細胞を表す)。
図9E図9Eは、形質導入されていない(陰が無いバー)又は4171TCRを形質導入された(陰があるバー)細胞とPPがパルスされた樹状細胞(DC)との共培養に続いて、産生されたIFN-γの量(pg/mL)を示すグラフである。ペプチドプール無しで培養されたT細胞(w/o)は陰性コントロールとして役立った。
図9F図9Fは、4171TCRを形質導入されたT細胞と、示されたペプチドでパルスされた樹状細胞(DC)との共培養に続いて、産生されたIFN-γの量(pg/mL)を示すグラフである。ペプチドプール無しで培養されたT細胞(w/o)は陰性コントロールとして役立った。
図9G図9Gは、4171TCRを形質導入されたT細胞と、示された濃度(μM)野生型(WT)(白丸)又は変異した(黒丸)SIN3Aペプチドでパルスされた樹状細胞(DC)との共培養に続いて、産生されたIFN-γの量(pg/mL)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
1態様において本発明は、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分を単離する方法を提供する。
【0013】
本発明の方法は、所望の抗原性特異性を有する機能的TCRの同定及び単離のための、種々の異なった課題のいずれかに対処し得る。これらの課題は、例えば、TCR配列の多様性の大きさ、所望の抗原特異性を提供するために正しく対を成すべきTCRαとβ鎖に対する要件、及び最大で約3分の1の成熟したT細胞が2つの機能を有するTCRα鎖を発現し得る要件(TCRα鎖の1つのみが所望の特異性を有する可能性がある)を含み得る。
【0014】
本発明の方法は種々の利点の何れを提供してもよい。例えば本発明の方法は、患者からの生体試料(例えば腫瘍試料)の除去後に、がん抗原(例えばネオアンチゲン)に対して抗原特異性を有するTCRの配列を単離して同定するのに必要な、時間及び/又は費用を顕著に低減し得る。TCR配列の単離、同定後に、宿主細胞(例えば自家T細胞)にTCR配列を形質導入し、形質導入された細胞の数を増やし、数を増やした形質導入された細胞を、がんの治療及び/又は予防のために患者に投与してもよい。本発明の方法は、(i)がん抗原と、そのがん抗原を認識するTCRの配列の両方を同定し、及び/又は、(ii)がん抗原(例えばネオアンチゲン)を標的化する高度に個別化されたTCR療法を促進してもよい。さらに有利なことに本発明の方法は、限界希釈によるT細胞クローニングを用いた対を成すTCRα/β配列を単離する方法と比較して、時間がかからず、労力を有さず、より高い成功率を有することができる。本発明の方法は、機能を有するTCRα遺伝子を1つ超有するそれらのT細胞において、TCRアルファとベータ鎖の正しい対を効率的に同定することも可能とすることができる。本発明の方法は、多様性が高いT細胞集団から、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列(所望の抗原特異性を有する)も同定して単離し得る。
【0015】
αβTCRは、αとβのタンパク質鎖からなるヘテロダイマーである。各々の鎖は可変(V)領域と定常(C)領域の2つの細胞外ドメインを含み、膜貫通ドメイン領域と短い細胞質尾部が続く。TCRα鎖とβ鎖の各々の可変ドメインは、ペプチド-MHC複合体と接触して認識する、3つの「相補性決定領域」(CDR1、CDR2、及びCDR3)を有する。特にαとβのCDR3は処理された(processed)抗原の認識を担っている。T細胞の間で、CDR3αとCDR3βのアミノ酸配列には非常に高度な多型がある。免疫システムが立ち向かう広範囲の抗原を認識するためには、T細胞にはこのレベルの多型が必要である。CDR3αとCDR3βのアミノ酸配列における多型は、T細胞が成熟する間に起こるTCRαとβ遺伝子内のDNA再構成に起因する。
【0016】
TCRをコードする遺伝子は、TCRα遺伝子の中では「Vセグメント」及び「Jセグメント」と呼ばれ、TCRβ鎖の中では「Vセグメント」、「Dセグメント」及び「Jセグメント」と呼ばれるコード配列のカセットから構成される。ゲノムDNA中の確率論的再配置はこれらのDNAセグメントの並置(juxtaposition)をもたらし、機能を有するTCR遺伝子をもたらたす。これらの再配置は不正確であるかもしれず、Vα-JαとVβ-Dc-Jβセグメントの接合部(junction)は可変性が高いかもしれない。アルファ鎖のCDR3は、Vセグメントの一部とJセグメントの全てによりコードされている。ベータ鎖のCDR3は、Vセグメントの一部、Jセグメントの全て、及びDセグメントの全てによりコードされている。
【0017】
本方法は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞を、生体試料から単離することを含むことができる。任意の適切な生体試料を使用することが可能である。本発明の1態様において生体試料は、腫瘍試料又は末梢血の試料である。本発明において使用できる生体試料の例は、原発腫瘍由来の組織、転移腫瘍の部位由来の組織、滲出物、浸出物、腹水、分画された末梢血細胞、骨髄、末梢血バフィーコート、及び脳脊髄液を含むが、限定されるものではない。したがって生体試料を、吸引、生検、切除、静脈穿刺、動脈穿刺、腰椎穿刺、シャント、カテーテル法、又はドレイン置換を含むが、限定されるものではない、任意の適切な手段により得てもよい。
【0018】
生体試料から単離されるT細胞は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する。本明細書で使用される「抗原特異性」の語句は、TCR又はその抗原結合部分が、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に特異的に結合することができ、且つ免疫学的に認識できることを意味する。がん特異的な変異は、変異したアミノ酸配列をコードし(「非サイレント変異」とも呼ばれる)、がん細胞には発現しているが、がん性ではない正常な細胞には発現していない、任意の遺伝子における任意の変異であってもよい。がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞を単離する方法は、例えば、国際公開番号2016/053338と国際公開番号2016/053339に述べられている。例えば、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞の単離は:患者のがん細胞の核酸内の1つ以上の遺伝子を同定する工程であって、各々の遺伝子は変異したアミノ酸配列をコードするがん特異的な変異を含む工程;患者の自家抗原提示細胞(APC)を誘導し、変異したアミノ酸配列を提示させる工程;患者の自家T細胞を、変異したアミノ酸配列を提示する自家APCと共培養する工程;及び、(a)変異したアミノ酸配列を提示する自家APCと共培養され、(b)患者が発現する主要組織適合抗原複合体(MHC)分子との関連で提示される変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する自家T細胞を選択する工程を含み、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する単離されたT細胞を提供してもよい。
【0019】
がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するT細胞が一度単離されたならば、本発明の方法は、それらの単離されたT細胞を変異したアミノ酸配列を提示するAPCと共培養する工程をさらに含み、それによってT細胞は1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する。APCは、それらの細胞表面上の主要組織適合複合体(MHC)分子と関連して、タンパク質のペプチド断片を提示する任意の細胞を含み得る。APCは、例えば、マクロファージ、樹状細胞(DC)、ランゲルハンス細胞、Bリンパ球、及びT細胞の任意の1つ以上を含んでもよい。好ましくは、APCは樹状細胞(DC)である。種々のT細胞活性化マーカーの任意の1つ以上を、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するそれらのT細胞を同定するのに使用してもよい。T細胞活性化マーカーの例は、プログラム細胞死1(PD-1)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン3(TIM-3)、4-1BB、OX40、CD107a、グランザイムB、インターフェロン(IFN)-γ、インターロイキン(IL)-2、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、IL-17及びIL-22の任意の1つ以上を含むが、限定されるものではない。
【0020】
本方法は、共培養されたT細胞を分取して(sorting)分離した単一のT細胞試料とする工程、及び各々の分離した単一のT細胞試料からmRNAを単離する工程をさらに含む。分取して分離した単一のT細胞試料とする工程とmRNAを単離する工程は、自動化してもよい。例えば、分取して分離した単一のT細胞試料とする工程と、mRNAを単離する工程は、FLUIDIGM C1の自動化された単一細胞の単離及び調製システム(フリューダイム、南サンフランシスコ、カリフォリニア州から入手可能)を用いて実施することができる。本発明の方法は、有利なことに、任意の数の分離した単一細胞のmRNA試料(例えば、約2個、約3個、約4個、約5個、約10個、約11個、約12個、約13個、約14個、約15個、約20個、約25個、約30個、約40個、約50個、約60個、約70個、約80個、約90個、約100個、約150個、約200個、約400個、約600個、約800個、約1000個、約1500個、約2000個以上、又は前述の値の任意の2つにより規定される範囲)を提供することができる。本発明の1態様において本方法は、約96個の分離した単一細胞のmRNA試料の調製を含む。
【0021】
本発明の1態様において本方法は、各々の分離した単一のT細胞試料に由来するmRNAを、各々の分離した単一のT細胞試料に対する異なるタグ(例えばバーコード)によりラベル化する工程をさらに含んでもよい。例えば、各々の分離した単一のT細胞試料に由来するmRNAを、ILLUMINA NEXTERA XT DNAライブラリー調製キット(イルミナ、サンディエゴ、カリフォルニア州から入手可能)を用いてラベル化してもよい。
【0022】
本発明の方法は、各々の分離した単一のT細胞試料由来のmRNAの配列決定をする工程をさらに含む。その配列決定は、本技術分野で既知の任意の適切な様式で実施することができる。本発明の方法において有用であり得る配列決定の技術の好適な例は、次世代シークエンシング(NGS)(「超並列シークエンシング技術(massively parallel sequencing technology)」若しくは「ディープシークエンシング」とも呼ばれる)又は第3世代シークエンシングを含む。NGSとは、サンガー法に基づかない高性能DNA配列決定技術をいう。NGSによれば、何百万個又は何十億個のDNA鎖を平行して配列決定し、実質的により高い性能をもたらし、且つゲノムのサンガー配列決定法でしばしば使用される断片クローニング法の必要性を最小限とすることができる。NGSにおいては、ゲノム全体を小さな一片(piece)に分解することにより、全ゲノム亘って平行して、核酸テンプレードを無作為に読むことができる。NGSは有利なことに、各々の分離した単一のT細胞mRNA試料に由来する核酸配列情報を非常に短い期間内に、例えば、約1週間から約2週間以内、好ましくは約1日から約7日以内、又は最も好ましくは約24時間未満に提供し得る。市販で入手可能であるか又は文献中に述べられている多様なNGSプラットフォーム、例えば、Zhangら J. Genet. Genomics, 38(3): 95-109 (2011)及びVoelkerdingら Clinical Chemistry, 55: 641-658 (2009)に述べられたものを、本発明の方法に関連して使用することができる。
【0023】
NGS技術とプラットフォームの非限定的な例は、1塩基合成(「パイロシークエンシング」としても知られている)(例えばGS-FLX454ゲノム配列決定装置、454ライフサイエンス(ブランフォ-ド、コネチカット州)、ILLUMINA SOLEXAゲノム解析装置(イルミナ社、サンディエゴ、カリフォルニア州)、ILLUMINA HISEQ2000ゲノム解析装置(イルミナ)、若しくはILLUMINA MISEQシステム(イルミナ)を使用して、又は例えばRonaghiら Science, 281(5375): 363-365 (1998)に述べられたように実施される)、連結による配列決定(sequencing-by-ligation)(例えば、SOLIDプラットフォーム(ライフテクノロジー・コーポレーション、カールスバッド、カリフォルニア州)又はPOLONATOR G.007プラットフォーム(ドーバーシステム、セイラム、ニューハンプシャー州)を使用して実施される)、単一分子配列決定(single-molecule sequencing)(例えば、PACBIO RSシステム(パシフィック・バイオサイエンス(メンローパーク、カリフォルニア州)又はHELISCOPEプラットフォーム(ヘリコス・バイオサイエンス(ケンブリッジ、マサチューセッツ州)を使用して実施される)、単一分子配列決定のためのナノテクノロジー(例えば、オックスフォード・ナノポア・テクノロジーのGRIDONプラットフォーム(オックスフォード、イギリス)、ナブシスにより開発されたハイブリダイゼーション支援ナノポア配列決定(HANS)プラットフォーム(プロビデンス、ロードアイランド州)、及びプローブ-アンカーライゲーション(cPAL)と呼ばれるDNAナノボール(DNB)技術を伴うリガーゼに基づいたDNA配列決定プラットフォームを使用して実施される)、単一分子配列決定のための電子顕微鏡に基づいた技術、及びイオン半導体配列決定を含む。
【0024】
これに関連して、各々の分離した単一のT細胞試料に由来するmRNAの配列決定は、mRNAからcDNAを作製し、そのcDNAを増幅する工程、増幅されたcDNAの多様な断片を作製し、その多様な断片にタグを付す工程、タグが付されたそのcDNAの多様な断片を増幅する工程、及び、増幅され、タグが付されたそのcDNAの多様な断片を配列決定する工程を含むことができる。タグを付すことは、各々の多様な断片にヌクレオチド配列を加えることを含んでもよく、それにより多様な断片を互いに区別することができる。配列決定はcDNAの多様な断片の各々の配列を同定する。cDNAの多様な断片の各々の配列は「リード(read)」とも呼ばれる。mRNAの配列決定は任意の数のリードを生成してもよい。例えばmRNAの配列決定は、各々の単一のT細胞試料について、約1,000,000リード、約900,000リード、約800,000リード、約700,000リード、約600,000リード、約500,000リード、約400,000リード、約300,000リード、約200,000リード、約100,000リード以上、又は前述の値の任意の2つにより規定される範囲を生成してもよい。多くのNGSプラットフォームにおいて2つの読み方向があってもよく:1つは順方向リーディング(「リード1」又は「R1」とも呼ばれる)であり、他は逆方向リーディング(「リード2」又は「R2」とも呼ばれる)である。cDNA断片について、R1とR2は互いに相補してもよい。本発明の1態様において、本方法はR1リードのみ、R2リードのみ、又はR1とR2リードの両方の測定を含む。R1はR2よりも高い配列決定の質を有してもよい。好ましくは、本方法はR1リードのみの測定を含む。
【0025】
本方法はさらに、cDNAの多様な断片の各々の配列を、1つ以上のT細胞活性化マーカーの既知の配列に対してアラインメントして、どの単一のT細胞試料が、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する単一のT細胞を含むか同定する工程を含む。がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列を提示するAPCとの共培養に続いて、1つ以上の単一のT細胞活性化マーカーを発現する1つ以上の単一のT細胞(複数可)は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRを発現していると同定される。
【0026】
本方法はさらに、cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベ-スに対してアラインメントして、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現すると同定された、各々の分離した単一のT細胞試料のcDNAの多様な断片の、TCRアルファ鎖の可変(V)領域配列とTCRベータ鎖のV領域配列を同定する工程を含む。これに関連して、どのcDNA断片が可変セグメント配列の全て又は一部を含むかを同定し、cDNA断片(複数可)の可変セグメント配列の3’端のおおよその位置を決定するために、cDNAの多様な断片の各々の配列を、既知のTCR可変セグメント配列に対してアラインメントする。可変セグメント配列の3’端は、CDR3のおおよその位置を示す。
【0027】
参照TCR配列データベースは、任意の適切な参照TCR配列データベースでよい。参照TCR配列データベースの例は、Lefrancら Nucleic Acids Res., 43: D413-422 (2015)内に述べられている国際IMMUNOGENETICS情報システム(IMGT)のデータベース(//www.imgt.org)から得られた配列を含んでもよい。cDNAの多様な断片の各々の配列の参照TCR配列データベースに対するアラインメントは、例えば、LiらBioinformatics, 25: 1754-60 (2009)とLiらBioinformatics, 26(5): 589-95 (2010)内に述べられている、Burrows-Wheelerアライナー(BWA)ソフトウェアパッケージ(//bio-bwa.sourceforge.net/)を用いて実施されてもよい。
【0028】
本方法はさらに、同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内と、同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR相補性決定領域3(CDR3)配列を同定する工程を含む。CDR3領域配列は、任意の適切な様式で同定することができる。本発明の1態様において、TCRのCDR3配列の同定は、アルファとベータ鎖のVセグメントによりコードされるアミノ酸配列のC末端の近傍に位置する、保存されたアミノ酸残基をコードするcDNA配列を同定することにより行なう。例えばTCR CDR3配列の同定は、
YXCX10111213141516171819202122(配列番号5)
のアミノ酸配列モチーフをコードする、任意のcDNA配列(複数可)の同定により実施することができ、ここでXからXの各々は任意の天然由来のアミノ酸であり、X10からX21の各々はアミノ酸がないか又は任意の天然由来のアミノ酸であり、及び、X22はフェニルアラニン又はトリプトファンである。配列番号5のアミノ酸配列モチーフは、Vセグメントによりコードされるアミノ酸配列のC末端の近傍に位置する保存されたアミノ酸配列モチーフである。
【0029】
本発明の1態様において本方法はさらに、採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖の定常(C)領域配列と、採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のC領域配列を同定する工程を含む。任意選択で本方法はさらに、採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のC領域配列を同定する工程を含む。TCRアルファ鎖は1つの定常領域アミノ酸配列の候補を有する。TCRベータ鎖は2つの定常領域アミノ酸配列候補のうちの1つを有する。
【0030】
本方法はさらに、同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数を計測する工程を含む。
【0031】
本方法はさらに、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片を採取し、TCRアルファとベータ鎖のCDR3配列を同定する工程を含む。2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列とは異なる。同定されるCDR3配列は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRのベータ鎖のCDR3配列とアルファ鎖のCDR3配列、及び任意選択で、T細胞により発現され、ベータ鎖のCDR3配列と対を成して、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRを形成することがない、追加のアルファ鎖のCDR3配列を含んでよい。成熟したT細胞の約3分の1は2つのTCRアルファ鎖を発現し得ると推定されている。発現したアルファ鎖の1つのみが発現したTCRベータ鎖と対を成し、がん特異的な変異によりコードされるアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRを提供するであろう。
【0032】
本方法はさらに、採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列を同定し、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する工程を含む。単一の、活性化されたT細胞により発現される優勢な(dominant)TCRのCDR3配列をコードするcDNAの多様な断片の数は、混入により存在するかもしれない、任意の他のTCRのCDR3配列をコードするcDNAの断片の数を約10~約100倍上回るであろう。混入の起源は付近の単一細胞の試料であるか、又は未知の起源であるかもしれない。変異したアミノ酸配列を提示するAPCとの共培養に対する応答で1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現する単一のT細胞により発現される優勢なTCRは、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRである。
【0033】
本方法はさらに、同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列と、採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖と、同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列と採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、をコードする1つ以上のヌクレオチド配列をアセンブリングする工程を含む。同じCDR3配列をコードする種々のcDNAの多様な断片は、種々の長さのものであってもよく、互いに重複してもよい。種々の長さの同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする、種々のcDNAの多様な断片をお互いにアラインメントすることにより、優勢なTCRアルファ鎖の全Vセグメント、Jセグメント、及び任意選択で定常領域の配列を決定することが可能である。種々の長さの同じベータ鎖のCDR3配列をコードするcDNAの種々の多様な断片を互いにアラインメントすることにより、優勢なTCRベータ鎖の全Vセグメント、Jセグメント、Dセグメント、及び任意選択で、定常領域の配列を決定することが可能である。優勢なTCRアルファ鎖の全Vセグメント、Jセグメント、及び任意選択で定常領域をコードするヌクレオチド配列、及び優勢なTCRベータ鎖の全Vセグメント、Jセグメント、Dセグメント、及び任意選択で定常領域をコードするヌクレオチド配列を、日常的な技術を使用してアセンブリングすることできる。単離されて対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分を作製することができる。
【0034】
本発明の1態様において、1つ以上のヌクオチド配列をアセンブリングする(assembling)工程は、試料の中で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列、試料の中で同定されたTCRアルファ鎖のC領域配列、及び採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖をアセンブリングする工程、並びに、試料の中で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列、試料の中で同定されたTCRベータ鎖のC領域配列、及び採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖をアセンブリングする工程を含む。これに関連して、アセンブリングしたヌクレオチド配列は内在性のC領域配列を含んでもよい。
【0035】
本発明の1態様において、1つ以上のヌクレオチド配列をアセンブリングする工程は、試料の中で同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列、外因性のTCRアルファ鎖のC領域配列、及び採取されたTCRアルファ鎖のCDR3配列を含むTCRアルファ鎖をアセンブリングする工程、並びに、試料の中で同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列、外因性のTCRベータ鎖のC領域配列、及び採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖をアセンブリングする工程を含む。外因性のC領域配列は、T細胞に対して天然ではない(天然由来ではない)C領域の配列である。これに関連して、本方法により作製される、単離されて対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分は、2つの異なる哺乳類種に由来するTCRから得られるアミノ酸配列からなる、キメラ又はハイブリッドTCRであってもよい。例えばTCRは、TCRが「ネズミ化」されるように、ヒトTCRに由来する可変領域と、マウスTCRの定常領域を含むことが可能である。キメラ又はハイブリッドTCRを作製する方法は、例えば、Cohenら Cancer Res., 66: 8878-8886 (2006); Cohenら Cancer Res., 67: 3898-3903 (2007); 及びHaga-Friedmanら J. Immunol., 188: 5538-5546 (2012)内に述べられている。
【0036】
単一のT細胞は典型的には、1つのTCRベータ鎖と1つ又は2つのTCRアルファ鎖を発現する。単一の試料内に1つ超のTCRベータ鎖が存在することは、T細胞の分離したT細胞試料への不完全な分取(imperfect sorting)の結果であるかもしれない。不完全な分取は1つの試料内に、うかつにも2つ以上のT細胞が含まれることをもたらすかもしれない。もし単一の試料が1つ超のTCRベータ鎖を発現することが見出されたならば、その試料は引き続いた解析から除外されてもよい。
【0037】
上記で議論したように、成熟したT細胞の約3分の1は、2つのTCRアルファ鎖を発現するかもしれないと推定されている。発現したアルファ鎖の1つのみが発現したTCRベータ鎖と対を成し、がん特異的な変異によりコードされるアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRを提供するであろう。どのTCRアルファ鎖がTCRベータ鎖と対を成して望まれる特異性を提供するのかを決定するために、本方法は、本明細書で述べられたように同定された最も数が多いcDNAの多様な断片の第1のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、及び本明細書で述べられたように採取された第1のTCRアルファ鎖のCDR3配列を含む第1のTCRアルファ鎖、並びに、本明細書で述べられたように同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び本明細書で述べられたように採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、をコードする第1のヌクレオチド配列をアセンブリングする工程を含んでもよい。本方法は任意選択でさらに、同定された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、及び採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のCDR3配列を含む第2のTCRアルファ鎖、並びに、同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び採取されたTCRベータ鎖のCDR3配列を含むTCRベータ鎖、をコードする1つ以上の第2のヌクレオチド配列をアセンブリングする工程を含んでもよい。
【0038】
本方法はさらに、第1と第2のヌクレオチド配列を各々、宿主細胞の第1と第2の集団の中に独立して導入する工程、及び、第1と第2の宿主細胞の集団を、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列を提示するAPCと独立して共培養する工程を含んでもよい。本方法はさらに、(a)変異したアミノ酸配列を提示するAPCと共培養され、且つ(b)その変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する、宿主細胞の集団を選択する工程を含んでもよい。変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する共培養された宿主細胞の集団は、TCRベータ鎖と共に、望まれる特異性を提供するTCRアルファ鎖を発現するであろう。
【0039】
変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する細胞は、本分野で知られている任意の適切な手段により同定されてもよい。例えば変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する細胞は、例えば国際公開番号2016/053338と国際公開番号2016/053339内に述べられるように、1つ以上のT細胞活性化マーカー及び/又は1つ以上のサイトカインの発現に基づいて同定されてもよい。T細胞活性化マーカーは、本発明の他の側面に関して本明細書で述べられるようなものでもよい。サイトカインは、T細胞による分泌がT細胞活性化に特徴的である(例えば、変異したアミノ酸配列に特異的に結合して免疫学的に認識するT細胞により発現されるTCR)任意のサイトカインを含んでもよい。サイトカインの分泌がT細胞活性化に特徴的であるサイトカインの非限定的な例は、IFN-γ、IL-2、グランザイムB、及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、顆粒球/単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10、IL-17及びIL-22を含む。
【0040】
いくつかの態様において、本発明の方法の1つ以上の工程は、ソフトウェアシステムを使用して実施される。これに関連して本発明の1態様は、がん特異的な変異によりコードされる、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有するTCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列とTCRのCDR3配列を自動的に同定する方法を提供する。
【0041】
図6は、本発明のある態様に従ったシステム100のブロック図である。システム100は1つ以上のシークエンサー計算装置(sequencer computer device)(複数可)101、使用者計算装置103、及び、使用者計算装置103とシークエンサー計算装置101の間のネットワーク接続102を含んでもよい。シークエンサー計算装置101は、各々の分離した単一のT細胞試料由来のmRNAの配列決定を行うことができる、任意のシステムであってもよい。シークエンサー計算装置101の例は、本発明の他の側面に関して本明細書で述べたNGS技術とプラットフォームの何れかを含んでもよい。
【0042】
使用者計算装置101はネットワークのコミュニケーションを支持する任意の型のコミュニケーション装置であることが可能であり、個人用コンピューター、ラップトップ型コンピューター、又は個人用デジタル補助装置(PDA)などを含む。いくつかの態様において、使用者計算装置101は多様な型のネットワークを支持することができる。例えば、使用者計算装置101は、IP(インターネットプロトコル)を使用した有線の若しくは無線のネットワーク接続性を有してもよく、又はセルラ及びデータネットワークを許容するモバイルネットワーク接続性を有してもよい。
【0043】
本明細書でより詳細に述べるように、使用者計算装置103は、シークエンサー計算装置101により提供されるcDNAの多様な断片の各々の配列を捕捉するのに使用される。その配列はネットワーク接続102を通じて送信されてもよい。ネットワーク接続102の例は共用ディスクスペース(shared disk space)である。
【0044】
図7は、本発明の幾つかの側面に従った、計算装置103の基本的な機能要素のブロック図である。図7に描かれた態様において計算装置103は、1つ以上のプロセッサー202、メモリー204、ネットワーク・インターフェース206、記憶装置208、電源210、1つ以上の出力装置212、1つ以上の入力装置214、及びソフトウェアモジュール-操作システム216、及びメモリー204の中に内蔵されたシークエンス・アプリケーション218を含む。ソフトウェアモジュールはメモリー204の中に含まれるものとして提供されるが、態様によってソフトウェアモジュールは、記憶装置208又はメモリー204と記憶装置208の組み合せの中に含まれる。プロセッサー202、メモリー204、ネートワーク・インターフェース206、記憶装置208、電源210、出力装置212、入力装置214、操作システム216、及びシークエンス・アプリケーション218を含む各々の要素は、物理的に、通信可能な様に、及び/又は、部品間の通信のために作動可能なように相互接続される。
【0045】
描かれたようにプロセッサー202は、クライアント装置103の中で実行するための、機能及び/又はプロセスの指示を実施するように構成されている。例えばプロセッサー202は、メモリー204の中に記憶された指示、又は記憶装置208に記憶された指示を実行する。メモリー204は、一時的ではない、コンピューターが読み取り可能な記憶媒体であり得、操作の間にクライアント装置103の中に情報を記憶するように構成されている。いくつかの態様において、メモリー204は、クライアント装置103がオフになるときには維持されるべきではない情報のための領域である一時的なメモリーを含む。そのような一時的なメモリーの例は、ランダムアクセスメモリー(RAM)、ダイナミイック・ランダムアクセスメモリー(DRAM)、及びスタティック・ランダムアクセスメモリー(SRAM)等の揮発性メモリー(volatile memory)を含む。メモリー204は、プロセッサー202による実行のためのプログラム指示も保持する。
【0046】
記憶装置208は1つ以上の、一時的ではないコンピューターが読み取り可能な記憶媒体も含む。記憶装置208は一般的に、メモリー204よりも多量の情報を記憶するように構成されている。記憶装置208はさらに、情報の長期記憶のために構成されていてもよい。いくつかの態様において、記憶装置208は、不揮発性記憶要素(non-volatile storage element)を含む。不揮発性記憶要素の非限定的な例は、磁気ハードディスク、光ディスク、フロッピーディスク、フラッシュメモリー、又は電気的にプログラム可能なメモリー(EPROM)又は電気的に消去可能且つプログラム可能な(EEPROM)メモリーを含む。
【0047】
使用者計算装置103は、1つ以上のネットワーク102(図6を見よ)を介して、外部シークエンサー計算装置101と通信するためのネットワーク・インターフェイス206と、それを通じて使用者計算装置103との通信が確立され得る他の型のネットワークを使用してもよい。ネットワーク・インターフェイス206は、Ethernetカード等のネットワーク・インターフェイスカード、光学トランシーバー、無線周波数トランシーバー(radio frequency transceiver)、又は情報を送り且つ受け取れる任意の他の型の装置であってもよい。ネットワーク・インターフェイスの他の非限定的な例は、クライアント計算装置内のBluetooth(登録商標)、3G及びWi-Fiラジオ、並びにユニバーサル・シリアル・バス(USB)を含む。
【0048】
使用者計算装置103は1つ以上の電源210を含み、装置に電力を供給する。電源210の非限定的の例は、単回使用の電源、再充電可能な電源、及び/又はニッケル-カドミウム、リチウムイオン、又は他の適切な材料から開発された電源を含む。
【0049】
1つ以上の出力装置212も、使用者計算装置103内に含まれる。出力装置212は、触覚、聴覚、及び/又は映像刺激を使用する使用者に、出力を提供するように構成されている。出力装置212は、表示画面(存在感応画面の一部)、サウンドカード、ビデオグラフィックス・アダプターカード、又は信号をヒト又は機械が理解可能な適切な型に変換するための任意の他の型の装置を含んでもよい。出力装置212の追加の例は、ヘッドフォンなどのスピーカー、ブラウン管(CRT)モニター、液晶表示(LCD)、又は使用者が理解できる出力を生成可能な任意の他の型の装置を含む。
【0050】
使用者計算装置は、1つ以上の入力装置214を含む。入力装置214は、触感、聴覚、及び/又は映像のフィードバックを介して、使用者からの又は使用者の周囲の環境からの入力を受け取るように構成されている。入力装置214の非限定的な例は、写真(photo)用及びビデオカメラ、存在感受性スクリーン、マウス、キーボード、音声反応性システム、マイクロフォン又は他の任意の型の入力装置を含む。幾つかの例において存在感受性スクリーンは、タッチ式スクリーンを含む。
【0051】
クライアント装置103は操作システム216を含む。操作システム216は、クライアント装置103の部品の操作を制御する。例えば操作システム216は、プロセッサー(複数可)202、メモリー204、ネットワーク・インターフェイス206、記憶装置(複数可)208、入力装置214、出力装置212、及び電源210の相互作用を促進する。
【0052】
本明細書でより詳細に述べられたように、使用者計算装置はシークエンス・アプリケーション218を使用して、変異したアミノ酸配列を提示するAPCとの共培養に続いて、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現すると同定された単一のT細胞(複数可)のcDNAの多様な断片の配列を捕捉する。いくつかの態様において、シークエンス・アプリケーション218はシークエンサー計算装置(sequencer computing device)と連動して、それからの入力を受け取ってもよい。いくつかの態様において、使用者は、単一の同定されたT細胞のcDNAの多様な断片の配列を、シークエンサー計算装置101から、例えばUSBフラッシュドライブなどの取り外し可能なディスクにダウンロードしてもよい。使用者計算装置は、単一の同定されたT細胞のcDNAの多様な断片の配列を、取り外し可能なディスクから得てもよい。
【0053】
使用者計算装置103は、メモリーの中に内蔵され、プロセッサーにより実行されるソフトウェアを含み、本発明の他の側面に関連して本明細書で述べられたような、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列とTCRのCDR3配列を同定してもよい。
【0054】
図8は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列とTCRのCDR3配列を自動的に同定する方法の工程の流れ図である。示されているように、本方法400は工程402で開始し、ここで使用者計算装置103は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列を提示するAPCとの共培養に続いて、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現すると同定された、単一のT細胞(複数可)のcDNAの多様な断片の配列を受け取る。本方法は、電子的なネットワーク又は取り外し可能なディスク(例えばUSBドライブ)によって、cDNAの多様な断片の配列を計算装置において受け取ることを含んでもよい。
【0055】
工程403において、使用者計算装置103は、cDNAの多様な断片の各々の配列を、参照TCR配列データベースに対してコンピューター化したアラインメントをして、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列を提示するAPCとの共培養に続いて、1つ以上のT細胞活性化マーカーを発現すると同定された、単一のT細胞のcDNAの多様な断片の配列の、TCRアルファ鎖のVセグメント配列とTCRベータ鎖のVセグメント配列を同定する。
【0056】
工程404において、使用者計算装置103は、同定されたTCRアルファ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内と、同定されたTCRベータ鎖のVセグメント配列を含むcDNAの多様な断片内の、TCR CDR3配列のコンピューター化された同定を行う。
【0057】
工程405において、使用者計算装置103は、同じアルファ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数と、同じベータ鎖のCDR3アミノ酸配列を共有するcDNAの多様な断片の数のコンピューター化された計測を行う。
【0058】
工程406において使用者計算装置は、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、同じベータ鎖のCDR3配列をコードする最も数が多いcDNAの多様な断片、及び任意選択で、同じアルファ鎖のCDR3配列をコードする2番目に数が多いcDNAの多様な断片、のコンピューター化された採取を行い、TCRアルファとベータ鎖CDR3配列を同定し、ここで2番目に数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列は、最も数が多いcDNAの多様な断片によりコードされるアルファ鎖のCDR3配列とは異なる。
【0059】
工程407において使用者計算装置103は、採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列、採取された最も数が多いcDNAの多様な断片のTCRベータ鎖のVセグメント配列、及び任意選択で、採取された2番目に数が多いcDNAの多様な断片のTCRアルファ鎖のVセグメント配列のコンピューター化された同定を行い、TCRアルファとベータ鎖のVセグメント配列を同定する。
【0060】
本発明の他の態様は、本発明の他の側面に関連して本明細書で述べられた何れかの方法に従って単離された、一対のTCRアルファとベータ鎖の配列、またはその抗原結合部分を提供する。本発明の1態様は、TCRのアルファ(α)鎖とTCRのベータ(β)鎖など、2つのポリペプチド(すなわちポリペプチド鎖)を含む単離されたTCRを提供する。本発明の単離された対のTCRアルファとベータ鎖の配列(本明細書において「本発明のTCR(複数可)」とも呼ばれる)のポリペプチド、又はその抗原結合部分は、任意のアミノ酸配列を含むことが可能であるが、但し、そのTCR又はその抗原結合部分は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する。
【0061】
本明細書で使用される単離された対のTCRアルファとベータ鎖の配列の「抗原結合部分」とは、それが1部分であるTCRの連続したアミノ酸を含む任意の部分を言うものであり、但し、その抗原結合部分は、本発明の他の側面との関連で本明細書において述べた、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に特異的に結合する。用語「抗原結合部分」は、本発明の方法により単離されるTCRの任意の一部分又は断片をいい、その一部分又は断片は、それが一部分であるTCR(親のTCR)の生物活性を維持する。抗原結合部分は、例えば、親のTCRとの比較で類似する程度、同程度、又はより高い程度で、変異したアミノ酸配列に特異的に結合するか、又はがんを検出する、治療する、若しくは予防する能力を維持する、TCRの一部分を包含する。親のTCRを参照にして抗原結合部分は、親のTCRの、例えば約10%、25%、30%、50%、68%、80%、90%、95%以上を含むことができる。
【0062】
抗原結合部分は、本発明の方法により単離されたTCRのαとβ鎖のいずれか又は両方の抗原結合部分、例えば本発明の方法により単離されたTCRのα鎖及び/又はβ鎖の可変領域(複数可)の、相補性決定領域(CDR)1、CDR2、及びCDR3の1つ以上を含む部分を含むことができる。本発明の1態様において、抗原結合部分は、α鎖のCDR1(CDR1α)、α鎖のCDR2(CDR2α)、α鎖のCDR3(CDR3α)、β鎖のCDR1(CDR1β)、β鎖のCDR2(CDR2β)、β鎖のCDR3(CDR3β)のアミノ酸配列、又はその任意の組み合わせを含むことができる。好ましくは、抗原結合部分は、本発明の方法により単離されたTCRの、CDR1α、CDR2α、及びCDR3αのアミノ酸配列;CDR1β、CDR2β、及びCDR3βのアミノ酸配列;又はCDR1α、CDR2α、CDR3α、CDR1β、CDR2β、及びCDR3βの全てのアミノ酸配列を含む。
【0063】
本発明の1態様において、抗原結合部分は、例えば、上記で述べたCDR領域(例えば上記で述べた6つのCDR領域の全て)の組み合わせを含む、本発明の方法により単離されたTCRの可変領域を含むことができる。これに関連して抗原結合部分は、α鎖の可変領域(Vα)のアミノ酸配列、β鎖の可変領域(Vβ)のアミノ酸配列、又は本発明の方法により単離されたTCRのVαとVβの両方のアミノ酸配列を含むことができる。
【0064】
本発明の1態様において、抗原結合部分は可変領域と定常領域の組み合わせを含んでもよい。これに関連して抗原結合部分は、本発明の方法により単離されたTCRの、α若しくはβ鎖の全長、又はαとβ鎖の両方を含むことができる。
【0065】
本発明の方法により単離された、単離された対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分は、養子細胞療法のための細胞の調製のために有用であり得る。これに関連して本発明の別の態様は、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分を発現する細胞集団を調製する方法を提供する。本方法は対を成すTCRアルファとベータ鎖配列又はその抗原結合部分を、本発明の他の側面に関連して本明細書で述べた何れかの方法に従って単離する工程を含んでもよい。
【0066】
本方法はさらに、単離された対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を、宿主細胞内に導入し、対を成すTCRアルファとベータ鎖配列、又はその抗原結合部分を発現する細胞を得る工程を含んでもよい。これに関連して本方法は、単離された対を成すTCRアルファとベータ鎖配列、又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を、組み換え発現ベクター中に、例えば、Greenら(編集), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press; 第4版. (2012)内で述べられたような、確立された分子クローニング技術を使用して、クロ-ニングすることを含んでもよい。本明細書の目的において、用語「組み換え発現ベクター」は、遺伝的に改変されたオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドのコンストラクトであって、そのコンストラクトがmRNA、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、そのベクターが細胞と、その細胞によりそのmRNA、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを発現させるのに十分な条件下で接触するときに、宿主細胞によるmRNA、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドの発現を許容するものを意味する。本発明のベクターは全体として、天然由来ではない。しかしながら、ベクターの一部を天然由来とすることは可能である。組み換え発現ベクターは、任意の型のヌクレオチドを含むことができ、DNAとRNAを含むがそれらに限定されず、そのDNAとRNAは一本鎖又は二本鎖、合成されるか又は一部を天然起源から得ることができ、天然の、非天然の、又は改変されたヌクレオチドを含むことができる。組み換え発現ベクターは、天然由来、非天然由来のヌクレオチド間結合、又は両方の型の結合を含むことができる。好ましくは、非天然由来若しくは改変されたヌクレオチド、又はヌクレオチド間結合は、ベクターの転写又は複製を妨げることはない。
【0067】
本発明の組み換え発現ベクターは、任意の適切な組み換え発現ベクタ-であることができ、任意の適切な宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするのに使用することができる。適切なベクターは増殖(propagation)と増大(expansion)のために若しくは発現のために、又は両方のために設計されたもの、例えばプラスミドとウイルスを含む。ベクターは、トランスポゾン/トランスポサーゼ、pUCシリーズ(フェルメンタスライフサイエンス)、pBluescriptシリーズ(ストラタジーン、ラホヤ、カリフォルニア州)、pETシリーズ(ノバゲン、マディソン、ウィスコンシン州)、pGEXシリーズ(ファルマシア・バイオテック、アプサラ、スウェーデン)、及びpEXシリーズ(クローンテック、パロアルト、カリフォルニア州)からなる群から選択することができる。λGT10、λGT11、λZapII(ストラタジーン)、λEMBL4、及びλNM1149などのバクテリオファージベクターも使用することができる。植物発現ベクターの例は、pBI01、pBI101.2、pBI101.3、pBI121、及びpBIN19(クローンテック)を含む。動物発現ベクターの例は、pEUK-C1、pMAM及びpMAMneo(クローンテック)を含む。好ましくは、組み換え発現ベクターはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターである。
【0068】
単離された対を成すTCRアルファとベータ鎖配列、又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列(例えば、組み換え発現ベクター)の宿主細胞内への導入は、例えば上記のGreenらの中で述べられたような、本技術分野で知られている様々な異なるやり方の何れかで実施することができる。宿主細胞の中にヌクレオチド配列を導入するのに有用な技術の非限定的な例は、形質転換(transformation)、形質導入(transduction)、トランスフェクション、及びエレクトロポレーションを含む。
【0069】
本発明の1態様において本方法は、単離されて対を成すTCRアルファとベータ鎖配列、又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を、生体試料を提供した患者に対して自家である宿主細胞の中に導入する工程を含む。これに関連して、本発明の方法により同定及び単離されたTCR又はその抗原結合部分は、各患者に対して個別化(personalized)されていてもよい。しかしながら別の態様において、本発明の方法は、再発した(「ホットスポット」とも呼ばれる)がん特異的な変異によりコードされる、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する、TCR又はその抗原結合部分を同定して単離してもよい。これに関連して本方法は、単離されて対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合断片をコードするヌクレオチド配列を、患者に対して同種異系(allogeneic)である宿主細胞内に導入する工程を含んでもよい。例えば本方法は、単離されて対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列、又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を、そのTCRを元々発現した患者と同じMHC分子との関連で腫瘍が同じ変異を発現する他の患者の宿主細胞内に導入する工程を含んでもよい。
【0070】
本発明の1態様において、宿主細胞は末梢血単核細胞(PBMC)である。PBMCはT細胞を含み得る。T細胞は患者の多くの起源(source)から得ることが可能であり、それは腫瘍、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、若しくは他の組織、又は体液を含むが、それらに限定されるものではない。T細胞は任意の型のT細胞を含むことができ、任意の発達段階のものであることができ、CD4+/CD8+ 二重陽性T細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えばTh1とTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば細胞傷害性T細胞)、腫瘍浸潤細胞(例えば腫瘍浸潤リンパ球(TIL))、末梢血T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞等を含むが、それらに限定されるものではない。T細胞はCD8+T細胞、CD4+T細胞、又はCD4+とCD8+T細胞の両方であってもよい。
【0071】
特定の理論又は機構に縛られるものではないが、分化がより少ない「より若い(younger)」T細胞は、より分化した「より老いた(older)」T細胞と比較して、より大きいインビボの持続性(persistence)、増殖性、及び抗腫瘍活性の任意の1つ以上を伴ってもよいと考えられている。従って本発明の方法は有利に、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する、対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分を同定し及び単離し、及び、その対を成すTCRアルファとベータ鎖の配列又はその抗原結合部分を、そのTCR又はその抗原結合部分がそれから単離されたかもしれない「より老いた」T細胞(例えば、患者の腫瘍内のエフェクター細胞)と比較して、より大きなインビボの持続性、増殖性、及び抗腫瘍活性の任意の1つ以上を提供し得る「より若い」T細胞の中に導入してもよい。
【0072】
本発明の1態様において本方法は、TCR又はその抗原結合部分が導入されている宿主細胞の数を増やす工程をさらに含む。細胞数の増加は、例えば、米国特許番号8,034,334;米国特許番号8,383,099;米国特許出願公開番号2012/0244133;Dudleyら J. Immunother., 26:332-42 (2003);及びRiddellらJ. Immunol. Methods,128:189-201 (1990)の中で述べられている、本分野で既知である多くの方法の何れかにより達成することができる。1態様において細胞数の増加は、OKT3抗体、IL-2、及びフィーダーPBMC(例えば、照射された同種異系のPBMC)と共に、T細胞を培養することにより実施される。
【0073】
本発明の別の態様は、本発明の他の側面に関して本明細書で述べた方法の何れかに従って調製された、単離された細胞集団を提供する。その細胞集団は、単離されたTCR又はその抗原結合部分を発現する宿主細胞に加えて、例えば単離されたTCR又はその抗原結合部分を発現しない宿主細胞(例えばPBMC)、又はT細胞以外の細胞、例えばB細胞、マクロファージ、好中球、赤血球、肝細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脳細胞等の少なくとも1つの他の細胞を含む、不均一な集団であることができる。あるいは細胞集団は、その中に単離されたTCR又はその抗原結合部分を発現する宿主細胞を主として含む(例えば本質的にそれからなる)、実質的に均質な集団であることもできる。その集団は、集団の全ての細胞が単離されたTCR又はその抗原結合部分を発現するような、その集団内の全ての細胞が単離されたTCR又はその抗原結合部分を発現する単一のPBMCのクローンである、クローン性の細胞集団であることもできる。本発明の1態様において細胞集団は、本明細書で述べたような単離されたTCR又はその抗原結合部分を発現する、宿主細胞を含むクローン性の集団である。単離されたTCR又はその抗原結合部分をコードするヌクレオチド配列を宿主細胞内に導入することにより、本発明の方法は有利に、単離されたTCRを発現し、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する宿主細胞を、高い割合で含む細胞集団を提供してもよい。本発明の1態様において、約1%~約100%、例えば約1%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、若しくは約100%、又は前述の任意の2つの値により規定される範囲の細胞集団は、単離されたTCRを発現し、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する宿主細胞を含む。特定の理論又は機構に縛られるものではないが、単離されたTCRを発現し、変異したアミノ酸配列に対して抗原特異性を有する宿主細胞を高い割合で含む細胞集団は、宿主細胞の機能、例えば宿主細胞が、がん細胞を標的として破壊する及び/又はがんを治療若しくは予防する能力を妨げるかもしれない、無関係の細胞をより低い割合で含むと信じられている。
【0074】
本発明のTCR又はその抗原結合部分、及び細胞集団を調合して組成物、例えば医薬組成物とすることができる。この関連で本発明は、本発明のTCR、又はその抗原結合部分、又は細胞集団の何れか、及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、本発明のTCR、又はその抗原結合部分、又は細胞集団を、他の医薬活性剤(複数可)又は薬剤(複数可)、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン等の化学療法剤と組み合わせて含むことができる。
【0075】
好ましくは、担体は医薬的に許容可能な担体である。医薬組成物に関連してその担体は、検討中の特定の本発明のTCR、又はその抗原結合部分、又は細胞集団のために通常使用されるものの何れかであってもよい。そのような医薬的に許容可能な担体は当業者に良く知られ、市販されて容易に入手することができる。その医薬的に許容可能な担体は、使用を検討している状況下で不利益な副作用又は毒性を有さないものであることが好ましい。
【0076】
担体の選択は、特定の本発明のTCR、その抗原結合部分、又は細胞集団によるだけではなく、本発明のTCR、その抗原結合部分、又は細胞集団を投与するのに使用される特定の方法により一部分は決定されるであろう。従って、本発明の医薬組成物に適した種々の製剤がある。適切な製剤は、経口、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、又は腹膜内投与のためのものの何れかを含んでもよい。本発明のTCR又は細胞集団を投与するのに1つ超の経路を使用することができ、場合によっては、特定の経路は別の経路よりもより迅速であり且つより効果が高い応答を提供できる。
【0077】
好ましくは本発明のTCR、その抗原結合断片、又は細胞集団は、注射、例えば静脈内注射により投与される。本発明の細胞集団が投与されるときに、注射用の細胞のための医薬的に許容可能な担体は、任意の等張担体、例えば、通常の生理食塩水(約0.90%w/vの塩化ナトリウム水溶液、約300mOsm/Lの塩化ナトリウム水溶液、又は水1リットル当たり約9.0gの塩化ナトリウム)、NORMOSOL R 電解質溶液(アボット、シカゴ、イリノイ州)、PLASMA-LYTE A(バクスター、ディアフィールド、イリノイ州)、約5%のデキストロース水溶液、又は乳酸リンゲル液等を含んでもよい。1態様において、医薬的に許容可能な担体にヒト血清アルブミンが補足される。
【0078】
本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、及び医薬組成物は、がんを治療又は予防する方法において使用可能であると考えられる。特定の理論又は機構に縛られるものではないが、本発明のTCR又はその抗原結合部分は、そのTCR又はその抗原結合部分が細胞により発現したときには、変異したアミノ酸配列を発現する標的細胞に対する免疫応答を仲介できるように、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に特異的に結合すると信じられている。これに関連して本発明の1態様は、哺乳類においてがんを治療又は予防する方法を提供し、その方法はその哺乳類に、本明細書で述べられた本発明の医薬組成物、単離されたTCRアルファとベータ鎖配列の対、その抗原結合部分、又は細胞集団の何れかを、その哺乳類においてがんを治療又は予防するのに有効な量で投与することを含む。
【0079】
本発明の別の態様は、哺乳類においてがんの治療又は予防に使用するための本発明の他の側面に関連して本明細書で述べた、本発明のTCR又はその抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の何れかを提供する。
【0080】
本明細書で使用される用語「治療」及び「予防」、並びにそれから生じる単語は、必ずしも100%又は完全な治療又は予防を意味するものではない。むしろ、当業者が潜在的な利点又は治療効果を有すると認識する、様々な程度の治療又は予防がある。この点において本発明の方法は哺乳類において、がんの治療又は予防を任意のレベルの任意の量で提供することができる。さらに本発明の方法により提供される治療又は予防は、治療又は予防されるがんの1つ以上の状態又は症状の治療又は予防を含むことができる。例えば治療又は予防は腫瘍の退縮の促進を含むことができる。また本明細書の目的において「予防」は、がん又はその症状若しくは状態の発症の遅延を含むことができる。
【0081】
本発明の目的のために、本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の投与される量又は用量(例えば、本発明の細胞集団が投与されるときの細胞数)は、妥当な時間枠に亘って哺乳類において、効果(例えば治療又は予防の応答)を奏するために十分でなければならない。例えば、本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の用量は、がん特異的な変異によりコードされる変異したアミノ酸配列に結合するのに、又投与の時から約2時間以上、例えば12~24時間以上の期間においてがんを検出、治療、若しくは予防するのに十分であるべきである。態様によってその時間がより長いことでさえあり得る。用量は、投与される特定の本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の効力、及び哺乳類(例えばヒト)の状態、並びに、治療される哺乳類(例えばヒト)の体重により決定されるであろう。
【0082】
投与された用量を測定するための多くのアッセイが本技術分野で知られている。
本発明の目的のために、T細胞の様々な用量がそれぞれ与えられる1組の哺乳動物間で、哺乳動物にある特定の用量のそのようなT細胞が投与された際に、本発明のTCR、又はその抗原結合部分を発現するT細胞により、標的細胞が溶解され又はIFN-γが分泌される程度を比較することを含むアッセイが、哺乳動物に投与する開始用量を決定するために用いられ得る。ある用量の投与により標的細胞が溶解する又はIFN-γが分泌される程度は、本技術分野で既知の方法でアッセイできる。
【0083】
本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の用量は、具体的な本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の投与に伴うかもしれない、任意の有害な副作用の存在、性質、及び程度によっても決定されるであろう。典型的には主治医は、各々の個別の患者を治療する本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物の用量を、種々の因子、例えば年齢、体重、全般的な健康、食事、性別、投与されるべき本発明のTCR、その抗原結合部分、細胞集団、又は医薬組成物、投与経路、及び治療するべき状態の重篤さを考慮して決定するであろう。
【0084】
本発明の細胞集団が投与される1態様において、注入により投与される細胞数は、例えば、100万~1000億細胞の範囲で変化し得るが;この例示的範囲を下回る又は上回る量も本発明の範囲内である。例えば、本発明の宿主細胞の一日当たりの用量は、約100万~約1500億細胞(例えば、約500万細胞、約2500万細胞、約5億細胞、約10億細胞、約50億細胞、約200億細胞、約300億細胞、約400億細胞、約600億細胞、約800億細胞、約1000億細胞、約1200億細胞、約1300億細胞、約1500億細胞、又は前述の値の何れか2つにより規定される範囲)、好ましくは約1000万~約1300億細胞(例えば、約2000万細胞、約3000万細胞、約4000万細胞、約6000万細胞、約7000万細胞、約8000万細胞、約9000万細胞、約100億細胞、約250億細胞、約500億細胞、約750億細胞、約900億細胞、約1000億細胞、約1100億細胞、約1200億細胞、約1300億細胞、又は前述の値の何れか2つにより規定される範囲)、より好ましくは約1億細胞~約1300億細胞(例えば、約1億2000万細胞、約2億5000万細胞、約3億5000万細胞、約4億5000万細胞、約6億5000万細胞、約8億細胞、約9億細胞、約30億細胞、約300億細胞、約450億細胞、約500億細胞、約750億細胞、約900億細胞、約1000億細胞、約1100億細胞、約1200億細胞、約1300億細胞、又は前述の値の何れか2つにより規定される範囲)とすることができる。
【0085】
細胞集団が投与される本発明の方法の目的のために、その細胞はその哺乳類に対して、同種異系(allogeneic)又は自家(autologous)である細胞にすることができる。好ましくはその細胞はその哺乳類に対して自家である。
【0086】
本発明の他の態様は、本明細書で述べられた、哺乳類におけるがんの治療又は予防において使用するための、本発明のTCR、その抗原結合部分、単離された細胞集団、又は医薬組成物の何れかを提供する。
【0087】
がんは有利には、急性リンパ球性がん、急性骨髄性白血病、胞巣型横紋筋肉腫、骨がん、脳がん、乳がん、肛門、肛門管、又は肛門直腸のがん、眼のがん、肝内胆管のがん、関節のがん、頸部、胆嚢、又は胸膜のがん、鼻、鼻腔、又は中耳のがん、口腔のがん、膣のがん、陰門のがん、胆管がん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄がん、結腸がん、食道がん、子宮頸がん、消化管カルチノイド腫瘍、グリオーマ、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん、悪性中皮腫、メラノーマ、多発性骨髄腫、鼻咽頭がん、非ホジキンリンパ腫、中咽頭のがん、卵巣がん、陰茎のがん、膵臓がん、腹膜、網(omentum)、及び腸間膜のがん、咽頭がん、前立腺がん、直腸がん、腎がん(renal cancer)、皮膚がん、小腸がん、軟組織がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮のがん、尿管がん、膀胱がん、固形腫瘍、及び液性腫瘍の何れかを含む、任意のがんであり得る。好ましくは、がんは上皮がんである。1態様においてがんは、胆管がん、メラノーマ、大腸がん、又は直腸がんを含む、任意のがんである。
【0088】
本発明の方法で言及する哺乳動物は、任意の哺乳動物であり得る。本明細書で使用される用語「哺乳動物」は任意の哺乳動物を言い、マウスやハムスター等のネズミ目の哺乳動物、及び、ウサギ等のウサギ目の哺乳動物を含むが、それに限定されない。哺乳動物が、ネコ科動物(Feline)(ネコ(cat))とイヌ科動物(Canine)(イヌ(dog))を含むネコ目に由来することは好適である。哺乳動物は好ましくは、ウシ亜科動物(Bovine)(ウシ(cow))とイノシシ科動物(Swine)(ブタ(pig))を含むウシ目、又はウマ科動物(Equine)(ウマ(horse))を含むウマ目に由来する。哺乳動物は好ましくは、霊長目、セボイド目、若しくはシモイド目(サル)の哺乳動物、又はアンスロポイド目(ヒトと類人猿)の哺乳動物である。より好適な哺乳動物はヒトである。特に好適な態様においては、哺乳動物はがん特異的な変異を発現している患者である。
【0089】
下記の実施例において本発明をさらに描くが、もちろん、如何なる意味でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0090】
実施例1~5
実施例1~5において述べられた実験のために、下記の材料及び方法が採用された。
【0091】
ネオアンチゲン反応性のTILのスクリーニング
全ての患者材料は、全米がん研究所の審査委員会が承認した臨床治験(治験登録ID:NCT01174121)から得られた。ネオアンチゲンとネオアンチゲン反応性のTIL集団を同定する方法は、国際公開番号2016/053338に述べられている。簡単に言えば、腫瘍断片を切り出し、IL-2を含む培地(6000IU/mL)中で3~6週間培養した(Dudley et al., J. Immunother., 26: 332-342 (2003))。細胞数が増えたTIL培養物を、ネオアンチゲン認識についてスクリーニングした。増えたTIL培養物をネオアンチゲン認識についてスクリーニングするために、全エキソーム及びRNA配列決定(RNA-seq)により、腫瘍内の非同義変異を同定した。非同義変異を包含するタンデムミニ遺伝子(TMG)ライブラリーを合成した。TMGを発現している自家の樹状細胞(DC)をスクリーニングし、TILにより認識されるネオアンチゲン(複数可)を同定した(Lu et al., Clin. Cancer Res., 20: 3401-3410 (2014))(図1参照)。
【0092】
単一細胞のRNA配列決定データからのネオアンチゲン特異的なTCR配列の同定
単一細胞(single cell)のRNA配列決定(RNA-seq)データから、ネオアンチゲン特異的なTCR配列を同定する方法を、図2に示す模式図で概説する。ネオアンチゲン反応性のTIL培養物を同定した後に、1×10個のTILを、1×10個のTMGをパルスされた樹状細胞(DC)と共に4時間共培養した。共培養の後にT細胞を再懸濁し、大々的に洗浄した。その後、製造業者の指示(フリューダイム(サンフランシスコ、カリフォルニア))とクローンテック(マウンテンビュー、カリフォルニア)に従って、T細胞を単一細胞の分取(single-cell sorting)にかけ、RNA配列決定試料を調製した。96個全ての単一細胞のRNA配列決定試料を、NEXTERA XT DNAライブラリー調製キット(イルミナ(サンディエゴ、カリフォルニア州))を用いてバーコード化し、その後、試薬キットV3(2×250塩基対(b.p.))を使用したILLUMINA MISEQシステムを用いて配列決定した。
【0093】
単一細胞のRNA配列決定データを、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)データベース(Lefranc et al., Nucleic Acids Res., 43: D413-422 (2015))に由来するTCRα/β可変(V)領域配列を用いて、Burrows-Wheelerアライナー(BWA)(Liら, Bioinformatics, 25: 1754-60 (2009); Liら, Bioinformatics, 26(5): 589-95 (2010))によりアラインメントした。CDR3領域の配列は、V領域のC末端近傍の保存アミノ酸残基(C...F/W)に基づいて同定され、ソフトウェアにより解析及び報告された。非生産的な(フレーム外の)配列を有する幾つかのTCRを、解析から除去した。加えて、FLUIDIGM C1の単一細胞mRNA配列決定システムの分取(sorting)機構が不完全であるために、幾つかの試料は1つ超のT細胞を含むかもしれない。結果として、1つ以上のTCRβを有する試料を、引き続いての解析から除外した。別個にRNA配列決定データを、IFN-γ、IL-2又は他の可能性があるT細胞活性化マーカーの配列に対してアラインメントした。高いIFN-γを伴う単一細胞に関連するアラインメントされたTCR断片を抽出し、TCR V、CDR3及び定常(C)領域を同定した。対を成す全長TCR配列をアセンブリングする(assemble)ために、不完全な5’V領域配列を、IMGTデータベース由来の同定されたヒト全長TCR V領域配列とアセンブリングした(assembled with)。対の形成を促進し、TCRα/βの誤った対形成を避けるために、3’C領域配列を改変されたマウス定常領域配列 (Cohenら, Cancer Res., 66: 8878-8886 (2006); Cohen et al., Cancer Res., 67: 3898-3903 (2007); Haga-Friedmanら, J. Immunol., 188: 5538-5546 (2012))と置き換えた。(図2
【0094】
ネオアンチゲン特異的なTCRの検証
詳細なプロトコールは、Morganら、Science, 314: 126-129 (2006)に述べられており、本明細書に述べられた幾つかの小さな改変を伴っている。改変されたマウス定常領域を有し、フリンSGSGP2Aリンカー(RAKRSGSGATNFSLLKQAGDVEENPGP)(配列番号1)により連結された、全長TCRαとTCRβ配列を合成し、MSGV8レトロウイルス発現ベクター(Wargoら, Cancer Immunol. Immunother., 58: 383-394 (2009))にクローン化した。MSGV8-TCRプラスミド(1.5μg)と0.75μgのVSV-G(RD114)プラスミドを、(各6穴の中の)1×10個の293GP細胞の中に、LIPOFECTAMINE2000トランスフェクション試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて共トランスフェクトした。48時間後に上清を回収し、1分当たり3000回転(rpm)で10分間回転し、破片を除去した。2000gで2時間遠心分離することにより、レトロウイルスの上清を、RETRONECTIN試薬(タカラ、大津、日本)で被覆された6穴プレート上に搭載した。
【0095】
別途に、健康なドナー由来の1×10個/mLの末梢血単核細胞(PBMC)を、5%ヒト血清を含むAIM V培地の中で、50ng/mLの抗CD3モノクローナル抗体OKT3と300IU/mLのIL-2により刺激した。2日後に刺激された細胞を回収し、OKT3を含まない同じ培地中に再懸濁した。刺激されたPBMCを、2×10細胞/穴でレトロウイルスを充填した各々の穴に添加し、1000gで10分間回転した。プレートを37℃で一晩インキュベートした。次の日に、PBMCを新たなレトロウイルスを充填した穴に移動し、形質導入操作を繰り返した。実験の前にもう5日間、300IU/mLのIL-2と5%のヒト血清を有するAIM V培地の中で、TCRを形質導入したT細胞を継続して培養した。
【0096】
TCRが形質導入されたT細胞の特異性を試験するために、自家の樹状細胞(DC)又はEBV形質転換したB細胞を、TMG RNA、全長mRNA、又はペプチドと24時間パルスした。1×10個のT細胞をその後、1×105の樹状細胞(DC)又はEBV形質転換したB細胞と、96穴のU底プレート内で一晩共培養した。上清を回収し、T細胞からのIFN-γの分泌を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)(サーモフィッシャー・サイエンティフィック)により測定した。
【0097】
実施例1
この実施例は、TIL4090培養物から、ネオアンチゲン特異的なTCRの対を成すアルファとベータ鎖配列を単離する方法を示す。
【0098】
直腸結腸がんを有する患者から切除した転移性肺病変から、TIL4090培養物を培養した。培養物の1つであるTIL4090F7は、TMGライブラリースクリーニングの結果に基づき、TMG-5を認識した。ネオアンチゲン特異的なTCRを単離するために、TIL4090F7細胞を、TMG-5をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養し、単一細胞のRNA配列決定解析にかけた。単一細胞(single cell)のRNA配列決定データの中の全ての配列リードの間で、2つの単一の細胞は高いパーセンテージのIFN-γリードを発現した(全R1リードの6.42%と12.25%)(図3A)。残りの単一の細胞は0~0.16%のIFN-γリードを発現したに過ぎなかった(図3A)。このアプローチを使用して検出可能なIL-2を発現した単一細胞は無かった(図3B)。これらのデータは、これら2つのT細胞が、樹状細胞(DC)により提示されたネオアンチゲンと特異的に反応することを示唆する。次に、TCRα/β可変領域とCDR3配列は、これら2つのT細胞の単一細胞のRNA配列決定データから同定され、両方のT細胞に由来するTCR配列は同一であった(表1)。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例2
この実施例は、実施例1で単離されたTCRアルファとベータ鎖の配列が形質導入されたT細胞は、実施例1の患者のがんにより発現されたネオアンチゲンを特異的に認識することを示す。
【0101】
TIL4090F7から単離されたTCRを検証するために、フリンSGSGP2Aリンカーにより結合した改変されたマウス定常領域を有する、全長TCRαとTCRβ配列を合成し、MSGV8レトロウイルス発現ベクター中にクローン化した。末梢血T細胞に4090TCRを形質導入し、TMG-5をパルスされた4090樹状細胞(DC)と一晩共培養した。T細胞によるIFN-γの分泌に基づいて、4090TCRを形質導入したT細胞はTMG-5をパルスされた樹状細胞(DC)を認識したが、無関係のTMGをパルスされた樹状細胞(DC)は認識しなかった(図3C)。
【0102】
4090TCRの特異性を試験するために追加の実験を行った。TMG-5は合計で12個のミニ遺伝子を含んでいた。各々のミニ遺伝子に対応する25merの変異した長いペプチドを合成し、4090樹状細胞(DC)に24時間パルスした。洗浄した後に、ペプチドをパルスされた樹状細胞(DC)を、4090TCRを形質導入したT細胞と一晩共培養した。4090TCRが形質導入されたT細胞は、変異したUSP8(ユビキチン特異的ペプチダーゼ8)ペプチドであるWAKFLDPITGTFYYHSPTNTVHMY(R>H)(配列番号2)をパルスされた樹状細胞(DC)とのみ反応し、4090TCRは変異したUSP8を認識することを示唆している(図3D)。最後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製された変異したUSP8の長いペプチドと野生型(WT)の同等物を、4090樹状細胞(DC)に24時間パルスした。その後、ペプチドをパルスされたDC(樹状細胞)を、4090TCRを形質導入したT細胞と一晩共培養した。4090TCRが形質導入されたT細胞は、0.01μMの最小濃度で、変異したUSP8ペプチドと反応したが、野生型(WT)USP8ペプチドの意味がある認識を示すことはなかった(図3E)。
【0103】
実施例3
この実施例は、TIL4095培養物から、ネオアンチゲン特異的なTCRの対を成すアルファとベータ鎖配列を単離する方法を示す。
【0104】
結腸直腸がんを有する患者から切除された転移性肺病変から、TIL4095培養物を培養した。TMGライブラリースクリーニングの結果に基づいて、TIL4095F5はTMG-1を認識した。ネオアンチゲン特異的なTCRを単離するために、TIL4095F5細胞を、TMG-1をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養し、単一細胞のRNA配列決定解析にかけた。高いレベルのIFN-γリード(0.79%~3.74%)を有する全ての単一細胞を同定した(図4A)。これらのT細胞は全て、まったく同一のTCRα/βの可変及びCDR3の配列を含んでいた(表2)。1つの単一細胞のみが、検出可能なIL-2リードを発現し(0.03%)(図4B)、この単一細胞はIFN-γを高いレベルで共発現した(1.07%)(図4C)。
【0105】
【表2】
【0106】
実施例4
この実施例は、実施例3で単離されたTCRアルファとベータ鎖配列を形質導入されたT細胞が、実施例3の患者のがんにより発現されたネオアンチゲンを特異的に認識することを示す。
【0107】
実施例3のTIL4095F5から単離されたTCRを検証するために、改変されたマウス定常領域を有する全長のTCRαとTCRβの配列を合成し、MSGV8レトロウイルス発現ベクター中にクローン化し、その後ドナーT細胞中に形質導入した。過去の研究において、HLA-C0802拘束性の様式で変異したKRAS(G12D)ペプチドを認識するTCRが同定された(Tran et al., Science, 350: 1387-1390 (2015))。患者4095はHLA-C0802とKRAS(G12D)について陽性であることが見い出され、且つ、TMG-1はKRAS(G12D)をコードするために、この4095TCRもHLA-C0802拘束性のKRAS(G12D)を認識するかどうかを試験した。図4Dに示されるように、4095TCRを形質導入したT細胞を、全長の野生型(WT)KRAS又はG12DのmRNAをパルスされた自家樹状細胞(DC)と一晩共培養した。4095TCRを形質導入したT細胞はKRAS(G12D)をパルスされた樹状細胞(DC)を認識したが、野生型(WT)KRASをパルスされた樹状細胞(DC)は認識しなかった。最後に、自家樹状細胞(DC)に、HLA-C0802拘束性KRAS(G12D)抗原の最小エピトープGAGVGKSA(配列番号3)を2時間パルスした。4095TCRを形質導入したT細胞は、0.01μMの最小濃度でKRAS(G12D)エピト-プを認識したが、野生型(WT)の同等物は認識しなかった(図4E)。
【0108】
実施例5
この実施例は、TIL4112培養物から、ネオアンチゲン特異的なTCRの対を成すアルファとベータ鎖の配列を単離する方法を示す。
【0109】
胆管がんを有する患者から切除された転移性肝臓病変から、TIL4112培養物を培養した。培養物の1つであるTIL4112F5は、TMGライブラリースクリーニングの結果に基づいて、TMG-9を認識することが見い出された。ネオアンチゲン特異的なTCRを同定するために、TIL4112F5細胞を、TMG-9をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養し、単一細胞のRNA配列決定解析にかけた。高いレベルのIFN-γリード(>2%)を有する22個の単一細胞は、全く同一のTCR配列を含んでいた(図5A図5C、及び表3)。しかしながら、22個の単一細胞の中の13個は、このクローン型ではTCRαの発現のレベルが低いために、検出可能なTCRαを含んでいなかった。8つの単一細胞は、0.01%~0.1%の範囲の検出可能なIL-2リードを発現した(図5B図5C)。それらの間で、6個の単一細胞は同じTCRα/β配列を発現した。1つの単一細胞は同一のTCRβ配列を発現したが、TCRαは検出不可能であった。加えて1つの単一細胞は、如何なる検出可能なTCRα/β配列も発現しなかった(図5A~5C)。
【0110】
【表3】
【0111】
TIL4112F5から同定されたTCRを検証するために、改変されたマウス定常領域を有する全長TCRαとTCRβ配列を合成し、その後ドナーT細胞の中に形質導入した。4112TCRを形質導入したT細胞は、TMG-9をパルスされた樹状細胞(DC)を認識したが、関連しないTMGをパルスされた樹状細胞(DC)は認識しなかった(図5D)。次にTMG-9のアミノ酸配列を、免疫エピトープデータベース(IEDB)及び解析リソースウェブサイト(iedb.org)、並びに生物学的配列解析センター(CBS)の解析NetMHCウェブサイト(cbs.dtu.dk/services/NetMHC/)に提示し、患者4112の6つのHLAに対して高い親和性を有するペプチドを予測した。IEDB(ランク<1%)とNetMHC(ランク<2%)由来の、合計で67個の予測された高親和性ペプチドを合成し、混ぜ合わせて10個のプールとした。4112TCRを形質導入したT細胞は、自家のEBVで形質転換したB細胞にパルスされた短いペプチドプール(SPP)-9を認識した(図5E)。引き続いた実験で、変異したNBAS(神経芽細胞腫の増幅された配列)ペプチドであるWSYDSTLLAY(C>S)(配列番号4)は、4112TCRを形質導入したT細胞により認識される最小のエピトープであると同定された(図5F、5G)。
【0112】
実施例6
この実施例は、TIL4171培養物から、ネオアンチゲン特異的なTCRの対を成すアルファとベータ鎖配列を単離する方法を示す。
【0113】
結腸直腸がんを有する患者から切除された転移性肺病変から、TIL4171培養物を培養した。128個の長いペプチド(25mer)を合成し、各々のペプチドは、両側に12個の正常なアミノ酸が隣接する非同義変異を含んでいた。TIL4171培養物をペプチドライブラリーに対してスクリ-ニングし、培養物の1つであるTIL4171F6は、ペプチドプール3(PP-3)を認識した(図9A)。その後TIL4171F6細胞を、PP-3をパルスされた自家樹状細胞(DC)と4時間共培養し、単一細胞のRNA配列決定解析にかけた。IFN-γとIL-2の発現を測定した(図9B-9D)。9個の試料は高レベルのIFN-γのmRNAを含んでいた(2209~24845のFPKM(100万個のマップされたリード当たりの転写産物の千塩基当たりの断片))(図9B)。それらの間で、6つの試料は同じTCRβCDR3配列を有していた。2つの試料は如何なる検出可能なTCRβを含まず、1つの試料は、他のT細胞による混入によってもたらされた可能性が高い、2つの異なるTCRβのCDR3配列を含んでいた。しかしながらこれらの何れの試料も、如何なる検出可能なTCRα鎖配列を含んでいなかった。同様に4つの試料は、検出可能なIL-2のmRNA(331.2~1497FPKM)を含んでいた。これらの試料は全て同一のTCRβCDR3の配列を含んでいたが、どの試料も如何なる検出可能なTCRα鎖配列を有しなかった。
【0114】
失われたTCRα鎖を発見する試みの中で、この実験で得られた単一細胞のRNA配列決定のデータを更に検討した。4つのIFN-γの単一細胞と2つのIL-2の単一細胞は、V遺伝子セグメントDV3、J遺伝子セグメントAJ56とC遺伝子セグメントACを含む独特なTCR鎖を発現することを見出した。AV14/DV4、AV23/DV6、AV29/DV5、AV36/DV7、及びAV38-2/DV8(Lefranc, Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, Inc., pp. A.1O.1-A.1O.23 (2001))を含む幾つかのV遺伝子セグメントが、TCRαとTCRδ鎖の間で共有されていた。これらのV遺伝子セグメントは、TCRαのAJ接合(joining)遺伝子セグメントに再配置(rearrange)され、並びにTCRδのDD多様性遺伝子セグメント及びDJ接合遺伝子セグメントに再配置されていることが見い出された。特にDV3の転写方向性は逆転している。これまでには、TCRα鎖がDV3遺伝子セグメントを利用できることは報告されていなかった。
【0115】
この独得なTCR鎖の機能を試験するために、このTCR鎖を同定されたTCRβ鎖と結合し、その後にレトロウイルスベクター中にクローン化した。4171TCRが形質導入されたT細胞はPP-3に対する強い反応性を有した(図9E)。このペプチドプールPP-3は、14個の変異した25merペプチドを含んでいた。
【0116】
次に自家樹状細胞(DC)に、ペプチドプールPP-3に由来する個々のペプチドを24時間パルスした。ペプチドをパルスされた樹状細胞(DC)を、4171TCRを形質導入したT細胞と共培養した。4171TCRは、変異したペプチドSIN3A(SIN3転写制御ファミリーメンバーA)をパルスされた樹状細胞(DC)を認識した(図9F)。
【0117】
最後に、精製した25merの野生型(WT)又は変異したSIN3Aペプチド(LGKFPELFNWFKIFLGYKESVHLET(配列番号25)、N>I)を、自家樹状細胞(DC)に24時間パルスした。ペプチドをパルスされた樹状細胞(DC)を形質導入されたT細胞と共培養した。T細胞からのIFN-γの分泌をELISAにより測定した。4171TCRを形質導入したT細胞は、変異したSIN3Aペプチドを特異的に認識するが、野生型の同等物は認識しないことが示された(図9G)。
【0118】
よってこの独特なTCRは機能を有し、且つそれは変異したSIN3Aを特異的に認識することができた。他のV遺伝子セグメントと同様に、これらのデータは、DV3遺伝子セグメントはTCRαとTCRδ鎖の間で共有され得ることを示唆した。
【0119】
出版物、特許出願、及び特許を含む本明細書で引用された全ての参照文献は、各参照文献が個々に且つ具体的に参照により組み込まれると示され、本明細書に完全に記載されているのと同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0120】
用語「a」及び「an」及び「the」及び「少なくとも1つ(at least one)」、並びに本発明の記述と関連する類似する指示対象物(特に下記の特許請求の範囲との関連における)の使用は、本明細書中に別段の指示がない限り、又は明確に文脈から否定されない限り、単数及び複数の両方を含むと解釈されるべきである。1つ以上の項目のリストに続く用語「少なくとも1つ(at least one)」の使用(例えば「A及びBの少なくとも1つ」)は、本明細書中に別段の指示がない限り、又は明確に文脈から否定されない限り、リストされた項目から選択される1つの項目(A又はB)又はリストされた項目の2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味するものと解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含む(containing)」は、特に断りがない限り、非限定的用語(open-ended term)(すなわち、「含むが、限定されない」という意味)と解釈されるべきである。本明細書の数値範囲の言及は、本明細書中に別段の指示がない限り、単にその範囲内に入る各々の別の値を個別に言及する短縮された方法として働くことを意図するものであり、それぞれの別の値は、本明細書に個別に記載されたかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書で述べられる全ての方法は、本明細書中に別段の指示がない限り、又は特に明確に文脈から否定されない限り、任意の適切な順番で実施することができる。本明細書で提供された任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図するものであり、特に特許請求されない限り、本発明の範囲の限定をもたらすものではない。本明細書の言語は、特許請求されない如何なる要素についても、本発明の実施に必須であると示すものと解釈されるべきではない。
【0121】
本発明を実施するための本発明者らに知られている最良の形態を含めて、本発明の好適な態様は本明細書に述べられている。それらの好適な態様の変形は、前記の記載を読んだ当業者にとって自明となり得る。本発明者らは当業者がそのような変形を適切に採用することを予測しており、本発明者らは本発明が、本明細書に明確に述べられた以外のように実施されることを意図している。従って本発明は、適用され得る法律により許可されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲の中で述べられた対象の全ての改変と均等物を含む。さらに、本明細書中に別段の指示がない限り、又は特に明確に文脈から否定されない限り、上記で述べた要素の任意の組み合わせが、その可能な全ての改変において本発明に包含される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
【配列表】
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