(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィドポリマー組成物及び対応する物品
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20230724BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/14
(21)【出願番号】P 2019568082
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2018063586
(87)【国際公開番号】W WO2018224314
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-23
(32)【優先日】2017-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アニム-ダンソ, エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ボンジョヴァンニ, アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】マルタン, フィリップ
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534278(JP,A)
【文献】特開2001-302918(JP,A)
【文献】特開2005-015792(JP,A)
【文献】特開2006-265398(JP,A)
【文献】特開2000-247677(JP,A)
【文献】特表2001-515448(JP,A)
【文献】特開平10-279800(JP,A)
【文献】特開2014-205614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-170g/10分以下のメルトフロー速度を有する低MFR PPSポリマーと、
-E-CRガラス繊維と、
-任意で少なくとも700g/10分のメルトフロー速度を有する高MFR PPSポリマーと、
を含み、
-メルトフロー速度は、ASTM D1238Bに従って5kgの重りを使用して316℃で測定され;
-前記E-CRガラス繊維が、ASTM D578/D578M-05(2011)により定義されている
、改質E-ガラス繊維であり、
-前記E-CRガラス繊維が、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.5重量%未満のホウ素濃度
しか有さず、
-前記E-CRガラス繊維が、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、
少なくとも0.1重量%で0.25重量%以下のチタン濃度を有し、
-前記E-CRガラス繊維が、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、
少なくとも0.2重量%で0.5重量%以下のカリウム濃度を有し、
-前記E-CRガラス繊維が、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、
少なくとも0.01重量%で0.5重量%以下のナトリウム濃度を有する、
ポリフェニレンスルフィド(「PPS」)ポリマー組成物。
【請求項2】
前記低MFR PPSポリマーは、150g/10分以下のメルトフロー速度を有する、請求項1に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項3】
前記低MFR PPSポリマー及び高MFR PPSポリマーの総濃度が、前記PPSポリマー組成物の総重量に対して、少なくとも30重量%であり、且つ、65重量%以下である、請求項1又は請求項2に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項4】
前記高MFR PPSポリマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項5】
前記高MFR PPSポリマーは、少なくとも900g/10分のメルトフロー速度を有する、請求項4に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項6】
前記低MFR PPSポリマーの前記高MFR PPSポリマーに対する濃度の比は、1:1~3:1である、請求項4又は5に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項7】
前記E-CRガラス繊維の濃度は、前記PPSポリマー組成物の総重量に対して、30重量%~60重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項8】
前記E-CRガラス繊維は、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.1重量%未満のホウ素を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項9】
前記E-CRガラス繊維は、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、少なくとも0.1重量%及び0.20重量%以下の濃度を有するチタンを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項10】
前記E-CRガラス繊維は、前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、少なくとも0.2重量%及び0.45重量%以下の濃度を有するカリウムを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項11】
前記E-CRガラス繊維は、
-前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.3重量%未満の濃度を有するナトリウムと、
-前記E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.1重量%未満のストロンチウム濃度と、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項12】
前記ポリマー組成物は、少なくとも120MPaの引張り強度を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項13】
前記PPSポリマー組成物は、
-30%以下の250時間の水老化後の引張り強度の保持と、
-35%以下の250時間の水老化後の引張り破断伸びの保持と、
を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項14】
前記低MFR PPSポリマー及び高MFR PPSポリマーはそれぞれ、以下の式:
による少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
b)を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物。
【請求項15】
物品は、水ポンプ、水道メーター、蛇口、バルブ、マニホールド、注ぎ口、パイプ、及び自動車液体リザーバーからなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載のPPSポリマー組成物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年6月8日出願の米国仮特許出願第62/516,929号及び2017年11月30日出願の米国仮特許出願第62/592,956号に対する優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、大幅に改善された水老化(water aging)特性を有するポリフェニレンスルフィドポリマー組成物に関する。更に、本発明は、ポリフェニレンスルフィドポリマー組成物を組み込んだ物品に関する。
【背景技術】
【0003】
強化ポリフェニレンスルフィド(「PPS」)ポリマー組成物は、PPSポリマーが水と接触している用途の設定で有利に使用される。一般的に、PPSポリマー組成物は、組成物の本質的に望ましい耐薬品性に加えて、高強度(例えば、引張り強度など)を有するPPSポリマー組成物を提供するために、E-ガラス繊維で強化されている。高い強度と望ましい耐薬品性のため、このような組成物は飲料水用途で特に望ましい。しかしながら、水と長時間接触した後、PPSポリマー組成物の強度が著しく低下し、PPSポリマー組成物を含む対応する部品の交換が必要になる。従って、水との長時間の接触中に強化PPSポリマー組成物の機械的特性の保持を増加させることが常に望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本明細書では、低メルトフロー速度(「MFR」)PPSポリマー及びE-CRガラス繊維を含むポリフェニレンスルフィド(「PPS」)ポリマー組成物が記載される。驚くべきことに、PPSポリマー組成物は、E-CRガラス繊維(「類似したPPSポリマー組成物」)の代わりに、E-ガラス繊維を有する対応するPPSポリマー組成物と比較して、水老化後の引張り強度と引張り破断伸びの保持(「水老化性能」)が大幅に改善されたことが発見された。更に、低MFR PPSポリマー及び高MFR PPSポリマーを組み合わせたE-CRガラス繊維を含むPPSポリマー組成物は、E-CRガラス繊維及び低MFR PPSポリマー又は高MFR PPSポリマーを含む対応するポリマー組成物と比較して、水老化性能に関して予期しない相乗効果を有することも発見された。少なくとも部分的に改善された水老化性能のために、PPSポリマー組成物は、ポリマー組成物が水と接触する用途の設定に有利に組み込まれ得る。例としては、これに限定されないが、飲料水用途が挙げられる。
【0005】
上記のように、PPSポリマー組成物は、水老化後の引張り強度の改善された保持及び引張り破断伸びの改善された保持を有する。参照しやすいように、引張り破断伸びは「引張り伸び」と呼ばれることがある。水老化中、PPSポリマー組成物から成形されたISO 527-2引張り棒は、脱イオン水に浸され、選択された期間の間135℃の温度に維持された。水老化については、実施例でより詳しく記載される。引張り強度の保持とは、PPSポリマー組成物から成形された成形されたままのISO 527-2引張り棒の引張り強度に対して、(1)PPSポリマー組成物から成形された成形されたままの(例えば、水老化なし)ISO 527-2引張り棒の引張り強度、及び(2)選択された時間の水老化後にPPSポリマー組成物から成形されたISO 527-2引張り棒の引張り強度における100倍の差を指す。定義されるように、引張り強度の保持の値が低いほど、水老化中の引張り強度の変化が少ないことを示す。いくつかの実施形態では、PPSポリマーは、250時間の水老化後、30%以下、好ましくは28%以下、より好ましくは26%以下、更により好ましくは24%以下、更により好ましくは22%以下、最も好ましくは20%以下の引張り強度の保持を有する。いくつかの実施形態では、PPSポリマーは、500時間の水老化後、30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは23%以下の引張り強度の保持を有する。いくつかの実施形態では、PPSポリマーは、1000時間の水老化後、34%以下、好ましくは30%以下、更により好ましくは28%以下、更により好ましくは27%以下の引張り強度の保持を有する。
【0006】
同様に、引張り伸びの保持とは、PPSポリマー組成物から成形された成形されたままのISO 527-2引張り棒の引張り伸びに対して、(1)PPSポリマー組成物から成形された成形されたままのISO 527-2引張り棒の引張り伸び、及び(2)135℃で選択された時間の水老化後にPPSポリマー組成物から成形されたISO 527-2引張り棒の引張り伸びにおける100倍の差を指す。定義されるように、引張り伸びの保持の値が低いほど、水老化中の引張り伸びの変化が少ないことを示す。いくつかの実施形態では、PPSポリマー組成物は、250時間の水老化後、35%以下、好ましくは30%以下、最も好ましくは25%以下の引張り伸びの保持を有する。いくつかの実施形態では、PPSポリマー組成物は、500時間の水老化後、35%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、最も好ましくは20%以下の引張り伸びの保持を有する。いくつかの実施形態では、PPSポリマー組成物は、1000時間の水老化後、30%以下、好ましくは25%以下の引張り伸びの保持を有する。
【0007】
本明細書に記載されるPPSポリマー組成物は、引張り強度の改善された保持及び引張り伸びの改善された保持に加えて、望ましい引張り強度及び引張り抵抗を有する。いくつかの実施形態では、PPSポリマー組成物は、少なくとも120メガパスカル(「MPa」)、好ましくは少なくとも140MPa、より好ましくは少なくとも160MPa、更により好ましくは少なくとも170MPa、更により好ましくは少なくとも175MPa、更により好ましくは少なくとも180MPa、更により好ましくは少なくとも185MPa、最も好ましくは少なくとも190MPaの引張り強度を有し得る。引張り強度は、以下の実施例に記載されているように測定され得る。これに加えて又はこの代わりに、いくつかの実施形態では、PPSポリマー組成物は、少なくとも1%、好ましくは少なくとも1.5%、最も好ましくは少なくとも1.6%の引張り破断伸びを有する。引張り破断伸びは、実施例に記載されているように測定され得る。
【0008】
PPSポリマー
PPSポリマー組成物は、低MFR PPSポリマーと、任意で、高MFR PPSポリマーとを含む。PPSポリマーは、PPSポリマーにおける繰り返し単位の総数に対して、少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PPS)を有する任意のポリマーを指す。いくつかの実施形態では、PPSポリマーは、PPSポリマーにおける繰り返し単位の総数に対して、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%又は少なくとも99モル%の繰り返し単位(R
PPS)を有する。繰り返し単位(R
PPS)は、以下の式:
(式中、R
1は、それぞれの位置で、アルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルケトン、アリールケトン、フルオロアルキル、フルオロアリール、ブロモアルキル、ブロモアリール、クロロアルキル、クロロアリール、アルキルスルホン、アリールスルホン、アルキルアミド、アリールアミド、アルキルエステル、アリールエステル、フッ素、塩素、及び臭素からなる群から独立して選択され、iは、0~4の整数であり、好ましくは0である)で表される。本明細書で使用される場合、破線の結合は、繰り返し単位外の原子への結合を示す。例えば、破線の結合は、同一の繰り返し単位、異なる繰り返し単位、又は非繰り返し単位の原子(例えば、末端封止基(end-capper))への結合であり得る。PPSポリマーは、式(1)による1つ以上の更なる繰り返し単位(R*
PPS)を含み得る。このような場合、更なる繰り返し単位(R*
PPS)はそれぞれ、互いに異なる、及び繰り返し単位(R
PPS)と異なる。1つ以上の更なる繰り返し単位(R*
PPS)を含む実施形態では、繰り返し単位(R
PPS)及び1つ以上の更なる繰り返し単位(R*
PPS)の総濃度は、PPSポリマーにおける繰り返し単位の総数に対して、少なくとも50モル%、いくつかの実施形態では、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、又は少なくとも99モル%である。明確にするために、低MFR PPSポリマーと高MFR PPSポリマーの両方を含む実施形態では、低MFR PPSポリマーは、式(1)に従って少なくとも50モル%の繰り返し単位(R
PPS)を含み、高MFR PPSポリマーは、少なくとも50モル%の式(1)による繰り返し単位を含み、これは低MFR PPSポリマーの繰り返し単位(R
PPS)と同じであり得るか又は異なり得る。
【0009】
本明細書で使用される場合、低MFR PPSポリマーは、170グラム/10分(「g/10分」)以下、好ましくは150g/10分以下、より好ましくは140g/10分以下、最も好ましくは130g/10分以下のメルトフロー速度を有する。いくつかの実施形態では、これに加えて又はこの代わりに、低MFR PPSポリマーは、少なくとも50g/10分、好ましくは少なくとも60g/10分、より好ましくは少なくとも65g/10分、最も好ましくは少なくとも70g/10分のメルトフロー速度を有する。上記のように、いくつかの実施形態では、PPSポリマー組成物は、低MFR PPSポリマーに加えて高MFR PPSポリマーを含む。本明細書で使用される場合、高MFR PPSポリマーは、少なくとも700g/10分、好ましくは少なくとも900g/10分、最も好ましくは少なくとも1000g/10分のメルトフロー速度を有する。いくつかの実施形態では、これに加えて又はこの代わりに、高MFR PPSポリマーは、2500g/10分以下、好ましくは2200g/10分以下、最も好ましくは2000g/10分以下のメルトフロー速度を有する。本明細書で使用される場合、メルトフロー速度とは、ASTM D1238Bに従って5キログラム(「kg」)の重量を使用して測定される316℃でのメルトフロー速度を指す。
【0010】
低MFR PPSポリマー及び高MFR PPSポリマーの総濃度は、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、最も好ましくは少なくとも40重量%であり得る。これに加えて又はこの代わりに、低MFR PPSポリマー及び高MFR PPSの総濃度は、65重量%以下、好ましくは60重量%以下、最も好ましくは55重量%以下であり得る。明確にするために、高MFR PPSポリマーが存在しない実施形態では、前述の濃度範囲は低MFR PPSポリマーの濃度を指す。本明細書で使用される場合、重量%は、特に明記しない限り、PPSポリマー組成物の総重量に対してである。PPSポリマー組成物が低MFR PPSポリマー及び高MFR PPSポリマーを含むいくつかの実施形態では、低MFR PPSポリマーの高MFR PPSポリマーに対する相対濃度は、1:1~3:1、好ましくは1:1~2.5:1、より好ましくは1:1~2:1、最も好ましくは1:1~1:1.5である。
【0011】
E-CRガラス繊維
ポリマー組成物は、E-CRガラス繊維を含む。E-CRガラス繊維は、ほとんどの酸による腐食に対する耐性を改善するために使用され、ASTM D578/D578M-05(2011)により定義されている、ホウ素を含まない改質E-ガラス繊維である。いくつかの実施形態では、E-CRガラス繊維の濃度は、30重量%~60重量%、好ましくは35重量%~55重量%である。
【0012】
シリカ、アルミナ、及びカルシウムとマグネシウムの酸化物に加えて、Eガラス繊維は、ホウ素(一般に酸化ホウ素として)を含む。E-ガラス繊維の一般的な組成は、ASTM D578/D578M-05(2011)に従って標準化される。ガラスの溶融粘度を下げるのに役立つように酸化ホウ素が含まれており、これによりガラス繊維をより低い加工温度で製造することができる。一般的に、ガラス繊維中の酸化ホウ素の濃度は、ガラス繊維の総重量に対して、少なくとも2重量%であり、8重量%又は更にそれを超えるほど高くあり得る。いくつかの実施形態では、Eガラス繊維は、繊維形成プロセスを支援するためのフラックス剤としてフッ化物を更に含む。
【0013】
対照的に、E-CRガラス繊維は、ホウ素を含まず、任意でフッ化物を含まない。本明細書で使用される場合、ホウ素を含まないガラス繊維は、ガラス繊維の総重量に対して、1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満、更により好ましくは0.05重量%未満、更により好ましくは0.03重量%未満、最も好ましくは0.02重量%未満のホウ素濃度を有する。本明細書で使用される場合、フッ化物を含まないガラス繊維は、ガラス繊維の総重量に対して、0.04重量%未満、好ましくは0.01重量%未満のフッ化物濃縮物を有する。ホウ素濃度及びフッ化物濃度は、実施例に記載されているように、誘導結合プラズマ原子発光分析(「ICP-AES」)によって測定され得る。
【0014】
酸化ホウ素が存在しない(又は非常に小さい濃度)場合、E-CRガラス繊維は、ガラス繊維の溶融粘度を下げるために二酸化チタンを更に含む。いくつかの実施形態では、ガラス繊維におけるチタンの濃度は、E-CRガラス繊維の総重量に対して、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.15重量%、最も好ましくは少なくとも0.17重量%である。いくつかの実施形態では、これに加えて又はこの代わりに、E-CRガラス繊維は、ガラス繊維の総重量に対して、0.25重量%以下、好ましくは0.20重量%以下、最も好ましくは0.19重量%以下のチタン濃度を有する。チタン濃度はICP-AESで測定され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、二酸化チタンに加えて、E-CRガラス繊維は、フラックス剤として酸化カリウムを更に含むことができる。いくつかのこのような実施形態では、E-CRガラス繊維は、E-CRガラス繊維の総重量に対して、少なくとも0.2重量%、好ましくは少なくとも0.25重量%、より好ましくは少なくとも0.3重量%、最も好ましくは少なくとも0.35重量%のカリウム濃度を有する。いくつかの実施形態では、これに加えて又はこの代わりに、E-CRガラス繊維は、E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.5重量%以下、好ましくは0.45重量%以下のカリウム濃度を有する。カリウム濃度はICP-AESによって測定され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、E-CRガラス繊維は、E-ガラス繊維と比較して低減された酸化ナトリウム濃度を有する。いくつかのこのような実施形態では、E-CRガラス繊維は、E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.5重量%未満、好ましくは0.3重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満、最も好ましくは0.05重量%未満のナトリウム濃度を有する。これに加えて又はこの代わりに、いくつかの実施形態では、E-CRガラス繊維は、少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.02重量%のナトリウム濃度を有する。いくつかの実施形態では、E-CRガラス繊維は、E-CRガラス繊維の総重量に対して、0.1重量%未満、好ましくは0.07重量%未満、より好ましくは0.05重量%未満、最も好ましくは0.02重量%未満のストロンチウム濃度を有する。これに加えて又はこの代わりに、いくつかの実施形態では、E-CRガラス繊維は、少なくとも0.01重量%のストロンチウム濃度を有する。ナトリウム及びストロンチウムの濃度は、ICP-AESによって測定され得る。
【0017】
添加剤
PPSポリマー及びE-CRガラス繊維に加えて、PPSポリマー組成物は、任意で、強化充填剤、潤滑剤、加工助剤、可塑剤、流動改質剤、難燃剤、帯電防止剤、伸張剤、顔料、染料又は着色料、及び金属不活性化剤を含むことができる。
【0018】
存在する場合、添加物の総濃度は、PPSポリマー組成物の総重量に対して、0.1重量%から10重量%まで、好ましくは5重量%まで、最も好ましくは2重量%までであり得る。
【0019】
物品
上記のように、少なくとも部分的に、本明細書に記載のPPSポリマー組成物の改善された水老化性能により、PPSポリマー組成物は、自動車用途の設定と同様に飲料水用途の設定に望ましく組み込むことができる。飲料水用途に関して、いくつかのこのような実施形態では、配管器具はPPSポリマー組成物を含む。いくつかのこのような実施形態では、配管器具は、水ポンプ、水道メーター、蛇口、バルブ、マニホールド、注ぎ口及びパイプからなる群から選択され得る。自動車用途に関して、いくつかの実施形態では、自動車液体リザーバーはPPSポリマー組成物を含む。一般的に、自動車液体リザーバーは、自動車部品に送られる(及び任意で自動車部品から返される)自動車液体を保持するための容器である。いくつかのこのような実施形態では、自動車液体リザーバーは、エンジン冷却剤リザーバー及びフロントガラスワイパー液体リザーバーからなる群から選択される。PPSポリマー組成物は、飲料水又は自動車用途の設定に組み込まれる場合、それぞれ、配管設備及び自動車液体リザーバーの予想される使用中に水又は自動車液体と接触することが意図される。別の言い方をすれば、意図された通りに使用される場合、PPSポリマー組成物が配管設備と自動車液体リザーバーにそれぞれ組み込まれるとき、PPSポリマー組成物は、水又は自動車液体と接触する。
【0020】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0021】
これらの実施例は、本明細書に記載のPPSポリマー組成物の高温水老化性能を実証する。
【0022】
水老化性能を実証するために、いくつかの試料組成物を作成した。組成物はそれぞれ、70g/10分(「低MFR PPS」)又は1500g/10分(「高MFR PPS」)のメルトフロー速度を有するPPSポリマーを含んだ。一部の組成物は、ガラス繊維(「GF」)、Johns ManvilleからThermoFlow(登録商標)770として入手したE-ガラス繊維(「E-GF 1」)、Nippon Electric Glass AmericaからECS 03 T779DEとして入手したEガラス繊維(「E-GF2」)又はE-CRガラス繊維(3B-The Fiberglass Companyの3B DS 8800-11P)を組み込んだ。
【0023】
ガラス繊維のホウ素濃度は、ICP-AESを使用して測定した。ICP-AES分析のために、清浄な乾燥したプラスチック容器を化学天秤に配置し、天秤をゼロに合わせた。試料の0.5~3グラムを秤量し、重量を0.0001gまで記録した。次いで、試料をフッ化水素酸に溶解した。ICP-AESで試験を開始する前に、溶液を水酸化ホウ素で中和した。
【0024】
ICP-AES分析は、誘導結合プラズマ発光分光器Perkin-Elmer Optima 8300 dual viewを使用して実施した。発光分光器は、0.0~10.0mg/Lの被分析物濃度を有する一組のNISTトレーサブル多要素混合標準物質を使用して較正した。48の検体それぞれについて0.9999より優れた相関係数を備える濃度の全範囲で線形較正曲線を得た。標準物質は、機器安定性を保証するために10個の試料毎の前後に実施した。結果は、3回の実験の平均値として報告した。試料中の元素不純物の濃度は、下記の方程式を用いて計算した:
A=(B*C)/(D)
(式中、
A=mg/kgでの試料中の元素の濃度、
B=mg/LでのICP-AESによって分析された溶液中の元素、
C=mLでのICP-AESによって分析された溶液の体積、
D=この手順で使用されたグラムでの試料重量。)
E-GF1、E-GF2、及びE-CRガラス繊維は、それぞれ、1.31重量%、1.53重量%、及び0.019重量%未満のホウ素のホウ素濃度を有した。
【0025】
一部の組成物は、高密度ポリエチレン潤滑剤又は染料のブレンドを含む色のパッケージを含んだ。試料組成それぞれのパラメータを表1に挙げる。
【0026】
【0027】
水老化性能を試験するために、149℃の鋳型温度を使用して、ISO 527-2に従ってISO引張り棒を試料組成物から形成した。引張り棒を密封容器に入れ、容器を脱イオン水で満たし、オーブンにて135℃に加熱した。選択した老化時間(250時間又は500時間又は1000時間)の間、引張り棒を135℃に維持した。老化に続いて、引張り棒を容器から取り外し、拭いて乾燥させた。引張り強度(「TS」)及び破断伸びは、ISO 527-2に従って測定した。水老化パラメータと機械的試験の結果を表2に示す。表2で、「初期」は、水老化がないことを示す(機械的特性は、ISO引張り棒の成形後に試験された)。表2で、ΔEとΔTSは、対応する初期値に対して、それぞれ引張り伸びと引張り強度の相対変化である。
【0028】
【0029】
試験された試料について、E-CRガラス繊維を含む試料は、Eガラス繊維を有する試料と比較して驚くほど改善された水老化性能を有した。引張り強度の保持に関して、試料CE2(Eガラス繊維)は、それぞれ250時間、500時間、及び1000時間の水老化後、38.3%、40.6%、及び42.2%の引張り強度の相対変化を有した。一方、試料E2(E-CRガラス)は、それぞれ250時間、500時間、及び1000時間の水老化後、18.8%、22.0%、及び26.3%の引張り強度の相対変化を有した。即ち、E-CRガラス(E2)を有する試料は、試料CE2と比較して、それぞれ250時間、500時間、及び1000時間後の引張り強度の保持において19.5%、18.6%、及び15.9%の差(改善)を示した。更に又、試料E2の引張り強度は、当初は試料CE2と比較して増加し、従って水老化後も増加した。試料CE1と比較すると、試料E1で同様の結果が見られた。
【0030】
引張り伸びの保持に関して、上記の引張り強度に関して記載されたのと同様の結果が得られただけでなく、500時間及び1000時間の水老化の後、E-CRガラス繊維を含む試料は、同じ又は改善された引張り伸びの保持を示す。例えば、試料E2(E-CRガラス繊維)は、250時間及び500時間の両方の水老化後、試料CE2(Eガラス繊維)と比較して引張り伸びの保持が11.7%改善され、1000時間の水老化後16.7%改善された。同様に、試料E1(E-CRガラス繊維)は、試料CE1(Eガラス繊維)と比較して、それぞれ250時間、500時間、及び1000時間の水老化後、引張り伸びの保持が12.5%、19.1%、及び21.1%改善された。更に、試料E1は、試料CE1と比較して初期の引張り伸びが大きかった。更に、500時間及び1000時間の水老化後、試料E1からE3(E-CRガラス繊維)は全て、250時間の水老化後の対応する値と比較して、改善された(低い)又は同じ引張り伸びの保持を示した。一方、500時間及び1000時間の水老化後、試料CE1からCE3(Eガラス繊維)は全て、250時間の水老化後の対応する値と比較して、同じ又は低下した引張り伸びの保持を示した。
【0031】
又、試料は、低MFR PPSと高MFR PPSとE-CRガラス繊維との組み合わせで予期しない相乗効果を示した。再び表2を参照すると、引張り強度に関して、試料E2(低MFR PPS)の初期の引張り強度は186MPaであり、試料E3(高MFR PPS)の初期の引張り強度は165MPaであった。しかしながら、試料E1(低MFR PPS及び高MFR PPS)の初期の引張り強度は、201MPaであり、それぞれ試料E2及びE3と比較して初期の引張り強度が8.06%及び21.8%改善されたことを示した。更に又、試料E1は、試料E2(18.8%)及びE3(22.4%)と比較して、250時間(17.9%)の水老化後の引張り強度の相対変化が大幅に減少した。引張り伸びに関して、同様の結果が得られた。例えば、試料E1は、試料E2(33.3%)及びE3(28.3%)と比較して、250時間(23.5%)の水老化後の引張り伸びの相対変化が大幅に減少した。500時間の水老化後、試料E1は、試料E2(33.3%)及びE3(25%)と比較して、引張り伸びの相対変化が減少した(17.6%)。1000時間の水老化の後、同様の結果が得られた。
【0032】
上記の実施形態は、例示的であり、限定的ではないことを意図する。更なる実施形態は、本発明のコンセプト内である。加えて、本発明は特定の実施形態に関連して記載されているが、当業者は、変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく形式上及び詳細に行われ得ることを認めるであろう。上記の文書の参照によるいかなる援用も、本明細書での明確な開示に反している主題はまったく援用されないように限定される。