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特許7317792特に発振機構のための可撓性測時器構成要素、及びそのような構成要素を含む測時器ムーブメント
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  • 特許-特に発振機構のための可撓性測時器構成要素、及びそのような構成要素を含む測時器ムーブメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】特に発振機構のための可撓性測時器構成要素、及びそのような構成要素を含む測時器ムーブメント
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20230724BHJP
   F16F 1/08 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
F16F1/08
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020206490
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2021099325
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】19219083.3
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・キュザン
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518965(JP,A)
【文献】特表2015-501591(JP,A)
【文献】特表2007-533973(JP,A)
【文献】特開2019-7955(JP,A)
【文献】特開2017-205868(JP,A)
【文献】特開2018-193607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0212702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
F16F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測時器ムーブメントの発振機構のための可撓性測時器構成要素(6、7)であって、前記構成要素は、主平面(P)に沿って延在し、複合材料(1)から作製した少なくとも一部を含む、構成要素(6、7)において、前記複合材料(1)は、母材(2)と、前記母材(2)内に分散する多数のナノワイヤ(3)とを備え、前記ナノワイヤ(3)は、前記構成要素の前記平面(P)に実質的に直交する軸(A)と実質的に平行に配設し、前記母材(2)は、前記ナノワイヤ(3)の間の隙間を充填する可撓性充填材料(4)から形成され、前記充填材料(4)は、熱補償材料(18)を少なくとも部分的に含み、前記複合材料のうちの熱補償材料(18)の熱弾性係数(TEC)は0よりも大きい熱弾性係数を有し、前記複合材料(1)のうちの他の材料の熱弾性係数は0よりも小さい熱弾性係数を有し、さらに、
前記ナノワイヤ(3)は、以下のリスト:金、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ガリウム、窒化ケイ素、酸化亜鉛、ヒ化ガリウム、硫化タングステン、銀、銅、ヒ化マンガン、ヒ化インジウムから選択した成分を使用して作製することを特徴とする、構成要素(6、7)。
【請求項2】
前記熱補償材料(18)は、酸化ケイ素SiO2を含むことを特徴とする、請求項1に記載の構成要素(6、7)。
【請求項3】
前記熱補償材料は、ニオブを含むことを特徴とする、請求項1に記載の構成要素(6、7)。
【請求項4】
前記熱補償材料は、前記母材の外側層を形成することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成要素(6、7)。
【請求項5】
前記熱補償材料は、前記ナノワイヤの上に直接配置することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成要素(6、7)。
【請求項6】
前記ナノワイヤ(3)は、2から50nmに及ぶ範囲内の直径(D)を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の構成要素(6、7)。
【請求項7】
前記ナノワイヤ(3)は、100から500ミクロンに及ぶ範囲内の長さ(L)を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の構成要素(6、7)。
【請求項8】
前記充填材料(4)は、以下のリスト:ケイ素、タングステン、有機材料、六方晶窒化ホウ素、Al2O3型単結晶ルビー、ダイヤモンド、二硫化タングステン又は二硫化モリブデン、グラファイト、鉛、炭化ケイ素、ニッケル、燐化インジウム、酸化チタンから選択した成分を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の構成要素(6、7)。
【請求項9】
前記構成要素は、発振機構のぜんまい(6)、又は発振機構の可撓性羽根案内部であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の構成要素(6、7)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の可撓性測時器構成要素(6、7)を備えることを特徴とする、測時器ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に測時器ムーブメントの発振機構のための、正の熱弾性係数を有する可撓性測時器構成要素に関する。
【0002】
本発明は、そのような構成要素を含む測時器ムーブメントにも関する。
【背景技術】
【0003】
測時器ムーブメントは、概して、香箱と、脱進機構と、機械式共振機構とを備える。脱進機構は、特に、アンクル組立体と脱進車とを含む一方で、発振機構は、てんぷと呼ばれる発振慣性ブロックに関連付けられたぜんまいを備える。
【0004】
複合材料の技術的な発達により、現在、特定の構成要素を革新的で高性能な材料で製造することを可能にし、このことにより、少なくとも部分的に金属材料を使用しないことを可能にしている。現時点では、例えば構成要素を製造するためのナノチューブ又はナノワイヤの使用が試みられている。ナノチューブ又はナノワイヤを用いるそのような材料は、軽量化及び強度の点で利点を提供する。したがって、文献特開2008-116205は、ぜんまいを記載しており、ぜんまいは、カーボン・ナノチューブによって補強したグラファイト・アモルファス・カーボン母材を備え、カーボン・ナノチューブは、母材内に分散され、ぜんまいの長手方向で位置合わせされる。
【0005】
しかし、可撓性構成要素、例えば共振器は、一般的に、共振器が行う反復運動の間の温度変動のため、変形、及び弾性特性の変更を受ける。ぜんまい式てんぷの場合、温度を関数とする振動数の変動は、以下の式:
【0006】
【数1】
【0007】
に実質的に従うものであり、式中、
【0008】
【数2】
【0009】
は、温度を関数とする振動数の変動であり、
【0010】
【数3】
【0011】
は、温度を関数とするヤング率の変動、即ち、てんぷ-ぜんまいの熱弾性係数(TEC)であり、
-αsは、ppm.℃-1で表されるてんぷ-ぜんまいの膨張係数であり、
-αbは、ppm.℃-1で表されるてんぷの膨張係数である。
【0012】
材料の変形及び特性の変更は、可撓性構成要素に対する弾性率の変動を誘発する。しかし、こうした弾性率の温度に誘発される変動は、測時器ムーブメントの正確さを妨げるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の一目的は、上記で挙げた問題を回避する可撓性測時器構成要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的で、本発明は、測時器ムーブメントの発振機構のための可撓性測時器構成要素に関し、構成要素は、主平面に沿って延在し、複合材料から作製した少なくとも一部を含む。
【0015】
構成要素は、複合材料が母材と、母材内に分散する多数のナノチューブ又はナノワイヤとを備え、ナノチューブ又はナノワイヤを、構成要素の平面に実質的に直交する軸と実質的に平行に並置、配設し、母材が、ナノチューブ又はナノワイヤの間の隙間を充填する可撓性充填材料を含み、充填材料が、熱補償材料を少なくとも部分的に含み、熱補償材料の熱弾性係数が、複合材料の他の材料の熱弾性係数の符号に対し反対の符号であるという点で注目に値する。
【0016】
したがって、そのような可撓性構成要素のために、温度が変動した際、材料、例えばぜんまいの特性の変更を補償することが可能である。実際、複合材料の他の材料の熱弾性係数の符号に対し反対の符号の熱弾性係数を有する熱補償材料は、変形が、反対の符号の熱弾性構成要素を有する複合材料の他の材料の変形とは逆に生じる。したがって、構成要素の性能は、構成要素の使用温度にかかわらず、特に、著しい温度変動の場合、実質的に依然として同じである。
【0017】
有利な実施形態によれば、熱補償材料は、0よりも大きい熱弾性係数を有する。この場合、熱補償材料は、0よりも小さい熱弾性係数を有する他の材料を補償する。
【0018】
有利な実施形態によれば、熱補償材料は、好ましくは主に、又は更には完全に、酸化ケイ素SiO2を含む。
【0019】
有利な実施形態によれば、熱補償材料は、好ましくは主に、又は更には完全に、ニオブを含む。
【0020】
有利な実施形態によれば、熱補償材料は、母材の外側層を形成し、外側層は、好ましくは、母材を完全に取り囲む。
【0021】
有利な実施形態によれば、熱補償材料は、ナノチューブ又はナノワイヤの上に直接配置する。
【0022】
有利な実施形態によれば、ナノチューブは、炭素から作製する。
【0023】
有利な実施形態によれば、ナノチューブは、多重壁である。
【0024】
有利な実施形態によれば、ナノワイヤは、以下のリスト:金、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ガリウム、窒化ケイ素、酸化亜鉛、ヒ化ガリウム、硫化タングステン、銀、銅、ヒ化マンガン、ヒ化インジウムから選択した成分を使用して作製する。
【0025】
有利な実施形態によれば、ナノチューブ又はナノワイヤは、2から50nmに及ぶ範囲内、好ましくは、3から15nm又は5から10nmに及ぶ範囲内の直径を有する。
【0026】
有利な実施形態によれば、ナノチューブ又はナノワイヤは、100から500ミクロンに及ぶ範囲内、好ましくは、100から300ミクロン又は150から200ミクロンに及ぶ範囲内の長さを有する。
【0027】
有利な実施形態によれば、充填材料は、以下のリスト:ケイ素、タングステン、パリレン等の有機材料、六方晶窒化ホウ素、Al2O3型単結晶ルビー、ダイヤモンド、二硫化タングステン又は二硫化モリブデン、グラファイト、鉛、炭化ケイ素、ニッケル、燐化インジウム、酸化チタンから選択した成分を更に含む。
【0028】
有利な実施形態によれば、構成要素は、発振機構のぜんまい、又は発振機構の可撓性羽根案内部である。
【0029】
本発明は、測時器ムーブメントにも関し、測時器ムーブメントは、本発明による可撓性測時器構成要素を備える。
【0030】
本発明の更なる特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら単なる非限定的な例として示されるいくつかの実施形態を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1の実施形態による複合材料の概略全体斜視図である。
図2】本発明の第2の実施形態による複合材料の概略全体斜視図である。
図3】発振機構のぜんまいを備えるてんぷの概略斜視図である。
図4】本発明の第1の実施形態を製造する方法の間の複合材料の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の説明において、測時器ムーブメントのための可撓性構成要素を説明する。構成要素は、例えば、発振機構のぜんまい、又は発振機構の可撓性羽根案内部を含むリストから選択される可撓性構成要素である。
【0033】
可撓性構成要素は、好ましくは、平坦であり、主平面(P)に沿って延在する。構成要素は、図1に表される複合材料1から作製した少なくとも一部を含む。好ましくは、構成要素は、この複合材料1から完全に作製される。したがって、上述のリストからの構成要素は、この複合材料1から作製することができる。
【0034】
複合材料1は、母材2と、前記母材2内に分散する多数のナノチューブ又はナノワイヤ3とを備える。構成要素は、例えば、好ましい平面Pに沿って延在する実質的に平坦な形状を有する。
【0035】
ナノチューブ又はナノワイヤ3は、複合材料1の構造体を形成し、ナノチューブ又はナノワイヤ3は、互いに実質的に平行に並置、配設される。ナノチューブという用語は、内部が概ね中空であるチューブを示す一方で、ナノワイヤは、概ね中実、即ち、一体化されている。
【0036】
ナノチューブ又はナノワイヤ3は、構成要素1の平面Pに直交する軸Aと実質的に平行に配設される。ナノチューブ又はナノワイヤ3は、母材2内に均一に離間するように均等に分散される。有利には、複合材料は、ナノチューブ又はナノワイヤ3が母材2の全体に存在するように具現化される。
【0037】
ナノチューブ又はナノワイヤ3は、例えば、2から50nmに及ぶ範囲内の直径Dを有する。好ましくは、ナノチューブ又はナノワイヤ3は、3から15nm又は5から10nmに及ぶ範囲内の直径を有する。
【0038】
ナノチューブ又はナノワイヤ3は、100から500ミクロンに及ぶ範囲内の長さLを有することができる。好ましくは、ナノチューブ又はナノワイヤ3は、100から300ミクロン又は150から200ミクロンに及ぶ範囲内の長さを有することができる。
【0039】
第1の実施形態では、複合材料は、炭素から作製したナノチューブ3を含む。カーボン・ナノチューブ3は、概ね多重の壁であるが、任意で、単一の壁であってもよい。
【0040】
第2の実施形態によれば、複合材料は、以下のリスト:金、ケイ素、窒化ホウ素、窒化ガリウム、窒化ケイ素、酸化亜鉛、ヒ化ガリウム、硫化タングステン、銀、銅、ヒ化マンガン、ヒ化インジウムから選択される材料を使用して少なくとも部分的に作製されたナノワイヤ3を含む。
【0041】
母材2は、隙間を充填し、ナノチューブ又はナノワイヤ3を互いに接合する充填材料4を含む。材料4は、有利には、ナノチューブ又はナノワイヤ3の間の隙間5内に注入することによって、ナノチューブ又はナノワイヤ3を含むことができる。この材料4は、ナノチューブ又はナノワイヤ3の間の結合をもたらすのを助け、したがって、ナノチューブ又はナノワイヤ3の全ての機械的特性を修正し、特に、母材を可撓性にする。ナノチューブの第1の実施形態では、材料4は、ナノチューブ3の内部14に配置することもできる。
【0042】
充填材料4は、構成要素の可撓性、及び充填材料4が弾性機械的特性を有することを可能にする。更に、可撓性構成要素は、構成要素のために選択される幾何学的形状のために得られる。したがって、この可撓性充填材料4のために、測時器機構の特定の構成要素を具現化することができる。
【0043】
本発明によれば、充填材料4は、熱補償材料18を少なくとも部分的に含み、熱補償材料18の熱弾性係数(TEC)は、複合材料(1)の他の材料の熱弾性係数(TEC)の符号に対し反対の符号である。
【0044】
熱弾性係数(TEC)は、例えば、1ppm/℃から100ppm/℃に及ぶ範囲内である。
【0045】
熱補償材料18の体積分率及び熱弾性係数は、充填材料4の熱弾性係数を補償するように選択される。この選択は、計算又は実験により行うことができる。
【0046】
第1の代替実施形態では、熱補償材料18は、好ましくは主に、又は更には完全に、酸化ケイ素SiO2を含む。酸化ケイ素は、ケイ素の酸化によって得ることができる。ケイ素は、公知のLPCVD型低圧蒸着技法を使用して、又はALD型原子層堆積、PECVD型プラズマ堆積、又は実際には、エピタキシャル成長によって薄層内に堆積される。この場合、熱補償材料18の熱弾性係数は0よりも大きく、熱弾性係数が0よりも小さい材料の補償を可能にする。
【0047】
第2の代替実施形態では、熱補償材料18は、好ましくは主に、又は更には完全に、ニオブを含む。ニオブは、PVD、CVD又はALD等の従来の公知の薄層堆積技法を使用して堆積し得る遷移金属である。
【0048】
両方の実施形態に関し、母材2を形成する充填材料4は、以下のリスト:タングステン、パリレン等の有機材料、六方晶窒化ホウ素、Al2O3型単結晶ルビー、ダイヤモンド、二硫化タングステン又は二硫化モリブデン、グラファイト、鉛、炭化ケイ素、ニッケル、燐化インジウム、酸化チタン又は炭素からの更なる成分を更に含むことができる。例えば、充填材料の成分は、ケイ素であり、熱補償層は、酸化ケイ素である。
【0049】
図1に表す第1の実施形態では、熱補償材料18は、ナノチューブ又はナノワイヤ3の上に直接配置する。熱補償材料18は、ナノチューブ又はナノワイヤ3の間に浸透させ、ナノチューブ又はナノワイヤ3を少なくとも部分的に覆うようにする。熱補償材料18がある場合、充填材料4の成分もナノチューブ又はナノワイヤ3の間に浸透させ、熱補償材料18を覆うようにする。この場合、複合材料1は、ナノチューブ又はナノワイヤ3、熱補償材料18、及び充填材料4の更なる成分から形成される。
【0050】
ニオブの場合、ニオブは、充填材料4の成分、例えば、チタンと混合し、本発明による熱補償特性をもたらす合金を生成することができる。
【0051】
第1の代替実施形態では、充填材料4の成分は、ナノチューブ又はナノワイヤ3の間に浸透させ、次に、熱補償材料によって覆われる。熱補償材料もナノチューブ又はナノワイヤの間に浸透させるが、ナノチューブ又はナノワイヤと直接接触しない。
【0052】
第2の代替実施形態では、熱補償材料18のみをナノチューブ又はナノワイヤの間に浸透させ、ナノチューブ又はナノワイヤを互いに接合し、構成要素を形成する。この場合、充填材料4は、熱補償材料のみによって形成され、更なる成分を伴わない。この場合、複合材料1は、ナノチューブ又はナノワイヤ3及び熱補償材料18によって形成される。
【0053】
第2の実施形態では、補償材料18は、母材の外側層19を形成し、外側層19は、好ましくは、母材を完全に取り囲むが、いくつかの面のみの上に層を堆積することが可能である。この実施形態に関し、充填材料4の成分は、ナノチューブ又はナノワイヤ3の間に浸透させ、構成要素のコアを形成し、次に、熱補償材料層19をコアの周囲に堆積して構成要素を形成する。
【0054】
充填材料4により、構成要素の可撓性、材料4が可撓性機械的特性を有することを可能にし、構成要素の弾性変形を可能にする。更に、可撓性構成要素は、構成要素のために選択した幾何学的形状のために得られる。構成要素は、例えば、測時器ムーブメントの発振機構8のぜんまい6である。
【0055】
したがって、測時器構成要素は、ナノチューブ又はナノワイヤをベースとする複合材料の利点から利益を得ることができる一方で、この種類の構成要素、例えばぜんまいに必須の特性を保持する。
【0056】
図3は、そのような可撓性複合材料から作製したてんぷ8のぜんまい6を表す。ぜんまい6は、向かい合う条片部分の間に間隙があるように、アルキメデスのらせん状に巻かれた細い条片である。したがって、ぜんまいを収縮、変形させることによって、所望のばね効果が得られる。てんぷ8は、円形リング9と、2つの直線状腕部11、21とを備え、2つの直線状腕部11、21は、リング9の中心で交差し、リング9の2つの対向する側を接続する。腕部11、21は、リング9の平面に実質的に直交する天真12を保持する。天真12は、第1の端部によって、リング9の平面と平行である平面内でぜんまい6を支承する。第2の端部は、測時器ムーブメントの別の部品17に取り付けられることを意図する。
【0057】
構成要素を製造するため、例えば、以下ステップを含む方法が使用される:
-所望の構成要素の形状に対応する特定の場所でナノチューブ又はナノワイヤのフォレストの成長が生じるように、好ましくはフォトリソグラフィによって、基体、例えばケイ素基体を調製する第1のステップ。したがって、可撓性ぜんまい又は枢軸体の形状は、フォトリソグラフィによって設計される。
-図示しないが、基体上にナノチューブ又はナノワイヤを成長させる第2のステップ。
-ナノチューブ又はナノワイヤ分散体内に母材の充填成分材料を挿入する第3のステップ。
-基体から構成要素を分離する第4のステップ。
【0058】
第2のステップの間、ナノチューブ又はナノワイヤ12は、基体と実質的に直交する軸と平行に成長する。
【0059】
カーボン・ナノチューブの場合、第1のステップ及び第2のステップの例は、文献「Mechanical and electrical properties of carbon-nanotube-templated metallic microstructures」、Richard Scott Hansen著(2012年6月)、又はブリガム・ヤング大学、Collin Brownによる卒業論文、名称「Infiltration of CNT forests by Atomic Layer Deposition for MEMS applications」(2014年4月22日)に見いだされる。
【0060】
図5では、基体9は、シリカ層10、及び触媒層11、例えば鉄で被覆される。カーボン・ナノチューブ12は、成長によって触媒層11上に形成される。
【0061】
第2のステップから上流で、更なるナノチューブは、例えば超音波によって、溶媒中で混合し、触媒層上に分散させ、ナノチューブ上層を画定することができる。このナノチューブ上層13は、多孔性であり、ナノチューブ12を形成する炭素(又は他の材料)をナノチューブ上層13を通じて堆積することができ、ナノチューブ12が上層13の下で成長するようにする。したがって、ナノチューブ12の規則的で均質な成長が保証され、このため、ナノチューブ12は、全て実質的に同じ長さを有する。第3のステップは、多孔性のために、ナノチューブ12の上層13を通じても実施される。
【0062】
ナノワイヤの製造に関し、リスト内で選択される材料に関連する従来の技法が使用される。例えば、CVD(化学蒸着)型化学的堆積又はPVD(物理蒸着)型物理的堆積による薄層堆積が好ましくは使用される。第1の実施形態の場合のように、フォトリソグラフィ方法を使用し、例えばケイ素から作製した基体の、ナノワイヤを成長させる場所を選択する。可撓性材料をナノワイヤの間に浸透させる。最後に、浸透が完了した後、構成要素を基体から分離する。
【0063】
国際特許出願WO2014/172660は、シリカ・ナノワイヤの一実施形態例を示している。シリカ・ナノワイヤは、0よりも大きい熱弾性係数を有する。したがって、充填材料の熱弾性補償材料は、ナノワイヤ材料を補償するように、0よりも小さい熱弾性係数を有さなければならない。
【0064】
当然、本発明は、図面を参照しながら説明する実施形態に限定されず、本発明の範囲を離れることなく代替実施形態を想定し得る。
【符号の説明】
【0065】
1 複合材料
2 母材
3 ナノチューブ又はナノワイヤ
4 可撓性充填材料
6 可撓性測時器構成要素(ぜんまい)
7 可撓性測時器構成要素
18 熱補償材料
図1
図2
図3
図4