(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ステアリングアシスト機能および安全機能を目的とする車両速度インジケータパラメータを最適化するための方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230724BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230724BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2020515092
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 FR2018052191
(87)【国際公開番号】W WO2019053357
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-07-29
(32)【優先日】2017-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バリー オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】レディエール リュック
(72)【発明者】
【氏名】モレッティ ロマン
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-261166(JP,A)
【文献】特開昭62-148861(JP,A)
【文献】特開2001-301485(JP,A)
【文献】特開2017-105424(JP,A)
【文献】特開2001-255334(JP,A)
【文献】特開平05-024553(JP,A)
【文献】特開平09-086421(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0039455(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用パワーステアリングシステム(1)を管理するための方法であって、
前記パワーステアリングシステムは、前記車両の操縦において運転手をアシストする少なくとも1つのアシスト機能(F1)、および前記アシスト機能に、ISO-26262規格に従う所望のASILレベルを与える少なくとも1つの安全機能(F2)を含み、
前記アシスト機能(F1)および前記安全機能(F2)のそれぞれは、前記車両の速度を示す同じ速度指示パラメータ(V_param)を使用し、前記速度指示パラメータ(V_param)は、前記車両の長軸方向の速度を表すとし、
前記方法は、
注目する時点における前記車両の実際の長軸方向の速度を表し、第1動作モードにおいて、前記速度指示パラメータ(V_param)として使用される、関数速度(V_func)を推定する、ステップ(a)と、
前記関数速度(V_func)よりも高く、前記注目する時点における前記車両の実際の長軸方向の速度の上限を表す、速度上限(V_upper)を
車両の駆動車輪の回転速度のそれぞれの組のうちで観察される最大回転速度(V_roue)から評価する推定する、ステップ(b)と、
テストおよび/またはシミュレーションを介して予め設定された低減則(LR)が前記速度上限(V_upper)に適用され、前記速度上限(V_upper)よりも、前記低減則(LR)によって設定される低減値(V_reduc)だけ低い、過小推定速度(V_under)を計算する、ステップ(c)と、
前記関数速度(V_func)の絶対値と、前記過小推定速度(V_under)の絶対値とを比較する、比較ステップ(d)と、
前記関数速度(V_func)の絶対値が前記過小推定速度(V_under)の絶対値よりも小さい場合に行われ、速度指示パラメータ(V_param)として、前記過小推定速度(V_under)を用いることによって、前記第1動作モードから、第2動作モードに切り換える、切り換えステップ(e)と、を包含する
ことを特徴とする管理方法。
【請求項2】
前記低減則(LR)は、
前記テストおよび/またはシミュレーションを介して予め設定され、前記テストおよび/またはシミュレーション中に、前記車両の所与のゼロでない実際の長軸方向の速度において、前記速度指示パラメータの低閾値(V_param_thresh_low)を特定するまで、前記アシスト機能(F1)および前記安全機能(F2)によって
用いられる、前記
速度指示パラメータ(V_param)を、絶対値において、漸進的かつ人為的に低下させ、そして前記安全機能(F2)および/または前記車両の対応する反応を観察し、前記速度指示パラメータの低閾値(V_param_thresh_low)から、前記安全機能(F2)が前記所与の実際の長軸方向の速度において所望のASILレベルに準拠する安全を確保することがもはやできないことがわかり、このとき、前記速度指示パラメータの低閾値(V_param_thresh_low)から、前記低減則(LR)に対して保持される低減値(V_reduc)が設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の管理方法。
【請求項3】
前記低減則(LR)は、
前記速度上限(V_upper)が絶対値において増加する場合に、前記低減値(V_reduc)を絶対値において増加させるように、前記
ステップ(b)において推定された速度上限(V_upper)に応じて、前記低減値(V_reduc)を調節する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の管理方法。
【請求項4】
前記低減則(LR)は、各速度上
限(V_upper)に、前記過小推定速度(V_under)を得るために前記速度上限(V_upper)から減算される低減値(V_reduc)を関連づける所定の
表の形態で不揮発性メモリに記憶されるか、または各速度上
限(V_upper)に、前記注目の速度上限(V_upper)に適用可能な前記低減値(V_reduc)を考慮する過小推定速
度(V_under)を直接に関連づける所定の
表の形態で不揮発性メモリに記憶される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項5】
速度上限を推定するステップ(b)中において、
注目の時点(t_n)において、前記速度上限(V_upper(t_n))
を、少なくとも1つの入力速度測定値(V_roue)から評価
し、
次いで、前記
注目の時点(t_n)における速度上限(V_upper(t_n))
を、前回(n-1)中に評価された前記速度上限(V_upper(t_n-1))と比較
し、または、
繰り返しにおける現在の回の前記入力速度測定値(V_roue(t_n))
を、前回の前記入力速度測定値(V_roue(t_n-1))と比較
し、
次いで、
単位時間当たりの前記速度上限の変化量、または、単位時間当たりの前記入力速度測定値の変化量である、観察された
速度勾配(Grad(V))
を、前記車両の加速および制動試験を介して予め決定される第1基準勾配
(Grad_ref_1)と比較
し、
前記観察された速度勾配(Grad(V))
の絶対値が、
前記第1
基準勾配(Grad_ref_1)
の絶対値よりも高い場合、繰り返しにおける現在の回の前記速度上限(V_upper(t_n))
を、繰り返しにおける前回の前記速度上限(V_upper(t_n-1))に、または、繰り返しにおける前回の前記入力速度測定値(V_roue(t_n-1))に、前記観察された速度勾配(Grad(V))の代わりに、前記
第1基準勾配(Grad_ref_1)を適用すること
によって設定された変化量の限度内に再計算する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項6】
前記切り換えステップ(e)は、前記関数速度(V_func)
の絶対値
が、前記過小推定速度(V_under)
の絶対値よりも低くなる
と、前記速度指示パラメータ(V_param)
を前記過小推定速度(V_under)に即時に移行させることによって、前記
第1動作モードから前記
第2動作モードへの即時切り換えを操作する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項7】
前記切り換えステップ(e)は、所定の許容閾値に達するかまたはそれを超える
、ゼロでない
欠陥期間に、前記関数速度(V_func)
の絶対値
が、前記過小推定速度(V_under)
の絶対値よりも小さいままである場合にのみ、前記速度指示パラメータ(V_param)
を前記過小推定速度(V_under)に移行させることによって、前記
第1動作モードから前記
第2動作モードへの遅延切り換えを操作する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項8】
前記方法は、前記切り換えステップ(e)の後に
行われる強化安全ステップ(f)を包含し、
前記強化安全ステップ(f)
は、前記
第2動作モードがアクティブの
状態で、安全期間
が測定され、前記安全期間が所定の警戒閾値に達するかまたは超える場合、前記
速度指示パラメータ(V_param)
を、前記速度上限(V_upper)以上の、
強化安全速度
値(V_enhanced
)に移行させることによって、前記
第2動作モードから、
第3動作モードに切り換える
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項9】
前記
速度指示パラメータ(V_param)の値の変更は、ある動作モードから別の動作モードへの前記
切り換えステップ(e)における切り換えの際に操作され、
少なくともC0の
微分可能クラスを有する遷移則に従う
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項10】
前記切り換えステップ(e)は、クリッピングサブステップを含み、前記クリッピングサブステップ中は、前記速度指示パラメータ(V_param)の変化率(Grad(V_param))が第2
の勾配(Grad_ref_2)を使用する第2勾配リミッタ(5)によって
設定された変化量の限度内に再計算され、前記第2
の勾配(Grad_ref_2)は、前記車両が与えることのできる最大加速度または最大減速度を表す
ことを特徴とする請求項6または7に記載の管理方法。
【請求項11】
前記安全機能(F2)は、ISO-26262規格
に従って、少なくともBに等しい、
ASILレベルにおいて、
前記アシスト機能(F1)が前記車両を操作する
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の管理方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1つに記載の管理方法
を実行するコントローラ(10)を備えるパワーステアリングシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用パワーステアリングシステムを管理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなステアリングシステムに、一方においてアシスト機能、他方において安全機能を組み込むことが知られている。アシスト機能は、車両の操縦(piloting)において運転手をアシストすることを目的とし、手動操縦をアシストするための動力(effort)を与えること、または車両の軌道のサーボ制御を介して車両の実際の自動操縦(例えば、「駐車アシスト」または「車線維持」のため)を確実にすることのいずれかかによってアシストする。安全機能は、十分な安全および信頼性レベルをシステム、特にアシスト機能、に与えることを目的とする。
【0003】
この目的のために、安全規格であるISO-26262は、「ASIL」(「Automotive Safety Integrity Level(自動車安全性要求レベル)」の略)安全レベルを、危険分析から、規定することを示唆している。安全レベルは、最低レベルから最高要求レベルの、「QM」(「Quality Management(品質管理)」の略、すなわち、安全とは無関係)、次いで「A」、「B」、「C」および最後の「D」と表記される。これらのレベルは、各起こり得る危険状況(または、「危惧される事象(dreaded event)」)を以下の3つのパラメータによって特徴づけることによって決定される。
【0004】
・危険状況の過酷度(severity)、すなわち、車両の乗員が被る可能性のある傷害の深刻度(傷害なしのS0から、重度な傷害または生命を脅かす致命的な傷害のS3まで)
・危険状況の発生頻度(exposure)、すなわち、傷害が生じる可能性のある動作条件の予測可能な発生頻度(傷害が稀な動作条件下のみで生じる、ほぼゼロの確率のE0、または非常に低いE1から、傷害が大半の動作条件下に生じることがほぼ確実である、高確率E4まで)
・危険状況の回避難易度(controllability)、すなわち、運転手またはシステムが状況を制御し、傷害を回避するように動作(または、反応)し得る確率(略制御可能な状況C0から、制御困難、さらには全面的に制御不能な状況C3まで)
ASILレベルは、これら3つのパラメータの組み合わせ(乗積)に依存する。
【0005】
したがって、例として、重度な傷害S3を、高い発生確率E4で生じさせ、かつ制御不能C3である危険事象は、ASILレベルD(最高レベル)に属することになる。
【0006】
しかし、制御不能C3であり、かつ重度な傷害S3を生じさせる同じ事象でも、発生確率が最高度よりも1段階以上低くければ、そのASILレベルは、それに応じて1段階以上低くされることになる。したがって、この例において、ASILレベルは、発生頻度がE3の場合は、Cとされ、発生頻度がE1の場合は、さらにAとされることになる。
【0007】
実際には、アシスト機能および安全機能は、一般に、それらの入力データのうちの、車両の長軸方向の瞬間速度の推定値を使用する。
【0008】
しかし、車両の長軸方向の加速または長軸方向の減速(制動(braking))のいわゆる「ダイナミック」段階(phases)時に、車両の速度は、場合によっては、一時的に過大推定(overestimate)または過小推定(underestimate)され得る。
【0009】
特に、このようになり得るのは、車両の速度が車輪の測定平均回転速度から推定される場合であり、したがって、その推定は、いくつかの車輪が、急な加速または急な制動段階中に、ブロックされるか、または反対に、すべって(skid)、制御がきかない(run away)場合に、間違い(偽)となり得る。
【0010】
例として、アクセルペダルに強い圧力をかけると、駆動輪の接着が失われて、駆動輪がすべり始め、したがってその車輪の回転速度が非常に上昇するが、車両の実際の速度は著しくは上昇しない。このとき、車両の実際の速度は、車輪の回転速度から推定される車両の速度よりもかなり低いことになる。
【0011】
反対に、車輪が、緊急にブレーキをかけた状況において、強く減速するか、またはブロックされて、接着を失う場合、車両は、その車輪の回転速度から推定される車両の速度よりもかなり高い実際の速度で路面上をスリップし得る。
【0012】
明らかに、車両の速度を過大推定することは、安全機能にとっては好都合であり得る。というのも、車両の速度を過大推定することによって、安全機能は、車両をより厳格に制御でき、特に、より応答性の良いステアリング補正を行うことや、ステアリング操作の振幅を制限することができるようになるからである。ステアリング補正やステアリング操作の振幅は、低速よりも高速においてより大きな危険をはらんでいる。
【0013】
しかし、また、車両の速度の過大推定によって、従来の駆動アシストを低減するタイミングが不適切になり得るか、または他に、特に市街地において、車両が実際には低速で旋回中に、ステアリングホイールをターンの後で中央位置に戻す(「ストリートコーナーリターン(street corner return)」と呼ばれる機能)ためのパワーステアリングによって生成されるリターン動力(effort)を制限することになり得るので、そのようなアシストおよびステアリングホイールリターン機能の有用性を低減し得る。これにより、運転手がステアリングホイールおよびステアリングシステムにある種の重さを感じることになるという不都合が生じることになる。
【0014】
反対に、車両の速度のランダムな過小推定は、ステアリングホイールの操作ではなく、アシストに都合がよいことになるが、信頼性および安全機能の応答性を損なわせ得るので、車両の乗員を危険にさらし得る。
【0015】
ある解決手段は、ステアリングシステムの異なる機能のアシストの快適さおよび安全性の両方を良好なASILレベルで保証するために、異なる起源からの車両の速度の2つの異なる評価、すなわち、アシスト機能についての第1の評価、および安全機能についての、場合によっては意図的に過大推定される他方の評価を使用することからなり得る。
【0016】
しかしながら、そのような解決手段には、冗長な装備、特にセンサーおよびプロセッシングユニットが必要となり得るが、それらは、ステアリングシステムのコストや大きさを増大させ得る。
【0017】
さらに、主に、異なる速度信号を互いに関係なく使用すると、過大推定または過小推定エラーが2つの速度信号のうちの1つには影響を与えるが、他方には与えない場合に、アシストおよび安全機能のそれぞれに、「干渉(interferences)」と呼ばれる矛盾した挙動が特に引き起こされ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、上記の欠点を克服し、瞬間速度情報、およびこの瞬間速度情報に依存するアシスト機能および安全機能の同時実行を、簡易かつ信頼性良く管理することを可能にする、パワーステアリングシステムを管理するための新規の方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の課題を解決する方法は、車両用パワーステアリングシステムを管理するための方法であって、上記パワーステアリングシステムは、車両の操縦において運転手をアシストすることを目的とする少なくとも1つのアシスト機能、および上記アシスト機能に、ISO-26262規格において定義される所定のASILレベルを与えることを目的とする少なくとも1つの安全機能を含む複数の機能を含み、上記アシスト機能および上記安全機能のそれぞれは、車両の速度を示す同じパラメータを使用し、車両の速度を示すパラメータは、車両の長軸方向の速度を表すとし、上記方法は、関数速度を推定するステップ(a)であって、ステップ(a)中に、注目する時点における車両の実際の長軸方向の速度を表す、「関数速度」と呼ばれる、第1速度値が推定され、関数速度は、「通常動作モード」と呼ばれる第1動作モードにおいて、デフォルトで、車両の速度を示すパラメータとして使用される、ステップ(a)と、速度上限を推定するステップ(b)であって、ステップ(b)中に、「速度上限」と呼ばれる第2速度値が推定され、第2速度値は、関数速度よりも高く、注目する時点における車両の実際の長軸方向の速度の上限を表す、ステップ(b)と、過小推定速度を計算するステップ(c)であって、ステップ(c)中に、過小推定速度値を得るように、所定の低減則が速度上限に適用され、過小推定速度値は、速度上限よりも、低減則によって設定される所定の低減値だけ低い、ステップ(c)と、比較ステップ(d)であって、比較ステップ(d)中に、関数速度値は、絶対値で、過小推定速度値と比較される、比較ステップ(d)と、関数速度の絶対値が過小推定速度の絶対値よりも小さい場合に行われる、切り換えステップ(e)であって、切り換えステップ(e)中に、アシストおよび安全機能のそれぞれの入力において使用される車両の速度を示すパラメータとして、関数速度を過小推定速度に置き換えることによって、通常動作モードから「安全モード」と呼ばれる第2動作モードに切り換える、切り換えステップ(e)とを包含することを特徴とする方法。
【0020】
そのような方法は、アシスト機能の挙動を最適化し、運転の快適さを最適化するために、車両の速度を示すパラメータとして関数速度の使用を優先する(favor)ことができるので有利である。関数速度は、通常条件下では、車両の実際の速度に非常に近い推定値を表す。ただし、関数速度の値は、安全機能の適切な動作を保証することにたいして許容可能なままである。
【0021】
そうでない場合、すなわち、関数速度信号が許容閾値を下回り、したがって安全機能の適切な動作に不適合になった場合、上記方法は、代替信号、すなわち、過小推定速度信号を与える。過小推定速度信号は、速度上限から決定され、当然ながら、車両の実際の速度よりも高く、したがって上記安全機能に資する。
【0022】
言い換えると、上記方法は、速度上限に対応する高い数値と過小推定速度に対応する低い数値との間にある「安全間隔」を、車両の実際の速度にかかわらず、常時、規定、そしてリアルタイム再計算し、安全機能の信頼性のある動作を保証するように、アシスト機能および安全機能の適用のために保持される車両の速度を示すパラメータが上記安全間隔内に永続的にあることを確実にすることを可能にする。
【0023】
このように、安全機能の信頼性に影響を与えることなく、アシスト機能の正確性および快適さを優先するために、一般に車両の実際の瞬間速度の正確な推定値を与えるが、特に推定演算の複雑性のために本質的に保証が困難である、関数速度信号が安全間隔内にとどまる限り、上記関数速度信号は、車両の速度を示すパラメータとして使用される。
【0024】
しかし、安全間隔によって境界づけられた許容領域を上記関数速度信号が外れる(底から)ような影響をエラーが上記関数速度信号に与える場合、この関数速度信号は、過小推定速度によって構成される安全信号によって置き換えられる。この安全信号は、安全機能の適用性の許容可能な下限に対応する。このように、安全機能のサービス連続性が確保される。
【0025】
このように、本発明の方法は、安全機能の信頼性のある動作を体系的に保証しながら、注目する時点における状況に最も適切な車両の速度を示す信号を自動的に選択できるようにする。
【0026】
さらに、アシスト機能および安全機能に共通の、ユニークで同じである過小推定速度情報(すなわち、ユニークな速度信号)を車両の速度を示すパラメータとして使用することによって、ステアリングシステムのハードウエアおよびソフトウエアの両構造を軽量化し、そのシステムのコストを低減することができるので有利である。
【0027】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、あくまで例示であり、限定を目的としない、以下の記載を読み、添付の図面を使用するとより詳細に明らかになることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明による低減則を例示する図である。
【
図2】
図2は、パワーステアリングシステム内の、本発明による方法の動作原理を、ブロック図にしたがって、例示する図である。
【
図3】
図3は、上記方法によって使用される異なる速度信号が時間とともに漸進する様子を表すグラフによって、通常動作モードから安全モードへの瞬間切り換えを例示する図である。
【
図4】
図4は、上記方法によって使用される異なる速度信号が時間とともに漸進する様子を表すグラフによって、通常動作モードから安全モードへの遅延切り換えを例示する図である。
【
図5A】
図5Aは、上記方法によって使用される異なる速度信号が時間とともに漸進する様子を表すグラフによって、
図3に係る第1瞬間切り換え後の、安全モードから強化安全モードへの切り換えの実装を例示する図である。
【
図5B】
図5Bは、上記方法によって使用される異なる速度信号が時間とともに漸進する様子を表すグラフによって、
図4に係る第1遅延切り換え後の、安全モードから強化安全モードへの切り換えの実装を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、車両用パワーステアリングシステム1を管理するための方法に関する。
【0030】
好ましくは、そのようなパワーステアリングシステム1は、それ自体が公知のやり方で、ステアリングホイールを備える。ステアリングホイールは、車両の運転手によって操作されることを目的とし、好ましくはピニオンを備えるステアリングコラムによって、1つ以上のステアード(steered)車輪2の向きを変更することを可能にするステアリング機構の変位を制御する。
【0031】
好ましくは、上記ステアリング機構は、ラックを備える。ラックは、車両のフレームに締め付けられたステアリングケーシング内で平行移動可能に取り付けられる。ピニオンは、ラックにかみ合う。ラックの端部にステアリングタイロッドが締め付けられる。ステアリングタイロッドは、車輪2を支えるステアリングナックルのヨー方向、すなわち、ステアリング角度を変更可能にする。
【0032】
また、ステアリング機構には、好ましくは電動であるアシストモータが接続され、アシスト動力(effort)、典型的にはアシストトルク、が供給される。アシスト動力は、上記ステアリング機構の操作を容易にするので、ステアリング角度の変更を容易にする。
【0033】
さらに、パワーステアリングシステム1は、複数の機能F1、F2を含む。これらは、車両の操縦において運転手をアシストすることを目的とする少なくとも1つのアシスト機能F1、および上記アシスト機能に、ISO-26262規格において定義される所定のASILレベルを与えることを目的とする少なくとも1つの安全機能F2を含む。
【0034】
好ましくは、アシスト機能F1は、以下から選択される。
【0035】
・手動操縦アシスト機能。これは、ステアリング機構および/またはステアリングホイールの変位を容易にするためのアシスト動力を、アシストモータによって、供給することを目的とする。特に、上記手動操縦アシスト機能は、運転手がステアリングホイールを回すことを手伝うために、運転手によって供給される手動動力を増幅することを可能にするアシスト動力を提供することを目的とする従来のアシスト機能、または他に、ターン後に、直線軌道に対応する中央位置にステアリングホイールを戻すことを目的とするリターン機能であり得る。
【0036】
・自動操縦機能。車線維持機能、自動障害物回避機能、または駐車アシスト機能などの、車両の軌道の自動サーボ制御を実行する。
【0037】
例えば、安全機能F2は、アシスト機能F1と異なり、車両の長軸方向の速度が上昇するか、および/または特定の閾値を超える場合に、アシスト機能F1によって決定されるアシスト動力の強度を抑制し、および、特に車両が高速度(典型的には、50km/h、90km/h、または120km/hを超える速度)で旋回する場合に、そのような速度での車両の逸脱を起こす可能性のあり得るステアリングの急な動きがアシスト機能F1によって起こされることを回避するように設計され得る。
【0038】
好ましくは、安全機能F2は、ISO-26262規格において定義される、少なくともBに等しい、好ましくは少なくともCに等しい、さらにはDに等しいASILレベルを保証する。
【0039】
このように、ASIL安全性の欠如を禁止する、すなわち、「安全管理(Quality Management)」レベルを排除し、より高いASILレベルを課すISO-26262規格を実施することによって課されるさらにより厳しい要求を満足できる。
【0040】
図2に示すように、アシスト機能F1および安全機能F2のそれぞれは、車両の速度を示す同じパラメータV_paramを使用する。パラメータV_paramは、車両の長軸方向の速度を表すとする。
【0041】
言い換えると、上記機能F1、F2のそれぞれは、それ自体の実行のために、車両の長軸方向の速度を表す速度情報を知る必要がある。ここで、上記速度情報は、「速度指示パラメータ(speed indicating parameter)」V_paramと呼ばれる信号の形態で、上記機能F1、F2のそれぞれの入力に供給される。
【0042】
したがって、本発明によると、上記方法は、関数速度を推定するステップ(a)を包含する。ステップ(a)中に、注目する時点における車両の実際の長軸方向の速度を表す、「関数速度」V_funcと呼ばれる、第1速度値が推定される。
【0043】
この関数速度V_funcは、「通常動作モード(normal operating mode)」と呼ばれる第1動作モードにおいて、デフォルトで、車両の速度を示すパラメータV_paramとして使用される。
【0044】
実際には、この関数速度V_funcは、通常動作において、+/-10%、さらには+/-5%、の範囲で車両の実際の速度に等しいことになる、すなわち、非常に良好な正確性を有することになる。通常動作とは、車輪がすべらず、かつ上記関数速度V_funcの推定を担うセンサーや計算機のいずれのハードウエアの故障もないことである。
【0045】
したがって、この関数速度信号V_funcは、アシスト機能F1の適用に対して理想的であることになる。
【0046】
しかし、関数速度信号V_funcは、車両または上記信号の計算機に影響を与える外乱または不全の影響を比較的受けやすい可能性があり、その(保証される)ASILレベルは、低い可能性がある。
【0047】
特に、この関数速度V_funcは、若干過小推定される傾向にあり得る。これは、安全機能F2に対して許容できない場合がある。
【0048】
可能な実装によると、関数速度情報V_funcは、サードパーティのシステムから発せられ得る。サードパーティのシステムは、車両に組み込まれるが、パワーステアリングシステム1とは異なり、例えば、電子安定性プログラム(Electronic Stability Program)またはアンチブロッキングシステム(AntiBlocking System)である。このとき、関数速度V_funcは、CAN(「コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network)」)またはFlexRay(コンピュータバス)タイプの基板上のネットワーク20上で利用可能な情報の一部であることになり、ステップ(a)中に、パワーステアリングシステム1によって取り出され得る。
【0049】
別の可能な実装によると、関数速度V_funcの推定は、例えば、
図2に例示するように、車両の1つ以上の車輪2の回転速度V_roueの測定値から、パワーステアリングシステム1自体によって行われ得る。
【0050】
例えば、関数速度V_funcとして、車両の車輪2の回転速度の平均、典型的には2つの車輪2または4つの車輪2の回転速度の平均、を特に上記車輪(タイヤを含む)の直径を考慮することによって線速度に変換したものを考えることができる。
【0051】
より詳細には、特に加速または制動により起こり得る駆動車輪の接着喪失に関連する推定エラーを制限するために、上記車両の被駆動車輪(車両が全輪トランスミッションで動作していない場合)の回転速度の平均を考えることができる。
【0052】
あるいは、もちろん、駆動車輪および/または被駆動車輪にかかわらず、車両の全ての車輪の回転速度の平均を考えることができる。
【0053】
本発明によると、上記方法はまた、速度上限を推定するステップ(b)を包含する。ステップ(b)中に、「速度上限(speed upper limit)」V_upperと呼ばれる第2速度値が推定される。第2速度値は、関数速度V_funcと異なり、それよりも高く、上記注目する時点における車両の実際の長軸方向の速度の上限を表す。
【0054】
この速度上限V_upperは、速度の上方境界、すなわち、注目する時点における車両の実際の長軸方向の速度の値よりも低くなることができないことが既知である長軸方向の速度値、を表す。
【0055】
言い換えると、速度上限V_upperは、車両のサービス状況を考慮し、物理的に、注目する時点において、車両の実際の長軸方向の速度が上記推定された速度上限V_upperに最大でも等しいか、それよりも低い可能性があることを確実にするように評価されるので、車両がこの速度上限値V_upperよりも実際に速く走行することは不可能である。
【0056】
参考として、速度上限V_upperは、好ましくは、車両の実際の長軸方向の速度よりも0~30km/hの値だけ高くなる(絶対値において)ことになる。
【0057】
さらに、速度上限信号V_upperは、関数速度信号V_funcよりも高いASILレベルを有することになるので、本質的に「安全(safe)」であることになる。
【0058】
関数速度情報V_funcと同様に、速度上限情報V_upperは、ESPまたはABSなどのサードパーティ組み込みシステムから発せられ、基板上のネットワーク20上において取り出され得るか、またはパワーステアリングシステム1自体によって決定され得る。
【0059】
この点において、例えば、速度上限V_upperを、車両の駆動車輪2の回転速度のそれぞれの組のうちで観察される最大回転速度V_roueから評価することができる。
【0060】
したがって、車両の実際の瞬間速度の「高い(high)」推定値、さらには過大推定値、が好適であり、過小推定され過ぎて安全機能F2の実行を間違い(偽)とし得る値を速度指示パラメータV_paramとして使用する危険を排除することになる速度上限V_upperを有することを目的とする。
【0061】
なお、この点において、最高速で回転する車輪2の最大回転速度V_roueを考慮し、そして車輪の上記最大回転速度に基づいた速度上限V_upperの推定値に基づくことによって、そのような上限が実際に決定されることを確実にすることが可能となる。
【0062】
その後に、上記方法は、過小推定速度を計算するステップ(c)を包含する。ステップ(c)中に、過小推定速度値V_underを得るように、所定の低減則LRが速度上限V_upperに適用される。過小推定速度値V_underは、速度上限V_upperよりも、上記低減則LRによって設定される所定の低減値V_reducだけ低い。
【0063】
【0064】
なお、車両の速度の「低減(reduction)」または「過小推定(underestimation)」の概念は、初期に推定された速度上限V_upperを、絶対値において、低減して、上記速度上限V_underよりも、絶対値において、ゼロに近い(ゼロ速度に近い)過小推定速度V_underを得ることからなる。
【0065】
下記のように、そして
図3および4に例示するように、低減値V_underは、速度上限V_upperに対して、「安全間隔(safety interval)」STの幅を規定するように選択される。「安全間隔」STの幅の範囲は、速度上限V_upperに対応する高い値と過小推定速度V_underに対応する低い値との間である。ここで、上記過小推定速度は、安全機能F2の適切な動作を保証するための許容最小値に対応する。
【0066】
低減則LRを適用することにより得られる低減値(過小推定値)V_reducは、運転手に対して不快の要因とならないように、アシスト機能F1の適切な実行を可能に、さらにはそれを優先する(favor)のに十分であり、そうでありながら、車両の速度を示すパラメータV_paramとして使用される速度推定値を低減しすぎず、したがって安全機能F2の信頼性のある実行を損なわず、そしてしたがって、上記安全機能F2およびパワーステアリングシステム1が所望のASILレベルで動作することを保証する程度に十分に小さいので有利である。
【0067】
このように、アシストF1機能および安全F2機能の適用のために保持される、車両の速度を示すパラメータV_paramが取る値が上記安全間隔ST内にあることになる限り、両タイプの機能の許容可能な動作、特に安全機能F2の許容可能な動作、が保証されることになる。
【0068】
その後に、上記方法は、比較ステップ(d)を包含する。比較ステップ(d)中に、関数速度値V_funcは、絶対値で、過小推定速度値V_underと比較され、関数速度の絶対値|V_func|が過小推定速度の絶対値|V_under|よりも小さいならば、上記方法は、切り換えステップ(e)を行う。切り換えステップ(e)中に、アシストF1機能および安全F2機能のそれぞれの入力において使用される車両の速度を示すパラメータV_paramとして、関数速度V_funcを過小推定速度V_underに置き換えることによって、通常動作モードから、「安全モード(safety mode)」と呼ばれる第2動作モードに切り換える。
【0069】
この補正切り換えによって、上記関数速度値が、絶対値で、過小推定速度V_under以上である限り、すなわち、上記関数速度値が安全機能F2に対して許容可能な安全間隔ST内に維持される限り、関数速度値V_funcを車両の速度を示すパラメータV_paramに選択的に割り当てることが可能である場合があり、また、関数速度の値が上記許容可能な下限V_underよりも低い場合は、過小推定速度値、すなわち、安全間隔STの許容可能な下限値を車両の速度を示すパラメータV_paramに選択的に割り当てることが可能である場合がある。
【0070】
このように、車両の速度を示すパラメータV_paramは、永続して(または、ほとんど永続して)、安全間隔の低い下限V_underよりも上に維持され、これにより、安全機能F2の適切な動作が保証される。
【0071】
さらに、切り換えが割り込む(intervene)のは、関数速度V_funcが低すぎて、過小推定速度V_underによって設定された下限を下回る場合のみ、すなわち、推定エラーまたは不全が生じた場合のみである。これは、エラーまたは不全がない場合は、速度上限V_upperおよび/または過小推定速度V_underよりも正確でより実際に近い、車両の実際の長軸方向の速度の推定を与える関数速度信号V_funcが好ましく、そして、通常動作において、アシスト機能F1の信頼性および快適さを優先するようにするためである。
【0072】
デフォルトの場合、すなわち、関数速度V_funcが安全間隔ST内にある場合、または、関数速度V_funcが安全間隔STに戻る場合は、それぞれ、通常動作モードを維持するか、または、それに再度切り換える(toggle)。
【0073】
もちろん、上記方法はまた、共通使用ステップを包含する。共通使用ステップ中は、関数速度V_funcまたは過小推定速度値V_underのいずれかに等しい、車両の速度を示す同じパラメータV_paramが上記アシストF1機能および安全F2機能のそれぞれの入力として使用される。
【0074】
好ましくは、低減則LRは、テストおよび/またはシミュレーションを介して予め設定される。テストおよび/またはシミュレーション中に、車両の所与のゼロでない実際の長軸方向の速度において、速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_lowを特定するまで、アシスト機能F1および安全機能F2によって考慮される、車両の速度を示すパラメータV_paramを、絶対値において、漸進的にかつ人為的に低下させ、そして安全機能F2および/または車両の対応する反応を観察する。速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_lowから、安全機能F2が所与の実際の長軸方向の速度において所望のASILレベルに準拠する安全を確保することがもはやできないことがわかり、このとき、この速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_lowから、低減則LRに対して保持される低減値V_reducが設定される。
【0075】
より詳細には、低減値V_reducは、「許容可能な最大低減値(acceptable maximum reduction value)」V_reduc_maxと呼ばれる差異から決定できる。「許容可能な最大低減値」V_reduc_maxは、一方の、速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_lowに達した時の関数速度V_func、またはより好ましくは、速度上限V_upperと、他方の、上記速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_lowとの差異である。すなわち、
【0076】
【0077】
ここで、
【0078】
【0079】
または、場合によっては、ここで、
【0080】
【0081】
なお、実際には、関数速度値V_funcを信頼できる、安定化された条件下で、低減則LRを決定することを目的とする試験を行うことができる。したがって、上記の一つ目の式を問題なく使用できる。
【0082】
【0083】
そうであるので、安定化された条件下で、関数速度値V_funcは、一般に速度上限V_upperに非常に近いので、両方の方法(上記の2つの式のそれぞれに対応する)は、第1近似において、実質的に同一の結果を与える。
【0084】
その後、以下を選択できる。
【0085】
【0086】
または、好ましくは、追加の安全マージンを維持するために、低減値V_reducを許容可能な最大低減値V_reduc_maxの数分の1(fraction)として規定できる。例えば、
【0087】
【0088】
さらにより好ましくは、上記何分の1にするかは、許容可能な最大低減値V_reduc_maxの70~90%(絶対値)である。
【0089】
【0090】
言い換えると、低減則LRは、例えば安全機能を無効化するか、または危険事象(危惧される事象)を適時に補償できないようにして、安全機能F2の不全を生じさせる、速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_lowに到達するまで、関数速度V_funcの推定において大きくなる欠陥をシミュレーションするために、パワーステアリングシステム1、より一般には車両を、所与の実際の速度、したがって所与の速度上限V_upper、で動作させ、そして速度指示パラメータV_param(絶対値)の複数の低減する値を連続して試験すること、すなわち、速度指示パラメータV_paramを意図的に誤らせることによって実験により構築される。上記欠陥は、本発明に特有の補正切り換えがない場合には、上記関数速度V_func、したがって速度指示パラメータV_param、の過小推定がさらにより顕著になることを引き起こし得る。
【0091】
このように、各実際の長軸方向の速度について、したがって、各対応の速度上限V_upperについて、許容可能な最大低減値V_reduc_maxが特定される。上記許容可能な最大低減値V_reduc_maxが上記速度上限V_upperから差し引かれて、安全機能F2によって使用される速度指示パラメータV_paramが計算される場合、上記引き起こされる欠陥は、安全機能F2が仕様によって要求されるASILレベルよりも低いASILレベルに「グレードダウン(downgraded)」されるのに十分な程度に安全機能F2の性能をグレードダウンさせる。
【0092】
したがって、速度指示パラメータの低閾値V_param_thresh_low、すなわち、安全機能F2の不全を起こす過小推定限度は、信頼できる安全を所望のASILレベルで保持するために、所与の速度上限V_upperにおいて、したがって、実際には、所与の実際の速度で動作する場合に、超えられるべきでない許容可能な最大低減値(絶対値)に、実験により、対応づけられる。
【0093】
上記試験は、好ましくは車両の予測可能な全動作範囲、典型的には、0km/hから少なくとも130km/h、150km/h、200km/hまたは250km/hまで、を含むように、車両の実際の長軸方向の速度の複数の(増大する)値について、およびしたがって速度上限V_upperの複数の値について(複数の関数速度値V_funcについて)行われる。
【0094】
上記速度範囲(ここでは、
図1における0~250km/h)内の各実際の速度値、またはより好ましくは、各速度上限値V_upperに、(許容可能な最大)低減値V_reduc、およびしたがって過小推定速度V_underの許容可能な最小値(絶対値での最低許容値)を関連づけるデータ列の全体が低減則LRを構成する。
【0095】
したがって、速度指示パラメータV_paramは、安全機能F2対する危険なしに、一方の、速度上限V_upperに等しい上限値と、他方の、主に、過小推定速度V_underに等しい、すなわち、速度上限V_upper(注目する時点での値)から注目する時点に適用される低減値V_reducを引いた値に等しい下限値との間の規定範囲内にあることになる任意の値をとり得る。
【0096】
絶対的には、一実施形態によると、瞬間実際の速度にかかわらず、およびしたがって速度上限V_upperの値にかかわらず、同じ一定の低減値V_reducを使用することを考えることができる。
【0097】
特に、安全機能F2が速度過小推定の影響を比較的受けにくい旧世代パワーステアリングシステム1のうちでは、後付け部品として、そのような一定の低減値V_reducを使用できる。
【0098】
例として、このとき、上記一定の低減値V_reducは、30~40km/hの範囲内で選択される一定値と等しくてもよい。
【0099】
しかしながら、別の特定の好適な実施形態によると、低減則LRは、推定された速度上限V_upperに応じて、低減値V_reducを調節する。
【0100】
速度に応じて低減値V_reducを変更することにより、本発明による過小推定原理を特により細やかに使用できるので有利である。これにより、特に上記方法を新世代の安全機能F2に適用できる。新世代の安全機能F2は、より効率的であるが、旧世代の安全機能よりも速度過小推定欠陥に対して影響をより受けやすいので、より要求が厳しい。
【0101】
したがって、これにより、車両およびその乗員の安全は、向上される。
【0102】
さらにより好ましくは、
図1に例示するように、低減則LRは、一般に、速度上限V_upperが絶対値において増加する場合に低減値V_reducを絶対値において増加させるような増加関数である。
【0103】
このように、車両が低速度で走行する場合よりも車両が高速度で走行する場合の方が車両の速度をさらに過小推定することができる。言い換えると、高速度時に適用される過小推定値よりも低い過小推定値(低減値V_reduc)を低速度時に適用できる。
【0104】
なお、
図1に示唆する低減値V_reducの漸進的なパターンは、多くの変形例の1つに過ぎない。漸進の仕方は、主に上記注目の安全機能F2の挙動に応じて規定される。
【0105】
図1の例において、安全機能F2の挙動は、駐車する場合(または、非常に低い速度の場合、典型的には10km/h未満、さらには5km/h未満)と、走行を開始する場合(典型的には、5~30km/h)とで大きく異なり得る。駐車する場合は、上記安全機能F2は、比較的「ゆるく(loose)」、ほとんど拘束がない。走行を開始する場合は、上記安全機能F2は、より拘束的になり、したがって速度指示パラメータV_paramの変動に対して影響をより受けやすくなる。
【0106】
上記安全機能F2の低速度での挙動における大きなずれ(discrepancies)を回避するために、許容可能な低減値V_reducは、したがって、車両の速度がゼロ近くになると低減される。
【0107】
その後、典型的には30~160km/hの場合、安全機能F2の挙動は、好ましくは、より漸進的に進む。このため、ほとんど一定の低減値V_reducを予期できる。
【0108】
非常に高い速度(160km/h超、さらには200km/h超)の場合、安全機能F2の挙動、特に引金(triggering)閾値は、好ましくは、もはやほとんど漸進しない。これのため、速度の非常に大きな過小推定、したがって比較的高い低減値V_reduc、を許容できる。
【0109】
このように、速度指示パラメータV_paramの可能な過小推定は、パワーステアリングシステム1による車両の実際の速度の検知を誤らせることがなく、したがって、車両の実際の速度に完全に適合される、アシスト機能F1および安全機能F2の両機能の実行は、保持される。
【0110】
低減値V_reducは、一方で、安全機能F2の不規則な挙動を回避するために、安全機能F2の感受性を適合させるように選択されることになるが、また、他方で、車両が低速度で旋回する際に車両の速度を示すパラメータV_paramが過小推定された値V_underに切り換わる場合に、車両が都市部を低速度で旋回する際、特に車両が交差点や急カーブ(「市街曲がり角」)を有する車線を走行する際に特に有用である、いくつかのアシスト機能F1を停止または過度に抑制しないように選択されることになるので有利である。
【0111】
より詳細には、したがって、例えば、安全モードに切り換えたにもかかわらず、注目の実際の速度範囲、ここで好ましくは0~50km/h、の全体にわたって実質的にアクティブなままであり、したがって、車両が市街地で旋回し、市街地の曲がり角をターンするためにステアリングホイールを大きく操作する必要がある限り、結果としてアクティブなままである、ステアリングホイールを中央に戻すアシスト機能を保持できる。
【0112】
あくまで例示であり、非限定である実装によると、
図1に例示するように、低減則LRは、複数の領域を包含し得る。
【0113】
・第1低速度領域D1。第1低速度領域D1は、0km/hと下限速度V1(20~50km/hであり、好ましくは30km/hに等しい)との間にある。このように、領域D1は、駐車場への進入や市街地で旋回する場合に対応する。上記第1領域D1において、低減則LRは、好ましくは、速度上限V_upperが増加するにつれ適用可能な低減値V_reducを漸進的に増加させるように、連続して増加することになる。適用可能な低減値V_reducは、典型的には0km/hと8~10km/h(下限速度V1に達した値)との間にあり得る。
【0114】
・第2中間速度領域D2。第2中間速度領域D2は、上記下限速度V1(
図1における30km/h)と速度上限V2(好ましくは、130~180km/h、例えば
図1では、160km/hに等しい)との間にある。このように、上記第2領域D2は、典型的には、都市部の外および高速道路上での旋回に対応する。この第2領域D2において、低減値V_reducは、実質的に平坦なパターンをとることになり、したがって、好ましくは、一定または若干増加することになり、例えば、8~10km/hと15km/hとの間にあるか、または10km/hに等しいことになる。
【0115】
・第3高速度領域D3。第3高速度領域D3、上記速度上限V2(
図1における160km/h)と非常に高い速度上限V3(好ましくは180~250km/h、例えば
図1において、200km/hに等しい)との間にある。第3領域D3において、低減値V_reducは、好ましくは、第1領域D1よりもより顕著に増加し、20km/hまたは25km/hと40km/hとの間の値(例えば、ここでは、30km/hに等しい)に達する関数にしたがって、速度上限V_upperが増加するにつれ、連続的に増加する。
【0116】
・場合によっては、第4の非常に高い速度領域D4。第4速度領域D4は、上記非常に高い速度上限V3(
図1における200km/h)と車両の最大速度V4(例えば、240km/hまたは250km/h)との間にある。第4速度領域D4において、過小推定は、好ましくは、一定または若干増加することになり、例えば、ここでは、30km/hに等しいことになる。
【0117】
もちろん、低減則LRは、注目の安全機能F2の性質に応じて、非常に異なるパターンを採用し得る。
【0118】
好ましくは、低減則LRは、
図1に例示するように、各速度上限値V_upperに、低減値V_reducを関連づける所定のアバクス(abacus)の形態で不揮発性メモリに記憶される。低減値V_reducは、
図2に例示するように、後で、速度上限V_upperから減算され、過小推定速度V_underを得る。
【0119】
最終的な目的においては同等な変形例によると、低減則LRは、各速度上限値V_upperに、過小推定速度値V_underをそのまま関連づける所定のアバクスの形態で不揮発性メモリに記憶され得る。過小推定速度値V_underは、注目の速度上限V_upperに適用可能な低減値V_reducを(暗に)考慮する。
【0120】
好ましくは、速度上限を推定するステップ(b)中に、繰り返しにおける現在の回nに対応する注目の時点t_nにおいて、速度上限V_upper(t_n)は、車両の車輪2の回転速度V_roueの測定値などの少なくとも1つの入力速度測定値V_roueから、より好ましくは車両のいくつかのまたは全ての車輪の速度のうちの最大回転速度から、評価される。このとき、それ自体が発明を構成し得る好適な特徴によると、上記速度上限V_upper(t_n)は、単位時間当たりの速度上限V_upperの対応する変化量を評価するために、繰り返しにおける前回n-1(時刻t_n-1)中に評価された速度上限V_upper(t_n-1)と比較される。繰り返しにおける現在の回の入力速度測定値V_roue(t_n)は、単位時間当たりの入力速度測定値の対応する変化量を評価するために、繰り返しにおける前回の入力速度測定値V_roue(t_n-1)と比較される。それぞれの、上記単位時間当たりの速度上限V_upperの変化量、および上記単位時間当たりの入力速度測定値の変化量は、Grad(V)と表記される「観察された速度勾配(observed speed gradient)」と呼ばれる。
【0121】
その後、上記観察された速度勾配Grad(V)は、車両の加速および制動試験を介して予め決定された、第1「尤もらしい(plausible)最大勾配」Grad_ref_1と呼ばれる第1基準勾配と比較される。観察された速度勾配Grad(V)が、絶対値において、上記第1の尤もらしい最大勾配Grad_ref_1よりも高い場合、繰り返しにおける現在の回の速度上限V_upper(t_n)は、繰り返しにおける前回の速度上限V_upper(t_n-1)に、または、繰り返しにおける前回の入力速度測定値V_roue(t_n-1)に、観察された速度勾配Grad(V)の代わりに、第1の尤もらしい最大勾配Grad_ref_1を適用することにより、クリッピング(clipping)により、補正される。
【0122】
言い換えると、
単位時間当たりの瞬間速度変化量は、以下のように計算される。
【0123】
【0124】
または、同様に、単位時間当たりの入力速度変化量は、
【0125】
【0126】
その後、Grad(V)は、Grad_ref_1と比較される。
【0127】
具体的には、尤もらしい最大勾配Grad_ref_1は、特に車両の推進を担うエンジンのパワー、ブレーキシステムの有効性、およびタイヤの接着性を考慮して、車両が物理的に達成し得る、最大加速度、または最大減速度を表す。
【0128】
これらの最大加速度および最大減速度性能は、加速試験および減速(例えば、緊急にブレーキをかけること)試験を車両に行うことを介して、実験により決定される。加速試験および減速試験中は、それぞれ加速/減速の状況において車両がその接着限界にまで押される、
必要に応じて、車両対して試験を行うことにより、同じ構成を有する同じモデルの全ての車両に適用可能であることになる、一般の尤もらしい最大勾配を設定できる。
【0129】
観察された速度勾配Grad(V)が、絶対値において、尤もらしい速度最大勾配よりも大きい場合、すなわち、
【0130】
【0131】
の場合、
これは、Grad(V)と表される、車両の速度の測定された変化量、すなわち、車両の測定された加速度または測定された減速度が、それぞれ車両が与え得る最大加速度または最大制動度よりも大きいことを意味するが、もちろん、不可能である。
【0132】
したがって、結論としては、速度上限V_upperの推定値は、エラーであり、この場合、加速の場合は過大推定され、制動の場合は過小推定される。特に、このエラーが生じるのは、車輪が接着を喪失し、場合によっては、路面上をすべる(skidding)ことによって強く加速されるか、またはブロックされて、路面をスリップ(slipping)するまでブレーキをかける場合である。
【0133】
そのような状況で、次いで、繰り返しにおける現在の回n中に推定される誤りのある速度上限V_upper(t_n)を、より尤もらしい、計算された速度上限V_upperによって置き換えるように、観察された勾配Grad(V)を尤もらしい最大勾配Grad_ref_1に置き換えることが決定される。このより尤もらしい、計算された速度上限V_upperは、より実際的なやり方で、車両の可能な実際の性能に対応し、繰り返しにおける前回n-1中に測定され、信頼できると考えられる、前回の速度上限値V_upper(t_n-1)に、尤もらしい最大勾配Grad_ref_1に2回の繰り返しの間の経過時間を乗算したものを足し合わせることによって得られる。
【0134】
【0135】
言い換えると、繰り返しにおける現在の回t_n中に推定された(または基板上のCANネットワークを介して取得された)速度上限V_upperが現実的でない場合、車両の性能との適合性がないので、瞬間速度、およびしたがって、速度上限V_upperは、それぞれ繰り返しにおける前回中に評価された瞬間速度および速度上限V_upperに対して、最大で、それぞれ車両の最大加速能力および最大減速能力によって規定される値に等しい値だけ変化したと、任意に考えられる。
【0136】
このように、上記方法を適用するための、より詳細には過小推定速度V_underの計算(c)ステップ、および比較(d)ステップ、ならびに次いで、必要に応じて、切り換え(e)ステップを実装するための注目の速度上限V_upperは、上記速度上限V_upperの推定値が可能な最大勾配Grad_ref_1によって設定される変化量の限度内である場合に、上記速度上限V_upperの推定値をそのまま使用するか、または、そうでなければ、尤もらしい最大勾配Grad_ref_1によって設定された変化量の限度内に上記速度上限V_upperを再計算するかのいずれかによって、車両の物理的能力との常なる整合が維持され、上記速度上限V_upperが上記限度内に収められ、したがって車両の有効な能力と整合される。
【0137】
実際に、クリッピングは、尤もらしい最大勾配Grad_ref_1に対応する飽和値SAT+、SAT-を有する(第1の)勾配リミッタ3を適用すること相当する。
【0138】
そのような勾配リミッタ3は、尤もらしい最大勾配Grad_ref_1以下、すなわち、ゼロ値と上記尤もらしい最大勾配によって規定される飽和値SAT+、SAT-(クリッピング値)との間の範囲にあって、したがって車両の有効な加速/減速能力に従う速度上限V_upperのいかなる変化量も、変更することなく、通すことになる。
【0139】
しかし、この勾配リミッタ3は、上記尤もらしい最大勾配Grad_ref_1を超える、すなわち、絶対値において、対応する飽和値SAT+、SAT-の絶対値を超える速度上限V_upperのいかなる変化量も、上記尤もらしい最大勾配値、すなわち飽和値SAT+、SAT-にする(飽和させる)ことによって自動的に制限することになる。
【0140】
なお、勾配リミッタ3は、絶対値において減速(制動)飽和値SAT-と異なる加速飽和値SAT+を含み得る、すなわち、加速状況(速度の変化量が正、したがって速度上限の変化量が正)であるか、または減速状況(速度の変化量が負、したがって速度上限の変化量が負)であるかについて対称とならない飽和を操作するので有利である。
【0141】
特に、そのような差異をつけることによって、物理的に、車両は、特に緊急にブレーキをかける状況において、一般に、加速し得るときよりも強力に減速し得るという事実を考慮できることになる。
【0142】
好ましくは、このように、(第1の)尤もらしい最大勾配Grad_ref_1およびしたがって勾配リミッタ3は、絶対値において減速飽和値SAT-よりも小さい加速飽和値SAT+を設定し得る、すなわち、|SAT+|<|SAT-|となるように設定し得る。
【0143】
例として、加速飽和値を+10km/h/秒の範囲に規定し、減速飽和値SAT-を-36km/h/秒の範囲に規定することができる。
【0144】
従来は、ここで、正および負符号は、それぞれ加速度および減速度に対応する。
【0145】
勾配リミッタ3によって操作される速度勾配のこの飽和により、例えば接着が喪失した後の車輪2の暴走(runaway)またはブロック中の場合のように、車両の長軸方向の速度を推定する方法、より詳細には速度上限を推定する方法に欠陥があるか、またはそれが適用不可である場合に、速度上限V_upperを推定に大誤差(gross error)を生じることを回避できるので有利である。
【0146】
また、なお、
図2に例示するように、第1勾配リミッタ3によって操作される飽和は、同様に、上流で、入力側(source)で、すなわち、入力速度測定値信号(ここでは、この信号は、車輪のそれぞれの回転速度を表す)V_roueに対して、または下流で、これら入力速度測定値信号V_roueから行われる速度計算から得られる速度上限V_upper_basicの「未処理(raw)」推定値の結果に対してのいずれかに、異なるやり方で関与(intervene)し得る。
【0147】
あるいは、第1勾配リミッタ3によって操作される飽和は、下流で、基板上のネットワーク20において利用可能な瞬間速度信号の回収から得られる速度上限V_upperの推定値に関与し得る。
【0148】
本発明の可能な実装によると、切り換えステップ(e)は、関数速度V_funcが、絶対値において、過小推定速度V_underよりも小さくなったと検出されるとすぐに、速度指示パラメータV_paramを関数速度V_funcから過小推定速度V_underに即時に移行させることによって、通常動作モードから安全モードへの即時切り換えを操作し得る。
【0149】
図によると、これは、
図3および5Aに例示するように、関数速度V_funcおよび過小推定速度V_underのそれぞれの曲線の交点における切り換えを実施することに相当する。
【0150】
そのような瞬間的な切り換えは、安全機能F2についての許容可能な制限にしたがうことを常に可能にするので有利である。なぜなら、それから得られる指示パラメータV_paramは、過小推定速度V_underよりも低くなることはなく、しかしながら、関数速度V_funcに近いままの場合、許容可能な安全限度内で、アシスト機能F1について好都合であるからである。
【0151】
したがって、この即時切り換えという解決手段は、アシストF1機能および安全F2機能についての良いトレードオフを表し得る。
【0152】
図4および5Bに例示する別の可能な実装によると、切り換えステップ(e)は、所定の許容閾値T_thresh_1に達するかまたはそれを超える、「欠陥期間(defect duration)」と呼ばれる、ゼロでない期間において、関数速度V_funcが、絶対値において、過小推定速度V_underよりも(連続して)小さいままである場合にのみ、速度指示パラメータV_paramを関数速度V_funcから過小推定速度V_underに移行させることによる通常動作モードから安全モードへの遅延切り換えを操作し得る。
【0153】
言い換えると、このように、上記関数速度V_funcは、一時的に過小推定速度V_underを下回ってしまうが、期間T_thresh_1の間、速度指示パラメータV_paramが一時的に関数速度V_funcをたどるようにできる。
【0154】
許容閾値T_thresh_1によって、切り換えの開始(triggering)を遅らせること、したがって、持久性のある顕著な欠陥の場合のみ、すなわち、速度指示パラメータV_paramを調節することが実際に適切である場合のみに切り換えを行うことを可能にできるので有利である。
【0155】
このように、ノイズまたは偽測定値による評価移行エラーから、場合によっては、生じ得る、速度上限V_upperの非常に短く、顕著でない変動に不必要に反応することを回避する。
【0156】
さらに、車両の安全を損なわない一時的な欠陥が生じた場合に、即時に安全モードを開始させることなく、通常動作モードを一時的に保持することによって、アシスト機能F1、したがって、運転の快適さを優先することができるので有利である。
【0157】
欠陥期間は、適切なタイミングで監視されることになり、欠陥が適切な許容閾値T_thresh_1を超える時間にわたって持続する場合に安全モードをアクティブにすることができるように、関数速度V_funcが過小推定速度V_underを下回ったことが検出された際に開始される。
【0158】
上記タイミングは、関数速度V_funcが過小推定速度V_under以上の値に戻れば、ゼロにリセットされることになる。
【0159】
許容閾値T_thresh_1は、障害許容時間間隔(Fault Tolerance Time Interval)「FTTI」にしたがって決定されることになる。障害許容時間間隔は、仕様によって規定され、欠陥の発生(危険な状況)と上記欠陥の時間との間で認可(authorized)される最大期間を表す。その結果は、パワーステアリングシステム1によって習得および補正される。
【0160】
より詳細には、許容閾値T_thresh_1は、特に関数速度V_funcと過小推定速度V_underとの間の移行を操作するために必要な期間をFTTI期間内に含むことができるように、FTTIよりも完全に小さくなるように選択されることになる。
【0161】
例として、FTTIは、車両の乗員の安全を脅かす、非常に危険な欠陥に関連づけられる場合の20ms(20ミリ秒)と、安全性への懸念が低い欠陥に関与する場合の1s(1秒)より長い時間との間にあり得る。
【0162】
さらに、なお、関数速度V_funcの、速度上限V_upperの、より一般には速度指示パラメータV_paramのリフレッシュ期間、すなわち、上記方法の繰り返しにおける連続した2回n-1、nを隔てる期間は、好ましくは、実質的に5ms(5ミリ秒)と10ms(10ミリ秒)との間である。他方、アシストセットポイント(setpoint)における変化に応答する、ステアリング機構の、より一般には車両の特徴的な応答時間(典型的には、5%における応答時間)は、一般に、100ms(100ミリ秒)以上、300ms(300ミリ秒)以上、およびさらには数秒の範囲であることになる。
【0163】
図5Aおよび5Bに例示する本発明の好適な変形例によると、上記方法は、切り換えステップ(e)の後に、強化安全ステップ(f)を含み得る。強化安全ステップ(f)中に、安全モードがアクティブのままである、「安全期間」と呼ばれる期間が測定され、上記安全期間が所定の警戒閾値T_thresh_2に達するかまたは超える場合、車両の速度を示すパラメータV_paramを過小推定速度V_underから、速度上限V_upper以上の、「強化安全速度」V_enhancedと呼ばれる値に移行させることによって、安全モードから、強化安全モードと呼ばれる第3動作モードに切り換える。
【0164】
この変形例によると、欠陥、すなわち、関数速度V_funcが過小推定速度V_underよりも低い(およびそれに維持される)ことが、例えば車輪2が加速段階においてすべっている(skidding)状況などの一時的な特定のサービス状況を単に起点とする上記欠陥にとって、過度に長時間継続する状況を診断することが可能となるので有利である。
【0165】
そのような状況において、したがって、欠陥が車両の1つ以上のシステムまたはセンサーの持続する不全の表れであると想定する良い理由がある。
【0166】
そのようなわけで、このとき、強化安全モードは、車両の実際の速度にかかわらず、安全機能F2を絶対的に優先するためにアクティブにされる。
【0167】
この理由により、車両の速度を示すパラメータV_paramは、強化安全速度値V_enhancedに強制的にされる。強化安全速度値V_enhancedは、車両の実際の速度にかかわらず安全機能F2の有効性を保証するように、場合によっては、注目する時点において適用可能な速度上限V_upper(
図5Aおよび5Bにおいて、連続な線で表される)に等しく、または好ましくは、車両についてのすべての可能な上限値よりも高い強制値(
図5Aおよび5Bにおいて点線で例示される)に等しく、したがって典型的には、車両の実際の可能な最大速度以上である。
【0168】
好ましくは、
図4および5Bに示すように、車両の速度を示すパラメータV_paramの値の変更は、ある動作モードを別の動作モードに切り換える際に操作され、より詳細には、通常動作モードから安全モードへの切り換えのステップ(e)中および/または強化安全ステップ(f)中に操作され、ランプ(ramp)、補間(特に、多項式)関数、またはフィルタリングなどの少なくともC0の微分可能クラスを有する遷移則に従う。
【0169】
そのような穏やかな遷移により、車両の速度を示すパラメータV_paramの信号の連続性(少なくともC0)を確実にすることができることになり、したがって、ステアリングシステムのぎくしゃくした(jerky)反応を回避し、特にパワーステアリングにおけるガタガタした揺れ(jolt)を回避することができることになる。
【0170】
切り換えおよび/または遷移操作は、
図2に示すように、低減則LRの下流に配置された切り換え部4によって管理される。
【0171】
この切り換え部4はまた、比較ステップ(d)を管理する。
【0172】
好ましくは、それ自体が発明を構成し得る好適な特徴によると、切り換えステップ(e)は、クリッピングサブステップを含み得る。クリッピングサブステップ中は、速度指示パラメータV_paramの変化率Grad(V_param)が第2の尤もらしい最大勾配Grad_ref_2を使用する第2勾配リミッタ5によってクリッピング(clipping)される。第2の尤もらしい最大勾配Grad_ref_2は、車両が与えることのできる最大加速度または最大減速度を表す。
【0173】
この第2クリッピングは、上記の第1勾配リミッタ3によって行われるクリッピングと同様のやり方で、必要な変更を加えつつ、行われる。
【0174】
この例において、第2クリッピングは、ここで、速度指示パラメータV_paramの変化量を許容することからなる。
【0175】
【0176】
これは、第2の尤もらしい最大勾配Grad_ref_2によって規定されるように、車両の実際に可能な性能に整合する限度内だけで成り立つ。
【0177】
速度指示パラメータV_paramの変化量が第2勾配リミッタ5の飽和値SAT-、SAT+間にあるならば、リフレッシュされた速度指示パラメータV_param(t_n)は、速度指示パラメータV_paramとして受け取られる。
【0178】
そうではなく、変化量がこれら飽和値SAT-、SAT+を超えるならば、速度指示パラメータは、尤もらしい最大勾配Grad_ref_2に基づいて任意に再計算される。
【0179】
【0180】
この第2クリッピングは、好ましくは切り換え/遷移規定段階の下流かつアシストF1機能および安全F2機能の上流において操作され、特に、例えば切り換え/遷移段階によって引き起こされる不連続から生じ得る速度指示パラメータV_paramの可能な一貫性のない変化量を考慮することを回避可能にすることになる。
【0181】
特に、この第2クリッピングは、上記のような連続(微分可能クラスC0)の遷移の、切り換えステップ時の管理に対して相補または代替となる予防的な対策を形成し得る。
【0182】
さらに、本発明は、もちろん、本発明による瞬間速度過小推定方法の適用を可能にする、計算機などのコントローラ10を備えるパワーステアリングシステム1に関する。
【0183】
この目的のため、上記コントローラ10は、低減則LRを適用する少なくとも1つの過小推定部6、および好ましくは比較/切り換え部4ならびに第2勾配リミッタ5を含むプロセッシング部11を含む1つ以上の電子および/またはソフトウエア部を備えることになる。
【0184】
コントローラはまた、速度上限V_upper取得部12を備え得る。速度上限V_upper取得部12は、好ましくは、例えば、入力速度V_roueとして、車両の1つ以上の車輪2の速度を利用し得る測定部7、および/または第1勾配リミッタ3を備え得る。
【0185】
最後に、コントローラ10は、それぞれ上記機能F1、F2の実行を確実にするアシスト機能部13および安全機能部14を備えることになる。
【0186】
したがって、本発明はまた、そのようなパワーステアリングシステム1を備える、車両、および特に1つ以上の駆動およびステアード車輪2(好ましくは、2駆動輪、または例えば4駆動輪を備える全輪トランスミッション)を備える陸上車両に関する。
【0187】
もちろん、本発明は、上記の変形例だけに限定されない。当業者は、特に上記特徴を自由に単独で、または組み合わせて用いることが可能であるか、またはそれらをそれらの均等物と代替することも可能である。