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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ペン検出システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20230724BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G06F3/041 512
G06F3/044 B
G06F3/044 126
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020523657
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2019021313
(87)【国際公開番号】W WO2019235322
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018108534
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】加々美 友宏
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252230(JP,A)
【文献】特開2011-238240(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0278525(US,A1)
【文献】特開2009-284453(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0062040(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0185914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンから送信されたペン信号を検出して前記ペンの位置を検出するペン検出システムであって、
第1及び第2の部分列電極群を含む列電極群と第1及び第2の部分行電極群を含む部分行電極群とが2次元領域に重畳して配設されてなるセンサパターンと、
前記第1の部分列電極群に接続され、前記第1の部分列電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第1の列レベル分布を取得し、
前記第1の部分行電極群に接続され、前記第1の部分行電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第1の行レベル分布を取得する第1の集積回路と、
前記第2の部分列電極群に接続され、前記第2の部分列電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第2の列レベル分布を取得し、
前記第2の部分行電極群に接続され、前記第2の部分行電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第2の行レベル分布を取得する第2の集積回路と、を含み、
前記第1及び第2の列レベル分布に基づいて前記2次元領域における前記ペンの列方向位置を導出し、
前記第1及び第2の行レベル分布に基づいて前記2次元領域における前記ペンの行方向位置を導出
前記列電極群を構成する複数の列電極のうち前記第1の部分列電極群と前記第2の部分列電極群の境界近傍に位置する所定数の境界列電極は、前記第1及び第2の集積回路の両方に接続され、
前記第1及び第2の集積回路は、前記センサパターンが形成される基板とは異なる回路基板上に配置され、
前記回路基板には、
前記境界列電極と前記第1及び第2の集積回路の一方とを接続する主線路と、
前記回路基板内で前記主線路と前記第1及び第2の集積回路の他方とを接続する分岐線路と、が設けられる、
ペン検出システム。
【請求項2】
前記第1の部分列電極群は前記第2の部分行電極群と重なり、
前記第2の部分列電極群は前記第1の部分行電極群と重なる、
請求項1に記載のペン検出システム。
【請求項3】
前記第1の集積回路から前記第1の部分行電極群に対し指検出用信号の供給を開始したことに対応して、前記第1の集積回路により前記第1の部分行電極群と前記第1の部分列電極群とが交差する第1象限部分のクロスポイント容量変化を検出するとともに、前記第2の集積回路により前記第1の部分行電極群と前記第2の部分列電極群とが交差する第2象限部分のクロスポイント容量変化を検出する、
請求項1に記載のペン検出システム。
【請求項4】
前記第2の集積回路から前記第2の部分行電極群に対し指検出用信号の供給を開始したことに対応して、前記第1の集積回路により前記第2の部分行電極群と前記第1の部分列電極群とが交差する第3象限部分のクロスポイント容量変化を検出するとともに、前記第2の集積回路により前記第2の部分行電極群と前記第2の部分列電極群とが交差する第4象限部分のクロスポイント容量変化を検出する、
請求項3に記載のペン検出システム。
【請求項5】
前記所定数は、前記列電極群を構成する列電極の本数未満の数である、
請求項に記載のペン検出システム。
【請求項6】
前記第1及び第2の集積回路の一方は、前記第1及び第2の集積回路の他方が前記境界列電極における前記ペン信号のレベルを検出しているときに、該境界列電極に接続された端子をハイインピーダンスに設定する、
請求項に記載のペン検出システム。
【請求項7】
前記第1及び第2の集積回路の一方は、前記第1及び第2の集積回路の他方が前記境界列電極における前記ペン信号のレベルを検出しているときに、該境界列電極における前記ペン信号のレベルの検出を行わない、
請求項に記載のペン検出システム。
【請求項8】
前記境界列電極でない列電極を前記第1又は第2の集積回路に接続する第1の配線経路に、該第1の配線経路と、前記境界列電極を前記第1及び第2の集積回路に接続する第2の配線経路との間の入力インピーダンス差を縮小するための均等化手段を有する、
請求項に記載のペン検出システム。
【請求項9】
前記均等化手段は、前記第1の配線経路に接続された追加線路又はコンデンサである、
請求項に記載のペン検出システム。
【請求項10】
ペンから送信されたペン信号を検出して前記ペンの位置を検出するペン検出システムであって、
第1及び第2の部分電極群を含む電極群が配設されてなるセンサパターンと、
前記第1の部分電極群に接続され、前記第1の部分電極群における前記ペン信号のレベル分布を取得する第1の集積回路と、
前記第2の部分電極群に接続され、前記第2の部分電極群における前記ペン信号のレベル分布を取得する第2の集積回路と、
前記電極群を構成する複数の電極のうち前記第1の部分電極群と前記第2の部分電極群の境界近傍に位置する所定数の境界電極は、前記第1及び第2の集積回路の両方に接続され、
前記第1及び第2の集積回路は、前記センサパターンとは異なる回路基板に配置され、
前記回路基板には、
前記境界電極と前記第1及び第2の集積回路の一方とを接続する主線路と、
前記回路基板内で前記主線路と前記第1及び第2の集積回路の他方とを接続する分岐線路と、が設けられる、
ペン検出システム。
【請求項11】
前記第1及び第2の集積回路の一方は、前記第1及び第2の集積回路の他方が前記境界電極における前記ペン信号のレベルを検出しているときに、該境界電極に接続された端子をハイインピーダンスに設定する、
請求項10に記載のペン検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペン検出システムに関し、特に、大型の表示パネルに搭載されるペン検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
静電ペンの指示位置を示す2次元座標を導出するためのペン検出システムが知られている。この種のシステムは、液晶パネルなどの表示パネル上に配置された電極群と、電極群に接続された集積回路とを有して構成される。このうち電極群は、列方向に並置された列電極群と、行方向に並置された行電極群とによって構成される。集積回路は、静電ペンが送信した信号の各電極における受信レベルを取得し、その結果に基づいて上記2次元座標を導出する。
【0003】
特許文献1には、このようなペン検出システムの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5984259号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では表示パネルのサイズのバリエーションが増加しており、大型の表示パネルにペン検出システムを搭載する場合も増えているが、そうすると上述した電極群を構成する電極の数が増えるため、集積回路の端子数を増加させる必要が生ずることになる。しかしながら、大型の表示パネルに搭載するペン検出システムは一般に製造数が少なく、専用の集積回路を製造すると割高になってしまうため、対策が必要とされている。
【0006】
したがって、本発明の目的の一つは、大型の表示パネル専用の集積回路を必要としないペン検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によるペン検出システムは、ペンから送信されたペン信号を検出して前記ペンの位置を検出するペン検出システムであって、第1及び第2の部分列電極群を含む列電極群と第1及び第2の部分行電極群を含む部分行電極群とが2次元領域に重畳して配設されてなるセンサパターンと、前記第1の部分列電極群に接続され、前記第1の部分列電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第1の列レベル分布を取得し、前記第1の部分行電極群に接続され、前記第1の部分行電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第1の行レベル分布を取得する第1の集積回路と、前記第2の部分列電極群に接続され、前記第2の部分列電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第2の列レベル分布を取得し、前記第2の部分行電極群に接続され、前記第2の部分行電極群における前記ペン信号のレベル分布を示す第2の行レベル分布を取得する第2の集積回路と、を含み、前記第1及び第2の列レベル分布に基づいて前記2次元領域における前記ペンの列方向位置を導出し、前記第1及び第2の行レベル分布に基づいて前記2次元領域における前記ペンの行方向位置を導出する、ペン検出システムである。
【0008】
本発明の第2の側面によるペン検出システムは、ペンから送信されたペン信号を検出して前記ペンの位置を検出するペン検出システムであって、第1及び第2の部分電極群を含む電極群が配設されてなるセンサパターンと、前記第1の部分電極群に接続され、前記第1の部分電極群における前記ペン信号のレベル分布を取得する第1の集積回路と、前記第2の部分電極群に接続され、前記第2の部分電極群における前記ペン信号のレベル分布を取得する第2の集積回路と、前記電極群を構成する複数の電極のうち前記第1の部分電極群と前記第2の部分電極群の境界近傍に位置する所定数の境界電極は、前記第1及び第2の集積回路の両方に接続される、ペン検出システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の側面によれば、集積回路を1つだけ設ける場合に比べて1つの集積回路に接続する必要のある電極の数を減らすことができるので、小型パネル用の集積回路を大型パネルにおいても使用することが可能になる。したがって、大型の表示パネル専用の集積回路を用いずとも、大型の表示パネルにペン検出システムを搭載することが可能になる。
【0010】
本発明の第2の側面によれば、ノイズをキャンセルするための差動検出法や、電極間の座標を求めるための4点法又は3点法など、1つの位置座標を求めるために複数の電極を用いる必要のある位置の導出方法を採用する場合に、第1の部分電極群と第2の部分電極群の境界においても単一の集積回路によって位置の導出を実行することが可能になるので、電極間のインピーダンス差に起因して電極間で感度差が生じ、導出される位置に誤差が生ずることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態によるペン検出システム1の構成を示す図である。
図2】本発明の第1の実施の形態によるペン検出システム1の模式的な上面図である。
図3】マスタコントローラ4によるペンI1のx座標の導出方法の詳細を説明する図である。
図4】マスタコントローラ4による集積回路3a,3bの制御タイミングを示す図である。
図5】境界列電極2xを設けることの意義を説明する図である。
図6】本発明の第2の実施の形態によるペン検出システム1の模式的な上面図である。
図7】本発明の第3の実施の形態によるペン検出システム1に含まれる第1の部分列電極群2xGaを構成する列電極2xの一部を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるペン検出システム1の構成を示す図である。本実施の形態によるペン検出システム1は、静電ペンであるペンI1から送信されたペン信号を検出して該ペンI1の位置を検出可能に構成されるとともに、指I2の位置も検出可能に構成されたシステムであり、同図に示すように、センサパターン2と、集積回路3a,3bと、マスタコントローラ4と、ホストプロセッサ5とを有して構成される。
【0014】
ペン検出システム1は、典型的には、タブレット型コンピュータである。この場合、センサパターン2は、図示しない表示パネルの表示面上に配置され、ホストプロセッサ5は、タブレット型コンピュータの中央処理装置により構成される。ただし、ペン検出システム1は他の種類のコンピュータによって構成してもよい。また、ホストプロセッサ5は、センサパターン2、集積回路3a,3b、及びマスタコントローラ4と同じ筐体内に配置されてもよいし、異なる筐体内に配置されることとしてもよい。
【0015】
センサパターン2は、それぞれ図示したy方向に延在し、y方向と直交するx方向に等間隔で配置された複数の列電極2xと、それぞれx方向に延在し、y方向に等間隔で配置された複数の行電極2yとが2次元領域に重畳して配設されてなる構造を有している。
【0016】
複数の列電極2xは、第1の部分列電極群2xGaと、第2の部分列電極群2xGbとを含む列電極群2xGを構成する。第1の部分列電極群2xGaと第2の部分列電極群2xGbの境界はx方向中央に設けられており、第1の部分列電極群2xGaに含まれる列電極2xの本数と第2の部分列電極群2xGbに含まれる列電極2xの本数とは、互いに同じ数に設定されている。ただし、第1の部分列電極群2xGaに含まれる列電極2xの本数と第2の部分列電極群2xGbに含まれる列電極2xの本数とが異なっていてもよい。
【0017】
同様に、複数の行電極2yは、第1の部分行電極群2yGaと、第2の部分行電極群2yGbとを含む行電極群2yGを構成する。第1の部分行電極群2yGaと第2の部分行電極群2yGbの境界はy方向中央に設けられており、第1の部分行電極群2yGaに含まれる行電極2yの本数と第2の部分行電極群2yGbに含まれる行電極2yの本数とは、互いに同じ数に設定されている。図1から明らかなように、第1の部分行電極群2yGa及び第2の部分行電極群2yGbは、それぞれが第1の部分列電極群2xGa及び第2の部分列電極群2xGbの両方と重なっている。
【0018】
図2は、本実施の形態によるペン検出システム1の模式的な上面図である。ただし、同図においては行電極2yの記載を省略している。同図に示すように、センサパターン2はガラス10上に配置され、集積回路3a,3b及びマスタコントローラ4は、ガラス10とは異なる回路基板12上に配置される。ガラス10と回路基板12とは、フレキシブル基板11によって相互に接続される。また、ペン検出システム1は、各列電極2xと集積回路3a,3bの一方とを接続する複数の主線路20を有しており、各主線路20は、ガラス10、フレキシブル基板11、及び回路基板12にかけて形成される。図示していないが、各行電極2yも同様の主線路によって集積回路3a,3bのいずれかと接続される。
【0019】
図1に戻る。集積回路3a(第1の集積回路)は、第1の部分列電極群2xGaを構成する各列電極2xと、第1の部分行電極群2yGaを構成する各行電極2yとに接続された集積回路である。集積回路3aの動作タイミング及び動作内容は、マスタコントローラ4によって制御される。
【0020】
集積回路3aの動作内容について具体的に説明すると、まずペンI1の位置検出を行うタイミングでは、集積回路3aは、第1の部分列電極群2xGaにおけるペン信号のレベル分布(第1の列レベル分布)を取得するとともに、第1の部分行電極群2yGaにおけるペン信号のレベル分布(第1の行レベル分布)を取得する処理を行う。取得されたレベル分布は、集積回路3aからマスタコントローラ4に供給される。
【0021】
一方、指I2の位置検出を行うタイミングでは、集積回路3aは、マスタコントローラ4から供給される指検出用信号を第1の部分行電極群2yGa内の各行電極2yに対して供給する処理と、第1の部分行電極群2yGaと第1の部分列電極群2xGaとが交差する領域(図示した第1象限の部分)のクロスポイント容量変化(列電極2xと行電極2yの交点における静電容量の変化)を検出する処理と、第2の部分行電極群2yGbと第1の部分列電極群2xGaとが交差する領域(図示した第3象限の部分)のクロスポイント容量変化を検出する処理とを行う。検出されたクロスポイント容量変化は、集積回路3aからマスタコントローラ4に供給される。
【0022】
集積回路3b(第2の集積回路)は、第2の部分列電極群2xGbを構成する各列電極2xと、第2の部分行電極群2yGbを構成する各行電極2yとに接続された集積回路である。集積回路3bの動作タイミング及び動作内容も、マスタコントローラ4によって制御される。
【0023】
集積回路3bの動作内容について具体的に説明すると、まずペンI1の位置検出を行うタイミングでは、集積回路3bは、第2の部分列電極群2xGbにおけるペン信号のレベル分布(第2の列レベル分布)を取得するとともに、第2の部分行電極群2yGbにおけるペン信号のレベル分布(第2の行レベル分布)を取得する処理を行う。取得されたレベル分布は、集積回路3bからマスタコントローラ4に供給される。
【0024】
一方、指I2の位置検出を行うタイミングでは、集積回路3bは、マスタコントローラ4から供給される指検出用信号を第2の部分行電極群2yGb内の各行電極2yに対して供給する処理と、第1の部分行電極群2yGaと第2の部分列電極群2xGbとが交差する領域(図示した第2象限の部分)のクロスポイント容量変化を検出する処理と、第2の部分行電極群2yGbと第2の部分列電極群2xGbとが交差する領域(図示した第4象限の部分)のクロスポイント容量変化を検出する処理とを行う。検出されたクロスポイント容量変化は、集積回路3bからマスタコントローラ4に供給される。
【0025】
マスタコントローラ4は、集積回路3a,3bのそれぞれに接続され、これらの動作タイミング及び動作内容を制御する機能を有する。
【0026】
具体的に説明すると、まずペンI1の位置検出を行うタイミングでは、マスタコントローラ4は、集積回路3a,3bにセンサパターン2におけるペン信号のレベル分布を取得させ、取得されたレベル分布に基づいて、ペンI1の位置を導出する。より具体的には、マスタコントローラ4は、第1及び第2の列レベル分布に基づいてペンI1の列方向位置(x座標)を導出するとともに、第1及び第2の行レベル分布に基づいてペンI1の行方向位置(y座標)を導出するよう構成される。
【0027】
図3は、マスタコントローラ4によるペンI1のx座標の導出方法の詳細を説明する図である。以下ではx座標に着目して説明するが、y座標についても同様である。
【0028】
ペンI1のx座標を導出するにあたり、マスタコントローラ4はまず初めに、前回導出されたペンI1のx座標に基づいて、4本の列電極2xを選択する。具体的には、前回導出されたペンI1のx座標に近いものから順に4本の列電極2xを選択する。図3の縦軸に示した列電極2x~2xは、こうして選択された4本の列電極2xを表している。
【0029】
続いてマスタコントローラ4は、選択した列電極2xにおけるペン信号の受信レベルrから該列電極2xと所定方向に隣接する列電極2xにおけるペン信号の受信レベルrを減ずることにより、列電極2xにおけるペン信号の参照レベルr-rを求める。同様にして、マスタコントローラ4は、列電極2x~2xのそれぞれにおけるペン信号の参照レベルr-r,r-r,r-rを求める。そしてマスタコントローラ4は、こうして求めた4つの参照レベルr-r,r-r,r-r,r-rをそれぞれ列電極2x~2xにおける受信レベルとみなして所定の分布曲線による近似を行い、得られた曲線の頂点のx座標を求める。マスタコントローラ4は、こうして得たx座標をペンI1のx座標として取得する。
【0030】
この方法によれば、1本の列電極2xではなく複数の列電極2xにおける受信レベルの分布を利用してx座標を求めるので、列電極2x間のx座標も求めることができる。このような座標の導出方法は、n点法と呼ばれる。nは、分布を参照するために利用する電極の数であり、2以上の数であればよい。例えば図3のように4本の電極における受信レベルの分布を利用する場合であればn=4(4点法)となり、例えば3本の電極における受信レベルの分布を利用する場合であればn=3(3点法)となり、例えば6本の電極における受信レベルの分布を利用する場合であればn=6(6点法)となる。
【0031】
また、各列電極2xにおげるペン信号の受信レベルそのものではなく、他の1以上の列電極2xで検出された受信レベルを含めた演算によって得られる参照レベルを用いてx座標を求めるので、各列電極2xに共通に重畳されるノイズ(表示パネルで生ずるノイズなど)をキャンセルすることができる。このような座標の導出方法は、m本差動検出法と呼ばれる。mは、演算に用いる受信レベルの数であり、2以上であればよい。例えば図3のように2つの受信レベルの演算によって参照レベルを得る場合であればm=2(2本差動検出法)となり、例えば4つの受信レベルの演算によって参照レベルを得る場合であればm=4(4本差動検出法)となる。なお、ある列電極2xにおける参照レベルを求めるために利用する他の列電極2xは、必ずしもその列電極2xと隣接しているものでなくてもよい。
【0032】
図1に戻る。マスタコントローラ4は、指I2の位置検出を行うタイミングでは、まず初めに指検出用信号を第1の部分行電極群2yGa内の各行電極2yに対して順次供給するよう集積回路3aを制御したうえで、指検出用信号が各行電極2yに供給される都度、第1象限及び第2象限のクロスポイント容量変化を検出するよう集積回路3a,3bを制御する。続いてマスタコントローラ4は、指検出用信号を第2の部分行電極群2yGb内の各行電極2yに対して順次供給するよう集積回路3bを制御したうえで、指検出用信号が各行電極2yに供給される都度、第3象限及び第4象限のクロスポイント容量変化を検出するよう集積回路3a,3bを制御する。これにより、各列電極2xと各行電極2yのすべての交点についてクロスポイント容量変化が得られるので、マスタコントローラ4は、得られたクロスポイント容量変化から指I2の列方向位置(x座標)及び行方向位置(y座標)を導出するよう構成される。
【0033】
図4は、マスタコントローラ4による集積回路3a,3bの制御タイミングを示す図である。同図に示すように、マスタコントローラ4は、ペンI1の位置検出(ペン検出)と、指I2の位置検出(タッチ検出1及びタッチ検出2)とを交互に繰り返すよう構成される。ペン検出については、上述したとおりである。タッチ検出1は、上述した制御のうち、第1象限及び第2象限のクロスポイント容量変化を検出するための制御に相当し、タッチ検出2は、第3象限及び第4象限のクロスポイント容量変化を検出するための制御に相当する。
【0034】
ホストプロセッサ5は、マスタコントローラ4によって検出されたペンI1又は指I2の位置に基づいて、一連の位置を時系列で含んでなるストロークデータを生成するよう構成される。ホストプロセッサ5は、生成したストロークデータを図示しない記憶装置に記憶するとともに、ユーザの指示に応じてレンダリングし、表示パネルに表示する処理を行う。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態によるペン検出システム1によれば、集積回路を1つだけ設ける場合に比べて、1つの集積回路に接続する必要のある電極の数を減らすことができる。具体的には、集積回路3a,3bそれぞれに接続する必要のある電極の数を、全列電極2x及び全列電極2yの半数ずつとすることができる。したがって、集積回路3a,3bとして小型パネル用の集積回路を使用することが可能になるので、大型の表示パネル専用の集積回路を用いずとも、大型の表示パネルにペン検出システム1を搭載することが可能になる。
【0036】
なお、本実施の形態では集積回路3a,3bの制御をマスタコントローラ4から行うこととしたが、マスタコントローラ4の機能を集積回路3a,3bの一方に設けることも可能である。こうすることで、マスタコントローラ4を省略することができるので、ペン検出システム1を小型化することが可能になる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施の形態によるペン検出システム1について説明する。本実施の形態によるペン検出システム1は、複数の列電極2xのうち第1の部分列電極群2xGaと第2の部分列電極群2xGbの境界近傍に位置する所定数の列電極2x(以下、「境界列電極2x」という)を集積回路3a,3bの両方に接続する点で、第1の実施の形態によるペン検出システム1と相違する。なお、本実施の形態では列電極2xに着目して説明するが、行電極2yについても同様である。その他の点では第1の実施の形態によるペン検出システム1と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、以下では第1の実施の形態との相違点に着目して説明を行う。
【0038】
図5は、境界列電極2xを設けることの意義を説明する図である。初めに、この図5を参照して境界列電極2xの意義を説明した後、本実施の形態によるペン検出システム1の具体的な構成について詳しく説明する。
【0039】
図5には、第1の部分列電極群2xGaと第2の部分列電極群2xGbの境界近傍に位置する8本の列電極2x~2xを示している。本実施の形態によるマスタコントローラ4は、図3を参照して説明した方法(4点法+2本差動検出法)によりx座標を導出するように構成されており、したがって、1つのx座標を導出するために、隣接する5本の列電極2xのそれぞれにおける受信レベルが必要になる。この5本の列電極2xの組み合わせは、例えば図5の例では、列電極2x~2xの組み合わせ(組み合わせ1)、列電極2x~2xの組み合わせ(組み合わせ2)、列電極2x~2xの組み合わせ(組み合わせ3)、及び、列電極2x~2xの組み合わせ(組み合わせ4)の4種類となる。
【0040】
ここで、集積回路3aと集積回路3bとで受信感度が異なる場合があり、また、集積回路3aに接続される線路と集積回路3bに接続される線路とではインピーダンスが異なり得ることから、1つのx座標を導出する際に集積回路3aによって検出された受信レベルと集積回路3bによって検出された受信レベルとが混在すると、インピーダンス差に起因する感度差により、導出されるx座標の誤差が大きくなってしまう可能性がある。したがって、1つのx座標を導出する際には、どちらか一方の集積回路のみを用いて受信レベルを検出することが望まれる。
【0041】
そこで、このような検出方法を実現する方法を検討すると、図5から、4本の境界列電極2x(図5では列電極2x~2x)を集積回路3a,3bの両方に接続すればよいことが理解される。こうすることで、4本の境界列電極2xは集積回路3a,3bのいずれからでも受信レベルを検出することが可能になるので、図5にも示すように、組み合わせ1,2については集積回路3aのみによってx座標を検出することが可能になり、組み合わせ3,4については集積回路3bのみによってx座標を検出することが可能になる。
【0042】
本実施の形態によるペン検出システム1は、このような境界列電極2xの接続方法を実現するものである。以下、図6を参照しながら、本実施の形態によるペン検出システム1の具体的な構成について説明する。
【0043】
図6は、本実施の形態によるペン検出システム1の模式的な上面図である。同図と図2とを比較すると理解されるように、本実施の形態によるペン検出システム1は、第1の実施の形態によるペン検出システム1において、4本の境界列電極2xのそれぞれに、回路基板12内で主線路20と集積回路3a,3bの他方とを接続する分岐線路21を追加した構成を有している。これにより、4本の境界列電極2xのそれぞれが集積回路3a,3bの両方に接続されるので、上記のように、1つのx座標を導出する際に、どちらか一方の集積回路のみを用いて受信レベルを検出することが可能になる。
【0044】
ここで、分岐線路21は回路基板12内のみに設けられる。主線路20と同じように、ガラス10、フレキシブル基板11、及び回路基板12にかけて分岐線路21を形成することも可能であるが、そうすると分岐線路21の配線長が長くなるので、境界列電極2xと、それ以外の列電極2xとの間の容量差が大きくなる。また、センサパターン2として普通の大型センサパターンを用いることができ、センサパターン2のコネクタ端子数も削減できる。分岐線路21を回路基板12内のみに設けることにより、境界列電極2xと、それ以外の列電極2xとの間の容量差を極力小さくすることが可能になる。
【0045】
本実施の形態による集積回路3a,3bは、自身でない方の集積回路が境界列電極2xにおけるペン信号のレベルを検出しているときには、該境界列電極2xに接続された自身の端子をハイインピーダンスに設定し、該境界列電極2xにおけるペン信号のレベルの検出を行わないように構成される。ハイインピーダンスに設定することで、ペン信号を検出していない一方の集積回路が境界列電極2xに影響を与えなくなるので、精度よくペン信号のレベルを検出することが可能になる。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態によるペン検出システム1によれば、1つのx座標を求めるために複数の列電極2xを用いる必要のある位置の導出方法を採用する場合に、第1の部分列電極群2xGaと第2の部分列電極群2xGbの境界においても単一の集積回路によってx座標の導出を実行することが可能になるので、列電極2x間のインピーダンス差に起因して列電極2x間で感度差が生じ、導出されるx座標に誤差が生ずることが防止される。
【0047】
また、本実施の形態によるペン検出システム1によれば、分岐線路21を回路基板12内に設けていることから、境界列電極2xと、それ以外の列電極2xとの間の容量差を極力小さくすることが可能になる。したがって、境界近傍のx座標を精度よく導出することが実現される。
【0048】
なお、本実施の形態においては、4本の境界列電極2xを集積回路3a,3bの両方に接続する例を説明したが、集積回路3a,3bの両方に接続する必要のある境界列電極2xの本数はマスタコントローラ4が用いる位置の導出方法に応じて決定されるもので、列電極群2xGを構成する列電極2xの本数未満の数であればよく、本実施の形態のように4本でなければならないわけではない。例えばn点法を用いず2本差動検出法を用いる場合(すなわち、1つのx座標を導出するために、隣接する2本の列電極2xのそれぞれにおける受信レベルが必要になる場合)であれば、1本の列電極2xのみを境界列電極2xとして構成すればよい。また、例えば3点法と2本差動検出法を用いる場合(すなわち、1つのx座標を導出するために、隣接する4本の列電極2xのそれぞれにおける受信レベルが必要になる場合)であれば、3本の列電極2xを境界列電極2xとして構成すればよい。また、例えば6点法と4本差動検出法(すなわち、1つのx座標を導出するために、隣接する9本の列電極2xのそれぞれにおける受信レベルが必要になる場合)を用いる場合であれば、8本の列電極2xを境界列電極2xとして構成すればよい。このように、境界列電極2xの本数は1であってもよく、2以上であってもよい。
【0049】
次に、本発明の第3の実施の形態によるペン検出システム1について説明する。本実施の形態によるペン検出システム1は、第2の実施の形態によるペン検出システム1において、境界列電極2xでない列電極2xを集積回路3a又は集積回路3bに接続する配線経路(以下、「第1の配線経路」という)に、該第1の配線経路と、境界列電極2xを集積回路3a及び集積回路3bに接続する配線経路(以下、「第2の配線経路」という)との間の入力インピーダンス差を縮小するための均等化手段を設けたものである。なお、本実施の形態でも列電極2xに着目して説明するが、行電極2yについても同様である。その他の点では第2の実施の形態によるペン検出システム1と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、以下では第2の実施の形態との相違点に着目して説明を行う。
【0050】
図7は、本実施の形態によるペン検出システム1に含まれる第1の部分列電極群2xGaを構成する列電極2xの一部(第1の部分列電極群2xGaと第2の部分列電極群2xGbの境界から数えて6本分)を模式的に示した図である。同図において、列電極2xは集積回路3a,3bの両方に接続される境界列電極2xであり、列電極2x~2xは集積回路3aのみに接続される列電極2xである。列電極2x~2xは、第1の部分列電極群2xGaと第2の部分列電極群2xGbの境界からこの順で配置される。
【0051】
図7に示すように、集積回路3a,3bはそれぞれ、主線路20又は分岐線路21との接続点に例えば10pF程度の入力インピーダンスを有して構成される。したがって、列電極2xを集積回路3a,3bの両方に接続する第2の配線経路の入力インピーダンスは、列電極2x~2xを集積回路3aのみに接続する第1の配線経路の入力インピーダンスに比べて小さくなる。このような入力インピーダンスの違いがあると、列電極2x と列電極2x~2xとの間にペン信号の受信レベルの感度差が生ずるため、検出される位置の精度が悪化することになる。特に、上述した差動検出法を用いる場合に期待されるノイズ除去効果が悪化する。
【0052】
そこで本実施の形態では、図7に示すように、列電極2x~2xのそれぞれに対応する第1の配線経路の途中に、第1の配線経路と第2の配線経路との間の入力インピーダンス差を縮小するための均等化手段を設けている。この均等化手段は、具体的には、列電極2x~2xのそれぞれに接続されたコンデンサ(チップコンデンサ)によって構成される。このコンデンサの一端は接地され、他端は、対応する第1の配線経路に接続される。また、コンデンサの容量は、列電極2xに近い側から順に次第に小さくなるように設定される。具体的には、列電極2x~2xに対して、それぞれ8pF、6pF、4pF、2pFのコンデンサが接続される。
【0053】
このような均等化手段を設けることで、本実施の形態によれば、隣接する列電極2x間での入力インピーダンス差を縮小することができる。図7に括弧書きで示した数値は、均等化手段を設けた場合の各列電極2xの入力インピーダンスである。この数値に示されるように、図7の例では、隣接する列電極2x間での入力インピーダンス差が2pFに縮小している。したがって、差動検出法を用いる場合に期待されるノイズ除去効果の悪化を防ぎ、検出される位置の精度の悪化を抑制することが可能になる。
【0054】
また、もし仮に図7の例において列電極2x~2xに10pFの均等化手段を設けたとすると、列電極2xと列電極2xとの間の入力インピーダンス差を縮小するために列電極2xにも均等化手段を設ける必要が生じ、結局、境界列電極2x以外のすべての列電極2xに均等化手段を設けなければならなくなるが、本実施の形態によれば、列電極2xに近い側から順に次第に小さくなるようにコンデンサの容量を設定しているので、すべての列電極2xに均等化手段を設けることなく、隣接する列電極2x間での入力インピーダンス差を縮小することが可能になっている。
【0055】
なお、本実施の形態においてはコンデンサにより均等化手段を構成する例を説明したが、均等化手段は、第1の配線経路に接続された追加線路などの他の手段によっても構成され得る。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 ペン検出システム
2 センサパターン
2x 列電極
2xG 列電極群
2xGa 第1の部分列電極群
2xGb 第2の部分列電極群
2y 行電極
2yG 行電極群
2yGa 第1の部分行電極群
2yGb 第2の部分行電極群
3a,3b 集積回路
4 マスタコントローラ
5 ホストプロセッサ
10 ガラス
11 フレキシブル基板
12 回路基板
20 主線路
21 分岐線路
I1 ペン
I2 指
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7