(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】絹フィブロインを含むヘアケア組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20230724BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230724BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20230724BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20230724BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230724BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20230724BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/06
A61K8/44
A61K8/60
A61K8/73
A61Q5/00
A61Q5/12
(21)【出願番号】P 2020524773
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 EP2018077424
(87)【国際公開番号】W WO2019091682
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/110385
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521042714
【氏名又は名称】ユニリーバー・アイピー・ホールディングス・ベスローテン・ヴェンノーツハップ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,ハン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ホン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シン
(72)【発明者】
【氏名】プラマニク,アミターバ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,ジョンチョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ,ジンロン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,ウェイジェン
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-168819(JP,A)
【文献】特開2007-217304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0079012(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0018165(US,A1)
【文献】特開2000-191445(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106420423(CN,A)
【文献】特開2003-192530(JP,A)
【文献】特開平09-255539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/64
A61K 8/06
A61K 8/44
A61K 8/60
A61K 8/73
A61Q 5/00
A61Q 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、
(i) カイコ(Bombyx mori)由来の絹フィブロイン;
(ii) オリゴキトサンまたはアミノ酸から選択されるカチオン性化合物;および
(iii) 化粧品として許容可能なビヒクル
を含み、
但し前記絹フィブロインが
30kDa~350kDaの範囲の分子量を有し、且つ前記オリゴキトサンが
3~8個の繰り返しキチン単位を有
し、前記アミノ酸がリジン、ヒスチジンおよびアルギニンから選択される、ヘアケア組成物。
【請求項2】
前記絹フィブロインが少なくとも60kDaの分子量を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸がリジン
およびアルギニンから選択される、請求項
1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記化粧品として許容可能なビヒクルがエマルジョンである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記エマルジョン中の油が、植物油、鉱油、シリコーン油またはそれらの混合物から選択される、請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
前記植物油が、パーム油、キャノーラ油、コーン油、ニーム油、オリーブ油、綿実油、ココナッツ油、分画されたココナッツ油、堅果油(nut oils)、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油またはヒマワリ油の1種以上から選択される、請求項
5記載の組成物。
【請求項7】
組成物が0.1~20重量%の油を含む、請求項
5または
6に記載の組成物。
【請求項8】
組成物が0.5~15重量%の油を含む、請求項
6または7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物の0.1~10重量%の絹フィブロインを含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物の0.1~5重量%の絹フィブロインを含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
組成物の0.1~2重量%の絹フィブロインを含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記カチオン性化合物を0.05~5重量%含有する
、請求項1~
11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物のpHが3~8である
、請求項1~
12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
シャンプー、ヘアコンディショナーまたはリーブオン製品である
、請求項1~
12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
絹フィブロイン水性溶液を調製した後、カチオン性化合物の水性溶液で混合物を均質化することを含む、請求項1~
14のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
絹フィブロイン水性溶液を調製し、続いて油と混合した後、カチオン性化合物の水性溶液で混合物を均質化することを含む、請求項1~
14のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項17】
毛髪に利益を提供する方法であって、
請求項1~
14のいずれか1項に記載の組成物を所望の表面に塗布する工程を含み、
前記利益が、減少した破損、滑らかさおよび潤滑性の増大並びに良好な毛髪損傷修復
からなる群より選択される、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の破損を低減し、毛髪の修復、潤滑、強化および平滑性の利益を送達するためのヘアケア組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、より少量の毛髪の破損、より柔らかい感触、および破断された毛髪の修復を促すためのヘアケア組成物に関する。本発明者らは、好ましくはエマルジョン媒体中での、特定の絹フィブロインと特定のカチオン性化合物との組み合わせを通じてこれを達成した。
【0003】
絹フィブロインは、ケラチン(毛髪の主成分である)と繊維質構造の観点で類似する絹に存在する繊維質タンパク質の一種である。さらに、絹フィブロインは、水素結合および疎水性相互作用のような分子間相互作用により、ケラチンに対して良好な親和性を有する。一般に、絹フィブロインには、例えば水溶性であるランダムコイルおよび水不溶性であるβシートのような、2種類の主要な二次構造がある。本発明において、種々の再生絹フィブロインタンパク質またはペプチドが、制御された脱ガム、加水分解および溶解プロセスを介して開発された。再生絹フィブロインは、毛髪繊維上に良好に付着し、毛髪に対する良好な親和性のために強固な「層」を形成し、最終的に良好な毛髪損傷修復、増強および潤滑の利益をもたらすことが判明した。しかしながら、これらの材料は、以前もヘアケア製品に使用されていた。したがって、本発明者らは、このような組成物の有効性を高めることを意図していた。本発明者らは、それが、前述の絹フィブロインを特定のカチオン性化合物と組み合わせることにより、特に油を含有する安定な水中油滴型エマルジョンを形成することにより達成されて、より良好な毛髪損傷修復および潤滑性および平滑性の利益を示すことができ、シャンプーでの使用のための高い可能性を示すことを見出した。
【0004】
中国特許出願公開第106420423号(Foshan Runxin Washing products Co.、(2017))は、以下の成分を含有(重量%)するシリコーンフリーアミノ酸/フィブロインシャンプーを開示する:8~15%のコカミドプロピルベタイン、4~9%のヤシ油アセタールアミド、3~8%のアミノ酸系発泡剤、3~7%のスルホコハク酸二ナトリウム、0.5~2%のラノリン、0.3~1.5%のカチオン性セルロースJR-400、1~3%のアミノ酸系植物保湿剤、1~3%のキトサン絹フィブロイン、1~4%のポリ四級アミン塩-47、1~3%のポリ四級アミン塩-22、0.05~0.1%のメチルイソチアゾリノン、0.2~0.4%のクエン酸、0.5~1.5%のエキスおよび残部は水。
【0005】
米国特許出願公開第2015079012号(タフト大学)は、非加水分解絹フィブロインと保湿剤とを含む絹フィブロイン系組成物を開示している。
【0006】
中国特許第101716128号(Guangdong Mingchen Co.、(2010))は、重量%で、5.0%~50.0%の界面活性剤、0.1%~7.0%の四級アンモニウム塩またはアミドアミンおよび残部として担体の水を含有する、透明なコンディショニングシャンプー組成物を開示しており、当該シャンプー組成物内で特殊構造のカチオン性四級アンモニウム塩またはアミドアミンを調製して、その系内で透明性とコンディショニング性の高い一体化を実現するとし、それは従来技術および市販されている著名製品の性能と比較して、主要な指標である乾燥した毛髪および濡れた毛髪のコーミング性、乾燥した毛髪の柔らかさ、光沢等を明らかに向上するとされる。
【0007】
欧州特許第1531853号(Henkel、(2004))は、皮膚および毛髪の処置のための、セリシンおよびフィブロインおよび/またはそれらの誘導体からなる相乗的に効果的な活性物質複合体を含有する化粧品製剤を開示している。
【0008】
中国特許出願公開第106726922号(Tian E Quansheng Bee Ind Tech Co Ltd、(2017))は、絹フィブロインアミノ酸、セテアリルグルコシド、ココナッツ油酢酸ナトリウム、ローズマリー油、ジャスミン精油、エキス等を含有するシャンプーの一種を開示している。絹フィブロインアミノ酸は単一成分である。
【0009】
上に挙げた公開技術は、特定の絹フィブロインと、オリゴキトサンまたはアミノ酸から選択される特定のカチオン性化合物との組み合わせが、非常に望ましい毛髪繊維の利益をもたらすことを教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】中国特許出願公開第106420423号
【文献】米国特許出願公開第2015079012号
【文献】中国特許第101716128号
【文献】欧州特許第1531853号
【文献】中国特許出願公開第106726922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、絹フィブロインを使用して、毛髪修復、潤滑、強化および滑らかさの利益を与えるヘアケア組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、以下を含むヘアケア組成物が提供される:
(i) カイコ(Bombyx mori)由来の絹フィブロイン;
(ii) オリゴキトサンまたはアミノ酸から選択されるカチオン性化合物;および
(iii) 化粧品として許容可能なビヒクル。
【0013】
本発明の別の態様によれば、絹フィブロインの水性溶液を調製し、続いて任意に油と混合し、次いで、前記混合物をカチオン性化合物の水性溶液で均質化(ホモジナイズ)することを含む、第1の態様の組成物を調製する方法が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、第1の態様の組成物を所望の表面に塗布する工程を含む毛髪に利益を提供する方法を提供し、その利益は、減少した破損、滑らかさおよび潤滑性の増大並びに良好な毛髪損傷修復を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これらおよび他の態様、特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を読むことで当業者に明らかになるであろう。疑いを避けるために、本発明の一態様のいずれかの特徴を、本発明の任意の他の態様で利用することができる。用語「含む(comprising)」は、「包含する(including)」を意味することを意図するものであり、必ずしも「からなる(consisting of)」や「構成される(composed of)」を意味するものではない。言い換えれば、列挙された工程または選択肢は、網羅的である必要はない。以下の説明で与えられる例示は、本発明を明確にすることを意図するものであり、本発明をそれらの例示に限定することを意図するものではないことに留意されたい。同様に、特に断らない限り、全てのパーセンテージは重量/重量%である。実施例および比較例または特段に明示されている場合を除いて、本明細書および特許請求の範囲における全ての数値は、物質の量または反応条件、物質の物理的性質および/または使用の量を示すものであり、用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。「xからyまで」の形式で表される数値範囲は、xおよびyを含むことが理解される。特定の特徴について、複数の好ましい範囲が「xからyまで」の形式で記載されている場合、異なる端点を組み合わせるすべての範囲も企図されることが理解される。言い換えると、いかなる数値範囲の特定に際しても、いかなる特定の上限値を、いかなる特定の下限値に関連付けることができる。
【0016】
本明細書に見られるように、本発明の開示は、請求項が多項従属や重複しているとみえるかどうかにかかわらず、特許請求の範囲に見られる全ての実施形態を、互いに乗算依存するものとして網羅すると考えられるべきである。
【0017】
本発明の特定の態様(例えば、本発明の組成物)に関して特徴が開示されている場合、そのような開示はまた、本発明のいかなる他の態様(例えば、本発明の方法)に準用されると考えられるべきである。
【0018】
本明細書で使用される「ヘアケア組成物」は、哺乳動物、特にヒトの毛髪および/または頭皮への局所適用のための組成物を含むことを意味する。このような組成物は、一般にリーブオン(leave-on)またはリンスオフ(rinse off)として分類され得るものであり、外観改善、洗浄、臭気抑制または一般的な審美的目的で人体に適用される任意の製品を含む。本発明の組成物は、液体、ローション、クリーム、フォーム、スクラブ、ゲルまたはバーの形態であり得る。そのような組成物の非限定的な例としては、リーブオンヘアローション、クリームおよびウォッシュオフ(wash-off)シャンプー、コンディショナー、シャワーゲルまたは固形化粧石けん(toilet bar)が挙げられる。本発明の組成物は、ウォッシュオフ組成物であることが好ましく、シャンプーまたはコンディショナーであることが特に好ましい。
【0019】
本発明のヘアケア組成物は、カイコ(Bombyx mori)から誘導される絹フィブロイン;オリゴキトサンまたはアミノ酸から選択されるカチオン性化合物;および化粧品として許容可能なビヒクルを含む。
【0020】
本発明に使用するための絹フィブロインは、カイコ(Bombyx mori)から誘導される。Bombyx moriの繭には2種類の絹タンパク質があり、一方が絹フィブロインであり、他方がセリシンである。絹フィブロインは、温水またはアルカリ溶液中の絹繭を煮沸することによりセリシンから分離する(脱ガム工程と呼ばれる。)。絹フィブロインは、ジスルフィド結合を介して互いに連結された軽鎖(L鎖)ポリペプチドおよび重鎖(H鎖)ポリペプチドからなる。H鎖は、絹フィブロイン系材料に優れた機械的性質をもたらす主構造成分にあたる個別のβシート結晶を形成するが、L鎖はH鎖よりもはるかに小さいので機械的な役割をほとんど果たさない。アミノ酸組成に関しては、H鎖は主としてグリシン(43%)、アラニン(30%)およびセリン(12%)を含む。生の絹を脱ガムしてセリシンを除去すると、得られたフィブロイン繊維は、光沢があり、感触がソフトであり、繊維産業において高度に求められている。また、フィブロイン繊維には、魅力的な強度、靭性、生体適合性、生分解性および熱安定性の組み合わせが付与されている。汎用性のある加工性のため、種々の絹フィブロイン形態を、フィブロイン繊維の溶解物(すなわち、フィブロイン溶液)から再生することができる。これらの形態/母型は、最も顕著には、外科用縫合糸、制御放出および薬物送達用担体ならびに組織工学のための足場として用いられる。
【0021】
本発明の組成物に使用するための絹フィブロインは、好ましくは少なくとも0.2kDa、好ましくは少なくとも3kDa、より好ましくは少なくとも30kDa、最も好ましくは少なくとも60kDaの分子量を有する。分子量は好ましくは30~350kDaの範囲であり、好ましくは60~250kDaの範囲である。分子量が30~350kDaである絹フィブロインは、最初に脱ガム、すなわち、カイコの繭からセリシンを除去してフィブロイン繊維を得ることにより調製される。これの次に、フィブロイン繊維を水性溶液に溶解させる溶解工程が続く。絹繭の脱ガムは、好適には炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム溶液を用いて行われ、溶解工程は、臭化リチウム水溶液または塩化カルシウム/エタノール/水三元溶液を用いて行われる。次の工程は、通常、上記溶液を脱イオン水に対して透析して無機イオンを除去することである。分子量が0.2~30kDaである絹フィブロインは、分子量が30~350kDaである前記絹フィブロインの加水分解または酵素分解、好ましくはα-キモトリプシンまたはエラスターゼでの酵素分解により調製される。
【0022】
絹フィブロインは、組成物に、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%、最も好ましくは0.1~2重量%含まれる。
【0023】
本発明の組成物は、オリゴキトサンまたはアミノ酸から選択されるカチオン性化合物を含む。キトサンは、一般に下記の構造を有する。
【化1】
【0024】
キトサンは、キチンから製造される生体高分子であり、セルロースに次いで自然界で最も豊富な生体高分子の一つである。キトサンは、高い吸湿性および保湿性、フィルム形成、乳化、増粘および抗菌活性などの多くの化学的または物理的な性質を有する。廃水処理、クロマトグラフィー支持体、酵素固定化および制御薬物送達のための担体を含む多くの工業用途および生物医学的用途において広く使用されてきた。オリゴキトサンは、化学的または酵素的またはマイクロ波分解法によりキトサンから製造された一種のオリゴ糖である。一般に、オリゴキトサンは、3200Daより小さい分子量を有し、2~20個の繰り返しキチン単位を有する。キトサンと比較して、オリゴキトサンオリゴ糖は、(i)より良好な水溶性および穏やかな吸水性;(ii)処方において有益である高濃度水溶液の低粘度;(iii)より良好な安定性および安全性;および(iv)腫瘍増殖阻害、免疫促進、抗菌性および抗真菌活性のような広い生物活性のスペクトル、のような多くの利点を有する。
【0025】
本発明の組成物は、好ましくは2~20個の繰り返しキチン単位を有するオリゴキトサンを有し、より好ましくは3~8個のキチン単位を有するオリゴキトサンを有する。
【0026】
あるいは、前記カチオン性化合物は、アミノ酸であってもよい。好適なアミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン、システイン、グルタミン、グルタミン酸、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、セリンおよびバリン、並びに/またはそれらの前駆体および誘導体が挙げられる。アミノ酸は、単独で、混合物として、またはペプチド(例えば、ジ-およびトリペプチド)の形態で添加することができる。アミノ酸は、ケラチンまたはコラーゲン加水分解物のようなタンパク質加水分解物の形態で添加されてもよい。好ましくは、本発明のアミノ酸は、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファンおよびチロシン並びにそれらの混合物から選択される。本発明での使用に最も好適なアミノ酸はリジンまたはアルギニンである。本発明の組成物はカチオン性化合物を、好ましくは、0.05~5重量%、好ましくは0.1~2重量%含む。
【0027】
本発明の組成物は、化粧品として許容可能なビヒクルを含む。最も好ましいビヒクルはエマルジョン(乳剤)である。エマルジョンは混合物であり、通常、熱力学的に安定な油と水の混合物である。エマルジョンは、水中油滴型エマルジョンであってもよいし、油中水滴型エマルジョンであってもよく、またはより複雑なエマルジョンであってもよい。エマルジョンは、一般に、有機界面活性剤が最も一般的なタイプである乳化剤を用いて安定化される。本発明のエマルジョンは、水中油滴型エマルジョンであることが好ましい。本発明によれば、エマルジョンとして調製された場合に、絹フィブロインが乳化剤として作用して、当該エマルジョンを安定化させることが興味深い。エマルジョンを調製するために使用される油は、好ましくは植物油、鉱油、シリコーン油またはそれらの混合物から選択される。植物油は、パーム油、キャノーラ油、コーン油、ニーム油、オリーブ油、綿実油、ココナッツ油、分画されたココナッツ油、堅果油(nut oils)、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油またはヒマワリ油の1種以上から選択されることが好ましい。油は、好ましくは、組成物の0.1~20重量%、好ましくは0.5~15重量%で含有される。
【0028】
本発明の特に好ましい態様によれば、組成物はシャンプー、ヘアコンディショナーまたはリーブオン製品である。
【0029】
本発明の組成物は、特にシャンプーとして配合された場合、好ましくは、アニオン性界面活性剤、例えば、アルキルサルフェートおよび/またはエトキシル化アルキルサルフェート界面活性剤を含む。これらのアニオン性界面活性剤は、好ましくは組成物の2~16重量%、より好ましくは3~16重量%のレベルで存在する。好ましいアルキルサルフェートはC8-18アルカリサルフェートであり、より好ましくはC12-18アルキルサルフェートであり、好ましくはナトリウム、カリウム、アンモニウムまたは置換アンモニウムのような可溶化カチオンとの塩の形態である。例はラウリル硫酸ナトリウム(SLS)またはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。
【0030】
好ましいアルキルエーテルサルフェートは、式:RO(CH2CH20)nSO3Mを有するものであり、Rは炭素原子数8~18(好ましくは12~18)個のアルキルまたはアルケニルであり;nは少なくとも0.5より大きい平均値を有する数であり、好ましくは1~3、より好ましくは2~3であり;Mはナトリウム、カリウム、アンモニウムまたは置換アンモニウムのような可溶化カチオンである。一例は、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)である。
【0031】
好ましいエトキシル化アルキルサルフェートアニオン界面活性剤は、平均エトキシル化度が0.5~3、好ましくは1~3であるラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)である。
【0032】
本発明の組成物は、任意であるが、好ましくは更にベタイン界面活性剤を含む。好ましい実施形態において、本発明の組成物は、0.1~10重量%、好ましくは0.5~8重量%、より好ましくは1~5重量%のベタイン界面活性剤、好ましくはアルキルアミドプロピルベタイン、例えばコカミドプロピルベタインを含む。
【0033】
本発明によるシャンプー組成物は、化粧品として許容され、毛髪への局所適用に適した1種以上のさらなるアニオン性クレンジング界面活性剤を含むことができる。
【0034】
好適なさらなるアニオン性クレンジング界面活性剤の例は、アルカリールスルホン酸塩、アルキルコハク酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホコハク酸塩、N-アルキルサルコシネート、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、並びにアルキルエーテルカルボン酸およびその塩、特にそれらのナトリウム、マグネシウム、アンモニウムおよびモノ-、ジ-およびトリエタノールアミン塩である。そのアルキルおよびアシル基は、一般に、8~18個、好ましくは10~16個の炭素原子を含み、不飽和であってもよい。アルキルエーテルスルホコハク酸塩、アルキルエーテルリン酸塩並びにアルキルエーテルカルボン酸およびその塩は、1分子中に1~20個のエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド単位を含むことができる。
【0035】
本発明のシャンプー組成物に使用するための典型的なアニオン性クレンジング界面活性剤としては、オレイルコハク酸ナトリウム、ラウリルスルホコハク酸アンモニウム、ラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、ラウリルエーテルカルボン酸およびn-ラウリルサルコシネートが挙げられる。
【0036】
好適な好ましい追加のアニオン性クレンジング界面活性剤は、ラウリルエーテルスルホコハク酸(n)EOナトリウム(nは1~3)、ラウリルエーテルカルボン酸(n)EO(nは10~20)である。
【0037】
上記アニオン性クレンジング界面活性剤のいかなる混合物も好適であり得る。
【0038】
添加される場合、本発明のシャンプー組成物中のアニオン性クレンジング界面活性剤の総量は、一般に0.5~45重量%、好ましくは1.5~35重量%、より好ましくは5~20重量%であり、組成物の全重量を基準にしてアニオン性クレンジング界面活性剤の全重量によって計算される。
【0039】
本発明の毛髪コンディショニング組成物は、カチオン性界面活性剤から選択されるコンディショニング界面活性剤を単独でまたは混合して含む。好ましくは、カチオン性界面活性剤は、式N+R1R2R3R4(式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して(C1~C30)アルキルまたはベンジルである)。好ましくは、R1、R2、R3およびR4のうちの1つ、2つまたは3つは、独立して(C4~C30)アルキルであり、他のR1、R2、R3およびR4基またはそのうちの複数は(C1~C6)アルキルまたはベンジルである。より好ましくは、R1、R2、R3およびR4の1つまたは2つは、独立して(C6~C30)アルキルであり、他のR1、R2、R3およびR4は(C1~C6)アルキルまたはベンジル基である。アルキル基は任意に、アルキル鎖内に1つ以上のエステル(-OCO-または-COO-)および/またはエーテル(-O-)結合を含んでいてもよい。アルキル基は、任意に1個以上のヒドロキシル基で置換されていてもよい。アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、炭素原子数が3個以上のアルキル基については環状であってもよい。アルキル基は飽和であってもよく、または1個以上の炭素-炭素二重結合(例えば、オレイル)を含んでいてもよい。アルキル基は、1つ以上のエチレンオキシ基を有するアルキル鎖において任意にエトキシル化される。
【0040】
本発明のコンディショナー組成物に使用するための好適なカチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、獣脂トリメチルアンモニウムクロリド、ジ(水素化獣脂)ジメチルアンモニウムクロリド(例えば、Akzo Nobel製のArquad 2HT/75)、ココトリメチルアンモニウムクロリド、PEG-2-オレアンモニウムクロリドおよびそれらの対応する水酸化物が挙げられる。さらに好適なカチオン性界面活性剤としては、CTFA名称Quaternium-5、Quaternium-31及びQuaternium-18を有するものが挙げられる。これらの物質のいかなる混合物も好適であり得る。本発明によるコンディショナーに使用するのに特に有用なカチオン性界面活性剤はセチルトリメチルアンモニウムクロリドであり、例えば、GENAIN CTAC(販売元 Hoechst Celanese)として商業的に入手可能である。本発明によるコンディショナーに使用するのに特に有用な他のカチオン性界面活性剤はベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドであり、例えば、GENAMIN KDMP(販売元 Clariant)として商業的に入手可能である。さらに別の好ましいカチオン性界面活性剤は、ステアラミドプロピルジメチルアミンである。
【0041】
本発明の組成物に使用するのに最も好ましいカチオン性界面活性剤は、ステアラミドプロピルジメチルアミン、ベヘントリモニウムクロリドまたはステアリルトリメチルアンモニウムクロリドである。本発明のコンディショナーにおいて、カチオン性界面活性剤のレベルは、一般に組成物の0.1~5重量%、好ましくは0.5~2.5重量%の範囲である。
【0042】
本発明のヘアコンディショニング組成物はまた、好適に、脂肪アルコールをさらに含んでいてもよい。コンディショニング組成物中の脂肪アルコールおよびカチオン性界面活性剤の組み合わせた使用は、カチオン性界面活性剤が分散されているラメラ相の形成をもたらすので、特に有利であると考えられる。
【0043】
代表的な脂肪アルコールは、8~22個の炭素原子を含み、より好ましくは16~22個の炭素原子を含む。脂肪族アルコールは、典型的には直鎖アルキル基を含有する化合物である。
【0044】
好適な脂肪アルコールの例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびそれらの混合物が挙げられる。これらの材料の使用は、本発明の組成物の全体的なコンディショニング特性に貢献するという点でも有利である。
【0045】
本発明のコンディショナー中の脂肪アルコールのレベルは、一般に、組成物の0.5~10重量%、好ましくは0.1~8重量%、より好ましくは0.2~7重量%、最も好ましくは0.3~6重量%の範囲である。カチオン性界面活性剤と脂肪アルコールとの重量比は、1:1~1:10、より好ましくは1:1.5~1:8、最適には1:2~1:5である。
【0046】
本発明の別の態様によれば、組成物は、リーブオン製品として提供され得る。そのような場合、シャンプーまたはコンディショナーとして製品を提供するために使用される付加的な界面活性剤および他の活性剤を必要としなくてもよい。このような製品中の化粧品として許容可能なビヒクルは、単に水またはポリマーで構造化された水であってもよい。
【0047】
本発明の別の態様は、絹フィブロインの水溶液を調製し、続いて任意に油と混合し、次いで、前記混合物をカチオン性化合物の水溶液で均質化することを含む、本発明の組成物の製造方法に関する。
【0048】
本発明の組成物は、別の態様では、所望の表面に組成物を塗布する工程を含む毛髪に利益を提供する方法を提供し、その利益は、減少した破損、滑らかさおよび潤滑性の増大並びに良好な毛髪損傷修復を含む。本方法は、好ましくは非治療的である。
【0049】
本発明を、以下の非限定的な実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0050】
実施例A、B、1-3:
以下の表1に示すような乳剤を調製した。
【表1】
【0051】
x(表の注釈):ここで使用された絹フィブロインは、分子量が95kDaであった。それは以下の手順を用いて調製した。
【0052】
高分子量(95±1kDa)を有する絹フィブロイン(SF)溶液を、以下の順序の方法を用いて調製した。
【0053】
(1)脱ガム:炭酸ナトリウムの0.5重量%溶液中でカイコ(Bombyx mori)の生繭を2回煮沸(それぞれ20分間)してセリシンを除去した。
【0054】
(2)溶解:乾燥した脱ガム絹を9.5mol/L濃度の臭化リチウム水溶液に40℃で40分間溶解した。
【0055】
(3)精製:溶液を濾過後、12~14kDa分子量カットオフ透析膜を用いて室温で72時間、脱イオン水に対して透析し、塩を除去した。次いで、8000rpmで8分間遠心分離することにより、透析溶液を清澄化した。上清は水性SF溶液であり該上清を回収して、使用前に4℃で保存した。
【0056】
y(表の注釈):使用したオリゴキトサンは、3~8の範囲のキチン単位の繰り返を有していた。
【0057】
上記のSF溶液(分子量95kDa)をパーム油と混合し、3分間ホモジナイズすることによりSF乳剤を調製した。次いで、得られたSF乳剤にカチオン性物質を添加し、1分間ホモジナイズした。
【0058】
本発明の組成物の毛髪の乾燥摩擦、破断毛髪数および変性温度に対する効果
-毛髪の乾燥摩擦-
本発明の組成物で処理された毛髪の乾燥摩擦を以下のように測定した。
【0059】
脱色ヘアスイッチ(5g、10”)を5mlのSF乳剤(上記表1記載)で1分間処理(毛髪を穏やかにマッサージすることにより処理)し、毛髪を30秒間すすぎ、20℃/50%の相対湿度で一晩乾燥させた。
【0060】
このように処理された毛髪の乾燥摩擦のデータを、テクスチャー分析装置を用いて測定し、以下の表2に示す。
【0061】
-破断毛髪数-
5000回櫛で梳いた後に破断された毛髪繊維の数を測定した。データは以下の表2に要約される。
【0062】
-変性温度-
処理された毛髪繊維の変性温度は、示差走査熱量測定法を用いて測定された。そのデータも以下の表2に要約される。
【表2】
【0063】
上記表2のデータは、本発明に係る組成物(実施例1~3)が、ヴァージン毛や特に脱色毛と比較して、毛髪の非常に良好な扱い易さを示す大幅に低減された乾燥摩擦を提供することを示している。破断毛髪数についても同様の挙動が見られ、本発明の組成物がこの利益を非常に良好に送達することが見てとれる。本発明の組成物で処理された試料について、毛髪の固有強度の指標でもある変性温度は、(ヴァージン毛と比較してさえも)優れていることがわかる。