(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】腎線維症および/または慢性腎臓疾患の治療におけるFXIIaインヒビターの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230724BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230724BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20230724BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230724BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20230724BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230724BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P13/12
A61K47/60
A61K47/64
A61K47/65
A61K47/68
(21)【出願番号】P 2020531919
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 AU2018051333
(87)【国際公開番号】W WO2019113642
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-08
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500021413
【氏名又は名称】シーエスエル、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マルゴザタ・ヴィグレツカ
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ノルテ
(72)【発明者】
【氏名】コン・パノーシス
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511267(JP,A)
【文献】日本内科学会雑誌, (2015), 104, [8], p.1658-1664
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における、特にヒトまたは動物対象における慢性腎臓疾患および/または腎線維症の治療または防止で使用するための、第XII因子(FXII)のインヒビターを含む医薬組成物
であって、
前記FXIIのインヒビターは、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片であり、
慢性腎臓疾患および/または腎線維症は、以下:腎炎、ループス腎炎、C3-糸球体腎炎、デンスデポジット病、非定型溶血性尿毒症症候群、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、腎臓移植の抗体媒介性拒絶反応を含む群から選択される、糸球体硬化症、腎瘢痕、腎臓における虚血/再灌流障害、急性腎臓傷害、腎臓の移植片/同種移植片の拒絶反応、再発性基礎疾患、および/もしくはFXII/FXIIa媒介性補体形成と関係がある炎症性腎臓疾患の1つもしくはそれ以上の結果である、ならびに/またはこれらの1つもしくはそれ以上に関連する、
前記医薬組成物。
【請求項2】
抗FXII抗体は:
(i)以下を含むV
H:
-配列番号6に記載される配列;もしくは
-配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および配列番号12に記載される配列を含むCDR3;もしくは
-配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
L:
-配列番号7に記載される配列;もしくは
-配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号16に記載される配列を含むCDR3;もしくは
-配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号15に記載される配列を含むCDR3
を含む、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗FXII抗体は:
(i)配列番号18に記載される配列を含むV
Hおよび配列番号19に記載される配列を
含むV
L、または
(ii)配列番号20に記載される配列を含む重鎖および配列番号21に記載される配列を含む軽鎖を含む、請求項
1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗FXII抗体は、単一特異性、二重特異性または三重特異性IgG抗体である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
FXIIのインヒビターは、融合パートナーに連結しており
、融合パートナーは、ポリエチレングリコール(PEG)または半減期増強ポリペプチドを含み
、半減期増強ポリペプチドは、アルブミン、アファミン、アルファフェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、ヒトアルブミン、免疫グロブリンおよびIgGのFcからなる群から選択される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
半減期増強ポリペプチドは、リンカーを介してFXIIのインヒビターに連結している、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
FXIIのインヒビターは、リンカーペプチドを介してFXIIのインヒビターに連結されたヒトアルブミンを含む融合タンパク質である、請求項
5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
FXIIのインヒビターは、対象に静脈内または皮下または髄腔内投与される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
FXIIのインヒビターは:
-単回用量で;または
-複数回の用量で;または
-持続用量として
対象に投与される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
FXIIのインヒビターは、約0.01~約100mg/kg体重の濃度で対象に投与され
、FXIIのインヒビターは、約1~約20mg/kg体重の濃度で対象に投与される、請求項1
~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
対象は、慢性腎臓疾患および/または腎線維症を発生する危険性があり
、慢性腎臓疾患および/または腎線維症は、以下:腎炎、ループス腎炎、C3-糸球体腎炎、デンスデポジット病、非定型溶血性尿毒症症候群、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、腎臓移植の抗体媒介性拒絶反応を含む群から選択される、糸球体硬化症、腎瘢痕、腎臓における虚血/再灌流障害、急性腎臓傷害、腎臓の移植片/同種移植片の拒絶反応、再発性基礎疾患、および/もしくはFXII/FXIIa媒介性補体形成と関係がある炎症性腎臓疾患の1つもしくはそれ以上の結果である、ならびに/またはこれらの1つもしくはそれ以上に関連する、請求項1~
10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
対象における慢性腎臓疾患および/または腎線維症の治療または防止に使用するためのキットであって
、該慢性腎臓疾患および/または腎線維症は、以下:腎炎、ループス腎炎、C3-糸球体腎炎、デンスデポジット病、非定型溶血性尿毒症症候群、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、腎臓移植の抗体媒介性拒絶反応を含む群から選択される、糸球体硬化症、腎瘢痕、腎臓における虚血/再灌流障害、急性腎臓傷害、腎臓移植/同種移植の拒絶反応、再発性基礎疾患、および/もしくはFXII/FXIIa媒介性補体形成と関係がある炎症性腎臓疾患の1つもしくはそれ以上の結果である、ならびに/またはこれらの1つまたはそれ以上に関連し:
-
請求項1~11のいずれか一項に記載の、少なくとも1つの
医薬組成物;
-対象における慢性腎臓疾患および/または腎線維症の治療または防止でキットを使用するための指示書、ならびに
-少なくとも1つのさらなる治療的に活性な化合物または薬物を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腎疾患または腎臓疾患を治療または防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国成人人口の10%より多く(約3000万人)が慢性腎臓疾患(CKD)に罹患している。適切な根治治療がないこととともに、この罹患率によって、CKDの新規な治療戦略の開発が求められている。腎線維症は、その一次病因とは無関係に、大抵の慢性腎臓疾患の最終的な症状発現であると考えられる。腎臓実質のほぼ99%は、尿細管間質からなる。細胞死の亢進および/または増殖/再生の低下に基づく尿細管上皮細胞(TEC)の喪失は、腎疾患を慢性化および線維化に導くことに関与する初期の決定的な機構に相当する。線維芽細胞の過剰活性化および筋線維芽細胞へのその分化とともに、TECの死は、細胞外基質(ECM)の制御されない生成および蓄積を促進し、それによって、機能的ネフロンが線維化瘢痕組織と置き換わる。
【0003】
片側尿管閉塞(UUO)の実験モデルは、尿管閉塞後の線維化の進展が高度に再現可能であり、ヒト腎線維症において生じる一連の病原的事象を加速された方法で繰り返すので、尿細管間質性線維化の病因を研究するために広く使用されている。特発性肺線維症と対照的に、浸潤性マクロファージは間質性腎線維症の主な特色のうちの1つである。マクロファージは、以下の機構を介して腎臓損傷に影響を及ぼし得る:i)多くの炎症促進性メディエーターを放出することによって、炎症反応を高めること、ii)マクロファージ由来の活性酸素種およびTNF-αが、TECのアポトーシスおよび壊死を誘発することができ、したがって、腎損傷を拡大することができること、およびiii)マクロファージによる線維化促進性サイトカインおよび成長因子の過剰生成が、線維芽細胞の増殖およびα-平滑筋アクチン(SMA)陽性筋線維芽細胞へのその分化を刺激することができ、それによって、異常な創傷治癒を、最終的に線維化を誘導することができること。証拠の蓄積によって、マクロファージ浸潤の程度が腎損傷の重症度と強く相関することが示唆される。腎臓疾患の病因におけるマクロファージの有害な役割は、同じ疾患モデルにおいて、マクロファージの枯渇により半月体形成性糸球体腎炎の発生が停止し、骨髄由来マクロファージの養子移植によって腎損傷が悪化することを実証する研究によっても支持される。UUOモデルは、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0004】
接触システムまたは血漿カリクレイン-キニンシステムは、3種のセリンプロテアーゼ:ハーゲマン因子(凝固第XII因子、FXII)、第XI因子(FXI)および血漿カリクレイン(PKLK)ならびに非酵素補助因子の高分子量キニノーゲン(HK)からなる。接触システムの活性化は、カオリン、硫酸デキストラン、内毒素、細胞外RNA、ポリホスフェートおよびヘパリンなどの負に荷電した表面へのFXIIの曝露の際に生じる。この環境では、FXIIは、2本鎖の活性プロテアーゼ、FXIIaに変換される。FXIIaは、第XI因子(FXI)の活性化を介して内在性血液凝固経路を開始する。しかし、最近のデータは、FXIIは生理的止血に必ずしも必要でないという考えを支持し、病的血栓症におけるFXIIの必須の役割を実証する。さらに、FXIIaはプレカリクレインをカリクレインへ変換し、次にこれが、さらなるFXIIを活性化し、高分子量キニノーゲン(HK)からブラジキニン(BK)を遊離させる。さらに、FXIIは、uPAR依存的に内皮細胞の増殖を刺激する。
【0005】
先行技術文献、特許文献1は、凝固第XII因子を阻害するための抗FXII抗体の使用、および静脈性または動脈性の血栓形成と関係がある障害の治療または予防における対応する抗体またはインヒビターの使用、すなわち抗血栓剤としての使用に関する。先行技術文献、特許文献2は、間質性肺疾患を治療するための第XII因子インヒビターの使用に関する。論文、非特許文献2は、特発性肺線維症(IPF)の病因における凝固経路との関連におけるFXI/FXIIに関する。先行技術文献、特許文献3は、神経外傷性障害を治療するための第XII因子インヒビターの使用に関する。非特許文献3は、心血管疾患を治療するためのアプローチとしてのFXIIの標的化を論じている。
【0006】
今までに、腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)の発生におけるFXIIの役割は評価されていない。
【0007】
腎臓または腎線維症に関する臨床試験を受けているまたは受けたことがある既知の小分子または薬剤は、異なる標的および/または機構に関連する(非特許文献4)。ピルフェニドンは、げっ歯類において腎臓線維症を防止することができるが、この利益は腎患者においてまだ確証されていない。77人の腎臓疾患患者をともなう研究において、ピルフェニドンは腎機能を改善したが、タンパク尿を有意に低減せず、これは、ピルフェニドンは腎機能を改善するが、有足細胞損傷を改善しないことを示唆する。腎線維症を媒介するいくつかの重要なシグナリング経路が特定されているが、現在、これらの経路を標的化する薬物のいずれも、大規模な臨床試験において、腎臓疾患に対する抗線維化療法において有効であるということが証明されておらず、新規な標的が提案され続けている(非特許文献5)。
【0008】
ある研究において、マウスにおける虚血再灌流障害(IRI)に対する初期炎症反応および線維化へのその後の進行に対するヒトC1インヒビター(C1 INH)の影響が調査され、再灌流より前にC1-INHが与えられた動物は、ビヒクル(PBS)処理した対応動物と比較して、優れた腎機能に加えて生存率の有意な改善を有することが観察された。これに関する発見により、虚血傷害より前のC1-INHの静脈内送達は、炎症性損傷および線維化へのその後の進行から腎臓を保護することを示すことが分かった。本発明者らは、IRIにおける初期補体遮断は、虚血性急性腎臓傷害後の線維化の防止における有効な戦略を構成すると結論する(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2006/066878
【文献】WO2011/121123A1
【文献】WO2015/193457A1
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chevalierら、Kidney International(2009)、75、1145~1152(doi:10.1038/ki.2009.86)
【文献】「Role of Instrinsic Coagulation Pathway in the Pathogenesis of Idiopathic Pulmonary Fibrosis」、Ewa Jablonska、2010年11月29日、VVB Laufersweiler、Giessen(ISBN:978-3-8359-5693-3)
【文献】Vorlovaら、Thromb.Haemost.2017年1月5日;117(1):176~187(doi:10.1160/TH16-06-0466;Epub 2016年10月27日)
【文献】Nanthakumarら、Nature Reviews 2015年、693~720、doi:10.1038/nrd4592
【文献】Nugentら、frontiers in physiology 2015年(6)、論文132、doi:10.3389/fphys.2015.00132
【文献】Danobeitia J.S,Ziemelis M,Ma X,Zitur LJ,Zens T,Chlebeck PJら(2017)、Complement inhibition attenuates acute kidney injury after ischemia-reperfusion and limits progression to renal fibrosis in mice;PLoS ONE 12(8):e0183701.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0183701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の努力にもかかわらず、現在、腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)の治療に対して承認された医薬はない。したがって、好ましくは、制御されないTEC死を防止し、尿細管の増殖/再生を促進し、線維芽細胞の活性化を阻害する抗線維化戦略に対する、いまだに対処されていない臨床的要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の要求を満たすために、本発明は、
対象における、特にヒトまたは動物対象における慢性腎臓疾患および/または腎線維症の
- 治療または防止で使用するための第XII因子(FXII)のインヒビター
- 治療および防止で使用するためのキット、ならびに
- 治療および防止で使用するための抗第XII因子(FXII)抗体またはその抗原結合性断片を提供し、特に、慢性腎臓疾患および/または腎線維症は、以下:限定されないが、腎炎、ループス腎炎、C3-糸球体腎炎、デンスデポジット病、非定型溶血性尿毒症症候群、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病および腎臓移植の抗体媒介性拒絶反応の群から選択される、糸球体硬化症、腎瘢痕、腎臓における虚血/再灌流障害、急性腎臓傷害、腎臓の移植片/同種移植片の拒絶反応、再発性基礎疾患、および/もしくはFXII/FXIIa媒介性補体形成と関係がある炎症性腎臓疾患の1つもしくはそれ以上の結果である、ならびに/またはこれらの1つもしくはそれ以上に関連する。
【0013】
本発明の文脈において、および明細書および特許請求の範囲の全体を通して、用語「第XII因子のインヒビター」は、C1INHを包含しないように、すなわち、「第XII因子のインヒビターがC1 INHではないという条件で」理解されるものとする。
【0014】
本発明をもたらす際に、本発明者らは、片側尿管閉塞(UUO)の上記の実験モデルを使用する腎線維症のマウスモデルにおいて、第XII因子(FXII)の阻害効果を研究した。本発明者らは、実験的腎線維症におけるFXII阻害は、
(i)細胞外基質タンパク質の存在量を顕著に低減させ、
(ii)初期において、マクロファージの蓄積にもサイトカインの産生にも影響を及ぼさず、
(iii)疾患の初期および後期において、アポトーシス性腎尿細管上皮細胞の数の顕著な減少をもたらし、
(iv)疾患の初期および後期において、増殖性腎尿細管上皮細胞の数の増加をもたらし、
(v)体重減少を減弱する
ことを見出した。
【0015】
本発明者らは、ヒト腎線維症において生じる一連の病原的事象を加速された方法で繰り返す、腎線維症の認められた動物モデルに、FXIIのインヒビターを投与することによって、これらの効果を実証した。
【0016】
本発明者らによる発見は、FXIIを阻害することによって、対象における腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)を治療または防止するための方法の基礎を提供する。本発明者らによる発見は、対象における腎線維症および/またはCKDの治療または防止で使用するためのFXIIのインヒビターの基礎も提供する。
【0017】
例えば、本開示は、対象における腎線維症および/またはCKDを治療するための方法であって、FXIIのインヒビターを対象に投与することを含む方法を提供する。別の例では、本開示は、対象における腎線維症を防止するための方法であって、FXIIのインヒビターを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0018】
代替例では、本開示は、対象において腎線維症を治療するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。別の例では、本開示は、対象において腎線維症を防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。
【0019】
本発明者らは、このインヒビターが対象において腎線維症の進行を小さくすることができることも発見した。したがって、本開示はさらに、対象において腎線維症の進行を小さくする方法または対象において腎線維症の進行を小さくするのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。例えば、本開示は、対象における腎線維症の危険性を低減する、もしくは対象における腎線維症を防止する方法、または対象における腎線維症の危険性を低減する、もしくは対象における腎線維症を防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。
【0020】
一例では、FXIIのインヒビターは直接的インヒビターである。一例では、FXIIのインヒビターは、FXIIおよび/またはFXIIaに結合する。一例では、FXIIのインヒビターはFXIIおよび/またはFXIIaに結合し、FXIIおよび/またはFXIIaの活性を阻害する。例えば、FXIIのインヒビターはFXIIaに結合し、FXIIaの活性を阻害する。別の例では、FXIIのインヒビターはFXIIに結合し、FXIIの活性化を阻害する。一例では、FXIIおよび/またはFXIIaの活性は、それぞれ少なくとも約50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%阻害される。例えば、FXIIおよび/またはFXIIaの活性は、それぞれ約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%阻害される。FXIIおよび/またはFXIIaの活性を決定するための方法は当技術分野で公知であり、および/または本明細書に記載される。
【0021】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターである。例えば、FXIIインヒビターはInfestin-4である。別の例では、FXIIインヒビターはSPINK-1である。さらなる例では、FXIIインヒビターはInfestin-4またはSPINK-1の変異体である。
【0022】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターではない。例えば、FXIIのインヒビターはInfestin-4ではない。例えば、FXIIのインヒビターはInfestin-4の変異体ではない。一例では、FXIIのインヒビターはSPINK-1ではない。例えば、FXIIのインヒビターはSPINK-1の変異体ではない。
【0023】
一例では、本開示の方法または本開示で使用するためのFXIIのインヒビターはFXIIのインヒビターを投与することを含み、このインヒビターは以下を含む:
(i)野生型Infestin-4ポリペプチド配列(配列番号1)、もしくは:
(a)配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された配列番号1;および/もしくは、
(b)配列番号1に対して少なくとも70%同一であり、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列
を含むポリペプチド配列;または、
(ii)野生型SPINK-1ポリペプチド配列(配列番号2)、もしくは:
(a)N末端アミノ酸位置2~13を配列番号1のN末端アミノ酸2~13と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対するポリペプチド配列の相同性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異を含有するようにさらに改変された配列番号2;および/もしくは、
(b)配列番号2に対して少なくとも70%同一であり、配列番号2由来の6つの保存システイン残基を保持する配列
を含むポリペプチド配列;または、
(iii)SPINK-1突然変異体K1(配列番号3)、K2(配列番号4)もしくはK3(配列番号5)のうちの1つ。
【0024】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターInfestin-4の配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは配列番号1に記載される配列を含む。
【0025】
一例では、FXIIのインヒビターは改変Infestin-4を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された、配列番号1に記載される配列を含む。
【0026】
別の例では、FXIIのインヒビターは、配列番号1に記載される配列に対して少なくとも70%の同一性を有し、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1に対して約75%の同一性、または配列番号1に対して約80%の同一性、または配列番号1に対して約85%の同一性、または配列番号1に対して約90%の同一性、または配列番号1に対して約95%の同一性、または配列番号1に対して約98%の同一性、または配列番号1に対して約99%の同一性を有する。
【0027】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターSPINK-1の配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは配列番号2に記載される配列を含む。
【0028】
別の例では、FXIIのインヒビターは、N末端アミノ酸位置2~13を配列番号1のN末端アミノ酸2~13と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対するポリペプチド配列の相同性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異を含有するようにさらに改変された配列番号2に記載される配列を含む。
【0029】
別の例では、FXIIのインヒビターは、配列番号2に記載される配列に対して少なくとも70%の同一性を有し、配列番号2由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号2に対して約75%の同一性、または配列番号2に対して約80%の同一性、または配列番号2に対して約85%の同一性、または配列番号2に対して約90%の同一性、または配列番号2に対して約95%の同一性、または配列番号2に対して約98%の同一性、または配列番号2に対して約99%の同一性を有する。
【0030】
一例では、FXIIのインヒビターは可変領域断片(Fv)を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は以下からなる群から選択される:
(i)単鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体scFv(di-scFv);または
(iv)ダイアボディ(すなわち、二重特異性抗体);
(v)トリアボディ(すなわち、三重特異性抗体);
(vi)テトラボディ(すなわち、四重特異的抗体);
(vii)Fab;
(viii)F(ab’)2;
(ix)Fv;
(x)抗体の定常領域、Fcもしくは重鎖定常ドメイン(CH)2および/もしくはCH3に連結した(i)~(ix)のうちの1つ;または
(xi)抗体。
【0031】
一例では、FXIIのインヒビターは抗体である。例えば、抗体は抗FXII抗体である。別の例では、抗体は抗FXIIa抗体である。
【0032】
例示的抗体は全長および/またはネイキッド抗体である。
【0033】
一例では、FXIIのインヒビターは組換え、キメラ、CDR移植、ヒト化、合成ヒト化、霊長類化、脱免疫化またはヒトのタンパク質である。
【0034】
一例では、抗体はIgG抗体である。
【0035】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号6に記載される配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0036】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号7に記載される配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0037】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号6に記載される配列を含むVHおよび配列番号7に記載される配列を含むVLを含む。
【0038】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号6および配列番号7のVHおよび/またはVLの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。
【0039】
一例では、タンパク質または抗体は、前述のタンパク質または抗体のうちのいずれかをコードする核酸によってコードされたタンパク質または抗体の任意の形態であり、例えば、コードされたC末端リジン残基を欠く変異体、脱アミド化変異体および/またはグリコシル化変異体および/または例えば、タンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変異体および/またはN末端残基を欠く変異体である。
【0040】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むVH:
(a)配列番号6に記載される配列;もしくは
(b)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および配列番号12に記載される配列を含むCDR3;もしくは(c)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL:
(a)配列番号7に記載される配列;もしくは
(b)配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号16に記載される配列を含むCDR3;もしくは
(c)配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号15に記載される配列を含むCDR3。
【0041】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むVH:
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号12に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL:
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号16に記載の配列を含むCDR3。
【0042】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むVH:
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL:
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号15に記載の配列を含むCDR3。
【0043】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むVH
(a)配列番号8に記載されるCDR1;
(b)配列番号10に記載されるCDR2(ここで、位置3のXはDであり、位置4のXはIであり、位置5のXはPであり、位置6のXはTであり、位置7のXはKであり、位置8のXはGである);および
(c)配列番号11に記載されるCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL
(a)配列番号13に記載されるCDR1;
(b)配列番号14に記載されるCDR2;および
(c)配列番号15に記載されるCDR3。
【0044】
例えば、抗FXII抗体は、配列番号18に記載される配列を含むVHおよび配列番号19に記載される配列を含むVLを含む。
【0045】
一例では、抗FXII抗体はラムダ軽鎖定常領域を含む。
【0046】
一例では、抗FXII抗体はIgG4または安定化IgG4定常領域を含む。例えば、安定化IgG4定常領域は、Kabatのシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、1987および/または1991)に従って、ヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。
【0047】
一例では、抗FXII抗体は組成物内に存在する。例えば、組成物は、本明細書に記載の抗体可変領域またはVHまたはVLまたは抗体を含むタンパク質を含む。一例では、組成物は、タンパク質または抗体の1種またはそれ以上の変異体をさらに含む。例えば、組成物は、コードされたC末端リジン残基を欠く変異体、脱アミド化変異体および/またはグリコシル化変異体および/または例えば、タンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変異体および/またはN末端残基、例えば、抗体もしくはV領域のN末端グルタミンを欠く変異体および/または分泌シグナルのすべてまたは一部を含む変異体を含む。コードされたアスパラギン残基の脱アミド化変異体は、イソアスパラギン酸およびアスパラギン酸アイソフォームを生成することができ、または隣接するアミノ酸残基を含むスクシンアミドさえもたらすことができる。コードされたグルタミン残基の脱アミド化変異体はグルタミン酸をもたらすことができる。特定のアミノ酸配列を参照する場合に、そのような配列および変異体の異種混合物を含む組成物が含まれることが意図される。
【0048】
本明細書に記載の任意の方法または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターの一例では、FXIIのインヒビターは融合パートナーに連結している。例えば、融合パートナーは、ポリエチレングリコール(PEG)または半減期増強ポリペプチドを含む。
【0049】
一例では、FXIIのインヒビターは直接的に融合パートナーに連結している。別の例では、FXIIのインヒビターはリンカーを介して融合パートナーに連結している。例えば、FXIIのインヒビターは直接的に半減期増強ポリペプチドに連結している。別の例では、FXIIのインヒビターはリンカーを介して半減期増強ポリペプチドに連結している。一例では、FXIIのインヒビターは直接的にPEGに連結している。別の例では、FXIIのインヒビターはリンカーを介してPEGに連結している。
【0050】
一例では、リンカーは介在性ペプチドリンカーである。例えば、リンカーは切断可能なリンカーである。
【0051】
一例では、半減期増強ポリペプチドはアルブミン、アファミン、アルファ-フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、ヒトアルブミン、免疫グロブリンおよびIgGのFcからなる群から選択される。例えば、半減期増強ポリペプチドはアルブミンである。
【0052】
一例では、FXIIのインヒビターは、リンカーペプチドを介してFXIIインヒビターに連結したヒトアルブミンを含む融合タンパク質である。
【0053】
一例では、FXIIのインヒビターは非経口的に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは静脈内または皮下または髄腔内に投与される。一例では、FXIIのインヒビターは皮下に投与される。別の例では、FXIIのインヒビターは静脈内に投与される。
【0054】
本明細書に記載の任意の方法の一例では、FXIIのインヒビターは、1回またはそれ以上の用量で対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは:
(i)単回用量で;または
(ii)複数回の用量で;または
(iii)持続注入もしくは塗布として
対象に投与される。
【0055】
一例では、FXIIのインヒビターは対象に単回用量で投与される。
【0056】
一例では、FXIIのインヒビターは複数回の用量で対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、2回用量または3回用量または4回用量または5回用量またはそれ以上の用量として対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は数時間の期間で隔てられる。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、約1時間または約2時間または約3時間または約4時間または約6時間または約8時間または約12時間または約16時間または約20時間または約24時間の期間で隔てられる。
【0057】
例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は数日の期間で隔てられる。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、約1日または約2日または約3日または約4日または約5日または約6日または約7日の期間で隔てられる。
【0058】
一例では、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、少なくとも14日または少なくとも28日隔てられる。
【0059】
例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は数週間の期間で隔てられる。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、約1週間または約2週間または約3週間または約4週間または約5週間または約6週間の期間で隔てられる。
【0060】
一例では、FXIIのインヒビターの各用量の投与は少なくとも1か月間隔てられる。
【0061】
一例では、FXIIのインヒビターの投与間の時間の長さは投与過程を通して同じである。一例では、FXIIのインヒビターの投与間の時間の長さは投与過程を通して異なる。例えば、FXIIのインヒビターは、所定の用量数に従って、療法の開始時に週1回の頻度で投与され、次いで月1回の頻度で投与される。一例では、FXIIのインヒビターの投与間の時間の長さは変動し得る。
【0062】
一例では、FXIIのインヒビターは持続用量として対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターはある期間にわたって持続注入として対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは約1分~約24時間の期間にわたって投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約10分~約12時間または約10分~約6時間または約10分~約5時間または約10分~約4時間または約10分~約3時間または約10分~約2時間または約10分~約1時間または約30分の期間にわたって投与される。
【0063】
一例では、FXIIのインヒビターは複数回投与される。例えば、FXIIのインヒビターは1回またはそれ以上投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、腎線維症が治療されるまたは防止されるまで投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、数日~数か月の期間にわたって投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約1日または約2日または約3日または約4日または約5日または約6日または約1週間または約2週間または約4週間または約6週間または約2か月にわたって投与される。
【0064】
一例では、FXIIのインヒビターは治療的または予防的に有効な量で投与される。例えば、FXIIのインヒビターは約0.01mg/kg~約1000mg/kgの用量で対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約0.01mg/kg体重または約0.1mg/kg体重または約1mg/kg体重または約50mg/kg体重または約100mg/kg体重または約200mg/kg体重または約500mg/kg体重または約1000mg/kg体重の用量で投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約0.001mg/kg~約100mg/kg体重または約0.01mg/kg~約100mg/kgまたは約0.01mg/kg~約50mg/kgまたは約0.1mg/kg~約30mg/kgまたは約0.1mg/kg~約10mg/kgまたは約0.1mg/kg~約5mg/kgまたは約0.1mg/kg~約2mg/kgまたは約0.1mg/kg~約1mg/kgの用量で投与される。一例では、FXIIのインヒビターは、約0.01mg/kg~約1000mg/kgまたは約0.1mg/kg~約1000mg/kgまたは約1mg/kg~約1000mg/kgまたは約1mg/kg~約500mg/kgまたは約10mg/kg~約200mg/kgまたは約10mg/kg~約100mg/kgまたは約50mg/kg~約500mg/kgまたは約50mg/kg~約200mg/kgまたは約100mg/kg~約200mg/kgの範囲の用量で投与される。一例では、FXIIのインヒビターは約10mg/kgの用量で投与される。一例では、FXIIのインヒビターは約20mg/kgの用量で投与される。
【0065】
一例では、対象は腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)を有する。一例では、対象は腎線維症および/またはCKDに罹患していると診断されている。一例では、対象は腎線維症および/またはCKDの治療を受けている。一例では、対象は腎線維症および/またはCKDに関連した状態(例えば、糖尿病性腎障害、高血圧性腎障害、糸球体腎炎、糸球体硬化症、間質性腎炎)の治療を受けている。一例では、患者は生得のもしくは同種移植の腎臓の線維症および/またはCKDの治療を受けている。例えば、対象は、ACEインヒビター、抗高血圧薬、コルチコステロイド、免疫抑制剤(アザチオプリン、MMF、シクロホスファミド、リツキシマブ)による治療を受けている。
【0066】
一例では、対象は透析または血液透析の形態で治療を受けている。一例では、対象はRAASインヒビターによる治療を受けている。
【0067】
本明細書に記載の任意の方法または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターの一例では、対象は、腎線維症および/またはCKDを発生する危険性がある。この関連で、FXIIのインヒビターは防止的もしくは予防的様式で使用され、または一次防止様式で使用されると言うことができる。腎線維症および/またはCKDを発生する危険性がある例示的対象は糖尿病に罹患している。例えば、糖尿病は2型糖尿病である。
【0068】
腎線維症および/またはCKDに罹患する危険性がある対象の、さらなるまたは代替の特徴としては、以下の特徴の1つまたはそれ以上が挙げられる:
・糖尿病性腎障害
・高血圧性腎障害
・糸球体腎炎
・ループス腎炎
・腎血管炎
・糸球体硬化症
・間質性腎炎
・常染色体優性多発性嚢胞腎
・アルポート症候群
・鎮痛薬腎障害
・虚血再灌流または拒絶反応と関係がある腎臓同種移植損傷
【0069】
一例では、腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)を発生する危険性がある高血圧性腎障害(腎硬化症)を有する対象は、線維形成を抑制するために、FXIIaのインヒビターで治療される。
【0070】
一例では、腎線維症および/またはCKDを発生する危険性がある慢性糸球体腎炎を有する対象は、腎臓線維症を防止するために、FXIIのインヒビターで治療される。
【0071】
一例では、腎線維症および/またはCKDを発生する危険性があるアルポート症候群に罹患している対象は、腎線維症を低減するために、FXIIのインヒビターで治療される。
【0072】
腎血管炎に罹患している患者は、急性期炎症マーカーのレベルが上昇した:循環中のC反応性タンパク質およびIL-6のレベルが増大した、糸球体と尿細管間質の両方に激しい腎炎症を有する。
【0073】
本明細書に記載の任意の方法の一例では、FXIIのインヒビターは腎線維症および/またはCKDの発症の前または後に対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは予防的または治療的に投与される。一例では、インヒビターは予防的に対象に投与される。一例では、インヒビターは治療的に対象に投与される。
【0074】
毎年、米国において、およそ100,000人のCKD患者が、基礎腎疾患に関係なく、末期腎線維症のために、腎代替療法を開始する必要がある。本開示は、本明細書に記載の方法を実施することによって、透析および/または腎臓移植を受けなければならないという危険性を低減させるための方法を提供する。
【0075】
FXIIのインヒビターは、以下の効果を誘発するのに十分である量で、糖尿病性腎障害を有する患者に投与される:タンパク尿の低減および糸球体濾過率(GFR)の喪失の緩徐化。
【0076】
FXIIのインヒビターは、末期腎疾患をともなう腎線維症を防止するために、腎線維症および/またはCKDの発生の前に、初期糸球体硬化症に罹患している患者に投与される。患者のある群では、FXIIのインヒビターは、GFRのさらなる喪失を緩徐化することができるかどうかを調査するために、腎線維症および/またはCKDの発生の後に投与される。
【0077】
糖尿病性腎障害を有する患者の群では、FXIIaのインヒビターは、タンパク尿を低減させることができるかどうかを調べるために、腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)の症状の発症後に投与される。糖尿病性腎障害を有する患者のさらなる群では、FXIIのインヒビターは、腎線維症および/またはCKDの症状、例えば、タンパク尿およびGFRの低下の1つまたはそれ以上を軽減するまたは低減する用量で投与される。
【0078】
腎線維症および/またはCKDの臨床徴候および症状は当業者に知られている。それらとしては、以下が挙げられる:
- 高血圧
- 容量過負荷
- 貧血
- 二次性または三次性副甲状腺機能亢進
- 代謝性アシドーシス
- 高カリウム血症
- そう痒
- 尿毒症性脳症
【0079】
本明細書に記載の使用のための治療方法またはFXIIのインヒビターは、腎線維症および/またはCKDを防止するおよび/または治療するためにコルチコステロイドおよび他の免疫抑制剤(アザチオプリン、MMF、シクロホスファミド、リツキシマブ)を投与する必要性をさらに低減することができる。
【0080】
本開示は、それらを必要とする対象において腎線維症および/またはCKDを治療または防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを含む組成物も提供する。本開示は、対象において腎線維症および/またはCKDを治療または防止するための医薬の製造におけるFXIIのインヒビターの使用も提供する。
【0081】
本開示は、対象において腎線維症および/またはCKDを治療または防止するのに使用するために、指示書とともにパッケージ化された少なくとも1種のFXIIのインヒビターを含むキットも提供する。場合により、キットは治療的に活性な化合物または薬物をさらに含む。
【0082】
本開示は、場合により治療的に活性な化合物または薬物と組み合わせて、腎線維症および/もしくはCKDに罹患しているまたは腎線維症および/もしくはCKDに罹患する危険性がある対象にFXIIのインヒビターを投与するために、指示書とともにパッケージ化された少なくとも1種のFXIIのインヒビターを含むキットも提供する。
【0083】
腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)の例示的影響およびFXIIのインヒビターは本明細書に記載され、前の5段落に示された本開示の例に準用すると解釈されるものとする。
【0084】
発明者は、ヒト対象の治療に使用するのに適するFXIIのインヒビター、例えば、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片も産生した。このインヒビターは、すべてではないがほとんどのフレームワーク領域中残基を生殖系列ヒト抗体のものと同じにするように改変され、それによって、免疫原性の可能性を低減する、親和性成熟ヒト抗体である。この抗体はまた、FXIIaを阻害することができ、優れた製造可能特性を有する。したがって、本開示は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片も提供し、抗FXII抗体は、配列番号18に記載される配列を含むVHおよび配列番号19に記載される配列を含むVLを含む。
【0085】
一例では、抗FXII抗体はラムダ軽鎖定常領域を含む。一例では、抗FXII抗体はIgG4または安定化IgG4定常領域を含む。例えば、安定化IgG4定常領域は、Kabatのシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、1987および/または1991)に従って、ヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。
【0086】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号20に記載される配列を含む重鎖および配列番号21に記載される配列を含む軽鎖を含む。一例では、本開示は、抗FXII抗体または抗原結合性断片および担体、例えば、医薬的に許容可能な担体を含む組成物を提供する。一例では、組成物は、タンパク質または抗体の1種またはそれ以上の変異体をさらに含む。例えば、組成物は、コードされたC末端リジン残基を欠く変異体、脱アミド化変異体および/またはグリコシル化変異体および/または例えば、タンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変異体および/またはN末端残基、例えば、抗体もしくはV領域のN末端グルタミンを欠く変異体および/または分泌シグナルのすべてもしくは一部を含む変異体を含む。コードされたアスパラギン残基の脱アミド化変異体は、イソアスパラギン酸およびアスパラギン酸アイソフォームを生成することができ、または隣接するアミノ酸残基を含むスクシンアミドさえもたらすことができる。コードされたグルタミン残基の脱アミド化変異体は、グルタミン酸をもたらすことができる。特定のアミノ酸配列を参照する場合に、そのような配列および変異体の異種混合物を含む組成物が含まれることが意図される。
【0087】
本開示は、医学的使用のための抗FXII抗体またはその抗原結合性断片も提供する。
【0088】
本開示は、対象において障害を治療または防止するための方法も提供し、この方法は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含み、障害は、FXII/FXIIa媒介性補体活性化と関係がある腎疾患からなる群から選択される。
【0089】
FXII/FXIIa媒介性補体活性化と関係がある炎症性腎臓疾患:
- ループス腎炎
- C3-糸球体腎炎
- デンスデポジット病
- 非定型溶血性尿毒症症候群
- 連鎖球菌感染後糸球体腎炎
- ヘノッホ-シェーンライン紫斑病
- 腎臓移植の抗体媒介性拒絶反応
【0090】
FXII/FXIIa誘導性補体活性化と関係があるこれら上記の腎臓疾患に罹患している患者は、FXII/FXIIaインヒビターによる治療について選択されるであろう。
【0091】
遺伝性腎炎を有する患者については、腎炎症およびその後の線維化の有効な治療はない。これらの患者は、FXIIaのインヒビターまたは抗FXII抗体で治療されるであろう。
【0092】
体外治療(血液透析、血漿アフェレーシス、カスケード濾過および脂質アフェレーシス)を受けている患者は、負に荷電した人工膜を含む装置に暴露され、これは、FXII/FXIIa媒介性キニン形成および補体活性化を引き起こし得る。前記ヒト対象に行われる医療処置の間および/または後に、対象の血液と人工表面の接触の間および/または後に、前記抗体またはその抗原結合性断片は、前記医療処置の前および/または間および/または後に投与され、ここで、
(i)人工表面は対象の血液量の少なくとも100%に暴露され、人工表面は少なくとも1.0m2である、または
(ii)人工表面は対象の体外の体外循環の一部である、または
(iii)人工表面は、透析機器の一部、例えば、透析膜、チューブシステム、バブルキャッチャーおよびドリップチャンバー(空気への血液の曝露)である。
【0093】
本開示は、本発明の抗体または抗原結合性断片でコーティングされた医療装置も提供し、この装置は透析機、血液の酸素化のための体外膜型酸素供給システム、血液の補助ポンピング用装置、血液透析装置、血液の体外濾過用装置、血液の採取に使用するための貯蔵用容器、腔内カテーテル、ステント、ならびに/またはチューブ、カニューレ、遠心ポンプ、弁、ポートおよび/もしくはダイバーターを含めた、前記装置のうちのいずれか1つのための付属品である。
【0094】
本開示は、体外処置を受けている患者に抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む方法も提供し、医療処置は、以下の少なくとも1つとの接触を含む:
(a)血液透析、
(b)血漿アフェレーシス、
(c)脂質アフェレーシス。
【0095】
本開示は、進行性ネフローゼ症候群、タンパク質消耗糖尿病性腎障害(protein-wasting diabetic nephropathy)を含めた、腎血管透過性の増大に関連する状態を治療または防止するための方法も提供し、この方法は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1A】損傷後10日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓において決定した尿細管損傷スコアを示す図である。
【
図1B】損傷後10日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓からのPAS染色切片を示す図である。
【
図2】
図2A~Cは、損傷後10日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓における、qPCR(
図2A)、ウエスタンブロッティング(
図2B)および免疫組織化学的検査(
図2C)によって評価したα-SMAの発現を示す図である。
【
図3】
図3A~Cは、損傷後10日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓における、qPCR(
図3A)、ウエスタンブロッティング(
図3B)および免疫組織化学的検査(
図3C)によって評価したフィブロネクチンの発現を示す図である。
【
図4】
図4A~Cは、損傷後10日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓における、qPCR(
図4A)、ヒドロキシプロリン含量(
図4B)および免疫組織化学的検査(
図4C)によって評価したコラーゲンI(Col I)の発現を示す図である。
【
図5】
図5Aおよび5Bは、損傷後10日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓におけるマクロファージ(F4/80陽性細胞)の蓄積を示す図である。
【
図6】損傷後3日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓からの代表的な切断カスパーゼ-3染色切片を示す図である。
【
図7】損傷後3日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓からの代表的なKi67染色切片を示す図である。
【
図8】損傷後3日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化腎臓からの代表的なPAS染色切片を示す図である。
【
図9】損傷後10日目の対照および閉塞化(UUO)腎臓を有するIgG-および3F7-治療マウスの体重減少を示す図である。
【
図10】損傷後10日目の対照および閉塞化(UUO)腎臓を有するIgG-および3F7-治療マウスの腎臓/体重の比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
配列表の解説
配列番号1は野生型Infestin-4のアミノ酸配列である。
配列番号2は野生型SPINK-1のアミノ酸配列である。
配列番号3はSPINK-1突然変異体K1のアミノ酸配列である。
配列番号4はSPINK-1突然変異体K2のアミノ酸配列である。
配列番号5はSPINK-1突然変異体K3のアミノ酸配列である。
配列番号6は抗FXII抗体3F7のVHからのアミノ酸配列である。
配列番号7は抗FXII抗体3F7のVLからのアミノ酸配列である。
配列番号8は抗FXII抗体のVH CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号9は抗FXII抗体のVH CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号10は抗FXII抗体のVH CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号11は 抗FXII抗体のVH CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号12は抗FXII抗体のVH CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号13は抗FXII抗体のVL CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号14は抗FXII抗体のVL CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号15は抗FXII抗体のVL CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号16は抗FXII抗体のVL CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号17は抗FXII抗体のVL CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号18は抗FXII抗体gVR115のVHのアミノ酸配列である。
配列番号19は抗FXII抗体gVR115のVLのアミノ酸配列である。
配列番号20は抗FXII抗体gVR115の重鎖のアミノ酸配列である。
配列番号21は抗FXII抗体gVR115の軽鎖のアミノ酸配列である。
配列番号22はヒト第XII因子からのアミノ酸配列である。
配列番号23はヒトアルブミンの成熟型のアミノ酸配列である。
配列番号24はInfestin-4変異体のアミノ酸配列である。
配列番号25はInfestin-4変異体のアミノ酸配列である。
【0098】
一般原則
本明細書全体にわたって、特に記載のない限りまたは文脈上特に必要でない限り、単一工程、物質の組成物、一群の工程または一群の物質の組成物に対する言及は、そうした工程、物質の組成物、一群の工程または一群の物質の組成物の1つおよび複数(すなわち、1つまたはそれ以上)を包含すると解釈されるものとする。
【0099】
本開示が具体的に記載されるもの以外の変形および改変を受けることができることを当業者であれば理解するであろう。本開示がすべてのそのような変形および改変を含むことを理解されたい。本開示は、本明細書で個々にまたはまとめて言及されるまたは示される工程、特色、組成物および化合物のすべて、ならびに前記工程または特色のありとあらゆる組み合わせまたは任意の2つまたはそれ以上も含む。
【0100】
本開示は、本明細書に記載の特定例によって範囲が制限されるものではなく、特定例は、例示の目的のみを意図する。機能的に等価な生成物、組成物および方法は明らかに本開示の範囲内である。
【0101】
本明細書における本開示のいかなる例も、特に記載のない限り、本開示の任意の他の例に準用すると解釈されるものとする。
【0102】
特に他に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学および生化学において)当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有すると解釈されるものとする。
【0103】
別段指示がない限り、本開示で利用される組換えタンパク質、細胞培養および免疫学的技法は標準的な手順であり、当業者に周知である。そのような技法は、J.Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(編)、Essential Molecular Biology:A Practical Approach、1および2巻、IRL Press(1991)、D.M.GloverおよびB.D.Hames(編)、DNA Cloning:A Practical Approach、1~4巻、IRL Press(1995および1996)ならびにF.M.Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and WileyInterscience(1988、現在までのすべての更新を含む)、Ed HarlowおよびDavid Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)ならびにJ.E.Coliganら(編)Current Protocols in Immunology、John Wiley&Sons(現在までのすべての更新を含む)などの出典の文献の全体にわたって記載および説明されている。
【0104】
本明細書における可変領域およびその一部、免疫グロブリン、抗体およびその断片の説明および定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1987および1991、Borkら、J Mol.Biol.242、309~320、1994、ChothiaおよびLesk J.Mol Biol.196:901~917、1987、Chothiaら、Nature 342、877~883、1989、ならびに/または、またはAl-Lazikaniら、J Mol Biol 273、927~948、1997における議論によってさらに明らかになり得る。本明細書におけるタンパク質または抗体のいかなる議論も、製造および/または貯蔵の間に産生される、タンパク質または抗体の任意の変異体を含むと理解される。例えば、製造または貯蔵の間に、抗体は(例えば、アスパラギンまたはグルタミン残基において)脱アミド化される、および/またはグリコシル化の変化がある、および/またはピログルタミンに変換したグルタミン残基を有する、および/または除去されたもしくは「切り取られた(clipped)」N末端もしくはC末端残基を有する、および/または不完全にプロセッシングされた(結果として、抗体の末端に残る)シグナル配列の一部もしくはすべてを有する可能性がある。特定のアミノ酸配列を含む組成物は、記載されたもしくはコードされた配列および/または記載されたまたはコードされた配列の変異体の異種混合物でもよいことが理解されよう。
【0105】
用語「および/または」、例えば、「Xおよび/またはY」は、「XおよびY」か「XまたはY」のいずれかを意味すると理解されるものであり、両方の意味またはいずれかの意味に対する明確な支持を与えると解釈されるものとする。
【0106】
本明細書全体にわたって、単語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含むこと」などの変形形態は、記載されるエレメント、要素(integer)もしくは工程または一群のエレメント、要素または工程の包含を意味するが、任意の他のエレメント、要素もしくは工程または一群のエレメント、要素または工程の排除を意味しないと理解される。
【0107】
本明細書で使用する場合、用語「に由来する」は、指定の要素を特定の供給源から得ることができる(必ずしも直接その供給源からとは限らない)ことを示すと解釈されるものとする。
【0108】
選択された定義
用語「腎(renal)」および「腎臓(kidney)」は、本明細書で互換的に使用される。
【0109】
ハーゲマン因子またはFXIIとしても知られる凝固第XII因子は血漿タンパク質である。これは、セリンプロテアーゼ(またはセリンエンドペプチダーゼ)クラスの酵素である第XIIa因子の酵素前駆体形態である。ヒトでは、第XII因子はF12遺伝子によってコードされる。限定目的ではなく命名の目的のみのために、ヒト第XII因子の例示的配列は、NCBI参照配列:NP_000496.2;NCPIタンパク質受託番号NP_000496および配列番号22に記載されている。第XII因子のさらなる配列を本明細書および/もしくは公的に利用可能なデータベースに提供される配列を使用して決定することができ、ならびに/または(例えば、Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までのすべての更新を含む)またはSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されているような)標準的な技法を使用して決定することができる。
【0110】
本明細書で使用する場合、用語「第XII因子インヒビター」または「FXIIインヒビター」または「FXIIのインヒビター」は、第XII因子(活性化より前、すなわち、その酵素前駆体)と活性化第XII因子(FXIIa)のいずれかまたは両方およびFXIIの活性化のインヒビターを指す。したがって、「FXIIのインヒビター」は、FXIIとFXIIa(αFXIIaとも称される)のいずれかまたは両方ならびにFXIIa切断生成物のFXIIaアルファおよびFXIIaベータ(FXIIfとも称される)を含めたFXIIの活性化のインヒビターを含むことができる。FXIIインヒビターは、野生型インヒビターの機能的な変異体および断片を包含する。機能的な変異体または断片は、野生型分子がFXII、FXIIaまたはFXIIの活性化を阻害する能力の少なくとも50%(例えば、約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%、または約99%、または約100%)を保持する分子である。一例では、FXIIインヒビターは非内在性インヒビターであり;すなわち、これは、ヒトまたは動物の体内に天然に存在するインヒビターではない。
【0111】
本明細書で使用する場合、用語「直接的FXIIインヒビター」または「直接的インヒビター」は、FXII(またはFXIIa)との接触(例えば、結合)を介して作用するインヒビターを指し、すなわち、FXIIインヒビターは、FXIIおよび/またはFXIIaに結合し、その活性および/または活性化を阻害する。これに対して、間接的インヒビターは、FXII(またはFXIIa)タンパク質と接触することなしに作用することができる。例えば、アンチセンスRNAは、FXII遺伝子の発現を低下させるのに使用することができ、または小分子は、第XI因子のような下流のFXIIa反応パートナーとの相互作用を介して、FXIIaの効果を阻害することができ;これらは、FXIIタンパク質と直接的に相互作用しない。したがって、間接的インヒビターは、直接的インヒビターとは対照的に、FXIIタンパク質の上流または下流で作用する。一例では、FXIIインヒビターはFXIIまたはFXIIaに特異的であり、特にヒトFXIIまたはFXIIaに特異的である。
【0112】
本明細書で使用する場合、用語「第XII因子のインヒビター」または「第XII因子インヒビター」は、加えて、C1-INHを包含しないように、すなわち、「第XII因子のインヒビターがC1 INHではないという条件で」理解されるものとする。
【0113】
本明細書で使用する場合、用語「結合する」は、タンパク質またはその抗原結合部位と抗原との相互作用に関連して、相互作用が抗原の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存していることを意味する。例えば、抗体は、一般に、タンパク質ではなく、特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、標識された「A」およびタンパク質を含有する反応において、エピトープ「A」を含有する分子(または遊離した非標識の「A」)の存在は、抗体に結合している標識された「A」の量を低減する。
【0114】
本明細書で使用する場合、用語「特異的に結合する(specifically binds)」または「特異的に結合する(binds specifically)」は、タンパク質またはその抗原結合部位が、別の抗原または細胞と比べて、より頻度に、より迅速に、より長い持続時間で、および/またはより大きな親和性で、特定の抗原またはそれを発現する細胞と反応または結合することを意味すると解釈されるものとする。例えば、タンパク質またはその抗原結合部位は、これが、多反応性自然抗体(すなわち、ヒトで天然に見られる様々な抗原に結合することが知られている天然に存在する抗体)によって一般に認識される他の血液凝固因子または抗原に結合するよりも、実質的に大きな親和性(例えば、1.5倍または2倍または5倍または10倍または20倍または40倍または60倍または80倍~100倍または150倍または200倍)で、FXII(またはFXIIa)に結合する。一般に、必ずしもそうとは限らないが、結合への言及は特異的結合を意味し、各用語は他の用語に対する明示的な支持を提供することを理解されたい。
【0115】
用語「アミド分解活性」は、FXIIのインヒビターが別のポリペプチド中の少なくとも1つのペプチド結合の加水分解を触媒する能力を指す。本明細書で使用する場合、用語「同一性」または「同一の」は、同一の、または保存的置換を構成するアミノ酸のパーセンテージ数を指す。相同性は、参照によって本明細書に組み入れる、GAP(Deverauxら、1984、Nucleic Acids Research 12、387~395)などの配列比較プログラムを使用して、決定することができる。このような方法で、アライメント中にギャップを挿入することによって、本明細書で引用されるものと同様のまたは実質的に異なる長さの配列を比較することができ、そのようなギャップは、例えば、GAPが使用する比較アルゴリズムによって、決定される。
【0116】
「半減期増強ポリペプチド」または「HLEP」は、患者においてまたは動物においてFXIIインヒビターの半減期をin vivoで増大させることができる、ポリペプチド融合パートナーである。例としては、アルブミンならびに免疫グロブリンおよびFcドメインなどのその断片、またはその誘導体が挙げられ、これらは、直接的にまたは切断可能なもしくは切断不可能なリンカーを介してFXIIインヒビターに融合することができる。Ballanceら(WO2001/79271)は、ヒト血清アルブミンに融合した数多くの異なる治療的ポリペプチドを含む融合ポリペプチドを記載した。本明細書で使用する場合、用語「アルブミン」および「血清アルブミン」は、ヒトアルブミン(HA)およびその変異体を包含する。限定目的ではなく命名の目的のみのために、完全成熟型のアルブミンの例示的配列が配列番号23に記載され、ならびに他の種由来のアルブミンおよびそれらの変異体も記載される。本明細書で使用する場合、「アルブミン」は、アルブミンのポリペプチドもしくはアミノ酸配列またはアルブミンの1つもしくはそれ以上の機能活性(例えば、生物活性)を有するアルブミン変異体を指す。ある種の例では、アルブミンは、FXIIインヒビターの治療活性を安定化するまたは延ばすために使用される。アルブミンは、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジまたはブタに由来し得る。非哺乳類のアルブミンも使用することができ、限定はされないが、ニワトリおよびサケ由来のアルブミンが挙げられる。アルブミン結合型ポリペプチドのアルブミン部分は治療的ポリペプチド部分と異なる動物由来でもよい。アルブミン融合タンパク質の例については、参照によりその全体を本明細書に組み入れるWO2008/098720を参照されたい。
【0117】
用語「組換え体」は、人工の遺伝子組換えの生成物を意味すると理解されたい。したがって、抗体可変領域を含む組換えタンパク質の文脈において、この用語は、B細胞の成熟中に生じる天然の組換えの生成物である、対象の体内に天然に存在する抗体を包含しない。しかし、そのような抗体が単離される場合、これは、抗体可変領域を含む単離タンパク質であるとみなされるべきである。同様に、タンパク質をコードする核酸が単離され、組換え手段を使用して発現される場合、得られるタンパク質は組換えタンパク質である。組換えタンパク質は、例えばそれが発現される細胞、組織または対象内にある場合、人工の組換え手段によって発現されるタンパク質も包含する。
【0118】
用語「タンパク質」は、単一のポリペプチド鎖、すなわち、ペプチド結合で連結された一連の連続的なアミノ酸または共有結合的もしくは非共有結合的に互いに連結された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むと解釈されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、適切な化学結合またはジスルフィド結合を使用して共有結合させることができる。非共有結合の例としては、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力および疎水性相互作用が挙げられる。
【0119】
用語「ポリペプチド」または「ポリペプチド鎖」は、前述の段落から、ペプチド結合で連結された一連の連続的なアミノ酸を意味すると理解される。
【0120】
「抗体」は、一般に、複数のポリペプチド鎖、例えば、軽鎖可変領域(VL)を含むポリペプチドおよび重鎖可変領域(VH)を含むポリペプチドで構成されている可変領域を含むタンパク質であるとみなされることを当業者であれば認識しているであろう。抗体は一般に定常ドメインも含み、そのうちのいくつかは、重鎖の場合には、定常断片または結晶性断片(Fc)を含む定常領域中に配置される可能性がある。VHおよびVLは相互作用して、1つまたは少数の密接に関連する抗原に特異的に結合することができる抗原結合領域を含むFvを形成する。一般に、哺乳動物の軽鎖はκ軽鎖またはλ軽鎖のいずれかであり、哺乳動物の重鎖はα、δ、ε、γまたはμである。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスのものでもよい。用語「抗体」は、ヒト化抗体、霊長類化抗体、ヒト抗体、合成ヒト化抗体およびキメラ抗体も包含する。「抗FXII抗体」は、FXIIの酵素前駆体ならびにFXIIaアルファおよびFXIIaベータ切断断片を含めた活性化タンパク質(FXIIa)のいずれかもしくは両方に結合するおよび/またはこれらを阻害する抗体を含む。いくつかの例では、抗体は、FXIIaまたはFXIIaのアルファもしくはベータ鎖断片に特異的に結合する。
【0121】
用語「全長抗体」、「インタクト抗体」または「全抗体」は互換的に使用されて、抗体の抗原結合性断片とは対照的に、その実質的にインタクトな形態の抗体を指す。特に、全抗体は、Fc領域を含む重鎖および軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)でもよいし、またはそれらのアミノ酸配列変異体でもよい。
【0122】
本明細書で使用する場合、「可変領域」は、抗原に特異的に結合することができ、相補性決定領域(CDR);すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3ならびにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む、本明細書で定義されるような抗体の軽鎖および/または重鎖の一部を指す。例示的可変領域は、3つまたは4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3および場合によりFR4)を3つのCDRとともに含む。IgNARに由来するタンパク質の場合には、タンパク質はCDR2を欠いていてもよい。VHは重鎖の可変領域を指す。VLは軽鎖の可変領域を指す。
【0123】
本明細書で使用する場合、用語「相補性決定領域」(同義語はCDR;すなわち、CDRl、CDR2およびCDR3)は、その存在が抗原結合に必要である、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2およびCDR3として特定された3つのCDR領域を有する。CDRおよびFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、National Institutes of Health、Bethesda,Md.、1987および1991、または本開示の実施における他の番号付けシステム、例えば、ChothiaおよびLesk J.Mol Biol.196:901~917、1987;Chothiaら、Nature 342、877~883、1989;ならびに/もしくはAl-Lazikaniら、J Mol Biol 273:927~948、1997の標準的番号付けシステム;Lefrancら、Devel.And Compar.Immunol.、27:55~77、2003のIMGT番号付けシステム;もしくはHonnegherおよびPlukthun J.Mol.Biol.、309:657~670、2001のAHO番号付けシステムに従って定義することができる。
【0124】
「フレームワーク領域」(FR)はCDR残基以外のそれらの可変ドメイン残基である。
【0125】
本明細書で使用する場合、用語「可変領域断片」または「Fv」は、複数のポリペプチドから構成されるか、単一のポリペプチドから構成されるかに関わらず、VLおよびVHを含み、VLおよびVHが結合して、抗原結合部位を有する、すなわち、抗原に特異的に結合することができる複合体を形成する、任意のタンパク質を意味すると解釈されるものとする。抗原結合部位を形成するVHおよびVLは、単一のポリペプチド鎖中または異なるポリペプチド鎖中に存在することができる。さらに、本開示のFv(および本開示の任意のタンパク質)は、同じ抗原に結合してもよいし結合しなくてもよい、複数の抗原結合部位を有し得る。この用語は、抗体に直接由来する断片および組換え手段を使用して産生される、そのような断片に対応するタンパク質を包含すると理解されたい。いくつかの例では、VHは重鎖定常ドメイン(CH)に連結しておらず、および/またはVLは軽鎖定常ドメイン(CL)に連結していない。例示的Fv含有ポリペプチドまたはタンパク質としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディもしくは高次複合体、または定常領域もしくはそのドメイン、例えばCH2またはCH3ドメインに連結した前述のうちのいずれか、例えば、ミニボディまたは抗体が挙げられる。「Fab断片」は、抗体の一価抗原結合性断片からなり、酵素パパインで全抗体を消化してインタクトな軽鎖および重鎖の一部からなる断片をもたらすことによって産生することができ、または組換え手段を使用して産生することができる。抗体の「Fab’断片」は、全抗体をペプシンで処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖ならびにVHおよび単一の定常ドメインを含む重鎖の部分からなる分子をもたらすことによって、得ることができる。このように処理した抗体あたり2つのFab’断片が得られる。Fab’断片は、組換え手段によって産生することもできる。抗体の「F(ab’)2断片」は、2つのジスルフィド結合によって互いに結合している2つのFab’断片の二量体からなり、全抗体分子を酵素ペプシンで処理し、その後の還元を行わないことによって得られる。「Fab2」断片は、例えばロイシンジッパーまたはCH3ドメインを使用して連結された2つのFab断片を含む組換え断片である。「単鎖Fv」または「scFv」は、抗体のFvを含有する組換え分子であり、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域は適切な可動性ポリペプチドリンカーで共有結合している。前述の議論から明らかなように、この用語は、抗体またはVHおよびVLを含むその抗原結合性断片を包含する。
【0126】
本明細書で使用する場合、2つのポリペプチド配列間の「配列同一性」または「同一性」という用語は、好ましくは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、24、25にコードされるアミノ酸配列の全長にわたって、配列間で同一である、アミノ酸のパーセンテージを示す。本発明の好ましいポリペプチド配列は、それぞれ少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0127】
本明細書で使用する場合、用語「防止すること」、「防止する」または「防止」は、本開示の化合物を投与して、それによって、状態の少なくとも1つの症状の発生または進行を止めるまたは妨げることを含む。
【0128】
本明細書で使用する場合、用語「治療すること」、「治療する」または「治療」は、本明細書に記載のタンパク質を投与して、それによって、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を低減もしくは除去すること、または疾患または状態の進行を遅らせることを含む。本明細書で使用する場合、用語「対象」は、ヒトを含めた任意の動物、例えば哺乳動物を意味すると解釈されるものとする。例示的対象としては、限定されないが、ヒトおよび非ヒト霊長類が挙げられる。例えば、対象はヒトである。
【0129】
腎線維症および慢性腎臓疾患の防止および治療
本明細書における開示は、第XII因子のインヒビターを対象に投与することによって腎線維症および/または慢性腎臓疾患(CKD)を治療する方法を提供する。
【0130】
本開示は、第XII因子のインヒビターを対象に投与することを含む、対象における腎線維症および/またはCKDを防止するための方法も提供する。
【0131】
CKDは、ステージIからVまでに細分される進行性疾患である。疾患の重症度に応じて、第XII因子のインヒビターを対象に投与することによって、あるステージから別のステージへの進行を遅らせるおよび/または防止することができる。
【0132】
本明細書に開示される治療および防止の方法は、生得の腎臓と移植/同種移植腎臓の両方に適用される。
【0133】
一例では、対象は以下の腎障害の1つまたはそれ以上に罹患している:
- 腎線維症
- 糖尿病性腎障害、糸球体腎炎
- ループス腎炎
- 腎血管炎
- 糸球体硬化症
- 高血圧性腎障害(腎硬化症)
- 間質性腎炎
- 常染色体優性多発性嚢胞腎
- アルポート症候群
- 鎮痛薬腎障害
- 虚血再灌流または拒絶反応と関係がある腎臓同種移植損傷。
【0134】
一例では、対象は腎線維症または腎臓線維症に関連する状態に罹患していたか、罹患している。例えば、対象は糖尿病に罹患していたか、罹患している。
【0135】
本開示の方法は、腎線維症および/またはCKDに関連する腎障害の任意の形態に容易に適用することができる。
【0136】
一例では、対象は、腎線維症および/またはCKDを発生する危険性があるが、腎線維症の発症はまだ起こっていない。対象は、対象が対照集団よりも腎線維症および/またはCKDを発生する危険性が高い場合、危険性がある。対照集団は、糖尿病または腎線維症に関連する他の腎臓疾患に罹患したことがない、またはこれらの家族歴を有する、(例えば、年齢、性別、人種および/または民族性がマッチする)一般集団から無作為に選択される1またはそれ以上の対象を含むことができる。
【0137】
対象を、腎線維症および/またはCKDに関連する「危険因子」がその対象に関連することが見出される場合(GFRの低減、タンパク尿、糖尿病、高血圧、肥満、腎臓移植患者におけるヒト白血球抗体の存在)、腎線維症および/またはCKDの危険性があるとみなすことができる。危険因子としては、例えば、対象の集団に対する統計学的または疫学的研究によって所与の障害に関連する、任意の活性、形質、事象または特性を挙げることができる。したがって、たとえ根底にある危険因子を特定する研究が対象を特に含んでいなかったとしても、腎線維症の危険性があると対象を分類することができる。
【0138】
上記で、および下記の実施例セクションで論じるように、本開示の方法は以下の1つまたはそれ以上の効果を達成する:
FXIIaのインヒビターによる治療は、
(i)細胞外基質タンパク質の存在量を顕著に低減させ、
(ii)初期および後期において、マクロファージの蓄積にもサイトカインの産生にも影響を及ぼさず、
(iii)初期および後期において、アポトーシス性腎尿細管上皮細胞の数の顕著な減少をもたらし、
(iv)初期および後期において、増殖性腎尿細管上皮細胞の数の増加(=再生)をもたらし、ならびに/または
(v)体重減少を減弱する。
【0139】
当業者に明らかであるように、対象における腎線維症などの腎障害の症状または影響の「低減」または「減弱」は、腎線維症などの腎障害に同様に罹患しているが、本明細書に記載の方法による治療を受けていない別の対象、または治療前の対象に対する比較に基づく。これは、2つの対象の並列比較を必ずしも必要とするとは限らない。むしろ、集団データを信頼することができる。例えば、本明細書に記載の方法による治療を受けていない、腎線維症に罹患する対象の集団(場合により、治療される対象と、例えば、年齢、体重、糖尿病状態が同様の対象の集団)が評価され、平均値が本明細書に記載の方法で治療される対象または対象の集団の結果と比較される。
【0140】
第XII因子のインヒビター
一例では、FXIIのインヒビターは直接的FXIIインヒビター、例えば特異的FXIIインヒビターである。例えば、特異的FXIIインヒビターは、1:1のモル比で使用される場合、FXIIおよび/またはFXIIa以外の血漿セリンプロテアーゼまたは他の内在性タンパク質を約25%以下阻害する。例えば、FXIIの特異的インヒビター/FXIIaインヒビターは、前記インヒビターが、それぞれの血漿セリンプロテアーゼ対前記インヒビターについて1:1のモル比で使用される場合、FXIIおよび/またはFXIIa以外の血漿セリンプロテアーゼを約25%以下阻害する。一例では、FXIIインヒビターは、1:1のモル比で使用される場合、FXIIおよび/またはFXIIa以外の血漿セリンプロテアーゼを約20%以下または約15%以下または約10%以下または約5%以下または約1%以下阻害する。例えば、特異的FXII抗体は、血漿セリンプロテアーゼFXIaを約5%阻害し、ここで、前記抗体に対するFXIaのモル比は1:1であり、一方で、同FXII抗体はFXIIaを少なくとも約80%、または少なくともFXIIaを約90%阻害する。
【0141】
一例では、それぞれの血漿セリンプロテアーゼ対インヒビターについて1:1のモル比で使用される場合、他の1つの血漿セリンプロテアーゼが約50%より多く阻害される。本開示の別の例では、それぞれの血漿セリンプロテアーゼ対インヒビターについて1:1のモル比で使用される場合、他の2つの血漿セリンプロテアーゼが約50%より多く阻害される。
【0142】
セリンプロテアーゼインヒビター
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターである。例えば、FXIIのインヒビターは、Infestin-4またはその変異体に対応する配列を含む。一例では、FXIIのインヒビターは、SPINK-1またはその変異体に対応する配列を含む。
【0143】
Infestin-4
一例では、本開示は、infestinドメイン4(「Infestin-4」と称される)を含むFXIIのインヒビターを提供する。Infestinは、シャーガス病を引き起こすことが知られている寄生体トリパノソーマ・クルージの主な媒介体である吸血性昆虫ブラジルサシガメの中腸に由来するセリンプロテアーゼインヒビターのクラスである(Campos ITNら、32 Insect Biochem.Mol.Bio.991~997、2002;Campos ITNら、577 FEBS Lett.512~516、2004;WO2008/098720)。この昆虫は、これらのインヒビターを使用して、摂取した血液の凝固を防ぐ。infestin遺伝子は、凝固経路の異なる因子を阻害することができるタンパク質をもたらす4つのドメインをコードする。特に、ドメイン4は、FXIIaの強いインヒビターであるタンパク質(Infestin-4)をコードする。Infestin-4は、出血合併症をもたらすことなくマウスに投与された(WO2008/098720;Hagedornら、Circulation 2010;121:1510~17)。
【0144】
一実施形態では、FXIIのインヒビターはInfestin-4を含む。本明細書で使用する場合、用語「Infestin-4」は、FXIIを阻害する能力を保持する、野生型ペプチドの変異体または断片を包含する。限定目的ではなく命名の目的のみのために、Infestin-4の例示的配列を配列番号1に示す。
【0145】
一例では、Infestin-4はFXIIaを阻害するその能力のために選択される。一例では、Infestin-4はInfestin-4の変異体を含み、変異体はInfestinドメイン4、場合により、Infestinドメイン1、2および/または3を含む。一例では、Infestin-4は(His)6-タグが付けられたInfestin-4構築物である。
【0146】
別の例では、Infestin-4は、infestin-4に連結または結合した半減期増強ポリペプチド(例えば、アルブミン、IgGのFcドメインまたはPEG)などの融合パートナーを含む融合タンパク質である。一例では、リンカーが融合パートナーをInfestin-4に接続する。様々な実施形態では、Infestin-4はHagedornら、Circulation 2010;117:1153~60に記載されているrHA-Infestin-4タンパク質である。一例では、組成物は、Hagedornら、Circulation 2010;117:1153~60に記載されているrHA-Infestin-4タンパク質に可動性リンカーによって結合しているアルブミンを含む。別の例では、他のFXIIのInfestin-4インヒビターが使用され、その例は、WO2008/098720およびHagedornら、Circulation 2010;117:1153~60に記載されており、これらの両方は、その全体を参照によって組み入れる。
【0147】
一例では、FXIIのインヒビターはInfestin-4の変異体である。本明細書で使用する場合、Infestin-4の「変異体」という用語は、1つまたはそれ以上のアミノ酸変異を有するポリペプチドを指し、「変異」は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対する置換、欠失または付加と定義される。Infestin-4の「変異体」という用語は、野生型の機能的断片または変異されたInfestin-4配列も含む。
【0148】
一例では、野生型Infestin-4配列に対する1つまたはそれ以上の変異は、FXIIを阻害するためのポリペプチドの機能的能力を実質的に変えない。例えば、1つまたはそれ以上の変異は、FXIIを阻害するためのポリペプチドの能力を完全にまたは実質的に除去しない。例えば、変異体は、野生型Infestin-4の阻害能力の少なくとも約20%、または約30%、または約40%、または約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%、または約98%、または約99%またはそれ以上を保持する。
【0149】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号1に記載の野生型Infestin-4配列のアミノ末端からの残基2~13を含むInfestin-4変異体を含む。例えば、Infestin-4変異体は配列番号24に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0150】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号1の残基2~13を含み、配列番号1の残基2~13の外側に、野生型Infestin-4配列(配列番号1)と比べて少なくとも1つのアミノ酸変異も含むInfestin-4変異体を含む。例えば、Infestin-4変異体は、少なくとも2つのアミノ酸変異または少なくとも3つのアミノ酸変異または少なくとも4つのアミノ酸変異または少なくとも5つのアミノ酸変異を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された配列番号1を含むポリペプチド配列を含む。
【0151】
一例では、FXIIのインヒビターは、野生型Infestin-4配列由来の6つの保存システイン残基を保持するInfestin-4変異体である。一例では、6つの保存システイン残基は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)の位置6、8、16、27、31および48のアミノ酸である。一例では、Infestin-4変異体は、位置48に最終的な保存システインを含む。別の例では、システイン残基の正確な位置および互いの相対位置は、Infestin-4変異体配列における挿入または欠失が原因で、野生型Infestin-4配列の位置6、8、16、27、31および48から変化し得る。
【0152】
一例では、Infestin-4変異体は野生型Infestin4配列に対して少なくとも約70%同一である。例えば、Infestin-4は、野生型Infestin-4配列に対して少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の同一性を有する。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1に対して少なくとも70%同一であり、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含むポリペプチド配列を含む。
【0153】
一例では、FXIIのインヒビターはInfestin-4変異体であり、野生型Infestin-4配列由来の6つの保存システイン残基を保持し、および/または野生型Infestin-4配列に対して少なくとも約70%同一の配列を有する。
【0154】
一例では、FXIIのインヒビターは配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された配列番号1;および配列番号1に対して少なくとも70%同一であり、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含むInfestin-4変異体である。
【実施例】
【0155】
方法
実験的腎線維症の治療における3F7抗体の効能を評価するために、腎損傷および線維化のUUOモデルを用いた。このモデルマウスでは、尿管閉塞後7~10日以内に重度の間質性腎線維症が発生する。
【0156】
左尿管の閉塞のために、ケタミン/キシラジン(それぞれ50および5mg/kg;Pfizer、GermanyのKetavetおよびBayer、GermanyのRompun)で2か月齢のC57Bl/6マウスを麻酔にかけた。左側を剪毛し、左腎臓上で正中線切開を行った。エンドポイントまで左尿管を縫合糸で2回縛り、切開を閉じた。手術の間、37℃の加熱パッド上にマウスを置くことによって体温を維持した。マウスを以下の2群:ビヒクル(アイソタイプ対照としてのIgG、マウスあたり1mg、n=5)または抗FXIIa抗体(3F7、マウスあたり1mg、n=10)のいずれかを与える片側尿管閉塞(UUO)マウスに分けた。3F7は、UUOが始まった後の初日から与えた。これらの物質は、結紮の直後に尾静脈に静脈内注射し、次いで、その後毎日、解析のためにマウスを屠殺するまで静脈内注射した。反対側の腎臓は、対照として扱った(Schaefer L.ら、J Pathol、2002)。UUO後3日目または10日目にマウスを屠殺した。左尿管閉塞から3日後または10日後に、血漿および腎臓を解析した。
【実施例1】
【0157】
萎縮尿細管の数の減少/尿細管拡張の低減
上記の方法セクションに記載されているように、UUOから10日後にマウスを屠殺し、標的器官の形態的および生化学的変化によって、線維化の程度を特性評価した。パラフィン包埋試料の連続切片(2μm)をPASで染色した。以前に記載された活性指標(Moreth K.ら、J Clin Invest、2010)を使用して、尿細管間質病変の重症度を0~5(正常、軽度、中程度、進行性または重度)まで段階分けした。各動物について、皮質および髄質中の少なくとも15の尿細管間質領域を評価し、尿細管の拡張および萎縮について段階分けした。各画像に対する合計した個々のスコアの平均として、各マウスの尿細管損傷スコアを計算した。結果を
図1Aおよび1Bに示し、
図1Aは、損傷後10日目のIgG-および3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓において決定した尿細管損傷スコアを示し、
図1Bは、損傷後10日目のIgG-および3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓からのPAS染色切片を示す。
図1Aおよび1Bから分かるように、3F7抗体による治療は、IgG治療対照と対比して、3F7抗体で治療したマウス由来の閉塞化腎臓において、萎縮尿細管の数を顕著に減少させ、尿細管拡張を低減させた。
【実施例2】
【0158】
α-SMA発現に対する減弱効果
UUOの間、アイソタイプ(IgG)治療した対照腎臓は、UUOから10日後に、qPCR、ウエスタンブロッティングおよび免疫組織化学的検査によって評価した場合に、α-SMAの発現の顕著な増大を示した。3F7抗体によるFXIIaの阻害は、ウエスタンブロッティング(
図2B)および免疫組織化学的検査(
図2C)によって評価したα-SMAの発現を示す
図2BおよびCから分かるように、UUO腎臓においてα-SMA発現を有意に低減した。3F7抗体で治療したUUO腎臓において、qPCRによって評価した場合に、α-SMA mRNA発現の低減はなかった(
図2A)。
【実施例3】
【0159】
細胞外基質タンパク質の発現に対する減弱効果
同様に、qPCR(
図3A)、ウエスタンブロッティング(
図3B)および免疫組織化学的検査(
図3C)によって評価したFNの発現を示す
図3A~C、ならびにqPCR(
図4A)、ヒドロキシプロリン含量の測定(
図4B)および免疫組織化学的検査(
図4C)によって評価したCol Iの発現を示す
図4A~Cから分かるように、UUOは、細胞外基質タンパク質、フィブロネクチン(FN)およびコラーゲンI(Col I)の発現を大きく増強したが、3F7抗体による治療は、UUOから10日後の閉塞化腎臓におけるこれらの成分の存在量を顕著に低減させた。
【実施例4】
【0160】
F4/80陽性マクロファージに対する効果に関する調査
FXIIa阻害の観察された有益効果が炎症の抑制の結果であるかどうかを決定するために、発明者らは、UUOから10日後のUUO腎臓におけるマクロファージ浸潤およびサイトカインレベルも調べた。発明者らは、UUOは腎臓においてF4/80陽性マクロファージの蓄積を誘導するが、3F7抗体による治療は、閉塞化器官におけるその数に対して影響がなかったことを見出した。この結果を
図5Aおよび5Bに示す。さらに、IgG治療UUO動物と3F7治療UUO動物の間で、TNF-αおよびIL-6のレベルの違いはなかった(データ非表示)。
【実施例5】
【0161】
アポトーシス細胞の数の減少
UUOから10日後に、炎症反応ではなく線維化が起こるので、発明者らは、損傷後3日目の閉塞化腎臓も解析した。驚いたことに、3F7抗体の投与は、UUO腎臓において、マクロファージの蓄積にもサイトカインの産生にも影響を及ぼさなかった(データ非表示)。しかし、
図6に示す、損傷後3日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓からの代表的なカスパーゼ-3染色切片から分かるように、この時点で、IgGチャレンジUUO同腹子と比較して、3F7治療UUOマウスにおけるアポトーシス性(切断カスパーゼ-3陽性)腎尿細管上皮細胞の数の顕著な減少が観察された。
【0162】
さらに、
図7に示す、損傷後3日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化(UUO)腎臓からの代表的なKi67染色切片から分かるように、IgGを注射したマウスと比較して、3F7が与えられた動物における増殖性(Ki67陽性)腎尿細管上皮細胞の数の増加が見られた。
【0163】
これにより、
図8に示す、損傷後3日目のIgG-または3F7-治療マウス由来の対照および閉塞化腎臓からの代表的なPAS染色切片から分かるように、機能的尿細管の数の増加ならびに崩壊および萎縮した尿細管の顕著な減少がもたらされた。尿細管の形態の改善は、細胞外基質成分の蓄積の低減と非常によく相関した(データ非表示)。
【0164】
これらの発見は、肺傷害の初期におけるアポトーシス性および増殖性肺胞上皮細胞の数が3F7治療マウスとIgG治療マウスの間で差がなかったという肺線維症のブレオマイシンモデルで観察された結果と異なるので、非常に驚くべきことである。
【実施例6】
【0165】
体重減少の減弱
図9から分かるように、UUO後の体重減少は、IgG治療マウスと比較して、3F7治療マウスで低減する。
図10から分かるように、腎臓/体重比について同じことが言える。
【0166】
まとめると、これらの実施例は、腎臓線維症のUUOモデルにおけるFXIIaの阻害は、機能的尿細管の喪失を防止し、腎線維症の進展を低減させ、体重減少を減弱することを示す。
【実施例7】
【0167】
遺伝子発現に対する3F7の効果
遺伝子発現プロファイリング
方法
キットの指示書に従ってLIRAKキット(Agilent)を使用して、精製した全RNAを増幅し、Cy3標識した。反応あたり、全RNA200ngを使用した。Cy標識したaRNAを、8×60Kの60merオリゴヌクレオチドがスポッティングされたマイクロアレイスライド(Agilent Technologies、設計ID 074809)と一晩ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションおよびその後のスライドの洗浄および乾燥は、Agilentハイブリダイゼーションプロトコールに従って行った。乾燥させたスライドは、InnoScan 900(Innopsys、Carbonne、France)を使用して、2μm/画素解像度でスキャンした。Mapix 6.5.0ソフトウェアを用いて画像解析を行い、すべてのスポットに対する計算値をGenePix結果ファイルとして保存した。BioConductorのRソフトウェアおよびlimmaパッケージを使用して、記憶されたデータを評価した。さらなる解析のために、Log平均スポットシグナルを得た。データは、陰性対照スポットに対してNormExp法を使用してバックグラウンド補正し、平均化の前に分位正規化した。モデレートt統計量を使用して、差次的発現について遺伝子を順位付けした。経路解析は、t値の順位に対する遺伝子セット検定を使用して行った。
【0168】
実験および結果
in situでの分子シグネチャに対する抗FXII抗体(3F7)治療の効果を決定するために、本発明者らは、抗FXII抗体(3F7)またはIgGアイソタイプ対照のいずれかで治療した動物由来のUUO腎臓のホモジネート試料に対して遺伝子発現プロファイリングを行った。抗FXII抗体治療群において最も下方制御された5つの遺伝子が抑制方向に向いていた:1)アポトーシス:harakiri(Hrk)、2)Wnt/β-カテニンシグナリング:dickkopf関連タンパク質2(Dkk2)、3)細胞増殖:核内受容体サブファミリー2グループEメンバー1(Nr2e1)、CWF19様細胞周期制御因子1(Cwf19l1)、および4)グルタミン酸輸送:溶質輸送体ファミリー1メンバー3(Slc1a3)。抗FXII抗体治療群において最も上方制御された4つの遺伝子は、以下のものに対してFXII阻害の影響を示唆した:1)ECM-細胞および細胞-細胞間情報伝達:デスモグレイン1ガンマ(Dsg1c)、2)血管新生:アンジオポエチン様7(Angptl7)、3)イオン恒常性:アノクタミン2(Ano2)、および4)転写調節:調節因子X6(Rfx6)(表1)。
【0169】
【0170】
いかなる特定の作用理論にも拘束されることを望むものではないが、本明細書で報告する実験結果は、3F7治療は、実験動物において報告される効果、例えば、アポトーシス細胞の数の減少(上記の実施例5を参照されたい)、または前述の、機能的尿細管の喪失の防止、腎線維症の進展の低減および体重減少の減弱を説明することができる、遺伝子発現に対する効果を有することを示す。
【配列表】