(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】リード
(51)【国際特許分類】
G10D 9/035 20200101AFI20230724BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230724BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230724BHJP
G10D 7/06 20200101ALI20230724BHJP
G10D 9/08 20200101ALI20230724BHJP
【FI】
G10D9/035
C08L77/00
C08K7/14
G10D7/06
G10D9/08
(21)【出願番号】P 2020543654
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(86)【国際出願番号】 AT2018060258
(87)【国際公開番号】W WO2019079837
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-14
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】520146190
【氏名又は名称】キュックマイヤー,ニック
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】キュックマイヤー,ニック
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02919617(US,A)
【文献】特開2017-134158(JP,A)
【文献】特開昭53-144718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
G10D 7/00- 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PA a、PA b.c又はPA d-Tあるいはそれらの混合物(ブレンド)の群のポリアミドを含む、リード楽器用のリードであって、
a≧10、b≧6、c≧10、d≧9である、リード。
【請求項2】
ISO 62に従って、0.1重量%~2重量
%の吸水率を有することを特徴とする、請求項1に記載のリード。
【請求項3】
ポリアミドが、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11、PA 10、PA 12、PA 11、PA 9-T、PA 10.10、PA 11、PA 12.12からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のリード。
【請求項4】
ポリアミドが、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載のリード。
【請求項5】
添加剤を特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のリード。
【請求項6】
22~40重量%の添加剤を特徴とする、請求項5に記載のリード。
【請求項7】
添加剤が、ガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載のリード。
【請求項8】
ポリアミド及びガラス繊維のみから構成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載のリード。
【請求項9】
ガラス繊維の割合が40重量%ま
でであることを特徴とする、請求項8に記載のリード。
【請求項10】
シングルリード又はダブルリードであることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載のリード。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のリードを含む、管楽器用のマウスピース。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載のリード又は請求項11に記載のマウスピースを含む、管楽器。
【請求項13】
管楽器用のリードのための、請求項1に記載の
リードの使用。
【請求項14】
ISO 62に従って、0.7重量%~0.8重量%の吸水率を有することを特徴とする、請求項1に記載のリード。
【請求項15】
ガラス繊維の割合が22から40重量%の間であり、その残りがポリアミドである、請求項9に記載のリード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管楽器用のリードに関する。さらに、本発明はそのようなリードを含む管楽器用のマウスピースに関する。さらに、本発明はリードを含む管楽器に関する。最後に、本発明は管楽器用のリードのためのポリアミドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リード楽器の群内では、いわゆるリードが音を出すために使用される。それにより、リードは管楽器のマウスピースの振動部分を構成する。一般的に、リードは木材、野生のケーン〔cane〕、又は葦〔common reed〕(ジャイアントリード又はアルンド・ドナックス〔arundo donax〕とも呼ばれる)から作られ、他の天然材料又はプラスチック材料からはあまり作られない。
【0003】
ピッチング・タン〔pitching tongue〕であるシングル・リード(シングル・リード又は単に「リード」)と、カウンター・ピッチング・タン〔counter-pitching tongue〕であるダブル・リード(ダブルリード、「チューブ」)は区別される。
【0004】
クラリネットは、リード楽器の重要な代表である。クラリネットにおいては、リード及びそれが取り付けられたマウスピースが振動発生器を形成する。クラリネットとは別に、サックスもシングルリードを有する。ダブルリードは、例えば、オーボエやファゴットに使用される。
【0005】
リードは消耗品であり、かなり複雑に準備しなければならず、限られた期間でのみ使用され得る。さらに、リードの状態は急速に変化し、楽器の音にすぐに影響を与える可能性がある。リードは、演奏されたり温度が変化したりすると変化する可能性があり、経年変化の影響を受けて、リードが「柔らかく」なり、もはや使用できなくなるまで亀裂や膨れが発生する。
【0006】
葦から作られたリードは、収穫後、硬化させるために少なくとも2年間保存する必要がある。続いて、個々の楽器の寸法とサイズに応じて、長方形の平らな部品をそこから切り取り、適切な形状に研磨する。
【0007】
例えば、クラリネットの場合、底面の部分が機械加工され、完全に平坦になるまで研磨される。上面では、端部で0.08mmに平坦化され、約1/1000mmの許容値は非常に低い。リードには一定の剛性を持つ必要があり、弾性がある必要があり、及び対称的な振動特性を持つ必要がある。しかしながら、天然物は成長や環境の影響により変動しやすく、個々のリード間には差異が存在する。さらに、新しいリードは、楽器や楽器のユーザーに応じた演奏について調整する必要があるが、これは、大きな労力及び使用期間の制限にしばしば関連付けられる。リードは、一定の環境の湿度及び/又は温度にリードを維持するために、部分的に空調ボックスに保管される。
【0008】
自然に生育するリードに起因する問題を軽減するために、リードの出発材料としてプラスチックを使用することが試みられた。プラスチックは、恒久的に一定の応答挙動を示し、経年変化はより緩やかであるはずである。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を出発材料として使用した多くの試験は、PMMAの振動特性の低さのために失敗した。振動特性を改善するために、例えば、合成樹脂を含む炭素繊維(炭素繊維強化プラスチック)から作られた複合材料(ファイバーリード及びビブラセル)が試験された。これらの複合材料の加工性は良いものの、それから作られたリードは、プロの演奏家にとって、振動挙動が剛直すぎるとされる。さらに、一部で炭素繊維強化プラスチックが批判的に見なされているため、これらの材料の食品安全性はかなり不明確である。
【0009】
PMMAの代替として、例えばLegere Reeds Ltd. Canadaによって、リードの材料としてポリプロピレンも使用されている。しかしながら、ポリプロピレンは、その高い表面張力のためにダイヤモンド工具を使用してのみ機械加工することができ、耐水性であり、その結果、特にフォルテにおいて、鋭い明るい音をもたらす。竹粉〔ground bamboo dust〕を充填材としてポリプロピレン(フォレストーンジャパン株式会社)に配合しても、材料の音響特性は顕著には改善されていない。このため、プロの演奏家はプラスチック製リードから離れている。
【0010】
DE 89 04 968 U1は、内部強化又は外部強化プラスチック(例えば、繊維によって)で作られたリードを記載している。特に、ポリマーを延伸することによって得られるプラスチックは、材料特性及び音響特性を改善するためのものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シングルリード楽器(クラリネットやサックスなど)やダブルリード楽器の特有の音や演奏特性にとって、リードウッドの成長、繊維(キシレン)、個々の特有の形状、バランスのとれた振動特性、硬さ及び弾力性、並びにリード・タン〔reed tongue〕の湿度バランスがかなり決定的である。しかしながら、先行技術は、これまでこの問題を解決することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の目的は、一定の音質を有する葦のような音響特性を有するリードを提供することである。
【0013】
この課題は、
PA a、PA b.c若しくはPA d-T、又はそれらの混合物(ブレンド)の群のポリアミドを含むリードによって解決され、
ここで、a≧10、b≧6、c≧10、d≧9である。
【0014】
ポリアミドに共通する命名法において、ポリアミドはABポリマーとAA/BBポリマーに区別される。ABポリマーは、以下の基本構造:
-[NH-(CH2)x-CO]n-
を有するものを含む。
【0015】
x=5の場合、繰り返し単位が6個の炭素原子を持つため、PA 6と呼ぶ。x=9の場合、PA 10と呼び、x=11の場合、PA 12と呼ぶ。上記の説明において、a=10の場合にはPA 10を持つ。
【0016】
AA/BBポリマーには、基本構造
-[NH-(CH2)x-NH-CO-(CH2)y-CO]n-
を持つものが含まれる。
【0017】
x=6及びy=8の場合、最初の繰り返し単位は6個の炭素原子を持ち、2番目の繰り返し単位は10個の炭素原子を持っているため、PA 6.10と呼ぶ。
【0018】
AA/BBポリマーには、-(CH2)y-単位がテレフタレート(T)に置き換わったものもある。したがって、PA 9-Tの場合は、後のテレフタレートを有する-(CH2)9-を意味する。
【0019】
上述のポリアミドの例は以下の通りである:
PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11、PA 10、PA 12、PA 11、PA 9-T、PA 10.10、PA 11、PA 12.12。
【0020】
特に適切なポリアミドは、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11、PA 10又はPA 12、特にPA 6.12、PA 6.10及びPA 6.11である。
【0021】
さまざまな材料の分析中に、驚くべきことに、特殊なポリアミドのみが葦の音響特性に対応する望ましい音響特性を持っていることが示された。このようなリードは、特にプロの演奏家にも適している。
【0022】
ポリアミドの含有量は、好ましくは少なくとも25重量%、特に好ましくは少なくとも50重量%、最も好ましくは少なくとも60重量%である。一実施形態では、リードは上述のタイプのポリアミドで構成される。
【0023】
特に好ましくは、リードは、ISO 62:1999により0.1%~2%、好ましくは0.7%~0.8%の吸水率を有するという規定がなされている。ポリアミドは、ポリマーの構成に依存して、吸水率に関して異なる特性を持っている。一般的なポリアミドPA 6、PA 6.4及びPA 6.6は、例えば8%までの水を吸収する可能性があり、そのため、PA 6、PA 6.4又はPA 6.6で作られたリードは、長時間演奏すると音の変化をもたらし、したがって、適切ではない。
【0024】
適切なポリアミドは、例えば、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11、PA 10、又はPA 12であるが、これらのポリアミドは、吸湿により最大1%の重量の変化が可能であるという特性がある。
【0025】
リードが添加剤を有することがさらに提供され得る。これらは特に、リードの機械的補強(補強材)の役割を果たす。例えば、ガラス繊維を添加してもよい。添加剤の最大比率は、リード全体に基づいて40重量%である。非常に良い剛性でバランスのとれた音響を提供するために、22~40重量%が最適であることがわかっている。添加剤はまた、湿度バランスを調節するのに役立ち得る。添加剤は、好ましくはガラス繊維である。ダイカストで使用されるガラス繊維の長さは0.1mmと5mmの間で、ダイカスト用のグラニュールに存在する。40重量%まで、好ましくは22~40重量%の含有量を有するそのようなガラス繊維が特に適切である。
【0026】
好ましい例示的な実施形態において、リードは、上述のタイプのポリアミド及びガラス繊維で構成され、ガラス繊維の割合は40重量%までであり、残りはポリアミドである。特に好ましくは、ガラス繊維の割合は22~40重量%であり、残りはポリアミドである。好ましくは、ポリアミドは、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11、PA 10、PA 12、PA 11、PA 9-T、PA 10.10、PA 11、PA 12.12からなる群、特に好ましくは、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11からなる群、及びそれらのブレンドから選択される。
【0027】
本発明の範囲内では、リードは、シングルリード及びダブルリードとして理解される。
【0028】
シングルリードとは、チューブ全体ではなく、適切なマウスピースに取り付けられたチューブの平らな部分が使用されることを意味する。チューブに吹き込むと振動が発生する。それとは対照的に、オーボエとファゴットはダブルリードである。ダブルリードでは、チューブ全体を使用し、長手方向に切断し、その後、共にプレスする。その後、両端のみにおいて、クラリネットリードと同様に、2つの端が平坦化される。したがって、マウスピースを備えたクラリネットリードのカウンターピースが開発されている。このダブルリードは完全な音響発生器であり、楽器は単なる共鳴器である。ダブルリードの加工は、シングルリードの加工よりもかなり複雑であり、そのため、工業生産はかなり高価である。
【0029】
本発明は、管楽器用の上記のリードとは別に、そのようなリードを含む管楽器用のマウスピースにも関する。
【0030】
さらに、本発明は、そのようなリード又はそのようなリードを有するマウスピースをそれぞれ含む管楽器に関する。
【0031】
最後に、本発明は、管楽器用のリードのためのポリアミドの使用に関する。ポリアミドは、好ましくは、ISO 66に従って、0.1~2重量%、好ましくは0.7~0.8重量%の吸湿性を有する。
【0032】
リードの製造は、例えば、ダイカストを使用して、任意選択で添加剤を含むポリアミドのペレットを押出機で可塑化し、続いて、本質的に完成したリードに対応するダイに注入することにより実現できる。必要に応じて、完成したリードへの研磨が続いて行われる。代替として、製造は、フィルム押出を使用して、任意選択で添加剤を含むポリアミドのペレットが押出機で可塑化され、続いて、それぞれフィルム又はプレートが生成されるようにフラットノズルを介して排出されることにより、実現することができる。フィルム又はプレートからブランクが切り取られ、その後、完成したリードに研磨される。
【0033】
他のプラスチックとは対照的に、本発明によるプラスチックは、手動で後処理することができる。それらは研磨され、削られてもよく、これはプラスチック製の市販のリードではこれまで不可能であった。これは、演奏家が自らの必要性に従ってリードを調整したい場合に有利である。特に、竹粉を充填剤として使用するか(フォレストーンジャパン株式会社)、使用しない(Legere Reeds Ltd, Canada)ポリプロピレン製のリードでは、そのような後処理は、およそ不可能である。
【0034】
分析に成功したプラスチック材料は、PA 6.12、PA 6.10、PA 6.11、PA 10又はPA 12で構成され、それぞれガラス繊維添加剤が含まれる場合と含まれない場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1a及び1bは、PA 6.6から作られたリードの吸水率データを示す図である。
【
図2】
図2a及び2bは、PA 6.12から作られたリードの吸水率データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
ポリアミド製のリードの吸水率を
図1aから2bに示す。
図1a及び1bは、ガラス繊維添加剤を含むPA 6.6から作られたリードを示し、
図2a及び2bは、ガラス繊維を含むPA 6.12から作られたリードを示している。それぞれの上部の図(それぞれ
図1a又は2a)には、80℃での条件が示され、吸収された水分の割合が、短時間後にすでに一定になっていることがわかる。
【0037】
下のそれぞれの図(それぞれ
図1b又は2b)には、40℃の条件での吸水率が示され、これは、演奏家の口内のリードの環境にほぼ対応している。ここでも、短期的にはより高い吸水率が実現されるが、最終的には一定に保たれる。
【0038】
ガラス繊維添加剤を含むPA 6.6の場合、80℃での最大吸水率は2.82重量%までであった。しかしながら、ガラス繊維添加剤を含むPA 6.12の場合は、80℃での吸水率は最大で0.70重量%であった。
【0039】
このため、演奏家は木製のリードと同様にこれらの製品を研磨して処理することができ、演奏家がそれを演奏家の口に入れるとすぐに、木製のリードと同様に、それらは特定の湿度比率で吸収し、短い演奏チューニングの後には一定となる。同様に、この条件は、条件付けによって事前シミュレーションされ得る。低吸湿性は、振動の際に材料に弾力性を持たせ、木製のリードの通常の挙動に最も近くなるため、高音質に決定的である。
【0040】
PA 6.12の場合、重量の増加は0.05重量%と0.70重量%の間である。したがって、この材料はPA 6.6と比較してより安定であり、より一定の比率となる。PA 6.12のデータと同等のPA 6.10、PA 6.11、PA 10、又はPA 12のデータは示していない。