(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】粘性調整剤および硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230724BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20230724BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230724BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20230724BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230724BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20230724BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20230724BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230724BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C09K3/00 103G
C09J11/08
C09J11/04
C09J201/00
C08L101/00
C08L77/06
C08K5/20
C08L91/00
C08G69/26
(21)【出願番号】P 2020569444
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050436
(87)【国際公開番号】W WO2020158252
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019016546
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000225854
【氏名又は名称】楠本化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【氏名又は名称】東田 潔
(72)【発明者】
【氏名】中野 恭平
(72)【発明者】
【氏名】大内 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】福井 賢治
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-002750(JP,A)
【文献】特表2017-518391(JP,A)
【文献】特開2005-220286(JP,A)
【文献】特開平04-236225(JP,A)
【文献】特開平04-301643(JP,A)
【文献】米国特許第04927739(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
C09D 1/00 - 201/10
C09K 3/00
C09K 3/10 - 3/12
C09K 3/20 - 3/32
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性組成物用の粘性調整剤であって、
ジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを縮合反応させてなるジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)と、
アミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)とを重縮合させてなるポリアミド化合物(B)と、
を含有し、
前記ジアマイド化合物(A)および/または前記硬化ひまし油(A’)の含有量は、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記硬化ひまし油(A’)と前記ポリアミド化合物(B)の合計量に対して50質量%以上99質量%以下であり、
前記ポリアミド化合物(B)の含有量は、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記硬化ひまし油(A’)と前記ポリアミド化合物(B)の合計量に対して1質量%以上50質量%以下であり、
前記アミン成分(B1)は、炭素数2~54のジアミンおよび炭素数2~54のトリアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミンを含み、
前記カルボン酸成分(B2)は、炭素数4~54のジカルボン酸および炭素数4~54のトリカルボン酸から選択される少なくとも1種のカルボン酸を含み、
前記ポリアミド化合物(B)は、重合脂肪酸誘導体を含む前記アミン成分(B1)および重合脂肪酸を含む前記カルボン酸成分(B2)の少なくともいずれか一方を重縮合させてなるポリアミドであ
り、
前記重合脂肪酸は、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルを重合して得られる重合物であることを特徴とする、粘性調整剤。
【請求項2】
前記ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量が、2000~50000であることを特徴とする、請求項1に記載の粘性調整剤。
【請求項3】
前記アミン成分(B1)が、炭素数2~12のジアミンまたはトリアミンを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の粘性調整剤。
【請求項4】
前記カルボン酸成分(B2)が、少なくとも重合脂肪酸を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘性調整剤。
【請求項5】
前記アミン成分(B1)と前記カルボン酸成分(B2)との反応モル比(B1/B2)が1未満であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の粘性調整剤。
【請求項6】
前記ポリアミド化合物(B)の少なくとも1つの末端がカルボキシル基であることを特徴とする、請求項5に記載の粘性調整剤。
【請求項7】
前記硬化性組成物の硬化物が、シーラントまたは接着剤として使用されることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の粘性調整剤。
【請求項8】
バインダと、請求項1~
7のいずれか一項に記載の粘性調整剤と、を含有することを特徴とする、硬化性組成物。
【請求項9】
フィラーをさらに含有することを特徴とする、請求項
8に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性調整剤および硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シーラントや接着剤等の硬化性組成物用の粘性調整剤(増粘剤)としては、硬化ひまし油や脂肪酸ジアマイドの微粉などが使われている(例えば、特許文献1を参照)。この微粉は、樹脂や溶剤などの媒体中で加温、せん断により針状に形態が変わることで粘性付与効果を発揮する(以下、粘性調整剤が粘性付与効果を発揮することを「活性化」と称する)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常、上述した粘性調整剤は、シーラント等の硬化性組成物の製造時(具体的には、樹脂、可塑剤、フィラー類などの混合時)に添加され、その混練熱および混練時に加える熱により一部活性化される。しかし、混練熱および混練時に加える熱だけでは、添加された粘性調整剤を100%活性化させることは困難である。
【0005】
このような場合、シーラント等の硬化性組成物の貯蔵時に、粘性調整剤の未活性な部分が活性化する。貯蔵時における活性化は、硬化性組成物の貯蔵中における増粘の原因となり、貯蔵安定性が悪化するという問題があった。特に、高温環境下で貯蔵する場合には、貯蔵中の粘度の上昇率が高くなり、貯蔵安定性の悪化が顕著になる。また、硬化性組成物中に顔料等のフィラーが含まれる場合、貯蔵時にフィラーの分散状態が変化することがあり、このことが貯蔵中における粘性変化(粘度の上昇または下降)の原因となり、貯蔵安定性が悪化する恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、硬化性組成物の貯蔵時における粘性調整剤の活性化またはフィラーの分散状態の変化を起因とする貯蔵安定性の悪化を改善可能な粘性調整剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粘性調整剤として、従来から粘性調整剤として用いられている脂肪酸ジアマイドおよび/または硬化ひまし油に特定のポリアミド化合物を混合した組成物を用いることにより、初期の増粘性を低下させずに、硬化性組成物の貯蔵時における粘性調整剤の活性化またはフィラーの分散状態の変化を起因とする貯蔵安定性の悪化を改善できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、硬化性組成物用の粘性調整剤であって、ジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを縮合反応させてなるジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)と、アミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)とを重縮合させてなるポリアミド化合物(B)と、を含有し、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記硬化ひまし油(A’)の含有量は、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記硬化ひまし油(A’)と前記ポリアミド化合物(B)の合計量に対して50質量%以上99質量%以下であり、前記ポリアミド化合物(B)の含有量は、前記ジアマイド化合物(A)および/または前記硬化ひまし油(A’)と前記ポリアミド化合物(B)の合計量に対して1質量%以上50質量%以下であり、前記アミン成分(B1)は、炭素数2~54のジアミンおよび炭素数2~54のトリアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミンを含み、前記カルボン酸成分(B2)は、炭素数4~54のジカルボン酸および炭素数4~54のトリカルボン酸から選択される少なくとも1種のカルボン酸を含み、前記ポリアミド化合物(B)は、重合脂肪酸誘導体を含む前記アミン成分(B1)および重合脂肪酸を含む前記カルボン酸成分(B2)の少なくともいずれか一方を重縮合させてなるポリアミドであり、前記重合脂肪酸は、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルを重合して得られる重合物であることを特徴とする、粘性調整剤である。
【0009】
本発明の一態様において、前記ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量が、2000~50000であることが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様において、前記アミン成分(B1)が、炭素数2~12のジアミンまたはトリアミンを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の他の態様において、前記カルボン酸成分(B2)が、少なくとも重合脂肪酸を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様において、前記アミン成分(B1)と前記カルボン酸成分(B2)との反応モル比(B1/B2)が1未満であることが好ましい。この場合、ポリアミド化合物(B)の少なくとも1つの末端がカルボキシル基であってもよい。
【0013】
本発明の他の態様において、前記硬化性組成物の硬化物が、シーラントまたは接着剤として使用されてもよい。
【0014】
また、本発明は、バインダと、上述した粘性調整剤と、を含有することを特徴とする、硬化性組成物である。
【0015】
本発明の一態様において、前記硬化性組成物は、フィラーをさらに含有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粘性調整剤がジアマイド化合物および/または硬化ひまし油と、特定のポリアミド化合物とを含有することにより、初期増粘性を低下させることなく、硬化性組成物の貯蔵時における粘性調整剤の活性化またはフィラーの分散状態の変化を起因とする貯蔵安定性の悪化を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ポリアミド化合物(B)が硬化性組成物に含まれるフィラーを安定化させるメカニズムを示す模式図である。
【
図2】ポリアミド化合物(B)がジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)の凝集物を分散させ、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)の活性化を促進するメカニズムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
[粘性調整剤]
本発明に係る粘性調整剤は、硬化性組成物に用いられる添加剤であって、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)と、ポリアミド化合物(B)とを含有する。以下、ジアマイド化合物(A)、硬化ひまし油(A’)およびポリアミド化合物(B)について詳細に述べる。
【0020】
(ジアマイド化合物(A))
本発明に係るジアマイド化合物(A)は、ジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを縮合反応して得られる脂肪酸ジアマイドである。
【0021】
ジアマイド化合物(A)としては、例えば、N-12ヒドロキシステアリン酸N’-アルカン酸エチレン(テトラメチレン)ジアマイド、N,N’-12ヒドロキシステアリン酸エチレン(テトラメチレン)ジアマイドおよびN,N’-アルカン酸エチレン(テトラメチレン)ジアマイドの3成分を主成分とする脂肪酸ジアマイド(a)を使用できる。この脂肪酸ジアマイド(a)は、水素添加ひまし油脂肪酸および直鎖飽和脂肪酸(以下の説明では、単に「アルカン酸」と称する。)の混合物に、当量のエチレンジアミンまたはテトラメチレンジアミン(1,4-ジアミノブタン)を加え、アミド化反応を行うことによって得られる。したがって、ジアマイド化合物(A)として脂肪酸ジアマイド(a)を使用する場合のジアミン成分(A1)は、エチレンジアミンまたはテトラメチレンジアミンであり、モノカルボン酸成分(A2)は、水素添加ひまし油脂肪酸とアルカン酸の混合物となる。
【0022】
上記脂肪酸ジアマイド(a)に含まれる主成分の一般式は、次の通りである。
(1)N-12ヒドロキシステアリン酸N’-アルカン酸エチレン(テトラメチレン)ジアマイド
【化1】
(上記一般式中、lは、自然数である。)
(2)N,N’-12ヒドロキシステアリン酸エチレン(テトラメチレン)ジアマイド
【化2】
(3)N,N’-アルカン酸エチレン(テトラメチレン)ジアマイド
【化3】
(上記一般式中、nおよびmは、それぞれ、自然数である。)
【0023】
なお、脂肪酸ジアマイド(a)には、上記(1)~(3)の3成分の他に、未反応原料および副反応生成物が若干含まれる。
【0024】
ここで、本発明に係るジアマイド化合物(A)としては、上述した脂肪酸ジアマイド(a)には限られず、以下に例示するジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを縮合反応して得られる他の任意のジアマイド化合物を使用できる。このときの縮合反応の条件(反応温度、各成分の配合比等)は、公知の方法により適宜設定すればよい。
【0025】
本発明に係るジアミン成分(A1)としては、例えば、エチレンジアミン(EDA)、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン(TMDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、オクタメチレンジアミン(OMDA)、ドデカメチレンジアミン(DMDA)等の脂肪族ジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、メチレンビスクロロアニリン等の芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンなどが使用できる。
【0026】
本発明に係るモノカルボン酸成分(A2)としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、水素添加ひまし油脂肪酸、アラギジン酸、ベヘニン酸(ベヘン酸)等の飽和脂肪族モノカルボン酸、および、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルシン酸、天然油脂より得られる混合脂肪酸(トール油脂肪酸、米ヌカ脂肪酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸等)等の不飽和脂肪族モノカルボン酸などが使用できる。
【0027】
(硬化ひまし油(A’))
硬化ひまし油(A’)は、ひまし油に水素添加することで得られる、飽和脂肪酸のトリグリセリドである。硬化ひまし油(A’)としては市販品を使用することができ、市販品の例としては、C-ワックス(小倉合成工業株式会社製)、カオーワックス85P(花王株式会社製)、ヒマシ硬化油A(伊藤製油株式会社製)、ヒマシ硬化油(山桂産業株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
本発明に係る粘性調整剤に含まれる成分としては、(1)ジアマイド化合物(A)およびポリアミド化合物(B)、(2)硬化ひまし油(A’)およびポリアミド化合物(B)、(3)ジアマイド化合物(A)、硬化ひまし油(A’)およびポリアミド化合物(B)、の3種類の組み合わせがあり得る。
【0029】
(ポリアミド化合物(B))
本発明に係るポリアミド化合物(B)は、アミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)とを重縮合させて得られるポリアミドである。本発明において、アミン成分(B1)は、炭素数2~54のジアミンおよび炭素数2~54のトリアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミンを必須成分として含む。また、カルボン酸成分(B2)は、炭素数4~54のジカルボン酸および炭素数4~54のトリカルボン酸から選択される少なくとも1種のカルボン酸を必須成分として含む。さらに、ポリアミド化合物(B)は、重合脂肪酸誘導体を含むアミン成分(B1)および重合脂肪酸を含むカルボン酸成分(B2)の少なくともいずれか一方を重縮合させて得られるポリアミドである。すなわち、本発明に係るポリアミド化合物(B)の原料の必須成分として、重合脂肪酸誘導体としてのアミンと重合脂肪酸の少なくともいずれか一方が含まれる。ポリアミド化合物(B)の合成に使用されるアミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)の組み合わせとしては、重合脂肪酸誘導体としてのアミンと重合脂肪酸、重合脂肪酸誘導体以外のジアミンまたはトリアミンと重合脂肪酸、および、重合脂肪酸誘導体としてのアミンと重合脂肪酸以外のジカルボン酸またはトリカルボン酸が可能である。
【0030】
ポリアミド化合物(B)としては、上記のアミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)とを重縮合させて得られ、アミド結合(-CONH-)を有する高分子化合物であれば、いかなる化学構造を有するポリアミドであっても使用できる。以下、ポリアミド化合物(B)の合成に用いられるアミン成分(B1)、カルボン酸成分(B2)、ポリアミド化合物(B)の物性およびポリアミド化合物(B)の合成方法の順に詳述する。
【0031】
<アミン成分(B1)>
アミン成分(B1)としては、炭素数2~54のジアミンおよび炭素数2~54のトリアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミンが使用できる。上記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン(EDA)、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン(TMDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、オクタメチレンジアミン(OMDA)、ドデカメチレンジアミン(DMDA)等の脂肪族ジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、メチレンビスクロロアニリン等の芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。また、上記トリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン等の脂肪族トリアミンが挙げられる。
【0032】
さらに、本発明のアミン成分(B1)としては、重合脂肪酸誘導体である重合脂肪酸由来のジアミンまたはトリアミンを用いることもできる。このような重合脂肪酸誘導体としては、ダイマー酸誘導体であるダイマージアミン(DDA)、トリマー酸誘導体であるトリマートリアミン(TTA)等が例示される。ここで、ダイマー酸は、大豆油、トール油、亜麻仁油、綿実油等の植物油から得られる不飽和脂肪酸(例えば、炭素数18の不飽和脂肪酸)を重合(二量化)して得られる重合脂肪酸で、一般に、炭素数36のダイマー酸が市販されている。市販のダイマー酸中には、ダイマー酸の他にモノマー酸やトリマー酸が含まれているが、ダイマー酸の含有量が多いものが好ましい。ダイマージアミンは、ダイマー酸誘導体として、ダイマー酸の2つの末端カルボキシル基が1級のアミノメチル基またはアミノ基に置換されたものであり、一般に市販されているものを用いることができる。また、トリマー酸は、ダイマー酸をベースに蒸留精製等によりトリマー酸含有量を高くした重合脂肪酸であり、一般に、炭素数54のトリマー酸が市販されている。市販のトリマー酸中には、トリマー酸の他にモノマー酸やダイマー酸が含まれているが、トリマー酸の含有量が多いものが好ましい。トリマートリアミンは、トリマー酸誘導体として、トリマー酸の3つの末端カルボキシル基が1級のアミノメチル基またはアミノ基に置換されたものであり、一般に市販されているものを用いることができる。
【0033】
なお、アミン成分(B1)としては、本発明に係る粘性調整剤の貯蔵安定性改善効果を阻害しない範囲で、モノアミンを上述したジアミンおよび/またはトリアミンと併用してもよい。アミン成分(B1)に使用できるモノアミンとしては、例えば、エチルアミン、モノエタノールアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等が挙げられる。
【0034】
上述したアミン成分(B1)として使用される各化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
ここで、本発明に係る粘性調整剤を含有する硬化性組成物の初期の増粘性の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果を高めるためには、粘性調整剤が、ジアマイド化合物(A)を含むか、または、硬化ひまし油(A’)を含むかに関わらず、アミン成分(B1)が、炭素数2~12のジアミンまたはトリアミンを含むことが好ましい。ここで、粘性調整剤がジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)とからなる場合には、アミン成分(B1)が、炭素数2~8のジアミンまたはトリアミンを含むことで、貯蔵安定性の改善効果が特に高い。また、粘性調整剤が硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とからなる場合には、アミン成分(B1)が、炭素数2~12のジアミンまたはトリアミンを含むことで、貯蔵安定性の改善効果が特に高い。これらのジアミンまたはトリアミンの中でも、特に、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンおよびドデカメチレンジアミンのうちの少なくとも1種のジアミンが、アミン成分(B1)として含まれていることが好ましい。ポリアミド化合物(B)の原料の必須成分として、重合脂肪酸誘導体としてのアミンと重合脂肪酸の少なくともいずれか一方が含まれることから、アミン成分(B1)として炭素数2~12のジアミンまたはトリアミンを用いた場合、カルボン酸成分(B2)としては、少なくとも炭素数4~54の重合脂肪酸を含むことが必要である。
【0036】
<カルボン酸成分(B2)>
カルボン酸成分(B2)としては、炭素数4~54のジカルボン酸および炭素数4~54のトリカルボン酸から選択される少なくとも1種のカルボン酸が使用できる。上記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。ダイマー酸は、大豆油、トール油、亜麻仁油、綿実油等の植物油から得られる不飽和脂肪酸(例えば、炭素数18または22の不飽和脂肪酸)を重合(二量化)して得られる重合脂肪酸で、一般に、炭素数36または44のダイマー酸が市販されている。市販のダイマー酸中には、ダイマー酸の他にモノマー酸やトリマー酸が含まれているが、ダイマー酸の含有量が多いものが好ましい。
【0037】
また、上記トリカルボン酸としては、例えば、トリマー酸、トリメシン酸等が挙げられる。トリマー酸は、ダイマー酸をベースに蒸留精製等によりトリマー酸含有量を高くした重合脂肪酸であり、一般に、炭素数54のトリマー酸が市販されている。市販のトリマー酸中には、トリマー酸の他にモノマー酸やダイマー酸が含まれているが、トリマー酸の含有量が多いものが好ましい。
【0038】
なお、カルボン酸成分(B2)としては、本発明に係る粘性調整剤の貯蔵安定性改善効果を阻害しない範囲で、モノカルボン酸を上述したジカルボン酸および/またはトリカルボン酸と併用してもよい。カルボン酸成分(B2)に使用できるモノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、水素添加ひまし油脂肪酸、アラギジン酸、ベヘニン酸(ベヘン酸)等の飽和脂肪族モノカルボン酸、および、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルシン酸、天然油脂より得られる混合脂肪酸(トール油脂肪酸、米ヌカ脂肪酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸等)等の不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0039】
カルボン酸成分(B2)としてモノカルボン酸が含まれる場合、貯蔵安定性をさらに改善するためには、炭素数2~22のモノカルボン酸を含むことが好ましく、これらの中でも、特に、水素添加ひまし油脂肪酸を含むことが好ましい。
【0040】
上述したカルボン酸成分(B2)として使用される各化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
ここで、本発明に係る粘性調整剤を含有する硬化性組成物の初期の増粘性の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果を高めるためには、カルボン酸成分(B2)が、少なくとも重合脂肪酸を含むことが好ましい。本発明のカルボン酸成分(B2)として用いられる重合脂肪酸は、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルを重合して得られる重合物である。不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸としては、通常1~3個の不飽和結合を有する総炭素数が8~24の不飽和脂肪酸が用いられる。これらの不飽和脂肪酸として、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、天然の乾性油脂肪酸、天然の半乾性油脂肪酸等が挙げられる。また、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルとしては、上記不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸と脂肪族アルコール、好ましくは、炭素数1~3の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。以上のような重合脂肪酸のうち、カルボン酸成分(B2)として特に好適なものは、ダイマー酸およびトリマー酸である。
【0042】
カルボン酸成分(B2)として、少なくとも上記の重合脂肪酸を含有する場合、アミン成分(B1)は、特に制限されず、重合脂肪酸誘導体(例えば、ダイマージアミン、トリマートリアミン)でもよいし、重合脂肪酸誘導体以外のジアミンまたはトリアミンであってもよい。ただし、本発明に係る粘性調整剤を含有する硬化性組成物の初期の増粘性の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果を高めるためには、カルボン酸成分(B2)として、少なくとも上記の重合脂肪酸を含有する場合には、アミン成分(B1)が炭素数2~12のジアミンまたはトリアミンであることが好ましい。特に好ましい組み合わせとしては、アミン成分(B1)が、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンおよびドデカメチレンジアミンのうちの少なくとも1種のジアミンであり、カルボン酸成分(B2)が、ダイマー酸とトリマー酸のうちの少なくともいずれか一方の重合脂肪酸である。
【0043】
<ポリアミド化合物(B)の物性>
本発明に係るポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwは、2000以上50000以下であることが好ましい。ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwを上記範囲とすることで、本発明に係る粘性調整剤を含有する硬化性組成物の初期の増粘性を低下させることなく、貯蔵安定性の改善効果が高まる。粘性調整剤がジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、初期の増粘性の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果をさらに高めるためには、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwは、2000以上19000以下であることがより好ましく、2000以上12000以下であることがさらに好ましい。また、粘性調整剤が硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とからなる組成においては、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwが3500以上12000以下の場合に特に貯蔵安定性の改善効果に優れ、初期増粘性は、ジアマイド化合物(A)を用いた場合よりも高くなる傾向にある。本発明者らは、この理由を、基本的に、ジアマイド化合物(A)に比べて硬化ひまし油(A’)の方が活性化しやすいためと考えている。
【0044】
ここで、本明細書において、重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。
【0045】
<ポリアミド化合物(B)の合成方法>
本発明に係るポリアミド化合物(B)は、上述したアミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)とを公知の反応条件下で重縮合反応させることにより合成できる。例えば、4口フラスコ等の反応容器に、原料であるアミン成分(B1)およびカルボン酸成分(B2)を投入し、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素ガス気流下等)にて原料を撹拌し、混合物とする。その後、原料の混合物を加熱し、150℃~200℃で2~10時間重縮合反応させることにより、ポリアミド化合物(B)が合成される。
【0046】
このとき、アミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)との反応モル比(B1/B2)が1未満であることが好ましい。すなわち、アミン成分(B1)に対して過剰量(モル比)のカルボン酸成分(B2)を重縮合反応させることが好ましい。この場合、ポリアミド化合物(B)の少なくとも1つの末端がカルボキシル基となる。ただし、本発明で必要とされる貯蔵安定性の改善効果を得るためには、必ずしも、ポリアミド化合物(B)の少なくとも1つの末端がカルボキシル基でなくてもよく、すべての末端がアミノ基であってもよい。なお、反応モル比(B1/B2)とは、カルボン酸成分(B2)の量に対するアミン成分(B1)の量の比(モル比)のことを意味する。
【0047】
(粘性調整剤の製造方法)
上述したジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とを含有する粘性調整剤は、以下のようにして製造できる。例えば、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)を加熱し溶融状態とした後に、ポリアミド化合物(B)を加え、溶融混合する。このときの溶融温度は、ジアマイド化合物(A)、硬化ひまし油(A’)およびポリアミド化合物(B)の融点以上とすればよい。次に、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)が溶融混合した溶融液を固体として取り出す。この固体のジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)の混合物を所望の粒径に粉砕することにより、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とを含有する粉末状の粘性調整剤が製造される。固体のジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)混合物の粉砕方法としては特に制限されないが、例えば、ジェットミル等を使用できる。
【0048】
粘性調整剤の製造時におけるポリアミド化合物(B)の配合量は、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)の合計量に対してポリアミド化合物(B)が1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。ポリアミド化合物(B)の配合量を上記範囲とすることにより、本発明に係る粘性調整剤を含有する硬化性組成物の初期の増粘性を低下させることなく、貯蔵安定性の改善効果が高まる。粘性調整剤がジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、ポリアミド化合物(B)の配合量の下限値については、初期の増粘性の低下抑制効果をさらに高めるためには、5質量%以上とすることがより好ましく、貯蔵安定性の改善効果をさらに高めるためには、10質量%以上とすることがより好ましい。一方、ポリアミド化合物(B)の配合量の上限値については、初期の増粘性の低下抑制効果をさらに高めるためには、20質量%以下とすることがより好ましく、貯蔵安定性の改善効果をさらに高めるためには、30質量%以下とすることがより好ましい。また、粘性調整剤が硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とからなる組成においては、ポリアミド化合物(B)の配合量の下限値については、初期の増粘性の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果をさらに高めるためには、5質量%以上とすることがより好ましい。一方、ポリアミド化合物(B)の配合量の上限値については、初期の増粘性の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果をさらに高めるためには、30質量%以下とすることがより好ましい。
【0049】
(粘性調整剤の用途)
本発明に係る粘性調整剤が適する用途は、建造物・船舶・自動車・道路などのシーラント、接着剤、粘着剤、コーティング材、型取剤、防振材、制振材、防音材、発泡材料、塗料、吹付材などに使用される硬化性組成物用の添加剤である。これらの用途のうち、特に、硬化性組成物の硬化物がシーラントまたは接着剤として使用される場合に、本発明の粘性調整剤は特に好適に用いられる。
【0050】
[硬化性組成物]
本発明に係る硬化性組成物は、バインダと、上述した粘性調整剤とを必須成分として含有する。また、本発明の硬化性組成物は、任意成分として、可塑剤、フィラー、および、脱水剤、密着向上剤等のその他の添加剤をさらに含有していてもよい。本発明の硬化性組成物用粘性調整剤の含有量は、硬化性組成物中のバインダである樹脂の種類、顔料等のフィラーの配合組成などにより異なるが、通常は、硬化性組成物中の全樹脂固形分100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下であり、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。粘性調整剤の含有量を上記範囲とすることにより、硬化性組成物に十分な貯蔵安定性を付与できる。
【0051】
(バインダ)
硬化性組成物にバインダとして含有される樹脂としては、例えば、変成シリコーン樹脂が挙げられる。変成シリコーン樹脂は、末端に反応性シリル基を導入したシリル基末端ポリエーテルを主成分とするものである。例えば、変成シリコーン樹脂をシーラント等の硬化性組成物のバインダとして用いる場合、変成シリコーン樹脂は、水分の存在下で硬化し、シロキサン結合を形成するものであることが好ましい。変成シリコーン樹脂としては、例えば、直鎖または分岐鎖のポリオキシアルキレンポリマーを主鎖とし、その水酸基末端にシリル基を導入して形成したシリル変成ポリマーが挙げられる。シリル変成ポリマーの他の例としては、シリル変成ポリウレタン、シリル変成ポリエステル、シリル化アクリレート、シリル基末端ポリイソブチレン等が挙げられる。変成シリコーン樹脂は、公知の合成方法により得られるものであってもよく、市販品として入手可能なものであってもよい。変成シリコーン樹脂の市販品としては、例えば、カネカ社製のMSポリマーS810、MSポリマーS202、MSポリマーS203、MSポリマーS303、AGC社製のエクセスター等が挙げられる。
【0052】
硬化性組成物のバインダとして含有される樹脂としては、上記変成シリコーン樹脂以外にも、例えば、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、アミノ系樹脂、ブチルゴム、市販の油性コーキング材等が挙げられる。これらの樹脂は、例えば、加熱硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型、酸化硬化型、光カチオン硬化型、過酸化物硬化型、および酸/エポキシ硬化型のように、触媒存在下または非存在下で化学反応を伴って硬化するものであってもよく、ガラス転移点が高い樹脂で、化学反応を伴わず、希釈溶媒が揮発するだけで被膜となるものであってもよい。また、硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物およびエポキシ化合物等が挙げられる。
【0053】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、フタル酸ジヘプチル(DHP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸イソノニル(DINCH)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、テトラヒドロフタル酸エステル、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、アジピン酸ジn-アルキル、ジブチルジグリコールアジペート(BXA)、アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、マレイン酸ジブチル(DBM)、マレイン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOM)、フマル酸ジブチル(DBF)、リン酸トリクレシル(TCP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート(TBP)、トリス・(2-エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、トリ(クロロエチル)ホスフェート(TCEP)、トリスジクロロプロピルホスフェート(CRP)、トリブトキシエチルホスフェート(TBXP)、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、オクチルジフェニルホスフェート(CDP)、クエン酸アセチルトリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、トリメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、塩素化パラフィン、ステアリン酸系可塑剤、ジメチルポリシロキサン、プロセスオイル、等が挙げられる。
【0054】
(フィラー)
フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム(GCC)、沈降炭酸カルシウム(PCC)等)、硫酸バリウム、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、タルク、有機繊維、ガラス粉等等の体質顔料;二酸化チタン、カーボンブラック、黄鉛、カドミウムイエロー、オーカー、チタンイエロー、ジンクロメート、弁柄、アルミノケイ酸塩、キナクリドン系、フタロシアニン系、アントロキノン系、ジケトピロロピロール系、ベンズイミダゾロン系およびイソインドリノン系等の着色顔料;およびアルミニウムフレーク、銅フレーク、雲母状酸化鉄、雲母、および雲母に金属酸化物を被覆した鱗片状粉末等のメタリック顔料などが挙げられる。
【0055】
(その他の添加剤)
本発明の硬化性組成物には、その特性や本発明の目的が損なわれない範囲で、他の物質、例えば、脱水剤(例えば、シランカップリング剤)、密着向上剤、界面活性剤、硬化触媒、増膜助剤、ドライヤー、汚染防止剤、増感剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐水化剤、防腐防カビ剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、剥離剤、消臭剤、香料などの他の添加剤を含有することができる。
【0056】
(硬化性組成物の製造方法)
本発明の硬化性組成物は、公知のシーラント、接着剤等の製造方法に準じて製造できる。例えば、上述したバインダ、可塑剤、フィラー、粘性調整剤等の各成分を3本ロールミルまたはディゾルバー等で混合した後、減圧下で加熱しながら混練することにより、本発明の硬化性組成物が製造される。混練時の加熱温度としては、例えば、25~70℃とすればよい。
【0057】
(硬化性組成物の用途)
本発明の硬化性組成物は、建造物・船舶・自動車・道路・医療機器などのシーラント;弾性接着剤、コンタクト型接着剤、タイル張り用接着剤、内装パネル用接着剤、外装パネル用接着剤、タイル張り用接着剤、石材張り用接着剤、天井仕上げ用接着剤、床仕上げ用接着剤、壁仕上げ用接着剤、車両パネル用接着剤、電気・電子・精密機器組立用接着剤等の接着剤;医療用粘着剤等の粘着剤;太陽電池裏面封止材などの電気・電子部品材料;電線・ケーブル用絶縁被覆材などの電気絶縁材料;食品包装材;コーティング材;型取剤;防振材;制振材;防音材;発泡材料;塗料;吹付材;医療用材料;電磁波遮蔽用導電性材料;熱伝導性材料;ホットメルト材料;電気電子用ポッティング剤;フィルム;ガスケット;各種成形材料等に使用できる。
【0058】
[貯蔵安定性改善のメカニズム]
次に、
図1および
図2を参照しながら、本発明者らの推察に基づき、上述した硬化性組成物において貯蔵安定性が改善するメカニズムを述べる。
図1は、ポリアミド化合物(B)が硬化性組成物に含まれるフィラーを安定化させるメカニズムを示す模式図であり、
図2は、ポリアミド化合物(B)がジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)の凝集物を分散させ、ジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)の活性化を促進するメカニズムを示す模式図である。
【0059】
第1に、
図1の左図に示すように、硬化性組成物中に炭酸カルシウム、酸化チタン等のフィラーが含まれている場合、混練時のせん断力により、フィラーなどの固体粒子Fが分散する。この場合に、粘性調整剤としてポリアミド化合物(B)が用いられていないと、フィラーなどの固体粒子F間に引力としてファンデルワールス力が作用し、上記の分散状態を維持できず、フィラーなどの固体粒子Fの再凝集等が生じる。その結果、硬化性組成物の系全体の粘性が不均一になるなど、粘性変化の原因となる。
【0060】
これに対して、本発明のように、粘性調整剤としてジアマイド化合物(A)および/または硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)の混合物が用いられていると、
図1に示すように、ポリアミド化合物(B)の分子Pが、フィラーなどの固体粒子Fに酸塩基相互作用等により吸着することで、吸着したポリアミド化合物(B)の分子Pによる立体障害効果のため、固体粒子F同士の再凝集が回避される。その結果、硬化性組成物の系全体で均一に粘性が付与されるなど、安定した粘性付与効果が得られ、この安定した粘性付与効果を維持できる。
【0061】
なお、ポリアミド化合物(B)の分子Pが硬化性組成物の系全体で十分に分散されない場合には、上記粘性付与効果が安定して得られない。ポリアミド化合物(B)の分子Pの系全体における分散状態は、ポリアミド化合物(B)と、バインダ樹脂または可塑剤との組み合わせ(相性)により変わる。例えば、本発明に係るポリアミド化合物(B)の代わりに、重合脂肪酸の誘導体以外のアミン成分(B1)と重合脂肪酸以外のカルボン酸成分(B2)とを縮重合させたポリアミド化合物を使用した場合、ポリアミド化合物の結晶性が高すぎるため、硬化性組成物の系全体に十分に分散されない。
【0062】
また、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwが大きすぎると、ポリアミド化合物(B)の分子Pの固体粒子Fへの吸着速度が遅くなるため、再凝集の回避効果が低下するおそれがある。一方、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwが小さすぎると、十分な立体障害効果が得られず、固体粒子Fが十分に分散されないため、再凝集の回避効果が低下するおそれがある。このような理由から、上述したように、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwは、2000以上50000以下であることが好ましい。
【0063】
第2に、フィラー等の固体粒子の有無にかかわらず、粘性調整剤としてジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)の混合物が用いられていると、
図2に示すように、ポリアミド化合物(B)の分子Pが、ジアマイド化合物(A)の粉(固体粒子)Ddの凝集物Dcを分散する。ジアマイド化合物(A)は、凝集物Dcの状態では針状の形態になりにくい(すなわち、活性化しにくい)が、ポリアミド化合物(B)の分子Pにより、ジアマイド化合物(A)の凝集物Dcが固体粒子Ddに分散されると、ジアマイド化合物(A)が針状の形態Daになりやすくなる。このように、硬化性組成物中にポリアミド化合物(B)の分子Pが存在することにより、ジアマイド化合物(A)の凝集物Dcが分散され、ジアマイド化合物(A)の活性化が促進される。
【0064】
その結果、本発明の粘性調整剤を含有する硬化性組成物は、初期増粘性が増加する。また、活性化されたジアマイド化合物(A)は、硬化性組成物の系に安定な粘性を付与し、ポリアミド化合物(B)の作用により、安定な構造(
図2の右図の状態)を維持し、安定化される。この安定化された構造は、経時変化がほとんどないため、貯蔵安定性が改善される。
【0065】
ここで、ジアマイド化合物(A)の種類によらず、上述した
図2のメカニズムにより、ポリアミド化合物(B)の分子Pは、ジアマイド化合物(A)の粉(固体粒子)の凝集物を分散する作用を有する。また、ジアマイド化合物(A)の代わりに、硬化ひまし油(A’)が用いられている場合、または、ジアマイド化合物(A)に加えて、硬化ひまし油(A’)が用いられている場合も、
図2のメカニズムにより、ポリアミド化合物(B)の分子Pは、硬化ひまし油(A’)の粉(固体粒子)の凝集物を分散する作用を有する。
【0066】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。また、実施例中の「%」および「部」は特に断らない限り、「質量%」および「質量部」を示す。
【0068】
[ポリアミド化合物(B)の合成]
まず、4口フラスコに、原料として、表1に記載したアミン成分(B1)とカルボン酸成分(B2)とを表1に記載したモル比で添加し、窒素ガス気流下で撹拌しながら加熱し、150℃で1時間反応後、さらに、175℃で2時間反応させた。その結果、表1に記載した合成例B1~B26および比較合成例B1、B2のポリアミド化合物(B)を得た。なお、比較合成例B1およびB2のアミド化合物(以下、「化合物(B’)」と記載する。)は、本発明のポリアミド化合物(B)には該当しない合成例である。また、表1中の「12HSA」は、水素添加ひまし油脂肪酸を意味する。
【0069】
以上のように合成例B1~B26および比較合成例B1、B2の重量平均分子量Mwを測定した.具体的には、GPCで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値を重量平均分子量Mwとした。GPCの測定機器として、「HLC-8320GPC」(東ソー株式会社製、商品名)を用い、カラムとして、「GPCKF-801」×1本、「GPCKF-802」×2本(いずれもShodex社製、商品名)の3本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1cc/分、検出器;RIの条件で、重量平均分子量を測定した。ただし、合成例B17のポリアミド化合物(B)の末端はアミンであり、GPCを用いて重量平均分子量を測定できなかったため、表1には合成例B17の重量平均分子量は記載されていない。
【0070】
【0071】
[ジアマイド化合物(A)の合成および粘性調整剤の製造]
次に、ジアマイド化合物(A)の合成方法および粘性調整剤の製造方法について述べる。
【0072】
(製造例1~30)
表2に記載のジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを窒素ガス気流下で190℃にて6時間、生成する水を取り除くように反応させて合成例A1のジアマイド化合物(A)を得た後、上述したようにして得た合成例B1~B26のポリアミド化合物(B)をそれぞれ加え、溶融混合した。さらに、この溶融混合物を固体として取り出し、この固体の混合物を粉砕機にてメディアン径が1μm~10μmの範囲となるように粉砕することで、製造例1~30の粘性調整剤を得た。
【0073】
(製造例31)
表2に記載のジアミン成分(A1)とモノカルボン酸成分(A2)とを窒素ガス気流下で190℃にて6時間、生成する水を取り除くように反応させてジアマイド化合物を得た後、硬化ひまし油(A’)としてC-ワックス(小倉合成工業株式会社製)を加えて溶融混合し、合成例A2のジアマイド化合物(A)とした。さらに、合成例B2のポリアミド化合物(B)を加え、溶融混合した後、この溶融混合物を固体として取り出し、この固体の混合物を粉砕機にてメディアン径が1μm~10μmの範囲となるように粉砕することで、製造例31の粘性調整剤を得た。
【0074】
(製造例32~46)
硬化ひまし油(A’)として、C-ワックス(小倉合成工業株式会社製)を用い、この硬化ひまし油(A’)を加熱して溶融させたところに、合成例B1~B5、B11~B16のポリアミド化合物(B)を加え、溶融混合した。さらに、この溶融混合物を固体として取り出し、この固体の混合物を粉砕機にてメディアン径が1μm~10μmの範囲となるように粉砕することで、製造例32~46の粘性調整剤を得た。
【0075】
(比較製造例1、2)
合成例B1のポリアミド化合物(B)の代わりに、比較合成例B1およびB2の化合物(B’)を用いた以外は、製造例2と同様に実施することにより、比較製造例1および2の粘性調整剤を得た。
【0076】
(比較製造例3)
製造例1と同様にして合成例A1のジアマイド化合物(A)を得た後、ポリアミド化合物(B)を加えずに、固体として取り出し、この固体を粉砕機にてメディアン径が1μm~10μmの範囲となるように粉砕することで、比較製造例3の粘性調整剤を得た。
【0077】
(比較製造例4)
製造例31と同様にして合成例A2のジアマイド化合物(A)を得た後、ポリアミド化合物(B)を加えずに、固体として取り出し、この固体を粉砕機にてメディアン径が1μm~10μmの範囲となるように粉砕することで、比較製造例4の粘性調整剤を得た。
【0078】
(比較製造例5)
製造例32と同じ硬化ひまし油(A’)を加熱溶融したものを固体として取り出し、この固体を粉砕機にてメディアン径が1μm~10μmの範囲となるように粉砕することで、比較製造例5の粘性調整剤を得た。
【0079】
以上のようにして得られた製造例1~46および比較製造例1~5の粘性調整剤の成分および配合量を表3に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
[硬化性組成物の製造]
上述したようにして得られた製造例1~46および比較製造例1~5の粘性調整剤を用い、表4に示す配合Aまたは表5に示す配合Bにて実施例1~49および比較例1~9の硬化性組成物を製造した。
【0083】
(実施例1~49、比較例1~9)
具体的には、実施例1~32、35~48および比較例1~5、7については、バインダ(樹脂)としてMSポリマーS203(株式会社カネカ製の変成シリコーン樹脂)100部、可塑剤としてサンソサイザーDINP(新日本理化株式会社製のフタル酸ジイソノニル)30部、ホワイトンSB(白石カルシウム株式会社製の重質炭酸カルシウム)160部、白艶華CCR(白石カルシウム株式会社製の沈降炭酸カルシウム)50部、粘性調整剤として製造例1~32および比較製造例1~5のいずれかの粘性調整剤7部を3本ロールミルにて予備分散した後、プラネタリーミキサーを用いて減圧下、45℃で混練した。この混練物に、脱水剤としてSilquest A-171(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)3部、密着向上剤としてSilquest A-1122(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)3部を加え、プラネタリーミキサーを用いて混練することで、実施例1~32、35~48および比較例1~5、7の硬化性組成物を得た。実施例33、34、49および比較例6、8、9については、バインダ(樹脂)としてMSポリマーS203(株式会社カネカ製の変成シリコーン樹脂)100部、可塑剤としてサンソサイザーDINP(新日本理化株式会社製のフタル酸ジイソノニル)60部、ホワイトンSB(白石カルシウム株式会社製の重質炭酸カルシウム)150部、タイペークR-820(石原産業株式会社製のルチル型酸化チタン)15部、粘性調整剤として製造例2、9および比較製造例1のいずれかの粘性調整剤7部をディゾルバーにて予備分散した後、プラネタリーミキサーを用いて減圧下、45℃で混練した。この混練物に、脱水剤としてSilquest A-171(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)3部、密着向上剤としてSilquest A-1122(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)3部を加え、プラネタリーミキサーを用いて混練することで、実施例33、34、49および比較例6、8、9の硬化性組成物を得た。また、配合Aおよび配合Bのうち、粘性調整剤を添加していないものをそれぞれ比較例7および比較例9の硬化性組成物とした。各硬化性組成物は、密封のできる2つの容器に充填した。これら2つの容器に充填した硬化性組成物は、それぞれ、初期増粘性評価用および貯蔵安定性評価用のサンプルである。なお、実施例1~49および比較例1~6、8において使用された粘性調整剤および配合を表6に示した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
[評価方法]
上述したようにして得られた実施例1~49および比較例1~9の硬化性組成物について、初期増粘性および貯蔵安定性の評価を行った。なお、初期増粘性および貯蔵安定性の評価において、粘度の測定にはレオメーターを用い、ズリ速度0.1s-1での粘度を測定値とした。
【0088】
(初期増粘性)
初期増粘性の評価は、各硬化性組成物を製造した翌日に粘度(以下、「初期粘度V0」と称する。)を測定し、各実施例および比較例で使用した(ベースとなる)ジアマイド化合物(A)または硬化ひまし油(A’)の粘度を100としたときの各硬化性組成物の初期粘度V0の相対値(以下、「粘度指数I1」と称する。)を用い、以下の基準で評価した。なお、粘度指数I1が100のときは、硬化性組成物の初期粘度V0が、ベースとなるジアマイド化合物(A)または硬化ひまし油(A’)の粘度と同じ(変化無し)ということを意味する。したがって、粘度指数I1の値が大きい程、初期増粘性に優れることになる。
A:粘度指数I1が90以上
B:粘度指数I1が70以上90未満
C:粘度指数I1が50以上70未満
D:粘度指数I1が50未満
【0089】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性は、以下のようにして評価した。まず、各硬化性組成物について50℃で2週間貯蔵した後の粘度(以下、「貯蔵後粘度Vs」と称する。)を測定し、初期粘度V0に対する貯蔵後粘度Vsの変化率ΔV(=(Vs-V0)/V0×100)を求めた。また、ベースとなるジアマイド化合物(A)または硬化ひまし油(A’)についても、同様にして、初期粘度V0に対する貯蔵後粘度Vsの変化率ΔVbを求めた。さらに、粘度変化率ΔVbの粘度変化率を100としたときの各硬化性組成物の粘度変化率ΔVの相対値(以下、「粘度変化指数I2」と称する。)を用い、以下の基準で評価した。なお、粘度変化指数I2が100のときは、硬化性組成物の粘度変化率ΔVが、粘度変化率ΔVbと同じ(変化無し)ということを意味する。したがって、粘度変化指数I2の値が小さい程、ベースとなるジアマイド化合物(A)または硬化ひまし油(A’)と比較して、貯蔵安定性に優れるということになる。
A:粘度変化指数I2が25以下
B:粘度変化指数I2が25超50以下
C:粘度変化指数I2が50超75以下
D:粘度変化指数I2が75超
【0090】
[評価結果]
上述したようにして評価した初期増粘性および貯蔵安定性の評価結果を上記表6に示した。
【0091】
表6に示すように、実施例1~49の硬化性組成物は、いずれも、良好な(C評価以上の)初期増粘性および貯蔵安定性を有していた。
【0092】
ここで、粘性調整剤がジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、実施例2、6~9の比較から、ジアミン成分(B1)の炭素数が2~8の場合に、貯蔵安定性に特に優れる(A評価)ことが分かる。また、粘性調整剤が硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、実施例32、39~42の比較から、ジアミン成分(B1)の炭素数が2~12の場合に、貯蔵安定性に特に優れる(A評価)ことが分かる。
【0093】
次に、粘性調整剤がジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、ジアミン成分(B1)としてEDAを使用し、カルボン酸成分(B2)としてダイマー酸を使用した実施例2、15~18の比較から、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwは、19000以下であると、初期増粘性および貯蔵安定性に優れ(B評価以上)、12000以下であると、貯蔵安定性に特に優れる(A評価)ことが分かる。さらに、実施例25~27より、例えば、カルボン酸成分(B2)としてトリマー酸を使用した場合には、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwが2000以上の範囲で初期増粘性および貯蔵安定性に特に優れる(A評価)ことが分かる。また、粘性調整剤が硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、ジアミン成分(B1)としてEDAを使用し、カルボン酸成分(B2)としてダイマー酸を使用した実施例32、43~46の比較から、ポリアミド化合物(B)の重量平均分子量Mwは、19000以下であると、初期増粘性および貯蔵安定性に優れ(B評価以上)、3500以上12000以下であると、貯蔵安定性に特に優れる(A評価)ことが分かる。
【0094】
また、ジアミン成分(B1)としてモノアミンが含まれる実施例10、30の初期増粘性および貯蔵安定性が良好(C評価以上)であったことから、アミン成分(B1)として、炭素数2~54のジアミンまたは炭素数2~54のトリアミンの少なくともいずれか一方を含んでいれば、モノアミンが含まれていても、初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。さらに、実施例23に示すように、アミン成分(B1)として、2種以上のジアミンを用いた場合でも、初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。
【0095】
また、カルボン酸成分(B2)としてモノカルボン酸が含まれる実施例13、14の初期増粘性および貯蔵安定性が良好(C評価以上)であったことから、カルボン酸成分(B2)として、炭素数4~54のジカルボン酸と炭素数4~54のトリカルボン酸の少なくともいずれか一方を含んでいれば、モノカルボン酸が含まれていても、初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。さらに、実施例22に示すように、カルボン酸成分(B2)として、2種以上のジカルボン酸を用いた場合でも、初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。
【0096】
また、実施例21のように過剰の量のアミン成分(B1)を使用し、ポリアミド化合物(B)の末端がアミノ基である場合、実施例10のように過剰量のカルボン酸成分(B2)を使用し、かつ、末端のカルボキシル基をモノアミンでキャップした場合、および、実施例28、29のように過剰量のアミン成分(B1)を使用し、かつ、末端のアミノ基をモノカルボン酸でキャップした場合であっても、初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。
【0097】
また、実施例6と実施例31の比較から、ベースとなるジアマイド化合物(A)の種類によらず、優れた初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。
【0098】
また、実施例2と実施例32の比較から、粘性調整剤にジアマイド化合物(A)を用いた場合であっても、硬化ひまし油(A’)を用いた場合であっても、優れた初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。
【0099】
さらに、実施例2と実施例33の比較、実施例9と実施例34の比較、および、実施例32と実施例49から、フィラーの種類によらず、優れた初期粘度の低下抑制効果および貯蔵安定性の改善効果が得られることが分かる。
【0100】
次に、粘性調整剤がジアマイド化合物(A)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、ポリアミド化合物(B)の配合量が、5質量%以上20質量%以下のときに初期増粘性に特に優れ(A評価以上)、10質量%以上30質量%以下のときに貯蔵安定性に特に優れる(A評価以上)ことが分かる。また、粘性調整剤が硬化ひまし油(A’)とポリアミド化合物(B)とからなる組成において、ポリアミド化合物(B)の配合量が、5質量%以上30質量%以下のときに初期増粘性および貯蔵安定性に特に優れる(A評価以上)ことが分かる。
【0101】
一方、アミン成分(B1)としてジアミンおよびトリアミンを含まない比較例1、および、カルボン酸成分(B2)としてジカルボン酸およびトリカルボン酸を含まない比較例2は、初期増粘性には優れるものの、貯蔵安定性が悪化する(D評価)ことが分かる。また、粘性調整剤としてジアマイド化合物(A)または硬化ひまし油(A’)のみを含む比較例3~6、8は、初期増粘性には優れるものの、貯蔵安定性が悪化する(D評価)ことが分かる。さらに、硬化性組成物中に粘性調整剤自体を含まない比較例7、9は、初期増粘性が悪化する(D評価)ことが分かる。