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  • 特許-トーショナルダンパ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】トーショナルダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
F16F15/126 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021565412
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043857
(87)【国際公開番号】W WO2021124818
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019230165
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】沢津橋 慧
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096455(JP,A)
【文献】特開2007-009073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定され、前記回転軸を中心とする円周上に外周面を有するハブと、
前記回転軸を中心とする円周上に、前記ハブの前記外周面よりも径が大きい内周面を有する環状の振動リングと、
前記ハブの前記外周面と前記振動リングの前記内周面との間に圧縮状態で存在し、EPDMを主成分とするゴム組成物からなり、高周波振動試験機によって、加振振幅:±0.05deg、加振時位相:-90deg、雰囲気温度:23±3℃の条件で共振点追跡法(固有振動数測定)によって測定して得た、非接触式表面温度計によって測定される表面温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.18以上であるゴムリングと、
を備え、
高周波振動試験機によって、加振振幅:±0.05deg、加振時位相:-90deg、雰囲気温度:23±3℃の条件で、前記ゴムリングの非接触式表面温度計によって測定される表面温度が60±5℃に達するまで行う共振点追跡法(固有振動数測定)に供した場合に、共振点での連続加振時における前記ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)[℃]、嵌合幅(b)[mm]とが、
式(1) : Tmax≦-2.6b+173.5
式(2) : 20≦b≦100
式(3) : Tmax≧-2.6b+124
を満たす、トーショナルダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトーショナルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
トーショナルダンパ(以下、TVDともいう)は、クランクシャフトの先端に取り付けられ、ハブと振動リング(マス)との間に嵌合させるゴムリングの作用により、クランクシャフトの捩り振動を低減させる機能を備える製品である。
また、TVDはベルトを介して補機類(オルタネーター、エアコン、ウォーターポンプ)へ動力を伝達するクランクプーリーとしての機能も備える場合がある。
【0003】
クランクシャフトの捩り振動の共振域付近又はそれを超えると、TVDのハブと振動リング間に捩り方向の相対振動が発生し、TVDのゴムリングが発熱する。その結果、その温度がゴムリングの耐熱温度以上となると、ゴムリングが破損する可能性がある。
【0004】
これに関する従来法として、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、回転軸に取り付けられ、前記回転軸と一体的に回転するダンパハブと、前記ダンパハブにゴム部材を介して装着された慣性リングと、を有するトーショナルダンパであって、前記ゴム部材は、EPDMを主成分とするゴム組成物からなり、前記ダンパハブと前記慣性リングとの間に装着された前記ゴム部材は、表面温度が60±5℃の時の損失係数(tanδpi)が0.27以上であり、前記トーショナルダンパの共振点での連続加振時における前記ゴム部材の表面最高到達温度(Tmax)は、以下の式 Tmax=α×ln(tanδpi)+β≦100(式中、αは-46.9~-60.4の範囲の係数を表し、βは+9.4~+27.7の範囲の係数を表す)を満たす、トーショナルダンパが記載されている。そして、このようなトーショナルダンパは、ダンパハブと慣性リングとの間に装着されるゴム部材の温度上昇を抑制することができるので、耐久性の向上したトーショナルダンパを提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-96455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載のトーショナルダンパであっても、その構造によっては、発熱によってゴムリングの温度が上昇してしまう可能性がある。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、発熱によるゴムリングの破損が極めて生じ難い構造を備えるトーショナルダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はTVDに熱エネルギーが付与された結果、発熱することは避けられないことを前提として、トーショナルダンパの構造に着目した。そして、発熱したとしてもゴムリングの温度が上昇し難いトーショナルダンパの構造について、鋭意検討を重ねた。
その結果、特定の構造を備えるトーショナルダンパは、ゴムリングの温度が上昇し難いことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の(i)~(iii)である。
(i)回転軸に固定され、前記回転軸を中心とする円周上に外周面を有するハブと、
前記回転軸を中心する円周上に、前記ハブの前記外周面よりも径が大きい内周面を有する環状の振動リングと、
前記ハブの前記外周面と前記振動リングの前記内周面との間に圧縮状態で存在し、EPDMを主成分とするゴム組成物からなり、表面温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.18以上であるゴムリングと、
を備え、
共振点追跡法に供した場合に、共振点での連続加振時における前記ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)と、ゴム嵌合幅(b)とが、
式(1) : Tmax≦-2.6b+173.5
式(2) : 20≦b
を満たす、トーショナルダンパ。
(ii)共振点追跡法に供した場合に、共振点での連続加振時における前記ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)と、ゴム嵌合幅(b)とが、
さらに、
式(3) : Tmax≧-2.6b+124
を満たす、上記(i)に記載のトーショナルダンパ。
(iii)前記式(2)が
式(2´) : 20≦b≦100
を満たす、上記(i)または(ii)に記載のトーショナルダンパ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発熱によるゴムリングの破損が極めて生じ難い構造を備えるトーショナルダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のトーショナルダンパの実施態様を例示した概略斜視図である。
図2図1に示したトーショナルダンパの概略断面斜視図である。
図3図1に示したトーショナルダンパの製造方法を説明するための概略断面斜視図である。
図4】共振点追跡法に供したトーショナルダンパの概略断面斜視図である。
図5】共振点追跡法を行った場合のゴムリングの表面温度の例を示すグラフである。
図6】嵌合幅(mm)とゴムリング表面到達最高温度(Tmax)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<トーショナルダンパの例示>
本発明について説明する。
本発明は、回転軸に固定され、前記回転軸を中心とする円周上に外周面を有するハブと、前記回転軸を中心する円周上に、前記ハブの前記外周面よりも径が大きい内周面を有する環状の振動リングと、前記ハブの前記外周面と前記振動リングの前記内周面との間に圧縮状態で存在し、EPDMを主成分とするゴム組成物からなり、表面温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.18以上であるゴムリングと、を備え、共振点追跡法に供した場合に、共振点での連続加振時における前記ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)と、ゴム嵌合幅(b)とが、式(1):Tmax≦-2.6b+173.5、式(2):20≦bを満たす、トーショナルダンパである。
このようなトーショナルダンパを、以下では「本発明のトーショナルダンパ」ともいう。
【0013】
初めに、本発明のトーショナルダンパを、図1図2を用いて説明する。
図1は、本発明のトーショナルダンパの実施態様を例示した概略斜視図であり、図2図1に示したトーショナルダンパの概略断面斜視図である。
【0014】
図1図2に例示する実施態様のトーショナルダンパ1は、車両等のエンジンのクランクシャフトの先端に取り付けて用いることができる。トーショナルダンパ1は、クランクシャフトの捩り共振を吸収し、また、エンジンの振動、騒音を抑制する機能を備える。さらに、クランクシャフトの回転をベルトを介して補器へ動力を伝達する駆動プーリー(クランクプーリー)としての役割をも果たす場合もある。
【0015】
トーショナルダンパ1はハブ3と、振動リング5と、ゴムリング7とを有する。
【0016】
ハブ3は、ボス部31、ステー部33およびリム部35からなる。
ボス部31は、ハブ3における径方向の中央部に設けられている。ボス部31がクランクシャフト(回転軸)の先端に固定され、ハブ3が回転軸Xを中心に回転駆動する。
ステー部33は、ボス部31から径方向に伸びている。
リム部35は、ステー部33の外周側に設けられている。リム部35は円筒状であり、リム部35の外周側にゴムリング7を介して振動リング5が連結される。
リム部35の外周面は、回転軸Xを中心とする円周上に存在している。
【0017】
ボス部31、ステー部33およびリム部35の各々は、鋳鉄等の金属材料等を原料として用いて成形することができる。
また、ボス部31、ステー部33およびリム部35の各々は、特に、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、自動車構造用熱間圧延鋼板等からなることが好ましい。片状黒鉛鋳鉄の例としては、FC100、FC150、FC200、FC250、FC300、FC350等を挙げることができる。球状黒鉛鋳鉄の例としては、FCD350-22、FCD350-22L、FCD400-18、FCD400-18L、FCD400-15、FCD450-10、FCD500-7、FCD600-3、FCD700-2、FCD800-2、FCD400-18A、FCD400-18AL、FCD400-15A、FCD500-7A、FCD600-3A等を挙げることができる。自動車構造用圧延鋼板の例としては、SAPH310、SAPH370、SAPH410、SAPH440等を挙げることができる。
【0018】
振動リング5は、ハブ3の径方向外側に配置されている。振動リング5の内周面はハブ3の外周面よりも径が大きい。この内周面は、クランクシャフト(回転軸X)を中心とする円周上に存在している。
また、振動リング5の外周面にベルトが掛かるプーリ溝51が設けられている。プーリ溝51は動力伝達用のプーリとして機能する。
【0019】
振動リング5は鋳鉄等の金属材料等を原料として用いて成形することができる。
また、振動リング5は片状黒鉛鋳鉄からなることが好ましい。片状黒鉛鋳鉄は振動を吸収する能力が優れており、耐摩耗性にも優れているためである。片状黒鉛鋳鉄の例としては、FC100、FC150、FC200、FC250、FC300、FC350等を挙げることができる。
【0020】
ゴムリング7は、ハブ3の外周面と、振動リング5の内周面との間隙部に挿入されている。ゴムリング7は車両等の走行中に発生するクランクシャフトの捩じれ振動を低減させて破損を防止したり、エンジン振動の騒音や振動を低減したりする役割を果たす。
【0021】
ゴムリング7は、エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)を主成分とし、その他に好ましくはカーボンブラックやプロセスオイルを含むゴム組成物を、例えば従来公知の方法によって円筒形等に加硫成形することによって得ることができる。
ゴム組成物は配合量としてEPDMを10~60質量以上含むことが好ましく、15~55質量%含むことがより好ましく、20~50質量%含むことがより好ましく、30~50質量%含むことがさらに好ましい。
また、EPDM100質量部に対してカーボンブラックが40~130質量部であることが好ましく、50~100質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。
ここでゴム組成物は、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、過酸化物、架橋剤等を含んでもよい。
【0022】
ゴムリング7は、表面温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.18以上であり、0.18~0.40であることが好ましく、0.19~0.35であることがより好ましく、0.20~0.28であることがさらに好ましい。
【0023】
ここで、表面温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)は、高周波振動試験機による共振点追跡法(固有振動数測定)によって測定して得られる値を意味するものとする。なお、共振点追跡法による測定は、以下の条件において行うものとする。
・加振振幅:±0.05deg
・加振時位相:-90deg
・雰囲気温度:23±3℃
・ゴム表面測定方法:非接触式表面温度計
【0024】
<製法>
このような本発明のトーショナルダンパを製造する方法は特に限定されない。
例えば次のような方法によって製造することができる。
初めに、図3に示すようなハブ30および振動リング50を用意し、ここへスプレー等の手段によってトルク向上液を塗布する。トルク向上液として、主としてシランカップリング剤をトルエン、キシレン等の炭化水素溶液(溶媒)に溶解させた溶液を用いることができる。トルク向上液はハブ30および振動リング50におけるゴムリング70と接触する部位、すなわち、振動リング50における内周面と、ハブ30のリム部の外周面に塗布することが好ましい。
そして、図3に示すように、ハブ30と振動リング50との隙間(間隙部80)へ、嵌合液を塗布したゴムリングを、プレス機等の圧入治具等を用いて圧入する。ここでゴムリング70の厚さよりも、間隙部80の隙間の幅の方が狭いことが好ましい。具体的にはゴムリング70の厚さ/隙間部80の隙間の幅が0.6~0.9程度であることが好ましい。
本発明のトーショナルダンパにおいてゴムリングは、ハブの外周面と振動リングの内周面との間に圧縮状態で存在する。
【0025】
<ゴムリングの温度に影響を与えるトーショナルダンパの構造の検討>
本発明者は、振動リング肉厚(a)、嵌合幅(b)、ゴム厚(c)、嵌合径(d)、ハブ嵌合部肉厚(e)が異なる様々な構造のトーショナルダンパを用意し、ゴムリングの温度への影響を検討した。
【0026】
ここで振動リング肉厚(a)は、図4に示すように、振動リング5の径方向(回転軸Xに垂直な方向)における厚さを意味する。図2に示した態様のように、振動リング5の径方向において振動リング肉厚(a)が一定ではない場合、無作為に選んだ10点において振動リング5の径方向の厚さを測定し、それらを平均して得た値を振動リング肉厚(a)とする。
【0027】
嵌合幅(b)は、図4に示すように、ハブ3のリム部35における回転軸X方向における長さを意味する。回転軸X方向において嵌合幅(b)が一定ではない場合、ハブ3のリム部35の回転軸X方向における最も長い部分の長さを嵌合幅(b)とする。
【0028】
ゴム厚(c)は、図4に示すように、ゴムリング7の径方向(回転軸Xに垂直な方向)における厚さを意味する。図2に示した態様のように、ゴムリング7の径方向においてゴム厚(c)が一定ではない場合、無作為に選んだ10点においてゴムリング7の径方向における厚さを測定し、それらを平均して得た値をゴム厚(c)とする。
【0029】
嵌合径(d)は、図4に示すように、ハブ3におけるリム部35の外周面の直径を意味する。また、嵌合径(d)はリム部35の外周面の直径(外径)のうち、最も短い径を意味するものとする。したがって、図2に示す態様のように、リム部35が回転軸X方向に対して蛇行している場合、その外周面における最も回転軸Xに近い点(図2の場合であれば回転軸X方向における中心点)における直径を意味するものとする。
【0030】
ハブ嵌合部肉厚(e)は、図4に示すように、ハブ3におけるリム部35の径方向(回転軸Xに垂直な方向)における厚さを意味する。ここでハブ嵌合部肉厚(e)は、リム部35におけるステー部33と結合している部分以外の厚さを意味する。また、図2に示した態様のように、回転軸Xに垂直な方向においてハブ嵌合部肉厚(e)が一定ではない場合、回転軸Xに垂直な方向において、無作為に選んだ10点においてリム部35の径方向における厚さ(ステー部33と結合している部分を除く)を測定し、それらを平均して得た値をハブ嵌合部肉厚(e)とする。
【0031】
本発明者は、図4に示した態様であって、振動リング肉厚(a)、嵌合幅(b)、ゴム厚(c)、嵌合径(d)、ハブ嵌合部肉厚(e)が異なる様々な構造のトーショナルダンパを用意し、各々のトーショナルダンパを前述の共振点追跡法に供し、その際のゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)を測定した。なお、共振点追跡法によるゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)測定は、以下の条件において行うものとする。
・加振振幅:±0.05deg
・加振時位相:-90deg
・試験時間:ゴムリングの表面温度がサチレートするまで
・雰囲気温度:23±3℃
・ゴム表面測定方法:非接触式表面温度計
【0032】
このような共振点追跡法を行いながら、トーショナルダンパのゴムリングの表面温度を非接触式表面温度計を用いて測定した。
測定結果の例を図5に示す。
図5に示すように、ゴムリングの表面温度(図5の縦軸)は試験開始から徐々に上昇し、30分程度が経過するとサチレートする。
サチレートしたときのゴムリングの表面温度を、その構造のトーショナルダンパにおけるゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)とした。
【0033】
本発明者は、上記のようにして、振動リング肉厚(a)、嵌合幅(b)、ゴム厚(c)、嵌合径(d)、ハブ嵌合部肉厚(e)が異なる様々な構造のトーショナルダンパについて共振点追跡法に供し、その際のゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)を測定した。
そして、ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)は、嵌合幅(b)に強く依存し、図6に示す領域において、ゴムリングの温度が上昇しないことを見出した。
その領域を式で表すと、以下の通りとなる。
式(1) : Tmax≦-2.6b+173.5
式(2) : 20≦b
【0034】
なお、図6におけるプロットは、上記の共振点追跡法を行って実測した嵌合幅(b、単位はmm)とゴムリングの表面到達最高温度(Tmax、単位は℃)との関係を示すデータである。そのデータを表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
図6に示すように、式(1)および式(2)で表される領域は、ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)が120℃よりも低くなる。ここで、本発明で用いるゴムリングは、EPDMを主成分とするゴム組成物からなり、表面温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.18以上であるゴムリングであるが、このようなゴムリングは表面到達最高温度(Tmax)が120℃以下であると破損し難い。
【0037】
そして、図6に示すプロットの位置から判断すると、式(3):Tmax≧-2.6b+124を満たす場合であれば、ゴムリングの表面到達最高温度(Tmax)は十分に低く、破損する恐れはないと考えられる。したがって、本発明のトーショナルダンパは、式(3)を満たすことが好ましい。
【0038】
また、嵌合幅(b)は式(2)より20mm以上であるが、25mm以上であることがより好ましい。
また、嵌合幅(b)は100mm以下であることが好ましく、80mm以下であることがより好ましく、60mm以下であることがより好ましく、40mm以下であることがより好ましく、35mm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
以上に詳述した本発明のトーショナルダンパは、発熱によるゴムリングの破損が極めて生じ難い。
従来、ゴムリングの材質を調整することでゴムリングの発熱を抑制する提案(例えば特許文献1に記載のトーショナルダンパ)は存在した。
しかし、本発明のように、トーショナルダンパの構造、具体的には、振動リングにおける回転軸X方向における長さ(嵌合幅)を調整することで、ゴムリングの発熱を抑制するという技術的思想は存在していなかった。
本発明は、当該技術的思想を示したうえで、さらにゴムリングの発熱を抑制することができる領域を具体的な数式で示したこと等において、当業者が容易に想到できる発明ではないと言える。
【符号の説明】
【0040】
1 トーショナルダンパ
3、30 ハブ
31 ボス部
33 ステー部
35 リム部
5、50 振動リング
51 プーリ溝
7、70 ゴムリング
X 回転軸
【0041】
この出願は、2019年12月20日に出願された日本出願特願2019-230165を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6