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特許7318020W含有高ニッケル三元正極材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】W含有高ニッケル三元正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230724BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230724BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230724BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 B
H01M4/36 E
C01G53/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021575053
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 CN2020099418
(87)【国際公開番号】W WO2021000868
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】201910590785.5
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521548870
【氏名又は名称】巴斯夫杉杉電池材料(寧郷)有限公司
【氏名又は名称原語表記】BASF SHANSHAN BATTERY MATERIALS (NINGXIANG) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 166, East Jinzhou Avenue, Jinzhou New District, Ningxiang Changsha, Hunan 410600, China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】柯 長軒
(72)【発明者】
【氏名】趙 雪敏
(72)【発明者】
【氏名】李 夢媛
(72)【発明者】
【氏名】何 宇雷
(72)【発明者】
【氏名】譚 欣欣
(72)【発明者】
【氏名】李 旭
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-114942(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109524642(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109888235(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がLiNiCoMn1-x-yであるW含有高ニッケル三元正極材料であって、
前記W含有高ニッケル三元正極材料は、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含み、前記単結晶形態粒子の内部に基本的にW元素が含まれず、前記球形態二次粒子にW元素がドープされ、
前記単結晶形態粒子は表面に形成された、W元素を含有する被覆層を有し、
前記Li Ni Co Mn 1-x-y の化学式において、1.00≦a≦1.16、0.7<x<1、0<y<0.3、0.002<b+c<0.01、b>0であることを特徴とするW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項2】
前記球形態二次粒子の粒径範囲は2.4~5.5μmであり、前記単結晶形態粒子の粒径範囲は1.0~5.5μmであり、前記W含有高ニッケル三元正極材料のメジアン径は3.0~5.5μmであることを特徴とする請求項1に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項3】
前記W含有高ニッケル三元正極材料における球形態二次粒子と単結晶形態粒子との質量配合比率は、原料におけるWを含有する前駆体BとWを含有しない前駆体Aとの配合比率により調整されることを特徴とする請求項1又は2に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項4】
前記前駆体Bと前駆体Aとの質量比は(0.05~19):1であることを特徴とする請求項3に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項5】
前記前駆体Bと前駆体Aとの質量比は(0.4~1.5):1であることを特徴とする請求項4に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項6】
少なくとも一部又は全部の高ニッケル三元正極材料の表面にタングステン酸リチウム層が被覆されることを特徴とする請求項1又は2に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項7】
MはZr、Mg、Ti、Al、Si、La、Ba、Sr、Nb、Cr、Mo、Ca、Y、In、Sn、Fのうちの一種又は複数種であり、前記W含有高ニッケル三元正極材料の比表面積は0.8±0.3m/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項8】
製造過程における元素損失を無視する前提で、前記球形態二次粒子におけるNiCoMnの元素モル比は、単結晶形態粒子におけるNiCoMnの元素モル比と一致することを特徴とする請求項1又は2に記載のW含有高ニッケル三元正極材料。
【請求項9】
(1) 可溶性ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を、製品分子式におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素のモル比に応じて混合して脱イオン水に溶解し、反応釜で撹拌し続け、アンモニア水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、共沈して前駆体Aを製造し得るステップと、
(2) 可溶性ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を、製品分子式におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素のモル比に応じて混合して脱イオン水に溶解する同時に、可溶性タングステン塩を添加し、それが十分に溶解した後に反応釜に移して撹拌し続け、アンモニア水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、共沈してタングステン元素を含有する前駆体Bを製造し得るステップと、
(3) 前駆体A、前駆体B、リチウムソース、ドープ元素Mを含有する化合物を混合し、均一に混合された材料を好気雰囲気下に置いて750~980℃の高温で高温焼結を一回行い、焼結後の材料をメジアン径が3.0~5.5μmとなるように粉砕し、化学式がLiNiCoMn1-x-yで、かつ球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含むW含有高ニッケル三元正極材料を得るステップとを含む製造方法であって、
前記LiNiCoMn1-x-yの化学式において、1.00≦a≦1.16、0.7<x<1、0<y<0.3、0.002<b+c<0.01、b>0であることを特徴とするW含有高ニッケル三元正極材料の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(2)において、可溶性タングステン塩は、メタタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸アンモニウムのうちの一種又は複数種を含み、前記可溶性タングステン塩におけるタングステン元素と、前駆体Bにおけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素の和とのモル比は(0.00025~0.00550):1であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(3)において、リチウムソースは、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム及びシュウ酸リチウムのうちの一種又は複数種であり、前記リチウムソースにおけるリチウム元素と、前駆体B、前駆体A、ドープ元素Mを含有する化合物における主要な金属元素の和とのモル比は(0.95~1.1):1であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(3)において、ドープ元素Mを含有する化合物はM元素の酸化物であり、前記M元素の酸化物は、ZrO、MgO、TiO、Al、SiO、La、BaO、SrO、Nb、Cr、MoO、CaO、Y、In、SnOのうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ステップ(3)において、温焼結の焼結時間は8~18hであり、酸素流量は20~60L/minであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の技術分野に属し、特に高ニッケル三元正極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー自動車は今日まで発展してきて、航続距離に対する要求が絶えず向上しているので、リチウム電池正極材料にとって、より高いニッケル含有量の材料を開発することは研究方向の一つである。高ニッケル正極材料の容量の優位性は非常に明らかであり、実際のグラム容量が約200mAh/gほどに達することができ、また高ニッケル材料はより低いCoの使用により、価格の面で一定の優位性を持つ。現在では安定、サイクルパフォーマンス等の面の制約要因により動力電池エネルギー貯蔵の分野で大規模な応用が展開されていないが、新たなドーピング被覆技術及び前駆体技術の発展に伴い、これらの弊害も徐々に補われる。
【0003】
高ニッケル正極材料は現在、二つの発展方向を有し、主に形態によって区別され、二次球形態粒子及び単結晶形態粒子に分けられ、現在、この二種類の形態の材料について成熟した製造方法があり、出願番号201811382498.7の中国特許文献では、高ニッケル二次粒子材料の製造方法を紹介し、二次球形態の高ニッケル正極材料を製造し得るようになり、二次球は高温サイクルが悪く、高温DCRの増長が速く、ガス発生等の要因の制約により、エネルギー貯蔵分野に多く応用され、動力分野の応用が少ない。出願番号201710883429.3の中国特許文献では、高ニッケル単結晶材料の製造方法を紹介し、単結晶形態の高ニッケル正極材料を製造し得る。単結晶はガス発生、サイクルなどの面でより高い優位性を有するが、容量が低いことはその最大の欠点であり、高ニッケル材料の電気自動車に対する高航続特性の優位性が低下する。この二種類の形態の高ニッケル正極材料のそれぞれは欠陥を有し、その主な技術的ボトルネックとなる。
【0004】
現在、上記二種類の形態の材料を組み合わせて使用するが(出願番号201410050211.6の中国特許文献を参照)、その中にW元素を含有せず、かつそれは一般的に物理的混合を採用し、二種類の形態の正極材料を直接的に混合して球形形態及び単結晶形態を同時に有する高ニッケル正極材料を取得し、この二種類の形態の材料の製造プロセスが異なり、例えば二種類の材料の製造条件、焼結温度、ドープ物質、被覆物質等がいずれも異なるため、さらに二種類の形態の材料の基本的なユニットセルパラメータの差異が大きく、このような差異は異なる電池体系を使用して調整し整合する必要があるので、簡単な物理的混合はその顕著な弊害を有する。簡単な物理的混合は、材料の容量及びサイクルパフォーマンスを効果的に改善することができなく、ガス発生、内部抵抗の増加が速い等の弊害を解決することもできなく、電池システムをよりよくマッチングすることができないが、単にその締固め密度を簡単に増大させることができる。したがって、簡単な物理的混合は、従来の高ニッケル材料に存在する問題を実質的に解決することができず、さらに裏目に出る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的問題としては、以上の背景技術に言及された不足及び欠陥を克服し、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子が共存するW含有高ニッケル三元正極材料を提供するとともに、前駆体及び焼結制度を制御することにより、一回焼結によって単結晶及び二次球の二種類の形態の高ニッケル正極材料を同時に生成する該高ニッケル正極材料を製造する方法も提供する。
【0006】
上記技術的問題を解決するために、本発明の提供する技術的解決手段は、化学式がLiNiCoMn1-x-yであるW含有高ニッケル三元正極材料であり、前記高ニッケル三元正極材料は、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含み、前記単結晶形態粒子の内部に基本的にW元素が含まれず(単結晶形態粒子の内部にW元素が含まれると、単結晶粒子を形成しにくく、二次球に成長しやすい)、前記球形態二次粒子にW元素がドープされる(一部の前駆体にW元素がドープされるため、Wは一次粒子の成長を制限しさらに二次球を生成するので、球形態二次粒子に必然的にW元素が含まれる)。
【0007】
上記高ニッケル三元正極材料は、好ましくは、前記球形態二次粒子の粒径範囲が2.4~5.5μmであり、前記単結晶形態粒子の粒径範囲は1.0~5.5μmである。好ましくは、前記高ニッケル三元正極材料のメジアン径は3.0~5.5μmである。本発明は小さいD50粒径粒子を採用し、容量作用を最大限に発揮する同時に、Wをドープし、後期にプロセス制御によりさらにW被覆層を形成することができ、さらにサイクルに有利である加えて、単結晶粒子がサイクルパフォーマンスを向上させることにも有利であるため、本発明は粒径、粒子構造の総合的な調整により、総合的性能の向上を実現することができる。
【0008】
上記高ニッケル三元正極材料は、好ましくは、前記高ニッケル三元正極材料における球形態二次粒子と単結晶形粒子との質量配合比率は、原料におけるWを含有する前駆体Bと、Wを含有しない前駆体Aとの配合比率により調整される。本発明は、Wを含有する前駆体Bと、Wを含有しない前駆体Aとの配合比率を制御することにより、最終的な高ニッケル正極材料における球形態二次粒子と単結晶形態粒子との配合比率を制御することができ、二種類の前駆体の比率は焼結後の完成品における球形態二次粒子と単結晶形態粒子との配合比率であり、二種類の形態の比率をより正確に制御することにより、理想的な形態及び性能の高ニッケル正極材料を得ることができる。より好ましくは、前記前駆体Bと前駆体Aとの質量比は(0.05~19):1である。最も好ましくは、前記前駆体Bと前駆体Aとの質量比は(0.4~1.5):1である。この場合に、得られた高ニッケル正極材料の容量及びサイクルパフォーマンスがより優れる。
【0009】
上記高ニッケル三元正極材料は、好ましくは、少なくとも一部又は全部の高ニッケル三元正極材料の表面にタングステン酸リチウム層が被覆される。タングステン酸リチウム層は、好ましくは高温焼結過程により、球形態二次粒子の内部部分のWが焼かれて形成されたものであり、一部が球形態二次粒子の表面にタングステン酸リチウム被覆層を形成し、一部が近傍の単結晶粒子の表面に単結晶を被覆するタングステン酸リチウム被覆層を形成する。
【0010】
上記高ニッケル三元正極材料は、好ましくは、前記LiNiCoMn1-x-yの分子式において、1.00≦a≦1.16、0.7<x<1、0<y<0.3、0.002<b+c<0.01であり、前記Mは、Zr、Mg、Ti、Al、Si、La、Ba、Sr、Nb、Cr、Mo、Ca、Y、In、Sn、Fのうちの一種又は複数種であり、前記高ニッケル三元正極材料の比表面積は0.8±0.3m/gである。
【0011】
上記高ニッケル三元正極材料は、好ましくは、製造過程における元素損失を無視する前提で、前記球形態二次粒子におけるNiCoMnの元素モル比は、単結晶形態粒子におけるNiCoMnの元素モル比と一致する。従来技術において、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を公開的に言及する部分があっても、二種類の粒子におけるNi含有量の質量分率又は原子比に差異が存在する可能性があり、これによって二種類の粒子が一組の電池体系でよくマッチングできないが、本発明において異なるミクロ粒子に含まれるニッケルの量が基本的に一致保持し、二種類の粒子を一組の電池体系によく共存させることができる。
【0012】
総技術的思想として、本発明は、高ニッケル三元正極材料の製造方法をさらに提供し、以下のステップを含む。
(1)可溶性ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を、製品分子式におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素のモル比に応じて混合して脱イオン水に溶解し、反応釜で撹拌し続け、アンモニア水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、共沈して前駆体Aを製造し得るステップ;
(2)可溶性ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を製品分子式におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素のモル比に応じて混合して脱イオン水に溶解する同時に、可溶性タングステン塩を添加し、それが十分に溶解した後に反応釜に移して撹拌し続け、アンモニア水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、共沈してタングステン元素を含有する前駆体Bを製造し得るステップ;
(3)前駆体A、前駆体B、リチウムソース、ドープ元素Mを含有する化合物を混合し、均一に混合された材料を好気雰囲気下に置いて高温焼結を行い(完璧な結晶型単結晶の生成温度であり、該温度で温度により前駆体粒子の大きさを制御することにより単結晶及び二次球の生成を制御する影響を無視することができる)、焼結後の材料をメジアン径が3.0~5.5μmとなるように粉砕し、分子式がLiNiCoMn1-x-yで、かつ球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含む高ニッケル三元正極材料を得る。
【0013】
従来の方法では、二次球又は単結晶を製造する時にWで粒子の粒径を制御することが少なく、主に焼結温度を調整することにより一次粒子の大きさを制御する。上記製造方法では、前駆体の製造段階で前駆体Aと前駆体Bをそれぞれ取得し、W含有の前駆体BにおけるWのイオン半径が大きく、ある程度で単結晶粒子の融合成長を抑制することができ、高温焼結過程でリチウムソースと反応して一次粒子が小さく、結晶型がより完璧な球形態二次粒子を形成することができ、Wがドープされていない前駆体Aは、高温焼結でリチウムソースと反応して単結晶形態に正常に成長し、このようなプロセス条件で製造されたW元素含有の高ニッケル三元正極材料は、ここで単結晶の一次粒子がより大きく、より良いサイクル優位性を有する一方、球形態二次粒子と単結晶形態粒子の粒径が近く、小粒子二次球に属し、その容量がより高く、全体として言えば、材料のサイクルパフォーマンス、容量及び締固め密度がいずれも優位性を保持する。本発明の製造方法では、高温焼結条件(完璧な結晶型単結晶の生成温度)で、単結晶製造の焼結温度を使用し、Wをドープした後に小さい一次粒子が凝集した小さい二次球を形成することができ、さらに部分的にWをドープし、部分的にWをドープしないことで、一回焼結で二種類の粒子を生成するという顕著な効果を奏し、かつ二種類形態の粒子の性能が優れて相補的である。
【0014】
上記製造方法は、好ましくは、前記ステップ(2)において、可溶性タングステン塩は、メタタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸アンモニウムのうちの一種又は複数種を含み、
前記可溶性タングステン塩におけるタングステン元素と、前駆体Bにおけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素の和とのモル比は(0.00025~0.00550):1である。
【0015】
上記製造方法は、好ましくは、前記ステップ(3)において、リチウムソースは、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム及びシュウ酸リチウムのうちの一種又は複数種であり、
前記リチウムソースにおけるリチウム元素と、前駆体B、前駆体A、ドープ元素Mを含有する化合物における主要な金属元素の和とのモル比は(0.95~1.1):1である。
【0016】
上記製造方法は、好ましくは、前記ステップ(3)において、ドープ元素Mを含有する化合物はM元素の水酸化物、リン酸塩、リン酸水素塩、酸化物、酸無水物のうちの一種又は複数種である。より好ましくは、前記ドープ元素Mを含有する化合物は、M元素の酸化物であり、前記M元素の酸化物は、ZrO、MgO、TiO、Al、SiO、La、BaO、SrO、Nb、Cr、MoO、CaO、Y、In、SnOのうちの少なくとも一種である。
【0017】
上記製造方法は、、好ましくは、前記ステップ(3)において、混合撹拌の速度は、2000~4000r/minであり、混合の時間は20~50minである。
【0018】
上記製造方法は、好ましくは、前記ステップ(3)において、高温焼結温度は750~980℃である。従来技術における球形態二次粒子は、焼結温度が一般的に単結晶粒子より低く、特に高ニッケル正極材料の分野でそうであるが、本発明は前駆体BにWをドープし、それが高温で依然として二次球粒子を形成することができるため、二次球形態の低い温度に制限されず、金属元素Mをドープする場合、750~980℃の高温で焼結することができ、金属イオンが二種類のニッケルコバルトマンガン酸リチウム形態材料におけるニッケル、コバルト、マンガンのサイトをより安定的に占め、より優れたドープ改質効果を奏することができる。
【0019】
上記製造方法は、好ましくは、前記ステップ(3)において、焼結時間は8~18hであり、酸素流量は20~60L/minである。本発明の前駆体とリチウムソースを正極材料として焼結する過程において、焼結時間と酸素流量を制御するメカニズムにより、Wがドープされた前駆体BにおけるWイオンを粒子内部から外へ拡散させることができ、ドープすると同時に均一に拡散したWは、粒子の融合成長を抑制することができ、焼結過程において一部のWイオンは、Wがドープされていない前駆体Aの表面まで拡散し、Wイオン半径が大きいためWがドープされていない前駆体の内部に拡散することができないため、Wがドープされていない前駆体に対して成長抑制効果がないが、Wがドープされていない前駆体の表面に一層の均一で安定したタングステン酸リチウム被覆層を形成することができ、材料のサイクルパフォーマンスのさらなる向上に寄与する。
【0020】
上記製造方法は、好ましくは、前記ステップ(3)において、高温焼結の回数は一回焼結である。まず二種類の前駆体を混合して同じ温度で一回焼結を行うことにより、二種類の形態を組み合わせた正極材料を形成することができ、かつ完全に同じ焼結条件及び雰囲気は、二種類形態の粒子のセルパラメータができるだけ一致することを最大限に保証することができ(二次球も高温焼結で得られ、結晶型がより完璧である)、プロセスコストが低く、プロセス安定性がより高い。
【0021】
一般的には、従来技術に比べて、本発明及び好ましい技術的解決手段の利点は主に以下のとおりである。
【0022】
1. 本発明は、化学反応中の動力学への制御により、一回焼結で二次球形態粒子と単結晶形態粒子を組み合わせた新型なW含有高ニッケル正極材料を取得し、同じ温度、雰囲気条件、同じ乾式ドーピング元素などの条件で焼結するため、製造された材料は二種類の形態の共存を保証すると同時に、二種類の形態の材料に同じ結晶構造、格子パラメータを最大限に具備させることができ、かつ高温焼結により形成された二次球は、一般的な二次球結晶相に比べてより完璧である。
【0023】
2. 本発明の高温焼結で形成された二次球粒子はより安定した結晶構造を有し、二次球粒子を利用して容量を向上させると同時に、サイクル過程においてリチウムイオンが脱離する時に結晶構造が明らかな相変化を生成しないことを保証することができ、サイクルパフォーマンスの向上に寄与する。
【0024】
3. 本発明で製造された高ニッケル正極材料は、高ニッケル二次球と高ニッケル単結晶材料の利点を兼ね備え、かつ二次球粒子と単結晶粒子が均一に分布し、流動性能が高く、単結晶粒子と二次球粒子の組み合わせによりそれがより高い締固め密度を有し、単結晶粒子の存在により、pH及び残留Liが低下し、全電池においてガス発生が低く、性能に優れ、同時に単結晶粒子の存在により常温及び高温のサイクルパフォーマンスに優れ、二次球粒子の存在により、容量が明らかに向上し、大きなイオン半径のタングステンは格子パラメータにおけるc値を大きくし、Liイオン脱離の速度を加速し、該材料の倍率性能に優れる。
【0025】
4. 本発明の高ニッケル三元正極材料の表面は、好ましい条件下でタングステン酸リチウム被覆層を生成し、これは電気化学的性能のさらなる向上に寄与し、また本発明の製造プロセスは一回焼結で被覆層を形成することを実現することができ、後続の被覆プロセスも除去される。
【0026】
5.本発明の製造方法は簡単で実行しやすく、操作しやすく、大幅に制御可能で、コストが低く、一回焼結により二次球粒子及び単結晶粒子の二種類の形態が共存する高ニッケル正極材料を同時に製造することができ、かつ該材料における二種類の形態の比率を制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の実施例又は従来技術における技術的解決手段をより明確に説明するために、以下に実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に紹介し、明らかに、以下に説明する図面は本発明のいくつかの実施例であり、当業者にとって、創造的労働をしない前提で、これらの図面に基づいて他の図面を取得することもできる。
【0028】
図1】本発明の実施例1で製造された高ニッケル三元正極材料の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】本発明の実施例1で製造された高ニッケル三元正極材料の粒径分布図である。
図3】本発明の実施例1で得られた高ニッケル三元正極材料の単結晶形態粒子の表面選択領域W元素のEDS図である。
図4】本発明の実施例1で製造された高ニッケル三元正極材料のXRDRietveld精密補正スペクトルである。
図5】比較例1で製造された二次球高ニッケル三元正極材料の走査型電子顕微鏡写真である。
図6】本発明の実施例1で製造された高ニッケル三元正極材料と比較例1で製造された高ニッケル三元正極材料のpH滴定曲線の比較図である。
図7】比較例2で製造された単結晶高ニッケル三元正極材料の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】比較例3で製造された単結晶高ニッケル三元正極材料の走査型電子顕微鏡写真である。
図9】比較例4の物理的混合により製造された高ニッケル三元正極材料の単結晶粒子の表面選択領域W元素のEDS図である。
図10】比較例1の走査型電子顕微鏡写真がレジェンドスケールに応じて得られた粒径分布図である。
図11】比較例2の走査型電子顕微鏡写真がレジェンドスケールに応じて得られた粒径分布図である。
図12】本発明の実施例2で製造された高ニッケル三元正極材料のXRDRietveld精密補正スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を理解しやすくするために、以下に明細書の図面及び好ましい実施例を参照しながら本発明をより全面的で詳しく説明するが、本発明の保護範囲は下記の具体的な実施例に限定されない。
【0030】
別の定義がない限り、以下に使用される全ての専門用語は当業者が一般的に理解する意味と同じである。本明細書で使用される専門用語は具体的な実施例を説明する目的だけであり、本発明の保護範囲を限定することを意図するものではない。
【0031】
特に説明しない限り、本発明に使用される様々な原材料、試薬、機器及び装置等はいずれも市場で購入するか又は従来方法で製造されることができる。
実施例1:
【0032】
本発明のW含有高ニッケル三元正極材料であって、その化学式がLi1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.10.0008Al0.006であり、該高ニッケル三元正極材料は球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含み、単結晶形態粒子の内部にW元素が基本的に含まれない一方、球形態二次粒子にW元素がドープされ、該高ニッケル三元正極材料はメジアン径が4.5μm、比表面積が0.68m/gである。
【0033】
本実施例のW含有高ニッケル三元正極材料の製造方法は以下のとおりである。
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液及び1mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、80ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0034】
(2) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、メタタングステン酸アンモニアを混合溶液に添加し、タングステン元素と混合溶液におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素の和とのモル比が0.0008:1であり、混合液でのWの濃度を0.004mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、80ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Wがドープされた前駆体Bを得る。
【0035】
(3) 前駆体B、前駆体A、LiOH及びAlを混合し、材料を3000r/minの速度で25min混合し、ここで前駆体Bと前駆体Aとの質量比は1:4であり、Al元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.6%を占め、Liと他の主要金属元素とのモル比は約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて一回高温焼結し、温度が890℃、酸素流量が40L/min、焼結時間が10hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出し、炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.5μmに制御し、球形態二次粒子と単結晶形態粒子との理論的質量比が1:4である高ニッケル三元正極材料Li1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.10.0008Al0.006を得る。
【0036】
本実施例1で製造された製品に対してFE-SEM走査型電子顕微鏡を行って、図1に示すように、本実施例で製造された高ニッケル正極材料は、球形態二次粒子と単結晶形態粒子が同時に存在し、二次球の球形度が均一であり、かつ相互に均一に分布し、高ニッケル三元正極材料における球形態二次粒子と単結晶形態粒子との質量配合比率は、原料におけるWを含有する前駆体BとWを含有しない前駆体Aとの配合比率により調整され、比率が約1:4、粉体締固め密度が3.58g/cm、メジアン粒径が4.5μm(図2参照)、比表面積が0.68m/g、pHが11.0である。球形態二次粒子の粒径範囲は2.4~5.5μm(図10参照)であり、単結晶形態粒子の粒径範囲は1.0~5.5μm(図11参照)である。図3に示すEDS分析により、後続の比較例の検出を合わせて分かるように、Wは主に全体として二次球粒子に分布する(内部ドープだけでなく二次球表面に被覆される)一方、単結晶粒子は表面のみにWを含有する被覆層を有し、内部にほとんどWドープがなく、これはWがその表面に分布する薄層被覆を証明し、さらにギップス自由エネルギーにより、タングステン酸リチウムが形成しやすいと判断されるので、W、Liを有する表面は必然的に優先的にタングステン酸リチウム層を形成する。Al元素は、単結晶及び二次球粒子の表面に均一に分布し、均一なドーピングを形成する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って図4に示すように、そのc値が14.1966、a値が2.8727、c値が明らかに増大し、c/aが明らかに増大するように取得し、Wがc値を効果的に大きくすると説明される。製造過程における元素損失を無視する前提で、球形態二次粒子におけるNiCoMnの元素モル比は、単結晶形態粒子におけるNiCoMnの元素モル比と一致し、二種類の形態の材料は同じ結晶構造及び格子パラメータを有する。
【0037】
本実施例で製造された二重形態高ニッケル三元正極材料を、金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
【0038】
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が205mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が93.2%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が98.6%であり、このような二重形態高ニッケル正極材料が容量、サイクルパフォーマンス及び倍率性能を効果的に向上させることができることが示される。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が97.3%であり、二重形態高ニッケル三元正極材料の高温サイクルパフォーマンスに優れると説明される。
実施例2:
【0039】
本発明のW含有高ニッケル三元正極材料であって、その化学式がLi1.004Ni0.88Co0.09Mn0.030.001Zr0.003であり、該高ニッケル三元正極材料は球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含み、単結晶形態粒子の内部にW元素が基本的に含まれない一方、球形態二次粒子にW元素がドープされ、該高ニッケル三元正極材料はメジアン径が4.2μm、比表面積が0.72m/gである。
【0040】
本実施例のW含有高ニッケル三元正極材料の製造方法は以下のとおりである。
【0041】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.88:0.09:0.03に応じて、0.88mol/Lの硫酸ニッケル、0.09mol/Lの硫酸コバルト及び0.03mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液及び1mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.8に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、70ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.8(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0042】
(2) Ni、Co、Mn元素のモル比0.88:0.09:0.03に応じて、0.88mol/Lの硫酸ニッケル、0.09mol/Lの硫酸コバルト及び0.03mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、メタタングステン酸アンモニアを混合溶液に添加し、タングステン元素と混合溶液におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素の和とのモル比が0.001:1であり、混合液でのWの濃度を0.002mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.8に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、70ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.8(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.6μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Wがドープされた前駆体Bを得る。
【0043】
(3) 前駆体B、前駆体A、LiOH及びZrOを混合し、材料を2000r/minの速度で30min混合し、ここで前駆体Bと前駆体Aとの質量比が1:1であり、Zr元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.3%を占め、Liと全ての他の主要金属元素とのモル比が約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて一回高温焼結し、温度が870℃、酸素流量が45L/min、焼結時間が14hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出す。炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.2μmに制御し、球形態二次粒子と単結晶形態粒子との理論的質量比が1:1である高ニッケル三元正極材料Li1.004Ni0.88Co0.09Mn0.030.001Zr0.003を得る。
【0044】
本実施例で製造された製品に対してFE-SEM走査型電子顕微鏡を行うことにより分かるように、本実施例で製造された高ニッケル正極材料は、球形態二次粒子と単結晶形態粒子が同時に存在し、二次球の球形度が均一であり、かつ互いに均一に分布し、高ニッケル三元正極材料における球形態二次粒子と単結晶形態粒子との質量配合比率は、原料におけるWを含有する前駆体BとWを含有しない前駆体Aとの配合比率により調整され、比率が約1:1、粉体締固め密度が3.62g/cm、メジアン径が4.2μm、比表面積が0.72m/g、pHが11.2である。球形態二次粒子の粒径範囲は2.4~5.5μmであり、単結晶形態粒子の粒径範囲は1.0~5.5μmある。EDS分析により、後続の比較例の検出を合わせて分かるように、Wは主に全体として二次球粒子に分布する(内部ドープだけでなく二次球表面に被覆される)一方、単結晶粒子は表面のみにWを含有する被覆層を有し、内部にほとんどWドープがなく、これはWがその表面に分布する薄層被覆を証明し、さらにギップス自由エネルギーにより、タングステン酸リチウムが形成しやすいと判断されるので、W、Liを有する表面は必然的に優先的にタングステン酸リチウム層を形成する。Zr元素は、単結晶及び二次球粒子の表面に均一に分布し、均一なドーピングを形成する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って図12に示すように、そのc値が14.1968、a値が2.8726、c値が明らかに増大し、c/aが明らかに増大するように取得し、Wがc値を効果的に大きくすると説明される。製造過程における元素損失を無視する前提で、球形態二次粒子におけるNiCoMnの元素モル比は、単結晶形態粒子におけるNiCoMnの元素モル比と一致し、二種類の形態の材料は同じ結晶構造及び格子パラメータを有する。
【0045】
本実施例で得られた二重形態高ニッケル三元正極材料を、金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が218mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が93.6%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が98.1%であり、このような二重形態高ニッケル正極材料が容量、サイクルパフォーマンス及び倍率性能を効果的に向上させることができると説明される。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が97.0%であり、二重形態高ニッケル三元正極材料の高温サイクルパフォーマンスに優れると示される。
実施例3:
【0046】
本発明のW含有高ニッケル三元正極材料であって、その化学式がLi1.0029Ni0.83Co0.11Mn0.060.0009La0.002であり、該高ニッケル三元正極材料は、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含み、単結晶形態粒子の内部にW元素が基本的に含まれない一方、球形態二次粒子にW元素がドープされ、該高ニッケル三元正極材料はメジアン径が5.0μm、比表面積が0.80m/gである。
【0047】
本実施例のW含有高ニッケル三元正極材料の製造方法は以下のとおりである。
【0048】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.83:0.11:0.06に応じて、0.83mol/Lの硫酸ニッケル、0.11mol/Lの硫酸コバルト及び0.06mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.5に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、75ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.5(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.5μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0049】
(2) Ni、Co、Mn元素のモル比0.83:0.11:0.06に応じて、0.83mol/Lの硫酸ニッケル、0.11mol/Lの硫酸コバルト及び0.06mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、メタタングステン酸アンモニアを混合溶液に添加し、タングステン元素と混合溶液におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素の和とのモル比が0.0009:1であり、混合液でのWの濃度を0.003mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.5に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、75ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.5(3.5g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.6μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Wがドープされた前駆体Bを得る。
【0050】
(3) 前駆体B、前駆体A、LiOH及びLaを混合し、材料を2000r/minの速度で30min混合し、ここで前駆体Bと前駆体Aとの質量比が3:7であり、La元素は、理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.2%を占め、Liと他の主要金属元素とのモル比が約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて一回高温焼結し、温度が880℃、酸素流量が40L/min、焼結時間が14hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出す。炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を5.0μmに制御し、球形態二次粒子と単結晶形態粒子との理論的質量比が3:7である高ニッケル三元正極材料Li1.0029Ni0.83Co0.11Mn0.060.0009La0.002を得る。
【0051】
FE-SEM走査型電子顕微鏡により分かるように、製造された高ニッケル三元正極材料は、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子が同時に存在し、二次球の球形度が均一であり、かつ互いに均一に分布し、比率が約3:7、粉体締固め密度が3.62g/cm、メジアン径が5.0μm、比表面積が0.80m/g、pHが11.1である。球形態二次粒子の粒径範囲は2.4~5.5μmであり、単結晶形態粒子の粒径範囲は1.0~5.5μmある。EDS分析により、後続の比較例の検出を合わせて分かるように、Wは主に全体として二次球粒子に分布する(内部ドープだけでなく二次球表面に被覆される)一方、単結晶粒子は表面のみにWを含有する被覆層を有し、内部にほとんどWドープがなく、これはWがその表面に分布する薄層被覆を証明し、さらにギップス自由エネルギーにより、タングステン酸リチウムが形成しやすいと判断されるので、W、Liを有する表面は必然的に優先的にタングステン酸リチウム層を形成する。La元素は、単結晶及び二次球粒子の表面に均一に分布し、均一なドーピングを形成する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って、そのc値が14.1972、a値が2.8725、c値が明らかに増大し、c/aが明らかに増大するように取得し、Wがc値を効果的に大きくすると説明される。製造過程における元素損失を無視する前提で、球形態二次粒子におけるNiCoMnの元素モル比は、単結晶形態粒子におけるNiCoMnの元素モル比と一致し、二種類の形態の材料は同じ結晶構造及び格子パラメータを有する。
【0052】
得られた二重形態高ニッケル三元正極材料を金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が213mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が94.6%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が98.2%であり、このような二重形態高ニッケル正極材料が容量、サイクルパフォーマンス及び倍率性能を効果的に向上させることができると示される。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が97.2%であり、二重形態高ニッケル三元正極材料の高温サイクルパフォーマンスに優れると説明される。
実施例4:
【0053】
本発明のW含有高ニッケル三元正極材料であって、その化学式がLi1.0042Ni0.92Co0.06Mn0.020.0012Ti0.003であり、該高ニッケル三元正極材料は球形態二次粒子及び単結晶形態粒子を同時に含み、単結晶形態粒子の内部にW元素が基本的に含まれない一方、球形態二次粒子にW元素がドープされ、該高ニッケル三元正極材料はメジアン径が3.8μm、比表面積が0.81m/gである。
【0054】
本実施例のW含有高ニッケル三元正極材料の製造方法は以下のとおりである。
【0055】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.92:0.06:0.02に応じて、0.92mol/Lの硫酸ニッケル、0.06mol/Lの硫酸コバルト及び0.02mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(4g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.9に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、60ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.9(4g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0056】
(2) Ni、Co、Mn元素のモル比0.92:0.06:0.02に応じて、0.92mol/Lの硫酸ニッケル、0.06mol/Lの硫酸コバルト及び0.02mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、メタタングステン酸アンモニアを混合溶液に添加し、タングステン元素と混合溶液におけるニッケル、コバルト、マンガンの三種類の元素の和とのモル比が0.0012:1であり、混合液でのWの濃度を0.003mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(4g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.9に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、60ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.9(4g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Wがドープされた前駆体Bを得る。
【0057】
(3) 前駆体B、前駆体A、LiOH及びTiOを混合し、材料を2500r/minの速度で30min混合し、ここで前駆体Bと前駆体Aとの質量比が2:3であり、Ti元素が理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.3%を占め、Liと他の主要金属元素とのモル比が約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて一回高温焼結し、温度が860℃、酸素流量が50L/min、焼結時間が12hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出す。炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を3.8μmに制御し、二次球と単結晶との理論的質量比が2:3である高ニッケル三元正極材料Li1.0042Ni0.92Co0.06Mn0.020.0012Ti0.003を得る。
【0058】
FE-SEM走査型電子顕微鏡により分かるように、製造された高ニッケル三元正極材料は、球形態二次粒子及び単結晶形態粒子が同時に存在し、二次球の球形度が均一であり、かつ互いに均一に分布し、比率が約2:3、粉体締固め密度が3.63g/cm、メジアン径が3.8μm、比表面積が0.81m/g、pHが11.6である。球形態二次粒子の粒径範囲は2.4~5.5μmであり、単結晶形態粒子の粒径範囲は1.0~5.5μmある。EDS分析により、後続の比較例の検出を合わせて分かるように、Wは主に全体として二次球粒子に分布する(内部ドープだけでなく二次球表面に被覆される)一方、単結晶粒子は表面のみにWを含有する被覆層を有し、内部にほとんどWドープがなく、これはWがその表面に分布する薄層被覆を証明し、さらにギップス自由エネルギーにより、タングステン酸リチウムが形成しやすいと判断されるので、W、Liを有する表面は必然的に優先的にタングステン酸リチウム層を形成する。Ti元素は、単結晶及び二次球粒子の表面に均一に分布し、均一なドーピングを形成する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って、そのc値が14.1952、a値が2.8726、c値が増大し、c/aが増大するように取得し、Wがc値を効果的に大きくすると説明される。製造過程における元素損失を無視する前提で、球形態二次粒子におけるNiCoMnの元素モル比は、単結晶形態粒子におけるNiCoMnの元素モル比と一致し、二種類の形態の材料は同じ結晶構造及び格子パラメータを有する。
【0059】
得られた二重形態高ニッケル三元正極材料を金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が223mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が93.2%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が97.9%である。このような二重形態高ニッケル正極材料は容量、サイクルパフォーマンス及び倍率性能を効果的に向上させることができると説明される。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が96.5%であり、二重形態高ニッケル三元正極材料の高温サイクルパフォーマンスに優れると説明される。
比較例1:
【0060】
比較例1では、タングステンがドープされた前駆体のみにより製造された高ニッケル二次球三元正極材料は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに金属元素W、Alがドープされて形成され、その分子式がLi1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.10.0008Al0.006、その製造方法が以下のステップを含む。
【0061】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、メタタングステン酸アンモニアを混合溶液に添加し、混合液でのWの濃度を0.0008mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を900rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、75ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Wがドープされた前駆体Bを得る。
【0062】
(2) 前駆体B、LiOH及びAlを混合し、材料を2500r/minの速度で25min混合し、ここでAl元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.6%を占め、Liと他の主要金属元素とのモル比が約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて焼結し、温度が890℃、酸素流量が50L/min、焼結時間が12hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出す。炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.5μmに制御し、二次球の高ニッケル三元正極材料Li1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.10.0008Al0.006を得る。
【0063】
比較例1は実施例1の原料成分と基本的に同じであるが、Wがドープされた前駆体Bのみについて配合して焼結し、FE-SEM走査型電子顕微鏡により図1及び図5に示すように、比較例1で製造された高ニッケル三元正極材料はいずれも均一な二次球形態であり、実施例1における単結晶及び二次球の二種類の形態が共存することと異なり、その粉体締固め密度が3.36g/cmであり、ミックスアンドマッチエフェクトを欠くため、締固め密度は実施例1よりも低下し、メジアン径が4.5μm、比表面積が0.62m/g、pHが11.3である。EDS分析により、W元素は二次球粒子に均一に分布する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って、そのc値が14.1982、a値が2.8725、c値が増大し、c/aが増大するように取得し、Wがc値を効果的に大きくすると説明される。
【0064】
実施例1及び比較例1で得られた高ニッケル三元正極材料に対してpH滴定を行い、滴定曲線が図6に示すように、比較例1で単純にWがドープされた前駆体であり、焼き出された二次球高ニッケル三元正極材料については、滴定に消費された塩酸の体積がより高く、すなわち対応する材料における残留Liがより高い一方、実施例1の材料の残留Liがより低いと説明される。
【0065】
得られた二次球高ニッケル三元正極材料を金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が208mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が95.8%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が93.8%であり、タングステンがドープされた二次球が良い倍率性能を有するとともに、実施例1に比べて高い容量を有し、これも小粒子二次球の特徴の一つであるが、常温のサイクルパフォーマンスが低いと説明される。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が90.6%であり、実施例1のデータに比べて、単純に二次球形態の高温サイクルパフォーマンスが不足すると説明される。
比較例2:
【0066】
本比較例2で製造されたWを含有しない正極材料は、その分子式がLi1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.1Al0.006であり、その製造方法が以下のステップを含む。
【0067】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を900rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、75ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0068】
(2) 前駆体A、LiOH及びAlを混合し、材料を2500r/minの速度で25min混合し、ここでAl元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.6%を占め、Liとすべての他の主要金属元素とのモル比が約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて焼結し、温度が890℃、酸素流量が50L/min、焼結時間が12hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出す。炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.5μmに制御し、単結晶粒子の高ニッケル三元正極材料Li1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.1Al0.006を得る。
【0069】
比較例2は実施例1の製品の化学式に比べて、Wを含有しない点を除いて同じであり、FE-SEM走査型電子顕微鏡により図7に示すように、比較例2で製造された高ニッケル三元正極材料は、いずれも均一な単結晶粒子形態であり、実施例1における単結晶二次球の二種類の形態が共存することと異なり、W元素が二次球形態を形成することにおける重要な役割と示され、粉体締固め密度が3.68g/cmであり、単純な単結晶粒子締固め密度がより高いと示され、組み合わせた後に二次球の締固め密度を向上させ改善することに寄与し、メジアン径が4.5μm、比表面積が0.75m/g、pHが11である。EDS分析により、Al元素は単結晶粒子に均一に分布する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って、そのc値が14.1941、a値が2.8726であり、c値が実施例1に比べて小さくなり、c/aが小さくなるように取得し、Wを含有しないとc値を効果的に大きくすることができないと説明される。
【0070】
得られた単結晶高ニッケル三元正極材料を金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が203mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が92.3%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が95.8%である。倍率性能が顕著に向上せず、容量が低いが、常温サイクル性能がよく、高ニッケル単結晶正極材料の特徴を有し、比較例1における二次球より優れる。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が94.1%であり、単結晶の高温サイクルパフォーマンスがよく、高ニッケル単結晶正極材料の特徴を有し、比較例1における二次球より優れる。しかし、高温サイクルパフォーマンスは実施例1に比べていずれも悪く、実施例1が二種類の前駆体で共に焼結して形成された表面W被覆層も重要な役割を有すると説明される。
比較例3:
【0071】
本比較例3の高ニッケル三元正極材料は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに金属元素Mo、Alがドープされて形成され、その分子式がLi1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.1Mo0.0008Al0.006に近似的に表現され、その製造方法が以下のステップを含む。
【0072】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lのニッケル、0.1mol/Lのコバルト及び0.1mol/Lのマンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液及び1mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、80ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0073】
(2) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、モリブデン酸アンモニウムを混合溶液に添加し、混合液でのMoの濃度を0.004mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、80ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Moがドープされた前駆体Bを得る。
【0074】
(3) 前駆体B、前駆体A、LiOH及びAlを混合し、材料を3000r/minの速度で25min混合し、ここで前駆体Bと前駆体Aとの質量比は1:4であり、Al元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.6%を占め、Liと他の主要金属元素とのモル比は約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて焼結し、温度が890℃、酸素流量が40L/min、焼結時間が10hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出し、炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.5μmに制御し、単結晶形態の高ニッケル三元正極材料Li1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.1Mo0.0008Al0.006を得る。
【0075】
比較例3は実施例1に比べて、同一の副族を使用し、かつイオン半径が近いMo元素でW元素を置換し、FE-SEM走査型電子顕微鏡により図8に示すように、比較例3で製造された高ニッケル三元正極材料は、いずれも均一な単結晶粒子形態であり、実施例1における単結晶、二次球の二種類の形態が共存することと異なり、W元素が二次球形態を形成することにおける重要な役割が示され、他の元素を置換してこのような形態の正極材料を得ることができなく、粉体締固め密度が3.65g/cm、メジアン径が4.5μm、比表面積が0.78m/g、pHが11である。EDS分析により、Al元素は単結晶粒子に均一に分布する。XRDデータに対してRietveld精密補正を行って、そのc値が14.1944、a値が2.8725であり、c値が実施例1に比べて小さくなり、c/aが小さくなるように取得し、Wを含有しないとc値を効果的に大きくすることができないと説明される。前駆体BにおけるW元素が置換された後に二種類の形態の正極材料を形成することができず、単純な単結晶形態であると説明される。
【0076】
得られた単結晶高ニッケル三元正極材料を金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が202.5mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が92.1%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が95.6%である。倍率性能が顕著に向上せず、容量が低いが、常温サイクルパフォーマンスに優れ、高ニッケル単結晶正極材料の特徴を有する。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が93.6%である。W元素が他の元素で置換された後、その電気化学的性能も単結晶形態材料の特性を保持すると説明される。
比較例4:
【0077】
本比較例の高ニッケル三元正極材料は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに金属元素W、Alがドープされて形成され、その分子式がLi1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.10.0008Al0.006に近似的に表現され、その製造方法が以下のステップを含む。
【0078】
(1) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製し、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液及び1mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、80ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、前駆体Aを得る。
【0079】
(2) Ni、Co、Mn元素のモル比0.8:0.1:0.1に応じて、0.8mol/Lの硫酸ニッケル、0.1mol/Lの硫酸コバルト及び0.1mol/Lの硫酸マンガンの混合溶液を調製してから、メタタングステン酸アンモニアを混合溶液に添加し、混合液でのWの濃度を0.004mol/Lにし、3mol/Lの水酸化ナトリウムを調製し、1mol/Lのアンモニア水溶液を準備し、まず水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液(3g/Lのアンモニア価を保持する)を用いてpHを11.6に制御し、回転速度を800rpmに保持し、流量をパラレルフロー制御する方式を採用し、80ml/minの流速で混合溶液を供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液及びアンモニア水溶液によりそのpHを11.6(3g/Lのアンモニア価を保持する)に安定させ、メジアン径が3.8μmとなるように結晶して制御し、得られた前駆体に対して洗浄、遠心、乾燥等の処理を行い、Wがドープされた前駆体Bを得る。
【0080】
(3) 前駆体A、LiOH及びAlを混合し、材料を3000r/minの速度で25min混合し、Al元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.6%を占め、Liとすべての他の主要金属元素とのモル比は約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて焼結し、温度が890℃、酸素流量が40L/min、焼結時間が10hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出し、炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.5μmに制御し、単結晶形態正極材料A-1を得る。
【0081】
(4) 前駆体B、LiOH及びAlを混合し、材料を3000r/minの速度で25min混合し、Al元素は理論的な正極材料におけるNi、Co、Mn金属元素の総モル量の0.6%を占め、Liとすべての他の主要金属元素とのモル比は約1:1であり、均一に混合された材料を酸素炉に入れて焼結し、温度が890℃、酸素流量が40L/min、焼結時間が10hであり、焼結が完了した後に雰囲気保護で自然冷却してから炉から取り出し、炉から出たニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料を恒温恒湿環境で粉砕機で粉砕し、粒径を4.5μmに制御し、二次球形態正極材料B-1を得る。
【0082】
(5) 得られた二種類の形態の正極材料をB-1:A-1質量比1:4に応じて物理的に均一に混合し、高ニッケル三元正極材料を得てその分子式がLi1.0068Ni0.8Co0.1Mn0.10.0008Al0.006である。
【0083】
EDSを用いて混合材料の単結晶粒子に対して表面選択EDSマッピングを行い、図9に示すように、単結晶粒子にW元素が発見されていない一方、実施例1における単結晶表面に対して表面選択EDSマッピングを行い、図3に示すように、W元素のピークが現れ、前駆体段階で混合焼結を行うことにより、二次球の内部に部分的に拡散されたW元素が単結晶材料の表面に一層の均一なタングステン含有被覆層を形成することができ、材料サイクルパフォーマンスの向上に寄与し、下記の電気化学的性能分析から証明することができる。
【0084】
物理的に混合して得られた三元正極材料を金属リチウムシートを負極とするボタン電池に製造して評価試験を行う。
(1)25℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で0.1C充電を行い、その容量が204mAh/gであり、次にそれぞれ0.2C/0.5C/1.0C/2.0C倍率の放電を行い、結果として2.0C/0.2Cの放電保持率が92.2%であると示され、1Cサイクルを60週間継続し、容量保持率が93.6%である。(2)50℃で、電圧区間が3.0~4.3Vである条件で60週間サイクルし、容量保持率が92.1%であり、それぞれ焼結した後、W元素は単結晶の表面に被覆補正を行うことができず、その容量が実施例1とわずか異なるが、倍率性能が低下し、かつサイクルパフォーマンスが実施例1より明らかに低くなると説明される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12