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特許7318211音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法
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  • 特許-音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/00 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
G10K15/00 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019007627
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020118747
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】新甫 友昂
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-080124(JP,A)
【文献】特開2004-317911(JP,A)
【文献】特開平07-312800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
G10K 15/00-15/12
G10L 13/00-13/10
G10L 15/00-17/26
G10L 19/00-19/26
G10L 21/00-21/18
G10L 25/00-25/93
G10L 99/00
H04R 3/00- 3/14
H04S 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置と、
送信信号を分割処理して送波時刻が順次異なる複数の小信号を生成する信号分割装置と、
伝搬路環境の計算装置と、
小信号長の修正計算を行う計算装置と、
インパルス応答の計算装置と、
畳み込み計算を行う計算装置と、
畳み込みデータの統合処理を行う処理装置と、
時間分割装置と、
重み付けスムージング計算を行う計算装置と、
音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件について、時間経過に伴い変化する変動条件のパラメータを設定する入力装置と
前記パラメータを用いて直接波及び反射波の伝搬経路を決定し、当該伝搬経路ごとにインパルス信号の応答を求める機能とを備え、
前記インパルス応答の計算装置は、前記伝搬経路の応答に基づいて前記小信号の送波時刻におけるインパルス応答を求める機能を備え、
前記畳み込み計算を行う計算装置は、前記小信号と、該小信号の送波時刻における前記インパルス応答との畳み込み計算を行って前記畳み込みデータを求める機能を備え、
前記処理装置は、すべての前記畳み込みデータを合わせた全畳み込みデータを生成する機能を備え、
前記時間分割装置は、前記全畳み込みデータに対し、設定されたサンプリング周波数に対応する単位時間に合わせて、時間軸方向に等間隔分割を行う機能を備え、
前記重み付けスムージング計算を行う計算装置は、前記時間軸方向の等間隔分割により生じた複数の時間領域ごとに、該時間領域に存在する前記小信号の受信信号の総エネルギーが等しくなるように代表点を定める機能と、前記時間領域の前記代表点を通る波形を計算し、該波形の計算結果を、送波器より送信された前記送信信号が受波器で受信されるときの受信信号を模擬したデータとして求める機能を備えたこと
を特徴とする音波伝搬シミュレーションシステム。
【請求項2】
電子計算機により、
音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件について、時間経過に伴い変化する変動条件のパラメータを設定するステップと、
前記パラメータを用いて直接波及び反射波の伝搬経路を決定し、当該伝搬経路ごとにインパルス信号の応答を求めるステップと、
送信信号を分割処理して送波時刻が順次異なる複数の小信号を生成するステップと、
前記伝搬経路の応答に基づいて前記小信号の送波時刻におけるインパルス応答を求めるステップと、
前記小信号と、該小信号の送波時刻における前記インパルス応答との畳み込み計算を行って畳み込みデータを求めるステップと、
すべての前記畳み込みデータを合わせた全畳み込みデータを生成するステップと、
前記全畳み込みデータに対し、設定されたサンプリング周波数に対応する単位時間に合わせて、時間軸方向に等間隔分割を行うステップと、
前記時間軸方向の等間隔分割により生じた複数の時間領域ごとに、該時間領域に存在する前記小信号の受信信号の総エネルギーが等しくなるように代表点を定めるステップと、
前記時間領域の前記代表点を通る波形を計算し、該波形の計算結果を、送波器より送信された前記送信信号が受波器で受信されるときの受信信号を模擬したデータとして求めるステップと、を実施すること
を特徴とする音波伝搬シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場における音波の伝搬の特性のシミュレーションを行う音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
或る音場(音響空間)にて、音源から発せられる音波が、受信位置でどのように受信されるかという音波の伝搬の特性を知るための音波伝搬シミュレーションの手法の一つとしては、インパルス応答を取得する手法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この手法は、電子計算機を用いて、音場を囲む境界の位置、音源位置、受音点の位置である受信位置などの情報を基に、幾何音響理論に基づく音線法や、鏡像法(虚像法)により、音源から発せられた音波が直接波や反射波として受信位置に到達するときの音波の経路である伝搬路を予測する。次に、電子計算機では、音源位置で発するインパルス信号が、それぞれの音波の伝搬路を経由して受信位置に到達するときの応答を求め、更に、各伝搬路に関する応答をまとめることで、インパルス応答を取得している。
【0004】
更に、取得されたインパルス応答は、音源より送信される送信信号の畳み込み計算に用いることで、その計算結果として、受信位置で受信される受信信号を模擬したデータを得ることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-159097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の音波伝搬シミュレーションの手法は、インパルス応答と、音源より送信される送信信号との畳み込み計算により、受信位置で受信される受信信号についてのデータを得る際、一つの送信信号に対しては、その送信信号全体に対して、一つのインパルス応答を使用した畳み込み計算が行われる。
【0007】
ところで、音源より送信される送信信号は、時間軸方向に或る長さを備えた音波である。
【0008】
従来の音波伝搬シミュレーションの手法は、音源が送信信号の送信を開始してから送信を終了するまでの間、音場における音源から受信位置に至る音波の伝搬路の環境に変化が生じない状況であれば、受信位置で受信される受信信号を良好に模擬したデータを得ることができる。
【0009】
したがって、従来の音波伝搬シミュレーションの手法は、送信信号の長さの時間が経過するときにも、音源の位置と受信位置は変位せず、音場の境界の境界条件は変化せず、音場にて音波を伝える媒体に流れの変化が生じない、という状況であれば、シミュレーションの結果は良好になる。
【0010】
ところが、実際の音場では、音波の伝搬路の環境に時間的な変化が生じることは多い。
【0011】
たとえば、音源となる送信局と、受信位置となる受信局のうち、少なくとも一方が移動体に搭載されている場合は、時間の経過とともに送信局と受信局との相対位置に変化が生じる場合がある。このような送信局と受信局の相対位置の変化は、音波の伝搬路の環境としては、伝搬路の距離の変化に繋がるため、たとえば、送信局から受信局へ直接到達する直接波であっても、ドップラー効果の影響が生じる。
【0012】
また、水中での音響通信の場合は、水面が、音波を反射する音場の境界になるが、この際、水面に波が生じていると、水面の位置が上下方向に変化することに伴い、音波の伝搬路における音波の反射位置が、時間の経過とともに変位する。この場合、音波の伝搬路の環境については、音場の境界となる水面における境界条件として、反射率、反射による位相変動量に変化が生じる。
【0013】
しかし、従来の音波伝搬シミュレーションの手法は、音場にて、前記のような音波の伝搬路の環境の時間的な変化が生じる場合であっても、その影響を受ける状態の受信信号の模擬は行われない、というのが実状である。
【0014】
そこで、本発明は、インパルス応答と送信信号との畳み込みにより受信信号を模擬したデータを得る処理に、音場における音波の伝搬路の環境の時間的な変化による影響を加えた処理を行うことができて、音場にて、音波の伝搬路の環境の時間的な変化による影響を受ける状況下での受信信号を模擬したデータを得ることができる、音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために、入力装置と、送信信号を分割処理して送波時刻が順次異なる複数の小信号を生成する信号分割装置と、伝搬路環境の計算装置と、小信号長の修正計算を行う計算装置と、インパルス応答の計算装置と、畳み込み計算を行う計算装置と、畳み込みデータの統合処理を行う処理装置と、時間分割装置と、重み付けスムージング計算を行う計算装置と、を備え、音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件について、時間経過に伴い変化する変動条件のパラメータが設定された状態にて、前記インパルス応答の計算装置は、前記小信号の送波時刻におけるインパルス応答を求める機能を備え、前記畳み込み計算を行う計算装置は、前記小信号と、該小信号の送波時刻における前記インパルス応答との畳み込み計算を行って前記畳み込みデータを求める機能を備え、前記処理装置は、すべての前記畳み込みデータを合わせた全畳み込みデータを生成する機能を備え、前記時間分割装置は、前記全畳み込みデータに対し、設定されたサンプリング周波数に対応する単位時間に合わせて、時間軸方向に等間隔分割を行う機能を備え、前記重み付けスムージング計算を行う計算装置は、前記時間軸方向の等間隔分割により生じた複数の時間領域ごとに、該時間領域に存在する前記小信号の受信信号の総エネルギーが等しくなるように代表点を定める機能と、前記時間領域の前記代表点を通る波形を計算し、該波形の計算結果を、送波器より送信された前記送信信号が受波器で受信されるときの受信信号を模擬したデータとして求める機能を備えた構成を有する音波伝搬シミュレーションシステムとする。
【0016】
また、電子計算機により、音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件について、時間経過に伴い変化する変動条件のパラメータが設定された状態にて、送信信号を分割処理して送波時刻が順次異なる複数の小信号を生成するステップと、前記小信号の送波時刻におけるインパルス応答を求めるステップと、前記小信号と、該小信号の送波時刻における前記インパルス応答との畳み込み計算を行って畳み込みデータを求めるステップと、すべての前記畳み込みデータを合わせた全畳み込みデータを生成するステップと、前記全畳み込みデータに対し、設定されたサンプリング周波数に対応する単位時間に合わせて、時間軸方向に等間隔分割を行うステップと、前記時間軸方向の等間隔分割により生じた複数の時間領域ごとに、該時間領域に存在する前記小信号の受信信号の総エネルギーが等しくなるように代表点を定めるステップと、前記時間領域の前記代表点を通る波形を計算し、該波形の計算結果を、送波器より送信された前記送信信号が受波器で受信されるときの受信信号を模擬したデータとして求めるステップと、を実施する音波伝搬シミュレーション方法とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法によれば、インパルス応答と送信信号との畳み込みにより受信信号を模擬したデータを得る処理に、音場における音波の伝搬路の環境の時間的な変化による影響を加えた処理を行うことができて、音場にて、音波の伝搬路の環境の時間的な変化による影響を受ける状況下での受信信号を模擬したデータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】音波伝搬シミュレーションシステムの実施形態を示す概略図である。
図2】音場の一例を示す概略図である。
図3】送信信号を分割して小信号を生成する処理を示す図である。
図4】小信号と、該小信号の送波時刻におけるインパルス応答との畳み込み計算の処理を示す図である。
図5】別の小信号と、該別の小信号の送波時刻におけるインパルス応答との畳み込み計算の処理を示す図である。
図6】すべての小信号に対する畳み込みデータを基に、受信信号を模擬したデータを生成する処理を示す図である。
図7図1の音波伝搬シミュレーションシステムを用いて実施する音波伝搬シミュレーション方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、音波伝搬シミュレーションシステムの実施形態を示す概略図である。図2は、シミュレーションの対象とする音場の一例を示す概略図である。図3は、送信信号を分割して小信号を生成する処理を示すもので、図3(a)は、送信信号の一例を示す図、図3(b)は、送信信号の分割処理により生成される小信号の例を示す図である。図4は、小信号と、該小信号の送波時刻におけるインパルス応答との畳み込み計算の処理を示すもので、図4(a)は、小信号の送波時刻におけるインパルス応答を示す図、図4(b)は、小信号と、図4(a)のインパルス応答との畳み込み計算によって得られる畳み込みデータを示す図である。図5は、別の小信号と、該別の小信号の送波時刻におけるインパルス応答との畳み込み計算の処理を示すもので、図5(a)は、別の小信号の送波時刻におけるインパルス応答を示す図、図5(b)は、別の小信号と、図5(a)のインパルス応答との畳み込み計算によって得られる畳み込みデータを示す図である。図6は、すべての小信号に対する畳み込みデータを基に、受信信号を模擬したデータを生成する処理を示すもので、図6(a)は、すべての小信号に対する畳み込みデータを合わせた全畳み込みデータを示す図、図6(b)は、全畳み込みデータに対してサンプリング周波数に対応する単位時間を設定した状態を示す図、図6(c)は、重み付けスムージング計算の結果として得られる受信信号を模擬したデータを示す図である。
【0021】
図7は、図1の音波伝搬シミュレーションシステムを用いて実施する音波伝搬シミュレーション方法を示すフロー図である。
【0022】
本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステムは、図1に符号1で示すもので、入力装置2と、信号分割装置3と、伝搬路環境の計算装置4と、後述する小信号長の修正計算を行う計算装置5と、小信号長の記録装置6と、インパルス応答の計算装置7と、畳み込み計算を行う計算装置8と、畳み込み計算の計算結果の記録装置9と、判定装置10と、畳み込みデータの統合処理を行う処理装置11と、時間分割装置12と、重み付けスムージング計算を行う計算装置13と出力装置14と、を備えた構成とされている。
【0023】
入力装置2は、図示しないオペレータが、音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件を設定する装置である。
【0024】
入力装置2で設定される計算条件は、図2に示すように、シミュレーションの対象となる音場15の空間を囲む境界16a,16b,16c,16d,16e,16fの位置、送波器17が送信する送信信号A(図3(a)参照)の周波数と振幅と信号長、送波器17および受波器18の指向特性と周波数特性、サンプリング周波数、などの固定条件のパラメータを含む。
【0025】
本実施形態では、音場15の形状は、たとえば、図2に示した如き直方体とされている。したがって、音場15の各境界16a,16b,16c,16d,16e,16fは、直方体を囲む四方の側面と、上面と下面になる。この各境界16a,16b,16c,16d,16e,16fの位置が設定されることで、音場15の形状と共に、音場15のサイズが定められる。
【0026】
なお、音場15の形状は、一般に、鏡像法、または、音線法により、インパルス応答を求める処理が適用可能とされている形状であれば、音場15の形状を直方体以外の形状に設定してもよいことは勿論である。
【0027】
また、入力装置2では、別の計算条件として、後述するように送信信号Aを分割処理して複数の小信号Bn(n=1,2,3,…)を生成する際の基準となる時間Δt(図3(b)参照)が設定される。この時間Δtは、設定値を小さくすればするほど、詳細なシミュレーションを行うことは可能になるが、計算量が増大する。よって、時間Δtは、固定条件として設定されるサンプリング周波数に対応する単位時間以上に設定することが好ましい。また、時間Δtは、後述する変動条件のパラメータの時間Δtごとの時間経過に伴う変化が、インパルス応答の計算に必要とされる伝搬路環境の変化に繋がるように設定すればよい。
【0028】
更に、入力装置2では、別の計算条件として、時間経過に伴い変化する計算条件である、音場15の各境界16a,16b,16c,16d,16e,16fにおける境界条件、音場15にて音波を伝える媒質の流れの方向と流速、媒質中における音速、送波器17の位置と速度、受波器18の位置と速度などが、変動条件のパラメータとして設定される。
【0029】
音場15の各境界16a,16b,16c,16d,16e,16fの境界条件は、音波の反射率と、各境界16a,16b,16c,16d,16e,16fで反射する音波に生じる位相変動量と、を含む。
【0030】
音場15として部屋やホール、建築物の内部空間を想定している場合は、各境界16a,16b,16c,16d,16e,16fには、四方の壁と天井と床の境界条件をそれぞれ設定すればよい。
【0031】
これに対し、たとえば、音場15で行われる音波の伝搬が、開けた海洋で行われる音響通信の音響信号の伝搬を想定している場合は、音場15の上側の境界16eには、海面の境界条件を設定し、音場15の下側の境界16fには、海底の境界条件を設定すればよい。この際、海面では、波などの影響による海面の上下の変動に伴い、ドップラー効果によって反射する音波に位相のずれが生じることがある。よって、海面の境界条件としては、たとえば、時間経過に伴う海面での反射率と位相変動量の変化を、統計的手法により求めて、その結果を用いるようにすればよい。
【0032】
また、音場15の四方の側面に対応する各境界16a,16b,16c,16dは、境界条件における反射率をゼロに設定すればよい。更に、港湾などで、送波器17の側方に岸壁や防波堤などの音波を反射する物体が存在する場合は、音場15の四方の側面に対応する各境界16a,16b,16c,16dには、その音波を反射する物体の反射率を備えた境界条件を設定すればよい。
【0033】
変動条件の各パラメータは、送波器17による送信信号Aの送信が開始される時刻t0を基準として、時刻t0からの経過時間tを変数とする関数として設定される。
【0034】
なお、時間経過に伴い変化する計算条件である変動条件は、変動条件として前記した各パラメータのうち、少なくとも一つに設定されていればよい。この場合、変動条件として設定されない残りのパラメータは、入力装置2に、固定条件として、定数により設定すればよい。
【0035】
また、入力装置2では、シミュレーションの対象となる音場15において音波の伝搬に影響を与えるパラメータであれば、例示した以外の固定条件、変動条件を設定してもよいことは勿論である。
【0036】
入力装置2は、設定された送信信号Aと、時間Δtの情報とを、信号分割装置3へ送る機能を備えている。また、入力装置2は、設定された変動条件のパラメータを表す関数を、計算装置4へ送る機能を備えている。更に、入力装置2は、設定された固定条件も、計算装置4へ送る機能を備えている。
【0037】
信号分割装置3は、入力装置2より送信信号Aと時間Δtの情報を受け取ると、図3(a)に示す如き送信信号Aを、送信信号Aの送信開始の時刻t0を基準として、時間Δtごとに分割処理して、図3(b)に示すように、複数に分割された信号(以下、小信号Bn(n=1,2,3,…)という)を生成する機能を備えている。なお、図3(a)(b)は、いずれも模式図である。
【0038】
これにより、小信号Bn(n=1,2,3,…)の送波時刻は、時刻t0からの経過時間tが、(n-1)・Δtの時点となる。また、各小信号Bnの信号長(以下、小信号長という)は、時間Δtに等しくなる。
【0039】
図3(b)は、一例として、信号分割装置3が、図3(a)に示した送信信号Aを、時間Δtごとに分割処理し、5つの小信号B1,B2,B3,B4,B5が生成された場合の例を示している。なお、図3(b)では、図示する便宜上、各小信号B1,B2,B3,B4,B5は、それぞれ、図形○、△、□、◇、×で示している。
【0040】
各小信号B1,B2,B3,B4,B5は、送信信号Aにおけるそれぞれ対応する期間の振幅(波形)が1つずつ割り当てられている。
【0041】
具体例として、たとえば、送信信号Aの信号長が10秒で、時間Δtが1秒に設定された場合は、信号分割装置3は、10個の小信号B1,B2,B3,…,B10を生成する。この場合、各小信号B1,B2,B3,…,B10は、送波時刻が、時刻t0からの経過時間が0秒、1秒、2秒、…、9秒の時点となり、それぞれの小信号長は、1秒となる。
【0042】
信号分割装置3は、送信信号Aの分割処理で生成した小信号Bnの送波時刻、振幅の情報Cを、計算装置4と、計算装置8へ送る機能を備えている。
【0043】
伝搬路環境の計算装置4は、小信号Bnの送波時刻でのインパルス応答の計算に必要とされる伝搬路環境を求める機能を備えている。
【0044】
そのため、計算装置4は、入力装置2より固定条件および変動条件の各パラメータを受け取る機能を備えている。
【0045】
また、計算装置4は、小信号Bnの送波時刻が、送信信号Aの送信開始の時刻t0からの経過時間tの値(t=(n-1)・Δt)として与えられると、変動条件の各パラメータを表す関数に、経過時間tを代入する計算処理を行って、小信号Bnの送波時刻での変動条件を算出する機能を備えている。これにより、変動条件の各パラメータは、小信号Bnの送波時刻での値が定まる。
【0046】
更に、計算装置4は、入力装置2より受け取った固定条件のパラメータと、小信号Bnの送波時刻について算出した変動条件のパラメータの結果とを基に、図2に示すように、音場15にて送波器17から受波器18に到達する音波の伝搬路として、直接波の伝搬路19と、境界で反射する反射波の伝搬路20a,20b,20cとを求める機能を備えている。この直接波と反射波の各伝搬路19,20a,20b,20cを求める手法は、鏡像法や音線法、その他、インパルス応答を測定する際の音波の伝搬路の取得に、従来用いられているか、または、従来提案されている手法を採用すればよい。なお、反射波の伝搬路は、通常、3本よりも多数存在するが、図2では、図示する便宜上、代表として、3本の反射波の伝搬路20a,20b,20cのみを示してある。
【0047】
計算装置4は、更に、前記のようにして伝搬路19,20a,20b,20cが求まると、固定条件および変動条件の各パラメータを用いて、小信号Bnの送波時刻に、送波器17の位置で発するインパルス信号が、それぞれの伝搬路19,20a,20b,20cを経て受波器18の位置に到達するときの到達時間と、振幅の応答を、伝搬路19,20a,20b,20c,20dごとに個別に求める機能を備えている。
【0048】
これにより、計算装置4は、伝搬路環境として、伝搬路19,20a,20b,20cの情報Dと、伝搬路19,20a,20b,20cごとに求めた応答の結果Eとを、求めることができる。
【0049】
計算装置4は、求めた伝搬路19,20a,20b,20cの情報Dを、計算装置5へ送る機能と、伝搬路19,20a,20b,20cごとに求めた応答の結果Eを、計算装置7へ送る機能を備えている。
【0050】
計算装置5は、ドップラー計算に基づき、小信号Bn(n=1,2,3…)が持つ小信号長の修正計算を行う機能を備えている。
【0051】
たとえば、送波器17から受波器18に至る伝搬路19,20a,20b,20cの距離が、時間の経過と共に小さくなるよう変化する場合は、ドップラー効果により波長は小さくなるので、受波器18に到達する時点の小信号Bnの小信号長は、元の送信信号Aの分割に用いた時間Δtよりも短くなる。
【0052】
これに対し、送波器17から受波器18に至る伝搬路19,20a,20b,20cの距離が、時間の経過と共に大きくなるよう変化する場合は、ドップラー効果により波長は大きくなるので、受波器18に到達する時点の小信号Bnの小信号長は、前記時間Δtよりも長くなる。
【0053】
そこで、計算装置5は、入力装置2で設定された変動条件の各パラメータのうち、送波器17と受波器18の間の距離の時間経過に伴う変化に関連するパラメータとして、たとえば、送波器17の位置と速度、受波器18の位置と速度の情報を受け取る機能を備えている。
【0054】
更に、計算装置5は、計算装置4より受け取った各伝搬路19,20a,20b,20cの情報Dを基に、各伝搬路19,20a,20b,20cについて、小信号Bnの送波時刻から、小信号Bnの送信時の小信号長である時間Δtが経過するまでの間に生じる距離の変化を求め、その時間Δt当たりの距離の変化量を基に、小信号Bnの小信号長の修正計算を行う機能を備えている。
【0055】
計算装置5は、得られた小信号Bnの小信号長の修正結果Fを、記録装置6へ送る機能を備えている。
【0056】
記録装置6は、計算装置5より受け取った小信号Bnの小信号長の修正結果Fを記録する機能を備えている。
【0057】
インパルス応答の計算装置7は、計算装置4より受け取る伝搬路19,20a,20b,20cごとの応答の結果Eを基に、図4(a)、図5(a)に示す如き、小信号Bnの送波時刻におけるインパルス応答を求める機能を備えている。なお、図4(a)に示すものは、送信信号Aの送波時刻に一致する小信号B1(図3(a)(b)参照)の送波時刻におけるインパルス応答の一例であり、図5(a)に示すものは、小信号B1の送波時刻から時間Δt後となる小信号B2(図3(a)(b)参照)の送波時刻におけるインパルス応答の一例である。
【0058】
計算装置7は、求めた小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答の情報Gを、計算装置8へ送る機能を備えている。
【0059】
計算装置8は、信号分割装置3より小信号Bnの送波時刻、振幅の情報Cを受け取る機能と、記録装置6より小信号Bnの小信号長の修正結果Fを読み出す機能と、計算装置7より、小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答の情報Gを受け取る機能と、を備えている。
【0060】
更に、計算装置8は、小信号Bnと、その小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答の畳み込み計算を行い、その計算結果に、更に小信号Bnの小信号長の修正結果を反映させることで、小信号Bnに対する畳み込みデータを生成する機能を備えている。
【0061】
たとえば、小信号B1(図3(b)参照)については、図4(a)に示したインパルス応答を用いた畳み込み計算を行うことで、図4(b)に示すような畳み込みデータが生成される。この畳み込みデータは、送波器17から、送信信号として小信号B1のみが、送波時刻が、時刻t0の時点で送信されたと仮定した場合に、受波器18が受け取る仮想の受信信号BX1となる。
【0062】
同様に、小信号B2(図3(b)参照)については、図5(a)に示したインパルス応答を用いた畳み込み計算を行うことで、図5(b)に示すような畳み込みデータが生成される。この畳み込みデータは、送波器17から、送信信号として小信号B2のみが、送波時刻が、時刻t0から時間Δtが経過した時点(t=Δt)で送信されたと仮定した場合に、受波器18が受け取る仮想の受信信号BX2となる。
【0063】
計算装置8は、得られた畳み込みデータHを、畳み込み計算結果の記録装置9へ送る機能を備えている。
【0064】
記録装置9は、計算装置8より受け取る畳み込みデータHを、記録する機能を備えている。
【0065】
判定装置10は、計算装置8による或る小信号Bn(n=1,2,3、…)に対する処理が終了すると、先ず、その小信号Bnの送波時刻を規定する、送信信号Aの送信開始の時刻t0からの経過時間tに、時間Δtを足して、時刻t0からの経過時間tを更新する処理(t=t+Δt)を行う機能を備えている。
【0066】
判定装置10は、次いで、更新後の経過時間tが、送信信号Aの信号長未満であるか否かの判定を行う機能を備えている。
【0067】
判定装置10は、更新後の経過時間tが送信信号Aの信号長未満であると判定される場合は、その判定結果Iを、更新後の経過時間tの情報と共に、計算装置4と計算装置5へ送る。
【0068】
計算装置4は、判定装置10より判定結果Iを受け取ると、送信信号Aの送信開始の時刻t0から、更新された経過時間tの時点が送波時刻となる小信号Bnを対象として、その小信号Bnの送波時刻でのインパルス応答の計算に必要とされる伝搬路環境を求める処理を再開する機能を備えている。また、計算装置5は、判定装置10より判定結果Iを受け取ると、ドップラー計算に基づき、時刻t0から更新された経過時間tの時点が送波時刻となる小信号Bn(n=1,2,3…)が持つ小信号長の修正計算を再開する機能を備えている。
【0069】
一方、更新後の経過時間tが送信信号Aの信号長未満ではないと判定される場合は、判定装置10は、その判定結果Jを、処理装置11へ送る機能を備えている。
【0070】
このように、更新後の経過時間tが送信信号Aの信号長未満ではないと判定される場合は、時刻t0からの経過時間が、送信信号Aの信号長に達したことになる。そのため、この場合は、送信信号Aの分割処理によって生成したすべての小信号Bnについて、各小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答を用いた畳み込み計算が行われて、生成した畳み込みデータHが、記録装置9に記録されたことになる。
【0071】
そこで、処理装置11は、判定装置10より判定結果Jを受け取ると、畳み込みデータの統合処理として、記録装置9に記録されているすべての小信号Bnに関する畳み込みデータHを読み出して、図6(a)に示すように、すべての畳み込みデータHを合わせた全畳み込みデータKを生成する機能を備えている。なお、図6(a)は、図が煩雑になることを避けるために、小信号B1,B2,B3に対応する仮想の受信信号BX1,BX2,BX3のみを示している。
【0072】
処理装置11は、生成した全畳み込みデータKを、時間分割装置へ送る機能を備えている。
【0073】
時間分割装置12は、処理装置11より全畳み込みデータKを受け取ると、図6(b)に示すように、全畳み込みデータKに対し、入力装置2で設定されたサンプリング周波数に対応する単位時間(サンプリング周期)に合わせて、時間軸方向に等間隔分割を行う機能を備えている。時間分割装置12による時間軸方向の分割処理により生じた複数の領域は、以下、時間領域Lという。
【0074】
重み付けスムージング計算を行う計算装置13は、時間分割装置12で分割された時間領域Lごとに、その時間領域Lに存在する小信号Bnの受信信号BXn(n=1,2,3、…)の総エネルギーが等しくなるように、図6(c)に示すように、それぞれの時間領域L内について、図形●で示す代表点を1つ計算する機能を備えている。
【0075】
なお、図6(b)では、小信号Bnの受信信号BXn(n=1,2,3、…)は、便宜的に図形で示しているが、実際には、小信号Bnと同様の時間Δtに対応する小信号長、または、計算装置5で修正計算された小信号Bnの小信号長を有している。そのため、小信号Bnの受信信号は、隣接する時間領域Lに跨るものが多く存在する。
【0076】
そこで、計算装置13は、記録装置6に記録されている小信号Bnの小信号長の修正結果を読み出し、その上で、隣接する時間領域Lに跨る小信号Bnの受信信号については、計算装置13は、それぞれの時間領域Lに含まれている時間の長さの割合を重み付けとし、各時間領域Lにエネルギーを分配する処理を行う機能を備えている。
【0077】
更に、計算装置13は、前記のようにして各時間領域L内の代表点が1つずつ定まると、各代表点を通る波形を計算し、その波形の計算結果を、送波器17(図2参照)より送信された送信信号Aが受波器18(図2参照)で受信されるときの受信信号を模擬したデータMとして求める機能を備えている。
【0078】
計算装置13は、受信信号を模擬したデータMを出力装置14へ送る機能を、更に備えている。
【0079】
出力装置14は、計算装置13より受け取る受信信号を模擬したデータMを、図示しない表示器や、受信信号を模擬したデータMを使用する他の計算装置などの、データMの需要部へ出力する機能を備えている。
【0080】
なお、入力装置2、信号分割装置3、計算装置4、計算装置5、記録装置6、計算装置7、計算装置8、記録装置9、判定装置10、処理装置11、時間分割装置12、計算装置13、出力装置14は、全部が一つの電子計算機に機能として実装されていてもよいし、あるいは、任意の数ずつ、任意の組み合わせで、複数の電子計算機に分散して実装されていてもよい。
【0081】
以上の構成としてある本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステム1は、図7に示す如き処理手順で、音波伝搬シミュレーション方法の実施に使用する。なお、以下の説明では、本実施形態の音波伝搬シミュレーションシステム1は、単に、本実施形態のシミュレーションシステム1という。
【0082】
音波伝搬シミュレーション方法を開始する場合は、図示しないオペレータが、入力装置2を用いて、音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件を設定する(ステップSA1)。設定される計算条件は、固定条件のパラメータ、送信信号Aを分割処理して複数の小信号Bn(n=1,2,3,…)を生成する際の基準となる時間Δt、および、変動条件のパラメータを含む。
【0083】
このように、入力装置2を用いた計算条件の設定が行われると、本実施形態のシミュレーションシステム1では、先ず、信号分割装置3が、ステップSA1で設定された計算条件を基に、送信信号Aを時間Δtごとに分割して小信号Bnを生成する処理を行う(ステップSA2)。
【0084】
次に、本実施形態のシミュレーションシステム1では、処理開始時の初期状態として、送信信号Aの送信開始の時刻t0からの経過時間tを、先ず、0秒に設定する(t=0)(ステップSA3)。
【0085】
この状態で、本実施形態のシミュレーションシステム1では、計算装置4が、小信号Bnの送波時刻でのインパルス応答の計算に必要とされる伝搬路環境を求める処理を行う(ステップSA4)。
【0086】
次いで、計算装置5が、小信号Bnが持つ小信号長の修正計算の処理を行う(ステップSA5)。この小信号Bnの小信号長の修正結果Fは、記録装置6に記録される。
【0087】
このように、小信号Bnと、伝搬路環境と、小信号Bnの小信号長の修正結果Fが求まると、本実施形態のシミュレーションシステム1は、計算装置7にて、小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答を求める処理を行う(ステップSA6)。
【0088】
次いで、計算装置8が、ステップSA2で得られた小信号Bnと、ステップSA6で得られた、該小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答との畳み込み計算を行って、畳み込みデータHを得る処理を行う(ステップSA7)。この畳み込みデータHは、記録装置9に記録される。
【0089】
本実施形態のシミュレーションシステム1では、ステップSA7が終了すると、判定装置10が、小信号Bnの送波時刻を規定していた送信信号Aの送信開始の時刻t0からの経過時間tに、時間Δtを足して、時刻t0からの経過時間tを更新する処理(t=t+Δt)を行う(ステップSA8)。
【0090】
次いで、判定装置10は、更新後の経過時間tが、送信信号Aの信号長未満であるか否かを判定する処理を行う(ステップSA9)。
【0091】
ステップSA9の判定処理にて、更新後の経過時間tが送信信号Aの信号長未満であると判定される場合は、判定装置10は、計算装置4と計算装置5へ判定結果Iを送るため、本実施形態のシミュレーションシステム1では、更新後の経過時間tに基づいて、ステップSA4からの処理が再度開始される。
【0092】
したがって、本実施形態のシミュレーションシステム1は、ステップSA9の判定処理にて、更新後の経過時間tが送信信号Aの信号長未満ではないと判定されるまでは、ステップSA4からステップSA9の処理ループを繰り返し実施する。これにより、本実施形態のシミュレーションシステム1は、ステップSA2にて、送波時刻が時間Δtずつずれた状態で生成されたすべての小信号Bnについて、送波時刻の順序に従って、ステップSA4からステップSA7までの処理を順次実施することができる。その結果、本実施形態のシミュレーションシステム1では、すべての小信号Bnについて、小信号Bnと、該小信号Bnの送信時刻におけるインパルス応答との畳み込み計算を行い、畳み込みデータHを得ることができる。
【0093】
一方、ステップSA9の判定処理にて、更新後の経過時間tが送信信号Aの信号長未満ではないと判定される場合は、判定装置10は、処理装置11へ判定結果Jを送る。
【0094】
処理装置11は、判定結果Jを受け取ると、すべての小信号Bnに関する畳み込みデータHを合わせて、全畳み込みデータKを生成する、畳み込みデータの統合処理を行う(ステップSA10)。
【0095】
ステップSA10にて、全畳み込みデータKが生成すると、本実施形態のシミュレーションシステム1では、時間分割装置12が、全畳み込みデータKに対し、入力装置2で設定されたサンプリング周波数に対応する単位時間に合わせて、時間軸方向に等間隔分割を行う(ステップSA11)。
【0096】
次いで、本実施形態のシミュレーションシステム1では、計算装置13が、分割された時間領域Lごとに存在する小信号Bnの受信信号BXn(n=1,2,3、…)の情報を基に、それぞれの時間領域L内で代表点を1つずつ求めると共に、各代表点を通る波形を計算する重み付けスムージング計算を行って、送波器17より送信された送信信号Aが受波器18で受信されるときの受信信号を模擬したデータMを求める(ステップSA12)。
【0097】
その後、本実施形態のシミュレーションシステム1では、出力装置14が、ステップSA12で得た、受信信号を模擬したデータMを、その需要部へ出力する処理を行う(ステップSA13)。
【0098】
このように、本実施形態のシミュレーションシステム1によれば、前記したステップSA1からステップSA13を備える音波伝搬シミュレーション方法を実施することができる。
【0099】
これにより、本実施形態のシミュレーションシステム1は、インパルス応答と送信信号との畳み込みにより受信信号を模擬したデータを得る処理に、音場15における音波の伝搬路19,20a,20b,20cの環境の時間的な変化による影響を加えた処理を行うことができて、音場15にて、音波の伝搬路19,20a,20b,20cの環境の時間的な変化による影響を受ける状況下での受信信号を模擬したデータMを得ることができる。
【0100】
したがって、本実施形態のシミュレーションシステム1と、これを用いて行う音波伝搬シミュレーション方法によれば、たとえば、水中の移動体と固定局、あるいは水中の移動体同士で音響通信を行う場合に、送波器17と受波器18の相対位置が時間経過と共に変化することで生じるドップラー効果による音波の位相の変動の影響、音波が反射する境界となる水面が、波などの影響によって上下に変動する場合に生じるドップラー効果による反射波の位相の変動の影響、更には、海流の変動のように、音場15における音波を伝える媒体の流れが変化することに起因する影響、を踏まえて、受信信号を模擬したデータMを得ることができる。
【0101】
そのため、本実施形態のシミュレーションシステム1と、これを用いて行う音波伝搬シミュレーション方法は、音波伝搬シミュレーションを行うために必要とされる計算条件に、時間経過に伴い変化する変動条件のパラメータが存在する音場15を対象として、音波伝搬シミュレーションの結果として受信信号を模擬したデータMを取得する際に、取得したデータMについての精度の向上化を図る効果も期待できる。
【0102】
なお、本開示の音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法は、前記実施形態にのみ限定されるものではない。
【0103】
実施形態では、入力装置2で、送信信号Aを分割処理して複数の小信号Bn(n=1,2,3,…)を生成する際の基準となる時間Δtが設定される例を示したが、入力装置2では、送信信号Aを分割処理して小信号Bnを生成する場合の分割数を設定するようにしてもよい。この場合は、本開示の音波伝搬シミュレーションシステム、および、音波伝搬シミュレーション方法では、送信信号Aの信号長を設定された分割数で割ることで、時間Δtの値を求めるようにすればよい。
【0104】
本開示の音波伝搬シミュレーションシステムは、空中や水中における音波や超音波の伝搬により、信号や情報の伝送、伝達を行う技術分野であれば、いかなる技術分野に適用してもよい。
【0105】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0106】
2 入力装置、3 信号分割装置、4 計算装置、5 計算装置、7 計算装置、8 計算装置、11 処理装置、12 時間分割装置、13 計算装置、A 送信信号、B1,B2,B3,B4,B5,Bn 小信号、H 畳み込みデータ、K 全畳み込みデータ
L 時間領域、M データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7