(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
A61M25/00 530
(21)【出願番号】P 2019060313
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山口 憲二郎
(72)【発明者】
【氏名】林 伸明
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-005974(JP,A)
【文献】特開2017-123928(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084274(WO,A1)
【文献】特開2018-015086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空に形成され
、血管内に通される長尺のシースを備え、
前記シースの遠位部の内腔は、
直線的に延在する第1ストレート部と、
該第1ストレート部よりも遠位側に設けられ
て一定の角度で傾斜する第1テーパ部と、
該第1テーパ部よりも遠位側に設けられ
て一定の角度で傾斜する第2テーパ部と、
該第2テーパ部よりも遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部と、を含み、
前記第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異な
り、
前記第2テーパ部は、前記シースの軸線に対して、前記第1テーパ部よりも小さい角度で傾斜していることを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
中空に形成され
、血管内に通される長尺のシースを備え、
前記シースの遠位部の内腔は、
直線的に延在する第1ストレート部と、
該第1ストレート部よりも遠位側に設けられ
て一定の角度で傾斜する第1テーパ部と、
該第1テーパ部よりも遠位側に設けられ
て一定の角度で傾斜する第2テーパ部と、
該第2テーパ部よりも遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部と、を含み、
前記第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異な
り、
前記第1テーパ部は、前記シースの軸線に対して、前記第2テーパ部よりも小さい角度で傾斜していることを特徴とするカテーテル。
【請求項3】
中空に形成された長尺のシース
と、
前記シースの内部に設けられ、複数のワイヤが前記シースの径方向内側と外側とに重なるように斜めに交差して形成されたワイヤ補強層と、を備え、
前記シースの遠位部の内腔は、
直線的に延在する第1ストレート部と、
該第1ストレート部よりも遠位側に設けられた第1テーパ部と、
該第1テーパ部よりも遠位側に設けられた第2テーパ部と、
該第2テーパ部
に対して境界部分を挟んで遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部と、を含み、
前記第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異な
り、
前記複数のワイヤにおける径方向内側と外側との重なり部分は、前記第2テーパ部と前記第2ストレート部との前記境界部分に対してずれて配設されていることを特徴とするカテーテル。
【請求項4】
中空に形成された長尺のシース
と、
前記シースの内部に設けられ、複数のワイヤが前記シースの径方向内側と外側とに重なるように斜めに交差して形成されたワイヤ補強層と、を備え、
前記シースの遠位部の内腔は、
直線的に延在する第1ストレート部と、
該第1ストレート部よりも遠位側に設けられた第1テーパ部と、
該第1テーパ部よりも遠位側に設けられた第2テーパ部と、
該第2テーパ部
に対して境界部分を挟んで遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部と、を含み、
前記第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異な
り、
前記複数のワイヤにおける径方向内側と外側との重なり部分は、前記第2テーパ部と前記第2ストレート部との前記境界部分の少なくとも一部に重なるように配設されていることを特徴とするカテーテル。
【請求項5】
前記シースの遠位部の内腔は、前記第2テーパ部と前記第2ストレート部との間に、第3テーパ部を更に含む請求項1から4のいずれか一項に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シースを備えるカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、肝細胞癌や転移性肝癌等の血管過多腫瘍や、動静脈奇形、子宮筋腫等の治療の際に、塞栓コイルが用いられることがあった。この塞栓コイルは、例えば、動脈瘤等の内部にシースを介して挿入されて、動脈瘤の内腔を埋めて血流を途絶させ、動脈瘤の破裂を防止するように機能する。また、シースの内部には、ガイドワイヤが挿入されることもあった。
【0003】
例えば、特許文献1には、筒状のシース(同文献には、マイクロカテーテルと記載。)内に塞栓コイルを通して、挿入ツールにより塞栓コイルを押し出して、塞栓コイルを動脈瘤内に展開する塞栓コイル展開システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の塞栓コイル展開システムにおいては、シースが血管内において屈曲することから、塞栓コイルを押し出す際に、シースの内壁面から塞栓コイルに摩擦力が加わり、挿入ツールにより塞栓コイルをスムーズに押し出すことが困難であった。このため、塞栓コイル等の押し出し性に関して改善の余地があった。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、シース内の塞栓コイル又はガイドワイヤ等(以下、塞栓コイル等と記載。)を好適に押し出すことが可能なカテーテルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、中空に形成された長尺のシースを備え、前記シースの遠位部の内腔は、直線的に延在する第1ストレート部と、該第1ストレート部よりも遠位側に設けられた第1テーパ部と、該第1テーパ部よりも遠位側に設けられた第2テーパ部と、該第2テーパ部よりも遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部と、を含み、前記第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異なることを特徴とするカテーテルが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカテーテルによれば、遠位部の内腔に挿入した塞栓コイル等が内腔の第1テーパ部と第2テーパ部に当接したときに、塞栓コイル等を段階的に方向付けできる。
特に、第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異なることで、内腔内での塞栓コイル等に応じて引っかかりを抑制するというニーズに応えるべく、傾斜比率に関わる縮径長さと軸方向長さの比を前もって調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るカテーテルの全体図である。
【
図2】本実施形態に係るカテーテルの
図1のII部を拡大して示す断面図であり、カテーテルの内層の構造及び塞栓コイルを押し出している状態を示す図であり、(a)は、第1ストレート部に塞栓コイルの先端部が位置している状態、(b)は、第1テーパ部に塞栓コイルの先端部が位置している状態、(c)は、第2テーパ部に塞栓コイルの先端部が位置している状態を示す図である。
【
図3】第1変形例に係るシースにおける、カテーテルの
図1のII部を拡大して示す断面図である。
【
図4】第2変形例に係るシースにおける、カテーテルの
図1のII部を拡大して示す断面図である。
【
図5】第3変形例に係るシースにおける、カテーテルの
図1のII部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、各図においては、各部の特徴的な構成の違いが明確となるように寸法比率を調整しているため、実際の寸法比率とは異なる場合がある。
【0011】
<概要>
はじめに、本実施形態に係るカテーテル1の概要について、
図1及び
図2を主に参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るカテーテル1の全体図、
図2は、本実施形態に係るカテーテル1の
図1のII部を拡大して示す断面図であり、カテーテル1の内層4の構造及び塞栓コイル11を押し出している状態を示す図である。
図2(a)は、第1ストレート部5に塞栓コイル11の先端部が位置している状態を示す図である。
図2(b)は、第1テーパ部6に塞栓コイル11の先端部が位置している状態を示す図である。
図2(c)は、第2テーパ部7に塞栓コイル11の先端部が位置している状態を示す図である。
【0012】
本実施形態に係るカテーテル1は、中空に形成された長尺のシース3を備える。シース3の遠位部(
図1のII部)の内腔(内層4)は、直線的に延在する第1ストレート部5と、第1ストレート部5よりも遠位側に設けられた第1テーパ部6と、第1テーパ部6よりも遠位側に設けられた第2テーパ部7と、第2テーパ部7よりも遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部8と、を含む。そして、第1テーパ部6と第2テーパ部7の傾斜比率が異なることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、不図示のガイドワイヤや塞栓コイル11等(以下、塞栓コイル11等と記載、又は代表して塞栓コイル11のみを記載。)をシース3外に延伸させるために、遠位部の内腔に挿入した塞栓コイル11が内腔の第1テーパ部6と第2テーパ部7に順に当接することになり、塞栓コイル11を段階的に方向付けできる。
特に、第1テーパ部6と第2テーパ部7の傾斜比率が異なることで、内腔内での塞栓コイル11等の大きさや巻径に応じて引っかかりを抑制するというニーズに応えるべく、傾斜比率に関わる縮径長さと軸方向長さの比を前もって調整することができる。
【0014】
「内腔」としては、塞栓コイル11を通すことが可能な空間を形成するものであればよい。つまり、「内腔」は、後述する外層10とは別個に形成された内層4によって規定されるものに限定されず、外層10と内層4とが一体的に形成されたものによって規定されるものであってもよい。
また、第1ストレート部5及び第2ストレート部8について、「直線的に延在する」とは、本発明において、内腔径が一定であることを意味する。例えば、軸線12が曲がっている場合には、軸線12を中心に湾曲している形状も「直線的に延在する」形状に含まれるものとする。
また、「テーパ」とは、先端(遠位側端部)に向かうにつれて細径となる形状である。
【0015】
<構成>
次に、本実施形態に係るカテーテル1の構成を、
図1及び
図2を主に参照して説明する。
カテーテル1(シース3)は、血管内に通されて、病変部に塞栓コイル11を送り込むためのものであり、持ち手部分であるハンドル2と、ハンドル2に基端を接続され、可撓性を有するチューブ状のシース3と、を備える。
【0016】
[シース]
カテーテル1(シース3)は、上記のように、中空に形成されて、軸方向に延在している内層4と、内層4を覆うワイヤ補強層9と、ワイヤ補強層9よりも径方向外側に形成された外層10と、を備える。
【0017】
[内層、ルーメン]
内層4は、軸線方向の一部が異径に構成されており、約0.01mmの円筒状に形成されている。
図2に示すように、内層4の先端部は、近位側から遠位側に、大径直筒状の第1ストレート部5と、テーパ状の第1テーパ部6及び第2テーパ部7と、小径直筒状の第2ストレート部8と、によって連続的に形成されている。
【0018】
内層4の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)等のフッ素系の熱可塑性樹脂材料を用いることができる。フッ素系の樹脂材料を用いることにより、塞栓コイル11の摺動性を良好にすることができる。
内層4によって画定されるルーメン4aの直径は、第1テーパ部6の基端部で0.6~1.0mm程度、第2テーパ部7の先端部で0.5mm程度である。
【0019】
第2テーパ部7は、シース3の軸線12に対して、第1テーパ部6の角度α1よりも小さい角度α2で傾斜している。
このように、第2テーパ部7が第1テーパ部6の角度α1よりも小さい角度α2で傾斜していることで、第1テーパ部6により、塞栓コイル11の揺動範囲を急激に狭めつつ、第2テーパ部7により、外部に向かう遠位向きに延伸するように塞栓コイル11をガイドできる。ここで、シース3の軸線12に対する「角度」については、軸線12に対する角度のうち鋭角側の角度をいうものとする。ここで、角度α1は、例えば0.03度から15.00度の範囲にあり、より好ましくは0.04度から10.00度の範囲にある。角度α2は、例えば0.02度から12.00度の範囲にあり、より好ましくは0.03度から9.00度の範囲にあり、かつα1よりも小さい角度である。
【0020】
したがって、先端側にあり第1テーパ部6よりも小径である第2テーパ部7において、軸線12に対する傾斜が、第1テーパ部6よりも小さいことになるため、塞栓コイル11が第2テーパ部7の内壁面に引っかかることを抑制できる。このため、塞栓コイル11の押し出し性を良好にすることができる。
本実施形態において、テーパ部全体の長さが100mm程度であり、第1テーパ部6の軸方向長さL1と第2テーパ部7の軸方向長さL2は、等しい長さであるが、第2テーパ部7の軸方向長さL2を、第1テーパ部6の軸方向長さL1よりも長くしてもよい。
【0021】
また、内層4の内面に、遠位側に向かうに連れて縮径するテーパ部(第1テーパ部6及び第2テーパ部7)が形成されていることで、ルーメン4aに造影剤を流すときに、テーパ部に対する近位側よりも遠位側の流速を上げることも可能となる。
第1ストレート部5における遠位側の縁の直径に対して、第2ストレート部8における遠位側の縁の直径は、0.4~0.7倍の範囲、より好ましくは0.5~0.62倍の範囲にある。
【0022】
[ワイヤ補強層]
本実施形態に係るワイヤ補強層9は、シース3に剛性を付与するものであり、複数の金属ワイヤ(ワイヤ素線9a)を軸線12に対して斜めに交差するようにメッシュ状に巻回された金属層である。なお、ワイヤ補強層9は、多条のコイル状に巻回されたものであってもよい。
補強ワイヤの材料としては、タングステン(W)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルチタン系合金、鋼、チタン、銅、チタン合金又は銅合金等の金属材料の他、内層4及び外層10よりも剪断強度が高い、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)又はポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料を用いることができる。
【0023】
第1テーパ部6と第2テーパ部7とのそれぞれに、複数のワイヤ素線9aが重なって2層構成を成すワイヤ補強層9が配設されていることで、塞栓コイル11の先端が第1テーパ部6及び第2テーパ部7に当接摺動するときに、第1テーパ部6及び第2テーパ部7が変形することを抑制できる。このため、使用者は、第1テーパ部6及び第2テーパ部7を通る塞栓コイル11を円滑に押し出すことが可能となる。
【0024】
また、軸線12に対して内径側に迫り出ている、第1テーパ部6と第2テーパ部7との境界部分、又は第2テーパ部7と第2ストレート部8との境界部分の少なくとも一部に対して、径方向内側と外側のワイヤ素線9aの重なり部分(剛性が高まる部分)がずれて配設されていてもよい。
このようにすれば、第1テーパ部6から第2テーパ部7へ、又は第2テーパ部7から第2ストレート部8へと塞栓コイル11の先端が移動する際に、第1テーパ部6と第2テーパ部7との境界部分、又は第2テーパ部7と第2ストレート部8との境界部分の変形を許容できる。このため、第1テーパ部6を越えて第2テーパ部7に移る塞栓コイル11を円滑に押し出すことが可能となる。
【0025】
一方で、各境界部分である、第1ストレート部5と第1テーパ部6との境界部分、第1テーパ部6と第2テーパ部7との境界部分、又は第2テーパ部7と第2ストレート部8との境界部分に、径方向内側と外側のワイヤ素線9aの重なり部分(剛性が高まる部分)が配設されていてもよい。
このようにすれば、内層4を形成した後に内層4の周りにワイヤ素線9aを巻回する際に、上記の境界部分でワイヤ素線9aが弛むことなく、ワイヤ素線9aの巻回状態を安定させることができる。
また、軸線12に対して外径側に窪んでいる、第1ストレート部5と第1テーパ部6との境界部分を塞栓コイル11の先端部が移動する際に、塞栓コイル11による押圧により当該境界部が沈みこむように変形することを防止できる。このため、使用者は、第1ストレート部5を越えて第1テーパ部6へと塞栓コイル11を円滑に押し出すことが可能となる。
【0026】
第1テーパ部6及び第2テーパ部7の外周に巻回されたワイヤ素線9aは、第1テーパ部6及び第2テーパ部7の領域内において、同じピッチで巻回されていても、異なるピッチで巻回されていてもよい。
例えば、第1テーパ部6の領域よりも第2テーパ部7の領域で屈曲させやすくする場合には、第1テーパ部6の周囲に巻回されたワイヤ素線9aのピッチよりも第2テーパ部7の周囲に巻回されたワイヤ素線9aのピッチが小さく設定されていればよい。
また、第1ストレート部5の周囲に巻回されたワイヤ素線9aのピッチと、第1テーパ部6の周囲に巻回されたワイヤ素線9aのピッチと、を異ならせてもよい。同様に、第2テーパ部7の周囲に巻回されたワイヤ素線9aのピッチと、第2ストレート部8の周囲に巻回されたワイヤ素線9aのピッチと、を異ならせてもよい。
【0027】
さらには、第2テーパ部7の領域内における遠近位置において異なる剛性を設定してもよい。例えば、第2テーパ部7の領域内において遠位側に向かうに連れて漸次的に剛性を低める場合には、第2テーパ部7の近位側から遠位側に向かうに連れて、ワイヤ素線9aのピッチが漸次的に小さくなるように設定されていればよい。
その他、シース3の剛性の調整に関しては、ワイヤ素線9aのピッチ調整の他に、太さや、金属製のものと樹脂製のものを含むようにしたりしてもよい。
【0028】
[外層]
外層10の材料としては熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。この熱可塑性ポリマー材料としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリアミドエラストマー(PAE)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)等のナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン-酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)又はポリプロピレン(PP)を挙げることができる。
本実施形態に係る外層10(シース3)の外周面は、均一な径で形成された円筒面である。換言すると、外層10の厚さは、第1テーパ部6及び第2テーパ部7により内層4が遠位端に向かうにつれて縮径するように形成されていることにより、遠位端に向かうに連れて大きくなるように形成されている。
【0029】
[塞栓コイル]
塞栓コイル11は、例えば銀メッキ銅線により構成されており、自然状態において団子状となるように、予め癖付けされている。塞栓コイル11は、カテーテル1のルーメン4aに近位側から挿入され、塞栓コイル11の先端部がルーメン4a内において内層4の内壁面に当接することにより、強制的に引き伸ばされてカテーテル1から血管内に押し出される。塞栓コイル11は、留置対象部位に押し出されると当該部位内部で団子状に丸まって、血管の塞栓が可能になる。
塞栓コイル11の巻き径に対してカテーテル1(シース3)のルーメン4aの径が過大だと、ルーメン4a内で塞栓コイル11が丸まってしまう。塞栓コイル11をスムーズに遠位向きに押し出すため、シース3のルーメン4aの径は、軸線方向のいずれの位置においても塞栓コイル11の巻き径よりも小径である。
【0030】
[動作]
使用者が、塞栓コイル11をルーメン4a内において遠位向きに押し込む際の塞栓コイル11の動作について、
図2を主に参照して説明する。
図2(a)に示すように、大径のルーメン4aの基端側(第1ストレート部5)において、塞栓コイル11は、ルーメン4aの周壁(第1ストレート部5の内壁)との間にクリアランスがあるため丸まろうとしながら(屈曲しようとしてルーメン4aの周壁に擦り当たりながら)前進する。
図2(b)に示すように、第1ストレート部5から第1テーパ部6に遷移するところで、塞栓コイル11に抵抗が生じるが、塞栓コイル11の遠位向きへの移動が制限されることがないよう、第1テーパ部6は充分に緩やかな角度α1で形成されている。
【0031】
図2(c)に示すように、塞栓コイル11が第2テーパ部7を通る際に、塞栓コイル11における遠位端よりも近位側の一部がルーメン4aの周壁(第2テーパ部7の内壁)に当接することにより、塞栓コイル11が更に屈曲しようとしてルーメン4aの周壁に擦り当たりながら前進する。
塞栓コイル11が第2テーパ部7を通る際に、塞栓コイル11に抵抗が生じるが、塞栓コイル11の遠位向きへの移動が制限されることがないよう、第2テーパ部7は充分に緩やかな角度α2で形成されている。
【0032】
そして、塞栓コイル11は、第2ストレート部8に至り、更に第2ストレート部8を越えて、シース3の遠位側の外部に突出することになる。
【0033】
[第1変形例]
次に、第1変形例に係るシース3Xについて、
図3を主に参照して説明する。
図3は、第1変形例に係るシース3Xにおける、カテーテル1の
図1のII部を拡大して示す断面図である。
シース3Xは、第1テーパ部26と第2テーパ部27を有する内層24を備える。
本例に係る第1テーパ部26は、シース3の軸線12に対して、第2テーパ部27よりも小さい角度α3で傾斜している。
【0034】
上記構成によれば、第1テーパ部26が第2テーパ部27(の角度α4)よりも小さい角度α3で傾斜していることで、シース3Xの近位側から挿入される塞栓コイル11が第1テーパ部26に引っかかることを抑制できる。このため、塞栓コイル11の遠位向きへの押し出し性を良好にすることができる。また、第2テーパ部27が第1テーパ部26(の角度α3)に対して急峻な角度α4で形成されていることで、塞栓コイル11の揺動範囲を急激に狭めることができる。ここで、角度α3は、例えば0.02度から12.00度の範囲にあり、より好ましくは0.03度から9.00度の範囲にある。角度α4は、例えば0.03度から15.00度の範囲にあり、より好ましくは0.04度から10.00度の範囲にあり、かつα3よりも大きい角度である。
【0035】
さらに、塞栓コイル11が第2テーパ部27の遠位側の縁を越えたときに、第1テーパ部26からの反力よりも近位向きの成分の大きい第2テーパ部27の反力が塞栓コイル11に印加されなくなる。このため、塞栓コイル11の先端部を遠位向きに突出させることができる。このように塞栓コイル11が第2テーパ部27の遠位側の縁を越えたときに、塞栓コイル11の先端部が遠位向きに突出することで、細径の第2ストレート部8に挿入しやすくなる。これにより、シース3の遠位端部に塞栓コイル11をスムーズに送りこむことができる。
【0036】
また、軸線12に対して内径側に迫り出ている、第2テーパ部27と第2ストレート部8との境界部分に対して、径方向内側と外側のワイヤ素線9aの重なり部分(剛性が高まる部分)がずれて配設されていてもよい。
このようにすれば、第2テーパ部27から第2ストレート部8へと塞栓コイル11の先端が移動する際に、第2テーパ部27と第2ストレート部8との境界部分の変形を許容できる。このため、第2テーパ部27を越えて第2ストレート部7に移る塞栓コイル11を円滑に押し出すことが可能となる。
【0037】
一方で、各境界部分である、第1ストレート部5と第1テーパ部26との境界部分、第1テーパ部26と第2テーパ部27との境界部分、又は第2テーパ部27と第2ストレート部8との境界部分の少なくとも一部に、径方向内側と外側のワイヤ素線9aの重なり部分(剛性が高まる部分)が配設されていてもよい。
このようにすれば、内層4を形成した後に内層4の周りにワイヤ素線9aを巻回する際に、上記の境界部分でワイヤ素線9aが弛むことなく、ワイヤ素線9aの巻回状態を安定させることができる。
また、軸線12に対して外径側に窪んでいる、第1ストレート部5と第1テーパ部26との境界部分、又は、第1テーパ部26と第2テーパ部27との境界部分を塞栓コイル11の先端部が移動する際に、塞栓コイル11による押圧により当該境界部が沈みこむように変形することを防止できる。このため、使用者は、第1ストレート部5を越えて第1テーパ部26へ、又は第1テーパ部26を越えて第2テーパ部27へと塞栓コイル11を円滑に押し出すことが可能となる。
【0038】
本例において、テーパ部全体の長さが100mm程度であり、第1テーパ部26の軸方向長さL3と第2テーパ部27の軸方向長さL4は、等しい長さであるが、第1テーパ部26の軸方向長さL3を、第2テーパ部27の軸方向長さL4よりも長くしてもよい。
【0039】
[第2変形例]
次に、第2変形例に係るシース3Yについて、
図4を主に参照して説明する。
図4は、第2変形例に係るシース3Yにおける、カテーテル1の
図1のII部を拡大して示す断面図である。
本例に係るシース3Yの遠位部の内腔(内層34)は、第1テーパ部6と第2テーパ部7との間に、直線的に延在する第3ストレート部38を更に含む。
上記構成によれば、第1テーパ部6と第2テーパ部7との間に第3ストレート部38が設けられていることで、シース3Yの遠位部の内腔が段階的に縮径することになり、塞栓コイル11が内層34の内壁面に引っかかることを抑制できる。
なお、第1変形例に係る相対的に傾斜の急な第1テーパ部26と相対的に傾斜の緩やかな第2テーパ部27との間に、ストレート(非テーパー)の第3ストレート部38(中間連結部)が形成されていてもよい。
【0040】
[第3変形例]
第3変形例に係るシース3Zについて、
図5を主に参照して説明する。
図5は、第3変形例に係るシース3Zにおける、カテーテル1の
図1のII部を拡大して示す断面図である。
本例に係るシース3Zの遠位部の内腔(内層44)は、第2テーパ部7と第2ストレート部8との間に、第3テーパ部48を更に含む。
【0041】
上記構成によれば、テーパ部が3つ(第1テーパ部6、第2テーパ部7及び第3テーパ部48)設けられていることで、テーパ部の角度変化を抑えつつ、塞栓コイル11とテーパ部との当接部位をシース3Zの軸線方向に分散させることが可能となる。このため、塞栓コイル11が内層44の内壁面に引っかかることを抑制できる。なお、テーパ部は、3つ以上設けられていてもよい。
【0042】
特に本例に係る第3テーパ部48における軸線12に対する角度α5は、第2テーパ部7における軸線12に対する角度α2よりも小さく形成されている。ここで、角度α5は、例えば0.01度から11.00度の範囲にあり、より好ましくは0.02度から8.70度の範囲にあり、かつα2よりも小さい角度である。
また本例において、テーパ部全体の長さが100mm程度であり、第1テーパ部6の軸方向長さL1と第2テーパ部7の軸方向長さL2と第3テーパ部48の軸方向長さL5とは、等しい長さである。しかしながら、このような構成に限定されず、第3テーパ部48の軸方向長さL5を、第2テーパ部7の軸方向長さL2よりも長くし、第2テーパ部7の軸方向長さL2を、第1テーパ部6の軸方向長さL1よりも長くしてもよい。
本実施形態においては非能動の構成について説明したが、本発明に係るカテーテルを能動の構成(例えば、操作線が外層10内に通されていることにより、シース3の先端部を屈曲操作可能な構成)のものに適用してもよい。
【0043】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)中空に形成された長尺のシースを備え、
前記シースの遠位部の内腔は、
直線的に延在する第1ストレート部と、
該第1ストレート部よりも遠位側に設けられた第1テーパ部と、
該第1テーパ部よりも遠位側に設けられた第2テーパ部と、
該第2テーパ部よりも遠位側に設けられて直線的に延在する第2ストレート部と、を含み、
前記第1テーパ部と第2テーパ部の傾斜比率が異なることを特徴とするカテーテル。
(2)前記第2テーパ部は、前記シースの軸線に対して、前記第1テーパ部よりも小さい角度で傾斜している(1)に記載のカテーテル。
(3)前記第1テーパ部は、前記シースの軸線に対して、前記第2テーパ部よりも小さい角度で傾斜している(1)に記載のカテーテル。
(4)前記シースの遠位部の内腔は、前記第1テーパ部と前記第2テーパ部との間に、直線的に延在する第3ストレート部を更に含む(1)から(3)のいずれか一項に記載のカテーテル。
(5)前記シースの遠位部の内腔は、前記第2テーパ部と前記第2ストレート部との間に、第3テーパ部を更に含む(1)から(4)のいずれか一項に記載のカテーテル。
【符号の説明】
【0044】
1 カテーテル
2 ハンドル
3、3X、3Y、3Z シース
4 内層(内腔)
4a ルーメン
5 第1ストレート部
6 第1テーパ部
7 第2テーパ部
8 第2ストレート部
9 ワイヤ補強層
9a ワイヤ素線
10 外層
11 塞栓コイル
12 軸線
24 内層
26 第1テーパ部
27 第2テーパ部
34 内層
38 第3ストレート部
44 内層
48 第3テーパ部