(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】アノード電極用炭素材料、組成物、電極、およびそれを用いた生物燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20230725BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20230725BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M4/90 Z
H01M8/16
H01M4/86 B
(21)【出願番号】P 2019081626
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018125810
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】宮房 有花
(72)【発明者】
【氏名】安藤 天志
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-192399(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106207239(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 8/16
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卑金属元素がドープされた生物燃料電池アノード用炭素材料。
【請求項2】
生物燃料電池アノード用炭素材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、R
C
およびR
M
とした場合に、炭素原子のモル比R
C
に対する卑金属原子のモル比R
M
の割合が0.01~20%の範囲にある、請求項1記載の生物燃料電池アノード用炭素材料。
【請求項3】
さらにヘテロ元素がドープされた請求項1又は2記載の生物燃料電池アノード用炭素材料。
【請求項4】
請求項1
~3いずれか1項記載の生物燃料電池アノード用炭素材料と、導電助剤、バインダー、および分散剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有する生物燃料電池アノード用組成物。
【請求項5】
請求項1
~3いずれか1項記載の生物燃料電池アノード用炭素材料、または請求項
4記載の生物燃料電池アノード用組成物から形成された生物燃料電池用アノード。
【請求項6】
請求項
5記載の生物燃料電池用アノードを用いることを特徴とする生物燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池に用いられる電極用組成物、電極、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の普及により、携帯電話、ノートパソコンやタブレット端末などの携帯型電子機器が広く普及するようになった。特にリチウムイオン二次電池は鉛蓄電池、ニッカド電池、ニッケル水素電池等の電池と比較して大きなエネルギー密度が得られることから、車載搭載用高出力電源としても使用されるようになってきている。また、充電が不要な電源として発電デバイスの研究も活発に行われており、水素を燃料とした定置用の燃料電池や車載用の燃料電池も実用化されるようになってきた。
【0003】
一方、近年では燃料電池の仕組みを利用した生物燃料電池の開発も進められており、生体触媒の酵素を用いたバイオ燃料電池、微生物を用いた微生物燃料電池などがある。微生物燃料電池は、発電菌と呼ばれる微生物により有機物を分解する際に生じる電子を回収し、電気エネルギーとして利用する発電方法である。例えば、生活廃水や土壌などを用いた場合、廃水中の有機物の分解処理と発電が並行して行えるため、消費エネルギーを低減できる水処理方法としても期待されている(非特許文献1)。また、微生物燃料電池は、廃水中や土壌中の有機物で発電出来るため、廃水や土壌における電源としての利用も期待出来る。
【0004】
このような微生物燃料電池の構成には、二槽型と一槽型が知られている(特許文献1、非特許文献2)。アノードでの微生物による分解反応から生じた電子が外部回路を経由し、カソードにて還元反応で消費される点は共通している。二槽型はイオン交換膜などの隔壁で両極を分け、酸素やフェリシアン化カリウムなどの酸化剤をカソードで反応させている。一方、一槽型は隔壁が無く、一つの槽内にカソードおよびアノードを配置する。微生物燃料電池に用いられるカソードおよびアノードの材料においては電極反応において導電性が必要であり、導電性の多孔質材料を使用するのが一般的である(特許文献1~3)。カソードでは電極上で酸素を還元する必要があるため、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス、または活性炭シートなどのカーボン材料や、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、またはチタンなどの金属材料が使われる。さらに、それら材料に白金などの酸素還元触媒を担持させて使用することも知られている。一方、アノードでは有機物を分解して電子を取り出す発電菌を多くコンタクトさせるために、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス、または活性炭シートなどのカーボン材料や、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、またはチタンなどの金属材料が使われることが知られている(特許文献2、3)。それらの電極反応の効率はいまだ不十分であり、発電特性の向上が課題となっているため、これまでにも他の様々な検討も行われてきた。
【0005】
これらの課題解決のために、アノード反応効率を工夫する試みが開示されている。アノード表面近傍に存在する微生物からしか電子伝達が効率的に行われないことから、様々な金属化合物を添加する試みが行われている。特許文献4では、酸化鉄や酸化マンガン等の金属酸化物を電解液中に添加し、導電性微粒子として用いることで、アノード反応効率を向上させて電流密度を増加させる発明が開示されている。また、特許文献5では、鉄化合物、マンガン化合物、コバルト化合物の粉末(粒子)をアノード周辺(微生物含有層)に添加することが開示されている。これらの添加物により、アノード反応効率の向上は見られるが、さらなる効率改善を目論見、特許文献6では、磁力を用いて鉄のような強磁性体の粒子をアノード基材であるカーボンフェルトへ付着させるアノードの製造方法も開示されている。
一方、有機化合物をメディエーターとして用いる試みも開示されており(特許文献7)、特許文献8では、ポルフィリンやポルフィリン誘導体をメディエーターとして用いることで、アノード反応効率を向上させる試みも開示されている。
以上の試みによってアノード反応効率の向上は見られているものの、さらなる発電効率の向上は課題として残っており、さらには安定した発電効率を維持出来る耐久性まで両立出来るような技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-342412号公報
【文献】特開2010-102953号公報
【文献】特開2015-002070号公報
【文献】国際公開第2009/119846号パンフレット
【文献】特開2017-183012号公報
【文献】特開2015-191856号公報
【文献】特開2005-317520号公報
【文献】特開2010-218690号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】微生物燃料電池による廃水処理システム最前線、(株)エヌ・ティー・エス
【文献】Environmental Science&Technology,2004,38,4040-4046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、発電量に優れたアノード用炭素材料、組成物、電極を提供し、発電特性や耐久性に優れる電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素がドープされた生物燃料電池アノード用炭素材料に関する。
【0011】
また、本発明は、前記生物燃料電池アノード用炭素材料と、導電助剤、バインダー、および分散剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有する生物燃料電池アノード用組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、前記生物燃料電池アノード用炭素材料、または前記生物燃料電池アノード用組成物から形成された生物燃料電池用アノードに関する。
【0013】
また、本発明は、前記生物燃料電池用アノードを用いることを特徴とする生物燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素がドープされた生物燃料電池アノード用炭素材料は、生物反応効率や耐久性に優れた電池を提供出来る。生物反応効率に優れた電極は、電池反応抵抗を低減させることが出来るため、特性に優れた電池を提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例D1~D14および比較例D1~D6で用いた微生物燃料電池の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<生物燃料電池アノード用炭素材料>
まずはじめに生物燃料電池アノード用炭素材料について説明する。本発明の生物燃料電池アノード用炭素材料とは、炭素元素からなる炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなり、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、ヘテロ元素(N、B、Pなどの異種元素)及び/又は卑金属元素が含まれる材料である。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、およびスズからなる群より選ばれる一種以上を含有することが好ましい。ヘテロ元素や卑金属元素を含有することは、生物反応を活性化する。特に、含有するヘテロ元素は窒素(N)が好ましく、含有する卑金属元素としては、コバルト(Co)及び/又は鉄(Fe)が好ましい。
【0017】
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。アノードで起こる生物反応は材料表面で起こるため、比表面積が大きいほど、生物と有機物、電子との反応場が多くなり、反応活性の向上に繋がるため好ましい。また、電子伝導性が高いほど、電極中における反応に必要な電子を前記反応場に供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。
【0018】
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料は、材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとした際、炭素原子のモル比RCに対する窒素原子のモル比RNの割合が1~40%、炭素原子のモル比RCに対する卑金属原子のモル比RMの割合が0.01~20%の範囲にあると好ましい。
【0019】
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、1~1500m2/gであることが好ましく、より好ましくは10~1000m2/gである。BET比表面積が上記の範囲にあると、反応が起こる反応場を多くできるため好ましい。
【0020】
本発明における比表面積とは試料単位質量当たりの表面積のことであり、ガス(N2又はH2O)吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.05~0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0021】
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料は、CuKα線をX線源として得られるX線回折(XRD)図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であることが好ましい。
【0022】
CuKα線をX線源として得られる生物燃料電池アノード用炭素材料のX線回折線図においては、24.0~27.0°付近に炭素の(002)面回折ピークが現れる。炭素の(002)回折ピーク位置は、炭素六角網面の面間距離によって変化し、ピーク位置が高角側であるほど炭素六角網面の距離が近いことから、構造の黒鉛的規則性が高いことが示される。また、上記ピークがシャープである(半値幅が小さい)ほど、結晶子サイズが大きく、結晶構造が発達していることを示すものである。
【0023】
上記ピークの半値幅が8°以下である場合には、生物燃料電池アノード用炭素材料の結晶性が高く、電子伝導性が高い。これにより、電極中における反応に必要な電子を前記反応場に供給することができるため、電流の増加に繋がり、好ましい。
【0024】
また、上記ピークの半値幅が1°以下であることは、さらに好ましい。
【0025】
<生物燃料電池アノード用炭素材料の製造方法>
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料は、単に炭素材料とヘテロ元素を含む化合物を混合したものや、炭素材料と卑金属元素を含む化合物を混合したものや、炭素材料とヘテロ元素や卑金属元素を含む化合物を混合したものではない。製造方法としては、例えば、炭素材料、ヘテロ元素を含む化合物及び卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、炭素材料、ヘテロ元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、ヘテロ元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させる方法、フタロシアニンやポルフィリン等の大環状化合物などのヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物を炭化させる方法、炭素材料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させる方法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。炭化により、炭素材料表面の炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部をヘテロ元素や卑金属元素が置換するようにドープされる、または、炭素材料表面の炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部をヘテロ元素が置換するようにドープされる。また、ヘテロ元素を含む化合物ではなく、ヘテロ元素を含むガスによる炭素材料へのドープでも良く、そのような製造方法としては、炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させた材料に気相法でヘテロ元素をドープする方法、炭素材料に気相法でヘテロ元素をドープする方法など、従来公知のものを使用することが出来るが、それらに限定されるものではない。気相法での反応により、炭素材料表面の炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部がヘテロ元素で置換するようにドープされる。
好ましい製造方法としては、少なくともヘテロ元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法や、少なくとも炭素材料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法が挙げられる。また、前記熱処理により得られた炭素材料を、酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。更に、前記酸洗浄により得られた炭素材料を、熱処理する工程を含む方法が挙げられる。
【0026】
<炭素材料>
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料が好ましい。例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。炭素材料は、種類やメーカーによって、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0027】
市販の無機炭素材料としては、例えば、
ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のデンカ社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、xGnP-H-25等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy-N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;
クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード、クノーベルMJ(4)030グレード、クノーベルMJ(4)010グレード等の東洋炭素社製クノーベル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料だけでなく、熱処理後炭素粒子となる有機材料も使用することができる。熱処理後に炭素粒子となる有機材料としては、炭素以外に他の元素を含有していても良い。熱処理後の炭素粒子に窒素やホウ素等のヘテロ元素を含有させるため、予め同ヘテロ元素を含有する有機材料の使用が好ましい場合がある。具体的な有機材料としては、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体などが挙げられる。その中でも窒素やホウ素などのヘテロ元素を含有する有機材料である、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂等が、窒素元素を含む炭素材料として好ましい。
【0029】
<ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物>
本発明における生物燃料電池アノード用炭素材料として、ヘテロ元素、卑金属元素を導入する際に使用される原料としては、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物であれば特に限定されない。例えば、色素、ポリマー等の有機化合物、金属単体、金属酸化物、金属塩等の無機化合物が挙げられる。また、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用して用いても良い。卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズから選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
好ましくは錯体もしくは塩であり、その中でも、卑金属元素を分子中に含有することが可能な、窒素を含有した芳香族化合物は、生物燃料電池アノード用炭素材料中に効率的に窒素元素と卑金属元素を導入しやすいため好ましい。具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物等の大環状化合物が挙げられる。上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基や電子供与性官能基を導入されたものであってもよい。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な卑金属元素を含んだ化合物が入手可能であり、コスト的にも安価であるため、原料としては特に好ましい。中でも、コバルトフタロシアニン系化合物、ニッケルフタロシアニン系化合物、鉄フタロシアニン系化合物は、安価で高い活性を有する生物燃料電池アノード用炭素材料を得ることができるためより好ましい。
【0030】
生物燃料電池アノード用炭素材料に導入される元素の由来としては複数の原料の組み合わせが考えられる。炭素元素は無機炭素材料や熱処理後炭素粒子となる有機材料、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物など、ヘテロ元素は、ヘテロ元素を含む、熱処理後炭素粒子となる有機材料やヘテロ元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物、アンモニアなどヘテロ元素を含む反応性気体など、卑金属元素は、卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物などである。
原料の組み合わせとしては例えば、炭素元素を無機炭素材料、ヘテロ元素を気相法のヘテロドープ由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素を有機炭素材料、ヘテロ元素を気相法のNドープ由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素とヘテロ元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素を無機炭素材料、ヘテロ元素と卑金属元素を、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料、ヘテロ元素と卑金属元素を、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素を有機炭素材料、ヘテロ元素を、卑金属元素を含まない、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物、卑金属元素を、ヘテロ元素を含まない、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素とヘテロ元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、卑金属元素を、卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の生物燃料電池アノード用炭素材料、炭素元素、ヘテロ元素及び卑金属元素を、炭素元素、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の生物燃料電池アノード用炭素材料等が挙げられる。
【0031】
原料の混合物である前駆体の作製方法としては、前駆体に炭素元素、ヘテロ元素、及び卑金属元素が含まれるよう、炭素材料と、1種類又は複数種類のヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物とを混合する際は、原料同士が均一に混合・複合されていれば良く、混合法としては、乾式混合及び湿式混合が挙げられる。混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
【0032】
乾式混合装置としては、例えば、
2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
【0033】
又、乾式混合装置を使用する際、母体となる原料粉体に、他の原料を粉体のまま直接添加しても良いが、より均一な混合物を作成するために、前もって他の原料を少量の溶媒に溶解、又、分散させておき、母体となる原料粉体の凝集粒子を解しながら添加する方法が好ましい。更に、処理効率を上げるために、加温することが好ましい場合もある。
【0034】
ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物の中には、常温では固体であるが、融点、軟化点、又はガラス転移温度が100℃未満と低い材料がある。それらの材料を用いる場合、常温で混合するより、加温下で溶融させて混合する方がより均一に混合できる場合もある。
【0035】
湿式混合装置としては、例えば、
ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0036】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0037】
又、各原料が均一に溶解した系でない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、一般的な分散剤を一緒に添加し、分散、混合することができる。市販の水系用分散剤、溶剤系分散剤等を任意に使用することかでき、特に限定されない。
【0038】
湿式混合の場合、湿式混合装置を用いて作製した分散体を乾燥させる工程が必要となる。この場合、用いる乾燥装置としては、棚式乾燥機、回転乾燥機、気流乾燥機、噴霧乾燥機 撹拌乾燥機、凍結乾燥機などが挙げられる。
【0039】
生物燃料電池アノード用炭素材料の製造方法では、炭素材料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物に対して、最適な混合装置、分散装置、又は乾燥装置を選択することにより、触媒活性の優れた生物燃料電池アノード用炭素材料を得ることができる。
【0040】
次に、炭素材料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物の混合物を熱処理する方法においては、原料となる炭素材料、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物によって異なるが、加熱温度は500~1100℃が好ましく、700~1000℃がより好ましい。
この場合、ある程度高温で熱処理することで、活性点の構造が安定化し、実用的な電池運転条件に耐え得る表面となることが多い。このときの温度は600℃以上であることが好ましい。
【0041】
加熱時間は特に限定されないが、通常は1時間から5時間であることが好ましい。
【0042】
更に、熱処理工程における雰囲気に関しては、原料をできるだけ不完全燃焼により炭化させ、ヘテロ元素や金属元素などを炭素材料表面に残存させる必要性があるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気などが好ましい。また、熱処理時の炭素触媒中のヘテロ元素量低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下で熱処理を行なったり、炭素触媒の表面構造を制御するために、水蒸気、二酸化炭素、低酸素雰囲気下で熱処理したりしても良い。この場合では、雰囲気によっては酸化が進むと金属が酸化物となり粒子成分が凝集しやすくなるため、温度や時間などを適切に選択する必要がある。
【0043】
また、熱処理工程に関しては、一定の雰囲気及び温度下で、1段階で処理を行う方法だけでなく、一度、不活性ガス雰囲気下、500℃程度の比較的低温で熱処理し、その後、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気下、または賦活ガス雰囲気下で、1段階目を超える温度で熱処理することも可能である。そうすることで、触媒活性サイトとして考えられているヘテロ元素や金属元素からなる活性サイト部位を、より効率的且つ、多量に残存させられることがある。
【0044】
生物燃料電池アノード用炭素材料の製造方法としては、さらに、前記熱処理により得られた生物燃料電池アノード用炭素材料を酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸は、前記熱処理により得られた生物燃料電池アノード用炭素材料表面に存在する活性点として作用しない卑金属成分を溶出させることができるものであれば、特に限定されない。生物燃料電池アノード用炭素材料との反応性が低く、卑金属成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸等が好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、生物燃料電池アノード用炭素材料を添加し、分散させながら数時間撹拌させた後、静置し、上澄みを除去する。そして、上澄みの着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。
【0045】
生物燃料電池アノード用炭素材料の製造方法としては、さらに、前記酸洗浄により得られた生物燃料電池アノード用炭素材料を再度熱処理する工程を含む方法が挙げられる。ここでの熱処理は、先に行った熱処理の条件と大きく変わるものではない。加熱温度は500~1100℃が好ましく、700~1000℃がより好ましい。また、雰囲気は、表面の窒素元素が分解し減少しにくい観点から、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下等が好ましい。
【0046】
<生物燃料電池アノード用組成物>
本発明の生物燃料電池アノード用組成物は、電池の電極形成用として使用できる。生物燃料電池アノード用組成物は、前記生物燃料電池アノード用炭素材料と、導電助剤、バインダー、および分散剤からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有することが好ましい。各成分の好ましい含有量を下記に示す。
生物燃料電池アノード用炭素材料と導電助剤の固形分の合計100質量%中、導電助剤の含有量は0.1~99質量%であり、好ましくは10~90質量%であり、より好ましくは35~80質量%である。
生物燃料電池アノード用炭素材料と、バインダーの固形分の合計100質量%中、生物燃料電池アノード用炭素材料の含有量は、50~99質量%であり、好ましくは75~95質量%である。
生物燃料電池アノード用炭素材料と、バインダーの固形分の合計100質量%中、バインダーの含有量は、1~50質量%であり、好ましくは5~25質量%である。
生物燃料電池アノード用炭素材料と、バインダーの固形分の合計は、生物燃料電池アノード用組成物全体の固形分の80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。
また、分散剤を含有する場合は、生物燃料電池アノード用組成物全体の固形分の0.01~10質量%であり、好ましくは0.05~8質量%であり、さらに好ましくは0.1~5質量%である。
また、生物燃料電池アノード用組成物の適正粘度は、組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0047】
<導電助剤>
次に、導電助剤について説明する。本発明の導電助剤としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、金属材料や導電性炭素材料が挙げられる。金属材料としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられるが、耐久性の観点からステンレスが好ましい。なお、導電助剤とは、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素がドープされた生物燃料電池アノード用炭素材料である場合を除く。
【0048】
導電性炭素材料として、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することが出来る。
【0049】
グラファイトとしては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛としては、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。
【0050】
これら黒鉛の表面は、本発明の特性を損なわない限りにおいてバインダー樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等が施されていてもよい。
【0051】
また、用いるグラファイトの平均粒径は、0.5~500μmが好ましく、特に、2~100μmが好ましい。
【0052】
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0053】
市販のグラファイトとしては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0054】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0055】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0056】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となるが、カーボンブラックの分散性が低くなるため、具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、10m2/g以上、3000m2/g以下、好ましくは20m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。
【0057】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0058】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUER BLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0059】
活性炭としては、具体的にはフェノール系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル系、石炭-石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活した活性炭を挙げることができる。同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m2/g以上が好ましく、より好ましくは500~5000m2/g、さらに好ましくは1000~3000m2/gである。
【0060】
導電性炭素繊維としては石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることが出来る。また、カーボンナノチューブには、グラフェンシートが一層でナノメートル領域の直径を有するチューブを形成する単層カーボンナノチューブと、グラフェンシートが多層である多層カーボンナノチューブがある。そのため、多層カーボンナノチューブの直径は、典型的な単層カーボンナノチューブの0.7-2.0nmに対して、30nmと大きい値を示す。
【0061】
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T等が挙げられる。
【0062】
<バインダー>
次に、バインダーについて説明する。バインダーを使用することで、生物燃料電池アノード用炭素材料同士、あるいは生物燃料電池アノード用炭素材料と基材を強く結着させることが出来るため、良好な発電特性や耐久性を向上させることが出来る。バインダーとしては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、EVA系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、及びシリコン系樹脂等からなる群から選ばれる1種以上を含むことができる。ただし、これらの樹脂に限定されるわけではなく、バインダー樹脂は1種単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
このようなバインダー樹脂は、有機溶剤に溶解させて使用する溶剤系樹脂や、水に溶解ないし分散させて使用する水系樹脂を使用することが出来る。
また、バインダー樹脂は、生物燃料電池アノード用炭素材料とバインダー樹脂を混合した生物燃料電池アノード用組成物を作製後に、硬化(架橋)反応する、硬化性樹脂とすることもできる。バインダー樹脂は、自己硬化性のものを選択したり後述する硬化剤と組み合わせたりして、生物燃料電池アノード用組成物を基材上へ塗工後、硬化(架橋)させることもできる。
【0063】
有機溶剤に溶解させて使用する溶剤系樹脂について説明する。
【0064】
<ポリウレタン樹脂>
ポリウレンタン樹脂の合成方法としては特に限定はされないが例えば、ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とを反応させたり、ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とカルボキシル基を有するジオール化合物(c)とを反応させてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)を得たり、前記ウレタンプレポリマー(d)にポリアミノ化合物(e)をさらに反応させたり、あるいは前記3つの場合において、必要に応じて反応停止剤を反応させて得られるものなどが挙げられる。
【0065】
ポリオール化合物(a) としては、一般にポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分として知られている、各種のポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエングリコール類、またはこれらの混合物等が使用できる。
【0066】
ポリエーテルポリオール類としては、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフ
ランなどの重合体または共重合体などが挙げられる。
ポリエステルポリオール類としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ダイマージオール等の飽和および不飽和の低分子ジオール類、ならびにn-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル類のアルキルグリシジルエーテル類、バーサティック酸グリシジルエステル等のモノカルボン酸グリシジルエステル類と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類、またはこれらの無水物類を、脱水縮合して得られるポリエステルポリオール類や、環状エステル化合物を開環重合して得られるポリエステルポリオール類が挙げられる。
ポリカーボネートポリオール類としては、1)ジオールまたはビスフェノールと炭酸エステルとの反応物、および、2)ジオールまたはビスフェノールにアルカリの存在下でホスゲンとの反応物が使用できる。炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。また、ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル、2,2,8,10-テトラオキソスピロ〔5.5〕ウンデカン等が挙げられる。また、ビスフェノールとしては、ビスフェノールAやビスフェノールF、ビスフェノール類にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させたビスフェノール類等が挙げられる。
【0067】
上記ポリオール化合物の数平均分子量(Mn)は、多孔質電極用組成物を製造する際のポリウレタン樹脂の溶解性、形成される多孔質電極の耐久性や結着強度等を考慮して適宜決定されるが、通常は580~8000の範囲が好ましく、さらに好ましくは1000~5000である。
上記ポリオール化合物は、単独で用いても、2種類以上併用してもよい。更に、ポリウ
レタン樹脂の性能が失われない範囲内で、上記ポリオール化合物の一部を低分子ジオール類、例えば前記ポリオール化合物の製造に用いられる各種低分子ジオールに替えることもできる。
【0068】
ジイソシアネート化合物(b)としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族イソシアネート、またはこれらの混合物を使用できるが、特にイソホロンジイソシアネートが好ましい。芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4′-ベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0069】
脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ジイソシアネートとしては、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル、ビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0070】
カルボキシル基を有するジオール化合物(c)としては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸等のジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。特に反応性、溶解性の点からジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が好ましい。
ポリオール化合物(a)とジイソシアネート(b)とカルボキシル基を有するジオール化合物(c)とを反応させ、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)を得る際の条件は、イソシアネート基を過剰にする他にとくに限定はないが、イソシアネート基/水酸基の当量比が1.05/1~3/1の範囲内であることが好ましい。更に好ましくは1.2/1~2/1である。また、反応は通常常温~150℃の間で行なわれ、更に製造時間、副反応の制御の面から好ましくは60~120℃の間で行なわれる。
【0071】
ポリアミノ化合物(e)は、鎖延長剤として働くものであり、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4′-ジアミン、ノルボルナンジアミンの他、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するアミン類も使用することができる。なかでも、イソホロンジアミンが好適に使用される。
【0072】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)とポリアミノ化合物(e)を反応させてポリウレタン樹脂を合成するときに、得られるポリウレタン樹脂の分子量を調整する為に反応停止剤を併用することができる。反応停止剤としては、ジ-n-ブチルアミン等のジアルキルアミン類、ジエタノールアミン等のジアルカノールアミン類や、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が使用できる。
【0073】
イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(d)と、ポリアミノ化合物(e)、および必要に応じて反応停止剤を反応させる際の条件はとくに限定はないが、ウレタンプレポリマーの両末端に有する遊離のイソシアネート基を1当量とした場合、ポリアミノ化合物(e)および反応停止剤中のアミノ基の合計当量が0.5~1.3の範囲内であることが好ましい。更に好ましくは0.8~0.995の範囲内である。
ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、5000~200000の範囲が好ましい。
【0074】
ポリウレタン樹脂の合成時には、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、カーボネート系溶剤、水等から選ばれる一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンベンゼン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサンノン等が挙げられる。
グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、およびこれらモノエーテル類の酢酸エステル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、およびこれらモノエーテル類の酢酸エステル等が挙げられる。
脂肪族系溶剤としては、n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。
芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
カーボネート系溶剤としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ
-n-ブチルカーボネート等が挙げられる。
【0075】
<ポリアミド樹脂>
本発明に用いられるポリアミド樹脂とは、基本的に二塩基酸とジアミンの重縮合、アミノカルボン酸の重縮合、或いはラクタムの開環重合などの各種反応で得られるアミド結合を有する高分子の総称であり、各種の変性ポリアミドをはじめ、一部水素添加された反応物で製造されたもの、他のモノマーが一部共重合された製造物、或いは各種添加剤などの他の物質が混合されたものなどを含む広い概念である。
【0076】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は上記のような条件が満たされれば特に限定されないが、ダイマー酸を主成分とする二塩基酸とポリアミン類とを縮合重合させて得られるダイマー酸変性ポリアミド樹脂が好ましい。ダイマー酸変性ポリアミド樹脂を製造する際のダイマー酸としては、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸などに含まれる天然の一塩基性不飽和脂肪酸を重合したダイマー酸が工業的に広く用いられるが、原理的には、飽和脂肪族、不飽和脂肪族、脂環式、或いは芳香族などの各種ジカルボン酸などであってもよい。
当該ダイマー酸の市販品としては、ハリダイマー200、300(ハリマ化成社製)、バーサダイム228、216、エンポール1018、1019、1061、1062(コグニス社製)などが挙げられる。さらに、水素添加されたダイマー酸も使用でき、水添ダイマー酸の市販品としてはプリポール1009(クローダジャパン株式会社製)、エンポール1008(コグニス社製)などが挙げられる。
上記ダイマー酸以外に、適当な柔軟性を有するポリアミド樹脂にするため、二塩基酸として各種のジカルボン酸を用いることができる。ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、(無水)コハク酸、(無水)マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ビメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸などが用いられる。
【0077】
さらに、二塩基酸としてフェノール性水酸基を有するものも使用できる。フェノール性水酸基を有する二塩基酸を使用することによって、ポリアミド樹脂の側鎖にフェノール性水酸基を導入することができ、硬化剤との反応に利用することができる。
フェノール性水酸基を有する二塩基酸としては、
2-ヒドロキシイソフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシイソフタル酸、
2,5-ジヒドロキシイソフタル酸、2,4-ジヒドロキシイソフタル酸、4,6-ジヒドロキシイソフタル酸等のジヒドロキシイソフタル酸、
2-ヒドロキシテレフタル酸、2,3-ジヒドロキシテレフタル酸、2,6-ジヒドロキシテレフタル酸等のジヒドロキシテレフタル酸、
4-ヒドロキシフタル酸、3-ヒドロキシフタル酸等のヒドロキシフタル酸、
3,4-ジヒドロキシフタル酸、3,5-ジヒドロキシフタル酸、4,5-ジヒドロキシフタル酸、3,6-ジヒドロキシフタル酸等のジヒドロキシフタル酸などが挙げられる。
更にこれらの酸無水物や例えば多塩基酸メチルエステルのようなエステル誘導体なども挙げられる。
なかでも、共重合性、入手の容易さなどの点から、5-ヒドロキシイソフタル酸が好ましい。
【0078】
さらに、加熱時に適当な流動性を有するポリアミド樹脂にするため、必要に応じて各種のモノカルボン酸を用いる。モノカルボン酸としては、具体的には、プロピオン酸、酢酸、カプリル酸(オクタン酸)、ステアリン酸、オレイン酸などが用いられる。
上記ダイマー酸変性ポリアミド樹脂を製造する際の反応物としてのポリアミン類は、例えば、脂肪族、脂環式、芳香族などの各種ジアミン、トリアミン、ポリアミンなどである。
上記ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p-又はm-キシレンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、2,2-ビス-(4-シクロヘキシルアミン)、ポリグリコールジアミン、イソホロンジアミン、1,2-、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジアミン、1,4-ビス-(2’-アミノエチル)ベンゼン、N-エチルアミノピペラジン、ピペラジンなどが挙げられる。
また、トリアミンにはジエチレントリアミンなどが挙げられ、ポリアミンにはトリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどが挙げられる。さらに、二量体化された脂肪族のニトリル基を変換して水素還元して得られたダイマージアミンも使用することができる。
【0079】
また、ポリアミン化合物としては、炭素数20~48の環状または非環状の炭化水素基を有する多塩基酸化合物のカルボシキル基をアミノ基に転化した化合物が挙げられ、市販品の例としては例えば、クローダジャパン株式会社製の「プリアミン1071」「プリアミン1073」「プリアミン1074」「プリアミン1075」や、コグニスジャパン株式会社製の「バーサミン551」などが挙げられる。
ジアミンにはアルカノールアミンを併用してもよい。アルカノールアミンにはエタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、ブタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール等が挙げられる。
また、酸素を骨格に有するポリエーテルジアミンを用いることができる。このポリエーテルは一般式H2N-R1-(RO)n-R2-NH2 (式中、nは2~100であり、R1、R2は炭素原子数が1~14個であるアルキル基または脂環式炭化水素基であり、Rは炭素原子数が1~10個であるアルキル基または脂環式炭化水素基である。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。)で表すことができる。このエーテルジアミンとしてはポリオキシプロピレンジアミン等が挙げられ、市販品としてはジェファーミン類(サンテクノケミカル社製)がある。また、ビス-(3-アミノプロピル)-ポリテトラヒドロフランも挙げることができる。
上記ポリアミン類とダイマー酸或いは各種ジカルボン酸とは常法により加熱縮合され、脱水を伴ったアミド化工程によりダイマー酸変性ポリアミド樹脂をはじめとする各種ポリアミド樹脂が製造される。一般に、反応温度は100~300℃程度、反応時間は1~8時間程度である。
【0080】
バインダー樹脂としては、結着性および耐久性の観点から、イソシアネート基と反応可能な官能基を有する、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種の構造を側鎖に有するビニル系重合体(C-A1)を含むことも好ましい。
【0081】
(重合体(C-A1))
重合体(C-A1)とは、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体を重合させて得られるビニル系共重合体の主鎖に、イソシアネート基と反応可能な官能基を有する、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種の構造を側鎖として導入した、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエングラフトビニル系重合体をいう。
【0082】
イソシアネート基と反応可能な官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基等が挙げられるが、反応性の点で水酸基が好適である。
側鎖の導入方法は、特に限定されることはないが、例えば、不飽和二塩基酸とエチレン性不飽和二重結合を有する他の単量体との共重合体(f)を合成し、共重合体(f)のカルボン酸または無水カルボン酸部分と、カルボキシル基と反応可能な官能基と、イソシアネート基と反応可能な官能基とを有する、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種(g)のカルボキシル基と反応可能な官能基とを縮合反応させることにより導入することができる。
また、より高い強靱性、耐久性を必要とする用途に用いる場合には、より高い架橋密度を得る為に、ビニル系重合体主鎖に直接、イソシアネートと反応可能な官能基を導入することが望ましい。その場合、重合体(C-A1)は、不飽和二塩基酸(f1)、イソシアネートと反応可能な官能基とエチレン性不飽和二重結合を有する(f1)以外の単量体(f2)、及びエチレン性不飽和二重結合を有する(f1)および(f2)以外の単量体(f3)の共重合体(f)と、カルボキシル基と反応可能な官能基と、イソシアネート基と反応可能な官能基とを有する、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種(g)との縮合反応により得ることができる。
共重合体(f)の合成に使用可能な不飽和二塩基酸(f1)の例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロトン酸、ジフェニルメタン-ジ-γ-ケトクロトン酸等が挙げられる。
不飽和二塩基酸(f1)は、要求性能に応じて、1種、または2種以上を混合して用いることができる。また、共重合体(f)の原料となる単量体中の不飽和二塩基酸(f1)の割合は、好ましくは0.01~30質量%、更に好ましくは0.05~10質量%である。
イソシアネートと反応可能な官能基とエチレン性不飽和二重結合を有する(f1)以外の単量体(f2)としては、イソシアネート基と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系単量体、ビニル単量体等を用いることができる。中でも、反応性の点で(メタ)アクリル系単量体が好適である。
イソシアネート基と反応可能な官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基等が挙げられるが、反応性の点で水酸基が好適である。
【0083】
水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のモノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノ(メタ)アクリレート、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
エポキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
N-メチロール基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
N-アルコキシメチル基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-モノアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0084】
ビニル単量体としては、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール等が挙げられる。
イソシアネートと反応可能な官能基とエチレン性不飽和二重結合を有する(f1)以外の単量体(f2)は、要求性能に応じて、1種、または2種以上を混合して用いることができる。また、共重合体(f)の原料となる単量体中の単量体(f2)の割合は、好ましくは0.01~50質量%、更に好ましくは0.1~20質量%、特に好ましくは0.1~10質量%である。
【0085】
エチレン性不飽和二重結合を有する(f1)および(f2)以外の単量体(f3)としては、(メタ)アクリル系単量体、芳香族ビニル単量体、オレフィン系炭化水素単量体、ビニルエーテル単量体等を用いることができる。
(メタ)アクリル系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。
オレフィン系炭化水素単量体としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、イソプレン、1,4-ペンタジエン等が挙げられる。
ビニルエーテル単量体の例としては、ビニルメチルエーテルが挙げられる。
エチレン性不飽和二重結合を有する(f1)および(f2)以外の単量体は、要求性能に応じて、1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0086】
共重合体(f)は、公知の方法、例えば、溶液重合で得ることができる。溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの使用が可能である。溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。
合成時の単量体の仕込み濃度は、0~80質量%が好ましい。
重合開始剤としては、過酸化物またはアゾ化合物、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾイソブチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、ジt-ブチルペルオキシド、t-ブチルペルベンゾエート、t-ブチルペルオクトエート、クメンヒドロキシペルオキシド等を使用することができ、重合温度は、50~200℃、特に70~140℃が好ましい。
【0087】
共重合体(f)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、好ましくは5,000~500,000、更に好ましくは10,000~100,000である。
【0088】
化合物(g)としては、例えば、直鎖の末端または分岐した末端に、カルボキシル基と反応可能な官能基と、イソシアネート基と反応可能な官能基とをそれぞれ1個以上ずつ有するポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンを用いることができる。中でも、熱プレス後に十分な塗膜強度を得るためにはポリエステルが好適である。
化合物(g)のカルボキシル基と反応可能な官能基としては、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基等が挙げられるが、反応性の点で水酸基が好適である。また、化合物(g)のイソシアネート基と反応可能な官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基等が挙げられるが、反応性の点で水酸基が好適である。化合物(g)のカルボキシル基と反応可能な官能基と、イソシアネート基と反応可能な官能基とは、同一の官能基でも構わないし、異なる官能基でも構わない。
【0089】
ポリエステルの例としては、ジカルボン酸の少なくとも1種と、多価アルコール、多価フェノール、またはこれらのアルコキシ変性物等のポリオールの少なくとも1種とをエステル化して得られる末端水酸基含有エステル化合物、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基、またはN-アルコキシメチル基に変性したエステル化合物などが挙げられる。
ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタル酸、p-オキシ安息香酸、p-(ヒドロキシ)安息香酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライ酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等のジカルボン酸等が挙げられる。
多価アルコールの例としては、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,2-ジメチル-1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,1,1-トリメチロールプロパンエチレングリコール、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。
多価フェノールの例としては、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ヘキシルレゾルシン、トリヒドロキシベンゼン、ジメチロールフェノール等が挙げられる。
市販品の水酸基を2個以上有するポリエステル(ポリエステルポリオール)としては、例えば、株式会社クラレ製のクラレポリオールP-510、P-1010、P-1510、P-2010、P-3010、P-4010、P-5010、P-6010、P-2011、P-2013、P-520、P-1020、P-2020、P-1012、P-2012、P-530、P-1030、P-2030、PMHC-2050、PMHC-2050R、PMHC-2070、PMHC-2090、PMSA-1000、PMSA-2000、PMSA-3000、PMSA-4000、F-2010、F-3010、N-2010、PNOA-1010、PNOA-2014、O-2010、住友バイエルウレタン株式会社製のデスモフェン650MPA、651MPA/X、670、670BA、680X、680MPA、800、800MPA、850、1100、1140、1145、1150、1155、1200、1300X、1652、1700、1800、RD181、RD181X、C200、東洋紡績株式会社製のバイロン200、560、600、GK130、GK860、GK870、290、GK590、GK780、GK790等が挙げられる。
また、ポリエーテルの例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基またはN-アルコキシメチル基に変性したエーテル化合物が挙げられる。市販の水酸基を2個以上有するポリエーテル(ポリエーテルポリオール)としては、例えば、住友バイエルウレタン株式会社製のデスモフェン250U、550U、1600U、1900U、1915U、1920D等が挙げられる。
【0090】
また、ポリカーボネートの例としては、下記一般式で表されるポリカーボネートジオール、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基またはN-アルコキシメチル基に変性したカーボネート化合物が挙げられる。
H-(O-R-OCO-)nR-OH
(R:アルキレン鎖、ジエチレングリコール等)
市販の水酸基を2個以上有するポリカーボネートとしては、例えば、株式会社クラレ製のクラレポリオールPNOC-1000、PNOC-2000、PMHC-2050、PMHC-2050R、PMHC-2070、PMHC-2070R、PMHC-2090R、C-2090等が挙げられる。
また、ポリブタジエンの例としては、α,ω-ポリブタジエングリコール、α、β-ポリブタジエングリコール、及び末端の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、N-メチロール基またはN-アルコキシメチル基に変性したブタジエン化合物が挙げられる。
市販の水酸基を2個以上有するポリブタジエンとしては、例えば、日本曹達株式会社製
のNISSO-PBG-1000、G-2000、G-3000、GI-1000、GI-2000、GI-3000、GQ-1000、GQ-2000等が挙げられる。
市販のエポキシ基を2個以上有するポリブタジエンとしては、例えば、日本曹達株式会社製のNISSO-PBBF-1000、EPB-13、EPB-1054等が挙げられる。
【0091】
化合物(g)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、溶剤への溶解性、共重合体(f)との相溶性、共重合体(f)との反応性および密着性の観点から好ましくは500~25,000、更に好ましくは1,000~10,000である。
【0092】
重合体(C-A1)は、共重合体(f)のカルボン酸または無水カルボン酸部分と、化合物(g)のカルボキシル基と反応可能な官能基とを、公知の方法、例えば、化合物(g)のカルボキシル基と反応可能な官能基が水酸基、エポキシ基の場合はエステル化、アミノ基の場合はアミド化、イソシアネート基の場合はイミド化して得ることができる。溶剤としては、共重合体(f)合成時の溶媒をそのまま用いることができ、更に、合成時の条件、塗工時の条件などに応じて、他の溶媒を加えたり、脱溶媒したりしても構わない。
反応触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミンなどの3級アミンなどが用いられ、反応温度は、50~300℃が好ましい。
共重合体(f)と化合物(g)との反応比率は、共重合体(f)のカルボン酸または無水カルボン酸1モルに対して、化合物(g)のカルボキシル基と反応可能な官能基が、0.01~10モルとなるのが好ましく、0.1~5モルとなるのが更に好ましく、0.5~2モルとなるのが更に好ましい。
また、共重合体(f)、化合物(g)は、それぞれ1種類ずつを用いる必要はなく、目的、必要物性に応じて、それぞれ複数種を用いても構わない。
また、重合体(C-A1)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、好ましくは5,000~500,000、更に好ましくは10,000~100,000である。
【0093】
(ポリイソシアネート化合物(C-B))
バインダー樹脂が、イソシアネート基と反応可能な官能基を有する、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種の構造を側鎖に有するビニル系重合体(C-A1)である場合には、さらに2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(C-B)を含有することが好ましい。
2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物は、重合体(C-A1)と重合体(C-A1)を架橋させ、加熱後に十分な電極強度を得るために用いられる。
ポリイソシアネート化合物としては、屋外で使用する場合には、塗膜が経時で劣化することを防ぐために、脂環族または脂肪族の化合物のみを用いることが好ましい。
脂環族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、o-キシレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどが挙げられる。
ポリイソシアネート化合物としては、上記化合物とグリコール類またはジアミン類との両末端イソシアネートアダクト体、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体を用いても構わない。
特に、ポリイソシアネート化合物がイソシアヌレート変性体、特にイソシアヌレート環含有トリイソシアネートを含む場合には、熱プレス後に十分な塗膜強度が得ることができるため、好ましい。イソシアヌレート環含有トリイソシアネートとして具体的には、イソシアヌレート変性イソホロンジイソシアネート(例えば、住友バイエルウレタン株式会社製のデスモジュールZ4470)、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(例えば、住友バイエルウレタン株式会社製のスミジュールN3300)、イソシアヌレート変性トルイレンジイソシアネート(例えば、住友バイエルウレタン株式会社製のスミジュールFL-2、FL-3、FL-4、HLBA)が挙げられる。
【0094】
また、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、メタノール、エタノール、n-ペンタノール、エチレンクロルヒドリン、イソプロピルアルコール、フェノール、p-ニトロフェノール、m-クレゾール、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ε-カプロラクタムなどのブロック剤と反応させてブロック化した、ブロック変性体を用いても構わない。
更に、ポリイソシアネート化合物として、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有するポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、またはポリブタジエンから選ばれる少なくとも1種(h)と両末端にイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物(i)とを反応させてなる、両末端イソシアネートプレポリマーを用いても構わない。ポリイソシアネート化合物が上記両末端イソシアネートプレポリマーを含む場合には、少量で柔軟性が得られ、基材との密着性が良好になる。
化合物(h)としては、化合物(g)と同様の化合物を用いることができる。化合物(i)としては、例えば、トルイレンジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、o-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
両末端イソシアネートプレポリマーは、化合物(h)のイソシアネート基と反応可能な官能基1モルに対して、化合物(i)のイソシアネート基が1モルより大きくなるような比率で化合物(h)と化合物(i)を混合し、加熱撹拌して反応させることにより得られる。プレポリマーのポリスチレン換算の重量平均分子量は、塗膜強度、溶解性、相溶性の観点から、好ましくは500~50,000、更に好ましくは1,000~50,000、特に好ましくは1,000~10,000である。
ポリイソシアネート化合物(C-B)は、要求性能に応じて、重合体(C-A1)の官能基の総数に対して、イソシアネート基の総数が、好ましくは0.1倍~5.0倍、更に好ましくは0.5倍~3.0倍、特に好ましくは0.8~2.0倍となるような比率で、1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0095】
次に水系樹脂について説明する。水系樹脂は、水に溶解させて使用する水溶性樹脂や、水には不溶な樹脂微粒子を水中で分散させて使用する水性樹脂微粒子(一般的には水性エマルションと呼ばれる)が挙げられる。これらの樹脂は、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0096】
水溶性樹脂としては、上述の通り水溶性を示す樹脂であれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール誘導体、キサンタンガム誘導体、グァーガム誘導体、キトサン誘導体、セルロース誘導体、アルギン酸、アルギン酸誘導体、コーンスターチ誘導体等が挙げられる。また、水溶性であれば、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これら水溶性樹脂は、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
水溶性樹脂の分子量は特に限定されないが、好ましくは質量平均分子量が5,000~2,500,000である。質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリエチレンオキサイド換算分子量を示す。
【0097】
水性樹脂微粒子としては、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(スチレン・ブタジエンゴム(SBR)など)、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)等が挙げられる。水溶性高分子と異なり、エマルションは粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れるものが好ましい。
【0098】
(水性樹脂微粒子の粒子構造)
また、本発明に用いる水性樹脂微粒子の粒子構造は、多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部、またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。
【0099】
(水性樹脂微粒子の粒子径)
本発明に用いる水性樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の点から、10~500nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5%以下であることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
【0100】
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。架橋型樹脂微粒子分散液は固形分に応じて200~1000倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装社製マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)および樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の平均粒子径とする。
【0101】
<(メタ)アクリル系エマルション>
次に、(メタ)アクリル系エマルションについて説明する。(メタ)アクリル系エマルションとは、(メタ)アクリロイル基を有する単量体を10質量部以上含有する乳化重合物であり、好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上含有されているとよい。アクリロイル基を有する単量体は反応性に優れるため、樹脂微粒子を比較的容易に作製することができる。また、(メタ)アクリル系エマルションによる多孔質電極は結着性に優れる。
【0102】
(メタ)アクリル系エマルションを使用する場合、以下で説明する架橋型樹脂微粒子を含むことが好ましい。架橋型樹脂微粒子とは、内部架橋構造(三次元架橋構造)を有する樹脂微粒子を示し、粒子内部で架橋していることが重要である。架橋型樹脂微粒子が架橋構造をとることにより耐電解液溶出性を確保することができ、粒子内部の架橋を調整することでその効果を高めることができる。また、架橋型樹脂微粒子が特定の官能基を含有することにより、他の電極構成材料や基材との密着性に寄与することができる。さらには架橋構造や官能基の量を調整することで、電池の優れた耐久性を得ることができる。
また、架橋には粒子同士の架橋(粒子間架橋)を併用することもできるが、この場合、多くは架橋剤をあとで添加するため、架橋剤成分の電解液への漏出や電極作製時のバラツキが生じる場合もある。このため、架橋剤は耐電解液性を損なわない程度に用いる必要がある。
【0103】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、エチレン性不飽和単量体を水中にて界面活性剤の存在下、ラジカル重合開始剤によって乳化重合して得られる樹脂微粒子である。本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルションは、下記単量体(C-C1)および(C-C2)を下記割合で含むエチレン性不飽和単量体を乳化重合することにより得ることが好ましい。
(C-C1)単官能または多官能アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体(C-c1)、および1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(C-c2)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体:0.1~5質量%
(C-C2)前記単量体(C-c1)~(C-c2)以外のエチレン性不飽和単量体(C-c3):95~99.9質量%
(但し、前記(C-c1)~(C-c3)の合計を100質量%とする)
【0104】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子を構成するエチレン性不飽和単量体のうち(C-c1)、(C-c3)は、特に断らない限り、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有する単量体のことを示す。
【0105】
<単量体群(C-C1)について>
単量体群(C-C1)に含まれる単量体の有する官能基(アルコキシシリル基、エチレン性不飽和基)は、自己架橋型反応性官能基であり、主に粒子合成中における粒子内部架橋を形成する効果がある。粒子の内部架橋を十分に行うことで、耐電解液性を向上させることができる。したがって、単量体群(C-C1)に含まれる単量体を使用することで架橋型樹脂微粒子とすることができる。また、粒子架橋を十分に行うことで、耐電解液性を向上させることができる。
【0106】
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、アルコキシシリル基とを有する単量体(C-c1)としては、例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランなどがあげられる。
【0107】
1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(C-c2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸1-メチルアリル、(メタ)アクリル酸2-メチルアリル、(メタ)アクリル酸1-ブテニル、(メタ)アクリル酸2-ブテニル、(メタ)アクリル酸3-ブテニル、(メタ)アクリル酸1,3-メチル-3-ブテニル、(メタ)アクリル酸2-クロルアリル、(メタ)アクリル酸3-クロルアリル、(メタ)アクリル酸o-アリルフェニル、(メタ)アクリル酸2-(アリルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸アリルラクチル、(メタ)アクリル酸シトロネリル、(メタ)アクリル酸ゲラニル、(メタ)アクリル酸ロジニル、(メタ)アクリル酸シンナミル、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、(メタ)アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、(メタ)アクリル酸2-(2’-ビニロキシエトキシ)エチルなどのエチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル酸エステル類;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ジアクリル酸1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタン、トリアクリル酸1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタン、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリル酸などの多官能(メタ)アクリル酸エステル類;ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニルなどのジビニル類;イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリルなどのジアリル類などがあげられる。
【0108】
単量体(C-c1)または単量体(C-c2)中のアルコキシシリル基またはエチレン性不飽和基は、主に重合中にそれぞれが自己縮合、または重合して粒子に架橋構造を導入することを目的としているが、その一部が重合後にも粒子内部や表面に残存していてもよい。残存したアルコキシシリル基、またはエチレン性不飽和基は、バインダー組成物の粒子間架橋に寄与する。特にアルコキシシリル基は基材への密着性向上に寄与する効果があるため好ましい。
【0109】
本発明では、単量体群(C-C1)に含まれる単量体は、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体(合計100質量%)中に0.1~5質量%使用されることを特徴とする。好ましくは0.5~3質量%である。
【0110】
<単量体群(C-C2)について>
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、上述した1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、アルコキシシリル基とを有する単量体(C-c1)、および1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(C-c2)に加えて、単量体群(C-C2)として、単量体(C-c1)、(C-c2)以外の、エチレン性不飽和基を有する単量体(C-c3)を同時に乳化重合することで得ることができる。
【0111】
この単量体(C-c3)としては、単量体(C-c1)、(C-c2)以外であって、エチレン性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能エポキシ基とを有する単量体(C-c4)、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能アミド基とを有する単量体(c5)、および1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能水酸基とを有する単量体(C-c6)からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体、および、単量体(C-c1)、(C-c2)、(C-c4)~(C-c6)以外の、エチレン性不飽和基を有する単量体(C-c7)を使用することができる。
単量体(C-c4)~(C-c6)を使用することにより、エポキシ基、アミド基、または水酸基を架橋型樹脂微粒子の粒子内や表面に残存させることができ、これにより基材の密着性などの物性を向上させることができる。単量体(C-c4)~(C-c6)は、粒子合成後でもその官能基が粒子内部や表面に残存しやすく、少量でも基材への密着性効果が大きい。また、その一部が架橋反応に使用されてもよく、これらの官能基の架橋度合いを調整することで、耐電解液性と結着性のバランスをとることができる。
【0112】
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能エポキシ基とを有する単量体(C-c4)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0113】
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能アミド基とを有する単量体(C-c5)としては、例えば、(メタ)アクリルアミドなどの第一アミド基含有エチレン性不飽和単量体;N-メチロールアクリルアミド、N,N-ジ(メチロール)アクリルアミド、N-メチロール-N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアルキロール(メタ)アクリルアミド類;N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミドなどのモノアルコキシ(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミドなどのジアルコキシ(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミドなどのジアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドなどのジアルキル(メタ)アクリルアミド類;ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのケト基含有(メタ)アクリルアミド類などがあげられる。
【0114】
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、単官能または多官能水酸基とを有する単量体(C-c6)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコールなどがあげられる。
【0115】
単量体(C-c4)~(C-c6)に含まれる単量体の官能基は、その一部が粒子重合中に反応し、粒子内架橋に使われても構わない。本発明では、単量体(C-c4)~(C-c6)に含まれる単量体は、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体(合計100質量%)中に0.1~20質量%使用されることを特徴とする。好ましくは1~15質量%であり、特に好ましくは2~10質量%である。
【0116】
単量体(C-c7)としては、単量体(C-c1)、(C-c2)、(C-c4)~(C-c6)以外であって、エチレン性不飽和基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、炭素数8~18のアルキル基とを有する単量体(C-c8)、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、環状構造とを有する単量体(C-c9)などがあげられる。単量体(C-c7)として、該単量体(C-c8)および/または単量体(C-c9)を乳化重合に使用する場合には(単量体(C-c7)としてそれら以外の単量体を含んでいてもよい)、該単量体(C-c8)および(C-c9)が、エチレン性不飽和基を有する単量体全体((C-c1)、(C-c2)、(C-c4)~(C-c6)および(C-c7))中に合計で30~95質量%含まれることが好ましい。単量体(C-c8)や単量体(C-c9)を使用することで粒子合成時の粒子安定性や耐電解液性に優れるため好ましい。
【0117】
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、炭素数8~18のアルキル基とを有する単量体(C-c8)としては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0118】
1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、環状構造とを有する単量体(C-c9)としては、脂環式エチレン性不飽和単量体や芳香族エチレン性不飽和単量体などがあげられる。脂環式エチレン性不飽和単量体としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどがあげられ、芳香族エチレン性不飽和単量体としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、クロロスチレン、アリルベンゼン、エチニルベンゼンなどがあげられる。
【0119】
上記単量体(C-c8)、単量体(C-c9)以外の単量体(C-c7)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルアミル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルウンデシル(メタ)アクリレートなどの炭素数1~20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレンなどのパーフルオロアルキル、アルキレン類などのパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和化合物;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n-ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n-ブトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n-ペンタキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するエチレン性不飽和化合物;ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和化合物;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、およびトリメチル-3-(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルエチル)アンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和化合物;酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニル系化合物;ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系エチレン性不飽和単量体;1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセンなどのα-オレフィン系エチレン性不飽和単量体;酢酸アリル、シアン化アリルなどのアリル単量体;シアン化ビニル、ビニルシクロヘキサン、ビニルメチルケトンなどのビニル単量体;アセチレン、エチニルトルエンなどのエチニル単量体などがあげられる。
【0120】
また、上記単量体(C-c8)、単量体(C-c9)以外の単量体(C-c7)としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などのカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;ターシャリーブチル(メタ)アクリレートなどのターシャリーブチル基含有エチレン性不飽和単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体;(2-ヒドロキシエチル)メタクリレートアッシドホスフェートなどのリン酸基含有エチレン性不飽和単量体;ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクロレイン、N-ビニルホルムアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレートなどのケト基含有エチレン性不飽和単量体(1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、ケト基とを有する単量体)などがあげられる。
【0121】
単量体(C-c7)として、ケト基含有エチレン性不飽和単量体を使用する場合、架橋剤としてケト基と反応しうるヒドラジド基を2個以上有する多官能ヒドラジド化合物をバインダー組成物に混合すると、ケト基とヒドラジド基との架橋により強靱な電極を得ることができる。このことにより優れた耐電解液性、結着性を有する。
【0122】
また、単量体(C-c7)の中でもカルボキシル基、ターシャリーブチル基(熱によりターシャリーブタノールが脱離してカルボキシル基になる。)、スルホン酸基、およびリン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合して得られた樹脂微粒子は、重合後にも粒子内や表面に前記官能基が残存し、結着性などの物性を向上させる効果があると同時に、合成時の凝集を防いだり、合成後の粒子安定性を保持したりする場合あるため好ましく使用することができる。
【0123】
カルボキシル基、ターシャリーブチル基、スルホン酸基、およびリン酸基は、その一部が重合中に反応し、粒子内架橋に使われても構わない。カルボキシル基、ターシャリーブチル基、スルホン酸基、およびリン酸基を含む単量体を用いる場合には、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体(合計100質量%)中に0.1~10質量%含まれることが好ましく、さらには1~5質量%含まれることがより好ましい。さらにこれらの官能基は、乾燥時に反応して粒子内や粒子間の架橋に使われても構わない。
【0124】
例えばカルボキシル基は、重合中および乾燥時にエポキシ基と反応して樹脂微粒子に架橋構造を導入できる。同様に、ターシャリーブチル基も一定温度以上の熱が加わるとターシャリーブチルアルコールが生成するとともにカルボキシル基が形成されるため、前記同様エポキシ基と反応することができる。
【0125】
これらの単量体(C-c7)は、粒子の重合安定性やガラス転移温度、さらには電極物性を調整するために、上記にあげたような単量体を2種以上併用して用いることができる。また、例えば(メタ)アクリロニトリルなどを併用することでゴム弾性が発現する効果がある。
【0126】
<本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の製造方法>
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0127】
<乳化重合で用いられる乳化剤>
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0128】
エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤はさらに大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、耐電解液性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤若しくはノニオン性反応性乳化剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いてもよい。
【0129】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本願発明において使用可能とする乳化剤は、以下に記載するもののみに限定されるものではない。
【0130】
乳化剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH-05、KH-10、KH-20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR-10N、SR-20N、花王株式会社製ラテムルPD-104など);スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS-120、S-120A、S-180P、S-180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS-2など);アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH-2855A、H-3855B、H-3855C、H-3856、HS-05、HS-10、HS-20、HS-30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX-222、SDX-223、SDX-232、SDX-233、SDX-259、SE-10N、SE-20N、など);(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS-60、MS-2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS-30など);リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H-3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP-70など)などがあげられる。
【0131】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性乳化剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER-10、ER-20、ER-30、ER-40、花王株式会社製ラテムルPD-420、PD-430、PD-450など);アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN-10、RN-20、RN-30、RN-50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE-10、NE-20、NE-30、NE-40など);(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA-564、RMA-568、RMA-1114など)などがあげられる。
【0132】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性乳化剤を併用することができる。非反応性乳化剤は、非反応性アニオン系乳化剤と非反応性ノニオン系乳化剤とに大別することができる。
【0133】
非反応性ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
【0134】
また、非反応性アニオン系乳化剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
【0135】
本発明において用いられる乳化剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、架橋型樹脂微粒子が最終的なバインダーとして使用される際に求められる物性にしたがって適宜選択できる。例えば、エチレン性不飽和単量体の合計100質量部に対して、乳化剤は通常0.1~30質量部であることが好ましく、0.3~20質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0136】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の乳化重合に際しては、水溶性保護コロイドを併用することもできる。水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩などのセルロース誘導体;グアガムなどの天然多糖類などがあげられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。水溶性保護コロイドの使用量としては、エチレン性不飽和単量体の合計100質量部当り0.1~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2質量部である。
【0137】
<乳化重合で用いられる水性媒体>
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水があげられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0138】
<乳化重合で用いられる重合開始剤>
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0139】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリルなどのアゾビス化合物などをあげることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.1~10.0質量部の量を用いるのが好ましい。
【0140】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。また、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩などの還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、全エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.05~5.0質量部の量を用いるのが好ましい。
【0141】
<乳化重合の条件>
なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射などによっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2~24時間である。
【0142】
<反応に用いられるその他の材料>
さらに必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0143】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子の重合にカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体などの酸性官能基を有する単量体を使用した場合、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;2-ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;モルホリンなどの塩基で中和することができる。ただし、乾燥性に効果が高いのは揮発性の高い塩基であり、好ましい塩基はアミノメチルプロパノール、アンモニアである。
【0144】
<重合した樹脂微粒子に添加する未架橋の化合物(C-E)>
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルションは、架橋型樹脂微粒子に加えて、さらに、未架橋のエポキシ基含有化合物、未架橋のアミド基含有化合物、未架橋の水酸基含有化合物、および未架橋のオキサゾリン基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの未架橋の化合物(C-E)[以下、化合物(C-E)と表記する場合がある]とを含むことが好ましい。化合物(C-E)は、水性液状媒体に溶解することがなく、分散する化合物である。
【0145】
化合物(C-E)である「未架橋の官能基含有化合物」とは、単量体群(C-C1)に含まれる単量体のように本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルションの内部架橋構造(三次元架橋構造)を形成する化合物とは異なり、樹脂微粒子が乳化重合(ポリマー形成)された後に添加される(樹脂微粒子の内部架橋形成に関与しない)化合物のことのことをいう。すなわち、「未架橋」とは、本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルションの内部架橋構造(三次元架橋構造)の形成に関与していないことを意味する。
【0146】
本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルションが架橋構造をとることにより耐電解液性が確保され、また、化合物(C-E)を使用することで、化合物(C-E)中のエポキシ基、アミド基、水酸基、およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1つの官能基が、他の電極構成材料や基材との結着性に寄与することができる。さらには架橋構造や官能基の量を調整することで、耐久性に優れた電池を得ることができる。
【0147】
なお、本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子は、粒子内部で架橋していることが必要である。粒子内部の架橋を適度に調整することによって、耐電解液性を確保することができる。さらに、官能基含有架橋型樹脂微粒子に未架橋のエポキシ基含有化合物、未架橋のアミド基含有化合物、未架橋の水酸基含有化合物、および未架橋のオキサゾリン基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの未架橋の化合物(C-E)を添加することで、エポキシ基、アミド基、水酸基またはオキサゾリン基が基材に作用し、他の電極構成材料や基材への結着性を効果的に向上させることができる。化合物(C-E)に含まれる上記官能基は、長期保存時や電極作製時の熱によっても安定であるため、少量の使用でも結着性効果が大きい。さらには保存安定性にも優れている。化合物(C-E)は、バインダーの可とう性や耐電解液性を調整する目的で架橋型樹脂微粒子中の官能基と反応してもよいが、官能基含有架橋型樹脂微粒子中の官能基との反応のために化合物(C-E)中の官能基が使われすぎると、電極と相互作用し得る官能基が少なくなってしまう。このため、本発明で好適に使用される(メタ)アクリル系エマルション中の架橋型樹脂微粒子と化合物(C-E)との反応は、他の電極構成材料や基材への結着性を損なわない程度である必要がある。また、化合物(C-E)に含まれる上記官能基の一部が架橋反応に用いられる場合[化合物(C-E)が多官能化合物の場合]には、これらの官能基の架橋度合いを調整することで、耐電解液性と結着性のバランスをとることができる。
【0148】
<未架橋のエポキシ基含有化合物>
未架橋のエポキシ基含有化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;前記エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどの多官能エポキシ化合物;ビスフェノールA-エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビスフェノールF-エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂などのエポキシ系樹脂などがあげられる。
【0149】
エポキシ基含有化合物の中でも特にビスフェノールA-エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、ビスフェノールF-エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂などのエポキシ系樹脂や、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂が好ましい。エポキシ系樹脂は、ビスフェノール骨格を有することで耐電解液性を向上させ、また、骨格に含まれる水酸基により結着性を向上させるという相乗効果が期待できる。また、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂は、樹脂骨格内により多くのエポキシ基を有することにより結着性を向上させ、また、樹脂であることにより、単量体に比べて耐電解液性を向上させる効果が期待できる。
【0150】
<未架橋のアミド基含有化合物>
未架橋のアミド基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミドなどの第一アミド基含有化合物;N-メチロールアクリルアミド、N,N-ジ(メチロール)アクリルアミド、N-メチロール-N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアルキロール(メタ)アクリルアミド系化合物;N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミドなどのモノアルコキシ(メタ)アクリルアミド系化合物;N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミドなどのジアルコキシ(メタ)アクリルアミド系化合物;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミドなどのジアルキルアミノ(メタ)アクリルアミド系化合物;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドなどのジアルキル(メタ)アクリルアミド系化合物;ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのケト基含有(メタ)アクリルアミド系化合物など、以上のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;前記アミド基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂などがあげられる。
【0151】
アミド基含有化合物の中でも、特にアクリルアミドなどのアミド基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂が好ましい。樹脂骨格内に、より多くのアミド基を有することにより結着性を向上させ、また、樹脂であることにより、単量体に比べて耐電解液性を向上させる効果が期待できる。
【0152】
<未架橋の水酸基含有化合物>
未架橋の水酸基含有化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコールなどの水酸基含有エチレン性不飽和単量体;前記水酸基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの直鎖脂肪族ジオール類;プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオールなどの分岐鎖脂肪族ジオール類;1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなどの環状ジオール類などがあげられる。
【0153】
水酸基含有化合物の中でも、特に水酸基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂、または環状ジオール類が好ましい。水酸基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂は、樹脂骨格内に、より多くの水酸基を有することにより結着性を向上させ、また、樹脂であることにより、単量体に比べて耐電解液性を向上させる効果が期待できる。また、環状ジオール類は、骨格に環状構造を有することにより、耐電解液性を向上させる効果が期待できる。
【0154】
<未架橋のオキサゾリン基含有化合物>
未架橋のオキサゾリン基含有化合物としては、例えば、2’-メチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-プロピレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4-フェニレンビス-2-オキサゾリン)、2,2’-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-o-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-エチル-2-オキサゾリン)、2,2’-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、さらにはオキサゾリン基含有ラジカル重合系樹脂などがあげられる。
【0155】
オキサゾリン基含有化合物の中でも、特に、2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)などのフェニレンビス型オキサゾリン化合物、または、オキサゾリン基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂が好ましい。フェニレンビス型オキサゾリン化合物は、骨格内にフェニル基を有することにより耐電解液性を向上させる効果がある。また、オキサゾリン基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を重合して得られるラジカル重合系樹脂は、樹脂骨格内により多くのオキサゾリン基を有することにより結着性を向上させ、また、樹脂であることにより、単量体に比べて耐電解液性を向上させることができる。
【0156】
(化合物(C-E)の添加量、分子量)
化合物(C-E)は、架橋型樹脂微粒子の固形分100質量部に対して0.1~50質量部添加するのが好ましく、5~40質量部添加するのがさらに好ましい。さらに、化合物(C-E)は2種類以上併用することも可能である。
【0157】
化合物(C-E)の分子量は特に限定されないが、質量平均分子量が1,000~1,000,000であるのが好ましく、さらには5,000~500,000がより好ましい。なお、上記質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0158】
<分散剤>
次に、分散剤について説明する。本発明の生物燃料電池アノード用組成物では、分散剤を使用することによって、導電性を阻害することなく、生物燃料電池アノード用炭素材料の分散性に優れた電極を提供することができる。その結果、生物燃料電池アノード用炭素材料が均一に分布した電極を作製することが出来たり、生物が吸着出来る材料表面を有効に使用することが出来るため、電極の導電性や反応抵抗を改善出来る。また、電極への濡れ性を高めることも出来る。使用出来る分散剤としては、特に限定されないが、生物燃料電池アノード用組成物に含まれる溶媒に適した有機溶剤系分散剤および水系分散剤を使用することが好ましく、2種以上を用いてもよい。
【0159】
有機溶剤系分散剤としては、塩基性官能基を有する顔料誘導体、塩基性官能基を有する樹脂が挙げられる。また、酸性官能基を有する顔料誘導体、酸性官能基を有する樹脂が挙げられる。塩基性官能基を有する顔料誘導体の内、好ましい形態として、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するアントラキノン誘導体、塩基性官能基を有するアクリドン誘導体、及び塩基性官能基を有するトリアジン誘導体等の各種誘導体が挙げられる。また、酸性官能基を有する顔料誘導体の内、好ましい形態として、酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するアントラキノン誘導体、酸性官能基を有するアクリドン誘導体、及び酸性官能基を有するトリアジン誘導体等の各種誘導体が挙げられる。
【0160】
塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するアントラキノン誘導体、塩基性官能基を有するアクリドン誘導体、又は塩基性官能基を有するトリアジン誘導体の合成方法としては、特に限定されるものではなく、周知の方法を適用することができる。例えば、特開昭54-62227号公報、特開昭56-118462号公報、特開昭56-166266号公報、特開昭60-88185号公報、特開昭63-305173号公報、特開平3-2676号公報、又は特開平11-199796号公報等に記載されている方法を適用することができる。上記公報による開示を参照することにより、本明細書の一部に組み込むものとする。
【0161】
市販の酸性官能基を有する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。これらは単独で用いても、併用してもかまわない。
ビックケミー社製の酸性官能基を有する樹脂としては、Anti-Terra-U、U100、203、204、205、Disperbyk-101、102、106、107、110、111、140、142、170、171、174、180、2001、BYK-P104、P104S、P105、9076、及び220S等が挙げられる。
【0162】
日本ルーブリゾール社製の酸性官能基を有する樹脂としては、SOLSPERSE3000、21000、26000、36000、36600、41000、41090、43000、44000、及び53095等が挙げられる。
【0163】
エフカアディティブズ社製の酸性官能基を有する樹脂としては、EFKA4510、4530、5010、5044、5244、5054、5055、5063、5064、5065、5066、5070、及び5071等が挙げられる。
【0164】
味の素ファインテクノ社製の酸性官能基を有する樹脂としては、アジスパーPN411、及びアジスパーPA111等が挙げられる。
【0165】
ELEMENTIS社製の酸性官能基を有する樹脂としては、NuosperseFX-504、600、605、FA620、2008、FA-196、及びFA-601等が挙げられる。
【0166】
ライオン社製の酸性官能基を有する樹脂としては、ポリティA-550、及びポリティPS-1900等が挙げられる。
【0167】
楠本化成社製の酸性官能基を有する樹脂としては、ディスパロン2150、KS-860、KS-873SN、1831、1860、PW-36、DA-1200、DA-703-50、DA-7301、DA-325、DA-375、及びDA-234等が挙げられる。
【0168】
BASFジャパン社製の酸性官能基を有する樹脂としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、52J、57J、60J、61J、62J、63J、70J、HPD-96J、501J、354J、6610、PDX-6102B、7100、390、711、511、7001、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630、352J、252D、538J7640、7641、631、790、780、及び7610等が挙げられる。
【0169】
三菱レイヨン社製の酸性官能基を有する樹脂としては、ダイヤナールBR-60、64、73、77、79、83、87、88、90、93、102、106、113、及び116等が挙げられる。
【0170】
上記の分散剤に限定することなく、さらに市販の有機溶剤系分散剤を使用することも出来、例えば下記のものが挙げられる。
ビックケミー社製の分散剤としては、Disperbyk-103、108、109、112、116、130、161、162、163、164、166、167、168、174、182、183、184、185、2000、2050、2070、2096、2150、BYK-9077等が挙げられる。
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE5000、9000、13240、13650、13940、17000、18000、19000、22000、24000SC、24000GR28000、31845、32000、32500、32600、33500、34750、35100、35200、37500、38500が挙げられる。
エフカアディティブズ社製の分散剤としては、EFKA1500、1501、1502、1503、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4330、4400、4401、4402、4403、4406、4520、4570、4800、5207等が挙げられる。
味の素ファインテクノ社製の分散剤としては、アジスパーPB711、PB821、PB822等が挙げられる。
アイエスピー・ジャパン社製の分散剤としては、ポリビニルピロリドンPVP K-15、K-30、K-60、K-90、又はK-120等が挙げられる。
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトKF-1000、1300M、1500、1700、T-6000、8000、8000E、又は9100等が挙げられる。
積水化学工業社製の分散剤としては、エスレックBL-1、エスレックBL-1H、エスレックBL-2、エスレックBL-2H、エスレックBL-5、エスレックBL-10、エスレックBL-S、エスレックBX-L、エスレックBM-1、エスレックBM-S、エスレックBH-3、エスレックBX-1、エスレックKS-1、エスレックKS-10、エスレックKS-3等が挙げられる。
クラレ社製の分散剤としては、ポバールPVA102、ポバール103、ポバールPVA105、ポバールPVA203、ポバールPVA403、PVA505、ポバールPVA-624、ポバールPVA-706、モビタールB16H、モビタールB60HH、モビタール30T、モビタール30HH、モビタール60T等が挙げられる。
【0171】
次に、水系分散剤について説明する。水系分散剤は特に限定されないが、カチオン性分散剤、アニオン性分散剤、ノニオン性分散剤などを使用することが出来る。
上記分散剤の中でも、水溶性を示す高分子系の樹脂が好ましく、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース等の多糖類の樹脂を含む高分子化合物が挙げられ、特に、エチレン性不飽和単量体を重合または共重合した水溶性の樹脂が好ましい。また、水溶性であれば、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これら分散剤は、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0172】
本発明で言う水溶性を示す樹脂とは、25℃の水99g中に樹脂1gを入れて撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水中で樹脂が完全に溶解可能なものである。
【0173】
(カチオン性分散剤)
市販のカチオン性分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0174】
ビックケミー社製のカチオン性分散剤としては、Disperbyk-108、109、112、116、130、161、162、163、164、166、167、168、180、182、183、184、185、2000、2001、2050、2070、2150、又はBYK-9077が挙げられる。
【0175】
日本ルーブリゾール社製のカチオン性分散剤としては、SOLSPERSE9000、13240、13650、13940、17000、18000、19000、20000、24000SC、24000GR、28000、31845、32000、32500、32600、33500、34750、35100、35200、37500、38500、又は39000が挙げられる。
【0176】
エフカアディティブズ社製のカチオン性分散剤としては、EFKA4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4330、4400、4401、4402、4403、4406、4500、4550、4560、4570、4580、又は4800が挙げられる。
【0177】
味の素ファインテクノ社製のカチオン性分散剤としては、アジスパーPB711、アジスパーPB821、又はアジスパーPB822が挙げられる。
【0178】
楠本化成社製のカチオン性分散剤としては、ディスパロン1850、1860、又はDA-1401が挙げられる。
【0179】
共栄社化学製のカチオン性分散剤としては、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-17等が挙げられる。
【0180】
(アニオン性分散剤)
市販のアニオン性分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。これらは単独で用いても、併用してもかまわない。
【0181】
ビックケミー社製のアニオン性分散剤としては、Anti-Terra-U、U100、203、204、205、Disperbyk-101、102、106、107、110、111、140、142、170、171、174、180、2001、BYK-P104、P104S、P105、9076、及び220S等が挙げられる。
【0182】
日本ルーブリゾール社製のアニオン性分散剤としては、SOLSPERSE3000、21000、26000、36000、36600、41000、41090、43000、44000、及び53095等が挙げられる。
【0183】
エフカアディティブズ社製のアニオン性分散剤としては、EFKA4510、4530、5010、5044、5244、5054、5055、5063、5064、5065、5066、5070、及び5071等が挙げられる。
【0184】
味の素ファインテクノ社製のアニオン性分散剤としては、アジスパーPN411、及びアジスパーPA111等が挙げられる。
【0185】
ELEMENTIS社製のアニオン性分散剤としては、NuosperseFX-504、600、605、FA620、2008、FA-196、及びFA-601等が挙げられる。
【0186】
ライオン社製のアニオン性分散剤としては、ポリティA-550、及びポリティPS-1900等が挙げられる。
【0187】
楠本化成社製のアニオン性分散剤としては、ディスパロン2150、KS-860、KS-873SN、1831、1860、PW-36、DA-1200、DA-703-50、DA-7301、DA-325、DA-375、及びDA-234等が挙げられる。
【0188】
BASFジャパン社製のアニオン性分散剤としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、52J、57J、60J、61J、62J、63J、70J、HPD-96J、501J、354J、6610、PDX-6102B、7100、390、711、511、7001、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630、352J、252D、538J7640、7641、631、790、780、及び7610等が挙げられる。
【0189】
三菱レイヨン社製のアニオン性分散剤としては、ダイヤナールBR-60、64、73、77、79、83、87、88、90、93、102、106、113、及び116等が挙げられる。
【0190】
市販のノニオン性分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。これらは単独で用いても、併用してもかまわない。
【0191】
花王社製のアニオン性分散剤としては、エマルゲン 104P、エマルゲン 106、等のポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0192】
ISPジャパン社製のアニオン性分散剤としては、PVP K-15、PVP K-30、PVP K-60、及びPVP K-90等のポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0193】
(分散剤の分子量)
本発明に用いる分散剤の分子量は特に限定されないが、好ましくは高分子であり、重量平均分子量は1,000~2,000,000が好ましく、さらに好ましくは3,000~1,000,000である。界面活性剤等の分子量が小さい分散剤も使用できるが、導電性材料に対する吸着率が低いため生物燃料電池アノード用組成物の粘度上昇を引き起こしてしまう場合がある。分子量が大きすぎると、粘度上昇を引き起こしてしまう場合がある。重量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリスチレン換算分子量を示す。
【0194】
次に、溶媒について説明する。生物燃料電池アノード用組成物の材料を均一に混合する場合、溶媒を適宜用いることが出来る。そのような溶剤としては、有機溶剤や水を挙げることが出来る。
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-メチルピロリドンなどの内から導電性組成物の組成に応じ適当なものが使用できる。また、溶剤は2種以上用いてもよい。
また、水を使用する場合は、例えば、生物燃料電池アノード用組成物の分散性や基材への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用しても良い。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
【0195】
更に、生物燃料電池アノード用組成物には、導電助剤、増粘剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0196】
増粘剤は特に限定されるものではないが、例えば、界面活性剤などの低分子化合物、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース等の多糖類の樹脂を含む高分子化合物が挙げられる。これらは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0197】
<生物燃料電池アノード用組成物の調製方法>
生物燃料電池アノード組成物の調製方法に特に限定されるものではない。調製方法は、
(1)各成分を同時に分散しても良いし、
(2)生物燃料電池アノード用炭素材料を溶媒中に分散後、他の材料を添加しても良いし、
(3)生物燃料電池アノード用炭素材料とバインダーとを溶媒中に分散後、他の材料を添加しても良いし、
使用する生物燃料電池アノード用炭素材料、バインダーにより最適化することができる。
【0198】
<分散機・混合機>
生物燃料電池アノード用組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0199】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0200】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で炭素材料が割れやすいあるいは潰れやすい場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0201】
<生物燃料電池アノード>
本発明の生物燃料電池アノードは、生物燃料電池アノード用炭素材料を含有する。
本発明の生物燃料電池アノードは、種々の方法で得ることができる。アノードの構成としては、特に限定されるものではないが、例えば、あらかじめ酵素や微生物などの生体触媒をアノード用炭素材料やアノード用組成物などへ混合してからアノードを作製しても良いし、あらかじめ電極を作製しておき、その後に生体触媒の添加や植種を行っても良い。また、電極を電解液中へ設置した後に電解液中の微生物の吸着によりアノードとして機能させることも出来る。
アノード用炭素材料やアノード用組成物から電極を作製する場合、特に限定されるものではないが、例えば、
(1)生物燃料電池アノード用炭素材料を導電性基材へ圧着することにより作製した電極や、
(2)生物燃料電池アノード用炭素材料と導電助剤及び/又はバインダーとを混合した生物燃料電池アノード用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極や、
(3)生物燃料電池アノード用炭素材料と導電助剤及び/又はバインダーと溶媒とを混合した生物燃料電池アノード用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極や、
(4)生物燃料電池アノード用炭素材料と導電助剤及び/又はバインダーと分散剤とを混合した生物燃料電池アノード用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極や、
(5)生物燃料電池アノード用炭素材料と導電助剤及び/又はバインダーと分散剤と溶媒とを混合した生物燃料電池アノード用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極、
等が挙げられる。
【0202】
<導電性基材>
本発明の電極で使用する導電性基材としては、耐腐食性、電気伝導性に優れ、表面積が大きく、反応物及び生成物の拡散に優れるものが良く、材質や形状は特に限定されない。例えばグラファイトペーパー(カーボンペーパー)、グラファイトクロス(カーボンクロス)及びグラファイトフェルト(カーボンフェルト)等のカーボン材料の他、ステンレスメッシュ、銅メッシュや白金メッシュ等の金属材料を用いることができるが、この限りではない。電極に用いる導電性基材には、予め撥水処理しても良い。例えば、PTFEの分散液をカソードに含浸させ、乾燥後400℃前後で加熱することで撥水性が発現する。また、PTFE分散液には導電材を分散させても良い。なお、撥水処理はこれらに限定されるものではない。
【0203】
<塗工方法>
本発明の生物燃料電池アノード用組成物を導電性基材に塗布する方法は、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例示すると、グラビアコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0204】
(生物燃料電池アノードの導電性)
本発明の生物燃料電池アノードの体積抵抗率は、5×101Ω・cm未満であることが好ましく、さらに好ましくは5×100Ω・cm未満、さらに好ましくは1×10-1Ω・cm未満である。導電性が良好な電極ほど電池の電力を有効に取り出すことが可能となる。
【0205】
<生物燃料電池の構成>
本発明の生物燃料電池アノードを用いて電池として機能するものであれば、特に電池の種類は限定されるものではない。
【0206】
<生物燃料電池>
アノードに上記の生物燃料電池アノードを用い、酵素を用いたバイオ燃料電池や、微生物を用いた微生物燃料電池などが挙げられる。
【0207】
<生物燃料電池カソード>
(カソード用触媒)
次にカソードで使用出来る触媒について説明する。生物燃料電池として機能する触媒であれば特に限定されるものではないが、酸素還元触媒を例に説明する。酸素還元触媒は貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、炭素触媒、活性炭、酵素触媒等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種類以上組み合わせて用いても良い。
【0208】
(貴金属触媒)
貴金属触媒とは、遷移金属元素のうちルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金から選択される元素を一種以上含む触媒である。これら貴金属触媒は単体でも別の元素や化合物に担持されたものでも良い。中でも、触媒担持炭素材料が好例として挙げられる。触媒担持炭素材料とは、触媒粒子が触媒担時体としての炭素材料上に担持してなるものを指し、公知もしくは市販のものがある。
【0209】
触媒粒子の炭素材料上への担持率は限定的ではない。触媒粒子として白金を用いた場合は、触媒粒子100質量%に対して、通常1~70質量%程度までの担持が可能である。
【0210】
本発明に用いる触媒担持体としての炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。
無機材料由来の炭素粒子としては、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。炭素材料は、種類やメーカーによって、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性など様々な物性やコストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択される。
熱処理して炭素粒子となる有機材料としては、熱処理後炭素粒子となる材料であれば特に限定されない。具体的な有機材料としては、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体などが挙げられる。
これら炭素材料は、一種類または二種類以上で用いられる。
【0211】
市販の触媒担持炭素材料としては、例えば、田中貴金属工業社製の
TEC10E50E、TEC10E70TPM、TEC10V30E、TEC10V50E、TEC66E50等の白金担持炭素粒子;
TEC66E50、TEC62E58等の白金-ルテニウム合金担持炭素粒子;
を購入することができるが、これらに限定されるものではない。
【0212】
(卑金属酸化物触媒)
本発明に用いる卑金属酸化物触媒としては、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の遷移金属を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら遷移金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用することができる。
【0213】
前記卑金属酸化物触媒の組成式は、例えば、M1CpNqOr(ただし、M1は遷移金属元素であり、p、q、rは原子数の比を表し、0≦p≦3、0≦q≦2、0<r≦3である。)、M2aM3bCxNyOz(ただし、M2は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択される1種の金属であり、M3は、前記群より選択されるM2とは異なる少なくとも1種の金属である。a、b、x、y、zは原子数の比を表し、0.5≦a<1、0<b≦0.5、0<x≦3、0<y≦2、0<z≦3、かつa+b=1である。)で表される。また、これら化合物と導電性化合物を複合化した触媒も好適に使用することができる。
【0214】
(炭素触媒)
炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。一般的に、炭素触媒の活性点としては、炭素粒子表面に卑金属-N4構造(卑金属元素を中心に4個の窒素元素が平面上に並んだ構造)に含まれる卑金属元素や、炭素粒子表面のエッジ部に導入された窒素元素近傍の炭素元素などが挙げられる。そのため、炭素触媒が、上記活性点を構成する窒素元素や卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有する上で重要である。更に、炭素触媒は、BET比表面積が20~2000m2/gが好ましく、40~1500m2/gがより好ましい。
【0215】
(活性炭)
活性炭としては、具体的にはフェノール系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル系、石炭-石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活した活性炭を挙げることができる。同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m2/g以上が好ましく、より好ましくは500~5000m2/g、さらに好ましくは1000~3000m2/gである。
【0216】
<還元酵素>
還元酵素としては、酸素を還元出来るものであれば、特に限定されない。具体的には、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ等が挙げられ、1種類でも2種類以上であってもよい。また、必要に応じてメディエーターを含んでも良い。
【0217】
<微生物燃料電池>
次に、例として微生物燃料電池の構成を説明する。電子供与微生物が保持されたアノードと、酸素還元触媒材料を含むカソードを、電解液として有機廃水等を含む電解槽に隔壁を設けず差し込んだ一槽型構成や、固体高分子形燃料電池のように、固体高分子膜を利用して、アノード槽とカソード槽を隔てた二槽型構成でもよい。更に、面で囲われた電解槽だけでなく、水田や湖沼、河川、海のように囲われていない環境でもよい。例えば、電解液を保持する電解槽内部と酸素を含む大気等の電解槽外部を隔てる液面、側面、底面にカソードが設置される形態や、外気を取り入れることができるカセット型の電極を液中に浸漬する等の形態が考えられる。このとき、カソードの触媒層が電解液と接し、その裏面が酸素を含む大気等と接するように設置される。これにより、電解槽外部から酸素を含む大気等が直接カソードへ流入し、電解液に接したカソード中の触媒上で反応が生起する。
【0218】
微生物燃料電池に用いる電解液は、プロトン伝導性を有し、微生物によって酸化分解される基質を含有する。基質は、電子を供与する微生物が代謝可能な物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、糖類やタンパク質、脂質などの有機物の他、アンモニアなどの無機物などが挙げられ、それらを1種類以上含有してもよい。したがって、電解液は前記条件を満たす生活廃水、産業廃水、環境廃水(池、湖沼、河川、海)、土壌、汚泥等を用いることができる。また、微生物とアノードとの間で電子伝達を担うメディエーターを導入してもよく、メチレンブルーやニュートラルレッドなどが例示できる。
【0219】
微生物燃料電池における電子を供与する微生物は、前記基質を酸化分解し電子を生成するアノード反応を生起するものであれば、単一種でも複数種であってもよい。また、微生物は電解槽内を浮遊あるいはアノード上へ固定化することで電解槽内に保持する。微生物種は特に限定されないが、Shewanella属やGeobacter属に属するものが例示できる。
【実施例】
【0220】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」を表す。
【0221】
<生物燃料電池アノード用炭素材料>
[実施例A1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にてアンモニア窒素雰囲気下、1000℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(1)を得た。
【0222】
[実施例A2]
ガラス瓶にイオン交換水90部と、塩化鉄(II)四水和物5部を秤量し均一な水溶液を作製後、グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)5部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカー(ミツワテック社製:スキャンデックス SK450)で分散し、前駆体混合ペーストを得た。この前駆体混合ペーストをロータリーエバポレータにて減圧留去し、得られた固形分を乳鉢で細かく粉砕し、均一な前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(2)を得た。
【0223】
[実施例A3]
ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(ケッチェンブラック/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(3)を得た。
【0224】
[実施例A4]
フェノール樹脂(群栄化学社製 PSM-4326)と鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)を質量比3.3:1で秤量し、アセトン中で湿式混合した。上記混合物を減圧留去した後、乳鉢で粉砕し、前駆体とした。上記前駆体粉末をアルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、600℃で2時間熱処理を行い、炭素焼結体(1)を得た。上記炭素焼結体(1)を濃塩酸中でリスラリーし、静置させ、炭素焼結体(1)沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄みの着色がなくなるまで、繰り返し行い、ろ過、水洗、乾燥した後、乳鉢で粉砕し、アルミナ製るつぼに充填、電気炉にてアンモニア雰囲気下、800℃で1時間熱処理し、炭素焼結体(2)を得た。上記炭素焼結体(2)を濃塩酸中でリスラリーし、静置させ、炭素焼結体沈殿後、上澄み液を除去した。上記操作を上澄みの着色がなくなるまで、繰り返し行った後、ろ過、水洗、乾燥し、乳鉢で粉砕し、生物燃料電池アノード用炭素材料(4)を得た。
【0225】
[実施例A5]
ポリビニルピリジン(アルドリッチ社製)をジメチルホルムアミドに溶解させ、ポリビニルピリジンに対して質量比4:1の塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌し、ポリビニルピリジン鉄錯体を得た。上記ポリビニルピリジン鉄錯体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し、生物燃料電池アノード用炭素材料(5)を得た。
【0226】
[実施例A6]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.75(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(6)を得た。
【0227】
[実施例A7]
カーボンナノチューブVGCF-H(昭和電工社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.1(カーボンナノチューブ/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(7)を得た。
【0228】
[実施例A8]
ガラス瓶にイオン交換水90部と、塩化鉄(II)四水和物3.4部、フタロシアニン(東京化成社製)0.2部を秤量し均一な水溶液を作製後、グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)6.4部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカー(ミツワテック社製:スキャンデックス SK450)で分散し、前駆体混合ペーストを得た。この前駆体混合ペーストをロータリーエバポレータにて減圧留去し、得られた固形分を乳鉢で細かく粉砕し、均一な前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(8)を得た。
【0229】
[実施例A9]
ガラス瓶にイオン交換水90部と、塩化鉄(II)四水和物1.5部、フタロシアニン(東京化成社製)1.5部を秤量し均一な水溶液を作製後、アセチレンブラックHS-100(デンカ社製)7部を加え、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカー(ミツワテック社製:スキャンデックス SK450)で分散し、前駆体混合ペーストを得た。この前駆体混合ペーストをロータリーエバポレータにて減圧留去し、得られた固形分を乳鉢で細かく粉砕し、均一な前駆体粉末を得た。得られた前駆体粉末を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(9)を得た。
【0230】
[実施例A10]
クノーベルMJ(4)150(東洋炭素社製)と銅フタロシアニン誘導体SOLSPERSE12000(日本ルーブリゾール社製)を、質量比1/1(クノーベル/銅フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、生物燃料電池アノード用炭素材料(10)を得た。
【0231】
上述の生物燃料電池アノード用炭素材料の分析は、以下の測定機器を使用した。その結果を表1に示す。
・BET比表面積の測定:窒素吸着量測定(日本ベル社製 BELSORP-mini)
・RC、RN、RM:CHN元素分析(パーキンエルマー社製 2400型CHN元素分析装置)、ICP発光分光分析(SPECTRO社製 SPECTROARCOS FHS12)
【0232】
【0233】
<生物燃料電池アノード用組成物の調製>
[実施例B1]
生物燃料電池アノード用炭素材料(1)8.8部、バインダーとしてPVDF#9200(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製)1.2部、溶媒としてNMP90部、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して固形分が10質量%となる生物燃料電池アノード用組成物(1)を得た。
【0234】
[実施例B2]
生物燃料電池アノード用炭素材料(2)8.8部、分散剤としてPVP K-30(ポリビニルピロリドン、ISPジャパン社製)0.2部、バインダーとしてポリアクリルエマルション W-168(固形分50質量%、トーヨーケム社製)2部、溶媒として水89部、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して固形分が10質量%となる生物燃料電池アノード用組成物(2)を得た。
【0235】
[実施例B3~B10]
表2に示す生物燃料電池アノード用炭素材料、バインダー、分散剤、溶媒を用いた以外は、生物燃料電池アノード用組成物(1)または(2)と同様の方法で生物燃料電池アノード用組成物(3)~(10)を作製した。
【0236】
[実施例B11]
生物燃料電池アノード用炭素材料(1)4.4部、導電助剤としてMA14(酸化カーボン/三菱化学社製)4.4部、バインダーとしてPVDF#9200(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製)1.2部、溶媒としてNMP90部、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して固形分が10質量%となる生物燃料電池アノード用組成物(11)を得た。
[実施例B12~B13]
表2に示す生物燃料電池アノード用炭素材料と導電助剤、バインダー、分散剤、溶媒を用いた以外は、生物燃料電池アノード用組成物(11)と同様の方法で生物燃料電池アノード用組成物(12)~(13)を作製した。
【0237】
[実施例B14]
生物燃料電池アノード用炭素材料(5)9.5部、分散剤としてCMC(カルボキシルメチルセルロース#1240、ダイセル社製)0.5部、溶媒として水90部、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して固形分が10質量%となる生物燃料電池アノード用組成物(14)を得た。
[実施例B15]
生物燃料電池アノード用炭素材料(2)5部、導電助剤としてMA14(酸化カーボン/三菱化学社製)5部、溶媒としてエタノール90部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して固形分が10質量%となる生物燃料電池アノード用組成物(15)を得た。
【0238】
【0239】
<生物燃料電池アノードの作製>
【0240】
[実施例C1]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料(1)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(1)を作製した。
【0241】
[実施例C2、C3]
表3に示す生物燃料電池アノード用炭素材料を用いた以外は、実施例C1と同様にして生物燃料電池用アノード(2)、(3)を作製した。
【0242】
[比較例C1]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料であるケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(101)を作製した。
【0243】
[比較例C2]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料であるケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とFe3O4(富士フイルム和光純薬社製)の混合物(Fe元素のモル比がC元素に対して1mol%)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(102)を作製した。
【0244】
[比較例C3]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料であるケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とCo3O4(富士フイルム和光純薬社製)の混合物(Co元素のモル比がC元素に対して1mol%)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(103)を作製した。
【0245】
[比較例C4]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料であるケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とFe3O4(富士フイルム和光純薬社製)の混合物(Co元素のモル比がC元素に対して5mol%)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(104)を作製した。
【0246】
[比較例C5]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料であるケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とCuO(富士フイルム和光純薬社製)の混合物(Cu元素のモル比がC元素に対して1mol%)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(105)を作製した。
【0247】
[比較例C6]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用炭素材料であるケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)と[5,10,15,20-テトラキス(4-メトキシフェニル)ポルフィリナト]コバルト(II)(東京化成工業社製)の混合物(Co元素のモル比がC元素に対して1mol%、N元素のモル比がC元素に対して4mol%)を目付け量が2mg/cm2となるように添加した後、平版プレス機を用いて炭素材料を基材に圧着させて生物燃料電池用アノード(106)を作製した。
【0248】
[実施例C4]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、生物燃料電池アノード用組成物(1)を目付け量が2mg/cm2となるようにアプリケーターで塗工した後、100℃雰囲気のオーブンで乾燥させて生物燃料電池用アノード(4)を作製した。
【0249】
[実施例C5~C18]
表3に示す生物燃料電池アノード用組成物(2)~(15)を用いた以外は、実施例C4と同様にして生物燃料電池用アノード(5)~(18)を作製した。
【0250】
<微生物燃料電池>
【0251】
[実施例D1~D18、比較例D1~D6]
図1に示す微生物燃料電池により評価を実施した。500mLの容量を持つ容器内に、土(花と野菜の土:あかぎ農園社)400gと、カソード、アノードを配置し、土中に電解液である水道水250gを加えて微生物燃料電池を作製した。アノードは表3に示すものを使用し、カソードはカーボンフェルトLFP-210(大きさ10cm×10cm、大阪ガスケミカル社製)を用いた。次に、カソードとアノードに配線を取り付けて外部抵抗(8kΩ)に接続し、微生物燃料電池を連続運転させた。
【0252】
(発電特性評価)
3週間後の微生物燃料電池の電圧と電流をテスターで測定して出力を算出し、発電特性を評価した。結果を表3に示す。
【0253】
(耐久性評価)
発電特性評価を実施した時点での発電特性を100%とし、さらに3週間後の発電特性を測定して発電特性の維持率を算出して評価した。下記に判断基準を示し、結果を表3に示す。
◎:発電特性維持率 80%以上(極めて良好)
〇:発電特性維持率 70%以上80%未満(良好)
〇△:発電特性維持率 60%以上70%未満(実用上問題なし)
△:発電特性維持率 40%以上60%未満(不良)
×:発電特性維持率 40%未満(極めて不良)
【0254】
表3に示す結果から、本発明の生物燃料電池アノード用炭素材料用いた場合、従来の金属材料等を添加したアノードと比較して、発電特性が増大していることが分かる。ヘテロ元素や卑金属元素の割合が大きい材料の方が、発電特性が若干高い傾向のようにも思えるが、明らかな相関関係までは得られなかった。詳細は明らかでないが、ヘテロ元素や卑金属元素のドーピングにより炭素材料自体の物性が大きく変化したことによる効果ではないかと思われる。そのため、金属材料等を添加したアノードに対して発電特性の改善だけでなく、耐久性の改善も見られたものと考えている。さらに生物燃料電池アノード用炭素材料の単独使用よりも、導電助剤を併用して使用することで発電特性や耐久性が向上することが明らかになった。これは併用することで粒子間の距離が密になり導電性や耐久性が向上したためと予想される。また、バインダーや分散剤を使用したものは発電特性や耐久性がさらに改善することが明らかとなった。現在、現象を解析中であるが、バインダーや分散剤を使用した場合は生物燃料電池アノード中の生物燃料電池アノード用炭素材料の材料分布の均一性が向上するため、微生物の効率の高い吸着に加え、材料間の導電ネットワークが密に形成されており、微生物から出る電子の効率的な回収効率が向上しているものと考えられる。とりわけ、分散剤を使用した場合に耐久性が良いことが明らかとなった。
【0255】
【符号の説明】
【0256】
1容器
2カソード
3アノード
4土
5外部抵抗