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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】建物及び設計法
(51)【国際特許分類】
   E04H 3/02 20060101AFI20230725BHJP
   E04H 3/06 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
E04H3/02 C
E04H3/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019113459
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020204224
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】荒井 庸行
(72)【発明者】
【氏名】藤原 圭祐
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-309611(JP,A)
【文献】特開2002-004604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 3/00-4/16
E04H 1/02-1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の階層を有する建物であって、
所定の基準階層と、
前記所定の基準階層よりも上方の第1上階層と、
前記所定の基準階層及び前記第1上階層よりも上方の第2上階層と、
前記所定の基準階層から上方に延在し、前記第1上階層及び前記第2上階層と隣接する吹き抜け空間と、を含み、
前記第1上階層は、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第1隣接部を備え、
前記第2上階層は、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第2隣接部を備え、
前記第2隣接部は、前記第1隣接部と鉛直方向で重ならない部分を備え、
前記第1隣接部は、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってそれぞれせり出す第1の第1ステージ部及び第2の第1ステージ部を備え、
前記第2隣接部は、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出す第2ステージ部を備え、
前記所定の基準階層と前記第1の第1ステージ部とを繋ぎ、前記所定の基準階層と前記第1上階層とを行き来可能にする第1の昇降部を備え、
前記第2の第1ステージ部と前記第2ステージ部とを繋ぎ、前記第1上階層と前記第2上階層とを行き来可能にする第2の昇降部を備え、
前記第2の第1ステージ部及び前記第2ステージ部それぞれにおいて、前記第2の昇降部としてのエスカレータが連結される位置を、下スラブ材及び上スラブ材が鉛直方向で重なる位置とし、
前記第2ステージ部は、前記第1の第1ステージ部よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出しており、
前記第2ステージ部は、前記上スラブ材が前記下スラブ材よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出しており、
上面視で、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きと、前記第2の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きが反対向きであり、
上面視で、前記第2の第1ステージ部は、前記第1の第1ステージ部よりも、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きの側に位置する、建物。
【請求項2】
前記第2ステージ部は、前記吹き抜け空間側から見た正面視において、前記第1ステージ部と鉛直方向で重ならない部分を備える、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
3層以上の階層を有する建物の設計法であって、
前記建物は、
所定の基準階層と、
前記所定の基準階層よりも上方の第1上階層と、
前記所定の基準階層及び前記第1上階層よりも上方の第2上階層と、
前記所定の基準階層から上方に延在し、前記第1上階層及び前記第2上階層と隣接する吹き抜け空間と、を含み、
前記第1上階層に、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第1隣接部を配置し、
前記第2上階層に、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第2隣接部を配置し、
前記第1隣接部及び前記第2隣接部を、鉛直方向で重ならない部分を備えるように配置し、
前記第1隣接部に、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってそれぞれせり出す第1の第1ステージ部及び第2の第1ステージ部を配置し、
前記第2隣接部に、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出す第2ステージ部を配置し、
前記所定の基準階層と前記第1の第1ステージ部とを繋ぎ、前記所定の基準階層と前記第1上階層とを行き来可能にする第1の昇降部を配置し、
前記第2の第1ステージ部と前記第2ステージ部とを繋ぎ、前記第1上階層と前記第2上階層とを行き来可能にする第2の昇降部を配置し、
前記第2の第1ステージ部及び前記第2ステージ部それぞれにおいて、前記第2の昇降部としてのエスカレータが連結される位置を、下スラブ材及び上スラブ材が鉛直方向で重なる位置とし、
前記第2ステージ部を、前記第1ステージ部よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出すように配置し、
前記第2ステージ部を、前記上スラブ材が前記下スラブ材よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出すように配置し
上面視で、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きと、前記第2の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きを反対向きに配置し、
上面視で、前記第2の第1ステージ部を、前記第1の第1ステージ部よりも、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きの側に配置する、設計法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物及び設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から吹き抜け空間を有する建物が知られている。特許文献1には、一部が側方に開口する吹き抜け部と、この吹き抜け部の周囲に回廊状にそれぞれ配置された住戸と共用廊下を有する中・高層の建物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-017856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の吹き抜け空間としての吹き抜け部は、高層マンション、ホテル、インテリジェントビル等に適用されることが一般的である。
【0005】
吹き抜け空間を活用することにより、商業施設等において人を上階に誘引するような魅力を演出し得る。しかしながら、特許文献1に記載されているような吹き抜け部をそのまま商業施設等に適用しても、人を上階に誘引することは難しく、依然として改善する余地がある。
【0006】
本発明は、人を上階に誘引することが可能な吹き抜け空間を含む建物及び設計法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明に係る建物は、3層以上の階層を有する建物であって、所定の基準階層と、前記所定の基準階層よりも上方の第1上階層と、前記所定の基準階層及び前記第1上階層よりも上方の第2上階層と、前記所定の基準階層から上方に延在し、前記第1上階層及び前記第2上階層と隣接する吹き抜け空間と、を含み、前記第1上階層は、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第1隣接部を備え、前記第2上階層は、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第2隣接部を備え、前記第2隣接部は、前記第1隣接部と鉛直方向で重ならない部分を備え、前記第1隣接部は、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってそれぞれせり出す第1の第1ステージ部及び第2の第1ステージ部を備え、前記第2隣接部は、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出す第2ステージ部を備え、前記所定の基準階層と前記第1の第1ステージ部とを繋ぎ、前記所定の基準階層と前記第1上階層とを行き来可能にする第1の昇降部を備え、前記第2の第1ステージ部と前記第2ステージ部とを繋ぎ、前記第1上階層と前記第2上階層とを行き来可能にする第2の昇降部を備え、前記第2の第1ステージ部及び前記第2ステージ部それぞれにおいて、前記第2の昇降部としてのエスカレータが連結される位置を、下スラブ材及び上スラブ材が鉛直方向で重なる位置とし、前記第2ステージ部は、前記第1の第1ステージ部よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出しており、前記第2ステージ部は、前記上スラブ材が前記下スラブ材よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出しており、上面視で、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きと、前記第2の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きが反対向きであり、上面視で、前記第2の第1ステージ部は、前記第1の第1ステージ部よりも、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きの側に位置する。
【0009】
上記課題を解決する1つの実施形態として、前記第2ステージ部は、前記吹き抜け空間側から見た正面視において、前記第1ステージ部と鉛直方向で重ならない部分を備える。
【0012】
上記課題を解決する本発明に係る設計法は、3層以上の階層を有する建物の設計法であって、前記建物は、所定の基準階層と、前記所定の基準階層よりも上方の第1上階層と、前記所定の基準階層及び前記第1上階層よりも上方の第2上階層と、前記所定の基準階層から上方に延在し、前記第1上階層及び前記第2上階層と隣接する吹き抜け空間と、を含み、前記第1上階層に、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第1隣接部を配置し、前記第2上階層に、前記吹き抜け空間から視認可能な、平面視で、前記吹き抜け空間に隣接すると共に前記吹き抜け空間に沿って延在する第2隣接部を配置し、前記第1隣接部及び前記第2隣接部を、鉛直方向で重ならない部分を備えるように配置し、前記第1隣接部に、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってそれぞれせり出す第1の第1ステージ部及び第2の第1ステージ部を配置し、前記第2隣接部に、周囲よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出す第2ステージ部を配置し、前記所定の基準階層と前記第1の第1ステージ部とを繋ぎ、前記所定の基準階層と前記第1上階層とを行き来可能にする第1の昇降部を配置し、前記第2の第1ステージ部と前記第2ステージ部とを繋ぎ、前記第1上階層と前記第2上階層とを行き来可能にする第2の昇降部を配置し、前記第2の第1ステージ部及び前記第2ステージ部それぞれにおいて、前記第2の昇降部としてのエスカレータが連結される位置を、下スラブ材及び上スラブ材が鉛直方向で重なる位置とし、前記第2ステージ部を、前記第1ステージ部よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出すように配置し、前記第2ステージ部を、前記上スラブ材が前記下スラブ材よりも前記吹き抜け空間に向かってせり出すように配置し上面視で、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きと、前記第2の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きを反対向きに配置し、上面視で、前記第2の第1ステージ部を、前記第1の第1ステージ部よりも、前記第1の昇降部としてのエスカレータが上昇方向に進む向きの側に配置する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人を上階に誘引することが可能な吹き抜け空間を含む建物及び設計法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態としての建物の1階平面図である。
図2図1に示す建物の2階平面図である。
図3図1に示す建物の3階平面図である。
図4】昇降部を吹き抜け空間側から見た正面視を示す正面図である。
図5図4に示す第2ステージ部が第1ステージ部よりも吹き抜け空間側に向かって突出している様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る建物及び設計法の実施形態について図面を参照して例示説明する。各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0016】
図1図3は、本発明に係る建物の一実施形態としての建物100の平面図である。具体的に、図1は建物100の1階平面図である。図2は建物100の2階平面図である。図3は建物100の3階平面図である。建物100は3層以上の階層を有する構成であれば特に限定されない。したがって、建物100は、図1図3に示す3層のみの階層を有する構成であってもよく、4階以上の上層階を更に有する構成であってもよい。また、建物100は、百貨店などの商業施設に限られず、例えば、博物館などの文化施設であってもよい。商業施設とは、例えば、建築基準法施行規則の別紙の「百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(前項に掲げるもの及び専ら性的好奇心をそそる写真その他の物品の販売を行うものを除く。)」に該当する建物等を意味する。また、文化施設とは、例えば、建築基準法施行規則の別紙の「博物館その他これに類するもの」、「展示場」に該当する建物等を意味する。
【0017】
建物100は、所定の基準階層10と、この所定の基準階層10よりも上方の第1上階層20と、所定の基準階層10及び第1上階層20よりも上方の第2上階層30と、を含む。また、建物100は、所定の基準階層10から上方に延在し、第1上階層20及び第2上階層30と隣接する吹き抜け空間40を含む。
【0018】
本実施形態の所定の基準階層10は図1に示す1階である。本実施形態の第1上階層20は図2に示す2階である。本実施形態の第2上階層は図3に示す3階である。本実施形態の吹き抜け空間40は、所定の基準階層10としての1階から上方に延在し、第1上階層20としての2階、及び、第2上階層30としての3階、と水平方向で隣接している。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の所定の基準階層10としての1階は、平面視で、吹き抜け空間40の位置となる広場領域1と、この広場領域1に隣接する複数の店舗領域2と、を含む。本実施形態において、広場領域1と店舗領域2とは、平面視で、離間して配置された複数の柱15の柱芯を通過する直線状の基準線L0により区画されている。
【0020】
図2に示すように、本実施形態の第1上階層20としての2階は、平面視で、吹き抜け空間40と隣接する後述の第1隣接部21と、この第1隣接部21のうち吹き抜け空間40側とは反対側に隣接する店舗領域3と、を含む。本実施形態において、第1隣接部21と店舗領域3とは、平面視で、離間して配置された複数の柱25の柱芯を通過する直線状の基準線L2により区画されている。
【0021】
図3に示すように、本実施形態の第2上階層30としての3階は、平面視で、吹き抜け空間40と隣接する後述の第2隣接部31と、この第2隣接部31のうち吹き抜け空間40側とは反対側に隣接する店舗領域4と、を含む。本実施形態において、第2隣接部31と店舗領域4とは、平面視で、離間して配置された複数の柱35の柱芯を通過する直線状の基準線L4により区画されている。
【0022】
建物100が4層以上の構成の場合には、上述の所定の基準階層10、第1上階層20及び第2上階層30は、1階~3階でなくてもよい。建物100が4層以上の構成の場合には、吹き抜け空間40は、少なくとも3層に亘って延在する構成であればよく、4層以上に亘って延在する構成であってもよい。
【0023】
なお、図1図3に示すように、本実施形態の吹き抜け空間40は、平面視で建物100の一方側に偏って配置されている。つまり、図2図3に示すように、本実施形態の吹き抜け空間40は、平面視で第1上階層20及び第2上階層30に囲まれておらず、平面視で第1上階層20及び第2上階層30に対して一方側(例えば西側)のみに位置している。建物100における吹き抜け空間40の位置は、本実施形態で示す位置に限られず、例えば、上階層に囲まれる吹き抜け空間であってもよい。但し、本実施形態のように、平面視で第1上階層20及び第2上階層30に囲まれておらず、少なくとも一部が建物100の外周壁101に隣接している吹き抜け空間40とすることが好ましい。このようにすることで、外周壁101に設けられた開口や、外周壁101を構成するガラスカーテンウォール等を通じて光を採り込み易く、吹き抜け空間40を明るく開放的な空間にすることができると共に、建物外部からも視認することができる。
【0024】
第1上階層20は、吹き抜け空間40から視認可能な第1隣接部21を備える。図2に示すように、第1隣接部21は、平面視で、吹き抜け空間40に隣接すると共に吹き抜け空間40に沿って延在する。
【0025】
第2上階層30は、吹き抜け空間40から視認可能な第2隣接部31を備える。図3に示すように、第2隣接部31は、平面視で、吹き抜け空間40に隣接すると共に吹き抜け空間40に沿って延在する。
【0026】
第1隣接部21とは、平面視において、第1上階層20と吹き抜け空間40とを区画する区画線L1と、吹き抜け空間40に沿って配置される複数の柱25の中心を通過する柱通り芯である基準線L2と、に挟まれる領域を意味する。本実施形態の第1隣接部21は、平面視で基準線L2と直交する方向(以下、「通路幅方向A」と記載する。)において区画線L1及び基準線L2に挟まれる、第1通路部21a及び第1ステージ部21bにより構成されている。
【0027】
また、第2隣接部31とは、平面視において、第2上階層30と吹き抜け空間40とを区画する区画線L3と、吹き抜け空間40に沿って配置される複数の柱35の中心を通過する柱通り芯である基準線L4と、に挟まれる領域を意味する。なお、本実施形態の基準線L0、L2及びL4は、平面視での位置が一致している。本実施形態の第2隣接部31は、平面視で基準線L4と直交する方向(通路幅方向Aと同じ方向)において区画線L3及び基準線L4に挟まれる、第2通路部31a及び第2ステージ部31bにより構成されている。
【0028】
ここで、第2隣接部31は、第1隣接部21と鉛直方向で重ならない部分を備える。換言すれば、平面視において、第1隣接部21及び第2隣接部31は、互いに重ならない部分がある。このように、第1上階層20に配置される第1隣接部21、及び、第2上階層30に配置される第2隣接部31を、鉛直方向で重ならない部分を備えるように配置することで、階層の異なる第1隣接部21及び第2隣接部31の両方を、所定の基準階層10の位置から吹き抜け空間40を通じて視認することが可能となる。そのため、基準階層10にいる人は、第1隣接部21及び第2隣接部31の平面視での位置、形状等の相違を認知すると共に、第1上階層20及び第2上階層30への興味を掻き立てられる。これにより、基準階層10にいる人を上階に誘引する効果が期待できる。
【0029】
より具体的に、本実施形態では、第2ステージ部31bは、第1ステージ部21bと鉛直方向で重ならない部分を備える。このようにすることで、基準階層10にいる人は、第1隣接部21及び第2隣接部31の平面視での位置、形状等の相違を、より認知し易い。そのため、基準階層10にいる人は、第1上階層20及び第2上階層30への興味を、より掻き立てられ易い。これにより、人を上階に、より誘引する効果が期待できる。
【0030】
上述したように、第1隣接部21は、周囲よりも吹き抜け空間40に向かってせり出す第1ステージ部21bを備える。より具体的に、本実施形態の第1ステージ部21bは、第1隣接部21のうち吹き抜け空間40に向かってせり出している部分である。本実施形態の第1通路部21aは、第1隣接部21のうち第1ステージ部21b以外の部分である。つまり、本実施形態の第1ステージ部21bは、第1通路部21aよりも吹き抜け空間40側に突出している部分である。
【0031】
また、第2隣接部31は、周囲よりも吹き抜け空間40に向かってせり出す第2ステージ部31bを備える。より具体的に、本実施形態の第2ステージ部31bは、第2隣接部31のうち吹き抜け空間40に向かってせり出している部分である。本実施形態の第2通路部31aは、第2隣接部31のうち第2ステージ部31b以外の部分である。つまり、本実施形態の第2ステージ部31bは、第2通路部31aよりも吹き抜け空間40側に突出している部分である。
【0032】
なお、第1隣接部21において、第1ステージ部21bは複数あってもよい。また、第2隣接部31において、第2ステージ部31bは複数あってもよい。このように、複数の第1ステージ部21bと、複数の第2ステージ部31bと、を備える建物100では、少なくとも1つの第2ステージ部31bが、少なくとも1つの第1ステージ部21bと鉛直方向で重ならない部分を備えればよい。
【0033】
また、第1隣接部21には、区画線L1の位置に手摺り22が設けられている。更に、第2隣接部31には、区画線L3の位置に手摺り32が設けられている。手摺り22及び32は、例えばガラスや複数の桟材などの視通部材を含む。そのため、手摺り22及び32は、視通可能に構成されている。そのため、所定の基準階層10にいる人は、手摺り22及び32を通じて、第1隣接部21及び第2隣接部31での賑わい等を視認することができる。これにより、基準階層10にいる人は、第1上階層20及び第2上階層30への興味を、より掻き立てられ易くなる。その結果、人を上階に、より誘引する効果が期待できる。
【0034】
なお、区画線L1及びL3の位置に、ガラス壁等を配置してもよいが、本実施形態のように手摺り22及び32を配置し、第1隣接部21及び第2隣接部31それぞれと、吹き抜け空間40と、を連通させることが好ましい。このようにすることで、第1隣接部21及び第2隣接部31と、吹き抜け空間40と、の一体性を強調でき、人を上階に、より誘引する効果が期待できる。
【0035】
また、図2に示すように、第1隣接部21の幅W1は、第1ステージ部21bの位置で周囲よりも広幅になっている。より具体的に、平面視で基準線L2と直交する通路幅方向Aでの第1隣接部21の幅W1は、吹き抜け空間40に沿って変動し、第1ステージ部21bの位置で周囲よりも広幅になっている。
【0036】
更に、図3に示すように、第2隣接部31の幅W2は、第2ステージ部31bの位置で周囲よりも広幅になっている。より具体的に、平面視で基準線L4と直交する通路幅方向Aでの第2隣接部31の幅W2は、吹き抜け空間40に沿って変動し、第2ステージ部31bの位置で周囲よりも広幅になっている。
【0037】
図4は、第1上階層20と第2上階層30とを繋ぐ昇降部51としてのエスカレータを、吹き抜け空間40側から見た正面視を示す正面図である。図2図4に示すように、昇降部51としてのエスカレータは、第1ステージ部21bと第2ステージ部31bとを繋ぐ位置に設けられている。より具体的に、昇降部51としてのエスカレータの下部は、第1上階層20の第1隣接部21の第1ステージ部21bに連結されている。また、昇降部51としてのエスカレータの上部は、第2上階層30の第2隣接部31の第2ステージ部31bに連結されている。そのため、人は、図2図4に示す昇降部51としてのエスカレータにより、第1上階層20の第1ステージ部21bと、第2上階層30の第2ステージ部31bと、を行き来可能である。このように、昇降部51を第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bを繋ぐように設置することで、基準階層10にいる人は、第1上階層20及び第2上階層30に対する興味と共に、第1上階層20及び第2上階層30へ行くための方法を認識することができる。そのため、人を上階に、より誘引する効果が期待できる。
【0038】
また、図1図2に示すように、所定の基準階層10と第1上階層20とは、別の昇降部51としてのエスカレータにより連結されている。なお、所定の基準階層10と第2上階層30とを繋ぐ更に別の昇降部51があってもよい。
【0039】
昇降部51は、本実施形態のエスカレータに限られない。昇降部51は、階段、エレベータ等であってもよい。但し、昇降部51をエスカレータにより構成することで、階層間の輸送効率である単位時間当たりに輸送可能な人数を向上させることができる。
【0040】
次に、建物100における第1隣接部21及び第2隣接部31の更なる詳細について説明する。
【0041】
上述したように、本実施形態では、第2ステージ部31bは、第1ステージ部21bと鉛直方向で重ならない部分を備える。より具体的に、本実施形態の第2ステージ部31bは、吹き抜け空間40側から見た正面視(図4参照)において、第1ステージ部21bと鉛直方向で重ならない部分を備える。換言すれば、本実施形態の第2ステージ部31bは、正面視(図4参照)において、第1ステージ部21bと左右方向の幅が一致していない、及び/又は、第1ステージ部21bと左右方向の中央位置が異なっている。このようにすることで、所定の基準階層10にいる人は、第1隣接部21の第1ステージ部21b、及び、第2隣接部31の第2ステージ部31b、の平面視での位置、形状等の相違を認知し易い。そのため、所定の基準階層10にいる人は、第1上階層20及び第2上階層30への興味を掻き立てられ易い。これにより、基準階層10にいる人を、より上階に誘引する効果が期待できる。
【0042】
更に、第2ステージ部31bは、第1ステージ部21bよりも吹き抜け空間40に向かってせり出していてもよい。図5は、第2ステージ部31bが第1ステージ部21bよりも吹き抜け空間40側に向かって突出している様子を示す図である。図5に示すように、第2上階層30の第2ステージ部31bを、第1上階層20の第1ステージ部21bよりも吹き抜け空間40側に突出させることで、所定の基準階層10にいる人は、第1隣接部21の第1ステージ部21b、及び、第2隣接部31の第2ステージ部31b、の平面視での位置、形状等の相違を認知し易い。そのため、所定の基準階層10にいる人は、第1上階層20及び第2上階層30への興味を掻き立てられ易い。これにより、基準階層10にいる人を、より上階に誘引する効果が期待できる。
【0043】
なお、第2ステージ部31bは、吹き抜け空間40側から見た正面視(図4参照)において第1ステージ部21bと鉛直方向で重ならない部分を備え、かつ、第1ステージ部21bよりも吹き抜け空間40に向かってせり出していてもよい。
【0044】
更に、図2図4に示すように、本実施形態の第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれは、下スラブ材61と、上スラブ材62と、を備える。上スラブ材62は、下スラブ材61と鉛直方向で少なくとも一部が積層されている。
【0045】
本実施形態では、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれが、下スラブ材61及び上スラブ材62を備えるが、この構成に限られない。第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bのいずれか一方のステージ部のみが、下スラブ材61及び上スラブ材62を備える構成であってもよい。
【0046】
また、本実施形態の第1隣接部21は、基準線L2に沿って配置される複数の柱25から吹き抜け空間40側に片持ち状に支持されている。そのため、第1隣接部21を構成するスラブは、図5に示すように、基準線L2から吹き抜け空間40に向かって厚みが薄くなるように構成されている。より具体的に、本実施形態の第1隣接部21では、第1ステージ部21bが下スラブ材61及び上スラブ材62の2層構造であり、第1通路部21aが下スラブ材61及び上スラブ材62の他に別のスラブ材を備える3層構造となっている。なお、本実施形態の第2隣接部31も同様の構造である。但し、第1隣接部21及び第2隣接部31のスラブ材の積層構造は、本実施形態の構造に限定されず、例えば、3層以上のスラブ材が積層されているステージ部としてもよく、4層以上のスラブ材が積層されている通路部としてもよい。
【0047】
また、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれを構成する下スラブ材61及び上スラブ材62は、水平方向の位置が完全に一致して鉛直方向に完全に重なっていてもよい。但し、本実施形態のように、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれを構成する下スラブ材61及び上スラブ材62は、鉛直方向で重ならない部分を有することが好ましい。このようにすれば、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれの床厚みを位置によって調整できる。そのため、一様な厚さの第1ステージ部及び第2ステージ部と比較して、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれの特異性を強調し易くなる。
【0048】
本実施形態において、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれを構成する下スラブ材61及び上スラブ材62は、吹き抜け空間40側から見た正面視(図4参照)において、鉛直方向で重ならない部分を備える。更に、上スラブ材62は、下スラブ材61よりも吹き抜け空間40に向かってせり出していてもよい。このように、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれを構成する下スラブ材61及び上スラブ材62の重ならない部分の位置は特に限定されない。
【0049】
第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれを構成する下スラブ材61及び上スラブ材62が鉛直方向で重ならない部分は、例えば、その位置の用途等に応じて設計してもよい。第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれにおいて、例えば、昇降部51としてのエスカレータが連結される位置を、下スラブ材61及び上スラブ材62が鉛直方向で重なる位置とすればよい。このようにすれば、鉛直荷重がかかり易い昇降部51を支持する部分の床厚みを大きくできる。その一方で、例えば、花などの装飾材を載置するのみの用途で使用する位置など、昇降部51や人を鉛直方向下側から直接支持しないような位置を、下スラブ材61及び上スラブ材62が鉛直方向で重ならない位置とすればよい。例えば、下スラブ材61を上スラブ材62よりも正面視(図4参照)の左右方向、又は、吹き抜け空間40側、に突出させ、下スラブ材61の突出した部分の上面に、草木、花などの装飾材を配置さればよい。このように、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bそれぞれの場所ごとの用途等に応じて、下スラブ材61及び上スラブ材62の重なり具合を設計してもよい。
【0050】
更に、図5に示すように、上スラブ材62の吹き抜け空間40側の端面の下部には、前記吹き抜け空間側に向かって突出している突出部62aが設けられていることが好ましい。換言すれば、上スラブ材62の吹き抜け空間40側の端面の上部は、面取りされていることが好ましい。このようにすることで、所定の基準階層10にいる人は、第1ステージ部21b及び第2ステージ部31bの賑わいを視認し易くなる。また、突出部62aの上面を、例えば、草木、花などの装飾材を配置するための空間として利用してもよい。
【0051】
なお、上スラブ材62に限られず、下スラブ材61についても、上記同様の理由により、吹き抜け空間40側の端面の下部に突出部を設けることが好ましい。
【0052】
本発明に係る建物及び設計法は、上述した実施形態で具体的に示す構成及びその構成の設計法に限られず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形・変更が可能である。そのため、基準階層10から吹き抜け空間40を通じて第1上階層20及び第2上階層30を視認できるように、基準階層10~第2上階層30までの階層数は設定されることが好ましい。基準階層10における吹き抜け空間40の位置での床面積等にもよるが、例えば、上記階層数は、3~5階層とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は建物及び設計法に関する。
【符号の説明】
【0054】
1:広場領域
2、3、4:店舗領域
10:基準階層
15:柱
20:第1上階層
21:第1隣接部
21a:第1通路部
21b:第1ステージ部
22:手摺り
25:柱
30:第2上階層
31:第2隣接部
31a:第2通路部
31b:第2ステージ部
32:手摺り
35:柱
40:吹き抜け空間
51:昇降部
61:下スラブ材
62:上スラブ材
62a:突出部
100:建物
101:建物の外周壁
A:通路幅方向
L0:基準階層における広場と店舗領域とを区画する基準線
L1:第1上階層と吹き抜け空間とを区画する区画線
L2:第1上階層において吹き抜け空間に沿って配置される複数の柱の中心を通過する柱通り芯である基準線
L3:第2上階層と吹き抜け空間とを区画する区画線
L4:第2上階層において吹き抜け空間に沿って配置される複数の柱の中心を通過する柱通り芯である基準線
W1:第1隣接部の幅
W2:第2隣接部の幅
図1
図2
図3
図4
図5