(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】酵素発電デバイス用炭素系材料、酵素発電デバイス用電極組成物、酵素発電デバイス用電極、および酵素発電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20230725BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230725BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/90 X
H01M8/16
(21)【出願番号】P 2019119991
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018125814
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博友
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-038988(JP,A)
【文献】特開2005-343775(JP,A)
【文献】特開2016-183084(JP,A)
【文献】特開2014-201463(JP,A)
【文献】特開2018-166086(JP,A)
【文献】特開2019-216082(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013138(WO,A1)
【文献】特開2018-036201(JP,A)
【文献】特開2017-135109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/90
H01M 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる酵素発電デバイス用炭素系材料であって、構成元素としてヘテロ元素を含み、ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされて
おり、ヘテロ元素が窒素元素であり、
さらに、構成元素として卑金属元素を含み、卑金属元素がCo及び/またはFeであり、
炭素材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、R
C
、R
N
およびR
M
とした際、R
C
に対するR
N
の割合が1~40%、R
C
に対するR
M
の割合が0.01~20%である、
酵素発電デバイス用炭素系材料。
【請求項2】
請求項
1に記載の酵素発電デバイス用炭素系材料と、バインダーとを含む酵素発電デバイス用電極組成物。
【請求項3】
更に、酸化還元酵素を含む、請求項
2に記載の酵素発電デバイス用電極組成物。
【請求項4】
請求項
2に記載の酵素発電デバイス用電極組成物より形成された酵素発電デバイス用電極。
【請求項5】
更に、1種以上の酸化還元酵素を含む、請求項
4に記載の酵素発電デバイス用電極。
【請求項6】
請求項3に記載の酵素発電デバイス用電極組成物より形成された酵素発電デバイス用電極。
【請求項7】
請求項
4~6いずれか1項に記載の酵素発電デバイス用電極を有する酵素発電デバイス。
【請求項8】
燃料がグルコース、乳酸、およびフルクトースからなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項
7に記載の酵素発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素発電デバイス用炭素系材料、酵素発電デバイス用電極組成物、酵素発電デバイス用電極、および酵素発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、開発が進められている酵素発電デバイスは、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、酵素反応により生成した電子の有する電気エネルギーを利用する発電型デバイスである。
近年では、酵素発電デバイスから取り出した電気エネルギーを電源として使う以外にも、酵素が持つ基質選択性を利用し、糖やアルコール等の有機物をセンシングするための自己発電型センサーとして利用する方法も提案されている。自己発電型センサーは発電と有機物センシング機能を併せ持つため、電源フリーによる小型軽量化、低コスト化が可能となることに加え、酵素による微小量検知や高い基質選択性に由来する高いセンシング精度が特長となる。そのため、生体向けのウェアラブルデバイスやインプラントデバイス等に使われるセンサー用電源としての利用が期待されている。
他方、酵素発電デバイスにおいては、負極及び正極に酸化還元酵素を含み、多種多様な有機物と空気中の酸素を燃料として発電するエネルギーシステムであり、常温作動、豊富な有機エネルギー源、環境・生体への高い安全性等、複数の利点がある一方、出力安定性、寿命、コスト等に関する課題もある。
【0003】
上記課題の解決に向け、これまでに様々な対策が取られてきた。例えば、発電性能向上に向け、多孔性カーボンを用いたポーラス型酵素燃料電池(特許文献1)や、親水性バインダーを用いた電極を作製し、酵素液の染みこみを改善させる方法(特許文献2)、また、酵素の寿命向上に向け、電解質の酸性基との接触による酵素の失活を緩和するために電極と電解質膜との間に保護膜を備える方法(特許文献3)、光硬化性樹脂を用いて酵素の溶出を抑制する方法(特許文献4)などが報告されている。しかし、性能や安定性が低い、用途が限定される等いずれも十分とは言えず、現状において出力性能、特に酵素反応に起因する安定性等に関する課題が解消されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-181889号公報
【文献】国際公開第2013/065581号
【文献】特開2015-109188号公報
【文献】特許第5181576号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酵素発電デバイス用電極を構成する炭素系材料を提供することである。本発明の酵素発電デバイス用電極を用いることにより、出力安定性に優れた酵素発電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる酵素発電デバイス用炭素系材料であって、構成元素としてヘテロ元素を含み、ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
【0007】
又、ヘテロ元素が窒素元素である上記酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
【0008】
又、さらに、構成元素として卑金属元素を含む、上記酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
【0009】
又、炭素材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比およびヘテロ原子のモル比をそれぞれ、RCおよびRNとした際、RCに対するRNの割合が1~40%である上記酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
【0010】
又、炭素材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとした際、RCに対するRNの割合が1~40%、RCに対するRMの割合が0.01~20%である上記酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
【0011】
又、卑金属元素がCo及び/またはFeであることを特徴とする、上記酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
【0012】
又、上記酵素発電デバイス用炭素系材料と、バインダーとを含む酵素発電デバイス用電極組成物に関する。
【0013】
又、更に、酸化還元酵素を含む、上記酵素発電デバイス用電極組成物に関する。
【0014】
又、上記酵素発電デバイス用電極組成物より形成された酵素発電デバイス用電極に関する。
【0015】
又、更に、1種以上の酸化還元酵素を含む、上記酵素発電デバイス用電極に関する。
【0016】
又、上記酵素発電デバイス用電極を有する酵素発電デバイスに関する。
【0017】
又、燃料がグルコース、乳酸、およびフルクトースからなる群より選ばれる少なくとも一つである上記酵素発電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の目的は、酵素発電デバイス用電極を構成する酵素発電デバイス用炭素系材料を提供することである。本発明の酵素発電デバイス用電極を用いることにより、それを具有する出力安定性の優れた酵素発電デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、酵素発電デバイス用負極(1)(実施例1)のグルコース濃度に対する酸化電流応答性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「樹脂」を「重合体」ということがある。又、「酵素発電デバイス電極用炭素系材料」を、単に「炭素系材料」ということがある。
【0021】
<酵素発電デバイス用炭素系材料>
酵素発電デバイス用炭素系材料(以下、単に炭素系材料ともいう)とは、炭素原子が六角網状に共有結合した網平面を形成した炭素六角網面を基本骨格とする炭素材料からなり、炭素原子の構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、異種元素、たとえばN、B、Pなどのヘテロ原子を含み、更に場合によって卑金属元素が含まれる炭素系材料である。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、およびスズからなる群より選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
ヘテロ元素と卑金属元素を含有することは、酸化還元反応活性を有する上で重要な意味をなす。酵素発電デバイス用炭素系材料は、上記活性点として、例えば、炭素材料の基本骨格を構成する炭素の六角網面のエッジ部に導入された窒素原子やその近傍の炭素原子、また触媒表面上に卑金属元素を中心に4個の窒素が平面上に並んだ卑金属-N4構造における窒素原子や卑金属原子などが挙げられ、酸素の還元活性を有することが知られている。
【0022】
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。酸化還元反応に必要な電子の授受等は炭素材料の表面で起こるため、比表面積が大きいほど、電子やプロトン、酸素等との反応場が多くなり好ましい。また、電子伝導性が高いほど、電極中における酸化還元反応に必要な電子を前記反応場に供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。また、炭素材料表面のヘテロ原子、特に窒素量が多いほど表面の活性点の数が多くなりやすいため好ましく、更にNが後述のN1型窒素原子を主とした末端窒素であるとより好ましい。
【0023】
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料は、炭素材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとした際、炭素原子のモル比RCに対する窒素原子のモル比RNの割合が1~40%、炭素原子のモル比RCに対する卑金属原子のモル比RMの割合が0.01~20%の範囲にあると好ましい。より好ましくは、炭素原子のモル比RCに対する窒素原子のモル比RNの割合が1.5~20%、炭素原子のモル比RCに対する卑金属原子のモル比RMの割合が0.05~10%である。
【0024】
炭素原子に対する窒素原子や卑金属原子の元素比が上記範囲にあると、活性点形成段階において、卑金属金属元素が炭素の結晶化促進、細孔の発達、エッジの生成等の炭素化触媒として効果的に作用することで活性点の数や質を向上させることが期待できる。
【0025】
また、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、炭素系材料表面の全元素に対する窒素原子のモル比を(N)とし、炭素系材料表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N1+N2)としたときの、表面末端窒素割合{N×(N1+N2)}が0.5~25%であることが好ましい。より好ましくは1~18%である。
【0026】
例えば、炭素系材料表面の全元素に対する窒素原子のモル比Nが0.1、炭素系材料表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合N1が30%、N2型窒素原子量の割合N2が20%である酵素発電デバイス用炭素系材料の場合は、下記計算式により表面末端窒素割合は5%となる。
{N×(N1+N2)}= 0.1×(30%+20%)= 5%
【0027】
酵素発電デバイス用炭素系材料中の窒素原子は様々な状態で炭素骨格の中に存在する。本発明において、N1型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが398.5±0.5eVであり、ピリジン類似の構造をしているものである。N2型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが400±0.5eVであり、ピロール類似の構造をしているものである。これらはそれぞれピリジン窒素、ピロール窒素と呼ばれ、本発明ではこれらを合わせ末端窒素と呼称する。これらのピークが重なっている場合には、各成分をガウス関数としてピーク強度、ピーク位置、ピーク半値全幅をパラメーターとして最適化することにより、フィッティングを行ってピークを分離する。ここで、ピリドン類似の構造をしているものはピークの分離が困難なため、便宜上、末端窒素に含まれていてよいものとする。
上記以外の窒素原子は、N3型窒素原子(主に炭素環の内部に存在する、3つの炭素原子と結合している4級のもの)、N4型窒素原子(酸化された状態で、酸素のような異種元素が結合しているもの)に分類される。
【0028】
上記末端窒素は、非共有電子対を有しており、末端窒素は周囲の炭素の電子状態に影響を及ぼし、隣接する炭素原子が活性化されることに加え、卑金属に窒素原子が配位する卑金属-N4構造形成に有利に働くことが報告されている。そのため、活性の高い酵素発電デバイス用炭素系材料表面には末端窒素が多く存在していると考えられ、表面末端窒素割合は、表面に存在する末端窒素の量を表す指標となる。
【0029】
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、20~1200m2/gであることが好ましい。BET比表面積が上記の範囲にあると、反応が起こる反応場を多くできるため好ましい。より好ましくは100~1000m2/gである。
【0030】
本発明における比表面積とは試料単位質量当たりの表面積のことであり、ガス(N2又はH2O)吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.05~0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0031】
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料は、CuKα線をX線源として得られるX線回折(XRD)図において、回折角(2θ)が24.0~27.0°の位置にピークを有し、該ピークの半値幅が8°以下であることが好ましい。
【0032】
CuKα線をX線源として得られる酵素発電デバイス用炭素系材料のX線回折線図においては、24.0~27.0°付近に炭素の(002)面回折ピークが現れる。炭素の(002)回折ピーク位置は、炭素六角網面の面間距離によって変化し、ピーク位置が高角側であるほど炭素六角網面の距離が近いことから、構造の黒鉛的規則性が高いことが示される。また、上記ピークがシャープである(半値幅が小さい)ほど、結晶子サイズが大きく、結晶構造が発達していることを示すものである。
【0033】
上記ピークの半値幅が8°以下である場合には、酵素発電デバイス用炭素系材料の結晶性が高く、電子伝導性が高い。これにより、電極中における酸化還元反応に必要な電子の授受を促進でき、電流の増加に繋がり、好ましい。
【0034】
また、上記ピークの半値幅が1°以下であることは、さらに好ましい。
【0035】
又、含有する卑金属としては、コバルト(Co)及び/又は鉄(Fe)が好ましい。
【0036】
<酵素発電デバイス用炭素系材料の製造方法>
本発明における炭素材料の製造方法としては、特に限定されず、炭素材料、ヘテロ元素を含む化合物及び卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、炭素材料、ヘテロ元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、ヘテロ元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させる方法、フタロシアニンやポルフィリン等の大環状化合物などのヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物を炭化させる方法、炭素材料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させる方法、炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させた材料に気相法でヘテロ元素をドープする方法、炭素材料に気相法でヘテロ元素をドープする方法など、従来公知のものを使用することが出来る。
好ましい製造方法としては、少なくともヘテロ元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法や、少なくとも炭素材料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法が挙げられる。また、前記熱処理により得られた炭素材料を、酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。更に、前記酸洗浄により得られた炭素材料を、熱処理する工程を含む方法が挙げられる。
【0037】
<炭素材料>
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料が好ましい。例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。上記炭素材料の中でも、種類やメーカーによって、炭素六角網面の大きさや積層構造は様々で、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0038】
市販の無機炭素材料としては、例えば、
ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のデンカ社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、xGnP-H-25等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy-N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;
クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード、クノーベルMJ(4)030グレード、クノーベルMJ(4)010グレード等の東洋炭素社製クノーベル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料だけでなく、熱処理後炭素粒子となる有機材料も使用することができる。熱処理後に炭素粒子となる有機材料としては、炭素以外に他の元素を含有していても良い。熱処理後の炭素粒子に活性点となる窒素やホウ素等のヘテロ元素を含有させるため、予め同ヘテロ元素を含有する有機材料の使用が好ましい場合がある。具体的な有機材料としては、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体などが挙げられる。その中でも窒素やホウ素などのヘテロ元素を含有する有機材料である、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂等が、窒素元素を含む炭素材料として好ましい。
【0040】
<ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物>
本発明における炭素材料として、ヘテロ元素、卑金属元素を導入する際に使用される原料としては、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物であれば特に限定されない。例えば、色素、ポリマー等の有機化合物、金属単体、金属酸化物、金属塩等の無機化合物が挙げられる。また、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用して用いても良い。卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズから選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
好ましくは錯体もしくは塩であり、その中でも、卑金属元素を分子中に含有することが可能な、窒素を含有した芳香族化合物は、炭素材料中に効率的に窒素元素と卑金属元素を導入しやすいため好ましい。具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物等の大環状化合物が挙げられる。上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基や電子供与性官能基を導入されたものであってもよい。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な卑金属元素を含んだ化合物が入手可能であり、コスト的にも安価であるため、原料としては特に好ましい。
【0041】
酵素発電デバイス用炭素系材料に導入される元素の由来としては複数の原料の組み合わせが考えられる。炭素元素は無機炭素材料や熱処理後炭素粒子となる有機材料、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物など、ヘテロ元素は、ヘテロ元素を含む、熱処理後炭素粒子となる有機材料やヘテロ元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物、アンモニアなどヘテロ元素を含む反応性気体など、卑金属元素は、卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物などである。
原料の組み合わせとしては例えば、炭素元素を無機炭素材料、ヘテロ元素を気相法のヘテロドープ由来の炭素材料、炭素元素を有機炭素材料、ヘテロ元素を気相法のNドープ由来の炭素材料、炭素元素とヘテロ元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料由来の炭素材料、炭素元素を無機炭素材料、ヘテロ元素と卑金属元素を、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料、ヘテロ元素と卑金属元素を、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素を有機炭素材料、ヘテロ元素を、卑金属元素を含まない、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物、卑金属元素を、ヘテロ元素を含まない、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素とヘテロ元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料由来の炭素材料、卑金属元素を、卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素、ヘテロ元素及び卑金属元素を、炭素元素、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料等が挙げられる。
【0042】
原料の混合物である前駆体の作製方法としては、前駆体に炭素元素、ヘテロ元素、及び卑金属元素が含まれるよう、炭素材料と、1種類又は複数種類のヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物とを混合する際は、原料同士が均一に混合・複合されていれば良く、混合法としては、乾式混合及び湿式混合が挙げられる。混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
【0043】
乾式混合装置としては、例えば、
2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
【0044】
又、乾式混合装置を使用する際、母体となる原料粉体に、他の原料を粉体のまま直接添加しても良いが、より均一な混合物を作成するために、前もって他の原料を少量の溶媒に溶解、又、分散させておき、母体となる原料粉体の凝集粒子を解しながら添加する方法が好ましい。更に、処理効率を上げるために、加温することが好ましい場合もある。
【0045】
ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物の中には、常温では固体であるが、融点、軟化点、又はガラス転移温度が100℃未満と低い材料がある。それらの材料を用いる場合、常温で混合するより、加温下で溶融させて混合する方がより均一に混合できる場合もある。
【0046】
湿式混合装置としては、例えば、
ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0047】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0048】
又、各原料が均一に溶解した系でない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、一般的な分散剤を一緒に添加し、分散、混合することができる。
【0049】
<水系用分散剤>
市販の水系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0050】
ビックケミー社製の分散剤としては、DISPERBYK-180、184、187、190、191、192、193、194、199、2010、2012、2015、2096等が挙げられる。
【0051】
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE12000、20000、27000、41000、41090、43000、44000、又は45000等が挙げられる。
【0052】
BASFジャパン社製の分散剤としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、60、61、62、63、HPD-96、Luvitec K17、K30、K60、K80、K85、K90、VA64等が挙げられる。
【0053】
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトA-110、300、303、又は501等が挙げられる。
【0054】
ニットーボーメディカル社製の分散剤としては、PAAシリーズ、PASシリーズ、両性シリーズPAS-410C、410SA、84、2451、又は2351等が挙げられる。
【0055】
アイエスピー・ジャパン社製の分散剤としては、ポリビニルピロリドンPVP K-15、K-30、K-60、K-90、又はK-120等が挙げられる。
【0056】
丸善石油化学社製の分散剤としては、ポリビニルイミダゾールPVI等が挙げられる。
【0057】
<溶剤系用分散剤>
市販の溶剤系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0058】
ビックケミー社製の分散剤としては、Anti-Terra-U、U100、204、DISPERBYK-101、102、103、106、107、108、109、110、111、140、161、163、168、170、171等が挙げられる。
【0059】
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE3000、5000、9000、13240、13650、13940、17000、18000、19000、21000、22000、24000SC、24000GR、26000、28000、31845、32000、32500、32600、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、又は53095が挙げられる。
【0060】
味の素ファインテクノ社製の分散剤としては、アジスパーPB821、PB822、PN411、又はPA111が挙げられる。
【0061】
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトKF-1000、1300M、1500、T-6000、8000、8000E、又は9100等が挙げられる。
【0062】
BASFジャパン社製の分散剤としては、Luvicap等が挙げられる。
【0063】
湿式混合の場合、湿式混合装置を用いて作製した分散体を乾燥させる工程が必要となる。この場合、用いる乾燥装置としては、棚式乾燥機、回転乾燥機、気流乾燥機、噴霧乾燥機 撹拌乾燥機、凍結乾燥機などが挙げられる。
【0064】
酵素発電デバイス用炭素系材料の製造方法では、炭素材料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物に対して、最適な混合装置、分散装置、又は乾燥装置を選択することにより、触媒活性の優れた炭素材料を得ることができる。
【0065】
次に、炭素材料と、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物の混合物を熱処理する方法においては、原料となる炭素材料、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物によって異なるが、加熱温度は500~1100℃が好ましく、700~1000℃がより好ましい。
この場合、ある程度高温で熱処理することで、活性点の構造が安定化し、実用的な電池運転条件に耐え得る触媒表面となることが多い。このときの温度は600℃以上であることが好ましい。
【0066】
加熱時間は特に限定されないが、通常は1時間から5時間であることが好ましい。
【0067】
更に、熱処理工程における雰囲気に関しては、原料をできるだけ不完全燃焼により炭化させ、ヘテロ元素や金属元素などを炭素系材料表面に残存させる必要性があるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気などが好ましい。また、熱処理時の炭素系材料中のヘテロ元素量低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下で熱処理を行なったり、炭素系材料の表面構造を制御するために、水蒸気、二酸化炭素、低酸素雰囲気下で熱処理したりしても良い。この場合では、雰囲気によっては酸化が進むと金属が酸化物となり粒子成分が凝集しやすくなるため、温度や時間などを適切に選択する必要がある。
【0068】
また、熱処理工程に関しては、一定の雰囲気及び温度下で、1段階で処理を行う方法だけでなく、一度、不活性ガス雰囲気下、500℃程度の比較的低温で熱処理し、その後、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気下、または賦活ガス雰囲気下で、1段階目を超える温度で熱処理することも可能である。
【0069】
炭素系材料の製造方法としては、さらに、前記熱処理により得られた炭素系材料を酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸は、前記熱処理により得られた炭素系材料表面に存在する活性点として作用しない卑金属成分を溶出させることができるものであれば、特に限定されない。炭素系材料との反応性が低く、卑金属成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸等が好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、炭素系材料を添加し、分散させながら数時間撹拌させた後、静置し、上澄みを除去する。そして、上澄みの着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。
【0070】
炭素系材料の製造方法としては、さらに、前記酸洗浄により得られた炭素系材料を再度熱処理する工程を含む方法が挙げられる。ここでの熱処理は、先に行った熱処理の条件と大きく変わるものではない。加熱温度は500~1100℃が好ましく、700~1000℃がより好ましい。また、雰囲気は、表面の窒素元素が分解し減少しにくい観点から、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下等が好ましい。
【0071】
<酵素発電デバイス用電極組成物>
酵素発電デバイス用電極組成物は、酵素発電デバイス用炭素系材料と、少なくとも、バインダーとを含み、酵素発電デバイス用炭素系材料の全表面が樹脂(バインダー)で覆われることなく活性点が露出できているため、目的とする酸化還元反応に対して効果的に機能できる。
【0072】
また、酵素発電デバイス用電極組成物は、必要に応じて溶剤や分散剤を含有する。酵素発電デバイス用炭素系材料及び溶剤と、バインダー、分散剤の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0073】
<溶剤>
本発明に使用する溶剤としては、特に限定せず使用することができる。必要に応じて、例えば、分散性や導電性支持体への塗工性向上のために、複数の溶剤種を混ぜて使用しても良い。溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。中でも水や、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
【0074】
<バインダー>
本発明におけるバインダーとは、酵素発電デバイス用炭素系材料などの粒子を結着させるために使用されるものであり、それら粒子を溶媒中へ分散させる効果は小さいものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0075】
また、水及び水と相溶可能な溶剤との混合溶剤を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれるバインダーも使用できる。水性エマルションとは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0076】
使用するエマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0077】
<分散剤>
本発明において使用する分散剤は、酵素発電デバイス用炭素系材料に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は酵素発電デバイス用炭素系材料に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0078】
使用する分散剤としては、酵素発電デバイス用炭素系材料の前駆体の作製方法で例示した水系用、溶剤系用分散剤等が使用できる。
【0079】
<分散機・混合機>
本発明の組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0080】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0081】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0082】
<燃料>
本発明の酵素発電デバイスで使用できる燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D-グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、エタノール等のアルコール、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。
【0083】
<酵素発電デバイス用電極>
酵素発電デバイス用電極は、本発明における酵素発電デバイス用電極組成物を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布し乾燥させたり、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記導電性支持体やセパレータ等に転写したりして作製される。
本発明の酵素発電デバイス用電極は必要により酵素やメディエータを含んでいても良い。酵素やメディエータを担持する方法は、本発明の酵素発電デバイス用電極組成物に含ませて行っても良いし、塗布後乾燥した塗膜に後から行っても良い。後から行う場合では、酵素やメディエータを溶解させた液を上記塗膜に浸漬等させた後、乾燥させて担持する方法等が使用できる。
酵素発電デバイス用電極は、酵素を含む酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜をそのまま使用したり、酵素を含む酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜に更に酵素を担持して使用したり、酵素を含まない酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜に酵素を担持して使用したり、酵素を含まない酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜をそのまま使用したりして、後述する酵素発電デバイス用負極や酵素発電デバイス用正極として使用される。
上記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0084】
<酵素発電デバイス用負極>
酵素発電デバイス用負極では、燃料の酸化反応により発生した電子を正極に供給する。
酵素発電デバイス用負極は、酸化酵素を含む本発明の酵素発電デバイス用電極や、酸化酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極などが使用される。
【0085】
<酵素発電デバイス用正極>
本発明の酵素発電デバイス用正極では、負極で発生した電子を受け取り、電極中の還元反応によりこれを消費する。酵素発電デバイス用正極の構造としては、例えば、酸素を電子受容体として使用する酸素還元反応の場合では、反応場となる活性点まで電子及びプロトンの伝導パスや酸素の供給パスが確保されていることが効率的な発電を行う上では好ましい。
酵素発電デバイス用正極は、還元酵素を含む本発明の酵素発電デバイス用電極や、還元酵素を含まない本発明の酵素発電デバイス用電極、還元酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極、還元酵素を含まない酸素還元触媒からなる電極などが使用される。
【0086】
<酸素還元触媒>
酸素還元触媒としては、貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、活性炭、酸素還元酵素などが挙げられ、また本発明の酵素発電デバイス用炭素系材料も酸素還元触媒として使用することもできる。
【0087】
貴金属触媒とは、遷移金属元素のうちルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金から選択される元素を一種以上含む触媒である。これら貴金属触媒は単体でも別の元素や化合物に担持されたものでも良い。
卑金属酸化物触媒は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の卑金属元素を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら卑金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用することができる。
活性炭とは、やしがらや石油系のピッチなどの難黒鉛化炭素材料を原料として、賦活処理により合成される炭素材料で、一般的に、直径2nm以下の細孔を有し、1000m2/g以上の比表面積を有する。活性炭は賦活処理の種類や条件によって、物性が異なるため、使用される条件や用途によって所望の活性炭を合成するのに適した賦活方法が適宜使用される。
【0088】
<導電性支持体>
導電性支持体は、導電性を有する材料であれば特に限定はない。導電性の炭素材料からなる導電層やカーボンペーパーや、カーボンフェルト、カーボンクロス、金属箔、金属メッシュ等が使われる。上記導電層は導電性の炭素材料を含むペーストなどを基材に塗工するなどして作製される。
【0089】
<セパレータ>
セパレータとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。
また、液体成分の保持やイオン伝導度を改善させるため、吸水性ポリマーを単独もしくは上記セパレータと複合的に使用しても良い。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩やカルボキシメチルセルロースなどの多糖類からなる親水性のポリマー材料が挙げられる。
【0090】
<酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素(酸化還元酵素)であれば特に制限はなく、供給する燃料やコスト、デバイスの種類等に応じて適宜選択される。
酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒する酸化還元酵素が好ましい。本発明の酵素発電デバイスに用いる負極においては電子を放出できる酵素であれば良く、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼが好ましい場合がある。その他の酵素としては、汗や血液中の乳酸を燃料にできる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドゲナーゼ、フルクトースを燃料にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドゲナーゼ等が挙げられる。
また、本発明の酵素発電デバイスに用いる正極においては、電子を消費できる酵素であれば良く、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの還元酵素の一種で、分子状酸素の還元を触媒する酸素還元酵素を用いることが出来る。
【0091】
<メディエータ>
酵素の種類によって、電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型以外の酵素は、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極(負極)に伝達するまたは、負極から受け取った電子を電極(正極)から酵素に伝達する役割を担うメディエータと併用することが好ましい。メディエータとしては、電極と電子の授受ができる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。
メディエータの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエータとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。分別、廃棄の観点から非金属化合物が好ましい。
【0092】
<酵素発電デバイス>
酵素発電デバイスは、負極、正極の少なくとも一方に酵素を含む発電デバイスであり、酵素反応を利用し、糖やアルコール、有機酸等の多様な有機物を燃料として、負極で発生した電子及びイオンと、正極側の酸素還元反応を利用することにより発電可能な発電デバイスである。又、発電の有無や発電量を検知したり、負極または正極の一方の酸化還元反応で発生した電気信号を検知したりして、燃料となる有機物等を対象としたセンサーとして利用することも可能となる。
更に、酵素反応により発電した電力を用いて、同センサーを駆動させることにより、外部から電力供給不要な電源フリーのセンサー(自己発電型センサー)として利用することが出来る。この自己発電型センサーは酵素発電デバイスの一種に含まれ、酵素発電デバイスの電源用途と共に特に生体向けのウェアラブル、インプラントセンサーとしての活用が期待されている。これら生体向けデバイスとして使用する場合は、血液中の血糖、尿中の尿糖、汗中の糖や乳酸、涙や唾液中の糖等を燃料及び/又はセンシング対象物として利用される。また、生体試料中に燃料として利用できる有機物を含まなくても、予め燃料となる有機物を電池に内蔵することで、水分などの液体成分を利用して発電することもでき、上記液体成分をセンシング対象物としたセンサー(例えば水分センサー)として利用することもできる。
【0093】
酵素発電デバイスの構成としては、燃料を酸化する負極と、酸素還元が起こる正極と、負極と正極を分離するセパレータを含む。但し、負極と正極を電気的に分離することができればセパレータは必ずしもなくても構わない。負極および正極としては、本発明における酵素発電デバイス用電極並びに酵素発電デバイス用電極組成物を好適に使用することができる。
また、負極から正極側にイオンを伝達するためのイオン伝導体を含んでいても良い。生体向けデバイス等で利用の際、小型・軽量化や保存安定性等を考慮すると、燃料及び/又はセンシング対象物である尿や汗、血液中等に含まれるイオン伝導体を使用する形態の酵素発電デバイスの方が好ましい場合がある。
不織布やフェルト、紙など易廃棄なセパレータに直接負極及び正極を塗布し作製されるデバイスに対して、本発明に用いられる酵素発電デバイス用電極を使用すると、使い捨て可能(易廃棄、リサイクル不要など)なデバイスを実現することが可能となる。
【0094】
本発明における酵素発電デバイスは前述の様に、発電した電力を用いた電源、電源とセンサーを兼ねる自己発電型センサー、有機物センサーや水分センサー等として機能し、これらは様々な用途での利用が見込まれる。使い方としては、電源として別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして本発明の酵素発電デバイスを利用したり、電源及びセンサーに本発明の酵素発電デバイスを1種類以上利用したり、電源として本発明の酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したりすることができる。
【0095】
本発明における酵素発電デバイスの電源用途としては、例えば、家庭用電源、モバイル機器用の電源、使い捨て電源、生体用ウェアラブル電源・インプラント電源、バイオマス燃料用電源、IoTセンサー用電源、周囲の有機物を燃料として発電できる環境発電(エネルギーハーベスト)電源などが挙げられる。
【0096】
センサーの用途としては、例えば、各種有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、呼気などの生体試料中の有機物や体液を対象とした生体センサー、水分を対象にした水分センサー、果物や食品中の糖等を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー等が挙げられ、上記は電源とセンサーを兼ねる自己発電型センサーであっても良いし、電源としては利用しないセンサーとしての利用だけでも良い。生体センサーとしては、例えば、血液中の糖をセンシングする血糖値センサーや、尿中の糖をセンシングする尿糖値センサー、汗中の乳酸値をセンシングする疲労度センサーや熱中症センサー、汗や尿中の水分をセンシングする発汗センサーや排尿センサー等が挙げられる。また、生体向けのウェアラブルセンサーとしての用途として例えば、おむつ内にセンサーを仕込んだ排尿センサーや尿糖値センサー、貼付型の発汗、熱中症センサーなどが挙げられる。
【0097】
IoTセンサーとしては、無線機とセンサーを組み合わせ、センシング情報をワイヤレスで外部に送信する使い方ができる。その場合、本発明の酵素発電デバイスを好適に使用することができる。
例えば、無線機の電源及びセンサーとして酵素発電デバイスを利用したり、無線機の電源に酵素発電デバイス、センサーとして別の酵素発電デバイスを利用したり、無線機の電源に酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機及びセンサーの電源に1種以上の酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機の電源に別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして酵素発電デバイスを利用したりすることができる。
【0098】
上記のIoTセンサーをおむつ用の生体センサーとして利用する場合は、おむつ内に酵素発電デバイスを仕込み、例えば下記の様な使い方が出来る。尿糖値センサーの場合、尿中の糖を燃料及びセンシング対象として利用し、得られた電力で無線機を作動したり、尿中の糖をセンシング対象として利用し、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線機を作動したり、尿中の糖をセンシング対象として利用し、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したりできる。排尿センサーの場合、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、また同時に水分を利用し発電し得られた電力で無線機を作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線機及び別方式の排尿センサーを作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したりできる。
【0099】
また、ワイヤレス送信以外にも、アラーム機器とセンサーとを組み合わせ、センシング情報(On-Offなど)を光や音、振動などによって外部に発信する使い方もできる。
【0100】
貼付型のセンサー及び電源として利用する場合は、酵素発電デバイスを肌に直接貼り付けたり、衣類などに取り付けたりして使うことができる。汗中の乳酸や電解質濃度、pHなどをセンシングして対象の生体情報を取得することで、熱中症や疲労度、健康状態等の診断やモニタリングに活用することが可能となる。汗中の乳酸センサーの場合、汗中の乳酸を燃料及びセンシング対象として利用し、得られた電力で無線機を作動したり、汗中の乳酸をセンシング対象として利用し、汗中の乳酸とは別に予め燃料を内蔵し汗中の水分を利用し発電し得られた電力で無線機を作動したり、汗中の乳酸をセンシング対象として利用し、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したり、汗中の乳酸を燃料として利用し、得られた電力で別方式のセンサーや無線機等を作動したりできる。
【0101】
肌に直接酵素発電デバイスを貼り付ける場合には、肌貼付用の粘着剤および粘着剤を用いてなるテープもしくはシートを利用することができる。
【0102】
また、貼り付け部位は特に限定されないが、発汗の多い部位の方が発電に必要な燃料や水分を多く供給出来るため好ましい。
【0103】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、リン酸塩やナトリウム塩など電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」、%は質量%を表す。
【0105】
酵素発電デバイス用炭素系材料の分析は、以下の測定機器を使用した。
・表面末端窒素:X線分光分析(XPS)(島津/KRATOS社製 AXIS-HS)
・BET比表面積の測定:窒素吸着量測定(日本ベル社製 BELSORP-mini)
・X線回折:全自動水平型多目的X線回折装置(リガク社製 Smartlab)
・RC、RN、RM:CHN元素分析(パーキンエルマー社製 2400型CHN元素分析装置)、ICP発光分光分析(SPECTRO社製 SPECTROARCOS FHS12)
【0106】
<酵素発電デバイス用炭素系材料の製造>
[実施例1A]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(1)を得た。
【0107】
[実施例2A]
ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(ケッチェンブラック/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(2)を得た。
【0108】
[実施例3A]
カーボンナノチューブVGCF-H(昭和電工社製)と鉄フタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(カーボンナノチューブ/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(3)を得た。
【0109】
[実施例4A]
ポリビニルピリジン(PVP アルドリッチ社製)をジメチルホルムアミドに溶解させ、PVPに対して質量比2:1の塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌し、ポリビニルピリジン鉄錯体を得た。上記ポリビニルピリジン鉄錯体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し酵素発電デバイス用炭素系材料(4)を得た。
【0110】
[実施例5A]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にてアンモニア窒素雰囲気下、1000℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(5)を得た。
【0111】
上記で作製した酵素発電デバイス用炭素系材料の物性を表1に示す。
【0112】
【0113】
<酵素発電デバイス用電極組成物の調製>
[実施例1B]
実施例1Aの酵素発電デバイス用炭素系材料(1)4.8部、溶剤として水49.2部、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分2%)をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散した。その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)6部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス用電極組成物(1)を得た。
【0114】
[実施例2B~5B]
実施例2A~5Aの酵素発電デバイス用炭素系材料(2)~(5)を用い、上記酵素発電デバイス用電極組成物(1)と同様の方法で、酵素発電デバイス用電極組成物(2)~(5)を得た。
【0115】
[比較例1B]
酵素発電デバイス用炭素系材料の代わりに導電性の炭素材料としてケッチェンブラックEC-600JD(ライオン社製)(KB)を用い、上記酵素発電デバイス用電極組成物(1)と同様の方法で、導電性炭素材料を含むペースト(1)を得た。
【0116】
<酵素発電デバイス用電極の作製>
[実施例1C~5C]
実施例1B~5Bの酵素発電デバイス用電極組成物(1)~(5)と、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス用炭素系材料の目付け量が2mg/cm2となるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、60分間乾燥し、酵素発電デバイス用電極(1)~(5)を作製した。
【0117】
[比較例1C]
酵素発電デバイス用電極組成物(1)~(5)の代わりに比較例1Bの導電性炭素材料を含むペースト(1)を用い、上記酵素発電デバイス用電極と同様の方法で、導電性炭素材料を含む電極(1)を作製した。
【0118】
<酵素発電デバイス用負極の作製>
[実施例1D~5D]
実施例1C~5Cの酵素発電デバイス用電極(1)~(5)に、メディエータとしてテトラチアフルバレンのメタノール溶液と、グルコースオキシダーゼ(GOD)水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(1)~(5)を作製した。
【0119】
[実施例7D]
また、グルコースオキシダーゼ水溶液を乳酸オキシダーゼ水溶液に変更した以外は酵素発電デバイス用負極(1)と同様の方法で、酵素発電デバイス用負極(9)を作製した。
【0120】
[比較例1D]
比較例1Cの導電性炭素材料を含む電極(1)にメディエータとしてテトラチアフルバレンのメタノール溶液と、グルコースオキシダーゼ(GOD)水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(6)を作製した。
【0121】
[比較例3D]
また、グルコースオキシダーゼ水溶液を乳酸オキシダーゼ水溶液に変更した以外は酵素発電デバイス用負極(6)と同様の方法で、酵素発電デバイス用負極(10)を作製した。
【0122】
[実施例6D] [比較例2D]
メディエータを滴下しない以外は上記酵素発電デバイス用負極(1)及び導電性炭素材料含む電極(1)と同様の方法で酵素発電デバイス用負極(7)及び(8)をそれぞれ作製した。
【0123】
<酵素発電デバイス用正極の作製>
[実施例1E~2E]
実施例1Cの酵素発電デバイス用電極(1)にビリルビンオキシダーゼ(BOD)水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用正極(1)を作製した。また、実施例1Cの酵素発電デバイス用電極(1)に酵素を滴下せず、酵素発電デバイス用正極(2)とした。
【0124】
[比較例1E]
比較例1Cの導電性炭素材料を含む電極(1)にビリルビンオキシダーゼ(BOD)水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用正極(3)を作製した。
【0125】
<酵素発電デバイスの作製>
[実施例1F~8F]
上記作製した実施例1D~5Dおよび比較例1Dの酵素発電デバイス用負極(1)~(6)と、実施例1E~2Eおよび比較例1Eの酵素発電デバイス用正極(1)~(3)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、表2に示す構成で酵素発電デバイス(1)~(8)を作製した。
【0126】
[実施例9F~11F]
上記作製した実施例7Dおよび比較例3Dの酵素発電デバイス用負極(9)~(10)と、実施例1E~2Eの酵素発電デバイス用正極(1)~(2)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、表3に示す構成で酵素発電デバイス(10)~(12)を作製した。
【0127】
[比較例1F]
比較例1Dの酵素発電デバイス用負極(6)と、比較例1Eの酵素発電デバイス用正極(3)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、酵素発電デバイス(9)を作製した。
【0128】
[比較例3F]
比較例3Dの酵素発電デバイス用負極(10)と、比較例1Eの酵素発電デバイス用正極(3)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、酵素発電デバイス(13)を作製した。
【0129】
<出力安定性評価>
以下のようにして、酵素発電デバイスの出力安定性評価を実施した。
上記で作製した酵素発電デバイス(1)~(9)において、負極を作用極、正極を対極兼参照極として、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)に接続し、酵素発電デバイスのセパレータ部分に燃料として0.01MのD-グルコースを含む0.1Mリン酸緩衝液を滴下した。室温下で、Linear Sweep Voltammetry(LSV)を行い、評価した。
LSV測定から得られた酸化電流曲線から最大出力(mW/cm2)の四回測定値の標準偏差を出力安定性の指標とし、評価した。
得られた結果を表2に示す。
【0130】
また、上記で作製した酵素発電デバイス(10)~(13)において、負極を作用極、正極を対極兼参照極として、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)に接続し、酵素発電デバイスのセパレータ部分に燃料として0.1MのL-乳酸を含む0.1Mリン酸緩衝液を滴下した。室温下で、Linear Sweep Voltammetry(LSV)を行い、評価した。
LSV測定から得られた酸化電流曲線から最大出力(mW/cm2)の四回測定値の標準偏差を出力安定性の指標とし、評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0131】
【0132】
出力安定性評価基準を以下に示す。
【0133】
(出力安定性評価)
◎:最大出力 標準偏差(四回測定)10μW/cm2未満(特に良好)
〇:最大出力 標準偏差(四回測定)25μW/cm2未満10μW/cm2以上(良好)
×:最大出力 標準偏差(四回測定)25μW/cm2以上(不良)
【0134】
比較例に比べ実施例では、電池性能の高い出力安定性を示した。これは本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料を用いた場合では、酵素反応に必要な電子の授受が安定的に出来ているためと考えられる、このように不安定な酵素反応を利用する酵素発電デバイスにおいても、実施例では電池性能の高い出力安定性を付与できることが明らかとなった。
【0135】
<グルコースに対するセンシング能評価>
酵素発電デバイス用負極(1)を作用極、白金コイル状電極を対極、銀-銀塩化銀電極(Ag/AgCl)を参照極として、電解液(イオン伝導体)である0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に入れ、30分間の酸素バブリングを行った後、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、pH7、室温下におけるLSV測定において、燃料(センシング対象物)となるグルコース濃度0.001~0.01Mに対する酸化電流の応答性を調べた。その結果を
図1に示す。
【0136】
図1から明らかなように、グルコース濃度の変化に応じて比例的にグルコース酸化活性が変化することが見出されたことから、本発明により作製された酵素発電デバイス用負極はグルコースセンサー用の電極として使用できることが分かった。
【0137】
<グルコース及び乳酸に対するセンシング安定性評価>
酵素発電デバイス用負極(1)、(6)、(9)又は(10)を作用極、白金コイル状電極を対極、銀-銀塩化銀電極(Ag/AgCl)を参照極として、電解液(イオン伝導体)である0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に入れ、30分間の酸素バブリングを行った。その後、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、pH7、室温下で-0.2~0.5Vの電位範囲におけるCyclic Voltammetry(CV)測定において、燃料(センシング対象物)となる0.01Mグルコース又は0.01M乳酸に対するサイクル特性(10サイクル)を調べた。
CV測定から得られたサイクル前後の酸化電流曲線から最大電流(mA/cm2)を比較した。1サイクル目の最大電流に対する10サイクル目の最大電流の割合から最大電流維持率を算出し、繰り返しセンシング安定性の指標として評価した。
得られた結果を表4に示す。
【0138】
【0139】
(センシング安定性評価)
◎:サイクル前後の最大電流維持率(10サイクル)80%以上(特に良好)
〇:サイクル前後の最大電流維持率(10サイクル)60%以上80%未満(良好)
×:サイクル前後の最大電流維持率(10サイクル)60%未満(不良)
【0140】
比較例に比べ実施例では、サイクル特性において高い安定性を示した。これは本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料を用いた場合では、酵素反応における電子の授受が安定的に行われるため、繰り返し反応においても不安定な酵素の劣化を抑制できたためと考えられる。実施例から本発明により作製された酵素発電デバイス用負極を用いると不安定な酵素反応を利用する有機物センサーにおいても、センシング安定性を付与できることが明らかとなった。
【0141】
また、実施例6Dの酵素発電デバイス用負極(7)と比較例2Dの酵素発電デバイス用負極(8)を作用極とした以外は上記と同様の方法で、グルコース濃度0.01Mに対する酸化電流の応答性を調べた。その結果、酵素発電デバイス用負極(7)は(8)に比べて酸化電流の立ち上がり電位が0.2V卑な方向にシフトし且つ、0.4V付近の酸化電流値は一桁高い値を示した。この時の酸化電流は、グルコースとグルコースオキシダーゼの反応で発生した過酸化水素の酸化によるもので、酵素発電デバイス用負極(7)を使用すると酵素発電デバイス用負極(8)に比べ、過酸化水素の酸化電位を低減できることを示している。このことから本発明における酵素発電デバイス用負極は過酸化水素を検出する方式のグルコースセンサーとして好適に使用できることが分かった。加えて、本発明の酵素発電デバイス用負極を用いると、負極に過酸化水素の酸化反応、正極に酸素の還元反応を用いた酵素発電デバイスとしての利用の可能性を示唆するものである。