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特許7318376自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20230725BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C03C27/12 K
C03C27/12 Z
B60J1/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019124411
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021008392
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮古 強臣
(72)【発明者】
【氏名】平間 智
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/074425(WO,A1)
【文献】特開2017-223827(JP,A)
【文献】特開2017-071143(JP,A)
【文献】特開2018-123051(JP,A)
【文献】特開2017-030349(JP,A)
【文献】国際公開第2006/077884(WO,A1)
【文献】特開2017-122025(JP,A)
【文献】特開2013-011840(JP,A)
【文献】特開2014-156358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 1/00-43/00
B60J 1/00-1/20
G02B 5/00-5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防眩性・遮熱性シートと該防眩性・遮熱性シートを挟む2枚の透明板とを有する自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスであって、
明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有し、前記防眩性・遮熱性シートは屈折率が異なる2層以上の誘電体層を含むことを特徴とする自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス。
【請求項2】
前記防眩性・遮熱性シートは、分光反射率の最大値が12%以上である、請求項1に記載の防眩性・遮熱性合わせガラス。
【請求項3】
前記防眩性・遮熱性シートは屈折率が異なる誘電体層が交互に4~50層積層された積層部を有する、請求項1又は2に記載の防眩性・遮熱性合わせガラス。
【請求項4】
明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であり、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有し、屈折率が異なる2層以上の誘電体層を含むことを特徴とする自動車用防眩性・遮熱性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転時等において、太陽光線、ヘッドライト、夜間のLED街路灯等の眩しさを防止する防眩手段としては、サングラスやサンバイザーの他、フロントガラスに設置されるサンシェードがある。これらの防眩手段において、防眩効果を高めるために可視光線透過率を小さくすると、交通標識や信号の色が見え難くなるおそれがあった。
【0003】
そこで、太陽光線等の個々の波長に応じて光線透過率を制御して、可視光線の透過量をある程度維持しつつ、眩しさに関わる特定の波長領域の光線のみを抑制する試みが検討されてきている。
【0004】
眩しさに関わる特定の波長領域の光線のみを抑制する方法としては、特定の波長領域の光線を選択的に吸収する色素を使用する方法がある。例えば特許文献1には、波長580nm付近の光を吸収する3価のネオジムイオンを含有する合わせガラス用中間膜が開示されている。
【0005】
明るい所から暗い所に移動したときに、徐々に目が慣れてくることを暗順応と呼び、反対に暗い所から明るい所に移動したときに、徐々に目が慣れてくることを明順応と呼ぶ。眼球の網膜に存在する桿体細胞に含まれる視物質ロドプシンは明所では分解され、暗所では再合成される。そのため、暗順応ではロドプシンを再合成する時間が必要なので、明順応と比べて時間がかかることになる。
【0006】
夜間、自動車を運転する場合、暗順応しているときには、ヘッドライトの光を感じ易く、ヘッドライトの光によって明順応してしまうと、視認性が低下して安全性が損なわれてしまう。そのため、暗い所では可視光透過率を小さくしてより暗くした方が、明順応・暗順応を考慮すると眩しさを効果的に抑制することができると考えられる。
【0007】
また、遮熱性を付与する場合、従来は熱線を吸収する材料(グリーンガラス、ITO微粒子等)を用いていたが、遮熱性能が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-55839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、暗所で眩しさを効果的に抑制するためには、単純に透過率を下げることは好ましくない。明順応・暗順応の観点から、暗所では可視光透過率を小さくして暗くすることができれば、暗順応を維持して眩しさを効果的に抑制できる。また、遮熱性は、従来の熱線を吸収する材料に熱線を反射する材料を組み合わせることで、性能が向上する。
【0010】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、暗所での防眩性と遮熱性とに優れた自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、暗所において透過率を低下させることができるフィルムについて検討を進めた。その結果、屈折率が異なる層が多数積層されたシートによる多積層光干渉を利用することで、反射率の最大の波長を短波長側にシフトさせることができることを見出した。
【0012】
人間の目は、波長毎に光を感じる強さ(視感度)が異なり、明所であれば一般に、550nmを中心とした波長の光に敏感であるとされており、暗所では一般に、これは短波長側にシフトしている。そうすると、暗所において視感度が高い波長の光の強度を選択的に低減させることができれば、暗所における光から感じる眩しさをより効果的に抑制できると考えられる。すなわち、多積層光干渉を利用することにより、反射率の最大波長を短波長側にシフトさせることで、暗所における可視光透過率を小さくすることが可能となる。さらには、短波長を反射させることで、遮熱性も向上することを見出した。
【0013】
本発明は、このような検討を踏まえて、完成するに至ったものである。すなわち、本発明は以下のような構成を有するものである。
【0014】
(1)本発明の自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスは、防眩性・遮熱性シートと該防眩性・遮熱性シートを挟む2枚の透明板とを有する自動車用防眩性性・遮熱性合わせガラスであって、明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満である。
(2)本発明の自動車用防眩性・遮熱性シートは、明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満である。
(3)前記防眩性・遮熱性シートは屈折率が異なる2層以上の誘電体層を含み、波長400~500nmの範囲に分光反射率の最大値を有し、当該最大値が12%以上であることが好ましい。
(4)前記防眩性・遮熱性シートは屈折率が異なる誘電体層が交互に4~50層積層された積層部を有することが好ましい。
(5)1種以上の遮熱材料(遮熱グリーンガラスやITO微粒子を含有する樹脂層など)と組み合わせることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自動車用防眩性・遮熱性シートおよび自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスは、暗所での防眩性と遮熱性とに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の自動車用防眩性・遮熱性合わせガラスの製造方法を示す模式図である。
図2】実施例で使用したLED光源の波長に対する光強度を示すグラフである。
図3】フィルム3の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明の実施形態は、以下の実施形態に限定されるものではない。以下では、「自動車用防眩性・遮熱性シート」を単に「防眩性・遮熱性シート」と記載し、「自動車用防眩性・遮熱性合わせガラス」を単に「防眩性・遮熱性合わせガラス」と記載する。
【0018】
本実施形態の防眩性・遮熱性シートおよび防眩性・遮熱性合わせガラスは、明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であることを特徴とする。
【0019】
明所の可視光透過率(%)は、好ましくは70~80%、より好ましくは72~79%であり、暗所の可視光透過率(%)は、特に限定されず、好ましくは50~78%、より好ましくは55~75%である。
【0020】
明所の可視光透過率(%)と暗所の可視光透過率(%)の差は、特に限定されず、好ましくは0.1%以上、より好ましくは3%以上、更に好ましくは10%以上である。可視光透過率は、JIS R3106:1998に準拠して、赤外反射測定機を用いて測定することができる。また、暗所の可視光透過率は、暗所の重価係数(JIS Z 8785(2019))を使用して求めることができる。
【0021】
遮熱性能Ttsは、好ましくは64%以下、より好ましくは62%以下、更に好ましくは60%以下である。遮熱性能Ttsは、ISO13837:2008に準拠して測定する。具体的には、Tts=27.6+0.724×(日射透過率)-0.276×(日射反射率)の式から算出される。この透過および反射スペクトルは分光光度計を用いて測定する。
【0022】
本実施形態の防眩性・遮熱性シートおよび防眩性・遮熱性合わせガラスは、明所の可視光透過率(%)が暗所の可視光透過率より大きく、明所の可視光透過率が70%以上であり、遮熱性能Ttsが63未満であるという要件を満たしている限り、どのような構造を有するものであってよい。
【0023】
上記の要件(明所の可視光透過率が暗所の可視光透過率より大きく、遮熱性能が良好)を実現するための方法としては、例えば、屈折率が異なる誘電体層が多数(例えば、2層以上)積層されたシートによる多積層光干渉を利用する方法が挙げられる。通常であれば、暗所の可視光透過率は、明所の可視光透過率より大きく、遮熱性能は十分ではない。しかしながら、このような多積層光干渉を利用することで、明所の可視光透過率を暗所の可視光透過率より大きく、遮熱性能を向上させることが可能となる。これは、多積層光干渉を利用することで、暗所における視感度を効果的に低減することができ、反射特性を利用することで熱線を反射させることにより遮熱性能が向上する。
【0024】
反射率の最大波長は、暗所における視感度が高い範囲にあることが望ましく、好ましくは波長400~500nm、より好ましくは波長410~490nmである。また、反射率の最大値は、特に限定されず、好ましくは12%以上、より好ましくは20%以上である。反射率の最大波長および反射率の最大値は、可視光透過率と同様にして測定される。
【0025】
多積層光干渉を利用する積層シートとしては、例えば、屈折率が相異なる誘電体層が交互に積層された積層部を有するものが挙げられる。交互に積層される誘電体層の数としては、特に限定されず、例えば、4~50、好ましくは6~30である。また、各層の厚さは、例えば、5~1000nm、好ましくは10~900nmである。積層シート全体の厚さは、例えば、40nm~100μm、好ましくは120nm~60μmである。屈折率の差は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.4以上である。屈折率の差が大きい場合は積層する層の数が少なくても本発明の効果を得ることができ、反対に屈折率の差が小さい場合は積層する層の数を多くする必要がある。
【0026】
このような多積層光干渉を利用するシートとしては、例えば、(1)樹脂を積層したもの(例えば、特開2017-181889号公報)、(2)金属酸化物を積層したもの、(3)金属化合物粒子が分散された樹脂を積層したもの、などが挙げられる。なお、以下では、屈折率が異なる二層以上の層のうち、相対的に屈折率が高い層を「高屈折率層」と称し、相対的に屈折率が低い層を「低屈折率層」と称する。
【0027】
(1)の樹脂を積層したものとしては、例えば、屈折率が異なる熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂B)が交互に積層されたものが挙げられる。
【0028】
使用する熱可塑性樹脂としては、好ましくはポリエステルであり、中でも芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールあるいはそれらの誘導体を用いて得られるポリエステルが好ましい。ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ジフェニルスルホンジカルボン酸などが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも好ましくはテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸である。これらの成分は1種単独で又は2種以上併用して使用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
【0029】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどが挙げられる。中でも好ましくはエチレングリコールである。これらのジオール成分は1種単独で又は2種以上併用して使用してもよい。
【0030】
上記ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、並びにポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体の中から選択されるポリエステルを用いること、特に熱可塑性樹脂Aとして用いることが好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂Bとしては、以下の樹脂C,D又はEを主たる成分として使用することが好ましい。本発明のフィルムの熱可塑性樹脂Bとしては、以下の樹脂C,D又はEを主たる成分とする熱可塑性樹脂と、ポリエチレンテレフタレートの混合物からなることも好ましい。
樹脂C:スピログリコール成分を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート
樹脂D:スピログリコール成分およびシクロヘキサンジカルボン酸成分を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート
樹脂E:シクロヘキサンジメタノール成分を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート
【0032】
(2)の金属酸化物を積層したものとしては、例えば、屈折率が異なる金属酸化物層が交互に積層されたものが挙げられる。
【0033】
このような金属酸化物積層部は、基材フィルムの少なくとも一方の表面に設けることができる。金属酸化物積層部は、基材フィルムの車内側および車外側のいずれに設置してもよい。金属酸化物積層部は、基材フィルムの一方の面上に直接形成してもよいし、他の基材層上に形成して、その後基材フィルムと接着層等によって貼合してもよい。
【0034】
基材フィルムは、可視光線を透過させるように透明樹脂から構成されている。基材フィルムとして使用される透明樹脂としては、アクリル系、ポリカーボネート系、スチレン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、水添環状樹脂、フッ素系、シリコーン系、ウレタン系、TAC系など種々の樹脂が使用でき、用途や目的に応じて、使い分けることができる。これらの透明樹脂の中では、加工性の観点から、1軸および2軸延伸したポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系の樹脂が好ましい。延伸したフィルムは、位相差を7000nm以上にすることで、太陽光を反射させた際の虹(干渉)ムラを解消することができる。基材フィルムは、透明樹脂の機械的物性等にもよるが、厚さは、8~800μmであることが好ましい。より好ましくは12~400μmである。
【0035】
高屈折率層を構成する金属酸化物としては、チタン酸ランタン(LaTiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化セリウム(CeO)、酸化イットリウム(Y)、およびそれらの混合物などが挙げられる。また、低屈折率層を構成する金属酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO)などが挙げられる。基材フィルムに金属酸化物層を形成する方法は、一般に、気相法が用いられる。気相法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法など公知の方法を適宜選択することができる。
【0036】
(3)の金属化合物粒子が分散された樹脂を積層したものとしては、例えば、屈折率が異なる、金属酸化物粒子が分散された水溶性樹脂が交互に積層されたものが挙げられる。
【0037】
このような層は、透明の有機材料で形成された基材上に設けることができる。
【0038】
金属酸化物粒子としては、例えば、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、チタン酸鉛、鉛丹、黄鉛、亜鉛黄、酸化クロム、酸化第二鉄、鉄黒、酸化銅、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、酸化ユーロピウム、酸化ランタン、ジルコン、酸化スズなどが挙げられる。
【0039】
高屈折率層で用いる金属酸化物粒子としては、TiO、ZnO、ZrOが好ましい。低屈折率層で用いる金属酸化物粒子としては、二酸化ケイ素粒子を用いることが好ましく、酸性のコロイダルシリカゾルを用いることが特に好ましい。
【0040】
水溶性高分子としては、特に限定されず、例えば、反応性官能基を有するポリマー、無機ポリマー、増粘多糖類、ゼラチンなどが挙げられる。
【0041】
防眩性・遮熱性合わせガラスは、防眩性・遮熱性シートと前記防眩性・遮熱性シートを挟む2枚の透明板とを有している。防眩性・遮熱性シートの両側に接着層を設けて、2枚の透明板で挟んで、固定することによって、防眩性・遮熱性合わせガラスが形成される。防眩性・遮熱性合わせガラスに使用される透明板としては、透明ガラスまたは前記した透明樹脂を用いることができる。ガラスとしては、ソーダ石灰ガラスが代表的なものである。熱線の遮蔽性能の向上を図るために、近赤外線の波長領域(800~2500nm)の透過率を低下させるガラス板として、鉄イオンを含有しているガラス板(グリーンガラス)を用いることができる。鉄イオンを含有するガラス板としては、二酸化ケイ素(SiO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カルシウム(CaO)を主成分とするソーダ石灰ガラスであって、鉄分をFeとして0.3~0.9質量%含有し、鉄分を高い還元率で還元したガラス板が好ましい。鉄分の高い還元率の目安としては、Fe2+/Fe3+で50~250%であるものをいう。鉄分を還元して2価の鉄イオンの含有量を増大させることによって、赤外線領域の吸収率を高めることができる。鉄分を還元する方法としては、ソーダ石灰ガラス原料としての珪砂、長石、ソーダ灰、ベンガラ等の粉末と、還元剤としてカーボンを用いて、電気溶融窯等で溶融させることによって調製することができる。また鉄分の還元率は、レドックス測定装置によって測定することができる。ガラス板1枚の厚みとしては、特に制限されないが、例えば0.1~10mm程度、好ましくは1~5mm程度が挙げられる。
【0042】
防眩性・遮熱性合わせガラスの接着層としては、合わせガラスの中間膜と透明板との接着層として使用される樹脂膜であれば特に制限されない。接着層に使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB系樹脂)等のポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂(EVA系樹脂)、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。接着層の厚さは、100~1000μmであることが好ましい。
【0043】
接着層に使用される接着剤には、紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色剤、接着調整剤、熱線吸収/反射剤等を適宜添加配合してもよい。
【0044】
防眩性・遮熱性合わせガラスを製造する方法は、公知の合わせガラスを製造する方法を用いることができる。具体例を次に説明する。図1は、本実施形態の防眩性・遮熱性合わせガラスの製造方法を示す模式図である。
【0045】
まず、図1(a)に示すように、2枚のガラス板5の間に、両面に接着層を形成した防眩性・遮熱性フィルム4を積層する。積層されたガラス板5、防眩性・遮熱性フィルム4およびガラス板5は、ローラー21上を移動して、次の工程に移る。
【0046】
次に、図1(b)に示すように、密閉されたチャンバ22内で、積層されたガラス板5、防眩性・遮熱性フィルム4およびガラス板5は、ヒータ23によって80~140℃の温度範囲、例えば90℃程度に加熱される。続いて、1対の圧着ロール24を通過させることによって、積層されたガラス板6、防眩性・遮熱性フィルム4およびガラス板7は仮圧着される。
【0047】
次に、図1(c)に示すように、仮圧着された防眩性・遮熱性合わせガラス10は、オートクレーブ25中に収納される。オートクレーブ25中で、約1MPaに加圧され、80~140℃の温度範囲、例えば130℃程度に加熱されることによって、仮圧着後に残った気泡は取り除かれ、防眩性・遮熱性フィルム4の接着層がガラス板5と十分に貼合されて、防眩性・遮熱性合わせガラス10が製造される。
【0048】
防眩性・遮熱性合わせガラス形成工程における加熱としては、仮圧着前の加熱とオートクレーブ25中での加熱の2回行われる。いずれの場合も加熱温度は、80~140℃であることが好ましい。また、通常は、仮圧着前の加熱時よりもオートクレーブでの加熱時の方が加熱温度を高く設定する。
【0049】
本実施形態の防眩性・遮熱性シートは、暗所での防眩性と遮熱性に優れていることから、自動車等の交通車輌の窓(特にフロントガラス)において、窓ガラスに貼り合わせて利用することができる。また、防眩性・遮熱性合わせガラスは、そのまま自動車のフロントガラスとして利用することができる。
【実施例
【0050】
本実施形態を下記の実施例によって、さらに具体的に説明する。
【0051】
(防眩性・遮熱性フィルムの作製)
防眩性・遮熱性フィルム7はピカサス「40QPA6」(東レ株式会社製)を使用した。
【0052】
防眩性・遮熱性フィルム1~6は、真空蒸着器を用い、成膜開始真空度:0.9mPa、電子ビーム蒸発、成膜時基材温度:60±30℃でZrO/SiOの順に成膜して、積層膜を作製した。
【0053】
(合わせガラスの作製)
グリーンガラスのフロートガラス板(厚さ2mm、以下「ガラス板」と記載する。)上に、接着層としての380μm厚のPVB(ポリビニルブチラールフィルム、積水化学工業社製、S-LEC PVB 0.38mm)のシート(以下「PVBシート」と記載する。)を置いた。その上に、上記防眩遮熱フィルムを、積層部を下側にして置き、さらに接着層としてのPVBシートを置き、最後にガラス板を置いて、防眩遮熱フィルムを接着層で挟み込んだ積層板を得た。この積層板を図1に記載した製造ラインに通した。
【0054】
すなわち、密閉されたチャンバ22内で、ヒータ23を用い、得られた積層板を約90℃に加熱した。その後、1対の圧着ロール24を通過させることによって、積層されたガラス板5と防眩性・遮熱性フィルム4とを仮圧着させた。次に、仮圧着された防眩性・遮熱性合わせガラス10をオートクレーブ25中に収納した。オートクレーブ25中で、約1MPaに加圧し、約130℃で30分間加熱することによって、仮圧着後に残った気泡を取り除き、防眩性・遮熱性フィルム4が接着層によってガラス板5と十分に貼合された防眩性・遮熱性合わせガラス10を製造した。
【0055】
<評価項目>
(光学特性)
分光光度計(日立製作所社製、U-4100)を用い、合わせガラス試験片のスペクトルを300~2500nmの波長範囲で測定し、D65光源およびLED光源(図2)を使用した下記数値を計算により求めた。暗所の重価係数は、JIS Z 8785(2019)を使用した。
【0056】
測定項目:
・最大反射波長、最大反射率
・可視光透過率:JIS R3106:1998準拠
・可視光反射率:JIS R3106:1998準拠
・日射透過率:JIS R3106:1998準拠
・日射反射率:JIS R3106:1998準拠
・透過色度:JIS Z 8722:2009準拠
・反射色度:JIS Z 8722:2009準拠
【0057】
(遮熱特性)
ISO13837:2008に準拠して測定した。Tts=27.6+0.724×(日射透過率)-0.276×(日射反射率)の式から算出した。
【0058】
防眩性・遮熱性フィルム1~7の構成を表1に、実験1~8の評価結果を表2に示した。表1の防眩性・遮熱性フィルム1~6に使用した基材は、位相差を制御した(R0面内位相差8000nm)ポリエチレンテレフタレートフィルム(易接着性1軸延伸PETフィルム、80μm)である。図3は、フィルム3の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
実験8は合わせガラスのみの結果であり、D65光源を用いた場合、明所よりも暗所の可視光透過率が高い値を示した。LED光源を用いた場合でも、同様の結果を示した。
【0062】
しかしながら、実験1、2、3、4、5、7では、実験8と比較し、暗所-明所の可視光透過率が小さくなった。特に、実験1、2、3、7においては、暗所-明所の可視光透過率がより小さくなり、夜間の防眩効果に有効であることが示された。一方、実験6では、暗所-明所の可視光透過率が合わせガラス同等であった。
図1
図2
図3