(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】液体塗布モジュール
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
B05C5/00 101
(21)【出願番号】P 2019162975
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 雅人
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-012403(JP,A)
【文献】特開平06-339654(JP,A)
【文献】特開2018-103140(JP,A)
【文献】実開昭62-140973(JP,U)
【文献】特開2007-303342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0102541(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1849528(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B05C 5/00 - 5/04
B05C 7/00 - 21/00
B05B 1/00 - 3/18
B05B 7/00 - 9/08
F16K 1/00 - 1/54
F16K 21/00 - 24/06
F16K 31/12 - 31/165
F16K 31/36 - 31/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を塗布するための液体塗布モジュールであって、
内部が液体を流通させる流路とされた筒状の部材であり、前記流路に液体を流入させる流入口と前記流路から液体を流出させる流出口とを有するハウジングと、
少なくとも一部が前記ハウジングの内部に収容され、前記ハウジングの軸線方向に沿って延びてその軸線方向に移動可能とされ、軸線方向における一方側に移動させられた位置において前記流出口を塞ぐ軸体と、
前記軸体を軸線方向における前記一方側に向かって付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力に抗って前記軸体を軸線方向における他方側に後退させる軸体後退機構と、
を備え、
前記軸体は、前記流入口と前記流出口との間に、自身の軸線に対して交差する方向に突出して設けられて前記流路内における前記流入口から前記流出口へ向かう液体の流れを規制する流動規制部を有
し、
前記ハウジングは、断面が円形状の流路を有するものとされ、
前記流動規制部は、円形状に形成されて、軸線方向に貫通する複数の貫通孔を有するもとされ、
前記流動規制部には、外周面に沿って、自身と前記ハウジングの内周面との間を塞ぐシール部材が配された液体塗布モジュール。
【請求項2】
前記流動規制部は、前記軸線方向における他方側の面が他方側に向かうにつれて前記ハウジングの内周面に近づく傾斜状に形成された請求項1に記載の液体塗布モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を塗布するための液体塗布モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、液体としてのホットメルト接着剤を塗布するための流体吐出装置(流体吐出ガン10)が記載されている。下記特許文献1に記載の装置は、(A)内部が液体を流通させる流路(流体空洞28)とされた筒状の部材であり、その流路に液体を流入させる流入口(流体通路26)と流路から液体を流出させる流出口(オリフィス34)とを有するハウジング(弁本体16)と、(B)ハウジングの内部に収容され、ハウジングの軸線方向に沿って延びてその軸線方向に移動可能とされ、軸線方向における一方側(
図1における下側)に移動させられた位置において流出口を塞ぐ軸体(弁ステム22)と、(C)軸体を軸線方向における一方側に向かって付勢する付勢部材(圧縮スプリング54)と、付勢部材の付勢力に抗って軸体を軸線方向における他方側に後退させる軸体後退機構(空気ソレノイド30)と、を備えた構成とされている。
【0003】
そして、下記特許文献1に記載の装置(液体塗布モジュール)は、接着剤を吐出する際には、空洞40およびシリンダ42内に空気を供給し、その空気圧によって軸体である弁ステム22に固定されたピストン44を上方に向かって移動させることで、オリフィス27を開放する。一方、接着剤の吐出を止める際には、空洞40およびシリンダ42内の空気を抜き、付勢部材である圧縮スプリング54の付勢力によって、軸体である弁ステム22を下方に向かって移動させ、その弁ステム22の先端でオリフィス34を塞ぐように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された液体塗布モジュールは、付勢部材である圧縮スプリング54の破損等により、圧縮スプリング54の付勢力が軸体である弁ステム22に作用しなくなると、弁ステム22は元の位置に戻れずに、オリフィス34が開放されたままとなり、外部から供給されるホットメルト接着剤が吐出され続ける虞がある。
【0006】
本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、付勢部材の付勢力が軸体に作用しない失陥が生じた場合に液体の吐出を防止することが可能な液体塗布モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の液体塗布モジュールは、
液体を塗布するための液体塗布モジュールであって、
内部が液体を流通させる流路とされた筒状の部材であり、前記流路に液体を流入させる流入口と前記流路から液体を流出させる流出口とを有するハウジングと、
少なくとも一部が前記ハウジングの内部に収容され、前記ハウジングの軸線方向に沿って延びてその軸線方向に移動可能とされ、軸線方向における一方側に移動させられた位置において前記流出口を塞ぐ軸体と、
前記軸体を軸線方向における前記一方側に向かって付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力に抗って前記軸体を軸線方向における他方側に後退させる軸体後退機構と、
を備え、
前記軸体は、前記流入口と前記流出口との間に、自身の軸線に対して交差する方向に突出して設けられて前記流路内における前記流入口から前記流出口へ向かう液体の流れを規制する流動規制部を有することを特徴とする。
【0008】
この構成の液体塗布モジュール(以下、単に「モジュール」と呼ぶ場合がある)は、ハウジングが外部から液体の供給を受けており、通常は、付勢部材により付勢されている軸体によってハウジングからの液体の吐出が禁止された状態となっている。そして、この構成のモジュールは、例えば使用者の操作や制御装置からの指令に基づいて軸体後退機構が作動させられ、軸体が後退させられることで流出口が開口し、ハウジングからの液体の吐出が許容される状態となる構成のものである。なお、このモジュールは、液体の吐出が許容される状態において、ハウジングの流路内には、軸体の周囲をその軸体に沿って、流入口から流出口に向かって、換言すれば、軸線方向における一方側に向かって、液体が流れることになる。
【0009】
この構成の液体塗布モジュールにおいて、例えば付勢部材が破損した場合、軸体には、付勢部材による元の位置(流出口を塞ぐ位置である。以下、「初期位置」と呼ぶ場合がある。)に戻す方向の力が作用しないことになる。しかしながら、この構成の液体塗布モジュールは、軸体が流動規制部を有していることで、例えば、軸体が、ハウジングの流路内を流れる液体から流動抵抗、つまり、液体が流れる方向の力を受けることになる。また、例えば、流動規制部によって液体の流れを規制することで、ハウジング内において、流動規制部より上流側の液圧が、下流側の液圧より高くなり、その液圧差によって、液体が流れる方向の力を受けることになる。つまり、この構成のモジュールは、付勢部材の破損等によって付勢部材の付勢力が軸体に作用しない失陥が生じた場合であっても、軸体には初期位置に戻す方向の力が作用して、軸体が初期位置に戻され、ハウジングからの液体の吐出を防止することができるのである。この構成のモジュールは、特に、液体が高温のもの等、危険性の高いものである場合に好適である。さらに言えば、この構成のモジュールは、作業者等によって把持された状態で使用されるものであっても、ロボットに装着されるものであってもよいが、吐出する液体が危険性の高いもので、かつ、作業者等によって把持された状態で使用されるものである場合に、より好適である。
【0010】
なお、この構成のモジュールにおける流動規制部は、軸体の軸線に交差する方向に突出していれば、その形状や大きさは特に限定されないが、液体の流れる力を受けやすい形状とされることが望ましい。例えば、この構成のモジュールは、流動規制部とハウジングの内周面との間や、流動規制部自体に成形した貫通孔等によって、液体の流量を制限するような構成とすることができる。また、この構成のモジュールにおける流動規制部は、軸体の本体部と一体的に成形されていてもよく、本体部とは別に成形されて本体部に取り付けられてもよい。
【0011】
上記の構成において、前記ハウジングは、断面が円形状の流路を有するものとされ、前記流動規制部は、円形状に形成されて、軸線方向に貫通する複数の貫通孔を有するもとされた構成とすることができる。
【0012】
この構成のモジュールは、流動規制部とハウジングの内周面との間の隙間を小さくすることができる。この場合には、それらの隙間と、複数の貫通孔との両者が、流入口から流出口へ向かう液体の流れを規制する箇所となる。また、流動規制部の外周をハウジングの内周面に当接させることで、それら流動規制部とハウジングの内周面との隙間をなくすことができる。この場合には、複数の貫通孔が、流入口から流出口へ向かう液体の流れを規制する箇所となる。この構成のモジュールによれば、容易に、液体の流量を規制することができ、付勢部材の破損時における軸体の一方側への移動に寄与することができる。
【0013】
また、上記の構成において、前記流動規制部には、外周面に沿って、自身と前記ハウジングの内周面との間を塞ぐシール部材が配された構成とすることができる。
【0014】
この構成のモジュールは、流動規制部がシール部材を介してハウジングの内周面に当接するように構成されている。この構成のモジュールは、ハウジングに対して軸体が摺動可能に保持する箇所が増えるため、軸体のハウジングに対する移動を安定させることができる。
【0015】
また、上記の構成において、前記流動規制部は、前記軸線方向における他方側の面が他方側に向かうにつれて前記ハウジングの内周面に近づく傾斜状に形成された構成とすることができる。
【0016】
この構成のモジュールは、流動規制部における他方側(流入口側)の面が他方側に向かうにつれて外側に広がった形状とされている。例えば、流動規制部が円形状のものであれば、内周面が一方側に向かうにつれて内径が小さくなるテーパ状に形成されたものとなる。この構成のモジュールは、流動規制部が一方側への液体の流れを受けやすく、軸体が一方側へ移動しやすくなっている。また、この構成のモジュールは、流動規制部の他方側の面が、軸体の軸線に垂直である場合に比較して、他方側の面の面積が大きくなるため、流動規制部の上流側と下流側とで液圧差が生じる場合に、軸体に作用する一方側への力が大きくなり、軸体が一方側へ移動しやすくなると考えることもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、付勢部材の付勢力が軸体に作用しない失陥が生じた場合に液体の吐出を防止することが可能な液体塗布モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施例の液体塗布モジュールである接着剤塗布ガンの側面断面である。
【
図2】
図1に示す流出口付近を拡大して示す断面図である。
【
図3】第1実施例に係る接着剤塗布ガンにおける流動規制部として機能する部材の斜視図である。
【
図4】第1実施例に係る接着剤塗布ガンにおける流動規制部として機能する部材の側面断面図である。
【
図5】第1実施例に係る接着剤塗布ガンの正面断面図である。
【
図6】本発明の第2実施例の液体塗布モジュールである接着剤塗布ヘッドの側面断面である。
【
図7】第2実施例に係る接着剤塗布ヘッドにおける流動規制部として機能する部材の斜視図である。
【
図8】第2実施例に係る接着剤塗布ヘッドにおける流動規制部として機能する部材の側面断面図である。
【
図9】第2実施例に係る接着剤塗布ガンの正面断面図(下方からの視点における断面図)である。
【
図10】本発明の第1実施例の液体塗布モジュールの要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0020】
本発明の第1実施例の液体塗布モジュールを、
図1に示す。第1実施例の液体塗布モジュールは、液体としてのホットメルト接着剤(以下、単にホットメルトと呼ぶ。)を塗布するハンドガンタイプの接着剤塗布ガン10である。本接着剤塗布ガン10は、供給装置から加熱溶融されたホットメルトの供給を受けて、そのホットメルトの吐出のON・OFFを切り替えたり、ホットメルトの吐出量の調整を行ったりするものである。本接着剤塗布ガン10は、
図1に示すように、ガン本体部11と、ガン本体部11の一端側に取り付けられてホットメルトを吐出するノズルユニット12と、ガン本体部11の他端側に固定されて作業者に把持される把持部13と、を含んで構成される。なお、以下の説明において、ノズルユニット12が配されてホットメルトを吐出する側(一端側)を前側と、それと反対側(他端側)を後側と、呼ぶ場合がある。
【0021】
ガン本体部11は、概して筒状の2つの部材である第1シリンダ部材20および第2シリンダ部材21とからなる。第1シリンダ部材20は、断面が円形状の中空部22を有し、第2シリンダ部材21は、後端が中空部22に前方側から嵌合されており、それら第1シリンダ部材20と第2シリンダ部材21とが一体化されている。また、第2シリンダ部材21は、概して円筒形状の部材であり、中空部22より内径の小さな中空部23を有している。そして、中空部22の中心線と中空部23の中心線とが同軸的に配されていることで、ガン本体部11には、前後方向に延びる貫通孔が形成された状態となっている。
【0022】
第2シリンダ部材21の先端(前方側の端部)には、ノズルユニット12が取り付けられている。ノズルユニット12は、ノズル24とノズルケース25とからなり、ノズル24は、先端がノズルケース25から突出する状態でノズルケース25に保持されている。そして、そのノズルケース25の内周面と第2シリンダ部材21の外周面との間に成形されたネジを螺合させることで、ノズルユニット12は、ガン本体部11に取り付けられている。なお、ノズル24には、
図2に示すように、後方に開口して前側ほど内径が小さくなる円錐形状の空洞26と、その空洞26から先端側に延びて前方に開口する吐出オリフィス27と、が成形されている。そして、ノズルユニット12がガン本体部11に取り付けられた状態において、空洞26の中心線および吐出オリフィス27の中心線は、中空部22,23の中心線と同軸とされる。
【0023】
また、把持部13は、第1シリンダ部材20の中空部22を塞いでガン本体部11の後端に連結される。その把持部13は、ガン本体部11とともに当該接着剤塗布ガン10のボデーを構成するボデー部30と、そのボデー部30から下方に向かって延び出して作業者によって握られるグリップ部31と、ボデー部30に設けられた回動軸32を中心として揺動可能に保持されたトリガー33と、を含んで構成される。
【0024】
本接着剤塗布ガン10は、また、軸体としてニードル40を備えている。そのニードル40は、前側部分が、ガン本体部11に形成された貫通孔を挿通して先端がノズル24の空洞26に挿入された状態とされ、後側部分が、把持部13のボデー部30に保持された状態となっている。また、そのニードル40は、軸線が中空部22,23の中心線と同軸となるように配され、ガン本体部11および把持部13に対して、軸線に沿って摺動可能とされている。
【0025】
ガン本体部11の内部、詳しく言えば、第1シリンダ部材20の内部には、ニードル40の外径よりわずかに大きな内径とされて、中空部22を前後に仕切る仕切部20Aが設けられている。つまり、中空部22は、その仕切部20Aの前側に形成された前側中空部22Aと、仕切部20Aの後側に形成された後側中空部22Bと、を有している。
【0026】
ニードル40の後側中空部22B内に位置する部分には、バネ受け部材41が固定されており、そのバネ受け部材41と把持部13のボデー部30の前面との間には、付勢部材である圧縮コイルスプリング42が、ニードル40と同軸的に配されている。その圧縮コイルスプリング42によって、ニードル40は、常時、前方に向かって付勢されている。
【0027】
また、ニードル40は、トリガー33が有する貫通孔33Aを挿通しており、ニードル40におけるトリガー33の後方には、トリガー33の後端面が当接する当接部43が設けられている。つまり、作業者によってトリガー33が後方側に引かれると、ニードル40は後方側に向かって移動させられるのである。このような構成から、本接着剤塗布ガン10においては、把持部13が、作業者等の操作入力によって、軸体であるニードル40を圧縮コイルスプリング42の付勢力に抗って後退させる軸体後退機構として機能するものとなっている。
【0028】
第1シリンダ部材20には、外部から前側中空部22Aに連通する連通路50が成形されている。その連通路50は、外部に配されたホットメルト供給装置とホースによって接続されるものであり、本接着剤塗布ガン10の内部にホットメルトを流入させる流入路となっている。つまり、本接着剤塗布ガン10においては、第1シリンダ部材20の前側中空部22Aと、第2シリンダ部材21の中空部23と、ノズル24の空洞26によって、ホットメルトを流通させる流路51が形成されている。したがって、本接着剤塗布ガン10においては、ガン本体部11とノズルユニット12とによってハウジング52が形成されていると考えることができる。そして、前側中空部22Aと連通路50との接続部が、流路51への流入口53であり、ノズル24の空洞26と吐出オリフィス27との接続部が、流路51の流出口54となっている。なお、後側中空部22Bの前端には、シール部材55が配されており、流路51は液密状態となっている。
【0029】
図2に示すように、ノズル24は、内部が空洞26と吐出オリフィス27とによって段付き状に形成されている。一方、ニードル40の先端には、先端ほど外径が小さくなるテーパ部40Aが設けられており、ニードル40が圧縮コイルスプリング42によって前方(軸線方向における一方側)に向かって移動させられると、そのテーパ部40Aが、空洞26と吐出オリフィス27との接続部に当接することになる。つまり、ニードル40は、流路51の流出口54を塞いだ状態となっているのである。なお、流出口54が塞がれた状態においては、流路51内の液圧は供給装置から圧送されるホットメルトによって外気圧より高くされている。そして、作業者によってトリガー33が引かれ、ニードル40が後退させられると、流出口54とニードル40との間に隙間が生じ、その隙間から吐出オリフィス27を通って、ホットメルトが吐出されるようになっている。
【0030】
例えば、圧縮コイルスプリング42やバネ受け部材41が破損して、ニードル40に圧縮コイルスプリング42による前方側への付勢力が作用しなくなる。ニードル40が前方に戻れないと、流出口54が塞がれず、ホットメルトが吐出され続ける虞がある。本接着剤塗布ガン10は、このような失陥が生じた場合であっても、ホットメルトの流出を抑えることができる構成とされている。以下に、その構成について詳しく説明する。
【0031】
本接着剤塗布ガン10は、
図1に示すように、ニードル40が、流路51内における流入口53から流出口54へ向かうホットメルトの流れを規制する流動規制部を有しており、その流動規制部によって、失陥時においてもホットメルトの流出を抑えることができるようになっている。その流動規制部について、
図3から
図5をも参照しつつ詳しく説明する。
【0032】
ニードル40には、第1シリンダ部材20の前側中空部22A内における流入口53より流出口54側の部分に、円環状のプレート60が同軸的に固定されており、このプレート60が、流動規制部として機能するものとなっている。プレート60は、流路51の内径より僅かに小さな外径のものとされている。そのプレート60の外周面には、
図3および
図4に示すように、円環状のシール部材61が設けられており、ニードル40が流路51内に挿入された状態において、プレート60は、外周面がシール部材61を介して第1シリンダ部材20の内周面に当接した状態となっている。つまり、ニードル40は、ハウジング52に対して、プレート60の外周面においても摺動する構成となっている。また、プレート60は、
図3および
図5に示すように、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔62(本実施例においては6つ)が設けられている。それら複数の貫通孔は、ニードル40の軸線を中心として等角度間隔に配されている。以上のような構成から、本接着剤塗布ガン10においては、流入口53から流路51に流入したホットメルトは、このプレート60に設けられた複数の貫通孔62を通って、流出口54側に流れるようになっているのである。なお、これら複数の貫通孔62の開孔面積の合計、つまり、ハウジング52内において流動規制部が形成されている箇所における流路51の面積は、流入口53の面積より小さくされており、本接着剤塗布ガン10においては、この流動規制部として機能するプレート60によって、ホットメルトの流量が規制されるようになっている。
【0033】
次に、圧縮コイルスプリング42による付勢力が作用しない失陥が生じた場合を考える。本接着剤塗布ガン10においては、流出口54が開いている間、供給装置からホットメルトが供給されて流入口53からホットメルトが流入し続ける。その流入したホットメルトは、上述したプレート60に設けられた複数の貫通孔62を通って流出口54側に流れることになる。つまり、そのプレート60は、ホットメルトから流動抵抗を受け、ホットメルトが流れる方向の力を受けることになるのである。さらに言えば、プレート60に設けられた複数の貫通孔62によって、流量が規制されるため、プレート60の上流側(流入口53側)の液圧は、下流側(流出口54側)の液圧より高くなる。つまり、プレート60には、その上流側と下流側との液圧差により、流出口54に向かう方向の力が作用するのである。
【0034】
したがって、本接着剤塗布ガン10は、上記のような失陥が生じた場合であっても、ニードル40に固定されたプレート60の存在により、ホットメルトの流れる力を利用して、ニードル40を初期位置(
図1および
図2に示した位置)に戻すことができ、ホットメルトの流出を止めることができるのである。なお、本接着剤塗布ガン10は、プレート60の外周面においてもハウジング52の内周面に当接する構成とされており、ニードル40の摺動を安定させることができるようになっている。
【実施例2】
【0035】
本発明の第2実施例の液体塗布モジュールを、
図6に示す。第2実施例の液体塗布モジュールは、第1実施例の液体塗布モジュールと同様に、液体としてのホットメルトを塗布するものであるが、ハンドガンタイプのものではなく、接着剤塗布装置が備える接着剤塗布ヘッド80であり、接着剤塗布装置が備える制御装置によって、接着剤塗布ヘッド80による接着剤のON・OFFが制御される。本接着剤塗布ヘッド80は、第1実施例に係る接着剤塗布ガン10と類似する構成であるため、同じ構成要素については、同一の符号を用いて、その説明を省略する、あるいは、簡略に行うものとする。
【0036】
第2実施例に係る接着剤塗布ヘッド80は、第1実施例に係る接着剤塗布ガン10と同様に、ヘッド本体部81と、ヘッド本体部81の一端側(下側)に取り付けられたノズルユニット12と、ニードル82と、を備えている。ただし、第1実施例に係る接着剤塗布ガン10の軸体後退機構は、作業者が手動で(作業者の力に依拠して)軸体であるニードル40を後退させる機構とされていたが、本接着剤塗布ヘッド80が備える軸体後退機構と相違する。本接着剤塗布ヘッド80が備える軸体後退機構は、空気圧によってニードル40を後退させる構成のもの、いわゆるエアシリンダを主体とするものとなっており、
図6に示すように、本接着剤塗布ヘッド80は、第1実施例に係る接着剤塗布ガン10とは、後側部分(ノズルユニット12とは反対側の部分、
図6における上側部分)の構成が異なっている。
【0037】
具体的には、本接着剤塗布ヘッド80は、ヘッド本体部81は、概して筒状の3つの部材である第1シリンダ部材90,第2シリンダ部材21および第3シリンダ部材91からなる。第2シリンダ部材21は、第1実施例の接着剤塗布ガン10と同様のものであり、第1シリンダ部材90の一方側(下側)に嵌合され、自身の一方側(下側)にノズルユニット12が取り付けられている。
【0038】
第1シリンダ部材90は、第1実施例の接着剤塗布ガン10と同様に、仕切部90Aによって、内部が2つの空間である前側中空部92Aと後側中空部92Bとに分割されている。そして、前側中空部92Aは、第1実施例の接着剤塗布ガン10と同様に、第2シリンダ部材21の中空部23とノズル24の空洞26とによって、流入口53から流入したホットメルトを流出口54に向かって流す流路93を形成するものとなっている。また、本接着剤塗布ヘッド80は、第1シリンダ部材90、第2シリンダ部材21およびノズルユニット12によって、ハウジングが形成されていると考えることができる。
【0039】
一方、第1シリンダ部材90の他方側(上側)には、第3シリンダ部材91が連結されており、第1シリンダ部材90の後側中空部92Bと第3シリンダ部材91の中空部94とは連通した状態となっている。ニードル82の後端は、後側中空部92B内に位置しており、その後側中空部92B内に摺動可能に配されたピストン100に固定されている。また、第3シリンダ部材91の上側には、調整ツマミ101が配されている。詳しく言えば、第3シリンダ部材91の内周面と調整ツマミ101の外周面との間でネジを螺合させる構成とされ、調整ツマミ101は、第3シリンダ部材91に対する軸線方向(上下方向)の位置を調整できるようになっている。そして、その調整ツマミ101とピストン100との間には、付勢部材である圧縮コイルスプリング102が配されており、その圧縮コイルスプリング102によって、ピストン100およびニードル82は、常時、下方に向かって付勢されている。ちなみに、詳細な説明は省略するが、本接着剤塗布ヘッド80は、調整ツマミ101によって圧縮コイルスプリング102の収縮量を調整することで、ノズル24からのホットメルトの吐出量を調整できるような構成となっている。
【0040】
また、第1シリンダ部材90には、外部から後側中空部92Bに連通する連通路103が成形されている。その連通路103は、外部に配されたエアポンプと接続されるものであり、後側中空部92B内におけるピストン100によって形成されるエア室にエアを供給するエア供給路となっている。そして、連通路103からエアの供給を受けると、エア室の圧力が上昇し、圧縮コイルスプリング102の付勢力に抗ってピストン100が上方に移動させられる。つまり、ピストン100に固定されたニードル82が後退させられ、ノズル24からホットメルトが吐出されるのである。
【0041】
本接着剤塗布ヘッド80は、第1実施例の接着剤塗布ガン10と同様に、流動規制部を備えている。具体的には、ニードル82には、第1実施例の接着剤塗布ガン10が備えるニードル40と同様に、第1シリンダ部材90の前側中空部92A内における流入口53より流出口54側の部分に、流動規制部として機能するプレート110が固定されている。このプレート110は、
図7および
図8に示すように、上側(軸線方向における他方側)の面110Aが、上方に向かうにつれて外側に広がるテーパ状の概して傘状に成形されたものとなっている。つまり、このプレート110は、上側の面110Aが上方に向かうにつれて第1シリンダ部材90の内周面に近づく傾斜状のものとなっているのである。また、このプレート110は、外縁に複数の切欠き111(本実施例においては4つ)が成形されている。
【0042】
したがって、
図9に示すように、本接着剤塗布ヘッド80においては、プレート110と第1シリンダ部材90との間からのみホットメルトが流れ、ホットメルトの流れが規制されることになる。つまり、本接着剤塗布ヘッド80は、第1実施例の接着剤塗布ガン10と同様に、プレート110がホットメルトから流動抵抗を受け、ホットメルトが流れる方向の力を受けることになるのである。なお、プレート110は傘状のものとされていることで、ホットメルトの流出口54へ向かう流れを受けやすくされている。さらに言えば、プレート110の上流側の液圧と下流側の液圧との間に液圧差が生じた場合、この傘状のプレート110は、第1実施例のような円環状のプレート60に比較して受圧面積が大きいため、流出口54に向かう方向の力も大きくなり、ニードル82をより早く、より確実に流出口54に向かって移動させることができるのである。
【実施例3】
【0043】
本発明の第3実施例の液体塗布モジュールを、
図10に示す。第3実施例の液体塗布モジュールは、第1実施例および第2実施例の液体塗布モジュールと類似の構成とされているが、流動規制部が相違する。第1実施例および第2実施例の液体塗布モジュールにおいて、流動規制部は、ニードルとは別部材で成形されて、ニードルに固定されていた。それに対して、第3実施例の液体塗布モジュールにおいては、流動規制部がニードルに一体的に設けられている。具体的には、
図10に示すように、第3実施例の液体塗布モジュールが備えるニードル120は、流出口54に当接するテーパ部121の近傍に、軸線から交差する方向に突出するフランジ部122が一体的に成形されている。なお、このフランジ部122には、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔123が設けられている。
【0044】
以上のように、第3実施例の液体塗布モジュールにおいては、複数の貫通孔123と、フランジ部122とノズル24の内周面との隙間との両者を、ホットメルトが流れるようになっている。なお、ノズル24の内周面は、円錐状の空洞26とされているため、ニードル120が流出口54に近づくほど、フランジ部122とノズル24の内周面との隙間が小さくなっており、絞りが強くなってニードル120を流出口54に近づける力が強くなる。したがって、第3実施例の液体塗布モジュールは、失陥路においても、ニードル120を流出口54により確実に当接させることができる。
【0045】
<他の実施形態>
上述した3つの実施例の液体塗布モジュールは、液体としてホットメルト接着剤を塗布するものであったが、それに限定されず、本発明は、他の液剤やインク等の液体等、種々のものを塗布するモジュールに採用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10…接着剤塗布ガン〔液体塗布モジュール〕、11…ガン本体部、12…ノズルユニット、13…把持部〔軸体後退機構〕、20…第1シリンダ部材、22A…前側中空部、 22B…後側中空部、23…中空部(第2シリンダ部材)、24…ノズル、25…ノズルケース、26…空洞、27…吐出オリフィス、33…トリガー、40…ニードル〔軸体〕、42…圧縮コイルスプリング〔付勢部材〕、51…流路、52…ハウジング、53…流入口、54…流出口、60…プレート〔流動規制部〕、61…シール部材、62…貫通孔、80…接着剤塗布ヘッド〔液体塗布モジュール〕、81…ヘッド本体部、82…ニードル、90…第1シリンダ部材、91…第3シリンダ部材、92A…前側中空部、92B…後側中空部、93…流路、100…ピストン、102…圧縮コイルスプリング〔付勢部材〕、110…プレート〔流動規制部〕、111…切欠き、120…ニードル、122…フランジ部〔流動規制部〕、123…貫通孔