(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20230725BHJP
H02K 7/102 20060101ALI20230725BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20230725BHJP
H02K 11/22 20160101ALI20230725BHJP
H02K 11/225 20160101ALI20230725BHJP
【FI】
B62D5/04
H02K7/102
H02K7/116
H02K11/22
H02K11/225
(21)【出願番号】P 2019173094
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】古吉 正和
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-092891(JP,A)
【文献】特開2012-111463(JP,A)
【文献】特開2012-045989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
H02K 7/00,11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪を独立して転舵する駆動力を発生させるモータと、
前記モータの回転軸体に接続される減速機と、
前記モータと前記減速機との間のトルクの伝達を抑制するブレーキと、
前記減速機の出力側の回転角を検出する第一回転センサと、
前記第一回転センサからの情報に基づき前記転舵輪の挙動が異常な場合に前記ブレーキを作動させるブレーキ制御部と、
を備える転舵装置。
【請求項2】
前記ブレーキ制御部は、
時間を計測する計時部と、
前記第一回転センサから得られる回転角、および計測された時間により算出される角速度に基づき前記転舵輪の挙動の異常を判断する異常判断部と、を備え、
前記異常判断部が異常と判断した場合に前記ブレーキを作動させる
請求項
1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記ブレーキ制御部は、
前記転舵輪が取り付けられた車両が停止中の場合に前記ブレーキを作動させる
請求項
1または
2に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記ブレーキは、
非通電時に前記モータの回転軸体の回転を摩擦により停止させる非通電作動型である
請求項1から
3のいずれか一項に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪を独立して転舵する転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のステアリングシステムとしては、ステアリングと転舵輪との間がメカニカルに接続された機構や、ステアリングと転舵輪との間にメカニカルにトルクを伝達する機構がなく、操舵角を示す情報に基づき転舵輪を転舵するいわゆるステアバイワイヤシステムが存在する。また、ステアバイワイヤシステムについても、左右の転舵輪がメカニカルなリンクで接続されるシステムや、特許文献1に記載されるような、左右の転舵輪の間にメカニカルなリンクが介在せずに、左右の転舵輪を別々のモータで転舵する左右独立転蛇型のシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、モータを駆動源として転舵輪を独立して転舵する場合、モータの出力トルクを減速機により増大させて転舵輪を転舵するが、車両が走行している路面の状況や、操向の状況などによっては転舵輪から減速機にトルクが伝達されるいわゆる逆入力が発生する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、転舵輪からの逆入力に対して減速機を保護する転舵装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つである転舵装置は、転舵輪を独立して転舵する駆動力を発生させるモータと、前記モータの回転軸体に接続される減速機と、前記モータと前記減速機との間のトルクの伝達を抑制するブレーキと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、逆入力があった場合でも、モータの回転をブレーキで抑制することにより減速機の破損を回避することができる転舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る転舵装置、サスペンション機構、および転舵輪を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る転舵装置を示す断面図である。
【
図3】実施の形態に係るブレーキ制御部の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る転舵装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置関係、および接続状態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として説明する場合があるが、請求項に記載されていない構成要素については、その請求項に係る発明に関しては任意の構成要素であるとして説明している。また、図面は、本発明を説明するために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0010】
図1は、転舵輪、およびサスペンションを示す図である。転舵装置100は、複数配置されている転舵輪200をそれぞれ独立して転舵する事ができる装置である。本実施の形態の場合、転舵装置100は、例えばサスペンション機構を介して転舵輪200を転舵する。
図1には、サスペンション機構の1つであるストラット式のサスペンション機構を例示的に記載しており、転舵装置100は、ストラット式サスペンション機構とタイヤハウスなどの車体210との間に介在配置され、ショックアブソーバ220、スプリング240と共にストラット軸230を中心として旋回させる事により転舵輪200を転舵する。なお、ストラット式のサスペンション機構はさらに、転舵輪200に取り付けられたナックル250と、ナックル250の下部に連結されたロアアーム260と、各部品を関節動作可能に接続する関節部材などを備えている。
【0011】
図2は、操舵装置の内部構造を断面で示す断面図である。同図に示すように転舵装置100は、モータ110と、減速機120と、ブレーキ150と、を備える。本実施の形態の場合、転舵装置100は、第一回転センサ141と、第二回転センサ142と、ブレーキ制御部181と、を備えている。
【0012】
モータ110は、転舵輪200を転舵させる為の駆動力を発生させる駆動源である。本実施の形態の場合、モータ110は、回転軸体111と、ロータ112と、磁石113と、コイル114とを備えたサーボモータである。
【0013】
回転軸体111は、モータ110の回転駆動力を出力する棒状の剛体である。回転軸体111は、軸方向(図中Z軸方向)において、ロータ112、磁石113、およびコイル114の長さに対し長尺の部材となっている。具体的に回転軸体111は、減速機120の外歯歯車124(後述)に接続される出力側部材171の近傍から波動発生体121の中央部、およびブレーキ150を貫通している。本実施の形態の場合、回転軸体111は、軸方向に貫通する中空部115を備えた管状となっている。
【0014】
ロータ112は、磁石113とコイル114との間で発生したトルクを回転軸体111に伝達する部材である。ロータ112の形状は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、磁石113を保持する短い円筒状の保持部116と、保持部116と回転軸体111の外周面とを接続する接続部117とを備えている。保持部116は、回転軸体111と同軸上に配置され、接続部117は保持部116の軸方向の一端部に一体に取り付けられている。ロータ112は、器形状となっており、ロータ112の内部には回転軸体111を止めるためのブレーキ150の少なくとも一部が収容されている。これにより、転舵装置100の軸方向の長さを抑制することができる。
【0015】
磁石113は、コイル114から発生する磁力との相互作用により回転軸体111を回転させるトルクを発生させる部材であり、ロータ112の保持部116の外周面に周方向に並んで取り付けられている。磁石113は、N極、S極の向きが所定のパターンとなるように並べて配置されている。
【0016】
コイル114は、磁石113に作用する磁界を発生させる電磁石を構成する導電性の線材を巻き回した部材である。コイル114の巻き軸方向は、回転軸体111の軸を中心とした放射方向に沿っている。コイル114は、磁石113が回転する領域からわずかに外側に配置されており、磁石113を囲む様に周方向に並んで配置されている。コイル114は、円筒状の筐体160の内周面に固定されている。なお、コイル114は、磁界を集中させるコアを備えてもかまわない。
【0017】
減速機120は、モータ110の回転軸体111に接続され、モータ110において発生した回転トルクを、転舵輪200を転舵する事ができる回転トルクまで増幅する装置である。減速機120の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、減速機120として入力軸と出力軸とが同軸である波動減速機が採用されている。この波動減速機は、剛体からなる円筒の内歯歯車123と、内歯歯車123の内歯と噛み合う外歯を有し、かつ径方向に可撓性のある筒状の外歯歯車124と、内歯歯車123に対し外歯歯車124を楕円状に変形させて複数箇所で噛み合わせ、噛み合い位置を内歯歯車123に沿って周回させる楕円形の波動発生体121とを備えている。
【0018】
本実施の形態の場合、外歯歯車124は、いわゆるシルクハット型であり、一端部に外歯が形成された円筒部125と、円筒部125の他端部において径方向外側に突出するフランジ部126とを備えている。フランジ部126は、外歯に対し入力側に配置されている。フランジ部126の外周端部は、コイル114が固定されている筐体160に固定されている。外歯歯車124をこのような状態で配置することにより、外歯からフランジ部126までの間の円筒部125より外側に、筐体160に対し内歯歯車123を回転可能に固定するクロスローラーベアリングなどの第一軸受127を配置することができ、また、円筒部125の内側にブレーキ150の一部などを配置することができる。従って、軸方向において転舵装置100の長さを抑制することが可能となる。
【0019】
波動発生体121は、回転軸体111が同軸上に貫通状態で取り付けられており、回転軸体111から直接回転トルクが入力されている。また、波動発生体121は、回転軸体111によって波動発生体121の回転軸が決定されている。
【0020】
内歯歯車123は、第一軸受127を介してコイル114が固定されている筐体160に回転可能に固定されており、出力側の部材として機能している。内歯歯車123には出力側を覆うように出力側部材171が固定されている。また、出力側部材171には、自在継手172が取り付けられている。内歯歯車123は、出力側部材171、および自在継手172を介してサスペンション機構のストラット軸230に接続され、転舵輪200を転舵する回転トルクを出力する。
【0021】
ブレーキ150は、モータ110と減速機120との間のトルクの伝達を抑制する装置である。具体的にブレーキ150は、モータ110の出力軸体である回転軸体111の回転を摩擦によって抑制し、停止させることができる。本実施の形態の場合、ブレーキ150は、非通電時にブレーキをかけ、通電時にブレーキを開放できる非通電作動型のブレーキであり、モータ110と減速機120との間に配置されている。具体的にブレーキ150は、電磁石155(
図3参照)と付勢部材(不図示)とにより動作が制御される励磁作動型のブレーキであり、ブレーキディスク151と、ブレーキパッド152と、アーマチュア153と、動作手段154と、を備えている。
【0022】
ブレーキディスク151は、回転軸体111に固定的に取り付けられる部材であり、回転軸体111の径方向に突出する断面矩形の円環状の部材である。ブレーキディスク151は、回転軸体111と共に回転し、ブレーキパッド152とアーマチュア153とに挟み込まれることで回転軸体111の回転とは反対向きのトルクを摩擦により発生させる部材である。
【0023】
ブレーキパッド152は、ブレーキディスク151に対し動作手段154の反対側に配置され、動作手段154に固定される部材である。ブレーキパッド152は、回転軸体111の径方向に延在し回転軸体111を囲む様に配置される断面矩形の円環状の部材であり、ブレーキディスク151と平行に配置されている。
【0024】
アーマチュア153は、ブレーキディスク151に対しブレーキパッド152の反対側に配置され、動作手段154が備える付勢部材の付勢力により、ブレーキパッド152と共にブレーキディスク151を挟み込む方向に移動し、動作手段154が備える電磁石155が励磁した場合、付勢部材の付勢力に抗して動作手段154に近づく方向に移動する部材である。アーマチュア153は、回転軸体111の径方向に延在し回転軸体111を囲む様に配置される断面矩形の円環状の部材であり、ブレーキディスク151と平行に配置されている。
【0025】
動作手段154は、筐体160に固定される円筒状の部材であり、アーマチュア153を回転軸体111の軸方向に往復動させるための付勢部材と電磁石155とを備えている。付勢部材は、例えばコイルバネであり、動作手段154は、コイルバネを周方向に複数個並べて備えている。
【0026】
第一回転センサ141は、減速機120の出力側の回転角を検出するセンサである。第一回転センサ141の種類は特に限定されるものではないが、光学式のロータリーエンコーダを例示することができる。本実施の形態の場合、第一回転センサ141は、検出軸体143を備えている。検出軸体143の一端部は、減速機120の波動発生体121を貫通し、減速機120の出力側である出力側部材171の回転中心に接続されている。また、検出軸体143は、回転軸体111の中空部115に刺し通され、検出軸体143の他端部は、回転軸体111から突出状態となっている。第一回転センサ141は、回転軸体111の他端部に設けられた円盤部144の回転角を検出する事により、減速機120の入力側であって、モータ110に対し減速機120の反対側において検出軸体143の回転に基づき減速機120の出力側の回転角を検出している。なお、第一回転センサ141は、減速機120に対しブレーキ150、および第二回転センサ142よりも遠くに配置されている。
【0027】
以上の様に、検出軸体143を用いて第一回転センサ141を減速機120に対してモータ110よりも遠い位置に配置することで、複数の回転センサを一箇所に集約でき、回転センサに対する防塵対策などを容易にすることができる。また、複数の回転センサからの出力信号を一箇所に集中させて筐体160外に導出させることができ、筐体160外部の信号線の取り回しの容易化を図ることができる。なお、モータ110への電力供給用電線、ブレーキ150に供給する電力線などを前記信号線と同じ位置に集中させて筐体160の外部へ導出することでさらに電線の取り回しを容易にすることができる。なお、筐体160を貫通するコネクタ(不図示)することで、筐体160外の電線との間の接続や取り外しを容易にし、防塵も図る事が可能となる。
【0028】
第二回転センサ142は、モータ110の回転軸体111に取り付けられ、モータ110の回転角を検出するセンサである。第二回転センサ142の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合レゾルバが採用されている。レゾルバは高速で回転する回転軸体111の回転角を正確にセンシングすることができる。
【0029】
以上の様に、出力側の回転角を第一回転センサ141により取得し、入力側の回転角を第二回転センサ142により取得することにより、第一回転センサ141に基づく情報に対し第二回転センサ142に基づく情報が所定の関係にない場合、第一回転センサ141に基づく情報を用いて第二回転センサを校正することができる。
【0030】
筐体160は、モータ110、ブレーキ150、減速機120の少なくとも入力側、第二回転センサ142、および第一回転センサ141を当該記載順で収容する箱状の部材である。筐体160の形状は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合は円筒形状であり、蓋部材161により第一回転センサ141の近傍が閉塞されている。筐体160は、モータ110、ブレーキ150、減速機120の少なくとも入力側、第二回転センサ142、および第一回転センサ141が、転舵輪200、サスペンション機構が収容されるいわゆるタイヤハウスを形成する車体210の部分よりも外側に配置されるように車体210に固定されている。本実施の形態の場合、筐体160は、減速機120の出力側である内歯歯車123、および出力側部材171の一部も収容しており、内歯歯車123は、車体210よりも外側に配置されている。なお、筐体160は、車体210から外側に突出するように取り付けられているが、車両のボンネットに覆われているため視認可能な外部に露出するものではない。
【0031】
以上のように、本実施の形態に係る転舵装置100は、モータ110と減速機120との間にブレーキ150が介在接続されているので、減速機120に入力される前のモータ110の回転トルク、または慣性モーメントに抗することができ、逆入力が発生したことによる転舵装置100の破損を防止する事ができる。
【0032】
また、減速機120により増幅する前のモータ110の回転トルク、または慣性モーメントに抗してトルクを抑制するため、摩擦により発生させるトルクを小さく設定することができる。従って小型のブレーキ150を採用することができ転舵装置100の小型化、特に軸方向の薄型化を図ることができる。
【0033】
また、検出軸体143を用いて減速機120の出力側の回転角を入力側の位置に配置される第一回転センサ141でセンシングすることにより、減速機120の出力側に回転角センサを設ける場合よりも転舵装置100の軸方向の長さを短くすることができる。
【0034】
また、モータ110、ブレーキ、減速機120、第一回転センサ141、および第二回転センサ142が転舵輪200の配置されているタイヤハウスを仕切る車体210の上方に配置され、車体210に取り付けられた筐体160に収容されているため、高い防塵性能を得ることができる。
【0035】
また、筐体160の内外の間で電気信号や電力をやり取りする電線を一箇所に集約することができるため、ハーネスの取り回しを容易にすることができる。
【0036】
また、非通電時作動型のブレーキを採用することで、車両が停車中など転舵装置100に電力が供給されていない場合は、ブレーキ150が回転軸体111を固定することにより転舵輪200の転舵を規制することが可能となる。
【0037】
ブレーキ制御部181は第一回転センサ141からの情報に基づき転舵輪200の挙動が異常と判断した場合にブレーキ150を作動させ回転軸体111の回転に抗するトルクを発生させる。ここで、転舵輪200の挙動が異常な状態とは、例えば、走行中の車両がスリップして縁石に転舵輪200が接触して転舵輪200が意図しない方向に旋回した場合などである。
【0038】
図3は、ブレーキ制御部の機能を示すブロック図である。同図に示すように、ブレーキ制御部181は、転舵ECU(Electronic Control Unit)180の一部であり、回転角取得部182と、計時部183と、角速度算出部184と、異常判断部185と、電磁石制御部186と、車両状態取得部187と、を備えている。
【0039】
回転角取得部182は、第一回転センサ141から回転角を取得する処理部である。具体的に回転角取得部182は、第一回転センサ141からのパルス信号を計数するだけでもよく、パルス数から回転角を算出してもかまわない。
【0040】
計時部183は、時間を計測する処理部である。計時部183の計時方法は特に限定されるものではないが、例えばブレーキ制御部181のサンプリング周期に基づき時間を計測してもかまわない。例えば、サンプリング周期の1回を時間1としてもかまわない。また、サンプリング周期の回数にサンプリング周期を乗算して実際の時間を算出してもかまわない。
【0041】
角速度算出部184は、回転角取得部182から得られる回転角と、計時部183から得られる時間に基づき角速度を算出する。具体的に例えば、角速度算出部184は、ブレーキ制御部181のサンプリング周期1回分の回転角の差分を第一回転センサ141から得られるパルス数とし、この値を角速度として取得してもかまわない。なお、この場合でも回転角を計時部183から得られた時間で除算したものとする。
【0042】
異常判断部185は、角速度算出部184から得られる角速度が所定の角速度閾値以上になった場合、逆入力が発生したと推定し異常であると判断する。
【0043】
電磁石制御部186は、異常判断部185が異常であることを示す信号を出力した場合、ブレーキ150が備える電磁石155を制御して、回転軸体111に対しブレーキトルクを加える。本実施の形態の場合、ブレーキ150は、無励磁作動型であるため、電磁石制御部186は、電磁石155への電力の供給を遮断することにより回転軸体111にブレーキトルクを加える。
【0044】
以上により、逆入力発生時に回転軸体111に対してブレーキをかけ、モータ110のイナーシャトルクを抑制することが可能となる。従って、出力側からの逆入力と入力側からのイナーシャトルクとによる減速機120の破損を防止することができる。
【0045】
車両状態取得部187は、転舵輪200が取り付けられた車両の状態、例えば車両が走行中か停止中かを転舵ECUなど上位のECUから取得し、車両の状態に応じてブレーキ150を制御する。本実施の形態の場合、車両状態取得部187は、車両が駐車中である情報を取得した場合、電磁石制御部186に電磁石155への電力の供給を遮断するように信号を出力する。これにより、車両の停止中に追突された場合などにおいても転舵輪200が転舵することを防止できる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0047】
例えば上記実施の形態に係る転舵装置100を、ショックアブソーバ220、ストラット軸230などサスペンション機構を介して転舵輪200を転舵するものとして説明したが、その他の方式のサスペンション機構介して転舵装置100が転舵輪200を転舵してもよく、サスペンション機構とは別に転舵機構を介して転舵輪200を転舵してもかまわない。
【0048】
また、入力軸と出力軸とが同軸に配置される減速機120として波動歯車機構を例示したが、減速機120はこれに限定されるものではなく、例えば遊星歯車機構を利用した減速機120等でもかまわない。
【0049】
また、転舵装置100は、
図4に示すように、過負荷保護装置130を備えてもかまわない。過負荷保護装置130は、モータ110と減速機120との間のトルクの伝達を過負荷が発生した場合に切断するいわゆるトルクリミッタである。過負荷保護装置130は、回転軸体111に同軸上に配置され回転軸体111の外周面に固定される第一部材131と、減速機120の入力側である波動発生体121の貫通孔128の外周縁部に取り付けられる第二部材132と、第一部材131に対し第二部材132を押しつける方向に付勢する付勢部材133と、第一部材131と第二部材132との間に介在配置され、付勢部材133により第二部材132が第一部材131に押しつけられた際に第一部材131、および第二部材132に強く係合する球状の係合部材134と、を備えている。
【0050】
過負荷保護装置130は、通常の場合、付勢部材133の付勢力により第一部材131と第二部材132とが係合部材134を介して強く結合しているため、回転軸体111の回転トルクを減速機120の波動発生体121に伝達する。一方、転舵輪200が縁石に当たるなどにより急激な逆入力が発生した場合、ストラット軸230から減速機120を介することにより弱められた逆入力の回転トルクが付勢部材133の付勢力に勝った場合、第一部材131に対し第二部材132が空回りし、逆入力が第一部材131、および回転軸体111などに及ばなくなる。
【0051】
過負荷保護装置130は、減速機120の入力側に配置されているため、減速機120により減少した逆入力の回転トルクに対して動作する。つまり、過負荷保護装置130が空回りする際の回転トルクの閾値を小さくすることができ、小型の過負荷保護装置130を採用することができる。従って、転舵装置100全体の大きさを抑制することが可能となる。
【0052】
また、
図4に示すように、ブレーキ150は、モータ110に対し減速機120の反対側に配置されてもかまわない。ブレーキ150は、過負荷保護装置130が空回りする前の状態において、モータ110のイナーシャトルクを抑制することで、減速機120を保護している。また、ブレーキ150によって、過負荷保護装置130が空回りする回数が減少し、過負荷保護装置130を保護することも可能である。
【0053】
また、転舵装置100の一部、または全部がタイヤハウスの内部に配置されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、自動車、建設機械、農業機械など独立して転舵輪を転舵する車両などに利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
100…転舵装置、110…モータ、111…回転軸体、112…ロータ、113…磁石、114…コイル、115…中空部、116…保持部、117…接続部、120…減速機、121…波動発生体、123…内歯歯車、124…外歯歯車、125…円筒部、126…フランジ部、127…第一軸受、128…貫通孔、130…過負荷保護装置、131…第一部材、132…第二部材、133…付勢部材、134…係合部材、141…第一回転センサ、142…第二回転センサ、143…検出軸体、144…円盤部、150…ブレーキ、151…ブレーキディスク、152…ブレーキパッド、153…アーマチュア、154…動作手段、155…電磁石、160…筐体、161…蓋部材、171…出力側部材、172…自在継手、181…ブレーキ制御部、182…回転角取得部、183…計時部、184…角速度算出部、185…異常判断部、186…電磁石制御部、187…車両状態取得部、200…転舵輪、210…車体、220…ショックアブソーバ、230…ストラット軸、240…スプリング、250…ナックル、260…ロアアーム