(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】モデル特性算出装置、モデル特性算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230725BHJP
H02P 31/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
G06F30/20
H02P31/00
(21)【出願番号】P 2019183286
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】岩井 良樹
(72)【発明者】
【氏名】蓑島 紀元
(72)【発明者】
【氏名】古川 智康
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110396(JP,A)
【文献】特開2017-077099(JP,A)
【文献】特開2013-094031(JP,A)
【文献】特開2009-183092(JP,A)
【文献】特開2016-118831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
H02P 21/00 -31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機または発電機のモデルの特性を算出するモデル特性算出装置であって、
前記モデルの特性を算出する算出部と、
前記算出部により算出される特性が実際の前記電動機または前記発電機の特性に近づくように前記算出部により算出される特性を補正する補正部と、
力行時の前記モデルの
トルクに対して、前記補正部により補正される特性を用いて前記力行時に前記モデルに生じる
鉄損及び機械損のうちの少なくとも1つの損失分の
トルクを補償する力行補償処理、及び、回生時の前記モデルの
トルクに対して、前記補正部により補正される特性を用いて前記回生時に前記モデルに生じる
鉄損及び機械損のうちの少なくとも1つの損失分の
トルクを補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う補償部と、
を備えるモデル特性算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモデル特性算出装置であって、
前記補正部は、前記力行時、前記算出部により算出される特性を力行用補正方法により補正し、前記回生時、前記算出部により算出される特性を回生用補正方法により補正する
ことを特徴とするモデル特性算出装置。
【請求項3】
プロセッサを備えるモデル特性算出装置において、電動機または発電機のモデルの特性を算出するモデル特性算出方法であって、
前記プロセッサは、
前記モデルの特性を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにより算出される特性が実際の前記電動機または前記発電機の特性に近づくように前記算出ステップにより算出される特性を補正する補正ステップと、
力行時の前記モデルの
トルクに対して、前記補正ステップにより補正される特性を用いて前記力行時に前記モデルに生じる
鉄損及び機械損のうちの少なくとも1つの損失分の
トルクを補償する力行補償処理、及び、回生時の前記モデルの
トルクに対して、前記補正ステップにより補正される特性を用いて前記回生時に前記モデルに生じる
鉄損及び機械損のうちの少なくとも1つの損失分の
トルクを補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う補償ステップと、
を有するモデル特性算出方法。
【請求項4】
プロセッサを備えるモデル特性算出装置において、電動機または発電機のモデルの特性を算出するためのプログラムであって、
前記プロセッサに、
前記モデルの特性を算出する算出ステップと、
前記算出ステップにより算出される特性が実際の前記電動機または前記発電機の特性に近づくように前記算出ステップにより算出される特性を補正する補正ステップと、
力行時の前記モデルの
トルクに対して、前記補正ステップにより補正される特性を用いて前記力行時に前記モデルに生じる
鉄損及び機械損のうちの少なくとも1つの損失分の
トルクを補償する力行補償処理、及び、回生時の前記モデルの
トルクに対して、前記補正ステップにより補正される特性を用いて前記回生時に前記モデルに生じる
鉄損及び機械損のうちの少なくとも1つの損失分の
トルクを補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う補償ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーションにおいて電動機または発電機のモデルの特性を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モデル特性算出装置として、シミュレーションにおいて電動機または発電機のモデルの特性を算出し、その特性を実際の特性に近づくように補正するものがある。
【0003】
ところで、回生時におけるエネルギーフローは、力行時におけるエネルギーフローと逆になるため、回生時にモデルで生じる損失がモデルの特性に及ぼす影響は、力行時にモデルで生じる損失がモデルの特性に及ぼす影響と異なる。
【0004】
そのため、上記モデル特性算出装置では、モデルの特性を算出する際やモデルの特性を補正する際、力行時にモデルで生じる損失や回生時にモデルで生じる損失が考慮されていないため、モデルの特性を精度よく算出することができないおそれがある。
【0005】
なお、モータ電力変換装置において、銅損の他、鉄損や定量的な予測が難しい漂游負荷損、機械損を含めた全損失をモータ入力電力から出力電力を差し引いた全損失として算出し、モータが力行、回生運転を含む4象限運転においても常時算出して検出し、全損失時間積一定で動作するものがある。例えば、特許文献1参照。
【0006】
また、誘導電動機の制御装置において、無負荷運転の下で磁束推定手段で得られるトルク制御精度改善に必要な鉄損補償電流を補償電流テーブル記録手段に予め記録しておき、通常の運転時に、上記補償電流テーブル記録手段から鉄損補償分電流を出力して電流指令値発生手段からのトルク分と磁束分の各電流指令値の内の少なくとも一方に鉄損補償分電流を加減算したものを電圧指令値発生手段に対して実際の電流指令値として与えることで、鉄損抵抗の存在やインダクタンスの飽和変動などの影響によるトルク制御精度の劣化を抑制するものがある。例えば、特許文献2参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/118678号
【文献】特開2015-228793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面に係る目的は、シミュレーションにおいて電動機または発電機のモデルの特性を精度よく算出することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一つの形態であるモデル特性算出装置は、電動機または発電機のモデルの特性を算出するモデル特性算出装置であって、モデルの特性を算出する算出部と、算出部により算出される特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように算出部により算出される特性を補正する補正部と、力行時のモデルの特性に対して、補正部により補正される特性を用いて力行時にモデルに生じる損失分の特性を補償する力行補償処理、及び、回生時のモデルの特性に対して、補正部により補正される特性を用いて回生時にモデルに生じる損失分の特性を補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う補償部とを備える。
【0010】
これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【0011】
また、補正部は、力行時、算出部により算出される特性を力行用補正方法により補正し、回生時、算出部により算出される特性を回生用補正方法により補正するように構成してもよい。
【0012】
これにより、力行時に補正部により補正される特性を実際の特性に近づけることができるとともに、回生時に補正部により補正される特性を実際の特性に近づけることができるため、モデルの特性をさらに精度よく算出することができる。
【0013】
本発明に係る一つの形態であるモデル特性算出方法は、プロセッサを備えるモデル特性算出装置において、電動機または発電機のモデルの特性を算出するモデル特性算出方法であって、プロセッサは、モデルの特性を算出する算出ステップと、算出ステップにより算出される特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように算出ステップにより算出される特性を補正する補正ステップと、力行時のモデルの特性に対して、補正ステップにより補正される特性を用いて力行時にモデルに生じる損失分の特性を補償する力行補償処理、及び、回生時のモデルの特性に対して、補正ステップにより補正される特性を用いて回生時にモデルに生じる損失分の特性を補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う補償ステップとを有する。
【0014】
これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【0015】
本発明に係る一つの形態であるプログラムは、プロセッサを備えるモデル特性算出装置において、電動機または発電機のモデルの特性を算出するためのプログラムであって、プロセッサに、モデルの特性を算出する算出ステップと、算出ステップにより算出される特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように算出ステップにより算出される特性を補正する補正ステップと、力行時のモデルの特性に対して、補正ステップにより補正される特性を用いて力行時にモデルに生じる損失分の特性を補償する力行補償処理、及び、回生時のモデルの特性に対して、補正ステップにより補正される特性を用いて回生時にモデルに生じる損失分の特性を補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う補償ステップとを実行させる。
【0016】
これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シミュレーションにおいて電動機または発電機のモデルの特性を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態のモデル特性算出装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、実施形態のモデル特性算出装置の一例を示す図である。
【0020】
図1に示すモデル特性算出装置1は、例えば、シミュレーションにおいて、電気自動車やハイブリッド車などの車両に搭載される電動機または発電機のモデルの特性を算出する。
【0021】
また、モデル特性算出装置1は、プロセッサ2と、メモリ3と、入出力インターフェイス4と、入出力部5と、通信インターフェイス6とを備える。なお、モデル特性算出装置1を構成するハードウェアは、クラウドなどを用いて実現してもよい。
【0022】
プロセッサ2は、例えば、Central Processing Unit(CPU)、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(Field Programmable Gate Array(FPGA)またはProgrammable Logic Device(PLD))などにより構成される。また、プロセッサ2は、メモリ3に記憶されているプログラムを実行することにより、電動機または発電機のモデルを構成する各構成要素(例えば、後述する、電流算出部21、磁束導出部22、トルク算出部23、鉄損算出部24、損失算出部25、磁束補正部26、トルク補正部27、鉄損補正部28、補償部29、及び角速度算出部30など)を実現する。なお、上記プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDigital Versatile Disc(DVD)やCompact Disc Read Only Memory(CD-ROM)などの記録媒体が販売される。また、上記プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に記録しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0023】
メモリ3は、例えば、Read Only Memory(ROM)またはRandom Access Memory(RAM)などにより構成され、上記プログラムの他に、磁束算出結果31、トルク算出結果32、及び鉄損算出結果33などを記憶する。
【0024】
磁束算出結果31は、事前に実施された算出(FEM(Finite Element Method)など)の結果を示す情報であり、電動機または発電機のモデルのコイルに流れる電流(Id,Iq)と、電動機または発動機のモデルに生じる磁束(Φd,Φq)とが対応付けられている情報である。
【0025】
トルク算出結果32は、事前に実施された算出(FEMなど)の結果を示す情報であり、電動機または発電機のモデルのコイルに流れる電流(Id,Iq)と、電動機または発電機のモデルに生じるトルク(T)とが対応付けられている情報である。
【0026】
鉄損算出結果33は、事前に実施された算出(FEMなど)の結果を示す情報であり、電動機または発電機のモデルのコイルに流れる電流(Id,Iq)と、電動機または発電機のモデルに生じる鉄損(Wi)とが対応付けられている情報である。
【0027】
入出力インターフェイス4は、ユーザにより入出力部5から入力された情報をプロセッサ2に送る。また、入出力インターフェイス4は、プロセッサ2から送られてくる情報を入出力部5に送る。
【0028】
入出力部5は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(マウスなど)、タッチパネル、ディスプレイ、プリンタなどが考えられる。
【0029】
通信インターフェイス6は、Local Area Network(LAN)やインターネットなどのネットワークと接続するためのインターフェイスである。
【0030】
図2は、電動機または発電機のモデルの一例を示す図である。なお、
図2に示すモデルは、三相(U相、V相、W相)交流の電動機または発電機のモデルとする。
【0031】
図2に示すモデルは、電流算出部21と、磁束導出部22と、トルク算出部23と、鉄損算出部24と、損失算出部25と、磁束補正部26と、トルク補正部27と、鉄損補正部28と、補償部29と、角速度算出部30とを備える。
【0032】
電流算出部21は、モデルのコイルにかかる目標電圧(Vu,Vv,Vw)、モデルのコイルのインダクタンス(Ld,Lq)、モデルの回転子の電気角速度(ω)、抵抗(R´)、及びモデルに生じる起電力(Ke)を用いて、モデルのコイルに流れる電流(Id,Iq)を算出する。例えば、電流算出部21は、目標電圧(Vu,Vv,Vw)をトルク成分と磁界成分で示すために目標電圧(Vd,Vq)に座標変換し、下記式1に示す電圧方程式を用いて、電流(Id,Id)を算出する。
【0033】
【0034】
なお、電流算出部21は、電流(Id,Iq)及び磁束補正部26により補正される磁束(Φd´、Φq´)、(Φdp´、Φqp´)、または(Φdr´、Φqr´)を用いて、インダクタンス(Ld,Lq)を算出する。また、電流算出部21は、モデルの温度に応じて、抵抗(R´)及び起電力(Ke)を補正してもよい。
【0035】
磁束導出部22は、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)を用いて、モデルに生じる磁束(Φd,Φq)を算出もしくは参照する。例えば、磁束導出部22は、メモリ3に記憶されている磁束算出結果31を参照して、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)に対応する磁束(Φd,Φq)を、モデルに生じる磁束(Φd,Φq)とする。磁束算出結果31は、例えば、パーミアンス法を用いて計算して得られていてもよいし、電磁場解析を用いて計算して得られていてもよい。
【0036】
トルク算出部23は、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)を用いて、モデルに生じるトルク(T)を算出する。例えば、トルク算出部23は、メモリ3に記憶されているトルク算出結果32を参照して、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)に対応するトルク(T)を、モデルに生じるトルク(T)とする。
【0037】
鉄損算出部24は、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)を用いて、モデルに生じる鉄損(Wi)を算出する。例えば、鉄損算出部24は、メモリ3に記憶されている鉄損算出結果33を参照して、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)に対応する鉄損(Wi)を、モデルに生じる鉄損(Wi)とする。
【0038】
損失算出部25は、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)及びモデルのコイルの抵抗(R)を用いて、モデルに生じる銅損(Wc)を算出する。また、損失算出部25は、角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)を用いて、モデルに生じる機械損(Wm)を算出する。
【0039】
磁束補正部26は、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)及び角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)を用いて、磁束導出部22により算出もしくは参照される磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)に補正する。例えば、磁束補正部26は、モデルの特性(インダクタンス(Ld,Lq)、銅損(Wc)、トルク(T)、及び鉄損(Wi)など)が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)の次数が設定されている多項式を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)に補正する。あるいは、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)と、補正後の磁束(Φd´,Φq´)との対応関係を示す情報を、メモリ3に予め記憶させておき、磁束補正部26は、当該情報を参照して、電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)に対応する磁束(Φd´,Φq´)を取得する。
【0040】
また、磁束補正部26は、力行時、磁束導出部22により算出もしくは参照される磁束(Φd,Φq)を力行用補正方法により磁束(Φdp´,Φqp´)に補正し、回生時、磁束導出部22により算出もしくは参照される磁束(Φd,Φq)を回生用補正方法により磁束(Φdr´,Φqr´)に補正するように構成してもよい。例えば、磁束補正部26は、力行用補正方法として、力行時のモデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)の次数が設定されている力行用多項式を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φdp´,Φqp´)に補正する。また、磁束補正部26は、回生用補正方法として、回生時のモデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)の次数が設定されている回生用多項式を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φdr´,Φqr´)に補正する。あるいは、他の力行用補正方法として、力行時に電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、力行時に角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)と、力行用多項式を用いて算出される補正後の磁束(Φdp´,Φqp´)との対応関係を示す力行用情報を、メモリ3に予め記憶させておき、磁束補正部26は、力行時、その力行用情報を参照して、電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)に対応する磁束(Φdp´,Φqp´)を取得する。また、他の力行用補正方法として、回生時に電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、回生時に角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)と、回生用多項式を用いて算出される補正後の磁束(Φdr´,Φqr´)との対応関係を示す回生用情報を、メモリ3に予め記憶させておき、磁束補正部26は、回生時、その回生用情報を参照して、電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)に対応する磁束(Φdr´,Φqr´)を取得する。これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【0041】
トルク補正部27は、トルク算出部23により算出されるトルク(T)を電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)を用いて、トルク算出部23により算出されるトルク(T)をトルク(T´)に補正する。例えば、トルク補正部27は、モデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)の次数が設定されている多項式を用いて、トルク(T)をトルク(T´)に補正する。あるいは、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、補正後のトルク(T´)との対応関係を示す情報を、メモリ3に予め記憶させておき、トルク補正部26は、当該情報を参照して、電流(Id,Iq)に対応するトルク(T´)を取得する。
【0042】
また、トルク補正部27は、力行時、トルク算出部23により算出されるトルク(T)を力行用補正方法によりトルク(Tp´)に補正し、回生時、トルク算出部23により算出されるトルク(T)を回生用補正方法によりトルク(T´)に補正するように構成してもよい。例えば、トルク補正部27は、力行用補正方法として、力行時のモデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)の次数が設定されている力行用多項式を用いて、トルク(T)をトルク(Tp´)に補正する。また、トルク補正部27は、回生用補正方法として、回生時のモデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)の次数が設定されている回生用多項式を用いて、トルク(T)をトルク(Tr´)に補正する。あるいは、他の力行用補正方法として、力行時に電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、力行用多項式を用いて算出される補正後のトルク(Tp´)との対応関係を示す力行用情報を、メモリ3に予め記憶させておき、トルク補正部27は、力行時、その力行用情報を参照して、電流(Id,Iq)に対応するトルク(Tp´)を取得する。また、他の回生用補正方法として、回生時に電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、回生用多項式を用いて算出される補正後のトルク(Tr´)との対応関係を示す回生用情報を、メモリ3に予め記憶させておき、トルク補正部27は、回生時、その回生用情報を参照して、電流(Id,Iq)に対応するトルク(Tr´)を取得する。これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【0043】
鉄損補正部28は、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)及び角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)を用いて、鉄損算出部24により算出される鉄損(Wi)を鉄損(Wi´)に補正する。例えば、鉄損補正部28は、モデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)の次数が設定されている多項式を用いて、鉄損(Wi)を鉄損(Wi´)に補正する。あるいは、電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)と、補正後の鉄損(Wi´)との対応関係を示す情報を、メモリ3に予め記憶させておき、鉄損補正部28は、当該情報を参照して、電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)に対応する鉄損(Wi´)を取得する。
【0044】
また、鉄損補正部28は、力行時、鉄損算出部24により算出される鉄損(Wi)を力行用補正方法により鉄損(Wip´)に補正し、回生時、鉄損算出部24により算出される鉄損(Wi)を回生用補正方法により鉄損(Wir´)に補正するように構成してもよい。例えば、鉄損補正部28は、力行用補正方法として、力行時のモデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)の次数が設定されている力行用多項式を用いて、鉄損(Wi)を鉄損(Wip´)に補正する。また、鉄損補正部28は、回生用補正方法として、回生時のモデルの特性が実際の電動機または発電機の特性に近づくように、変数としての電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)の次数が設定されている回生用多項式を用いて、鉄損(Wi)を鉄損(Wir´)に補正する。あるいは、他の力行用補正方法として、力行時に電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、力行時に角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)と、力行用多項式を用いて算出される補正後の鉄損(Wip´)との対応関係を示す力行用情報を、メモリ3に予め記憶させておき、鉄損補正部28は、力行時、その力行用情報を参照して、電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)に対応する鉄損(Wip´)を取得する。また、他の回生用補正方法として、回生時に電流算出部21により算出される電流(Id,Iq)と、回生時に角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)と、回生用多項式を用いて算出される補正後の鉄損(Wir´)との対応関係を示す回生用情報を、メモリ3に予め記憶させておき、鉄損補正部28は、回生時、その回生用情報を参照して、電流(Id,Iq)及び電気角速度(ω)に対応する鉄損(Wir´)を取得する。これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【0045】
補償部29は、力行時のモデルの特性に対して、補正部により補正される特性を用いて力行時にモデルに生じる損失分の特性を補償する力行補償処理、及び、回生時のモデルの特性に対して、補正部により補正される特性を用いて回生時にモデルに生じる損失分の特性を補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行う。
【0046】
トルク算出部23により算出されるトルク(T)またはトルク補正部27により補正されるトルク(T´)もしくはトルク(Tp´)は、力行時に実際の電動機または発電機に生じるトルクに比べて、モデルに生じる損失分のトルクだけ異なる。そのため、例えば、補償部29は、力行補償処理として、トルク(T)、トルク(T´)、またはトルク(Tp´)よりも鉄損補正部28により補正される鉄損(Wi´)または鉄損(Wip´)に相当するトルク及び損失算出部25により算出される機械損(Wm)に相当するトルクだけ補償したトルク(T´´)を角速度算出部30に出力する。これにより、トルク(T´´)を力行時に実際の電動機または発電機に生じるトルクに近づけることができるため、力行時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができる。
【0047】
トルク算出部23により算出されるトルク(T)またはトルク補正部27により補正されるトルク(T´)もしくはトルク(Tp´)は、回生時に実際の電動機または発電機に生じるトルクに比べて、モデルに生じる損失分のトルクだけ異なる。そのため、例えば、補償部29は、回生補償処理として、トルク(T)、トルク(T´)、またはトルク(Tp´)よりも損失算出部25により算出される機械損(Wm)に相当するトルクだけ補償したトルク(T´´)を角速度算出部30に出力する。これにより、トルク(T´´)を回生時に実際の電動機または発電機に生じるトルクに近づけることができる。そのため、回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができる。
【0048】
また、モデルのコイルにかかる目標電圧(Vu,Vv,Vw)は、回生時に実際の電動機または発電機にかかる目標電圧に比べて、モデルのコイルの抵抗(R)の電圧降下分とモデルに生じる損失(鉄損)に相当する抵抗の電圧降下分だけ異なる。そのため、例えば、補償部29は、回生補償処理として、鉄損補正部28により補正される鉄損(Wi´)または鉄損(Wir´)分を補償した抵抗(R´)を電流算出部21に出力する。これにより、モデルのコイルにかかる目標電圧(Vu,Vv,Vw)を回生時に実際の電動機または発電機にかかる目標電圧に近づけることができる。そのため、回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができる。
【0049】
角速度算出部30は、補償部20から出力されるトルク(T´´)を用いて、モデルの回転子の電気角速度(ω)を算出する。
【0050】
このように、実施形態のモデル特性算出装置1では、補償部29において、力行時のモデルの特性に対して、補正部により補正される特性を用いて力行時にモデルに生じる損失分の特性を補償する力行補償処理、及び、回生時のモデルの特性に対して、補正部により補正される特性を用いて回生時にモデルに生じる損失分の特性を補償する回生補償処理のうちの少なくとも1つの処理を行っている。これにより、力行時のモデルの特性や回生時のモデルの特性を実際の電動機または発電機の特性に近づけることができるため、モデルの特性を精度よく算出することができる。
【0051】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0052】
<変形例1>
電流算出部21は、電流(Id,Iq)を、三相交流電流(Iu,Iv,Iw)、二相電流(Iα,Iβ)、極座標で表現される電流(I,β)、または他の座標系で表現される電流に変換してもよい。このように構成される場合、磁束導出部22、トルク算出部23、及び鉄損算出部24は、電流算出部21により変換された電流を用いて、磁束(Φd,Φq)、トルク(T)、及び鉄損(Wi)を算出する。損失算出部25は、電流算出部21により変換された電流を用いて、銅損(Wc)を算出する。また、磁束補正部26は、電流算出部21により変換された電流及び角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)に補正する。
【0053】
<変形例2>
モデルは、電流算出部21の代わりに磁束導出部22´を備え、その磁束導出部22´は、上記電圧方程式を時間で積分することで得られる磁束方程式を用いて、モデルに生じる磁束(Φd,Φq)または他の座標系に変換された磁束を算出するように構成してもよい。すなわち、
図2に示すモデルは、電圧方程式をベースとして全体を構成しているが、磁束方程式をベースとして全体を構成してもよい。このように構成する場合、トルク算出部23及び鉄損算出部24は、磁束導出部22´により算出された磁束を用いて、トルク(T)及び鉄損(Wi)を算出する。また、損失算出部25は、磁束導出部22´により算出された磁束を用いて、銅損(Wc)を算出する。また、磁束補正部26は、角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)を用いて、磁束導出部22´により算出される磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)に補正する。
【0054】
<変形例3>
モデルは、電流算出部21の代わりに起電力算出部を備え、その起磁力算出部は、モデルに生じる起磁力(Fd,Fq)または他の座標系に変換された起磁力を算出するように構成してもよい。このように構成する場合、磁束導出部22、トルク算出部23、及び鉄損算出部24は、起電力算出部により算出された起電力を用いて、磁束(Φd,Φq)、トルク(T)、及び鉄損(Wi)を算出する。また、損失算出部25は、起電力算出部により算出された起電力を用いて、銅損(Wc)を算出する。また、磁束補正部26は、起磁力算出部により算出される起磁力及び角速度算出部30により算出される電気角速度(ω)を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)に補正する。
【0055】
<変形例4>
角速度算出部30は、電気角速度(ω)を、モデルの回転子の回転数、周波数、または機械角速度に変換してもよい。このように構成される場合、鉄損補正部28は、角速度算出部30により変換された回転数、周波数、または機械角速度を用いて、鉄損(Wi)を鉄損(Wi´)、(Wip´)、または(Wir´)に補正する。また、損失算出部25は、角速度算出部30により変換された回転数、周波数、または機械角速度を用いて、機械損(Wm)を算出する。また、磁束補正部26は、電流算出部21により算出される電流(Id、Iq)及び角速度算出部30により変換された回転数、周波数、または機械各速度を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)に補正する。または、磁束補正部26は、電流算出部21により変換された電流(三相交流電流(Iu,Iv,Iw)、二相電流(Iα,Iβ)、極座標で表現される電流(I,β)、または他の座標系で表現される電流)及び角速度算出部30により変換された回転数、周波数、または機械各速度を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)に補正する。または、磁束補正部26は、磁束導出部22´により算出される磁束または起電力算出部により算出される起磁力及び角速度算出部30により変換された回転数、周波数、または機械各速度を用いて、磁束(Φd,Φq)を磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)に補正する。
【0056】
<変形例5>
ある動作点における電流(Id、Iq)及び電気角速度(ω)と、補正後の磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)との対応関係を示す情報をメモリ3に記憶させておき、磁束補正部29は、その情報を参照して、電流(Id、Iq)及び電気角速度(ω)に対応する補正後の磁束(Φd´,Φq´)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)を取得するように構成してもよい。
【0057】
これにより、磁束(Φd,Φq)、(Φdp´,Φqp´)、または(Φdr´,Φqr´)を補正する際の計算量を低減することができるため、モデルの特性を算出する際の計算量を低減することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 モデル特性算出装置
2 プロセッサ
3 メモリ
4 入出力インターフェイス
5 入出力部
6 通信インターフェイス
21 電流算出部
22 磁束導出部
23 トルク算出部
24 鉄損算出部
25 損失算出部
26 磁束補正部
27 トルク補正部
28 鉄損補正部
29 補償部
30 角速度算出部