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特許7318489分散剤の製造方法、該分散剤を用いた導電材分散体、合材スラリーおよび非水電解質二次電池の製造方法
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  • 特許-分散剤の製造方法、該分散剤を用いた導電材分散体、合材スラリーおよび非水電解質二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】分散剤の製造方法、該分散剤を用いた導電材分散体、合材スラリーおよび非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230725BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230725BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20230725BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20230725BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230725BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230725BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230725BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
C08L9/02
C08K3/00
C08K3/22
C08K7/06
C08L101/00
C08F236/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019199729
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021072240
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 優
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530113(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168615(WO,A1)
【文献】特開2015-133302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/62
C08L 9/02
C08K 3/00
C08K 3/22
C08K 7/06
C08L 101/00
C08F 236/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と、共重合体(A)に対して1~20質量%の無機塩基(B)と、溶媒(C)との混合物を作製し、共重合体(A)を変性する、分散剤(D)の製造方法であって、下記(1)~(4)を満たす電池用分散剤(D)の製造方法。
(1)共重合体(A)は、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(A1)と、不飽和結合の一部もしくは全部が水素添加されていてもよい、共役ジエンに由来する構成単位(A2)とを含む共重合体であって、かつ、前記構成単位(A1)を15~50質量%含み、前記構成単位(A1)および構成単位(A2)を合計で70質量%以上含み、重量平均分子量が5000~400000である。
(2)無機塩基(B)は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
(3)共重合体(A)のゲル浸透クロマトグラフィーにおける重量平均分子量を1としたときの、分散剤(D)の重量平均分子量が0.05~0.6である。
(4)共重合体(A)の溶媒(C)溶液の粘度をηA(Pa・s)、分散剤(D)の溶媒(C)溶液の粘度をηD(Pa・s)としたときの、せん断速度100/sおよび1,000/sにおけるηD/ηAが0.05~0.6である。(ただし、各溶液の濃度は8質量%である。)
【請求項2】
前記混合物は、更に、アルコールおよび水からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(E)を、共重合体(A)と、無機塩基(B)と、溶媒(C)の合計質量に対して0.05~20質量%含む請求項1記載の電池用分散剤(D)の製造方法。
【請求項3】
化合物(E)の含有量が0.05~5質量%である請求項2記載の電池用分散剤(D)の製造方法。
【請求項4】
無機塩基(B)の含有量は、共重合体(A)に対して2~15質量%である請求項1~3いずれか記載の電池用分散剤(D)の製造方法。
【請求項5】
無機塩基(B)は、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~4いずれか記載の電池用分散剤(D)の製造方法。
【請求項6】
共重合体(A)は、更に他のエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位(A3)を含む請求項1~5いずれか記載の電池用分散剤(D)の製造方法。
【請求項7】
共重合体(A)の変性後に無機塩基(B)を抽出除去する、請求項1~6いずれか記載の電池用分散剤(D)の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7いずれか記載の製造方法で得られた電池用分散剤(D)と、導電材(F)とを混合し、導電材(F)を分散する電池用導電材分散体の製造方法。
【請求項9】
導電材(F)が繊維状炭素である請求項8記載の電池用導電材分散体の製造方法。
【請求項10】
複素弾性率が20Pa未満であり、かつ位相角が19°以上である請求項8または9記載の電池用導電材分散体の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10いずれか記載の製造方法で得られた導電材分散体と、バインダー樹脂とを混合するバインダー含有電池用導電材分散体の製造方法。
【請求項12】
請求項8~10いずれか記載の製造方法で得られた電池用導電材分散体、または請求項11記載の製造方法で得られたバインダー含有電池用導電材分散体と、活物質とを混合する合材スラリーの製造方法。
【請求項13】
請求項8~10いずれか記載の製造方法で得られた電池用導電材分散体、請求項11記載の製造方法で得られたバインダー含有電池用導電材分散体、または請求項12記載の製造方法で得られた合材スラリーを膜状に形成する電極膜の製造方法。
【請求項14】
正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池の製造方法であって、請求項13記載の製造方法で得られた電極膜を正極または負極の少なくとも一方に用いる、非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤の製造方法に関し、該分散剤を用いた導電材分散体、バインダー含有導電材分散体、合材スラリーおよび非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は電気自動車や携帯機器等のバッテリーとして広く用いられており、こうした機器の高性能化に伴い、高容量、高出力、小型軽量化といった要求が年々高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質および負極活物質に大きく依存することから、各種材料が盛んに研究されているが、実用化されている活物質の充電容量はいずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電池内の活物質充填量が増加すれば、単純に容量を増加させることができるため、容量には直接寄与しない導電材やバインダーの添加量を削減する試みが行われている。
【0004】
このうち導電材は、電池内部で導電パスを形成したり、活物質粒子間を繋ぐことで活物質の膨張収縮による導電パスの切断を防ぐ等の役割を担っており、少ない添加量で性能を維持するためには、比表面積が大きいナノカーボン、特にカーボンナノチューブ(CNT)を使用することで効率的な導電ネットワークを形成させることが有効である。しかし、比表面積が大きいナノカーボンは凝集力が強いため、合材スラリー中や電極中に良好に分散させることが難しいという問題があった。
【0005】
こうした背景から、各種分散剤を用いた導電材分散体を経由した合材スラリーの製造方法が多く提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、ポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールといった直線状の高分子を分散剤として用い、導電材を予め分散することで電池の初期特性やサイクル寿命を向上させることが提案されている。
【0006】
しかし、これらの直線状高分子分散剤は、良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、電極形成の過程において分散状態が不良となり、導電性が悪化することが課題であった。
【0007】
特許文献3には、水素化ニトリルゴムを分散剤として用いた導電材分散体が提案されている。この水素化ニトリルゴムは分散性に乏しいため良好な導電ネットワークを形成するには不十分だった。また、それ自体の粘度が高いため、分散体の製造に長時間を要する、または導電材がCNTの場合に1~2質量%程度の低濃度の分散体しか製造できないといった問題があり、工業的に実用化が困難であった。
【0008】
特許文献4には、水素化ニトリルゴムにアミノエタノール等を添加することで分散性を改善したCNT分散体が提案されている。これは、溶媒の極性を変化させることにより液の粘性や分散剤の作用が改善したものと思われる。しかし、それでも特許文献1や特許文献2に記載の分散剤と比較して導電材の分散性は劣っており、やはり良好な導電ネットワークを形成するには不十分だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-162877号公報
【文献】特開2014-193986号公報
【文献】特表2018-522803号公報
【文献】韓国特許登録第10-1831562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、少ない導電材添加量で電池の出力およびサイクル寿命を向上させるために、導電材を高濃度で良好に分散させ、かつ、電極中でも良好な導電ネットワークを維持させることを課題とし、鋭意検討した。その結果、前述の直線状高分子分散剤は、確かに良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、活物質と混合して合材スラリーを調製する段階では分散不良を起こしていることが判明した。これによって電極中で良好な導電ネットワークを形成できなくなり、電池の特性が不良となるものと思われる。本発明者らは、こうした現象を合材化時の「ロバスト性」不良と呼称している。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、電極中で良好な導電ネットワークを形成させ、導電材の添加量が少なくても電池の出力、サイクル寿命を向上させるために、導電材を高濃度で良好に分散させる分散性と、合材化時のロバスト性を両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明をするに至った。すなわち、本発明は、共重合体(A)と、共重合体(A)に対して1~20質量%の無機塩基(B)と、溶媒(C)との混合物を作製し、共重合体(A)を変性する、分散剤(D)の製造方法であって、下記(1)~(4)を満たす分散剤(D)の製造方法に関する。
(1)共重合体(A)は、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(A1)と、不飽和結合の一部もしくは全部が水素添加されていてもよい、共役ジエンに由来する構成単位(A2)とを含む共重合体であって、かつ、前記構成単位(A1)を15~50質量%含み、前記構成単位(A1)および構成単位(A2)を合計で70質量%以上含み、重量平均分子量が5000~400000である。
(2)無機塩基(B)は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
(3)共重合体(A)のゲル浸透クロマトグラフィーにおける重量平均分子量を1としたときの、分散剤(D)の重量平均分子量が0.05~0.6である。
(4)共重合体(A)の溶媒(C)溶液の粘度をη(Pa・s)、分散剤(D)の溶媒(C)溶液の粘度をηD(Pa・s)としたときの、せん断速度100/sおよび1,000/sにおけるηD/ηが0.05~0.6である。(ただし、各溶液の濃度は8質量%である。)
【0013】
また、本発明は、前記混合物は、更に、アルコールおよび水からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(E)を、共重合体(A)と、無機塩基(B)と、溶媒(C)の合計質量に対して0.05~20質量%含む前記分散剤(D)の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、化合物(E)の含有量が0.05~5質量%である前記分散剤(D)の製造方法に関する。
【0015】
また、本発明は、無機塩基(B)の含有量は、共重合体(A)に対して2~15質量%である前記分散剤(D)の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、無機塩基(B)は、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記分散剤(D)の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、共重合体(A)は、更に他のエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位(A3)を含む前記分散剤(D)の製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、共重合体(A)の変性後に無機塩基(B)を抽出除去する、前記分散剤(D)の製造方法に関する。
【0019】
また、本発明は、前記製造方法で得られた分散剤(D)と、導電材(F)とを混合し、導電材(F)を分散する導電材分散体の製造方法に関する。
【0020】
また、本発明は、導電材(F)が繊維状炭素である前記導電材分散体の製造方法に関する。
【0021】
また、本発明は、複素弾性率が20Pa未満であり、かつ位相角が19°以上である前記導電材分散体の製造方法に関する。
【0022】
また、本発明は、前記製造方法で得られた導電材分散体と、バインダー樹脂とを混合するバインダー含有導電材分散体の製造方法に関する。
【0023】
また、本発明は、前記製造方法で得られた導電材分散体、または前記製造方法で得られたバインダー含有導電材分散体と、活物質とを混合する合材スラリーの製造方法に関する。
【0024】
また、本発明は、前記製造方法で得られた導電材分散体、前記製造方法で得られたバインダー含有導電材分散体、または前記製造方法で得られた合材スラリーを膜状に形成する電極膜の製造方法に関する。
【0025】
また、本発明は、正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池の製造方法であって、前記製造方法で得られた電極膜を正極または負極の少なくとも一方に用いる、非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明者らが鋭意検討したところ、特定の構造を有する共重合体を一定条件下で変性して得られる分散剤を用いることで、導電材を高濃度で良好に分散させ、かつ、合材化時および電極製造時にもその良好な分散状態を維持して、電極中で良好な導電ネットワークを形成することが可能になった。これにより、導電材の添加量が少なくても電池のレート特性、サイクル特性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、全反射測定法による赤外分光分析での共重合体(A-9)、分散剤(D-9)、分散剤(D-19)の赤外分光スペクトル(広域)である。
図2図2は、全反射測定法による赤外分光分析での共重合体(A-9)、分散剤(D-9)、分散剤(D-19)の赤外分光スペクトル(拡大)である。
図3図3は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での正極1aの写真である。
図4図4は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での正極1aの写真(拡大)である。
図5図5は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での比較正極3aの写真である。
図6図6は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での比較正極3aの写真(拡大1)である。
図7図7は、正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察での比較正極3aの写真(拡大2)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の分散剤の製造方法、導電材分散体、バインダー含有導電材分散体、合材スラリーおよびそれを膜状に形成してなる電極膜、非水電解質二次電池について詳しく説明する。
【0029】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、分散剤(D)を得るための前駆体であり、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位(A1)と、不飽和結合の一部もしくは全部が水素添加されていてもよい、共役ジエンに由来する構成単位(A2)とを含む共重合体であって、かつ、前記構成単位(A1)を15~50質量%含み、前記構成単位(A1)および構成単位(A2)を合計で70質量%以上含み、重量平均分子量が5000~400000である。
【0030】
このような特徴を有する共重合体(A)は(メタ)アクリロニトリルおよび共役ジエンを含むモノマー混合物を共重合することにより得られる。
(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらの共役ジエンは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
【0031】
共重合体(A)は、更に、(A1)、(A2)以外の他のエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位(A3)を含んでいてもよい。(メタ)アクリロニトリル、および共役ジエンと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノまたはジメチル、フマル酸モノまたはジエチル、フマル酸モノまたはジ-n-ブチル、イタコン酸モノまたはジ-n-ブチル等の前記エチレン性不飽和カルボン酸のモノまたはジアルキルエステル;メトキシアクリレート、エトキシアクリレート、メトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシエトキシブチルアクリレート等の前記エチレン性不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド及びその誘導体;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノメチルアクリレート等のアミノ基を有するアクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;ジシクロペンタジエン、ビニルノルボルネン等の非共役ジエン単量体等が挙げられる。
【0032】
共重合体(A)は、通常の乳化重合の手法によって得ることができる。乳化重合に使用する乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、キレート剤、酸素捕捉剤、分子量調整剤等の重合薬剤は、従来公知のそれぞれの薬剤が使用でき、特に限定されない。例えば、乳化剤としては、通常、アニオン系またはアニオン系とノニオン(非イオン)系の乳化剤が使用される。
【0033】
アニオン系乳化剤としては、例えば、牛脂脂肪酸カリウム、部分水添牛脂脂肪酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム、水添ロジン酸カリウム、水添ロジン酸ナトリウム等の樹脂酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエステル型、ポリエチレングリコールエステル型、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体等のプルロニック型等の乳化剤が挙げられる。
【0034】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の熱分解型開始剤;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;これらと二価の鉄イオン等の還元剤とからなるレドックス系開始剤等が挙げられる。なかでもレドックス系開始剤が好ましい。これらの開始剤の使用量は、通常、単量体混合物に対して0.01~10重量%の範囲である。
【0035】
乳化重合反応は、連続式、回分式のいずれでもよく、重合温度も低温~高温重合のいずれでもよいが、好ましくは0~50℃、更に好ましくは0~35℃である。又、単量体の添加方法(一括添加、分割添加等の)、重合時間、重合転化率等も特に限定されない。
【0036】
また、本実施形態の共役ジエンに由来する構成単位の一部が水素化されていてもよく、(メタ)アクリロニトリル、共役ジエン、これらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合させた後、共重合体中のC=C二重結合を水素化させることで製造することができる。この際、重合反応工程および水素化工程は、通常の方法により行うことができる。例えば、共役ジエンに由来する構成単位を有する重合体を適切な溶媒に溶解させた状態において、水素化触媒の存在下で水素ガスで処理することにより行う。前記の水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、銅等が挙げられる。
【0037】
本実施形態の共重合体(A)は、共重合体(A)100質量%中に、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位を15~50質量%含有し、20~46質量%含有することが好ましく、30~40質量%含有することがより好ましい。(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位を上記範囲で含有することで被分散物への吸着性、分散媒への親和性をコントロールすることができ、被分散物を分散媒中に安定に存在させることができる。また、電解液への親和性もコントロールでき、電池内で溶解して電解液抵抗を増大させる等の不具合を防ぐことができる。
【0038】
また、本実施形態の共重合体(A)の分子量はポリスチレン換算の質量平均で、通常5000以上、400000以下の範囲が好ましく、さらに10000以上350000以下の範囲が好ましく、特に50000以上300000以下の範囲が好ましい。分散剤の分子量が5000未満、または400000を超えると被分散物への吸着性、分散媒への親和性が低下し、分散体の安定性が低下する傾向がある。
【0039】
<無機塩基(B)>
無機塩基としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を有する化合物であることが好ましく、詳しくは、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ならびにホウ酸塩等が挙げられる。また、これらの中でも容易にカチオンを供給できる面でアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、水酸化物、炭酸塩が好ましく、特に水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。これらの中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムがより好ましい。なお、本発明の無機塩基が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0040】
無機塩基の配合量は、共重合体(A)に対して1~20質量%であり、2~15質量%が好ましい。配合量が少なすぎると変性が起こらず、多すぎると分散装置や電池内部への腐食の原因になる。
【0041】
<溶媒(C)>
本実施形態の溶媒(C)は、共重合体(A)が可溶であれば特に限定されないが、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であることが好ましい。
【0042】
水溶性有機溶媒としては、アミン系(エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど)、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。この中でも、水またはアミド系有機溶媒であることがより好ましく、アミド系有機溶媒の中でもN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0043】
<分散剤(D)>
分散剤(D)は、共重合体(A)、無機塩基(B)、および溶媒(C)の混合物を作製し、共重合体(A)を変性することで得られる。変性による化学的変化は定かではないが、下記(I)および(II)の変化を生じたことをもって変性とする。
(I)共重合体(A)のゲル浸透クロマトグラフィーによる重量平均分子量を1としたときの、分散剤(D)の重量平均分子量が0.05~0.6
(II)共重合体(A)の溶媒(C)溶液の粘度をη(Pa・s)、8質量%の分散剤(D)の溶媒(C)溶液の粘度をηD(Pa・s)としたときの、せん断速度100/sおよび1,000/sにおけるηD/ηが0.05~0.6
共重合体および分散剤の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる。また、共重合体および分散剤の粘度は、溶媒(C)を溶媒とした8.0質量%溶液となるように調製し、25℃にてレオメーターを用いて求められる。
【0044】
変性させる際の混合方法や添加順序に制限はなく、これらを同時に添加しても良いし、共重合体(A)、無機塩基(B)をそれぞれ別に、またはいずれかを溶媒(C)と混合してから合わせても良い。特に、共重合体(A)を溶媒(C)に溶解させた溶液に、無機塩基(B)を溶媒(C)中に分散させた液を撹拌しながら添加するのが、効率よく均一に変性させることができ、好ましい。撹拌方法はディスパーやホモジナイザー等を用いることができる。導電材分散体を作成する場合は、後述の一般的な分散機を用いることができる。また、混合の際の温度に制限はないが、30℃以上に加温することで変性を早めることができる。
【0045】
また、本実施形態の分散剤(D)は、無機塩基(B)および溶媒(C)との混合物(分散剤(D)溶液)のまま使用することができるが、共重合体(A)の変性後に前記混合物から無機塩基(B)を抽出除去し形態でも使用することができる。抽出除去の方法は特に限定されないが、例えば、無機塩基(B)の良溶媒であって、分散剤(D)の貧溶媒である洗浄溶媒に、無機塩基(B)を含有する分散剤(D)溶液を滴下し、沈殿した分散剤(D)を回収することで行うことができる。洗浄溶媒は多いほど除去効率が高い。また、沈殿した分散剤(D)を再溶解して繰り返し洗浄することでも除去効率が高くなる。無機塩基(B)の良溶媒であって、分散剤(D)の良溶媒である溶媒と、無機塩基(B)を含有する分散剤(D)溶液とを十分混合してから同様に洗浄してもよい。
【0046】
<化合物(E)>
本実施形態の化合物(E)は、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど)、および水の中から、1種類を単独で、もしくは2種類以上を併用して用いることができる。この中でもメタノール、エタノール、または水が好ましく、特に水が好ましい。
【0047】
化合物(E)は、共重合体(A)、無機塩基(B)、溶媒(C)を混合してから添加してもよいが、あらかじめ添加しても、これらと同時または順次添加してもよい。また、各原料が吸湿性が高い場合など、吸湿された水として含んでいる形態であってもよい。化合物(E)は、共重合体(A)、無機塩基(B)、溶媒(C)の合計質量に対して0.05~20質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.05~1質量%が特に好ましい。
【0048】
<導電材(F)>
本実施形態の導電材(F)は、例えば金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀-銅複合粉、銀-銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、白金等の金属粉、これらの金属で被覆した無機物粉体、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末、これらの金属酸化物で被覆した無機物粉末、および炭素系導電材を用いることができる。炭素系導電材としては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラック、繊維状炭素であるカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなども使用できる。これらの導電材は、1種または2種以上組み合わせて用いても良い。これらの導電材の中でも、炭素系導電材が好ましく、特にアセチレンブラックおよびカーボンナノチューブが好ましい。
【0049】
本実施形態のカーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有している。カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブが混在するものであってもよい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブをカーボンナノチューブとして用いることもできる。
【0050】
本実施形態のカーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0051】
本実施形態のカーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されない。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0052】
本実施形態の導電材(F)のBET比表面積は20~1000m/gであることが好ましく、30~500m/gであることがより好ましい。
【0053】
本実施形態の導電材(F)としてカーボンナノチューブを用いる場合、カーボンナノチューブの外径は1~30nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましい。
【0054】
本実施形態の導電材(F)の炭素純度は導電材中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度は導電材100質量%に対して、90質量%が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
【0055】
<導電材分散体>
導電材分散体は、分散剤(D)と、導電材(F)とを混合し、導電材(F)を分散することにより得ることができる。導電材(F)を混合および分散するタイミングは、分散過程のいずれかのタイミングで分散剤(D)が存在していれば特に限定されない。分散剤(D)が生成した後に混合し、分散してもよいし、分散剤(D)の変性前に混合し、変性後に分散してもよい。また、分散剤(D)の変性前に混合し、変性と同時に分散してもよい。また、先に導電材(F)を湿式または乾式で分散してから、分散剤(D)を変性前または変性後に混合し、さらに分散してもよい。
分散方法としては、ディスパー、ホモジナイザー、シルバーソンミキサー、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、プラネタリーミキサー、または高圧ホモジナイザー等の各種分散手段を用いることができる。
【0056】
本実施形態の導電材分散体の固形分の量は、導電材分散体100質量%に対して、0.05~30質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましい。
【0057】
本実施形態の導電材分散体中の分散剤(D)の量は、導電材(F)100質量%に対して、0.1~200質量%使用することが好ましく、1~100質量%使用することがより好ましく、2~50質量%がさらに好ましい。
【0058】
導電材分散体は、必要に応じて溶媒を含むことができる。溶媒は特に限定されないが、上記溶媒(C)で例示した溶媒を用いることができる。また、上記溶媒(C)と同じものを用いることが好ましい。
【0059】
導電材分散体の分散性は、動的粘弾性測定による複素弾性率および位相角で評価できる。導電材分散体の複素弾性率は、分散体の分散性が良好で、低粘度であるほど小さくなる。また、位相角は、導電材分散体に与えるひずみを正弦波とした場合の応答応力波の位相ズレを意味しており、純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応答応力波となる。一般的な粘弾性試料では、純弾性体と純粘性体の間に振幅が小さくなった正弦波となるため、導電材分散体の分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。
【0060】
本実施形態の導電材分散体の複素弾性率は、20Pa未満が好ましく、10Pa以下がさらに好ましく、5Pa以下が特に好ましい。また、本実施形態の導電材分散体の位相角は、19°以上が好ましく、30°以上がさらに好ましく、45°以上が特に好ましい。
【0061】
<バインダー含有導電材分散体>
本実施形態のバインダー含有導電材分散体とは、上記導電材分散体にさらに、少なくともバインダーを含むものであり、導電材分散体と、バインダー樹脂とを混合することにより得ることができる。
【0062】
<バインダー樹脂>
本実施形態のバインダー樹脂は物質間を結合するための樹脂である。
本実施形態のバインダー樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。中でも、正極のバインダー樹脂として使用する場合は耐性面から分子内にフッ素原子を有する高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。また、負極のバインダー樹脂として使用する場合は密着性の良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸が好ましい。
【0063】
本実施形態のバインダー樹脂としてのこれらの樹脂類の重量平均分子量は、10,000~2,000,000が好ましく、100,000~1,000,000がより好ましく、200,000~1,000,000が特に好ましい。
【0064】
<合材スラリー>
本実施形態の合材スラリーとは、上記導電材分散体またはバインダー含有導電材分散体にさらに、少なくとも活物質を含むものである。
【0065】
<活物質>
本実施形態の活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0066】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V、V13、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0067】
負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiFe、LiFe、LiWO(xは0<x<1の数である。)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
本実施形態の合材スラリー中の導電材(F)の量は活物質100質量%に対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることが好ましく0.03~3質量%であることが好ましい。
【0069】
本実施形態の合材スラリー中のバインダー樹脂の量は活物質100質量%に対して、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましく、1~10質量%であることが特に好ましい。
【0070】
本実施形態の合材スラリーの固形分の量は、合材スラリー100質量%に対して、30~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが好ましい。
【0071】
本実施形態の合材スラリーは従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、導電材分散体に活物質を添加して作製する方法や、導電材分散体にバインダー樹脂を添加した後、活物質を添加して作製する方法、導電材分散体に活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法が挙げられる。
【0072】
本実施形態の合材スラリーを得るには、導電材分散体にバインダー樹脂を添加した後、活物質をさらに加えて分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。合材スラリーは前記導電材分散体で説明した分散手段を用いて、合材スラリーを得ることができる。また、本実施形態の分散剤(D)はバインダーとしての機能も有するため、分散剤(D)と異なるバインダー樹脂を改めて加えなくとも合材スラリーを得ることができる。
【0073】
<電極膜>
本実施形態の電極膜とは、導電材分散体、バインダー含有導電材分散体、または合材スラリーを膜状に形成してなるものである。例えば、集電体上に合材スラリーを塗工乾燥することで、電極合材層を形成した塗膜である。
【0074】
本実施形態の電極膜に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0075】
集電体上に合材スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0077】
本実施形態の導電材分散体またはバインダー含有導電材分散体を塗工乾燥して得た電極膜は、電極合材層の基材との密着性や導電性を向上させるために、下地層として用いることも可能である。
【0078】
<非水電解質二次電池>
本実施形態の非水電解質二次電池とは正極と、負極と、電解質とを含むものである。
【0079】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0080】
負極としては、集電体上負極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0081】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0082】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0083】
本実施形態の非水電解質二次電池には、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0084】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0085】
<実施例>
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0086】
<重量平均分子量(Mw)測定用サンプルの調製>
無機塩基および溶媒を含む分散剤溶液から下記の方法で分散剤を単離して測定サンプルを調整した。分散剤溶液を精製水に滴下して分散剤を沈殿させ、ブフナー漏斗でろ過して回収した。そのままブフナー漏斗上で精製水をふりかけてすすいだ後、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。これを精製水に再び滴下して前記ろ過、洗浄工程を行い、THFに再溶解させ、測定サンプルとした。また、導電材をさらに含む分散剤溶液の場合は、遠心分離により導電材を分離し、分取した上澄みについて同様の工程を行い、測定サンプルとした。
【0087】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
共重合体および分散剤の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。装置としてHLC-8320GPC(東ソー株式会社製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー株式会社製「TSK-GEL SUPER AW-4000」、「AW-3000」、及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mM LiBrのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速0.6ml/minで測定した。サンプルは上記溶離液からなる溶剤に1質量%の濃度で調製し、20マイクロリットル注入した。分子量はポリスチレン換算値である。
【0088】
<共重合体および分散剤溶液の粘度測定>
共重合体および、溶媒を除去した分散剤は、NMPを溶媒とした8質量%溶液となるように調製し粘度測定用サンプルとした。分散剤溶液は、そのまま8質量%溶液となるようにNMPで希釈して粘度測定用サンプルとした。粘度測定用サンプルを試料台にセットし、25℃、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher製RheoStress1回転式レオメーター)を用いて、せん断応力1/sから1,000/sまで連続的に測定した。
【0089】
<全反射測定法による赤外分光分析>
溶媒を含む分散剤は、100℃の熱風により乾固させ、測定サンプルとした。固体状の共重合体はそのまま測定に用いた。共重合体および分散剤は、赤外分光光度計(Thermo Fisher Scientific社製Nicolet iS5 FT-IR分光装置)を用いてIR測定した。
【0090】
<共重合体の水素添加率の測定>
水素添加率は、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定を行い求めた。共役ジエン単量体単位に由来する二重結合は970cm-1にピークが表れ、水素添加した単結合は723cm-1にピークが表れることから、この二つのピークの比率を比較することで水素添加率が計算した。
【0091】
<分散剤溶液の水分の測定>
分散剤溶液の水分は、カールフィッシャー水分計(卓上型電量法水分計CA-200型:三菱ケミカルアナリテック社製)を用いて、窒素ガス250ml/分流通下、230℃で試料を処理し、カールフィッシャー法により測定した値を、共重合体、無機塩基、および溶媒の合計質量の対する含有量として算出した。
【0092】
<導電材分散体の初期粘度測定>
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃にて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎:500mPa・s未満(優良)
○:500mPa・s以上2000mPa・s未満(良)
△:2000mPa・s以上10000mPa・s未満(可)
×:10000mPa・s以上、沈降または分離(不良)
【0093】
<導電材分散体の複素弾性率および位相角の測定>
導電材分散体の複素弾性率及び位相角は、直径60mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。得られた複素弾性率が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良である。また、得られた位相角が大きいほど分散性が良好であり、小さいほど分散性が不良である。
複素弾性率 判定基準
◎:5Pa未満(優良)
○:5Pa以上20Pa未満(可)
×:20Pa以上(不良)
××:100Pa以上(極めて不良)
位相角 判定基準
◎:45°以上(優良)
○:30°以上45°未満(良)
△:19°以上30°未満(可)
×:19°未満(不良)
【0094】
<導電材分散体の安定性評価方法>
貯蔵安定性の評価は、分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の、液性状の変化から評価した。液性状の変化は、ヘラで撹拌した際の撹拌しやすさから判断した。
判定基準
○:問題なし(良好)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(可)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0095】
<正極膜の導電性評価方法>
正極用合材スラリーを、ギャップ175μmのアプリケーターを用いてPETフィルム(厚さ100μm)に塗工し、70℃の熱風オーブンで10分、120℃の熱風オーブンで15分乾燥させて、導電性評価用正極膜を得た。正極膜の表面抵抗率(Ω/□)は、(株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて測定した。測定後、PETフィルム上に形成した正極合材層の厚みを掛けて、体積抵抗率(Ω・cm)とした。正極合材層の厚みは、膜厚計(NIKON社製、DIGIMICRO MH-15M)を用いて、正極膜中の3点を測定した平均値から、PETフィルムの膜厚を引き算した。正極膜の導電性評価は、正極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が10未満を◎(優良)、10以上20未満を〇(良)、20以上を×(不良)とした。
【0096】
<正極膜表面の走査型電子顕微鏡観察>
走査型電子顕微鏡(SEM):日本電子(株)製、JSM-6700Fを用いて正極膜表面の観察を行った。正極膜を剃刀で5mm角に切り出し、試料台にカーボンテープを用いて貼り付け、観察試料とした。ナノマテリアルである導電材は、活物質粒子と比較して極めて小さいため、大きさで材料の分布状態が判定できる。正極膜の材料分布状態は、全体に均一で凝集物や偏りがない状態を◎(優良)、逆に凝集物や偏りがある状態を×(不良)とした。
【0097】
<非水電解質二次電池のレート特性評価方法>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA(0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式1で表すことができる。

(式1) レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)

レート特性は、レート特性が80%以上のものを◎(優良)、60%以上80%未満のものを〇(良)、30%以上60%未満のものを×(不良)、30%未満のものを××(極めて不良)とした。
【0098】
<非水電解質二次電池のサイクル特性評価方法>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の式2で表すことができる。

(式2)サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量×100(%)

サイクル特性は、サイクル特性が85%以上を◎(優良)、80%以上85%未満を〇(良)、60%以上80%未満を×(不良)、60%未満のものを××(極めて不良)とした。
【0099】
<合成例1-1 共重合体(A-1)の製造>
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル30部、1,3-ブタジエン70部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水200部を装入して、窒素雰囲気下において、撹拌下、45℃で20時間重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応の単量体を減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%のアクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスより固形分を回収し、共重合体(A-1)を得た。乾燥後、元素分析により共重合体(A-1)の1,3-ブタジエン及びアクリロニトリル単位の含有量を求めたところ、1,3-ブタジエン単位が69%、アクリロニトリル単位が31%であった。共重合体(A-1)の重量平均分子量(Mw)は20,000であった。
【0100】
<合成例1-2~1-8 共重合体(A-2)~(A-8)の製造>
使用するモノマーを表1に従って変更した以外は、製造例1-1と同様にして、それぞれ共重合体(A-2)~(A-8)を作製した。各共重合体の重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0101】
【表1】
【0102】
<合成例1-9 共重合体(A-9)の製造>
共重合体(A-1)の二重結合をTi系水素添加触媒で水素化して、共重合体(A-9)を得た。共重合体(A-9)の水素添加率は99.5%であり、重量平均分子量(Mw)は共重合体(A-1)と変わらなかった。
【0103】
<実施例1-1 分散剤(D-1)の作製>
ステンレス製容器1に、NaOH16部およびNMP84部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、NaOH/NMP懸濁液を調製した。ステンレス製容器2に共重合体(A-1)9部およびNMP91部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、共重合体(A―1)/NMP溶液を調製した。続いて、NaOH、共重合体(A-1)が表2に示す組成となるように、NaOH/NMP懸濁液および共重合体(A―1)/NMP溶液を、ステンレス製容器3に入れ、さらにNMPを加えて濃度を調整した。これをホモジナイザーで2時間撹拌して変性し、分散剤(D-1)と、NMPと、NaOHを含む溶液を得た。
【0104】
<実施例1-2~1-9 分散剤(D-2)~(D-9)の作製>
使用する共重合体を表2に従って変更した以外は、実施例1-1と同様にして、それぞれ分散剤(D-2)~(D-9)と、NMPと、NaOHを含む溶液を得た。
【0105】
<実施例1-10 分散剤(D-10)の作製>
ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に、H-NBR1(市販のLANXESS社製H-NBR Therban(R)3406、アクリロニトリル含有量34%)、NaOH、NMPを表2に従って仕込み、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して変性し、分散剤(D-10)、NMPと、NaOHを含む溶液を得た。
【0106】
<実施例1-11 分散剤(D-11)の作製>
ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に、H-NBR2(市販の日本ゼオン社製H-NBR Zetpole(R)3300、アクリロニトリル含有量23.6%)、LiOH、NMPを表2に従って仕込み、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して変性し、分散剤(D―11)、NMPと、LiOHを含む溶液を得た。
【0107】
<実施例1-12~1-14 分散剤(D-12)~(D-14)の作製>
NaOH量を表2に従って変更した以外は、実施例2-1と同様にして、それぞれ分散剤(D-12)~(D-14)と、NMPと、NaOHを含む溶液を得た。
【0108】
<実施例1-15~1-17 分散剤(D-15)~(D-17)の作製>
使用する無機塩基を表2に従って変更した以外は、実施例1-1と同様にして、それぞれ分散剤(D-15)~(D-17)と、NMPと、無機塩基を含む溶液を得た。
【0109】
<実施例1-18 導電材含有分散剤(D-18)の作製>
実施例1-1と同様に、NaOH/NMP懸濁液、および共重合体(A―1)/NMP溶液を調製した。続いて、NaOH、共重合体(A-1)、NMPが表2に示す組成となるように、NaOH/NMP懸濁液、共重合体(A―1)/NMP溶液およびNMPをステンレス容器3に入れ、さらに導電材として8S(JENOTUBE8S、JEIO社製、多層CNT、外径6~9nm)を38.75部加えた。これをホモジナイザーで2時間撹拌して共重合体(A-1)を変性し、分散剤(D-18)、導電材、NMPおよびNaOHを含有する混合液を得た。
【0110】
<実施例1-19 無機塩基を抽出除去した分散剤(D-19)の作製>
実施例1-9で作製した、NMPとNaOHを含む分散剤(D-9)を、精製水に滴下して沈殿させブフナー漏斗でろ過して沈殿物を回収した。引き続き、ブフナー漏斗上で精製水をふりかけてすすいだ後、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。これを精製水に再び滴下して前記ろ過、洗浄工程を行い、NaOHを抽出除去した。これを60℃で熱風乾燥させてNaOHを除去した分散剤(D-19)を得た。
【0111】
<実施例1-20 水を添加して変性した分散剤(D-20)の作製>
ステンレス製容器1に、NaOH16部およびNMP84部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、NaOH/NMP懸濁液を調製した。ステンレス製容器2に共重合体(A-9)9部およびNMP91部を入れ、ホモジナイザーにより1時間撹拌し、共重合体(A―9)/NMP溶液を調製した。続いて、NaOH、共重合体(A-9)が表2に示す組成となるように、NaOH/NMP懸濁液および共重合体(A―9)/NMP溶液を、ステンレス製容器3に入れ、さらにNMPを加えて濃度を調整し、水を共重合体(A-9)と、NaOHと、NMPの合計質量に対して0.2質量%となるように加えた。これをホモジナイザーで2時間撹拌して変性し、分散剤(D-20)、NMPと、NaOHと、水を含む溶液を得た。
【0112】
<実施例1-21 メタノールを添加して変性した分散剤(D-21)の作製>
実施例1-20において、水を用いた代わりに、メタノールを共重合体(A-9)と、NaOHと、NMPの合計質量に対して2質量%となるように加えて濃度を調整した。これをホモジナイザーで2時間撹拌して変性し、分散剤(D-20)、NMPと、NaOHを含む溶液を得た。
【0113】
<実施例1-22 メタノールを添加して変性した分散剤(D-22)の作製>
実施例1-20において、水を用いた代わりに、メタノールを共重合体(A-9)と、NaOHと、NMPの合計質量に対して20質量%となるように加えて濃度を調整した。これをホモジナイザーで2時間撹拌して変性し、分散剤(D-20)、NMPと、NaOHを含む溶液を得た。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に記載の添加量(%)は固形分換算である。
【0116】
実施例1-1~1-22にて得られた分散剤(D-1)~(D-22)の重量平均分子量(Mw)、せん断速度100/sおよび1,000/sにおける粘度、変性時の混合物中の水分量を表3に示す。
【0117】
【表3】

【0118】
図1および図2に示すように、共重合体(A-9)と分散剤(D-9)のIRスペクトルを比較すると、共重合体(A-9)の1020~1040cm-1のピークが消失し、分散剤(D-9)では1570cm-1、1640cm-1のピークが新たに出現していることがわかる。また、分散剤(D-9)の無機塩基を抽出除去して得た分散剤(D-19)と、分散剤(D-9)のスペクトルが類似していることから、変性には無機塩基が必要であるが、一度変性が起こると無機塩基を除去しても変性した状態が維持されることがわかる。図1および図2に記載した例以外の実施例についても、同様にIRスペクトルの変化が確認された。
【0119】
また、変性して得た分散剤は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量が変性前の共重合体に対して0.05~0.6倍であった。通常は、単に室温で混合するなど、本発明の要件とする条件程度ではここまで大幅な分子量変化を伴うほどの変性、例えば高分子鎖の切断が起こるとは考えにくい。詳細は定かではないが、例えば、変性により極性が変化して、溶液中における高分子鎖の拡がりが変化したことで、あるいは、クラウンエーテルのように一部の高分子鎖が金属元素に配位して複数個所が局所的に湾曲したことによって、見かけ上分子量が小さくなったのではないかと推察される。分散剤溶液の粘度が大幅に小さくなったことも、同様の理由によるものと思われる。
【0120】
なお、無機塩基と共重合体の混合は実施例に記載の順序、方法に限らないが、無機塩基を予め溶媒中に分散させ、共重合体溶液に作用させた方が、無機塩基と共重合体との接触効率が高いなるため変性が進みやすい。品質管理の安定化や製造時間の短縮にも効果的である。
【0121】
<導電材分散体の作製>
<実施例2-1~2-17、2-20~2-22>
表4に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMPおよび無機塩基を含む分散剤溶液を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、各導電材分散体(分散体1~17、20~22)を得た。
【0122】
<実施例2-18>
表4に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMP、NaOH、および導電材8Sを含む分散剤溶液を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、導電材分散体(分散体18)を得た。
<実施例2-19>
表4に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に分散剤およびNMPを仕込み、分散剤を溶解させた後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、導電材分散体(分散体19)を得た。
【0123】
<実施例2-23、2-24>
表4に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMPおよび無機塩基を含む分散剤溶液を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、表4に示す導電材を加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、各導電材分散体(分散体23~24)を得た。
【0124】
<比較例2-1~2-5>
表4に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に分散剤、および記載のある場合は添加剤(アミノエタノールまたはNaOH)を仕込み、NMPを追加して溶解混合させた後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.25mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで分散し、導電材分散体(比較分散体1~5)を得た。
【0125】
・8S:JENOTUBE8S(JEIO社製、多層CNT、外径6~9nm)
・100T:K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical社製、多層CNT、外径10~15nm)
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ社製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m/g)
・PVP:ポリビニルピロリドンK-30(日本触媒社製、固形分100%)
・PVA:Kuraray POVAL PVA403(クラレ社製、固形分100%)
【0126】
【表4】
【0127】
表5に示す通り、本発明の導電材分散体(分散体1~24)はいずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。比較分散体3~5も低粘度かつ貯蔵安定性が比較的良好であったが、比較分散体1および2は高粘度かつ貯蔵安定性が不良だった。また、複素弾性率および位相角も同様に分散体1~24はいずれも良好であり、比較分散体3~5は比較的良好であるものの、比較分散体1および2は不良だった。特に、比較分散体1の複素弾性率は約300Paであり、極めて不良だった。
【0128】
【表5】
【0129】
本発明の分散剤は、変性によって導電材への濡れ性および吸着量が向上したものと考えられる。さらに、分散剤自体の粘度が低下しているため、より高濃度で分散性良好な導電材分散体が容易に製造できるようになった。
【0130】
実施例2-18のように導電材と混合してから変性させることも可能であることがわかったが、先に変性させてから導電材を加えた方が、濡れ性の向上により仕込み効率が良くなること、混合物の粘度が低いため撹拌効率および分散効率が良くなること、導電材に分散剤を均一に作用させやすくなることから、好ましい。
【0131】
<正極用合材スラリーおよび正極の作製>
<実施例3-1>
表6に示す組成に従い、容量150mlのプラスチック容器に導電材分散体(分散体1)と、8質量%PVDFを溶解したNMPとを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー社製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌し、バインダー含有導電材分散体を得た。その後、活物質としてNMCを添加し、自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30分間間撹拌した。さらにその後、NMPを添加し、自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌して、正極用合材スラリーを得た。正極用合材スラリーの固形分は75質量%とした。
【0132】
上述の正極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が3.1g/cmとなる正極1aを作製した。
【0133】
<実施例3-2~3-24、比較例3-1~3-5>
導電材分散体の種類を変更した以外は実施例3-1と同様の方法により、正極2a~24a、比較正極1a~5aを作製した。
【0134】
<実施例4-1、4-2、比較例4-1~4-3>
表6に示す通り、活物質をNCAに変更した以外は実施例3-1、3-10、および比較例3-1~3-3と同様の方法により、正極1b、2b、比較正極1b~3bを作製した。
【0135】
・NMC:NCM523(日本化学工業社製、組成:LiNi0.5Co0.2Mn0.3、固形分100%)
・NCA:HED(登録商標)NAT-7050(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製、組成:LiNi0.8Co0.15Al0.05)、固形分100%
・PVDF:Solef#5130(Solvey社製)、固形分100%
【0136】
【表6】
【0137】
図3図4に正極1aのSEM写真を、図5図7に比較正極3aのSEM写真を示す。数マイクロメートルの球状造粒物が正極活物質であり、微少な繊維状物質がCNTである。正極1aはCNTが単独で凝集した様子は見られず(図3)、活物質表面に多くのCNTが付着していた(図4)。一方、比較正極3aには活物質粒子の間隙にCNTが単独で凝集した様子が複数個所で確認でき(図5図6)、活物質表面に付着したCNTはほとんどなかった(図7)。
【0138】
表7に、電極の評価結果を示す。表7において評価が◎であった正極は、正極1aと同様の状態であり、評価が×であった比較正極は、比較正極3aと同様の状態であった。
【0139】
表7示す抵抗とSEM観察した結果を比較すると、非常に相関が高いことがわかる。すなわち、実施例の正極はロバスト性が良好であるためCNTが効率的に導電ネットワークを形成することができ、比較例の正極はロバスト性が不良であるため導電ネットワークが形成できず抵抗が悪化したものと考えられる。
【0140】
このようなロバスト性の差異を本発明者らは以下のように考察している。比較例2-3~2-5で用いたような直線状高分子分散剤は、導電材のみならず活物質にもよく吸着し作用するため、合材スラリー中の大部分を占める活物質に分散剤を奪われ、安定な分散状態を保てなくなったものと思われた。さらに、比較例4-1~4-3では、特にロバスト性不良の影響が顕著であった。これは、ニッケル比率の高い正極活物質の場合、粒子表面のアルカリ性が高いため、安定な分散系に対して大きな外乱となるためであると思われる。ニッケル比率の高い正極活物質は、近年の高出力化や高容量化の期待でトレンドとなりつつあり、同様の理由で注目されるシリコン系負極活物質、特にリチウムドープシリコン系負極活物質の場合も同じ傾向になることが確認できている。
【0141】
ニトリルゴムは、1,3-ブタジエン単量体単位の重合において分岐を生じる場合があり、多数の分岐を有する網目状の分子構造であることが知られている。本発明の分散剤は、一般のニトリルゴムと比較して導電材や活物質に対する吸着力や分散力が高いことに加え、この網目状の分子構造が導電材に対して三次元的に吸着するため、吸脱着の平衡状態にある分散体中において、分散剤分子の一部が脱着しても、導電材粒子の近傍に留まって再吸着できるものと推察され、さらに導電材に吸着しながら活物質にも吸着できるものと推察される。こうした作用が外乱の影響を受けにくい要因であると考えられる。
【0142】
一方、同様に網目状の分子構造を有する比較例2-1~2-2は、そもそもの分散性が悪いため、導電材分散体としても分散不良であり、電極内でも良好な導電ネットワークが形成できなかったものと思われる。なお、強いずり応力がかかるような混練方法ほど、また、混練時間が長くなるほど、比較例の分散剤を用いた場合のロバスト性不良が起こりやすくなることがわかった。これは、強いずり応力がかかるほど、また、混練時間が長くなるほど、活物質に分散剤が取られ、導電材同士が凝集することによるものと考えられる。
【0143】
【表7】
【0144】
<非水電解質二次電池の作製>
<実施例5-1~5-24、比較例5-1~5-5>
<実施例6-1~6-2、比較例6-1~6-3>
下記の標準負極と表7に掲載した正極膜とを各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。続いて、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを1:1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)を電解液100部に対して1部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入し、アルミ製ラミネートを封口して電池1a~21a、電池1b~21b、比較電池1a~5a、比較電池1b~5b、電池1c、比較電池1c~3c、電池1d、比較電池1d~3dを作製した。
【0145】
<製造例1 標準負極用合材スラリーの作製>
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標)HS100)と、CMCと、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー社製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛を添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBRを加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材スラリーを得た。標準負極用合材スラリーの固形分は48質量%とした。標準負極用合材スラリー中の活物質:導電材:CMC:SBRの固形分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0146】
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ社製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m/g)
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業社製)、固形分100%
・CMC:#1190(ダイセルファインケム社製)、固形分100%
・SBR:TRD2001(JSR社製)、固形分48%
【0147】
<製造例2 標準負極の作製>
負極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cmとなる正極を作製した。
【0148】
レート試験・サイクル試験の結果・考察
表7に示す通り、ロバスト性が良好な電池はレート特性およびサイクル特性が良好であり、ロバスト性が悪い電池はいずれの特性も悪かった。導電ネットワークが良好に形成され低抵抗な正極は、電池としても抵抗が低く、レート特性が良化するものと思われる。また、導電ネットワークが不良な場合、比較的低抵抗な活物質粒子にサイクルの負荷が集中するため、劣化が促進されてしまうのに対し、全体に良好な導電ネットワークが形成されている場合、負荷が分散されるため劣化しにくくなる。
【0149】
以上のように、分散性とロバスト性を両立することで、電極膜中で良好な分散状態を維持して効率的な導電ネットワークを形成することができ、レート特性、サイクル特性が良好な電池を製造することが出来る。
【0150】
実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7