(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】絶縁電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/285 20060101AFI20230725BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01B7/285
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2019219009
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/003195
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/003196
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-287647(JP,A)
【文献】特開2011-096567(JP,A)
【文献】特開2007-226999(JP,A)
【文献】特開2014-107976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/285
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、
前記絶縁電線は、
前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、
前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある第一の被覆部および第二の被覆部とを、
前記絶縁電線の長手軸方向に沿って、前記第一の被覆部、前記露出部、前記第二の被覆部の順に隣接させて有し、
さらに、少なくとも、前記露出部の一部から前記第一の被覆部の一部にわたる領域に、前記素線の間に止水剤が充填された止水部を有し、
前記第二の被覆部において、
前記露出部に隣接する部位は、前記素線の間、および前記導体と前記絶縁被覆との間の少なくとも一方に空隙を有する、非防水端となって
おり、
前記露出部に隣接する前記非防水端の領域において、前記露出部から離れた遠隔域に比べて、前記導体の外径が小さくなっている、絶縁電線。
【請求項2】
前記第二の被覆部は、前記空隙を、前記導体と前記絶縁被覆との間に有する、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記第一の被覆部において、前記露出部に隣接する部位は、前記導体と前記絶縁被覆との間に前記止水剤が充填された、防水端となっている、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記防水端においては、前記絶縁被覆と前記導体との間に充填された前記止水剤と連続して、前記絶縁被覆の外周が、前記止水剤に被覆されており、
前記非防水端においては、前記絶縁被覆の外周が、前記止水剤に被覆されていないとともに、
前記露出部のうち、前記非防水端に隣接する箇所に、前記導体の外周に前記止水剤が配置されない区間が存在する、請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記導体の外径が、前記露出部において、前記遠隔域よりも小さくなっている、請求項
1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の絶縁電線を有し、
前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部材を備えている、ワイヤーハーネス。
【請求項7】
前記第一の被覆部側に設けられた方の前記電気接続部材は、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、
前記第二の被覆部側に設けられた方の前記電気接続部材は、該防水構造を備えていない、請求項
6に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線において、長手軸方向の中途部に止水処理が施される場合がある。この際、絶縁被覆を除去して導体を露出させた露出部において、導体を構成する素線の間に止水剤を充填することで、止水部を形成することができる。この場合の止水部の構造の一例を、
図3に絶縁電線1’の断面図にて示すが、特許文献1,2にも記載されるように、止水剤5によって止水部4’を露出部10’の全域に形成し、さらに、露出部10’の両側の、絶縁被覆3が導体2を被覆している被覆部20’まで、連続的に止水剤5で覆うようにすることで、止水剤5によって、絶縁電線1’の内部での水の移動を抑制する止水性能とともに、外部からの絶縁電線1’への水の侵入を抑制する防水性能を、付与することができる。この場合に、止水剤5は、被覆部20’の端部において、導体2を構成する素線の間の空間、および絶縁被覆3の外周域に加え、絶縁被覆3と導体2の間の領域にも、充填されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第10 2011 083 952号明細書
【文献】特開2013-97922号公報
【文献】特開2000-11771号公報
【文献】特表2014-519137号公報
【文献】実開昭53-14169号公報
【文献】特開2007-226999号公報
【文献】特開2008-117616号公報
【文献】特開2016-225112号公報
【文献】国際公開第2007/013589号
【文献】特開2007-317480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載されるように、止水部4’を、露出部10’の全域、さらに露出部10’の両端の被覆部20’にわたる領域にまで連続的に形成することにより、被覆部20’と露出部10’の境界部から被覆部20’の内部に、水が侵入するのを高度に抑制し、高い防水性を発揮することができる。そのように、被覆部20’の端部において、導体2を構成する素線の間や、絶縁被覆3と導体2の間の領域に止水剤5が充填された構造は、導体2の素線間における高い止水性に加え、被覆部20’の内部の領域に対して、高い防水性を示すものとなり、特に、外部から被覆部20’の内部への水の侵入を高度に防止する必要がある場合等には、適したものとなる。一方で、何らかの原因により、被覆部20’の内部に水が侵入する可能性がある状況においては、被覆部20’の端部において、導体2を構成する素線の間、および絶縁被覆3と導体2の間に止水剤5が充填された構造を適用することにより、被覆部20’の内部に一旦侵入してしまった水が、被覆部20’から脱出しにくくなる場合がある。
【0005】
例えば、絶縁電線1’の両端に、他の機器に接続可能な電気接続部材が設けられる場合に、一方(例えば
図3の左側)の電気接続部材には、外部からの水の侵入を抑制する防水構造が備えられるが、他方(
図3の右側)の電気接続部材には、そのような防水構造が備えられず、非防水構造とされる形態がある。この場合に、絶縁電線1’の中途部に、止水部4’を形成し、導体2の素線間の空間に止水剤5を充填しておけば、非防水側の電気接続部材に接触した水Wが、被覆部20’の内部に侵入し、素線間の空間を伝って、非防水側の被覆部20’の内部を移動したとしても、その水Wは、素線間に止水剤5が充填された止水部4’を越えて移動することはできない。よって、防水構造を備えた側の電気接続部材、さらにはその電気接続部材が接続された機器にまで、水Wが移動して影響を与えるのを、防止することができる。
【0006】
しかし、
図3の構造では、非防水側および防水側の両方において、被覆部20’の一部を含む領域にわたって止水部4’が形成されており、被覆部20’の端部において、導体2を構成する素線の間、および絶縁被覆3と導体2の間の領域に止水剤5が充填されていることにより、非防水側の電気接続部材を介して、非防水側(右側)の被覆部20’の内部に侵入した水Wは、その被覆部20’の端部全体を閉塞する止水剤5によって移動を阻まれ、被覆部20’と露出部10’の間の境界部から、脱出することができない。水Wの脱出経路は、被覆部20’に入った時と逆の、非防水側の電気接続部材を介した経路しか存在しないことになり、一旦被覆部20’に侵入した水Wは、絶縁被覆3と止水剤5に囲まれた領域から、除去されにくい。すると、水Wは、被覆部20’の内部に、長期にわたって留まる可能性がある。このように、止水部4’を、露出部10’の両側の被覆部20’を含む領域に連続的に形成して、防水性を高めた構造は、露出部10’と被覆部20’の間の境界の箇所からの水の侵入を防ぐという点においては高い効果を発揮するものの、非防水の電気接続部材等、他の箇所から被覆部20’への水の侵入が想定される場合等には、かえって適用が難しくなることがある。
【0007】
そこで、高い止水性能を有するとともに、内部に水が侵入することがあっても、その水が内部に留まりにくくなった絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の絶縁電線は、金属材料の素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある第一の被覆部および第二の被覆部とを、前記絶縁電線の長手軸方向に沿って、前記第一の被覆部、前記露出部、前記第二の被覆部の順に隣接させて有し、さらに、少なくとも、前記露出部の一部から前記第一の被覆部の一部にわたる領域に、前記素線の間に止水剤が充填された止水部を有し、前記第二の被覆部において、前記露出部に隣接する部位は、前記素線の間、および前記導体と前記絶縁被覆との間の少なくとも一方に空隙を有する、非防水端となっている。
【0009】
本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を有し、前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部材を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本開示にかかる絶縁電線は、高い止水性能を有するとともに、内部に水が侵入することがあっても、その水が内部に留まりにくくなる。また本開示にかかるワイヤーハーネスは、そのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線を示す側面図である。
【
図2】
図2は、露出部の一端側が防水端、他端側が非防水端となった上記絶縁電線の断面を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、露出部の両端が防水端となった絶縁電線の断面を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、素線に接触した気泡を止水剤の中に有さない止水部を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを、両端に接続される機器とともに示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0013】
本開示にかかる絶縁電線は、金属材料の素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある第一の被覆部および第二の被覆部とを、前記絶縁電線の長手軸方向に沿って、前記第一の被覆部、前記露出部、前記第二の被覆部の順に隣接させて有し、さらに、少なくとも、前記露出部の一部から前記第一の被覆部の一部にわたる領域に、前記素線の間に止水剤が充填された止水部を有し、前記第二の被覆部において、前記露出部に隣接する部位は、前記素線の間、および前記導体と前記絶縁被覆との間の少なくとも一方に空隙を有する、非防水端となっている。
【0014】
上記絶縁電線においては、露出部において、導体を構成する素線の間に止水剤が充填されているため、素線間の空間への水の侵入、また素線間の空間を伝った水の移動を、効果的に抑制し、高い止水性能を発揮することができる。そして、露出部の両側に設けられた被覆部のうち、第二の被覆部において、露出部に隣接する部位が、素線の間、および導体と絶縁被覆との間の少なくとも一方に空隙を有する、非防水端となっている。よって、第二の被覆部の中に、何らかの原因で水が侵入することがあっても、その水は、非防水端に設けられた空隙から流出または揮発することで、第二の被覆部の内部から外部へと脱出することができる。その結果、第二の被覆部に侵入した水が、第二の被覆部の中に長期にわたって留まりにくくなり、絶縁電線を長期の水との接触から保護することができる。
【0015】
このように、止水部において、素線の間に止水剤を充填するとともに、露出部に隣接した2つの被覆部のうち、第二の被覆部の端部を、非防水端としておくことにより、万一、第二の被覆部の内部に水が侵入することがあっても、その水が、素線間の空間を伝って、第一の被覆部に水が移動することを抑制しながら、第二の被覆部側でその水の排出を促進することができる。よって、例えば、絶縁電線を、第二の被覆部側で、非防水性の機器に接続するとともに、第一の被覆部側で、防水性の機器に接続した状態で、好適に使用することができる。
【0016】
ここで、前記第二の被覆部は、前記空隙を、前記導体と前記絶縁被覆との間に有するとよい。すると、第二の被覆部側で絶縁電線に侵入した水の排出を特に効果的に促進することができる。
【0017】
前記第一の被覆部において、前記露出部に隣接する部位は、前記導体と前記絶縁被覆との間に前記止水剤が充填された、防水端となっているとよい。すると、第一の被覆部に、露出部との境界部から水が侵入することが抑制され、第一の被覆部側において、特に高い防水性が得られる。
【0018】
この場合に、前記防水端においては、前記絶縁被覆と前記導体との間に充填された前記止水剤と連続して、前記絶縁被覆の外周が、前記止水剤に被覆されており、前記非防水端においては、前記絶縁被覆の外周が、前記止水剤に被覆されていないとともに、前記露出部のうち、前記非防水端に隣接する箇所に、前記導体の外周に前記止水剤が配置されない区間が存在するとよい。すると、防水端が設けられた第一の被覆部側においては、絶縁被覆の外周が止水剤に被覆されることにより、絶縁被覆の外側から第一の被覆部内への水の侵入を、高度に抑制することができる。一方、非防水端が設けられた第二の被覆部側においては、絶縁被覆の外周を止水剤で被覆しないようにすること、また露出部のうち、第二の被覆部に隣接する箇所にも、導体の外周が止水剤で被覆されない区間を設けることで、絶縁被覆と導体との間に止水剤が充填されない空隙を、確実に形成しやすくなる。
【0019】
前記第二の被覆部においては、前記露出部に隣接する前記非防水端の領域において、前記露出部から離れた遠隔域に比べて、前記導体の外径が小さくなっているとよい。すると、第二の被覆部の非防水端において、外径が小さくなった導体と絶縁被覆の間に、距離を確保して、十分な大きさの空隙を形成しやすくなる。
【0020】
前記導体の外径が、前記露出部において、前記遠隔域よりも小さくなっているとよい。すると、露出部において、素線の間の間隔が狭くなり、素線の間の空間に止水剤を保持しやすくなる。また、露出部と連続する被覆部の端部においても、導体の外径を小さくしやすくなり、その結果、第二の被覆部の端部に設けられた非防水部において、導体と被覆部の間に、十分な大きさの空隙を、一層形成しやすくなる。絶縁電線に止水部を形成する際に、止水剤を素線間の空間に充填してから、導体を捻るようにして撚りを緊密化することにより、露出部、および両被覆部の端部において、遠隔域よりも導体の径が小さくなった状態を、簡便に形成することができる。
【0021】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を有し、前記絶縁電線の両端に、それぞれ、他の機器に接続可能な電気接続部材を備えている。
【0022】
本ワイヤーハーネスは、両端に電気接続部材が設けられた絶縁電線の中途部に、止水部が形成されている。そして、その止水部が設けられた露出部を挟んで一方側の第二の被覆部の端部が、非防水端となっている。そのため、電気接続部材等を介して、第二の被覆部の内部に水が侵入することがあっても、その水が、第一の被覆部側に移動することが、止水部の存在によって抑制され、高い止水性能を有するワイヤーハーネスとなる。一方、第二の被覆部側から侵入した水は、非防水端に設けられた空隙から脱出することができ、ワイヤーハーネスの内部に長期間にわたって留まりにくくなっている。その結果、第一の被覆部側でワイヤーハーネスに接続された機器を、水の影響から高度に保護するとともに、第二の被覆部側でも、ワイヤーハーネス自体や、接続された機器を、長期間にわたる水との接触から、保護することができる。
【0023】
前記第一の被覆部側に設けられた方の前記電気接続部材は、外部からの水の侵入を抑制する防水構造を備え、前記第二の被覆部側に設けられた方の前記電気接続部材は、該防水構造を備えていないとよい。すると、第二の被覆部側に設けられた防水構造を備えていない方の電気接続部材に水が侵入することがあっても、その水が、第二の被覆部側から第一の被覆部側へと、絶縁電線を構成する導体を伝って、第一の被覆部側に設けられた防水構造を備えた方の電気接続部材、およびその電気接続部材に接続された機器に侵入するのを、効果的に抑制することができる。そのため、第一の被覆部側に設けられた電気接続部材に形成された防水構造による防水性能の有効性を高め、その電気接続部材が接続された機器を、水の侵入から高度に保護することができる。一方、第二の被覆部側に設けられた防水構造を備えていない方の電気接続部材から侵入した水は、第二の被覆部と露出部の境界の非防水端に設けられた空隙を介して、絶縁電線の外部に脱出することができる。よって、第二の被覆部側において、絶縁電線自体や電気接続部材、さらには接続された機器が、長期間にわたる水との接触によって腐食等の影響を受けるのを、抑制することができる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスについて、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、「止水」とは、絶縁電線の内部で、長手軸方向に沿って、ある箇所から他の箇所へと、水が移動するのを、防止または抑制することを指す。一方、「防水」とは、絶縁電線の内部に、外部から水が侵入するのを、防止または抑制することを指す。また、本明細書において、「水」と称する場合に、電解質等、水以外の液体である場合も含みうるものとする。
【0025】
(絶縁電線)
(1)全体の構造
図1,2に、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線1の概略を示す。絶縁電線1は、金属材料の素線2aが複数撚り合わせられた導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有している。そして、絶縁電線1の長手軸方向の中途部に、止水部4が形成されている。
図2では、素線2aを省略した模式図にて、絶縁電線1の断面を表示している。
【0026】
導体2を構成する素線2aは、いかなる導電性材料よりなってもよいが、絶縁電線の導体の材料としては、銅を用いることが一般的である。銅以外にも、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための他の金属材料としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの金属の組み合わせなどが挙げられる。全ての素線2aが同じ金属材料よりなっても、複数の金属材料よりなる素線2aが混合されてもよい。
【0027】
導体2における素線2aの撚り合わせ構造は、特に指定されないが、止水部4を形成する際に、素線2aの間に空間を確保して、止水剤5を充填しやすくする等の観点からは、単純な撚り合わせ構造を有していることが好ましい。例えば、複数の素線2aを撚り合わせてなる撚線を複数集合させて、さらに撚り合わせる親子撚構造よりも、全ての素線2aを一括して撚り合わせた構造とする方が良い。また、導体2全体や各素線2aの径も特に指定されるものではないが、導体2全体および各素線2aの径が小さい場合ほど、止水部4において、素線2aの間の微細な隙間に止水剤5を充填して止水の信頼性を高めることの効果および意義が大きくなるので、おおむね、導体断面積を8mm2以下、素線径を0.45mm以下とするとよい。
【0028】
絶縁被覆3を構成する材料も、絶縁性の高分子材料であれば、特に指定されるものではなく、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、高分子材料に加えて、適宜フィラーや添加剤を含有してもよい。さらに、高分子材料は架橋されていてもよい。
【0029】
止水部4が形成された領域には、絶縁被覆3が導体2の外周から除去された露出部10が含まれている。絶縁電線1の長手方向に沿って露出部10の両側は、絶縁被覆3が前記導体2の外周を被覆した状態にある被覆部20a,20bとなっている。2つの被覆部20a,20bは、露出部に隣接する部位(E1,E2)の構造を除いて、同様に構成されているが、以下、一方を、防水側被覆部(第一の被覆部)20aと称し、他方を、非防水側被覆部(第二の被覆部)20bと称する。絶縁電線1の長手方向軸に沿って、防水側被覆部20a、露出部10、非防水側被覆部20bの順に、各部が隣接して形成されていることになる。
【0030】
止水部4においては、少なくとも、露出部10の一部と、防水側被覆部20aの一部を含む領域を占めて、導体2を構成する素線2aの間に、止水剤5が充填されている。さらに、止水剤5は、露出部10の素線2aの間に充填された部位と連続して、露出部10の導体2の外周も被覆していることが好ましい。なお、
図2および後に説明する
図3において、止水剤5が充填、配置された領域は、ドットパターンにて表示している。
【0031】
防水側被覆部20aにおいては、露出部10に隣接する端部を含む一部の領域が、防水性を示す防水端E1となっている。一方、非防水側被覆部20bにおいては、露出部10に隣接する端部を含む領域が、防水性を示さない非防水端E2となっている。防水端E1および非防水端E2の構造の詳細については、後に説明するが、止水部4は、防水側被覆部20aの防水端E1と非防水側被覆部20bの非防水端E2の間の、絶縁電線1の長手方向に沿って連続した領域を占めて、一体に形成されている。ただし、防水側被覆部20aの端部を含む領域として設けられた防水端E1においては、止水剤5が、素線2aの間に充填されているものの、非防水側被覆部20bの端部を含む領域として設けられた非防水端E2においては、素線2aの間、および導体2と絶縁被覆3の間の少なくとも一方に、止水剤5に占められていない空隙31が残されている。
【0032】
図2に示した形態では、防水端E1においては、止水剤5が、防水側被覆部20aの外周域、また絶縁被覆3に囲まれた内部に存在する空間の各所、つまり素線2aの間の領域および導体2と絶縁被覆3の間の領域に、配置されている。一方、非防水端E2においては、素線2aの間には止水剤5が充填されているが、導体2と絶縁被覆3の間には、止水剤5が充填されず、空隙31が残されている。後に、ワイヤーハーネス6について詳細に説明するように、本実施形態にかかる絶縁電線1において、防水端E1を有する防水側被覆部20aには、防水構造を有する接続部材や機器等、防水が要求される構造を設置または接続する一方、非防水端E2を有する非防水側被覆部20bには、防水構造を有さない接続部材や機器等、水との接触が想定された非防水の構造を設置または接続することが好ましい。
【0033】
露出部10においては、導体径(導体2全体としての外径)が、両端の被覆部20a,20bのうち、露出部10に隣接した隣接域21から離れた領域である遠隔域22における導体径よりも、小さくなっていることが好ましい。また、露出部10において、被覆部20a,20bの遠隔域22よりも、素線2aの撚りピッチが小さくなっており、また素線2aの間隔が狭くなっていることが好ましい。これらの場合には、露出部10において、止水剤5を、素線2aの間の空間に密に充填した状態で、保持しやすくなる。また、後に説明するように、露出部10に隣接する非防水端E2に、十分な大きさの空隙31を形成しやすくなる。さらに、露出部10においては、被覆部20a,20bの遠隔域22よりも、導体2の密度(単位長さ当たりの導電性材料の密度)が、高くなっていることが好ましい。すると、露出部10において、素線2aの間に十分な空間を確保し、止水剤5を均一性高く充填しやすくなる。
【0034】
止水剤5を構成する材料は、水を容易に透過させず、止水性を発揮することのできる樹脂組成物であれば、特に限定されないが、流動性の高い状態で素線2aの間の空間に均一に止水剤5を充填しやすい等の理由で、熱可塑性樹脂組成物、または硬化性樹脂組成物よりなることが好ましい。それらの樹脂組成物を、流動性の高い状態で、素線2aの間や、露出部10および防水側被覆部20aの端部の外周(外周域)に配置した後、流動性の低い状態とすることで、止水性能および防水性能に優れた止水部4を、安定して形成することができる。中でも、止水剤5として、硬化性樹脂を用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性、嫌気硬化性等の硬化性をいずれか1つまたは複数有するものであるとよい。特に、素線2aの間の空間や、露出部10および防水側被覆部20aの端部の外周域に配置した止水剤5を短時間で硬化させ、止水剤5の分布の均一性に優れた止水部4を形成する観点から、止水剤5を構成する樹脂組成物は、光硬化性、特に紫外線硬化性を有することが好ましい。さらに、素線2aの表面に密着して硬化させる観点から、止水剤5を構成する樹脂組成物は、嫌気硬化性、つまり酸素分子を遮断された状態で金属に接触すると硬化する特性を有することが好ましい。
【0035】
止水剤5を構成する具体的な樹脂種は、特に限定されるものではない。シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を例示することができる。これらの樹脂材料には、適宜、止水剤5としての樹脂材料の特性を損なわない限りにおいて、各種添加剤を添加してもよい。また、構成の簡素性の観点からは、止水剤5を1種のみ用いることが好ましいが、必要に応じて、2種以上を混合または積層等して用いてもよい。導体2を外部に対して絶縁する観点から、止水剤5は、絶縁性材料よりなることが好ましい。
【0036】
止水剤5としては、充填時の状態において、4Pa・s以上、さらには5Pa・s以上、10Pa・s以上の粘度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。素線2aの間の領域や外周域、特に外周域に、止水剤5を配置した際に、流出や垂下等を起こさずに、それらの領域に均一性の高い状態で保持されやすいからである。また、非防水端E2に、止水剤5に埋められない状態で、空隙31を確実に残しやすいからである。一方、止水剤5の充填時の粘度は、200Pa・s以下に抑えられていることが好ましい。粘度を過剰に高くしないことで、素線2aの間の領域に止水剤5を十分に浸透させやすくなるからである。
【0037】
上記のように、止水剤5が露出部10の素線2aの間の空間に充填されることで、素線2aの間の領域が止水され、素線2aの間の領域に、水が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、素線2aの間に水が侵入することがあっても、素線2aを伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の両側の端末(絶縁電線全体としての端部)のうち、非防水側被覆部20b側の端末部に付着した水が、素線2aの間の空間を、止水部4を越えて、防水側被覆部20aへと移動するのを、抑制することができる。
【0038】
止水剤5が露出部10の導体2の外周部を被覆している場合には、止水部4は、露出部10を物理的に保護する役割も果たす。加えて、止水剤5が絶縁性材料よりなる場合には、止水剤5は、露出部10の導体2を外部に対して絶縁する役割も果たす。
【0039】
なお、止水剤5に被覆された止水部4の中には、導体2および絶縁被覆3に加えて、接続部材等、別の部材を含んでもよい。別の部材を含む場合の例として、複数の絶縁電線1を接合したスプライス部を含んで、止水部4を設ける形態を挙げることができる。また、止水部4の外周には、樹脂材料等よりなるチューブやテープ等の保護材を設けてもよい。保護材の設置により、外部の物体との接触等、物理的刺激から、止水部4を保護することができる。また、止水剤5が硬化性樹脂より構成される場合等に、止水剤5が経年劣化を起こすことで、止水部4が屈曲や振動を印加された際に、止水剤5に損傷が生じる可能性があるが、止水部4の外周に保護材を設けておくことにより、そのような損傷の発生を低減することが可能となる。止水部4への曲げや振動の影響を効果的に低減する観点から、保護材は、少なくとも、止水部4を構成する止水剤5よりも、剛性の高い材料よりなることが好ましい。保護材は、例えば、接着層を有するテープ材を、止水部4を含む絶縁電線1の外周に螺旋状に巻き付けることで、配置することができる。ただし、保護材を配置する場合に、その保護材は、非防水端E2に設けられる空隙31を、液密に覆うことがないように、配置する必要がある。
【0040】
(2)防水端の構造
上記のように、露出部10の両側に設けられた被覆部20a,20bのうち、一方である防水側被覆部20aにおいては、露出部10との境界部が、防水端E1となっている。防水端E1においては、止水部4が、被覆部20aの端部の一部の領域にまで及んで、形成されている。つまり、防水端E1では、防水側被覆部20aとして絶縁被覆3に被覆された領域の内側において、素線2aの間の空間に、止水剤5が充填されている。さらに、その素線2aの間の空間と連続して、絶縁被覆3と導体2の間の空間にも、止水剤5が充填されていることが好ましい。それら素線2aの間の空間、および絶縁被覆3と導体2の間の空間と連続して、絶縁被覆3の外周を被覆して、止水剤5が配置されていると、一層好ましい。
【0041】
防水端E1においては、素線2aの間の領域が、露出部10の素線2aの間の領域から連続して、止水剤5で閉塞されていることにより、止水部4を挟んだ非防水側被覆部20bにおいて、素線2a間の領域に、水が侵入することがあっても、その水が、素線2aを伝って、防水側被覆部20aの内部に侵入する事態が、起こりにくくなっている。よって、防水側被覆部20aにおいて、高い止水性能を得ることができる。
【0042】
防水端E1において、素線2aの間の領域に加え、絶縁被覆3と導体2の間の領域も、止水剤5で閉塞されている場合には、止水性能がさらに高くなる。その場合にはさらに、防水端E1またはその近傍に外部から水が接触することがあっても、その水が、防水側被覆部20aの絶縁被覆3と導体2の間の空間に、侵入することができない。よって、防水側被覆部20aにおいて、高い防水性を得ることができる。さらに、防水端E1において、絶縁被覆3の外周を被覆する領域にも止水剤5が配置されていれば、防水側被覆部20aへの水の侵入を一層高度に抑制し、防水性を高めることができる。
【0043】
上記のように、素線2aの間の空間への止水剤5の保持の効率等の観点から、露出部10において、導体径を被覆部20a,20bの遠隔域22よりも小さくすることが好ましく、この場合には、防水側被覆部20aのうち、露出部10に隣接した隣接域21においても、導体径が、遠隔域22より小さくなりやすい。すると、隣接域21において、遠隔域22と比較して、絶縁被覆3と導体2の間の距離が大きくなり、隙間が生じやすい。しかし、防水側被覆部20aの端部においては、その隙間にも、止水剤5が充填しておくとよい。
【0044】
(3)非防水端の構造
露出部10を挟んで、一方側の被覆部である防水側被覆部20aの端部は、上記のような防水端E1となっているが、他方側の被覆部である非防水側被覆部20bの端部は、非防水端E2となっている。非防水端E2では、素線2aの間、および絶縁被覆3と導体2との間の少なくとも一方の箇所に、止水剤5が充填されておらず、止水剤5に占められない空間として、空隙31が形成されている。空隙31は、止水部4の外部の空間(止水剤5または絶縁被覆3に閉塞または包囲された領域の外部の空間)、および非防水側被覆部20bのうち非防水端E2を除く領域に形成された、止水剤5が充填されていない素線2aの間の空間と、連通しており、それらの空間との間で、液体および気体を流通させることができる。
【0045】
非防水側被覆部20bにおいては、非防水端E2となった端部において、素線2aの間、および絶縁被覆3と導体2の間の少なくとも一方の領域に、空隙31が確実に形成されていれば、それらの領域のいずれに、空隙31が形成されていてもよい。
図2に示した形態においては、素線2aの間の空間に関しては、露出部10と非防水側被覆部20bとの境界の位置まで達して、止水剤5が充填されており、空隙31が形成されにくい。しかし、絶縁被覆3と導体2の間に、空隙31が確保されている。絶縁被覆3と導体2の間に空隙31を設けることで、大きな空隙31を形成しやすいため、外部の空間との連通性を確保しやすい。しかし、非防水側被覆部20bにおいて、空隙31と、非防水端E2を除く領域における素線2a間の空間との連通性を確保する観点からは、非防水端E2において、素線2aの間の領域にも、止水剤5が充填されない空隙31を残す方が好ましい。
【0046】
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、少なくとも、露出部10の一部と防水側被覆部
20aの一部を含む領域にわたって、素線2aの間に止水剤が充填されており、さらに、防水端E2において、素線2aの間、および絶縁被覆3と導体2の間の少なくとも一方の領域に、止水剤5に占められない空隙31が残されていれば、止水部4において、止水剤5がどのように配置されていても構わない。
図2に示した形態では、防水端E2を含む非防水側被覆部20bにおいて、絶縁被覆3の外周域には、止水剤5が配置されていない。被覆部20bの外周域にも止水剤5を配置するとすれば、絶縁被覆3と導体2の間に空隙31を形成したとしても、外周域の止水剤5の層に覆われるようにして、その空隙31の開口部が閉鎖され、外部の空間との連通性が確保されなくなる可能性が高まる。よって、防水端E2を含む非防水側被覆部20bの外周域には、止水剤5が配置されない方が好ましい。さらに、同様の理由により、露出部10のうち、非防水端E2側に隣接する部位に、導体2の外周域に止水剤5が配置されない導体非防水区間Sが設けられているとよい。その導体非防水区間Sにおいて、素線2aの間の領域にも、止水剤5を配置しないようにすれば、つまり、導体非防水区間Sには、位置を問わず止水剤5を配置しないようにすれば、非防水端E2において、絶縁被覆3と導体2の間に加え、素線2aの間にも、十分な大きさの空隙31を残しやすくなる。
【0047】
本実施形態にかかる絶縁電線1においては、非防水側被覆部20bが、止水剤5に占められない空隙31を残した非防水端E2として形成されているため、何らかの原因により、絶縁電線1の全体としての端末等から、非防水側被覆部20bの内部、つまり非防水側被覆部20bにおける絶縁被覆3と導体2の間の領域や、素線2aの間の領域に、水Wが侵入することがあったとしても、その水Wは、
図2中に矢印で表示するように、絶縁被覆3の内側の空間を移動して、非防水端E2に到達し、さらに、空隙31を通って、絶縁電線1の外部の空間に脱出することができる。空隙31からの水Wの脱出形態としては、液体状での流出、あるいは気体状になっての揮発がありうる。このように、空隙31を介して水Wが脱出できる経路が確保されていることにより、非防水側被覆部20bに水Wが侵入することがあっても、その水Wが、長期にわたって、非防水側被覆部20bの内部に留まることは、起こりにくい。
【0048】
その結果、導体2の腐食等、絶縁電線1の構成材料が、水との長期にわたる接触による影響を、受けにくくなる。さらに、非防水側被覆部20bの方の絶縁電線1の端末に設けられた端子等の電気接続部材や、その電気接続部材が接続された機器(図5参照)においても、長期にわたる水の接触による影響が、及びにくくなる。特許文献10においては、止水構造の水抜きのために、止水部材に水抜き穴を形成しているが、本実施形態にかかる絶縁電線1においては、そのように特殊な形状を有する止水部材を用いなくても、非防水側被覆部20bの絶縁被覆3と導体2の間や、素線2aの間の領域に、止水剤5が充填されない空隙31を残すという簡素な構成により、水抜きを達成することができる。
【0049】
非防水側被覆部20bにおいては、導体径が、露出部10に隣接する隣接域21において、隣接域21から離れた遠隔域22よりも、小さくなっており、その隣接域21が形成された領域が、非防水端E2となっていることが好ましい。すると、非防水端E2において、絶縁被覆3と導体2の間の間隔が大きくなり、絶縁被覆3と導体2の間に、十分な大きさの空隙31を、確保しやすくなる。上記のように、素線2aの間の空間への止水剤5の保持の効率等の観点から、露出部10において、導体径を遠隔域22よりも小さくすることが好ましく、この場合には、導体2の連続性により、被覆部20bにおいて、隣接域21の導体径も、遠隔域22よりも小さくなりやすい。つまり、露出部10における止水剤5の保持の効率の向上と、非防水端E2における十分な空隙31の確保を、同時に達成することができる。このように、露出部10と、被覆部20bの隣接域21で、連続して導体径が小さくなった構造は、後に説明するように、露出部10において素線2aの間隔を広げた状態で、素線2aの間の空間に止水剤5を充填した後、導体2の撚りを緊密化して撚りピッチを小さくする工程(再緊密化)を実施することで、簡便に形成することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態にかかる絶縁電線1においては、長手軸方向中途部に、露出部10が形成され、その露出部10に、素線2aの間の空間に止水剤5が充填された止水部4が形成されていることにより、高い止水性能が得られる。特に、止水部4を越えて、非防水側被覆部20bの方から防水側被覆部20aの方へと、素線2aの間の空間を通って水が移動するのを、高度に抑制することができる。その結果、後に示すワイヤーハーネス6のように、防水側被覆部20aの方の電線端末に設けた電気接続部材や、その電気接続部材が接続された機器を、水の影響から保護することができる。同時に、非防水端E2において、空隙31が形成されていることにより、非防水側被覆部20bの方の電線端末等から、非防水側被覆部20bの内部に水Wが侵入することがあっても、その水Wを空隙31から排出することができる。その水Wを、長期にわたって絶縁電線1の内部に留まらせないようにすることで、非防水側被覆部20bが設けられた領域において、絶縁電線1自体や電気接続部材、また電気接続部材が接続された機器を、長期にわたる水との接触から保護することができる。また、非防水端E2において、空隙31となる箇所に止水剤5を配置しないことで、防水剤5の使用量を少なく抑えることができる。露出部10の端部に、止水剤5を配置しない導体非防水区間Sを設ければ、さらに防水剤5の使用量を少なくすることができる。
【0051】
(4)露出部における止水部の断面の状態
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、露出部10の導体2を構成する素線2aの間の空間を含む領域に、止水剤5が充填されていることにより、止水性能が発揮されるが、露出部10における止水部4の断面の状態を制御することで、さらに止水性能を高めることが可能となる。以下、露出部10における止水部4の断面の好ましい状態について説明する。なお、以下においては露出部10の位置にて、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に止水部4を切断した断面について説明するが、好ましくは、防水端E1および非防水端E2から十分に離れた、露出部10の中ほどの位置における断面が、対象となる。
【0052】
図4に示すように、止水部4においては、止水剤5の表面5aに囲まれた領域において、素線2aの表面が、止水剤5または他の素線2aに接触していることが好ましい。換言すると、導体2に含まれる素線2aの表面の各領域が、止水剤5か、その素線2aに隣接する他の素線2aのいずれかと接触しており、止水剤5が欠損した箇所に空気が満たされた気泡Bや、その気泡Bに水等の液体が侵入して形成された液胞等、止水剤5および素線2aの構成材料以外の物質には接触していないことが好ましい。止水剤5は、素線2aの間の空間に、密に充填され、気泡B等を介さずに、素線2aの表面に密着しているとよい。
【0053】
当該構成とすると、気泡Bを介して素線2aの間の領域に止水部4の外から水が侵入する事態や、外力が印加された際等に、気泡Bが原因で水の侵入経路となりうる損傷が発生する事態が、起こりにくくなる。よって、止水部4において、素線2aの間の領域に水が侵入するのを、各素線2aの表面に密着した止水剤5により、特に効果的に抑制することが可能となる。また、非防水側被覆部20bの方の電線端末等、絶縁電線1のある部位において素線2aの間に侵入した水が、素線2aを伝って、防水側被覆部20a等、絶縁電線1の他の部位に移動するのも、効果的に抑制することができる。
【0054】
ここで、素線2aの表面の各領域は、止水剤5と他の素線2aのいずれに接触していてもよいが、止水剤5に接触している方が、素線2aに止水剤5が直接密着することで、その素線2aへの水の接触を、特に効果的に抑制し、高い止水性能を発揮することができる。しかし、素線2aの表面が他の素線2aに接触する場合でも、隣接する2本の素線2aが接触した接触界面に、水が侵入することができず、十分に高い止水性能を確保することができる。素線2aに接触する気泡Bが形成されていないことで、隣接する素線2aの位置関係のずれも起こりにくく、隣接する素線2aの間の接触界面に水が侵入できない状態が、維持される。
【0055】
止水部4の断面には、素線2aに接触した気泡B以外に、素線2aには接触せず、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが形成される場合がある。理想的は、止水剤5の表面5aに囲まれた領域に、どのような種類の気泡Bも含まれていない形態が好ましいが、素線2aに接触した気泡Bでなければ、気泡Bが存在していても、止水部4の止水性能を大きく低下させるものとはならない。例えば、導体2が占める領域よりも外側に、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが存在していてもよい。
図4に示した形態でも、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが、導体2の外側の領域に存在している。
【0056】
なお、上記のように、素線2aに接触した気泡Bは、止水性能の低下の要因となるが、要求される止水性能の水準が低い場合等には、素線2aに接触した気泡Bが、少量であれば、また小さいものであれば、存在していても、絶縁電線1の止水性能および防水性能に大きな影響を与えない場合もある。例えば、止水部4の断面において、素線2aに接触した気泡Bの断面積の合計が、素線2aの断面積の合計に対して、5%以下であるとよい。また、素線2aに接触した気泡Bのそれぞれの断面積が、1本の素線2aの断面積に対して、80%以下であるとよい。一方、止水剤5に全周を囲まれ、素線2aには接触していない気泡Bであっても、素線2aに近接していると、止水部4の止水性能に影響を及ぼす場合がある。そこで、気泡Bと素線2aの間には、素線2aの線径の30%以上の間隔が保持され、その間隔の間に、止水剤5が充填されているとよい。
【0057】
さらに、止水部4の断面においては、導体2の外周部に位置する素線2aが、それよりも内側に位置する素線2aよりも、扁平な形状を有していることが好ましい。
図4でも、導体2の外周部に位置する素線2a1が、略楕円径の扁平な断面を有している。それら導体2の外周部に位置する素線2a1よりも内側に位置する素線2a2は、扁平度の低い断面を有している。なお、各素線2a自体の軸線方向に垂直な断面は、略円形であり、止水部4における扁平な断面形状は、素線2a自体の断面形状ではなく、下に説明するように、導体2中での素線2aの配置によって生じるものである。
【0058】
導体2を構成する素線2aが、比較的傾斜角の小さい緩やかな螺旋状に撚り合わせられている場合には、各素線2aの軸線方向が、絶縁電線1の長手軸方向に近い方向に延びているので、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面において、素線2aの断面は、円形に近い扁平度の低いものとなる。しかし、導体2を構成する素線2aが、比較的傾斜角の大きい急な螺旋状に撚り合わせられている場合には、各素線2aの軸線方向が、絶縁電線1の長手軸方向に対して、大きく傾斜した方向に延びているので、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した際に、各素線2aの軸線方向に対して斜めに切断することになる。よって、素線2aの断面は、楕円形に近似できる扁平なものとなる。これらのことから、上記のように、止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1が、それよりも内側に位置する素線2a2よりも扁平な形状を有しているということは、導体2の外周部に位置する素線2a1の方が、内側の素線2a2よりも、傾斜角の大きい急な螺旋状に撚られていることを意味する。
【0059】
上記のように、止水剤5を流動性の高い状態で素線2aの間の領域に充填した後、流動性を下げることで、止水部4を形成することができるが、流動性の高い状態の止水剤5を素線2aの間の空間に充填した状態で、導体2の外周部に位置する素線2a1を、傾斜角の大きい急な螺旋状に撚った状態としておくことで、充填された止水剤5が、導体2の外部への流出や漏出を起こしにくくなり、素線2aの間の領域に均一性高く充填された状態に留まりやすい。その結果、素線2aの間に十分な量の止水剤5が充填され、高い止水性能を示す止水部4を形成しやすくなる。特に、後に絶縁電線1の製造方法として説明するように、被覆部20a,20bから露出部10へと素線2aを繰り出しながら、露出部10における素線2aの間隔を広げた状態で、素線2aの間の空間に止水剤5を充填するとともに、充填後に露出部10における素線2aの間隔を狭めて撚りピッチを小さくする(再緊密化)、という製造方法をとる場合には、導体2の外周部の素線2a1の断面形状が扁平になりやすく、素線2aの間の空間に止水剤5を保持しやすくする効果に優れる。このように、導体2の外周部に位置する素線2a1の断面形状が扁平になっていることは、高い止水性能を示す止水部4を形成するうえで、指標の1つとなる。さらに、上記のように、露出部10において、素線2aの間の領域に、止水剤5を充填した後に、露出部10における導体2の撚りを再緊密化することで、非防水側被覆部20bの端部において、導体2の径を小さくし、絶縁被覆3との間に空隙31を形成しやすくなるので、導体2の外周部に位置する素線2a1の断面形状が扁平になっていることは、止水部4の高止水性能の指標となると同時に、間接的に、十分な空隙31の確保による水の排出促進の指標ともなる。
【0060】
素線2aの断面形状が扁平となっている程度を評価する具体的な指標として、楕円率を用いることができる。楕円率は、断面形状において、短軸の長さ(短径)を長軸の長さ(長径)で除したものである(短径/長径)。楕円率の値が小さいほど、断面形状が扁平であることを示す。止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率が、それよりも内側に位置する素線2a2の楕円率よりも小さな値をとることが好ましい。さらに、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率は、0.95以下であることが好ましい。すると、上記のように、素線2aの間に十分な量の止水剤5を保持し、高い止水性能を有する止水部4を構成する効果に優れる。一方、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率は、0.50以上であることが好ましい。すると、上記のような止水性能向上の効果を飽和させない範囲で、導体2の外周部の素線2a1と内側部分の素線2a2の間での実長の差を、小さく抑えることができる。
【0061】
止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率が、それよりも内側に位置する素線2a2の楕円率よりも小さくなっていることに加え、それら止水部4の断面における素線2a1,2a2の楕円率、特に外周部に位置する素線2a1の楕円率が、被覆部20a,20b(特に遠隔域22)を絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線2aの楕円率よりも小さくなっていることが好ましい。このことは、素線2aの撚りピッチが、止水部4を構成する露出部10において、被覆部20a,20bにおけるよりも小さくなっていることを示すものとなる。上記のように、露出部10における素線2aの間隔を広げた状態で、素線2aの間の空間に止水剤5を充填するとともに、充填後に露出部10における素線2aの間隔を狭めて撚りピッチを小さくする(再緊密化)、という製造方法をとる場合に、素線2aの間の空間に止水剤5を保持しやすくする効果に優れるが、再緊密化工程において、露出部10における素線2aの撚りピッチを、被覆部20a,20bにおける撚りピッチよりも狭めることで、止水剤5を素線2aの間の空間に保持する効果が、特に高くなる。よって、断面における素線2aの楕円率が、露出部10において、被覆部20a,20bよりも小さくなっていることも、高い止水性能を示す止水部4を形成するうえで、良い指標となる。
【0062】
さらに、止水部4において、素線2aの間の空間に十分な量の止水剤5が充填されているかを評価する指標として、止水剤充填率を用いることができる。止水剤充填率は、止水部4の断面において、導体2に囲まれた領域の面積(A0)に占める、素線2aの間に止水剤5が充填された領域の面積(A1)の割合として定義される(A1/A0×100%)。例えば、止水部4の断面において、導体2の外周部の素線2a1の中心を結んだ多角形の領域の面積(A0)を基準として、その領域の中で止水剤5が充填された領域の面積(A1)の割合として、止水剤充填率を求めることができる。例えば、この止水剤充填率が5%以上、さらには10%以上であれば、止水性能の確保に十分な量の止水剤5が素線2aの間の空間に充填されていると言える。一方、過剰量の止水剤5の使用を避ける観点から、止水剤充填率は、90%以下に抑えておくことが好ましい。
【0063】
また、上記のように、素線2aの表面は、気泡Bに接触していないことが好ましく、止水剤5に接触していても、他の素線2aに接触していてもよいが、止水剤5に接触している方が、高い止水性能を確保しやすい。この観点から、止水部4の断面で、素線2aの周において、気泡Bや隣接する素線2aではなく止水剤5に接触している部位の長さの合計が、全素線2aの周長の合計のうち、80%以上であることが好ましい。また、隣接する素線2aの間隔が十分に空いている方が、素線2aの間の空間に止水剤5を充填しやすいため、止水部4の断面において、止水剤5に占められ、かつ隣接する素線2aとの間隔が、素線2aの外径の30%以上である箇所が、存在しているとよい。
【0064】
(ワイヤーハーネス)
次に、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスについて説明する。
図5に、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス6を示す。ワイヤーハーネス6は、上記で説明した本開示の実施形態にかかる絶縁電線1を備えている。ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の両端には、それぞれ、コネクタ等、他の機器U1,U2に接続可能な電気接続部材61,63が設けられている。ワイヤーハーネス6は、上記実施形態にかかる絶縁電線1に加えて、他種の絶縁電線をともに含むものであってもよい(不図示)。
【0065】
ワイヤーハーネス6において、絶縁電線1の両端に設けられる電気接続部材61,63、およびそれら電気接続部材61,63が接続される機器U1,U2の種類は、どのようなものであってもよい。しかし、止水部4による止水性能を有効に利用する観点から、絶縁電線1の一端が防水されており、他端が防水されていない形態を、好適な例として挙げることができる。
【0066】
具体的には、
図5に示すように、ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の中途部に、導体2が露出された露出部10が形成され、さらにその露出部10を含む領域に、止水剤5が充填された止水部4が形成されている。そして、絶縁電線1の両端末のうち、止水部4を挟んで、防水側被覆部20aの方の電線端末には、外部からの水の侵入を抑制する防水構造62を備えた、防水接続部材61が形成されている。防水構造62としては、例えば、防水接続部材61を構成するコネクタにおいて、コネクタハウジングとコネクタ端子の間の空間を封止するゴム栓が設けられている。防水構造62が設けられていることにより、防水接続部材61の表面等に水が付着することがあっても、その水は、防水接続部材61の内部に侵入しにくい。つまり、防水側被覆部20aの内部には、水が侵入しにくくなっている。一方、止水部4を挟んで、非防水側被覆部20bの方の電線端末には、防水接続部材61に設けられているような防水構造を有さない、非防水接続部材63が設けられている。よって、非防水接続部材63の表面等に水が付着すると、その水が非防水接続部材63の内部に侵入できる可能性がある。その水はさらに、非防水側被覆部20bの内部に侵入できる可能性がある。
【0067】
絶縁電線1の両端に電気接続部材61,63を有するワイヤーハーネス6は、2つの機器U1,U2の間を電気的に接続するのに用いることができる。例えば、防水構造62を有する防水接続部材61が接続される第一の機器U1として、電気制御装置(ECU)等、防水が要求される機器を適用すればよい。一方、防水構造を有さない非防水接続部材63が接続される第二の機器U2として、防水の必要のない機器を適用すればよい。
【0068】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1が止水部4を有することにより、ワイヤーハーネス6の外部から侵入した水が、導体2を構成する素線2aを伝って移動することがあっても、絶縁電線1に沿った水の移動が、止水部4を越えて進行するのを、抑制することができる。つまり、外部から侵入した水が、止水部4を越えて移動して、両端の電気接続部材61,63に達し、さらには電気接続部材61,63に接続された機器U1,U2に侵入するのを、抑制することができる。例えば、防水構造を有していない非防水接続部材63の表面に付着した水が、非防水接続部材63の内部に侵入し、非防水側被覆部20bの導体2を構成する素線2aを伝って、絶縁電線1に沿って移動することがあっても、その水の移動は、止水部4に充填された止水剤5によって、阻止される。その結果、水は、止水部4を越えて、防水接続部材61が設けられた防水側被覆部20aの方に移動することができず、防水接続部材61および第一の機器U1に侵入することができない。このように、止水部4によって水の移動を抑制することで、防水構造62による防水接続部材61および機器U1に対する防水性を、有効に利用することが可能となる。
【0069】
絶縁電線1に設けられた止水部4によって、水の移動を抑制する効果は、水が付着した箇所や水が付着した原因、また水の付着が起こった時やその後の環境を問わず、発揮される。例えば、ワイヤーハーネス6を自動車に設けた場合等に、非防水接続部材63から、素線2aの間の空間等、非防水側被覆部20bの内部に侵入した水が、毛管現象や冷熱呼吸現象によって、防水側被覆部20aに移動し、さらに防水構造62を有する防水接続部材61および第一の機器U1に侵入するのを、効果的に抑制することができる。冷熱呼吸現象とは、自動車の走行等に伴って、防水構造62を有する防水接続部材61および第一の機器U1が加熱された後、放冷された際に、絶縁電線1に沿って、防水接続部材61側が低圧で、非防水接続部材63側が相対的に高圧となった圧力差が生じることで、非防水接続部材63に付着した水が、防水接続部材61および第一の機器U1の方へと引き上げられる現象である。
【0070】
さらに、絶縁電線1に止水部4が形成された箇所において、非防水側被覆部20bと露出部10との境界部に、止水剤5が充填されない空隙31が形成されていることにより、非防水接続部材63の表面に付着した水が、非防水側被覆部20bの内部に侵入することがあっても、その水が、非防水側被覆部20bの一端に接続された非防水接続部材63の箇所のみならず、他端に設けられた空隙31からも、流出や揮発により、脱出することができる。特に、毛管現象や冷熱呼吸現象によって、非防水側被覆部20bに沿って、非防水接続部材63側から止水部4が設けられた方へと水が引き上げられる場合には、水が移動した先に空隙31が位置することになり、空隙31から水を高効率で排出することができる。その結果、非防水接続部材63から非防水側被覆部20bに侵入した水が、非防水側被覆部20bの内部に、長期にわたって留まりにくくなる。すると、非防水側において、導体2をはじめとする絶縁電線1の構成部材や非防水接続部材63の構成部材、また非防水接続部材63が接続された第二の機器U2が、水との長期にわたる接触により、腐食や変性、故障等、水の影響による不具合を起こしにくくなる。非防水接続部材63や第二の機器U2は、非防水の環境での使用が想定されているものであり、ある程度の水との接触では影響を受けないように設計されているが、長期にわたる水との接触の継続までは想定されていない場合もあり、非防水側被覆部20bに侵入した水は、なるべく早期に排出することが好ましい。
【0071】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1において、止水部4が形成される具体的な位置および数は、特に限定されるものではない。しかし、防水構造62が形成された防水接続部材61への水の影響を効果的に抑制する観点から、非防水接続部材63よりも防水接続部材61に近い位置に、少なくとも1つの止水部4が設けられることが好ましい。
【0072】
(絶縁電線の製造方法)
最後に、上記で説明した本開示の実施形態にかかる絶縁電線1の製造方法の一例について、簡単に説明する。最初に、連続した線状の絶縁電線1の中途部において、絶縁被覆3を除去して、導体2を露出させ、露出部10を形成する。露出部10の両隣が、被覆部20a,20bとなる
【0073】
次に、露出部10において、素線2aの間の空間に、止水剤5を密に充填しやすいように、素線2aの間の間隔を広げる。この際、一旦、素線2aの撚りを緊密化する方向に、導体2を捻り、被覆部20a,20bから露出部10へと導体2を繰り出すようにするとよい。続いて、反対の方向に導体2を捻り、素線2aの撚りを弛緩させる。このようにすることで、緊密化によって、被覆部20a,20bから露出部10へと繰り出された導体2が、露出部10において撚りを緩められ、実長として長い素線2aが、露出部10の領域内に、弛みを伴って配置されることになる。すると、素線2aの間に、大きな空間が確保されることになる。このような素線2a間の空間の拡張は、露出部10だけでなく、最終的に防水側被覆部20aにおいて防水端E1となる領域にまでわたって行うことが、好ましい。
【0074】
このようにして、露出部10において、素線2aの間の空間を広げると、次は、その空間に、止水剤5を充填する。この際、止水剤5は、流動性の高い状態としておく。例えば、硬化性の樹脂組成物を、未硬化の状態で充填すればよい。止水剤5の充填操作は、塗布、浸漬、滴下、注入等、止水剤5の粘度等の特性に応じた任意の方法で、行えばよい。その際、止水剤5を均一性高く充填するために、絶縁電線1を軸回転させながら、充填を行うことが好ましい。止水剤5は、素線2aの間の空間のみならず、素線2aの集合体である導体2の外周域にも配置するとよい。特に、止水剤5を噴出させる噴流装置を用いて、絶縁電線1の所定箇所を、止水剤5に浸漬する形態を用いれば、素線2a間の空間に、均一性高く止水剤5を配置しやすくなるとともに、止水部4に形成される気泡Bを少なく、また小さく抑えやすくなる。
【0075】
露出部10において止水剤5を充填するにあたり、防水側被覆部20aに隣接する部位については、防水端E1を形成するために、止水剤5を、少なくとも絶縁被覆3との境界の位置までは充填することが好ましい。可能であれば、絶縁被覆3の内側の領域にまで、止水剤5を浸透させておくとよい。一方、非防水側被覆部20bに隣接する部位については、止水剤5が充填されない空隙31を残した非防水端E2を確実に形成するために、止水剤5は、絶縁被覆3の端縁の位置までは充填せず、露出部10の端部に、止水剤5が充填されない領域(導体非防水区間Sに相当)を残すことが好ましい。
【0076】
止水剤5を充填すると、止水剤5の流動性が下がって固化する前に、再緊密化を行うことが好ましい。つまり、絶縁電線1を、素線2aの撚りを緊密にする方向に捻るようにして、止水剤5の充填前に弛緩させていた露出部10の撚りを、再度緊密化させる。この再緊密化により、露出部10において、素線2aの間の空間が狭くなり、素線2a間の空間に止水剤5を留めやすくなる。この再緊密化工程を実施することで、素線2aの間の領域に充填された止水剤5の再配置が促進され、止水剤5の分布の均一性が高まる。例えば、充填した止水剤5の中に、気泡Bが生成しているとしても、再緊密化工程の実施に伴って止水剤5が移動することで、その気泡Bが、周囲から移動してきた止水剤5によって埋められ、消滅する場合がある。止水剤5の充填を、噴流装置等を用いて、浸漬によって行う場合には、絶縁電線1を止水剤5に浸漬した状態のまま、再緊密化工程を実施するとよい。
【0077】
望ましくは、止水部4を形成するための加工の影響を受けていない両被覆部20a,20bの遠隔域22におけるよりも、露出部10の導体径が小さくなるまで、再緊密化を行うとよい。すると、導体2の連続性により、両被覆部20a,20bの露出部10に面した隣接域21においても、導体径が、遠隔域22よりも小さくなりやすい。非防水端E2が、導体径が小さくなった隣接域21に形成されることにより、空隙31となる空間が、導体2と絶縁被覆3の間に、十分な大きさで形成されやすくなる。
【0078】
さらに、止水剤5の流動性が下がって固化する前に、再緊密化に加えて、防水側被覆部20aを構成する絶縁被覆3を、露出部10側に少し移動させておくとよい。この移動により、防水側被覆部20aの端部において、絶縁被覆3と導体2の間の領域に、止水剤5を充填しやすくなる。また、絶縁被覆3の外側にも、止水剤5を配置しやすくなる。この操作を行うことで、防水端E1において、水の侵入を高度に抑制できる止水部4を形成しやすくなる。非防水側被覆部20bにおいては、止水剤5が充填されない空隙31を絶縁被覆3と導体2の間に確実に残す観点から、同様の絶縁被覆3の移動は、行わない方がよい。
【0079】
この後、止水剤5の種類に応じた方法で、止水剤5の流動性を低下させ、固化させればよい。例えば、止水剤5が光硬化性を有する場合には、止水剤5を配置した箇所の外周から、光照射を行えばよい。この際、絶縁電線1を軸回転させながら止水剤5の固化を行えば、止水剤5の配置の均一性を高めやすい。止水部4の外周に保護材を設ける場合には、固化後に、さらに、テープ材の巻き付け等、適宜、保護材の配置を行えばよい。
【0080】
以上の工程を経ることで、絶縁電線1の中途部に露出部10が形成され、さらにその露出部10に止水部4が形成された構造を、簡便に形成することができる。さらに、露出部10の一端側に、止水剤5によって被覆部20aへの水の侵入が防止された防水端E1を形成するとともに、他端側に、止水剤5が充填されない空隙31が、素線2aの間や絶縁被覆3と導体2の間の領域に残っており、水の脱出が可能となった非防水端E2を形成することができる。
【0081】
以上のように、露出部10への止水剤5の充填を行う前に、一旦素線2aの撚りを緊密化して被覆部20a,20bから素線2aを繰り出したうえで、素線2aの撚りを弛緩させ、さらに、止水剤5を充填した後に素線2aの撚りを再度緊密化するという段階を経ることで、上記のように、導体径が、露出部10および隣接域21において、遠隔域22よりも小さくなった構造が、得られやすい。また、単位長さあたりの金属材料の密度は、露出部10において最も大きく、遠隔域22において次に大きく、隣接域21において最も小さくなった分布をとりやすい。露出部10において金属材料の密度が大きくなっていることは、露出部10に実長として長い素線2aが配置されていることを意味し、それら素線2aの間の空間に、止水剤5を密に保持しやすくなる。さらに、素線2aの撚りピッチは、露出部10において最も小さく、遠隔域22において次に小さく、隣接域21において最も大きくなった分布をとりやすい。撚りピッチと対応して、素線2aの間隔は、露出部10において最も小さく、遠隔域22において次に小さく、隣接域21において最も大きくなりやすい。露出部10において素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が小さくなっていることにより、素線2aの間の空間に、止水剤5を密に保持し、気泡Bの少ない止水部4を形成しやすい。さらに、止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1が、それよりも内側に位置する素線2a2よりも、扁平な形状を有した状態、また、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線2aの楕円率が、止水部4において、被覆部20a,20bよりも小さい状態となりやすい。
【0082】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,1’ 絶縁電線
2 導体
2a 素線
2a1 導体の外周部に位置する素線
2a2 素線2a1よりも内側に位置する素線
3 絶縁被覆
4 止水部
5 止水剤
6 ワイヤーハーネス
10,10’ 露出部
20a 防水側被覆部(第一の被覆部)
20b 非防水側被覆部(第二の被覆部)
20’ 被覆部
21 隣接域
22 遠隔域
31 空隙
61 防水接続部材
62 防水構造
63 非防水接続部材
B 気泡
E1 防水端
E2 非防水端
S 導体非防水区間