(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】化合物、それを含む組成物、それを用いた成形体および発光装置
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20230725BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20230725BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230725BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230725BHJP
F21V 9/00 20180101ALI20230725BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20230725BHJP
【FI】
C07F5/02 D
C07D487/04 CSP
C08L101/00
C09K11/06 660
F21V9/00 300
H10K50/11
C07D487/04 137
(21)【出願番号】P 2019504996
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2019002348
(87)【国際公開番号】W WO2019151121
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018014718
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市橋 泰宜
(72)【発明者】
【氏名】権 畛于
(72)【発明者】
【氏名】富永 剛
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240371(JP,A)
【文献】国際公開第2009/123056(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/056779(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/108411(WO,A1)
【文献】DURAN-SAMPEDRO,G. et al.,First Highly Efficient and Photostable E and C Derivatives of 4,4-Difluoro-4-bora-3a,4a-diaza-s-inda,Chemistry - A European Journal,2014年,Vol.20,pp.2646-2653,ISSN 0947-6539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08L
C09K
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物であ
り、
前記一般式(1)で表される化合物は、一般式(12)で表される化合物、一般式(13)で表される化合物、一般式(14)で表される化合物、一般式(15)で表される化合物、一般式(16)で表される化合物、または一般式(17)で表される化合物のいずれかである、
ことを特徴とする化合物。
【化1】
(一般式(1)において、Ar
1およびAr
2は、同じでも異なってもよく、5員環の芳香族環、6員環の芳香族環、または、2個以上の5員環および/または6員環が縮合した縮合芳香族環である。これらの芳香族環および縮合芳香族環は、置換基を有していてもよい。X
aおよびX
bはCR
7または窒素原子であり、R
7は電子求引性基である。R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R
3~R
6は、
いずれもシアノ基である。)
【化2】
(一般式(12)~(17)において、R
301
~R
304
は、いずれもシアノ基である。R
305
~R
316
は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。n3~n6は、同じでも異なってもよく、0~3の整数である。n3~n6が2以上である場合、各R
305
、各R
306
、各R
307
および各R
308
は、同じでも異なってもよい。)
【請求項2】
前記一般式(17)において、R
309~R
316のうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、または隣接置換基との間に形成される環構造である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が、700nm以上の波長範囲に極大発光を有する、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の化合物と、
バインター樹脂と、
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項
4に記載の組成物を用いて成形された成形体である、
ことを特徴とする成形体。
【請求項6】
光源および近赤外光変換部を備える発光装置であって、
前記近赤外光変換部が、請求項
5に記載の成形体を含む、
ことを特徴とする発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外領域の光を発する化合物、それを含む組成物、該組成物を用いた成形体および該成形体を含む発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外領域に発光を有する化合物は、家電製品のリモコン、ワイヤレスデジタル通信などの光通信、糖度センサなどの各種計測機器等、様々な工業製品に利用されている。また、最近では、生体への影響が少ないことから、生体イメージング用プローブ等の医療用途にも利用されており、更には、デジタル社会の一層の進展に伴い、静脈認証、顔認証といった生体認証技術にも用いられている。
【0003】
これらのうち、医療用途、生体認証技術への利用においては、より高性能の化合物が求められている。例えば、生体認証技術分野では、モバイル機器、デジタル家電の発展に伴い、これらの製品に生体認証技術を組み込む開発が盛んに進んでおり、小型化、高信頼性、形状自由性等の点で、一層の高性能化が求められている。しかし、これらを実現するには、高効率、高信頼性、フレキシブル対応性を有する近赤外領域発光技術が必要となる。
【0004】
近赤外領域に発光を有する化合物としては、希土類金属、半導体化合物等の無機化合物が知られている。これらは、粒径が均一なものを用いる必要があることやpn接合が必要であることなど、特性発現のために、ある一定のサイズや形状が求められるという制約を有する。一方、有機化合物は、一分子で発光機能を有することから、高いフレキシブル対応性を有しており、医療用途への適用を目指した開発が行われている(例えば、特許文献1)。しかし、有機化合物は、一般に量子収率も低く、モバイル機器、デジタル家電への搭載を想定した高信頼性までは兼ね備えていない。また、近赤外領域の光を効率良く吸収する有機化合物が開発されているが(例えば、特許文献2)、高効率・高信頼性発光については確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/056779号
【文献】特開2009-263614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、近赤外領域の発光(以下、「近赤外発光」と適宜略記する)を有する化合物、例えば、フレキシブル対応を有する有機化合物において、高効率の近赤外発光と、励起光による酸化に対する高信頼性の近赤外発光とを両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る化合物は、一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
【0008】
【化1】
(一般式(1)において、Ar
1およびAr
2は、同じでも異なってもよく、5員環の芳香族環、6員環の芳香族環、または、2個以上の5員環および/または6員環が縮合した縮合芳香族環である。これらの芳香族環および縮合芳香族環は、置換基を有していてもよい。X
aおよびX
bはCR
7または窒素原子であり、R
7は電子求引性基である。R
1およびR
2は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R
3~R
6は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、 置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R
3~R
6のうち少なくとも1つはシアノ基である。)
【0009】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(1)で表される化合物が、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、一般式(5)で表される化合物、一般式(6)で表される化合物、または一般式(7)で表される化合物のいずれかである、ことを特徴とする。
【0010】
【化2】
(一般式(2)~(7)において、X
aおよびX
bはCR
7または窒素原子であり、R
7は電子求引性基である。X
1およびX
2は、同じでも異なってもよく、硫黄原子、酸素原子、窒素原子またはリン原子である。X
3およびX
4は、同じでも異なってもよく、窒素原子またはリン原子である。R
101およびR
102は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R
103~R
106は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R
103~R
106のうち少なくとも1つはシアノ基である。R
107~R
118は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。)
【0011】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(1)で表される化合物が、一般式(8)で表される化合物、一般式(9)で表される化合物、一般式(10)で表される化合物、または一般式(11)で表される化合物のいずれかである、ことを特徴とする。
【0012】
【化3】
(一般式(8)~(11)において、X
aおよびX
bはCR
7または窒素原子であり、R
7は電子求引性基である。X
5およびX
6は、同じでも異なってもよく、硫黄原子、酸素原子、窒素原子またはリン原子である。X
7~X
10は、同じでも異なってもよく、窒素原子またはリン原子である。R
201およびR
202は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R
203~R
206は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R
203~R
206のうち少なくとも1つはシアノ基である。R
207~R
216は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。n1およびn2は、同じでも異なってもよく、0~3の整数である。n1およびn2が2以上である場合、各R
207および各R
208は、同じでも異なってもよい。)
【0013】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(11)において、R209~R216のうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、または隣接置換基との間に形成される環構造である、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(1)で表される化合物が、一般式(12)で表される化合物、一般式(13)で表される化合物、一般式(14)で表される化合物、一般式(15)で表される化合物、一般式(16)で表される化合物、または一般式(17)で表される化合物のいずれかである、ことを特徴とする。
【0015】
【化4】
(一般式(12)~(17)において、R
301~R
304は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R
301~R
304のうち少なくとも1つはシアノ基である。R
305~R
316は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。n3~n6は、同じでも異なってもよく、0~3の整数である。n3~n6が2以上である場合、各R
305、各R
306、各R
307および各R
308は、同じでも異なってもよい。)
【0016】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(17)において、R309~R316のうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、または隣接置換基との間に形成される環構造である、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(1)において、R3~R6が、いずれもシアノ基である、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る化合物は、上記の発明において、前記一般式(1)で表される化合物が、700nm以上の波長範囲に極大発光を有する、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る組成物は、上記の発明のいずれか一つに記載の化合物と、バインター樹脂と、を含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る成形体は、上記の発明に記載の組成物を用いて成形された成形体である、ことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る発光装置は、光源および近赤外光変換部を備える発光装置であって、前記近赤外光変換部が、上記の発明に記載の成形体を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い発光効率および優れた信頼性を兼ね備えて、近赤外領域の光を発する化合物を提供することができるという効果を奏する。また、当該化合物を含む組成物、それを用いた成形体および発光装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第一例の構成を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第二例の構成を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第三例の構成を示す模式断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第四例の構成を示す模式断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第五例の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る化合物、それを含む組成物、それを用いた成形体および発光装置について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0025】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明の実施の形態に係る化合物は、下記の一般式(1)で表される化合物である。
【0026】
【0027】
一般式(1)において、Ar1およびAr2は、同じでも異なってもよく、5員環の芳香族環、6員環の芳香族環、または、2個以上の5員環および/または6員環が縮合した縮合芳香族環である。これらの芳香族環および縮合芳香族環は、置換基を有していてもよい。XaおよびXbはCR7または窒素原子であり、R7は電子求引性基である。R1およびR2は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R3~R6は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R3~R6のうち少なくとも1つはシアノ基である。
【0028】
上記の全ての基において、水素は重水素であってもよい。このことは、以下に説明する化合物またはその部分構造においても同様である。また、以下の説明において、例えば、炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基とは、アリール基に置換した置換基に含まれる炭素数も含めて全ての炭素数が6~40となるアリール基である。炭素数を規定している他の置換基も、これと同様である。
【0029】
また、上記の全ての基において、置換される場合における置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基が好ましく、さらには、各置換基の説明において好ましいとする具体的な置換基が好ましい。また、これらの置換基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。
【0030】
「置換もしくは無置換の」という場合における「無置換」とは、水素原子または重水素原子が置換したことを意味する。以下に説明する化合物またはその部分構造において、「置換もしくは無置換の」という場合についても、上記と同様である。
【0031】
上記の全ての基のうち、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、ハロゲン、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0032】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキル基部分の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0033】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0034】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0035】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。
【0036】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0037】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0038】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0039】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0040】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオエーテル基における芳香族炭化水素基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールチオエーテル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0041】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0042】
それぞれの置換基がさらにアリール基で置換される場合、アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基がより好ましい。特に好ましくは、フェニル基である。
【0043】
ヘテロアリール基とは、例えば、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ただし、ナフチリジニル基とは、1,5-ナフチリジニル基、1,6-ナフチリジニル基、1,7-ナフチリジニル基、1,8-ナフチリジニル基、2,6-ナフチリジニル基、2,7-ナフチリジニル基のいずれかを示す。ヘテロアリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0044】
それぞれの置換基がさらにヘテロアリール基で置換される場合、ヘテロアリール基としては、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、キノリニル基、ピリミジル基、トリアジニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基が好ましく、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、キノリニル基がより好ましい。特に好ましくは、ピリジル基である。
【0045】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。また、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ここで、置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられ、これらの置換基は、さらに置換されてもよい。
【0046】
エステル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などのエステル結合を介して置換基が結合した官能基を示し、この置換基は、さらに置換されていてもよい。エステル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、エステル基として、例えば、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基、ブチルエステル基、イソプロピルエステル基、ヘキシルエステル基、フェニルエステル基などが挙げられる。
【0047】
アミド基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などの置換基がアミド結合を介して結合した官能基を示し、この置換基は、さらに置換されていてもよい。アミド基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、アミド基として、メチルアミド基、エチルアミド基、プロピルアミド基、ブチルアミド基、イソプロピルアミド基、ヘキシルアミド基、フェニルアミド基などが挙げられる。
【0048】
アミノ基とは、置換もしくは無置換のアミノ基である。アミノ基は、置換基を有していても有していなくてもよく、置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。アリール基、ヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリニル基が好ましい。これら置換基は、さらに置換されてもよい。アミノ基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、2以上50以下、より好ましくは6以上40以下、特に好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0049】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基を示す。ケイ素上の置換基は、さらに置換されてもよい。シリル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0050】
シロキサニル基とは、例えば、トリメチルシロキサニル基などのエーテル結合を介したケイ素化合物基を示す。ケイ素上の置換基は、さらに置換されてもよい。また、ボリル基とは、置換もしくは無置換のボリル基である。ボリル基は、置換基を有していても有していなくてもよく、置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、アリールエーテル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基が挙げられる。中でも、アリール基、アリールエーテル基が好ましい。また、ホスフィンオキシド基とは、-P(=O)R8R9で表される基である。R8およびR9は、一般式(1)のR1~R6と同様に上記の置換基から選ばれる。
【0051】
アシル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などの置換基がカルボニル結合を介して結合した官能基を示し、この置換基は、さらに置換されていてもよい。アシル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。より具体的には、アシル基として、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、アクリリル基などが挙げられる。
【0052】
スルホニル基とは、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などの置換基が-S(=O)2-結合を介して結合した官能基を示し、この置換基は、さらに置換されていてもよい。
【0053】
アリーレン基とは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フルオレン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素基から導かれる2価以上の基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。好ましくは、2価もしくは3価のアリーレン基である。アリーレン基としては、具体的には、アリーレン基として、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
【0054】
ヘテロアリーレン基とは、ピリジン、キノリン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、キノキサリン、キナゾリン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェンなどの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する芳香族基から導かれる2価以上の基を示し、これは、置換基を有していても有していなくてもよい。好ましくは、2価もしくは3価のヘテロアリーレン基である。ヘテロアリーレン基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは、2~30の範囲である。ヘテロアリーレン基としては、具体的には、2,6-ピリジレン基、2,5-ピリジレン基、2,4-ピリジレン基、3,5-ピリジレン基、3,6-ピリジレン基、2,4,6-ピリジレン基、2,4-ピリミジニレン基、2,5-ピリミジニレン基、4,6-ピリミジニレン基、2,4,6-ピリミジニレン基、2,4,6-トリアジニレン基、4,6-ジベンゾフラニレン基、2,6-ジベンゾフラニレン基、2,8-ジベンゾフラニレン基、3,7-ジベンゾフラニレン基などが挙げられる。
【0055】
一般式(1)で表される化合物において、Ar1は、Xaおよびホウ素原子により、ピロロピロール骨格と結合している。且つ、Ar2は、Xbおよびホウ素原子により、ピロロピロール骨格と結合している。そのため、一般式(1)で表される化合物は、強固で平面性の高い骨格であることから、高い蛍光量子収率を示す。また、そのような骨格を利用して、一般式(1)で表される化合物の分子内の共役を広げることができるため、一般式(1)で表される化合物は、その極大発光波長が700nm以上になり、近赤外線発光特性を示す。
【0056】
また、一般式(1)で表される化合物においては、極大発光波長をより長波長化できるため、Ar1およびAr2は、2個以上の5員環および/または6員環が縮合した縮合芳香族環であることが好ましい。具体的には、このような縮合芳香族環として、2個以上の5員環が縮合した縮合芳香族環、2個以上の6員環が縮合した縮合芳香族環、1個以上の5員環と1個以上の6員環とが縮合した縮合芳香族環が挙げられる。また、合成の容易さ、原料入手の容易さという観点から、上記の縮合芳香族環は、2~3個の5員環または6員環が縮合した構造であることがより好ましい。このような好適な構造の縮合芳香族環として、具体的には、2個の5員環が縮合した縮合芳香族環、2個の6員環が縮合した縮合芳香族環、1個の5員環と1個の6員環とが縮合した縮合芳香族環、3個の5員環が縮合した縮合芳香族環、3個の6員環が縮合した縮合芳香族環、1個の5員環と2個の6員環とが縮合した縮合芳香族環、2個の5員環と1個の6員環とが縮合した縮合芳香族環が挙げられる。また、合成の容易さ、原料入手の容易さという観点から、2個の5員環または6員環が縮合した構造であることがさらに好ましい。このような更に好適な構造の縮合芳香族環として、具体的には、2個の5員環が縮合した縮合芳香族環、2個の6員環が縮合した縮合芳香族環、1個の5員環と1個の6員環とが縮合した縮合芳香族環が挙げられる。中でも、上記の縮合芳香族環は、2個の6員環が縮合した縮合芳香族環、1個の5員環と1個の6員環とが縮合した縮合芳香族環、1個の5員環と2個の6員環とが縮合した縮合芳香族環、または、2個の5員環と1個の6員環とが縮合した縮合芳香族環であることが特に好ましい。
【0057】
具体的な芳香族環構造としては、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環等の環構造が挙げられる。しかし、芳香族環構造は、芳香性を有する骨格であれば、特にこれらに限定されない。また、上記の芳香族環は、置換基を有しても有していなくてもよい。
【0058】
また、具体的な縮合芳香族環構造としては、イソインドール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、インダゾール環、プリン環、チエノピロール環、ピロロチアゾール環、ピロロオキサゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、イミダゾピリジン環、ペリミジン環、フェンナントリジン環等の環構造が挙げられる。しかし、縮合芳香族環構造は、芳香性を有する骨格であれば特にこれらに限定されない。また、上記の縮合芳香族環は、置換基を有しても有していなくてもよい。
【0059】
電子求引性基とは、電子受容性基とも呼称し、有機電子論において、誘起効果や共鳴効果により、置換した原子団から、電子を引き付ける原子団である。電子求引性基としては、ハメット則の置換基定数(σp(パラ))として、正の値をとるものが挙げられる。ハメット則の置換基定数(σp(パラ))は、化学便覧基礎編改訂5版(II-380頁)から引用することができる。なお、フェニル基も上記正の値をとる例もあるが、本発明における電子求引性基にフェニル基は含まれない。
【0060】
電子求引性基の例として、例えば、-F(σp:+0.06)、-Cl(σp:+0.23)、-Br(σp:+0.23)、-I(σp:+0.18)、-CO2R10(σp:R10がエチル基の時+0.45)、-CONH2(σp:+0.38)、-COR10(σp:R10がメチル基の時+0.49)、-CF3(σp:+0.50)、-CN(σp:+0.66)、-SO2R10(σp:R10がメチル基の時+0.69)、-NO2(σp:+0.81)等が挙げられる。R10は、水素原子、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の環形成原子数5~30の複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基、または、置換もしくは無置換の炭素数1~30のシクロアルキル基を表す。これら各基の具体例としては、上記と同様の例が挙げられる。
【0061】
好ましい電子求引性基としては、フッ素、含フッ素アリール基、含フッ素ヘテロアリール基、含フッ素アルキル基、置換もしくは無置換のアシル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のスルホニル基またはシアノ基が挙げられる。何故なら、これらの基は、化学的に分解しにくいからである。本発明において、含フッ素アリール基とは、フッ素原子を含むアリール基である。含フッ素ヘテロアリール基とは、フッ素を含むヘテロアリール基である。含フッ素アルキル基とは、フッ素を含むアルキル基である。
【0062】
より好ましい電子求引性基としては、含フッ素アルキル基、置換もしくは無置換のアシル基、置換もしくは無置換のエステル基またはシアノ基が挙げられる。何故なら、これらの基は、濃度消光を防ぎ、発光量子収率を向上させる効果につながるからである。中でも、電子求引性基として特に好ましいのは、シアノ基である。
【0063】
上記した電子求引性基に含まれるR10の好ましい例としては、置換もしくは無置換の環形成炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のシクロアルキル基が挙げられる。さらに好ましい置換基(R10)としては、溶解性の観点から、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基が挙げられる。具体的には、このアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基 、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。また、合成の容易さ、原料入手の容易さという観点から、このアルキル基としてエチル基が好ましく用いられる。
【0064】
また、一般式(1)で表される化合物において、上記のXaおよびXbが窒素原子である場合、窒素原子は隣接原子との間に多重結合を形成しており、窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子求引性を有する。この場合、XaおよびXbは、電子求引性を有する。
【0065】
一般式(1)で表される化合物は、XaおよびXbが電子求引性を有するため、分子内の電子密度を下げることができる。これにより、一般式(1)で表される化合物の酸素に対する安定性が向上し、この結果、一般式(1)で表される化合物の信頼性を向上させることができる。
【0066】
一般式(1)で表される化合物は、R1およびR2が置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることで、凝集による濃度消光を防ぐことができる。この結果、一般式(1)で表される化合物は、高い蛍光量子収率を得られる。より高い蛍光量子収率が得られるという観点から、R1およびR2は、置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。アリール基の中でも、特に、フェニル基、ナフチル基が好ましい例として挙げられる。
【0067】
また、蛍光波長や吸収波長を制御したり、分散性を高めたり、発光効率を向上させるという観点から、R1およびR2は、置換のアリール基または置換のヘテロアリール基であって、その置換基が置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアルコキシ基であるものが好ましい。中でも、その置換基が、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基であることがより好ましい。溶媒との相溶性の観点からは、その置換基が、分枝鎖のアルキル基またはアルコキシ基であることが特に好ましい。
【0068】
一般式(1)で表される化合物は、R3~R6のうち少なくとも1つがシアノ基であることで、分子内の電子密度を下げることができるため、信頼性を向上させることができる。一般式(1)で表される化合物の信頼性をより向上させるという観点から、R3~R6は、いずれもシアノ基であることが好ましい。
【0069】
また、一般式(1)で表される化合物は、下記の一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、一般式(5)で表される化合物、一般式(6)で表される化合物、または一般式(7)で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
【0070】
【0071】
一般式(2)~(7)において、XaおよびXbはCR7または窒素原子であり、R7は電子求引性基である。X1およびX2は、同じでも異なってもよく、硫黄原子、酸素原子、窒素原子またはリン原子である。X3およびX4は、同じでも異なってもよく、窒素原子またはリン原子である。R101およびR102は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R103~R106は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R103~R106のうち少なくとも1つはシアノ基である。R107~R118は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。
【0072】
隣接置換基との間に形成される環構造とは、上記一般式(2)のR107およびR108、R109およびR110、または一般式(3)~(7)のR111~R114およびR115~R118中から選ばれた任意の2置換基(例えばR111とR112)がお互いに結合して共役または非共役の縮合環を形成することをいう。これらの縮合環は、環内構造に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を一種以上含んでいてもよいし、さらに別の環と縮合していてもよい。
【0073】
一般式(1)で表される化合物としては、上記一般式(2)~(7)の各化合物の中でも、一般式(2)で表される化合物または一般式(3)で表される化合物がより好ましく、一般式(3)で表される化合物が特に好ましい。
【0074】
また、一般式(1)で表される化合物は、下記の一般式(8)で表される化合物、一般式(9)で表される化合物、一般式(10)で表される化合物、または一般式(11)で表される化合物のいずれかであることがより好ましい。
【0075】
【0076】
一般式(8)~(11)において、XaおよびXbはCR7または窒素原子であり、R7は電子求引性基である。X5およびX6は、同じでも異なってもよく、硫黄原子、酸素原子、窒素原子またはリン原子である。X7~X10は、同じでも異なってもよく、窒素原子またはリン原子である。R201およびR202は、同じでも異なってもよく、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。R203~R206は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R203~R206のうち少なくとも1つはシアノ基である。R207~R216は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。n1およびn2は、同じでも異なってもよく、0~3の整数である。n1およびn2が2以上である場合、各R207および各R208は、同じでも異なってもよい。
【0077】
一般式(11)において、R209~R216は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、および置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基からなる群より選ばれることが好ましい。また、R209~R216のうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、または隣接置換基との間に形成される環構造であることがより好ましい。また、R209~R212のうち少なくとも一つおよびR213~R216のうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基または隣接置換基との間に形成される環構造であることがさらに好ましい。
【0078】
また、一般式(1)で表される化合物は、下記の一般式(12)で表される化合物、一般式(13)で表される化合物、一般式(14)で表される化合物、一般式(15)で表される化合物、一般式(16)で表される化合物、または一般式(17)で表される化合物のいずれかであることが特に好ましい。
【0079】
【0080】
一般式(12)~(17)において、R301~R304は、同じでも異なってもよく、シアノ基、ハロゲン、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアリール基および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。且つ、R301~R304のうち少なくとも1つはシアノ基である。R305~R316は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、水酸基、チオール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアルキルチオ基、置換もしくは無置換のアリールエーテル基、置換もしくは無置換のアリールチオエーテル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、置換もしくは無置換のカルボニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のオキシカルボニル基、置換もしくは無置換のカルバモイル基、置換もしくは無置換のエステル基、置換もしくは無置換のスルホニル基、置換もしくは無置換のアミド基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、置換もしくは無置換のシリル基、置換もしくは無置換のシロキサニル基、置換もしくは無置換のボリル基、置換もしくは無置換のホスフィンオキシド基、および隣接置換基との間に形成される環構造からなる群より選ばれる。n3~n6は、同じでも異なってもよく、0~3の整数である。n3~n6が2以上である場合、各R305、各R306、各R307および各R308は、同じでも異なってもよい。
【0081】
また、一般式(17)において、R309~R316は、同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、および隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれることが好ましい。特に、R309~R316のうち少なくとも一つは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、または隣接置換基との間に形成される環構造であることがより好ましい。
【0082】
また、一般式(1)で表される化合物としては、上記の一般式(12)~(17)の各化合物の中でも、一般式(12)で表される化合物、一般式(13)で表される化合物、一般式(14)で表される化合物、一般式(16)で表される化合物、および一般式(17)で表される化合物がより好ましく、一般式(14)で表される化合物、一般式(16)で表される化合物、および一般式(17)で表される化合物が特に好ましい。
【0083】
一般式(1)で表される化合物の一例を以下に示す。一般式(1)で表される化合物は、以下に示す化合物に限定されるものではない。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
一般式(1)で表される化合物は、例えば、以下の方法で合成することができる。すなわち、該当するジケトピロロピロール骨格を有する中間体に、活性メチレン化合物を縮合させた後、金属塩を塩基共存下で反応することにより、目的とする化合物が得られる。
【0093】
ジケトピロロピロール骨格を有する中間体の合成については、特開平9-323993号公、Adv.Optical Mater.Vol.3,pp.280-320(2015)などに記載されている方法を参考にして行うことができる。また、ジケトピロロピロール骨格を有する中間体のホウ素錯体化については、J.Org.Chem.,vol.64,No.21,pp.7813-7819(1999)、Angew.Chem.,Int.Ed.Engl.,vol.46,pp.3750-3753(2007)などに記載されている方法を参考にして行うことができる。さらに、ホウ素錯体へのシアノ基導入は、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,vol.18,pp.3112-3116(2008)に記載されている方法を参考にして行うことができる。
【0094】
さらに、アリール基やヘテロアリール基の導入の際は、ハロゲン化誘導体とボロン酸あるいはボロン酸エステル化誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-炭素結合を生成する方法が挙げられるが、本発明は、これに限定されるものではない。同様に、アミノ基やカルバゾリル基の導入の際にも、例えば、パラジウムなどの金属触媒下でのハロゲン化誘導体とアミンあるいはカルバゾール誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-窒素結合を生成する方法が挙げられるが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0095】
一般式(1)で表される化合物は、700nm以上の波長範囲に極大発光を有することが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、700nm以上の波長範囲に極大発光を有することにより、近赤外発光が可能となる。この結果、一般式(1)で表される化合物は、生体認証でのセンシング機能用材料として用いることが可能となる。
【0096】
<組成物>
本発明の実施の形態に係る組成物は、一般式(1)で表される化合物およびバインダー樹脂を含むことが好ましい。本発明において、この組成物における一般式(1)で表される化合物の含有量は、化合物のモル吸光係数、蛍光量子収率および励起波長における吸収強度、ならびに作製するフィルム等の成形体の厚みや透過率にもよるが、通常はバインダー樹脂の100重量部に対して、1.0×10-4重量部~30重量部であり、1.0×10-3重量部~10重量部であることがさらに好ましく、1.0×10-2重量部~5重量部であることが特に好ましい。
【0097】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、連続相を形成するものであり、成型加工性、透明性、耐熱性等に優れる材料であれば良い。バインダー樹脂の例としては、アクリル酸系、メタクリル酸系、ポリケイ皮酸ビニル系、環ゴム系等の反応性ビニル基を有する光硬化型レジスト材料、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂(シリコーンゴム、シリコーンゲル等のオルガノポリシロキサン硬化物(架橋物)を含む)、ウレア樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、脂肪族エステル樹脂、芳香族エステル樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂などの公知のものが挙げられる。また、バインダー樹脂としては、これらの共重合樹脂を用いても構わない。これらの樹脂を適宜設計することで、本発明の実施の形態に係る組成物(例えば色変換組成物)に有用な樹脂が得られる。
【0098】
これらの樹脂の中でも、成型加工のプロセスが容易であることから、熱可塑性樹脂が好ましい。さらに、透明性、耐熱性などの観点から、芳香族エステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂またはこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0099】
(その他の成分)
本発明の実施の形態に係る組成物は、上述した一般式(1)で表される化合物およびバインダー樹脂以外に、添加剤として、塗布膜安定化のための分散剤やレベリング剤、フィルム表面の改質のためのシランカップリング剤等の接着補助剤等を含有してもよい。また、この組成物は、一般式(1)で表される化合物が沈降するのを抑制するための成分として、シリカ粒子やシリコーン微粒子等の無機粒子を含有してもよい。さらに、この組成物は、光安定化剤、酸化防止剤、加工および熱安定化剤、紫外線吸収剤等の耐光性安定化剤を含有してもよい。
【0100】
光安定化剤としては、例えば、3級アミン、カテコール誘導体およびニッケル化合物を挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、これらの光安定化剤は、単独で使用してもよいし、複数併用してもよい。
【0101】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤を挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、これらの酸化防止剤は、単独で使用してもよいし、複数併用してもよい。
【0102】
加工および熱安定化剤としては、例えば、トリブチルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリエチルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン等のリン系安定化剤を挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、これらの安定化剤は、単独で使用してもよいし、複数併用してもよい。
【0103】
耐光性安定化剤としては、例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類を挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、これらの耐光性安定化剤は、単独で使用してもよいし、複数併用してもよい。
【0104】
また、本発明の実施の形態に係る組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じてフュームドシリカ、ガラス粉末、石英粉末等の微粒子、酸化チタン、酸化ジルコニア、チタン酸バリウム、酸化亜鉛等の無機充填剤や顔料、難燃剤、耐熱剤等を含有してもよい。
【0105】
本発明の実施の形態に係る組成物において、これらの添加剤の含有量は、化合物のモル吸光係数、蛍光量子収率および励起波長における吸収強度、ならびに作製するフィルム等の成形体の厚みや透過率にもよるが、通常は一般式(1)で表される化合物の100重量部に対して、1.0×10-3重量部以上30重量部以下であることが好ましい。また、これらの添加剤の含有量は、一般式(1)で表される化合物の100重量部に対して、1.0×10-2重量部以上15重量部以下であることがさらに好ましく、1.0×10-1重量部以上10重量部以下であることが特に好ましい。
【0106】
(溶剤)
本発明の実施の形態に係る組成物は、溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、流動状態の組成物の粘度を調整でき、発光物質の発光および信頼性に過度な影響を与えないものであれば、特に限定されない。このような溶剤として、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、アセトン、イソプロパノール、テルピネオール、テキサノール、メチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で使用することも可能であるが、2種類以上混合して使用することが好ましい。
【0107】
これらの溶剤の中で、特にトルエンは、一般式(1)で表される化合物の劣化に影響を与えず、乾燥後の残存溶媒が少ない点で、好適に用いられる。2種以上の溶剤を用いる場合、各溶剤の沸点は、150℃以下であることが好ましく、それらの沸点のうち最高のものと最低のものとの差は、50℃以下であることが好ましい。当該沸点の差は、20℃から50℃までの範囲であることがより好ましい。
【0108】
<組成物の製造方法>
以下に、本発明の実施の形態に係る組成物の製造方法の一例を説明する。この製造方法では、前述した一般式(1)で表される化合物、バインダー樹脂、溶剤等を所定量混合する。上記の成分を所定の組成になるよう混合した後、ホモジナイザー、自公転型攪拌機、3本ローラー、ボールミル、遊星式ボールミル、ビーズミル等の撹拌・混練機で均質に混合分散することで、目的とする組成物が得られる。混合分散後、もしくは混合分散の過程で、真空もしくは減圧条件下で脱泡することも好ましく行われる。また、ある特定の成分を事前に混合することや、エージング等の処理をしても構わない。エバポレーターによって溶剤を除去して所望の固形分濃度にすることも可能である。
【0109】
<成形体>
本発明の実施の形態に係る成形体は、本発明における組成物を用いて成形された成形体である。この成形体としては、例えば、薄膜、フィルム、シート、射出成形品、押出し成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、または他の材料との複合体などが挙げられる。この成形体は、励起光を吸収しやすいという観点から、薄膜、シート状のもの、フィルム状のものであることが好ましい。
【0110】
本発明の実施の形態に係る成形体は、これに用いられる組成物が脱溶媒されて成形されたものであってもよいし、これに用いられる組成物が加熱や光照射等により硬化されて成形されたものであってもよい。
【0111】
<発光装置>
本発明の実施の形態に係る発光装置は、光源および近赤外光変換部を備える。この発光装置において、近赤外光変換部は、本発明における成形体を含むものである。このような発光装置は、上記の成形体を含む近赤外光変換部と光源とを組み合わせることにより、構成することができる。
【0112】
本発明の発光装置に適用される光源としては、一般式(1)で表される化合物が吸収可能な波長領域に発光を示すものであれば、いずれの光源でも用いることができる。このような光源として、例えば、熱陰極管や冷陰極管、無機ELなどの蛍光性光源、有機エレクトロルミネッセンス素子光源、LED、白熱光源などが挙げられる。これらの光源のいずれも、原理的には本発明の発光装置に利用可能である。特に、高効率、高信頼性、フレキシブル対応性の観点から、有機エレクトロルミネッセンス素子光源、LEDが好適な光源として挙げられる。また、光源は、1種類の発光ピークを持つものであってもよいし、2種類以上の発光ピークを持つものであってもよい。また、本発明の発光装置には、発光ピークの種類が異なる複数の励起光源を任意に組み合わせて使用することも可能である。
【0113】
本発明の実施の形態に係る成形体を含む近赤外光変換部には、必要に応じパターン加工を施してもよい。このパターン加工の方法としては、フォトリソグラフィ、スクリーン印刷、インクジェット等の各種印刷法などを挙げることができる。
【0114】
本発明の実施の形態に係る発光装置は、近赤外光変換部に本発明の成形体を含んでいれば、その構成に限定はない。
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第一例の構成を示す模式断面図である。
図2は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第二例の構成を示す模式断面図である。
図3は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第三例の構成を示す模式断面図である。
図4は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第四例の構成を示す模式断面図である。
図5は、本発明の実施の形態に係る発光装置の第五例の構成を示す模式断面図である。各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。また、本発明の実施の形態に係る発光装置は、
図1~5に例示される構造のものに限定されない。
【0115】
図1に示すように、第一例の発光装置15Aは、光源10と、本発明の成形体を含む近赤外光変換部11とを備える。この発光装置15Aの代表的な構造例として、
図1に示すように、光源10の上部に近赤外光変換部11を積層した積層体の構造が挙げられる。
【0116】
図2に示すように、第二例の発光装置15Bは、上述した光源10および近赤外光変換部11と、基材12とを備える。この発光装置15Bの代表的な構造例として、
図2に示すように、光源10の上に基材12と近赤外光変換部11とをこの順に積層した積層体の構造が挙げられる。
【0117】
図3に示すように、第三例の発光装置15Cは、上述した光源10、近赤外光変換部11および基材12を備える。この発光装置15Cの代表的な構造例として、
図3に示すように、光源10の上に近赤外光変換部11と基材12とをこの順に積層した積層体の構造が挙げられる。
【0118】
図4に示すように、第四例の発光装置15Dは、上述した光源10および近赤外光変換部11と、複数の基材12とを備える。この発光装置15Dの代表的な構造例として、
図4に示すように、光源10の上に複数の基材12によって挟まれた近赤外光変換部11が積層された積層体の構造が挙げられる。
【0119】
図5に示すように、第五例の発光装置15Eは、上述した光源10、近赤外光変換部11および複数の基材12と、複数のバリアフィルム13とを備える。バリアフィルム13は、近赤外光変換部11に含まれる成形体中の化合物(詳細には一般式(1)で表される化合物)の酸素、水分や熱による劣化を防ぐためのものである。この発光装置15Eの代表的な構造例として、
図5に示すように、光源10の上に、複数のバリアフィルム13によって挟まれ且つ複数の基材12によって挟まれた近赤外光変換部11が積層された積層体の構造が挙げられる。
【0120】
(基材)
本発明の発光装置に適用される基材(例えば
図2~5に示す基材12)としては、特に制限無く公知の金属、フィルム、ガラス、セラミック、紙等を使用することができる。具体的には、基材として、アルミニウム(アルミニウム合金も含む)、亜鉛、銅、鉄などの金属板や箔、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、アラミド、シリコーン、ポリオレフィン、熱可塑性フッ素樹脂、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)などのプラスチックのフィルム、α-ポリオレフィン樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂およびこれらとエチレンの共重合樹脂からなるプラスチックのフィルム、前記プラスチックがラミネートされた紙、または前記プラスチックによりコーティングされた紙、前記金属がラミネートまたは蒸着された紙、前記金属がラミネートまたは蒸着されたプラスチックフィルムなどが挙げられる。また、基材が金属板である場合、その表面にクロム系やニッケル系などのメッキ処理やセラミック処理が施されていてもよい。
【0121】
これらの中でも、透過率や近赤外光変換部(例えば
図1~5に示す近赤外光変換部11)の成形のし易さから、ガラスや樹脂フィルムが好ましく用いられる。また、フィルム状の基材を取り扱う際に破断などの恐れがないように、強度が高いフィルムが好ましい。それらの要求特性や経済性の面で樹脂フィルムが好ましく、これらの中でも、経済性、取り扱い性の面でPET、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリプロピレンからなる群より選ばれるプラスチックフィルムが好ましい。また、成形体を乾燥させる場合や押し出し機により200℃以上の高温で圧着成形する場合は、耐熱性の面でポリイミドフィルムが好ましい。成形体の剥離のし易さから、基材は、あらかじめ表面が離型処理されていてもよい。
【0122】
基材の厚さは、特に制限はないが、下限としては25μm以上が好ましく、38μm以上がより好ましい。また、上限としては5000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましい。
【0123】
(バリアフィルム)
本発明の発光装置に適用されるバリアフィルム(例えば
図5に示すバリアフィルム13)は、近赤外光変換部に対してガスバリア性を向上する場合などにおいて適宜用いられる。このバリアフィルムとしては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物や、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化窒化ケイ素などの無機窒化物、またはこれらの混合物、またはこれらに他の元素を添加した金属酸化物薄膜や金属窒化物薄膜、あるいはポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、酢酸ビニルのけん化物等のポリビニルアルコール系樹脂などの各種樹脂から成る膜を挙げることができる。また、水分に対してバリア機能を有する膜としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデンと塩化ビニルとの共重合物、塩化ビニリデンとアクリロニトリルとの共重合物、フッ素系樹脂、酢酸ビニルのけん化物等のポリビニルアルコール系樹脂などの各種樹脂から成る膜を挙げることができる。
【0124】
本発明の発光装置において、バリアフィルムは、例えば
図5に示すバリアフィルム13のように近赤外光変換部11の両面に設けられてもよいし、近赤外光変換部11の片面だけに設けられてもよい。
【0125】
また、近赤外光変換部の要求される機能に応じて、反射防止機能、防眩機能、反射防止防眩機能、ハードコート機能(耐摩擦機能)、帯電防止機能、防汚機能、電磁波シールド機能、可視光線カット機能、紫外線カット機能、偏光機能、調色機能を有した補助層をさらに設けてもよい。
【実施例】
【0126】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0127】
(合成例1)
以下に、本発明における合成例1の化合物1Aの合成方法について説明する。化合物1Aの合成方法では、窒素気流下、3-シアノフェノール(25.0g)と、3,7-ジメチル-1-オクタノール(41.5g)と、トリフェニルホスフィン(68.8g)と、テトラヒドロフラン(500mL)との混合液を0℃で攪拌した。前記の混合液にアゾジカルボン酸ジイソプロピル(53g)とテトラヒドロフラン(30mL)との混合液を滴下した後、終夜攪拌した。反応完了後、反応液を濃縮乾燥した後、濃縮物をトルエンで抽出して、純水で洗浄した。得られた溶液から有機層を分液した後、硫酸マグネスウムで乾燥し、ろ過後、溶媒を除去した。得られた濃縮物にヘキサン(200mL)を加えて、1時間攪拌して、乾燥した後、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、4-(3,7-ジメチルオクチルオキシ)ベンゾニトリル(45g)を得た。
【0128】
続いて、窒素気流下のフラスコに上記の4-(3,7-ジメチルオクチルオキシ)ベンゾニトリル(20.0g)と、カリウムtert-ブトキシド(11.3g)と、tert-アミルアルコール(160mL)との混合液を入れて還流させた。この混合液にコハク酸イソプロピル(6.8g)とtert-アミルアルコール(10mL)との混合液を3時間かけて滴下した後、1時間還流した。室温に戻した後、メタノール(100mL)と純水(100mL)とを加え、1時間還流した後、析出物をろ過して、過熱したメタノールで洗浄した。得られた個体を真空乾燥し、赤色粉末の3,6-ビス(3-(3,7-ジメチルオクチルオキシ)ピロロ[3,4-c]ピロール-1,4(2H,5H)-ジオン(7.8g)を得た。
【0129】
次に、窒素気流下のフラスコに上記の赤色粉末(7.0g)と、ピリジンアセトニトリル(3.5g)と、脱水トルエンとの混合液を入れて、30分間還流した後、塩化ホスホリル(14.3g)を加えて、4時間かけて還流した。室温に戻した後、濃縮乾燥して、濃縮物をジクロロメタンで抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。得られた反応液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、シリカゲルクロマトグラフィにより精製し、緑色固体(8.35g)を得た。
【0130】
続いて、窒素気流下のフラスコで、上記の緑色固体(8.0g)と、ジイソプロピルエチルアミン(10.8g)と、ジクロロメタン(100mL)との混合液を0℃で攪拌した。この混合液に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(11.3g)を滴下した後、室温で終夜攪拌した。次に、反応液に純水(100mL)を加え、30分間攪拌した後、ジクロロメタンで溶液を抽出した。得られた溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮乾燥した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィにより精製し、化合物1a(6.1g)を得た。
【0131】
続いて、窒素気流下のフラスコで、上記の化合物1a(1.0g)と、シアン化トリメチルシリル(1.8g)と、脱水ジクロロメタン(60mL)との混合液に三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート(0.3g)を加えて、室温で1時間攪拌した。次に、反応液に純水(60mL)を加え、30分間攪拌した後、ジクロロメタンで溶液を抽出した。得られた溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮乾燥した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィにより精製し、化合物1A(0.8g)を得た。この化合物1Aの1H-NMR分析結果は、次の通りである。
1H-NMR(CDCl3(d=ppm)):0.85-0.95(m,18H)、1.16-1.35(m,12H)、1.46-1.67(m,6H)、1.84-1.92(m,2H)、4.12-4.16(t,4H)、7.22-7.38(m,6H)、7.38-7.42(t,2H)、7.49-7.54(t,2H)、7.74-7.77(d,2H)、7.99-8.04(t,2H)、8.44-8.47(d,2H)
【0132】
【0133】
(合成例2)
以下に、本発明における合成例2の化合物2Aの合成方法について説明する。化合物2Aの合成方法では、4-(3,7-ジメチルオクチルオキシ)ベンゾニトリルの換わりに2-(キノリン-2-イル)アセトニトリル(2.5g)を用いたこと以外は合成例1と同じ方法で合成して、化合物2aを3.5g得た。続いて、得られた化合物2aを化合物1aの換わりに用いたこと以外は合成例1と同じ方法で合成して、化合物2Aを2.1g得た。この化合物2Aの1H-NMR分析結果は、次の通りである。
1H-NMR(CDCl3(d=ppm)):0.85-0.88(m,10H)、1.12-1.37(m,12H)、1.50-1.54(m,4H)、1.64-1.69(m,4H)、1.90-1.92(m,2H)、4.15-4.20(m,4H)、7.23-7.27(m,2H)、7.45-7.49(m,4H)、7.55-7.59(t,2H)、7.67-7.71(t,2H)、7.83-7.95(m,6H)、8.31-8.33(d,2H)、8.53-8.55(d,2H)
【0134】
【0135】
(合成例3~8)
本発明における合成例3~8では、合成例1と同じ方法により、化合物3A~9Aを各々合成した。
【0136】
【0137】
(実施例1)
本発明における実施例1の光学特性の評価について説明する。実施例1では、バインダー樹脂としてのポリエステル樹脂の100重量部に対して、クロロベンゼンを500重量部、発光材料としての化合物1Aを0.5重量部、混合した後、300rpmで3時間攪拌し、組成物を製造した。
【0138】
上記組成物を、ポリエチレンテレフタル酸フィルム(東レ先端素材社製XG7PL2)の上にバーコーティング方式を用いて塗布した後、150℃で5分間乾燥した。この結果、平均膜厚が10μmであるコーティング層を形成したフィルム(実施例1の成形体)が得られた。このフィルムは、本発明における発光装置の近赤外光変換部に適用される成形体の一例である、実施例1では、このようなフィルムを用いて光学特性の評価を行った。
【0139】
詳細には、このフィルムの発光特性を、浜松ホトニクス社製のQuantaurus-QYを用いて評価すると、ピーク波長が827nmである近赤外領域での発光が得られた。このピーク波長における発光スペクトルの半値幅は、110nmであった。また、実施例1の発光強度は、後述する従来の比較例2における発光強度を1.00としたときの相対値によって表され、1.05であった。また、室温下で波長が365nmのUV光を連続照射したところ、このフィルムの光吸収特性が5%低下するまでの時間(これを「光信頼性」の指標とする)は、600時間であった。実施例1の評価結果は、後述の表1にまとめた。
【0140】
(実施例2~9および比較例1~3)
本発明における実施例2~9および本発明に対する比較例1~3の光学特性の評価について説明する。実施例2~9および比較例1~3では、発光材料として表1に記載した化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製して光学特性を評価した。比較例1の発光材料としての化合物R1は、以下に示す化合物である。実施例2~9および比較例1~3の各評価結果は、表1に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
表1を参照して明らかなように、実施例1~9の各フィルムは、いずれも、比較例1~3に比べて高い光信頼性を有していた。また、発光装置の近赤外光変換部に適用されるフィルム(成形体)としては、発光のピーク波長が近赤外発光の波長領域(例えば700nm以上の領域)にあり且つ発光強度が比較的高いもの、すなわち、近赤外発光の発光効率がより高いものが好ましい。近赤外発光の発光効率の向上という観点から、近赤外発光のピーク波長は、より長波長であることが好ましい。したがって、実施例1~9の各フィルムは、いずれも、比較例1~3に比べて近赤外発光の発光効率が高いものである。以上より、実施例1~9の各フィルムは、近赤外発光の高い発光効率と高い光信頼性とを兼ね備えていることを確認できた。
【0144】
また、実施例1~9同士を比較した場合、近赤外発光のピーク波長をより長波長化できるという観点から、実施例2のフィルムが最も良好であり、実施例2についで実施例6が良好である。以下、実施例7、実施例8、実施例1、実施例5、実施例3、実施例9、実施例4が、この順で良好である。一方、発光材料としての化合物を合成し易いという観点から、実施例2、7、8が比較的良好である。これらについで、実施例6、実施例1、実施例5、実施例3、実施例9、実施例4が、この順で良好である。以上より、近赤外発光のピーク波長の長波長化および発光材料の合成し易さの双方の観点から、実施例2が最も良好である。実施例2のフィルムの合成に用いられた化合物2Aは、一般式(14)で表される化合物の一例である。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上のように、本発明に係る化合物、それを含む組成物、それを用いた成形体および発光装置は、近赤外発光の高い発光効率と高い信頼性との両立に適している。
【符号の説明】
【0146】
10 光源
11 近赤外光変換部
12 基材
13 バリアフィルム
15A、15B、15C、15D、15E 発光装置