(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】物品搬送設備
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230725BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20230725BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G05D1/02 P
(21)【出願番号】P 2020090372
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】萩原 孝一
(72)【発明者】
【氏名】正村 彰太
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-221687(JP,A)
【文献】特開2017-043257(JP,A)
【文献】特開2016-199348(JP,A)
【文献】特開2018-132332(JP,A)
【文献】特開2019-104581(JP,A)
【文献】特開2010-257363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0021845(US,A1)
【文献】特開2006-331110(JP,A)
【文献】特開平06-019548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 -13/045
G01M 99/00
G05D 1/00 - 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定の走行経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車の運行を制御する制御装置とを備えた物品搬送設備であって、
前記走行経路は、複数の前記物品搬送車の中から検査対象として指定された対象搬送車を走行させるための検査エリアの中に設定された経路を含み、
前記対象搬送車は、走行中の自車両の挙動を検出するセンサを備え、
前記制御装置は、
メンテナンス時期を判定するための前記物品搬送車の状態を表す情報を条件を揃えて取得するために、前記検査エリアの中に1台の前記対象搬送車のみが存在するように複数の前記物品搬送車を制御すると共に、前記検査エリアの中において当該対象搬送車を予め規定された検査走行パターンで走行させ、
前記制御装置は、前記検査走行パターンで走行中の前記対象搬送車から前記センサの検出結果に基づく検査データを取得する、物品搬送設備。
【請求項2】
前記センサは、前記対象搬送車を走行させるモータのトルク、前記対象搬送車の車輪又は前記車輪に連動する回転部材の回転速度、前記対象搬送車の振動の少なくとも1つを検出する、請求項1に記載の物品搬送設備。
【請求項3】
前記検査エリアには、直線状の経路、曲線状の経路、経路が複数に分岐する分岐部、複数の経路が合流する合流部が含まれ、
前記検査走行パターンは、加速、減速、定速走行を含む、請求項1又は2に記載の物品搬送設備。
【請求項4】
前記検査エリアは、前記物品搬送車の進行方向が同方向且つ並行して配置された2つの経路の内の一方を含んで設定されている、請求項1から3の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項5】
前記物品搬送車が搬送中の物品の重量を搬送重量として、
前記制御装置は、前記搬送重量が規定値であることを条件として、前記物品搬送車を前記対象搬送車として指定する、請求項1から4の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【請求項6】
前記対象搬送車は、前記検査データを取得する検出結果取得部と、前記検査データを送信する検査データ送信部と、を備え、
前記検査データ送信部は、前記制御装置へ前記検査データをワイヤレス送信する、請求項1から5の何れか一項に記載の物品搬送設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規定の走行経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、物品搬送車の運行を制御する制御装置とを備えた物品搬送設備に関する。
【背景技術】
【0002】
走行経路に沿って走行する物品搬送車を備えた物品搬送設備を適切にメンテナンスする上で、物品搬送車の消耗の程度を把握することが好ましい。特開2018-132332号公報(特許文献1)には、物品搬送車の車輪の摩耗の程度を検査する検査システムが開示されている。この検査システムは、複数の車輪のそれぞれの側面に設けられた車輪ごとに固有の識別マークと、走行経路の側方から走行中の車輪の全体像を撮影する撮影装置とを備え、撮影された画像データに基づいて、車輪の摩耗の程度を検査すると共に識別マークにより検査対象の車輪の個体特定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の検査システムは、車輪の摩耗を適切に検査することができる。しかし、物品を搬送中の物品搬送車は、様々な走行条件で走行するため、走行中の物品搬送車の挙動によって車輪の姿勢等も異なる場合がある。このため、検査結果にばらつきが生じる可能性がある。従って、メンテナンス時期を判定するための物品搬送車の状態を、条件を揃えて適切に検査できることが好ましい。
【0005】
上記背景に鑑みて、メンテナンス時期を判定するための物品搬送車の状態を表す情報を適切に取得することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた物品搬送設備は、規定の走行経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車の運行を制御する制御装置とを備えた物品搬送設備であって、前記走行経路が、複数の前記物品搬送車の中から検査対象として指定された対象搬送車を走行させるための検査エリアの中に設定された経路を含み、前記対象搬送車は、走行中の自車両の挙動を検出するセンサを備え、前記制御装置は、メンテナンス時期を判定するための前記物品搬送車の状態を表す情報を条件を揃えて取得するために、前記検査エリアの中に1台の前記対象搬送車のみが存在するように複数の前記物品搬送車を制御すると共に、前記検査エリアの中において当該対象搬送車を予め規定された検査走行パターンで走行させ、前記制御装置は、前記検査走行パターンで走行中の前記対象搬送車から前記センサの検出結果に基づく検査データを取得する。
【0007】
この構成によれば、予め規定された検査走行パターンで走行中の対象搬送車の挙動をセンサによって検出して、当該センサによる検査データを制御装置が取得する。従って、物品搬送車の状態を同じ条件で取得することができる。検査エリアの中には、1台の対象搬送車のみが存在するように制御されるから、対象搬送車は、他の物品搬送車の影響を受けることなく、検査エリアの中に設定された経路を予め規定された検査走行パターンで走行することができる。即ち、本構成によれば、メンテナンス時期を判定するための物品搬送車の状態を表す情報を適切に取得することができる。
【0008】
物品搬送車のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】分岐部において直進する物品搬送車の挙動を示す図
【
図5】分岐部において分岐する物品搬送車の挙動を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、物品搬送設備の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び
図7に示すように、物品搬送設備100は、走行経路1に沿って設置された走行レール2と、走行経路1に沿って走行して物品Wを搬送する複数の物品搬送車3と、物品搬送車3の運行を制御する設備コントローラH(制御装置)を備えている。本実施形態では、物品搬送車3として、後述するように天井に吊り下げ支持された走行レール2(
図2、
図3等参照)を走行し、物品Wを吊り下げ支持して搬送する天井搬送車を例示する。また、本実施形態では、物品搬送車3は、半導体ウエハを収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)を物品Wとして搬送する。
図1に示すように、物品搬送設備100には、半導体ウエハに種々の処理を行う物品処理部Pが複数備えられている。物品搬送車3は、複数の物品処理部Pへ物品Wを搬送する。
【0011】
以下、走行経路1に沿う方向を経路長手方向Xと称し、上下方向Zに見て、経路長手方向Xに対して直交する方向を経路幅方向Yと称して説明する。また、走行経路1において、物品搬送車3の走行方向(物品搬送車3が走行する方向)を下流側、その反対側を上流側と称して説明する。
【0012】
図1に示すように、走行経路1は、1つの環状の主経路1Pと、複数の環状の副経路1Sと、主経路1Pと副経路1Sとを接続する接続経路1Nとを備えている。副経路1Sは、それぞれ複数の物品処理部Pを経由して環状に形成され、分岐部1cと合流部1dとにおいて主経路1Pに接続されている。接続経路1Nには、主経路1Pから副経路1Sに向けて物品搬送車3を分岐走行させる分岐部1cにおける分岐用の接続経路1Nと、副経路1Sから主経路1Pに向けて物品搬送車3を合流走行させる合流部1dにおける合流用の接続経路1Nとを含む。物品搬送車3は、主経路1P及び複数の副経路1Sにおいては、いずれも同じ周回方向(本実施形態では時計回り)に走行する。尚、
図1においては、物品搬送車3の走行方向を矢印で示している。
【0013】
図3に示すように、走行レール2は、左右一対のレール部7により構成されている。
図2及び
図3に示すように、物品搬送車3は、天井から吊り下げ支持された走行レール2上を走行する走行部9と、走行レール2の下方に位置して走行部9に吊り下げ支持された本体部10と、走行経路1に沿って配設された給電線11から非接触で駆動用電力を受電する受電部12とを備えている。本体部10には、本体部10に昇降自在に備えられて物品Wを吊り下げ状態で支持する支持機構13が備えられている。
【0014】
走行部9は、物品搬送車3の前後方向に並ぶ第1走行部9Fと第2走行部9Rとを含む。第1走行部9F及び第2走行部9Rは、同一構成であり、以下特に区別する必要がない場合には、単に走行部9として説明する。走行部9には、走行用モータ14と、走行用モータ14により回転駆動される左右一対の走行輪15とが備えられている。左右一対の走行輪15は、走行レール2(左右一対のレール部7)の上面を転動する。また、走行部9には、上下方向Zに沿う縦軸心周り(上下軸心周り)で回転する案内輪16が備えられている。案内輪16は、走行部9の左右の片側において前後方向に2個並んで配置されると共に、走行部9の左右にそれぞれ配置されている。つまり、案内輪16は、1つの走行部9に4つずつ備えられている。案内輪16は、左右一対のレール部7の互いに対向する側面を転動する。案内輪16は、経路長手方向X(走行経路1に沿う方向)に離間した複数個所で走行レール2に接触する。
【0015】
第1走行部9F及び第2走行部9Rには、走行輪15の下端より下方に突出する状態でそれぞれ連結軸19が備えられている。第1走行部9Fの連結軸19と本体部10とは、上下方向Zに沿う縦軸心周りに相対回転可能に連結されている。第2走行部9Rの連結軸19と本体部10とも、上下方向Zに沿う縦軸心周りに相対回転可能に連結されている。つまり、第1走行部9Fと、第2走行部9Rとは、それぞれ異なる縦軸心周りに独立して回転可能である。
【0016】
物品搬送車3は、走行部9の走行輪15が走行用モータ14により回転駆動され、走行部9の案内輪16が一対の走行レール2により案内されることによって、経路幅方向Yでの位置が規制されながら、走行経路1に沿って走行する。また、物品搬送車3は、第1走行部9F及び第2走行部9Rが本体部10に対して縦軸心周りに揺動することにより、曲線経路1b、分岐部1c、合流部1dなど、曲線状の経路であっても走行経路1に沿って走行することができる。
【0017】
図3~
図5に示すように、走行経路1における分岐部1cには、物品搬送車3の走行方向視において断面形状がT字形に形成されたガイドレール4が備えられている。また、物品搬送車3には、上下方向Zに沿う縦軸心周り(上下軸心周り)で回転する案内補助輪17が備えられている。案内補助輪17は、走行部9の中央部において左右方向に移動可能に、前後方向に2個並んで配置されている。案内補助輪17は、左右一対のレール部7の経路幅方向Yの中央部に配置されたガイドレール4よりも右側及び左側に位置変更可能に備えられ、ガイドレール4の右側面或いは左側面に接触して回転する。ビークルコントローラ31は、分岐部1cにおいて案内補助輪17を
図3~
図4に示すように車体横幅方向(経路幅方向Y)に移動させる。
【0018】
図4に示すように、物品搬送車3を分岐部1cにおいて分岐させずに直進させる場合、ビークルコントローラ31は、案内補助輪17をガイドレール4の第1案内面41の側(進行方向に向いて左側)に位置させる。これにより、走行部9は、ガイドレール4の第1案内面41と案内補助輪17とが当接する状態で案内される。
図4に示すように、分岐部1cを直進する際、一対のレール部7の内、左右一方側(ここでは右側)の走行レール2が途切れるが、ガイドレール4が案内補助輪17を介して荷重を受止めて案内支持することで、走行部9が途切れていない左右他方側(ここでは左側)の走行レール2から脱落することが抑制され、物品搬送車3が分岐部1cにおいて直進走行できる。
【0019】
図5に示すように、物品搬送車3を分岐部1cにおいて分岐させる場合、ビークルコントローラ31は、案内補助輪17をガイドレール4の第2案内面42の側(進行方向に向いて右側)に位置させる。これにより、走行部9は、ガイドレール4の第2案内面42と案内補助輪17とが当接する状態で案内される。
図5に示すように、分岐部1cにおいて分岐する際、一対のレール部7の内、左右一方側(ここでは左側)の走行レール2が途切れるが、ガイドレール4が案内補助輪17を介して荷重を受止めて案内支持することで、走行部9が途切れていない左右他方側(ここでは右側)の走行レール2から脱落することが抑制され、物品搬送車3が分岐部1cにおいて分岐走行できる。
【0020】
上記においては、分岐部1cにおいて物品搬送車3が直進走行及び分岐走行する形態について説明したが、合流部1dにおいても同様である。
【0021】
図7に示すように、物品搬送車3は、ビークルコントローラ31と、通信部32と、アクチュエータ群Aと、センサ群Sとを備えている。センサ群Sには、走行経路1に沿って配置された位置情報を示す位置標章を読み取る不図示のコードリーダや、走行輪15の回転量に基づいて物品搬送車3の走行距離を検出する不図示のロータリエンコーダ、進行方向における他の物品搬送車3や障害物を検出する不図示の障害物センサ等を含む。アクチュエータ群Aには、走行輪15を駆動する走行用モータ14、案内補助輪17を車体横幅方向(経路幅方向Y)に移動させる不図示のアクチュエータ、支持機構13を昇降させる不図示のアクチュエータ等を含む。
【0022】
ビークルコントローラ31は、コードリーダやロータリエンコーダの検出結果に基づいて、走行経路1上における物品搬送車3の位置を判定する。それぞれの物品搬送車3の位置情報は、設備コントローラH及び他の物品搬送車3にワイヤレス通信によって送信される。設備コントローラHは、それぞれの物品搬送車3の位置情報に基づき、物品搬送設備100における物品搬送車3の走行を制御する。ビークルコントローラ31は、設備コントローラHからの搬送指令に基づいて物品Wを搬送する。ビークルコントローラ31は、当該搬送指令、自車両の位置情報、他車両の位置情報、障害物センサの検出結果等に基づき、物品Wを吊り下げ支持した物品搬送車3を自律走行させる。
【0023】
上述したように、物品搬送車3には、走行輪15、案内輪16、案内補助輪17などの走行レール2やガイドレール4との接触によって摩耗する部材や、走行用モータ14などのアクチュエータなど、物品搬送車3の走行に伴って消耗する部材がある。また、走行輪15、案内輪16、案内補助輪17などの車軸を支持する軸受けも、消耗したり、破損したりする場合がある。例えば軸受けが破損すると回転抵抗が大きくなる。このため、物品搬送車3は、点検や部品交換など、定期的にメンテナンスされることが好ましい。時期を定めてメンテナンスを行うことも可能であるが、必ずしもそれぞれの物品搬送車3にとって適切な時期にメンテナンスが行われるとは限らない。従って、物品搬送車3の各部の状態を検出して、物品搬送車3の状態に応じて部品交換や調整などのメンテナンスが行われると好ましい。
【0024】
そこで、本実施形態の物品搬送設備100では、実際に物品Wを搬送している物品搬送車3から検査データを収集し、当該検査データに基づいて部品の交換や調整等のメンテナンスの時期を判定する。この際、正常な基準値と検査データとを比較して、判定を行っても良いし、複数の検査データを集積したいわゆるビッグデータに基づいて判定を行ってもよい。ここで、検査データを抽出する対象の物品搬送車3を対象搬送車3Tと称する。対象搬送車3Tは、走行中の自車両の挙動を検出するセンサ(例えば振動センサS1)を備えている。対象搬送車3Tは、設備コントローラHにより、複数の物品搬送車3の中から検査対象として指定された物品搬送車3である。尚、全ての物品搬送車3が、対象搬送車3Tとして指定され得る形態であっても良いし、全ての物品搬送車3の内の一部が対象搬送車3Tとして指定され得る形態であっても良い。
【0025】
また、
図1及び
図6に示すように、走行経路1は、指定された対象搬送車3Tを走行させるための検査エリアEの中に設定された経路Kを含む。設備コントローラHは、検査エリアEの中に1台の対象搬送車3Tのみが存在するように複数の物品搬送車3を制御する。物品搬送車3は、自車両の前方に他の物品搬送車3(他車両)が存在する場合には、衝突を回避するために、走行速度を低下させたり、一旦停止して待機したりする場合がある。
図6に符号“3a”で示すように、対象搬送車3Tの前方に他車両が存在し、対象搬送車3Tが上述したように走行速度を低下させたり一旦停止したりすると、検査に適した走行ではなくなり、設備コントローラHが適切な検査データを得ることができない可能性がある。しかし、本実施形態では、検査エリアEの中に1台の対象搬送車3Tのみが存在するように複数の物品搬送車3の走行が制御される。従って、対象搬送車3Tは、自車両の前方の他車両に影響されることなく、検査に適した形態で走行することができる。
【0026】
また、設備コントローラHは、検査エリアEの中において対象搬送車3Tを予め規定された検査走行パターンで走行させる。設備コントローラHは、検査走行パターンで走行中の対象搬送車3Tからセンサ(振動センサS1など)の検出結果に基づく検査データを取得する。上述したように、検査エリアEには、対象搬送車3T以外の物品搬送車3(他車両)が存在しないように制御されているから、対象搬送車3Tは他車両に影響されることなく、規定の検査走行パターンで走行することができる。対象搬送車3Tが、他車両に影響されることなく、規定の検査走行パターンで走行することで、設備コントローラHは、再現性の高い検査データを得ることができる。
【0027】
ここで、対象搬送車3Tにおいて走行中の自車両の挙動を検出するセンサは、対象搬送車3Tを走行させる走行用モータ14のトルク、対象搬送車3Tの走行輪15又は走行輪15に連動する回転部材の回転速度、対象搬送車3Tの振動の少なくとも1つを検出するものである。
【0028】
例えば、走行輪15、案内輪16、案内補助輪17等が消耗によって摩擦力が大きくなった場合には、回転抵抗が大きくなって走行用モータ14に大きなトルクが必要になる場合がある。トルクの大きさは、トルクセンサによって検出しても良いし、走行用モータ14の駆動回路に流れる電流の大きさ等に基づいて検出してもよい。尚、トルクの大きさは、トルクセンサを用いる形態に限らず、ビークルコントローラ31において走行用モータ14を制御するサーボドライバを用いて算出される形態であってもよい。
【0029】
また、走行輪15の径が摩耗等によって小さくなると、同じ回転速度であっても、走行距離が異なる。例えば、上述したように、走行経路1に沿って位置情報を示す位置標章が配置されている場合には、位置標章に基づいて走行距離を検出することができる。この走行距離と、回転速度に基づく走行距離とを比較することで、走行輪15の摩耗の状態を判定することができる。従って、走行輪15の回転速度を検出するセンサ(ロータリエンコーダなどの回転センサ)を、挙動を検出するセンサとすることができる。尚、走行輪15の回転速度に限らず、走行用モータ14から走行輪15までの動力伝達経路に備えられた回転部材の回転速度を検出するセンサであってもよい。また、位置標章を読み取るコードリーダも、挙動を検出するセンサに含まれていてもよい。
【0030】
また、走行輪15、案内輪16、案内補助輪17等が摩耗等によって消耗すると、物品搬送車3の安定性が崩れ、走行中の物品搬送車3の振動が増加する場合がある。振動センサS1によって、振動の大きさを検出することによって、設備コントローラHは、走行輪15、案内輪16、案内補助輪17等の消耗の度合いを判定することができる。従って、振動センサS1は、挙動を検出するセンサに相当する。
【0031】
ところで、上記においては、主に物品搬送車3の部品の摩耗等の状態を判定する形態を例示した。しかし、そのような形態に限らず、ロータリエンコーダの検出結果に基づく物品搬送車3の位置と、コードリーダの検出結果に基づく物品搬送車3の位置との差に基づいて、ロータリエンコーダの状態が診断されてもよい。また、走行経路1上に指定された停止位置と、物品搬送車3の実際の停止位置との差を検査データとして、コードリーダやその他の停止位置検出センサ(不図示)等のセンサ感度などが診断されてもよい。
【0032】
上述したように、走行輪15は走行レール2の上面を転がり、案内輪16は走行レール2の側面を転がる。つまり、走行輪15及び案内輪16は、分岐部1cや合流部1d内の一部を除く走行経路1の全域で、走行レール2に接触する。一方、案内補助輪17はガイドレール4の側面を転がる。ガイドレール4は、分岐部1cや合流部1dに設けられているため、案内補助輪17は、走行経路1の一部、具体的には分岐部1cや合流部1dでのみ、ガイドレール4に接触する。従って、検査エリアEには、経路Kが複数に分岐する分岐部1c、複数の経路Kが合流する合流部1dが含まれていると好ましい。また、分岐部1c及び合流部1d以外の経路Kの形状は、直線に限らず曲線の場合もある。従って、検査エリアEには、直線状の経路(直線経路1a)及び曲線状の経路(曲線経路1b)が含まれていると好ましい。
【0033】
図1には、1つのまとまった検査エリアEに、直線経路1a、曲線経路1b、分岐部1c、合流部1dが含まれている形態を例示している。しかし、検査エリアEは、複数箇所に分かれて配置されていてもよい。例えば、直線経路1aのみを含む第1の検査エリアE、曲線経路1bのみを含む第2の検査エリアE、分岐部1cを含む第3の検査エリアE、合流部1dを含む第4の検査エリアEが分かれて配置されていてもよい。
【0034】
また、
図1及び
図6には、通常、物品Wを搬送するために物品搬送車3が走行する経路K(通常経路K1)とは別に、検査用の経路K(検査用経路K2)が設けられている形態を例示している。しかし、検査用経路K2の全て、又は一部が、通常経路K1を兼用して設けられていてもよい。例えば、
図1及び
図6に例示する形態のように、検査用経路K2が通常経路K1とは別に設けられている場合であっても、通常経路K1から検査用経路K2への分岐部1c、検査用経路K2から通常経路K1への合流部1dは、通常経路K1と検査用経路K2とで兼用されているということができる。
【0035】
また、検査走行パターンは、加速、減速、定速走行を含むように設定されている。例えば、加速や減速の際には、走行レール2と走行輪15との摩擦力も影響する。走行輪15の消耗の程度に応じて、走行輪15に滑りが生じる場合もある。定速走行だけでなく、加速や減速も含んで検査走行パターンが設定されていることで、設備コントローラHは、適切な検査データを得ることができる。
【0036】
また、
図1及び
図6に示すように、本実施形態では、検査エリアEは、物品搬送車3の進行方向が同方向且つ並行して配置された2つの経路Kの内の一方(検査用経路K2)を含んで設定されている。このように検査エリアEが設定されることで、
図6に符号“3b”で示す物品搬送車3のように、通常経路K1を使って対象搬送車3Tに指定されていない物品搬送車3を走行させると共に、並行する検査用経路K2を使って対象搬送車3Tを走行させることができる。対象搬送車3Tは、他車両の影響を受けること無く、検査用経路K2を検査走行パターンに基づいて走行することができる。また、検査用経路K2に並行する通常経路K1には、物品Wを搬送するために他の物品搬送車3を走行させることができるので、物品搬送設備100の搬送効率の低下も抑制される。
【0037】
図6に示すように、検査用経路K2と通常経路K1とが並行して設置されている場合、通常経路K1から検査用経路K2への分岐部1cと、検査用経路K2から通常経路K1への合流部1dは、検査用経路K2と通常経路K1との双方を含む。従って、検査エリアE(検査用経路K2)は、
図6に示すように、分岐部1c及び合流部1dを含む通常経路K1における並行区間Fに並行して配置されているということができる。
【0038】
ところで、上述したように、複数の物品搬送車3の内の一部である複数台、或いは全てが対象搬送車3Tに指定される可能性がある。本実施形態では、搬送中の物品Wの重量(搬送重量)が共通の規定値であることを条件として対象搬送車3Tとして指定される。これにより、設備コントローラHは、条件を揃えて検査データを収集することができる。
【0039】
物品WとしてのFOUPには、半導体ウエハが収容されるので、例えば、半導体ウエハが満載されているFOUPの重量、半導体ウエハが収容されていないFOUP(空のFOUP)の重量、或いは半導体ウエハが規定された枚数分収容されているFOUPの重量を搬送重量の規定値とすることができる。例えば、物品搬送車3の走行にとって最も厳しい条件、すなわち最も主に搬送重量である、半導体ウエハが満載されているFOUPの重量を、規定値とすると好適である。尚、搬送重量は、物品搬送車3が物品Wを支持していない状態、つまりゼロも含む。設備コントローラHは、搬送重量が規定値であることを条件として、規定値の搬送重量の物品Wを搬送中の物品搬送車3を対象搬送車3Tとして指定する。
【0040】
図7に示すように、物品搬送車3は、設備コントローラHとの間でワイヤレス通信可能な通信部32を備えている。センサ群Sからビークルコントローラ31が取得した検査データは、通信部32から設備コントローラHにワイヤレス送信される。即ち、対象搬送車3Tは、検査データを取得する検出結果取得部としてのビークルコントローラ31と、検査データを送信する検査データ送信部としての通信部32とを備えており、通信部32は、設備コントローラHへ検査データをワイヤレス送信する。設備コントローラHは、逐次、検査データを受け取り、蓄積することができる。
【0041】
尚、
図7に示すように、対象搬送車3Tは、ビークルコントローラ31が取得した検査データを記憶するメモリなどの記憶媒体によって構成された検出結果記憶部33を備えていてもよい。この場合、通信部32は、検出結果記憶部33に蓄積された検査データを定期的に設備コントローラHに送信してもよい。また、検出結果記憶部33に蓄積された検査データは、設備コントローラHとの有線接続によって、設備コントローラHに送信されてもよい。或いは、検査データは、対象搬送車3T及び設備コントローラHに対して着脱可能なメモリーカード等を介して送信されてもよい。また、検出結果記憶部33が対象搬送車3Tに対して着脱可能な場合は、設備コントローラHは、対象搬送車3Tから取り外した検出結果記憶部33を設備コントローラHに接続して検査データを取得してもよい。
【0042】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0043】
(1)上記においては、物品搬送車3として、走行レール2に吊り下げ支持された状態で走行する天井搬送車を例示して説明したが、物品搬送車3は、レール上に載置支持された状態で走行する搬送車であってもよい。或いは、物品搬送車3は、レール以外によって構成された経路(例えば床面)を走行する搬送車であっても良い。
【0044】
(2)上記においては、1つ或いは複数の検査エリアEに、経路Kとして、直線経路1a、曲線経路1b、分岐部1c、合流部1dが含まれている形態を例示した。つまり、検査用経路K2が、これら全ての形状の経路Kを含む形態を例示した。しかし、検査用経路K2は、これらの内の少なくとも1つを含んで構成されていてもよい。また、分岐部1c及び合流部1dの他、走行経路1に2つの経路Kが交差する交差部(不図示)が含まれる場合には、検査用経路K2に交差部がふくまれていると好適である。
【0045】
(3)上記においては、設備コントローラHが、搬送重量が規定値であることを条件として、対象搬送車3Tとなる物品搬送車3を指定する形態を例示した。しかし、設備コントローラHは、搬送重量に関係なく、例えば、物品搬送車3の走行経路1における位置(検査用経路K2に対する位置)に基づいて対象搬送車3Tを指定してもよい。尚、搬送重力に関係なく対象搬送車3Tを指定する場合には、搬送重量も検査データとして取得されると好適である。
【0046】
(4)上記においては、検査データの送信先が設備コントローラHである形態を例示した。しかし、この形態に限らず、検査データの送信先は、設備コントローラHとは別に設けられたデータサーバ等であってもよい。
【0047】
(5)上記においては、検査走行パターンが、加速、減速、定速走行を含むように設定されている形態を例示した。しかし、この形態に限らず、例えば、検査走行パターンが定速走行のみとなるように設定されていても良い。
【0048】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明し物品搬送設備の概要について簡単に説明する。
【0049】
1つの態様として、物品搬送設備は、規定の走行経路に沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送車と、前記物品搬送車の運行を制御する制御装置とを備えた物品搬送設備であって、前記走行経路が、複数の前記物品搬送車の中から検査対象として指定された対象搬送車を走行させるための検査エリアの中に設定された経路を含み、前記対象搬送車は、走行中の自車両の挙動を検出するセンサを備え、前記制御装置は、前記検査エリアの中に1台の前記対象搬送車のみが存在するように複数の前記物品搬送車を制御すると共に、前記検査エリアの中において当該対象搬送車を予め規定された検査走行パターンで走行させ、前記制御装置は、前記検査走行パターンで走行中の前記対象搬送車から前記センサの検出結果に基づく検査データを取得する。
【0050】
この構成によれば、予め規定された検査走行パターンで走行中の対象搬送車の挙動をセンサによって検出して、当該センサによる検査データを制御装置が取得する。従って、物品搬送車の状態を同じ条件で取得することができる。検査エリアの中には、1台の対象搬送車のみが存在するように制御されるから、対象搬送車は、他の物品搬送車の影響を受けることなく、検査エリアの中に設定された経路を予め規定された検査走行パターンで走行することができる。即ち、本構成によれば、メンテナンス時期を判定するための物品搬送車の状態を表す情報を適切に取得することができる。
【0051】
また、前記センサは、前記対象搬送車を走行させるモータのトルク、前記対象搬送車の車輪又は前記車輪に連動する回転部材の回転速度、前記対象搬送車の振動の少なくとも1つを検出すると好適である。
【0052】
制御装置は、トルクや回転速度が検出されることによって、車輪やモータの消耗度合いを判定することができる。また、振動が検出されることによって、制御装置は車輪の偏った摩耗や、回転部材の緩み等を判定することができる。
【0053】
また、前記検査エリアには、直線状の経路、曲線状の経路、経路が複数に分岐する分岐部、複数の経路が合流する合流部が含まれ、前記検査走行パターンは、加速、減速、定速走行を含むと好適である。
【0054】
この構成によれば、検査エリアに種々の形態の経路が含まれることによって、様々な経路を走行する場合の検査データが得られる。また、検査走行パターンが、種々の走行状態を含むことによって、様々な走行形態の場合の検査データが得られる。
【0055】
また、前記検査エリアは、前記物品搬送車の進行方向が同方向且つ並行して配置された2つの経路の内の一方を含んで設定されていると好適である。
【0056】
この構成によれば、例えば、対象搬送車が、通常の経路から検査用の経路に分岐して検査用の経路を走行し、再び、通常の経路に戻り易い。また、対象搬送車の走行によって、物品を搬送するための経路が塞がれないため、対象搬送車以外の物品搬送車による物品の搬送を妨げにくい。従って、本構成によれば、物品搬送設備における物品搬送車の利用効率の低下を抑制しながら、適切に検査データを得ることができる。
【0057】
また、前記物品搬送車が搬送中の物品の重量を搬送重量として、前記制御装置は、前記搬送重量が規定値であることを条件として、前記物品搬送車を前記対象搬送車として指定すると好適である。
【0058】
この構成によれば、対象搬送車の搬送重量に関する条件を一定に揃えることで、複数の対象搬送車同士における検査データの比較が容易となる。また、複数の対象搬送車の検査データに基づいて、物品搬送車の全体の傾向も判定し易くなる。
【0059】
また、前記対象搬送車が、記検査データを取得する検出結果取得部と、前記検査データを送信する検査データ送信部と、を備え、前記検査データ送信部が前記制御装置へ前記検査データをワイヤレス送信すると好適である。
【0060】
この構成によれば、制御装置は、対象搬送車から逐次、検査データを取得することができる。また、対象搬送車は、複数回の検査データを蓄積するような大きな容量の記憶装置を持たなくてよい。
【符号の説明】
【0061】
1 :走行経路
1a :直線経路(直線状の経路)
1b :曲線経路(曲線状の経路)
1c :分岐部
1d :合流部
3 :物品搬送車
3T :対象搬送車
14 :走行用モータ(対象搬送車を走行させるモータ)
15 :走行輪(対象搬送車の車輪)
32 :通信部(検査データ送信部)
100 :物品搬送設備
E :検査エリア
H :設備コントローラ(制御装置)
K :経路
S :センサ群(走行中の自車両の挙動を検出するセンサ)
S1 :振動センサ(走行中の自車両の挙動を検出するセンサ)
W :物品