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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20230725BHJP
   H01M 4/57 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/57
H01M4/62 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020548529
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036445
(87)【国際公開番号】W WO2020066764
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018179410
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 優作
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-43861(JP,A)
【文献】特開2016-46118(JP,A)
【文献】特開2010-113932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/06-10/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛を含む負極合剤を有し、
表面に存在する上記負極合剤のX線回折スペクトルにおいて、回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が0.05以上である鉛蓄電池用負極。
【請求項2】
鉛を含む負極合剤を有し、
表面に存在する上記負極合剤の少なくとも一部が鱗片状の形状を有し、上記鱗片状の形状のアスペクト比が3以上10以下である鉛蓄電池用負極。
【請求項3】
上記負極合剤の比表面積が0.55m/g以上0.8m/g以下である請求項1又は請求項2の鉛蓄電池用負極。
【請求項4】
上記負極合剤の比表面積が0.6m/g以上0.75m/g以下である請求項3の鉛蓄電池用負極。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項の鉛蓄電池用負極を備える鉛蓄電池。
【請求項6】
アイドリングストップ車用である請求項5の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用等、様々な用途で広く使用されている。例えば車載用の鉛蓄電池は、セルモータ駆動用電源や車内電気機器用電源として用いられている。
【0003】
鉛蓄電池においては、各種性能を改善するために、負極活物質に対してカーボン等の添加剤が添加されている(特許文献1参照)。特許文献1には、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、硫酸バリウム及びオイルファーネスブラックが負極活物質に添加された鉛蓄電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-152955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の燃費向上を目的として、エンジンのアイドリングを停止するシステムが普及しつつある。これらのシステムを採用した自動車(アイドリングストップ車)に備わる鉛蓄電池においては、従来の自動車に備わる蓄電素子と比べて、充放電の頻度が高い。また、短い時間でより多くの電力を充電できることが求められる。このように、アイドリングストップ車用の鉛蓄電池においては、効率のよい充電が可能であることが要求される。しかし、従来の鉛蓄電池は、この要求に十分に応えられるものではない。ここで、例えばアイドリングストップ寿命試験として、所定の短時間の充放電を繰り返す試験方法が、電池工業会規格SBA S 0101に規定されている。充電の効率が悪いと、このようなアイドリングストップ寿命試験において、放電電圧の低下が早く、寿命が短くなる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる鉛蓄電池用負極、及び充電効率が良い鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、鉛を含む負極合剤を有し、表面に存在する上記負極合剤のX線回折スペクトルにおいて、回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が0.05以上である鉛蓄電池用負極(A)である。
【0008】
本発明の他の一態様は、鉛を含む負極合剤を有し、表面に存在する上記負極合剤の少なくとも一部が鱗片状の形状を有し、上記鱗片状の形状のアスペクト比が3以上10以下である鉛蓄電池用負極(B)である。
【0009】
本発明の他の一態様は、当該鉛蓄電池用負極(A)又は鉛蓄電池用負極(B)を備える鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる鉛蓄電池用負極、及び充電効率が良い鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
図2図2は、実施例4の鉛蓄電池における表面に存在する負極合剤のX線回折スペクトルである。
図3図3は、比較例5の鉛蓄電池における表面に存在する負極合剤のX線回折スペクトルである。
図4図4は、実施例4の鉛蓄電池における表面の負極合剤の電子顕微鏡写真である。
図5図5は、比較例5の鉛蓄電池における表面の負極合剤の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極は、鉛を含む負極合剤を有し、表面に存在する上記負極合剤のX線回折スペクトルにおいて、回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が0.05以上である鉛蓄電池用負極(A)である。
【0013】
当該鉛蓄電池用負極(A)は、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。充放電を繰り返すことにより負極合剤内で粗大化する硫酸鉛が、充電受入性等を低下させる原因の一つであることが知られている。負極合剤内又は負極合剤表面に存在する硫酸鉛は、充電時には還元され、電解液に溶出するものの、充放電が繰り返されるにつれて、硫酸鉛は還元及び溶出し難くなり、粗大化が進む。そこで、負極合剤を硫酸鉛が還元及び溶出されやすい形状とすれば、硫酸鉛の粗大化が抑制され、充電効率が改善されると考えられる。ここで、X線回折スペクトルにおける回折角30.3°近傍のピークは、鉛を含む負極合剤において鱗片状の形状(鱗片状の突起物が形成された形状)が形成されている場合に現れることを発明者らは知見した。表面に存在する負極合剤がこのような鱗片状の形状ものを含む場合、硫酸鉛は鱗片状の形状の狭い隙間に生成することとなるため、粗大化し難いと考えられる。また、鱗片状の形状の隙間にまで電解液が浸透しているため、生成した硫酸鉛が電解液に接触する面積が大きい。このため、当該鉛蓄電池用負極(A)を使用した場合、負極で生成した硫酸鉛が還元時に還元及び溶解しやすく、充電効率が改善されているものと推測される。あるいは、上記30.3°近傍のピークは酸化鉛に対応すると考えられることから、鱗片状の形状が形成されているか否かに関係なく、表面に存在する負極合剤中に酸化鉛が存在すること自体が、硫酸鉛を還元しやすくしているなど、充電効率の改善に寄与しているとも推測される。
【0014】
鉛蓄電池用負極の表面とは、鉛蓄電池に組み込まれた状態において正極と対向する面をいい、表面に存在する負極合剤とは、この正極と対向する面に露出する負極合剤をいう。本明細書において、表面に存在する負極合剤のX線回折スペクトルは、以下の方法により測定した値とする。
I.前処理
まず、鉛蓄電池を満充電状態(SOC100%)とする。鉛蓄電池を満充電状態にする充電条件は以下の通りである。液式(ベント式)電池の場合、25℃、水槽中、0.2Cで2.5V/セルに達するまで定電流充電をおこなった後、さらに0.2Cで2時間、定電流充電を行う。制御弁式(密閉式)電池の場合、25℃、気槽中、0.2C、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mC以下になった時点で充電を終了する。なお、1Cは、電池の公称容量を1時間で放電する電流値であり、例えば公称容量が30Ahの電池であれば1Cは30Aである。満充電状態の鉛蓄電池を分解し、負極を取り出し、流水にて4時間水洗浄を行う。その後、乾燥温度70℃、真空度約150kPaにて12時間真空乾燥を行う。
II.測定
上記前処理を行った負極に対して、負極合剤を表面から1cmあたり0.048gの量でスパチュラによって採取し、乳鉢で粉砕する。粉砕した負極合剤2gを試料台に充填し、測定を行う。測定条件は以下の通りである。
測定機器:リガク製Smart Lab 水平ゴニオメーターθ-θ型
Target:Cu
電圧/電流:40kV/30mA
検出器:Dtex250(H)
X線回折チャート測定
走査モード:連続Scan
測定角度:2θ=20°~60°
スキャン速度:10°/min
スキャンステップ:0.02°
【0015】
本発明の他の実施形態に係る鉛蓄電池用負極は、鉛を含む負極合剤を有し、表面に存在する上記負極合剤の少なくとも一部が鱗片状の形状を有し、上記鱗片状の形状のアスペクト比が3以上10以下である鉛蓄電池用負極(B)である。当該鉛蓄電池用負極(B)によっても、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる。この理由も定かではないが、上述した鉛蓄電池用負極(A)における理由と同様のことが推測される。
【0016】
本明細書において、鱗片状とは単に薄い形状をいい、その平面形状は特に限定されるものでは無い。また、鱗片状の形状のアスペクト比は、以下の方法により測定した値とする。上述した「I.前処理」と同様の前処理を行った負極から、負極合剤の塊を採取する。採取した負極合剤の塊を割り、破断面を得る。得られた負極合剤の破断面部に金蒸着を行う。その後、その負極合剤を電子顕微鏡装置に入れ、破断面を観測する。電子顕微鏡による観測条件は以下に示す。観測された画像から、表面に存在する鱗片状の形状のものについて最大幅と最大厚みとを求め、最大厚みに対する最大幅の比率(最大幅/最大厚み)をアスペクト比とする。
測定機器:TOPCON製走査電子顕微鏡 SM-300
加速電圧:15kV
倍率:50倍、100倍、500倍、1000倍、2000倍(これらの倍率のうち、表面に存在する負極合剤の形状が最も鮮明に観測できる倍率を採用する。)
【0017】
当該鉛蓄電池用負極(A)及び鉛蓄電池用負極(B)の負極合剤の比表面積が0.55m/g以上0.8m/g以下であることが好ましい。このようにすることで、充電効率がより良好になる。この理由は、負極合剤の比表面積が上記範囲である場合、負極合剤の隙間に生成した硫酸鉛がより溶解しやすい状態となっていることなどが推測される。
【0018】
本明細書において、負極合剤の比表面積は、以下の方法により測定した値(BET比表面積)とする。上述した「I.前処理」と同様の前処理を行った負極から、負極合剤の塊を採取する。採取した負極合剤(約3.5g)を測定セルに入れる。100℃で1時間真空脱気処理を行った後、測定セルを装置に取り付け、以下の条件で測定を行う。
測定機器:島津製作所製 比表面積/細孔分布測定装置 TriStar3000
測定条件:BET8点法
吸着ガス:窒素
【0019】
当該鉛蓄電池用負極(A)及び鉛蓄電池用負極(B)の負極合剤の比表面積が0.6m/g以上0.75m/g以下であることがより好ましい。このようにすることで、充電効率がさらに良好になる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池は、当該鉛蓄電池用負極(A)又は鉛蓄電池用負極(B)を備える鉛蓄電池である。当該鉛蓄電池は、上述した本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極(A)又は鉛蓄電池用負極(B)を備えるため、充電効率が良い。
【0021】
当該鉛蓄電池は、アイドリングストップ車用であることが好ましい。当該鉛電池は、充電効率が良いため、短時間での効率的な充電が要求されるアイドリングストップ車に好適に用いることができる。
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池について、順に詳説する。
【0023】
<鉛蓄電池用負極(A)>
本発明の一実施形態である鉛蓄電池用負極(A)の一例である負極板は、負極集電体と負極合剤とを具備する。負極合剤は、負極集電体に保持されている。
【0024】
(負極集電体)
負極集電体は、通常、格子板状である。負極集電体は、鉛(Pb)又は鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛又は鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)が挙げられる。
【0025】
負極集電体に用いられる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金等が挙げられる。これらの鉛又は鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cu等の元素を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。
【0026】
(負極合剤)
負極合剤は、鉛を含む。
【0027】
鉛は、負極活物質として機能する成分であり、通常、負極合剤における主成分である。負極合剤に占める鉛の含有量は、例えば90質量%以上99.99質量%以下とすることができる。負極合剤中の鉛の一部又は全部は、硫酸鉛、酸化鉛等として存在していてもよい。
【0028】
負極合剤には、鉛以外に、必要に応じて、カーボンブラック等の炭素質材料、硫酸バリウム、リグニン等の他の添加剤を含有させることができる。
【0029】
負極合剤のうちの表面に存在する負極合剤のX線回折スペクトルにおいて、回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が0.05以上である。回折角31.2°近傍のピークは、一般的な鉛において強く現れる、基準となるピークである。この回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が大きい場合、鉛が酸化鉛となり、鱗片状に成長していることを意味すると考えられる。回折角31.2°近傍のピークは、31.2°±0.3°内に現れるピークであってよく、31.2°±0.1°内に現れるピークであってよい。回折角30.3°近傍のピークは、30.3°±0.3°内に現れるピークであってよく、30.3°±0.1°内に現れるピークであってよい。
【0030】
上記ピーク高さの比の下限は0.05であるが、0.1が好ましく、0.15がより好ましい。このピーク高さ比を高くすることで、充電効率がより改善される。一方、このピーク高さ比の上限としては、例えば1であり、0.5、0.4又は0.3であってもよい。
【0031】
負極合剤のうちの表面に存在する負極合剤のX線回折スペクトルにおいて、回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が0.05以上である場合、通常、表面に存在する負極合剤の少なくとも一部が鱗片状の形状を有する。この鱗片状の形状を構成する成分は、鉛を含む成分であると推測される。また、この鱗片状の形状の負極合剤の平面形状は特に限定されないが、例えば扇形、半円などであってよい。この鱗片状の形状のアスペクト比の下限としては、3が好ましく、5がより好ましい。一方、このアスペクト比の上限は、例えば10であってよく、8又は7であってもよい。
【0032】
表面に存在する負極合剤を、鱗片状の形状のものと、その他の形状(球状、塊状等)のものとに分けた場合、鱗片状の形状のものの数が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。この負極合剤の形状の差異による分類は、上述した「鱗片状の形状のアスペクト比」を測定する際の条件で得られる電子顕微鏡の画像から行うものとする。
【0033】
負極合剤の比表面積の下限としては、例えば0.4m/g又は0.5m/gであってもよいが、0.55m/gが好ましく、0.6m/gがより好ましい。負極合剤の比表面積が上記下限以上である場合、電解液が負極合剤の内部にまで十分に浸透できることなどにより、充電時に硫酸鉛がより溶出しやすくなり、充電効率がより良好になる。負極合剤の比表面積の上限としては、例えば1m/gであってもよいが、0.8m/gが好ましく、0.75m/gがより好ましい。負極合剤の比表面積が上記上限以下である場合、ガスが発生する電解反応が抑制されることなどにより、充電効率がより良好になる。
【0034】
(負極の製造方法)
負極板は、未化成の負極板を化成処理することにより得られる。未化成の負極板は、通常、負極活物質の原料となる一酸化鉛を主成分とする鉛粉末を用いて作製される。具体的には、負極集電体に負極合剤ペーストを充填し、常法に従って熟成及び乾燥することにより未化成の負極板を作製する。負極合剤ペーストは、例えば、一酸化鉛を主成分とする鉛粉末に添加剤としてカーボンブラックとリグニンと硫酸バリウムとを所定の比率で混合した後、水と50%希硫酸を所定の比率で混合することにより得ることができる。未化成の負極板の熟成及び乾燥は、室温より高温かつ高湿度で行うことが好ましい。
【0035】
得られた未化成の負極板を化成処理することにより、鉛粉末が海綿状鉛となった負極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池又は極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成し、負極板として用いることができる。
【0036】
ここで、上記ピーク高さ比を有する負極合剤、すなわち表面に存在する負極合剤の少なくとも一部が鱗片状の形状を有する負極合剤は、化成処理条件や、負極合剤への添加剤の調整により得ることができる。具体的には、比表面積の比較的小さいカーボンブラック、平均粒子径の比較的小さい硫酸バリウム、及び分子量の比較的小さいリグニンを組み合わせて用い、所定条件で化成処理を行うと、上記負極合剤が得られやすくなる。例えば、用いるカーボンブラックの比表面積としては70~240m/gとすることができ、100~200m/gが好ましい。用いる硫酸バリウムの平均粒子径としては0.1~0.5μmとすることができ、0.2~0.4μmが好ましい。用いるリグニンの平均分子量としては1,000~10,000とすることができ、3,000~8,000が好ましい。カーボンブラックの添加量としては、鉛粉末に対して例えば0.1~1質量%とすることができる。硫酸バリウムの添加量としては、鉛粉末に対して例えば1~5質量%とすることができる。リグニンの添加量としては、鉛粉末に対して例えば0.01~0.5質量%とすることができる。また、負極合剤の比表面積は、用いる各成分の粒径、比表面積等や、化成処理条件などにより調整することができる。
【0037】
<鉛蓄電池用負極(B)>
本発明の一実施形態である鉛蓄電池用負極(B)は、表面に存在する負極合剤の少なくとも一部が鱗片状の形状を有し、上記鱗片状の形状のアスペクト比が3以上10以下であり、表面の負極合剤のX線回折スペクトルにおいて、回折角31.2°近傍のピーク高さに対する回折角30.3°近傍のピーク高さの比が0.05以上に限定されないこと以外は、上述した鉛蓄電池用負極(A)の形態と同様である。鉛蓄電池用負極(B)の具体的形態、好適形態及び製造方法は、上述した鉛蓄電池用負極(A)と同様とすることができる。
【0038】
鉛蓄電池用電極(B)における上記鱗片状の形状のアスペクト比の下限としては、4が好ましく、5がより好ましい。アスペクト比を上記下限以上とすることで、充電効率がより良好になる。一方、このアスペクト比の上限は、10であってよく、8又は7であってもよい。
【0039】
<鉛蓄電池>
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池は、負極としての負極板と、正極としての正極板と、電解液とを備える。負極板と正極板との間にはセパレータが配置される。負極板、正極板及びセパレータは、電解液中に浸漬している。当該鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池でもよく、制御弁式鉛蓄電池でもよいが、液式鉛蓄電池であることが好ましい。
【0040】
(負極板)
負極板には、上述した本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極(A)又は鉛蓄電池用負極(B)が用いられる。
【0041】
(正極板)
正極板は、ペースト式、クラッド式等に分類できる。
【0042】
ペースト式正極板は、通常、格子板状の正極集電体と、正極合剤とを具備する。正極合剤は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛又は鉛合金の鋳造や、鉛又は鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0043】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極合剤と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。
【0044】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性及び機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系等が好適である。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。
【0045】
正極合剤は、正極活物質(通常、二酸化鉛又は硫酸鉛)を含む。正極合剤は、正極活物質に加え、必要に応じて、硫酸スズ、鉛丹などの添加剤を含んでもよい。
【0046】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合と同様に、正極集電体に、常法によって得られた正極合剤ペーストを充填し、熟成及び乾燥することにより得られる。正極合剤ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸等を混練することで調製することができる。その後、未化成の正極板を化成する。クラッド式正極板は、芯金が挿入された多孔質なガラスチューブに鉛粉又はスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0047】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液には、ナトリウムイオン等の金属イオンがさらに含有されていてもよい。
【0048】
電解液は、必要に応じてゲル化させていてもよい。ゲル化の程度は、特に限定されない。流動性を有するゾルからゲル状態の電解液を用いてもよく、流動性を有さないゲル状態の電解質を用いてもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重の下限は、例えば1.1g/cmであり、1.2g/cmが好ましい。一方、この比重の上限は、例えば1.4g/cmであり、1.35g/cmが好ましい。
【0049】
(セパレータ)
セパレータには、不織布シート、微多孔膜等が用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて適宜選択すればよい。不織布シートは、ポリマー繊維やガラス繊維を主体とするシートであり、例えば60質量%以上が繊維成分で形成されている。一方、微多孔膜は、例えばポリマー粉末、シリカ粉末及びオイルを含む組成物をシート状に押し出し成形した後、オイルを抽出して細孔を形成することにより得られる。セパレータを構成する材料は、耐酸性を有するものが好ましく、ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0050】
(用途)
当該鉛蓄電池は、充電効率が良い。従って、当該鉛蓄電池は、自動車用等、一般的な鉛蓄電池が使用される各種用途に幅広く用いることができる。特に、多数の充放電が繰り返され、優れた充電効率が要求されるアイドリングストップ車用として好適に用いることができる。
【0051】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。鉛蓄電池1は、極板群11、電解液(図示せず)及びこれらを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16及び正極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0052】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2及び正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状セパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚6に負極柱9が接続され、正極棚5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0053】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記実施形態においては、正極及び負極をそれぞれ正極板及び負極板として説明したが、正極及び負極は、それぞれ板状に限定されるものではない。
【実施例
【0054】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
(1)未化成の負極板の作製
一酸化鉛を主成分とする鉛粉末に、比表面積が165m/gのカーボンブラックを0.3質量%、平均粒子径が0.3μmの硫酸バリウムを2.1質量%、及び質量平均分子量が6000のリグニンを0.05質量%添加した。この混合物にさらに水と50%希硫酸とを加えて混練し、負極合剤ペーストを得た。負極合剤ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成及び乾燥し、未化成の負極板を得た。
【0056】
(2)未化成の正極板の作製
原料の酸化鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極合剤ペーストを得た。正極合剤ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成及び乾燥し、未化成の正極板を得た。
【0057】
(3)電解液の調製
水に硫酸を添加し、電解液を調製した。
【0058】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、電槽内で化成を施し、実施例1の液式の鉛蓄電池を組み立てた。化成は、負極合剤に対して、3.3Ah/gの電気量で行った。
【0059】
<実施例2>
リグニンの添加量を0.07質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の鉛蓄電池を組み立てた。
【0060】
<実施例3>
カーボンブラックとして比表面積が140m/gのカーボンブラックを0.3質量%添加し、リグニンの添加量を0.10質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の鉛蓄電池を組み立てた。
【0061】
<実施例4>
リグニンの添加量を0.10質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の鉛蓄電池を組み立てた。
【0062】
<実施例5>
カーボンブラックとして比表面積が183m/gのカーボンブラックを0.3質量%添加し、リグニンの添加量を0.10質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の鉛蓄電池を組み立てた。
【0063】
<実施例6>
カーボンブラックとして比表面積が140m/gのカーボンブラックを0.3質量%添加し、リグニンの添加量を0.15質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の鉛蓄電池を組み立てた。
【0064】
<実施例7>
リグニンの添加量を0.15質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の鉛蓄電池を組み立てた。
【0065】
<実施例8>
カーボンブラックとして比表面積が183m/gのカーボンブラックを0.3質量%添加し、リグニンの添加量を0.15質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の鉛蓄電池を組み立てた。
【0066】
<実施例9>
リグニンの添加量を0.20質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9の鉛蓄電池を組み立てた。
【0067】
<実施例10>
リグニンの添加量を0.25質量%としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10の鉛蓄電池を組み立てた。
【0068】
<比較例1>
カーボンブラックとして比表面積が214m/gのカーボンを0.5質量%添加し、硫酸バリウムとして平均粒子径が0.6μmの硫酸バリウムを2.1質量%添加し、リグニンとして平均分子量が12000のリグニンを0.05質量%添加したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の鉛蓄電池を組み立てた。
【0069】
<比較例2>
リグニンとして平均分子量が12000のリグニンを0.07質量%添加したこと以外は比較例1と同様にして、比較例2の鉛蓄電池を組み立てた。
【0070】
<比較例3>
リグニンとして平均分子量が12000のリグニンを0.10質量%添加したこと以外は比較例1と同様にして、比較例3の鉛蓄電池を組み立てた。
【0071】
<比較例4>
リグニンとして平均分子量が12000のリグニンを0.15質量%添加したこと以外は比較例1と同様にして、比較例4の鉛蓄電池を組み立てた。
【0072】
<比較例5>
リグニンとして平均分子量が12000のリグニンを0.20質量%添加したこと以外は比較例1と同様にして、比較例5の鉛蓄電池を組み立てた。
【0073】
<比較例6>
リグニンとして平均分子量が12000のリグニンを0.25質量%添加したこと以外は比較例1と同様にして、比較例6の鉛蓄電池を組み立てた。
【0074】
[測定]
得られた各鉛蓄電池の負極に対して、上述した方法にて、負極合剤の比表面積、及び表面のX線回折(XRD)スペクトルを測定した。実施例4のXRDスペクトルを図2に、比較例5のXRDスペクトルを図3にそれぞれ示す。得られた比表面積、及びX線回折スペクトルにおける回折角(2θ)31.2°近傍のピーク高さに対する回折角(2θ)30.3°近傍のピーク高さの比を表1に示す。
【0075】
得られた各鉛蓄電池の負極に対して、上述した方法にて、負極合剤の表面の形状を観測した。形状及びその形状に基づくアスペクト比を表1に示す。なお、表1の形状の欄において、「通常」とは、アスペクト比が低い塊状又は球状であることを意味する。
【0076】
また、実施例4の鉛蓄電池における負極合剤の表面の電子顕微鏡写真を図4に示す。比較例5の鉛蓄電池における負極合剤の表面の電子顕微鏡写真を図5に示す。図4から、実施例4においては、表面に複数の鱗片状の突起物(鱗片状の形状)が形成されていることがわかる。一方、図5から、比較例5においては、このような鱗片状の形状は形成されていないことがわかる。
【0077】
[評価]
<アイドリングストップ(IS)寿命>
各鉛蓄電池に対して、以下の要領でアイドリングストップ寿命試験を実施した。0℃の雰囲気下で、300A×1.0秒間の放電と、25A×25秒間の放電と、14.0V×30秒間の充電を30サイクル繰り返す毎に6hの微小電流(20mA)放電をした。なお、微小電流放電は、エンジン停止時の暗電流放電を模擬している。上記サイクル30サイクルと6hの微小電流放電とを繰り返し、300A放電時の放電電圧が7.2V未満になった時点を寿命とした。IS寿命が長い場合と、充電効率が優れると判断できる。
【0078】
評価結果を表1に示す。なお、表1におけるIS寿命は、比較例1を基準(100%)とした相対値として示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示されるように、実施例1~10の鉛蓄電池は、いずれもIS寿命が130%以上であり、充電効率が良好な結果となった。また、各実施例同士を比較すると、負極合剤の比表面積が0.55m/g以上0.8m/g以下である場合や、X線回折スペクトルにおけるピーク高さ比がより高い場合、IS寿命がより長くなることがわかる。一方、負極合剤の表面の形状が鱗片状では無く、X線回折スペクトルにおけるピーク高さ比が低い比較例1~6の鉛蓄電池は、いずれもIS寿命が短く、充電効率が不十分な結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の鉛蓄電池は、自動車、バイク、電動車両(フォークリフトなど)、産業用蓄電装置などの電源として用いられ、特にアイドリングストップ車用の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0082】
1 鉛蓄電池
2 負極板
3 正極板
4 セパレータ
5 正極棚
6 負極棚
7 正極柱
8 貫通接続体
9 負極柱
11 極板群
12 電槽
13 隔壁
14 セル室
15 蓋
16 負極端子
17 正極端子
18 液口栓
図1
図2
図3
図4
図5