(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 51/04 20060101AFI20230725BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230725BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230725BHJP
C08F 255/04 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L101/00
C08L69/00
C08F255/04
(21)【出願番号】P 2021551184
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036287
(87)【国際公開番号】W WO2021070633
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019186135
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】平石 謙太朗
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-168778(JP,A)
【文献】特開2011-137066(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体部と、1種又は2種以上の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を必須成分として含む重合体部とを含有し、重合体部がゴム質重合体部にグラフト結合したビニル系グラフト重合体(A)、
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を必須成分として含む重合体であり、ゴム質重合体を含有していないビニル系非グラフト重合体(B)および
重合系艶消し剤(C1)である艶消し剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
該熱可塑性樹脂組成物中のクロロホルム可溶分(Q)に占める重量平均分子量が100万未満のビニル系樹脂成分(Q1)と
、ビニル系非グラフト重合体(B)の芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b3)の重合体(B3)として含まれる重量平均分子量が100万以上のビニル系樹脂成分(Q2)
との質量比(Q1)/(Q2)が99.5/0.5~55/45の範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ビニル系グラフト重合体(A)の含有量が、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、1~70質量%であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
艶消し剤(C)の含有量が、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、1~30質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
重合系艶消し剤(C1)が、アクリロニトリルとスチレンおよび/又はα-メチルスチレンとの共重合体樹脂(c1)と、不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムを含む成分(c2)とを含有し、該不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムが架橋されてなる樹脂組成物(C2)であることを特徴とする請求項
1ないし3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、ポリカーボネート樹脂(D)を含有することを特徴とする請求項1ないし
4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂(D)の含有量が、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計100質量%に対して、30~400質量%であることを特徴とする請求項
5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ビニル系グラフト重合体(A)がエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)を含有することを特徴とする請求項1ないし
6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斑のない艶消し性に優れた外観を有する成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂は、その優れた機械的性質、耐熱性、成形性により、自動車、家電、OAなど広い分野で使用されている。
【0003】
ABS樹脂からなる部品を自動車内装用に用いた場合、例えば成形品表面で反射した太陽光により運転者が幻惑されたり、計器周辺の反射光により計器が視認しにくくなるなどの場合がある。このため、安全性の観点から艶消し性に優れた外観が求められている。
家電、OA等のケース、シャーシ等においては、高級感のある意匠性の観点から、艶消し性に優れた外観が求められている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂、又はポリカーボネート樹脂とABS樹脂からなる樹脂組成物に、架橋された共重合体ゴムを含む特定の樹脂組成物を配合することにより、艶消し性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、成形性に優れた熱可塑性樹脂成形品が得られることが知られている(特許文献1)。
【0005】
しかし、斑の無い艶消し性に優れた外観が得られる成形品を与える樹脂組成物は未だ提供されていない。
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明は、斑の無い艶消し性に優れた外観を有する成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物とその成形品を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下のように本発明を完成するに至った。
【0009】
[1] ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂組成物中のクロロホルム可溶分(Q)に占める重量平均分子量が100万未満のビニル系樹脂成分(Q1)と重量平均分子量が100万以上のビニル系樹脂成分(Q2)の質量比(Q1)/(Q2)が99.5/0.5~55/45の範囲であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
[2] ビニル系グラフト重合体(A)の含有量が、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、1~70質量%であることを特徴とする[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[3] 艶消し剤(C)の含有量が、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、1~30質量%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[4] 艶消し剤(C)が、重合系艶消し剤(C1)であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[5] 重合系艶消し剤(C1)が、アクリロニトリルとスチレンおよび/又はα-メチルスチレンとの共重合体樹脂(c1)と、不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムを含む成分(c2)とを含有し、該不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムが架橋されてなる樹脂組成物(C2)であることを特徴とする[4]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[6] 更に、ポリカーボネート樹脂(D)を含有することを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[7] ポリカーボネート樹脂(D)の含有量が、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計100質量%に対して、30~400質量%であることを特徴とする[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[8] ビニル系グラフト重合体(A)がエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)を含有することを特徴とする[1]ないし[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[9] [1]ないし[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、斑のない艶消し性に優れた外観を有する成形品を提供することができる。
【0019】
特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系グラフト重合体(A)として、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体を含むものを用いることで、艶消し性に優れた外観を有すると共に、他の部材と接触し、擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減される上に、高温下に長時間置かれた場合においても、この軋み音の低減効果が期待され、接触用部品として好適に用いることができる成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1はスティックスリップ現象の説明図である。
【
図2】
図2a、2b、2c、2dはスティックスリップ現象のモデル図である。
【
図3】
図3は部品同士の接触態様の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は他の接触態様例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は他の接触態様例を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は他の接触態様例を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は他の接触態様例を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は他の接触態様例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の熱可塑性樹脂組成物および成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本明細書において、「重合体」とは、単独重合体および共重合体を意味する。
「(メタ)アクリル」とはアクリルおよび/又はメタクリルを意味する。「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよび/又はメタクリレートを意味する。
【0023】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物(以下、「本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)」と称す場合がある。)は、ビニル系グラフト重合体(A)(以下、「成分(A)」と称す場合がある。)、ビニル系非グラフト重合体(B)(以下、「成分(B)」と称す場合がある。)および艶消し剤(C)(以下、「成分(C)」と称す場合がある。)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂組成物中のクロロホルム可溶分(Q)に占める重量平均分子量(Mw)が100万未満のビニル系樹脂成分(Q1)と重量平均分子量(Mw)が100万以上のビニル系樹脂成分(Q2)(以下、「超高分子量成分(Q2)」と称す場合がある。)の質量比(Q1)/(Q2)が99.5/0.5~55/45の範囲であること、即ち、クロロホルム可溶分(Q)中の超高分子量成分(Q2)の割合が0.5~45質量%であることを特徴とする。
【0024】
<クロロホルム可溶分(Q)中の超高分子量成分(Q2)の割合>
熱可塑性樹脂組成物中のクロロホルム可溶分(Q)とは、所定量の試料をクロロホルムに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離することで、不溶分と可溶分とを分離して得られる可溶分である。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中のクロロホルム可溶分(Q)に占める超高分子量成分(Q2)の割合は、熱可塑性樹脂組成物の製造に用いたビニル系グラフト重合体(A)およびその他のグラフト重合体中のフリーの共重合成分とビニル系非グラフト重合体(B)およびその他の非グラフト重合体の合計に占めるMwが100万以上の成分の割合を算出することで求めることができる。通常Mw100万を超えると、後述の通り極限粘度は1.5dl/g以上となるため、極限粘度1.5dl/g以上のものを超高分子量成分(Q2)としてその割合を求めることができる。
【0026】
このような超高分子量体はアセトンには溶解しないため、クロロホルム可溶分をアセトンで再沈して5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離してビニル系樹脂の超高分子量成分(Q2)の割合を算出することもできる。 ただし、熱可塑性樹脂組成物(X)が後述のポリカーボネート樹脂(D)を含む場合、ポリカーボネート樹脂(D)がアセトンで再沈した成分に含まれてくるため、熱分解ガスクロマト分析、赤外分光法によってその割合を特定してポリカーボネート樹脂(D)分を除けばよい。その他のビニル系樹脂成分以外のクロロホルム可溶分が含まれる場合も同様である。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)に含まれるクロロホルム可溶分(Q)に占める超高分子量成分(Q2)の割合が0.5~45質量%の範囲内であると、シボ面の光沢が低く艶消し性が良く、成形品表面の艶ムラが発生せず、斑の無い高品質な成形外観が得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中のクロロホルム可溶分(Q)に占める超高分子量成分(Q2)の割合の上限は、好ましくは25質量%、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは10質量%、特に好ましくは5質量%、とりわけ好ましくは3質量%である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中のクロロホルム可溶分(Q)に占める超高分子量成分(Q2)の割合の下限は好ましくは1質量%、より好ましくは1.5質量%、さらに好ましくは2質量%である。
【0028】
超高分子量成分(Q2)のMwは、超高分子量成分(Q2)による効果を有効に得る上で、150万以上であることが好ましく、200万以上であることがより好ましい。一方で、過度に高分子量の超高分子量成分(Q2)は分散不良を引き起こすことから、超高分子量成分(Q2)のMwは800万以下であることが好ましく、特に700万であることが好ましい。
【0029】
クロロホルム可溶分(Q)中の超高分子量成分(Q2)以外のMw100万未満のビニル系樹脂成分(Q1)の重量平均分子量(Mw)については特に制限はないが、材料強度の観点から5万以上であることが好ましく、流動性による成形加工性の観点から50万以下であることが好ましい。
【0030】
本発明において、クロロホルム可溶分(Q)の重量平均分子量(Mw)とは、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー、溶媒;THFもしくはクロロホルム)を用いた標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した値である。
【0031】
クロロホルム可溶分(Q)の分子量は極限粘度[η]で表すこともできる。Mw100万以上の超高分子量成分(Q2)の極限粘度は1.5dl/g以上である。超高分子量成分(Q2)の極限粘度は1.6~4.5dl/g、特に1.8~4.0dl/gであることが好ましい。
【0032】
クロロホルム可溶分(Q)の極限粘度の測定方法は、後述の成分(A)のクロロホルム可溶分の極限粘度[η]、成分(B)の極限粘度[η]の測定方法の通りである。
【0033】
<成分(A):ビニル系グラフト重合体(A)および成分(B):ビニル系非グラフト重合体(B)>
ビニル系グラフト重合体(A)は、ゴム質重合体部と、1種又は2種以上のビニル化合物に由来する構造単位(以下、単に「単位」と称す場合がある。)を含む重合体部(グラフト部)とを含有し、重合体部がゴム質重合体部にグラフト結合した組成物である。重合体部がゴム質重合体部にグラフト結合していることは、後述するグラフト率の測定や、公知のオゾノリシス法、電子顕微鏡を用いたモルフォロジーの観察等により明らかにすることができる。
【0034】
ビニル系グラフト重合体(A)は、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)と、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含むビニル系グラフト重合体(A1)を含むことが、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)から得られる成形品に優れた艶消し性のみならず、優れた軋み音防止効果を得る上で好ましい。ビニル系グラフト共重合体(A1)のグラフト部を構成する重合体部は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の他に、芳香族ビニル化合物と共重合可能な、他のビニル系化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0035】
ビニル系グラフト重合体(A1)は、例えば、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)(以下、「成分(a1)」と称す場合がある。)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)(以下、「成分(b1)」と称す場合がある。)をグラフト重合したゴム強化芳香族ビニル樹脂(P1)(以下、「成分(P1)」と称す場合がある。)を製造することにより得ることができる。成分(a1)と成分(b1)の質量比は、成分(P1)の生産性と、得られる成形品の耐衝撃性、外観等の観点から、通常成分(a1):成分(b1)=5~80:95~20、好ましくは10~75:90~25である。
【0036】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)は、通常、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)にビニル系単量体(b1)に由来する構造単位を含む重合体がグラフト重合したビニル系グラフト重合体(A1)と、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)にグラフトしていないビニル系単量体(b1)に由来する構造単位を含む重合体からなるフリーの重合体(B1)(このフリーの重合体(B1)がクロロホルム可溶分(Q)に該当する。)を含む組成物である。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)は、場合により、該重合体がグラフトしていないエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)をさらに含むこともある。
【0037】
ビニル系グラフト重合体(A)は、ジエン系ゴム質重合体(a2)と、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含むビニル系グラフト重合体(A2)を含有するものであってもよく、前述のビニル系グラフト重合体(A1)と共にこのビニル系グラフト重合体(A2)を含むものであってもよい。ビニル系グラフト共重合体(A2)のグラフト部を構成する重合体部は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の他に、芳香族ビニル化合物と共重合可能な、他のビニル系化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0038】
ビニル系グラフト重合体(A2)は、例えば、ジエン系ゴム質重合体(a2)(以下、「成分(a2)」と称す場合がある。)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b2)(以下、「成分(b2)」と称す場合がある。)をグラフト重合したゴム強化芳香族ビニル樹脂(P2)(以下、「成分(P2)」と称す場合がある。)を製造することにより得ることができる。成分(a2)と成分(b2)の質量比は、成分(P2)の生産性と、得られる成形品の耐衝撃性、外観等の観点から、通常成分(a2):成分(b2)=5~80:95~20、好ましくは10~75:90~25である。
【0039】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P2)は、通常、ジエン系ゴム質重合体(a2)にビニル系単量体(b2)に由来する構造単位を含む重合体がグラフト重合したビニル系グラフト重合体(A2)と、ジエン系ゴム質重合体(a2)にグラフトしていないビニル系単量体(b2)に由来する構造単位を含む重合体からなるフリーの重合体(B2)(このフリーの重合体(B2)がクロロホルム可溶分(Q)に該当する。)を含む組成物である。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P2)は、場合により、該重合体がグラフトしていないジエン系ゴム質重合体(a2)をさらに含むこともある。
【0040】
ビニル系グラフト重合体(A)はTm(融点)をもつことが好ましい。JIS K 7121-1987に準拠して測定したビニル系グラフト重合体(A)のTmは、好ましくは0~100℃、より好ましくは0~90℃、更に好ましくは10~80℃、特に好ましくは20~80℃である。
【0041】
Tm(融点)はDSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読み取った値であり、測定方法の詳細は、JIS K 7121-1987に記載されている。
【0042】
ビニル系グラフト重合体(A)のTmが0~100℃の範囲にあると、軋み音の低減効果がさらに良好となり好ましい。ビニル系グラフト重合体(A)に融点があることは、成分(A)中に結晶性部分が存在することを意味している。結晶性部分が存在するとティックスリップ現象の発生が抑制され、軋み音の発生が低減されるものと考えられる。ビニル系グラフト重合体(A)のTmは0~100℃に存在するものがあれば、0~100℃以外の温度領域にTmがさらに存在してもよい。ビニル系グラフト重合体(A)のTmは、0~100℃の範囲に複数存在していてもよい。
【0043】
ビニル系非グラフト重合体(B)は、ビニル化合物に由来する構造単位、好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む重合体であり、ゴム質重合体を含有していない。ビニル系非グラフト重合体(B)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の他に、芳香族ビニル化合物と共重合可能な、他のビニル系化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0044】
ビニル系非グラフト重合体(B)は、代表的には、ゴム質重合体の非存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b3)を重合することで製造される重合体(B3)であり、このものはクロロホルム可溶分(Q)に該当する。
【0045】
本発明においてゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)に含まれるフリーの重合体(B1)、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P2)に含まれるフリーの重合体(B2)のようなビニル系グラフト重合体(A)に含まれるフリーの重合体は、ビニル系非グラフト重合体(B)に含まれる。
【0046】
ビニル系グラフト重合体(A)中にゴム成分としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)を用いたビニル系グラフト重合体(A1)を含むことで、長期熱老化後であっても軋み音が発生せず、軋み音の低減性能に優れるという効果を得ることができる。
【0047】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)は、Tm(融点)をもつことが好ましい。JIS K 7121-1987に準拠して測定したエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)のTmは、好ましくは0~100℃、より好ましくは0~90℃、更に好ましくは10~80℃、特に好ましくは20~80℃である。
【0048】
成分(a1)の融点が0~100℃の範囲にあると、軋み音の低減効果がさらに良好となり好ましい。成分(a1)の融点の測定は、ビニル系グラフト重合体(A)のTm(融点)の測定と同様に行なうことができる。エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)のTmは0~100℃に存在するものがあれば、0~100℃以外の温度領域にTmが存在してもよい。エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)のTmは、0~100℃の範囲に複数存在していてもよい。
【0049】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)のガラス転移温度(Tg)は、耐衝撃性の観点から、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。
上記ガラス転移温度は、Tm(融点)の測定と同様に、DSC(示差走査熱量計)を用い、JISK 7121-1987に準拠して求めることができる。
【0050】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)のムーニー粘度(ML1+4、100℃;JISK6300に準拠)は、得られるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)の流動性や得られる成形品の耐衝撃性の観点から、通常5~80、好ましくは5~40、より好ましくは5~35である。
【0051】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)を構成するα-オレフィンとしては、例えば炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられる。具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。α-オレフィンの炭素数は、共重合性、成形品の表面外観の観点から、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~8である。
【0052】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)におけるエチレン単位とα-オレフィン単位の質量比は、接触用部品の耐衝撃性の観点から、通常エチレン単位:α-オレフィン単位=5~95:95~5、好ましくは50~95:50~5、より好ましくは60~95:40~5である。
【0053】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)は、非共役ジエン単位を含むエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体であってもよい。上記非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは5-エチリデン-2-ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0054】
非共役ジエン単位の、成分(a1)全量に対する割合は、十分な軋み音低減効果を得る観点から、通常0~10質量%、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~3質量%である。成分(a1)における非共役ジエン単位の含有量が多くなると、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)の結晶性が低下して、融点(Tm)が消失することがあり、十分な軋み音低減効果が得られなくなる可能性がある。
【0055】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)は、軋み音低減の観点から、非共役ジエン成分を含有しないエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)としては、これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体がさらに好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0056】
ビニル系グラフト重合体(A1)のゴム成分であるエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
ビニル系グラフト重合体(A2)のゴム成分であるジエン系ゴム質重合体(a2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。これらは、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。ジエン系ゴム質重合体(a2)は、架橋重合体であってよいし、非架橋重合体であってもよい。
【0058】
ビニル系グラフト重合体(A1)、(A2)、およびビニル系非グラフト重合体(B)に用いるビニル系単量体(b1)、(b2)、(b3)は、芳香族ビニル化合物を必須成分として含むことが好ましい。より好ましくは、芳香族ビニル化合物と共にシアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が追加的に使用され、さらに必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体を追加的に使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちスチレンおよびα-メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0060】
シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちアクリロニトリルが好ましい。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちメタクリル酸メチルが好ましい。
【0062】
マレイミド系化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(エタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
ビニル系単量体(b1)、(b2)、(b3)中の芳香族ビニル化合物の含有量の下限値は、ビニル系単量体(b1)、(b2)又は(b3)の全量を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。この上限値は、通常100質量%である。
【0067】
ビニル系単量体(b1)、(b2)、(b3)が、芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物を含む場合、両者の含有割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、成形性、並びに、得られる成形品の耐熱性、耐薬品性および機械的強度の観点から、それぞれ、通常40~90質量%および10~60質量%、好ましくは55~85質量%および15~45質量%である。
【0068】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合法とすることができる。これらの重合方法において、適宜、適切な重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を使用することができる。
【0069】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)等のビニル系グラフト重合体(A)のグラフト率は、通常10~150%、好ましくは15~120%、より好ましくは20~100%、特に好ましくは30~80%である。成分(A)のグラフト率が前記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物(X)の成形性、得られる成形品の耐衝撃性がさらに良好となり好ましい。
【0070】
成分(A)のグラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S-T)/T)×100 (1)
式(1)中、Sは成分(A)の1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)である。Tは成分(A)1グラムに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方および重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等により求める方法等により得ることができる。
【0071】
グラフト率は、例えばゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類および使用量、重合開始剤の種類および使用量、重合時の単量体成分の添加方法および添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0072】
ビニル系樹脂の超高分子量成分(Q2)以外の成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.1~1.5dl/g、好ましくは0.15~1.2dl/g、より好ましくは0.15~1.0dl/gである。成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度が前記範囲内にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)の成形性、得られる成形品の耐衝撃性がさらに良好となり好ましい。
【0073】
成分(A)のアセトンもしくはクロロホルム可溶分の極限粘度[η]は以下の方法で測定される。
成分(A)のアセトンもしくはクロロホルム可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製する。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求める。単位は、dl/gである。
【0074】
アセトンもしくはクロロホルム可溶分の極限粘度[η]は、例えばゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類および使用量、重合開始剤の種類および使用量、重合時の単量体成分の添加方法および添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。異なる極限粘度[η]を持つ後述の成分(B3)を、適宜選択して配合することにより調整することもできる。
【0075】
ビニル系非グラフト重合体(B)は、上記したように、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)に由来するフリーの重合体(B1)、(B2)の他に、ゴム質重合体の非存在下、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b3)を重合して得られた重合体(成分(B3))を使用することもできる。成分(B3)の重合方法としては、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)の製造で記載したものを使用することができる。
【0076】
ビニル系単量体(b3)としては、上述の通り、ビニル系単量体(b1)、(b2)と同様のものを使用することができる。ビニル系単量体(b3)は、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも何れか1種からなることが好ましい。
【0077】
ビニル系樹脂の超高分子量成分(Q2)以外のビニル系単量体(b3)の重合体(B3)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性および耐衝撃性の観点から、好ましくは0.2~0.9dl/g、より好ましくは0.25~0.85dl/g、更に好ましくは0.3~0.8dl/gである。
【0078】
成分(B3)の極限粘度[η]は、成分(A)のアセトンもしくはクロロホルム可溶分の極限粘度と同様に、成分(B3)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の溶液の還元粘度を測定することにより求められる。
【0079】
成分(A),成分(B)は、必要に応じ、α,β-不飽和グリシジルエステル化合物で変性したものを含むことができる。α,β-不飽和グリシジルエステル化合物で変性したものを含むことにより、艶消し効果が格段に向上する。α,β-不飽和酸グリシジルエステル化合物としては、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)には、成分(A)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。成分(B)についても1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0081】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)において、ビニル系樹脂の超高分子量成分(Q2)は特に成分(B)のビニル系単量体(b3)の重合体(B3)として含まれることが好ましい。
【0082】
<成分(C):艶消し剤(C)>
本発明で使用する艶消し剤(C)としては、粉体、粒状、不定形状、マイクロバルーン状、繊維状、ウィスカ状又は微粒子状の、無機および有機の艶消し剤が挙げられる。例えば、粉体、粒状又は不定形状のものとしては、炭酸カルシウム、タルク、ケイ酸、ケイ酸塩、アスベスト、マイカ等が挙げられる。マイクロバルーン状のものとしては、ガラスバルーン、フェノール樹脂バルーン等が挙げられる。繊維状のものとしては、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維、炭素繊維等が挙げられる。ウィスカ状のものとしては、セラミックウィスカ、チタンウィスカ等が挙げられる。微粒子状のものとしては、プラスチック微粒子、例えばポリエチレンおよび/又はポリプロピレン等のポリオレフィン微粒子等が挙げられる。
【0083】
艶消し剤(C)の体積平均粒子径は、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~40μm、さらに好ましくは1~30μmである。ここで体積平均粒子径とは散乱光強度基準による調和平均粒子径(直径)の値である。後述の有機の艶消し剤の体積平均粒子径についても同様である。
【0084】
有機の艶消し剤(ただし、成分(A)、(B)は除く)としては、例えば重合系艶消し剤(C1)が挙げられる。重合系艶消し剤(C1)は、艶消し性の有る重合体であれば特に限定するものでないが、例えば、成分(A)および成分(B)を除く架橋されているビニル系重合体、(架橋)ゴム質重合体、ジエン系ゴム変性共重合樹脂等の成分が挙げられる。架橋されているビニル系重合体としては、架橋ポリアクリル系樹脂、架橋AS樹脂等が挙げられる。有機の艶消し剤は、機械的強度、成形加工性を維持しつつ、優れた艶消し外観を有する成形品を得ることができ好ましい。熱可塑性樹脂組成物(X)中に存在する有機の艶消し剤の体積平均粒子径は、好ましくは0.5~25μm、より好ましくは0.5~20μm、さらに好ましくは1~15μmである。有機の艶消し剤の形状は、粒子状であっても、例えばアメーバ状の不定形であってもよい。
【0085】
好ましい重合系艶消し剤(C1)として、例えば、アクリロニトリルとスチレンおよび/又はα-メチルスチレンとの共重合体樹脂(c1)と不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムを含む成分(c2)とを含有し、該共重合体ゴムが架橋されてなる樹脂組成物(C2)(以下、「成分(C2)」と称す場合がある。)が挙げられる。このような樹脂組成物(C2)は、例えば、特許第2576863号公報、特開2010-1377公報に記載の方法で製造することができる。
【0086】
不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムを含む成分(c2)としては、不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムに更に、架橋剤により架橋可能なその他のゴムを含有してもよい。その他のゴムの含有量は適宜選択して決定すればよい。成分(c2)において不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴム10~100質量%に対して、その他のゴムは0~90質量%である。
【0087】
不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムとしては、不飽和ニトリル10~50質量%と共役ジエン90~50質量%の共重合体ゴムが好ましい。不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が例示される。共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が例示される。
【0088】
本発明の主旨が損なわれない範囲で、不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴム中の共役ジエンの一部を共重合可能な他の単量体で置換できる。このような単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンのような芳香族ビニル化合物、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシエトキシエチルアクリレート等のアルコキシアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などの塩、シアノメチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、3-シアノプロピ(メタ)アクリレート、4-シアノブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸シアノ置換アルキルエステルなどが例示される。不飽和ニトリルおよび共役ジエンと共重合可能であれば、上記例示以外の単量体も使用できる。
【0089】
不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムとしては、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-イソプレン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリル酸共重合体ゴム等、およびこれらのゴム中の共役ジエン単位を水素化したゴムなどが例示される。
【0090】
不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムと併用してもよい他のゴムは、硫黄加硫系や有機過酸化物加硫系等のゴム工業で常用される架橋剤で架橋できるゴムである。その具体例としては、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(ランダム、ブロック)、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴムなどの共役ジエン系重合体ゴムおよびその水素化物、EPDM等が例示される。
【0091】
不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムと上記の他のゴムを併用する場合、混合ゴム中の不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムの割合は、10~100質量%、中でも20~100質量であることが好ましい。この割合が10質量%未満では不飽和ニトリル-共役ジエン系共重合体ゴムの添加効果である艶消し性の改善が不充分となる場合がある。
【0092】
混合ゴムを成分(c2)とする場合には、予め2種又は3種以上のゴムを混合してから共重合体樹脂(c1)と混合しても良く、あるいは同時に又は別々に共重合体樹脂(c1)に添加しても良い。
【0093】
本発明においては、共重合体ゴムを含む成分(c2)が、成分(C2)中において架橋剤により架橋していることが必要である。共重合体ゴムを含む成分(c2)の架橋方法は、共重合体樹脂(c1)と共重合体ゴムを含む成分(c2)を混合する過程でゴム成分の架橋剤の存在下に、混合と同時にゴム成分を架橋する方法、いわゆる動的加硫を行わせる方法が特に好ましい。
【0094】
動的加硫による架橋は、例えば、予め共重合体樹脂(c1)と共重合体ゴムを含む成分(c2)を溶融混合した後、ゴム成分の架橋剤を添加し、共重合体樹脂(c1)が溶融し、ゴム成分が加硫するに必要な温度および時間、混合を継続することにより行う。ゴム成分が加硫するための混合の温度および時間は、ゴム成分の種類、架橋剤の種類によって異なるので、予備実験等により加硫条件を適宜選択して決定すればよい。この加硫は、通常150~230℃の条件下、5~10分で行えばよい。
【0095】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P1)、(P2)等の分散ゴム粒子を含有するポリマー類は、動的加硫の温度下で熱劣化を生じる恐れがあるため、本発明では、この様な分散ゴム粒子を含まない、即ち、これらの分散ゴム粒子との混合前に、共重合体樹脂(c1)と共重合体ゴムを含む成分(c2)とを混合し、動的加硫法によりゴム成分を架橋して、加硫ゴム成分を含有する成分(C2)を製造することが好ましい。
【0096】
成分(C2)のゴム成分の架橋程度としては、ゲル分(架橋ゴム成分をメチルエチルケトンに25℃で48時間浸漬したときの不溶解分。以下、同様である。)が、80%以上となるような程度であることが好ましい。
成分(C2)中のゴム成分は、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中に10μm以下、好ましくは1~5μmの粒子として分散していることが、艶消し性および耐衝撃性の観点から望ましい。
【0097】
成分(C2)の製造の際に使用される架橋剤は、ゴム成分が架橋するものであれば特に制限されない。架橋剤としては、通常、硫黄および/又は硫黄供与性化合物(例えば、テトラメチルチウラムダイサルファド、テトラエチルチウラムダイサルファド等のチウラム系化合物、モーフォリンダイサルファイドなどのモーフォリン系化合物など)、加硫助剤(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛など)、加硫促進剤(例えば、ジフェニルグアニジンなどのグアニジン系化合物、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾチアジルダイサルファイド、シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミドなどのチアゾール系化合物)などを用いる硫黄加硫系、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン等の有機過酸化物等が使用される。これらの架橋剤は、架橋ゴム成分のゲル分が80%以上となる様に、その使用量を適宜選択して使用することが好ましい。
【0098】
<熱可塑性樹脂組成物(X)中の各成分の含有量>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)のビニル系グラフト重合体(A)の含有量は、軋み音低減性の観点から、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、1~70質量%が好ましく、より好ましくは2~60質量%、更に好ましくは3~40質量%、特に好ましくは4~30質量%である。
【0099】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)の艶消し剤(C)の含有量は、艶消し性の観点から、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、1~30質量%が好ましく、より好ましくは1~20質量%、更に好ましくは1~10質量%である。
【0100】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)のビニル系非グラフト重合体(B)の含有量は、上記ビニル系グラフト重合体(A)と艶消し剤(C)の含有量から導き出すことができる残量である。
【0101】
成分(A)が、α,β-不飽和グリシジルエステル化合物に由来する構造単位を含む場合は、艶消し性の観点から、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中のα,β-不飽和グリシジルエステル化合物に由来する構造単位を含む成分(A)の含有量は、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計100質量%に対して、成形外観不良の発生を考慮して、通常35質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは23質量%以下である。本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中のα,β-不飽和グリシジルエステル化合物に由来する構造単位を含む成分(A)の含有量は艶消し効果を考慮して、通常5%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。
【0102】
成分(A)中のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)の含有量は、軋み音の低減効果、耐衝撃性の観点から、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)の合計を100質量%として、好ましくは5~30質量%、より好ましくは5~25質量%、特に好ましくは5~20質量%である。
【0103】
成分(A)が、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)とジエン系ゴム質重合体(a2)を含有し、軋み音の低減効果を維持しつつ、より耐衝撃性を重視する場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中の成分(a1):成分(a2)の含有質量比は、好ましくは5~80:95~20、より好ましくは10~70:90~30、特に好ましくは15~60:85~40である。
【0104】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、必要に応じて、成分(C)以外の充填剤、造核剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、抗菌剤、着色剤等の各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0105】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、必要に応じて、他の樹脂、即ち、本発明の成分(A)、(B)および(C)以外のスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂等を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。これらの中では、特にポリカーボネート樹脂が耐衝撃性の観点から好ましい。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)がポリカーボネート樹脂(D)(以下、「成分(D)」と称す場合がある。)を含有する場合、ポリカーボネート樹脂(D)の含有量は、成分(A)、成分(B)および(C)成分の合計100質量%に対して、通常30~400質量%、好ましくは60~300質量%、より好ましくは75~250質量%である。
【0107】
<熱可塑性樹脂組成物(X)の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、ビニル系グラフト重合体(A)とビニル系非グラフト重合体(B)と艶消し剤(C)、必要に応じて配合されるその他の成分を所定の配合比で混合し、溶融混練することにより製造される。より具体的には、各成分をタンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混合機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。
それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練しても、多段に分割配合して混練してもよい。
バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。
充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。
溶融混練温度は、通常200~300℃、好ましくは220~280℃である。
【0108】
<熱可塑性樹脂組成物(X)の異音リスク指数>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、軋み音低減の観点から、後述する熱可塑性樹脂組成物からなる接触用部品を用いた、ジグラ(ZIEGLER)社製のスティックスリップ試験機SSP-002による評価(評価条件は、温度23℃、湿度50%R.H.、荷重5Nおよび40N、速度1mm/秒および10mm/秒)で得られる異音リスク指数が5以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましい。ドイツ自動車工業会の基準(VDA203-260)によれば、異音リスク指数が3以下であれば、実用的に合格であるとされている。かかる異音リスク値は、本発明に係る成分(A)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)を含むものを用いた上で、成分(A)、(B)、(C)、および所望により成分(D)の配合量を適宜調整することにより、充足することができる。
【0109】
スティックスリップ現象による軋み音について以下に説明する。
例えばABS樹脂等のスチレン系樹脂は非晶性樹脂であるため、結晶性樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタールなどの樹脂と比較すると摩擦係数が高く、自動車内のインストルメントパネルのスイッチ部品や事務机のスライド部品等のように、他の部材と接触、嵌合し、擦れ合う部位に用いると、
図1に示されるようなスティックスリップ現象が発生し、異音(軋み音)が発生することがある。
【0110】
スティックスリップ現象とは、2つの物体が擦れ合う時に発生するものである。
図2aのモデルで示されるように駆動速度Vで動く駆動台の上にバネでつながれた物体Mが置かれた場合、物体Mは先ず静摩擦力の作用により駆動速度Vで移動する台とともに
図2bのように右方向に移動する。そしてバネによって元に戻されようとする力が、この静摩擦力と等しくなったとき、物体Mは駆動速度Vと逆の方向に滑り出す。このときに、物体Mは動摩擦力を受けることになるので、バネの力とこの動摩擦力が等しくなった
図2cの時点で滑りが止まり、すなわち駆動台に付着することになり、
図2dのように再び駆動速度Vと同じ方向に移動することになる。
これをスティックスリップ現象といい、
図1に示されるように、静摩擦係数μsと、ノコギリ波形下端のμlの差Δμが大きいと、軋み音が発生しやすくなるといわれている。
動摩擦係数はμsとμlの中間の値になる。よって、静摩擦係数の絶対値が小さくても、Δμが大きければ、軋み音が発生しやすくなる。
【0111】
軋み音は、自動車室内やオフィス内、住宅室内の快適性や静粛性を損ねる大きな原因となっており、軋み音の低減が強く要求されている。
【0112】
[成形品]
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)で成形された成形品は、斑の無い艶消し性に優れた外観を有し、自動車内装部品や家電、OA等のケース、シャーシ等として有用である。特に、本発明の成形品のうち、熱可塑性樹脂組成物(X)の成分(A)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a1)を含む成分(A)を用いたものは、軋み音防止効果に優れ、2つの部材が接触する接触用部品および該接触用部品を含む構造体として有用である。
【0113】
具体的には、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む構造体の少なくとの1つの部品として使用することにより、当該構造体に軋み音が発生するのを抑制することができる。
【0114】
したがって、本発明によれば、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む構造体であって、前記部品の少なくとも1つが本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)からなる成形品であることを特徴とする物品(以下「本発明の物品」と称す場合がある。)が提供される。本発明の物品は、2個以上の部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)からなる成形品であることが好ましく、全ての部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)からなる成形品であることが特に好ましい。
【0115】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)から上記成形品又は部品を製造する方法には何等制限はなく、射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト成形、プレス成形、カレンダー成形、Tダイ押出成形、異形押出成形、フィルム成形等公知の方法が挙げられる。
【0116】
本発明の物品において、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)で成形された成形品からなる部品以外の部品を構成する素材は特に制限はなく、例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。
【0117】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、EVA、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリーボネート(PC)、ポリ乳酸、PA/ABS樹脂、PA/AES樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上の組み合わせで使用できる。
【0118】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0119】
ゴムとしては、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、SEBS、SBS、SIS等の各種合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0120】
有機質材料としては、例えば、インシュレーションボード、MDF(中質繊維板)、ハードボード、パーティクルボード、ランバーコア、LVL(単板積層材)、OSB(配向性ボード)、PSL(パララム)、WB(ウェハーボード)、硬質繊維板、軟質繊維板、ランバーコア合板、ボードコア合板、特殊コア-合板、ベニアコア-ベニヤ板、タップ樹脂を含浸させた紙の積層シート・板、(古)紙等を砕いた細かい小片・線状体に接着剤を混合して加熱圧縮したボード、各種の木材等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0121】
無機質材料としては、例えば、ケイ酸カルシウムボード、フレキシブルボード、ホモセメントボード、石膏ボード、シージング石膏ボード、強化石膏ボード、石膏ラスボード、化粧石膏ボード、複合石膏ボード、各種セラミック、ガラス等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0122】
金属材料としては、鉄、アルミニウム、銅、各種の合金等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0123】
本発明において、接触用部品とは、少なくとも2個の部品が常に又は間欠的に接触し、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に両部品の接触部が互いに僅かに移動又は衝突するような物品である。かかる接触部の接触態様は、面接触、線接触、点接触等の何れであっても良く、部分的に接着されていてもよい。
【0124】
具体的には、
図3に示されるように部品10の一面と部品20の一面が互いに突き合わせされた状態で接着している物品、
図4~8に示されるように、部品10の一部が部品20に形成された凹部に嵌合した状態で接触している物品などが挙げられる。
【0125】
部品同士が嵌合した状態で接触している物品の具体例としては以下の(1)~(4)などが挙げられる。
(1)
図4に示されるように、部品10の一端が部品20に形成された相補的な凹部にぴったり嵌合した状態で接触している物品
(2)
図5に示されるように、部品20のコーナー部に形成された部品20の相補的な凹部のそれぞれに部品10の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品
(3)
図6に示されるように、略平行に配置された2つの部品10のそれぞれに形成された相補的な凹部に部品20の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品
(4)
図7に示されるように、部品10の内側面寸法と同寸法の外側面寸法を備える部品20を、部品10の中に入れ子状に挿入し、両者の内側面と外側面がぴったり嵌合した状態で接触している物品
【0126】
本発明の物品における2つの部品は、互いにぴったり嵌合している必要はなく、
図8に示されるように、ある程度の空隙や遊びをもって互いに嵌合しており、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に、互いに接触および非接触を繰り返すような物品であってもよい。
【0127】
上述のような接触部を複合的に備えた物品として、
図9A~9Cに示されるような物品が挙げられる。
図9A~9Cの物品において、部品10は底面が全て開口した直方体からなる升状の部品であり、部品20は部品10と同様の形状を備えるとともに上面の中央部に矩形の開口が形成された成形品である。
図9A~9Cに示すように、部品20は部品10の中に嵌合させることができ、部品20の外周面と部品10の内周面は互いに接触し、両者は振動等の外力を受けると僅かに変形して接触および非接触を繰り返す。
図10に示されるように、部品20は対向する外側面に突起30を備える。
図9A~9Cに示されるように、部品10は対向する2つの側面に部品20の突起30を収容する穴を備えている。部品10を部品20に嵌合させた時、該穴に突起30がスナップフィットすることにより両部品の嵌合が容易に外れないようにしている。
【0128】
部品10および部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)で成形することにより、例えば、外力が
図9Cの矢印の方向にかけられた場合でも、軋み音の発生を防止することができる。外力の方向は、
図9Cの方向に限定されるものではなく、他の方向から外力が加えられた場合でも、部品10および部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)で成形した場合には、軋み音の発生は防止される。
図9A~9Cの突起30の断面形状および部品10の穴の形状を変更して、両部品をプレスフィットする構成に変更することもできる。
【0129】
図11A~11Cは、部品10および部品20がそれぞれ突起30およびそれにスナップフィットする穴の代わりに、部品10および部品20の内側面と外側面の一部を接着剤31を用いて接着した以外は
図9A~9Cの物品と同様の態様を示すものである。接着剤31の代わりに、部品10および部品20を互いにレーザー溶着等により溶着することもでき、この方法は、両部品が熱可塑性樹脂成形品である場合に好都合である。特に、レーザー溶着ではレーザー光を透過する透明の熱可塑性樹脂と、レーザー光を吸収する熱可塑性樹脂からなる部品を組み合わせることが好ましい。具体的な製品としては、車載速度計などの計器類、照明灯等が挙げられる。
【0130】
図12A~12Cの例は、部品10と部品20の対向する側面の対向する位置に穴が開けられており、この2つの穴を通じてボルトとナット33で締結して両部品を固定するように構成されている以外は
図9A~9Cの物品と同様の態様を示すものである。ボルトナットの代わりに、ネジ、ピン、リベット、ブッシュ、ブラケット、ヒンジ、釘等を用いて、部品10および部品20を固定してもよい。
【0131】
図13に示すように、長方形の板状の本体と両端から長手方向外方に円柱状の軸19が突出した形状の部品18と、この部品18の軸19を挿入させて部品18を軸19の回りに回転可能に支持するフレーム状の部品28とを備える、
図14A~14Cに示されるような物品も、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)で成形するのに好適である。部品18および部品28の少なくとも一方を本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)で成形することにより、部品18を軸19の回りに回転させた場合や、物品に振動等の外力が加わった場合に、軋み音が発生するのを抑制することができる。
【0132】
図14A~14Cに示されるように、フレーム状の部品28が複数の開口部29を備える場合には、該物品は、部品18の角度によって空気の流れる量や向きを調節する装置として好適に使用できる。かかる装置としては、家庭用および車載用のエアコン、空気清浄機、送風機等の吹き出し口が挙げられる。
【0133】
上記の物品において、部品10、18および部品20、28の少なくとも何れか一方を本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)からなる成形品にすることで、軋み音の発生を著しく低減させることができる。他方の物品も、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)からなる成形品としてもよい。
【0134】
上記のような接触用部品および該接触用部品を含む構造体の具体例としては、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務機器、又は家電製品、車両内装用機器、住宅内装用機器等が挙げられる。
電気若しくは電子機器および光学機器の接触用部品としては、デジタルビデオカメラ、スチルカメラ等のカメラのハウジング、ハンドヘルドコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等のハウジング等が挙げられる。
【0135】
照明機器の接触用部品としては、シーリングライトのパネル、カバー、コネクタ等が挙げられる。
【0136】
事務機器の接触用部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスクロック部品、デスク引き出し、複写機の用紙トレイ等が挙げられる。
【0137】
家電製品の接触用部品としては、直管型LEDランプ、電球型LEDランプ、電球型蛍光灯などの照明器具、携帯電話、タブレット端末、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、掃除機、食器洗浄機、空気清浄機、エアコン、ヒーター、TV、レコーダーなどの家電器具、プリンター、FAX、コピー機、パソコン、プロジェクター等のOA機器、オーディオ器具、オルガン、電子ピアノ等の音響機器、化粧容器のキャップ、電池セルなどのケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品等が挙げられる。
【0138】
車両内装用機器の接触用部品としては、例えば、ルームミラー、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、コンソールボックス、センターパネル、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコン、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/Tインジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、スイッチベゼル、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイッチ、マスクラジオなど)、グローブボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等を挙げられる。
【0139】
住宅内装用機器の接触用部品としては、シェルフ扉、チェアダンパー、テーブル折りたたみ脚可動部品、扉開閉ダンパー、引き戸レール、カーテンレール等が挙げられる。
【実施例】
【0140】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
以下の使用原料、実施例および比較例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0142】
成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、α,β-不飽和グリシジルエステル化合物に由来する構造単位(GMA単位)を含む成分(A)の含有量は、成分(A)、成分(B)および(C)成分の合計を100%とした場合の含有量である。
【0143】
後掲の表1~3中、熱可塑性樹脂組成物中のビニル系樹脂のクロロホルム可溶分(Q)に占める超高分子量成分(Q2)の割合を「超高分子量成分(Q2)割合」と記載する。
【0144】
(1)評価方法
(1-1)軋み音評価(異音リスク指数)
実施例および比較例で製造した熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械製の射出成形機「IS-170FA」(商品名)を用いて、シリンダー温度240℃、射出圧力80MPa、金型温度60℃の条件で射出成形することにより、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの成形品を得た。この成形品から、縦60mm、横100mm、厚さ4mm、および、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの大小2枚の試験片をディスクソーで切り出した。次に、番手#100のサンドペーパーで試験片の端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚の軋み音評価用試験片を得た。
【0145】
上記評価用試験片を75℃±5℃に調整したオーブンで300時間熱老化(エージング)させ、25℃で24時間冷却した。その後、大小2枚の試験片をジグラ(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP-02にセットし、温度23℃、湿度50%R.H.の雰囲気下、表1~3に示す荷重5Nおよび40N、速度1mm/秒および10mm/秒の各条件で、振幅20mmで3回擦り合わせた時の異音リスク指数を測定した。異音リスク指数が大きい程、軋み音が発生しやすくなる。この試験法は、熱老化させて評価を行うため、軋み音低減効果の持続性も評価することができる。
【0146】
(1-2)表面光沢
実施例および比較例で製造した熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械株式会社製の射出成形機「EC130SX」(型式名)を用いて、80mm×120mm×2.0mmのプレート型のシボ試験片を射出成形した。試験片は、120mmの一方の辺の2箇所に7mm×1.6mmのサイドゲートを備え、成形時の樹脂温度は260℃、金型温度は80℃、射出速度は30mm/秒であった。JISK 7105に準じて、得られた試験片のシボ面(TH-105)の表面の光沢を、デジタル光沢計(形式名「VG7000」、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。測定角度は60°であった。この値は4.0以下が好ましい。
【0147】
(1-3)艶消しのムラ
実施例および比較例で製造した熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械株式会社製の射出成形機「EC130SX」(型式名)を用いて、80mm×120mm×2.0mmのプレート型のシボ試験片を射出成形した。試験片は、120mmの一方の辺の隅1箇所に47mm×11.6mmのサイドゲートを備え、成形時の樹脂温度は260℃、金型温度は80℃、射出速度は30mm/秒又は70mm/秒であった。JISK 7105に準じて、得られた試験片のシボ面(TH-105)の表面の光沢を、デジタル光沢計(形式名「VG7000」、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。測定角度は60°であった。超高分子量成分を含まない場合、光沢値の差による外観不良(艶ムラ)が発生する。艶ムラ発生箇所における、光沢値の差が0.4ポイント以上である場合、成形外観を×(光沢ムラあり)、0.3ポイント以下である場合、成形外観を〇(艶ムラなし)とし、成形外観(艶ムラ)の評価を行った。
【0148】
(1-4)シャルピー衝撃強さ
ISO179に準じて、室温におけるシャルピー衝撃強さ(EdgewiseImpact、ノッチ付き)を測定した。単位はKJ/m2である。測定条件は、以下の通りである。
試験片タイプ:Type1
ノッチタイプ:TypeA
荷重:2J
【0149】
(1-5)MFR
ISO1133に準じて、温度240度および荷重98Nの条件で、メルトマスフローレートを測定した。
【0150】
(2)使用原料
<ビニル系グラフト重合体(A)>
エチレン・α-オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P-1-1):
リボン型撹拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a)として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン単位/プロピレン単位=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):20、融点(Tm):40℃、ガラス転移温度(Tg):-50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間撹拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温した。100℃に達した後は、この温度を保持しながら、撹拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。重合添加率は98%であった。その後、内温を100℃まで冷却した。
【0151】
反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。
得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂(P-1-1)において、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(a)の含有量は22%(重合転化率から計算)、グラフト率は70%、クロロホルム可溶分(フリーAS)の極限粘度[η]は0.47dl/g(Mw:9万)であった。
【0152】
ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P-2-1):
撹拌機付き重合器に、水280部およびジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。
【0153】
得られたラテックスに、2,2′-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状のゴム強化芳香族ビニル系樹脂を得た。
得られたジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P-2-1)のジエン系ゴム質重合体の含有量は60%、グラフト率は40%、クロロホルム可溶分(フリーAS)の極限粘度[η]は0.38dl/g(Mw:7万9千)であった。
【0154】
GMA変性ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P-2-2):
撹拌機付き重合器に、水280部およびジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル9部、スチレン27部、グリシジルメタクリレート(GMA)4部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。
【0155】
得られたラテックスに、2,2′-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状のゴム強化芳香族ビニル系樹脂を得た。
得られたGMA変性ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(P-2-2)のジエン系ゴム質重合体の含有量は60%、グラフト率は31%、クロロホルム可溶分(フリーAS)の極限粘度[η]は0.3dl/g(Mw:4万3千)であった。
【0156】
<ビニル系非グラフト重合体(B)>
スチレン・アクリロニトリル共重合体(AS-1):
撹拌機付き重合容器に、水250部およびパルミチン酸ナトリウム1.0部を投入し、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら70℃まで加熱した。さらにナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込んだ後、α-メチルスチレン70部(単量体混合物の70%)、アクリロニトリル26部(同26%)、スチレン4部(同4%)からなる単量体混合物100部と、tert-ドデシルメルカプタン0.45部を混合して、重合温度70℃で連続的に7時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を75℃にし、1時間撹拌を続けて重合を終了させラテックスを得た。
【0157】
このラテックスを塩化カルシウムで塩析し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の共重合体(AS-1)を得た。
共重合体(AS-1)の重合転化率は98%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.8dl/g(Mw:15万)、ガラス転移温度(Tg)は140℃であった。
【0158】
スチレン・アクリロニトリル共重合体(AS-2):
温度計および撹拌機を備えた容量10リットルの反応容器に、イオン交換水250部を添加し、30分間窒素バブリングを行なったのち、乳化剤としてステアリン酸カリウム0.50部を添加した。次に、窒素雰囲気下で、単量体成分としてスチレン35部およびアクリロニトリル15部を添加後昇温し、55℃で重合開始剤として過硫酸カリウム0.03部を2%水溶液として添加した。65℃で2時間重合後、スチレン35部、アクリロニトリル15部、イオン交換水50部、過硫酸カリウム0.02部(2%水溶液)を一括添加し、引き続き65℃で3時間重合を行なった。重合液中の溶存酸素濃度は3.0%であった。
【0159】
得られた共重合体(AS-2)の重合転化率は97%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は3.5dl/g(Mw:310万)であった。
【0160】
スチレン・アクリロニトリル共重合体(AS-3):
α-メチルスチレン70部、スチレン5部、アクリロニトリル25部およびtert-ドデシルメルカプタン0.02部を混合して、単量体混合物を調製した。
水20部に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.015部、硫酸第一鉄0.005部およびナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を溶解して、還元剤水溶液を調製した。更に、水100部に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部およびp-メンタンハイドロパーオキサイド0.25部を乳化分散して、重合開始剤水溶液を調製した。
【0161】
重合撹拌装置、原料および助剤添加装置、温度計、加熱装置等を備えたガラス製反応器に、水200部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部およびβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物のナトリウム塩0.2部を仕込んだ。その後、系内を撹拌しながら、窒素気流下で、反応系を加熱した。内温が60℃に達したところで、上記単量体混合物の全量、還元剤水溶液の70%分、および、重合開始剤水溶液の70%分を、いずれも5時間にわたって連続添加して重合を開始した。反応系の温度は、重合開始時に70℃まで昇温し、その後、同温度を保持した。重合を開始してから5時間経過した後、還元剤水溶液の残り30%分および重合開始剤水溶液の残り30%分を反応器に供給した。そして、反応系を70℃で1時間保持した後に重合反応を終了した。
【0162】
これにより、α-メチルスチレン系共重合体を含むラテックスを得た。このラテックスに、硫酸マグネシウム(凝固剤)を添加して、α-メチルスチレン系共重合体を凝固させた。次いで、水洗および乾燥を行って、α-メチルスチレン系共重合体を回収した。
得られたAS共重合体(AS-3)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は0.7dl/g(Mw=12万7千)であった。
【0163】
<艶消し剤(C)>
R-1:
有機艶消し剤(R-1)として、ゼオン化成社製のABS樹脂用艶消し剤「レビタルマットエース AM-808」(商品名)(不定形状ジエン系ゴム変性共重合樹脂)を用いた。
AM-808を透過型電子顕微鏡で観察したところ、ジエン系ゴム変性共重合樹脂はアメーバ状の不定形粒子として存在していた。
【0164】
R-2:
有機艶消し剤(R-2)として、三菱レイヨン株式会社製の艶消し剤「メタブレン F-410」(商品名)((架橋)ゴム質重合体)を用いた。
F-410は、架橋したメタクリル酸メチル-アクリル酸アルキル-スチレン共重合体である。
【0165】
R-3:
無機艶消し剤(R-3)として、日本タルク株式会社製の微粉タルク「ミクロエース P-3」(商品名)を用いた。
レーザー回折法で測定したR-3の粒子径D50は5μmであった。
【0166】
R-4:
有機艶消し剤(R-4)として株式会社カネカ製のアクリルゴム系の艶消し・光拡散性改良剤「カネエース MP-90」(商品名)((架橋)ゴム質重合体)を用いた。
【0167】
<ポリカーボネート樹脂(D)>
D-1;
三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリカーボネート樹脂「ノバレックス7022 PJ-LHI」を用いた。
【0168】
[実施例および比較例]
表1~3に記載の配合割合で、各成分を配合してヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製「TEX44α」、バレル設定温度250℃)で溶融混練し、ペレット化した。
得られたペレットを用いて上記したように評価用の各試験片を成形し、それぞれ評価を行った。評価結果を表1~3に示した。
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
表1,2に示すように、実施例の熱可塑性樹脂組成物は艶消し性に優れた性能を有する。さらには高温下に長時間置かれた場合において軋み音の発生も低減される。
これに対して、表3に示すように、比較例の熱可塑性樹脂組成物は、いずれも艶消し性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明によれば、ビニル系グラフト重合体(A)、ビニル系非グラフト重合体(B)および艶消し剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、斑の無い艶消し性に優れた成形品を提供することができる。特に、ビニル系グラフト重合体(A)がエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体を含有することにより、他の部材と接触し、擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減され、且つ、優れた艶消し性に優れた外観を有する接触用部品および該接触用部品を含む構造体が提供される。この場合は、高温下に長時間置かれた場合においても軋み音の発生が低減される。
【0174】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年10月9日付で出願された日本特許出願2019-186135に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0175】
10、18、20、28 部品
19 軸
29 開口部
30 突起
31 接着剤
33 ボルトナット