(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電動車両の制御方法および電動車両
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20230725BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230725BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L3/00 H
(21)【出願番号】P 2022502326
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 IB2020000139
(87)【国際公開番号】W WO2021171050
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 智之
(72)【発明者】
【氏名】塚本 幸紀
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-078105(JP,A)
【文献】特開2008-048528(JP,A)
【文献】特開2014-151688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機及びその動力伝達系の潤滑に用いられる潤滑剤が当該電動機の冷却に用いられ、第1電動機を含む複数の前記電動機によって駆動される電動車両の制御方法であって、
前記電動車両が必要とする駆動力に基づいて前記複数の電動機のトルク配分を設定し、
前記設定されたトルク配分に基づいて前記複数の電動機の駆動を制御し、
前記第1電動機について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい場合には、前記第1電動機の冷却に用いられる前記潤滑剤の循環を間欠的に実施させる
電動車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1電動機について設定されたトルク配分が前記所定値を基準として小さい状態が継続している場合には、前記電動車両の車速と前記第1電動機の回転数と前記第1電動機に係る前記潤滑剤の温度とのうちの少なくとも1つに基づいて、前記第1電動機に係る前記潤滑剤の循環を実施させるタイミングを決定する
電動車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1電動機について設定されたトルク配分が前記所定値を基準として小さい場合には、前記潤滑剤を当該潤滑剤とは異なる冷媒を用いて冷却する冷却システムについて、前記第1電動機に係る前記潤滑剤を冷却する前記冷却システムにおける前記冷媒の循環を少なくとも一時的に停止させる
電動車両の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1電動機について設定されたトルク配分が前記所定値を基準として小さい状態が継続している場合には、前記第1電動機に係る前記潤滑剤を冷却する前記冷却システムにおける前記冷媒の循環を間欠的に実施させる
電動車両の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1電動機について設定されたトルク配分が前記所定値を基準として小さい状態が継続している場合には、前記第1電動機に係る前記潤滑剤の温度に基づいて、前記第1電動機に係る前記潤滑剤を冷却する前記冷却システムにおける前記冷媒の循環を実施させるタイミングを決定する
電動車両の制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の電動車両の制御方法において、
前記所定値は0であり、
前記第1電動機について設定されたトルク配分が0とされた場合に前記第1電動機に係る前記潤滑剤の循環を間欠的に実施させる
電動車両の制御方法。
【請求項7】
電動車両を駆動する複数の電動機と、
前記電動機及びその動力伝達系の潤滑に用いられるとともに当該電動機の冷却に用いられる潤滑剤を循環させて当該電動機を冷却するポンプであって、前記複数の電動機毎に設置される複数のポンプと、
前記電動車両が必要とする駆動力に基づいて前記複数の電動機のトルク配分を設定し、前記設定されたトルク配分に基づいて前記複数の電動機の駆動を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記複数の電動機を構成する第1電動機について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい場合には、前記第1電動機を冷却する前記ポンプを間欠的に駆動させるように制御する電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電動機を有する電動車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電動機を有する電動車両として、複数の電動機を利用して4輪(前輪後輪)を回転駆動させる電動車両が存在する。例えば、特開2015-136980号公報では、4WDモードの走行中に損失が最小になるように複数のモータジェネレータのトルク配分を決定するハイブリッド車両が提案されている。このハイブリッド車両では、車両が必要とするトルクに基づき損失電力が最小になるよう各モータジェネレータのトルク配分を設定し、この設定したトルク配分に基づいて各モータジェネレータの駆動を制御する。
【発明の概要】
【0003】
上述した従来技術では、損失電力を最小化するために1つのモータジェネレータのトルク配分を0と設定することがある。この場合には、トルク配分が0と設定されたモータジェネレータの駆動を停止させる。ここで、電動車両がモータジェネレータの潤滑と冷却を潤滑剤で共用している場合には、モータジェネレータの駆動停止とともに潤滑剤の循環を停止させてしまうと潤滑を適切に行うことができないおそれがある。一方、モータジェネレータの駆動停止中に通常通り潤滑剤を循環させ続けると冷却システムの消費電力を抑制することができずエネルギー損失が大きくなり、車両の電費が悪化するおそれがある。
【0004】
本発明は、電動機及びその動力伝達系の潤滑を適切に行うとともに冷却システムの消費電力を抑制することを目的とする。
【0005】
本発明の一形態は、電動機及びその動力伝達系の潤滑に用いられる潤滑剤が電動機の冷却に用いられ、複数の電動機によって駆動される電動車両の制御方法である。この制御方法は、電動車両が必要とする駆動力に基づいて複数の電動機のトルク配分を設定し、その設定されたトルク配分に基づいて複数の電動機の駆動を制御し、複数の電動機のうちの一部(第1電動機)について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい場合には、第1電動機の冷却に用いられる潤滑剤の循環を間欠的に実施させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態における車両の冷却システムの概略構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、後輪のモータの第2冷却システムの間欠駆動時における冷却オイルのポンプ流量と、間欠駆動が開始されてからの経過時間との関係を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、後輪のモータの第2冷却システムの間欠駆動時における冷却オイルのポンプ流量と、間欠駆動が開始されてからの経過時間との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、コントローラが実行する後輪のモータの第2冷却システムの駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態における車両の冷却システムの概略構成を示す図である。
【
図5】
図5は、コントローラが実行する、第1冷却システムと後輪のモータの第2冷却システムとの駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6A】
図6Aは、第1冷却システムを通常駆動させる場合の第1冷却システムの冷却水のポンプ流量と、第2冷却システムの冷却オイルの温度(油温)との関係を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、第1冷却システムを間欠的に駆動させる場合の第1冷却システムの冷却水のポンプ流量と、第2冷却システムの冷却オイルの温度(油温)との関係を示す図である。
【
図6C】
図6Cは、第1冷却システムを一時的に停止させる場合の第1冷却システムの冷却水のポンプ流量と、一時的な停止時からの経過時間との関係の一例を簡略化して示す図である。
【
図7】
図7は、コントローラが実行する、第1冷却システムと、後輪のモータの第2冷却システムとの駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0008】
[第1実施形態]
〔システム構成図〕
図1は、本発明の第1実施形態における車両の冷却システム1の概略構成を示す図である。なお、第1実施形態における車両は、前輪及び後輪のそれぞれの駆動輪に駆動源としてのモータ33、43を備える4輪駆動車(4WD車両)の電動車両である。すなわち、第1実施形態における車両は、モータ33によって前輪が駆動され、モータ43によって後輪が駆動される電動車両である。
【0009】
図1には、第1冷却システム20を2つのポンプ22、23で実現する冷却システム1を示す。なお、第1冷却システム20は、冷却水を用いて車両の各部を冷却する水冷式の冷却システムであり、例えば、冷却水の温度(水温)に応じて冷却水の流量が調整される。なお、第1実施形態では、第1冷却システム20が1つの冷媒(冷却水)を用いる例を示すが、第1冷却システム20が複数の冷媒を用いて各部を冷却するようにしてもよい。
【0010】
図1に示すように、冷却システム1は、コントローラ10と、冷却器21と、ポンプ22、23、34、44と、供給流路24乃至26、35、36、45、46と、インバータ31、41と、熱交換器32、42と、モータ33、43とを備える。なお、冷却器21、ポンプ22、23、供給流路24乃至26により第1冷却システム20が構成される。また、熱交換器32、ポンプ34、供給流路35、36により前輪のモータ33の第2冷却システム30が構成される。また、熱交換器42、ポンプ44、供給流路45、46により後輪のモータ43の第2冷却システム40が構成される。なお、ポンプ22、23は、第1冷却システム20において冷媒(冷却水)を循環(圧送)させるための循環用ポンプ装置である。また、ポンプ34、44は、第2冷却システム30、40において冷媒(冷却オイル)を循環(圧送)させるための循環用ポンプ装置である。また、ポンプ22、23、34、44は、コントローラ10の制御に基づいて、駆動または停止させることができ、間欠的に動作させることもできる。
【0011】
コントローラ10は、マイクロプロセッサ、入出力インターフェース、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成され、車両の各部を制御するものである。
図1に示す例では、コントローラ10は、ポンプ22、23、34、44、インバータ31、41を制御する。
【0012】
また、コントローラ10は、車両の各部から車両情報(例えば、アクセルペダルの踏込量、車両の速度(車速))を取得し、その車両情報に基づいて車両が必要とする駆動力(車両全体のトルク指令値、車両全体のトルク指令要求)を算出する。そして、コントローラ10は、その算出された駆動力に基づいて、複数のモータ33、43のトルク配分を設定する。すなわち、前輪に要求する駆動力(トルク指令値)と後輪に要求する駆動力(トルク指令値)とが設定される。このように、複数のモータ33、43のトルク配分は、車両の各部から取得される車両情報(アクセルペダルの踏込量、車速)に基づいて決定される。言い換えると、好ましい車両挙動になるように複数のモータ33、43のトルク配分(例えば、等分、所定比率)が決定される。また、コントローラ10は、設定されたトルク配分に応じたトルク指令値をインバータ31、41に出力する。すなわち、コントローラ10は、設定されたトルク配分になるように、インバータ31、41を制御して前輪のモータ33と後輪のモータ43とを駆動させる。このように、コントローラ10は、その設定されたトルク配分に基づいて、複数のモータ33、43の駆動を制御する。
【0013】
なお、コントローラ10は、後輪のモータ43のトルク配分が0と設定された場合には、インバータ41を制御して後輪のモータ43の駆動を停止させる。すなわち、コントローラ10は、後輪のモータ43のトルク配分が0と設定された場合には、後輪のモータ43を駆動するインバータ41のスイッチング動作を停止させる。例えば、車両がある程度低い車速(低車速)で、かつ、流れに沿って走っている状態では後輪のトルク配分が0となることがある。また、例えば、低車速で、かつ、アクセルペダルの踏込量が小さい場合も後輪のトルク配分が0となることがある。また、例えば、車両全体のトルク指令要求が少ない場合(トルク指令値が小さい場合)にも後輪のトルク配分が0となることがある。このように、第1実施形態における車両は、要求トルクが小さい場合には、前輪後輪のうちの一部(前輪)のみを駆動させ、他(後輪)を停止させる機能を備える。
【0014】
冷却器21は、車両のフロント部分に取り付けられているラジエータであり、冷却水の熱を車外の空気に放熱するための機器である。また、冷却器21は、冷却水が流通する供給流路24乃至26と接続される。また、
図1に示す例では、供給流路26には、冷却水を循環させるポンプ22が設けられ、供給流路25には、冷却水を循環させるポンプ23が設けられている。具体的には、車両の走行に応じて冷却器21に風が通り、この風によって冷却器21内の冷却水が冷やされる。また、冷却器21内で冷やされた冷却水がポンプ22、23の圧送により供給流路24乃至26を循環することにより、インバータ31、41、熱交換器32、42が冷却される。
【0015】
インバータ31は、モータ33とバッテリ(図示せず)に接続され、コントローラ10からの指示に基づいて、モータ33とバッテリの間の電気のやり取りを制御する電力変換器である。また、インバータ41は、モータ43とバッテリ(図示せず)に接続され、コントローラ10からの指示に基づいて、モータ43とバッテリの間の電気のやり取りを制御する電力変換器である。また、インバータ31、熱交換器32は、供給流路26を流通する冷却水により冷却され、インバータ41、熱交換器42は、供給流路25を流通する冷却水により冷却される。
【0016】
熱交換器32は、供給流路26を流通する冷却水と、供給流路35、36を流通する冷却オイルとを利用して、前輪のモータ33の温度を下げる熱交換器である。具体的には、冷却器21内で冷やされた冷却水が供給流路26を流通することにより熱交換器32が冷却される。また、熱交換器32内で冷やされた冷却オイルがポンプ34の圧送により供給流路35、36を循環することによりモータ33が冷却される。
【0017】
また、熱交換器42は、供給流路25を流通する冷却水と、供給流路45、46を流通する冷却オイルとを利用して、後輪のモータ43の温度を下げる熱交換器である。具体的には、冷却器21内で冷やされた冷却水が供給流路25を流通することにより熱交換器42が冷却される。また、熱交換器42内で冷やされた冷却オイルがポンプ44の圧送により供給流路45、46を循環することによりモータ43が冷却される。
【0018】
このように、第1冷却システム20は、第2冷却システム30、40の冷却オイルを冷却するための冷却システムとしても機能する。
【0019】
モータ33は、車両の前輪を駆動するための電動機であり、インバータ31を介してバッテリに接続されている。また、モータ43は、車両の後輪を駆動するための電動機であり、インバータ41を介してバッテリに接続されている。なお、モータ33、43は、例えば巻線界磁型同期電動機(EESM)を用いることができる。ただし、要求トルクが小さい場合にインバータのスイッチングを停止させることが可能な他の電動機(例えば誘導型電動機や磁石型同期電動機)を用いるようにしてもよい。
【0020】
また、モータ33、43の内部あるいは周囲には冷却オイルが流通する通路が設けられている。そして、ポンプ34から圧送される冷却オイルが熱交換器32、モータ33、供給流路35、36を循環し、モータ33が冷却される。また、ポンプ34から圧送される冷却オイルは、モータ33及びその動力伝達系の潤滑剤としても機能する。同様に、ポンプ44から圧送される冷却オイルが熱交換器42、モータ43、供給流路45、46を循環し、モータ43が冷却される。また、ポンプ44から圧送される冷却オイルは、モータ43及びその動力伝達系の潤滑剤としても機能する。
【0021】
なお、モータ33には油温センサが装着され、その油温センサから出力される信号に基づいてインバータ31がモータ33の油温を検出し、その検出結果をコントローラ10に出力する。同様に、モータ43には油温センサが装着され、その油温センサから出力される信号に基づいてインバータ41がモータ43の油温を検出し、その検出結果をコントローラ10に出力する。
【0022】
このように、第2冷却システム30に用いられる冷却オイルは、モータ33の冷却に用いられるとともに、モータ33及びその動力伝達系の潤滑剤(冷媒潤滑油)としても機能する。同様に、第2冷却システム40に用いられる冷却オイルは、モータ43の冷却に用いられるとともに、モータ43及びその動力伝達系の潤滑剤(冷媒潤滑油)としても機能する。このように、第2冷却システム30、40は、冷却オイルを圧送するためのポンプ等の装置と冷却オイルを供給する供給流路とを備える電動機用のオイル潤滑回路である。また、第2冷却システム30、40では、ポンプ等の装置とオイル供給流路とが組み合わされた状態で作動することで、潤滑対象の各部位に冷却オイルが供給される。また、第2冷却システム30、40の作用により、潤滑部位の焼きつきを防止することができる。また、第2冷却システム30、40には、冷却オイルを冷却する装置(熱交換器32、42)が備えられ、この装置により冷却オイルの温度が高くなることを防止することができる。なお、第2冷却システム30、40は、冷却オイルを用いるため、油冷システムと称することもできる。また、第2冷却システム30、40は、潤滑冷却装置と称することもできる。
【0023】
また、通常動作時には、電動車両の車速と、前輪のモータ33の回転数と、第2冷却システム30の冷却オイルの温度(油温)とのうちの少なくとも1つに基づいて、第2冷却システム30の冷却オイルの循環が制御される。同様に、通常動作時には、電動車両の車速と、後輪のモータ43の回転数と、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)とのうちの少なくとも1つに基づいて、第2冷却システム40の冷却オイルの循環が制御される。
【0024】
上述したように、第1実施形態では、後輪のモータ43のトルク配分が0と設定された場合には、後輪のモータ43の駆動を停止させる。このように、後輪のモータ43の駆動を停止させている場合に、モータ43の冷却に用いられる冷却オイルを通常通り循環させてしまうと、冷却オイルの循環によりエネルギー損失が大きくなるおそれがある。一方、後輪のモータ43の駆動を停止させている場合に、モータ43の冷却に用いられる冷却オイルの循環を完全に停止させてしまうことも考えられる。しかし、モータ43の冷却に用いられる冷却オイルは、モータ43及びその動力伝達系の潤滑剤としても用いられているため、モータ43の冷却に用いられる冷却オイルの循環を完全に停止させてしまうと、モータ43及びその動力伝達系の潤滑が不十分になるおそれがある。言い換えると、後輪のモータ43のトルク配分が0と設定され、インバータ41のスイッチング動作を停止させた場合には、後輪のモータ43、インバータ41は発熱しないため、熱的には問題ないことが多い。しかし、インバータ41のスイッチング動作と後輪のモータ43の駆動を停止させた場合でも、駆動が停止中のモータ43は車両走行によって駆動輪につれ回されることもある。このため、モータ43における一部の摺動部品には潤滑が必要となるため、モータ43には冷却オイルを供給する必要がある。
【0025】
そこで、第1実施形態では、後輪のモータ43のトルク配分が0と設定された場合には、後輪のモータ43の駆動を停止させるとともに、モータ43の冷却に用いられる冷却オイルの循環を間欠的に行う例(少なくとも一時的に停止させる例)を示す。なお、間欠的に行うとは、一定の時間をおいて行うことを意味するが、本実施形態では、一時的に停止した後に、所定条件を満たすタイミング(定期的なタイミング、不定期のタイミング)で行うことも意味するものとする。
【0026】
すなわち、コントローラ10は、後輪のモータ43のトルク配分が0と設定された場合には、後輪のモータ43の駆動を停止させるとともに、モータ43の冷却に用いられる冷却オイルを循環させるポンプ44を間欠的に駆動させるための制御を行う。この間欠的な駆動については、
図2A、
図2B及び
図3を参照して詳細に説明する。
【0027】
[間欠駆動時における冷却オイルのポンプ流量の駆動タイミング例]
図2A及び
図2Bは、後輪のモータ43の第2冷却システム40の間欠駆動時における冷却オイルのポンプ流量(縦軸)と、間欠駆動が開始されてからの経過時間(横軸)との関係を示す図である。
図2A、
図2Bでは、間欠駆動を決定する際に用いられる閾値(パラメータ)を変更した場合の例を示す。なお、
図2A及び
図2Bについては、
図3を参照して詳細に説明する。
【0028】
[第2冷却システム駆動制御例]
図3は、コントローラ10が実行する後輪のモータ43の第2冷却システム40の駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、コントローラ10にプログラムされた処理であって、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。
【0029】
ステップS101において、コントローラ10は、車両の各部から車両情報(アクセルペダルの踏込量、車速)を取得し、その車両情報に基づいて車両が必要とする駆動力(車両全体のトルク指令値)を算出する。そして、コントローラ10は、その算出された駆動力に基づいて複数のモータ33、43のトルク配分を設定する。すなわち、コントローラ10は、電動車両が必要とする駆動力に基づいて複数のモータ33、43のトルク配分を設定する。
【0030】
ステップS102において、コントローラ10は、後輪のトルク配分が0であるか否かを判断する。後輪のトルク配分が0でない場合には、ステップS103において、コントローラ10は、設定されたトルク配分に応じたトルク指令値をインバータ31、41に出力する。すなわち、コントローラ10は、設定されたトルク配分になるように、インバータ31、41を制御して、前輪のモータ33と後輪のモータ43とを駆動させる。
【0031】
ステップS104において、コントローラ10は、前輪のモータ33の第2冷却システム30と、後輪のモータ43の第2冷却システム40とを通常駆動させる。すなわち、コントローラ10は、ポンプ34、44の駆動制御を行う。
【0032】
また、ステップS102で後輪のトルク配分が0であると判断された場合には、ステップS105において、コントローラ10は、前回の設定でも後輪のトルク配分が0であったか否かを判断する。前回の設定では後輪のトルク配分が0でなかった場合には、ステップS106において、コントローラ10は、インバータ41からの情報に基づいて、後輪のモータ43の回転数のカウントを開始する。
【0033】
ステップS107において、コントローラ10は、ステップS101で設定されたトルクとなるようにインバータ31を制御して前輪のモータ33を駆動させる。また、コントローラ10は、インバータ41を制御して後輪のモータ43の駆動を停止させる。
【0034】
ステップS108において、コントローラ10は、前輪のモータ33の第2冷却システム30を通常駆動させるとともに、後輪のモータ43の第2冷却システム40を停止させる。すなわち、第2冷却システム40のポンプ44の駆動が停止される。
【0035】
また、ステップS105で前回の設定でも後輪のトルク配分が0であると判断された場合には、ステップS109において、コントローラ10は、ステップS101で設定されたトルクとなるようにインバータ31を制御して前輪のモータ33を駆動させる。また、コントローラ10は、インバータ41を制御して後輪のモータ43の駆動を引き続き停止させる。
【0036】
ステップS110において、コントローラ10は、ステップS106でカウントを開始した後輪のモータ43の累積回転数が閾値TH1以上となったか否かを判断する。後輪のモータ43の累積回転数が閾値TH1未満である場合には、この処理手順の動作を終了する。
【0037】
後輪のモータ43の累積回転数が閾値TH1以上となっている場合には、ステップS111において、コントローラ10は、後輪のモータ43の累積回転数をリセットして、後輪のモータ43の回転数のカウントを開始する。
【0038】
ステップS112において、コントローラ10は、後輪のモータ43の第2冷却システム40を所定時間駆動させる設定を行う。すなわち、第2冷却システム40のポンプ44を所定時間駆動させる。なお、所定時間として、固定値(例えば数秒)を用いるようにしてもよく、何らかの規則に基づいて複数の値のうちから決定された値(例えば2秒、4秒、6秒)を用いてもよい。例えば、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)に基づいて、所定値を決定するようにしてもよい。例えば、冷却オイルの油温が低い場合には、冷却オイルの粘度が高いので冷却オイルが摺動部に留まる時間が長いと想定される。このため、冷却オイルの油温が低い場合には、所定時間として比較的短い時間を設定することができる。一方、冷却オイルの油温が高い場合には、冷却オイルの粘度が低いので冷却オイルが摺動部に留まる時間が短いと想定される。このため、冷却オイルの油温が高い場合には、所定時間として比較的長い時間を設定することができる。
【0039】
例えば、車速が一定の場合には、後輪のモータ43の累積回転数が一定間隔で閾値TH1以上となる。このため、
図2Aや
図2Bに示すように、車速に応じて定期的に駆動タイミングが発生し、第2冷却システム40のポンプ44が間欠的に駆動される。なお、
図2Aは、閾値TH1を比較的高く設定した場合の例であり、
図2Bは、閾値TH1を比較的低く設定した場合の例である。
【0040】
このように、後輪のトルク配分が0である場合には、第2冷却システム40を間欠的に駆動させる。この間欠的な駆動では、最初に、ポンプ44の駆動が停止され、その停止後に、後輪のモータ43の累積回転数が閾値TH1となったタイミングでポンプ44を順次駆動させる。
【0041】
なお、以上では、ポンプ44の間欠的な駆動が行われる場合に、後輪のモータ43の累積回転数に基づいてポンプ44の駆動タイミングを決定する例を示したが、他の条件に基づいてポンプ44の駆動タイミングを決定するようにしてもよい。例えば、車速に基づいて、ポンプ44の駆動タイミングを決定するようにしてもよい。上述したように、車速と後輪のモータ43の回転数とは比例関係にある。このため、車速に基づいて後輪のモータ43の回転数を順次算出し、その回転数の累積値を用いて、ポンプ44の駆動タイミングを決定することができる。また、ポンプ44の間欠的な駆動が行われる場合に、車速が所定値以上であるか否かに基づいて、ポンプ44の駆動タイミングを決定するようにしてもよい。この場合には、車速に基づいてモータの回転数を算出するための演算処理が必要ないため、第2冷却システム駆動制御の処理負荷を低減させることができる。
【0042】
また、ポンプ44の間欠的な駆動が設定された後に、何らかの理由で後輪のモータ43の回転数を取得することができないことも想定される。この場合には、予め設定されている間隔(例えば数秒間隔)でポンプ44の間欠駆動を行うようにしてもよい。または、複数の間欠駆動の間隔と、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)とを関連付けて登録しておき、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)に基づいて、複数の間欠駆動の間隔のうちから、1つの間隔を決定してポンプ44の間欠駆動を実行するようにしてもよい。例えば、油温が閾値を基準にして高い場合には間欠駆動の頻度を上げ(例えば
図2Bに示す頻度)、油温が閾値を基準にして低い場合には間欠駆動の頻度を下げる(例えば
図2Aに示す頻度)ように設定することができる。このように、油温に基づいて、第2冷却システム40の冷却オイルの循環を間欠的に実施させるように制御することができる。
【0043】
以上で示したように、電動車両の車速と、後輪のモータ43の回転数と、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)とは、それぞれが独立したパラメータとして使用可能である。すなわち、電動車両の車速と、後輪のモータ43の回転数と、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)とのうちの少なくとも1つに基づいて、第2冷却システム40の冷却オイルの循環を間欠的に実施させるように制御することができる。
【0044】
なお、
図3では、閾値TH1を一定値とする例を示したが、所定規則に基づいて閾値TH1を変更するようにしてもよい。例えば、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)に基づいて、閾値TH1を変更するようにしてもよい。
【0045】
上述したように、冷却オイルの油温が低い場合には、冷却オイルの粘度が高いので冷却オイルが摺動部に留まる時間が長いと想定される。このため、冷却オイルの油温が低い場合には、間欠駆動の頻度を下げることが望ましい。一方、冷却オイルの油温が高い場合には、冷却オイルの粘度が低いので冷却オイルが摺動部に留まる時間が短いと想定される。このため、冷却オイルの油温が高い場合には、間欠駆動の頻度を上げることが望ましい。
【0046】
そこで、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が閾値TH2を基準として低い場合(例えば閾値TH2≧油温)には、間欠駆動の頻度を下げるため、閾値TH1として比較的高い値を設定する。また、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が閾値TH2を基準として高い場合(例えば閾値TH2<油温)には、間欠駆動の頻度を上げるため、閾値TH1として比較的低い値を設定する。
【0047】
図2A、
図2Bを参照すると、
図2Aは、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が閾値TH2を基準として低い場合の駆動タイミングの一例として把握することができる。これに対して、
図2Bは、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が閾値TH2を基準として高い場合の駆動タイミングの一例として把握することができる。このように、油温に基づいて閾値TH1を変更することができる。すなわち、油温に基づいてポンプ44の駆動タイミングを変更することができる。なお、この例では、油温に基づいて閾値TH1として2つの値を設定する例を示すが、3つ以上の値を設定するようにしてもよい。
【0048】
なお、モータ33、43の冷却および潤滑に用いられる冷媒(潤滑剤、冷媒潤滑油)として冷却オイルを用いる例を示したが、モータの潤滑に好適な、オイル以外の他の流体(例えば不活性冷媒)を用いるようにしてもよい。また、モータ33、43の冷却および潤滑に用いられる冷却オイルは、他の部品の潤滑に用いられるオイルと共有されてもよい。
【0049】
このように、第1実施形態によれば、後輪のトルク配分が0に設定された場合には、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環を一時的に停止させる。このように、第2冷却システム40の冷却オイルの循環を一時的に停止させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費を改善することができる。これにより、車両の航続距離を延長できる。また、後輪のトルク配分が0に設定され、第2冷却システム40の冷却オイルの循環を一時的に停止させた後には、所定条件を満たすタイミング(例えば間欠的)で冷却オイルを循環させる。これにより、第2冷却システム40の冷却オイルの循環が一時的に停止した後でも、後輪のモータ43及びその動力伝達系には所定条件を満たすタイミングで冷却オイルが供給されるため、各部(潤滑が必要となる摺動部品等)の焼き付きを防止することができる。このように、第1実施形態によれば、電動機(モータ33、43)及びその動力伝達系の潤滑を適切に行うとともに、冷却システム(第2冷却システム40)の消費電力を抑制することができる。
【0050】
なお、
図1では、第1冷却システム20を2つのポンプ22、23で実現する冷却システム1を示したが、ポンプの数を1または3以上とする場合についても第1実施形態を適用することができる。そこで、
図4には、1つのポンプ51で第1冷却システム50を実現する冷却システム2を示す。すなわち、
図4には、車両の冷却システム2の概略構成を示す。
【0051】
なお、第1冷却システム50の構成については、設置されるポンプの数が異なる点以外は第1冷却システム20と略同一であるため、第1冷却システム20と共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。また、ポンプ51は、第1冷却システム50において冷媒(冷却水)を循環(圧送)させるための循環用ポンプ装置であり、供給流路24に設けられている。また、冷却器21内で冷やされた冷却水がポンプ51の圧送により供給流路24乃至26を循環することにより、インバータ31、41、熱交換器32、42が冷却される。また、ポンプ51は、コントローラ10の制御に基づいて、駆動または停止させることができ、間欠的に動作させることもできる。すなわち、
図4に示す例では、コントローラ10は、ポンプ51、34、44、インバータ31、41を制御する。
【0052】
[第1実施形態の作用効果]
第1実施形態に係る電動車両の制御方法は、電動機(モータ33、43)及びその動力伝達系の潤滑に用いられる潤滑剤が当該電動機の冷却に用いられ、第1電動機(モータ43)を含む複数の電動機によって駆動される電動車両の制御方法である。この制御方法では、ステップS101において、電動車両が必要とする駆動力に基づいて複数の電動機のトルク配分を設定する。また、ステップS103、S107、S109において、ステップS101で設定されたトルク配分に基づいて複数の電動機の駆動を制御する。また、ステップS108、S112において、第1電動機について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい場合には、第1電動機の冷却に用いられる潤滑剤の循環を間欠的に実施させる。
【0053】
このような電動車両の制御方法によれば、第1電動機の冷却に用いられる潤滑剤の循環を間欠的に実施させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費を改善することができる。これにより、車両の航続距離を延長できる。また、第1電動機及びその動力伝達系には間欠的に(例えば、所定条件を満たすタイミングで)冷却オイルが供給されるため、各部(潤滑が必要となる摺動部品等)の焼き付きを防止することができる。すなわち、電動機(モータ33、43)及びその動力伝達系の潤滑を適切に行うとともに、冷却システム(第2冷却システム40)の消費電力を抑制することができる。
【0054】
また、第1実施形態に係る電動車両の制御方法では、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい状態が継続している場合には、電動車両の車速と、第1電動機の回転数と、第1電動機に係る潤滑剤の温度とのうちの少なくとも1つに基づいて、第1電動機に係る潤滑剤の循環を実施させるタイミングを決定する。
【0055】
このような電動車両の制御方法によれば、電動車両の車速と、第1電動機の回転数と、第1電動機に係る潤滑剤の温度とのうちの少なくとも1つに基づいて決定されたタイミングで、第1電動機に係る潤滑剤の循環を適切に実施することができる。また、それらの3要素を考慮した適切なタイミングで、第1電動機に係る潤滑剤の循環を適切に実施することができるため、各部(潤滑が必要となる摺動部品等)の焼き付きを防止することができる。
【0056】
また、第1実施形態に係る電動車両の制御方法では、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が0とされた場合に、第1電動機に係る潤滑剤の循環を間欠的に実施させる。
【0057】
このような電動車両の制御方法によれば、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が0とされた場合に、第1電動機の冷却に用いられる潤滑剤の循環を間欠的に実施させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費を改善することができる。これにより、車両の航続距離を延長できる。
【0058】
また、第1実施形態に係る電動車両は、複数の電動機(モータ33、43)と、複数のポンプ(ポンプ34、44)と、コントローラ10とを備える。複数の電動機(モータ33、43)は、電動車両を駆動する。また、複数のポンプ(ポンプ34、44)は、電動機及びその動力伝達系の潤滑に用いられるとともに当該電動機の冷却に用いられる潤滑剤を循環させて当該電動機を冷却するポンプであり、複数の電動機毎に設置される。また、コントローラ10は、電動車両が必要とする駆動力に基づいて複数の電動機のトルク配分を設定し、その設定されたトルク配分に基づいて複数の電動機の駆動を制御し、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい場合には、第1電動機を冷却するポンプ(ポンプ44)を間欠的に駆動させるように制御する。
【0059】
このような電動車両によれば、第1電動機の冷却に用いられる潤滑剤の循環を間欠的に実施させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費を改善することができる。これにより、車両の航続距離を延長できる。また、第1電動機及びその動力伝達系には間欠的に(例えば、所定条件を満たすタイミングで)冷却オイルが供給されるため、各部(潤滑が必要となる摺動部品等)の焼き付きを防止することができる。すなわち、電動機(モータ33、43)及びその動力伝達系の潤滑を適切に行うとともに、冷却システム(第2冷却システム40)の消費電力を抑制することができる。
【0060】
[第2実施形態]
第1実施形態では、電費改善のため、後輪のモータ43の第2冷却システム40を一時的に停止させ、その後間欠的に駆動させる例を示した。第2実施形態では、第1冷却システム20の冷却水の一部を一時的に停止させることにより、さらに電費を改善する例を示す。なお、第2実施形態では、第1冷却システム20が2つのポンプ22、23を備える場合(
図1に示す)の例を示す。なお、第2実施形態は、第1実施形態の一部を変更した例であり、第1実施形態と共通する部分については、図示及びその説明の一部を省略する。
【0061】
図5は、コントローラ10が実行する、第1冷却システム20と後輪のモータ43の第2冷却システム40との駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、コントローラ10にプログラムされた処理であって、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。また、この処理手順は、
図3に示す処理手順の一部を変形したものであり、
図3に示す処理手順と共通する部分には同一の符号を付して説明の一部を省略する。
【0062】
また、この処理手順では、後輪のトルク配分が0である場合に、第1冷却システム20のポンプ23を停止させる例を示す。
【0063】
ステップS102で後輪のトルク配分が0でないと判断された場合には、ステップS103において、前輪のモータ33と後輪のモータ43とを駆動させる。ステップS104において、前輪のモータ33の第2冷却システム30と後輪のモータ43の第2冷却システム40とを通常駆動させる。
【0064】
ステップS201において、コントローラ10は、第1冷却システム20の2つのポンプ22、23を通常駆動させる。
【0065】
また、ステップS102で後輪のトルク配分が0と判断され、ステップS105で前回の設定では後輪のトルク配分が0でないと判断された場合には、ステップS106において、後輪のモータ43の回転数のカウントを開始する。ステップS107において、前輪のモータ33を駆動させ、後輪のモータ43の駆動を停止させる。ステップS108において、前輪のモータ33の第2冷却システム30を通常駆動させ、後輪のモータ43の第2冷却システム40を一時的に停止させる。
【0066】
ステップS202において、コントローラ10は、第1冷却システム20の前輪側のポンプ22を通常駆動させ、後輪側のポンプ23を停止させる。
【0067】
このように、第2実施形態によれば、後輪のトルク配分が0に設定された場合には、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環を間欠的に駆動させる(一時的に停止させる)とともに、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環を停止させる。このように、第2冷却システム40の冷却オイルの循環と、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環とを少なくとも一時的に停止させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費をさらに改善することができる。これにより、車両の航続距離をさらに延長できる。このように、第2実施形態によれば、電動機(モータ33、43)及びその動力伝達系の潤滑を適切に行うとともに、冷却システム(第1冷却システム20、第2冷却システム40)の消費電力を抑制することができる。
【0068】
[第2実施形態の作用効果]
第2実施形態に係る電動車両の制御方法では、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい場合には、潤滑剤(冷却オイル)を当該潤滑剤とは異なる冷媒(冷却水)を用いて冷却する冷却システム(第1冷却システム20)について、第1電動機に係る潤滑剤を冷却する冷却システムにおける冷媒の循環を少なくとも一時的に停止させる(第1冷却システム20の後輪側のポンプ23を停止させる)。
【0069】
このような電動車両の制御方法によれば、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環を少なくとも一時的に停止させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費をさらに改善することができる。これにより、車両の航続距離をさらに延長できる。
【0070】
[第2実施形態の変形例]
以上では、第1冷却システムの一部(後輪側のポンプ23)を停止させる例を示した。次に、電費改善を目的として、第1冷却システムの一部(後輪側のポンプ23)を間欠的に駆動させる例を示す。なお、第2実施形態の変形例では、後輪のモータ43の温度を下げるための冷却オイルの温度(油温)に基づいて、後輪側のポンプ23を間欠的に駆動させる例を示す。なお、この駆動タイミングについては、
図6A乃至
図6C、
図7を参照して詳細に説明する。
【0071】
[冷却水ポンプ流量とモータの冷却オイルとの関係例]
図6Aには、第1冷却システム20を通常駆動させる場合の第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量(縦軸)と、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)(横軸)との関係を示す。ここで、インバータ(特に、強電変換素子(例えば、IGPT、パワーモジュール))は、急激な温度上昇が発生することがある。例えば、インバータの温度が低いため水温が低い状態となっているような場合でも、その後にインバータの温度が急激に上がる可能性がある。そのため、インバータの温度が低く水温が低い状態で冷却水のポンプ流量を0にした場合に、その後にインバータの温度が急激に上がると、インバータの温度が上がる速度に対して、第1冷却システム20の冷却水の温度を下げる速度が追い付かないおそれがある。そこで、インバータが駆動しているときには常に冷却水を供給しておく必要がある。具体的には、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O2になるまでの間、第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量は一定値F1とする。
【0072】
また、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O2以上であり、かつ、所定温度O3未満である場合には、油温に応じて、第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量の値をF1からF2まで変化させる。また、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O3以上である場合には、第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量は一定値F2(ただしF1<F2)とする。
【0073】
図6Bには、第1冷却システム20を間欠的に駆動させる場合の第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量(縦軸)と、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)(横軸)との関係を示す。すなわち、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O1になるまでの間、第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量は停止させる。また、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O1以上であり、かつ、所定温度O3未満である場合には、油温に応じて、第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量の値を0からF2まで変化させる。また、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O3以上である場合には、第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量は一定値F2(ただしF1<F2)とする。
【0074】
このように、第1冷却システム20を通常駆動させる場合と、第1冷却システム20を間欠的に駆動させる場合とでは、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が所定温度O2未満の場合には異なるが、所定値O2以上の場合には共通する。
【0075】
図6Cには、第1冷却システム20を一時的に停止させる場合の第1冷却システム20の冷却水のポンプ流量(縦軸)と、一時的な停止時からの経過時間(横軸)との関係の一例を簡略化して示す。
図6Cに示すように、第1冷却システム20を一時的に停止させた後において、冷却オイルの温度(油温)が所定温度O1未満の場合(
図6Cに示すt11までの期間)には、冷却水のポンプ流量は0となる。また、冷却オイルの温度(油温)が所定温度O1以上となった場合(
図6Cに示すt11からt12までの期間)には、
図6Bに示す関係に従って、冷却水のポンプ流量(ただし、0<ポンプ流量≦F2)が決定される。また、冷却オイルの温度(油温)が所定温度O1未満となった場合(
図6Cに示すt12以降の期間)には、冷却水のポンプ流量は0となる。なお、
図6Cに示す例は、説明を容易にするため、冷却水のポンプ23の駆動タイミングの一例を簡略化して示したものであり、これに限定されるものではない。
【0076】
[冷却システム駆動制御例]
図7は、コントローラ10が実行する、第1冷却システム20と、後輪のモータ43の第2冷却システム40との駆動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、コントローラ10にプログラムされた処理であって、所定間隔(例えば数ミリ秒程度)で繰り返し実行される。また、この処理手順は、
図5に示す処理手順の一部を変形したものであり、
図5に示す処理手順と共通する部分には同一の符号を付して説明の一部を省略する。なお、この例で示す閾値TH3は、
図6Bに示すO1に対応する値である。
【0077】
ステップS112で後輪のモータ43の第2冷却システム40を所定時間駆動させる設定後に、ステップS301において、コントローラ10は、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が閾値TH3以上であるか否かを判断する。
【0078】
ステップS301で油温が閾値TH3未満であると判断された場合には、ステップS202に戻り、コントローラ10は、第1冷却システム20の後輪側のポンプ23を停止させる。なお、後輪側のポンプ23が停止中である場合には、停止を継続させる。一方、ステップS301で油温が閾値TH3以上であると判断された場合には、ステップS302において、コントローラ10は、第1冷却システム20の後輪側のポンプ23を駆動させる。この場合には、
図6Bに示す関係に基づいて、ポンプ23の駆動が制御される。なお、後輪側のポンプ23が駆動中である場合には、駆動を継続させる。
【0079】
なお、
図7では、第2冷却システム40の冷却オイルの温度(油温)が閾値TH3以上であるか否かに基づいて、第1冷却システム20のポンプ23を駆動させる例を示した。ただし、他の条件に基づいて、第1冷却システム20のポンプ23を駆動させるようにしてもよい。例えば、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環が再開されたことを条件に、第1冷却システム20のポンプ23を駆動させるようにしてもよい。また、例えば、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環が再開されそうなタイミングで、第1冷却システム20のポンプ23を駆動させるようにしてもよい。すなわち、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環の駆動時またはその前後のタイミングに基づいて、第1冷却システム20のポンプ23を駆動させるようにしてもよい。言い換えると、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環の駆動タイミングに基づいて、第1冷却システム20のポンプ23を駆動させるようにしてもよい。
【0080】
このように、第2実施形態の変形例によれば、後輪のトルク配分が0に設定された場合には、後輪のモータ43の第2冷却システム40の冷却オイルの循環を間欠的に駆動させる(一時的に停止させる)とともに、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環を間欠的に駆動させる(一時的に停止させる)。このように、第2冷却システム40の冷却オイルの循環と、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環とを一時的に停止させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費をさらに改善することができる。これにより、車両の航続距離をさらに延長できる。また、後輪のトルク配分が0に設定され、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環を一時的に停止させた後には、所定条件を満たすタイミング(油温が閾値TH3以上)で冷却水を循環させる。これにより、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環が一時的に停止した後でも、所定条件を満たすタイミングで冷却水の循環が再開されるため、車両全体における適切な冷却を実現することができる。このように、第2実施形態によれば、電動機(モータ33、43)及びその動力伝達系の潤滑を適切に行うとともに、冷却システム(第1冷却システム20、第2冷却システム40)の消費電力を抑制することができる。
【0081】
[第2実施形態の変形例の作用効果]
第2実施形態の変形例に係る電動車両の制御方法では、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい状態が継続している場合には、第1電動機に係る潤滑剤を冷却する冷却システム(第1冷却システム20)における冷媒の循環を間欠的に実施させる(第1冷却システム20の後輪側のポンプ23を間欠的に駆動させる)。
【0082】
このような電動車両の制御方法によれば、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環を間欠的に駆動させることにより、車両の冷却システムの消費電力を抑制し、車両の電費を改善することができる。また、第1冷却システム20の冷却水の一部の循環を間欠的に駆動させるため、車両全体における適切な冷却を実現することができる。
【0083】
また、第2実施形態の変形例に係る電動車両の制御方法では、第1電動機(モータ43)について設定されたトルク配分が所定値を基準として小さい状態が継続している場合には、第1電動機に係る潤滑剤(冷却オイル)の温度(油温)に基づいて、第1電動機に係る潤滑剤を冷却する冷却システム(第1冷却システム20)における冷媒の循環を実施させるタイミングを決定する(第1冷却システム20の後輪側のポンプ23を駆動させるタイミングを決定する)。
【0084】
このような電動車両の制御方法によれば、第1電動機に係る潤滑剤(冷却オイル)の温度(油温)を考慮した適切なタイミングで、冷却システム(第1冷却システム20)における冷媒の循環を適切に実施することができる。
【0085】
なお、第1、2実施形態では、説明を容易にするため、後輪のトルク配分が0に設定された場合に、後輪のモータ43の駆動を停止させる例を示した。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば、後輪のトルク配分が所定値(所定の下限トルク)を基準にして小さい場合(例えば、後輪のトルク配分が所定値以下である場合、後輪のトルク配分が所定値よりも小さい場合)に、後輪のモータ43の駆動を停止させるようにしてもよい。このように、後輪のモータ43の駆動を停止させた場合には、第1、2実施形態で示したように、第2冷却システム40のポンプ44の一時的な停止、間欠的な駆動と、第1冷却システム20のポンプ23の一時的な停止、間欠的な駆動とを行うことができる。ここで示す所定値として、例えば、±0.5ニュートン(N)を用いることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。