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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230725BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019210082
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021083241
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠貴
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-14557(JP,A)
【文献】特開2019-161900(JP,A)
【文献】特開2019-161748(JP,A)
【文献】国際公開第2012/172684(WO,A1)
【文献】特開平9-47026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアと信号波との比較によって生成された信号でスイッチング素子のスイッチングにより直流電力を交流電力に変更する電力変換装置において、
乱数を出力する乱数発生器と、基準となる周波数を出力する基準周波数発生器と、前記乱数発生器と前記基準周波数発生器との和を求め目標となるキャリア周波数を出力する加算器と、前記加算器の出力を現在のキャリア周波数の値を基に変化幅を制限しキャリア周波数を出力する変化幅制限器とを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記変化幅制限器は、前記加算器の出力である目標となるキャリア周波数と現在のキャリア周波数の差が所定値を越える場合には差が所定値となるキャリア周波数を出力し、キャリア周波数算出時に、変化幅を制限された場合には、次のキャリア周波数算出時にも前記目標となるキャリア周波数を用いて、再度キャリア周波数を算出し、
前記差が所定値内に収まる場合には前記目標となるキャリア周波数をキャリア周波数として出力することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1および、請求項2記載の電力変換装置において、
前期基準周波数発生器は、前記信号波の基本波周波数の変化に応じて変化させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1および、請求項2記載の電力変換装置において、
前期基準周波数発生器は、時間の変化に応じて変化させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1から4記載の電力変換装置において、
前記キャリア周波数の継続時間をランダムに決定する乱数発生器をさらに備え、前記変化幅制限器は前記乱数発生器により決定された継続時間が経過するごとに、前記キャリア周波数を出力することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のスイッチングにより直流電力を交流電力に変換する電力変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気車用の誘導電動機を駆動する電力変換装置の制御方法として、車両が低速で走行している際には、非同期制御を行い、車両が高速で走行している際には、同期制御を行うという方法が用いられることが多い。
【0003】
図5は一般的な電力変換装置30の構成例を示す図である。
【0004】
図5に示す電力変換装置30は、リアクトル12と、コンデンサ13と、電力変換器14と、キャリア周波数生成部35と、キャリア生成部16と、制御指令部17と、PWM信号生成部18とを備える。
【0005】
リアクトル12とコンデンサ13とは、直流電源11の正極と負極との間に、直列に接続されている。電力変換器14は、コンデンサ13に並列に接続されている。電力変換器14は、スイッチング素子を備えており、スイッチング素子のスイッチングにより、直流電源11からの直流電力を交流電力に変換して、誘導電動機であるモータ1に供給する。電力変換器14のスイッチング素子のオン・オフの切り替え方法としては、キャリアと制御指令との比較に応じてパルス幅が異なるPWM(Pulse Width Modulation)制御信号(制御信号)により、スイッチング素子を制御するPWM方式で制御する方法がある。
【0006】
キャリア周波数生成部35は、キャリアの周波数(キャリア周波数)を生成し、キャリア生成部16に出力する。キャリア生成部16は、キャリア周波数生成部35から出力されたキャリア周波数を周波数とする三角波などをキャリアとして生成し、PWM信号生成部18に出力する。制御指令部17は、制御指令を生成し、PWM信号生成部18に出力する。PWM信号生成部18は、キャリア生成部16から出力されたキャリアと、制御指令部17から出力された制御指令との比較により、電力変換器14のスイッチング素子のスイッチングを制御するPWM制御信号を生成する。このPWM制御信号を用いて、電力変換器14のスイッチング素子のスイッチングを制御することで、直流電力を交流電力に変換することができる。
【0007】
非同期制御時にPWM方式を用いた場合、キャリア周波数生成部35で生成されるキャリア周波数が一定であると、リアクトル12に流れる電流に含まれる周波数成分のうち、キャリア周波数に起因した特定の周波数スペクトルが高くなり、信号などの通信障害をもたらす誘導障害が発生する恐れがある。
【0008】
そこで、特許文献1には、2つの乱数発生器を用いて、高周波スペクトルを低減する技術が開示されている。図6は、特許文献1に開示されている技術を適用した場合の、キャリア周波数生成部35の構成例を示す図である。
【0009】
図6に示すキャリア周波数生成部35は、乱数発生器351、353と、タイマ352と、周期発生器354と、加算器355とを備える。
【0010】
乱数発生器351(第1の乱数発生器)は、乱数に基づき、キャリア周波数の継続時間を所定の範囲でランダムに決定し、決定した継続時間をタイマ352に設定する。
【0011】
タイマ352は、乱数発生器351により設定された継続時間が満了すると、乱数発生器353に通知を行う。
【0012】
乱数発生器353(第2の乱数発生器)は、タイマ352から通知が行われると、乱数に基づき、キャリア周波数を所定の範囲でランダムに変化(増減)させる周波数信号を生成し、加算器355に出力する。
【0013】
周期発生器354は、キャリア周波数の基準である基準キャリア周波数を中心に、所定周期で変化する周波数を生成し、加算器354に出力する。
【0014】
加算器355は、基準となるキャリア周波数である基準キャリア周波数に乱数発生器353から出力された周波数信号を加算した周波数を、キャリア周波数としてキャリア生成器16に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2019-161900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1に開示されている技術は、高周波スペクトルを低減し、誘導障害の発生を抑制することを目的としたものであるが、電磁騒音の低減については考慮されていない。
【0017】
また、乱数発生器を用いて、キャリア周波数を算出する場合、キャリア周波数の変動幅が大きくなると、リアクトルとコンデンサの共振周波数付近のスペクトルが上昇するという問題もシミュレーションからわかっている。
【0018】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、高周波スペクトルを低減し、誘導障害の発生を抑制すること、電動機から生じる電磁騒音を低減することができることとともに、リアクトルとコンデンサの共振周波数のスペクトルを低減することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明に係る電力変換装置は、スイッチング素子のスイッチングにより直流電力を交流電力に変換する電力変換装置であって、キャリアと信号波との比較によって生成された信号でスイッチング素子のスイッチングにより直流電力を交流電力に変換する電力変換装置であって、キャリアの周波数であるキャリア周波数を生成するキャリア周波数生成部と、前記キャリア周波数生成部により生成されたキャリア周波数のキャリアを生成するキャリア生成部と、前記キャリア生成部により生成されたキャリアとの比較を行う指令値を生成する制御指令部と、前記キャリアと前記指令値との比較により前記スイッチング素子のスイッチング信号を生成するPWM信号生成部とを備え、
前記キャリア周波数生成部は、乱数に基づき乱数を生成する乱数発生器と、基準となる周波数を生成する基準周波数生成器と、キャリア周波数の変化幅を制限する変化幅制限器とを備え、基準周波数発生器で生成される基準となるキャリア周波数と、乱数発生器で生成された乱数とを加算した目的となるキャリア周波数を変動幅制限器により、キャリア周波数の変動幅を制限することで、キャリア周波数を決定する。
【0020】
また、本発明に係る電力変換装置において、基準となるキャリア周波数生成器は、信号波の基本波周波数変化もしくは、時間変化に応じて、周波数を決定する。
【0021】
また、本発明に係る電力変換装置は、該変動幅制限器に、乱数発生器と、タイマが接続され、乱数発生器において、乱数に基づくキャリア周波数の継続時間を所定の範囲でランダムに決定し、乱数発生器により決定された継続時間が経過するごとにキャリア周波数信号を生成し決定する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る電力変換装置によれば、誘導機から生じる電磁騒音を低減することができるとともに、キャリア周波数に起因する高周波スペクトルを低減することができる。また、リアクトルとコンデンサの共振周波数付近のスペクトルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図2図1に示すキャリア周波数生成部の構成例を示す図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図4図3に示すキャリア周波数生成部の構成例を示す図である。
図5】従来の電力変換装置の構成例を示す図である。
図6図5に示すキャリア周波数生成部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、共通の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る電力変換装置10の構成例を示す図である。
図1に示す電力変換装置10は直流電力を交流電力に変換するものであり、図5に示す電力変換装置30と比較して、キャリア周波数生成部35をキャリア周波数生成部15に変更した点が異なる。すなわち、本発明に係る電力変換装置10はリアクトル12とコンデンサ13と、電力変換器14と、キャリア周波数生成部15と、キャリア生成部16と、御指令部17とPWM信号生成部18とを備える。
【0026】
キャリア周波数生成部15は、キャリア周波数を生成し、キャリア生成部16に出力する。ここで、キャリア周波数生成部15は、乱数に基づきキャリア周波数をランダムに変化させる。
【0027】
図2は、キャリア周波数生成部15の構成例を示す図である。
【0028】
キャリア周波数生成部15は、乱数発生器151と、基準周波数生成器152と、加算器153と、変化幅制限器154とを備える。
【0029】
乱数発生器151は乱数に基づき、キャリア周波数を所定の範囲でランダムに変化(増減)させる周波数信号を生成し、加算器153に出力する。
【0030】
基準周波数生成器152は、キャリア周波数の基準となる周波数を生成し、加算器153に出力する。
【0031】
加算器153は、基準周波数生成器152から出力された基準周波数に、乱数発生器151から出力された周波数信号を加算した周波数を、目的となるキャリア周波数fsnとして変化幅制限器154に出力する。
【0032】
変化幅制限器154は、加算器153から出力された目的となるキャリア周波数fsnと、現在のキャリア周波数fsとを比較し、キャリア周波数の変化幅を制限する。変化幅を制限された周波数を、キャリア周波数fsとしてキャリア生成部16に出力する。
【0033】
変化幅制限器154において、入力された目的となるキャリア周波数fsnと、現在のキャリア周波数fsとの差が、所定値より小さい場合には、目的となるキャリア周波数fsnをそのままキャリア周波数fsとして出力する。
【0034】
入力された目的となるキャリア周波数fsnと、現在のキャリア周波数fsとの差が、所定値より大きい場合には、現在のキャリア周波数fsに所定値を加算することでキャリア周波数fsを算出し、出力する。さらに、次のキャリア周波数算出時には、再度目的となるキャリア周波数fsnと現在のキャリア周波数fsとの差を求め、所定値より小さい場合には、fsnをキャリア周波数fsとして出力し、差が所定値より大きい場合には、fsに所定値を加算することで、キャリア周波数を算出する。このように、算出するキャリア周波数が目的となるキャリア周波数fsnになるまで、キャリア周波数の変化幅制限を行う。
【0035】
基準周波数生成器152は、一定となる基準周波数を出力するほか、電力変換器の基本波周波数とともに変化するもの、時間とともに変化するものが考えられる。
【0036】
また、変化幅制限器154で制限される所定値は、乱数発生器をもう一つ追加することで、乱数により所定値を変更することも考えられるほか、一定割合で変化させることも考えられる。
【0037】
上記のように、キャリア周波数を生成することで、キャリア周波数に急激な変動が無くなる。これにより、リアクトルとコンデンサの共振周波数のスペクトルを低減することが可能である。
【0038】
また、キャリア周波数が乱数により変動する際に、特定の周期を持たないため、耳障りな電磁騒音の発生を抑えることが可能である。
【0039】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置20の構成例を示す図である。本実施形態に係る電力変換装置20は第1の実施形態に係る電力変換装置10と比較して、キャリア周波数生成部15をキャリア周波数生成部25に変更した点が異なる。そのため、以下ではキャリア周波数生成部25について説明する。
【0040】
図4はキャリア周波数生成部25の構成例を示す図である。
【0041】
図4に示すキャリア周波数生成部25は、乱数発生器151、255と、基準周波数生成器152と、加算器153と、変化幅制限器154と、タイマ256とを備える。
【0042】
乱数発生器255は、乱数に基づき、キャリア周波数の継続時間を所定の範囲でランダムに決定し、決定した継続時間をタイマ256に設定する。
【0043】
タイマ256は、乱数発生器255により設定された継続時間が満了すると、変化幅制限器154に通知を行う。
【0044】
変化幅制限器154は、タイマ256からの通知を受け取るとキャリア周波数fsを算出し、キャリア生成部16に出力する。
【0045】
以上のように、キャリア周波数を生成することで、高周波スペクトルを低減しつつ、電磁騒音を低減することが可能である。また、キャリア周波数の変化に変化幅制限を行うことで、キャリア周波数が急変することが無くなり、リアクトルとコンデンサの共振周波数付近のスペクトルが上昇することを抑えることが可能となる。
【0046】
本発明の二つの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【符号の説明】
【0047】
1 モータ
10 電力変換装置
11 直流電源
12 リアクトル
13 コンデンサ
14 電力変換器
15 キャリア周波数生成部
16 キャリア生成部
17 制御指令
18 PWM信号生成部
25 キャリア周波数生成部
35 キャリア周波数生成部
151 乱数発生器
152 基準周波数生成器
153 加算器
154 変化幅制限器
255 乱数発生器
256 タイマ
351 乱数発生器
352 タイマ
353 乱数発生器
354 周期発生器
355 加算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6