(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】トポロジカル光回路
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20230725BHJP
G02B 6/126 20060101ALI20230725BHJP
G02B 6/125 20060101ALI20230725BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20230725BHJP
H01S 5/10 20210101ALI20230725BHJP
【FI】
G02B6/122 301
G02B6/126
G02B6/125 301
G02B6/12 301
H01S5/10
(21)【出願番号】P 2019151863
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-07-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.第66回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、講演番号:11a-W631-4、発行年月日:平成31年2月25日 2.第66回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、講演番号:11a-W631-6、発行年月日:平成31年2月25日 3.第66回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、講演番号:11a-W631-7、発行年月日:平成31年2月25日 4.第66回応用物理学会春季学術講演会 発表(11a-W631-4) 東京工業大学 大岡山キャンパス、開催日 平成31年3月11日 5.春季応用物理学会 発表(11a-W631-6) 東京工業大学 大岡山キャンパス、開催日 平成31年3月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」、「人工グラフェンに基づくトポロジカル状態創成と新規特性開発」、「トポロジカルフォトニクスの光通信デバイス応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】各務 響
(72)【発明者】
【氏名】岡田 祥
(72)【発明者】
【氏名】古月 暁
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-244021(JP,A)
【文献】特開2016-156971(JP,A)
【文献】L.-H. Wu. et al.,“Scheme for Achieving a Topological Photonic Crystal by Using Dielectric Material”,Physical Review Letters,2015年06月03日,Vol. 114, No. 22,p.223901-1 - 223901-5
【文献】S. IWAHASHI et al.,“Higher-order vector beams produced by photonic-crystal lasers”,Optics Express,2011年,Vol. 19, No. 13,p.11963-11968
【文献】L.-H. Wu et al.,“Topological Properties of Electrons in Honeycomb Lattice with Detuned Hopping Energy”,Scientific Reports,2016年04月14日,Vol. 6, No. 1,pp. 1-9
【文献】X.-D. Chen et al.,"Unidirectional Propagation of Light in Valley Photonic Crystals by OAM Excitation",2017 Asia Communications and Photonics Conference (ACP),2017年11月,p. M1F.4-1
【文献】S. Barik et al.,“A topological quantum optics interface”,Science,2018年02月09日,Vol. 359, No. 6376,p.666-668
【文献】F. Cardano et al.,“Quantum walks and wavepacket dynamics on a lattice with twisted photons”,Science Advances,2015年03月06日,Vol. 1, No. 2 ,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
G02B 6/12-6/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
IEEE Xplore
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルクがエネルギギャップを持つ絶縁体であ
るフォトニック構造体と、
内部がエネルギギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体と、
前
記フォトニック構造体と前記トポロジカルフォトニック構造体の境界において光渦伝搬が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジと、を有し、
前記フォトニック構造体は、C
6v
対称性を有するナノホールを含む第1誘電体が蜂の巣格子状セルに配列される構造を備え、
前記トポロジカルフォトニック構造体は、C
6v
対称性を有するナノホールを含む第2誘電体が蜂の巣格子状セルに配列される構造を備え、
前記フォトニック構造体および前記トポロジカルフォトニック構造体は、
前記蜂の巣格子の中心から前記ナノホールの中心までの距離、前記ナノホール1辺の長さの少なくともいずれかをパラメータとし、当該パラメータを調整して、前記フォトニック構造体および前記トポロジカルフォトニック構造体のバンドエッジを対象波長に近接させる
ことを特徴とするトポロジカル光回路。
【請求項2】
前
記フォトニック構造体は、配列されたセル内で
C
6v
対称性を有する第1誘電体を備え、
前記トポロジカルフォトニック構造体は、配列されたセル内で
C
6v
対称性を有する第2誘電体を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項3】
前記トポロジカルフォトニック構造体は、Z
2トポロジーで表わされるトポロジカル構造である
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項4】
前記パラメータを調整して、特定のチャージ数を持った光渦を伝送させる
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項5】
前記チャージ数は、1周して2πとなる光渦の伝搬を許容する-
1から+1までのチャージ数と、2周して2πとなる光渦の伝搬を許容する-2から+2までのチャージ数と、を含む
ことを特徴とする請求項4に記載のトポロジカル光回路。
【請求項6】
前記トポロジカルエッジは、特定の光渦を伝送させるトポロジカル伝送路を構成する
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項7】
光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタおよびコンバイナを
備え、
前記トポロジカルスプリッタおよびコンバイナは、
前記フォトニック構造体と前記トポロジカルフォトニック構造体の境界においてトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカル伝送路と、前記第1トポロジカル伝送路から光渦を分岐させる位置における前記トポロジカルフォトニック構造体の複数個のセルを、前記フォトニック構造体のセルおよび前記トポロジカルフォトニック構造体のセルの誘電体とは、異なる誘電体を有するセルに置き換えた所定単位セルと、前記所定単位セルにおいて分岐される光渦の伝搬方向の当該所定単位セルを、前記フォトニック構造体のセルの誘電体に置き換えた第2トポロジカル伝送路セルと、前記所定単位セルおよび第2トポロジカル伝送路セルと前記トポロジカルフォトニック構造体の境界においてトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカル伝送路と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項8】
前記所定単位セルは、C
6v
対称性を有するナノホールを用いる場合、セルの中心(Γ点)からナノホールの中心までの距離r、ナノホールの1辺の長さのいずれかのパラメータを、前記フォトニック構造体および前記トポロジカルフォトニック構造体の前記パラメータと異ならせて、前記第2トポロジカル伝送路に分岐する光渦の分岐比率を変える
ことを特徴とする請求項7に記載のトポロジカル光回路。
【請求項9】
前記フォトニック構造体のセルと前記トポロジカルフォトニック構造体のセルと前記所定単位セルとの間で、前記パラメータを変化させて、光渦の各出力ポートに分岐する磁界強度を制御する
ことを特徴とする請求項7に記載のトポロジカル光回路。
【請求項10】
光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタおよびコンバイナを備え、
前記トポロジカルスプリッタおよびコンバイナは、
分岐位置のフォトニック構造体の誘電体を、前
記フォトニック構造体の前記第1誘電体および前記トポロジカルフォトニック構造体の前記第2誘電体と異ならせて、前記分岐位置においてトポロジカル伝送路を分岐す
る、
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項11】
光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタおよびコンバイナを備え、
前記トポロジカルスプリッタおよびコンバイナは、
前記蜂の巣格子の中心から前記ナノホールの中心までの距離、前記ナノホール1辺の長さの少なくともいずれかをパラメータとし、当該パラメータを、
分岐位置のフォトニック構造体の誘電体、前
記フォトニック構造体の前記第1誘電体、前記トポロジカルフォトニック構造体の前記第2誘電体について、それぞれ調整して、各トポロジカル伝送路を伝搬する光渦の出力強度を変え
る、
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項12】
TE(Transverse Electric)/TM(Transverse Magnetic)モードの光を光渦伝送へ変換するトポロジカルコンバータを備え、
前記トポロジカルコンバータは、
TE/TMモードの光を伝送する導波路を備え、
前記導波路に入れたTE/TM波を前記トポロジカルエッジに入力し、トポロジカルエッジ状態で光渦に変換す
る、
ことを特徴とする請求項
1に記載のトポロジカル光回路。
【請求項13】
TE(Transverse Electric)/TM(Transverse Magnetic)モードの光を伝送するInput用導波路と、TE/TMモードの光を伝送するOutput用導波路と、前記トポロジカルエッジを有するトポロジカルフォトニック構造と、からなるトポロジカルコンバータを備え、
前記トポロジカルエッジは、
Input用導波路に入れたTE/TM波を光渦に変換して前記トポロジカル伝送路上を光渦伝送し、前記トポロジカル伝送路上を伝送した光渦をTE/TM波に変換してOutput用導波路に導く、
ことを特徴とする請求項6に記載のトポロジカル光回路。
【請求項14】
特定の光渦を生成するトポロジカルレーザを備え、
前記トポロジカルレーザは、
レーザ発振光を前記トポロジカルエッジに通して、当該トポロジカルエッジに沿って、特定の光渦を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のトポロジカル光回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トポロジカル光回路(Topological photonic integrated circuits:T-PICs)に関する。
【背景技術】
【0002】
光ネットワークに用いられている各種光素子には、レーザ、変調器、多重化素子、光スイッチ等がある。光集積回路とは、レーザ・変調器・合分波器などの各種モジュールを、光ファイバを介さずに1チップ上に集積したものである。光集積回路の利点は、光通信における様々な機能を1チップの小型モジュールで実現することにより、消費電力・製造コストを抑えることができる点にある。
【0003】
上記光集積回路の材料としては、インジウムリン(InP)またはSiがある。上記多重化素子の材料としては、SiO2がある。また、上記変調器の材料としては、大きなEO(Electro-optic、電気光学)効果を示すニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ランタン添加のチタン酸ジルコン酸鉛((Pb,La)(Zr,Ti)O3)などの無機光学結晶が広く用いられている。
【0004】
近年、光の自由度を積極的に利用した通信方式に関心が集まっている。特に、光渦(光の軌道角運動量)には、未開拓の領域が多く残っていることから研究が盛んになっている。光渦は、波面のらせん周期に情報を乗せることで、理論上無限チャネル多重化が可能である。大容量伝送のキーコンポーネントであるマルチコアファイバ(multi-core fibers)との整合性にも優れていることから光通信との親和性が極めて良いとされている。
【0005】
特許文献1には、第1層と、前記第1層に対向する第2層とを備え、前記第1層は、各々が光学異方性を有する複数の第1構造体を含み、前記第2層は、前記第1層から入射した光を反射する際は、前記光の入射時と反射時とで前記光の偏光状態を維持したまま前記光を反射する、光学素子が記載されている。特許文献1の段落[0258]には、「光LT2は、光渦として出射される。光渦とは、特異点を有し、等位相面が螺旋面を形成する光のことである。特異点では光強度が0である。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の光素子では、TEモード(Transverse Electric mode)/TMモード(Transverse Magnetic mode)しか扱えず、TE/TMモードで動作する光集積回路では、前記光渦を制御することはできないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光渦の伝送および制御が可能なトポロジカル光回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明に係るトポロジカル光回路は、バルクがエネルギギャップを持つ絶縁体であるフォトニック構造体と、内部がエネルギギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるトポロジカルフォトニック構造体と、前記フォトニック構造体と前記トポロジカルフォトニック構造体の境界において光渦伝搬が可能なトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジと、を有し、前記フォトニック構造体は、C
6v
対称性を有するナノホールを含む第1誘電体が蜂の巣格子状セルに配列される構造を備え、前記トポロジカルフォトニック構造体は、C
6v
対称性を有するナノホールを含む第2誘電体が蜂の巣格子状セルに配列される構造を備え、前記フォトニック構造体および前記トポロジカルフォトニック構造体は、前記蜂の巣格子の中心から前記ナノホールの中心までの距離、前記ナノホール1辺の長さの少なくともいずれかをパラメータとし、当該パラメータを調整して、前記フォトニック構造体および前記トポロジカルフォトニック構造体のバンドエッジを対象波長に近接させることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記フォトニック構造体が、配列されたセル内でC
6v
対称性を有する第1誘電体を備え、前記トポロジカルフォトニック構造体は、配列されたセル内でC
6v
対称性を有する第2誘電体を備えることが好ましい。
【0012】
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記トポロジカルフォトニック構造体が、Z2トポロジーで表わされるポロジカル構造であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記パラメータを調整して、特定のチャージ数を持った光渦を伝送させることが好ましい。
【0015】
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記チャージ数が、1周して2πとなる光渦の伝搬を許容する-1から+1までのチャージ数と、1周して4πとなる光渦の伝搬を許容する-2から+2までのチャージ数と、を含むことが好ましい。
【0016】
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記トポロジカルエッジが、特定の光渦を伝送させるトポロジカル伝送路を構成するものであってもよい。
【0017】
本発明に係るトポロジカル光回路は、光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタおよびコンバイナを備え、前記トポロジカルスプリッタおよびコンバイナは、前記フォトニック構造体と前記トポロジカルフォトニック構造体の境界においてトポロジカルエッジ状態を発現する第1トポロジカル伝送路と、前記第1トポロジカル伝送路から光渦を分岐させる位置における前記トポロジカルフォトニック構造体の複数個のセルを、前記フォトニック構造体のセルおよび前記トポロジカルフォトニック構造体のセルの誘電体とは、異なる誘電体を有するセルに置き換えた所定単位セルと、前記所定単位セルにおいて分岐される光渦の伝搬方向の当該所定単位セルを、前記フォトニック構造体のセルの誘電体に置き換えた第2トポロジカル伝送路セルと、前記所定単位セルおよび第2トポロジカル伝送路セルと前記トポロジカルフォトニック構造体の境界においてトポロジカルエッジ状態を発現する第2トポロジカル伝送路と、を有するものであってもよい。
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記所定単位セルは、C
6v
対称性を有するナノホールを用いる場合、セルの中心(Γ点)からナノホールの中心までの距離r、ナノホールの1辺の長さのいずれかのパラメータを、前記フォトニック構造体および前記トポロジカルフォトニック構造体の前記パラメータと異ならせて、前記第2トポロジカル伝送路に分岐する光渦の分岐比率を変えるものであってもよい。
本発明に係るトポロジカル光回路は、前記フォトニック構造体のセルと前記トポロジカルフォトニック構造体のセルと前記所定単位セルとの間で、前記パラメータを変化させて、光渦の各出力ポートに分岐する磁界強度を制御するものであってもよい。
【0018】
本発明に係るトポロジカル光回路は、光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタおよびコンバイナを備え、前記トポロジカルスプリッタおよびコンバイナは、分岐位置のフォトニック構造体の誘電体を、前記フォトニック構造体の前記第1誘電体および前記トポロジカルフォトニック構造体の前記第2誘電体と異ならせて、前記分岐位置においてトポロジカル伝送路を分岐する、トポロジカルスプリッタおよびコンバイナを構成するものであってもよい。
【0019】
本発明に係るトポロジカル光回路は、光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタおよびコンバイナを備え、前記トポロジカルスプリッタおよびコンバイナは、前記蜂の巣格子の中心から前記ナノホールの中心までの距離、前記ナノホール1辺の長さの少なくともいずれかをパラメータとし、当該パラメータを、分岐位置のフォトニック構造体の誘電体、前記フォトニック構造体の前記第1誘電体、前記トポロジカルフォトニック構造体の前記第2誘電体について、それぞれ調整して、各トポロジカル伝送路を伝搬する光渦の出力強度を変えるものであってもよい。
【0020】
本発明に係るトポロジカル光回路は、TE(Transverse Electric)/TM(Transverse Magnetic)モードの光を光渦伝送へ変換するトポロジカルコンバータを備え、前記トポロジカルコンバータは、TE/TMモードの光を伝送する導波路を備え、前記導波路に入れたTE/TM波を前記トポロジカルエッジに入力し、トポロジカルエッジ状態で光渦に変換するものであってもよい。
【0021】
本発明に係るトポロジカル光回路は、TE(Transverse Electric)/TM(Transverse Magnetic)モードの光を伝送するInput用導波路と、TE/TMモードの光を伝送するOutput用導波路と、前記トポロジカルエッジを有するトポロジカルフォトニック構造と、からなるトポロジカルコンバータを備え、前記トポロジカルエッジは、Input用導波路に入れたTE/TM波を光渦に変換して前記トポロジカル伝送路上を光渦伝送し、前記トポロジカル伝送路上を伝送した光渦をTE/TM波に変換してOutput用導波路に導くものであってもよい。
【0023】
本発明に係るトポロジカル光回路は、特定の光渦を生成するトポロジカルレーザを備え、前記トポロジカルレーザは、レーザ発振光を前記トポロジカルエッジに通して、当該トポロジカルエッジに沿って、特定の光渦を生成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光渦の伝送および制御が可能なトポロジカル光回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路の設計を説明する図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路の構造の上面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路の構造の断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるC
6v対称性を有するナノホールの構造を示すブリルアンゾーン(Brillouin Zone)の図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路で用いるTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンドダイヤグラムの概要図である。
【
図6】
図5のTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンド図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路近傍の磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図8】チャージ数l=±1を持つ光渦を伝送するトポロジカルエッジ伝送路で用いるTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンドダイヤグラムの概要図である。
【
図9】
図8のTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンド図である。
【
図10】
図8および
図9で設計されたトポロジカルエッジ伝送路(チャージ数l=+1を持つ光渦を伝送する)の磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路の伝送路近傍の単位セルのモード分布の拡大図である。
【
図12】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路のチャージ数l=±2を持つ光渦を伝送するトポロジカルエッジ伝送路で用いるTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンドダイヤグラムの概要図である。
【
図13】
図12のTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンド図である。
【
図14】
図12および
図13で設計されたトポロジカルエッジ伝送路(チャージ数l=+2を持つ光渦を伝送する)の磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図15】
図14の伝送路近傍の単位セルのモード分布の拡大図である。
【
図16】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナの設計を説明する図である。
【
図17】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナで用いるTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンド図の概要である。
【
図18】
図17のTrivial Ph.C.とTopological Ph.C.のバンド図である。
【
図19】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナの構造を示す図である。
【
図20】
図19のポートPort1に光渦が100%分岐するトポロジカルスプリッタ/コンバイナの磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図21】
図19のポートPort1とPort2に光渦が50%ずつ分岐するトポロジカルスプリッタ/コンバイナの磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図22】
図19のポートPort2に光渦が100%分岐するトポロジカルスプリッタ/コンバイナの磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図23】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナのパラメータの変化による磁界強度を説明する図である。
【
図24】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルコンバータの構造を示す図である。
【
図25】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルコンバータ近傍の磁界分布(Hy)を示す図である。
【
図26】本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルレーザの構造の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(原理説明)
トポロジカル絶縁体(Topological insulator)やワイル半金属(Weyl Semimetal)などにおける電子系のトポロジーをフォトンの系にトレースする試みは、トポロジカルフォトニクスと呼ばれ、近年急速に進展している。トポロジカル絶縁体は、バルクにはエネルギギャップを持つ絶縁体でありながら、エッジ(2次元系では端、3次元系では表面)にギャップレスの金属状態が生じている物質をいう。
【0027】
特に、C6v対称性(60°回転させると重なる対称性)を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造におけるZ2トポロジー(電子波動関数のもつトポロジカルな構造の分野における一つのクラス)の発現は、光渦の伝送が可能なトポロジカルエッジ状態を実現できることから様々な応用が期待されている。
【0028】
(1)トポロジカル光回路の概念
SiやInPで作製された光回路の適当な領域にC6v対称性を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造を導入し、光渦制御が可能な回路を提供する。
【0029】
(2)トポロジカル光回路における各種構成要素を提供する。
トポロジカル光回路における光渦の伝送・制御のための基本要素として、以下の4つを含む。
1.特定の光渦を一意に伝送させる“トポロジカル伝送路”
2.光渦を任意の強度に合分波させる“トポロジカルスプリッタ/コンバイナ”
3.TE/TMモード伝送から光渦伝送へ変換させる“トポロジカルコンバータ”
4.特定の光渦を生成する“トポロジカルレーザ”
【0030】
[トポロジカルエッジ伝送路20]
<トポロジカルエッジ伝送路の設計>
図1は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路の設計を説明する図である。
図1に示すように、蜂の巣格子状のセル121,122(
図2参照)に対応するヘックスシート上に伝送路10を設定する。設定した伝送路10の両側のヘックス(ヘックスA,ヘックスB)に適当なTopological,Trivial構造を配置する。例えば、
図1のヘックスAは、Trivial Ph.C.11(自明なフォトニック構造体)のセル121(
図2参照)であり、
図1のヘックスBは、Topological Ph.C.12(トポロジカルフォトニック構造体)のセル122(
図2参照)である。
ここまでの設計で、入力された光渦をTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のトポロジカルエッジ13の導波路上で光渦伝送させるトポロジカル伝送路が構成される。
【0031】
<トポロジカルエッジ伝送路20における導波モード解析>
図2は、トポロジカルエッジ伝送路(Topological edge state waveguide)20の構造の上面図(Si-based topological edge state waveguide we used in simulation)である。
図3は、
図2のトポロジカルエッジ伝送路20の構造の断面図(Cross section of topological edge state waveguide)である。
【0032】
図2に示すように、トポロジカルエッジ伝送路20は、SOI(Silicon-On-Insulator)ウェハ(例えばSi膜厚220nm)上に、Trivial Ph.C.11と、Topological Ph.C.12と、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界でトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13と、を有する。
Trivial Ph.C.11は、C
6v対称性を有する第1誘電体111が蜂の巣格子状(周期a=800nm)に配列された構造である。
Topological Ph.C.12は、C
6v対称性を有する第2誘電体112が蜂の巣格子状(周期a=800nm)に配列された構造である。
【0033】
第1誘電体111は、SOIウェハ上に、C6v対称性を有するナノホール111aを蜂の巣格子状(周期a=800nm)のセル(unit cell)121に配列したナノ(nm,1nm=10-9m)構造を用いる。第2誘電体112は、SOIウェハ上に、C6v対称性を有するナノホール112aを蜂の巣格子状(周期a=800nm)のセル122に配列したナノ構造を用いる。第1誘電体111のナノホール111aと第2誘電体112のナノホール112aは、蜂の巣格子のセル121,122中心からナノホール111a,112aの中心までの距離rおよびナノホール1辺の長さlのパラメータがそれぞれ異なる(後記)。
【0034】
図3に示すように、トポロジカルエッジ伝送路20は、Si基板(Si substrate)131上に、膜厚1.0μmのSiO
2絶縁膜132と、膜厚220nmのSi膜133と、を積層する。Si膜133上のエアギャプは、1.0μm以上である。
Si膜133には、Si基板131に向かって、C
6v対称性を有するナノホール111aとナノホール112aとが開孔され、残存Si膜133と当該Si膜133に開孔したナノホール111aからなるフォトニック構造は、Trivial Ph.C.11を形成する。また、残存Si膜133と当該Si膜133に開孔したナノホール112aからなるフォトニック構造は、Topological Ph.C.12を形成する。
Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のトポロジカルエッジ13には、トポロジカルエッジモード(Topological edge mode)が発現している(
図3の破線囲み参照)。
【0035】
図4は、C
6v対称性を有するナノホールの構造を示すブリルアンゾーンの図(Schematic image of a unit cell)である。Trivial Ph.C.11の第1誘電体111のナノホール111aを例に採る。Topological Ph.C.12の第2誘電体112のナノホール112aについても同様の構造である。
図4の右図に示すように、蜂の巣格子のセル121の中心をブリルアンゾーンの中心(原点)Γ点とする。また、ブリルアンゾーンの高対称点として、M点(長方形面の中心)、K点(2つの長方形面をつなぐ辺の中心)、A点(六角形面の中心)、H点(端点)、L点(六角形面と長方形面をつなぐ辺の中心)がある。
【0036】
図4の左図に示すように、Si膜133(
図3参照)は、蜂の巣格子状のセル121とセル121に配列されたC
6v対称性を有するナノホール111aとが形成される。残存Si膜133と当該Si膜133に開孔したナノホール111aからなるフォトニック構造は、Trivial Ph.C.11の第1誘電体111を形成する。
図4の左図は、Trivial Ph.C.11のセル121を上面手前の斜め上から見た図であり、開孔したナノホール111aの下のSiO
2絶縁膜132が露出している。
図4の左図のナノホール111aは、蜂の巣格子のセル121の中心(Γ点)からナノホール111aの中心までの距離r、ナノホール111aの1辺の長さlをパラメータとする。隣り合うナノホール111aのセル121の中心角は、π/3である。
Trivial Ph.C.11のナノホール111aの場合、例えばr=240nm,l=240nmである。
また、Topological Ph.C.12のナノホール112aの場合、例えばr=290nm,l=250nmである。
さらに、
図4の左図に示すように、隣り合う蜂の巣格子のセル121同士の中心(Γ点)間距離a1、a2は、同じ(ここでは、a1,a2=800nm)である。
【0037】
図5は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送路20で用いるTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンド図(Typical photonic bands for (left) trivial and (right) topological photonic crystals)である。
図6は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルエッジ伝送20路で用いるTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンドダイヤグラムの概要図(Band diagram for optical vortex propagation with charge number of ±1)である。
図6の横軸にWave vector(2π/a)をとり、縦軸にNormalized frequency(ωa/2πc a/λ)をとる。横軸のWave vector(2π/a)のΓ点は、蜂の巣格子状のセル121(
図2参照)のブリルアンゾーンの中心、K点は2つの長方形面をつなぐ辺の中心、M点は長方形面の中心である(
図4の右図参照)。
【0038】
図7は、FDTD法(Finite-difference time-domain method:時間領域差分法)により計算されたトポロジカルエッジ伝送路20(Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界)近傍の磁界分布(Hy)を示す図(Calculated magnetic field Hy)である。横軸にz軸(z axis)(μm)、縦軸にx軸(x axis)(μm)をとる。
図7の濃淡は、磁界分布(Hy)の強度(濃いほど強度が大きい)を表わしている。
図7に示すように、電磁場は、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のエッジ13に局在している。
【0039】
ここで、トポロジカルエッジ伝送路20(
図2)は、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界でトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13を有するものであればよく、フォトニック構造は、限定されない。例えば、誘電体が、C
6v対称性を有する蜂の巣格子状に配置されていることには限定されず、自明なフォトニック構造体は、配列されたセル内で対称性を有する第1誘電体を備え、トポロジカルフォトニック構造体は、配列されたセル内で対称性を有する第2誘電体を備えるものであればよい。
【0040】
また、誘電体を形成する方法は、上述したナノホールに限らず、例えば誘電体ピラーを設ける構成でもよい。さらに、ナノホールのパラメータは勿論のこと、ナノホールの個数も限定されない。ただし、セルが蜂の巣格子状に配置される場合、ナノホールの配置もC6v対称性を有する構造が自然である。同様に、セルの形状も蜂の巣格子状に限定されない。
【0041】
<トポロジカルエッジ伝送路20における光渦状態の制御>
トポロジカルエッジ伝送路20において適切な設計を行うことで、l=-2からl=+2までのチャージ数を持った光渦を一意的に伝送可能にする。特定のチャージ数を持った光渦を選択的に伝送する。
チャージ数l=±1は、1周して2πとなる光渦である。また、チャージ数l=±2は、2周して2πとなる光渦である。ここで、チャージ数lの正負の符号は、光渦伝搬方向により変わる。
【0042】
図8は、チャージ数l=±1を持つ光渦を伝送するTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンドダイヤグラムの概要図(Band diagram for optical vortex propagation with charge number of ±1)である。
図9は、
図8のTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンド図(Typical photonic bands for (left) trivial and (right) topological photonic crystals)である。
図9の横軸にWave vector(2π/a)をとり、縦軸にNormalized frequency(ωa/2πc a/λ)をとる。横軸のWave vector(2π/a)のΓは、蜂の巣格子状のセル121(
図2参照)の中心、KはΓからセルの角までの長さ、MはΓからセルの1辺までの垂線の長さである。
【0043】
特定のチャージ数を持った光渦を選択的に伝送するために、Γ点においてTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンドエッジが対象波長に近接するよう、ナノホール111a,112a(
図2参照)を設計する。例えば、
図8および
図9に示すバンド図を設計した場合、トポロジカルエッジ状態においてはp波電磁モードの遷移が支配的となることから、l=±1のチャージ数を持った光渦の伝搬が許容される。
【0044】
図10は、
図8および
図9で設計されたトポロジカルエッジ伝送路20(チャージ数l=+1を持つ光渦を伝送するTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界)近傍の磁界分布(Hy)を示す図(Calculated magnetic field Hy for each topological edge state waveguide)である。横軸にz軸(z axis)(μm)、縦軸にx軸(x axis)(μm)をとる。
図10の濃淡は、磁界分布(Hy)の強度(濃いほど強度が大きい)を表わしている。
図10に示すように、電磁場は、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のエッジ13に局在している。
図11は、
図10の矩形で囲んだTrivial Ph.C.11の伝送路周囲の単位セルのモード分布の拡大図である。
図11に示すように、チャージ数l=+1を持った光渦が伝搬していることが確認できた。
【0045】
図12は、チャージ数l=±2を持つ光渦を伝送するTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンドダイヤグラムの概要図(Band diagram for optical vortex propagation with charge number of ±2)である。
図13は、
図12のTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンド図(Typical photonic bands for (left) trivial and (right) topological photonic crystals)である。
図13の横軸にWave vector(2π/a)をとり、縦軸にNormalized frequency(ωa/2πc a/λ)をとる。横軸のWave vector(2π/a)のΓ点は、蜂の巣格子状のセル121(
図2参照)のブリルアンゾーンの中心、K点は2つの長方形面をつなぐ辺の中心、M点は長方形面の中心である(
図4の右図参照)。
【0046】
特定のチャージ数を持った光渦を選択的に伝送するために、Γ点においてTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンドエッジが対象波長に近接するよう、ナノホール111a,112a(
図2参照)を設計する。例えば、
図12および
図13に示すバンド図を設計した場合、トポロジカルエッジ状態においてはd波電磁モードの遷移が支配的となることから、l=±2のチャージ数を持った光渦の伝搬が許容される。
【0047】
図14は、
図12および
図13で設計されたトポロジカルエッジ伝送路20(チャージ数l=+1を持つ光渦を伝送するTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界)近傍の磁界分布(Hy)を示す図(Calculated magnetic field Hy for each topological edge state waveguide)である。横軸にz軸(z axis)(μm)、縦軸にx軸(x axis)(μm)をとる。
図14の濃淡は、磁界分布(Hy)の強度(濃いほど強度が大きい)を表わしている。
図14に示すように、電磁場は、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のエッジ13に局在している。
【0048】
図15は、
図14の矩形で囲んだTrivial Ph.C.11の伝送路周囲の単位セルのモード分布の拡大図である。
図15に示すように、チャージ数l=+2を持った光渦が伝搬していることが確認できた。
【0049】
このように、トポロジカルエッジ伝送路20(
図2参照)において適切な設計を行うことで、特定のチャージ数(ここではl=-2からl=+2までのチャージ数)を持った光渦を選択的に伝送することができる。
以上、特定の光渦を一意に伝送させる「トポロジカル伝送路」について説明した。次に、光渦を任意の強度に合分波させる「トポロジカルスプリッタ/コンバイナ」について説明する。
【0050】
[トポロジカルスプリッタ/コンバイナ]
<トポロジカルスプリッタ/コンバイナの設計>
図16は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナ(Splitter/Combiner)の設計を説明する図である。
図16に示すように、分岐させたい伝送路を決め、エッジにある任意のセルを選択し、選択したセルの後部のセルの構造を逆転させる。
ここでは、光渦を分岐させたい位置におけるヘックスB(Topological Ph.C.12のセル122)を、ヘックスXに置き換える。また、ヘックスXにおいて分岐される光渦の伝搬方向のヘックスBをヘックスAに置き換える。ヘックスXは、ヘックスAおよびヘックスBの誘電体とは、異なる誘電体を有するセルである(後記)。ヘックスXは、例えば、C
6v対称性を有するナノホールを用いる場合、セルの中心(Γ点)からナノホールの中心までの距離r、ナノホールの1辺の長さのいずれかのパラメータを、ヘックスAおよびヘックスBのパラメータと異ならせる。
【0051】
ヘックスXのセルに配置する構造によって上下に分岐する光のパワーを制御する。
図16に示すように、伝搬光を、ヘックスXの配置位置で2方向(
図22のPort1,Port2参照)に分岐するトポロジカルスプリッタが構成される。
【0052】
<トポロジカルスプリッタ/コンバイナの導波モード解析>
図17は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナで用いるTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンドダイヤグラムの概要図(Band diagram for optical vortex propagation with charge number of ±2)である。
図18は、
図17のTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のバンド図(Typical photonic bands for (left) trivial and (right) topological photonic crystals)である。
図18の横軸にWave vector(2π/a)をとり、縦軸にNormalized frequency(ωa/2πc a/λ)をとる。横軸のWave vector(2π/a)のΓ点は、蜂の巣格子状のセル121(
図2参照)のブリルアンゾーンの中心、K点は2つの長方形面をつなぐ辺の中心、M点は長方形面の中心である(
図4の右図参照)。
本実施形態では、これらの構造を用いてトポロジカルエッジ伝送路におけるカプラを形成する。
【0053】
図19は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナ30の構造を示す図(Schematic image of topological 3 dB coupler)である。
図19に示すように、トポロジカルスプリッタ/コンバイナ30は、2つのトポロジカル伝送路の間に複数個の単位セル(ヘックスX)で構成されたナノカプラを配置した構造となっている。
図18のバンド図に示すように、ヘックスXのセルに配置する構造を調整することにより、2方向(
図19のPort1,Port2参照)に分岐する光渦の分岐比率を変えることができる。
以上は、トポロジカルスプリッタ/コンバイナの場合であるが、第1誘電体および第2誘電体を調整することにより、コンバイナにおける混合比率を変えることができる。
【0054】
図20~
図22は、FDTD法により計算された
図19のトポロジカルスプリッタ/コンバイナ30の電界分布(Ey)を示す図(Calculated electric field distribution)である。
図20は、
図19のポートPort1に光渦が100%分岐するトポロジカルスプリッタ/コンバイナ30の磁界分布(Hy)を示し、
図21は、
図19のポートPort1とPort2に光渦が50%ずつ分岐する場合を示し、
図22は、
図19のポートPort2に光渦が100%分岐する場合をそれぞれ示す。
図20~
図22の濃淡は、磁界分布(Hy)の強度(濃いほど強度が大きい)を表わしている。
【0055】
図20~
図22に示すように、計算されたトポロジカルカプラの磁界分布(Hy)から、モード分布および出力強度とともに、上記の傾向(すなわち、ヘックスXに構造Aまたは構造Bを配置した場合、対応するトポロジカル伝送路においてエッジ状態が維持され、いずれかのポートの出力強度が増大すること、ヘックスXに構造C(
図19参照)を配置した場合は、各トポロジカル伝送路に均等に出力が分配されること)を示すことが確認できた。
また、各ポートで光渦が維持されていることを確認した。
【0056】
図23は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルスプリッタ/コンバイナ30のパラメータr,lの変化による磁界強度の制御を説明する図である。横軸にセル中心からナノホールの中心までの距離r(Length of the hexagon edge r)、縦軸に磁界分布(Hy)の強度(Ratio of Hy)をとる。
図23に示すように、構造Aと構造Bの間でパラメータr,lを変化させることで、各ポートに分岐する磁界強度を制御することが可能であることが確認できた。
【0057】
本実施形態のトポロジカルスプリッタ/コンバイナ30において、下記を確認できた。
(1)トポロジカルカプラ領域Xに構造A~構造Cの構造を配置することで、トポロジカル光の分岐を確認した。
(2)1:1分岐(ヘックスXに構造Cを配置)の際、各ポートで光渦が維持されていることを確認した。
(3)構造A~構造Cの間でパラメータr,lを変化させることで、各ポートに分岐する磁界強度を制御することが可能である。
以上、光渦を任意の強度に合分波させる「トポロジカルスプリッタ/コンバイナ」について説明した。次に、TE/TMモード伝送から光渦伝送へ変換させる「トポロジカルコンバータ」について説明する。
【0058】
[トポロジカルコンバータ]
<トポロジカルコンバータの設計>
図24および
図25は、本発明の実施形態に係るトポロジカル光回路におけるトポロジカルコンバータ40の設計を説明する図である。
図24は、導波路をトポロジカルフォトニック構造10から離隔配置したトポロジカルコンバータ40の構造を示す図であり、
図25は、
図24のトポロジカルコンバータ40における光渦伝送への変換のシミュレーション結果を示す図である。
【0059】
図24に示すように、トポロジカルコンバータ40は、TE/TMモードの光を伝送するInput用Si系導波路(Si waveguide)41と、TE/TMモードの光を伝送するMonitor用Si系導波路(Si waveguide)42と、TE/TMモード伝送から光渦伝送へ変換するトポロジカルフォトニック構造10と、を備える。
Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42は、例えばc-Si(Crystal silicon)からなるc-Si導波路、またはa-Si(amorphous silicon):Hからなるa-Si:H導波路である。
ここで、Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42の材料として、a-Si:Hを用いると、a-Si:Hは低温で積層できるのでInput用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42に繋がるトポロジカルフォトニック構造10にダメージを与えないので好ましい。
【0060】
Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42の材質は、シリコン(Si)には限定されず、どのような材質でもよい。例えば、導波路の材質が化合物半導体(例えば、InP)であってもよい。
Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42は、先端に向かって幅が狭くなるテーパ(taper)41a,42aを有する。テーパ41a,42aは、実行屈折率を基に、光の反射を許容するテーパ形状である。実行屈折率とは、実効的に光のモード全体がどの屈折率を感じているかを示す指標である。実行屈折率が低ければ低い程、結合長を短くできる。結合長は、ある%で結合効率をとるために必要な長さである。通常、70~80%の結合効率をとる場合のテーパ長の長さで表される。
【0061】
図24の左図の破線で囲んだ部分の拡大図を、
図24の右図に示すように、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12のテーパ41a,42aは、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の端面からにポロジカルエッジ13までの距離lと、トポロジカルエッジ13の端部から扇型に開口する角θと、により決定する。なお、Monitor用Si系導波路42の幅は、例えば500nmであり、その先端部は例えば100nmである。
【0062】
トポロジカルフォトニック構造10は、Trivial Ph.C.11と、Topological Ph.C.12と、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界でトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ(Topological edge)13と、を有する。
トポロジカルフォトニック構造10は、Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42を挿入する、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の対抗面にそれぞれテーパ11aと12aが形成されている。
【0063】
トポロジカルフォトニック構造10は、Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42の対抗面に、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12それぞれテーパ11aと12aが形成されている。
【0064】
図24に示すトポロジカルコンバータ40は、Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42と、トポロジカルフォトニック構造10のTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12とが離隔している。ただし、Input用Si系導波路41およびMonitor用Si系導波路42のテーパ41a,42aの先頭から延びる光軸は、テーパ11aと12aが形成されたTrivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のトポロジカルエッジ13に向かっている。
【0065】
図25に示すように、Input用Si系導波路41に入れたTE/TM波5が、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界のトポロジカルエッジ状態のトポロジカルエッジ13に入力され、トポロジカル伝送路上を光渦150で伝送している。すなわち、Input用Si系導波路41に入れたTE/TM波5が、トポロジカルエッジ状態で光渦150に高効率で変換されている。また、トポロジカル伝送路上を伝送した光渦150は、Monitor用Si系導波路42に導かれ、TE/TM波5に高効率で変換されている。
以上、TE/TMモード伝送から光渦伝送へ変換させる「トポロジカルコンバータ」について説明した。次に、特定の光渦を生成する、「トポロジカルレーザ」について説明する。
【0066】
[トポロジカルレーザ]
<トポロジカルレーザの設計>
図26および
図27は、トポロジカルレーザ50の構造を示す図である。
図26は、トポロジカルレーザ50の構造の上面図、
図27は、
図26のA-A断面を90°回転して示す断面図である。
図3と同一構成部分には、同一符号を付している。
図26に示すように、トポロジカルレーザ50は、Siチップ上にZ
2トポロジー構造により設計(Designed Z2 topological structure)された、トポロジー構造体であるTopological Ph.C.12(
図26破線囲み参照)と、Trivial構造体であるTrivial Ph.C.11(
図26破線囲み参照)と、Topological Ph.C.12とTrivial Ph.C.11との境界のトポロジカルエッジ13と、Siチップ上に開口され、レーザ発振光を通すキャビティ付きゲイン領域(gain region with cavity)51と、を備える。
【0067】
図26に示すように、Topological Ph.C.12とTrivial Ph.C.11との境界のトポロジカルエッジ13は、トポロジカルエッジ伝送路(Topological Waveguide)を形成する。また、Trivial Ph.C.11は、光導波路(Optical waveguide)を形成する。
【0068】
図27に示すように、トポロジカルレーザ50は、Si基板131上に、膜厚1.0μmのSiO
2絶縁膜132と、膜厚250nmのInGaAsP膜233およびInP膜231と、を積層する。
InGaAsP膜233には、Si基板131に向かって、C
6v対称性を有するナノホール112a(
図2参照)が開孔され、残存InGaAsP膜233と当該InGaAsP膜233に開孔したナノホール112aのフォトニック構造は、Topological Ph.C.12を形成する。
【0069】
InP膜231には、Si基板131に向かって、C
6v対称性を有するナノホール111a(
図2参照)が開孔され、残存InP膜231と当該InP膜231に開孔したナノホール111aのフォトニック構造は、Trivial Ph.C.11を形成する。
Topological Ph.C.12とTrivial Ph.C.11との境界のトポロジカルエッジ13には、トポロジカルエッジモード(Topological edge mode)が発現している。
また、InGaAsP膜233に形成されたキャビティ付きゲイン領域51には、レーザ発振光が通される。
【0070】
図26に示すように、キャビティ付きゲイン領域51にレーザ発振光を通すと、トポロジカルエッジ13に沿って、特定の光渦が生成される。ここでは、チャージ数l=±1を持つ光渦が生成され、トポロジカルエッジ伝送路(Topological Waveguide)(
図26の矢印⇔参照)に沿って、チャージ数l=1とチャージ数l=-1の光渦を取り出すことができる。
【0071】
このように、トポロジカルレーザ50は、共振器で発振したレーザ発振光を、Z2トポロジー構造により設計されたトポロジー構造体のキャビティ付きゲイン領域51に導入し、トポロジー構造体においてトポロジカル伝搬モードの閉じ込めおよび共振させる。そして、トポロジカルエッジ13に沿って、トポロジカルエッジ伝送路に沿って、特定のチャージ数を持つ光渦を生成する。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係るトポロジカル光回路10は、バルクがエネルギギャップを持つ絶縁体であるTrivial Ph.C.11(自明なフォトニック構造体)と、内部がエネルギギャップを持つ絶縁体であり、そのエッジがギャップレスの金属状態であるTopological Ph.C.12(トポロジカルフォトニック構造体)と、Trivial Ph.C.11とTopological Ph.C.12の境界でトポロジカルエッジ状態を発現するトポロジカルエッジ13と、を有する。
【0073】
この構成により、特殊な光伝搬が可能なトポロジカルエッジ状態で光渦の伝送が可能なトポロジカル光回路を実現することができる。
C6v対称性を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造におけるZ2トポロジーの発現によって、光渦の伝送とともに、その制御が可能なトポロジカルエッジ状態を実現できる。光渦は、波面のらせん周期に情報を乗せることができ、理論上無限チャネル多重化に途を拓くことが期待できる。
光渦の伝送は、光の軌道角運動量を反映しているので、散乱なく光の透過を制御できる。
【0074】
トポロジカル光回路10は、トポロジカル特性の光回路への応用が可能である。本実施形態では、特定の光渦を一意に伝送させるトポロジカル伝送路20、光渦を任意の強度に合分波させるトポロジカルスプリッタ/コンバイナ30、TE/TMモード伝送から光渦伝送へ変換させるトポロジカルコンバータ40、特定の光渦を生成するトポロジカルレーザ50について記載した。これら光渦の伝送を用いたトポロジカル光回路は、大容量伝送のキーコンポーネントであるマルチコアファイバとの整合性にも優れていることから光通信との親和性の向上も期待できる。
【0075】
本発明は上記の実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
なお、Trivial Ph.C.11(自明なフォトニック構造体)における「自明な」(Trivial)とは、Topological Ph.C.12(トポロジカルフォトニック構造体)と区別(対比)するためのものとして記載しており、「自明な」それ自体を厳格に定義するものではない。このため、「自明な」を削除することも可能である。
また、上記実施の形態では、トポロジカル光回路という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、光回路、光渦伝送回路等であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
5 TE/TM波
10 トポロジカルフォトニック構造
11 フォトニック結晶(Trivial Ph.C.)(自明なフォトニック構造体)
12 トポロジカルなフォトニック結晶(Topological Ph.C.)(トポロジカルフォトニック構造体)
13 トポロジカルエッジ
20 トポロジカルエッジ伝送路
30 トポロジカルスプリッタ/コンバイナ
40 トポロジカルコンバータ
41 Input用Si系導波路
42 Monitor用Si系導波路
50 トポロジカルレーザ
111 第1誘電体
112 第2誘電体
121 Trivial Ph.C.のセル
122 Topological Ph.C.のセル
150 光渦