(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】シアン化合物を含む廃水処理方法、シアン化合物を含む廃水を処理するための薬剤の自動制御システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20230725BHJP
【FI】
C02F1/58 N
(21)【出願番号】P 2020099435
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2022-07-07
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】濱 理奈
(72)【発明者】
【氏名】勝本 暁
(72)【発明者】
【氏名】武谷 啓司
(72)【発明者】
【氏名】入佐 一之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓海
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237112(JP,A)
【文献】特開2017-047361(JP,A)
【文献】特開2013-123655(JP,A)
【文献】特開2010-221151(JP,A)
【文献】特開2009-244034(JP,A)
【文献】特開2008-076235(JP,A)
【文献】浅野 泰一, 伊東 哲,シアン化水素センサーを用いた気相測定方式によるシアン化物イオンの連続測定法の開発,分析化学,日本,1990年11月05日,Vol.39, No.11,p.693-698
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78、
5/00- 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を分析する分析工程と、
前記廃水に薬剤を添加して前記シアン化合物を処理する処理工程とを有し、
前記分析工程で生成された前記廃水中のシアン化合物情報に基づいて前記処理工程で使用される前記薬剤の種類及び/又は前記薬剤の使用量を決定し、
前記分析工程に導入される前記廃水に分散剤を添加し、
前記分析工程は、前記懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を、前記廃水とセンサーとを直接接触させずに分析
し、
前記分析工程及び前記処理工程が自動で行われる
ことを特徴とするシアン化合物を含む廃水の処理方法。
【請求項2】
シアン化合物は、廃水中に単独形態及び懸濁物質に吸着された形態で含まれている請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
廃水は、製鉄所、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場又は金属表面処理工場から生じる廃水である請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
分散剤は、(メタ)アクリル酸系重合物、マレイン酸系重合物及びホスホン酸系化合物及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2又は3に記載の処理方法。
【請求項5】
分析工程は、6時間以内の間隔で実施される請求項1、2、3又は4に記載の処理方法。
【請求項6】
処理工程から得られる処理後排水に含まれるシアン化合物量を測定する処理後排水測定工程をさらに含み、処理工程で使用される薬剤の使用量を、前記処理後排水測定工程で生成された処理後排水の情報に基づいて調整する請求項1、2、3、4又は5に記載の処理方法。
【請求項7】
前記分析工程、前記処理工程及び処理後排水測定工程が自動で行われる請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を分析する分析手段と、
前記分析手段に導入される前記廃水に分散剤を添加する分散剤添加手段と、
前記廃水に薬剤を添加して前記シアン化合物を処理する処理手段と、
前記分析手段で生成されたシアン化合物情報に基づいて前記処理手段で使用される前記薬剤の種類及び/又は前記薬剤の使用量を決定する薬剤制御手段とを備え、
前記処理手段で使用される前記薬剤の種類及び/又は前記薬剤の使用量を自動制御し、
前記分析手段は、前記懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を、前記廃水とセンサーとを直接接触させないタイプのものであ
り、前記懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物の分析を自動制御することを特徴とするシアン化合物を含む廃水を処理するための薬剤の自動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化合物を含む廃水処理方法及びシアン化合物を含む廃水を処理するための薬剤の自動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シアンは生態系に強い悪影響を及ぼすため、シアン含有廃水(以下、「シアン廃水」という)を自然界にそのまま放出することはできない。シアンについては排水基準が定められており、この基準(1mg/l以下)を満たすようにシアンの除去処理を行い、無害化した廃水でなければ下水などに排出できないことになっている。また、シアン化合物は、廃水の由来にも因り、含有量の多少はあるが、難分解性シアン錯体、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンの3種の形態で廃水中に存在している。
【0003】
従来からシアン含有廃水中のシアンの除去処理として様々な方法が提案され、実用化されているが、いずれも一長一短があり、廃水の状況に応じて使い分けられている。
例えば、(1)シアン含有廃水をアルカリ性に調整した後、塩素を注入してシアンを酸化分解するアルカリ塩素法、(2)強力なオゾンの酸化力でシアンを窒素ガスと炭酸水素塩に酸化分解するオゾン酸化法および(3)非溶解性の電極を用いてシアンを電気分解し、酸化反応を行なう電解酸化法(電解法)などの酸化分解法;(4)シアン含有廃水中に、鉄イオンの供給化合物として、例えば硫酸第一鉄を添加し、難溶性のフェリ/フェロシアン化物を生成させ、これを沈殿除去する紺青法、(5)塩化亜鉛と還元剤とを添加し、生成した不溶錯体を沈殿除去する亜鉛白法および(6)2価の銅塩と還元剤とを添加し、生成した不溶錯体を沈殿除去する還元銅塩法などの不溶錯体法;(7)シアンに対して馴養させた微生物(シアン分解菌)にシアンを分解させる生物処理法;(8)シアン含有廃水を高温に保持してシアン化合物をアンモニアと蟻酸に加水分解させ、共存する重金属類を単体または酸化物として析出させる熱加水分解法および(9)シアンの分解以外に有機汚濁物をも酸化分解させる湿式酸化法などの熱水反応などがある。そのため、シアン含有廃水中のシアンの除去処理には様々な薬剤が、廃水の状況に応じて使い分けられていた。
【0004】
特許文献1~3にもシアン化合物を含む廃水処理に用いられる種々の薬剤が開示され、これらを用いたシアン化合物を含む廃水の処理方法が開示されている。
【0005】
また、廃水中のシアン化合物の濃度は時々刻々と変化するものであることが知られている。しかし、廃水中に含まれるシアン化合物の濃度に応じて、上述のような廃水処理に用いられる薬剤の添加量を都度変化させることは現実的ではないため、シアン化合物の処理においては過剰量の薬剤が添加されることがある。しかし、シアン含有廃水はその排出量が多い為、薬剤を過剰に添加すると薬剤コストが増加するという問題があった。また、薬剤の添加量を一定量に固定すると、廃水中のシアン化合物の種類や濃度の変化により適切な処理が施されず、シアン含有廃水を排水する工場そのものの操業が停止する事態を招くこともあった。
【0006】
そのため、廃水中のシアン化合物の種類や濃度に応じて、廃水中のシアン化合物の除去処理に用いられる薬剤の種類や薬剤添加量を調整するシアン含有廃水の処理方法が採用される場面が多くなっている。しかし、人の手により処理前の廃水からサンプリングを行い該廃水中のシアン化合物の分析をすると、時間と人手とを要して廃水中のシアン化合物の分析結果を現実の廃水処理にフィードバックするまで時間のロスが生じていた。そのため、廃水中のシアン化合物の分析結果に応じて時間ロスを生じることなく廃水処理を行うことができず、廃水中のシアン化合物を分析する場合であっても、余剰薬剤を添加する必要があった。
【0007】
このため従来より、シアン化合物を含む廃水の処理について、廃水中のシアン化合物に対する分析結果を、時間ロスを生じることなく廃水処理に反映することができる廃水処理方法が望まれていた。しかし、シアン化合物を含む廃水に含まれる懸濁物質(SS分)は、ストレーナー等を用いて分離できるものではないため、分析装置を用いて廃水中のシアン化合物を分析すると、短期間で分析装置内に懸濁物質が蓄積するなどの不具合が生じていた。そのため、長期的に分析装置の不具合を生じることなく、廃水中のシアン化合物情報を適時反映できるシアン化合物を含む廃水の処理方法が求められている。また、シアン化合物の廃水処理は、人手を要するため自動化が望まれている。
【0008】
なお、例えば、特許文献4には、懸濁物質を含む廃水の懸濁物質濃度を測定するために、分取された原水にスケール分散剤を添加し、その後、該原水とセンサーとを接触させて原水の水質を測定することが開示されている。しかしながら、本文献には、測定対象である懸濁物質により生じる不具合を解消するために分散剤を添加することが開示されているのみであり、懸濁物質とシアン化合物を含む廃水におけるシアン化合物の処理方法に関しては何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-300553号公報
【文献】特開2014-111254号公報
【文献】特開2017-80699号公報
【文献】特開2017-047361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、長期的に分析装置の不具合を生じることなく、懸濁物質を含有する廃水中のシアン化合物情報を適時反映できるシアン化合物を含む廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物は、該廃水中で、単独形態及び/又は懸濁物質に吸着された形態でも存在しており、懸濁物質が除去されていない廃水中のシアン化合物を分析することで、より正確に廃水中のシアン化合物情報が得られることに着目し、懸濁物質とシアン化合物とを含む廃水から懸濁物質を除去することなく、分析装置に不具合を生じさせないための方法を鋭意検討した結果、分析装置に導入される上記廃水に分散剤を添加することで、長期的に分析装置の不具合が発生しないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を分析する分析工程と、上記廃水に薬剤を添加して上記シアン化合物を処理する処理工程とを有し、上記分析工程で生成された上記廃水中のシアン化合物情報に基づいて上記処理工程で使用される上記薬剤の種類及び/又は上記薬剤の使用量を決定し、上記分析工程に導入される上記廃水に分散剤を添加することを特徴とするシアン化合物を含む廃水の処理方法である。
上記分析工程は、懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を、上記廃水とセンサーとを直接接触させずに分析することが好ましい。
シアン化合物は、廃水中に単独形態及び懸濁物質に吸着された形態で含まれていることが好ましい。
廃水は、製鉄所、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場又は金属表面処理工場から生じる廃水であることが好ましい。
分散剤は(メタ)アクリル酸系重合物、マレイン酸系重合物及びホスホン酸系化合物及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
分析工程は、6時間以内の間隔で実施されることが好ましい。
本発明の廃水の処理方法は、上記処理工程から得られる処理後排水に含まれるシアン化合物量を測定する処理後排水測定工程をさらに含み、処理工程で使用される薬剤の使用量を、前記処理後排水測定工程で生成された処理後排水の情報に基づいて調整することが好ましい。
本発明の廃水の処理方法は、上記分析工程及び上記処理工程が自動で行われることが好ましく、さらに処理後排水測定工程を有する場合は、上記分析工程、上記処理工程及び上記処理後排水測定工程が自動で行われることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を分析する分析手段と、上記分析手段に導入される上記廃水に分散剤を添加する分散剤添加手段と、上記廃水に薬剤を添加して上記シアン化合物を処理する処理手段と、上記分析手段で生成されたシアン化合物情報に基づいて上記処理手段で使用される上記薬剤の種類及び/又は上記薬剤の使用量を決定する薬剤制御手段とを備え、上記処理手段で使用される上記薬剤の種類及び/又は上記薬剤の使用量を自動制御することを特徴とするシアン化合物を含む廃水を処理するための薬剤の自動制御システムでもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期的に分析装置の不具合を生じることなく、懸濁物質を含有する廃水中のシアン化合物情報を適時反映できる、シアン化合物を含む廃水の処理方法を提供することができる。また、本発明によれば、懸濁物質を含有する廃水中のシアン化合物を、自動で処理できるシアン化合物を含む廃水の処理方法を提供することができる。また、本発明によれば、シアン化合物を含む廃水を処理するための薬剤の自動制御システムを提供することができる。よって、本発明の方法は、本発明の属する技術分野において長期的に望まれていた、廃水中のシアン化合物処理に用いられる薬剤の種類及び/又は薬剤の使用量の好適化、及び、廃水処理の自動化をかなえるものであるから、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本明細書中、「X~Y」は、「X以上、Y以下」を意味する。
【0018】
本発明のシアン化合物を含む廃水の処理方法は、懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を分析する分析工程と、上記廃水に薬剤を添加して上記シアン化合物を処理する処理工程とを有し、上記分析工程で生成された上記廃水中のシアン化合物情報に基づいて上記処理工程で使用される上記薬剤の種類及び/又は上記薬剤の使用量を決定し、上記分析工程に導入される廃水に分散剤を添加することを特徴とする。
【0019】
本発明によると、懸濁物質及びシアン化合物を含有する廃水におけるシアン化合物情報(シアン化合物の種類及び/又は濃度)を、懸濁物質による分析装置の不具合を生じることなく得られるため、上記処理工程で、適時上記分析工程で生成された廃水中のシアン化合物情報を反映した廃水処理を実施することができる。よって、上記処理工程で用いられる薬剤の種類及び薬剤の量を最適化することができる。なお、本発明の分析工程は、廃水におけるシアン化合物情報として、少なくともシアン化合物濃度の測定又はシアン化合物の種類の分析を有する工程であり、シアン化合物の濃度測定及びシアン化合物の種類の分析を含む工程であってよい。
【0020】
上記分析工程では、本発明の属する技術分野において、一般的に用いられる分析方法及び分析手段(例えば、ヤナコテクニカルサイエンス社製-TCN自動測定装置(TCN-508)等)により、廃水中のシアン化合物を分析する。シアンの測定法はJIS(公定法)により定められており、pH2以下で蒸留操作を行い、全シアンを測定すること(JIS K0102 38.1.2)となっている。よって、上記分析工程では、これを準拠する方法や装置を用いて廃水中のシアン化合物を分析することが好ましい。
【0021】
上記分析工程で用いられる分析手段は、上記廃水を直接センサーに接触させるタイプのものであってもよいが、上記廃水とセンサーとを直接接触させないタイプのものが好ましい。
【0022】
上記処理工程では、公知のシアン化合物含有廃水の処理方法を用いることができ、上記処理工程で使用される薬剤は、シアン化合物含有廃水の処理において一般的に使用される薬剤を用いることができる。上記処理工程では、上記廃水に含まれるシアン化合物が薬剤により処理されるが、上記廃水に上記薬剤を存在させる方法は特に限定されず、一般的に使用される薬剤の添加方法を用いることができる。また、上記処理工程において、2種以上の薬剤が用いられる場合、2種以上の薬剤は同時に添加されてもよく、また別々に添加されてもよい。また、上記処理工程で用いられる薬剤の添加には、既存の設備を用いてもよい。
【0023】
本発明の廃水の処理方法で処理される廃水に含まれるシアン化合物は、シアン化物イオン、シアン錯体等のシアン化合物である。上述の通り、上記処理工程で使用される薬剤は限定されるものではないが、例えば、上記廃水中のシアン化合物がシアン化物イオンの場合、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素、過酸化水素、ホルマリン等が挙げられ;上記廃水中のシアン化合物が錯シアンの場合、銅化合物、鉄化合物、マンガン化合物等が挙げられる。
【0024】
上記処理工程で使用される薬剤の使用量(すなわち、薬剤の添加量であって、シアン化合物を含む廃水中に存在させる量)は、上記分析工程で生成された廃水中のシアン化合物情報に基づき決定されるものである。また、上記処理工程で使用される薬剤の種類及び/又は使用量は、上記廃水に含まれるシアン化合物情報に加え、上記廃水量、上記廃水に含まれる他の含有情報及び排水基準等に基づいて決定されてもよい。上記廃水に含まれる他の含有情報は、予め測定された情報であってもよく、上記分析工程においてシアン化合物の分析と同時に測定された情報であってもよい。
【0025】
本発明の廃水の処理方法によれば、廃水中のシアン化合物情報に基づいて処理工程で使用される薬剤の種類及び/又は薬剤の使用量を決定することができるため、シアン化合物の種類が2種以上である廃水をより好適に処理することができる。また、本発明の廃水の処理方法は、シアン化合物の濃度が時間経過に伴い変化する廃水をより好適に処理することができる。
【0026】
本発明の廃水の処理方法で処理される廃水は、懸濁物質を含有するものであり、懸濁物質濃度は特に制限されるものではない。
【0027】
上記懸濁物質としては、例えば、酸化鉄や鉄等の金属類、および炭素紛が考えられる。
【0028】
本発明の廃水の処理方法に用いられる分散剤は、公知の分散剤であれば特に問題ないが、例えば、(メタ)アクリル酸系重合物(ポリマー)、マレイン酸系重合物、ホスホン酸系化合物及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、上記分散剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸やポリマレイン酸、ホスホン酸系化合物及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの両方が含まれることを意味する。
【0029】
上記分散剤の添加量は、特に限定されず、上記廃水中に含まれる懸濁物質の濃度に応じて適宜決定されることが好ましい。例えば、上記廃水に対し1mg/L以上添加されることが好ましく、1~20mg/L添加されることがより好ましく、1~5mg/Lであることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の処理方法により処理される廃水に含まれるシアン化合物は、廃水中に単独形態及び懸濁物質に吸着された形態で含まれていることが好ましい。本発明の廃水の処理方法によれば、懸濁物質を含む廃水であっても分析装置に不具合を生じることなく、上記廃水中のシアン化合物を分析できるため、該懸濁物質に吸着された形態で含まれるシアン化合物を取り除くことなく、廃水中のシアン化合物をより正確に分析することができる。そのため、本発明のシアン化合物を含む廃水の処理方法は、シアン化合物が単独形態及び懸濁物質に吸着された形態で含まれる廃水を好適に処理することができる。
【0031】
本発明において、廃水中のシアン化合物の含有量は、特に限定されないが、全シアン濃度で0.5~30mg/Lの廃水を好適に処理することができ、全シアン濃度で1~20mg/Lの廃水をより好適処理することができる。
【0032】
本発明において、シアン化合物を含む廃水としては、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出されるシアン化合物を含む廃水、放射能汚染水の処理工程において排出されるシアン化合物を含む廃水、土壌の処理装置から排出されるシアン化合物を含む廃水が挙げられる。特に、本発明のシアン化合物を含む廃水の処理方法は、製鉄所、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場又は金属表面処理工場から生じる廃水、すなわち、上記濃度の懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物の処理に好適である。
【0033】
上記分析工程は、6時間以内の間隔で実施されることが好ましく、4時間以内の間隔であることがより好ましく、3時間以内の間隔であることがさらに好ましい。また、上記分析工程は、連続分析されることが最も好ましい。本明細書において、連続分析とは、120分間隔以内で分析が行われることをいう。シアン化合物を含む廃水中のシアン化合物の種類及び/又は濃度は時々刻々と変化するものであるため、定期的に確認することが好ましく、連続で確認することがより好ましいためである。また、上記分析工程は、15分以上や30分以上の間隔をあけて実施されるものとしてもよい。
【0034】
また、本発明の廃水の処理方法は、上記処理工程から得られる処理後排水に含まれるシアン化合物量を測定する処理後排水測定工程をさらに含み、上記処理工程で使用される薬剤の使用量を、上記処理後排水測定工程で生成された処理後排水の情報に基づいて調整することが好ましい。
【0035】
また、本発明の廃水の処理方法は、上記分析工程及び上記処理工程が自動で行われることが好ましい。また、上記分析工程、上記処理工程及び上記処理後排水測定工程が自動で行われることが好ましい。さらにこれらのデータや制御についてインターネットを介して表示し、また報告させるようなシステムにすることも可能である。
【0036】
本発明の処理方法では、本発明の効果を阻害しない範囲で、防錆剤、腐食防止剤、スライムコントロール剤、金属捕集剤、消泡剤などの公知の薬剤を併用してもよい。
さらに、本発明の処理方法は、本発明の効果を阻害しない範囲で、本分野で一般的に使用されている赤外線や紫外線など公知の物理的なシアン処理方法と併用してもよい。
また、本発明の処理方法は、さらに、一般的にシアン化合物を含む廃水を化学的に処理した後に実施される処理(例えば、固液分離処理等)方法を含んでもよい。また、一般的にシアン化合物を含む廃水を化学的に処理した後に実施される処理方法に用いられる方法及び装置は特に限定されず、一般的に用いられる方法及び装置を用いることができる。例えば、固液分離処理については、シックナー、クラリファイヤー、沈殿池等の公知の装置を用いることができる。
【0037】
また、本発明は、懸濁物質を含有する廃水に含まれるシアン化合物を分析する分析手段と、上記分析手段に導入される上記廃水に分散剤を添加する分散剤添加手段と、上記廃水に薬剤を添加して上記シアン化合物を処理する処理手段と、上記分析手段で生成されたシアン化合物情報に基づいて上記処理手段で使用される上記薬剤の種類及び/又は上記薬剤の使用量を決定する薬剤制御手段とを備え、上記処理手段で使用される上記薬剤の種類及び/又は上記薬剤の使用量を自動制御することを特徴とするシアン化合物を含む廃水を処理するための薬剤の自動制御システムでもある。
【0038】
本発明の自動制御システムは、上述した本発明の処理方法における態様と同様の態様とすることができ、また、上述した本発明の処理方法における好適な態様も同様に好適な態様とすることができる。すなわち、上述した本発明の処理方法に関する説明は、本発明のシステムに関する説明でもあり、本発明の自動制御システムに関する説明として採用することができる。
【0039】
図1は本発明の一実施形態を示すものであるが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
図1には、懸濁物質及びシアン化合物を含有する廃水(原水)に、薬剤を添加して、上記シアン化合物を処理するための処理層1と、処理槽1に導入される前に、分析用ラインに分取され、処理前の廃水(原水)が導入される分析手段2とが示されている。分析手段2に導入される原水は、分散剤添加手段4により分散剤タンク7にある分散剤が添加される。分析手段2で生成されたシアン化合物情報は、薬剤制御手段に送られ、薬剤制御手段において、上記シアン化合物情報に基づき、処理層1に添加される薬剤の種類及び/又は薬剤の使用量が決定され、薬剤添加手段3、3´に薬剤制御手段で決定された情報が送られる。本発明のシステムにおける処理手段は、
図1における処理層1、薬剤添加手段3、3´及び薬剤タンク6、6´であるが、本形態に限定されるものではない。また、薬剤タンク及び薬剤添加手段は、
図1に記載の形態に限定されるものではなく、使用される薬剤の種類や、添加方法に応じて適宜変更可能である。なお、
図1には、処理後排水を分取して測定する処理後排水測定手段5が示されている。本構成は必須の構成ではないが、好適に用いることができる。
また、
図1に記載のフローメーター(FM)の位置は、廃水(原水)が分析ラインに分岐する前に設置されていてもよい。
また、
図1には示されていないが、分析手段2を通過した廃水は原水に戻されてもよく、また、処理層1に導入されてもよい。
【0040】
本発明の自動制御システムにおける薬剤制御手段は、廃水に含まれるシアン化合物情報に加え、上記廃水量情報、上記廃水に含まれる他の含有情報及び排水基準等に基づき、薬剤の種類及び/又は使用量を決定することができる。上記廃水に含まれる他の含有情報は、予め設定された情報であってもよく、上記分析工程においてシアン化合物の分析と同時に測定された情報であってもよい。また、上記廃水量情報は、予め設定された情報であってもよく、原水のフローメーターで測定された値であってもよい。
【0041】
本発明のシステムは、上記各手段が好適に実施されるための他の構成を含んでいてもよい。例えば、上記処理手段は、薬剤を混合するための混合手段を有していてもよく、また、処理中の廃液のpHを測定するためのpH測定手段や温度測定手段を有していてもよく、加熱手段を有していてもよい。また、また、反応処理層の他に、シックナー、クラリファイヤー、沈殿池等の公知の固液分離装置を用いることができ、既設の装置を転用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 処理槽
2 分析手段
3、3´ 薬剤添加手段
4 分散剤添加手段
5 処理後廃水測定手段
6、6´ 薬剤タンク
7 分散剤タンク