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特許7318872無機材料製の遮熱材、これを製造するための材料セット、下地層用材料及び製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】無機材料製の遮熱材、これを製造するための材料セット、下地層用材料及び製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/86 20060101AFI20230725BHJP
   C03C 8/02 20060101ALI20230725BHJP
   C04B 35/18 20060101ALI20230725BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C04B41/86 Z
C03C8/02
C04B35/18
C04B41/89 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021509938
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042858
(87)【国際公開番号】W WO2021100717
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-03-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019208594
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598151544
【氏名又は名称】カサイ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】川野 順一
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄一
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】山崎 慎一
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155895(JP,A)
【文献】特開2011-117266(JP,A)
【文献】特開2015-040331(JP,A)
【文献】特開2010-180083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/065640(US,A1)
【文献】特開2014-193803(JP,A)
【文献】FERRARI Chiaraら,Design of ceramic tiles with high solar reflectance through the development of a functional engobe,Ceramics International,2013年,Vol.39 No.8,P.9583-9590
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B41/86
C03C8/02
C04B35/18
C04B41/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材の上に積層され、前記基材よりTSR(日射反射率)が大きい下地層と
該下地層の上に積層される釉薬層と、を備えてなる無機材料製の遮熱材であって、
前記釉薬層は前記下地層を視認できない厚さを有し、かつ赤外線を透過させ、
前記下地層は、前記釉薬層と反応しない、前記釉薬層を透過した前記赤外線を反射させる機能を有する主反射領域を有するとともに、当該主反射領域の厚さが10μm以上である、遮熱材。
【請求項2】
前記下地層の材料は、ゼーゲル式で、RO:0.1~0.5、RO:0.5~0.9、B:0.0~1.0、Al:2.2~10.2、SiO:7.2~29.2、TiO:0.0~0.5、ZrSiO:0.0~5.5、SiO/Al:0.7~23.8、ただしRO=MgO、CaO又はBaO、RO=LiO、NaO又はKOと表せる、請求項1に記載の遮熱材。
【請求項3】
前記釉薬層の材料は、ゼーゲル式でRO:0.5~0.9、RO:0.1~0.5、B:0.0~1.0、Al:0.3~1.0、SiO:1.3~3.7、SiO/Al:3.4~6.9、ただしRO=MgO、CaO又はBaO、RO=LiO、NaO又はKOと表せるものである、請求項1又は2に記載の遮熱材。
【請求項4】
基材と、
TSR(日射反射率)が80%以上の下地層と
CrとFeとの比(モル比)を93~97:7~3又はCrとFeとの比(モル比)を80~97:20~3として、かつ非スピネル構造をとる(Cr、Fe)固溶体を含み、そのL*値が30以下の釉薬層とを備え、
前記釉薬層は前記下地層を視認できない厚さを有し、かつ赤外線を透過させ、
前記下地層は、前記釉薬層と反応しない、前記釉薬層を透過した前記赤外線を反射させる機能を有する主反射領域を有するとともに、当該主反射領域の厚さが10μm以上である、遮熱材。
【請求項5】
基材と、
該基材の上に積層される下地層と、
該下地層の上に積層される釉薬層と、を備えてなる無機材料製の遮熱材であって、
前記下地層の材料は、ゼーゲル式で、RO:0.1~0.5、RO:0.5~0.9、B:0.0~1.0、Al:2.2~10.2、SiO:7.2~29.2、TiO:0.0~0.5、ZrSiO:0.0~5.5、SiO/Al:0.7~23.8、ただしRO=MgO、CaO又はBaO、RO=LiO、NaO又はKOと表せ、かつ、前記下地層は、前記釉薬層と反応しない、前記釉薬層を透過した赤外線を反射させる機能を有する主反射領域を有するとともに、当該主反射領域の厚さが10μm以上である、遮熱材。
【請求項6】
前記釉薬層の材料のHMS測定(ヒーティングマイクロスコープによる測定)のHT(半球温度)は、予定されている焼成温度より100℃以内に収まる温度である、請求項5に記載の遮熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料製の遮熱材、これを製造するための材料セット、下地層用材料及び遮熱材の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の省エネルギー要請の観点から、建材には高い遮熱性が求められている。
建材のなかでも、特に屋根瓦に代表される黒色系のものの遮熱性を向上させることが求められている。例えば、日本ヒートアイランド対策協議会では、L*値≦40の黒色系遮熱釉薬について、赤外線反射率40%以上、かつ日射反射率30%を達成することを目標に掲げている。
本件発明は無機材料からなる遮熱材を対象としているが、有機材料からなる塗料においても同様な課題があり、本件発明に関連する技術が例えば特許文献1に開示されている。
特許文献2には高い遮熱性の顔料が提案されている。
非特許文献1には90%以上の日射反射率を示すエンゴーベが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-246478号公報
【文献】特許5737523号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Design of ceramic tiles with high solar reflectance through the development of a functional engobe, Ceramics International 39 (2013), 9583-9590, 要約参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは高い日射反射率(全反射率)を有する顔料として特許文献2に開示のものを提案している。即ち、(Cr、Fe)固溶体からなり、L*値が30以下の黒色系顔料であって、CrとFeとの比(モル比)を93~97:7~3として、かつ非スピネル構造をとる黒色系顔料である。そして、かかる顔料を用いた釉薬層は赤外線反射率(以下、単に「NIR」ということがある)が45%を示し、日射反射率(以下、単に「TSR」ということがある)も24%という高い遮熱特性を有している。ここで、CrとFeとの比(モル比)を80~97:20~3とすることもできる。
しかし、日本ヒートアイランド対策協議会が掲げる、L*値≦40において、NIR≧以上40%、かつTSR≧30%という目標はクリアしていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目標を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、上記顔料を用いる釉薬が比較的高いNIR(=45%)を示すのは、顔料自体が赤外線を反射する機能を有する一方で、当該顔料を含む釉薬層が赤外線を透過させる機能も併せ持つことに気が付いた。即ち、入射された赤外線は釉薬層を透過してこれを支える基材で反射され、反射された赤外線は再度釉薬層を透過して外部に放出される。
かかる知見に基づき、基材の表面の光反射率を高めれば釉薬層としてのNIRが向上し、もってそのTSRを向上させられるのでないかと考えた。
そこで、基材の表面を、これより光反射率の高い材料(下地層)で被覆してそのTSRを測定した。その結果を図1に示す。図1の結果より、下地層の赤外線反射率NRIが高くなるにしたがって遮熱材全体としての、即ち下地層と釉薬層との複合層としての日射反射率TSRも高くなることがわかる。
そして、実施例1の黒色顔料を用いたとき、下地層のTSRを80%以上とすると遮熱材全体の日射反射率TSRがほぼ30%以上になることがわかった。実施例1の黒色顔料はもともと45%なるNIRを備えているので、ここに、日本ヒートアイランド対策協議会の求める目標がクリアされたこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は実施例及び比較例の遮熱材全体のTSRと下地層のTSRとの関係を示すグラフである。
図2図2はこの発明の実施例の遮熱材の構成を示す模式図である。
図3図3はこの発明の比較例の遮熱材の構成を示す模式図である。
図4図4は下地層とTSRとの関係を示すグラフである。
図5図5実施例の釉薬の溶融曲線である。
図6図6は実施例3の分光反射曲線である。
図7図7は実施例4の分光反射曲線である。
図8図8は実施例5の分光反射曲線である。
図9図9は実施例6の分光反射曲線である。
図10図10は実施例7の分光反射曲線である。
図11図11は下地層(単独)のTSRとハロー高さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1の結果において実施例1の遮熱材の焼結前のスペックは次の通りであった。
基材:
材料;陶磁器質
厚さ;5~20mm
下地層:
材料(組成);ゼーゲル式で、RO:0.1~0.5、RO:0.5~0.9、Al:2.2~10.2、SiO:7.2~29.2、TiO:0.0~0.5、ZrSiO:0.0~5.5、SiO/Al:0.7~23.8、ただしRO=MgO、CaO又はBaO、RO=LiO、NaO又はK
厚さ;100μm
下地層のTSRの下地層を単独で(、即ち何ら釉薬層を積層することなく)焼成したときの値であり、配合調整により変化を与えた。また、基材のTSRは50%である。即ち、横軸50%は下地層がないときを示す。
【0009】
釉薬層:
材料;黒色顔料(実施例1:製品名:42-710A(カサイ工業)を含む釉薬
注) 黒色顔料(実施例1):CrとFeとの比(モル比)を93~97:7~3又はCrとFeとの比(モル比)を80~97:20~3として、かつ非スピネル構造をとる(Cr、Fe)固溶体
釉薬層のL*値: 30以下
焼成条件:
焼成温度;1,130~1,150℃
保持時間;1~3時間
TSRの測定条件:
測定器:日本分光株式会社製の紫外可視光赤外分光光度計V-670
【0010】
実施例2の釉薬層は黒色釉薬として製品名:ECOブラック(カサイ工業)を用いる以外は実施例1と同じ条件である。
比較例1の釉薬層は黒色釉薬として製品名:Cブラック(カサイ工業)を用いる以外は実施例1と同じ条件である。
比較例2の釉薬層は黒色釉薬として製品名:ブラックマット(カサイ工業)を用いる以外は実施例1と同じ条件である。
なお、実施例2の黒色顔料を含む釉薬層においても、下地層のTSRが上昇するにつれ、遮熱材全体の、即ち下地層と釉薬層との複合層のTSRも上昇することがわかる。
他方、比較例1及び比較例2の黒色顔料を含む釉薬層においては、下地層のTSRの変改が遮熱材全体のTSRにほとんど影響を与えなかった。
実施例2並びに比較例1及び2のL*はいずれも30以下であった。
【0011】
以上よりこの発明は次のように規定することができる。即ち
その表面の日射反射率(TSR)が80%以上の下地部材と、
該下地部材の表面に積層された釉薬層であって、CrとFeとの比(モル比)を93~97:7~3又はCrとFeとの比(モル比)を80~97:20~3として、かつ非スピネル構造をとる(Cr、Fe)固溶体からなり、L*値が30以下の黒色系顔料を含む釉薬層と、
を備えてなる、遮熱材。
このように構成される遮熱材によれば、日射反射率(TSR)が30%以上となる。もちろん、赤外線反射率(NIR)も40%以上である。
【0012】
かかるハイスペックな遮熱材を得られた背景には、本発明者らによる新たに知見、即ち無機材料からなる釉薬層において赤外線が透過して下地層で反射していることがある。ここに、釉薬層は下地層が視認できない厚さを有しているものとする。遮熱材としての意匠性を確保するためである。
ところで、赤外線を透過させる有機塗料があることは特許文献1に記載の通りである。有機塗料の場合、高いTSRを備えた有機下地層を形成し、これを乾燥した後に当該有機塗料を塗布することとなる。このとき、有機下地層と塗料層とは層分離しており両者の材料が混じりあったり、反応したりすることはない。
これに対し、無機材料からなる遮熱材には下記の課題があった。
【0013】
釉薬層は、当然これがガラス化されるの対し、下地層がガラス化されることを避けなければならない。下地層がガラス化されるとTSRが格段に低下するからである。
また、無機材料からなる遮熱材の場合、一般的には下地層のスラリーの上に釉薬のスラリーを積層し、両者を同時に焼成する。この焼成温度で釉薬層の材料は完全にガラス化する。他方下地層の材料はガラス化しない。換言すれば、下地層の材料はこれを構成する粒子が焼結された状態、即ち、当該粒子の表面が融解して相互に結合した状態である。
下地層を単独で焼成すれば、その材料は全体的に均一に焼結され、その表面は高い光反射率を有することとなるが、釉薬層を積層した状態で焼結すると、釉薬層の材料がそのガラス化温度を超えて加熱されて流動化し、下地層の材料の粒子の間に浸み込んで、そこで下地層の材料と反応する。焼結工程が終了して冷やされると、反応した釉薬層の材料と下地層の材料とはガラス化した反応領域を形成する。かかるガラス化した反応領域は光を透過させるので高い光反射率を確保できなくなる。
【0014】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、焼成により、下地層の材料と釉薬層の材料とが反応して反応領域を形成することは避けられないものと考えた。そして、下地層を厚くして、焼成時においても釉薬層の材料が浸み込んでこない領域を確保すれば、その領域の表面において十分な光反射を確保できるのではないかと考えた。
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
基材と
該基材の上に積層される下地層と
該下地層の上に積層される釉薬層と、を備えてなる無機材料製の遮熱材であって、
前記釉薬層は前記下地層を視認できない厚さを有し、かつ赤外線を透過させ、
前記下地層は、該下地層の材料と前記釉薬層の材料との反応領域及び前記釉薬層の材料が存在しない主反射領域を備える、遮熱材。
【0015】
このように規定されるこの発明の第1の局面によれば、下地層には主反射領域が備えられるので、釉薬層を透過した赤外線を当該主反射層で反射させることができる。ここで、実質的に下地層の材料のみからなる主反射領域には10μm以上の厚さが必要と考えられる。主反射層が10μm未満であると、釉薬層と反応領域を透過してきた赤外線がこれを透過するおそれがある。主反射領域の層厚の上限は特に限定されないが、300μmとする。
図2に、この発明の遮熱材1の基本構造を示す。図2に示す通り、下地層の主反射領域に十分な厚みがあれば、釉薬層及び下地層を透過してきた赤外線をこの主反射領域で確実に反射させることができる。
これにより、図1の各実施例に示すように、下地層の持つ光反射特性(TSR)を利用可能となる。
【0016】
図3には、下地層を薄くした比較例の遮熱材を示す。図2の例に比べ、下地層の全体の厚さを薄くした。その結果、主反射領域が薄くなって、釉薬層及び下地層を透過してきた赤外線がこれを透過して基材に吸収される。
図1の実施例1で用いた黒色顔料について、下地層の厚さを30μmとしたもの(比較例3)の下地層TSRと遮熱材全体のTSRとの関係を、図1において点線で示す。
比較例3では、下地層が薄いのでその全域に釉薬層の材料が浸み込んでおり、即ち下地層全体が反応領域になっている。その結果、釉薬層及び下地層を透過した赤外線は専ら基材2の表面で反射されている。
比較例3の例では、遮熱材のTSR特性において下地層は何ら効果を発揮していない。
【0017】
以上より、下地層に十分な厚さの主反応領域の存在が必要なことがわかる。
そこで、本発明者らは、下地層の材料の上に釉薬層を積層して焼成したとき、下地層中にこのような主反応領域を確保する方法につき、鋭意検討した。
本発明者らの検討によれば、下記(1)~(3)の方法が考えられる。
(1)下地層自体に十分な厚さを確保する。
図4には、上記実施例で用いた下地層の膜厚とそのTSRとの関係を示す。このとき、下地層の上には何ら釉薬層は積層されておらず、下地層は露出した状態である。図4の関係から、下地層の膜厚は70μm以上とすることが好ましいことがわかる。その膜厚が70μm未満となると、もっぱら下地層の膜厚が不均一になるため、その薄い部分を赤外線及びその他の波長の光が優先的に透過するおそれがある。
なお、下地層の材料を選択すれば、赤外線の透過率を減少させたり、膜厚の均一性を確保したり、更にはその密度を上げることにより、本発明者らの検討によれば、下地層として50μm以上の厚さを確保しておけば、釉薬層の一般的な焼成条件において、釉薬層の材料と下地層の材料との反応領域以外の領域、即ち主反射領域に10μm以上の厚さを確保できる。
(2)焼成した下地層の上に釉薬層のスラリーを積層し、その後焼成する。
下地層を予め焼成しておけば、その後釉薬層を焼成しても両者の材料は殆ど反応しない。よって、この場合、下地層の全域が主反射領域と機能するので、これに十分な厚さを確保できる。
(3)釉薬層と焼成温度との関係
下地層のスラリーの上に釉薬層のスラリーを積層して焼成したとき、両材料が反応して反応領域が形成されることは避けらない。しかしながら、釉薬層の材料を選択することで、反応領域の形成を抑制することができる。
即ち、焼成温度が定められておれば、釉薬層のガラス化温度をできる限り当該焼成温度に近づけることで釉薬層の材料の流動化が抑えられる。これにより、釉薬層の材料が下地層に浸み込みがたくなり、もって反応領域の形成が抑制される。
なお、下地層を複数の材料から構成することができる。例えば、下地層において釉薬側の層をより高い反射率の材料製としたり、基材層側の層をより結合性の高い材料製としたりすることができる。
【0018】
釉薬層の厚さは特定されず、釉薬層に求められる意匠性、耐久性などに応じて任意に選択できる。釉薬層の意匠性、とくにその色合いを確保するには、釉薬層はその下の下地層を視認できない厚さとすることが好ましい。釉薬層の厚さは、例えば50~100μmとすることができる。
釉薬層を複数の材料層からなるものとすることができる。
【0019】
本発明者らは、釉薬層の材料のHMS測定(ヒーティングマイクロスコープによる測定)に着目した。
図5に実施例3~実施例7の釉薬の溶融曲線を示す。
実施例3~実施例7の釉薬のHTは次の通りであった。
実施例3:1141℃
実施例4:1121℃
実施例5:1088℃
実施例6:1053℃
実施例7:1035℃
【0020】
なお、図5の溶融曲線はHesse Instruments社製のHeating Microscope EM301で測定した。
またHT(半球温度)もHesse Instruments社製のHeating Microscope EM301で測定した。
HMS測定とは、高温加熱顕微鏡法により釉薬の溶融挙動を確認する手法である。
昇温条件は、500℃まで60℃/分、500~1,000℃は10℃/分、1,000℃以上は5℃/分。
HT(半球温度)は、測定試料高さがベース幅の半分になった時の温度で、DIN51730 Bestimmug des Asche-Schmelzverhaltensの規格に準ずる。
【0021】
図6図10及び表1に、それぞれ実施例3~実施例7の釉薬を用いたときの分光反射率曲線を示す。なお、下地層はこれを単独で焼成したときのTSRが80%のものを用い、その厚さは100μmとした。
分光反射率曲線は日本分光株式会社社製の紫外可視光赤外分光光度計V-670で測定した。
図6図10及び表1の結果より、釉薬層のHTの温度は焼成温度以下から焼成温度より100℃以下にすることが好ましく、更に好ましくは50℃以下であり、最も好ましくは上記HTと焼成温度とを等しくする。なお、実施例3~7の焼成温度は1140℃である。なお、実施例3~7においては、その流出温度(流動体となる温度)は焼成温度より100℃高いものであった。
流出温度が焼成温度より100℃を超えて高い釉薬材料のとき、例えばその流出温度が焼成温度より150℃以上高い釉薬材料のときは、HTが焼成温度より100℃を超えて低いとき、例えば150℃を以下のときでも、主反射層を確保できる。
もちろん、流出温度が焼成温度に近いほうが焼成コストを抑制できる。
以上換言すれば、釉薬層の材料としてそのガラス化温度が焼成温度にほぼ等しいものを採用し、焼成温度まで加熱されたときの流動性をできるかぎり抑制することが好ましい。
【0022】
【表1】
1140℃の焼成温度に対して、HTが100℃以下に収まる釉薬層の材料組成として、ゼーゲル式でRO:0.5~0.9、RO:0.1~0.5、B:0.0~1.0、Al:0.3~1.0、SiO:1.3~3.7、SiO/Al:3.4~6.9、ただしRO=MgO、CaO又はBaO、RO=LiO、NaO又はKOと表せるものを採用することができる。
反射率を損なわない範囲で以下の成分が含まれても構わない。かかる成分として、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、ジルコン等を挙げることができる。
【0023】
この発明では、図1の結果からも下地層の光反射率がTSRに大きく影響することがわかる。そのため、本発明者らは、単独で焼成したときのTSRが80%(膜厚100μm)以上となる下地層の組成について検討したところ、下記の組成が好ましいことを見出した。即ち、ゼーゲル式でRO:0.1~0.5、RO:0.5~0.9、B:0.0~1.0、Al:2.2~10.2、SiO:7.2~29.2、TiO:0.0~0.5、ZrSiO:0.0~5.5、SiO/AlO3:0.7~23.8、ただしRO=MgO、CaO又はBaO、RO=LiO、NaO又はKOと表せるものを採用する。
反射率を損なわない範囲で以下の成分が含まれても構わない。かかる成分として、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ等を挙げることができる。
【0024】
下地層の材料を焼成して得た粉末についてX線回折を行い、2θ=23~25度の範囲のピーク強度の平均値をハロー高さとして演算した。結果を図11に示す。
図11の結果を得たX線回折装置はブルカー社製、型番D2 PHASERである。
図11の結果から、下地層のTSRを80%以上とするには、ハロー高さを230cps以下とすることが好ましいことがわかる。
一般的に、ハロー高さが小さいほど、ガラス化がされていないことを示している。したがって、下地層における主反射領域はそのハロー高さを230cps以下とすることが好ましい。
【0025】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
2 基材、3 下地層、3-1 主反射領域、3-2 反応領域、5 釉薬層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11