(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】フィルム及びフッ素系樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230725BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230725BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/18 Z
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2019052293
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 奈名恵
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-109435(JP,A)
【文献】特開2016-321238(JP,A)
【文献】国際公開第2011/090023(WO,A1)
【文献】特開2017-098483(JP,A)
【文献】特開2018-107259(JP,A)
【文献】特開平04-141414(JP,A)
【文献】特開平05-105840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C08J 3/20
C09D 1/00-10/00;
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる基材層と、
前記基材層の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層と、
を含み、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、
前記フッ素系樹脂層が
、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と硬化剤と光安定剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物であり、
前記一方の面には、前記フッ素系樹脂層のみが積層されている、
透明フィルム(ただし、前記フィルムは、フッ素樹脂フィラーを含むフッ素ポリマー樹脂層を有さない)。
【請求項2】
熱可塑性樹脂からなる基材層と、
前記基材層の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層と、
を含む透明フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、
前記フッ素系樹脂層が
、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と硬化剤と光安定剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物であり、
前記フッ素
系樹脂層は、前記透明フィルムの表面層を形成する、
前記透明フィルム(ただし、前記フィルムは、フッ素樹脂フィラーを含むフッ素ポリマー樹脂層を有さない)。
【請求項3】
前記光安定剤が、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系光安定剤からなる群から選ばれる1つの化合物又は2以上の化合物の組合せである、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記基材層の他方の面に積層された粘着層をさらに含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記粘着層が、アクリル系樹脂組成物から形成されている、請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】
前記粘着層の2つの面のうち、基材層と接している面と反対側の面にセパレータが積層されている、請求項
4又は5に記載のフィルム。
【請求項7】
屋外において用いるための、請求項1~
6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
文字又は模様が付された面を被覆するために用いられる、請求項1~
7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記面が金属面又は樹脂面である、請求項
8に記載のフィルム。
【請求項10】
光安定剤を、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群から選ばれる1つの溶剤又は2つ以上の溶剤の混合物に溶解して溶解液を得る溶解工程、及び
前記溶解液を、
反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と混合してフッ素系樹脂組成物を得る混合工程、及び
前記フッ素系樹脂組成物を基材層に塗布し、そして硬化させる硬化工程
を含
み、
前記溶解工程において、前記光安定剤は、前記溶剤100質量部又は前記溶剤の混合物100質量部に対して12質量部以下の割合で添加され、
前記基材層は、ポリエステル系樹脂から形成されている、
透明フィルムの製造方法。
【請求項11】
光安定剤を、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群から選ばれる1つの溶剤又は2つ以上の溶剤の混合物に溶解して溶解液を得る溶解工程、及び
前記溶解液を、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と混合してフッ素系樹脂組成物を得る混合工程、及び
前記フッ素系樹脂組成物を基材層に塗布し、そして硬化させる硬化工程
を含み、
前記溶解工程は、前記光安定剤が前記溶剤又は前記溶剤の混合物に全て溶解されるように実行され、
前記基材層は、ポリエステル系樹脂から形成されている、
透明フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム及びフッ素系樹脂組成物の製造方法に関し、より詳しくは耐候性に優れたフィルム及び当該フィルムを製造するために用いられるフッ素系樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに種々の表面保護フィルムが開発されてきている。各表面保護フィルムは、それぞれの用途に応じた組成又は層構造を有する。例えば、下記特許文献1には、熱可塑性樹脂からなる基材層と粘着剤層とが積層一体化されてなる表面保護フィルムであって、粘着剤層を構成する樹脂分がゴム系ポリマー100重量部当たり特定のフッ素化合物0.5~5重量部を含有することを特徴とする表面保護フィルムが開示されている(請求項1)。当該表面保護フィルムは、被着体に対する初期密着性が良好であり、且つ、貼付後被着体から剥離する際に容易に剥離できると記載されている(段落0034)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気製品は、法令上その品質を当該製品に表示することが定められていることが多い。当該表示は例えば装置に貼り付けられた銘板又はシールの表面に印字されうる。当該表示は、例えば使用期間中は、常に視認できることが望ましい。
【0005】
しかしながら、例えばエアコンディショナの室外機などの屋外用電気製品は、日光や雨などにしばしばさらされるため、当該製品の表面に設けられた表示は消失しやすい。また、当該表示が印字されている銘板又はシールも、日光や雨などによって劣化しやすい。そこで、本発明は、当該表示を長期間にわたり維持すること及び/又は当該表示が施された銘板若しくはシールを長期間にわたり保護することを可能とする耐候性に優れたフィルムを提供することを目的とする。
【0006】
耐候性に優れた樹脂としてフッ素系樹脂を挙げることができる。当該フッ素系樹脂の耐候性をさらに高めることができればより好ましい。耐候性を高めるための添加剤として、例えば光安定剤が挙げられる。
【0007】
しかしながら、光安定剤はフッ素系樹脂に分散しにくく、フィルムの層を構成するために適した光安定剤含有フッ素系樹脂組成物を得ることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の手法により光安定剤をフッ素系樹脂に均一に分散させることができることを見出した。これにより、光安定剤を含有するフッ素系樹脂層を含むフィルムを製造することができた。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂からなる基材層と、前記基材層の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層と、を含み、前記フッ素系樹脂層が四フッ化エチレン系樹脂及び光安定剤を含む、フィルムを提供する。
前記光安定剤は、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系光安定剤からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物でありうる。
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂であってよい。
前記フィルムは、透明でありうる。
前記フィルムは、前記基材層の他方の面に積層された粘着層をさらに含みうる。
前記粘着層は、アクリル系樹脂組成物から形成されていてよい。
前記粘着層の2つの面のうち、基材層と接している面と反対側の面にセパレータが積層されていてよい。
前記フィルムは、屋外において用いるためのものであってよい。
前記フィルムは、文字又は模様が付された面を被覆するために用いられうる。
前記面は、金属面又は樹脂面でありうる。
また、本発明は、熱可塑性樹脂からなる基材層と、前記基材層の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層と、を含み、前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、前記フッ素系樹脂層が、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と硬化剤と光安定剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物であり、前記一方の面には、前記フッ素系樹脂層のみが積層されている、透明フィルム(ただし、前記フィルムは、フッ素樹脂フィラーを含むフッ素ポリマー樹脂層を有さない)も提供する。
また、本発明は、熱可塑性樹脂からなる基材層と、前記基材層の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層と、を含む透明フィルムであって、前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、前記フッ素系樹脂層が、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と硬化剤と光安定剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物であり、前記フッ素系樹脂層は、前記透明フィルムの表面層を形成する、前記透明フィルム(ただし、前記フィルムは、フッ素樹脂フィラーを含むフッ素ポリマー樹脂層を有さない)も提供する。
前記光安定剤は、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系光安定剤からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物でありうる。
前記フィルムは、前記基材層の他方の面に積層された粘着層をさらに含みうる。
前記粘着層は、アクリル系樹脂組成物から形成されていてよい。
前記粘着層の2つの面のうち、基材層と接している面と反対側の面にセパレータが積層されていてよい。
前記フィルムは、屋外において用いるためのものであってよい。
前記フィルムは、文字又は模様が付された面を被覆するために用いられうる。
前記面は、金属面又は樹脂面でありうる。
【0010】
また、本発明は、光安定剤をエステル系、ケトン系、又は芳香族系の溶剤に溶解して溶解液を得る溶解工程、及び、前記溶解液を、四フッ化エチレン系重合体と混合する混合工程を含む、フッ素系樹脂組成物の製造方法も提供する。
また、本発明は、光安定剤を、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群から選ばれる1つの溶剤又は2つ以上の溶剤の混合物に溶解して溶解液を得る溶解工程、及び前記溶解液を、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と混合してフッ素系樹脂組成物を得る混合工程、及び前記フッ素系樹脂組成物を基材層に塗布し、そして硬化させる硬化工程を含み、前記溶解工程において、前記光安定剤は、前記溶剤100質量部又は前記溶剤の混合物100質量部に対して12質量部以下の割合で添加され、前記基材層は、ポリエステル系樹脂から形成されている、透明フィルムの製造方法も提供する。
また、本発明は、光安定剤を、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群から選ばれる1つの溶剤又は2つ以上の溶剤の混合物に溶解して溶解液を得る溶解工程、及び、前記溶解液を、反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体と混合してフッ素系樹脂組成物を得る混合工程、及び、前記フッ素系樹脂組成物を基材層に塗布し、そして硬化させる硬化工程を含み、前記溶解工程は、前記光安定剤が前記溶剤又は前記溶剤の混合物に全て溶解されるように実行され、前記基材層は、ポリエステル系樹脂から形成されている、透明フィルムの製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、耐候性に優れたフィルムが得られる。当該フィルムによって、例えば屋外用電気製品などの表面に設けられた表示を長期間にわたって維持することができる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のフィルムの構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものでない。
【0014】
1.フィルム
【0015】
本発明のフィルムは、熱可塑性樹脂からなる基材層と、前記基材層の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層とを少なくとも含み、前記フッ素系樹脂層は、四フッ化エチレン系樹脂及び光安定剤を含む。
四フッ化エチレン系樹脂及び光安定剤を含む前記フッ素系樹脂層によって、当該フィルムにより被覆された表面の表示(例えば文字又は模様など)を長期間にわたって維持することができ、且つ、当該フィルムにより被覆された物体の劣化を長期間にわたって防ぐことができる。
また、四フッ化エチレン系樹脂及び光安定剤を含む前記フッ素系樹脂層によって、前記基材層の劣化も防ぐことができる。そのため、当該フィルム自体を長期間にわたって維持することができる。
【0016】
光安定剤は四フッ化エチレン系樹脂に分散させにくく、フィルムを構成する薄く且つ透明な層を形成するために適した光安定剤及び四フッ化エチレン系重合体を含むフッ素系樹脂組成物を得ることは困難であった。本発明者らは、特定の手法によって、光安定剤を四フッ化エチレン系重合体に分散させることができることを見出した。当該手法によって得られたフッ素系樹脂組成物によって、フィルムを構成する薄層を形成することができる。当該フッ素系樹脂組成物から形成された層は、耐候性に優れており且つ透明である。そのため、当該層は、屋外での使用に適している。さらに、当該層は、当該層により被覆される表面の視認性を維持しつつ且つ長期間にわたって当該表面を保護することができる。
【0017】
本発明の好ましい実施態様の一つに従い、前記基材層の他方の面には、例えば他の層が積層されていてよい。例えば、本発明のフィルムは、当該他の層を介して、被覆されるべき表面に貼り付けられうる。
当該他の層は、例えば粘着層でありうる。すなわち、前記基材層の他方の面に、当該粘着層が積層されていてよい。当該粘着層によって、被覆されるべき表面に本発明のフィルムを貼り付けやすくなり、当該表面に安定的に本発明のフィルムを維持することができる。
【0018】
本発明の他の好ましい実施態様に従い、前記基材層の他方の面には、他の層が積層されていなくてもよい。すなわち、本発明のフィルムは、前記フッ素系樹脂層及び前記基材層のみから構成されていてもよい。この場合、例えば、本発明のフィルムの基材層が、被覆されるべき表面に直接に積層されうる。例えば前記基材層を加熱し、そして、加熱された状態で本発明のフィルム(特には当該基材層)を被覆されるべき表面に貼り付けることで、本発明のフィルムと当該表面との位置関係を固定することができる。
【0019】
本発明のフィルムは、好ましくは透明である。本明細書内において、透明であるとは、JIS K7105に従う測定された全光線透過率が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であることをいう。透明である本発明のフィルムは、印字又は模様を有する表面を長期にわたって保護しつつ且つ当該印字又は模様も長期にわたって維持することができる。
【0020】
本発明のフィルムは耐候性に優れている。
例えば、本発明のフィルムは、耐湿熱試験環境(1000時間、85℃且つ85%RH)に付された場合に、ASTM E313に従い測定されたΔYI(黄変度)が、例えば0.5以下であり、特には0.4以下であり、より特には0.3以下でありうる。なお、前記耐湿熱試験環境において、本発明のフィルムは、フッ素系樹脂層が当該環境に直接接している状態に置かれ、例えば粘着層が任意の基体に貼り付けられ且つフッ素系樹脂層が露出している状態に置かれる。
例えば、本発明のフィルムは、同試験環境に付された場合に、当該試験環境に付す前の引張強度(JIS K7127に従い測定される)に対する当該試験環境に付した後の引張強度の保持率が、例えば70%以上であり、特には73%以上でありうる、より特には75%以上でありうる。
【0021】
また、本発明のフィルムは、耐湿熱試験環境(2000時間、85℃且つ85%RH)に付された場合に、ASTM E313に従い測定されたΔYI(黄変度)が、例えば0.55以下であり、特には0.45以下であり、より特には0.35以下でありうる。なお、前記耐湿熱試験環境において、本発明のフィルムは、フッ素系樹脂層が当該環境に直接接している状態に置かれ、例えば粘着層が任意の基体に貼り付けられ且つフッ素系樹脂層が露出している状態に置かれる。
例えば、本発明のフィルムは、同試験環境に付された場合に、当該試験環境に付す前の引張強度(JIS K7127に従い測定される)に対する当該試験環境に付した後の引張強度の保持率が、例えば60%以上であり、特には63%以上でありうる、より特には65%以上でありうる。
例えば、本発明のフィルムのフッ素系樹脂層の表面は、同試験環境に付された後に、ASTM D3359に従い測定された付着性が例えば3B~5Bであり、特には4B~5Bであり、より特には5Bでありうる。
【0022】
例えば、本発明のフィルムは、JIS Z2371に従う塩水噴霧([2時間の塩水噴霧とその後の40℃且つ93%RHの環境に7日間放置]の4サイクル)に付された場合に、当該塩水噴霧に付す前の引張強度(JIS K7127に従い測定される)に対する当該試験環境に付した後の引張強度の保持率が、例えば80%以上であり、特には90%以上でありうる、より特には95%以上でありうる。なお、前記塩水噴霧において、本発明のフィルムは、フッ素系樹脂層が当該塩水に曝され、例えば粘着層が任意の基体に貼り付けられ且つフッ素系樹脂層に対して塩水が噴霧される。
例えば、本発明のフィルムは、同塩水噴霧に付された場合に、当該塩水噴霧に付す前の伸度(JIS K7127に従い測定される)に対する当該試験環境に付した後の伸度の保持率が、例えば80%以上であり、特には90%以上でありうる、より特には95%以上でありうる。
例えば、本発明のフィルムは、同塩水噴霧に付され後に、ASTM D3359に従い測定された付着性が例えば3B~5Bであり、特には4B~5Bであり、より特には5Bでありうる。
例えば、本発明のフィルムは、同塩水噴霧に付された際に、ASTM E313に従い測定されたΔYI(黄変度)が、例えば0.6以下であり、特には0.5以下であり、より特には0.45以下でありうる。
【0023】
例えば、本発明のフィルムは、ASTM G26に従う紫外線照射試験(1000時間、63℃、キセノンアークタイプ、水噴霧有り)に付された場合に、ASTM E313に従い測定されたΔYI(黄変度)が、例えば0.5以下であり、特には0.4以下であり、より特には0.3以下でありうる。前記紫外線照射試験において、本発明のフィルムは、フッ素系樹脂層が当該紫外線に直接的に曝され、例えば粘着層が任意の基体に貼り付けられ且つフッ素系樹脂層に当該紫外線が照射される。
例えば、本発明のフィルムは、同紫外線照射試験に付された場合に、当該紫外線照射試験に付す前の引張強度(JIS K7127に従い測定される)に対する当該試験環境に付した後の引張強度の保持率が、例えば80%以上であり、特には85%以上でありうる、より特には90%以上でありうる。
例えば、本発明のフィルムは、同紫外線照射試験に付された場合に、当該紫外線照射試験に付す前の伸度(JIS K7127に従い測定される)に対する当該試験環境に付した後の伸度の保持率が、例えば70%以上であり、特には80%以上でありうる、より特には85%以上でありうる。
例えば、本発明のフィルムは、同紫外線照射試験に付された後に、ASTM D3359に従い測定された付着性が例えば3B~5Bであり、特には4B~5Bであり、より特には5Bでありうる。
【0024】
本発明のフィルムの構造の一例を
図1に示す。
図1に示されるとおり、本発明のフィルム100は、基材層101と、基材層101の一方の面に積層されたフッ素系樹脂層102と、基材層101の他方の面に積層された粘着層103とを含む。すなわち、フィルム100は、フッ素系樹脂層102、基材層101、及び粘着層103がこの順に積層されている積層構造を有する。
粘着層103の2つの面のうち、基材層101と接している面と反対側の面に、例えばセパレータ層が設けられていてもよい。セパレータ層を設けることによって、粘着層103が、意図しない表面に貼り付くことを防ぐことができる。
また、基材層101と粘着層103との間にさらに中間層が設けられていてもよい。例えば、基材層101と粘着層103との接着性が悪い場合に、基材層101及び粘着層103の両方への接着性に優れる中間層を設けることで、基材層101と粘着層103とが離れることを防ぐことができる。
【0025】
以下で、本発明のフィルムについてより詳細に説明する。
【0026】
[基材層]
【0027】
前記基材層は、熱可塑性樹脂から形成されている。当該熱可塑性樹脂は、例えばポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、又はポリ塩化ビニル系樹脂でありうる。前記基材層自体の耐候性を高めるために、当該熱可塑性樹脂は好ましくはポリエステル系樹脂である。
【0028】
前記ポリエステル系樹脂は、主鎖中にエステル結合を有する高分子である。前記ポリエステル系樹脂は、例えば多価アルコールと多塩基酸との重合体でありうる。前記ポリエステル系樹脂は例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂、及びポリカーボネート(PC)樹脂からなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せであってよい。前記ポリエステル系樹脂は、ポリエステルを主成分とする樹脂であり、例えばポリエステルを当該樹脂質量に対して90質量%以上、好ましくは95質量%以上、好ましくは98質量%以上の割合で含みうる。
【0029】
前記ポリエステル系樹脂は、好ましくはPET樹脂であり、より好ましくは耐加水分解性PET樹脂であってよい。耐加水分解性PET樹脂によって、フィルムの耐候性をさらに高めることができる。耐加水分解性PET樹脂は、汎用のPET樹脂と比べて加水分解に対する耐性が高められているPET樹脂をいう。耐加水分解性PET樹脂は、当該樹脂中に含まれるオリゴマーの量が、一般的なPET樹脂よりも少ない。当該オリゴマーは、PET樹脂の製造において生じる重合度の低い分子であり、すなわちエチレンテレフタレートのオリゴマーでありうる。当該オリゴマーは、PET樹脂の加水分解を促進する作用を有するので、当該オリゴマーの量を低減することによって、PET樹脂の加水分解を抑制することができる。耐加水分解性PET樹脂は、例えばオリゴマー含有量が1wt%以下であるPET樹脂、好ましくは0.8wt%以下であるPET樹脂、より好ましくは0.7wt%以下であるPET樹脂をいう。当該オリゴマー含有量は、特開平11-288622号公報に記載された方法により測定される。
【0030】
前記ポリオレフィン系樹脂は、例えばオレフィン類(例えばα-オレフィン類)を主要なモノマーとする重合により得られる高分子である。当該ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、又はこれらの混合物であってよい。ポリエチレン系樹脂は、ポリエチレンを主成分とする樹脂であり、例えばポリエチレンを当該樹脂質量に対して90質量%以上、好ましくは95質量%以上、好ましくは98質量%以上の割合で含みうる。ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂であり、例えばポリプロピレンを当該樹脂質量に対して90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上の割合で含みうる。
【0031】
前記ポリアミド系樹脂は、ポリアミドを主成分とする樹脂であり、例えばポリアミドを当該樹脂質量に対して90質量%以上、好ましくは95質量%以上、好ましくは98質量%以上の割合で含みうる。前記ポリアミドは、例えば脂肪族ポリアミドであってよく、より具体的にはポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、又はポリアミド6・12でありうる。
【0032】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂は、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂であり、例えばポリ塩化ビニルを当該樹脂質量に対して90質量%以上、好ましくは95質量%以上、好ましくは98質量%以上の割合で含みうる。前記ポリ塩化ビニルは、例えば塩化ビニルの単独重合体であってよく又は塩化ビニルとコモノマーとの共重合体であってもよい。当該コモノマーは例えば酢酸ビニル又はエチレンでありうる。
【0033】
前記基材層の厚みは、例えば10μm~80μm、好ましくは15μm~75μm、より好ましくは20μm~70μmでありうる。上記数値範囲内の厚みによって、フィルムに透明性を付与し且つフィルムに表面保護フィルムとして求められる強度を与えることができる。
【0034】
[フッ素系樹脂層]
【0035】
前記フッ素系樹脂層は、前記基材層の一方の面に積層されている。前記フッ素系樹脂層は好ましくは、本発明のフィルムの表面層であってよい。これにより、前記フッ素系樹脂層の耐候性をより効果的に発揮することができる。
【0036】
前記フッ素系樹脂層は、四フッ化エチレン系樹脂を含み、好ましくは四フッ化エチレン系樹脂を主成分として含む。四フッ化エチレン系樹脂が主成分であるとは、当該フッ素系樹脂を構成する樹脂成分が四フッ化エチレン系樹脂のみからなること、又は、当該フッ素系樹脂に含まれる樹脂成分のうち四フッ化エチレン系樹脂の量が最も多いことを意味する。例えば、当該フッ素系樹脂層中の四フッ化エチレン系樹脂の含有割合は、当該フッ素系樹脂の全質量に対して例えば80質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上であってよい。当該含有割合は、当該フッ素系樹脂の全質量に対して例えば99質量%以下、特には98質量%以下、より特には97質量%以下でありうる。
前記フッ素系樹脂層は、好ましくは塩素を含まない。塩素を含まないことによって、当該層の耐久性及び/又は防汚性が向上する。
本明細書内において、前記四フッ化エチレン系樹脂は、以下で述べる四フッ化エチレン系重合体(特には反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体)と硬化剤との硬化反応により得られる成分をいう。前記フッ素系樹脂層は、前記四フッ化エチレン系樹脂に加え、光安定剤を含む。光安定剤は、前記硬化反応に付されるフッ素系樹脂組成物に含まれていてよい。すなわち、前記フッ素系樹脂層は、四フッ化エチレン系重合体と硬化剤と光安定剤とを含むフッ素系樹脂組成物の硬化物でありうる。
【0037】
前記フッ素系樹脂組成物に含まれる前記四フッ化エチレン系重合体は、前記硬化剤によって硬化可能である四フッ化エチレン系重合体であってよく、好ましくは反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体でありうる。前記反応性官能基と前記硬化剤とは当業者により適宜選択されてよい。
前記反応性官能基は、例えば水酸基、カルボキシル基、-COOCO-で表される基、アミノ基、又はシリル基であってよく、好ましくは水酸基である。これらの基によって、前記硬化物を得るための反応が良好に進行する。
これらの反応性官能基のうち、水酸基が、前記硬化物を得るための反応に特に適している。すなわち、前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、好ましくは水酸基含有四フッ化エチレン系重合体でありうる。
【0038】
前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体のフッ素含有単位は、好ましくはパーフルオロオレフィンに基づくフッ素含有単位である。当該パーフルオロオレフィンに基づくフッ素含有単位は、より好ましくはテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン、本明細書内以下において「TFE」ともいう)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)から選ばれる1つ、2つ、又は3つに基づくものであってよい。好ましくは、当該パーフルオロオレフィンに基づくフッ素含有単位のうち、TFEに基づくフッ素含有単位が最も多い。
【0039】
前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体の水酸基価(特には水酸基含有四フッ化エチレン系重合体の水酸基価)は、好ましくは10mgKOH/g~300mgKOH/gであり、より好ましくは10mgKOH/g~200mgKOH/gであり、さらにより好ましくは10mgKOH/g~150mgKOH/gでありうる。前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体の水酸基価が上記数値範囲内にあることによって、樹脂組成物の硬化性が良好になりうる。当該水酸基価は、JIS K 0070に準拠する方法により測定して得られる。
【0040】
前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体の酸価(特には水酸基含有四フッ化エチレン系重合体の酸価)は、好ましくは0.5mgKOH/g~100mgKOH/gであり、より好ましくは0.5mgKOH/g~50mgKOH/gでありうる。前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体の酸価が上記数値範囲内にあることによって、樹脂組成物の硬化性が良好になりうる。
【0041】
前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体の反応性官能基は、当該反応性官能基を有するモノマーを、フッ素含有モノマー(特には上記パーフルオロオレフィン)と共重合することにより、当該四フッ化エチレン系重合体に導入されてよい。すなわち、前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、反応性官能基含有モノマーに基づく重合単位とフッ素含有モノマー(特には上記パーフルオロオレフィン)に基づく重合単位とを含みうる。
【0042】
前記反応性官能基が水酸基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、好ましくは水酸基含有ビニルエーテル又は水酸基含有アリルエーテルでありうる。水酸基含有ビニルエーテルとして、例えば2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、及び6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテルを挙げることができ、水酸基含有水酸基含有アリルエーテルとして、例えば2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、及びグリセロールモノアリルエーテルを挙げることができる。代替的には、前記反応性官能基を有するモノマーは、例えばアクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルであってもよい。前記反応性官能基を有するモノマーとして、これらの化合物のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせが用いられてよい。前記反応性官能基が水酸基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、前記樹脂組成物の硬化性の観点から、より好ましくは水酸基含有ビニルエーテルであり、特に好ましくは4-ヒドロキシブチルビニルエーテル及び/又は2-ヒドロキシエチルビニルエーテルでありうる。
【0043】
前記反応性官能基がカルボキシル基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、好ましくは不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のエステル、又は不飽和カルボン酸の酸無水物であってよい。
前記反応性官能基がアミノ基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、例えばアミノビニルエーテル又はアリルアミンであってよい。
前記反応性官能基がシリル基である場合、前記反応性官能基を有するモノマーは、好ましくはシリコーン系ビニルモノマーでありうる。
【0044】
前記フッ素含有モノマーは、好ましくはパーフルオロオレフィンである。パーフルオロオレフィンとして、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)を挙げることができる。好ましくは、前記フッ素含有モノマーはTFEを含む。
【0045】
好ましくは、前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、反応性官能基含有モノマーに基づく重合単位及びフッ素含有モノマーに基づく重合単位に加えて、フッ素非含有ビニルモノマーに基づく重合単位も含みうる。当該フッ素非含有ビニルモノマーは、例えばカルボン酸ビニルエステル、アルキルビニルエーテル、及び非フッ素化オレフィンからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
カルボン酸ビニルエステルとして、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、及びパラ-t-ブチル安息香酸ビニルを挙げることができる。
アルキルビニルエーテルとして、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、及びシクロヘキシルビニルエーテルを挙げることができる。
非フッ素化オレフィンとして例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテンを挙げることができる。
また、前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、反応性官能基含有モノマーに基づく重合単位及びパーフルオロオレフィンであるフッ素含有モノマーに基づく重合単位に加えて、例えばビニリデンフルオライド(VdF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ビニルフルオライド(VF)、及びフルオロビニルエーテルなどの、パーフルオロオレフィン以外のフッ素系単量体に基づく重合単位を含んでもよい。
【0046】
前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、例えば、TFE/非フッ素化オレフィン/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、TFE/カルボン酸ビニルエステル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、又はTFE/アルキルビニルエーテル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体でありうる。
より具体的には、前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、TFE/イソブチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、TFE/バーサチック酸ビニル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体、又はTFE/VdF/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体でありうる。前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体は、特に好ましくは、TFE/イソブチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体又はTFE/バーサチック酸ビニル/ヒドロキシブチルビニルエーテル系共重合体でありうる。
前記四フッ化エチレン系重合体として、例えばゼッフルGKシリーズの製品を使用することができる。
【0047】
前記フッ素系樹脂組成物に含まれる前記硬化剤は、前記四フッ化エチレン系重合体に含まれる反応性官能基の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。
前記反応性官能基が水酸基である場合、前記硬化剤は、好ましくはイソシアネート系硬化剤、メラミン樹脂、シリケート化合物、及びイソシアネート基含有シラン化合物から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
前記反応性官能基がカルボキシル基である場合、前記硬化剤は、好ましくはアミノ系硬化剤及びエポキシ系硬化剤から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
前記反応性官能基がアミノ基である場合、前記硬化剤は、カルボニル基含有硬化剤、エポキシ系硬化剤、及び酸無水物系硬化剤から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせでありうる。
前記フッ素系樹脂組成物中の前記硬化剤の含有量は、前記四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、例えば10質量部~30質量部、好ましくは12質量部~28質量部、より好ましくは15質量部~25質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記硬化剤の含有量についても当てはまる。
前記硬化剤の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフ(Py-GC/MS)法により測定されてよい。
【0048】
本発明の1つの実施態様において、前記四フッ化エチレン系重合体に含まれる反応性官能基は水酸基であり且つ前記硬化剤がイソシアネート系硬化剤でありうる。この実施態様において、前記イソシアネート系硬化剤は、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系ポリイソシアネートである。
前記フッ素系樹脂組成物中の前記HDI系ポリイソシアネートの含有量は、前記四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、例えば10質量部~30質量部、好ましくは12質量部~28質量部、より好ましくは15質量部~25質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素系樹脂組成物の硬化物中の前記HDI系ポリイソシアネートの含有量についても当てはまる。
【0049】
HDI系ポリイソシアネートとして、例えばイソシアヌレート型ポリイソシアネート、アダクト型ポリイソシアネート、及びビウレット型ポリイソシアネートから選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせを用いることができる。本発明において、前記イソシアネート系硬化剤は、好ましくはイソシアヌレート型ポリイソシアネートであってよく、又は、イソシアヌレート型ポリイソシアネートとアダクト型ポリイソシアネートとの組み合わせであってもよい。特に好ましくは、前記硬化剤は、イソシアヌレート型ポリイソシアネートである。
【0050】
前記フッ素系樹脂組成物は、好ましくは溶剤を含む。当該溶剤は、好ましくはエステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群から選ばれる1つの溶剤又は2つ以上の溶剤混合物でありうる。これらの溶剤は、前記光安定剤を前記フッ素系樹脂組成物中に分散させるために適している。特に好ましくは、前記溶剤は、エステル系溶剤を含み、例えば酢酸エチルを含む。エステル系溶剤は、前記光安定剤を前記フッ素系樹脂組成物中に分散させるために特に適している。
前記エステル系溶剤として、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル(酢酸セロソルブ)、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)を挙げることができる。
前記ケトン系溶剤として、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2-ヘプタノン(MAK)、及びシクロヘキサンを挙げることができる。
前記芳香族系溶剤として、例えばトルエン及びキシレンを挙げることができる。
【0051】
本発明の一つの好ましい実施態様に従い、当該溶剤は、エステル系溶剤であり、より好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる1つまたは2つ以上の組合せであり、より好ましくは酢酸エチル及び/又は酢酸ブチルであり、特に好ましくは酢酸エチルである。酢酸エチルは、フッ素系樹脂組成物の塗工のしやすさ(特には沸点の観点からの塗工性)、環境に対する影響の小ささ、及びコストの観点から特に好ましい。
本発明の他の好ましい実施態様に従い、当該溶剤は、エステル系溶剤と芳香族系溶剤との組み合わせであり、例えば酢酸エチルとトルエンとの組み合わせでありうる。酢酸エチル及びトルエンの質量比は、例えば2:1~20:1、好ましくは5:1~15:1、より好ましくは8:1~12:1でありうる。
本発明のさらに他の好ましい実施態様に従い、当該溶剤は、エステル系溶剤とケトン系溶剤との組み合わせであり、例えば酢酸エチルとMEKとの組み合わせでありうる。酢酸エチル及びMEKの質量比は、例えば3:1~1:3、好ましくは2:1~1:2、より好ましくは1.5:1~1:1.5でありうる。
これらの実施態様は、光安定剤の分散性、特にはトリアジン系光安定剤の分散性の観点から特に好ましい。
【0052】
前記光安定剤は、好ましくはトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系光安定剤からなる群から選ばれる1つの化合物又は2以上の化合物の組合せであり、より好ましくはトリアジン系紫外線吸収剤から選ばれる1つの化合物又は2以上の化合物の組合せである。トリアジン系紫外線吸収剤は、他の光安定剤と比べて、紫外線の吸収能力が高く且つ揮発性が低いため好ましい。さらには、トリアジン系紫外線吸収剤は、前記フッ素系樹脂組成物への溶解性の観点からも特に好ましい。また、2以上の化合物の組合せによって、吸収される紫外線の波長範囲を広げることができる。
【0053】
トリアジン系紫外線吸収剤として、以下の化合物1~7を挙げることができる。
化合物1:2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール;
化合物2:2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン;
化合物3:2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン;
化合物4:2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン;
化合物5:2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン;
化合物6:2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
化合物7:2-[2-ヒドロキシ-4-(1-オクチルオキシカルボニルエトキシ)-フェニル]-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン)。
化合物1は、例えばアデカスタブLA-46として市販されている。
化合物2は、例えばアデカスタブLA―F70として市販されている。
化合物3及び4の組合せは、例えばTINUVIN(商標)400として市販されている。
化合物5は、例えばTINUVIN(商標)405として市販されている。
化合物6は、例えばTINUVIN(商標)460として市販されている。
化合物7は、例えばTINUVIN(商標)479として市販されている。
本発明において、前記光安定剤は、好ましくは、上記化合物1~7からなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せであってよい。特に好ましくは、前記光安定剤は、化合物1、化合物3、化合物4、及び化合物7からなる群から選ばれる1つ、2つ、3つ、又は4つであり、より好ましくは化合物1、又は、化合物3、化合物4、及び化合物7の組合せでありうる。
【0054】
前記フッ素系樹脂組成物中の前記光安定剤の含有量は、前記反応性官能基含有四フッ化エチレン系重合体100質量部に対して、例えば1質量部~10質量部、好ましくは2質量部~9質量部、より好ましくは3質量部~8質量部でありうる。これらの数値範囲は、当該フッ素樹脂組成物の硬化物中の前記光安定剤の含有量についても当てはまる。
【0055】
前記フッ素系樹脂層の厚みは、例えば1μm~30μmであり、好ましくは3~20μmであり、より好ましくは5μm~15μmでありうる。上記数値範囲内の厚みによって、フィルムの透明性を維持しつつ、且つ、前記フッ素系樹脂層による耐候性を効果的に発揮することができる。
【0056】
前記フッ素系樹脂組成物は、以下で別途説明するフッ素系樹脂組成物の製造方法により製造される。当該製造方法によって、光安定剤が四フッ化エチレン系重合体を含むフッ素系樹脂組成物に良好に分散されて、フィルムを構成する膜を形成するために適した光安定剤及び四フッ化エチレン系重合体を含むフッ素系樹脂組成物を得ることができる。
【0057】
前記フッ素系樹脂組成物の硬化物は、前記フッ素系樹脂組成物を前記基材層の表面に塗布し、例えば100℃~200℃、好ましくは120℃~180℃で、例えば10秒間~240秒間、好ましくは30秒間~120秒間加熱することにより得られる。当該硬化物が、前記フッ素系樹脂層を形成する。塗布される前記フッ素系樹脂組成物の量は、形成されるべき表面層の厚みに応じて、当業者により適宜設定されてよい。
【0058】
本技術の一つの好ましい実施態様において、前記フッ素系樹脂層は、前記四フッ化エチレン系重合体と前記硬化剤と前記光安定剤を含むフッ素系樹脂組成物の硬化物から形成されている。より好ましくは、前記フッ素系樹脂層は、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体とHDI系ポリイソシアネートとトリアジン系紫外線吸収剤を含むフッ素系樹脂組成物の硬化物から形成されている。
このようなフッ素系樹脂層を有することが、本発明のフィルムに優れた耐候性及び透明性を与えることに特に寄与する。
【0059】
[粘着層]
【0060】
本発明のフィルムは、前記基材層の2つの面のうち、フッ素系樹脂層が積層された面と反対側の面に、粘着層が積層されていてよい。当該粘着層は、例えばアクリル系樹脂組成物から形成されていてよい。アクリル系樹脂組成物から形成された粘着層は、例えばゴム系樹脂組成物などの他の樹脂組成物から形成された粘着層よりも耐候性に優れている。
【0061】
前記アクリル系樹脂組成物は好ましくは、例えば(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合体などのアクリル系重合体を主成分として含みうる。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体として、例えば炭素数2~12のアルキル基、好ましくは炭素数4~12のアルキル基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、より具体的には、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、及び(メタ)アクリル酸ラウリルから選ばれる1つ又は2種以上を組み合わせであってよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」には、アクリレート及びメタクリレートの両方が含まれる。
【0062】
前記アクリル系樹脂組成物は、好ましくはアクリル系重合体と硬化剤とを含む組成物を加熱して得られる粘着性組成物でありうる。前記硬化剤は、例えばエポキシ系架橋剤及び/又はイソシアネート系架橋剤であるが、これらに限定されない。前記硬化のための温度及び時間は、用いられる重合体及び硬化剤に応じて当業者により適宜選択されうる。前記温度は、例えば60℃~120℃であり、より好ましくは70℃~110℃でありうる。前記時間は、例えば30秒~5分、好ましくは1分~3分でありうる。
【0063】
前記アクリル系樹脂組成物から形成された粘着層は、例えば強粘着性であってよく、例えばステンレス鋼(SUS)に対して、好ましくは5~30N/25mm、より好ましくは10~30N/25mmの粘着性を有しうるでありうる。
【0064】
前記粘着層の2つの面のうち、前記基材層が積層されている面と反対側の面に、例えばセパレータがさらに積層されていてもよい。すなわち、本発明のフィルムは、フッ素系樹脂層、基材層、粘着層、及びセパレータがこの順に積層されている層構造を有しうる。セパレータにより、粘着層が、被覆されるべき表面以外の面に貼り付くことを防ぐことができる。セパレータの材料は、粘着層の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。セパレータは、例えばシリコーン系セパレータ、ポリプロピレン(PP)系セパレータ、又はフッ素系セパレータでありうる。
【0065】
[フィルムの用途]
【0066】
本発明のフィルムは、例えば屋外において用いるためのものである。本発明のフィルムは耐候性に優れているので、屋外に長期間にわたっておいても劣化しにくい。
【0067】
本発明のフィルムは、例えば文字又は模様が付された面を被覆するために用いられうる。本発明のフィルムは、透明性に優れており且つ耐候性に優れている。そのため、本発明により当該面を被覆した場合、前記文字又は模様の視認性を長期間にわたり維持しつつ且つ前記文字又は模様が紫外線の影響によって消えることを防ぐことができる。
前記面は、例えば銘板又はシールの面であってよく、例えば電気製品(特には屋外用電気製品)に貼り付けられるための銘板又はシールの面でありうる。また、前記面は、看板又は道路標識の面であってもよい。すなわち、本発明のフィルムは、銘板、シール、看板、又は道路標識を保護するために用いられてよく、又は、当該銘板、シール、看板、又は道路標識の表面に付された文字又は模様を保護するために用いられてよい。本発明のフィルムは、このような用途に特に適している。
【0068】
前記面は、例えば金属面又は樹脂面でありうる。前記金属面を形成する材料は、例えばアルミ、ステンレス、又は真鍮などでありうる。また、前記樹脂面を形成する材料は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、又は塩化ビニル樹脂などでありうる。
【0069】
[フィルムの製造方法]
【0070】
本発明のフィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂からなる基材層の一方の面にフッ素系樹脂組成物を塗布する塗布工程と、当該塗布工程後に、前記フッ素系樹脂組成物を硬化させる硬化工程とを含みうる。当該製造方法によって、本発明のフィルムは製造されうる。
【0071】
塗布工程において用いられる基材層及びフッ素系樹脂組成物については、以上で述べた内容が当てはまるので、これらについての説明は省略する。また、当該フッ素系樹脂組成物の製造方法については、例えば以下「2.フッ素系樹脂組成物の製造方法」において説明する製造方法が採用されてよい。
前記硬化工程を行うことによって、上記で述べたフッ素系樹脂層が形成される。
【0072】
前記塗布工程は、所望の層厚を達成するように当業者により適宜行われてよい。例えば、前記フッ素系樹脂組成物は、グラビアロール法、リバースロール法、オフセットグラビア法、キスコート法、リバースキスコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、又は含浸法により前記基材層の2つの面に塗布されうる。これらの方法による塗布を行うための装置は、当業者により適宜選択されてよい。
当該硬化工程は、前記フッ素系樹脂組成物を、例えば100℃~200℃、好ましくは120℃~180℃で、例えば10秒間~240秒間、好ましくは30秒間~120秒間加熱することを含む。当該加熱によって、前記フッ素系樹脂組成物が硬化されて、フッ素系樹脂層が形成される。
【0073】
さらに、前記製造方法は、前記基材層の他方の面にアクリル系樹脂組成物からなる粘着層を形成する粘着層形成工程を含んでもよい。これにより、フッ素系樹脂層、基材層、及び粘着層がこの順に積層された層構造を有する本発明に従うフィルムが製造される。
【0074】
前記製造方法はさらに、当該粘着層にセパレータを積層するセパレータ積層工程を含みうる。これらの工程を行うことによって、フッ素系樹脂層、基材層、粘着層、及びセパレータ層がこの順に積層された層構造を有する本発明に従うフィルムが製造される。
【0075】
2.フッ素系樹脂組成物の製造方法
【0076】
本発明は、フッ素系樹脂組成物の製造方法も提供する。当該製造方法に含まれる溶解工程及び混合工程について以下で説明する。
【0077】
前記溶解工程において、光安定剤をエステル系、ケトン系、又は芳香族系の溶剤に溶解して溶解液が得られる。前記光安定剤及び前記溶剤は、上記「1.フィルム」において説明したとおりであり、その説明が前記製造方法についても当てはまる。前記溶解液を調製した後に、当該溶解液を四フッ化エチレン系重合体と混合することによって、当該光安定剤を、四フッ化エチレン系重合体を含むフッ素系樹脂組成物中に良好に分散させることができる。
【0078】
本発明の一つの実施態様に従い、前記溶剤は好ましくはエステル系溶剤を含み、より好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる1つまたは2つ以上の組合せを含み、より好ましくは酢酸エチル及び/又は酢酸ブチルを含み、特に好ましくは酢酸エチルを含みうる。エステル系溶剤、特に酢酸エチルは、光安定剤の前記フッ素系樹脂組成物中の分散性を高め、前記フッ素系樹脂組成物の塗工性を向上させるために特に好ましい。また、エステル系溶剤、特に酢酸エチルは、環境的への影響の低減及びコスト低減の観点からも好ましい。
例えば、前記溶剤は、好ましくはエステル系溶剤のみであり、より好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる1つまたは2つ以上の組合せのみであり、より好ましくは酢酸エチル及び/又は酢酸ブチルのみであり、特に好ましくは酢酸エチルのみでありうる。
例えば、前記溶剤は、エステル系溶剤と芳香族系溶剤との組み合わせであってもよく、例えば酢酸エチルとトルエンとの組み合わせであってもよい。例えば、酢酸エチル及びトルエン又はMEKの質量比は、例えば2:1~20:1、好ましくは5:1~15:1、より好ましくは8:1~12:1でありうる。
【0079】
前記混合工程において、前記溶解工程において得られた前記溶解液が、四フッ化エチレン系重合体と混合される。当該混合によって、フッ素系樹脂組成物が得られる。当該フッ素系樹脂組成物は、好ましくは塩素を含まず、より好ましくはフッ素系樹脂成分として主に四フッ化エチレン系樹脂を含み、より好ましくはフッ素系樹脂成分として四フッ化エチレン系樹脂のみを含みうる。前記光安定剤は、四フッ化エチレン系重合体を含むフッ素系樹脂組成物中に分散しにくいが、前記溶解液は当該フッ素系樹脂組成物中に分散しやすく、そのため前記溶解液によって、前記光安定剤が当該フッ素系樹脂組成物中に良好に分散される。
【0080】
前記混合工程において、さらに硬化剤が前記フッ素系樹脂組成物に混合されてもよい。当該硬化剤は、上記「1.フィルム」において説明したとおりであり、その説明が前記製造方法についても当てはまる。当該硬化剤は、例えば前記溶剤との混合物として、前記フッ素系樹脂組成物に添加されてよい。当該硬化剤と前記四フッ化エチレン系重合体との硬化反応によって、前記フッ素系樹脂層が形成されうる。
【0081】
前記混合工程において得られたフッ素系樹脂組成物は、本発明のフィルムを製造する為に用いられてよい。例えば、前記基材層に前記フッ素系樹脂組成物を塗布して硬化させることで、本発明のフィルムが得られる。
【0082】
すなわち、本発明はフィルムの製造方法も提供する。当該製造方法は、光安定剤を、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族系溶剤からなる群から選ばれる1つの溶剤又は2つ以上の溶剤混合物に溶解して溶解液を得る溶解工程;前記溶解液を、四フッ化エチレン系重合体と混合してフッ素系樹脂組成物を得る混合工程;及び、前記フッ素系樹脂組成物を基材層に塗布しそして硬化させる硬化工程を含みうる。前記硬化工程によって、本発明に従うフィルムが得られる。前記溶解工程及び前記混合工程は上記で述べたとおりでありうる。前記硬化工程は、上記1.において述べたフッ素系樹脂層を得るための手法に関する説明が当てはまる。
【0083】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものでない。
【0084】
<試験例1:光安定剤のフッ素系樹脂組成物への分散性の評価>
【0085】
(1)光安定剤とフッ素系樹脂組成物との混合
【0086】
粉末状のトリアジン系紫外線吸収剤(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、アデカスタブLA-46、株式会社ADEKA)を、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体組成物(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)に添加して混合した。しかしながら、当該紫外線吸収剤の添加後の前記組成物の粘度は高く、得られた混合物は均一でなかった。そのため、当該混合物はフィルムへ塗布しにくく、さらには、当該混合物をフィルムに塗布してフッ素系樹脂層を形成した場合、フィルムの透明性は悪いと考えられる。
【0087】
(2)光安定剤と溶剤との混合物のフッ素系樹脂組成物への添加
【0088】
以下表1の各実験番号の列に示されるとおりの量で、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体組成物(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)、粉末状のトリアジン系紫外線吸収剤(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、アデカスタブLA-46、ADEKA株式会社)、及び酢酸エチルのセットを用意した。なお、表1に示される各実験番号のセットは、混合した際の固形分(不揮発分、NV)が約50質量%となるように、各成分の量が調整されている。
以下(2-1)~(2-4)における試験を行うことにより、光安定剤と溶剤との混合物をフッ素系樹脂組成物へ添加した場合における、光安定剤のフッ素系樹脂組成物内での分散性を評価した。
【0089】
【0090】
(2-1)光安定剤の溶剤との混合
【0091】
実験番号1~5のそれぞれについて、トリアジン系紫外線吸収剤(LA-46)と酢酸エチルとを混合して混合物を得た(以下、実験番号1について得られた混合物を「例1の混合物」という。他の実験番号についても同様である。)。混合した際の当該紫外線吸収剤の溶解性を評価した。以下表2に、酢酸エチル100質量部に対する当該紫外線吸収剤の割合及び評価結果を示す。
【0092】
【0093】
表2に示されるとおり、実験番号1~3については、前記紫外線吸収剤は酢酸エチルに全て溶解した。一方で、実験番号4及び5については、例えば15分間混合しても、紫外線吸収剤は完全には溶解しなかった。これらの結果より、前記紫外線吸収剤を酢酸エチル100質量部に対して、例えば12質量部以下、より好ましくは10質量部以下の割合で添加することによって、当該紫外線吸収剤を酢酸エチルに溶解させることができると分かる。さらに、前記紫外線吸収剤を酢酸エチル100質量部に対して、5質量部以下の割合で添加することによって、当該紫外線吸収剤を酢酸エチルにより早く溶解させることができる。
【0094】
なお、実験番号4及び5について、酢酸エチルをさらに添加したところ、当該紫外線吸収材は全て溶解した。
【0095】
(2-2)光安定剤と溶剤との混合物のフッ素系樹脂への混合
【0096】
上記(2-1)において得られた例1~3の混合物(溶解液)を、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体組成物にそれぞれ添加して混合した(以下、例1の混合物を用いて得られた混合物を「例1のインキ」という。例2及び3についても同様である。)。添加した際の混ざり易さを評価した。評価結果を以下表3に示す。
【0097】
【0098】
表3に示される通り、例1~3の混合物は、いずれも水酸基含有四フッ化エチレン系重合体組成物と良好に混ざり合い、均一なインキが生成された。
【0099】
(2-3)硬化剤の混合
【0100】
上記(2-2)において得られた例1~3のインキに、硬化剤(イソシアヌレート型ポリイソシアネート、住友バイエルウレタン株式会社、スミジュールN3300)及び溶剤(酢酸エチル及びMEK)を、以下表4に示す質量比で添加して混合した。インキと硬化剤との混ざり易さを評価した。評価結果を以下表4に示す。なお、例1のインキを用いて得られた組成物を以下で「例1の塗料」という。例2及び例3のインキについても同様である。
【0101】
【0102】
表4に示される通り、例1~3のインキはいずれも、硬化剤と良好に混ざり合った。
【0103】
(2-4)塗料の塗工性
【0104】
上記(2-3)において得られた例1~3の塗料をポリプロピレンフィルム(CPP、無軸延伸ポリプロピレン)に塗布した。当該塗布は、コーティングマシンを用いて、塗布された層の厚みが10μmとなるように行われた。当該塗布における塗り易さを評価した。評価結果を以下表5に示す。
【0105】
【0106】
表5に示される通り、例1~3の塗料はいずれもフィルムに塗布しやすかった。
また、当該塗布後に各フィルムを100℃で30秒間加熱して塗料を硬化させて、フッ素系樹脂層を形成した。当該硬化後に各フィルムを40℃で2日間放置した。当該放置後の当該フッ素系樹脂層の透明性を確認した。その結果、例1~3の塗料から形成されたフッ素系樹脂層はいずれも透明であった。
【0107】
以上の結果より、光安定剤を溶剤に溶解して得られた溶解液を用いることによって、光安定剤をフッ素系樹脂組成物に良好に分散させることができることが分かる。このようにして得られた光安定剤含有フッ素系樹脂組成物は、塗工性に優れていることも分かる。
【0108】
実験番号4及び5に関して、上記(2-1)で述べたとおりに酢酸エチルを追加して全ての紫外線吸収剤を溶解させて得られた混合物を用いて、上記(2-2)~(2-4)同様の操作を行った。その結果、実験番号1~3と同様の評価結果が得られた。この結果より、光安定剤が溶剤に溶解されていることによって、フッ素系樹脂における良好な分散性、硬化剤との良好な混ざりやすさ、及び良好な塗工性をもたらすことができると考えられる。
【0109】
<試験例2:フィルムの耐候性の評価>
【0110】
(実施例1:フィルムの製造)
【0111】
基材層として、耐加水分解性ポリエチレンテレフタレート樹脂から形成されているフィルム(LL226、南亜プラスチック社、厚み38μm)を用意した。
【0112】
当該基材層の一方の面に塗布するためのフッ素系樹脂組成物を調製するために、水酸基含有四フッ化エチレン系重合体組成物100質量部(ゼッフルGK570、ダイキン工業株式会社、このうち65質量%が水酸基含有四フッ化エチレン系重合体である)、トリアジン系紫外線吸収剤(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、アデカスタブLA-46、株式会社ADEKA)3質量部、イソシアヌレート型ポリイソシアネート14質量部(硬化剤、スミジュールN3300、住友バイエルウレタン株式会社)、及び酢酸エチル117.3質量部を用意した。
まず、前記トリアジン系紫外線吸収剤を33質量部の酢酸エチルに添加及び混合して、当該紫外線吸収剤を当該酢酸エチル中に全て溶解させて溶解液を得た。当該溶解液に、前記四フッ化エチレン系重合体組成物、残りの酢酸エチル(84.3質量部)、及び前記硬化剤を添加及び混合してフッ素系樹脂組成物を得た。
【0113】
当該基材層の他方の面に塗布するためのアクリル系樹脂組成物を調製するために、熱硬化性粘着剤(アクリル酸エステル共重合体、SKダイン1502C、綜研化学株式会社)100質量部、及び、硬化剤(エポキシ系硬化剤、E-AX、綜研化学株式会社)0.4質量部を用意した。当該粘着剤及び当該硬化剤を混合して、アクリル系樹脂組成物を得た。
【0114】
当該基材層の一方の面に、前記フッ素系樹脂組成物を約10μmの厚みとなるように塗布した。当該塗布は、キスリバース方式の塗布装置を用いて行われた。当該塗布後に、150℃で60秒間加熱することによって、当該フッ素系樹脂組成物が硬化され、フッ素系樹脂層が形成された。
当該基材層の他方の面に、前記アクリル系樹脂組成物を約20μmの厚みとなるように塗布した。当該塗布は、ダイ方式の塗布装置を用いて行われた。当該塗布後に、80℃で2分間加熱することによって、当該アクリル系樹脂組成物が硬化され、粘着層が形成された。
以上のとおりにして、フッ素系樹脂層、基材層、及び粘着層がこの順に積層された透明なフィルムが得られた。当該フィルムを、本明細書内以下で「実施例1のフィルム」という。
【0115】
(実施例2:フィルムの製造)
【0116】
前記フッ素系樹脂組成物を調製するために用いられた前記トリアジン系紫外線吸収剤の量を5質量部としたこと以外は実施例1のフィルムと同じ方法でフィルムを製造した。当該フィルムを、本明細書内以下で「実施例2のフィルム」という。
ルムが得られた。当該フィルムを、本明細書内以下で「実施例1のフィルム」という。
【0117】
(比較例1:フィルムの製造)
【0118】
前記フッ素系樹脂組成物が前記トリアジン系紫外線吸収剤の量を含まないこと以外は実施例1のフィルムと同じ方法でフィルムを製造した。当該フィルムを、本明細書内以下で「比較例1のフィルム」という。
【0119】
(評価1:フィルム自体の耐候性)
【0120】
実施例1及び2並びに比較例1のフィルムを、耐候性試験に付した。当該試験において、各フィルムは、メタルハライドランプ式促進耐候性試験機(SUV-161、岩崎電気株式会社)を用いて以下の明暗サイクルに付された。当該明暗サイクルは、合計で240時間にわたって繰り返された。
サイクル1:Light12時間(光照射、60℃、70R.H.、750W/m2)
サイクル2:Dark12時間(暗黒、60℃、70R.H.、1時間ごとに水のシャワーを10秒かけた)
【0121】
前記明暗サイクル前後の各フィルムの黄色度(YI)を、JIS K7373に従い測定した。また、各フィルムの状態を目視により観察した。これらの結果を
図2に示す。
【0122】
図2に示されるとおり、比較例1のフィルムは、前記明暗サイクル前後で、黄色度が4.5から43.2へ上昇した。一方で、実施例1及び2のフィルムは、明暗サイクル前後で、黄色度は約2程度上昇した。この結果から、実施例1及び2のフィルムは、比較例1のフィルムよりも、より優れた耐候性(例えば紫外線及び雨などに対する耐性)を有することが分かる。
【0123】
また、
図2に示されるとおり、前記明暗サイクル後に、比較例1のフィルム(特には基材層)にはクラックが発生していたのに対し、実施例1及び2のフィルムはそのようなクラックは有さなかった。この結果から、実施例1及び2のフィルムは、比較例1のフィルムと比べて劣化が抑制されたことが分かる。
【0124】
(評価2:フィルムの表面保護性能の評価)
【0125】
実施例1のフィルムをポリ塩化ビニルから形成された板に貼り付けた。同様に、実施例2のフィルム及び比較例1のフィルムもそれぞれポリ塩化ビニルから形成された板に貼り付けた。これらフィルムが貼り付けられた3つの板を、上記評価1において述べたとおりの耐候性試験に付した。
【0126】
前記明暗サイクルの開始前と前記明暗サイクル開始後120時間又は240時間との各板の色差ΔEを、JIS Z8730に従い求めた。また、各フィルムの状態を目視により観察した。これらの結果を
図3に示す。
【0127】
図3に示されるとおり、比較例1のフィルムは、前記明暗サイクル開始後120時間及び240時間での色差ΔEがそれぞれ35.5及び49.8であった。。一方で、実施例1のフィルムは、前記明暗サイクル開始後120時間及び240時間での色差ΔEがそれぞれ17.6及び23.8であった。実施例2のフィルムは、前記明暗サイクル開始後120時間及び240時間での色差ΔEがそれぞれ15.2及び21.5であった。これらの結果から、実施例1及び2のフィルムは、比較例1のフィルムよりも、PVC板の劣化及び色の変化を大幅に抑制したことが分かる。
【0128】
PVC板は、金属板よりも劣化しやすい。そのため、実施例1及び2のフィルムを金属に貼ることによって、金属板の劣化を防ぐことができ、さらに、金属板表面の印字又は模様を維持することができると分かる。
【0129】
<試験例3:フィルムの製造>
【0130】
フッ素系樹脂層を形成するためのフッ素系樹脂組成物の材料について以下の変更を行ったこと以外は、実施例1のフィルムと同じ方法でフィルム(以下「実施例3のフィルム」という)を製造した。
すなわち、前記トリアジン系紫外線吸収剤として、アデカスタブLA-46の代わりに、1.6質量部のTINUVIN400(BASF社)及び1.6質量部のTINUVIN479(BASF社)の組合せを用いた。TINUVIN400は、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン及び2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンの組合せである。TINUVIN479は、2-[2-ヒドロキシ-4-(1-オクチルオキシカルボニルエトキシ)-フェニル]-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジンである。また、前記酢酸エチルの代わりに、50質量部の酢酸エチルと5質量部のトルエンの組合せを用いた。
実施例3のフィルムは、実施例1及び2のフィルムと同様に耐候性に優れていた。
【符号の説明】
【0131】
100 フィルム
101 基材層
102 フッ素系樹脂層
103 粘着層